特許第6369626号(P6369626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369626
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】一方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20180730BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20180730BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180730BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20180730BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20180730BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C21D8/12 B
   C21D9/46 501A
   C22C38/00 303U
   C22C38/60
   B21B3/02
   H01F1/147 183
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-510252(P2017-510252)
(86)(22)【出願日】2016年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2016060921
(87)【国際公開番号】WO2016159349
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年8月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-75839(P2015-75839)
(32)【優先日】2015年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕俊
(72)【発明者】
【氏名】森重 宣郷
(72)【発明者】
【氏名】升光 尚人
(72)【発明者】
【氏名】鷹尾伏 純一
(72)【発明者】
【氏名】古宅 伸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−089821(JP,A)
【文献】 特開2001−303131(JP,A)
【文献】 特開平08−333631(JP,A)
【文献】 特開平03−031421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.030〜0.150%、
Si:2.50〜4.00%、
Mn:0.02〜0.30%、
S及びSeの1種または2種:合計で0.005〜0.040%、
酸可溶性Al:0.015〜0.040%、
N:0.0030〜0.0150%、
Bi:0.0003〜0.0100%、
Sn:0〜0.50%、
Cu:0〜0.20%、
Sb及びMoの1種または2種:合計で0〜0.30%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、5分以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1−50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;
加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;
前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;
前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;
前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;
前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;
前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;
前記仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程と;
を有し、
前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行い、
前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、
前記保持処理のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、
前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である
ことを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。
【請求項2】
前記スラブが、質量%で、Sn:0.05〜0.50%含有することを特徴とする請求項1に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スラブが、質量%で、Cuを0.01〜0.20%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記スラブが、質量%で、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030〜0.30%含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記仕上げ焼鈍工程において、下記式(2)で算出されるX値を、0.0003Nm3/(h・m2)以上とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
