特許第6369718号(P6369718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6369718ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369718
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/16 20060101AFI20180730BHJP
   F16H 55/24 20060101ALI20180730BHJP
   F16H 57/028 20120101ALI20180730BHJP
   F16H 57/12 20060101ALI20180730BHJP
   B62D 5/04 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
   F16H1/16 Z
   F16H55/24
   F16H57/028
   F16H57/12 Z
   !B62D5/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-134840(P2014-134840)
(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-11737(P2016-11737A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】濱北 準
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−056467(JP,A)
【文献】 特開2013−108569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/16
F16H 55/24
F16H 57/028
F16H 57/12
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと駆動連結される第1端部および前記第1端部とは反対側の第2端部を含むウォームシャフトと、各歯溝を区画する一対の歯面を含むウォームホイールと、前記ウォームシャフトおよび前記ウォームホイールを収容し、前記ウォームシャフトの第2端部を第1端部を中心として揺動可能に支持するハウジングと、前記ハウジングにより支持され、前記ウォームシャフトの第2端部をウォームホイール側へ弾性的に付勢する付勢部材と、を備え、前記ウォームシャフトの中心軸線を含み前記ウォームホイールの中心軸線とは直交する平面が、前記ウォームホイールの歯幅方向の中央位置に配置されるウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法であって、
ホブ中心が歯幅方向の中央位置から幅歯方向の一方側であるオフセット方向にオフセット配置されたホブを用いてウォームホイール素材を切削加工することにより、歯溝を形成する一対の歯面の圧力角が歯幅方向の中央位置において互いに異なるように前記一対の歯面を形成する、ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法において、 前記切削加工するときに、前記一対の歯面の進み角が歯幅方向の中央位置において互いに異なるように前記一対の歯面が切削加工される、ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法において、
互いに直交する3方向を左手人差し指方向、左手親指方向および左手中指方向として、 前記ウォームシャフトの軸方向第2端部側を左手人差し指方向に相当させ、前記ウォームシャフトの中心軸線および前記ウォームホイールの中心軸線の双方とは直交し前記ウォームシャフトの中心軸線に向かう方向を左手親指方向に相当させるときに、前記オフセット方向は、左手中指方向に相当する、ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置では、電動モータの回転をウォーム減速機のウォームシャフトに伝達し、そのウォームシャフトに噛み合うウォームホイールを介して減速して、 転舵機構に伝達することにより、ステアリング操作をトルクアシストしている。
ウォームシャフトとウォームホイールとの噛み合いには、バックラッシが必要であるが、走行時に、バックラッシに起因した歯打ち音(ラトル音)が発生するおそれがある。
【0003】
そこで、ウォームシャフトを一端を中心として他端が揺動するように支持し、前記他端を付勢部材によってウォームホイール側へ弾性的に付勢することにより、バックラッシを除去する電動パワーステアリング装置が提案されている。
