特許第6369747号(P6369747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6369747-電界発光素子 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369747
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20180730BHJP
   C07D 519/00 20060101ALI20180730BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   H05B33/22 B
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
   C07D519/00 311
   C09K11/06 690
   C09K11/06 610
   C09K11/06 645
   C09K11/06 635
   C09K11/06 650
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-82630(P2014-82630)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-204357(P2015-204357A)
(43)【公開日】2015年11月16日
【審査請求日】2017年1月24日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大沢 美紀
(72)【発明者】
【氏名】海老沢 晃
(72)【発明者】
【氏名】矢内 直子
(72)【発明者】
【氏名】星野 純一
【審査官】 野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−056523(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/059713(WO,A1)
【文献】 特開2009−259994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
H05B 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極からなる一対の電極間に、少なくとも1層の発光層と、正孔輸送層と、を含む積層された複数の有機層が挟持された電界発光素子において、前記複数の有機層の全ての層にアントラセン誘導体が含まれ、前記陰極と前記発光層との間にアントラセン誘導体を含む電子注入層を有し、かつ前記電子注入層に電子ドナーがドーピングされ、前記正孔輸送層はアントラセン誘導体のみからなることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
陽極および陰極からなる一対の電極間に、少なくとも1層の発光層と、正孔輸送層と、を含む積層された複数の有機層が挟持された電界発光素子において、前記複数の有機層の全ての層にアントラセン誘導体が含まれ、前記陽極と前記発光層との間にアントラセン誘導体を含む正孔注入層を有し、かつ前記正孔注入層に電子アクセプターがドーピングされ、前記正孔輸送層はアントラセン誘導体のみからなることを特徴とする電界発光素子。
【請求項3】
前記陰極と前記発光層との間にアントラセン誘導体を含む電子注入層を有し、かつ前記電子注入層に電子ドナーがドーピングされていることを特徴とする請求項2に記載の電界発光素子。
【請求項4】
前記複数の有機層の全てに、同一のアントラセン誘導体が含まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層が下記一般式(I)の化合物を含むことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の電界発光素子。
【化1】
(一般式(I)におけるAは多環芳香族化合物である。Lは多環芳香族化合物とシアノ基を結ぶ連結基であり、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基を示す。m、n、xは価数を表し、1〜10の何れかの整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、例えば、数V〜数十V程度の低電圧で発光が可能であり、また、蛍光性有機化合物の種類を選択することにより種々の色の発光が可能なことから、様々な発光素子、表示素子などへの応用が期待されている。
【0003】
電界発光素子は、陽極から正孔を、陰極から電子を注入し、それぞれを発光層まで輸送した後に、両キャリアを再結合させて発光を得るデバイスである。陽極から発光層へ正孔を注入、輸送するためには、通常0.3から1eV程度のエネルギー障壁を越えねばならず、デバイス構成に相応した電圧を必要とする。このため、青色発光素子や燐光発光素子のような障壁の大きな素子では、駆動電圧に起因する消費電力の大きさが問題であった。
【0004】
このようなエネルギー障壁に起因する駆動電圧を低減する目的で、電子アクセプター、あるいは電子ドナーを有機材料中にドーピングする手法が試みられている。これらのデバイスでは、有機材料を強制的に酸化、あるいは還元することで、それぞれ正孔、あるいは電子を有機層中に発生させ、注入障壁を大幅に低下することが可能となった。
【0005】
電子アクセプターを使用する場合、通常は典型的な正孔注入材料、あるいは正孔輸送材料であるトリアリールアミンにドーピングする場合がほとんどであるが、特許文献1にはアントラセン誘導体にドーピングした事例が示されている。電子アクセプターを、イオン化ポテンシャルの大きなアントラセン誘導体にドーピングして正孔注入層とし、かつ正孔輸送層にもアントラセン誘導体を用いることで、陽極から発光層までの正孔注入障壁の改善に成功している。
【0006】
