特許第6369610号(P6369610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6369610
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/10 20060101AFI20180730BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20180730BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C08L1/10
   C08L71/00 A
   C08K5/06
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-145880(P2017-145880)
(22)【出願日】2017年7月27日
【審査請求日】2017年12月6日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 佳奈
【審査官】 中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−213499(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122646(WO,A1)
【文献】 特開2000−034435(JP,A)
【文献】 特開2000−043435(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/191440(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第106905598(CN,A)
【文献】 特開2016−069422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体に占める比率が50質量%以上であるセルロースアシレート(A)と、下記式(X)で表されるポリエーテル誘導体(B)と、を含む樹脂組成物。
【化1】


【化2】


【化3】


(式(X)中、Rは、式(X−1)で表される基又は式(X−2)で表される基を表し、Rは、式(X−1)で表される基、式(X−2)で表される基、水素原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を表し、Rは、炭素数1以上5以下のアルキレン基を表し、nは、1以上50以下の整数を表す。
式(X−1)中、R11は、水素原子又はメチル基を表し、R12は、−CH−を表し、m1は0又は1を表す。
式(X−2)中、R13は、−CH−又は−CO−を表し、m2は0又は1を表す。)
【請求項2】
前記式(X)中、Rは、前記式(X−1)で表される基を表す請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースアシレート(A)の置換度が、2.0以上2.9以下である請求項1又は請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記セルロースアシレート(A)100質量部に対する前記ポリエーテル誘導体(B)の含有量が、1.0質量部以上30質量部以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテル誘導体(B)の重量平均分子量が、200以上3000以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエーテル誘導体(B)のハンセンの溶解度パラメータ(SP値)が17(cal/cm1/2以上21(cal/cm1/2以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物が成形された樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂組成物としては種々のものが提供され、各種用途に使用されている。樹脂組成物は、特に、家電製品や自動車の各種部品、筐体等に使用されている。また、事務機器、電子電気機器の筐体などの部品にも熱可塑性樹脂が使用されている。
近年では、植物由来の樹脂が利用されており、従来から知られている植物由来の樹脂の一つにセルロース誘導体がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、「セルロースエステル樹脂と、ポリエーテルエステル化合物と、を含む樹脂組成物」が開示されている。
また、特許文献2には、「セルロースエステルと可塑剤とを主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法であって、上記セルロースエステルとしてアシル部の炭素数が3以上であるエステルをグルコース単位あたり平均0.5個以上有し、カールフィッシャー電量滴定法水分計を用いて180℃にて測定した水分率が0.2〜5.0重量%であるセルロースエステルを用い、上記可塑剤としてポリエーテル化合物を用い、かつ少なくとも1個のベント孔を有する成形機を用いて溶融成形を行うことを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−069419号公報
【特許文献2】特開2005−247911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、セルロースアシレートと、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエチレングリコール又は分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエーテルエステルと、のみを含む樹脂組成物に比べ、流動性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の本発明によって達成される。
【0007】
請求項1に係る発明は、
全体に占める比率が50質量%以上であるセルロースアシレート(A)と、下記式(X)で表されるポリエーテル誘導体(B)と、を含む樹脂組成物である。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
【0012】
(式(X)中、Rは、式(X−1)で表される基又は式(X−2)で表される基を表し、Rは、式(X−1)で表される基、式(X−2)で表される基、水素原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を表し、Rは、炭素数1以上5以下のアルキレン基を表し、nは、1以上50以下の整数を表す。
