(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するインナーパネルと、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するアウターパネルとを備え、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ接合された接合部を有する閉断面の自動車部材であって、
前記自動車部材の前端部から後方へ向けて延在する第1の領域と;
前記第1の領域に連続して後方へ延在する第1の遷移領域と;
前記第1の遷移領域に連続して後方へ延在する第2の領域と;
を備え、
前記第1の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1領域外側高さho1と定義し、前記第1の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1領域内側高さhi1と定義し、
前記第2の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第2領域外側高さho2と定義し、前記第2の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第2領域内側高さhi2と定義し、且つ
前記第1の遷移領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域外側高さho1〜2と定義し、前記第1の遷移領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域内側高さhi1〜2と定義したとき、
前記第1の領域では、前記第1領域外側高さho1及び前記第1領域内側高さhi1が一定の値であり、且つ、前記第1領域外側高さho1と前記第1領域内側高さhi1との差が、前記第2領域外側高さho2と前記第2領域内側高さhi2との差よりも小さく;
前記第2の領域では、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも大きく且つ一定の値である、又は、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも小さく且つ一定の値であり;
前記第1の遷移領域では、前記第1遷移領域外側高さho1〜2が、前記第1領域外側高さho1と前記第2領域外側高さho2との間で連続的に変化するとともに、第1遷移領域内側高さhi1〜2が、前記第1領域内側高さhi1と前記第2領域内側高さhi2との間で連続的に変化し;
前記自動車部材が自動車車体の骨格部材であり、
前記インナーパネルはサイドシルインナーパネルであり、前記アウターパネルはサイドシルアウターパネルであるとともに、前記骨格部材はサイドシルであり、
前記第1の領域のうち前記前端部を含む領域において、Aピラーロアーが接続される部位であるAピラーロアー接続部が設けられ;
前記第2の領域の少なくとも一部において、Bピラーが接続される部位であるBピラー接続部が設けられており;
前記第1の領域は、前記骨格部材の前記Aピラーロアー接続部の後端から後方に150mm以下離れた位置までの領域であり;
前記第2の領域は、前記Bピラー接続部から前方へ150mm以下離れた位置と、前記Bピラー接続部から後方へ150mm以下離れた位置との間の領域である;
ことを特徴とする自動車部材。
前記接合部の少なくとも一部において、前記縁部は、前記インナーパネルおよび前記アウターパネルそれぞれの前記二つの縦壁につながって形成されたフランジであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載された自動車部材。
前記接合部の少なくとも一部において、前記インナーパネルに形成された前記フランジが、ヘミング加工されて、前記アウターパネルに形成された前記フランジを覆うこと、または、前記アウターパネルに形成された前記フランジが、ヘミング加工されて、前記インナーパネルに形成された前記フランジを覆うことを特徴とする請求項11に記載された自動車部材。
前記接合部の少なくとも一部において、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ重ね合わされて接合されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載された自動車部材。
前記アウターパネルの引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、前記インナーパネルの引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義したとき、
前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2より大きい場合には、下記関係式(f)を満足し;
前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2より小さい場合には、下記関係式(g)を満足する;
ことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の自動車部材。
TSo×to < TSi×ti …(f)
TSo×to > TSi×ti …(g)
天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するインナーパネルと、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するアウターパネルとを備え、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ接合された接合部を有する閉断面の自動車部材であって、
前記アウターパネルの引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、前記インナーパネルの引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義し、且つ
前記アウターパネルの前記縦壁の高さを外側高さho、前記インナーパネルの前記縦壁の高さを内側高さhiと定義したとき、
前記外側高さho及び前記内側高さhiは、それぞれ、前記自動車部材の長さ方向において一定の値であり;
前記外側高さhoが前記内側高さhiより大きい場合には、下記関係式(f)を満足し;
前記外側高さhoが前記内側高さhiより小さい場合には、下記関係式(g)を満足する;
ことを特徴とする自動車部材。
TSo×to < TSi×ti …(f)
TSo×to > TSi×ti …(g)
【背景技術】
【0002】
いわゆるモノコック構造を有する自動車車体のボディシェルの多くは、プラットフォームと、左右のボディサイドと、ボディシェル前部に設けられたエンジンコンパートメントとを備える。プラットフォームはフロアパネルを有する。左右のボディサイドは、プラットフォームの両サイドに装着される。エンジンコンパーメントは、その構成部材としてフロントサイドメンバを有する。
【0003】
ボディサイドは、Aピラーと、Bピラーと、ルーフレールサイドと、サイドシル(キッカー)とを有する。ルーフレールサイドは、AピラーおよびBピラーのそれぞれの上端部に対して溶接される。自動車部材の溶接には、主に、抵抗スポット溶接(以下、スポット溶接と略す)及びレーザ溶接等が使用される。サイドシルは、AピラーおよびBピラーのそれぞれの下端部およびリアーホイールハウスアウターの前端部に溶接される。
【0004】
一般的に、サイドシルは、略ハット型の横断面形状を有するサイドシルインナーパネルと、略ハット型の横断面形状を有するサイドシルアウターパネルとを備える。サイドシルインナーパネルおよびサイドシルアウターパネルは、いずれも、天板と、この天板につながる二つの縦壁と、二つの縦壁のそれぞれにつながる外向きフランジとを有する。サイドシルインナーパネルの二つの外向きフランジと、サイドシルアウターパネルの二つの外向きフランジとが互いに重ね合わされた状態でスポット溶接されることにより、1体のサイドシルが形成される。このように形成されたサイドシルは、長尺かつ中空の筒状体である。
サイドシルは、フロントフロアパネルの両サイドに形成される上向きフランジを介してフロアパネルにスポット溶接される。車両の走行中において、フロアパネルの弾性変形に起因するたわみがサイドシルによって抑制される。このように、サイドシルは、ボディシェルに所望の曲げ剛性及び捩じり剛性を与える。さらに、車両の衝突時において、サイドシルは、衝撃荷重の負荷により変形して衝撃エネルギーを吸収する。その結果、車両の衝突時において搭乗者の安全が確保される。
【0005】
サイドシルは、主に側面衝突時にはいわゆる三点曲げ変形を生じることにより衝撃エネルギーを吸収する部材である。このため、従来では、三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量(EA)を高めることを主な設計目標として、サイドシルの設計及び開発が行われてきた。
一方、近年では、車両の衝突安全性能のいっそうの向上を図るために、スモールオーバーラップ(SOI)を想定した前面衝突試験または後面衝突試験が採用され始めている。スモールオーバーラップ前面衝突試験では、車両前端部における車幅全体の25%の部位が固定バリアに当たるように、車両を時速64km/hで固定バリアに衝突させる。このようなスモールオーバーラップ前面衝突では、車両前部に設けられた衝撃吸収構造(例えばフロントサイドメンバ等)の外側で固定バリアが衝突するため、車両前部の衝撃吸収構造によって衝撃エネルギーを十分に吸収することは難しい。
しかしながら、スモールオーバーラップ前面衝突試験の結果、衝突時にサイドシルに軸圧壊変形が生じることにより、衝撃エネルギーがサイドシルによって吸収されることが判明した。このため、車両の衝突安全性能の向上の観点から、近年のサイドシルには、三点曲げ変形及び軸圧壊変形という二つの異なる変形モードに対する衝撃エネルギー吸収量を高めることが強く要求されている。
