(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線方向に沿って延びる軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の先端側に設けられた中心電極と、前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、前記主体金具の先端に固定された接地電極と、を備えたスパークプラグであって、
前記絶縁体は、前記絶縁体に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対してAl2O3を90.0質量%以上98.1質量%以下含有し、気孔率Aが5%以下であり、下記の加熱処理後の前記絶縁体の表層部の気孔率をBとすると、気孔率の差(B−A)が3.5%以下であることを特徴とするスパークプラグ。
(加熱処理)
前記絶縁体を炉内に置いて、炉内の温度を昇温速度7℃/分で室温から1400℃まで昇温させ、1400℃で30分間保持した後、1400℃から400℃まで5分毎に10℃以下の降温速度で降温させて、室温まで温度を下げる。
前記軸線に直交する平面で切断して得られた前記絶縁体の切断面を前記加熱処理後に電子プローブアナライザーにて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対するSi成分を酸化物換算したときの質量の割合RASiが、0.3質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
前記絶縁体は、前記絶縁体に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対する、Na成分及びK成分を酸化物換算したときの合計質量の割合が、200ppm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
前記軸線に直交する平面で切断して得られた前記絶縁体の切断面を電子プローブアナライザーにて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分を酸化物換算したときの質量の割合(質量%)をそれぞれRBa、RMg、RCa、及びRSrとすると、下記の条件(1)〜(4)を満たすことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
(1)0.4≦RBa≦5.0
(2)0≦RMg≦0.5
(3)0≦RCa≦0.8
(4)0≦RSr≦1.5
前記軸線に直交する平面で切断して得られた前記絶縁体の切断面を前記加熱処理後に電子プローブアナライザーにて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分を酸化物換算したときの質量の割合(質量%)をそれぞれRABa、RAMg、RACa、及びRASrとすると、下記の条件(11)〜(14)を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のスパークプラグ。
(11)0.3≦RABa≦4.9
(12)0≦RAMg≦0.4
(13)0≦RACa≦0.7
(14)0≦RASr≦1.4
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関に使用されるスパークプラグは、例えば、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とするアルミナ基焼結体により形成されたスパークプラグ用絶縁体(「絶縁体」とも称する。)を備えている。この絶縁体がアルミナ基焼結体で形成される理由としては、アルミナ基焼結体が耐熱性及び機械的強度等に優れていることが挙げられる。このようなアルミナ基焼結体を得るために、従来より、焼成温度の低減及び焼結性の向上を目的として、例えば、酸化珪素(SiO
2)−酸化カルシウム(CaO)−酸化マグネシウム(MgO)からなる三成分系の焼結助剤等が使用されている。
【0003】
このようなスパークプラグが装着される内燃機関の燃焼室は例えば700℃程度の温度に達することがあり、したがって、スパークプラグには室温から700℃程度の温度範囲において優れた耐電圧性能を発揮することが要求される。このような耐電圧性能を発揮するスパークプラグの絶縁体等に好適に用いられるアルミナ基焼結体が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「・・・Al