本願は、2015年04月02日に、日本に出願された特願2015−075839号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
一方向性電磁鋼板は、主として変圧器等の静止誘導器の鉄心材料として利用される。そのため、一方向性電磁鋼板には、その特性として、交流で励磁した時のエネルギー損失(すなわち、鉄損)が低いことや透磁率が高く容易に励磁できること、騒音の原因となる磁歪が小さいことが求められる。従来、これらの諸特性を満足する一方向性電磁鋼板を製造するために、多くの開発がなされてきた。その結果、例えば特許文献1に記載されているように、鋼板における{110}<001>方位集積度を向上させることが、特に効果が大きいことが明らかとなっている。
【0003】
鋼板における{110}<001>方位集積度を向上させるには、一次再結晶における正常粒成長を抑制し、引き続く二次再結晶において{110}<001>方位粒のみを異常粒成長させることが重要である。これには、インヒビターと呼ばれる鋼中微細析出物や粒界析出元素を、精密に制御することが効果的である。
【0004】
かかる制御を実現する手法として、スラブ加熱によってインヒビターを溶体化し、引き続く熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、及び中間焼鈍工程においてインヒビターを均一微細析出させる技術がよく知られている。このようなインヒビターとして、例えば、特許文献1にはMnSとAlNとを制御する手法、特許文献2にはMnSとMnSeとを制御する手法、特許文献3にはCuxS、CuxSe又はCux(Se,S)と(Al,Si)Nとを制御する手法が報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3の技術では、十分に優れた磁気特性を安定して得られないという問題があった。
【0006】
特許文献4には、超高磁束密度一方向性電磁鋼板を安定して得るための製造方法において、スラブ中にBiを含有させる手段が開示されている。しかしながら、鋼中にBiを含むと、含有されたBiに起因すると考えられる一次被膜の密着性の劣化や、一次被膜が形成され難くなるという問題がある。そのため、特許文献4の技術では、良好な磁気特性が得られても、一次被膜の形成が不十分である場合がある。
【0007】
また、以下の特許文献5には、Biを含有する熱延板焼鈍後の鋼板を目的の板厚まで冷間圧延する工程にて時効処理を施すことで、磁気特性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、特許文献5では、被膜密着性について検討されておらず、時効処理が一次被膜にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。
【0008】
特許文献6には、Biを含有する冷延板を100℃/秒以上の速度で700℃以上まで加熱もしくは10秒以内に700℃以上まで加熱し、その後700℃以上の温度で1秒以上20秒以下保持する予備焼鈍を施した後に脱炭焼鈍を施し、その後塗布する焼鈍分離剤中に添加するTiO2量を増加させることによって、良好な一次被膜を形成する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6の技術では、20mmφの丸棒に沿って製品を曲げても被膜が剥離しないようにするためには、TiO2添加量や焼鈍分離剤の塗布量を極端に増加させる必要があるなど課題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特公昭40−15644号公報
【特許文献2】日本国特公昭51−13469号公報
【特許文献3】日本国特開平10−102149号公報
【特許文献4】日本国特開平6−88171号公報
【特許文献5】日本国特開平8−253816号公報
【特許文献6】日本国特開2003−096520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能な、一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、スラブ加熱条件、冷間圧延工程における鋼板の保持条件、及び、脱炭焼鈍における加熱速度の影響等を、詳細に調査した。その結果、スラブ加熱時に一旦温度を低下させ、再加熱して圧延すること、冷間圧延工程において、鋼板を所定の温度域に保持すること、及び脱炭焼鈍工程において加熱速度を適正に制御することによって、一次被膜の密着性が向上することを見出した。
