(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トナー粒子の断面撮影像において、前記コアの表面全域のうち、前記第1シェル部、前記第2シェル部、及び前記第3シェル部のいずれかで覆われる領域の合計長さの割合は、前記コアの周長に対して70%以上99%以下である、請求項3に記載の静電潜像現像用トナー。
前記架橋アクリル酸系樹脂は、1種以上の(メタ)アクリル酸エステルと、1種以上のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体の重合物であり、
前記非架橋スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと、1種以上の(メタ)アクリル酸エステルと、1種以上の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとを含む単量体の重合物である、請求項6に記載の静電潜像現像用トナー。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、粉体(より具体的には、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナー等)に関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から平均的な粒子を相当数選び取って、それら平均的な粒子の各々について測定した値の個数平均である。
【0010】
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D
50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA−750」)を用いて測定した値である。また、酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0011】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
【0012】
本願明細書中では、未処理のシリカ粒子(以下、シリカ基体と記載する)も、シリカ基体に表面処理を施して得たシリカ粒子(表面処理されたシリカ粒子)も、「シリカ粒子」と記載する。また、表面処理剤で疎水化されたシリカ粒子を疎水性シリカ粒子と、表面処理剤で正帯電化されたシリカ粒子を正帯電性シリカ粒子と、それぞれ記載する場合がある。
【0013】
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、複数のトナー粒子(それぞれ後述する構成を有する粒子)を含む粉体である。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(より具体的には、ボールミル等)を用いてトナーとキャリアとを混合して2成分現像剤を調製してもよい。高画質の画像を形成するためには、キャリアとしてフェライトキャリア(フェライト粒子の粉体)を使用することが好ましい。また、長期にわたって高画質の画像を形成するためには、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することが好ましい。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料(例えば、フェライト)でキャリアコアを形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリアコアを形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
【0014】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤(詳しくは、無機粒子)とを備える。トナー母粒子は、コア(以下、トナーコアと記載する)と、トナーコアの表面に形成されたシェル層(カプセル層)とを備える。トナーコアは結着樹脂を含有する。また、トナーコアは、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を含有してもよい。以下、シェル層を形成するための材料を、シェル材料と記載する。
【0015】
本実施形態に係るトナーは、例えば電子写真装置(画像形成装置)において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明する。
【0016】
まず、電子写真装置の像形成部(例えば、帯電装置及び露光装置)が、画像データに基づいて感光体(例えば、感光体ドラムの表層部)に静電潜像を形成する。続けて、電子写真装置の現像装置(詳しくは、トナーを含む現像剤がセットされた現像装置)が、トナーを感光体に供給して、感光体に形成された静電潜像を現像する。トナーは、感光体に供給される前に、現像装置内のキャリア、現像スリーブ、又はブレードとの摩擦により帯電する。例えば、正帯電性トナーは正に帯電する。現像工程では、感光体の近傍に配置された現像スリーブ(例えば、現像装置内の現像ローラーの表層部)上のトナー(詳しくは、帯電したトナー)が感光体に供給され、供給されたトナーが感光体の静電潜像に付着することで、感光体上にトナー像が形成される。消費されたトナーは、補給用トナーを収容するトナーコンテナから現像装置へ補給される。
【0017】
続く転写工程では、電子写真装置の転写装置が、感光体上のトナー像を中間転写体(例えば、転写ベルト)に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体(例えば、紙)に転写する。その後、電子写真装置の定着装置(定着方式:加熱ローラー及び加圧ローラーによるニップ定着)がトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成することができる。なお、転写方式は、感光体上のトナー像を、中間転写体を介さず、記録媒体に直接転写する直接転写方式であってもよい。また、定着方式は、ベルト定着方式であってもよい。
【0018】
本実施形態に係るトナーは、次に示す構成(以下、基本構成と記載する)を有する静電潜像現像用トナーである。
【0019】
(トナーの基本構成)
静電潜像現像用トナーが、トナー母粒子及び無機粒子(外添剤)を備えるトナー粒子を、複数含む。トナー母粒子は、トナーコア及びシェル層を備える。シェル層は、膜状の第1ドメインと、粒子状の第2ドメインとを有する。第1ドメインは実質的に非架橋樹脂から構成される。第2ドメインは実質的に架橋樹脂から構成される。架橋樹脂のガラス転移点(Tg)は、非架橋樹脂のガラス転移点(Tg)よりも40℃以上高い。第1ドメインの表面吸着力(以下、第1表面吸着力と記載する)は20.0nN以上40.0nN以下である。第2ドメインの表面吸着力(以下、第2表面吸着力と記載する)は4.0nN以上20.0nN未満である。第1ドメインは、粒状感のない膜であってもよいし、粒状感のある膜であってもよい。表面吸着力の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。
【0020】
上記基本構成を有するトナーは、耐熱保存性、低温定着性、及び外添剤保持性に優れる。以下、上記基本構成の作用及び効果について詳述する。
【0021】
例えば、トナーコアを樹脂膜で覆うことで、トナーの耐熱保存性を向上させることができる。樹脂膜を形成するための材料としては、樹脂粒子を使用することができる。樹脂粒子を溶かして膜状の形態で硬化させることで、樹脂膜を形成することができる。ガラス転移点(Tg)の低い非架橋樹脂粒子を用いてトナーコアの表面に樹脂膜を形成することで、トナーコアの表面を広範囲にわたって薄い樹脂膜(低Tgの非架橋樹脂膜)で覆うことが可能になる。しかし、こうして形成された非架橋樹脂膜では、厚さのばらつきが大きくなり易い。こうした膜厚むらは、樹脂粒子の凝集に起因すると考えられる。トナーコアの表面領域のうち、樹脂膜からトナーコアが露出する領域(樹脂膜で覆われない領域)の面積の割合が大きくなると、トナーの耐熱保存性が悪くなる傾向がある。一方、トナーコアの表面が全体的に樹脂膜で覆われるように樹脂膜の厚さを全体的に厚くすると、トナーの低温定着性が悪くなる傾向がある。
【0022】
本願発明者は、トナーコアの表面を非架橋樹脂膜で不完全に(低い被覆率で)覆って、その膜の隙間を架橋樹脂粒子で埋めることにより、均質なシェル層を形成できること(ひいては、十分なトナーの耐熱保存性を確保し得ること)を見出した。前述の基本構成を有するトナーでは、シェル層が、膜状の第1ドメインと、粒子状の第2ドメインとを有する。第1ドメインは実質的に非架橋樹脂から構成される。第2ドメインは実質的に架橋樹脂から構成される。また、架橋樹脂のガラス転移点(Tg)は、非架橋樹脂のガラス転移点(Tg)よりも40℃以上高い。第1ドメイン(低Tgの非架橋樹脂膜)及び第2ドメイン(高Tgの架橋樹脂粒子)でトナーコアを覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。トナーコアの表面領域のうち第1ドメインからトナーコアが露出する領域に第2ドメインが存在することで、第1ドメインの膜厚を比較的薄くしてトナーの低温定着性を確保しつつ、トナーの耐熱保存性を向上させることが可能になる。十分なトナーの低温定着性を確保するためには、トナーコアの表面からの第1ドメインの平均高さが10nm以上50nm未満であることが好ましい。
【0023】
トナーの耐熱保存性及び外添剤保持性の両立を図るためには、第1ドメインの表面吸着力(第1表面吸着力)が20.0nN以上40.0nN以下であることが好ましい。第1表面吸着力が大き過ぎると、トナー粒子同士が凝集し易くなり、トナーの耐熱保存性が不十分になる傾向がある。また、第1表面吸着力が大き過ぎると、トナーの耐フィルミング性が悪くなる傾向がある。他方、第1表面吸着力が小さ過ぎると、トナーの外添剤保持性が不十分になる傾向がある。
【0024】
十分なトナーの耐熱保存性を確保しつつシェル層(特に、第2ドメイン)の脱離を抑制するためには、第2ドメインの表面吸着力(第2表面吸着力)が4.0nN以上20.0nN未満であることが好ましい。第2表面吸着力が大き過ぎると、トナー粒子同士が凝集し易くなり、トナーの耐熱保存性が不十分になる傾向がある。また、第2表面吸着力が大き過ぎると、トナーの耐フィルミング性が悪くなる傾向がある。他方、第2表面吸着力が小さ過ぎると、トナーコアと第2ドメインとの結合力が不十分になり、トナーコアの表面から第2ドメインが脱離し易くなる。
【0025】