【0006】
上述したように、サイドシルの前端部はAピラーの下端部(Aピラーロアー)にスポット溶接され、サイドシルの長手方向の略中央部はBピラーの下端部にスポット溶接され、さらに、サイドシルの後端部はホイールハウスアウターの前端部にスポット溶接される。車両の衝突時には、サイドシルとAピラーロアーとの溶接部、サイドシルとBピラーとの溶接部、及びサイドシルとホイールハウスアウターとの溶接部のそれぞれを起点として早期の破断(スポット破断)が生じることが多い。この早期のスポット破断によって、衝撃エネルギーを構造部材に順次伝搬して衝撃エネルギーを吸収しようとするロードパスの設計思想が十分に実現できなくなり、衝撃エネルギー吸収量が低下することが知られている。
【0007】
特許文献1には、車両の前面衝突安全性能を向上させるために、サイドシルの車両上下方向の断面が車両前後方向へ向かって変化するように構成された車体前部構造が開示されている。また、特許文献2には、サイドシルインナーパネル及びサイドシルアウターパネルの組み立て性及び溶接性を向上するために、サイドシルインナーパネルの上面に形成された切起こしと、サイドシルアウターパネルの上面に形成された切欠きとを合致させた状態で溶接することにより、1体のサイドシルを形成する技術が開示されている。
【0008】
図16は、フロントサイドメンバ40の配置状況を部分的にかつ簡略化して示す上面図である。
図16にはA−A断面を併せて示す。また、
図17は、前面衝突におけるフロントサイドメンバ40の変形挙動を簡略化して示す上面図である。
【0009】
図16に示すように、一般的に、フロントサイドメンバ40は、材軸方向に一定の断面形状(ハット形状)を有するハット形パネル41と、平板状のクロージングプレート42とを有する。ハット形パネル41は、天板41aと、天板41aにつながる二つの縦壁41bと、二つの縦壁41bのそれぞれにつながる外向きフランジ41cとを有する。ハット形パネル41の二つの外向きフランジ41cとクロージングプレート42とが重ね合わされた状態でスポット溶接されることにより、1体のフロントサイドメンバ40が形成される。このように形成されたフロントサイドメンバ40は、長尺かつ中空の筒状体である。フロントサイドメンバ40は、車体前部のエンジンコンパートメント43の内部に配置される。
【0010】
ハット形パネル41の二つの外向きフランジ41cは、車外側に配置される。このため、フロントサイドメンバ40の広く平坦な縦壁41bを、エンジンマウントブラケット46の搭載面として利用できる。これにより、横置されたエンジン44を支持するエンジンマウントブラケット46等のエンジンコンパートメント43近傍の部品を、フロントサイドメンバ40の上面(縦壁41b)に確実に固定できる。また、前面衝突時には、
図17中の丸囲み部に示すように、フロントサイドメンバ40を車内側へ向けて屈曲変形させることができる。また、外向きフランジ41cを車内側に配置した場合は、前面衝突時にフロントサイドメンバ40を車内側に屈曲させることができる。
【0011】
このように、フロントサイドメンバ40は、ボディシェルに所望の曲げ剛性及び捩じり剛性を与えるとともに、エンジン44等の重量物及びサスペンション等の重要部品を支持する。また、車両の前面衝突時には、フロントサイドメンバ40は、その前端部に配置されるフロントクラッシュボックス45(
図16参照)を介して負荷される衝撃荷重により変形して衝突エネルギーを吸収する。その結果、客室の変形が抑制されて搭乗者の安全が確保される。
【0012】
特許文献3には、車内側に位置するハット形パネルと、車外側に位置するクロージングプレートとを有するフロントサイドメンバが開示されている。特許文献3に開示された技術では、フロントサイドメンバの長手方向に存在する屈曲部の構造を工夫することにより、前面衝突の衝撃力によりフロントサイドメンバが容易に座屈することを防止している。この技術によれば、前面衝突の衝撃力が効果的に緩和されて車体の変形が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に開示されたサイドシルは、車両の側面衝突安全性能を向上することを目的として開発されておらず、側面衝突に対する安全性向上の観点から改善の余地がある。また、特許文献2に開示されたサイドシルは、三点曲げ変形及び軸圧壊変形という二つの異なる変形モードに対する衝撃エネルギー吸収量を向上させることはできない。
【0015】
図18は、
図16に示すフロントサイドメンバ40が有する課題を模式的に示す説明図である。なお、特許文献3に開示されたフロントサイドメンバも同じ課題を有している。
【0016】
前面衝突時に、クラッシュボックス45を介してフロントサイドメンバ40に衝撃荷重が負荷されると、
図18中の丸囲み部に示すように、フロントサイドメンバ40の前端側において、ハット形パネル41の外向きフランジ41cとクロージングプレート42とのスポット溶接部(スポット溶接によって接合された部位)が早期に破壊されて、クロージングプレート42がハット形パネル41から切り離される。このような現象(スポット破断)がフロントサイドメンバ40の前端側に発生すると、フロントサイドメンバ40の残りの部位における衝撃エネルギー吸収量が低下する。
【0017】
このように、従来のサイドシルでは、三点曲げ変形及び軸圧壊変形という二つの異なる変形モードに対する衝撃エネルギー吸収量を向上することはできない。また、従来のフロントサイドメンバでは、エンジンマウントブラケットの搭載性を維持しながら前面衝突時のスポット破断の発生を抑制できない。
【0018】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、従来の技術では両立できなかった二つの特性を両立可能な自動車部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下に列記の知見を得ることができ、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0020】
(A)サイドシルインナーパネル(インナーパネル)およびサイドシルアウターパネル(アウターパネル)の重ね合わせ接合位置を、サイドシルの長手方向に異ならせることによって、側面衝突時にサイドシルに生じる三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができ、かつスモールオーバーラップ衝突を含む前面衝突または後面衝突時にサイドシルに軸圧潰変形時が生じた場合でもスポット破断の発生を抑制でき、これにより、サイドシルの軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高められる。
【0021】
(B)フロントサイドメンバを構成するフロントサイドメンバインナーパネル(インナーパネル)の二つの外向きフランジと、フロントサイドメンバアウターパネル(アウターパネル)の二つの外向きフランジとの重ね合わせ接合位置を、フロントサイドメンバの長手方向の前端側の部分とその他の部分とで異ならせることによって、エンジンマウントブラケットの搭載面を確実に確保しながら前面衝突時のスポット破断の発生を抑制できる。
【0022】
本発明は上記課題を解決して係る目的を達成するために以下の手段を採用する。
(1)本発明の一態様に係る自動車部材は、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するインナーパネルと、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するアウターパネルとを備え、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ接合された接合部を有する閉断面の自動車部材であって、前記自動車部材の前端部から後方へ向けて延在する第1の領域と;前記第1の領域に連続して後方へ延在する第1の遷移領域と;前記第1の遷移領域に連続して後方へ延在する第2の領域と;を備え、前記第1の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1領域外側高さho1と定義し、前記第1の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1領域内側高さhi1と定義し、前記第2の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第2領域外側高さho2と定義し、前記第2の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第2領域内側高さhi2と定義し、且つ前記第1の遷移領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域外側高さho1〜2と定義し、前記第1の遷移領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域内側高さhi1〜2と定義したとき、前記第1の領域では、前記第1領域外側高さho1及び前記第1領域内側高さhi1が一定の値であり、且つ、前記第1領域外側高さho1と前記第1領域内側高さhi1との差が、前記第2領域外側高さho2と前記第2領域内側高さhi2との差よりも小さく;前記第2の領域では、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも大きく且つ一定の値である、又は、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも小さく且つ一定の値であり;前記第1の遷移領域では、前記第1遷移領域外側高さho1〜2が、前記第1領域外側高さho1と前記第2領域外側高さho2との間で連続的に変化するとともに、第1遷移領域内側高さhi1〜2が、前記第1領域内側高さhi1と前記第2領域内側高さhi2との間で連続的に変化
し;
