【実施例】
【0039】
実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明を続ける。
【0040】
本発明の効果を確認するために、実生産規模の鋳造機を用いて、鋳片の冷却試験を行い、冷却条件(水量密度、および冷却時間)と鋳片表層の組織との関係を調査した。実施例(本発明例)として、第1水冷工程での水冷、第1復熱工程での復熱、第2水冷工程での水冷、および第2復熱工程での復熱を実施した。加えて、従来技術による比較例として、冷却を2つに分けることなく連続した1つの冷却工程での冷却を実施し、その後に復熱工程を実施した。いずれの冷却工程においても、鋳片の長辺面および短辺面に対して、スプレーノズルにより冷却水を噴射して冷却した。
【0041】
具体的には、0.6〜0.8m/分の鋳造速度で、C含有量が0.15〜0.23wt%である、幅435mm×厚さ315mmの鋳片を連続鋳造する際に、冷却試験を行った。実施例において、第1水冷工程および第2水冷工程におけるスプレー水量密度は170〜290L/分/m
2とし、第1水冷工程および第2水冷工程で鋳片へ冷却水を供給する時間(冷却時間)は0.95〜3.7分とした。なお、一部の比較例では、鋳片のサイズを、幅が650mmで、厚さが300mmとした。実施例の試験条件および割れの存在有無の結果を表1に、比較例の試験条件および割れの存在有無の結果を表2に、それぞれ示す。それぞれの試験において、割れの存在有無は、当該鋳片サンプルを切り出し、スケールを酸洗除去しその後目視で、割れの有無を判断した。具体的には、目視で割れが見られた場合に「割れ有」と判断し、目視で割れが見られない場合に「割れ無」と判断した。なお、表2における「−」は、その工程を実施していないことを意味する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
すべての実施例において、鋳片表面の冷却速度が1.0〜3.0℃/秒であることを、伝熱解析と鋳片表面の温度測定とにより確認した。
【0045】
得られた鋳片を、長手方向を法線方向とする平面で切断し、断面の組織を光学顕微鏡で観察した。
図3に、断面での組織の観察位置を含む領域を示す。観察は、角部F
corner、および鋳片1の広幅面に隣接する領域であって鋳片1の幅方向中央部(以下において、単に、「中央部」と称する。)F
centerで行った。
【0046】
図4乃至
図7に、鋳片の断面写真を示す。
図4は、比較例1の連続鋳造方法を実施した鋳片の角部の写真である。
図5は、比較例6の連続鋳造方法を実施した際、第1水冷工程および第1復熱工程を実施した後の鋳片について、断面の中央部を撮影した写真である。
図6は、比較例6の連続鋳造方法を実施した際、第1水冷工程および第1復熱工程を実施した鋳片について、断面の角部を撮影した写真である。
図7は、実施例1の連続鋳造方法を実施した際、第2復熱工程後の鋳片について、断面の中央部を撮影した写真である。
【0047】
図4に示したように、比較例1の鋳片では、角部に、γ粒界が明瞭な組織が形成されていた。これは、冷却時の水量密度が大きい比較例1では、過冷却された角部が、その後の復熱工程でAr
3点以上の温度に達することができず、γ粒界が不明瞭な組織に改質することができなかったためであると考えられる。これに対して、
図5に示したように、比較例6の鋳片では、中央部に、γ粒界が明瞭な組織が形成されていた。これは、冷却時の水量密度が小さい比較例6では、中央部の冷却が不十分であり、鋳片中央部表層の温度がAr
3点未満にまで下がらなかったためであると考えられる。
【0048】
一方、
図6に示したように、比較例6の鋳片では、角部に、γ粒界が不明瞭な組織が形成されていた。これは、角部が他の部分に比して強く冷却されたため、角部の温度がAr
3点未満に下がり、その後の復熱で組織改質されたことにより、γ粒界が不明瞭な組織が形成されたためであると考えられる。角部が他の部分に比して強く冷却される理由は、例えば、鋳片の長辺面に供給された冷却水の大部分が、ロールを伝って、角部へと移動して角部を冷却するとともに、鋳片の短辺面に噴射された冷却水によっても冷却されるためであると考えられる。他方、
図7に示したように、第2復熱工程後の実施例1の鋳片の中央部には、γ粒界が不明瞭な組織が形成されていた。図示は省略するが、第2復熱工程後の実施例1の鋳片の角部にも、同様の組織が形成されていた。
【0049】
また、比較例1の鋳片は、第1水冷工程で冷却した際に、角部で割れが生じたのに対して、実施例1の鋳片では、第1水冷工程の開始時から第2復熱工程の終了時までにおいて、表面の全面に亘って、割れが生じなかった。
【0050】
このほか、表1に示したように、実施例1を含むすべての実施例では、鋳片の角部および中央部(すなわち、表面の全面。以下において同じ。)において、割れが生じなかった。これは、鋳片の角部の組織改質、および、鋳片の角部以外の組織改質を別々に行うことにより、鋳片の角部および中央部の表層に、γ粒界が不明瞭な組織を形成することができ、この組織を形成することによって、割れの発生を防止することができたためであると考えられる。
【0051】