トナーの耐熱保存性及び外添剤保持性の両立を図るためには、第1表面吸着力から第2表面吸着力を引いた差(=第1表面吸着力−第2表面吸着力)が、+15nN以上+35nN以下であることが好ましい。第1表面吸着力及び第2表面吸着力はそれぞれ、第1ドメイン及び第2ドメインの各々のモノマーの種類又は比率を変えることによって調整できる。
【0026】
上記基本構成では、架橋樹脂のTgが非架橋樹脂のTgよりも40℃以上高い。第2ドメインは、比較的高いTgを有するため、トナー粒子の耐熱性向上に寄与すると考えられる。良質なシェル層を形成するためには、架橋樹脂のTgから非架橋樹脂のTgを引いた差(=架橋樹脂のTg−非架橋樹脂のTg)が、+40℃以上+80℃以下であることが好ましい。架橋樹脂及び非架橋樹脂の各々のガラス転移点(Tg)は、例えば、樹脂の成分(モノマー)の種類又は量(配合比)を変更することで、調整することができる。
【0027】
上記基本構成において、第2ドメインは実質的に架橋樹脂から構成される。このため、第2ドメインは、硬い粒子となり、トナー粒子間でスペーサーとして機能すると考えられる。第2ドメインをスペーサーとして機能させるためには、第2ドメインの平均粒子径が第1ドメインの平均高さよりも大きいことが好ましい。
【0028】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、上記基本構成において、第1ドメイン(膜状ドメイン)及び第2ドメイン(粒子状ドメイン)が、トナーコア側からこの順で積層された積層構造を有することが好ましい。詳しくは、シェル層が、第1ドメインのみで構成される部分(以下、第1シェル部と記載する)と、第2ドメインのみで構成される部分(以下、第2シェル部と記載する)と、トナーコア側から第1ドメイン及び第2ドメインがこの順で積み重なる部分(以下、第3シェル部と記載する)とを含み、トナーコア側から第2ドメイン及び第1ドメインがこの順で積み重なる部分を含まないことが好ましい。例えば、シェル層形成工程において、低Tgの非架橋樹脂(又はその前駆体)をトナーコアの表面に付着させてから、高Tgの架橋樹脂粒子をトナーコアの表面に付着させることで、上記積層構造(下:第1ドメイン、上:第2ドメイン)を形成できる。第1ドメイン及び第2ドメインを同時に形成する場合、低Tgの非架橋樹脂が高Tgの架橋樹脂に優先してトナーコアに付着する傾向があるものの、部分的には架橋樹脂粒子上に非架橋樹脂膜が形成されると考えられる。トナーコアの表面領域において架橋樹脂粒子及び非架橋樹脂膜の順で積層される領域が多くなり過ぎると、トナーの低温定着性が悪くなると考えられる。
【0029】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、第1ドメイン(膜状ドメイン)と第2ドメイン(粒子状ドメイン)とが互いに同一の極性を有することが好ましい。第1ドメインと第2ドメインとが電気的に反発することで、第1ドメインの隙間に第2ドメインが配置され易くなる。また、トナーコアとシェル層との結合を強めるためには、第1ドメイン及び第2ドメインがそれぞれ、トナーコアの極性(例えば、アニオン性)とは逆の極性(例えば、カチオン性)を有することが好ましい。
【0030】
トナーの低温定着性を向上させるためには、前述の基本構成において、トナーコアのガラス転移点が、第1ドメインの非架橋樹脂のガラス転移点よりも低いことが好ましい。高速定着時におけるトナーの定着性を向上させるためには、トナーコアのガラス転移点(Tg)が、20℃以上55℃以下であることが好ましい。
【0031】
トナーコアのガラス転移点を適度に小さくするためには、トナーコアが、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性ポリエステル樹脂とを含有することが好ましい。
【0032】
結晶性ポリエステル樹脂の好適な例としては、1種以上の炭素数2以上8以下のα,ω−アルカンジオール(例えば、2種類のα,ω−アルカンジオール:炭素数4の1,4−ブタンジオール及び炭素数6の1,6−ヘキサンジオール)と、1種以上の炭素数(2つのカルボキシル基の炭素を含む)4以上10以下のα,ω−アルカンジカルボン酸(例えば、炭素数4のコハク酸)と、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレン)と、1種以上のアクリル酸系モノマー(例えば、アクリル酸)とを含む単量体(樹脂原料)の重合物が挙げられる。
【0033】
トナーコアが適度なシャープメルト性を有するためには、トナーコア中に、結晶性指数0.90以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有させることが好ましい。樹脂の結晶性指数は、樹脂の融点(Mp)に対する樹脂の軟化点(Tm)の比率(=Tm/Mp)に相当する。非結晶性樹脂については、明確なMpを測定できないことが多い。結晶性ポリエステル樹脂の結晶性指数は、結晶性ポリエステル樹脂を合成するための材料の種類又は使用量(配合比)を変更することで、調整できる。トナーコアは、結晶性ポリエステル樹脂を1種類だけ含有してもよいし、2種以上の結晶性ポリエステル樹脂を含有してもよい。
【0034】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアが、異なる軟化点(Tm)を有する複数種の非結晶性ポリエステル樹脂を含有することが好ましく、軟化点90℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂と、軟化点100℃以上120℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂と、軟化点125℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂とを含有することが特に好ましい。
【0035】
軟化点90℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂の好適な例としては、アルコール成分として、ビスフェノール(例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物及び/又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物)を含み、酸成分として、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸)及び不飽和ジカルボン酸(例えば、フマル酸)を含む非結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0036】
軟化点100℃以上120℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂の好適な例としては、アルコール成分として、ビスフェノール(例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物及び/又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物)を含み、酸成分として、芳香族ジカルボン酸(例えば、テレフタル酸)を含み、不飽和ジカルボン酸を含まない非結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0037】
軟化点125℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂の好適な例としては、アルコール成分として、ビスフェノール(例えば、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物及び/又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物)を含み、酸成分として、炭素数10以上20以下のアルキル基を有するジカルボン酸(例えば、炭素数12のアルキル基を有するドデシルコハク酸)、不飽和ジカルボン酸(例えば、フマル酸)、及び3価カルボン酸(例えば、トリメリット酸)を含む非結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0038】
一般に、トナーコアは、粉砕コア(粉砕トナーとも呼ばれる)と重合コア(ケミカルトナーとも呼ばれる)とに大別される。粉砕法で得られたトナーコアは粉砕コアに属し、凝集法で得られたトナーコアは重合コアに属する。前述の基本構成を有するトナーにおいて、トナーコアは、ポリエステル樹脂を含有する粉砕コアであることが好ましい。
【0039】
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態に係るトナーの構成の一例について説明する。なお、
図1は、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例を示す図である。
図2は、
図1に示されるトナー母粒子の一部を拡大して示す図である。
図2では、外添剤を割愛して、トナー母粒子のみを示している。
【0040】
図1に示されるトナー粒子10は、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した無機粒子13(外添剤)とを備える。トナー母粒子は、トナーコア11と、トナーコア11の表面に形成されたシェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を覆っている。
【0041】
トナー粒子10では、
図2に示すように、シェル層12が、膜状の第1ドメイン12aと、粒子状の第2ドメイン12bとを有する。
図2に示す例では、トナーコア11の表面のうち第1ドメイン12aからトナーコア11が露出する領域に、第2ドメイン12bが存在する。また、第1ドメイン12a上にも、第2ドメイン12bが存在する。シェル層12は、第1シェル部(第1ドメイン12aのみで構成される部分)と、第2シェル部(第2ドメイン12bのみで構成される部分)と、第3シェル部(トナーコア11側から第1ドメイン12a及び第2ドメイン12bがこの順で積み重なる部分)とを含む。他方、シェル層12は、トナーコア11側から第2ドメイン12b及び第1ドメイン12aがこの順で積み重なる部分は含まない。
【0042】