前記自動車部材が自動車車体の骨格部材であり、前記インナーパネルはサイドシルインナーパネルであり、前記アウターパネルはサイドシルアウターパネルであるとともに、前記骨格部材はサイドシルであり、前記第1の領域のうち前記前端部を含む領域において、Aピラーロアーが接続される部位であるAピラーロアー接続部が設けられ;前記第2の領域の少なくとも一部において、Bピラーが接続される部位であるBピラー接続部が設けられており;前記第1の領域は、前記骨格部材の前記Aピラーロアー接続部の後端から後方に150mm以下離れた位置までの領域であり;前記第2の領域は、前記Bピラー接続部から前方へ150mm以下離れた位置と、前記Bピラー接続部から後方へ150mm以下離れた位置との間の領域である。
【0026】
(2)上記
(1)に記載の自動車部材において、前記第1の領域では、下記関係式(a)を満足し;前記第2の領域では、下記関係式(b)を満足してもよい。
0.40×(hi1+ho1)≦ho1≦0.60×(hi1+ho1)
・・・・・(a)
0.10×(hi2+ho2)≦hi2≦0.40×(hi2+ho2)
・・・・・(b)
【0027】
(3)上記
(1)または(2)に記載の自動車部材が、前記第2の領域に連続して後方へ延在する第2の遷移領域と;前記第2の遷移領域に連続して後方へ前記自動車部材の後端部まで延在する第3の領域と;をさらに備え、前記第3の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第3領域外側高さho3と定義し、前記第3の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第3領域内側高さhi3と定義し、且つ前記第2の遷移領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第2遷移領域外側高さho2〜3と定義し、前記第2の遷移領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第2遷移領域内側高さhi2〜3と定義したとき、前記第3の領域では、前記第3領域外側高さho3及び前記第3領域内側高さhi3が一定の値であり、且つ、前記第3領域外側高さho3と前記第3領域内側高さhi3との差が、前記第2領域外側高さho2と前記第2領域内側高さhi2との差よりも小さく;前記第2の遷移領域では、前記第2遷移領域外側高さho2〜3が、前記第2領域外側高さho2と前記第3領域外側高さho3との間で連続的に変化するとともに、第2遷移領域内側高さhi2〜3が、前記第2領域内側高さhi2と前記第3領域内側高さhi3との間で連続的に変化してもよい。
【0028】
(4)上記
(3)に記載の自動車部材において、前記第3の領域では、下記関係式(c)を満足してもよい。
0.40×(hi3+ho3)≦ho3≦0.60×(hi3+ho3)
・・・・・(c)
【0029】
(5)上記
(1)〜(4)のいずれか一つの自動車部材において、前記Aピラーロアー接続部に対して前記Aピラーロアーが接続されるとともに、前記Bピラー接続部に対して前記Bピラーが接続されてもよい。
【0030】
(6)天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するインナーパネルと、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するアウターパネルとを備え、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ接合された接合部を有する閉断面の自動車部材であって、前記自動車部材の前端部から後方へ向けて延在する第1の領域と;前記第1の領域に連続して後方へ延在する第1の遷移領域と;前記第1の遷移領域に連続して後方へ延在する第2の領域と;を備え、前記第1の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1領域外側高さho1と定義し、前記第1の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1領域内側高さhi1と定義し、前記第2の領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第2領域外側高さho2と定義し、前記第2の領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第2領域内側高さhi2と定義し、且つ前記第1の遷移領域における前記アウターパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域外側高さho1〜2と定義し、前記第1の遷移領域における前記インナーパネルの前記縦壁の高さを第1遷移領域内側高さhi1〜2と定義したとき、前記第1の領域では、前記第1領域外側高さho1及び前記第1領域内側高さhi1が一定の値であり、且つ、前記第1領域外側高さho1と前記第1領域内側高さhi1との差が、前記第2領域外側高さho2と前記第2領域内側高さhi2との差よりも小さく;前記第2の領域では、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも大きく且つ一定の値である、又は、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2よりも小さく且つ一定の値であり;前記第1の遷移領域では、前記第1遷移領域外側高さho1〜2が、前記第1領域外側高さho1と前記第2領域外側高さho2との間で連続的に変化するとともに、第1遷移領域内側高さhi1〜2が、前記第1領域内側高さhi1と前記第2領域内側高さhi2との間で連続的に変化し;前記自動車部材が自動車車体の骨格部材であり、前記インナーパネルはフロントサイドメンバインナーパネルであり、前記アウターパネルはフロントサイドメンバアウターパネルであるとともに、前記骨格部材はフロントサイドメンバで
ある。
【0031】
(7)上記
(6)に記載の自動車部材において、前記第1の領域では、下記関係式(a)を満足してもよい。
0.40×(hi1+ho1)≦ho1≦0.60×(hi1+ho1)
・・・・・(a)
【0032】
(8)上記
(6)または(7)に記載の自動車部材において、前記第1の領域が、前記前端部と、前記前端部から後方へ400mm以下離れた位置との間の領域であってもよい。
【0033】
(9)上記
(6)〜(8)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記第2の領域が、前記前端部から150mm以上離れた位置より後方に存在する領域であってもよい。
【0034】
(10)上記
(6)〜(9)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記第2の領域では、下記関係式(d)又は下記関係式(e)を満足してもよい。
0≦hi2≦0.40×(hi2+ho2)
・・・・・(d)
0≦ho2≦0.40×(hi2+ho2)
・・・・・(e)
【0035】
(11)上記
(1)〜(10)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記接合部の少なくとも一部において、前記縁部が、前記インナーパネルおよび前記アウターパネルのそれぞれの前記二つの縦壁につながって形成されたフランジであってもよい。
【0036】
(12)上記
(11)に記載の自動車部材において、前記接合部の少なくとも一部において、前記インナーパネルに形成された前記フランジが、ヘミング加工されて、前記アウターパネルに形成された前記フランジを覆ってもよく、または、前記アウターパネルに形成された前記フランジが、ヘミング加工されて、前記インナーパネルに形成された前記フランジを覆ってもよい。
【0037】
(13)上記
(1)〜(10)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記接合部の少なくとも一部において、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ重ね合わされて接合されてもよい。
【0038】
(14)上記
(1)〜(13)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記接合が抵抗スポット溶接によるものでもよい。
【0039】
(15)上記
(1)〜(14)のいずれか一つに記載の自動車部材において、前記アウターパネルの引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、前記インナーパネルの引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義したとき、前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2より大きい場合には、下記関係式(f)を満足し;前記第2領域外側高さho2が前記第2領域内側高さhi2より小さい場合には、下記関係式(g)を満足してもよい。
TSo×to < TSi×ti …(f)
TSo×to > TSi×ti …(g)
【0040】
(16)本発明の他の態様に係る自動車部材は、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するインナーパネルと、天板と前記天板につながる二つの縦壁とを有するアウターパネルとを備え、前記インナーパネルの前記二つの縦壁の縁部と、前記アウターパネルの前記二つの縦壁の縁部とがそれぞれ接合された接合部を有する閉断面の自動車部材であって、前記アウターパネルの引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、前記インナーパネルの引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義し、且つ前記アウターパネルの前記縦壁の高さを外側高さho、前記インナーパネルの前記縦壁の高さを内側高さhiと定義したとき、前記外側高さho及び前記内側高さhiは、それぞれ、前記自動車部材の長さ方向において一定の値であり;前記外側高さhoが前記内側高さhiより大きい場合には、下記関係式(f)を満足し;前記外側高さhoが前記内側高さhiより小さい場合には、下記関係式(g)を満足する。