しかしながら、正孔注入層と正孔輸送層にアントラセン誘導体を用いただけでは、陰極から発光層への電子注入障壁は残っており、更なる低電圧化の余地を残している。また、発光層と電子輸送層の障壁が残っていると、層間の障壁部にキャリアが集中して局所的な発熱が生ずることで、素子寿命が低下する問題が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−99830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、正孔注入層から電子注入層に至るまでの正孔および電子の注入障壁を改善することで、低電圧駆動で長寿命の電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の電界発光素子は、陽極および陰極からなる一対の電極間に、少なくとも1層の発光層を含む積層された複数の有機層が挟持された電界発光素子において、前記複数の有機層の全ての層にアントラセン誘導体が含まれていることを特徴とする。
【0010】
アントラセン誘導体は、高い熱安定性や優れたキャリア輸送性から発光層のホスト材料として広く用いられている。本発明では発光層を含む全ての有機層にアントラセン誘導体を用いることで、陽極から発光層までの正孔注入障壁および陰極から発光層までの電子注入障壁を全て解消することができる。その結果、極めて低電圧で駆動が可能な電界発光素子の作成が可能となる。また、発光層と電子輸送層の障壁が解消されることで、層間へのキャリア集中による素子の寿命低下も解消することができる。
【0011】
また、本発明の電界発光素子は、陽極と発光層との間にアントラセン誘導体を含む正孔注入層を有し、かつ前記正孔注入層に電子アクセプターがドーピングされていることを特徴とする。
【0012】
アントラセン誘導体に電子アクセプターをドーピングし、正のキャリアであるホールを強制的に発生させることで、陽極とオーミックコンタクトが可能となる。このため、陽極からの注入障壁を大幅に下げることが可能になり、陽極からアントラセン誘導体への正孔注入が可能となる。
【0013】
また、本発明の電界発光素子は、陰極と発光層との間にアントラセン誘導体を含む電子注入層を有し、かつ前記電子注入層に電子ドナーがドーピングされていることを特徴とする。
【0014】
アントラセン誘導体に電子ドナーをドーピングし、負のキャリアである電子を強制的に発生させることで、陰極とオーミックコンタクトが可能となる。このため、陰極からの注入障壁を大幅に下げることが可能になり、陰極からアントラセン誘導体への電子注入が可能となる。
【0015】
また、本発明の電界発光素子は、前記複数の有機層の全てに、同一のアントラセン誘導体が含まれていることを特徴とする。
【0016】
アントラセン誘導体は、極端な電子受容性置換基にて置換された場合、または極端な電子供与性置換基にて置換された場合を除けば、似通ったエネルギー準位を示すが、このような場合でも0.1eV程度の障壁が生ずることがあり、電圧上昇の原因となる。しかしながら有機層の全てに、同一のアントラセン誘導体を用いることで、正孔および電子障壁はゼロとなり、最小の駆動電圧での駆動が可能となる。
【0017】
また、本発明の電界発光素子は、前記発光層が下記一般式(I)の化合物を含むことを特徴とする。
【化1】

(一般式(I)におけるAは多環芳香族化合物である。Lは多環芳香族化合物とシアノ基を結ぶ連結基であり、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基を示す。m、n、xは価数を表し、1〜10の何れかの整数である。)
【0018】
発光層を含む全ての有機層にアントラセン誘導体を用い、正孔および電子の注入障壁を解消することで低電圧駆動の電界発光素子の作成が可能となるが、その一方で素子内でのキャリアトラップ性が低下し、再結合が起こりにくくなる。この問題は、十分なキャリアトラップ性を持つ一般式(I)の化合物を発光層にドーピングすることで解消することが出来る。この結果、低電圧、長寿命で、かつ高効率な電界発光素子を作成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、正孔注入層から電子注入層に至るまでの正孔および電子の注入障壁を改善することで、低電圧駆動で長寿命の電界発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の素子の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図1を参照しながら説明する。図1に示すように、電界発光素子1は、基板2上に、陽極3、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極9を順次有する。
【0022】
基板2は、透明または半透明の材料から形成されていることが好ましく、例えば、ガラス板、透明プラスチックシート、半透明プラスチックシート、石英、透明セラミックスあるいはこれらを組み合わせた複合シートがある。なお、基板2は、不透明な材料から形成されていてもよい。この場合は、基板2の反対側から光を取り出す素子構造とすればよい。さらに、基板2に、例えば、カラーフィルター膜、色変換膜、誘電体反射膜などを組み合わせることにより、発光色をコントロールしてもよい。基板2の膜厚は、特に限定されないが、0.1〜50mm程度であるのが好ましく、0.1〜10mmであるのがより好ましい。
【0023】
陽極3は、比較的仕事関数の大きい金属、合金または電気電導性化合物を電極物質として使用することが好ましい。陽極3に使用する電極物質としては、例えば、金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、パラジウム、バナジウム、タングステン、酸化錫、酸化亜鉛、ITO(インジウム・ティン・オキサイド)、ポリチオフェン、ポリピロールなどがある。これらの電極物質は、単独で使用してもよく、複数併用してもよい。陽極3は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法などの気相成長法により、基板2の上に形成することができる。また、陽極3は、一層構造であっても、多層構造であってもよい。このような陽極3の膜厚は、特に限定されないが、10〜500nm程度であるのが好ましく、30〜200nm程度であるのがより好ましい。
【0024】