トナーコア11の表面領域は、第1シェル部で覆われる領域(以下、第1被覆領域と記載する)と、第2シェル部で覆われる領域(以下、第2被覆領域と記載する)と、第3シェル部で覆われる領域(以下、第3被覆領域と記載する)とを含む。第1被覆領域、第2被覆領域、及び第3被覆領域はそれぞれ、トナー粒子10の断面撮影像で確認できる。トナー粒子10の断面撮影像に基づいて測定される被覆領域の長さ(詳しくは、合計長さ)が大きいほど、その被覆領域の面積(詳しくは、合計面積)が大きい傾向がある。トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナー粒子10の断面撮影像において、第3被覆領域の合計長さよりも第2被覆領域の合計長さの方が大きいことが好ましい。第3被覆領域(第1ドメイン12a及び第2ドメイン12bの両方で覆われる領域)の合計長さ(すなわち、第3被覆領域の面積)が大き過ぎると、トナーを低温で定着させることが困難になると考えられる。第2被覆領域の合計長さ(すなわち、第2被覆領域の面積)が小さ過ぎると、第2ドメイン12bがトナーの耐熱保存性を向上させる効果が不十分になると考えられる。
【0043】
第1ドメイン12a及び第2ドメイン12bはそれぞれ、走査型プローブ顕微鏡(SPM)又は透過電子顕微鏡(TEM)を用いてトナー粒子10の表面を観察することで、確認できる。
【0044】
図3は、本実施形態に係るトナーについて、SPMを用いてトナー母粒子の表面を撮影した写真である。例えば、
図3中、領域R1に樹脂膜(膜状の第1ドメイン12a)を確認できる。また、
図3中、領域R2に樹脂粒子(球状の第2ドメイン12b)を確認できる。
図4は、本実施形態に係るトナーについて、TEMを用いてトナー母粒子の断面(特に、シェル層12の断面)を撮影した写真である。
図4の写真から、シェル層12が凹凸(詳しくは、第1ドメイン12a及び第2ドメイン12bに対応した凹凸)を有することを確認できる。
【0045】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアの表面全域のうち、第1シェル部及び第3シェル部のいずれかで覆われる領域の合計長さ(=第1被覆領域と第3被覆領域との合計長さ)の割合(以下、第1被覆率と記載する)が、トナーコアの周長に対して40%以上80%以下であることが好ましい。第1被覆率(単位:%)は、式「第1被覆率=100×(第1被覆領域の合計長さ+第3被覆領域の合計長さ)/トナーコアの周長」で表される。第1ドメインを厚くし過ぎると、第1被覆率が高くなり過ぎて、トナーの低温定着性が悪くなると考えられる。また、第1被覆率が低過ぎると、トナーの耐熱保存性を確保するために多くの第2ドメインが必要になり、トナーの耐熱保存性及び低温定着性を両立させることが困難になると考えられる。
【0046】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーコアの表面全域のうち、第1シェル部、第2シェル部、及び第3シェル部のいずれかで覆われる領域の合計長さ(=第1被覆領域と第2被覆領域と第3被覆領域との合計長さ)の割合(以下、第2被覆率と記載する)が、トナーコアの周長に対して70%以上99%以下であることが好ましい。第2被覆率(単位:%)は、式「第2被覆率=100×(第1被覆領域の合計長さ+第2被覆領域の合計長さ+第3被覆領域の合計長さ)/トナーコアの周長」で表される。
【0047】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、トナーの体積中位径(D
50)が4μm以上10μm未満であることが好ましい。
【0048】
次に、トナーコア(結着樹脂及び内添剤)、シェル層、及び外添剤について、順に説明する。トナーの用途に応じて必要のない成分(例えば、内添剤)を割愛してもよい。
【0049】
<好適な熱可塑性樹脂>
トナー粒子(特に、トナーコア及びシェル層)を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂(より具体的には、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体等)、オレフィン系樹脂(より具体的には、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等)、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、N−ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂が好ましい。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体(より具体的には、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂等)も、トナー粒子を構成する熱可塑性樹脂として好ましい。
【0050】
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すような、スチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。カルボキシル基を有するアクリル酸系モノマーを用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂にカルボキシル基を導入できる。また、水酸基を有するモノマー(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等)を用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂に水酸基を導入できる。アクリル酸系モノマーの使用量を調整することで、得られるスチレン−アクリル酸系樹脂の酸価を調整できる。また、水酸基を有するモノマーの使用量を調整することで、得られるスチレン−アクリル酸系樹脂の水酸基価を調整できる。
【0051】
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン(より具体的には、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、又はp−エチルスチレン等)、ヒドロキシスチレン(より具体的には、p−ヒドロキシスチレン、又はm−ヒドロキシスチレン等)、又はハロゲン化スチレン(より具体的には、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレン等)が挙げられる。
【0052】
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
【0053】
ポリエステル樹脂は、1種以上の多価アルコールと1種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、脂肪族ジオール又はビスフェノール等)又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。また、ポリエステル樹脂を合成する際に、アルコールの使用量とカルボン酸の使用量とをそれぞれ変更することで、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価を調整することができる。ポリエステル樹脂の分子量を上げると、ポリエステル樹脂の酸価及び水酸基価は低下する傾向がある。
【0054】
脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、α,ω−アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、又は1,12−ドデカンジオール等)、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0055】
ビスフェノールの好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0056】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0057】
2価カルボン酸の好適な例としては、芳香族ジカルボン酸(より具体的には、フタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸等)、α,ω−アルカンジカルボン酸(より具体的には、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,10−デカンジカルボン酸等)、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、アルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)、不飽和ジカルボン酸(より具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、又はグルタコン酸等)、又はシクロアルカンジカルボン酸(より具体的には、シクロヘキサンジカルボン酸等)が挙げられる。
【0058】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
【0059】
[トナーコア]
(結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整することができる。結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなり、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。トナーコアとシェル層との結合性(反応性)を高めるためには、結着樹脂の水酸基価及び酸価の少なくとも一方が10mgKOH/g以上であることが好ましい。
【0060】
トナーコアの結着樹脂としては、熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)が好ましい。トナーコア中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、及び記録媒体に対するトナーの定着性を向上させるためには、結着樹脂としてスチレン−アクリル酸系樹脂又はポリエステル樹脂を用いることが特に好ましい。
【0061】
トナーコアの結着樹脂としてスチレン−アクリル酸系樹脂を使用する場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、スチレン−アクリル酸系樹脂の数平均分子量(Mn)が2000以上3000以下であることが好ましい。スチレン−アクリル酸系樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は10以上20以下であることが好ましい。
【0062】