TSo×to < TSi×ti …(f)
TSo×to > TSi×ti …(g)
【0041】
(17)上記
(16)に記載の自動車部材がサイドシルであり;前記サイドシルが、前記アウターパネルとしてサイドシルアウターパネルを有すると共に、前記インナーパネルとしてサイドシルインナーパネルを有していてもよい。
【0042】
(18)上記
(16)に記載の自動車部材がフロントサイドメンバであり;前記フロントサイドメンバが、前記アウターパネルとしてフロントサイドメンバアウターパネルを有すると共に、前記インナーパネルとしてフロントサイドメンバインナーパネルを有していてもよい。
【0043】
(19)上記
(1)〜(18)のいずれか一つに記載の自動車部材が、テーラードウェルドブランク、又はテーラドロールドブランク、或いはそれら素材の組み合わせによって形成されていてもよい。
ここで、テーラードウェルドブランク(TWB)とは、素材の状態で板厚及び引張強度等が異なる複数種の鋼板を溶接(例えば突き合わせ溶接)によって一体化したものである。また、テーラドロールドブランク(TRB)とは、素材を製造する際に圧延ロールの間隔を変更することにより板厚を変化させたものである。
【0044】
本発明において、「前端部」とは、本発明に係る自動車部材を装着される車体を備える車両の進行方向前側におけるこの自動車部材の端部を意味し、「後方」とは前記進行方向の後方を意味する。
【0045】
本発明における縦壁の高さとは、天板の外面からフランジの外面までの、天板に直交する方向への距離を意味する。
【0046】
本発明に係る「自動車部材」は、自動車に用いられる部材を意味し、例えば、自動車車体の骨格をなす骨格部材や、自動車車体に装着される骨格部材以外の部材を含む。本発明に係る「自動車部材」は、自動車車体の骨格部材として、上記サイドシルおよびフロントサイドメンバ以外に、センターピラー(Bピラー)、ルーフレール、Aピラー等を含み、自動車車体の骨格部材以外の部材として、サスペンションを支持するサブフレーム構成部材を含む。
【発明の効果】
【0047】
本発明の上記態様によれば、従来の技術では両立できなかった二つの特性を両立可能な自動車部材を提供することができる。
【0048】
具体的には、本発明の上記態様によれば、三点曲げ変形及び軸圧壊変形という二つの異なる変形モードに対する衝撃エネルギー吸収量をいずれも高めたサイドシル、及び、エンジンマウントブラケットの搭載性を維持しながら前面衝突時のスポット破断の発生を抑制できるフロントサイドメンバといった自動車車体の骨格部材を提供できる。
【0049】
サイドシルに関してさらに具体的には、本発明の上記態様によれば、側面衝突時にサイドシルに生じる三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができ、かつスモールオーバーラップ衝突を含む前面衝突時または後面衝突時にサイドシルに軸圧壊変形が生じた場合でもスポット破断の発生を抑制することができ、これにより、サイドシルの軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態では、本発明に係る自動車部材として自動車車体の骨格部材であるサイドシルを例示する。このサイドシルは、インナーパネルとしてサイドシルインナーパネルを有するとともに、アウターパネルとしてサイドシルアウターパネルを有する。また、以降の説明では本発明に係る自動車部材が略四角形の横断面形状を有する場合を例示するが、例えば略六角形や八角形といった、互いに対向する上辺および下辺を有する多角形の横断面形状を有する自動車部材に対しても、本発明を適用することができる。
【0052】
図1は、本発明の第1実施形態に係るサイドシル1の概略構成を示す斜視図である。
サイドシル1は、少なくとも、サイドシルインナーパネル2と、サイドシルアウターパネル3とを有する。サイドシルインナーパネル2及びサイドシルアウターパネル3は、それぞれ、1.0mm以上の板厚を有する高張力鋼板からなる形鋼である。
図1には示していないが、サイドシル1は、通常、1.0mm以下の板厚を有する低強度材であるサイドシルアウターパネルを外板としてさらに有する。サイドシルインナーパネル2とサイドシルアウターパネル3との間、または、サイドシルアウターパネル3と外板としてのサイドシルアウターパネルとの間に、サイドシルレインフォース(補強板)が設けられていてもよい。
【0053】
サイドシルインナーパネル2は、少なくとも、天板4と、天板4につながる二つの縦壁6a及び6bとを有する。サイドシルインナーパネル2は、通常の曲げ成形または絞り成形によるプレス加工や、曲げ成形によるロール加工により製造されるため、天板4と、縦壁6a及び6bとにつながる稜線5a及び5bを有する。
【0054】
また、サイドシルインナーパネル2の縁部には、二つの縦壁6a及び6bにつながる外向きフランジ8a及び8bが設けられている。外向きフランジ8a及び8bは、サイドシルアウターパネル3の縁部に設けられた外向きフランジ13a及び13bと重ね合わされた状態で、例えば抵抗スポット溶接等により接合される接合代である。このため、サイドシルインナーパネル2は、縦壁6a及び6bと、外向きフランジ8a及び8bとにつながる曲線部7a及び7bをさらに有する。
【0055】
稜線5a及び5bと、曲線部7a及び7bとのそれぞれの曲率半径は、上述の通常の加工法により製造される程度の値であり、通常3〜20mmである。
【0056】
さらに、サイドシルインナーパネル2は、その天板4に抵抗スポット溶接される上向きフランジ30aを介してフロントフロアパネル30に接合される。
【0057】
一方、サイドシルアウターパネル3も、サイドシルインナーパネル2と同様に、少なくとも、天板9と、天板9につながる二つの縦壁11a及び11bとを有する。サイドシルアウターパネル3は、通常の曲げ成形または絞り成形によるプレス加工や、曲げ成形によるロール加工により製造されるため、天板9と、縦壁11a及び11bとにつながる稜線10a及び10bを有する。
【0058】
また、サイドシルアウターパネル3の縁部には、二つの縦壁11a及び11bにつながる外向きフランジ13a及び13bが設けられている。外向きフランジ13a及び13bは、サイドシルインナーパネル2の縁部に設けられた外向きフランジ8a及び8bと重ね合わされた状態で、例えば抵抗スポット溶接等により接合される接合代である。このため、サイドシルアウターパネル3は、縦壁11a及び11bと外向きフランジ13a及び13bとにつながる曲線部12a及び12bをさらに有する。
【0059】
稜線10a及び10bと、曲線部12a及び12bとのそれぞれの曲率半径は、上述の通常の加工法により製造される程度の値であり、通常3〜20mmである。
【0060】
以上の説明では、外向きフランジ8a及び8bが、抵抗スポット溶接によって外向きフランジ13a及び13bに接合される場合を例示したが、例えばレーザ溶接やアーク溶接のような抵抗スポット溶接以外の他の溶接、接着、さらにはろう接合等の他の接合法を用いることも可能である。
【0061】
サイドシル1は、第1の領域14、第1の遷移領域15、第2の領域16、第2の遷移領域17および第3の領域18を有する。
【0062】
第1の領域14は、サイドシル1の前端部1aから後方へ向けて延在する。第1の遷移領域15は、第1の領域14に連続して後方へ向けて延在する。第2の領域16は、第1の遷移領域15に連続して後方へ向けて延在する。第2の遷移領域17は、第2の領域16に連続して後方へ延在する。さらに、第3の領域18は、第2の遷移領域17に連続して後方へサイドシル1の後端部1bまで延在する。そして、第3の領域18の後端部1bは、リアーホイールハウスアウターパネル21に接続される。
【0063】
以下では、第1の領域14におけるサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bの高さを第1領域外側高さho
1と定義し、第1の領域14におけるサイドシルインナーパネル2の縦壁6a及び6bの高さを第1領域内側高さhi
1と定義する。
第2の領域16におけるサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bの高さを第2領域外側高さho
2と定義し、第2の領域16におけるサイドシルインナーパネル2の縦壁6a及び6bの高さを第2領域内側高さhi
2と定義する。第1の遷移領域15におけるサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bの高さを第1遷移領域外側高さho
1〜2と定義し、第1の遷移領域15におけるサイドシルインナーパネル2の縦壁6a及び6bの高さを第1遷移領域内側高さhi
1〜2と定義する。
第3の領域18におけるサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bの高さを第3領域外側高さho
3と定義し、第3の領域18におけるサイドシルインナーパネル2の縦壁6a及び6bの高さを第3領域内側高さhi
3と定義する。第2の遷移領域17におけるサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bの高さを第2遷移領域外側高さho
2〜3と定義し、第2の遷移領域17におけるサイドシルインナーパネル2の縦壁6a及び6bの高さを第2遷移領域内側高さhi
2〜3と定義する。
【0064】
第1の領域14では、第1領域外側高さho
1及び第1領域内側高さhi
1が一定の値であり、且つ、第1領域外側高さho
1と第1領域内側高さhi
1との差が、第2領域外側高さho
2と第2領域内側高さhi
2との差よりも小さい。
【0065】
第2の領域16では、第2領域外側高さho
2が第2領域内側高さhi
2よりも大きく且つ一定の値である。
【0066】
第1の遷移領域15では、第1遷移領域外側高さho
1〜2が、第1領域外側高さho
1と第2領域外側高さho
2との間で連続的に変化するとともに、第1遷移領域内側高さhi