これに対し、表2に示したように、本発明を適用しなかった比較例では、そのすべてにおいて、鋳片の角部や鋳片の中央部で、割れが生じた。具体的には、冷却工程を2つに分けず、1回のみ実施した比較例1〜6および比較例15〜16は、角部や中央部に割れが生じた。
より具体的には、比較例1〜5および比較例15では、中央部の割れを防止できる冷却条件(実施例よりも水量密度が高い条件)で冷却した。従来技術のように、中央部の割れを防止する冷却条件で冷却すると、角部が過冷却されるため、復熱工程を行っても、角部の表面温度をAr
3点以上にすることはできない。そのため、比較例1〜5および比較例15では、角部の表層に、γ粒界が不明瞭な組織を形成することができず、結果として角部に割れが発生した。
また、比較例6および比較例16では、第1水冷工程で角部のみ、その表面温度がAr
3点未満になるように冷却することができ、その後の第1復熱工程で、角部を含む鋳片の全体の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができる。その結果、これらの比較例では、γ粒界が不明瞭な組織を角部の表層に形成することができたので、角部には割れが発生しなかった。しかしながら、比較例6および比較例16では、第2水冷工程および第2復熱工程を行わなかったため、中央部にγ粒界が不明瞭な組織を形成することができず、結果として中央部に割れが発生した。
【0052】
また、比較例7〜10は、第1水冷工程で、角部のみ、その表面温度がAr
3点未満になるように、鋳片を冷却することができ、その後の第1復熱工程で、角部を含む鋳片の全体の表面温度がAr
3点以上になるように、鋳片を復熱させることができた。その結果、比較例7〜10では、γ粒界が不明瞭な組織を角部の表層に形成することができたので、角部には割れが発生しなかった。
しかしながら、比較例7では、第2水冷工程で、中央部の表面温度がAr
3点未満になるように鋳片を冷却することができなかった。その結果、比較例7では、γ粒界が不明瞭な組織を中央部に形成することができなかったので、中央部に割れが発生した。
また、比較例8では、第2水冷工程で中央部を冷却し過ぎたため、第2復熱工程で、中央部の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができなかった。その結果、比較例8では、γ粒界が不明瞭な組織を中央部に形成することができなかったので、中央部に割れが発生した。
また、比較例9では、第2水冷工程で、中央部の表面温度がAr
3点未満になるように鋳片を冷却することができなかった。その結果、比較例9では、γ粒界が不明瞭な組織を中央部に形成することができなかったので、中央部に割れが発生した。
また、比較例10では、第2水冷工程で中央部を冷却し過ぎたため、第2復熱工程で、中央部の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができなかった。その結果、比較例10では、γ粒界が不明瞭な組織を中央部に形成することができなかったので、中央部に割れが発生した。
【0053】
また、比較例11〜14は、第2水冷工程で、角部を含む鋳片の全体の表面温度がAr
3点未満になるように、鋳片を冷却することができ、その後の第2復熱工程で、角部の表面温度をAr
3点未満の温度に留めつつ、中央部の表面温度がAr
3点以上になるように、鋳片を復熱させることができた。その結果、比較例11〜14では、γ粒界が不明瞭な組織を中央部の表層に形成することができたので、中央部には割れが発生しなかった。
しかしながら、比較例11では、第1水冷工程で、角部の表面温度がAr
3点未満になるように鋳片を冷却することができなかった。その結果、比較例11では、γ粒界が不明瞭な組織を角部に形成することができなかったので、角部に割れが発生した。
また、比較例12では、第1水冷工程で角部を冷却し過ぎたため、第1復熱工程で、角部の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができなかった。その結果、比較例12では、γ粒界が不明瞭な組織を角部に形成することができなかったので、角部に割れが発生した。
また、比較例13では、第1水冷工程で、角部の表面温度がAr
3点未満になるように鋳片を冷却することができなかった。その結果、比較例13では、γ粒界が不明瞭な組織を角部に形成することができなかったので、角部に割れが発生した。
また、比較例14では、第1水冷工程で中央部を冷却し過ぎたため、第1復熱工程で、角部の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができなかった。その結果、比較例14では、γ粒界が不明瞭な組織を角部に形成することができなかったので、角部に割れが発生した。
【0054】
また、比較例17〜20は、第1水冷工程で、角部を含む鋳片の全体の表面温度がAr
3点未満になるように、鋳片を冷却することができた。しかしながら、比較例17〜20では、第1水冷工程で角部を冷却し過ぎたため、第1復熱工程で、角部の表面温度がAr
3点以上になるように鋳片を復熱させることができなかった。その結果、比較例17〜20では、γ粒界が不明瞭な組織を角部に形成することができなかったので、角部に割れが発生した。