式(X−1)中、R11は、水素原子又はメチル基を表し、R12は、−CH−を表し、m1は0又は1を表す。
式(X−2)中、R13は、−CH−又は−CO−を表し、m2は0又は1を表す。)
【0013】
請求項に係る発明は、
前記式(X)中、Rは、前記式(X−1)で表される基を表す請求項に記載の樹脂組成物である。
【0014】
請求項に係る発明は、
前記セルロースアシレート(A)の置換度が、2.0以上2.9以下である請求項1又は請求項に記載の樹脂組成物である。
【0015】
請求項に係る発明は、
前記セルロースアシレート(A)100質量部に対する前記ポリエーテル誘導体(B)の含有量が、1.0質量部以上30質量部以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0016】
請求項に係る発明は、
前記ポリエーテル誘導体(B)の重量平均分子量が、200以上3000以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0017】
請求項に係る発明は、
前記ポリエーテル誘導体(B)のハンセンの溶解度パラメータ(SP値)が17(cal/cm1/2以上21(cal/cm1/2以下である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物である。
【0018】
請求項に係る発明は、
請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の樹脂組成物が成形された樹脂成形体である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1、又はに係る発明によれば、セルロースアシレートと、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエチレングリコール又は分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエーテルエステルと、のみを含む樹脂組成物に比べ、流動性に優れた樹脂組成物が提供される。
【0020】
請求項に係る発明によれば、式(X)中、Rが、式(X−2)で表される基である場合に比べ、流動性に優れた樹脂組成物が提供される。
【0021】
請求項に係る発明によれば、セルロースアシレートと、分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエチレングリコール又は分子内に炭素−炭素不飽和結合を有しないポリエーテルエステルと、のみを含む樹脂組成物を適用した場合に比べ、ブリードが抑制されかつ成形性に優れた樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の一例である実施形態について説明する。
本明細書において樹脂組成物中の各成分の量について言及する場合、樹脂組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、樹脂組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0023】
<樹脂組成物>
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレート(A)と、分子内に1以上の炭素−炭素不飽和結合(但し、芳香族基を除く)を有するポリエーテル誘導体(B)と、を含む。
本実施形態における「炭素−炭素不飽和結合」とは、炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を意味し、芳香族基を除く概念である。すなわち、ポリエーテル誘導体(B)は、分子内に、炭素−炭素二重結合及び炭素−炭素三重結合から選択される1以上の炭素−炭素不飽和結合を有する誘導体である。
【0024】
従来、セルロースは、その強固な分子内、分子間水素結合力から高い曲げ弾性率を示しており、金属代替など、従来の樹脂材料では適用し難かった分野へ応用できる可能性がある。
しかしながら、セルロースは、剛直な化学構造により、未変性のセルロースの状態では熱可塑性、有機溶剤への溶解性が乏しいため、射出成形、キャスト成形などの成形加工の用途として、そのまま使用することは容易でない。
そこで、セルロース水酸基の一部をアシル基で置換したセルロースアシレート(アシル化セルロース誘導体)とした上で、可塑剤を加えて成形性を持たせる技術が知られている。
【0025】
しかし、セルロースアシレートは、溶融粘度が高いため、成形可能な状態になるほどの溶融粘度になるまで可塑剤を含ませると、成形する際の流動性は改善されるが、得られる樹脂成形体の機械強度が低下し易くなる。また保管状況により、得られる樹脂成形体の表面への含有成分の移行及び析出(以下「ブリード」とも称する)が生じることもある。
【0026】
これに対し、本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレート(A)と、分子内に1以上の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエーテル誘導体(B)(以下、単に「ポリエーテル誘導体(B)」とも称する)と、を含む。
これにより、樹脂組成物の流動性が向上する。また、ブリードが抑制された樹脂成形体が得られ易くなる。
その理由は定かではないが以下の理由によるものと考えられる。
上記ポリエーテル誘導体(B)は、炭素−炭素不飽和結合と、エーテル基(ポリエーテル部位の酸素原子)とを有する。本実施形態に係る樹脂組成物では、この炭素−炭素不飽和結合及びポリエーテル部位の酸素原子の少なくとも一方が、セルロースアシレートの極性基(例えば、カルボニル基、ヒドロキシ基)と相互作用して、セルロースアシレート間(分子間)に入り込むと考えられる。これにより、分子間の空間が広げられ、かつ分子間で部分的に擬似架橋(化学結合によらずとも電気的な引力等によって引きつけ合った状態)が形成されると考えられる。その結果、分子間に生じ得る水素結合の作用が緩和され、可塑化が促進され、溶融粘度が低下し易くなると考えられる。
【0027】
以上のことから、本実施形態に係る樹脂組成物によれば、流動性が向上する。
また、本実施形態に係る樹脂組成物では、上記擬似架橋の形成により、得られる樹脂成形体からポリエーテル誘導体(B)が放出されにくくなると考えられる。これにより、ブリードが抑制された樹脂成形体が得られ易くなる。