トナーコアの結着樹脂としてポリエステル樹脂を使用する場合、トナーコアの強度及びトナーの定着性を向上させるためには、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000以上2000以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の分子量分布(数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率Mw/Mn)は9以上21以下であることが好ましい。
【0063】
(着色剤)
トナーコアは、着色剤を含有してもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0064】
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
【0065】
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
【0066】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
【0067】
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
【0068】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
【0069】
(離型剤)
トナーコアは、離型剤を含有していてもよい。離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0070】
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
【0071】
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
【0072】
(電荷制御剤)
トナーコアは、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
【0073】
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤(より具体的には、有機金属錯体又はキレート化合物等)を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤(より具体的には、ピリジン、ニグロシン、又は4級アンモニウム塩等)を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
【0074】
(磁性粉)
トナーコアは、磁性粉を含有していてもよい。磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、又はこれらの合金等)、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロム等)、又は強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)を好適に使用できる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
【0075】
磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に金属イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの金属イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制することができると考えられる。
【0076】
[シェル層]
本実施形態に係るトナーは、前述の基本構成を有する。シェル層は、膜状の第1ドメインと、粒子状の第2ドメインとを有する。第1ドメインは実質的に非架橋樹脂から構成される。第2ドメインは実質的に架橋樹脂から構成される。
【0077】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、第1ドメインを構成する非架橋樹脂が、非架橋の熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)であることが好ましく、非架橋スチレン−アクリル酸系樹脂であることが特に好ましい。
【0078】
トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図るためには、第2ドメインを構成する架橋樹脂が、架橋構造を有する熱可塑性樹脂(より具体的には、前述の「好適な熱可塑性樹脂」等)であることが好ましく、架橋アクリル酸系樹脂であることが特に好ましい。
【0079】
画像形成に適したトナーを得るためには、第1ドメインを構成する非架橋樹脂が非架橋スチレン−アクリル酸系樹脂であり、第2ドメインを構成する架橋樹脂が架橋アクリル酸系樹脂であることが特に好ましい。非架橋スチレン−アクリル酸系樹脂としては、1種以上のスチレン系モノマー(例えば、スチレン)と、1種以上の(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アクリル酸エチル)と、1種以上の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル(例えば、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル)とを含む単量体(樹脂原料)の重合物が特に好ましい。架橋アクリル酸系樹脂としては、1種以上の(メタ)アクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸メチル)と、1種以上のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステルとを含む単量体(樹脂原料)の重合物が特に好ましい。アクリル酸系樹脂に架橋構造を導入するための架橋剤としては、アルキレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル(例えば、ジメタクリル酸ブチレングリコール)が好ましい。
【0080】
トナーの正帯電性を強めるためには、シェル層がカチオン界面活性剤を含有することが好ましい。例えば、シェル層を形成するために使用したカチオン界面活性剤を除去せずにあえて残すことで、シェル層にカチオン界面活性剤を含有させることができる。シェル層に含有させるカチオン界面活性剤としては、例えば、アミン塩(より具体的には、第1級アミンの酢酸塩等)、又は4級アンモニウム塩(より具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アクリロイルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩、又は塩化ベンゼトニウム等)が好ましい。
【0081】
[外添剤]
トナー母粒子の表面には、外添剤として無機粒子が付着している。外添剤は、内添剤とは異なり、トナー母粒子の内部には存在せず、トナー母粒子の表面(トナー粒子の表層部)のみに選択的に存在する。例えば、トナー母粒子(粉体)と外添剤(粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させることができる。トナー母粒子と外添剤粒子とは、互いに化学反応せず、化学的ではなく物理的に結合する。トナー母粒子と外添剤粒子との結合の強さは、攪拌条件(より具体的には、攪拌時間、及び攪拌の回転速度等)、外添剤粒子の粒子径、外添剤粒子の形状、及び外添剤粒子の表面状態などによって調整できる。トナー粒子からの外添剤粒子の脱離を抑制しながら外添剤の機能を十分に発揮させるためには、外添剤の量(複数種の外添剤粒子を使用する場合には、それら外添剤粒子の合計量)が、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、トナーの流動性又は取扱性を向上させるためには、外添剤の粒子径は0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
【0082】
外添剤粒子(無機粒子)としては、シリカ粒子、又は金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウム等)の粒子を好適に使用できる。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
【0083】
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又はアルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(例えば、鎖状シラザン化合物又は環状シラザン化合物)、又はシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)を好適に使用できる。表面処理剤としては、シランカップリング剤又はシラザン化合物が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン又はアミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。
【0084】
シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(−OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を用いてシリカ基体の表面を処理した場合、シランカップリング剤の水酸基(例えば、水分によりシランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解されて生成する水酸基)がシリカ基体の表面に存在する水酸基と脱水縮合反応(「A(シリカ基体)−OH」+「B(カップリング剤)−OH」→「A−O−B」+H
2O)する。こうした反応により、アミノ基を有するシランカップリング剤とシリカとが化学結合することで、シリカ粒子の表面にアミノ基が付与されて、正帯電性シリカ粒子が得られる。より詳しくは、シリカ基体の表面に存在する水酸基が、端部にアミノ基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−(CH
2)
3−NH
2等)に置換される。アミノ基が付与されたシリカ粒子は、シリカ基体よりも強い正帯電性を有する傾向がある。また、アルキル基を有するシランカップリング剤を用いた場合には、疎水性シリカ粒子が得られる。より詳しくは、上記脱水縮合反応により、シリカ基体の表面に存在する水酸基を、端部にアルキル基を有する官能基(より具体的には、−O−Si−CH
