特許第6369537号(P6369537)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特許6369537テーラードロールドブランク用熱延鋼板、テーラードロールドブランク、及びそれらの製造方法
<>
  • 特許6369537-テーラードロールドブランク用熱延鋼板、テーラードロールドブランク、及びそれらの製造方法 図000006
  • 特許6369537-テーラードロールドブランク用熱延鋼板、テーラードロールドブランク、及びそれらの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369537
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】テーラードロールドブランク用熱延鋼板、テーラードロールドブランク、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20180730BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20180730BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C22C38/00 301W
   C22C38/58
   C21D9/46 T
   C21D9/46 J
   C21D9/46 G
【請求項の数】16
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-514726(P2016-514726)
(86)(22)【出願日】2015年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2015002212
(87)【国際公開番号】WO2015162932
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-88778(P2014-88778)
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-88779(P2014-88779)
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 龍雄
(72)【発明者】
【氏名】桜田 栄作
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 夏子
(72)【発明者】
【氏名】福井 清之
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/051005(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/141290(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/133636(WO,A1)
【文献】 特開2002−331317(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/189474(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーラードロールドブランク用の熱延鋼板であって、
質量%で、
C:0.03〜0.1%、
Si:1.5%以下、
Mn:1.0〜2.5%、
P:0.1%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.01〜1.2%、
N:0.01%以下、
Ti:0.015〜0.15%、
Nb:0〜0.1%、
Cu:0〜1%、
Ni:0〜1%、
Mo:0〜0.2%、
V:0〜0.2%、
Cr:0〜1%、
W:0〜0.5%、
Mg:0〜0.005%、
Ca:0〜0.005%、
希土類元素:0〜0.1%、
B:0〜0.005%、及び、
Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上:合計で0〜0.05%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、
面積率で、20%以上のベイナイトを含有し、面積率で残部の50%以上がフェライトからなるミクロ組織とを有し、
前記熱延鋼板の表面から板厚の1/2深さの位置において、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>の結晶方位からなる{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度の平均値が4以下であり、かつ、{332}<113>の結晶方位の極密度が4.8以下であり、
前記熱延鋼板の表面から板厚の1/8深さ位置において、{110}<001>の結晶方位の極密度が2.5以上であり、
前記熱延鋼板中のTi炭窒化物のうち、10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度が1.0×1017個/cm以下であり、
焼付硬化量が15MPa以上である、熱延鋼板。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載の熱延鋼板であって、
前記化学組成は、
Nb:0.005〜0.1%、
Cu:0.005〜1%、
Ni:0.005〜1%、
Mo:0.005〜0.2%、
V:0.005〜0.2%、
Cr:0.005〜1%、及び、
W:0.01〜0.5%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、熱延鋼板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱延鋼板であって、
前記化学組成は、
Mg:0.0005〜0.005%、
Ca:0.0005〜0.005%、及び、
希土類元素:0.0005〜0.1%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、熱延鋼板。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱延鋼板であって、
前記化学組成は、
B:0.0002〜0.005%を含有する、熱延鋼板。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱延鋼板であって、
前記化学組成は、
Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上を合計で0.005〜0.05%含有する、熱延鋼板。
【請求項6】
圧延方向に板厚がテーパ状に変化するテーラードロールドブランクであって、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化学組成を有し、
厚肉部と、
前記厚肉部よりも薄い薄肉部とを備え、
前記テーラードロールドブランクにおいて、板厚が最も厚い最厚肉部の平均硬度Htmaxの、前記板厚が最も薄い最薄肉部の平均硬度Htminに対する比が1.0超〜1.5であり、
前記最薄肉部の平均転位密度は1×1014−2以下であり、
10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度が2×1017個/cmを超える、テーラードロールドブランク。
【請求項7】
請求項6に記載のテーラードロールドブランクであって、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱延鋼板を用いて製造される、テーラードロールドブランク。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のテーラードロールドブランクであってさらに、
表面に亜鉛めっき層を備える、テーラードロールドブランク。
【請求項9】
請求項1に記載のテーラードロールドブランク用の熱延鋼板の製造方法であって、
質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01〜1.2%、N:0.01%以下、Ti:0.015〜0.15%、Nb:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Mo:0〜0.2%、V:0〜0.2%、Cr:0〜1%、W:0〜0.5%、Mg:0〜0.005%、Ca:0〜0.005%、希土類元素:0〜0.1%、B:0〜0.005%、及び、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上:合計で0〜0.05%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たすスラブを、式(2)で定義される温度SRTmin以上で加熱する工程と、
加熱されたスラブに対して、60〜90%の総圧下率で粗圧延を実施し、かつ、前記粗圧延において、スラブ温度が1050〜1150℃のときに20%以上の圧下率で1パス以上圧延を実施して粗バーを製造する工程と、
前記粗圧延が終了した後、150秒以内に前記粗バーに対して仕上げ圧延を開始し、仕上げ圧延開始時の前記粗バーの温度は1000℃〜1080℃未満であり、総圧下率を75〜95%とし、最終の2パスでの合計圧下率を30%以上とし、仕上げ圧延終了温度をAr変態温度〜1000℃とし、式(3)で定義される形状比SRを3.5以上とする仕上げ圧延を実施して鋼板を製造する工程と、
仕上げ圧延終了後、3秒以内に前記鋼板の冷却を開始し、冷却停止温度を600℃以下とし、冷却停止温度までの平均冷却速度を15℃/秒以上として前記鋼板を冷却し、式(4)で定義され、前記鋼板の温度がAr変態温度を通過後、巻取り開始までの時間での総累積拡散距離Ltotalを0.15μm以下とする工程と、
冷却後の前記鋼板を600℃以下の巻取り温度で巻取る工程とを備える、テーラードロールドブランク用の熱延鋼板の製造方法。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0% (1)
SRTmin=10780/{5.13−log([Ti]×[C])}−273 (2)
SR=ld/hm (3)
total=Σ√(D(T)Δt) (4)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(3)中のldは仕上げ圧延において最終の圧下を行う圧延ロールと鋼板との接触弧長であり、次式で定義される。
ld=√(L×(hin−hout)/2)
ここで、L(mm)は、前記圧延ロールの直径である。hinは、前記圧延ロールの入側での鋼板の板厚(mm)である。houtは、前記圧延ロールの出側での鋼板の板厚(mm)である。hmは次式で定義される。
hm=(hin+hout)/2
式(4)中のΔtは、前記鋼板の温度がAr変態温度を通過後、巻取り開始までの時間での微小時間であり、0.2秒である。D(T)は、T℃におけるTiの体拡散係数であり、Tiの拡散係数をD0、活性化エネルギをQ、気体定数をRとするとき、次式で定義される。
D(T)=D0×Exp{−Q/R(T+273)}
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法であって、
前記スラブは、
Nb:0.005〜0.1%、
Cu:0.005〜1%、
Ni:0.005〜1%、
Mo:0.005〜0.2%、
V:0.005〜0.2%、
Cr:0.005〜1%、及び、
W:0.01〜0.5%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の製造方法であって、
前記スラブは、
Mg:0.0005〜0.005%、
Ca:0.0005〜0.005%、及び
希土類元素:0.0005〜0.1%からなる群から選択される1種以上を含有する、製造方法。
【請求項12】
請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記スラブは、
B:0.0002〜0.005%を含有する、製造方法。
【請求項13】
請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記スラブは、
Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上を合計で0.005〜0.05%含有する、製造方法。
【請求項14】
請求項7に記載のテーラードロールドブランクの製造方法であって、
前記熱延鋼板の長手方向で板厚がテーパ状に変化するように、5%超〜50%の範囲で圧下率を変更しながら前記熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する工程と、
前記冷延鋼板に対して析出硬化熱処理を実施する工程とを備え、
前記析出硬化熱処理において、最高加熱温度Tmaxが600〜750℃であり、
600℃以上での保持時間t(秒)が、前記最高加熱温度Tmaxに対して式(5)を満たし、
式(6)で定義される熱処理指標INが16500〜19500である、テーラードロールドブランクの製造方法。
530−0.7×Tmax≦t≦3600−3.9×Tmax (5)
IN=(T+273)(log(t/3600)+20) (6)
ここで、式(6)中のt(秒)は式(7)で定義される。
/3600=10+ΔtIN/3600 (7)
ここで、X=((Tn−1+273)/(T+273))(log(tn−1/3600)+20)−20である。また、t1=ΔtINであり、ΔtINは1秒である。
式(6)中のT(℃)は式(8)で定義される。
=Tn−1+αΔtIN (8)
ここで、αは、温度Tn−1での昇温速度又は冷却速度(℃/s)である。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法であってさらに、
記析出硬化熱処理を実施する工程後、亜鉛めっき処理を実施する工程を備える、テーラーロールドブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法であってさらに、
前記亜鉛めっき処理を実施した後、450〜600℃で合金化処理を実施する工程を備える、テーラードロールドブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーラードロールドブランク用熱延鋼板、テーラードロールドブランク及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上を目的として自動車を構成する各種部品の軽量化が進められている。軽量化の方法は、部品各々の要求性能により異なる。例えば、骨格部品では鋼板の高強度化による薄肉化が行われている。パネル部品では鋼板からAl合金等の軽金属板への置換等が行われている。
【0003】
しかしながら、Al合金等の軽金属板は鋼板と比較して高価である。そのため、軽金属板の利用は、主として高級車に限られている。自動車需要は先進国から新興国にシフトしており、今後は軽量化と低価格化の両立が求められることが予想される。したがって、部位に関わらずどの部品においても、鋼板を用いた高強度化と薄肉化による軽量化が求められる。
【0004】
薄肉化を究極的に進めると、各部位の構成部品の板厚及び材質を細かく設定する必要がある。しかしながらこの場合、部品点数が増えて製造コストが高くなる。ボディ形状の精度及び生産性の向上等の観点から、部品点数は出来る限り少ない方が好ましい。
【0005】
可能な限り各部位の板厚及び材質を細かく設定し、且つ部品点数を削減できる方法として、テーラードブランク(Tailored Blanks)の適用が進んでいる。
【0006】
テーラードブランクとは、複数の鋼板を目的に応じてつなぎ合わせたプレス素材のことをいう。テーラードブランクを利用すれば、1つの素材の特性を部分的に変えることができ、かつ、部品点数も削減できる。テーラードブランクは通常、複数の鋼板を溶接して製造される。溶接方法はたとえば、レーザー溶接、マッシュシーム溶接、プラズマ溶接法、及び、高周波誘導溶接法等である。
【0007】
このような溶接により製造されたテーラードブランクは、テーラードウエルドブランク(Tailored Weld Blanks)と呼ばれる。テーラードウェルドブランクに関する技術はたとえば、特開平7−290182号公報(特許文献1)、及び、特開平8−174246号公報(特許文献2)に提案されている。
【0008】
特許文献1及び2に開示された技術では、厚さの異なる鋼帯を幅方向に突合せ、レーザー溶接などにより接合する。しかしながら、これらの技術を適用してテーラードウェルドブランクを製造した場合、溶接部の一部に溶接欠陥が存在すれば、溶接工程後のプレス工程において、溶接部に割れが発生する場合がある。さらに、溶接部が溶接欠陥を有さなくても、溶接部と母材部との間に硬度差が生じたり、溶接アンダーカット部が発生したりする。この場合、その後のプレス成形工程において、溶接部でプレス加工の応力集中が発生し、溶接部の一部に割れが発生する場合がある。
【0009】