また、本実施形態に係る樹脂組成物では、可塑化が促進されることにより、流動性と共に成形性が向上し易い。これにより、得られる樹脂成形体の機械強度(例えば、引張強度、引張破断伸度及びシャルピー衝撃強度の少なくとも1以上、以下同様である)が確保されやすい。
さらに本実施形態に係る樹脂組成物では、流動性の向上により、成形温度を比較的低くできるので、得られる樹脂成形体の着色が抑制されやすい。
【0028】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の詳細について説明する。
【0029】
[セルロースアシレート(A)]
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレート(A)を含有する。
【0030】
・構造
セルロースアシレート(A)は、セルロースが有する水酸基の少なくも一部をアシル基にて置換(アシル化)したセルロース誘導体であり、具体的には、例えば、一般式(1)で表されるセルロース誘導体である。
【0031】
【化4】
【0032】
一般式(1)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又はアシル基を表す。nは2以上の整数を表す。ただし、n個のR、n個のR、及びn個のRのうちの少なくとも一部はアシル基を表す。
【0033】
一般式(1)中、nの範囲は特に制限されないが、250以上750以下が好ましく、350以上600以下がより好ましい。
nを250以上にすると、樹脂成形体の機械強度が高まり易くなる。nを750以下にすると、樹脂成形体の柔軟性の低下が抑制され易くなる。
【0034】
、R、及びRで表されるアシル基は、炭素数1以上6以下のアシル基であることが好ましく、炭素数1以上4以下のアシル基であることがより好ましく、炭素数1以上3以下のアシル基であることが更に好ましい。
n個のR、n個のR、及びn個のRは、それぞれ、全て同じでも一部同じでも互いに異なっていてもよい。
【0035】
アシル基は「−CO−RAC」の構造で表され、RACは、水素原子、又は炭化水素基(より好ましくは炭素数1以上5以下の炭化水素基)を表す。
ACで表される炭化水素基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることがより好ましい。
また、炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
また、炭化水素基は、炭素及び水素以外の他の原子(例えば酸素、窒素等)を有していてもよいが、炭素及び水素のみからなる炭化水素基であることがより好ましい。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。
これらの中でもアシル基としては、樹脂組成物の流動性が向上する観点、及び、樹脂成形体の機械強度が向上する観点から、炭素数2以上4以下のアシル基がより好ましく、炭素数2以上3以下のアシル基がさらに好ましく、炭素数2のアシル基(アセチル基)が特に好ましい。つまり、セルロースアシレート(A)は、アセチル基を有することが好ましい。
【0036】
・置換度
セルロースアシレート(A)の置換度は、2.0以上2.9以下が好ましく、2.1以上2.6以下がより好ましく、2.2以上2.5以下が更に好ましい。
置換度を2.0以上にすると、ポリエーテル誘導体(B)との親和性が高まりやすい。
置換度を2.9以下にすると、セルロースアシレート(A)の結晶化が抑制され易い。したがって、置換度を上記範囲にすると、流動性が向上し易い。
ここで、置換度とは、セルロースアシレートのアシル化の程度を示す指標である。具体的には、置換度は、セルロースのD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
置換度は、H−NMR(JMN−ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来ピークの積分比から測定する。
【0037】
・重量平均分子量(Mw)
セルロースアシレート(A)の重量平均分子量(Mw)は、樹脂成形体の機械強度が向上する観点から、5万以上50万以下であることが好ましく、5万以上30万以下であることがより好ましく、5万以上25万以下であることが更に好ましい。
ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー(株)製、HPLC1100を用い、東ソー(株)製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量(Mw)は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0038】
・樹脂組成物全体に占める比率
本実施形態に係る樹脂組成物では、セルロースアシレート(A)の樹脂組成物全体に占める比率が、50質量%以上99量%以下であることが好ましく、60質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上90質量%以下であることが更に好ましい。
【0039】
・製造方法
セルロースアシレート(A)の製造方法は、特に制限はなく、例えば、セルロースに対し、アシル化、及び、低分子量化(解重合)、並びに、必要に応じて、脱アシル化を行う方法により好適に製造される。また、市販品のセルロースアシレートを用いてもよく、さらに前記重量平均分子量となるように、低分子量化(解重合)等を行って製造してもよい。
【0040】
以下、セルロースアシレート(A)の具体例として市販品の例を示すが、これに限られるわけではない。なお、セルロースアシレート(A)の具体例としては、以下のセルロースアシレートを改質することにより、置換度を2.0以上2.9以下に調整したものも含む。
・ジアセチルセルロース(ダイセル社製、製品名:L−50、置換基R、R、Rは、水素原子、又はアセチル基)
・ジアセチルセルロース(ダイセル社製、製品名:L−20、置換基R、R、Rは、水素原子、又はアセチル基)
・セルローストリアセテート(ダイセル社製、製品名:LT−55、置換基R、R、Rは、水素原子、又はアセチル基)
・セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、製品名:CAP482−20、置換基R、R、Rは、水素原子、アセチル基、又はプロピオニル基)
・セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製、製品名:CAB381−0.1、置換基R、R、Rは、水素原子、アセチル基、又はブチリル基)
・セルロースアセテート(イーストマンケミカル社製、製品名:CA398−3、置換基R、R、Rは、水素原子、又はアセチル基)