3等)に置換することができる。このように、親水性基(水酸基)の代わりに疎水性基(アルキル基)が付与されたシリカ粒子は、シリカ基体よりも強い疎水性を有する傾向がある。
【0085】
外添剤粒子として、導電層を備える無機粒子を使用してもよい。導電層は、例えばドーピングにより導電性が付与された金属酸化物(以下、ドーピング金属酸化物と記載する)の膜(より具体的には、SbドープSnO
2膜等)である。また、導電層は、ドーピング金属酸化物以外の導電性材料(より具体的には、金属、炭素材料、又は導電性高分子等)を含む層であってもよい。
【0086】
[トナーの製造方法]
以下、上記構成を有する本実施形態に係るトナーを製造する方法の一例について説明する。
【0087】
(トナーコアの準備)
好適なトナーコアを容易に得るためには、凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましく、粉砕法によりトナーコアを製造することがより好ましい。
【0088】
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤(例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)とを混合する。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕し、得られた粉砕物を分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
【0089】
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を含む水性媒体中で、これらの粒子を所望の粒子径になるまで凝集させる。これにより、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子が形成される。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質(界面活性剤等)を除去することで、トナーコアが得られる。
【0090】
(第1ドメインの形成)
シェル層の第1ドメインの形成においてトナーコア成分(特に、結着樹脂及び離型剤)の溶解又は溶出を抑制するためには、水性媒体中でシェル層の第1ドメインを形成することが好ましい。水性媒体は、水を主成分とする媒体(より具体的には、純水、又は水と極性媒体との混合液等)である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては、例えば、アルコール(より具体的には、メタノール又はエタノール等)を使用できる。水性媒体の沸点は約100℃である。
【0091】
水性媒体として、例えばイオン交換水を準備する。続けて、例えば塩酸を用いて水性媒体のpHを所定のpH(例えば、3以上5以下から選ばれるpH)に調整する。続けて、pHが調整された水性媒体(例えば、酸性の水性媒体)に、トナーコアと、非架橋樹脂のサスペンション(非架橋樹脂粒子を含む液)とを添加する。
【0092】
非架橋樹脂粒子は、液中でトナーコアの表面に付着する。トナーコアの表面に均一に非架橋樹脂粒子を付着させるためには、非架橋樹脂粒子を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるために、液中に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて液を攪拌してもよい。界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、又は石鹸を使用できる。
【0093】
続けて、上記トナーコア及び非架橋樹脂粒子を含む液を攪拌しながら液の温度を所定の速度(例えば、0.1℃/分以上3℃/分以下から選ばれる速度)で所定の保持温度(好ましくは、「非架橋樹脂のTg−5℃≦保持温度≦非架橋樹脂のTg+20℃」を満たす温度)まで上昇させる。昇温処理の後(液の温度が保持温度に到達した後)、液を攪拌しながら液の温度を保持温度に所定の時間(例えば、1分間以上60分間以下から選ばれる時間)保ってもよい。昇温処理中(液の温度を保持温度へ上昇させている間)、又は昇温処理後の保持時間(液の温度を保持温度に保っている間)に、トナーコアの表面に非架橋樹脂膜(第1ドメイン)が形成される。以下、第1ドメインが形成されたトナーコアを、第1被覆コアと記載する。
【0094】
続けて、例えば水酸化ナトリウムを用いて、上記のようにして得た第1被覆コアの分散液を中和する。続けて、第1被覆コアの分散液を、例えば常温(約25℃)まで冷却する。続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、第1被覆コアの分散液をろ過する。これにより、第1被覆コアが液から分離(固液分離)され、ウェットケーキ状の第1被覆コアが得られる。続けて、得られたウェットケーキ状の第1被覆コアを洗浄する。続けて、洗浄された第1被覆コアを乾燥する。
【0095】
(第2ドメインの形成)
続けて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて、第1被覆コア(粉体)と架橋樹脂粒子(粉体)とを、所定の時間(例えば、30秒間以上2分間以下から選ばれる時間)混合して、第1被覆コアの表面に架橋樹脂粒子を付着させる。これにより、トナー母粒子(粉体)が得られる。
【0096】
第2ドメインの固定化を湿式で行った場合と、第2ドメインの固定化を乾式で行った場合とでは、第2ドメインの表面吸着力が異なることを、本願発明者が見出した。湿式の場合には、第2ドメインの表面に副資材(より具体的には、界面活性剤等)が残留する可能性が高い。また、湿式の場合、高温の液中で第1被覆コアの表面に第2ドメイン(架橋樹脂粒子)を固定化する必要がある。これに対し、乾式の場合には、室温(約25℃)と同じかそれ以下の温度で、第1被覆コアの表面に第2ドメイン(架橋樹脂粒子)を固定化できる。こうした固定化条件の違い(特に、処理環境及び処理温度の違い)が、第2ドメインの表面吸着力に差異をもたらしていると考えられる。
【0097】
FMミキサーは、温度調節用ジャケット付きの混合槽を備え、混合槽内に、デフレクタと、温度センサーと、上羽根と、下羽根とをさらに備える。FMミキサーを用いて、混合槽内に投入された材料(より具体的には、粉体又はスラリー等)を混合する場合、下羽根の回転により、混合槽内の材料が旋回しながら上下方向に流動する。これにより、混合槽内に材料の対流が生じる。上羽根は、高速回転して、材料に剪断力を与える。FMミキサーは、材料に剪断力を与えることで、強力な混合力で材料を混合することを可能にしている。
【0098】
(外添工程)
続けて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて、トナー母粒子と外添剤(無機粒子)とを、所定の時間(例えば、3分間以上8分間以下から選ばれる時間)混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる。なお、乾燥工程でスプレードライヤーを用いる場合には、外添剤(無機粒子)の分散液をトナー母粒子に噴霧することで、乾燥工程と外添工程とを同時に行うことができる。こうして、トナー粒子を多数含むトナーが得られる。
【0099】
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更することができる。例えば、液中で材料(例えば、シェル材料)を反応させる場合、液に材料を添加した後、所定の時間、液中で材料を反応させてもよいし、長時間かけて液に材料を添加して、液に材料を添加しながら液中で材料を反応させてもよい。また、シェル材料を、一度に液に添加してもよいし、複数回に分けて液に添加してもよい。外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。また、液のpHを調整しなくても、シェル層を形成するための反応が良好に進行する場合には、pH調整工程を割愛してもよい。樹脂を合成するための材料としては、モノマーに代えてプレポリマーを使用してもよい。また、所定の化合物を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
【実施例】
【0100】
本発明の実施例について説明する。表1に、実施例又は比較例に係るトナーT−1〜T−11(それぞれ静電潜像現像用トナー)を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
以下、トナーT−1〜T−11の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。また、粉体の個数平均粒子径の測定には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。また、Tg(ガラス転移点)、Mp(融点)、及びTm(軟化点)の測定方法はそれぞれ、何ら規定していなければ、次に示すとおりである。
【0103】
<Tg及びMpの測定方法>
測定装置として、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いた。測定装置を用いて試料(例えば、樹脂)の吸熱曲線を測定することにより、試料のTg及びMpを求めた。具体的には、試料(例えば、樹脂)15mgをアルミ皿(アルミニウム製の容器)に入れて、そのアルミ皿を測定装置の測定部にセットした。また、リファレンスとして空のアルミ皿を使用した。吸熱曲線の測定では、測定部の温度を、測定開始温度10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させた(RUN1)。その後、測定部の温度を150℃から10℃まで10℃/分の速度で降温させた。続けて、測定部の温度を再び10℃から150℃まで10℃/分の速度で昇温させた(RUN2)。RUN2により、試料の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)を得た。得られた吸熱曲線から、試料のMp及びTgを読み取った。吸熱曲線中、融解熱による最大ピーク温度が試料のMp(融点)に相当する。また、吸熱曲線中、比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度(オンセット温度)が試料のTg(ガラス転移点)に相当する。
【0104】
<Tmの測定方法>
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(例えば、樹脂)をセットし、ダイス細孔径1mm、プランジャー荷重20kg/cm
2、昇温速度6℃/分の条件で、1cm