2O
3(アルミナ)を主成分とし、Ca(カルシウム)成分、Sr(ストロンチウム)成分、Ba(バリウム)成分から選ばれる少なくとも1種以上の成分(以下、E.成分と表す)を含有するアルミナ基焼結体からなり、そのアルミナ基焼結体の少なくとも一部には、前記E.成分とAl(アルミニウム)成分とを少なくとも含む粒子であって、E.成分を酸化物換算した含有量に対するAl成分を酸化物換算した含有量のモル比が4.5〜6.7の範囲内となる化合物を含む粒子が存在しており、さらに、相対密度が90%以上であるアルミナ基焼結体からなることを特徴とするスパークプラグ用絶縁体」(特許文献1の請求項1)が記載されている。この発明によると、アルミナ基焼結体中の粒界に存在する残留気孔や粒界における低融点ガラス相の影響による絶縁破壊の発生を抑制し、従来の材料と比較して700℃近傍といった高温下での耐電圧特性に一層優れた絶縁体を有するスパークプラグを提供できることが開示されている(特許文献1の0007欄等)。
【0005】
また、特許文献2には、高い耐電圧特性及び高温強度を発揮する絶縁体を備えたスパークプラグを提供することを目的として(特許文献2の0014欄)、「・・・前記絶縁体は、1.50μm以上の平均結晶粒径DA(Al)を有する緻密なアルミナ基焼結体で構成され、当該アルミナ基焼結体は、Si成分と、IUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素のうちMg及びBaを必須とするとともにMg及びBaを除く少なくとも他の一元素を含有する第2族元素(2A)成分と、希土類元素(RE)成分とを、前記Si成分の含有率S(酸化物換算質量%)と前記第2族元素(2A)成分の含有率A(酸化物換算質量%)との合計含有率(S+A)に対する前記含有率Sの比が0.60以上となる割合で含有してなることを特徴とするスパークプラグ。」(特許文献2の請求項1)が記載されている。
【0006】
特許文献3には、強度及び耐電圧性能の向上を目的として、「・・・希土類元素と、IUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素との、質量百分率を用いて表される酸化物換算した場合の含有割合が、0.1≦希土類元素の含有率/第2族元素の含有率≦1.4 を満たし、かつ、前記希土類元素と、酸化バリウムとの質量百分率を用いて表される酸化物換算した場合の含有割合が、0.2≦酸化バリウムの含有率/希土類元素の含有率≦0.8 を満たしており、前記焼結体の断面における任意の630μm×480μmの領域内に、前記希土類元素を含む結晶を包む7.5μm×50μmの仮想的な長方形枠が、少なくとも1つ以上存在し、前記長方形枠は、前記長方形枠の面積に対する前記希土類元素を含む結晶の面積の占有率が5%以上、かつ、前記長方形枠を長辺方向に3等分割した場合の各分割領域における前記希土類元素を含む結晶の面積の占有率のうちの最大の面積の占有率と、最小の面積の占有率の比率が5.5以下であることを特徴とする絶縁体。」(特許文献3の請求項1)が記載されている。
【0007】
特許文献4には、「スパークプラグの絶縁体のためのセラミック材料であって、前記セラミック材料の重量パーセント(重量%)で、98.00重量%から99.50重量%の量の酸化アルミニウム(Al
2O
3)と、0.16重量%から0.70重量%の量の二族アルカリ土類金属の少なくとも1つの酸化物(二族酸化物)と、0.25重量%から0.75重量%の量の二酸化ケイ素(SiO
2)とを備える、セラミック材料。」(特許文献4の請求項1)が記載されている。この発明によると、従来よりも大きな絶縁破壊強度を有するセラミック材料を提供できることが開示されている(特許文献4の0064欄等)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグを
図1に示す。
図1はこの発明に係るスパークプラグの一実施例であるスパークプラグ1の一部断面全体説明図である。なお、
図1では紙面下方すなわち後述する接地電極が配置されている側を軸線Oの先端方向、紙面上方を軸線Oの後端方向として説明する。
【0016】
このスパークプラグ1は、