1〜2が、第1領域内側高さhi
1と第2領域内側高さhi
2との間で連続的に変化する。
【0067】
第1の領域14のうちサイドシル1の前端部1aを含む領域に、二点鎖線で示すAピラーロアー19が接続される部位であるAピラーロアー接続部21が設けられている。また、第2の領域16の少なくとも一部に、二点鎖線で示すBピラー20が接続される部位であるBピラー接続部(Bピラー前側接続部22、Bピラー後側接続部23)が設けられている。
【0068】
第1の領域14は、サイドシル1のAピラーロアー接続部21の後端から後方に150mm以下離れた位置までの領域である。
図1に示す例では、サイドシル1にAピラーロアー19が覆いかぶさっているが、Aピラーロアー19の後端部とサイドシル1の前端部1aとが突き合わされて接続される場合もある。いずれの場合でも第1の領域14は、Aピラーロアー接続部21の後端から後方に150mm以下離れた位置までの領域である。
【0069】
また、第2の領域16は、Bピラー接続部(Bピラー前側接続部22)から前方へ150mm以下離れた位置と、Bピラー接続部(Bピラー後側接続部23)から後方へ150mm以下離れた位置との間の領域である。
【0070】
一方、第3の領域18では、第3領域外側高さho
3及び第3領域内側高さhi
3が一定の値であり、且つ、第3領域外側高さho
3と第3領域内側高さhi
3との差が、第2領域外側高さho
2と第2領域内側高さhi
2との差よりも小さい。
【0071】
そして、第2の遷移領域17では、第2遷移領域外側高さho
2〜3が、第2領域外側高さho
2と第3領域外側高さho
3との間で連続的に変化するとともに、第2遷移領域内側高さhi
2〜3が、第2領域内側高さhi
2と第3領域内側高さhi
3との間で連続的に変化する。
【0072】
上記のように、第1領域外側高さho
1、第1領域内側高さhi
1、第2領域外側高さho
2、第2領域内側高さhi
2、第1遷移領域外側高さho
1〜2、第1遷移領域内側高さhi
1〜2、第3領域外側高さho
3、第3領域内側高さhi
3、第2遷移領域外側高さho
2〜3、及び第2遷移領域内側高さhi
2〜3を設定することにより、側面衝突時に生じるサイドシル1の三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができるとともに、スモールオーバーラップ衝突を含む前面衝突時または後面衝突時に軸圧壊変形がサイドシル1に生じた場合でも、スポット破断の発生をも抑制することでき、これにより、サイドシル1の軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができる。以下、この理由について説明する。
【0073】
上述のように、第1の領域14および第3の領域18には、良好な軸圧壊特性を有することが要求されるが、この良好な軸圧壊特性は、衝撃荷重の入力方向が、サイドシル1の材軸方向(長さ方向)に一致する場合のみならず、この材軸方向から例えば10度程度傾いた方向である場合にも、要求される。
【0074】
図2(a)および
図2(b)は、本発明者ら行った軸圧壊変形の数値解析に用いた本発明例のサイドシルの試験体24および比較例のサイドシルの試験体25の断面形状を模式的に示す説明図である。また、
図3(a)〜
図3(e)は、軸圧壊変形の数値解析条件を模式的に示す説明図である。
【0075】
本発明者らは、
図2(a)および
図2(b)に示すように、第1領域外側高さho
1と第1領域内側高さhi
1との比が、ho
1:hi
1=1:1である本発明例の試験体24と、ho
1:hi
1=3:1である比較例の試験体25を用い、
図3(a)〜
図3(e)に示すように、サイドシルの先端部を想定した軸圧壊変形の数値解析試験を行った。
なお、試験体24及び25の板厚tを1.4mm、引張強度を980MPa、全長を350mmとした。試験体24及び25の材軸方向に沿って40mm間隔で設定された9点箇所で抵抗スポット溶接を行った。抵抗スポット溶接によって形成される溶接ナゲットのナゲット径が4√t(mm)となるように溶接条件を設定した。
【0076】
軸圧壊変形の数値解析試験では、試験体24及び25の下端部を固定した後、試験体24及び25の上端部に対して、平板状の剛体26を、試験体24及び25の幅方向に対して平行な状態または10°傾斜させた状態で衝突させた。試験体24及び25に対する剛体26の衝突速度は20km/hとした。
図3(a)〜(e)に示す解析条件のそれぞれについて、剛体26の衝突によって試験体24及び25の材軸方向に沿って150mmの範囲で軸圧壊変形を生じさせた場合におけるスポット破断の有無を調査した。また、
図3(a)〜(e)に示す解析条件のそれぞれについて、剛体26の衝突によって試験体24及び25の材軸方向に沿って150mmの範囲で軸圧壊変形を生じさせた場合における衝撃エネルギー吸収量EA(kJ)を解析した。
【0077】
表1は、スポット破断の有無の試験結果を示す。
図4は、軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量EA(kJ)の解析結果を示すグラフである。
【0079】
表1および
図4に示すように、
図3(e)に示す解析条件にて試験を行った比較例の試験体25では、10°傾斜した剛体26が、ハット小側のハット形パネル(縦壁の高さが小さいハット形のサイドシルインナーパネル)よりもハット大側のハット形パネル(縦壁の高さが大きいハット形のサイドシルアウターパネル)に対して先に衝突することにより、スポット破断が発生し、その結果、衝撃エネルギー吸収量EAが低下した。
【0080】
これに対し、
図3(a)及び(b)に示す解析条件にて試験を行った本発明例の試験体24では、剛体26を試験体24の幅方向に対して平行な状態で衝突させた場合と、剛体26を試験体24の幅方向に対して10°傾斜させた状態で衝突させた場合とのいずれの場合においても、スポット破断は発生しなかった。このような試験結果に示されるように、比較例の試験体25と比較して、本発明例の試験体24は、軸圧壊変形に対して高いロバスト性を有することが判明した。
【0081】
この理由は、以下のように考えられる。すなわち、比較例の試験体25では、サイドシルアウターパネル(ハット大側のハット形パネル)の縦壁の高さがサイドシルインナーパネル(ハット小側のハット形パネル)の縦壁の高さよりも大きいため、縦壁の面剛性が本発明例の試験体24よりも低い。このため、特に
図3(e)に示すように、面剛性が低い縦壁を有するサイドシルアウターパネルに先に衝撃荷重が入力されると、このサイドシルアウターパネルが大きく変形してサイドシルインナーパネルとの溶接部(フランジ)におけるせん断変形が過大となり、その結果、早期にスポット破断が発生する。
【0082】
このように、サイドシル1の第1の領域14及び第3の領域18では、第1領域外側高さho
1、第1領域内側高さhi
1、第3領域外側高さho
3、及び第3領域内側高さhi
3を、それぞれ一定の値とすることにより、サイドシル1の第1の領域14及び第3の領域18において衝撃荷重により軸圧壊変形が生じたとしても、スポット破断の発生を大幅に抑制でき、その結果、軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量EAの低下を抑制できる。
【0083】
図5及び6は、Bピラー接続部で側面衝突が発生した場合を想定した側面衝突試験で採用したサイドシル27の3点曲げ変形の数値解析条件を示す説明図である。
【0084】
また、
図7は、第2領域外側高さho
2と第2領域内側高さhi
2との比が、ho
2:hi
2=1:1である比較例の試験体29と、ho
2:hi
2=3:1である本発明例の試験体30とを示す説明図である。
【0085】
試験体29及び30の板厚を1.4mm、引張強度を980MPaとした。Bピラー20の板厚を1.4mm、引張強度を590MPaとした。Bピラー20は、サイドシル27の天板に接合された。サイドシル27の両端の拘束条件を全周完全拘束とし、Bピラー20の車両上方端の拘束条件を回転変位の許容及び初期位置から車両上方のみの変位許容とした。
図6に示すように、水平配置された試験体29及び30に対して上方から剛体28を速度20km/hで衝突させた。試験体29及び30のそれぞれについて、剛体28のストロークが170mmである場合の衝撃エネルギー吸収量EA(kJ)を解析した。
【0086】
図8は、試験体29及び30のそれぞれについて解析した三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量EAの解析結果を示す。
図8に示すように、本発明例の試験体30の衝撃エネルギー吸収量EAは、比較例の試験体29の衝撃エネルギー吸収量EAよりも大幅に高いことがわかる。
【0087】
この理由は、以下のように考えられる。すなわち、側面衝突による衝撃荷重を負荷されると、サイドシルアウターパネルには、Bピラーとの接合領域を介して曲げモーメントが付与される。サイドシルアウターパネルの第2領域外側高さho
2について、比較例の試験体29と本発明例の試験体30とを比較すると、比較例の試験体29の第2領域外側高さho
2は、本発明例の試験体30の第2領域外側高さho
2よりも小さい。そのため、比較例の試験体29のサイドシルアウターパネルに曲げモーメントが付与された場合、サイドシルインナーパネルとの溶接部(フランジ)に大きな変形が生じ、その結果、比較例の試験体29の衝撃エネルギー吸収量EAが本発明例の試験体30の衝撃エネルギー吸収量EAよりも小さくなるものと考えられる。
【0088】
以上のような解析結果に基づく本実施形態によれば、側面衝突時に生じるサイドシル1の三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができるとともに、前面衝突時または後面衝突時に軸圧壊変形がサイドシル1に生じた場合でもスポット破断の発生をも抑制でき、これにより、サイドシル1の軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができる。