3の試料を溶融流出させて、試料のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を求めた。続けて、得られたS字カーブから試料のTmを読み取った。S字カーブにおいて、ストロークの最大値をS
1とし、低温側のベースラインのストローク値をS
2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S
1+S
2)/2」となる温度が、試料のTm(軟化点)に相当する。
【0105】
[トナーの製造方法]
(結晶性ポリエステル樹脂の合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、1,6−ヘキサンジオール2643g、1,4−ブタンジオール864g、及びコハク酸2945gを入れた。続けて、フラスコ内容物を温度160℃に加熱して、添加した材料を溶解させた。続けて、滴下漏斗を用いて、スチレン等の混合液(スチレン1831gとアクリル酸161gとジクミルパーオキサイド110gとの混合液)を1時間かけてフラスコ内に滴下した。続けて、フラスコ内容物を攪拌しながら温度170℃で1時間反応させて、フラスコ内のスチレン及びアクリル酸を重合させた。その後、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)に1時間保って、フラスコ内の未反応のスチレン及びアクリル酸を除去した。続けて、2−エチルヘキサン酸錫(II)40gと、没食子酸3gとを、フラスコ内に加えた。続けて、フラスコ内容物を昇温させて、温度210℃で8時間反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度210℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた。その結果、Tm92℃、Mp96℃、結晶性指数0.95の結晶性ポリエステル樹脂が得られた。
【0106】
(非結晶性ポリエステル樹脂Aの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059gと、テレフタル酸1194gと、フマル酸286gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)10gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。反応率は、式「反応率=100×実際の反応生成水量/理論生成水量」に従って計算した。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(89℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm89℃、Tg50℃の非結晶性ポリエステル樹脂Aが得られた。
【0107】
(非結晶性ポリエステル樹脂Bの合成)
非結晶性ポリエステル樹脂Bの合成方法は、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物370g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物3059g、テレフタル酸1194g、及びフマル酸286gに代えて、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物1286g、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物2218g、及びテレフタル酸1603gを使用した以外は、非結晶性ポリエステル樹脂Aの合成方法と同じであった。非結晶性ポリエステル樹脂Bに関しては、Tmが111℃、Tgが69℃であった。
【0108】
(非結晶性ポリエステル樹脂Cの合成)
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量10Lの4つ口フラスコ内に、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物4907gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物1942gと、フマル酸757gと、ドデシルコハク酸無水物2078gと、2−エチルヘキサン酸錫(II)30gと、没食子酸2gとを入れた。続けて、窒素雰囲気かつ温度230℃の条件で、前述の式で表される反応率が90質量%以上になるまで、フラスコ内容物を反応させた。続けて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)で、フラスコ内容物を1時間反応させた。続けて、無水トリメリット酸548gをフラスコ内に加えて、減圧雰囲気(圧力8.3kPa)かつ温度220℃の条件で、反応生成物(樹脂)のTmが所定の温度(127℃)になるまで、フラスコ内容物を反応させた。その結果、Tm127℃、Tg51℃の非結晶性ポリエステル樹脂Cが得られた。
【0109】
(サスペンションA−1の調製)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内に、温度30℃のイオン交換水875mLとカチオン界面活性剤(日本乳化剤株式会社製「テクスノール(登録商標)R5」、成分:アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩)75mLとを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を80℃に昇温させた。続けて、80℃のフラスコ内容物に2種類の液(第1の液及び第2の液)をそれぞれ5時間かけて滴下した。第1の液は、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル4mLと、アクリル酸エチル4mLとの混合液であった。第2の液は、過硫酸カリウム0.5gをイオン交換水30mLに溶かした溶液であった。続けて、フラスコ内の温度を80℃にさらに2時間保って、フラスコ内容物を重合させた。その結果、樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)のサスペンションA−1が得られた。得られたサスペンションA−1に含まれる樹脂微粒子に関して、個数平均粒子径は53nmであった。
【0110】
(サスペンションA−2の調製)
サスペンションA−2の調製方法は、各材料の添加量に関して、スチレンの12mLを13mLに、メタクリル酸2−ヒドロキシブチルの4mLを5mLに、アクリル酸エチルの4mLを3mLに、それぞれ変更した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。得られたサスペンションA−2に含まれる樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)に関して、個数平均粒子径は55nmであった。
【0111】
(サスペンションA−3の調製)
サスペンションA−3の調製方法は、カチオン界面活性剤(テクスノールR5)の使用量を75mLから5mLに変更し、第1の液として、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル4mLと、アクリル酸エチル4mLとの混合液の代わりに、スチレン13mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル6mLと、アクリル酸メチル2mLとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。得られたサスペンションA−3に含まれる樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)に関して、個数平均粒子径は52nmであった。
【0112】
(サスペンションA−4の調製)
サスペンションA−4の調製方法は、カチオン界面活性剤(テクスノールR5)の使用量を75mLから5mLに変更し、第1の液として、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル4mLと、アクリル酸エチル4mLとの混合液の代わりに、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル2mLと、アクリル酸ブチル4mLとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。得られたサスペンションA−4に含まれる樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)に関して、個数平均粒子径は53nmであった。
【0113】
(サスペンションA−5の調製)
サスペンションA−5の調製方法は、カチオン界面活性剤(テクスノールR5)の使用量を75mLから5mLに変更し、第1の液として、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル4mLと、アクリル酸エチル4mLとの混合液の代わりに、スチレン12mLと、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル7mLと、アクリル酸メチル2mLとの混合液を使用した以外は、サスペンションA−1の調製方法と同じであった。得られたサスペンションA−5に含まれる樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)に関して、個数平均粒子径は56nmであった。
【0114】
(樹脂粉体B−1の調製)
温度計(熱電対)、窒素導入管、攪拌装置、及び熱交換器(コンデンサー)を備えた容量3Lのフラスコ内に、約30℃のイオン交換水1000gとカチオン界面活性剤(日本乳化剤株式会社製「テクスノールR5」、成分:アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩)4gとを入れた。続けて、フラスコ内容物を攪拌しながら、フラスコ内に窒素を導入しつつ窒素置換を30分間行った。その後、フラスコ内に過硫酸カリウム2gを入れた。そして、フラスコ内容物を攪拌して過硫酸カリウムを溶解させた。続けて、フラスコ内に窒素を導入しながらフラスコ内の温度を80℃に昇温させた。そして、フラスコ内の温度が80℃に到達した時点から2時間かけて、メタクリル酸メチル250gとジメタクリル酸1,4−ブタンジオール4gとの混合液をフラスコ内に滴下した。混合液の滴下中、温度80℃かつ回転速度300rpmの条件でフラスコ内容物を攪拌し続けた。滴下終了後、フラスコ内の温度を80℃にさらに8時間保った。フラスコ内の温度を高温(80℃)に保っている間にフラスコ内容物が重合し、樹脂微粒子のサスペンションが得られた。続けて、得られた樹脂微粒子のサスペンションをろ過した後、乾燥することで、樹脂粉体(架橋樹脂の粉末)B−1を得た。得られた樹脂粉体B−1に含まれる樹脂微粒子に関して、個数平均粒子径は84nmであった。