正孔注入層4は陽極3からの正孔の注入を容易にする機能、注入された正孔を輸送し、正孔輸送層5に注入する機能を含有する層である。本実施形態で用いる正孔注入層4は、アントラセン誘導体を含む層であり、より好ましくは電子アクセプターとアントラセン誘導体を含む混合層である。アントラセン誘導体は高い熱安定性や優れたキャリア輸送性を示す材料であり、通常は5.5eVから6.0eVの仕事関数を有する。このため、5.0eV前後の仕事関数を有する一般的な陽極3からの正孔注入は困難であるが、アントラセン誘導体に電子アクセプターをドーピングし、正のキャリアであるホールを強制的に発生させることで、陽極3とオーミックコンタクトが可能となり、陽極からの正孔注入が容易になる。混合層は、電子アクセプターとアントラセン誘導体がそれぞれ単独であっても、電子アクセプターもしくはアントラセン誘導体が2種類以上混合されたものでもよい。さらに、その他の物質を用いて、複数の材料の混合層であっても良い。混合層中のアントラセン誘導体の割合は通常は主成分であり、体積換算で50%以上であるが、ホール注入に関して主体的役割を果たす場合は第2成分以下であってもよく、体積換算で10%から50%であってもよい。正孔注入層4の膜厚は、特に限定されないが、5〜150nm程度であるのが好ましく、10〜80nm程度であるのがより好ましい。
【0025】
正孔注入層4に用いられるアントラセン誘導体としては、特に限定されることは無いが、カルバゾールやジベンゾフラン等の極性基を置換基に有するアントラセン誘導体が陽極への密着性の観点から好ましく用いることができる。カルバゾールやジベンゾフランは、他に、全ての置換基が炭化水素化合物により形成されるアントラセン誘導体も好ましく用いることができる。
【0026】
以下に、カルバゾールやジベンゾフランを置換基に有するアントラセン誘導体の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【化2】
【0027】
電子アクセプターとしては、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化ルテニウム、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化モリブデンなどの無機化合物の他、ヘキサシアノアザトリフェニレンやその誘導体のような有機物を用いることもできるが、電子アクセプターとしての能力が高く、アントラセン誘導体と共蒸着によって成膜することのできる酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化モリブデンが最良である。
【0028】
正孔輸送層5は正孔注入層4から注入された正孔を発光層6へ注入する機能を有する層である。また、正孔注入層4に電子アクセプターが含まれる場合は、発光層6と接触することで、励起子を消光してしまうため、正孔注入層4と発光層6を接触させない緩衝層としての機能も果たしている。本実施形態ではアントラセン誘導体を用いる。
【0029】
正孔輸送層5に用いられるアントラセン誘導体としては、特に限定されることは無いが、キャリアの輸送性に優れた、全ての置換基が炭化水素化合物により形成されるアントラセン誘導体が好ましい。
【0030】
発光層6は、注入された正孔および電子の輸送機能、正孔と電子の再結合により励起子を生成させる機能を有する化合物を含有する層であり、キャリアの輸送や薄膜構造体としての機能を有するホスト材料と、発光の機能を有する発光ドーパントを含んでいる。本実施形態では、ホスト材料にはアントラセン誘導体を用いる。
【0031】
発光層6にホスト材料として用いられるアントラセン誘導体としては、特に限定されることは無いが、正孔輸送性、電子輸送性の何れにも優れ、高い蛍光量子効率を示すなどの理由で、全ての置換基が炭化水素化合物により形成されるアントラセン誘導体が好ましい。発光層6中のアントラセン誘導体の割合は、ホスト材料であることから通常は主成分であり、体積換算で50%以上であるが、キャリアの輸送や励起子の生成に主体的な役割を果たしている場合は第2成分以下であってもよく、体積換算で10%から50%であってもよい。
【0032】
以下に、発光層6に用いることのできるアントラセン誘導体の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。また、これらのアントラセン誘導体は正孔輸送層5、電子輸送層7にも好ましく用いられる他、正孔注入層4、電子注入層8に用いることもできる。
【化3】


【0033】
発光ドーパントは、正孔と電子の再結合により生成した励起子エネルギーにより発光する化合物である。高い発光量子収率を有する材料が好ましく、加えて正孔や電子をトラップする機能を有する材料がより好ましい。本実施形態では、通常の電界発光素子で用いられている発光ドーパントを用いることができ、具体的には、芳香族炭化水素、芳香族アミン化合物、スチリルアミン化合物、シアノ基を置換基に有する芳香族炭化水素化合物、キナクリドン、クマリン、ローダミンなどを用いることができる。
【0034】
本実施形態の電界発光素子では、正孔輸送層5と発光層6との界面、あるいは発光層6と電子輸送層7との界面に注入障壁が無いため、発光ドーパントには通常よりも強力なキャリアトラップ性が必要となる。このような発光ドーパントとしては、正孔トラップ性ドーパントであれば、1分子に2個以上のトリアリールアミン構造を有する芳香族アミン化合物、あるいは電子トラップ性ドーパントであれば、シアノ基を置換基に有する芳香族炭化水素化合物などがより好ましい。
【0035】
シアノ基を置換基に有する芳香族炭化水素化合物としては下記構造の一般式(I)で示される化合物が特に好ましい。
【化4】

(一般式(I)におけるAは多環芳香族化合物である。Lは多環芳香族化合物とシアノ基を結ぶ連結基であり、置換または無置換のアリール基、置換または無置換の複素環基を示す。m、n、xは価数を表し、1〜10の何れかの整数である。)
【0036】
Aで表される多環芳香族化合物は、特に限定されることは無いがフルオランテン誘導体が好ましく、特にベンゾフルオランテンが好ましい。この場合、価数mは1または2であることが好ましい。Lは連結基であり、通常はフェニレン基、ナフチレン基等の低分子量の炭化水素化合物である。価数Xは連結基の数を表し、通常は1から3である。価数nは連結基L上のシアノ基の数を表し、通常は1から5である。
【0037】
以下に一般式(I)の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【化5】
【0038】
発光ドーパントのホスト化合物に対する含有量は通常0.01〜20wt%であり、さらには0.1〜15wt%であることが好ましい。