しかしながら、ウォームホイールが回転方向の一方側に回転するときのみにおいて、噛み合い部においてウォームシャフトがウォームホイールから受ける噛み合い反力(駆動反力)が、ウォームシャフトの噛み合い部を、前記一端を中心として、ウォームホイール側(付勢部材の付勢方向と同じ側)へ付勢するモーメントを生じさせる。
【0004】
したがって、ウォームホイールが回転方向の一方側へ回転するときの噛み合い摩擦抵抗が、ウォームホイールが回転方向の他方側へ回転するときの噛み合い摩擦抵抗と比較して大きくなる。このため、前者のときの摩擦抵抗トルクは、後者のときの摩擦抵抗トルクと比較して大きくなる。その結果、操舵方向に応じて操舵フィーリングが異なるおそれがある。
【0005】
一方、電動パワーステアリング装置において、ウォームシャフトの一対の歯面の圧力角を互いに異ならせる技術と、ウォームホイールの回転方向両側の歯面の圧力角を互いに異ならせる技術が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
特許文献1では、回転方向の相違による、摩擦抵抗トルクの差を抑制する効果は期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−103395号公報(第41段落。図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ウォームシャフトやウォームホイールにおいて、一対の歯面の圧力角を異ならせるためには、特別な形状の切削工具が必要である。すなわち、ウォームシャフトやウォームホイールの仕様が異なる毎に形状の異なる、複数の切削工具が必要となり、全体としての製造コストが高くなる。
本発明の目的は、回転方向の相違による摩擦抵抗トルク差を抑制することができる安価なウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
求項の発明は、電動モータ(14)と駆動連結される第1端部(18a)および前記第1端部とは反対側の第2端部(18b)を含むウォームシャフト(18)と、各歯溝(41)を区画する一対の歯面を含むウォームホイール(19)と、前記ウォームシャフトおよび前記ウォームホイールを収容し、前記ウォームシャフトの第2端部を第1端部を中心として揺動可能に支持するハウジング(17)と、前記ハウジングにより支持され、前記ウォームシャフトの第2端部をウォームホイール側へ弾性的に付勢する付勢部材(60)と、を備え、前記ウォームシャフトの中心軸線(C1)を含み前記ウォームホイールの中心軸線(C2)とは直交する平面(P)が、前記ウォームホイールの歯幅方向(W)の中央位置(WC)に配置されるウォーム減速機(15)に用いられるウォームホイールの製造方法であって、ホブ中心が歯幅方向の中央位置から幅歯方向の一方側であるオフセット方向(OFF)にオフセット配置されたホブ(30)を用いてウォームホイール素材(190)を切削加工することにより、歯溝を形成する一対の歯面(81,82)の圧力角(α1,α2)が歯幅方向の中央位置において互いに異なるように前記一対の歯面を形成する、ウォーム減速機に用いられるウォームホイールの製造方法を提供する。
【0011】
請求項のように、前記切削加工するときに、前記一対の歯面の進み角(β1,β2)が歯幅方向の中央位置において互いに異なるように前記一対の歯面が切削加工されてもよい。
請求項3のように、互いに直交する3方向を左手人差し指方向(LIF)、左手親指方向(LTF)および左手中指方向(LMF)として、前記ウォームシャフトの軸方向第2端部側(X2)を左手人差し指方向に相当させ、前記ウォームシャフトの中心軸線および前記ウォームホイールの中心軸線の双方とは直交し前記ウォームシャフトの中心軸線に向かう方向を左手親指方向に相当させるときに、前記オフセット方向が、左手中指方向に相当していてもよい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明により製造されたウォームホイールでは、ホブ中心を歯幅歯方向の一方側にオフセット配置したホブ加工により、ウォームホイールの歯溝を区画する一対の歯面の圧力角を歯幅方向の中央部において異ならせてある。これにより、該ウォームホイールが用いられるウォーム減速機において、回転方向の相違による噛み合い反力の差を低減することができるので、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差を抑制することができる。また、本製造方法では、共通のホブを用いて、オフセット方向へのオフセット量を変更することにより、圧力角に関して仕様の異なる複数のウォームホイールを製造することができるので、可及的にウォーム減速機の製造コストを安くすることができる。