【0115】
(樹脂粉体B−2の調製)
樹脂粉体B−2の調製方法は、メタクリル酸メチル250gとジメタクリル酸1,4−ブタンジオール4gとの混合液の代わりに、メタクリル酸メチル250gとジメタクリル酸エチレングリコール4gとの混合液を使用した以外は、樹脂粉体B−1の調製方法と同じであった。得られた樹脂粉体(架橋樹脂の粉末)B−2に含まれる樹脂微粒子に関して、個数平均粒子径は84nmであった。
【0116】
(樹脂粉体B−3の調製)
樹脂粉体B−3の調製方法は、ジメタクリル酸エチレングリコールの使用量を4gから5gに変更した以外は、樹脂粉体B−2の調製方法と同じであった。得られた樹脂粉体(架橋樹脂の粉末)B−3に含まれる樹脂微粒子に関して、個数平均粒子径は90nmであった。
【0117】
(樹脂粉体B−4の調製)
樹脂粉体B−4の調製方法は、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオールの使用量を4gから3gに変更した以外は、樹脂粉体B−1の調製方法と同じであった。得られた樹脂粉体(架橋樹脂の粉末)B−4に含まれる樹脂微粒子に関して、個数平均粒子径は77nmであった。
【0118】
サスペンションA−1〜A−5及び樹脂粉体B−1〜B−4の各々に含まれる樹脂微粒子に関して、ガラス転移点(Tg)は、表1に示すとおりであった。例えば、サスペンションA−1に含まれる樹脂微粒子(非架橋樹脂粒子)のガラス転移点(Tg)は68℃であった。また、樹脂粉体B−3に含まれる樹脂微粒子(架橋樹脂粒子)のガラス転移点(Tg)は130℃であった。
【0119】
(トナーコアの作製)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM−20B」)を用いて、第1結着樹脂(前述の手順で合成した結晶性ポリエステル樹脂)100gと、第2結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂A)300gと、第3結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂B)100gと、第4結着樹脂(前述の手順で合成した非結晶性ポリエステル樹脂C)600gと、着色剤(山陽色素株式会社製「カラーテックス(登録商標)ブルーB1021」、成分:フタロシアニンブルー)144gと、第1離型剤(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」、成分:カルナバワックス)12gと、第2離型剤(日油株式会社製「ニッサンエレクトール(登録商標)WEP−3」、成分:エステルワックス)48gとを、回転速度2400rpmで混合した。
【0120】
続けて、得られた混合物を、2軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度(シリンダー温度)100℃の条件で溶融混練した。その後、得られた混練物を冷却した。続けて、冷却された混練物を、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、Tg36℃、体積中位径(D
50)6μmのトナーコアが得られた。
【0121】
(膜状ドメイン形成工程)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内にイオン交換水300mLを入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内容物のpHを4に調整した。続けて、非架橋樹脂粒子を含むサスペンション(各トナーに定められた、表1に示されるサスペンションA−1〜A−5のいずれか)15mLをフラスコ内に加えた。例えばトナーT−1の製造では、15mLのサスペンションA−1をフラスコ内に添加した。続けて、フラスコ内にトナーコア(前述の手順で作製したトナーコア)300gを添加して、フラスコ内容物を回転速度300rpmで1時間攪拌した。続けて、フラスコ内にイオン交換水300mLを添加した。
【0122】
続けて、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら、フラスコ内の温度を1℃/分の速度で78℃まで上げた。そして、フラスコ内の温度が78℃になった時点で、フラスコ内に水酸化ナトリウムを加えて、フラスコ内容物のpHを7に調整した。続けて、フラスコ内容物をその温度が常温(約25℃)になるまで冷却して、第1被覆コア(部分的に非架橋樹脂膜で覆われたトナーコア)を含む分散液を得た。
【0123】
(洗浄工程)
上記のようにして得られた第1被覆コアの分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)して、ウェットケーキ状の第1被覆コアを得た。その後、得られたウェットケーキ状の第1被覆コアをイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、第1被覆コアを洗浄した。
【0124】
(乾燥工程)
続けて、得られた第1被覆コアを、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、第1被覆コアのスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m
3/分の条件で、スラリー中の第1被覆コアを乾燥させた。その結果、第1被覆コアの粉体が得られた。
【0125】
(粒子状ドメイン形成工程)
続けて、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、第1被覆コア100質量部と、架橋樹脂粒子(各トナーに定められた、表1に示される樹脂粉体B−1〜B−4のいずれか)1.25質量部とを、1分間混合することにより、第1被覆コアの表面に架橋樹脂粒子を付着させた。例えばトナーT−1の製造では、架橋樹脂粒子として樹脂粉体B−3を用いた。その結果、トナー母粒子が得られた。なお、トナーT−7の製造では、架橋樹脂粒子を使用しないため、粒子状ドメイン形成工程を割愛した。
【0126】
(外添工程)
続けて、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて、トナー母粒子100質量部と、乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」、内容:表面処理により正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、個数平均1次粒子径:約20nm)1質量部と、導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」、基体:TiO
2粒子、被覆層:SbドープSnO
2膜、個数平均1次粒子径:約0.35μm)0.5質量部とを、5分間混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤が付着した。その後、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別を行った。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(表1に示されるトナーT−1〜T−11)が得られた。
【0127】
各試料(トナーT−1〜T−11)について、下記の手順で、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて第1表面吸着力及び第2表面吸着力を測定し、透過電子顕微鏡(TEM)を用いてトナーコアの第1被覆率を測定した。その測定の結果は、表1に示すとおりであった。例えばトナーT−1に関しては、第1表面吸着力が39.1nNであり、第2表面吸着力が6.0nNであり、第1被覆率が69%であった。
【0128】
<表面吸着力の測定方法>
測定装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(株式会社日立ハイテクサイエンス製「多機能型ユニットAFM5200S」)を備えたSPMプローブステーション(株式会社日立ハイテクサイエンス製「NanoNaviReal」)を使用した。また、測定に先立ち、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて、試料(トナー)に含まれるトナー粒子のうち平均的なトナー粒子(過度に凹凸のないトナー粒子)を選び、選ばれたトナー粒子を測定対象とした。測定範囲にシェル層の第1シェル部(膜状ドメインのみで構成される部分)と第2シェル部(粒子状ドメインのみで構成される部分)とが含まれるように、視野(測定部位)を設定した。
【0129】
(SPM測定条件)
・測定探針:低バネ定数シリコンカンチレバー(オリンパス株式会社製「OMCL−AC240TS−C3」、バネ定数:2N/m、共振周波数:70kHz、背面反射コート材:アルミニウム)
・測定モード:SIS−DFM(SIS:サンプリング・インテリジェント・スキャン、DFM:ダイナミック・フォース・モード)
・測定範囲(1つの視野):1μm×1μm
・解像度(Xデータ/Yデータ):256/256
【0130】
温度23℃かつ湿度60%RHの環境下で、上記測定モード(SIS−DFM)により、測定対象の表面の測定範囲(XY平面:1μm×1μm)をカンチレバーで水平に走査してAFMフォースカーブを測定し、表面吸着力に関するマッピング画像を得た。AFMフォースカーブは、探針(カンチレバーの先端部)と測定対象との間の距離と、カンチレバーに働く力(たわみ量)との関係を示す曲線である。AFMフォースカーブから、測定対象の表面吸着力(カンチレバーが測定対象の表面から離れるために必要な力)が得られる。上記測定装置では、カンチレバーの押し付け力(たわみ信号)が光てこ方式で検出される。詳しくは、半導体レーザー装置がカンチレバーの背面に向けてレーザー光を照射し、カンチレバーの背面で反射したレーザー光(たわみ信号)を位置センサーが検出する。
【0131】
上記のようにして得た表面吸着力に関するマッピング画像に基づいて、第1シェル部の表面吸着力(第1表面吸着力)と第2シェル部の表面吸着力(第2表面吸着力)とを求めた。詳しくは、試料(トナー)に含まれる5個のトナー粒子について、1個につき10箇所の表面吸着力(第1表面吸着力及び第2表面吸着力)を測定し、1つの試料(トナー)につき50個の測定値を得た。そして、50個の測定値の算術平均を、その試料(トナー)の評価値(第1表面吸着力及び第2表面吸着力)とした。