【0041】
[ポリエーテル誘導体(B)]
本実施形態に係る樹脂組成物は、分子内に1以上の炭素−炭素不飽和結合を有するポリエーテル誘導体(B)を含有する。
炭素−炭素不飽和結合としては、炭素−炭素二重結合が好ましい。
分子内における炭素−炭素不飽和結合の数としては、1以上10以下が好ましく、1以上5以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましい。
【0042】
ポリエーテル誘導体(B)が炭素−炭素不飽和結合を有する態様としては、例えば、分子鎖の主鎖末端部分(片末端又は両末端)に炭素−炭素不飽和結合を有する態様;分子鎖の主鎖非末端部分に炭素−炭素不飽和結合を有する態様(例えば分子鎖の主鎖の中に有する態様、分子鎖の主鎖に対し側鎖に有する態様等);分子鎖の主鎖末端部分及び分子鎖の主鎖非末端部分の両方に炭素−炭素不飽和結合を有する態様;等が挙げられる。
上記態様としては、樹脂組成物の流動性が向上する観点から、分子鎖の主鎖末端部分(片末端又は両末端)に炭素−炭素不飽和結合を有する態様が好ましく、特に、分子鎖の主鎖片末端部分に炭素−炭素不飽和結合を有する態様がより好ましい。
【0043】
・構造
ポリエーテル誘導体(B)は、下記式(X)で表される化合物であることが好ましい。
【0044】
【化5】
【0045】
【化6】
【0046】
【化7】
【0047】
式(X)中、Rは、式(X−1)で表される基又は式(X−2)で表される基を表し、Rは、式(X−1)で表される基、式(X−2)で表される基、水素原子、炭素数1以上10以下のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を表し、Rは、炭素数1以上5以下のアルキレン基を表し、nは、1以上50以下の整数を表す。
式(X−1)中、R11は、水素原子又はメチル基を表し、R12は、−CH−又は−CO−を表し、m1は0又は1を表す。
式(X−2)中、R13は、−CH−又は−CO−を表し、m2は0又は1を表す。
【0048】
式(X)中、Rで表される炭素数1以上10以下のアルキル基としては、炭素数1以上6以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。上記アルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状、分岐状であることが好ましい。
また、式(X)中、Rで表される炭素数1以上10以下のアルキル基は、非置換でもよく、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)等で置換されていてもよい。
【0049】
式(X)において、nが2以上である場合に複数存在するRは、同じ基であっても異なる基であってもよい。
式(X)中、Rで表される炭素数1以上5以下のアルキレン基としては、炭素数2以上4以下のアルキレン基がより好ましく、炭素数2以上3以下のアルキレン基が更に好ましい。
上記アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基が挙げられる。上記アルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状、分岐状であることが好ましく、分岐状であることがより好ましい。
また、式(X)中、Rで表される炭素数1以上5以下のアルキレン基は、非置換でもよく、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子)等で置換されていてもよい。
【0050】
式(X)中、nは、1以上50以下の整数であるが、1以上30以下であることがより好ましく、2以上20以下であることが更に好ましく、3以上10以下であることが特に好ましい。
nが1以上であると、樹脂成形体からポリエーテル誘導体(B)がブリードしにくくなる。
nが50以下であると、セルロースアシレート(A)との親和性が高まり易く、流動性が向上し易い。
【0051】
式(X)中、Rとしては、式(X−1)で表される基が好ましく、電子吸引性基(C=O)と共に炭素−炭素二重結合を有する基がより好ましい。すなわち、Rとしては、アクリロイル基又はメタクリロイル基がより好ましい。
この理由は定かではないが、以下の理由によるものと考えられる。
式(X)中、Rが電子吸引性基(C=O)と共に炭素−炭素二重結合を有する基である場合、Rは、セルロースアシレートの極性基(例えば、カルボニル基、ヒドロキシ基)と相互作用し易く、セルロースアシレート間に入り込み易いと考えられる。これにより、分子間で部分的に擬似架橋がより形成され易くなり、その結果、分子間に生じ得る水素結合の作用がより緩和され、溶融粘度がより低下し易くなると考えられる。
【0052】
式(X)中、Rとしては、水素原子、炭素数1以上6以下(より好ましくは炭素数1以上3以下)のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基が好ましい。
【0053】
式(X)における好ましい態様は、Rが、式(X−1)で表される基であり、Rが、水素原子、炭素数1以上6以下(より好ましくは炭素数1以上3以下)のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基であり、Rが、炭素数2以上4以下(より好ましくは炭素数2以上3以下)のアルキレン基であり、nが2以上20以下(より好ましくは3以上10以下)である態様である。
【0054】
以下、ポリエーテル誘導体(B)の具体例としては以下の構造式を有する化合物が挙げられるが、これに限られるわけではない。
【0055】
【化8】
【0056】
【化9】
【0057】
なお、ポリエーテル誘導体(B)は市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、日油社製「ユニオックス」、日油社製「ブレンマー」、日本乳化剤社製「アリルグリコールH」等が挙げられる。
【0058】
・重量平均分子量(Mw)
ポリエーテル誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)は、200以上3000以下であることが好ましく、250以上2000以下であることがより好ましく、300以上1000以下であることが更に好ましい。
ポリエーテル誘導体(B)の重量平均分子量(Mw)が200以上であると、ブリードが抑制された樹脂成形体が得られ易い。
上記重量平均分子量(Mw)が3000以下であると、セルロースアシレート(A)との親和性が高まり易く、流動性が向上し易い。