以上のとおり、レーザー溶接、マッシュシーム溶接、アーク溶接、高周波溶接等の現在実用化されている溶接法により、異なる板厚で、強度の異なる鋼板を溶接する場合、溶接部の品質を均一にすることが困難であり、溶接欠陥が発生しやすい。
【0010】
そこで、溶接を利用しない他のテーラードブランクとして、テーラードロールドブランク(Tailored Rolled Blanks)が提案されている。テーラードロールドブランクは、圧延により部分的な薄肉化が行われた差厚鋼板である。特開平11−192502号公報(特許文献3)、特開2006−272440号公報(特許文献4)、国際公開第2008/068352号(特許文献5)、国際公開第2008/104610号(特許文献6)は、テーラードロールドブランクに関する技術を開示する。
【0011】
特許文献3では、特殊形状のワークロールで鋼帯を圧延して、幅方向の板厚が異なる鋼帯を製造する。しかしながら、この技術を利用する場合、テーラードブランク用鋼帯の形状に対応した専用のワークロールを複数準備しなければならない。
【0012】
特許文献4では、特殊形状のワークロールを使用せずに差厚鋼板を製造する。具体的には、板厚の長手方向中間部の少なくとも1箇所で、所定の長さの範囲で板厚がテーパ状に変化するように、ロール圧下位置を設定変更して圧延し、テーラードロールドブランクを製造する。しかしながら、特許文献4では、テーラードロールドブランクに用いられる鋼帯の化学組成、ミクロ組織等については検討されていない。
【0013】
特許文献5及び6では、テーラードロールドブランク用の鋼板の化学組成及び製造方法について開示されている。特許文献5及び6では、特定の化学組成を有する鋼帯を用いて、圧延方向に板厚が変化するようにロールギャップを制御しながら圧延する。圧延後、熱処理を行って、テーラードロールドブランクの厚肉部の降伏強度を、薄肉部の降伏強度以上とする。
【0014】
国際公開第2010/137317号(特許文献7)では、特定の化学組成を有する鋼板を特定の条件で熱間圧延して熱延鋼板を製造する。熱延鋼板に対して0.1〜5.0%の圧下率で冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する。冷延鋼板に対して特定の条件で熱処理を実施して、伸びの優れる高強度鋼板を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平7−290182号公報
【特許文献2】特開平8−174246号公報
【特許文献3】特開平11−192502号公報
【特許文献4】特開2006−272440号公報
【特許文献5】国際公開第2008/068352号
【特許文献6】国際公開第2008/104610号
【特許文献7】国際公開第2010/137317号
【特許文献8】特開2004−317203号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】G.K.Williams and W.H.Hall:Act.Metall.,1(1953),22
【非特許文献2】G.K.Williams and R.E.Smallman:Philos. Mag.,8(1956),34
【非特許文献3】土山聡宏:熱処理42(2002),163
【0017】
しかしながら、特許文献5及び6の技術において、鋼帯の強度が高くなれば、冷間圧延に圧延反力が増加する。この場合、圧延により薄肉部を形成するために、過度の設備負荷、圧延回数の増加等が必要となる。そのため、生産性が低下する。さらに、板厚精度及び形状精度も低下する。さらに、厚肉部の降伏強度が薄肉部の降伏強度以上であれば、プレス後の使用性能としては好ましいと考えられるものの、厚肉部と薄肉部との降伏強度差が大きすぎれば、冷間成形時(冷間プレス等)に薄肉部に変形が集中して破断しやすくなる。また、特許文献7の技術のように、5%程度の冷間圧延を実施したとしても、テーラードロールドブランクとして要求される厚肉部と薄肉部との板厚差を得ることができない。
【発明の概要】
【0018】
本発明の目的は、590MPa以上の引張強度を有し冷間成形性に優れるテーラードロールドブランクを製造可能なテーラードロールドブランク用熱延鋼板、その熱延鋼板を用いて製造されるテーラードロールドブランク、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
本実施形態によるテーラードロールドブランク用熱延鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01〜1.2%、N:0.01%以下、Ti:0.015〜0.15%、Nb:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Mo:0〜0.2%、V:0〜0.2%、Cr:0〜1%、W:0〜0.5%、Mg:0〜0.005%、Ca:0〜0.005%、希土類元素:0〜0.1%、B:0〜0.005%、及び、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上:合計で0〜0.05%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、面積率で、20%以上のベイナイトを含有し、面積率で残部の50%以上がフェライトからなるミクロ組織とを有する。熱延鋼板の表面から板厚の1/2深さの位置において、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>の結晶方位からなる{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度の平均値は4以下であり、かつ、{332}<113>の結晶方位の極密度は4.8以下である。熱延鋼板の表面から板厚の1/8深さ位置において、{110}<001>の結晶方位の極密度は2.5以上である。さらに、熱延鋼板中の10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度が1.0×1017個/cm3以下であり、焼付硬化量は15MPa以上である。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0020】
本実施形態によるテーラードロールドブランクは、圧延方向に板厚がテーパ状に変化する。テーラードロールドブランクは、厚肉部と、厚肉部よりも薄い薄肉部とを備える。テーラードロールドブランクにおいて、板厚が最も厚い最厚肉部の平均硬度Htmaxの、板厚が最も薄い最薄肉部の平均硬度Htminに対する比が1.0超〜1.5である。さらに、最薄肉部の平均転位密度は1×1014-2以下であり、10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度は2×1017個/cm3を超える。
【0021】
本実施形態によるテーラードロールドブランク用熱延鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01〜1.2%、N:0.01%以下、Ti:0.015〜0.15%、Nb:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Mo:0〜0.2%、V:0〜0.2%、Cr:0〜1%、W:0〜0.5%、Mg:0〜0.005%、Ca:0〜0.005%、希土類元素:0〜0.1%、B:0〜0.005%、及び、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上:合計で0〜0.05%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たすスラブを、式(2)で定義される温度SRTmin以上で加熱する工程と、加熱されたスラブに対して、60〜90%の総圧下率で粗圧延を実施し、かつ、粗圧延において、スラブ温度が1050〜1150℃のときに20%以上の圧下率で1パス以上圧延を実施して粗バーを製造する工程と、粗圧延が終了した後、150秒以内に粗バーに対して仕上げ圧延を開始し、仕上げ圧延開始時の粗バーの温度を1000℃〜1080℃未満とし、総圧下率を75〜95%とし、最終の2パスでの合計圧下率を30%以上とし、仕上げ圧延終了温度をAr3変態温度〜1000℃とし、式(3)で定義される形状比SRを3.5以上とする仕上げ圧延を実施して鋼板を製造する工程と、仕上げ圧延終了後、3秒以内に鋼板の冷却を開始し、冷却停止温度を600℃以下とし、冷却停止温度までの平均冷却速度を15℃/秒以上として鋼板を冷却し、式(4)で定義され、Ar3変態温度を通過後、巻取り開始までの時間での総累積拡散距離Ltotalを0.15μm以下とする工程と、冷却後の鋼板を600℃以下の巻取り温度で巻取る工程とを備える。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0% (1)
SRTmin=10780/{5.13−log([Ti]×[C])}−273 (2)
SR=ld/hm (3)
total=Σ√(D(T)ΔtL) (4)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(3)中のldは仕上げ圧延において最終の圧下を行う圧延ロールと鋼板との接触弧長であり、次式で定義される。
ld=√(L×(hin−hout)/2)
ここで、L(mm)は、上記圧延ロールの直径である。hinは、上記圧延ロール入側での鋼板の板厚(mm)である。houtは、上記圧延ロール出側での鋼板の板厚(mm)である。hmは次式で定義される。
hm=(hin+hout)/2
式(4)中のΔtLは、上記鋼板の温度がAr3変態温度を通過後、巻取りを開始するまでの時間での微小時間であり、0.2秒である。D(T)は、T℃におけるTiの体拡散係数であり、Tiの拡散係数をD0、活性化エネルギをQ、気体定数をRとするとき、次式で定義される。
D(T)=D0×Exp{−Q/R(T+273)}
【0022】
本実施形態によるテーラードロールドブランクの製造方法は、上述の熱延鋼板を用いる。本製造方法は、熱延鋼板の長手方向で板厚がテーパ状に変化するように、5%超〜50%の範囲で圧下率を変更しながら熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する工程と、冷延鋼板に対して析出硬化熱処理を実施する工程とを備える。析出硬化熱処理において、最高加熱温度Tmaxが600〜750℃であり、600℃以上での保持時間tK(秒)が、最高加熱温度Tmaxに対して式(5)を満たし、式(6)で定義される熱処理指標INを16500〜19500とする。
530−0.7×Tmax≦tK≦3600−3.9×Tmax (5)
IN=(Tn+273)(log(tn/3600)+20) (6)
ここで、式(6)中のtn(秒)は式(7)で定義される。
n/3600=10X+ΔtIN/3600 (7)
ここで、X=((Tn-1+273)/(Tn+273))(log(tn-1/3600)+20)−20である。また、t1=ΔtINであり、ΔtINは1秒である。
式(6)中のTn(℃)は式(8)で定義される。
n=Tn-1+αΔtIN (8)
ここで、αは、温度Tn-1での昇温速度又は冷却速度(℃/s)である。
【0023】
本実施形態によるテーラードロールドブランク用熱延鋼板を用いれば、高強度を有し優れた冷間成形性を有するテーラードロールドブランクを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A図1Aは、ODF(Orientation Distribution Function)において、角度変数φ1、φ2及びΦを直交座標とするオイラー空間の模式図である。
図1B図1Bは、図1Aのオイラー空間においてφ2=45°断面上の主な結晶方位の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、下記(a)〜(e)の条件を満足する様々なテーラードロールドブランクに対して、冷間成形性と、最厚肉部及び最薄肉部の材質との関係を調査した。その結果、次の知見を得た。
(a)冷間圧延後に熱処理を行うこと、
(b)冷間圧延が5%を超える圧下率で、厚肉部及び薄肉部が形成されること、
(c)厚肉部とそれに隣接する薄肉部との間隔(距離)が数メートル以下であること、
(d)厚肉部及び薄肉部が1又は複数存在すること、及び、
(e)板厚が、圧延方向にテーパ状に変化していること。
【0026】
上記(a)に記載されている、冷間圧延後に行う熱処理は、鋼中に析出物を微細に析出して析出硬化を作用させ、さらに、鋼中の転位密度を低下して延性を改善する。この熱処理を「析出硬化熱処理」という。
【0027】
本発明者らは、まず、テーラードロールドブランクの冷間成形性について検討した。具体的には、板厚が圧延方向に異なるテーラードブランク(サンプル1)、及び、降伏強度が圧延方向で異なるテーラードブランク(サンプル2)を用意した。各サンプルに対して、球頭張り出し試験及び角筒絞り試験を実施した。
【0028】
試験の結果、サンプル1を用いた試験では、いずれの試験においても、薄肉部で破断した。さらに、成形高さは、サンプル1の薄肉部と同一の板厚を有し、かつ、その板厚が一定である鋼板よりも低かった。サンプル2を用いた試験では、いずれの試験においても、低強度を有する部分が破断した。さらに、その成形高さは、サンプル2の高強度部分と同一の降伏強度を有し、かつ、その降伏強度が均一である鋼板よりも低かった。
【0029】
以上の試験結果から、次の事項が考えられる。互いに異なる変形抵抗を有する部分を含むブランクに対して冷間成形加工を実施する場合、見かけ上の変形抵抗が低い部分に変形が集中し、十分に成形される前に破断しやすい。そのため、変形抵抗の低い薄肉部の強度を高める必要がある。
【0030】
本発明者らは次に、薄肉部の板厚THminの厚肉部の板厚THmaxに対する比(THmin/THmax)が0.6以下の差厚鋼板についてさらに詳細な検討を行った。その結果、次の知見を得た。最厚肉部の平均硬度Htmaxの、最薄肉部の平均硬度Htminに対する比(Htmax/Htmin)が1.0超〜1.5であれば、成形加工時において、変形の集中が発生しにくい。そのため、球頭張り出し試験及び角筒絞り試験のいずれの試験においても、優れた冷間成形性が得られる。より具体的には、Htmax/Htminが1.0超〜1.5であれば、最薄肉部と同程度の板厚であって、その板厚が均一であり、かつ、最薄肉部の平均硬度Htminと同程度の平均硬度を有する鋼板の成形高さの8割程度に収まる。
【0031】
さらに、テーラードロールドブランクの最薄肉部の平均転位密度が1×1014-2を超える場合、十分な冷間成形性が得られない。これは、冷間圧延によりテーラードロールドブランクに導入されたひずみが、その後の析出硬化熱処理によって回復できていないことに起因する。したがって、テーラードロールドブランクの最薄肉部での平均転位密度を1×1014-2以下とする。
【0032】
さらに、テーラードロールドブランクにおいて、10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物(Ti(C,N))の数密度n1が2×1017個/cm3以下の場合、析出硬化が不十分となり、目標とする強度が得られない。したがって、微細Ti炭窒化物の数密度n1は2×1017個/cm3を超える。
【0033】
上述の条件を満たすテーラードロールドブランクを得るために、本発明者らは、テーラードロールドブランクの素材となる熱延鋼板に求められる条件について検討した。
【0034】
具体的には、0.06%C−0.15%Si−1.9%Mn−0.01%P−0.002%S−0.035%Al−0.09%Ti−0.035%Nb−0.004%Nの化学組成を有するスラブを準備した。スラブを用いて、種々の製造条件により、ミクロ組織、Ti炭窒化物の数密度、集合組織、及び、板厚の異なる複数のテーラードロールドブランク用熱延鋼板を製造した。その後、製造された熱延鋼板を用いて、テーラードロールドブランクを想定した冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造した。冷間圧延での圧下率は5超〜50%とした。製造された冷延鋼板に対して、種々の製造条件で析出硬化熱処理を実施して、テーラードロールドブランクを製造した。上記熱延鋼板、冷延鋼板、及びテーラードロールドブランクからサンプルを採取して、ミクロ組織、析出物の状態、集合組織について調査した。その結果、次の知見を得た。
【0035】
[熱延鋼板のミクロ組織について]