図1に示されるように、軸線O方向に沿って延びる軸孔2を有する略円筒形状の絶縁体3と、前記軸孔2内の先端側に設けられた略棒状の中心電極4と、前記軸孔2内の後端側に設けられた端子金具5と、前記中心電極4と前記端子金具5とを前記軸孔2内で電気的に接続する接続部6と、前記絶縁体3の外周に設けられた略円筒形状の主体金具7と、前記主体金具7の先端に固定された基端部及び前記中心電極4に間隙Gを介して対向するように配置された先端部を有する接地電極8とを備える。
【0017】
前記絶縁体3は、軸線O方向に延びる軸孔2を有し、略円筒形状を有している。絶縁体3は、後端側胴部11と、大径部12と、先端側胴部13、脚長部14とを備えている。後端側胴部11は、端子金具5を収容し、端子金具5と主体金具7とを絶縁する。大径部12は、該後端側胴部よりも先端側において径方向外向きに突出している。先端側胴部13は、該大径部12の先端側において接続部6を収容し、大径部12より小さい外径を有する。脚長部14は、該先端側胴部13の先端側において中心電極4を収容し、先端側胴部13より小さい外径及び内径を有する。先端側胴部13と脚長部14との内周面は棚部15を介して接続されている。この棚部15に後述する中心電極4の鍔部16が当接するように配置され、中心電極4が軸孔2内に固定されている。先端側胴部13と脚長部14との外周面は段部17を介して接続される。この段部17に後述する主体金具7のテーパ部18が板パッキン19を介して当接し、絶縁体3が主体金具7に対して固定されている。絶縁体3は、絶縁体3における先端方向の端部が主体金具7の先端面から突出した状態で、主体金具7に固定されている。絶縁体3は、機械的強度、熱的強度、電気的強度を有する材料で形成される。この発明の特徴部分である絶縁体3の詳細については、後述する。
【0018】
前記絶縁体3の軸孔2内には、その先端側に中心電極4、後端側に端子金具5、中心電極4と端子金具5との間には接続部6が設けられている。接続部6は、中心電極4及び端子金具5を軸孔2内に固定すると共にこれらを電気的に接続する。前記接続部6は、抵抗体21と、第1シール体22と、第2シール体23とにより形成されている。抵抗体21は、伝播雑音を低減するために配置されている。第1シール体22は、該抵抗体21と中心電極4との間に設けられている。第2シール体23は、該抵抗体21と端子金具5との間に設けられている。抵抗体21は、ガラス粉末、非金属導電性粉末及び金属粉末等を含有する組成物を焼結して形成され、その抵抗値は通常100Ω以上である。第1シール体22及び第2シール体23は、ガラス粉末及び金属粉末等を含有する組成物を焼結して形成され、その抵抗値は通常100mΩ以下である。この実施態様における接続部6は、抵抗体21と第1シール体22と第2シール体23とにより形成されているが、抵抗体21と第1シール体22と第2シール体23の少なくとも1つにより形成されていてもよい。
【0019】
前記主体金具7は、略円筒形状を有しており、絶縁体3を内装することにより絶縁体3を保持するように形成されている。主体金具7における先端方向の外周面にはネジ部24が形成されている。このネジ部24を利用して図示しない内燃機関のシリンダヘッドにスパークプラグ1が装着される。前記主体金具7は、ネジ部24の後端側にフランジ状のガスシール部25を有し、ガスシール部25の後端側にスパナやレンチ等の工具を係合させるための工具係合部26、工具係合部26の後端側に加締め部27を有する。加締め部27及び工具係合部26の内周面と絶縁体3の外周面との間に形成される環状の空間にはリング状のパッキン28,29及び滑石30が配置され、絶縁体3が主体金具7に対して固定されている。ネジ部24の内周面における先端側は、脚長部14に対して空間を有するように配置されている。そして、径方向内向きに突出する突起部32における後端側のテーパ状に拡径するテーパ部18と絶縁体3の段部17とが環状の板パッキン19を介して当接している。主体金具7は、導電性の鉄鋼材料、例えば、低炭素鋼により形成されることができる。
【0020】
端子金具5は、中心電極4と接地電極8との間で火花放電を行うための電圧を外部から中心電極4に印加するための端子である。端子金具5は、絶縁体3の後端側からその一部が露出した状態で軸孔2内に挿入されて第2シール体23により固定されている。端子金具5は、低炭素鋼等の金属材料により形成されることができる。