請求項2の発明によれば、共通のホブを用いて、オフセット方向へのオフセット量を変更することにより、進み角に関して仕様の異なる複数のウォームホイールを製造することができるので、可及的にウォーム減速機の製造コストを安くすることができる。また、製造されたウォームホイールでは、歯幅方向の中央位置における一対の歯面の進み角を互いに異ならせてある。このため、該ウォームホイールが用いられるウォーム減速機において、回転方向の相違による噛み合い反力の差を低減することができるので、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差をより抑制することができる。
【0013】
請求項3の発明では、ウォームシャフトの軸方向第2端部側を左手人差し指方向とし、ウォームシャフトの中心軸線およびウォームホイールの中心軸線の双方とは直交しウォームシャフトの中心軸線に向かう方向を左手親指方向として、左手中指方向をオフセット方向とする。これにより、噛み合い領域において、ウォームホイールの一対の歯面のうち、ウォームシャフトの第2端部側の歯面の、歯幅方向中央位置での圧力角を相対的に小さく、第1端部側の歯面の、歯幅方向中央位置での圧力角を相対的に大きくする。これにより、本製造方法により製造されたウォームホイールが用いられるウォーム減速機において、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態の製造方法により製造されたウォームホイールが用いられるウォーム減速機が適用された電動パワーステアリング装置の模式図である。
図2】電動パワーステアリング装置の要部の断面図である。
図3図2のIII −III 線に沿って切断した概略断面図であり、ウォームシャフトの第2端部を支持する構造を示している。
図4】ウォーム減速機のバックラッシを除去するための付勢部材としての板ばねの概略斜視図である。
図5】ウォーム減速機の要部の斜視図である。
図6】ホブを用いたウォームホイールの製造方法を表す斜視図である。
図7】ウォームホイール(素材)とホブとの位置関係を示す概略図である。
図8】ウォームホイールの要部の拡大斜視図である。
図9】(a)はウォームホイールの歯部の拡大図であり、ウォームホイールを径方向外方から見た図に相当する。(b)は、ウォームホイールの歯部の断面図であり、(a)のIXB −IXB 線に沿って切断された断面図に相当する。
図10】(a)および(b)は、ウォームホイールの歯部の拡大図であり、ウォームホイールの回転方向に応じて歯当り領域が異なることを説明する説明図に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
図1は本発明の一実施形態の製造方法により製造されたウォームホイールが用いられるウォーム減速機を含む電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1に示すように、電動パワーステアリング装置1は、運転者のステアリングホイール2(操舵部材)の操作に基づき転舵輪3を転舵させる操舵機構4と、運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構5を備えている。
【0018】
操舵機構4は、ステアリングホイール2の回転軸となるステアリングシャフト6を備えている。ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2の中心に連結されるコラムシャフト7と、コラムシャフト7の一端(軸方向下端)に自在継手8を介して連結されるインターミディエイトシャフト9と、インターミディエイトシャフト9の一端(軸方向下端)に自在継手10を介して連結されるピニオンシャフト11とを含む。
【0019】
コラムシャフト7は、ステアリングホイール2に連結される入力シャフト7aと、インターミディエイトシャフト9に連結される出力シャフト7bと、入力シャフト7aおよび出力シャフト7bを同軸上に連結するトーションバー7cとを備えている。
ピニオンシャフト11の軸方向下端にはピニオン11aが設けられている。操舵機構4は、ピニオン11aと噛み合うラック12aを形成したラックシャフト12を備えている。ピニオン11aとラック12aとにより、運動変換機構であるラックアンドピニオン機構Aが形成されている。
【0020】
運転者のステアリング操作に伴いステアリングシャフト6が回転すると、その回転運動が、ラックアンドピニオン機構Aを介して、ラックシャフト12の軸方向の往復直線運動に変換される。そのラックシャフト12の往復直線運動が、ラックシャフト12の両端に連結されたタイロッド13を介して転舵輪3に伝達される。これにより、転舵輪3の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0021】