以下で詳述する本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、以下の通りである。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る一方向性電磁鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.030〜0.150%、Si:2.50〜4.00%、Mn:0.02〜0.30%、S及びSeの1種または2種:合計で0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、Bi:0.0003〜0.0100%、Sn:0〜0.50%、Cu:0〜0.20%、Sb及びMoの1種または2種:合計で0〜0.30%、を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを、1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、5分以上30時間以下保持した後、前記スラブの温度をT1−50℃以下のT2℃まで低下させ、その後、前記スラブを、1280℃以上1450℃以下のT3℃に加熱し、5分以上60分以下保持する加熱工程と;加熱された前記スラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る熱延工程と;前記熱延鋼板に、複数パスの冷間圧延を行って板厚0.30mm以下の冷延鋼板を得る冷延工程と;前記冷延工程前、または、前記冷延工程を一旦中断して前記冷延工程の最終パスより前に、前記熱延鋼板に少なくとも1回の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と;前記冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭焼鈍工程と;前記脱炭焼鈍後の前記冷延鋼板に焼鈍分離材を塗布する焼鈍分離材塗布工程と;前記焼鈍分離材塗布工程後の前記冷延鋼板に仕上げ焼鈍を行う仕上げ焼鈍工程と;前記仕上げ焼鈍後の前記冷延鋼板に、絶縁被膜を塗布する二次被膜塗布工程と;を有し、前記中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する前記中間焼鈍を行い、前記冷延工程では、前記複数パスの間に、前記熱延鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下で1回以上保持する保持処理を行い、前記保持処理のうち、下記式(a)を満たす温度T℃での保持が1回以上4回以下であり、前記脱炭焼鈍工程における加熱速度が、50℃/秒以上である。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(a)
ここで、前記式(1)において、[Bi]は、前記スラブにおける質量%でのBiの含有量である。
(2)上記(1)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Sn:0.05〜0.50%含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Cuを0.01〜0.20%含有してもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記スラブが、質量%で、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030〜0.30%含有してもよい。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の一方向性電磁鋼板の製造方法は、前記仕上げ焼鈍工程において、下記式(b)で算出されるX値を、0.0003Nm3/(h・m2)以上としてもよい。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(b)
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における時効処理の最高温度とBi含有量との関係を示したグラフである。
図2】実施例における式(1)を満たす時効処理回数と130〜300℃での時効処理回数との関係を示したグラフである。
図3】実施例における脱炭焼鈍での加熱速度及び熱延板焼鈍温度の好ましい範囲を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法(本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法と言う場合がある)について詳細に説明する。
【0016】
(鋼の化学組成について)
まず、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法で用いられる鋼の化学組成(化学成分)について、説明する。
【0017】
本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、質量%で、C:0.030〜0.150%、Si:2.50〜4.00%、Mn:0.02〜0.30%、S及びSeのうち1種または2種:合計で0.005〜0.040%、酸可溶性Al:0.015〜0.040%、N:0.0030〜0.0150%、Bi:0.0003〜0.0100%を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを用いる。
【0018】
本実施形態に係る一方向性電磁の製造方法で用いられるスラブは、上記元素を含み、残部がFe及び不純物からなることを基本とするが、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Snを0.05〜0.50質量%含有していてもよい。また、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Cuを0.01〜0.20質量%含有していてもよい。また、上記スラブは、Feの一部に代えて、更に、Sb及びMoのうち1種または2種を、合計で0.0030〜0.30質量%含有していてもよい。ただし、Sn、Cu、Sb、Moは含有されなくてもよいので、その下限は0%である。
【0019】
[C:0.030〜0.150%]