【0021】
前記中心電極4は、前記接続部6に接する後端部34と、前記後端部34から先端側に延びる棒状部35とを有する。後端部34は、径方向外向きに突出する鍔部16を有する。該鍔部16が絶縁体3の棚部15に当接するように配置され、軸孔2内周面と後端部34の外周面との間に第1シール体22が充填されていることで、中心電極4は、その先端が絶縁体3の先端面から突出した状態で絶縁体3の軸孔2内に固定され、主体金具7に対して絶縁保持されている。中心電極4における後端部34と棒状部35とは、Ni合金等の中心電極4に使用される公知の材料で形成されることができる。中心電極4は、Ni合金等により形成される外層と、Ni合金よりも熱伝導率の高い材料により形成され、該外層の内部の軸心部に同心に埋め込まれるように形成されてなる芯部とにより形成されてもよい。芯部を形成する材料としては、例えば、Cu、Cu合金、Ag、Ag合金、純Ni等を挙げることができる。
【0022】
前記接地電極8は、例えば、略角柱形状に形成されてなり、基端部が主体金具7の先端部に接合され、途中で略L字状に屈曲され、先端部が中心電極4の先端部との間に間隙Gを介して対向するように形成されている。この実施形態における間隙Gは、中心電極4の先端と接地電極8の側面との最短距離である。この間隙Gは、通常、0.3〜1.5mmに設定される。前記接地電極8は、Ni合金等の接地電極8に使用される公知の材料で形成されることができる。また、中心電極4と同様に接地電極の軸芯部にNi合金よりも熱伝導率の高い材料により形成される芯部が設けられていてもよい。
【0023】
この発明の特徴部分である絶縁体について、以下に詳細に説明する。
【0024】
前記絶縁体3は、前記絶縁体3に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対してAl
2O
3を90.0質量%以上98.1質量%以下含有する。絶縁体3がAl
2O
3(アルミナ)を前記含有率で含有すると耐電圧性能及び機械的特性等に優れる。Al
2O
3の含有率が98.1質量%を超えると、焼成の過程で絶縁体3に連続孔が形成され易く、耐電圧性能が低下する。Al
2O
3の含有率が90.0質量%未満であると、相対的にガラス相の割合が増大するので、例えば、900℃という高温環境下で使用した場合に、ガラス相が移動して、気孔が形成され易くなり、耐電圧性能が低下する。
【0025】
近年のエンジンでは、スパークプラグが高温環境下に曝されるので、絶縁体の絶縁抵抗が低下し易く、耐電圧性能が低下し易くなっている。発明者らは、Al
2O
3を主成分とするアルミナ焼結体からなる絶縁体について、高温環境下における耐電圧性能を向上させるべく鋭意検討した。その結果、絶縁体の気孔率Aを小さくするだけでは、高温環境下での使用による絶縁体3の耐電圧性能の低下を抑制できず、絶縁体3の気孔率Aと後述する加熱処理後の気孔率Bとが所定の範囲にある場合に、高温環境下における耐電圧性能を維持できることを見出した。
【0026】
前記絶縁体3は、Al
2O
3の含有率が前記範囲内にあるアルミナ焼結体からなるとき、気孔率Aが5%以下であり、下記の加熱処理後の前記絶縁体の気孔率をBとしたとき、加熱処理前後の気孔率の差(B−A)が3.5%以下であると、例えば、900℃という高温環境下で使用しても耐電圧性能を維持することができる。
(加熱処理)
前記絶縁体を炉内に置いて、炉内の温度を昇温速度7℃/分で室温から1400℃まで昇温させ、1400℃で30分間保持した後、1400℃から400℃まで5分毎に10℃以下の降温速度で降温させて、室温まで温度を下げる。
【0027】
前記絶縁体3の気孔率Aが高いほど電界集中が起こり易くなるので、気孔率Aは5%以下であり、1.2%以下であることが好ましい。気孔率Aが5%を超えると、電界集中により絶縁体3の劣化が加速する。前記加熱処理後の絶縁体3の気孔率Bは、加熱処理前の気孔率Aに比べて増大する。この増大量(差(B−A))が大きいほど高温環境下における耐電圧性能が低下し易くなるので、この増大量(差(B−A))は3.5%以下であり、2.0%以下であることが好ましい。この増大量が小さいほど高温環境下における耐電圧性能の低下を抑制することができる。前記加熱処理前後の気孔率の差(B−A)が3.5%を超えると、高温環境下における耐電圧性能が低下する。