アシスト機構5は、コラムシャフト7にアシストトルクを付与する電動モータ14と、電動モータ14の回転をコラムシャフト7に伝達するウォーム減速機15と、電動モータ14の動作を制御するECU(Electronic Control Unit) 16とを備えている。
ウォーム減速機15は、ハウジング17と、ウォームシャフト18と、ウォームシャフト18と噛み合うウォームホイール19と、電動モータ14の出力シャフト14aとウォームシャフト18とをトルク伝達可能に連結する動力伝達継手20とを含む。ウォームシャフト18、ウォームホイール19および動力伝達継手20は、ハウジング17内に収容されている。
【0022】
電動モータ14の回転が、ウォーム減速機15を介してコラムシャフト7に伝達されることによりステアリングシャフト6にモータトルクが付与され、ステアリング操作が補助される。
また、電動パワーステアリング装置1には、運転者のステアリング操作に際してステアリングシャフト6に付与されるトルクである操舵トルクTを、コラムシャフト7の入力シャフト7aと出力シャフト7bとの相対回転に基づいて検出するトルクセンサ21が設けられている。一方、車両には、車速V(車両の走行速度)を検出する車速センサ22が設けられている。
【0023】
ECU16は、検出される操舵トルクTおよび検出される車速Vに基づいて、目標アシストトルクを設定し、電動モータ14からコラムシャフト7に付与されるアシストトルクが目標アシストトルクとなるように電動モータ14に供給される電流をフィードバック制御する。
本実施形態では、電動パワーステアリング装置1が、電動モータ14がコラムシャフト7に動力を付与する、いわゆるコラムアシストタイプである例に則して説明するが、これに限らず、本発明は、電動モータがピニオシャフトに動力を付与する、いわゆるピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置に適用することができる。
【0024】
図2に示すように、ウォームシャフト18は、電動モータ14の出力シャフト14aと同軸上に配置される。出力シャフト14aとウォームシャフト18とは軸方向Xに対向している。すなわち、出力シャフト14aとウォームシャフト18とは、互いの端部を軸方向Xに対向させている。
ウォームシャフト18は、その軸長方向に離隔する第1端部18aおよび第2端部18bと、第1端部18aおよび第2端部18b間の中間部に設けられた歯部18cとを有する。
【0025】
ウォームホイール19は、コラムシャフト7の出力シャフト7bの軸方向中間部に一体回転可能に且つ軸方向移動不能に連結されている。ウォームホイール19は、出力シャフト7bに一体回転可能に結合された環状の芯金19aと、芯金19aの周囲を取り囲み外周に歯部19cを形成した樹脂部材19bとを備える。芯金19aは、例えば樹脂部材19bの樹脂成形時に金型内にインサートされる。
【0026】
ウォームシャフト18の第1端部18aとこれに対向する電動モータ14の出力シャフト14aの端部とは、動力伝達継手20を介して、トルク伝達可能に且つ互いに揺動可能に連結されている。
具体的には、動力伝達継手20は、ウォームシャフト18の第1端部18aに一体回転可能に連結された第1回転要素23と、電動モータ14の出力シャフト14aに一体回転可能に連結された第2回転要素24と、第1回転要素23と第2回転要素24との間に介在し、両回転要素23,24間にトルクを伝達するゴム等の弾性部材を含む中間要素25とを備えている。
【0027】
ウォームシャフト18の第1端部18aは、第1軸受33を介してハウジング17に回転可能に支持されている。ウォームシャフト18の第2端部18bは、第2軸受34を介してハウジング17に回転可能に支持されている。
動力伝達継手20の中間要素25の弾性部材が弾性変形することで、第1軸受33の軸受中心を中心として、電動モータ14の出力シャフト14aに対するウォームシャフト18の揺動が許容されている。
【0028】
第1軸受33および第2軸受34は、例えば玉軸受により構成されている。
第1軸受33は、ウォームシャフト18の第1端部18aに一体回転可能に嵌合された内輪35と、ハウジング17に設けられた軸受孔36に固定された外輪37とを備えている。
外輪37が、軸受孔36の端部に設けられた位置決め段部38と、軸受孔36に設けられたねじ部にねじ嵌合された止定部材39との間で軸方向に挟持されている。これにより、外輪37の軸方向移動が規制されている。
【0029】
第2軸受34の内輪50は、ウォームシャフト18の第2端部18bの外周に設けられた嵌合凹部51に一体回転可能に嵌合されている。内輪50の一方の端面が、第2端部18bの外周に設けられた位置決め段部52に当接しており、これにより、ウォームシャフト18に対する内輪50の軸方向移動が規制されている。