【0089】
第1の領域14は、サイドシル1のAピラーロアー接続部21の後端から後方へ150mm以下離れた位置までの領域であることが望ましい。第1の領域14は、乗員の足首に近接する範囲であるとともにAピラーロアー19の下端部に対して抵抗スポット溶接により接続される部分であるため、衝撃荷重の入力時に第1の領域14においてスポット破断が発生することを必ず防ぐ必要がある。そのため、サイドシル1のAピラーロアー接続部21の後端から後方へ150mm以下離れた位置までの領域を第1の領域14とすることが望ましい。
【0090】
また、第2の領域16は、Bピラー前側接続部22から車両前方に向かって150mm離れた位置と、Bピラー後側接続部23から車両後方へ向かって150mm離れた位置との間の領域であることが望ましい。第2の領域16の一部に対してBピラー20の下端部が抵抗スポット溶接により固定されるが、側面衝突時には第2の領域16においてサイドシルアウターパネル3の縦壁11a及び11bに三点曲げ変形が発生する。このように第2の領域16で生じる三点曲げ変形に対する抵抗性を高めて、三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めるためには、上記の領域を第2の領域16とすることが望ましい。
【0091】
第1の領域14では、下記関係式(a)を満足することが好ましい。
0.40×(hi
1+ho
1)≦ho
1≦0.60×(hi
1+ho
1) …(a)
【0092】
第2の領域16では、下記関係式(b)を満足することが好ましい。
0.1×(hi
2+ho
2)≦hi
2≦0.4×(hi
2+ho
2) …(b)
【0093】
第3の領域18では、下記関係式(c)を満足することが好ましい。
0.40×(hi
3+ho
3)≦ho
3≦0.60×(hi
3+ho
3) …(c)
【0094】
上記関係式(a)及び(c)を満足することにより、前面衝突時または後面衝突時においてサイドシル1に軸圧壊変形が生じたとしても、第1の領域14及び第3の領域18におけるスポット破断の発生が抑制され、その結果、サイドシル1の軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量が高まる。また、上記関係式(b)を満足することにより、側面衝突時にサイドシルアウターパネル3に三点曲げ変形が生じることが抑制され、その結果、三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量が高まる。
【0095】
以上のように、第1実施形態では、第1の領域14、第2の領域16、第3の領域18、第1の遷移領域15および第2の遷移領域16を備えるサイドシル1を例示したが、少なくとも、第1の領域14、第2の領域16、及び第1の遷移領域15を備えるサイドシルであればよい。例えば、第2の領域16に後端部が含まれてもよい。
【0096】
図9Aは、サイドシルインナーパネル2およびサイドシルアウターパネル3の接合部の合わせ構造の第1変形例を示す説明図である。
図9Bは、サイドシルインナーパネル2およびサイドシルアウターパネル3の接合部の合わせ構造の第2変形例を示す説明図である。
【0097】
図9Aに示すように、第1変形例のサイドシル1−1では、接合部の少なくとも一部において、外向きフランジ13a及び13bのフランジ幅が、外向きフランジ8a及び8bのフランジ幅よりも長く設定されている。これら外向きフランジ13a及び13bが、外向きフランジ8a及び8bを覆うようにヘミング加工(ヘム加工)によって曲げられている。例えば、第1の領域14または第3の領域18において上記構成を採用することにより、軸圧壊変形発生時におけるスポット破断の抑制効果が向上する。
なお、外向きフランジ8a及び8bのフランジ幅が、外向きフランジ13a及び13bのフランジ幅よりも長く設定されており、これら外向きフランジ8a及び8bが、外向きフランジ13a及び13bを覆うようにヘミング加工によって曲げられていてもよい。
【0098】
図9Bに示すように、第2変形例のサイドシル1−2では、接合部の少なくとも一部において、サイドシルインナーパネル2に外向きフランジ8a及び8bが設けられておらず、サイドシルアウターパネル3に外向きフランジ13a及び13bが設けられていない。サイドシルインナーパネル2の二つの縦壁6a及び6bの縁部と、サイドシルアウターパネル3の二つの縦壁13a及び13bの縁部とがそれぞれ重ね合わされた状態で接合されている。例えば、第1の領域14または第3の領域18において上記構成を採用することにより、軸圧壊変形発生時におけるスポット破断の抑制効果が向上する。
【0099】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態では、本発明に係る自動車部材として自動車車体の骨格部材であるフロントサイドメンバを例示する。このフロントサイドメンバは、インナーパネルとしてフロントサイドメンバインナーパネルを有するとともに、アウターパネルとしてフロントサイドメンバアウターパネルを有する。
【0100】
図10は、本発明の第2実施形態に係るフロントサイドメンバ31の概略構成を示す斜視図である。
図11は、フロントサイドメンバ31の配置状況を部分的にかつ簡略化して示す上面図である。
図11にはB−B断面およびC−C断面を併せて示す。
【0101】
フロントサイドメンバ31は、少なくとも、フロントサイドメンバインナーパネル32と、フロントサイドメンバアウターパネル33とを有する。フロントサイドメンバインナーパネル32及びフロントサイドメンバアウターパネル33は、それぞれ、1.0mm以上の板厚を有する高張力鋼板からなる形鋼である。フロントサイドメンバインナーパネル32とフロントサイドメンバアウターパネル33との間に、レインフォース(補強板)が設けられていてもよい。
【0102】
フロントサイドメンバインナーパネル32は、少なくとも、天板4と、天板4につながる二つの縦壁6a及び6bとを有する。フロントサイドメンバインナーパネル32は、通常の曲げ成形または絞り成形によるプレス加工や、曲げ成形によるロール加工により成形されて製造されるため、天板4と、縦壁6a及び6bとにつながる稜線5a及び5bを有する。
【0103】
フロントサイドメンバインナーパネル32の縁部には、二つの縦壁6a及び6bにつながる外向きフランジ8a及び8bが設けられている。外向きフランジ8a及び8bは、フロントサイドメンバアウターパネル33の縁部に設けられた外向きフランジ13a及び13bと重ね合わされた状態で、例えば抵抗スポット溶接等により接合される接合代である。このため、フロントサイドメンバインナーパネル32は、縦壁6a及び6bと、外向きフランジ8a及び8bとにつながる曲線部7a及び7bをさらに有する。
【0104】
稜線5a及び5bと、曲線部7a及び7bとのそれぞれの曲率半径は、上述の通常の加工法により製造される程度の値であり、通常3〜20mmである。
【0105】
一方、フロントサイドメンバアウターパネル33も、フロントサイドメンバインナーパネル32と同様に、少なくとも、天板9と、天板9につながる二つの縦壁11a及び11bとを有する。フロントサイドメンバアウターパネル33は、通常の曲げ成形または絞り成形によるプレス加工や、曲げ成形によるロール加工により製造されるため、天板9と、縦壁11a及び11bとにつながる稜線10a及び10bを有する。
【0106】
また、フロントサイドメンバアウターパネル33の縁部には、二つの縦壁11a及び11bにつながる外向きフランジ13a及び13bが設けられている。外向きフランジ13a及び13bは、フロントサイドメンバインナーパネル32の縁部に設けられた外向きフランジ8a及び8bと重ね合わされた状態で、例えば抵抗スポット溶接等により接合される接合代である。このため、フロントサイドメンバアウターパネル33は、縦壁11a及び11bと外向きフランジ13a及び13bとにつながる曲線部12a及び12bをさらに有する。
【0107】
稜線10a及び10bと、曲線部12a及び12bとのそれぞれの曲率半径は、上述の通常の加工法により製造される程度の値であり、通常3〜20mmである。
【0108】
以上の説明では、外向きフランジ8a及び8bが、抵抗スポット溶接によって外向きフランジ13a及び13bに接合される場合を例示したが、例えばレーザ溶接やアーク溶接のような抵抗スポット溶接以外の他の溶接、接着、さらにはろう接合等の他の接合法を用いることも可能である。
【0109】
フロントサイドメンバ31は、第1の領域14、第1の遷移領域15および第2の領域16を有する。
【0110】
第1の領域14は、フロントサイドメンバ31の前端部31aから後方へ向けて延在する。第1の遷移領域15は、第1の領域14に連続して後方へ向けて延在する。さらに、第2の領域16は、第1の遷移領域15に連続して後方へ向けて延在する。
【0111】
以下では、第1の領域14におけるフロントサイドメンバアウターパネル33の縦壁11a及び11bの高さを第1領域外側高さho
1と定義し、第1の領域14におけるフロントサイドメンバインナーパネル32の縦壁6a及び6bの高さを第1領域内側高さhi
1と定義する。
第2の領域16におけるフロントサイドメンバアウターパネル33の縦壁11a及び11bの高さを第2領域外側高さho
2と定義し、第2の領域16におけるフロントサイドメンバインナーパネル32の縦壁6a及び6bの高さを第2領域内側高さhi
2と定義する。第1の遷移領域15におけるフロントサイドメンバアウターパネル33の縦壁11a及び11bの高さを第1遷移領域外側高さho
1〜2と定義し、第1の遷移領域15におけるフロントサイドメンバインナーパネル32の縦壁6a及び6bの高さを第1遷移領域内側高さhi
1〜2と定義する。
【0112】
第1の領域14では、第1領域外側高さho
1及び第1領域内側高さhi
1が一定の値であり、且つ、第1領域外側高さho
1と第1領域内側高さhi
1との差が、第2領域外側高さho
2と第2領域内側高さhi
2との差よりも小さい。
図10に示すフロントサイドメンバ31では、第1領域外側高さho