【0132】
<第1被覆率の測定方法>
試料(トナー)を可視光硬化性樹脂(東亞合成株式会社製「アロニックス(登録商標)D−800」)で包埋して、硬化物を得た。その後、超薄切片作製用ナイフ(住友電気工業株式会社製「スミナイフ(登録商標)」:刃幅2mm、刃先角度45°のダイヤモンドナイフ)及びウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ株式会社製「EM UC6」)を用いて、切削速度0.3mm/秒で硬化物を切削することで、厚さ150nmの薄片を作製した。得られた薄片を、銅メッシュ上で四酸化ルテニウム水溶液の蒸気中に10分間暴露して、Ru染色した。続けて、染色された薄片試料の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製「JSM−6700F」)を用いて撮影した。得られたTEM撮影像(トナー粒子の断面撮影像)を、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて解析した。詳しくは、TEM撮影像(トナー粒子の断面撮影像)において、トナーコアの表面領域(外縁を示す輪郭線)のうち、膜状ドメインに覆われている領域の合計長さ(第1被覆領域と第3被覆領域との合計長さ)の割合(第1被覆率)を計測した。詳しくは、式「第1被覆率=100×(第1被覆領域の長さ+第3被覆領域の長さ)/トナーコアの周長」に基づいて、トナーコアの第1被覆率(単位:%)を求めた。試料(トナー)に含まれる10個のトナー粒子についてそれぞれ、トナーコアの第1被覆率を測定した。得られた10個の測定値の算術平均を、試料(トナー)の評価値(トナーコアの第1被覆率)とした。
【0133】
[評価方法]
各試料(トナーT−1〜T−11)の評価方法は、以下のとおりである。
【0134】
(耐熱保存性)
試料(トナー)2gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて、その容器を、58℃に設定された恒温器内に3時間静置した。その後、恒温器から取り出したトナーを室温まで冷却して、評価用トナーを得た。
【0135】
続けて、得られた評価用トナーを、質量既知の100メッシュ(目開き150μm)の篩に載せた。そして、トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。そして、篩別後に、トナーを含む篩の質量を測定することで、篩上に残留したトナーの質量を求めた。篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量(篩別後に篩上に残留したトナーの質量)とから、次の式に基づいて凝集度(単位:質量%)を求めた。
凝集度=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
【0136】
凝集度が50質量%以下であれば○(良い)と評価し、凝集度が50質量%を超えれば×(良くない)と評価した。
【0137】
(最低定着温度)
現像剤用キャリア(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の「TASKalfa5550ci」用キャリア)100質量部と、試料(トナー)10質量部とを、ボールミルを用いて30分間混合して、2成分現像剤を調製した。
【0138】
上述のようにして調製した2成分現像剤を用いて画像を形成して、最低定着温度を評価した。評価機としては、Roller−Roller方式の加熱加圧型の定着装置を備えるカラープリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5250DN」を改造して定着温度を変更可能にした評価機)を用いた。上述のようにして調製した2成分現像剤を評価機の現像装置に投入し、試料(補給用トナー)を評価機のトナーコンテナに投入した。
【0139】
上記評価機を用いて、温度23℃かつ湿度60%RHの環境下、90g/m
2の紙(A4サイズの印刷用紙)に、線速200mm/秒、トナー載り量1.0mg/cm
2の条件で、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、未定着のトナー像)を形成した。続けて、画像が形成された紙を評価機の定着装置に通した。
【0140】
最低定着温度の評価では、定着温度の測定範囲が100℃以上200℃以下であった。詳しくは、定着装置の定着温度を100℃から5℃ずつ(ただし、最低定着温度付近では2℃ずつ)上昇させて、ソリッド画像(トナー像)を紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。トナーを定着させることができたか否かは、以下に示すような折擦り試験で確認した。詳しくは、定着装置に通した評価用紙を、画像を形成した面が内側となるように折り曲げ、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、折り目上の画像を5往復摩擦した。続けて、紙を広げ、紙の折り曲げ部(ソリッド画像が形成された部分)を観察した。そして、折り曲げ部のトナーの剥がれの長さ(剥がれ長)を測定した。剥がれ長が1mm以下となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が145℃以下であれば○(良い)と評価し、最低定着温度が145℃を超えれば×(良くない)と評価した。
【0141】
(外添剤保持性)
試料(トナー)を超音波処理した場合の遊離シリカ粒子の量を測定することで、試料(トナー)の外添剤保持性を評価した。
【0142】
<超音波処理>
温度25℃かつ湿度50%RHの環境下、容量500mLのビーカーに、試料(トナー)2gと、ノニオン界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン(登録商標)120」、成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル)の濃度2質量%水溶液40mLとを投入した。その後、スパチュラを用いて、目視でトナーの塊が見えなくなる程度に液中にトナーが分散するまでビーカー内容物を攪拌して、分散液を得た。続けて、超音波処理装置(超音波工業株式会社製「ウルトラソニックジェネレーター」、高周波出力:100W、発振周波数:28kHz)を用いて、分散液に超音波振動を5分間与えた。その後、超音波処理された分散液を、容量50mLのバイアルに移した。続けて、バイアル内容物を12時間静置してトナーを沈殿させた。その後、バイアル内の上澄み液について、下記条件で蛍光X線によるSi含有率の測定を行った。詳しくは、上澄み液中のSiに帰属する蛍光X線ピーク強度(単位:kcps)を測定した。
【0143】
<蛍光X線分析の条件>
分析装置:走査型蛍光X線分析装置(株式会社リガク製「ZSX」)
X線管球(X線源):Rh(ロジウム)
励起条件:管電圧50kV、管電流50mA
測定領域(X線照射範囲):直径30mm
測定元素:Si(珪素)
【0144】
Siに帰属する蛍光X線ピーク強度が、1.00kcps以下であれば○(良い)と評価し、1.00kcpsを超えれば×(良くない)と評価した。
【0145】
[評価結果]
トナーT−1〜T−11の各々についての評価結果(耐熱保存性:凝集度、低温定着性:最低定着温度、外添剤保持性:蛍光X線ピーク強度)を、表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
トナーT−1〜T−6(実施例1〜6に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、実施例1〜6に係るトナーではそれぞれ、トナー粒子が外添剤として無機粒子(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)を備えていた。また、シェル層が、膜状の第1ドメインと、粒子状の第2ドメインとを有していた。第1ドメインは実質的に非架橋樹脂(詳しくは、非架橋スチレン−アクリル酸系樹脂)から構成されていた。第2ドメインは実質的に架橋樹脂(詳しくは、架橋アクリル酸系樹脂)から構成されていた。また、架橋樹脂のガラス転移点(Tg)は、非架橋樹脂のガラス転移点(Tg)よりも40℃以上高かった(表1参照)。例えば、トナーT−1では、非架橋樹脂のTgが68℃であり、架橋樹脂のTgが130℃であり、Tg差(=架橋樹脂のTg−非架橋樹脂のTg)が62℃であった。また、第1ドメインの表面吸着力(第1表面吸着力)は20.0nN以上40.0nN以下であり、第2ドメインの表面吸着力(第2表面吸着力)は4.0nN以上20.0nN未満であった(表1参照)。例えば、トナーT−1では、第1表面吸着力が39.1nNであり、第2表面吸着力が6.0nNであった。トナーT−1〜T−6はそれぞれ、表2に示すように、耐熱保存性、低温定着性、及び外添剤保持性に優れていた。なお、トナーT−1〜T−6ではそれぞれ、第1被覆率が40%以上80%以下であった(表1参照)。また、第1被覆率に準ずる方法(詳しくは、トナー粒子の断面撮影像の画像解析)で測定された第2被覆率は70%以上99%以下であった。また、トナー粒子の断面撮影像において、第3被覆領域の合計長さよりも第2被覆領域の合計長さの方が大きかった。
【0148】
トナーT−7(比較例1に係るトナー)は、トナーT−1〜T−6と比較して、耐熱保存性に劣っていた。トナーT−7では、架橋樹脂粒子を使用しなかったため、トナーコアの露出面積が大きくなり、トナー粒子同士が凝集し易くなったと考えられる。
【0149】
トナーT−8(比較例2に係るトナー)は、トナーT−1〜T−6と比較して、外添剤保持性に劣っていた。この理由は、第1表面吸着力が小さ過ぎたためであると考えられる(表1参照)。
【0150】
トナーT−9(比較例3に係るトナー)は、トナーT−1〜T−6と比較して、耐熱保存性に劣っていた。この理由は、第1表面吸着力が大き過ぎたためであると考えられる(表1参照)。
【0151】
トナーT−10(比較例4に係るトナー)は、トナーT−1〜T−6と比較して、耐熱保存性に劣っていた。この理由は、第2表面吸着力が大き過ぎたためであると考えられる(表1参照)。
【0152】
トナーT−11(比較例5に係るトナー)は、トナーT−1〜T−6と比較して、耐熱保存性に劣っていた。この理由は、Tg差(=架橋樹脂のTg−非架橋樹脂のTg)が小さ過ぎたためであると考えられる(表1参照)。