【0039】
発光層6には、さらにその他の化合物を含有させても良い。キャリア輸送材料を混ぜることで発光層のキャリア輸送性を調節できる他、蛍光色素を混ぜることで発光色を変換して使用することができる。このような化合物としては、例えば、キナクリドン、ルブレン、スチリル系色素などの色素化合物、トリアリールアミン誘導体などのキャリア輸送性化合物が挙げられる。
【0040】
発光層6の膜厚は、特に限定されないが、0.1〜100nm程度が好ましく、1〜50nm程度がより好ましい。
【0041】
電子輸送層7は、電子注入層8から注入された電子を発光層6に輸送する機能を有する層である。本実施形態では、アントラセン誘導体を用いる。アントラセン誘導体の具体例は、B−1〜B−11に示したものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
電子輸送層7の膜厚は、特に限定されないが、0.1〜200nm程度であるのが好ましく、1〜100nm程度がより好ましい。
【0043】
電子注入層8は、陰極9からの電子の注入を容易にする機能の他、陰極9との密着性を高める機能を有するものである。本実施形態では、アントラセン誘導体を用いる。
【0044】
電子注入層8に用いられるアントラセン誘導体としては、特に限定されることは無いが、ピリジンやピリミジン、キノキサリン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン、オキサジアゾール、フェナントロリン等の含窒素複素環を置換基に有するアントラセン誘導体が好ましい。これらのアントラセン誘導体は、陰極への密着性が良好である他、陰極からの電子注入性が優れている材料である。他に、全ての置換基が炭化水素化合物により形成されるアントラセン誘導体も好ましく用いることができる。
【0045】
以下に、含窒素複素環を置換基に有するアントラセン誘導体の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【化6】
【0046】
電子注入層8に用いられるアントラセン誘導体には、電子ドナーとして機能する化合物をドーピングして用いても良い。アントラセン誘導体に電子ドナーをドーピングし、負のキャリアを強制的に発生させることで、陰極とオーミックコンタクトが可能となり、陰極からの電子注入をより容易にすることができる。このような電子ドナーしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属およびその酸化物やハロゲン化物、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属およびその酸化物やハロゲン化物などを用いることができる。
【0047】
電子注入層8の膜厚は、特に限定されないが、0.01〜100nm程度であるのが好ましく、0.01〜10nm程度がより好ましい。
【0048】
陰極9は、比較的仕事関数の小さい金属およびその塩、合金、または電気電導性化合物を電極構成物質として使用することができる。例えば、金属として、リチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、アルミニウム、酸化物として酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、弗化物として、弗化リチウム、弗化ナトリウム、弗化カルシウム、弗化マグネシウム、合金として、リチウム−インジウム合金、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−カルシウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、電気電導性化合物としてグラファイト薄膜などを挙げることができる。
【0049】
これらの電極構成物質は、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。陰極9は、これらの電極物質を、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法などの方法により、電子注入層8の上に形成することができる。また、陰極9は一層構造であっても、多層構造であってもよい。なお、電界発光素子の発光を効率よく取り出すために、陽極3または陰極9の少なくとも一方の電極が、透明ないし半透明であることが好ましく、一般に、400nmから800nmまでの可視光波長領域での光の透過率が80%以上となるように陽極3または陰極9の材料、厚みを設定することがより好ましい。
【0050】
陰極9の厚さは、電極としての機能を十分に果たせる程度に低抵抗となる厚みが必要である。特に限定されないが、10〜3000nm程度であるのが好ましく、10〜1000nm程度がより好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0052】
(実施例1)
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した
【0053】
次に、真空蒸着装置のホルダーに基板を固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。減圧状態を保ったまま、例示化合物A−3と、電子アクセプターとしての酸化モリブデンとを、体積比95:5で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして60nmの厚さに蒸着し、正孔注入層とした。
【0054】
次に、減圧状態を保ったまま、例示化合物B−7のみを蒸着速度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層とした。
【0055】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料として例示化合物B−7と、発光ドーパントとして例示化合物C−8を、発光ドーパントの含有量を3wt%で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに共蒸着し、発光層とした。
【0056】