C(炭素)の含有量が0.030%未満であると、熱間圧延に先立ってスラブを加熱する際、結晶粒が異常粒成長し、その結果、製品において線状細粒と呼ばれる二次再結晶不良が生じる。一方、Cの含有量が0.150%超過であると、冷延工程後に行われる脱炭焼鈍において、脱炭時間が長時間必要となり、経済的でないばかりでなく、脱炭が不完全となりやすい。脱炭が不完全であると、製品において磁気時効と呼ばれる磁性不良が生じるので、好ましくない。従って、Cの含有量を、0.030〜0.150%とする。Cの含有量は、好ましくは、0.050〜0.100%である。
【0020】
[Si:2.50〜4.00%]
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を高めて鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減するのに、極めて有効な元素である。しかしながら、Siの含有量が2.50%未満である場合には、製品の渦電流損失を抑制できない。一方、Siの含有量が4.00%超過である場合には、鋼の加工性が著しく劣化して、常温での冷延が困難になる。従って、Siの含有量を、2.50〜4.00%とする。Siの含有量は、好ましくは、2.90〜3.60%である。
【0021】
[Mn:0.02〜0.30%]
Mn(マンガン)は、二次再結晶を左右するインヒビターと呼ばれる化合物であるMnS及び/又はMnSeを形成する、重要な元素である。Mnの含有量が0.02%未満である場合には、二次再結晶を生じさせるのに必要なMnS及び/又はMnSeの絶対量が不足するため、好ましくない。一方、Mnの含有量が0.30%超過である場合には、スラブ加熱時にMnを固溶させることが困難になり、その後に析出するMnS及び/又はMnSeの量が減少するばかりでなく、析出サイズが粗大化しやすくなってインヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれる。従って、Mnの含有量を、0.02〜0.30%とする。Mnの含有量は、好ましくは、0.05〜0.25%である。
【0022】
[S及び/又はSe:合計で0.005〜0.040%]
S(硫黄)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSを形成する重要な元素であり、Se(セレン)は、上記Mnと反応することで、インヒビターであるMnSeを形成する重要な元素である。MnSとMnSeとはインヒビターとして同様の効果を有するので、SとSeとは、合計の含有量が0.005〜0.040%の範囲にあれば、何れか一方のみが含有されていてもよく、S及びSeの双方が含有されていてもよい。一方、S及び/又はSeの含有量の合計(S及びSeのうち1種または2種の含有量の合計)が0.005%未満である場合や、S及びSeの含有量の合計が0.040%超過である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。従って、S及び/又はSeの含有量の合計を、0.005〜0.040%とする必要がある。S及び/又はSeの含有量の合計は、好ましくは、0.010〜0.035%である。
【0023】
[酸可溶性Al:0.015〜0.040%]
酸可溶性アルミニウム(sol.Al)は、高磁束密度一方向性電磁鋼板を得るための主要インヒビターであるAlNの構成元素である。酸可溶性Alの含有量が0.015%未満であると、インヒビターが量的に不足し、インヒビター強度が不足する。一方、酸可溶性Alの含有量が0.040%超過である場合には、インヒビターとして析出するAlNが粗大化し、結果としてインヒビター強度が低下する。従って、酸可溶性Alの含有量を、0.015〜0.040%とする。酸可溶性Alの含有量は、好ましくは、0.018〜0.035%である。
【0024】
[N:0.0030〜0.0150%]
N(窒素)は、上記の酸可溶性Alと反応してAlNを形成する、重要な元素である。Nの含有量が0.0030%未満である場合や、Nの含有量が0.0150%超過である場合には、十分なインヒビター効果を得ることができない。従って、Nの含有量を、0.0030〜0.0150%に限定する。Nの含有量は、好ましくは、0.0050〜0.0120%である。
【0025】
[Bi:0.0003〜0.0100%]
Bi(ビスマス)は、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造において、優れた磁束密度を得るためにスラブ中に含有させる必須の元素である。Biの含有量が0.0003%未満であると、磁束密度向上効果を十分に得られない。一方、Biの含有量が0.0100%超過であると、磁束密度向上効果が飽和するだけでなく、一次被膜の密着不良の可能性が高まる。したがって、Biの含有量を0.0003〜0.0100%とする。Biの含有量は、好ましくは、0.0005〜0.0090%であり、更に好ましくは、0.0007〜0.0080%である。
【0026】
[Sn:0〜0.50%]
Sn(スズ)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得るのに有効な元素である。また、Snは、二次再結晶粒を小さくする作用を有する元素でもある。これらの効果を得るためには、0.05%以上のSnの含有が必要である。従って、Snを含有させる場合、Snの含有量を、0.05%以上とすることが好ましい。また、Snの含有量を0.50%超過としても効果が飽和する。そのため、コストの点から、含有させる場合でも、Snの含有量を0.50%以下とすることが好ましい。Snの含有量は、より好ましくは、0.08〜0.30%である。
【0027】