テーラードロールドブランク用の熱延鋼板のミクロ組織において、ベイナイトの面積率が20%未満である場合、残部は主としてフェライトである。しかしながら、このようなミクロ組織を有する熱延鋼板が通常の製造方法で製造された場合、仕上げ圧延後の冷却中にオーステナイトからフェライトへの変態が進行する。この場合、オーステナイトとフェライトとでのTi、C及びNの固溶度の差を駆動力として、Ti炭窒化物が析出し、フェライトが析出硬化され、熱延鋼板の強度が高くなりすぎる。熱延鋼板の強度が高すぎれば、冷間圧延での圧延反力が上昇する。そのため、テーラードロールドブランクの寸法精度(板厚精度及び板幅精度)が低下して、冷間成形性が低下する。一方、仮に、Ti炭窒化物の析出硬化が過時効状態であり、熱延鋼板の強度が低い場合、後工程である析出硬化熱処理によっても析出硬化がされない。熱延鋼板のミクロ組織が20%以上のベイナイトを含有すれば、熱延鋼板での強度の過剰な上昇を抑えることができ、熱延鋼板の冷間成形性が高まる。
【0036】
[熱延鋼板中の析出物(Ti炭窒化物)について]
さらに、熱延鋼板中のTi炭窒化物は少ない方が好ましい。熱延鋼板中にTi炭窒化物が多数析出していれば、上述のとおり、析出硬化により熱延鋼板の強度が高くなりすぎる。この場合、冷間成形性が低下する。熱延鋼板中のTi炭窒化物が少なければ、Ti、C及びNが固溶状態である、又は、Ti炭窒化物がクラスタ状である。この場合、熱延鋼板での析出硬化が発現せず、破断伸びが高まる。その結果、冷間圧延中の圧延反力は低下し、冷間成形性が高まる。具体的には、10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度が1.0×1017個/cm3以下であり、焼付硬化量(以下、BH量という)が15MPa以上であれば、優れた冷間成形性が得られる。
【0037】
「クラスタ状のTi炭窒化物」とは、結晶構造がNaCl構造ではなく、形状が板状ではなく不定形であるものを意味する。クラスタ状のTi炭窒化物は、原子数ではTi原子が100〜200個の集合体である。透過型電子顕微鏡では、明確なNaCl構造をしていないので観察しにくく、3D−APで上記の原子数のTiとC、Nの集合体が認められればクラスタと定義できる。同一サンプルから透過型電子顕微鏡薄膜試料、及び、3D−AP用試料を採取し、それぞれ複数のサンプルを5視野以上観察する。このとき、観察した5視野の過半数で、透過型電子顕微鏡で明確な析出物が認められず、かつ、3D−APでTi原子が100〜200個でTi原子とC原子が同一座標に観察される場合、クラスタ状のTi炭窒化物であると判断できる。
【0038】
[熱延鋼板中の集合組織について]
熱延鋼板中の集合組織では、次の事項を満たすことにより、冷間成形性を高めることができる。
【0039】
熱延鋼板の表面から板厚の5/8〜3/8深さの範囲(以下、この範囲を内部という)において、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>、及び、{223}<110>の各結晶方位からなる{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の平均値を4以下とし、かつ、{332}<113>の結晶方位の極密度D2を4.8以下とする。
【0040】
要するに、熱延鋼板の内部においては、結晶方位をなるべくランダムにする。{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の平均値が4以下であり、かつ、{332}<113>結晶方位の極密度D2が4.8以下である場合、引張強度及び破断伸びの面内異方性が低減する。具体的には、引張強度及び破断伸びの面内異方性の指標である|Δr|値が0.6以下となる。具体的には、圧延方向、板幅方向、及び、圧延方向より45°傾いた方向での引張強度の平均720MPaである場合、3方向での標準偏差が12MPa以下となる。そして、3方向での破断伸びの平均が17%である場合、3方向での標準偏差が0.8%以下となる。面内異方性が小さくなるため、板厚精度及び板幅精度が高まり、冷間成形性が高まる。
【0041】
一方、熱延鋼板の表面から板厚の3/8深さまでの範囲の表層においては、{110}<001>結晶方位の極密度D3を2.5以上とする。
【0042】
要するに、内部では結晶方位をなるべくランダムにするのに対して、表層では、特定の結晶方位である{110}<001>結晶方位の占める割合をなるべく高める。本実施形態の化学組成において、{110}<001>結晶方位の結晶粒は、加工硬化しにくい。テーラードロールドブランクの製造では、冷間圧延時に部分的に圧下率を変えて、鋼板に厚肉部と薄肉部とを製造する。したがって、厚肉部と薄肉部とでは、冷間圧延での圧下率が異なる。圧下率が異なれば、導入されるひずみ量も異なる。そのため、厚肉部と薄肉部とで加工硬化に差が生じて、硬さに差が生じる。厚肉部と薄肉部の表層部で特に、硬さの差が生じやすい。
【0043】
上述のとおり、{110}<001>結晶方位の結晶粒は、加工硬化しにくい。さらに、後述のとおり、本実施形態では、冷間圧延率は5%超〜50%である。この場合、冷間圧延後においても、表層に{110}<001>結晶方位が残る。そのため、{110}<001>結晶方位の極密度D3が2.5以上であれば、テーラードロールドブランクの厚肉部及び薄肉部の硬度差を低減でき、硬さのばらつきを抑えることができる。その結果、板厚精度及び板幅精度が高まり、冷間成形性が高まる。
【0044】
上述の熱延鋼板を5%超〜50%の圧下率で冷間圧延し、かつ、後述の条件で析出硬化熱処理を実施してテーラードロールドブランクを製造すれば、製造されたテーラードロールドブランクでは、上述の硬度比HR(=Htmax/Htmin=1.0超〜1.5)が得られる。さらに、最薄肉部の平均転位密度は1×1014-2以下となり、円相当直径が0.5〜10nmのTi炭窒化物の数密度n1が2×1017個/cm3を超える。
【0045】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の熱延鋼板は、テーラードロールドブランクに用いられる熱延鋼板である。この熱延鋼板は、質量%で、C:0.03〜0.1%、Si:1.5%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Al:0.01〜1.2%、N:0.01%以下、Ti:0.015〜0.15%、Nb:0〜0.1%、Cu:0〜1%、Ni:0〜1%、Mo:0〜0.2%、V:0〜0.2%、Cr:0〜1%、W:0〜0.5%、Mg:0〜0.005%、Ca:0〜0.005%、希土類元素:0〜0.1%、B:0〜0.005%、及び、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上:合計で0〜0.05%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)を満たす化学組成と、面積率で、20%以上のベイナイトを含有し、面積率で残部の50%以上がフェライトからなるミクロ組織とを有する。熱延鋼板の表面から板厚の1/2深さ位置において、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>の結晶方位からなる{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度の平均値が4以下であり、かつ、{332}<113>の結晶方位の極密度が4.8以下である。熱延鋼板の表面から板厚の1/8深さ位置において、{110}<001>の結晶方位の極密度が2.5以上である。さらに、熱延鋼板中のTi炭窒化物のうち、10nm以下の粒径の微細Ti炭窒化物の数密度が1.0×1017個/cm3以下であり、焼付硬化量(BH量)は15MPa以上である。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0046】
上記熱延鋼板の化学組成は、Nb:0.005〜0.1%、Cu:0.005〜1%、Ni:0.005〜1%、Mo:0.005〜0.2%、V:0.005〜0.2%、Cr:0.005〜1%、及び、W:0.01〜0.5%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。上記化学組成は、Mg:0.0005〜0.005%、Ca:0.0005〜0.005%、及び、希土類元素:0.0005〜0.1%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。上記化学組成は、B:0.0002〜0.005%を含有してもよい。化学組成は、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種以上を合計で0.005〜0.05%含有してもよい。
【0047】
本実施形態によるテーラードロールドブランクは、圧延方向に板厚がテーパ状に変化する。本テーラードロールドブランクは、厚肉部と、厚肉部よりも薄い薄肉部とを備える。テーラードロールドブランクにおいて、板厚が最も厚い最厚肉部の平均硬度Htmaxの、板厚が最も薄い最薄肉部の平均硬度Htminに対する比は1.0超〜1.5である。最薄肉部の平均転位密度は1×1014-2以下である。さらに、10nm以下の粒径のTi炭窒化物の数密度は2×1017個/cm3を超える。
【0048】
好ましくは、上記テーラードロールドブランクは、上記熱延鋼板を用いて製造される。上記テーラードロールドブランクは、表面に亜鉛めっき層を備えてもよい。
【0049】
本実施形態によるテーラードロールドブランク用熱延鋼板の製造方法は、上述の化学組成を有し、式(1)を満たすスラブを式(2)で定義される温度SRTmin以上で加熱する工程と、加熱されたスラブに対して、60〜90%の総圧下率で粗圧延を実施し、かつ、粗圧延において、スラブ温度が1050〜1150℃のときに20%以上の圧下率で1パス以上圧延を実施して粗バーを製造する工程と、粗圧延が終了した後、150秒以内に粗バーに対して仕上げ圧延を開始し、仕上げ圧延開始時の粗バーの温度を1000℃〜1080℃未満とし、総圧下率を75〜95%とし、最終の2パスでの合計圧下率を30%以上とし、仕上げ圧延終了温度をAr3変態温度〜1000℃とし、式(3)で定義される形状比SRを3.5以上とする仕上げ圧延を実施して鋼板を製造する工程と、仕上げ圧延終了後、3秒以内に鋼板の冷却を開始し、冷却停止温度を600℃以下とし、冷却停止温度までの平均冷却速度を15℃/秒以上として鋼板を冷却し、式(4)で定義され、Ar3変態温度を通過後巻取り開始までの時間での総累積拡散距離Ltotalを0.15μm以下とする工程と、冷却後の鋼板を600℃以下の巻取り温度で巻取る工程とを備える。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0% (1)
SRTmin=10780/{5.13−log([Ti]×[C])}−273 (2)
SR=ld/hm (3)
total=Σ√(D(T)ΔtL) (4)
ここで、式(1)及び式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(3)中のldは仕上げ圧延において最終の圧下を行う圧延ロールと鋼板との接触弧長であり、次式で定義される。
ld=√(L×(hin−hout)/2)
ここで、L(mm)は、圧延ロールの直径である。hinは、圧延ロールの入側での鋼板の板厚(mm)である。houtは、圧延ロールの出側での鋼板の板厚(mm)である。hmは次式で定義される。
hm=(hin+hout)/2
式(4)中のΔtLは、鋼板の温度がAr3変態温度を通過後、巻取り開始までの時間での微小時間であり、0.2秒である。D(T)は、T℃におけるTiの体拡散係数であり、Tiの拡散係数をD0、活性化エネルギをQ、気体定数をRとするとき、次式で定義される。
D(T)=D0×Exp{−Q/R(T+273)}
【0050】
本実施形態によるテーラードロールドブランクの製造方法は、上述の熱延鋼板を用いて製造される。本製造方法は、熱延鋼板の長手方向で板厚がテーパ状に変化するように、5%超〜50%の範囲で圧下率を変更しながら熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する工程と、冷延鋼板に対して析出硬化熱処理を実施する工程とを備える。析出硬化熱処理では、最高加熱温度Tmaxが600〜750℃であり、600℃以上での保持時間tK(秒)が、最高加熱温度Tmaxに対して式(5)を満たし、式(6)で定義される熱処理指標INが16500〜19500である。
530−0.7×Tmax≦tK≦3600−3.9×Tmax (5)
IN=(Tn+273)(log(tn/3600)+20) (6)
ここで、式(6)中のtn(秒)は式(7)で定義される。
n/3600=10X+ΔtIN/3600 (7)
ここで、X=((Tn-1+273)/(Tn+273))(log(tn-1/3600)+20)−20である。また、t1=ΔtINであり、ΔtINは1秒である。
式(6)中のTn(℃)は式(8)で定義される。
n=Tn-1+αΔtIN (8)
ここで、αは、温度Tn-1での昇温速度又は冷却速度(℃/s)である。
【0051】
上記テーラードロールドブランクの製造方法はさらに、スラブを加熱する工程前、仕上げ圧延後の鋼板を冷却する工程前、冷却された鋼板を巻取る工程前、及び、析出硬化熱処理を実施する工程後のいずれかで、亜鉛めっき処理を実施する工程を備えてもよい。本製造方法はさらに、亜鉛めっき処理を実施した後、450〜600℃で合金化処理を実施する工程を備えてもよい。
【0052】
本実施形態の熱延鋼板を用いれば、590MPa以上の引張強度を有し優れた冷間成形性を有するテーラードロールドブランクを得ることができる。このテーラードロールドブランクは、自動車の骨格部品を始め、衝突吸収エネルギー、剛性及び疲労強度等の性能が求められる内板部材、構造部材、足廻り部材等の用途に用いることができる。
【0053】
以下、テーラードロールドブランク用熱延鋼板、及び、その熱延鋼板を用いて製造されるテーラードロールドブランクについて詳述する。
【0054】
[テーラードロールドブランク用熱延鋼板]
[化学組成]
本実施形態のテーラードロールドブランク用熱延鋼板の化学組成は、次の元素を含有する。以下、各元素の含有量についての「%」は、質量%を意味する。
【0055】
C:0.03〜0.1%
炭素(C)は、組織強化により鋼の強度を高める。Cはさらに、本熱延鋼板を用いてテーラードロールドブランクを製造するとき、Tiと結合してTi炭窒化物を形成し、析出硬化によりテーラードロールドブランクの強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が得られず、テーラードロールドブランクの引張強度が590MPa未満となる。一方、C含有量が高すぎれば、強度が高くなりすぎて、熱延鋼板の伸びが低下する。したがって、C含有量は0.03〜0.1%である。C含有量の好ましい下限は0.06%である。C含有量の好ましい上限は0.09%である。
【0056】
Si:1.5%以下
珪素(Si)は、不可避に含有される。Siは鋼に固溶して鋼の強度を高める。Siはさらに、引張強度と伸びのバランスを改善する。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、タイガーストライプ状のスケールが生成して、熱延鋼板の表面性状が低下する。この場合、スケール除去を目的とした酸洗処理の生産性が低下する。熱延鋼板の表面性状が低下すればさらに、化成処理性が低下するため、テーラードロールドブランクの塗装後の耐食性が低下する。したがって、Si含有量は1.5%以下(0%は含まない)である。Si含有量の好ましい下限は0.02%である。この場合、上記効果とともに、ウロコ、紡錘スケールに代表されるスケール欠陥の発生をさらに抑制できる。Si含有量の好ましい上限は、0.07%である。この場合、タイガーストライプ状のスケールの発生をさらに抑制できる。
【0057】
Mn:1.0〜2.5%
マンガン(Mn)は、鋼を固溶強化し、さらに、鋼の焼入れ性を高める。Mn含有量が低すぎれば、鋼の強度が低くなりすぎ、引張強度が590MPa未満となる。一方、Mn含有量が高すぎれば、偏析が生じ易くなり、加工性及びプレス成形性が低下する。したがって、Mn含有量は、1.0〜2.5%である。適正なMn含有量の範囲は、引張強度に応じて存在する。590〜700MPaの引張強度を有するテーラードロールドブランクにおける好ましいMn含有量は1.0〜1.8%である。700MPa〜900MPaの引張強度を有するテーラードロールドブランクにおける好ましいMn含有量は1.6〜2.2%である。900MPa以上の引張強度を有するテーラードロールドブランクにおける好ましいMn含有量は2.0〜2.5%である。
【0058】
Mnはさらに、Sによる熱間割れの発生を抑制する。Sによる熱間割れの発生を抑制するためのMn以外の元素の含有量が十分ではない場合、Mn含有量([Mn])のS含有量([S])に対する比([Mn]/[S])は、好ましくは20以上である。
【0059】
P:0.1%以下
燐(P)は、不可避に含有される。Pは、鋼を固溶強化する。しかしながら、P含有量が高すぎれば、鋼板の加工性及び溶接性が低下する。したがって、P含有量は0.1%以下(0%を含まない)である。P含有量の好ましい下限は0.005%である。P含有量の好ましい上限は0.02%である。
【0060】
S:0.02%以下