【0028】
前記加熱処理及び気孔率A及びBの測定方法について、具体的に説明する。まず、スパークプラグ1を軸線Oに直交し、かつパッキン19を通る面で切断し、絶縁体3の切断面を露出させる。切断面を露出させた絶縁体3を熱硬化性樹脂に埋め込み、切断面を鏡面研磨する。鏡面研磨した研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、気孔のみを検出できるようにコントラスト等を調整して、例えば500倍で撮影する。画像解析ソフトを使用して、撮影した画像を気孔とそれ以外の部分とに2値化し、次いで、画像全体の面積に対する気孔の面積割合を算出することにより、気孔率Aを求める。
次いで、加熱処理を行う前に、絶縁体3を加熱して絶縁体3を熱可塑性樹脂から取り出す。取り出した絶縁体3を、例えば電気炉内に載置して、大気雰囲気で、電気炉内の温度を昇温速度7℃/分で室温(25℃)から1400℃まで昇温させ、1400℃で30分間保持した後、1400℃から400℃まで5分毎に10℃以下の降温速度で降温させて、室温まで温度を下げる加熱処理を行う。
次いで、加熱処理後の絶縁体3の研磨面をSEMで観察し、気孔率Aの求め方と同様にして気孔率Bを求める。
【0029】
気孔率A及びBは、絶縁体3を形成するために準備した、アルミナを主成分とするアルミナ粉末の組成、粒度分布、成形体を形成するときのプレス圧等のプレス条件、焼成条件等を適宜変更することにより調整することができる。
【0030】
前記絶縁体3は、通常、Si成分を含有する。Si成分は、酸化物、イオン等として絶縁体3中に存在する。Si成分は、焼結時には溶融して通常液相を生じるので、アルミナ焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。Si成分は、焼結後はアルミナ粒子の粒界にガラス相を形成する場合とAl等の他の元素と共に結晶相を形成する場合とがある。
【0031】
絶縁体3に含まれるSi成分に関して、軸線Oに直交する平面で切断して得られた絶縁体3の切断面を加熱処理後に電子プローブアナライザー(EPMA)にて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対するSi成分を酸化物換算したときの質量の割合RA
Siが、0.3質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましい。絶縁体3中のSi成分はアルミナ粒子の粒界に存在するガラス相に含まれる場合と結晶相に含まれる場合とがあり、1400℃という高温に所定時間保持する加熱処理を行った後には、結晶相に含まれていたSi成分が絶縁体3の切断面上に残留すると考えられる。絶縁体3に含有されるSi成分のうち結晶相に含まれるSi成分が多いほど、高温環境下における耐電圧性能に優れる。したがって、前記割合RA
Siが0.3質量%以上、特に0.8質量%以上であると、高温環境下における耐電圧性能により一層優れた絶縁体3を備えたスパークプラグ1を提供することができる。前記割合RA
Siが3.5質量%を超えると、絶縁体3の導通経路が多くなり、高温環境下における耐電圧性能が低下するおそれがあるので、3.5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
前記絶縁体3に含まれるNa成分及びK成分は、少ないことが好ましい。具体的には、絶縁体3に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対する、Na成分及びK成分を酸化物換算したときの合計質量の割合が、200ppm以下であるのが好ましい。絶縁体3におけるNa成分及びK成分の合計質量の割合(酸化物換算)が200ppm以下であると、加熱処理後の気孔率Bの値を3.5%以下に調整し易くなり、その結果、高温環境下における耐電圧性能の低下を抑制することができる。
【0033】
前記絶縁体3におけるNa成分及びK成分の含有率は、ICP発光分光分析法により求めることができる。
【0034】