[Cu:0〜0.20%]
Cu(銅)は、必ずしも含有させる必要はないが、Snを含有する鋼の一次被膜向上に有効な元素である。Cuの含有量が0.01%未満である場合には、上記一次被膜向上効果が少ないので、この効果を得る場合、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cuの含有量が0.20%超過となると、磁束密度が低下するので、好ましくない。従って、含有させる場合でも、Cuの含有量を、0.01〜0.20%とすることが好ましい。Cuの含有量は、より好ましくは、0.03〜0.18%である。
【0028】
[Sb及び/又はMo:合計で0〜0.30%]
Sb(アンチモン)及びMo(モリブデン)は、必ずしも含有させる必要はないが、薄手製品の二次再結晶を安定して得る元素として有効である。上記効果をより確実に得るためには、Sb及び/又はMoの含有量の合計(Sb及びMoのうち1種または2種の含有量の合計)を0.0030%以上とすることが好ましい。SbとMoとは、何れか一方が含有されていてもよく、Sb及びMoの双方が含有されていてもよい。一方、Sb及び/又はMoの含有量の合計が0.30%超過となると、上記効果が飽和する。従って、含有させる場合でも、Sb及び/又はMoの含有量の合計は、0.30%以下とすることが好ましい。Sb及びMoの含有量の合計は、より好ましくは、0.0050〜0.25%である。
【0029】
(一方向性電磁鋼板の製造工程について)
続いて、本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法が含む製造工程について、詳細に説明する。以下で詳述する製造工程を含む製造方法によれば、トランスなどの鉄心材料に用いられる磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板を安価に提供することが可能となる。
【0030】
<加熱工程>
熱間圧延に先立って、上記の範囲に成分を調整したスラブを加熱する。スラブは、上記の範囲に成分を調整した溶鋼を鋳造することによって得られるが、鋳造方法は、特に限定されるものではなく、一般的な一方向性電磁鋼板製造用の溶鋼の鋳造方法を適用することができる。
【0031】
本実施形態に係る一方向性電磁鋼板の製造方法では、上記のような成分を有するスラブを加熱する際に、スラブを1150℃以上1300℃以下のT1℃に加熱し、T1℃で5分以上30時間以下保持(均熱)する。その後、スラブの温度をT1−50℃以下のT2℃(すなわち、T1−T2≧50)まで低下させる。その後に、再びスラブを1280℃〜1450℃のT3℃に加熱し、T3℃に5分以上60分以下保持する。T1が1150℃よりも低い、T3が1280℃よりも低い、もしくは、T1℃及び/又はT3℃での保持時間が5分未満と短い場合には、所望の磁気特性を得られない。特に、磁気特性は、再加熱後の保持温度の影響が大きいので、T3は好ましくは1300℃以上である。一方、加熱温度が高すぎると特殊な設備が必要となり、製造コストが増加する。そのため、T3は、好ましくは1400℃以下である。
また、T1℃、又はT3℃での保持時間が長いと生産性が劣化し、製造コストが増加する。そのため、T1℃での保持時間は、30時間以下であり、25時間以下であることが好ましい。また、T3℃での保持時間は、60分以下であり、50分以下であることが好ましい。
また、T1−T2が50℃未満(T1−T2<50)の場合、被膜密着性が劣化する。このメカニズムは明らかではないが、スラブ加熱および熱間圧延中のスケール形成および脱スケールの挙動が変化することで、鋼板の表面性状が変化することに起因すると考えられる。一方、T1−T2が大きすぎると、T2℃からT3℃に加熱するために特殊な設備が必要となる。したがって、T1−T2は200℃以下とするのが好ましい。すなわち、50≦T1−T2≦200であることが好ましい。
本実施形態において、スラブの温度は表面温度である。また、T1℃からT2℃への温度の低下は、水冷、空冷等のいずれの方法で行ってもよいが、空冷(放冷)とすることが好ましい。
【0032】
<熱延工程>
上記加熱工程で加熱されたスラブを熱間圧延して、熱延鋼板を得る。熱間圧延の条件は、特に限定する必要はなく、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される条件を採用すればよい。
【0033】
<冷延工程>
冷延工程においては、複数パスを含む冷間圧延を実施し、板厚が0.30mm以下の冷延鋼板を得る。冷延工程後の板厚が0.30mm超過である場合には、鉄損が劣化する。従って、冷延工程後の板厚は、0.30mm以下とする。冷延工程後の板厚は、好ましくは、0.27mm以下である。なお、冷延工程後の板厚の下限値は、特に限定するものではないが、例えば0.10mm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15mm以上である。
【0034】
また、冷延工程においては、パス間において、鋼板を、130℃以上300℃以下の温度で3分以上120分以下保持する保持処理(時効処理)を1回以上行う。ただし、上記保持のうち、下記式(1)を満たす温度T℃での3分以上120分以下の保持処理(時効処理)を、1回以上4回以下行う必要がある。
170+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1)
ここで、上記の式(1)において、[Bi]は、スラブにおけるBiの含有量[単位:質量%]である。
【0035】