硫黄(S)は、不可避に含有される不純物である。Sは、MnSなどの介在物を生成して、鋼の伸びフランジ成形性を低下し、さらに、熱間圧延時に割れを引き起こす。したがって、S含有量は0.02%以下(0%を含まない)である。好ましいS含有量の上限は0.005%である。この場合、溶接性及び、鋳造時及び熱延時の製造安定性が高まる。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしかしながら、製造コストを考慮すれば、S含有量の下限のはたとえば、0.0001%である。
【0061】
Al:0.01〜1.2%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸し、溶鋼中の溶存酸素を減らす。そのため、Alは、Ti、Nb、Mo及びVが溶存酸素と結合して合金酸化物を形成するのを抑制できる。Al含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、鍛造時にタンディッシュノズルが詰まりやすくなる。Al含有量が高すぎればさらに、化成処理性及び亜鉛めっき性を低下する。Al含有量が高すぎればさらに、アルミナ等の非金属介在物が多量に発生して鋼の局部延性が低下する。したがって、Al含有量は0.01〜1.2%である。Al含有量の好ましい下限は0.02%である。化成処理及び亜鉛めっき性をさらに高める場合、Al含有量の好ましい上限は0.6%である。アルミナ等の非金属介在物の生成をさらに抑制する場合、Al含有量の好ましい上限は0.3%である。
【0062】
N:0.01%以下
窒素(N)は、不可避的に含有される不純物である。Nは、Ti、Nb等と結合して窒化物を形成する。この場合、窒化物が形成された場合、Ti、Nbが後述の作用を発揮しにくい。さらに、これらの窒化物は、高温で析出して粗大化しやすく、バーリング割れの起点となりやすい。したがって、N含有量は0.01%以下(0%を含まない)である。
【0063】
なお、時効劣化が問題となる部材に対して本実施形態のテーラードロールドブランクを用いる場合、N含有量の好ましい上限は0.006%である。さらに、製造後二週間以上室温で放置した後、加工されることを前提とする部材に対して本実施形態のテーラードロールドブランクを用いる場合には、N含有量の好ましい上限は0.005%である。テーラードロールドブランクが夏季の高温環境下で放置されたり、又は赤道を越えるような地域へ船舶等で輸出される場合、N含有量の好ましい上限は、0.004%未満である。
【0064】
Ti:0.015〜0.15%
チタン(Ti)は、種々の析出硬化元素のうち、最も析出硬化能が高い。γ相(オーステナイト)中及びα相(フェライト)中での固溶度の差が最も大きいためである。本実施形態では、熱延鋼板ではTi炭窒化物(Ti(C,N))の析出を極力抑え、Tiを固溶させた状態、又は、クラスタ状態で存在させる。熱延鋼板に対して冷間圧延を実施してテーラードロールドブランクの形状の中間品を製造する。このとき、中間品には転位が多数導入される。中間品に対して析出硬化熱処理を実施してテーラードロールドブランクを製造する。このとき、転位上にTi炭窒化物が微細に析出して、テーラードロールドブランクが析出硬化される。これにより、テーラードロールドブランクの強度及び伸びが向上する。
【0065】
Ti含有量が低すぎる場合、テーラードロールドブランクにおけるTi炭窒化物の数密度が1010個/mm未満となり、析出硬化熱処理後のテーラードロールドブランクの引張強度が590MPa未満となる。一方、Ti含有量が高すぎれば、上記効果が飽和し、さらに、タンディッシュノズルが詰まりやすくなる。Ti含有量が高すぎればさらに、熱間圧延時のオーステナイト再結晶速度が遅くなり、熱延鋼板の集合組織が発達しやすくなる。この場合、析出硬化熱処理後のテーラードロールドブランクにおいて、面内異方性が大きくなる。この場合、熱延鋼板の冷間成形性が低下するため、テーラードロールドブランクの板厚精度及び板幅精度が低くなる。したがって、Ti含有量は、0.015〜0.15%である。Ti含有量の好ましい上限は0.12%である。
【0066】
[式(1)について]
上記化学組成はさらに、式(1)を満たす。
[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]≧0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
【0067】
上述のとおり、Tiは析出硬化熱処理によりTi炭窒化物(Ti(C、N))として微細析出して、テーラードロールドブランクを析出硬化し、その引張強度を590MPa以上とする。しかしながら、TiはN及びSとの親和力が高い。そのため、N含有量及びS含有量に対してTi含有量が低すぎれば、Ti炭窒化物が生成せずに、TiN及びTiSが生成する。TiN及びTiSは粗大であるため、鋼の強度向上に寄与しない。したがって、Ti炭窒化物として十分に析出する量のTiを含有しなければならない。
【0068】
F1=[Ti]−48/14×[N]−48/32×[S]と定義する。F1が0未満であれば、熱延鋼板中のN含有量及びS含有量に対するTi含有量が低すぎる。この場合、熱延鋼板に対して後述の析出硬化熱処理を実施しても、Ti炭窒化物が生成しにくい。一方、F1が0以上であれば、炭窒化物として析出するのに十分な量のTiが含有される。この場合、テーラードロールドブランクの強度を590MPa以上に高めることができる。
【0069】
本実施形態の熱延鋼板の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、熱延鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
【0070】
本実施形態による熱延鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Nb、Cu、Ni、Mo、V、Cr及びWからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素である。これらの元素はいずれも、鋼の強度を高める。
【0071】
Nb:0〜0.1%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、NbはTiと同様に析出硬化により鋼の強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、析出硬化が飽和し、伸び及び加工性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.1%である。上記効果をより有効に得るためのNb含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.02%である。Nb含有量の好ましい上限は0.05%である。
【0072】
Cu:0〜1%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cuは単独で析出し、鋼の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、熱間圧延時に鋼が脆化する。したがって、Cu含有量は0〜1%である。上記効果をより有効に得るためのCu含有量の好ましい下限は0.005%である。
【0073】
Ni:0〜1%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、NiはMnと同様に、鋼の焼入れ性を高めて鋼の強度を高め、鋼の靭性も高める。Niはさらに、Cuが含有された場合に鋼の熱間脆性を抑制する。Niが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、製造コストが高くなる。したがって、Ni含有量は0〜1%である。上記効果をさらに有効に得るためのNi含有量の好ましい下限は0.005%である。
【0074】
Mo:0〜0.2%
V:0〜0.2%
モリブデン(Mo)及びバナジウム(V)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Mo及びVはTi及びNbと同様に、鋼を析出硬化する。Mo及びVが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Mo及びV含有量が高すぎれば、鋼の伸びが低下する。したがって、Mo含有量は0〜0.2%であり、V含有量は0〜0.2%である。上記効果をさらに有効に得るためのMo含有量の好ましい下限は0.005%であり、V含有量の好ましい下限は0.005%である。
【0075】
Cr:0〜1%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、CrはMnと同様に、焼入れ性を高めて鋼の強度を高め、鋼の靭性も高める。Crが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、Cr236に代表されるCr系合金炭化物が析出する。Cr系合金炭化物が結晶粒界に析出した場合、プレス成形性が低下する。したがって、Cr含有量は0〜1%である。上記効果をさらに有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.005%である。
【0076】
W:0〜0.5%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Wは、析出硬化又は固溶強化により鋼の強度を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、W含有量が高すぎれば、上記効果が飽和して、製造コストが高くなる。したがって、W含有量は0〜0.5%である。上記効果をさらに有効に得るためのW含有量の好ましい下限は0.01%である。
【0077】
本実施形態による熱延鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Mg、Ca、及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼の加工性を高める。
【0078】
Mg:0〜0.005%、
Ca:0〜0.005%、
希土類元素:0〜0.1%、
マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)及び希土類元素(REM)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、非金属介在物の形態を制御する。非金属介在物は破壊の起点となり、鋼の加工性を低下する。したがって、非金属介在物の形態が制御されれば、鋼の加工性が高まる。これらの元素が少しでも含有されれば、上記効果が得られる。しかしながら、これらの元素含有量が高すぎれば、上記効果が飽和して、さらに、製造コストが高くなる。したがって、Mg含有量は0〜0.005%であり、Ca含有量は0〜0.005%であり、REM含有量は0〜0.1%である。上記効果をさらに有効に得るためのMg含有量の好ましい下限、Ca含有量の好ましい下限、及び、REM含有量の好ましい下限はいずれも、0.0005%である。
【0079】
本明細書でいうREMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計含有量を意味する。REMは、ミッシュメタルとして添加され、La、Ce等の元素を複合で含有することが多い。REMとして、金属La、Ce等をを添加してもよい。
【0080】
本実施形態の熱延鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Bを含有してもよい。
【0081】
B:0〜0.005%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Bは鋼の焼き入れ性を高め、硬質相である低温変態生成相の組織分率を増加させる。Bが少しでも含有されれば、上記効果が有効に得られる。しかしながら、B含有量が高すぎれば、その効果が飽和して、さらに、製造コストが高くなる。したがって、B含有量は0〜0.005%である。上記効果をさらに有効に得るためのB含有量の好ましい下限は0.0002%である。連続鋳造後の冷却工程において、スラブ割れの発生を抑制するためのB含有量の好ましい上限は、0.0015%である。
【0082】
本実施形態の熱延鋼板はさらに、Feの一部に代えて、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
【0083】
Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上:合計で0〜0.05%
ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)はいずれも、任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素は、固溶強化又は析出強化により鋼の強度を高める。これらの元素はさらに、硫化物及び酸化物の形状を制御して、鋼の靭性を高める。これらの元素が少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、これらの元素の合計含有量が高すぎれば、鋼の延性が低下する。したがって、Zr、Sn、Co及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の合計含有量は0〜0.05%である。これらの元素の合計含有量の好ましい下限は0.005%である。Snを含有する場合、Sn含有量が高すぎれば、熱間圧延時に鋼に疵が発生しやすい。したがって、Sn含有量の好ましい上限は0.03%である。
【0084】
[ミクロ組織]
本実施形態の熱延鋼板のミクロ組織は、面積率で20%以上のベイナイトを含有し、残部は主としてフェライトである。ここで、残部が主としてフェライトとは、面積率で残部の半分(50%)以上がフェライトからなることを意味する。残部は、フェライトの他、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライト等を含有してもよい。好ましくは、ミクロ組織中のマルテンサイトの面積率は5%以下であり、残留オーステナイトの面積率は2%以下であり、パーライトの面積率は2%以下である。この場合、局部延性が高まり、伸びフランジ成形性が高まる。
【0085】
ミクロ組織中のベイナイトの面積率が20%未満であれば、析出強化により高強度化されたフェライトの面積率が高すぎるため、鋼の冷間成形性が低下する。具体的には、ベイナイト面積率が20%未満の熱延鋼板を用いてテーラードロールドブランクを製造した場合、冷間圧延中に鋼板の強度が過度に上昇し、圧延反力が上昇する。この場合、テーラードロールドブランクの寸法精度(板厚精度及び板幅精度)が低下して、冷間成形性が低下する。
【0086】
ベイナイト面積率が20%未満であればさらに、熱延鋼板において過時効状態となる場合がある。この場合、熱延鋼板の強度が低下する。そのため、冷間成形性は維持される。しかしながら、冷間圧延後の熱処理時に析出硬化による鋼板の強度改善は得られない。したがって、熱延鋼板のミクロ組織では、ベイナイト面積率が20%以上であり、残部が主としてフェライトである。
【0087】
本実施形態では、熱延鋼板中のTiを固溶又はクラスタとするために、後述のとおり、巻取り温度CTを600℃以下とする。この巻取り温度CTは、上述の化学組成におけるベイナイト変態温度と近接する。そのため、本実施形態の熱延鋼板のミクロ組織は、多くのベイナイトを含有するとともに、ベイナイト変態時に導入される転位(変態転位)を多数含む。変態転位は、Ti炭窒化物の核生成サイトとなる。そのため、析出硬化熱処理により、さらに大きな析出硬化を得ることができる。
【0088】
ベイナイトの面積率は、熱間圧延中の冷却履歴を制御することにより、調整可能である。ベイナイトの面積率の好ましい下限は、70%超である。この場合、析出硬化によりテーラードロールドブランクの強度をさらに高めることができ、かつ、ミクロ組織中において、冷間成形性の低い粗大なセメンタイトが減少する。そのため、冷間成形性が高まる。ベイナイトの面積率の好ましい上限は90%である。
【0089】
上述のミクロ組織中の残部のフェライトとは、ポリゴナルフェライト(PF)を意味する。より具体的には、ポリゴナルフェライトは、ナイタール試薬を用いたエッチングにより内部構造が現出せず、さらに、対象とする結晶粒の周囲長さをlq、その円相当径をdqとした場合、lq/dq<3.5を満たす粒である。
【0090】
[各相の面積率の測定方法]
上述のミクロ組織中の各相の面積率は、次の方法で測定される。熱延鋼板から試料を採取する。試料の表面のうち、圧延方向に対して平行な板厚断面を観察面する。観察面を研磨した後、ナイタールでエッチングする。光学顕微鏡を用いて、エッチング後の観察面のうち、板厚の1/4深さの位置において、300μm×300μmの視野を撮影して組織写真を生成する。得られた組織写真に対して画像解析を実施して、フェライト(ポリゴナルフェライト)の面積率と、パーライトの面積率と、ベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率とをそれぞれ求める。