次に、減圧状態を保ったまま、電子輸送層として例示化合物B−7のみを25nm、続けて電子注入層として例示化合物D−4を5nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着した。
【0057】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで1.2nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して電界発光素子を得た。
【0058】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2500cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は5.26V、寿命時間は1230hであった。
【0059】
(実施例2)
発光ドーパントを例示化合物C−8から下記構造の例示化合物E−1に変えた以外は、実施例1と同様にして電解発光素子を作成した。
【0060】
【化7】
【0061】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2100cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は5.13V、寿命時間は900hであった。
【0062】
(実施例3)
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した
【0063】
次に、真空蒸着装置のホルダーに基板を固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。減圧状態を保ったまま、例示化合物B−7と、電子アクセプターとしての酸化モリブデンとを、体積比95:5で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして60nmの厚さに蒸着し、正孔注入層とした。
【0064】
次に、減圧状態を保ったまま、例示化合物B−7のみを蒸着速度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層とした。
【0065】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料として例示化合物B−7と、発光ドーパントとして例示化合物C−8を、発光ドーパントの含有量を3wt%で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに共蒸着し、発光層とした。
【0066】
次に、減圧状態を保ったまま、電子輸送層として例示化合物B−7のみを25nm、続けて電子注入層として例示化合物D−4を5nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着した。
【0067】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで1.2nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して電界発光素子を得た。
【0068】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2600cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は4.97V、寿命時間1270hであった。
【0069】
(実施例4)
全ての例示化合物B−7を例示化合物B−4に変えた以外は実施例3と同様に電界発光素子を作成した。
【0070】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2700cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は5.03V、寿命時間1330hであった。
【0071】
(実施例5)
発光ドーパントを例示化合物C−8から例示化合物C−9に変えた以外は、実施例3と同様にして電界発光素子を作成した。
【0072】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは3200cd/mの青緑色の発光が得られ、駆動電圧は4.88V、寿命時間は1370hであった。
【0073】
(実施例6)
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した
【0074】
次に、真空蒸着装置のホルダーに基板を固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。減圧状態を保ったまま、例示化合物B−7と、電子アクセプターとしての酸化モリブデンとを、体積比95:5で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして60nmの厚さに蒸着し、正孔注入層とした。
【0075】
次に、減圧状態を保ったまま、例示化合物B−7のみを蒸着速度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層とした。
【0076】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料として例示化合物B−7と、発光ドーパントとして例示化合物C−8を、発光ドーパントの含有量を3wt%で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに共蒸着し、発光層とした。
【0077】
次に、減圧状態を保ったまま、電子輸送層として例示化合物B−7のみを25nm、続けて電子注入層として例示化合物B−7とLi金属とを体積比95:5で5nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着した。
【0078】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで1.2nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して電界発光素子を得た。
【0079】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2500cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は4.82V、寿命時間1180hであった。