ハウジング17には、第2軸受34を保持するための軸受孔53が設けられている。軸受孔53は、第2軸受34を、ウォームシャフト18とウォームホイール19の中心間距離D1(ウォームシャフト18の回転中心である中心軸線C1とウォームホイール19の回転中心である中心軸線C2との距離に相当)が増減する方向Y1,Y2(増加する方向Y1および減少する方向Y2)に偏倚可能に保持することのできる偏倚孔に形成されている。
【0030】
軸受孔53の内周と、第2軸受34の外輪54との間に、例えば環状の板ばねからなる付勢部材60が介在している。付勢部材60は、第2軸受34を中心間距離D1が減少する方向Y2(ウォームホイール19側に相当)に付勢する。付勢部材60は、例えば板金により形成される薄板状の部材である。
図2のIII −III 線に沿う断面図である図3および斜視図である図4を参照して、付勢部材60は、第2軸受34の外輪54の外周54aを包囲する有端環状をなす主体部61と、主体部61の周方向の端部である第1端部61aおよび第2端部61bからそれぞれ折り曲げ状に延設された一対の回転規制部62と、各回転規制部62からそれぞれ折り曲げ状に延びる一対の片持ち状の弾性舌片63とを含む。
【0031】
各回転規制部62の幅は、主体部61の幅よりも細くされている。主体部61は、摩擦係合によりハウジング17の軸受孔53の内周に保持されている。図4に示すように、一対の弾性舌片63の一方は第1側縁61c側に配置され、他方の弾性舌片63は第2側縁61d側に配置されて、互い違いとされている。
再び図3を参照して、ハウジング17の軸受孔53は、その内周の一部に、第2軸受34に対してウォームホイール19側(中心間距離D1が減少する方向Y2)とは反対の方向(中心間距離D1が増加する方向Y1)に窪む受け凹部64を形成している。付勢部材60の各弾性舌片63の先端は、軸受孔53の受け凹部64の底64cによって受けられ、各弾性舌片63の付勢力が、第2軸受34を介してウォームシャフト18の第2端部18bを、中心間距離D1が減少する方向Y2に付勢している。
【0032】
受け凹部64はそれぞれ軸受孔53の周方向Zに対向する一対の内壁64a,64bを有しており、付勢部材60の各回転規制部62は、対応する内壁64a,64bに当接することにより、軸受孔53の周方向Zへの、付勢部材60の回転を規制する。
図5は、ウォーム減速機15の要部の斜視図であり、図9(a)はウォームホーイルの歯部の拡大図である。図5および図9(a)に示すように、ウォームシャフト18の中心軸線C1を含みウォームホイールの中心軸線C2とは直交する平面Pが、無負荷時において、ウォームホイール19の歯幅方向Wの中央位置WCに配置される。
【0033】
ウォームホイール19の隣接する歯40間に、歯溝41が形成されている。噛み合い領域MAにおいて、ウォームホイール19の歯溝41に対して、ウォームシャフト18の歯部18cが噛み合わされている。
ウォームホイール19は、図6に示すように、ウォームホイール素材190に対してホブ70を用いた切削加工を施すことにより、形成されている。ホブ中心HCの回りに回転されるホブ70と、中心軸線C2の回りに回転されるウォームホイール素材190とは、同期回転される。
【0034】
具体的には、図7に示すように、ウォームホイール19は、ホブ中心HCが歯幅方向Wの中央位置WCから歯幅方向Wの一方側W1であるオフセット方向OFFにオフセット量eでオフセット配置されたホブ70による切削加工が施されてなる。
図5を参照して、ウォームシャフト18の軸方向第2端部側X2を左手人差し指方向LIFに相当させ、ウォームシャフト18の中心軸線C1およびウォームホイール19の中心軸線C2の双方とは直交しウォームホイール19の中心軸線C2に向かう方向K1を左手親指方向LTFに相当させる場合に、ホブ中心HCのオフセット方向OFFは、左手中指方向LMFに相当する。
【0035】
右ねじ状のウォームシャフト18が、第1回転方向J1(第1端部18a側から見て時計回り)に回転駆動されると、ウォームホイール19は第1回転方向R1(時計回り)に回転する。
逆に、ウォームシャフト18が、第2回転方向J2(第1端部18a側から見て反時計回り)に回転駆動されると、ウォームホイール19は、第2回転方向R2(反時計回り)に回転する。
【0036】
図8は、ウォームホイール19の噛み合い領域MAの歯部19cの拡大図である。図8に示すように、ウォームホイール19の各歯溝40は、回転方向に対向する第1歯面81と第2歯面82とにより区画されている。
噛み合い領域MAにおいては、第1歯面81が、ウォームシャフト18の軸方向第1端部側X1の歯面に相当し、第2歯面82が、ウォームシャフト18の軸方向第2端部側X2の歯面に相当する。