【0091】
さらに、熱延鋼板から別の試料を採取する。試料の表面のうち、圧延方向に対して平行な板厚断面を観察面とする。観察面を研磨した後、レペラ腐食を行う。光学顕微鏡を用いて、腐食後の観察面のうち、表面から板厚の1/4深さの位置において、300×300μmの視野を撮影して組織写真を生成する。得られた組織写真に対して画像処理を実施して、残留オーステナイト及びマルテンサイトの合計面積率を求める。
【0092】
さらに、圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削した別の試料を準備する。試料表面のうち、面削された表面に対してX線回折測定を実施して、残留オーステナイトの体積率を求める。残留オーステナイトの体積率は残留オーステナイトの面積率と同等であるため、得られた残留オーステナイトの体積率を、残留オーステナイトの面積率と定義する。
【0093】
上述の方法により得られたベイナイト及びマルテンサイトの合計面積率と、残留オーステナイト及びマルテンサイトの合計面積率と、残留オーステナイトの面積率に基づいて、ベイナイトの面積率と、マルテンサイトの面積率とを求める。
【0094】
以上の方法により、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、パーライトそれぞれの面積率を求めることができる。
【0095】
[熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0及び焼付硬化量(BH量)]
熱延鋼板中において、Tiは固溶している、又はクラスタであるのが好ましい。要するに、熱延鋼板中のTi炭窒化物はなるべく少ない方が好ましい。粒径が10nm超のTi炭窒化物(以下、粗大Ti炭窒化物という)は、熱延鋼板の強化に寄与しない。一方、粒径が10nm以下のTi炭窒化物(以下、微細Ti炭窒化物という)が多数析出していれば、熱延鋼板の強度が高くなりすぎる。この場合、熱延鋼板に対する冷間圧延時において、圧延反力が過剰に高くなる。
【0096】
さらに、熱延鋼板に粗大Ti炭窒化物及び微細Ti炭窒化物が生成している場合、冷間圧延後の鋼板(冷延鋼板)に対して析出硬化熱処理を実施しても、Ti炭窒化物が生成しにくく、析出硬化が得られない。したがって、熱延鋼板において、微細Ti炭窒化物及び粗大Ti炭窒化物の個数は少ない方が好ましく、Tiは固溶又はクラスタ状態であるのが好ましい。
【0097】
熱延鋼板内の微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3以下であり、かつ、焼付硬化量(BH量)が15MPa以上である場合、熱延鋼板中にTiが十分に固溶しているか、クラスタ状のTi炭窒化物として存在する。この場合、熱延鋼板において析出硬化は発現せず、破断伸びが高まる。そのため、冷間圧延時の圧延反力を低く抑えることができ、冷間成形性が高まる。さらに、圧延反力の低下により、鋼板に多くの転位が導入される。導入された転位は、冷間圧延後の析出硬化熱処理においてTi炭窒化物の析出サイトとなる。そのため、多数の微細なTi炭窒化物が析出し、テーラードロールドブランクの強度を高めて590MPa以上にすることができる。さらに、析出硬化熱処理において、転位の回復が起こり、転位密度が減少する。これにより、テーラードロールドブランクの延性が高まる。したがって、熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0は、1.0×1017個/cm3以下であり、かつ、BH量は15MPa以上である。
【0098】
[微細Ti炭窒化物の数密度n0の測定方法]
微細Ti炭窒化物の数密度n0の測定方法には次のとおりである。熱延鋼板から、切断及び電解研磨法により針状試料を作製する。このとき、必要に応じて電解研磨法とあわせて集束イオンビーム加工法を活用してもよい。この針状試料から、三次元アトムプローブ測定法により複合炭窒化物の立体分布像を取得する。
【0099】
三次元アトムプローブ測定法によれば、積算されたデータを再構築して実空間での実際の原子の立体分布像を取得することができる。Ti炭窒化物の粒径の測定では、観察対象の析出物の構成原子数及びその格子定数から、当該析出物を球体とみなしたときの直径を求め、求めた直径をTi炭窒化物の粒径と定義する。
【0100】
本明細書において、Ti炭窒化物のうち、粒径が0.5〜10nmのものを、微細Ti炭窒化物と定義する。粒径が0.5nm未満の場合、粒径がTi炭窒化物の格子定数よりも小さいため、析出物とみなすことができない。微細Ti炭窒化物の個数に基づいて、数密度n0(個/cm3)を求める。
【0101】
[焼付硬化量(BH量)の測定方法]
BH量は、固溶C量を示す指標である。粗大Ti炭窒化物が多数析出している場合、熱延鋼板でのBH量が低い。この場合、冷延後の析出硬化熱処理で十分な炭窒化物の析出が得られない。熱延鋼板においてBH量が15MPa以上であれば、熱延鋼板中の粗大なTi炭窒化物が十分に抑制されているため、析出硬化熱処理後に鋼板が十分に硬化する。好ましいBH量は25MPa以上であり、さらに好ましくは、30MPa以上である。
【0102】
BH量の測定方法は次のとおりである。熱延鋼板から、圧延幅方向を長手としたJIS5号引張試験片を採取する。この引張試験片に対して引張試験を実施して、4%の引張予ひずみを付与する。4%引張ひずみを付与した後、一旦除荷する。除荷された引張試験片に対して、180℃で20分の熱処理を実施する。熱処理後、この引張試験片に対して、再度引張試験を実施する。BH量は、熱処理後の引張試験時における変形応力の上昇代であり、次式で求められる。
BH量(MPa)=UYa(MPa)−FSb(MPa)
ここで、UYaは熱処理後再引張時の上降伏点(MPa)であり、FSbは4%予ひずみ付与時の最大変形応力(MPa)である。
【0103】
[結晶方位]
本実施形態の熱延鋼板において、表面から板厚の3/8深さ〜板厚の5/8深さの範囲を、熱延鋼板の「内部」と定義する。熱延鋼板の内部のうち、表面から板厚の1/2深さ位置(中央部)での結晶方位測定の結果を、内部の結晶方位と定義する。一方、表面から板厚の1/4深さまでの範囲を熱延鋼板の「表層」と定義する。そして、「表層」の中央位置、すなわち、表面から1/8深さ位置での結晶方位測定結果を、表層の結晶方位と定義する。内部及び表層において、結晶方位は次の条件を満たす。
【0104】
[内部の結晶方位]
内部において、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>及び{223}<110>の結晶方位からなる結晶方位群(以下、{100}<011>〜{223}<110>方位群という)の極密度D1の平均値は4以下であり、かつ、{332}<113>結晶方位の極密度D2は4.8以下である。
【0105】
要するに、熱延鋼板の内部においては、結晶方位をなるべくランダムにして、面内異方性を低減する。{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の平均値が4以下であり、かつ、{332}<113>結晶方位の極密度D2が4.8以下である場合、引張強度及び破断伸びの面内異方性が低減する。具体的には、引張強度及び破断伸びの面内異方性の指標である|Δr|値が0.6未満となる。この場合、面内異方性が小さいため、冷間圧延後の中間品の寸法精度(板厚精度及び板幅精度)が高まり、優れた冷間成形性が得られる。
【0106】
{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の平均値が4を超える、又は、{332}<113>結晶方位の極密度D2が4.8を超える場合、|Δr|値が0.6以上となり、面内異方性が大きくなりすぎる。この場合、冷間成形性が低下する。{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の好ましい平均値の上限は3.5である。さらに好ましい上限は3.0である。{332}<113>結晶方位の極密度D2の好ましい上限は4.0である。さらに好ましい上限は3.0である。
【0107】
[表層の結晶方位]
一方、表層において、{110}<001>結晶方位の極密度D3は2.5以上である。要するに、内部では結晶方位をなるべくランダムにするのに対して、表層では、特定の結晶方位である{110}<001>結晶方位の占める割合をなるべく高める。
【0108】
bcc金属の塑性変形(圧延変形)において、{110}<001>結晶方位の結晶粒は、活動すべり系が少なく加工硬化しにくい方位である。テーラードロールドブランクの製造では、冷間圧延時に部分的に圧下率を変えて、鋼板に厚肉部と薄肉部とを製造する。したがって、厚肉部と薄肉部とでは、冷間圧延での圧下率が異なる。圧下率が異なれば、導入されるひずみ量も異なる。そのため、厚肉部と薄肉部とで加工硬化に差が生じて、硬さに差が生じる。厚肉部と薄肉部の表層部では特に、硬さの差が生じやすい。部位により異なる硬さを有する場合、テーラードロールドブランクの冷間成形性は低下する。したがって、硬度差はなるべく小さくする方が好ましい。
【0109】
上述のとおり、{110}<001>結晶方位の結晶粒は、加工硬化しにくい。さらに、後述のとおり、本実施形態では、冷間圧延率は5超〜50%である。この場合、冷間圧延後においても、表層に{110}<001>結晶方位が残る。そのため、熱延鋼板の表層において、{110}<001>結晶方位の極密度が高ければ、具体的には、{110}<001>結晶方位の極密度D3が2.5以上であれば、テーラードロールドブランクの厚肉部及び薄肉部の硬度差を低減でき、硬さのばらつきを抑えることができる。その結果、テーラードロールドブランクの冷間成形性が高まる。
【0110】
{110}<001>結晶方位の極密度D3が2.5未満であれば、テーラードロールドブランクの厚肉部及び薄肉部の硬度差が大きくなる。{110}<001>結晶方位の極密度の好ましい下限は3.0であり、さらに好ましくは4.0である。
【0111】
極密度とは、一般的には特定の方位への集積を持たない標準試料に対して、供試材の集積度が何倍になっているかを示す値である。本発明形態においては、下記で示す極密度はEBSP(電子後方散乱パターン:Electron Back Scattering Pattern)法で測定された値を使用する。
【0112】
EBSPでの極密度の測定は以下のとおり行う。熱延鋼板の圧延方向に対して平行な断面を観察面とする。観察面のうち、鋼板表面から板厚tの1/8深さ位置(t/8)を中心として、圧延方向に1000μm、圧延面法線方向に100μmの矩形領域を表層領域と定義する。同様に、鋼板表面から板厚tの1/2深さ位置(t/2)を中心として、圧延方向に1000μm、圧延面法線方向に100μmの矩形領域を内部領域と定義する。表層領域及び内部領域に対して、1μmの測定間隔でEBSD解析を実施して結晶方位情報を取得する。
【0113】
EBSD解析は、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM−7001F)とEBSD検出器(TSL製HIKARI検出器)で構成された装置を用い、200〜300点/秒の解析速度で実施する。測定された結晶方位情報はEBSD解析ソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」を用いて、ODF(Orientation Distribution Function)を算出する。これにより、各結晶方位の極密度を求めることができる。
【0114】
図1Aは、ODF(Orientation Distribution Function)において、角度変数φ1、φ2及びΦを直交座標とするオイラー空間の模式図であり、図1Bは、図1Aのオイラー空間においてφ2=45°断面上の主な結晶方位の位置を示す図である。方位は、通常、板面に垂直な結晶方位を(hkl)又は{hkl}で表示し、圧延方向に平行な結晶方位を[uvw]又は<uvw>で表示する。{hkl}と<uvw>は等価な面と方位の総称であり、(hkl)と[uvw]は個々の結晶面を示す。
【0115】
本実施形態の熱延鋼板の結晶構造は、体心立方構造(bcc構造)である。そのため、たとえば、(111)、(−111)、(1−11)、(11−1)、(−1−11)、(−11−1)、(1−1−1)、(−1−1−1)は等価であり、区別がつかない。これらの方位を総称して{111}と表示する。
【0116】
なお、ODFは、対称性の低い結晶構造の結晶方位の表示にも用いられる。一般に、φ1=0〜360°、Φ=0〜180°、φ2=0〜360°で表示され、個々の結晶方位が(hkl)[uvw]で表示される。しかしながら、本実施形態の熱延鋼板の結晶構造は、対称性の高い体心立方構造である。したがって、Φとφ2とは0〜90°で表示できる。
【0117】
φ1は、計算を行う際、変形による対称性を考慮するか否かで変化する。本実施形態においては、対称性(orthotropic)を考慮した計算を実施し、φ1=0〜90°で表示する。すなわち、本実施形態による熱延鋼板では、φ1=0〜360°での同一方位の平均値を、0〜90°のODF上に表示する方式を選択する。この場合、(hkl)[uvw]と{hkl}<uvw>とは同義である。したがって、例えば、図1に示す、φ2=45°断面におけるODFの(001)[1−10]方位のランダム強度比は、{001}<120>方位の極密度と同義である。
【0118】
[テーラードロールドブランク用熱延鋼板の製造方法]
上述のテーラードロールドブランク用熱延鋼板の製造方法の一例を説明する。本実施形態によるテーラードロールドブランク用熱延鋼板の製造方法は、鋳造工程と、熱間圧延工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0119】
[鋳造工程]
高炉、転炉、電炉等による溶製工程により溶鋼を製造し、各種の2次精練工程で溶鋼が上述の化学組成及び式(1)を満たすように調整する。製造された溶鋼を用いて、通常の連続鋳造法、インゴット法、又は薄スラブ鋳造法等により、スラブを製造する。なお、溶鋼の原料にはスクラップを使用してもよい。連続鋳造によってスラブを得た場合には、高温のスラブのまま熱間圧延機に直送してもよいし、スラブを室温まで冷却した後、加熱炉にて再加熱して熱間圧延を実施してもよい。
【0120】
[熱間圧延工程]
製造されたスラブを用いて熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。熱間圧延工程は、加熱工程(S1)、粗圧延工程(S2)、仕上げ圧延工程(S3)、冷却工程(S4)及び巻取り工程(S5)を備える。
【0121】
本実施形態の熱延鋼板では、Ti炭窒化物の析出をできるだけ抑制し、Tiを固溶させる、又は、Ti炭窒化物をクラスタ状態とする。さらに、内部の{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1と、{332}<113>の結晶方位の極密度D2とを下げ、表層の{110}<001>結晶方位の極密度D3を上げる。これにより、熱延鋼板の内面異方性を小さくし、熱延鋼板の冷間成形性を高める。さらに、テーラードロールドブランクの厚肉部と薄肉部との硬度差を小さくして、テーラードロールドブランクの冷間成形性も高める。以下、各工程について詳述する。
【0122】
[加熱工程(S1)]
初めに、スラブを、加熱炉にて加熱する(加熱工程)。加熱工程での各条件は次のとおりである。
【0123】
加熱温度TS1:式(2)で定義される温度SRTmin(℃)以上
式(2)で定義される加熱温度SRTmin(℃)以上の加熱温度TS1でスラブを加熱する。
SRTmin=10780/{5.13−log([Ti]×[C])}−273 (2)
式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量が代入される。
【0124】
加熱温度TS1がSRTmin未満であれば、スラブ中の粗大なTi炭窒化物が十分に溶解しない。この場合、熱延鋼板内に粗大Ti炭窒化物が多く残存し、その結果、BH量は低下する。そのため、熱延鋼板の強度が低下する。さらに、析出硬化熱処理による析出硬化の効果が十分に得られない。加熱温度がSRTmin以上であれば、冷間圧延時の成形性が十分に得られ、かつ、析出硬化によりテーラードロールドブランクの引張強度が高まる。操業効率をさらに高めるための加熱温度の好ましい下限は1100℃である。
【0125】
温度SRTmin以上での加熱時間tS1:30分以上
加熱温度がSRTmin以上となった後の加熱時間tS1は30分以上である。この場合、Ti炭窒化物を十分に溶解することができる。好ましい加熱時間tS1は60分以上である。この場合、スラブの厚み方向に十分に均等に加熱できる。好ましい加熱時間tS1は240分以下である。この場合、スケールが過剰に生成するのを抑制でき、歩留まりの低下を抑制できる。