【0080】
(実施例7)
電子注入層に、Li金属に変えてLiFを用いた以外は実施例6と同様に電界発光素子を作成した。
【0081】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2700cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は4.95V、寿命時間1320hであった。
【0082】
(実施例8)
電子注入層におけるB−7をD−4に変えた以外は実施例6と同様に電界発光素子を作成した。
【0083】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2800cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は4.99V、寿命時間1410hであった。
【0084】
(実施例9)
電子注入層におけるB−7をD−8に変えた以外は実施例6と同様に電界発光素子を作成した。
【0085】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2600cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は5.08V、寿命時間1350hであった。
【0086】
(実施例10)
全ての例示化合物B−7を例示化合物B−11に変えた以外は実施例6と同様に電界発光素子を作成した。
【0087】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2100cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は4.72V、寿命時間1570hであった。
【0088】
(実施例11)
正孔注入層における酸化モリブデンを酸化バナジウムに変えた以外は実施例3と同様に電界発光素子を作成した。
【0089】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2600cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は5.08V、寿命時間1350hであった。
【0090】
(比較例1)
ガラス基板上にRFスパッタ法で、ITO透明電極薄膜を100nmの厚さに成膜し、パターニングした。このITO透明電極付きガラス基板を、中性洗剤、アセトン、エタノールを用いて超音波洗浄し、煮沸エタノール中から引き上げて乾燥した。透明電極表面をUV/O洗浄した後、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定して、槽内を1×10−4Pa以下まで減圧した。
【0091】
次に、減圧状態を保ったまま、下記の例示化合物F−1を蒸着速度0.1nm/sec で30nmの膜厚に蒸着し、正孔注入層とした。
【0092】
【化8】
【0093】
次いで、下記構造の例示化合物G−1を蒸着速度0.1nm/secで10nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層とした。
【0094】
【化9】
【0095】
さらに、減圧状態を保ったまま、ホスト材料としての例示化合物B−7と、発光ドーパントとしての例示化合物C−8とを、体積比97:3で、全体の蒸着速度0.1nm/secとして40nmの厚さに蒸着し、発光層とした。
【0096】
次に、減圧状態を保ったまま、電子輸送層として例示化合物B−7を25nm、続けて電子注入層としてトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)を5nm、蒸着速度0.1nm/secで蒸着した。
【0097】
次いで、LiFを蒸着速度0.1nm/secで0.5nmの厚さに蒸着して電子注入電極とし、保護電極としてAlを100nm蒸着し、最後にガラス封止して電界発光素子を得た。
【0098】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは1100cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は8.87V、寿命時間480hであった。
【0099】
(比較例2)
発光ドーパントを例示化合物C−8から例示化合物E−1に変えた以外は、比較例1と同様にして電解発光素子を作成した。
【0100】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2500cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は9.24V、寿命時間は880hであった。
【0101】
(比較例3)
電子注入層として例示化合物D−4をトリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)に変えた以外は実施例3と同様にして電解発光素子を作成した。
【0102】
この電界発光素子に直流電流を印加し、電流密度50mA/cmの駆動条件で、輝度、電圧を測定した。さらに、同じ条件で駆動寿命の測定も行い、初期の輝度から半分の輝度になるまでの時間を寿命時間とした。この電界発光素子からは2300cd/mの青色発光が得られ、駆動電圧は6.19V、寿命時間1050hであった。
【0103】
以下に実施例および比較例の一覧を示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上のように、本発明に係る電界発光素子は、正孔注入層から電子注入層に至るまでの全ての層にアントラセン誘導体を用いることで、正孔および電子の注入障壁を大幅に改善できる。その結果として、低電圧駆動で長寿命の電界発光素子を提供することができ、自動車のインパネなどの表示部、テレビや携帯電話などのディスプレイ、照明などに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0105】
1 電界発光素子
2 基板
3 陽極
4 正孔注入層
5 正孔輸送層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
図1