【0037】
図9(a)は、ウォームホイール19の歯部19を径方向外方から見た拡大図である。図9(a)において、実線で示される第1歯面81および第2歯面82は、オフセット方向OFF(歯幅方向Wの一方側W1)にオフセット配置されたホブ70(図7参照)による切削加工が施されてなるウォームホイール19の歯面である。
一方、破線で示される第1歯面810および第2歯面820は、オフセット配置しないホブにより切削加工が施されてなる比較例としてのウォームホイールの歯面である。
【0038】
図9(a)において白抜き矢符で示すように、第1歯面81では、歯幅方向Wの一方側W1(オフセット方向OFF)に向かうにしたがって、圧力角および進み角が大きくなる。逆に、第2歯面82では、歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFFとは反対方向)に向かうにしたがって、圧力角および進み角が大きくなる。
歯幅方向Wの中央位置WCにおける第1歯面81の歯形は、比較例の第歯面810において、歯幅方向Wの中央位置WCから歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFFとは反対方向に相当)に離隔した位置に配置されている部分の歯形に相当する。すなわち、歯幅方向Wの中央位置WCにおける第1歯面81の圧力角α1および進み角β1は、それぞれ、比較例の第1歯面810において、歯幅方向Wの中央位置WCにおける圧力角および進み角よりも小さい。
【0039】
歯幅方向Wの中央位置WCにおける第2歯面82の歯形は、比較例の第2歯面820において、歯幅方向Wの中央位置WCよりも歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFFとは反対方向に相当)に離隔した位置に配置されている部分の歯形に相当する。すなわち、歯幅方向Wの中央位置WCにおける第2歯面82の圧力角α2および進み角β2は、それぞれ、比較例の第2歯面820において、歯幅方向Wの中央位置WCにおける圧力角および進み角よりも大きくなっている。
【0040】
図9(a)のIXB −IXB 線に沿って切断された断面図である図9(b)に示すように、歯幅方向Wの中央位置WCにおける第1歯面81の圧力角α1と第2歯面82の圧力角α2とは互いに異なっている。具体的には、歯幅方向Wの中央位置WCにおいて、第2歯面82の圧力角α2が、第1歯面81の圧力角α1よりも大きくされている(α1<α2)。
【0041】
また、図9(a) に示すように、歯幅方向Wの中央位置WCにおける第1歯面81の進み角β1と第2歯面82の圧力角β2とは互いに異なっている。具体的には、歯幅方向Wの中央位置WCにおいて、第2歯面82の進み角β2が、第1歯面81の進み角β1よりも大きくされている(β1<β2)。
図10(a)に示すように、ウォームホイール19が第1回転方向R1(時計回り)に回転するときには、両歯面81,82のうち第2歯面82が、ウォームシャフト18に対する接触歯面となる。また、このとき、ウォームシャフト18の中心軸線C1は、その第2端部側部分C1bが歯幅方向Wの中央位置WCよりも歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFFとは反対側)に変位するように傾斜する。
【0042】
そのため、第2歯面82は、歯幅方向Wの中央位置WCから歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFFとは反対側)に離隔した位置において、ウォームシャフト18に対する歯当たり領域HA2を形成する。
ここで、第2歯面82の歯当たり領域HA2における圧力角および進み角は、比較例の第2歯面820の歯当たり領域(図示せず)における圧力角および進み角よりも、それぞれ大きくなっている。これにより、第2歯面82が接触歯面となるときの摩擦抵抗トルクを低減することができる。
【0043】
一方、図10(b)に示すように、ウォームホイール19が第2回転方向R(反時計回り)に回転するときには、両歯面81,82のうち第1歯面81が、ウォームシャフト18に対する接触歯面となる。また、このとき、ウォームシャフト18の中心軸線C1は、その第2端部側部分C1bが歯幅方向Wの中央位置WCよりも歯幅方向Wの一方側W1(オフセット方向OFF)に変位するように傾斜する。
【0044】
そのため、第1歯面81は、歯幅方向Wの中央位置WCから歯幅方向Wの他方側W2(オフセット方向OFF)に離隔した位置において、ウォームシャフト18に対する歯当たり領域HA1を形成する。