前記絶縁体3は、通常、IUPAC1990年勧告に基づく周期表の第2族元素の成分(以下、第2族元素成分と称する)を含有する。第2族元素成分は、酸化物、イオン等として絶縁体3中に存在する。第2族元素成分は、焼結時には溶融して通常液相を生じるので、アルミナ焼結体の緻密化を促進する焼結助剤として機能する。アルミナ焼結体が第2族元素成分を含有していると、緻密なアルミナ焼結体となり、耐電圧性能及び高温強度が向上する。絶縁体3に含まれる第2族元素成分は、低毒性の観点からBa成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分が好ましい。絶縁体3は、Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうち少なくともBa成分を含むのが好ましく、Ba成分以外の成分は含んでも含まなくてもよいが、Mg成分、Ca成分、及びSr成分のうちの少なくとも一種を含むのが好ましい。
【0035】
絶縁体3に含まれる第2族元素成分に関して、軸線Oに直交する平面で切断して得られた絶縁体3の切断面を電子プローブアナライザー(EPMA)にて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分を酸化物換算したときの質量の割合(質量%)をそれぞれR
Ba、R
Mg、R
Ca、及びR
Srとすると、下記の条件(1)〜(4)を満たすことが好ましい。
(1)0.4≦R
Ba≦5.0
(2)0≦R
Mg≦0.5
(3)0≦R
Ca≦0.8
(4)0≦R
Sr≦1.5
【0036】
絶縁体3に含まれる第2族元素成分に関して、条件(1)〜(4)を満たすと、高温環境下における耐電圧性能の低下をより一層抑制することができる。条件(1)〜(4)に示されている各成分の質量割合の上限値を超えると、ガラス相が多く形成され、高温環境下における耐電圧性能が低下するおそれがある。Ba元素は、第2族元素の中でも原子半径が大きく、高温環境下及び高電圧印加時においてマイグレーションが発生し難い。また、Ba成分は、焼結時には液相を形成し、焼結後には結晶相を形成し易いので、焼結助剤の中でもBa成分を多く含有すると耐電圧性能に優れた絶縁体3を備えたスパークプラグ1を提供することができる。したがって、絶縁体3は、第2族元素成分の中でもBa成分を多く含有するのが好ましい。原子半径の大きさは、Ba、Sr、Ca、Mgの順に小さくなる。原子半径が大きい元素ほどマイグレーションが発生し難いので、Ba、Sr、Ca、Mgの順に多く含まれているのが好ましい。
【0037】
絶縁体に含まれる第2族元素成分に関して、軸線Oに直交する平面で切断して得られた絶縁体3の切断面を前記加熱処理後に電子プローブアナライザー(EPMA)にて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Ba成分、Mg成分、Ca成分、及びSr成分を酸化物換算したときの質量の割合(質量%)をそれぞれRA
Ba、RA
Mg、RA
Ca、及びRA
Srとすると、下記の条件(11)〜(14)を満たすことが好ましい。
(11)0.3≦RA
Ba≦4.9
(12)0≦RA
Mg≦0.4
(13)0≦RA
Ca≦0.7
(14)0≦RA
Sr≦1.4
【0038】
前記加熱処理後の絶縁体3に含まれる第2族元素成分に関して、条件(11)〜(14)を満たすと、高温環境下における耐電圧性能の低下をより一層抑制することができる。加熱処理前の絶縁体3に含まれる各成分の質量割合を示す条件(1)〜(4)と加熱処理後の絶縁体3に含まれる各成分の質量割合を示す条件(11)〜(14)とを比較すると、上限値及び下限値が加熱処理後の方が小さいのは、1400℃という高温に所定時間保持する加熱処理を行った後には、絶縁体3の切断面に存在していたガラス相が絶縁体3の切断面から内部へと移動する場合があるからである。Ba成分、Sr成分、Ca成分、及びMg成分は、アルミナ粒子の粒界に存在するガラス相に含まれる場合と結晶相に含まれる場合とがある。結晶相に含まれているBa成分、Sr成分、Ca成分、及びMg成分は、加熱処理後においても絶縁体3の切断面上に残留し易い。したがって、Ba成分、Sr成分、Ca成分、及びMg成分は、加熱処理後において条件(11)〜(14)を満たすように含有されるのが好ましい。また、加熱処理前と同様に加熱処理後においても、Ba、Sr、Ca、Mgの順に多く含まれているのが好ましい。
【0039】