重量平均分子量(Mw)は、既述のセルロースアシレート(A)の重量平均分子量(Mw)の測定方法に準拠して測定される値である。
【0059】
・溶解度パラメータ(SP値)
ポリエーテル誘導体(B)のハンセンの溶解度パラメータ(SP値)は、17(cal/cm1/2以上21(cal/cm1/2以下であることが好ましく、17(cal/cm1/2以上20(cal/cm1/2以下であることがより好ましく、17(cal/cm1/2以上19(cal/cm1/2以下であることが更に好ましい。
なお、「1cal/cm≒4.168J/cm」とする。
【0060】
ポリエーテル誘導体(B)の溶解度パラメータ(SP値)を17(cal/cm1/2以上21(cal/cm1/2以下にすると、セルロースアシレート(A)との親和性が高まり易く、流動性が向上し易い。さらに成形時の鳴きが低減され易くなり、機械強度も確保され易くなる。
【0061】
ここで、本実施形態における溶解度パラメータ(SP値)について説明する。
本実施形態におけるSP値としては、ハンセン(Hansen)の溶解度パラメータを用いる。ハンセン溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)の溶解度パラメータを、分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。本実施形態においては下記式を用いて算出される値を用いる。計算は、ソフトウェア(HSPiP ver.4.1.07)を用いた。
溶解度パラメータ:δ=(δD+δP+δH1/2
【0062】
ポリエーテル誘導体(B)のδD、δP、及びδHとしては、セルロースアシレート(A)との親和性を高める観点から、以下の範囲であることがよい。
ポリエーテル誘導体(B)のδDとしては、13<δD<18が好ましく、14<δD<17がより好ましく、14<δD<16が更に好ましい。
ポリエーテル誘導体(B)のδPとしては、5<δP<9が好ましく、5.5<δP<8.5がより好ましく、6<δP<8が更に好ましい。
ポリエーテル誘導体(B)のδHとしては、6<δH<11が好ましく、6.5<δH<10.5がより好ましく、7<δH<10が更に好ましい。
【0063】
・ポリエーテル誘導体(B)のSP値と、セルロースアシレート(A)のSP値との差の絶対値
上記差の絶対値は、1以上10以下であることが好ましく、2以上9以下であることがより好ましく、3以上8以下であることが更に好ましい。
ここで、上記差の絶対値が1以上10以下であるとは、ポリエーテル誘導体(B)のSP値と、セルロースアシレート(A)のSP値とが適度に近い値であることを意味する。言い換えれば、ポリエーテル誘導体(B)のSP値と、セルロースアシレート(A)のSP値とが近すぎない値であることを意味する。
これにより、ポリエーテル誘導体(B)とセルロースアシレート(A)との親和性がより高まり易くなり、その結果、流動性が向上し易くなると考えられる。
この理由は定かではないが、以下の理由によるものと考えられる。
流動性を向上させるためにセルロースアシレート(A)とポリエーテル誘導体(B)の親和性が高い、すなわちSP値がある程度近いことが好ましいが、一方でSP値が近すぎることは分子全体の親和性が高いことを意味する。すると、セルロースアシレート(A)とポリエーテル誘導体(B)が近接し過ぎる傾向にあり、空間が十分に拡げられず、流動性が低下することが考えられる。よって、セルロースアシレート(A)と親和性が高過ぎない官能基等をポリエーテル誘導体(B)に持たせることで、適度にセルロースアシレート(A)とポリエーテル誘導体(B)との反発を促し、流動性を高めることができると推測している。
なお、セルロースアセテートのSP値は、通常20.5以上22.5以下であり、セルロースアセテートプロピオネートのSP値は、通常17以上18以下である。
【0064】
ポリエーテル誘導体(B)の含有量は、セルロースアシレート(A)100質量部に対し、1.0質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上25質量%以下がより好ましく、10質量%以上20質量%以下が更に好ましい。
【0065】
[可塑剤]
本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに、可塑剤を含有してもよい。
なお、可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に対し、15質量%以下(好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下)であることがよい。なお、可塑剤の含有量が上記範囲であると、可塑剤のブリードが抑制され易くなる。
可塑剤としては、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸エステル含有化合物が好ましい。
【0066】
−アジピン酸エステル含有化合物−
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。但し、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0067】
アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ポリエステルが挙げられる。具体的には、下記一般式(AE−1)で示されるアジピン酸ジエステル、及び下記一般式(AE−2)で示されるアジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0068】
【化10】

【0069】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2は、それぞれ独立に、アルキル基、又はポリオキシアルキル基[−(C2X−O)−RA1](但し、RA1はアルキル基を、xは1以上10以下の整数を、yは1以上10以下の整数を、表す。)を表す。
AE3は、アルキレン基を表す。
m1は、1以上20以下の整数を表す。
m2は、1以上10以下の整数を表す。
【0070】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。RAE1及びRAE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、RAE1及びRAE2が表すポリオキシアルキル基[−(C2X−O)−RA1]において、RA1が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。RA1が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0071】