時効処理を行わない、時効処理の温度が130℃未満である、又は、保持時間が3分未満である場合には、所望の磁気特性を得られない。一方、時効処理温度を300℃超過とする場合、特殊な設備が必要となり、製造コストが増加するので好ましくない。また、保持時間を120分超過とすると、生産性が劣化して製造コストが増加するので好ましくない。
【0036】
また、上記のような条件の時効処理を1回以上施した場合でも、式(1)を満たす時効処理を含まない、又は、式(1)を満たす時効処理を4回超過実施すると、被膜密着性が劣化する。好ましい時効処理条件は、以下の(1’)に示した通りである。
【0037】
冷間圧延工程の保持処理(時効処理)においては、上記の条件に代えて、以下の条件で行うことが好ましい。すなわち、140℃以上300℃以下の温度で5分以上120分以下保持する時効処理を2回以上行い、かつ、その時効処理のうち、下記式(1’)を満たす温度T℃で5分以上120分以下保持する時効処理を1回以上4回以下とすることが好ましい。この条件を満足することで、より安定して被膜密着性が向上する。
175+[Bi]×5000≦T≦300 ・・・(1’)
【0038】
<中間焼鈍工程>
冷延工程前(熱延工程と冷延工程との間)、または、冷延工程の複数パスの間、(冷延工程を一旦中断して冷延工程の最終パスより前)に、熱延鋼板に少なくとも1回(好ましくは1回または2回)の中間焼鈍を行う。すなわち、冷間圧延前の熱延鋼板に焼鈍(いわゆる熱延板焼鈍)した後に冷間圧延を行う、もしくは、熱延板焼鈍を実施せずに中間焼鈍を含む複数パスの冷間圧延を行う、もしくは、熱延板焼鈍後に中間焼鈍を含む複数パスの冷間圧延を実施することになる。
【0039】
中間焼鈍工程では、1000℃以上1200℃以下の温度で5秒以上180秒以下保持する焼鈍を施す。焼鈍温度が1000℃未満の場合には、所望の磁気特性および被膜密着性を得られない。一方、温度が1200℃超過の場合には、特殊な設備が必要となり製造コストが増加する。従って、焼鈍温度を1000℃以上1200℃以下とする。焼鈍温度は、好ましくは、1030℃以上1170℃以下である。
また、焼鈍時間が5秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得られない。一方、焼鈍時間が180秒超過の場合には、特殊な設備が必要となり製造コストが増加する。従って、本実施形態では、焼鈍時間は、5秒以上180秒以下とする。焼鈍時間は、好ましくは、10秒以上120秒以下である。
【0040】
<脱炭焼鈍工程>
冷延工程後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を施す。ここで、脱炭焼鈍の加熱の際の、加熱速度を50℃/秒以上とする。脱炭焼鈍の加熱温度、時間等は、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される条件を採用すればよい。
脱炭焼鈍の際の加熱速度が50℃/秒未満の場合には、所望の磁気特性及び被膜密着性を得ることができない。従って、加熱速度を、50℃/秒以上とする。加熱速度は、好ましくは80℃/秒以上である。加熱速度の上限については、特に限定するものではないが、過度に加熱速度を高めるには特殊な設備が必要となるため、2000℃/秒以下とすることが好ましい。
【0041】
<焼鈍分離材塗布工程>
<仕上げ焼鈍工程>
脱炭焼鈍後の冷延鋼板に、焼鈍分離材を塗布し、仕上げ焼鈍を行う。これにより、冷延鋼板の表面に被膜(一次被膜)が形成される。
仕上げ焼鈍時に用いる雰囲気ガスは、特に限定されるものではなく、窒素と水素とが含有されたガス等、一般的に用いられる雰囲気ガスを使用すればよい。また、焼鈍分離材塗布、及び仕上げ焼鈍の方法や条件は、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される方法や条件を採用すればよい。焼鈍分離材は、例えば、MgOを主成分とした焼鈍分離材を用いればよく、この場合、仕上げ焼鈍後に形成される被膜は、フォルステライト(Mg2SiO4)を含むものとなる。
【0042】
仕上げ焼鈍工程においては、以下の式(2)で算出されるX値を、0.0003Nm3/(h・m2)以上とすることが好ましい。X値が0.0003Nm3/(h・m2)以上であると、より被膜密着性が向上する。
X=雰囲気ガス流量/鋼板総表面積 ・・・(2)
ここで、雰囲気ガス流量とは、箱焼鈍を行った場合には雰囲気ガスの投入量である。また、鋼板総表面積とは、雰囲気と接触する鋼板の面積であり、薄鋼板においては、鋼板の表裏面の面積の合計である。
【0043】
上記式(2)で算出されるX値は、より好ましくは0.0005Nm3/(h・m2)以上である。一方、X値の上限については、特に限定されるものではないが、製造コストの観点から0.0030Nm3/(h・m2)以下とすることが好ましい。
【0044】
<二次被膜塗布工程>
一次被膜が形成された鋼板(冷延鋼板)に、絶縁被膜を塗布する。これにより、鋼板上に二次被膜が形成される。塗布の方法については、特に限定されず、一般的な一方向性電磁鋼板に適用される方法や条件を採用すればよい。
【0045】
<レーザー照射工程>
二次被膜が形成された鋼板に、任意で、レーザー照射を行ってもよい。レーザーの照射によって、被膜に溝を形成する、または被膜に歪を付与することで、磁区細分化により、一方向性電磁鋼板の磁気特性を更に向上させることができる。
【0046】
以上のようにして製造される一方向性電磁鋼板は、磁束密度B8の値が1.92T以上と、優れた磁束密度を有し、被膜密着性も良好となる。
加熱条件、最終冷延前の中間焼鈍条件、冷間圧延での時効処理条件、脱炭焼鈍での加熱速度等を適正な範囲にすることで被膜密着性が改善される理由は明らかではないが、鋼板の表面性状の変化に起因すると推察される。