1と第1領域内側高さhi
1とがほぼ等しい。
【0113】
このように、フロントサイドメンバ31の前端側に位置する第1の領域14において、第1領域外側高さho
1と第1領域内側高さhi
1とがほぼ等しいため、第1実施形態で説明したように、前面衝突時におけるスポット破断の発生を抑制できる。
【0114】
第2の領域16では、第2領域外側高さho
2が第2領域内側高さhi
2よりも小さく且つ一定の値である。
図10に示すフロントサイドメンバ31では、第2領域外側高さho
2が零である。すなわち、第2の領域16では、フロントサイドメンバアウターパネル33の縦壁11a及び11bは存在しない。
【0115】
第1の遷移領域15では、第1遷移領域外側高さho
1〜2が、第1領域外側高さho
1と第2領域外側高さho
2との間で連続的に変化するとともに、第1遷移領域内側高さhi
1〜2が、第1領域内側高さhi
1と第2領域内側高さhi
2との間で連続的に変化する。
【0116】
第2の領域16におけるフロントサイドメンバインナーパネル32の縦壁6aに、横置されたエンジン44を支持するエンジンマウントブラケット46が固定される。第2の領域16では、フロントサイドメンバアウターパネル33の縦壁11a及び11bが存在しないので、フロントサイドメンバインナーパネル32の縦壁6a及び6bの高さ(第2領域内側高さhi
2)が十分に確保されている。このため、エンジンマウントブラケット46の搭載性が十分に確保されるとともに、
図17に示すように、前面衝突時に、フロントサイドメンバ31が車内側へ折れ曲がるので、衝撃エネルギー吸収量を高めることができる。
【0117】
このため、第1の領域14および第2の領域16は、エンジンマウントブラケット46の搭載位置よりもフロントサイドメンバ31の前端部31a寄りに形成される。
【0118】
上記のように、第1領域外側高さho
1、第1領域内側高さhi
1、第2領域外側高さho
2、第2領域内側高さhi
2、第1遷移領域外側高さho
1〜2、及び第1遷移領域内側高さhi
1〜2を設定することにより、エンジンマウントブラケット46の搭載性を維持できるとともに、前面衝突時におけるスポット破断の発生を抑制できる。
【0119】
第1の領域14では、下記関係式(a)を満足することが好ましい。これにより、前面衝突時または後面衝突時においてフロントサイドメンバ31に軸圧壊変形が生じた場合でもスポット破断の発生が抑制されるので、軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量が高まる。
0.40×(hi
1+ho
1)≦ho
1≦0.60×(hi
1+ho
1) …(a)
【0120】
第1の領域14は、フロントサイドメンバ31の前端部31aと、前端部31aから後方へ400mm以下離れた位置との間の領域であることが望ましい。これにより、外向きフランジ8a及び13aの溶接部でスポット破断が発生することを回避することが可能となり、その結果、衝撃エネルギー吸収量の低下を回避することできる。
【0121】
第2の領域16は、前端部31aから150mm以上離れた位置より後方に存在する領域であることが望ましい。これにより、効果的にエンジン44をマウントすることができるだけでなく、衝突時にフロントサイドメンバ31を効果的に折ることができ、衝撃エネルギー吸収量を向上させることができる。
【0122】
さらに、第2の領域16では、下記関係式(d)または関係式(e)を満足することが望ましい。これにより、効果的にエンジン44をマウントできるだけでなく、衝突時にフロントサイドメンバ31を効果的に折ることができ、衝撃エネルギー吸収量を向上させることができる。
0≦hi
2≦0.40×(hi
2+ho
2)
・・・・・(d)
0≦ho
2≦0.40×(hi
2+ho
2)
・・・・・(e)
さらに、第1実施形態と同様に、フロントサイドメンバ31の接合部の合わせ構造が、
図9Aおよび
図9Bを参照しながら説明した変形例と同じ構造を有していてもよい。
【0123】
以上の説明では、フロントサイドメンバインナーパネル32の外向きフランジ8a及び8bと、フロントサイドメンバアウターパネル33の外向きフランジ13a及び13bとが、第2の領域16において車外側に配置される場合を例示したが、これらの外向きフランジ8a、8b、13a及び13bが車内側に配置される場合には、外向きフランジ8a、8b、13a及び13bを跨いで縦壁に到達する形状を有するエンジンマウントブラケットを用いればよい。
【0124】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態では、本発明に係る自動車部材として自動車車体の骨格部材であるサイドシルを例示する。このサイドシルは、インナーパネルとしてサイドシルインナーパネルを有するとともに、アウターパネルとしてサイドシルアウターパネルを有する。
【0125】
図12Aは、本発明の第3実施形態に係るサイドシル100の平面図である。
図12Bは、
図12Aに示すサイドシル100のE−E矢視断面図である。
図12A及び
図12Bに示すように、サイドシル100は、サイドシルアウターパネル110と、サイドシルインナーパネル120とを有する。サイドシルアウターパネル110及びサイドシルインナーパネル120は、高張力鋼板からなるハット形鋼である。
【0126】
サイドシルアウターパネル110は、天板111と、一対の縦壁112及び113と、一対の外向きフランジ114及び115とを有する。これら天板111と、縦壁112及び113と、外向きフランジ114及び115とは、それぞれ、サイドシル100の材軸方向(長さ方向)に延在する矩形状の平板である。
【0127】
図12Bに示すように、サイドシル100を、その材軸方向に直交する断面で見たとき、天板111と縦壁112との間の角度が略直角となるように、縦壁112の一方の幅方向端部が、天板111の一方の幅方向端部に接続されている。同様に、天板111と縦壁113との間の角度が略直角となるように、縦壁113の一方の幅方向端部が、天板111の他方の幅方向端部に接続されている。
なお、1枚の鋼板をプレス加工することによってサイドシルアウターパネル110が形成された場合、天板111と縦壁112との接続部位と、天板111と縦壁113との接続部位には、第1実施形態で説明した稜線が存在するが、
図12Bでは図示を省略する。
【0128】
また、
図12Bに示すように、サイドシル100を、その材軸方向に直交する断面で見たとき、縦壁112と外向きフランジ114との間の角度が略直角となり、且つ外向きフランジ114が縦壁112からサイドシル100の外側へ向かって突出するように、外向きフランジ114の一方の幅方向端部が、縦壁112の他方の幅方向端部に接続されている。
同様に、縦壁113と外向きフランジ115との間の角度が略直角となり、且つ外向きフランジ115が縦壁113からサイドシル100の外側へ向かって突出するように、外向きフランジ115の一方の幅方向端部が、縦壁113の他方の幅方向端部に接続されている。
なお、1枚の鋼板をプレス加工することによってサイドシルアウターパネル110が形成された場合、縦壁112と外向きフランジ114との接続部位と、縦壁113と外向きフランジ115との接続部位には、第1実施形態で説明した曲線部が存在するが、
図12Bでは図示を省略する。
【0129】
縦壁112及び113の長さと、外向きフランジ114及び115の長さとは、天板111の長さと同じである。縦壁112の幅(第1実施形態で説明した「縦壁の高さ」に相当)は、縦壁113の幅と同じである。外向きフランジ114の幅は、外向きフランジ115の幅と同じである。
【0130】
サイドシルインナーパネル120は、天板121と、一対の縦壁122及び123と、一対の外向きフランジ124及び125とを有する。これら天板121と、縦壁122及び123と、外向きフランジ124及び125とは、それぞれ、サイドシル100の材軸方向に延在する矩形状の平板である。
【0131】
図12Bに示すように、サイドシル100を、その材軸方向に直交する断面で見たとき、天板121は、天板111に対して対向している。天板121の長さ及び幅は、天板111の長さ及び幅と同じである。天板121と縦壁122との間の角度が略直角となるように、縦壁122の一方の幅方向端部が、天板121の一方の幅方向端部に接続されている。同様に、天板121と縦壁123との間の角度が略直角となるように、縦壁123の一方の幅方向端部が、天板121の他方の幅方向端部に接続されている。
なお、1枚の鋼板をプレス加工することによってサイドシルインナーパネル120が形成された場合、天板121と縦壁122との接続部位と、天板121と縦壁123との接続部位には、第1実施形態で説明した稜線が存在するが、
図12Bでは図示を省略する。
【0132】
また、
図12Bに示すように、サイドシル100を、その材軸方向に直交する断面で見たとき、縦壁122と外向きフランジ124との間の角度が略直角となり、且つ外向きフランジ124が縦壁122からサイドシル100の外側へ向かって突出するように、外向きフランジ124の一方の幅方向端部が、縦壁122の他方の幅方向端部に接続されている。
同様に、縦壁123と外向きフランジ125との間の角度が略直角となり、且つ外向きフランジ125が縦壁123からサイドシル100の外側へ向かって突出するように、外向きフランジ125の一方の幅方向端部が、縦壁123の他方の幅方向端部に接続されている。
なお、1枚の鋼板をプレス加工することによってサイドシルインナーパネル120が形成された場合、縦壁122と外向きフランジ124との接続部位と、縦壁123と外向きフランジ125との接続部位には、第1実施形態で説明した曲線部が存在するが、
図12Bでは図示を省略する。
【0133】
縦壁122及び123の長さと、外向きフランジ124及び125の長さとは、天板121の長さと同じである。縦壁122の幅は、縦壁123の幅と同じである。外向きフランジ124の幅は、外向きフランジ125の幅と同じである。外向きフランジ124及び125の幅は、外向きフランジ114及び115の幅と同じである。