一般式(AE−2)中、RAE3が表すアルキレン基は、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0072】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、各符号が表す基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0073】
アジピン酸エステルの分子量(又は重量平均分子量)は、200以上5000以下が好ましく、300以上2000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量は、前述のセルロースアシレート(A)の重量平均分子量の測定方法に準拠して測定される値である。
【0074】
以下、アジピン酸エステル含有化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0075】
【化11】
【0076】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。
また、必要に応じて、酢酸放出を防ぐための受酸剤、反応性トラップ剤などの成分(添加剤)を添加してもよい。受酸剤としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムなどの酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの金属水酸化物;炭酸カルシウム;タルク;などが挙げられる。
反応性トラップ剤としては、例えば、エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミドなどが挙げられる。
これらの成分の含有量は、樹脂組成物全量に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0077】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記樹脂(セルロースアシレート(A)及びポリエーテル誘導体(B))以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂の全樹脂に対する比率は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、およびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。また、コアシェル型のブタジエン−メチルメタクリレート共重合体も挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースアシレート(A)及び上記ポリエーテル誘導体(B)と、必要に応じて、可塑剤と、その他の成分と、を含む混合物を溶融混練することにより製造される。他に、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することによっても製造される。
溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には、例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
なお、混練の際の温度は、使用するセルロースアシレート(A)の溶融温度に応じて決定されればよいが、熱分解と流動性の点から、例えば、140℃以上240℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。
【0079】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物により成形されたものである。つまり、セルロースアシレート(A)と、上記ポリエーテル誘導体(B)と、を含む樹脂組成物を成形して得られる。
成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0080】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が好ましい。射出成形については、本実施形態に係る樹脂組成物を加熱溶融し、金型に流し込み、固化させることで成形体が得られる。射出圧縮成形によって成形してもよい。
射出成形のシリンダ温度は、200℃以上250℃以下であることが好ましく、210℃以上240℃以下であることがより好ましく、210℃以上230℃以下であることが更に好ましい。射出成形の金型温度は、40℃以上70℃以下が好ましく、45℃以上65℃がより好ましく、45℃以上60℃が更に好ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業(株)製NEX500、日精樹脂工業(株)製NEX150、日精樹脂工業(株)製NEX70000、東芝機械(株)製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0081】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
なお、以下に示す実施例7〜12、41〜42、及び45〜46は、本発明に対する参考例として示すものである。
【0083】
<セルロースアシレート(A)の合成及び準備>
セルロースアシレート(A)として、セルロースアセテートCA1〜CA6、CA8、及びCA9を以下の方法で合成した。また、市販のセルロースアセテートCA7−1〜CA7−3、及びセルロースアセテートプロピオネートCAPを準備した。
【0084】
(セルロースアセテートCA1の合成)
アセチル化:セルロース粉末(日本製紙ケミカル(株)製、KCフロックW50)3部、硫酸0.15部、酢酸30部、及び、無水酢酸6部を反応容器に入れ、20℃で4時間撹拌し、セルロースのアセチル化を行った。
脱アセチル及び低分子量化:アセチル化を行った溶液に撹拌終了後ただちに3部の酢酸と1.2部の純水とを加え、20℃で30分間撹拌後、0.2M塩酸水溶液4.5部を加え、75℃に加熱して、5時間撹拌した。この溶液を、200部の純水に2時間かけて滴下し、20時間静置した後、孔径6μmのフィルターを通してろ過し、4部の白色粉末を得た。
洗浄:得られた白色粉末を、フィルタープレス((株)栗田機械製作所製、SF(PP))を用い、純水にて電導度が50μS以下になるまで洗浄後、乾燥した。