【0047】
なお、上記の磁束密度や、各種鉄損などといった磁気特性の測定方法については、特に限定されるものではなく、例えば、JIS C 2550に規定されているエプスタイン試験に基づく方法や、JIS C 2556に規定されている単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)など、公知の方法により測定することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を示しながら、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法について、具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法の一例に過ぎない。そのため、本発明に係る一方向性電磁鋼板の製造方法は、以下に示す実施例に限定されない。
【0049】
(実施例1)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.07%、S:0.023%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0090%、Bi:0.0015%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1130℃以上1280℃以下の温度T1℃まで加熱し、5時間保持した。その後、スラブを表面温度で1050℃以上1220℃以下の温度T2℃まで低下させた。その後、スラブを表面温度で1350℃まで昇温して20分保持した。その後、スラブに熱間圧延を行って2.3mm厚の熱延コイルを得た。
そして、上記の熱延コイルに対し、1120℃の温度で20秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した後、冷間圧延を行って0.22mm厚の冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に対して、加熱温度が850℃で保持時間が120秒となる条件で脱炭焼鈍を施した。この際の加熱速度は300℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を冷延鋼板に塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中で、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0008Nm3/(h・m2)として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜(絶縁被膜)の塗布を行った。
【0050】
得られた鋼板を利用して、JIS C 2556に規定されている単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。被膜密着性は、以下の評点A〜Dで評価した。すなわち、10φ曲げ試験で剥離しなかった場合をA、20φ曲げ試験で剥離しなかった場合をB、30φ曲げ試験で剥離しなかった場合をC、30φ曲げ試験で剥離した場合をDと評価し、A及びBを合格とした。また、磁束密度B8は、1.92T以上を合格とした。
結果を表1に示す。鋼板No.3、5、6は、本発明範囲を満たす製造方法であり、磁束密度、被膜評点が、目標値を満足している。一方、鋼板No.1は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、所望の磁気特性が得られていない。鋼板No.2は加熱時のスラブ表面温度(T1)が所定の温度よりも低く、かつT1とT2の温度差が小さかったので、所望の磁気特性と被膜評点とが得られていない。鋼板No.4はT1とT2との温度差が所定の範囲よりも小さく、所望の被膜評点が得られていない。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例2)
C:0.080%、Si:3.20%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.0080%、Bi:0.0007%以上0.015%以下を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを、表面温度で、1200℃(T1℃)まで昇温し、5時間保持した。その後、スラブを、表面温度で1100℃(T2℃)まで低下させた後、1350℃(T3℃)まで昇温して30分保持した後、熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0053】
上記の熱延コイルに対し、1100℃の温度で30秒保持する熱延板焼鈍を施し、時効処理を含む冷間圧延によって0.22mm厚の冷延鋼板とした。この際、時効処理の温度、時間、回数を種々変化させた。
その後、冷延鋼板に対して、850℃で保持時間が150秒となるように脱炭焼鈍を施した。脱炭焼鈍の加熱速度は350℃/秒とした。
次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=3:1で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0006Nm3/(h・m2)として、仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
表2に、Bi含有量と、冷延工程における時効処理条件とを示す。
【0054】
得られた鋼板を利用して、単板磁気測定(SST)により800A/mで磁化した際の磁束密度B8を測定するとともに、被膜の密着性の評価を行った。評価の方法、合格の基準は、実施例1と同じとした。