第1歯面81の歯当たり領域HA1における圧力角および進み角は、比較例の第1歯面810の歯当たり領域(図示せず)における圧力角および進み角よりも、それぞれ大きくなっている。これにより、第1歯面81が接触歯面となるときの摩擦抵抗トルクを増大することができる。
【0045】
このように、第2歯面82が接触歯面となるときの摩擦抵抗トルクを低減させ、第1歯面81が接触歯面となるときの摩擦抵抗トルクを増大させる。これにより、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差が抑制される。
本実施形態によれば、ホブ中心HCを歯幅方向Wの一方側W1にオフセット配置したホブ加工により、ウォームホイール19の歯溝40を区画する第1歯面81および第2歯面82の圧力角を、歯幅方向Wの中央位置WCにおいて、それぞれα1,α2として互いに異ならせてある。これにより、回転方向の相違による噛み合い反力の差を低減することができるので、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差を抑制することができる。共通のホブ30を用いて、オフセット方向OFFへのオフセット量eを変更することにより、仕様の異なる複数のウォームホイール19を製造することができるので、可及的に製造コストを安くすることができる。
【0046】
具体的には、ウォームシャフト18の軸方向第2端部側X2を左手人差し指方向LIFとし、ウォームシャフト18の中心軸線C1およびウォームホイール19の中心軸線C2の双方とは直交しウォームシャフト18の中心軸線C1に向かう方向を左手親指方向LTFとして、左手中指方向LMFをオフセット方向OFFとする。これにより、噛み合い領域MAにおいて、ウォームホイール19の両歯面81,82のうち、第1歯面81(ウォームシャフト18の第1端部18a側の歯面)の歯幅方向Wの中央位置WCでの圧力角α1を相対的に小さく、第2歯面82(ウォームシャフト18の第2端部18b側の歯面)の歯幅方向Wの中央位置WCでの圧力角α2を相対的に大きくする(α1<α2)。これにより、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差を抑制することができる。
【0047】
また、歯幅方向Wの中央位置WCにおける第1歯面81および第2歯面82の進み角を、それぞれ、β1,β2として、互いに異ならせることにより、回転方向の相違による噛み合い反力の差を低減することができるので、回転方向の相違による摩擦抵抗トルクの差をより抑制することができる。
また、本実施形態に係るウォームホイール19の製造方法において、ホブ中心HCが歯幅方向Wの中央位置WCから幅歯方向Wの一方側W1であるオフセット方向OFFにオフセットされたホブ30を用いて、歯溝40を形成する第1歯面81および第2歯面82の歯幅方向の中央位置における圧力角α1,α2が、互いに異なるように第1歯面81,第2歯面82を切削加工する。したがって、共通のホブ30を用いて、オフセット方向OFFへのオフセット量eを変更することにより、圧力角に関して仕様の異なる複数のウォームホイール19を製造することができるので、可及的に製造コストを安くすることができる。
【0048】
また、共通のホブ30を用いて、オフセット方向OFFへのオフセット量eを変更することにより、進み角に関して仕様の異なる複数のウォームホイール19を製造することができるので、可及的に製造コストを安くすることができる。
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0049】
1…電動パワーステアリング装置、4…操舵機構、5…アシスト機構、14…電動モータ、15…ウォーム減速機、17…ハウジング、18…ウォームシャフト、18a…第1端部、18b…第2端部、18c…歯部、19…ウォームホイール、30…ホブ、33…第1軸受、34…第2軸受、40…歯、41…歯溝、60…付勢部材、81…第1歯面、82…第2歯面、C1…(ウォームシャフトの)中心軸線、C2…(ウォームホイールの)中心軸線、D1…中心間距離、e…オフセット量、HC…ホブ中心、K1…ウォームシャフトの中心軸線およびウォームホイールの中心軸線の双方とは直交しウォームシャフトの中心軸線に向かう方向、LIF…左手人指し指方向、LMF…左手中指方向、LTF…左手親指方向、OFF…オフセット方向、P…ウォームシャフトの中心軸線を含みウォームホイールの中心軸線とは直交する平面、W…歯幅方向、WC…歯幅方向の中央位置、X…(ウォームシャフトの)軸方向、X2…軸方向第2端部側、Y1…中心間距離が増大する方向、Y2…中心間距離が減少する方向(ウォームホイール側)、α1,α2…圧力角、β1,β2…進み角
図1
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図10