後処理:乾燥後の白色粉末3部に0.2部の酢酸カルシウムと30部の純水とを加え、25℃で2時間撹拌した後、ろ過し、得られた粉末を60℃で72時間乾燥し、セルロースアセテートCA1を約2.5部得た。
【0085】
(セルロースアセテートCA2の合成)
アセチル化に用いる硫酸量0.15部を0.30部とした以外はCA1と同様にしてセルロースアセテートCA2を得た。
【0086】
(セルロースアセテートCA3の合成)
アセチル化に用いる硫酸量0.15部を0.03部とした以外はCA1と同様にしてセルロースアセテートCA3を得た。
【0087】
(セルロースアセテートCA4の合成)
脱アセチル化及び低分子量化において、5時間撹拌したところを7時間に変えた以外は、CA1と同様の方法でセルロースアセテートCA4を得た。
【0088】
(セルロースアセテートCA5の合成)
脱アセチル化及び低分子量化において、75℃で5時間撹拌するところを、65℃で7時間撹拌した以外は、CA1と同様にしてセルロースアセテートCA5を得た。
【0089】
(セルロースアセテートCA6の合成)
脱アセチル化及び低分子量化において、75℃で5時間撹拌するところを、80℃で4時間撹拌した以外は、CA1と同様にしてセルロースアセテートCA6を得た。
【0090】
(セルロースアセテートCA7−1〜CA7−3の準備)
セルロースアセテート(A)として、市販のセルロースアセテートCA7−1〜CA7−3を準備した。詳細を以下に示す。
・セルロースアセテートCA7−1:(株)ダイセル製、L−50
・セルロースアセテートCA7−2:(株)ダイセル製、L−20
・セルロースアセテートCA7−3:イーストマンケミカル社製、CA−398−3
【0091】
(セルロースアセテートCA8の合成)
脱アセチル化及び低分子量化において、5時間撹拌したところを4時間30分に変えた以外は、CA1と同様の方法でセルロースアセテートCA8を得た。
【0092】
(セルロースアセテートCA9の合成)
アセチル化で得られた溶液を室温(20℃、以下同様)で10時間放置した後、脱アセチル化及び低分子量化を行った以外は、CA1と同様にしてセルロースアセテートCA9を得た。
【0093】
(セルロースアセテートプロピオネートCAP)
セルロースアセテートプロピオネートCAPとして、イーストマンケミカル社製、CAP−482−20を用いた。
【0094】
<重量平均分子量(Mw)、重合度、及び置換度の測定>
セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)及び置換度を既述の方法にて測定した。セルロースアシレートの重合度は、セルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)をセルロースアシレートの構成単位分子量で割ることで求められる。構成単位分子量は、例えばアセチル基で置換度2.4の場合は263、置換度2.9の場合は287となる。測定したセルロースアシレートの重量平均分子量(Mw)、重合度、及び置換度を表1にまとめる。
【0095】
【表1】
【0096】
<ポリエーテル誘導体(B)の準備>
ポリエーテル誘導体(B)として、表2及び表3に示す市販のポリエーテル誘導体PE1〜PE17を準備した。表2及び表3中、「ph」は、フェニル基を表す。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
なお、表2及び表3に記載のポリエーテル誘導体のうち、PE5〜PE17には下記の市販品を用いた。
・PE5:ユニオックスPKA−5003、日油(株)製
・PE6:ユニオックスPKA−5008、日油(株)製
・PE7:ユニオックスPKA−5009、日油(株)製
・PE8:ユニオックスPKA−5010、日油(株)製
・PE9:ユニオックスAA−480R、日油(株)製
・PE10:ユニオックスAA−800、日油(株)製
・PE11:ブレンマーAE−200、日油(株)製
・PE12:ブレンマーAE−400、日油(株)製
・PE13:ブレンマーAP−400、日油(株)製
・PE14:ブレンマーADE−400A、日油(株)製
・PE15:ブレンマーPDE−200、日油(株)製
・PE16:ブレンマーPDE−400、日油(株)製
・PE17:ユニセーフPKA−5018、日油(株)製
【0100】
<その他添加剤の準備>
その他添加剤として、以下の可塑剤A〜Cを準備した。
・可塑剤A:アジピン酸エステル含有化合物(大八化学工業(株)製、Daifatty101)
・可塑剤B:ポリエーテルエステル類((株)アデカ製、アデカサイザーRS1000)
・可塑剤C:ポリエチレングリコール(PEG、日油(株)製、PEG#400)
なお、下記表中、「Daifatty101」は可塑剤Aを表し、「RS1000」は可塑剤Bを表し、「PEG」は可塑剤Cを表す。
【0101】
<実施例1〜16、比較例1〜4>
まず、セルロースアセテートCA7−3に各種のポリエーテル誘導体(B)を加えた実施例1〜16、ポリエーテル誘導体(B)に代えて同量の可塑剤を加えた比較例1〜3、及びセルロースアセテートCA7−3のみで構成される比較例4を示す。
(樹脂組成物(ペレット)の作製)
表4〜表6に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0102】
(ダンベル、およびD2試験片の射出成形)
得られたペレットを、射出成形機(日精樹脂工業社製、NEX500)に投入し、表4〜表6に示すシリンダ温度及び金型温度で射出成形し、樹脂成形体として、ダンベル試験片(JIS K 7139 A1)、およびD2試験片(長さ60mm、幅60mm、厚み2mm)を得た。
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
<実施例17〜22、比較例5〜7>
次いで、実施例1においてポリエーテル誘導体(B)(PE6)の含有量を変更した実施例17〜22、及び実施例19〜21においてポリエーテル誘導体(B)を同量の可塑剤A(Daifatty101)に変更した比較例5〜7を示す。
(樹脂組成物(ペレット)及び試験片の作製)
具体的には、表7に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
また、実施例1と同様にしてダンベル及びD2試験片を得た。
【0107】
【表7】
【0108】
実施例19と比較例5の対比、実施例20と比較例6の対比、及び実施例21と比較例7の対比から分かるように、セルロースアシレート(A)にポリエーテル誘導体(B)を加えることで、同量の可塑剤A(Daifatty101)を加える場合に比べて、溶融粘度を低減することができる。
【0109】
<実施例23〜24、比較例8〜9>