【0126】
なお、鋳造後のスラブを再加熱せずに、そのまま後述の粗圧延機に直送して粗圧延を実施してもよい。
【0127】
[粗圧延工程(S2)]
加熱炉から抽出されたスラブに対して速やかに粗圧延を実施して粗バーを製造する。粗圧延での条件は次のとおりである。
【0128】
特定圧延を実施するパス数SPN:1以上
粗圧延において、スラブの温度が1050〜1150℃の範囲で、圧下率20%以上の圧延を特定圧延と定義する。粗圧延では、特定圧延を1回(1パス)以上実施する。つまり、特定圧延を実施するパス数(特定パス数)SPNは1以上である。
【0129】
粗圧延でのスラブ温度が1050℃未満であれば、スラブの変形抵抗が過剰に高くなるため、粗圧延機に過剰な負荷が掛かる。一方、粗圧延でのスラブ温度が1150℃を超えれば、粗圧延中に生成される二次スケールが成長しすぎて、粗圧延後に実施するデスケーリングでスケールを十分に除去できない可能性がある。さらに、1パスでの圧下率が低すぎれば、オーステナイトの加工、それに続く再結晶を活用した結晶粒の細粒化及び凝固組織に起因する析出元素の偏析の解消が不十分となる。この場合、仕上げ圧延工程以降の工程において、Ti炭窒化物が粗大に析出しやすい。そのため、冷間圧延で製造された中間品に対して析出硬化熱処理を行っても、析出硬化が不均質になり、成形性が低下する。したがって、特定パス数SPNを1回以上とする。
【0130】
なお、鋳造後のスラブを加熱することなく高温のまま直送して粗圧延を実施した場合、鋳造組織が残留し、テーラードロールドブランクに対する析出硬化熱処理での析出硬化が不均質となり、冷間成形性が低下する場合がある。したがって、好ましくは、スラブを上記加熱工程(S1)で加熱する。
【0131】
粗圧延の総パス数TPN:2以上
粗圧延は、2パス(複数回)以上実施する。つまり、粗圧延での総パス数TPNは2以上である。複数回粗圧延を実施すれば、オーステナイトでの加工と再結晶が繰り返され、仕上げ圧延前のオーステナイト粒の平均粒径を100μm以下にすることができる。この場合、析出硬化熱処理において、均質な析出硬化を安定的に達成できる。相パス数TPNが多すぎれば、生産性が低下する。さらに、粗バーの温度が過剰に低くなる。したがって、好ましい総パス数TPNの上限は11である。
【0132】
総圧下率RS2:60〜90%
複数パスの粗圧延を実施する場合、粗圧延での総圧下率RS2は、60〜90%である。総圧下率RS2が60%未満であれば、鋼板中のオーステナイト粒径及び偏析の不均一が十分に解消されず、粗大なTi炭窒化物が多数析出する。その結果、熱延鋼板の強度が低下し、BH量も低下する。一方、総圧下率RS2が90%を超えれば、その効果が飽和する。さらに、総圧下率RS2の増加によりパス数が増加するため、生産性が低下し、かつ、粗バーの温度も低下する。
【0133】
[仕上げ圧延工程(S3)]
粗圧延により製造された粗バーに対して、仕上げ圧延を実施する。仕上げ圧延における各条件は次のとおりである。
【0134】
粗圧延終了後から仕上げ圧延開始までの時間tS3:150秒以内
粗圧延終了から仕上げ圧延開始までの時間tS3は150秒以内である。時間tS3が150秒を超えると、粗バーにおいて、オーステナイト中に固溶したTiが粗大なTi炭窒化物として析出し、BH量が15MPa未満となる。この場合、析出硬化熱処理後に析出硬化に寄与するTi炭窒化物量が低下するため、テーラードロールドブランクの引張強度が590MPa未満になる。
【0135】
時間tS3が150秒を超えればさらに、仕上げ圧延前にオーステナイトの粒成長が進行し、仕上げ圧延前のオーステナイト粒の平均粒径が100μm超と粗大化する。その結果、析出硬化熱処理での析出硬化の均質性が低下する。
【0136】
時間tS3の下限は特に限定されない。しかしながら、時間tS3の好ましい下限は30秒である。仕上げ圧延の圧延開始温度は後述のとおり、1080℃未満である。時間tS3が短すぎれば、仕上げ圧延の開始温度を1080℃未満にするために、粗圧延機と仕上げ圧延機との間に冷却装置を配置しなければならない。時間tS3が30秒以上であれば、冷却装置を設置しなくても、空冷により、粗バーの温度が1080℃未満になる。
【0137】
仕上げ圧延開始温度TS3:1000℃〜1080℃未満
仕上げ圧延開始時の粗バーの温度(仕上げ圧延開始温度TS3)は1000℃〜1080℃未満である。温度TS3が1000℃未満であれば、仕上げ圧延時に加工誘起析出により、オーステナイト中のTiが粗大なTi炭窒化物として析出し、BH量が低下する。そのため、析出硬化熱処理で析出するTi炭窒化物量が減少する。一方、温度TS3が1080℃よりも高ければ、仕上げ圧延前及び、仕上げ圧延機の各圧延スタンド間(パス間)で、鋼板の地鉄の表面スケールの間にブリスタが発生する。ブリスタは、ウロコ、紡錘スケール欠陥の起点となる。そのため、これらのスケール欠陥が生成し易くなる。
【0138】
仕上げ圧延終了温度FT:Ar3変態点温度〜1000℃
仕上げ圧延終了温度FTは、Ar3変態点温度〜1000℃である。温度FTがAr3変態点温度未満の場合、ベイナイトが生成しにくく、熱延鋼板中のベイナイトの面積率が20%未満となる。そのため、熱延鋼板の成形性が低下するだけでなく、熱延鋼板において、集合組織の異方性が増加する。さらに、粗大Ti炭窒化物が増加し、その結果、BH量が低下する。一方、温度FTが1000℃を超えると、仕上げ圧延後の冷却中において、微細Ti炭窒化物の析出が進行し、熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3を超える。その結果、析出硬化熱処理での微細Ti炭窒化物の析出量が不十分となり、冷間圧延時の冷間成形性が低下する。
【0139】
Ar3変態点温度はたとえば、次の式(I)で定義される。
Ar3=910−310×[C]+25×{[Si]+2×[Al]}−80×[Mneq] (I)
式(3)中の各元素記号は、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。[Mneq]は、ボロン(B)を含有しない場合は式(II)で定義され、Bを含有する場合は式(III)で定義される。
[Mneq]=[Mn]+[Cr]+[Cu]+[Mo]+[Ni]/2+10([Nb]−0.02) (II)
[Mneq]=[Mn]+[Cr]+[Cu]+[Mo]+[Ni]/2+10([Nb]−0.02)+1 (III)
【0140】
仕上げ圧延の総圧下率RS3:75〜95%
仕上げ圧延は、たとえば、タンデム圧延機による複数パスの圧延で行う。仕上げ圧延時の総圧下率RS3は75〜95%である。仕上げ圧延では、圧延パス間では再結晶化するが、圧延時は再結晶化しない。このため、複数パスの圧延を行えば、再結晶化と未再結晶とが繰り返し行われる。この場合、オーステナイト粒が細粒化し、ミクロ組織におけるベイナイトを島状に分散できる。その結果、熱延鋼板の成形性の低下を抑制できる。
【0141】
しかしながら、総圧下率RS3が75%未満であれば、オーステナイト粒を十分に細粒化できず不均一となり、ミクロ組織におけるベイナイトが列状に連結的に配列する。さらに、粗大Ti炭窒化物が多数析出して、BH量が低下する。この場合、熱延鋼板の冷間成形性が低下する。一方、総圧下率RS3が95%を超えれば、上述の効果が飽和するだけでなく、圧延機に過度な荷重が負荷される。したがって、総圧下率RS3は75〜95%である。
【0142】
好ましくは、各パスでの圧下率は10%以上である。圧延パス間及び仕上げ圧延終了後に、結晶粒の成長が過剰に進行した場合、熱延鋼板の靭性が低下する場合がある。したがって、好ましくは、仕上げ圧延機の最終の3パスにおける平均圧下率は10%以上である。
【0143】
最終2パスの合計圧下率RF2:30%以上
最終2パスの合計圧下率RF2は30%以上である。合計圧下率RF2が30%以上であり、かつ、仕上げ圧延終了温度FTがAr3変態点以上であれば、オーステナイトの再結晶を促進でき、結晶方位の回転がリセットされる。そのため、熱延鋼板内部において、{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1の平均が4以下となり、{332}<113>の極密度D2が4.8以下になる。この場合、熱延鋼板の|Δr|が0.6以下となり、面内異方性が小さくなる。一方、合計圧下率RF2が30%未満であれば、オーステナイトの再結晶が不十分となり、その結果、熱延鋼板の|Δr|が0.6を超える。
【0144】
好ましくは、合計圧下率RF2が30%以上であり、かつ、仕上げ圧延終了温度FTがAr3変態点温度+50℃以上である。この場合、オーステナイトでの再結晶がさらに促進される。
【0145】
形状比SR:3.5以上
形状比SRは次の式(3)で定義される。
形状比SR=ld/hm (3)
ここで、ldは仕上げ圧延のうち、最終の圧下を行う圧延ロール(最終ロール)と鋼板との接触弧長であり、次の式で定義される。
ld=√(L×(hin−hout)/2)
ここで、L(mm)は、上記圧延ロールの直径である。hinは、上記圧延ロール入側での鋼板の板厚(mm)である。houtは、上記圧延ロール出側での鋼板の板厚(mm)である。
hmは次の式で定義される。
hm=(hin+hout)/2
【0146】
形状比SRが3.5以上であれば、熱間圧延中の鋼板の表層に十分なせん断ひずみを付与することができる。この場合、熱延鋼板の表層の{110}<001>結晶方位の極密度D3を2.5以上にすることができ、テーラードロールドブランクでの厚肉部と薄肉部との硬度差を十分に低減できる。
【0147】
仕上げ最終パスでの好ましい圧延速度FV:400mpm以上
仕上げ圧延での圧延速度は特に限定されない。しかしながら、仕上げ圧延の各パス間での時間が長すぎれば、鋼板中のオーステナイト粒が粗大化して、熱延鋼板の靭性が低下する場合がある。したがって、仕上げ最終パスでの圧延速度FVは、好ましくは、400mpm以上である。圧延速度FVのさらに好ましい下限は、650mpmである。この場合、ベイナイトが島状に分散するため、熱延鋼板の成形性がさらに高まる。圧延速度FVの上限は特に限定されない。しかしながら、設備制約により、圧延速度FVの上限はたとえば、1800mpmである。
【0148】
[冷却工程(S4)]
仕上げ圧延終了後は熱延鋼板のミクロ組織を作り込むために、ランナウトテーブルの制御により最適化された冷却を行う(冷却工程)。熱間圧延工程(粗圧延及び仕上げ圧延)では、鋼板のミクロ組織はオーステナイトである。したがって、熱間圧延工程では、加工誘起析出による粗大なTi炭窒化物の析出を抑制する。一方、熱間圧延工程後の冷却工程及び巻取り工程では、鋼板のミクロ組織がオーステナイトからフェライトに変態する。したがって、これらの工程では、フェライト内でTi炭窒化物の析出を抑制できるよう、熱延鋼板の温度履歴を調整する。具体的には、冷却工程での各条件は次のとおりである。
【0149】
仕上げ圧延終了後、冷却を開始するまでの時間tS4:3秒以内
仕上げ圧延終了後、冷却を開始するまでの時間tS4は3秒以内である。時間tS4が3秒を超えれば、変態前のオーステナイトにおいて、粗大Ti炭窒化物の析出が進行し、結果固溶C量が低減しBH量が低下する。この場合、熱延鋼板の引張強度が低下し、テーラードロールドブランクの引張強度が低下する。時間tS4が3秒を超えればさらに、熱延鋼板中のオーステナイト粒が粗大化して、ミクロ組織におけるベイナイトが列状に連結的に配列する。この場合、熱延鋼板の成形性が低下する。したがって、時間tS4は3秒以内である。
【0150】
時間tS4の下限は特に制限されない。しかしながら、時間tS4が短すぎれば、圧延による層状の加工組織が残留したまま冷却され、列状に連結的に配列したベイナイトが得られる。この場合、熱延鋼板の成形性が低下する場合がある。そのため、時間tS4の好ましい下限は0.4秒である。
【0151】
平均冷却速度CR:15℃/秒以上
冷却停止温度までの平均冷却速度CRは15℃/秒以上である。平均冷却速度CRが15℃/秒未満であれば、冷却中にパーライトが生成し、目的とするミクロ組織が得られない。平均冷却速度CRが遅すぎればさらに、微細Ti炭窒化物が多数析出して、微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3を超える。一方、平均冷却速度CRが速すぎれば、冷却停止温度を制御しにくくなり、目的とするミクロ組織が得られにくい。そのため、平均冷却速度CRの好ましい上限は150℃/秒である。
【0152】
冷却停止温度TS4:600℃以下
冷却停止温度TS4は600℃以下である。冷却停止温度TS4が600℃を超えれば、巻取り後に、変態後のフェライトにおいてTi炭窒化物の析出が進行しやすく、熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3を超えるとともに、BH量も低下する。その結果、析出硬化熱処理により析出するTi炭窒化物の量が減少し、テーラードロールドブランクの引張強度が低下する。冷却停止温度TS4が600℃以下であれば、熱延鋼板のミクロ組織において、ベイナイトの面積率が20%以上となり、残部は主としてフェライトからなる。さらに、熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3以下となり、熱延鋼板中のTiが固溶又はクラスタ状となる。
【0153】
冷却停止温度TS4の好ましい上限は550℃である。この場合、熱延鋼板のミクロ組織において、ベイナイトの面積率がさらに高まる。
【0154】
冷却停止温度TS4が低すぎれば、コイルが長時間水濡れの状態で維持されるため、表面性状が低下する。したがって、冷却停止温度TS4の好ましい下限は50℃である。冷間圧延での圧延反力を低減するために、冷却停止温度TS4のさらに好ましい下限は450℃である。
【0155】
鋼板温度がAr3変態温度を通過後巻取り開始までの時間での総累積拡散距離Ltotal:0.15μm以下
熱延鋼板でのTi炭窒化物の析出量を抑制するためにさらに、鋼板の温度がAr3変態温度となってから巻取りを開始するまでの時間(つまり、フェライトが生成される時間)でTiが拡散する距離(総累積拡散距離Ltotal)を制限する。
【0156】
Tiのフェライト中の拡散距離をL、温度T℃における体拡散係数をD(T+273)、拡散時間をtとする。このとき、拡散距離Lは次式で定義される。
L=√(D(T)×t) (IV)
【0157】
式(IV)中のD(T)は、Tiの拡散係数D0、活性化エネルギQ、及び、気体定数Rを用いて、式(4)で定義される。
D(T)=D0×Exp{−Q/R(T+273)}
【0158】
Tiのフェライト中の総累積拡散距離Ltotalは、鋼板の温度がAr3変態温度となってから巻取りを開始するまでの時間における、微小時間ΔtL(秒)での拡散距離Lの累積である。本明細書において、上記微小時間ΔtLは0.2秒である。したがって、総累積拡散距離Ltotalは式(4)で定義される。
【0159】
total=Σ√(D(T)×ΔtL) (4)
式(4)で求められるTiのフェライト中の総累積拡散距離Ltotalが0.15μmを超えれば、冷却中にTi炭窒化物の析出が促進される。この場合、析出硬化熱処理によるTi炭窒化物の析出量が減少するため、テーラードロールドブランクの引張強度が低下する。したがって、総累積拡散距離Ltotalは0.15μmである。
【0160】
[巻取り工程(S5)]
冷却停止後、熱延鋼板を巻取る。熱延鋼板の巻取り開始時の温度(巻取り温度)CTは600℃以下である。巻取り温度が600℃を超えれば、巻取り中にTi炭窒化物の析出が促進され、熱延鋼板中の微細Ti炭窒化物の数密度n0が1.0×1017個/cm3を超え、BH量も低下する。したがって、巻取り温度CTは600℃以下である。巻取り温度CTの好ましい上限は500℃である。
【0161】
以上の工程により、本実施形態の熱延鋼板が製造される。
【0162】
[その他の工程]
熱延鋼板の形状の矯正を目的として、上述の全工程終了後に、圧下率0.1〜5%のスキンパス圧延を実施してもよい。
【0163】
また、熱延鋼板の表面に付着したスケールを除去する工程を実施してもよい。スケールを除去する工程では、塩酸又は硫酸を使用した一般的な酸洗を実施してもよいし、サンダー等による表面研削を実施してもよい。プラズマ、ガスバーナー等を利用した表面溶削を実施してもよい。これらの処理を組み合わせて実施してもよい。
【0164】
[テーラードロールドブランク]
本実施形態のテーラードロールドブランクは、圧延方向で板厚がテーパ状に変化する。テーラードロールドブランクは、板厚の厚い部分である厚肉部と、厚肉部よりも板厚が薄い薄肉部とを備える。テーラードロールドブランクは、上述の本実施形態の熱延鋼板を用いて製造される。本実施形態のテーラードロールドブランクは、次の特徴を有する。
【0165】
硬度比HR=Htmax/Htmin:1.0超〜1.5