【0134】
上記のように、サイドシルアウターパネル110及びサイドシルインナーパネル120は、それぞれハット形の断面形状を有する。サイドシルアウターパネル110の外向きフランジ114及び115と、サイドシルインナーパネル120の外向きフランジ124及び125とが重ね合わされた状態で、抵抗スポット溶接等により接合されている。
【0135】
以下では、サイドシルアウターパネル110の縦壁112及び113の高さ(幅)を外側高さhoと定義するとともに、サイドシルインナーパネル120の縦壁122及び123の高さ(幅)を内側高さhiと定義する。
また、サイドシルアウターパネル110の引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義するとともに、サイドシルインナーパネル120の引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義する。
【0136】
第3実施形態のサイドシル100において、外側高さho及び内側高さhiは、それぞれ、サイドシル100の長さ方向において一定の値であり、且つ外側高さhoが内側高さhiより大きい。このようなサイドシル100では、下記関係式(f)を満足するように、サイドシルアウターパネル110の引張強度TSo及び板厚toと、サイドシルインナーパネル120の引張強度TSi及び板厚tiとが設定されている。
TSo×to < TSi×ti …(f)
【0137】
上記のような構成を有する第3実施形態のサイドシル100によれば、第1実施形態のサイドシル1と同様に、軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量と三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量との両方を高めることができる。以下、その理由について説明する。
【0138】
図13Aに示すように、第3実施形態のサイドシル100を模擬した試験体200を用意し、第1実施形態と同様に軸圧壊変形の解析試験を行った。すなわち、この試験では、試験体200の下端部を固定した後、試験体200の上端部に対して、平板状の剛体300を、試験体200の幅方向に対して10°傾斜させた状態で衝突させた。ここで、剛体300が、ハット小側のハット形パネル220(縦壁の高さが小さいサイドシルインナーパネル)よりもハット大側のハット形パネル(縦壁の高さが大きいハット形のサイドシルアウターパネル)に対して先に衝突するように、剛体300の傾斜状態を調整した。試験体200に対する剛体300の衝突速度は20km/hとした。
【0139】
ハット小側のハット形パネル(サイドシルインナーパネル)220の引張強度TSiを780(MPa)に固定すると共に板厚tiを1.4(mm)に固定するという条件下で、ハット大側のハット形パネル(サイドシルアウターパネル)210の引張強度TSo及び板厚toの組み合わせを、表2に示す組み合わせに従って設定した。表2に示す組み合わせを採用した試験体200に対して上記の衝突条件で剛体300を衝突させて、スポット破断の有無を調査した。
【0140】
表2にスポット破断の有無の調査結果を示す。また、
図13Bは、表2に基づいて、ハット大側のハット形パネル(サイドシルアウターパネル)210の引張強度TSo及び板厚toの乗算値(TSo×to)と、板厚toとの対応関係をグラフ化した図である。
【0142】
図13Bに示すように、ハット大側のハット形パネル(サイドシルアウターパネル)210の引張強度TSo及び板厚toの乗算値(TSo×to)が、ハット小側のハット形パネル(サイドシルインナーパネル)220の引張強度TSi及び板厚tiの乗算値(TSi×ti=1092(MPa・mm)固定)以上の場合、スポット破断が発生して軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量EAが低下することが判明した。
一方、ハット大側のハット形パネル(サイドシルアウターパネル)210の引張強度TSo及び板厚toの乗算値(TSo×to)が、ハット小側のハット形パネル(サイドシルインナーパネル)220の引張強度TSi及び板厚tiの乗算値(TSi×ti=1092(MPa・mm)固定)より小さい場合、スポット破断が発生せずに、軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量EAも低下しないことが判明した。
【0143】
以上のような解析結果から、サイドシル100の外側高さhoが内側高さhiより大きい場合には、上記関係式(f)を満足するように、サイドシルアウターパネル110の引張強度TSo及び板厚toと、サイドシルインナーパネル120の引張強度TSi及び板厚tiとを設定することにより、スモールオーバーラップ衝突を含む前面衝突時または後面衝突時に軸圧壊変形がサイドシル100に生じた場合でもスポット破断の発生を抑制でき、その結果、サイドシル100の軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量を高めることができる。
また、サイドシル100の構成は、第1実施形態におけるサイドシル1の第2の領域16の構成と同じであるので、サイドシル100によれば、側面衝突時に生じる三点曲げ変形に対する衝撃エネルギー吸収量も高めることができる。
【0144】
なお、上記第3実施形態では、外側高さho及び内側高さhiが、それぞれ、サイドシル100の長さ方向において一定の値であり、且つ外側高さhoが内側高さhiより大きい場合を例示したが、例えば、外側高さho及び内側高さhiが、それぞれ、サイドシルの長さ方向において一定の値であり、且つ外側高さhoが内側高さhiより小さい場合には、下記関係式(g)を満足するように、サイドシルアウターパネルの引張強度TSo及び板厚toと、サイドシルインナーパネルの引張強度TSi及び板厚tiとを設定すればよい。
TSo×to > TSi×ti …(g)
【0145】
また、上記第3実施形態では、自動車部材としてサイドシル100を例示したが、自動車部材がフロントサイドメンバであってもよい。この場合、フロントサイドメンバは、アウターパネルとして上記のサイドシルアウターパネル110と同じ構成のフロントサイドメンバアウターパネルを有すると共に、インナーパネルとして上記のサイドシルインナーパネル120と同じ構成のフロントサイドメンバインナーパネルを有する。
【0146】
[第4実施形態]
図14は、本発明の第4実施形態に係るサイドシル1Aの概略構成を示す平面図である。第4実施形態に係るサイドシル1Aは、第1実施形態と同じ構成を有するサイドシルインナーパネル2及びサイドシルアウターパネル3を備えている。そのため、以下では、第4実施形態のサイドシル1Aの構成のうち、第1実施形態のサイドシル1の構成とは異なる点のみを説明する。
【0147】
また、以下では、サイドシル1Aにおいて、サイドシルアウターパネル3の引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、サイドシルインナーパネル2の引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義する。
【0148】
図14に示すように、第1実施形態のサイドシル1と同様に、サイドシル1Aにおいても、第2領域外側高さho
2が第2領域内側高さhi
2より大きい。このようなサイドシル1Aでは、下記関係式(f)を満足するように、サイドシルアウターパネル3の引張強度TSo及び板厚toと、サイドシルインナーパネル2の引張強度TSi及び板厚tiとが設定されている。
TSo×to < TSi×ti …(f)
【0149】
上記のような構成を有する第4実施形態のサイドシル1Aによると、第1実施形態及び第3実施形態の両方の特徴を備えているので、それらの相乗効果によって、三点曲げ変形及び軸圧壊変形に対する衝撃エネルギー吸収量をより効果的に高めることができる。
【0150】
[第5実施形態]
図15は、本発明の第5実施形態に係るフロントサイドメンバ31Aの概略構成を示す平面図である。第5実施形態に係るフロントサイドメンバ31Aは、第2実施形態と同じ構成を有するフロントサイドメンバインナーパネル32及びフロントサイドメンバアウターパネル33を備えている。そのため、以下では、第5実施形態のフロントサイドメンバ31Aの構成のうち、第2実施形態のフロントサイドメンバ31の構成とは異なる点のみを説明する。
【0151】
また、以下では、フロントサイドメンバ31Aにおいて、フロントサイドメンバアウターパネル33の引張強度をTSo(MPa)及び板厚をto(mm)と定義し、フロントサイドメンバインナーパネル32の引張強度をTSi(MPa)及び板厚をti(mm)と定義する。
【0152】
図15に示すように、第2実施形態のフロントサイドメンバ31と同様に、フロントサイドメンバ31Aにおいても、第2領域外側高さho
2が第2領域内側高さhi
2より小さい。このようなフロントサイドメンバ31Aでは、下記関係式(g)を満足するように、フロントサイドメンバアウターパネル33の引張強度TSo及び板厚toと、フロントサイドメンバインナーパネル32の引張強度TSi及び板厚tiとが設定されている。
TSo×to > TSi×ti …(g)
【0153】
上記のような構成を有する第5実施形態のフロントサイドメンバ31Aによると、第2実施形態及び第3実施形態の両方の特徴を備えているので、それらの相乗効果によって、エンジンマウントブラケットの搭載性を維持しながら、前面衝突時におけるスポット破断の発生をより効果的に抑制できる。
【0154】
以上、本発明の第1〜第5実施形態について説明したが、各実施形態で説明した自動車部材(サイドシル及びフロントサイドメンバ)が、素材の状態で板厚及び引張強度等が異なる複数種の鋼板を溶接(例えば突き合わせ溶接)によって一体化したテーラードウェルドブランク(TWB)、又は、素材を製造する際に圧延ロールの間隔を変更することにより板厚を変化させたテーラドロールドブランク(TRB)、或いはそれらTWB及びTRBの組み合わせによって形成されていてもよい。