磁束密度B8及び被膜密着性を示す評点を、表2に示した。また、時効処理の最高温度とBi含有量との関係を図1に示し、式(1)を満たす時効処理回数と130〜300℃の時効処理回数との関係を図2に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
鋼板No.7に示すように、時効処理を施さなかった場合は、所望の磁気特性を得られなかった。鋼板No.8〜10に示すように、式(1)を満たす温度での時効処理を施さなかった、又は、回数が多かった場合には、被膜評点がCもしくはDとなり、劣位であった。また、鋼板No.11に示すように、Bi含有量が0.0100%を超えた場合には、被膜評点がCとなり、劣位であった。
【0057】
一方、鋼板No.12〜18に示すように、時効処理条件が適正である場合には、磁気特性、被膜評点ともに優れていた。
【0058】
(実施例3)
C:0.078%、Si:3.25%、Mn:0.07%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.026%、N:0.0082%、Bi:0.0024%を含有するスラブを、スラブ表面温度が1180℃(T1℃)になるまで加熱し、1時間保持した。その後、スラブ表面温度を1090℃(T2℃)になるまで低下させたのち、スラブ表面温度が1360℃(T3℃)となるまで昇温して45分保持した。その後、スラブを熱間圧延により2.3mm厚の熱延コイルとした。
【0059】
上記の熱延コイルに対し、950℃以上1150℃以下の温度で50秒保持する熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延により、板厚0.22mmの冷延鋼板とした。なお、冷間圧延において、160℃の温度で30分保持する時効処理を2回、及び240℃の温度で30分保持する時効処理を1回行った。
その後、この冷延鋼板に対して、820℃で150秒保持する脱炭焼鈍を施した。この際、脱炭焼鈍時の加熱速度を、20℃/秒以上400℃/秒以下とした。次に、MgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=2:1で構成された雰囲気ガスにて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積を0.0010Nm3/(h・m2)として仕上げ焼鈍を施した。その後、二次被膜塗布を行った。
表3に、中間焼鈍(熱延板焼鈍)温度及び脱炭焼鈍工程における加熱速度を示す。
【0060】
また、得られた鋼板の磁束密度B8及び一次被膜の被膜評点を、上記実施例1、実施例2と同様にして評価した。結果を表3に示す。また、脱炭焼鈍での加熱速度と熱延板焼鈍温度との好ましい範囲を、図3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
鋼板No.19〜20に示すように、熱延板焼鈍温度が低いと、被膜評点がCとなり、劣位であった。また、鋼板No.21に示すように、脱炭焼鈍での加熱速度が遅いと、磁気特性及び被膜評点の双方が劣位であった。
【0063】
一方で、鋼板No.22〜26に示すように、熱延板焼鈍条件と脱炭焼鈍での加熱速度とが適正な範囲である場合には、磁気特性及び被膜評点ともに優れていた。
【0064】
(実施例4)
表4に示す成分のスラブ(残部Feおよび不純物)を、表面温度が1210℃(T1℃)になるまで加熱し、2時間保持した。その後、表面温度を1100℃(T2℃)に低下させた後、表面温度を1320℃以上1450℃以下の温度(T3℃)まで加熱し、10分保持した後、熱間圧延を施して板厚2.0mm以上2.4mm以下の熱延鋼板とした。これらの熱延鋼板に、1000℃以上1150℃以下の温度で10秒保持する中間焼鈍(熱延板焼鈍)を施した。これらの焼鈍鋼板の一部を冷間圧延によって板厚0.22mmとし、残りは板厚1.9mm以上2.1mm以下の中間板厚とし、1080℃以上1100℃以下の温度で20秒保持する中間焼鈍を施した後、冷間圧延によって板厚0.22mmとした。なお、最終板厚とする冷間圧延において、160℃の温度で20分保持する時効処理を1回及び250℃の温度で5分保持する時効処理を1回施した。その後、これらの冷延鋼板に800℃の温度で180秒保持する脱炭焼鈍を施した。
次に、冷延鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離材を塗布した後、窒素:水素=1:2で構成された雰囲気ガス中にて、ガス流量を、雰囲気ガス流量/鋼板総表面積が0.0025Nm3/(h・m2)となるようにして仕上げ焼鈍を施した。
その後、二次被膜塗布及びレーザー照射による磁区細分化処理を施した。
【0065】
【表4】
【0066】
表5に、各工程における処理条件を示す。また、磁束密度B8及び被膜評点を、上記実施例1〜3と同様にして評価した結果を、併せて表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5から明らかなように、鋼板No.27〜34は、成分及び製造工程の条件が所定の範囲内であるため、所望の磁気特性及び被膜評点を得ることができた。
【0069】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態、及び実施例について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、一次被膜の密着性を向上させつつ、優れた磁気特性を有する一方向性電磁鋼板を安価に得ることが可能となる。
図1
図2
図3