テーラードロールドブランクは、プレス等の冷間加工により、最終製品形状に成形される。上述のとおり、テーラードロールドブランクは板厚の異なる部分(厚肉部及び薄肉部)を含む。厚肉部と薄肉部とで硬度差が大きければ、テーラードロールドブランクの冷間成形性が低下する。この場合、テーラードロールドブランクを用いた最終製品への冷間加工時に、テーラードロールドブランクの一部が破断する場合がある。
【0166】
本実施形態のテーラードロールドブランクでは、最も板厚の厚い部分(最厚肉部という)の平均硬度Htmaxの、最も板厚の薄い部分(最薄肉部という)の平均硬度Htminに対する硬度比HR(つまり、HR=Htmax/Htmin)が1.0超〜1.5である。硬度比HRが1.0以下である場合、厚肉部の硬度に対して、薄肉部の硬度が高すぎる。この場合、テーラードロールドブランクの冷間成形性が低下して、最終製品への冷間加工時に、薄肉部で破断が生じる場合がある。一方、硬度比HRが1.5を超える場合、薄肉部の硬度に対して、厚肉部の硬度が高すぎる。この場合もテーラードロールドブランクの成形性が低下する。具体的には、最薄肉部の板厚THminの、最厚肉部の板厚THmaxに対する比(THmin/THmax)を大きくして、0.6程度にしても、厚肉部で破断が生じる場合がある。したがって、硬度比HRは1.0超〜1.5である。硬度比HRの好ましい下限は1.2である。硬度比HRの好ましい上限は1.4である。
【0167】
硬度比HRは次の方法で測定される。テーラードロールドブランクの最厚肉部の板厚方向の断面において、最厚肉部の板厚中央位置と、表面から板厚の1/4深さ位置と、表面から板厚の3/4深さ位置とで、硬度を測定する。硬度は、JIS Z2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験で求める。試験力は98.07Nとする。3点での測定結果の平均を、平均硬度Htmax(HV)と定義する。同様に、最薄肉部の板厚方向の断面において、最薄肉部の板厚中央位置と、表面から板厚の1/4深さ位置と、表面から板厚の3/4深さ位置とで、硬度を測定し、その平均を、平均硬度Htmin(HV)と定義する。得られた平均硬度Htmax及びHtminを用いて、硬度比HRを求める。
【0168】
最薄肉部での平均転位密度ρ:1×1014-2以下
テーラードロールドブランクの最薄肉部は特に、優れた冷間成形性が求められる。最薄肉部の平均転位密度ρが高すぎれば、最薄肉部の冷間成形性が低下し、冷間加工により最終製品に成形するとき、最薄肉部で破断しやすい。したがって、最薄肉部での平均転位密度ρは1×1014-2以下である。好ましい平均転位密度ρは、5×1014-2である。
【0169】
最薄肉部の平均転位密度ρは、次の方法で測定される。最薄肉部の板厚方向の断面を含むサンプルを採取する。サンプルを用いて、(110)、(211)及び(220)の半価幅から、平均転位密度ρを算出する。具体的には、サンプルを用いてX線回折法(XRD)を実施して、(110)、(200)、(211)の回折ピークの半価幅をそれぞれ求める。各結晶面での半価幅に基づいて、平均転位密度ρ(m-2)を定義する。具体的には、半価幅からWillamson−Hall法(非特許文献1:G.K.Williams and W.H.Hall:Act.Metall.,1(1953),22)によって、歪みεを求める。求めた歪みεと鉄のバーガースベクトルb(b=0.25nm)に基づいて、ρ=14.4ε2/b2(非特許文献2:G.K.Williams and R.E.Smallman:Philos. Mag.,8(1956),34)により、平均転位密度ρを求める。
【0170】
微細Ti炭窒化物(Ti(C,N))の数密度n1:2×1017個/cm3
原料となる熱延鋼板ではTi炭窒化物の生成をできるだけ抑える。一方、テーラードロールドブランクでは、高い強度(引張強度で590MPa以上)が求められる。そこで、後述の析出硬化熱処理を実施することにより、テーラードロールドブランク内に微細Ti炭窒化物(10nm以下の粒径を有するTi炭窒化物)を多く生成し、強度を高める。
【0171】
本実施形態のテーラードロールドブランクにおいて、粒径が10nm以下の微細Ti炭窒化物の数密度n1は2×1017個/cm3超である。この場合、析出硬化が十分であり、テーラードロールドブランクの引張強度が590MPa以上となる。数密度n1の好ましい下限は5×1015個/cm3である。
【0172】
数密度n1は、数密度n0と同様の方法で求める。具体的には、テーラードロールドブランクの板厚中央部からサンプルを採取する。採取したサンプルを用いて、数密度n0と同じ方法で数密度n1を求める。つまり、微細Ti炭窒化物の粒径は、0.5〜10nmである。
【0173】
本実施形態のテーラードロールドブランクは、上記特徴を有する。そのため、テーラードロールドブランクは高い強度(590MPa以上の引張強度)を有し、かつ、厚肉部と薄肉部を有するにもかからわず、優れた冷間成形性を示す。
【0174】
本実施形態のテーラードロールドブランクは、表面に亜鉛めっき層が形成されていてもよいし、合金化亜鉛めっき層が形成されていてもよい。
【0175】
[テーラードロールドブランクの製造方法]
上述のテーラードロールドブランクの製造方法の一例を説明する。本テーラードロールドブランクの製造方法は、上述の熱延鋼板を用いる。本製造方法は、冷間圧延工程(S6)と、析出硬化熱処理工程(S7)とを含む。以下、各製造工程について詳述する。
【0176】
[冷間加工工程(S6)]
上述の熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して、テーラードロールドブランク形状の中間品を製造する。この冷間圧延ではたとえば、一対の圧延ロールを備える1スタンドの冷間圧延機を用いる。そして、熱延鋼板の長手方向の1又は複数箇所で、板厚がテーパ状に変化するようにロール圧下量を変更して圧延する。この場合、圧延方向に板厚が変化した中間品が製造される。
【0177】
冷間圧延での圧下率(冷延率)Rは5%超〜50%である。つまり、最厚肉部の冷延率Rminは5%超であり、最薄肉部での冷延率Rmaxは50%以下である。冷延率Rが5%以下であれば、次工程の析出硬化熱処理で微細Ti炭窒化物の析出サイトとなる転位の導入量が少ないため、微細Ti炭窒化物の析出量が少ない。この場合、テーラードロールドブランクの強度が低下する。一方、冷延率Rが50%を超えれば、冷間圧延時に転位が過剰に導入される。この場合、析出硬化熱処理で十分な回復が起こらず、析出硬化熱処理後であっても転位が多く残存する。そのため、テーラードロールドブランクの冷間成形性が低下する。冷延率Rが50%を超えればさらに、熱延鋼板の表層の{110}<001>結晶方位の結晶粒が消滅する。この場合、厚肉部と薄肉部との硬度差が大きくなり、冷間成形性が低下する。
【0178】
冷延率Rが5%超〜50%であれば、冷間圧延後であっても、表層の{110}<001>結晶方位の結晶粒が残存する。そのため、厚肉部と薄肉部との硬度差を抑えることができ、テーラードロールドブランクの冷間成形性を確保できる。さらに、テーラードロールドブランクの硬度比HRは1.0超〜1.5の範囲内となるため、優れた冷間成形性が得られる。
【0179】
[析出硬化熱処理工程(S7)]
冷間圧延により製造された中間品に対して析出硬化熱処理を実施して、テーラードロールドブランクを製造する。
【0180】
析出硬化熱処理に用いる熱処理設備は特に限定されない。熱処理設備は連続熱処理装置であってもよいし、バッチ式の熱処理炉であってもよい。析出硬化熱処理での諸条件は次のとおりである。
【0181】
析出硬化熱処理中の最高加熱温度Tmax:600〜750℃
析出硬化熱処理中の最高加熱温度Tmaxは、600〜750℃である。この場合、冷間圧延により導入された転位を析出サイトとして、微細Ti炭窒化物が多数析出する。最高加熱温度Tmaxが600℃未満であれば、微細Ti炭窒化物の析出量が不十分となり、テーラードロールドブランクの引張強度を向上できない。一方、最高加熱温度Tmaxが750℃を超えれば、析出硬化熱処理中の600℃以上での保持時間tK(tK>0)が極めて短い時間であっても微細Ti炭窒化物の析出が過剰に促進されて過時効となる。この場合も、テーラードロールドブランクの引張強度を向上できない。したがって、最高加熱温度Tmaxは600〜750℃である。
【0182】
保持時間tK:530−0.7×Tmax〜3600−3.9×Tmax
析出硬化熱処理では、600℃以上での保持時間tKが、最高加熱温度Tmaxに対して式(5)を満たす。
530−0.7×Tmax≦tK≦3600−3.9×Tmax (5)
保持時間tKが530−0.7×Tmax未満であれば、微細Ti炭窒化物の析出が十分に進行しない。一方、保持時間tKが3600−3.9×Tmaxを超えれば、Ti炭窒化物の析出が過剰に促進されて過時効となる。
【0183】
熱処理指標IN:16500〜19500
熱処理指標INは、析出硬化熱処理の加熱温度Tn(K)と熱処理開始から完了までの時間t(単位はhr、以下、熱処理時間tという)とを用いて、転位の再配列及び消滅、炭窒化物のオストワルド成長等、及び、その素過程である転位のすべり運動、交差すべり、空孔の拡散による転位の上昇運動、合金元素の基地内拡散等の熱活性化過程によって生じる現象を指標化したものである(非特許文献3:土山聡宏:熱処理42(2002),163)。
【0184】
この指標は、一般的に、ある一定の温度T(℃)で時間t(秒)だけ保持した時に(T+273)(log(t/3600)+C)として与えられる焼戻しパラメータを、連続的に温度変動が生じる熱処理条件に拡張したものである。最終的に到達する温度での、析出硬化熱処理において、熱処理開始温度をT1(℃)とし、熱処理時間tを微小時間ΔtIN(秒)で分割し、n番目の区間ΔtIN(=tn)での平均加熱温度をTn(nは自然数)とする。具体的にはT1での熱処理指標IN(ここではIN1とする)を求めた後に連続する次の微小時間領域ΔtINでの平均加熱温度T2で、IN1と同等の値となる微小時間t1を求める。求めた微小時間t1を用いて、T2での(ΔtIN+t1)時間でのINを求め、求めたINを、熱処理開始〜t2間での熱処理指標INとする。同様の計算を繰り返す事によってn番目の区間までの熱処理指標INを求めることが出来る。このとき、n番目の区間までの析出硬化熱処理が完了した時点での熱処理指標INは、式(6)で定義される。なお、本発明において微小時間ΔtINは1秒とする。
IN=(Tn+273)(log(tn/3600)+20) (6)
ここで、式(6)中のtnは式(7)で定義される。
n/3600=10X+ΔtIN/3600 (7)
ここで、X=((Tn-1+273)/(Tn+273))(log(tn-1/3600)+20)−20である。また、t1=ΔtINである。
式(6)中のTnは式(8)で定義される。
n=Tn-1+αΔtIN (8)
ここで、αは、温度Tn-1での昇温速度又は冷却速度(℃/s)である。
【0185】
熱処理指標INが19500を超えれば、微細Ti炭窒化物の析出が進行しすぎて過時効になる場合がある。さらに、転位の回復が進行しすぎて引張強度が低下する。一方、熱処理指標INが16500未満の場合、微細Ti炭窒化物の析出が十分に進行しない。この場合も、所望の引張強度が得られない。さらに、転位の回復が進まず延性が改善しないために、テーラードロールドブランクの成形性が低下する。
【0186】
以上の製造工程により、上述の特徴を有するテーラードロールドブランクが製造される。
【0187】
[その他の工程]
熱延鋼板の製造工程において、亜鉛めっき処理工程を実施してもよいし、上述の析出硬化熱処理後に亜鉛めっき処理工程を実施してもよい。亜鉛めっき処理工程中で、析出硬化熱処理を実施してもよい。亜鉛めっき層が形成された熱延鋼板に対して、さらに別途の表面処理を実施してもよい。酸洗後のテーラードロールドブランクに亜鉛めっき処理を実施する場合、必要に応じて合金化処理を実施して合金化亜鉛めっき層を形成してもよい。この場合、テーラードロールドブランクでは、優れた耐食性が得られ、かつ、スポット溶接等の各種溶接に対する溶接抵抗性が向上する。
【実施例】
【0188】
[熱延鋼板の評価]
[製造方法]
表1に記載の化学組成を有する溶鋼を製造し、その溶鋼を用いてスラブを製造した。
【0189】
【表1】
【0190】
スラブを用いて、表2に示す条件で熱延鋼板を製造した。
【0191】
【表2】
【0192】
表2を参照して、初めに、表2中の「鋼種」欄に記載の鋼種のスラブに対して表2に記載の溶体化温度SRTmin(℃)で溶体化処理を実施した。その後、加熱工程(S1)中の加熱温度TS1℃でスラブをtS1分加熱した。加熱されたスラブに対して粗圧延工程(S2)を実施して粗バーを製造した。このときの総パス数TPN(回)、総圧下率RS2(%)、特定パス数SPN(回)は、表2に示すとおりであった。
【0193】
製造された粗バーを用いて仕上げ圧延工程(S3)を実施した。このとき、粗圧延終了後から仕上げ圧延開始までの時間tS3(秒)、仕上げ圧延開始温度TS3(℃)、総圧下率RS3(%)、最終2パス圧下率RF2(%)、及び、仕上げ圧延終了温度FT(℃)、形状比SRはそれぞれ、表2に示すとおりであった。
【0194】
仕上げ圧延終了後の熱延鋼板に対して、冷却工程(S4)を実施した。冷却工程において、仕上げ圧延終了後、冷却を開始するまでの時間tS4(秒)、平均冷却速度CR(℃/秒)、冷却停止温度TS4(℃)、及び、総累積拡散距離Ltotal(μm)はそれぞれ、表2に示すとおりであった。
【0195】
冷却工程後の熱延鋼板に対して、巻取り工程(S5)を実施した。巻取り温度CTは表2に示すとおりであった。
【0196】
[評価試験]
以上の製造工程で得られた熱延鋼板に対して、次の試験を実施した。
【0197】
[ミクロ組織観察試験]
各熱延番号の熱延鋼板からサンプルを採取して、上述の方法により、ミクロ組織観察を実施した。そして、上述の方法により、各熱延番号のミクロ組織内の相を特定し、各相の面積率(%)を求めた。表3に各相の面積率を示す。表3中のベイナイト欄には、ベイナイトの面積率(%)が記載されている。その他欄では、「PF」がポリゴナルフェライトの面積率を示す。「M」がマルテンサイトの面積率を示す。「P」がパーライトの面積率を示す。「加工F」が加工フェライトの面積率を示す。本実施例では、対象とするフェライト粒の周囲長さをlq、その円相当径をdqとした場合、lq/dq≧3.5となるものを、加工フェライトと定義した。
【0198】
[微細Ti炭窒化物の数密度n0及びBH量測定試験]
各熱延番号の板厚中央部からサンプルを採取して、上述の方法により、微細Ti炭窒化物の数密度n0及びBH量を求めた。求めた数密度n0及びBH量を表3に示す。
【0199】
[極密度D1〜D3測定試験]
{100}<011>〜{223}<110>方位群の極密度D1、{332}<113>の結晶方位の極密度D2、及び、{110}<001>結晶方位の極密度D3を上述の方法により求めた。得られた極密度D1〜D3を表3に示す。
【0200】
[引張試験]
各熱延番号から、JIS Z 2201に準拠した5号試験片を採取した。採取した5号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠した引張試験を常温で実施して、降伏強度YP(MPa)、引張強度TS(MPa)及び破断伸びEl(%)を求めた。求めた降伏強度YP(MPa)、引張強度TS(MPa)及び破断伸びEl(%)を表3に示す。
【0201】
さらに、面内異方性の指標である|Δr|を次の方法で求めた。熱延鋼板板幅の1/4部から試験片を採取した。試験片を用いて、圧延方向の塑性歪比(r0)、圧延方向に対して45°方向の塑性歪比(r45)、圧延方向に対して90°方向(板幅方向)の塑性歪比(r90)を求めた。求めた値を用いて、次の式により、|Δr|を求めた。
|Δr|=|(r0−2×r45+r90)/2|
【0202】
熱延鋼板の引張強度の目標は、それぞれ下記とおりとした。
980MPa級の鋼種A:915MPa超
780MPa級の鋼種B、DおよびJ:715MPa超
690MPa級の鋼種C、E、F、H、I及びL:625MPa超
590MPa級の鋼種G、K、M、N、O及びP:525MPa超
【0203】
熱延鋼板の破断伸びElが13%以上であれば、析出硬化熱処理後のテーラードロールドブランクでプレス割れが発生しにくく、熱延鋼板及びテーラードロールドブランクで優れた冷間成形性を示すと判断した。
【0204】
面内異方性の指標である|Δr|が0.6以下であれば、面内異方性が小さく、熱延鋼板で優れた冷間成形性を示すと判断した。一方、|Δr|0.6を超える場合、面内異方性が大きく、トリミングが必要になり、歩留まりが低くなる判断した。
【0205】
[試験結果]
試験結果を表3に示す。
【0206】
【表3】
【0207】
熱延番号1、2、14、及び、18〜23の化学組成は適切であり、製造条件も適切であった。そのため、ミクロ組織において、ベイナイトの面積率が20%以上であり、残部は主としてフェライトであった。さらに、極密度D1〜D3はいずれも適切であった。さらに、Ti炭窒化物の数密度nは1×1017個/cm以下であった。そのため、高い引張強度が得られた。さらに、破断伸びは、熱延鋼板が優れた冷間成形性を有する指標となる13%以上であった。さらに、|Δr|は0.6以下であり、面内異方性が十分に低かった。