次いで、実施例1においてセルロースアセテートCA7−3をセルロースアセテートCA7−1又はCA7−2に変更した実施例23〜24、及び実施例23〜24においてポリエーテル誘導体(B)を同量の可塑剤A(Daifatty101)に変更した比較例8〜9を示す。
(樹脂組成物(ペレット)及び試験片の作製)
具体的には、表8に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
また、実施例1と同様にしてダンベル及びD2試験片を得た。
【0110】
【表8】
【0111】
実施例23と比較例8の対比、及び実施例24と比較例9の対比から分かるように、セルロースアシレート(A)にポリエーテル誘導体(B)を加えることで、同量の可塑剤A(Daifatty101)を加える場合に比べて、溶融粘度を低減することができる。
【0112】
<実施例25〜32>
次いで、実施例1においてセルロースアセテートCA7−3をセルロースアセテートCA1〜CA6、CA8〜CA9に変更した実施例25〜32を示す。
(樹脂組成物(ペレット)及び試験片の作製)
具体的には、表9に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
また、実施例1と同様にしてダンベル及びD2試験片を得た。
【0113】
【表9】
【0114】
<実施例33〜38>
次いで、ポリエーテル誘導体(B)を2種併用した実施例33〜35、及びポリエーテル誘導体(B)と各種可塑剤とを併用した実施例36〜38を示す。
(樹脂組成物(ペレット)及び試験片の作製)
具体的には、表10に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
また、実施例1と同様にしてダンベル及びD2試験片を得た。
【0115】
【表10】
【0116】
<実施例39〜47>
次いで、セルロースアセテートプロピオネートCAPに各種のポリエーテル誘導体(B)を加えた実施例39〜46、及びセルロースアセテートCA7−3にポリエーテル誘導体(B)(PE17)を加えた実施例47を示す。
(樹脂組成物(ペレット)及び試験片の作製)
具体的には、表11に示す仕込み組成比と温度で、二軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)を用い、樹脂組成物(ペレット)を得た。
また、実施例1と同様にしてダンベル及びD2試験片を得た。
【0117】
【表11】
【0118】
[評価]
<連続成形性>
下記の基準に従い、連続成形性の評価を行った。
結果を表4〜表11に示す。
−評価基準−
A:D2試験片を連続成形(連続して50ショット)でき、かつD2試験片に割れ等の不良が生じなかった。
B:D2試験片を連続して50ショットの成形は不可であったが、手動で少しずつペレットを入れることで成形は可能であった。
C:可塑化不良を起こし、成形不可であった。
【0119】
<スクリューの鳴き>
下記の基準に従い、成形時におけるスクリューの鳴きを評価した。
−評価基準−
A:成形時にスクリューから発生する異音がなかった。
B:成形時にスクリューから異音が生じることがあった。
C:成形中、スクリューから常に異音が発生している状態であった。
【0120】
<溶融粘度>
得られたペレットについて、キャピログラフ−1C((株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K7199(1999年)に準拠する方法で、温度200℃及びせん断速度1216/sの条件、温度220℃及びせん断速度1216/sの条件、または温度230℃及びせん断速度1216/sの条件における溶融粘度(Pa・s)を測定した。
結果を表4〜表11に示す。なお、表中、溶融粘度の欄における「−」は測定していないことを示す。
【0121】
<機械強度>
(引張応力及び引張破断伸度)
得られたダンベル試験片について、万能試験装置(島津製作所社製、オートグラフAG−Xplus)を用いて、ISO527に準拠する方法で、引張応力及び引張破断伸度の測定を行った。
結果を表4〜表11に示す。
【0122】
(シャルピー衝撃強度)
得られたダンベル試験片について、ISO179に準拠する方法で、ノッチ付き衝撃試験片に加工し、衝撃強度測定装置(東洋精機社製、シャルピーオートインパクテスタCHN3型)にて、23℃におけるノッチ付き衝撃強度の測定を行い、これをシャルピー衝撃強度として評価した。
結果を表4〜表11に示す。
【0123】
<透明性>
(褐色着色度)
得られたD2試験片について、分光色彩計・色差計(日本電色工業、TZ6000)を用いて、ハーゼン色数(APHA)を測定し、これを褐色着色度として評価した。
結果を表4〜表11に示す。
【0124】
(透明度)
得られたD2試験片について、ヘーズ・透過率計(村上色彩技術研究所、MH−150)を用いて、JIS K7375に準拠する方法で、全光線透過率を測定し、これを透明度として評価した。
結果を表4〜表11に示す。
【0125】
<ブリード性>
マジック(ZEBRA(株)製、マッキー)で文字をD2試験片に書き、65℃湿度95%の恒温恒湿槽に1000時間入れた後の、D2試験片の表面のべたつき、D2試験片の変形、およびマジックの滲みの有無を確認し、下記の基準で評価した。
−評価基準−
5:D2試験片の表面のべたつきや変形はない。顕微鏡で観察してもマジックの滲みはない。
4:D2試験片の表面のべたつきや変形はない。目視ではわからないが、顕微鏡で観察するとマジックが滲んでいる。
3:D2試験片の表面のべたつきや変形はないが、マジックが滲んでいる。
2:目視でD2試験片の表面がべたついている。変形はないがマジックが滲んでいる。
1:D2試験片が変形している。さらに文字が読めないほどマジックが滲んでいる。
【0126】
上記結果から、本実施例は、比較例に比べ、樹脂組成物(ペレット)の溶融粘度が低いことがわかる。すなわち、本実施例は、比較例に比べ、流動性に優れていることがわかる。
また、本実施例は、比較例1〜3、5〜9に比べ、ブリードが抑制された樹脂成形体が得られていることがわかる。
また、本実施例は、連続成形性及び成形時のスクリューの鳴きの評価結果が良好であることがわかる。
さらに本実施例は、得られた樹脂成形体の機械強度が確保されており、透明性にも優れていることがわかる。
【要約】
【課題】流動性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】セルロースアシレート(A)と、分子内に1以上の炭素−炭素不飽和結合(但し、芳香族基を除く)を有するポリエーテル誘導体(B)と、を含む樹脂組成物。
【選択図】なし