【0208】
一方、熱延番号3では、化学組成は適切であるものの、加熱温度TS1がSRTmin未満であった。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n0は低かったものの、粗大Ti炭窒化物が多く残存し、BH量が低くなった。その結果、熱延鋼板の引張強度が715MPa以下と低かった。
【0209】
熱延番号5では、粗圧延工程での総圧下率RS2が低すぎた。そのため、オーステナイト粒径や偏析の不均一が十分に解消されず、強化に効かない粗大なTi炭窒化物が多量に析出した。微細Ti炭窒化物の数密度n0は低かったものの、BH量が低くなった。その結果、熱延鋼板の引張強度が715MPa以下と低く、さらに、破断伸びも13%未満と低く、熱延鋼板の冷間成形性が低かった。
【0210】
熱延番号6では、粗圧延工程において、1050〜1150℃の温度域で圧下率20%以上の圧延を行った特定パス数SPNが1未満、つまり0であった。そのため、オーステナイト粒径や偏析の不均一が十分に解消されず、強化に効かない粗大なTi炭窒化物が多量に析出し、BH量が低くなった。その結果、熱延鋼板の引張強度が715MPa以下と低く、さらに、破断伸びも13%未満と低かった。
【0211】
熱延番号7では、仕上げ圧延開始までの時間tS3が長すぎた。そのため、Ti炭窒化物が粗大化し、BH量が低くなった。その結果、引張強度が715MPa以下と低かった。
【0212】
熱延番号8は仕上げ圧延温度の開始温度TS3が低すぎた。そのため、BH量が低くなった。その結果、熱延鋼板の特性(引張強度TS、破断伸びEL、及び|Δr|)は特に問題ないものの、後述のとおり、熱延番号8の熱延鋼板で製造されたテーラードロールドブランクの冷間成形性は低かった。
【0213】
熱延番号9では、仕上げ圧延での総圧下率RS3が低すぎた。そのため、オーステナイト粒が微細化されず不均一な析出が促進された。その結果、BH量が低くなった。さらに、ベイナイトが列状に形成された。その結果、破断伸びが13%未満であり、熱延鋼板の冷間成形性が低かった。
【0214】
熱延番号10では、最終2パスの圧下率RF2が30%未満であった。そのため、最終圧下後の板厚中心部での再結晶が不十分となり、その結果、極密度D1が4を超えた。そのため、|Δr|が0.6を超えた。
【0215】
熱延番号11では、仕上げ圧延後、冷却開始までの時間tS4が長すぎた。そのため、粗大Ti炭窒化物が増えすぎ、BH量が低くなった。その結果、引張強度が715MPa以下と低かった。
【0216】
熱延番号12では、冷却工程での平均冷却速度CRが遅すぎた。さらに、冷却停止温度TS4が高く、累積拡散距離Ltotalが大きすぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎた。その結果、引張強度が715MPa以下と低かった。
【0217】
熱延番号13では、冷却停止温度TS4及び巻取り温度CTがいずれも高すぎた。そのため、ベイナイトが発生せず、微細Ti炭窒化物の数密度n0も高すぎた。その結果、熱延鋼板の特性(引張強度TS、破断伸びEL、及び|Δr|)は特に問題ないものの、後述のとおり、熱延番号13の熱延鋼板で製造されたテーラードロールドブランクの冷間成形性は低かった。
【0218】
熱延鋼板15では、仕上げ圧延工程での仕上げ圧延終了温度FTがAr3点未満であった。そのため、ミクロ組織内のベイナイトの面積率が低すぎ、ポリゴナルフェライトの面積率も低かった。さらに、粗大Ti炭窒化物が多数析出し、BH量が15MPa未満になった。さらに、極密度D1及びD2が高すぎた。その結果、|Δr|が0.6を超え、面内異方性が大きかった。さらに、破断伸びELが13%未満であり、熱延鋼板の冷間成形性が低かった。
【0219】
熱延番号16では、仕上げ圧延の終了温度FTが高すぎた。さらに、累積拡散距離Ltotalが大きすぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎた。その結果、熱延鋼板の特性(引張強度TS、破断伸びEL、及び|Δr|)は特に問題ないものの、後述のとおり、熱延番号16の熱延鋼板で製造されたテーラードロールドブランクの冷間成形性は低かった。
【0220】
熱延番号17では、冷却停止温度TS4が高すぎ、かつ、累積拡散距離Ltotalが大きすぎた。そのため、ベイナイトが発生せず、Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎた。その結果、熱延鋼板の特性(引張強度TS、破断伸びEL、及び|Δr|)は特に問題ないものの、後述のとおり、熱延番号17の熱延鋼板で製造されたテーラードロールドブランクの冷間成形性は低かった。
【0221】
熱延番号24は、C含有量が高すぎた。そのため、ベイナイトが生成せず、その結果、破断伸びElが低すぎた。
【0222】
熱延番号25では、C含有量が低すぎた。そのため、ベイナイトが生成せず、引張強度が低すぎた。
【0223】
熱延番号26では、Ti含有量が高すぎた。そのため、極密度D1及びD2が高すぎ、|Δr|が0.6を超えた。
【0224】
熱延番号27では、Ti含有量が低すぎた。さらに、累積拡散距離Ltotalが大きすぎた。そのため、粗大Ti炭窒化物が形成して、BH量が低下した。その結果、熱延鋼板の引張強度が低かった。
【0225】
熱延番号28では、Ti含有量が低すぎた。さらに、F1値が0未満であり、式(1)を満たさなかった。その結果、引張強度が低すぎた。
【0226】
熱延番号29では、N含有量が高すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎ、引張強度が低かった。
【0227】
熱延番号30では、化学組成は適切であり、F1が式(1)を満たした。しかしながら、形状比SRが低すぎた。そのため、極密度D3が低すぎた。その結果、後述のとおり、テーラードロールドブランクの硬度比HRが1.5を超え、テーラードロールドブランクの冷間成形性が低かった。
【0228】
熱延番号31では、化学組成は適切であったものの、F1が式(1)を満たさなかった。その結果、引張強度が低すぎた。
【0229】
[テーラードロールドブランクの製造]
続いて、表3に示す各熱延番号の熱延鋼板を用いて、表4に示す条件でテーラードロールドブランクを製造した。
【0230】
【表4】
【0231】
具体的には、表4に示す熱延番号の熱延鋼板を用いて、初めに、冷間圧延を実施して、テーラードロールドブランク形状の中間品を製造した。冷延率の最小値Rmin及び最大値Rmaxを表4に示す。
【0232】
冷間圧延後の中間品に対して、表4に示す条件で析出硬化熱処理を実施して、テーラードロールドブランクを製造した。表4中の「加熱方式」欄の「CAL」は、連続式の熱処理設備を用いたことを示す。「BAF」はバッチ式の熱処理炉を用いたことを示す。表4中のF2は、F2=530−0.7×Tmaxを示し、F3は、F3=3600−3.9×Tmaxを示す。
【0233】
表4中の「強度クラス」の欄は析出硬化熱処理後の各鋼板の強度クラスを440,590,780,980で示す。熱処理後の引張強度が800MPaの場合は780MPaクラスである。
【0234】
さらに、表4中の「めっき」欄が「有」となっている冷延番号のテーラードロールドブランクに対して、溶融亜鉛めっき処理を実施して、めっき層を形成した。
【0235】
[評価試験]
[転位密度ρ]
上述の方法により、転位密度ρを求めた。求めた転位密度ρを表4に示す。
【0236】
[微細Ti炭窒化物の数密度n1
微細Ti炭窒化物の数密度n1について、上述の方法により求めた。求めた数密度n1を表4に示す。
【0237】
[硬度比HR]
上述の方法に基づいて、硬度比HRを求めた。求めた硬度比HRを表4に示す。
【0238】
[成形性評価試験]
テーラードロールドブランクに対して、プレス加工試験を実施した。プレス加工試験では、Bピラーリンフォースを模擬したハットモデル型(R5、成形高さ50mm、底部80mm)をBHF120kNでプレス試験を行った。
【0239】
「プレス割れ」は、稜線に割れが発生した場合に「有」と判断し、発生しなかった場合に「無」と判断した。割れの有無は目視で判断した。
【0240】
「部材強度」は、R5mm、底部40mm、成形高さ40mm、両フランジ部25mm、長さ300mmのハット部材のフランジ部と110mm×300mmの背板をスポット溶接した後に、天板(250mm角)を溶接した圧壊試験片を用い、長軸方向に圧縮荷重を加えた際の圧壊強度が、同強度レベル、基準を上回ったの場合に「○」とし、基準を満たさなかった場合に「×」とした。さらに、プレス時に割れが発生したため圧壊試験が出来なかった場合に「−」とした。
【0241】
[試験結果]
テーラードロールドブランクの試験結果を表4に示す。表4を参照して、冷延番号1−1、2−1、2−8、14−1、18−1、18−2、19−1、20−1、21−1、22−1、及び23−1では、熱延鋼板が適切であり、かつ、製造条件も適切であった。そのため、テーラードロールドブランクの転位密度ρは1×1014−2以下であり、微細Ti炭窒化物の数密度n1は2×1017個/cmを超えた。さらに、硬度比HRは1.0超〜1.5であった。そのため、プレス加工で割れが発生せず、静的圧壊強度も基準よりも高かった。さらに、引張強度TSはいずれも590MPa以上であった。したがって、優れた強度及び成形性を有するテーラードロールドブランクが得られた。
【0242】
一方、冷延番号2−2では、最厚肉部の冷延率Rが5%未満であった。そのため、平均硬度比HRが1.5を超えた。テーラードロールドブランクの厚肉部の硬度と薄肉部の硬度に差が生じたため、プレス時に割れが発生し、成形性が低かった。
【0243】
冷延番号2−3では、冷間圧延時において、最薄肉部の冷延率Rが50%を超えた。そのため、最薄肉部の転位密度ρが高すぎ、プレス時に割れが発生した。
【0244】
冷延番号2−4では、析出硬化熱処理の最高加熱温度Tmaxが低すぎた。そのため、最薄肉部の転位密度ρが高すぎた。さらに、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。その結果、プレス時に割れが発生し、テーラードロールドブランクの成形性が低かった。
【0245】
冷延番号2−5では、析出硬化熱処理での最高加熱温度Tmaxが高すぎた。さらに、熱処理指標INが高すぎた。そのため、Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、プレス加工後の強度が低すぎた。
【0246】
冷延番号2−6では、析出硬化熱処理の600℃以上の保持時間tKが長すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、プレス加工後の強度が低かった。
【0247】
冷延番号2−7では、熱処理指標INが高すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、プレス加工後の強度が低すぎた。
【0248】
冷延番号2−9では、析出硬化熱処理での最高加熱温度Tmaxが低すぎ、さらに、熱処理指標INも低かった。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに、平均硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0249】
冷延番号2−10では、析出硬化熱処理での最高加熱温度Tmaxが高すぎた。その結果、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、プレス加工後の強度が得られなかった。
【0250】
冷延番号2−11では、析出硬化熱処理の600℃以上の保持時間tKが短すぎた。その結果、転位密度ρが高すぎ、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに平均硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0251】
冷延番号2−12では、析出硬化熱処理の熱処理指標INが低すぎた。その結果、転位密度ρが高すぎ、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに平均硬度比HRが高すぎた。
【0252】
冷延番号3−1では、熱延鋼板において、BH量が低すぎた。そのため、テーラードロールドブランクの製造条件は適切であったものの、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。その結果、プレス加工後の強度が低かった。
【0253】
冷延番号5−1及び6−1では、熱延鋼板において、BH量が低すぎ、破断伸びElが低すぎた。そのため、冷間圧延中に割れが発生した。
【0254】
冷延番号7−1及び8−1では、利用した熱延鋼板のBH量が低すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに、平均硬度比HRが低すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0255】
冷延番号9−1では、利用した熱延鋼板のBH量が低すぎ、破断伸びElが低すぎた。そのため、冷間圧延中に割れが発生した。
【0256】
冷延番号10−1では、利用した熱延鋼板の極密度D1が高すぎ、|Δr|が高すぎた。そのため、平均硬度比HRが高すぎ、プレス加工時に割れが発生した。
【0257】
冷延番号11−1では、利用した熱延鋼板のBH量が低すぎた。また、冷延番号12−1及び13−1では、利用した熱延鋼板の微細Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに、平均硬度比HRが低すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0258】
冷延番号15−1では、極密度D1及びD2が高く、面内異方性が大きい熱延鋼板を利用した。そのため、冷間圧延中に破断した。
【0259】
冷延番号16−1及び17−1では、利用した熱延鋼板の微細Ti炭窒化物の数密度n0が高すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎた。さらに、平均硬度比HRが低すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0260】
冷延番号18−3では、適切な熱延鋼板を用いたものの、析出硬化熱処理での最高加熱温度Tmaxが高すぎ、かつ、熱処理指標INが高すぎた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、平均硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス時に割れが発生した。
【0261】
冷延番号24−1では、C含有量が高すぎる熱延鋼板を用いた。そのため、冷間圧延中に破断した。
【0262】
冷延番号25−1では、C含有量が低すぎる熱延鋼板を用いた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、平均硬度比HRも低すぎた。その結果、プレス加工で割れが発生した。
【0263】
冷延番号26−1では、Ti含有量が高すぎ、極密度D1及びD2が高い熱延鋼板を用いた。そのため、転位密度ρが高すぎ、平均硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス加工時に割れが発生した。
【0264】
冷延番号27−1及び28−1では、Ti含有量が低すぎる熱延鋼板を用いた。そのため、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス加工時に割れが発生した。
【0265】
冷延番号29−1では、N含有量が高すぎる熱延鋼板を用いた。その結果、冷間圧延中に破断した。
【0266】
冷延番号30−1では、利用した熱延鋼板の極密度D3が低すぎた。そのため、硬度比HRが高すぎ、プレス加工時に割れが発生した。
【0267】
冷延番号31−1では、利用した熱延鋼板において、F1が式(1)を満足しなかった。その結果、微細Ti炭窒化物の数密度n1が低すぎ、硬度比HRが高すぎた。その結果、プレス加工時に割れが発生した。
【0268】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0269】
本実施形態によれば、590MPa以上の引張強度を有するとともに、優れた冷間成形性を有するテーラードロールドブランクを得ることができる。本発明に係るテーラードロールドブランクは、自動車の骨格部品を始め、衝突吸収エネルギー、剛性および疲労強度等の性能が求められる内板部材、構造部材、足廻り部材等の用途に用いることができ、産業上の貢献が極めて顕著である。
図1A
図1B