前記絶縁体3は、希土類元素成分を含んでいてもよい。希土類元素成分は、酸化物、イオン等として絶縁体3中に存在する。希土類元素成分は、Si成分等と共にガラス相を形成することもあるし、Al成分等と共にアルミナ結晶相を形成することもある。希土類元素成分としては、Sc成分、Y成分、La成分、Ce成分、Pr成分、Nd成分、Pm成分、Sm成分、Eu成分、Gd成分、Tb成分、Dy成分、Ho成分、Er成分、Tm成分、Yb成分、及びLu成分を挙げることができる。
【0040】
前記絶縁体3は、アルミナ及びアルミナ以外の結晶相を少なくとも1種含有するのが好ましい。アルミナ以外の結晶相としては、例えば、セルシアンを挙げることができる。絶縁体3がアルミナ以外の結晶相を含有すると、高温環境下においてスパークプラグ1を稼働させた場合に耐電圧性能の低下をより一層抑制することができる。これらの結晶相の存在は、例えば、X線回折により得られたX線回折チャートと例えばJCPDSカードとを対比することで、確認することができる。
【0041】
絶縁体3を形成するアルミナ焼結体は、Al成分を必須成分として含み、通常、Si成分及び第2族元素成分を含む。さらに、この発明の目的を損なわない範囲で、Na成分、K成分、希土類元素成分、及びその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、Mn、Co、Cr、Ni、Zn等が挙げられる。その他の成分の合計含有量は、例えば、絶縁体3に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対して、酸化物換算で1.0質量%以下であるのが好ましい。
【0042】
前記スパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。まず、この発明の特徴部分である絶縁体3の製造方法について説明する。
【0043】
まず、原料粉末、すなわち、Al化合物粉末と、Si化合物粉末と、第2族元素化合物粉末とをスラリー中で混合する。ここで、各粉末の混合割合は、例えばアルミナ焼結体からなる絶縁体3における各成分の含有率と同一に設定することができる。この混合は、原料粉末の混合状態を均一にし、かつ得られる焼結体を高度に緻密化することができるように、8時間以上にわたって混合されるのが好ましい。
【0044】
Al化合物粉末は、焼成によりAl成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、通常、アルミナ(Al
2O
3)粉末が用いられる。Al化合物粉末は、現実的に不可避不純物、例えばNa等を含有していることがあるので、高純度のものを用いるのが好ましく、例えば、Al化合物粉末おける純度は99.5%以上であるのが好ましい。Al化合物粉末は、緻密なアルミナ焼結体を得るには、通常、その平均粒径が0.1〜5.0μmの粉末を使用するのがよい。ここで、平均粒径は日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000)によりレーザー回折法で測定した値である。
【0045】
Si化合物粉末は、焼成によりSi成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、Siの酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。具体的にはSiO
2粉末等を挙げることができる。なお、Si化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。Si化合物粉末の純度はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0046】
第2族元素化合物粉末は、焼成により第2族元素成分、例えば、Ba成分、Sr成分、Ca成分、及びMg成分に転化する化合物であれば特に制限はなく、例えば、第2族元素の酸化物(複合酸化物を含む。)、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等、リン酸塩等の各種無機系粉末を挙げることができる。第2族元素化合物粉末は、Ba化合物粉末と、Sr化合物粉末、Ca化合物粉末、及び/又はMg化合物粉末とであるのが好ましい。具体的には、Ba化合物粉末としてBaO粉末、BaCO
3粉末、Sr化合物粉末としてSrO粉末、SrCO
3粉末、Ca化合物粉末としてCaO粉末、CaCO
3粉末、Mg化合物粉末としてMgO粉末、MgCO
3粉末等が挙げられる。なお、第2族元素化合物粉末として酸化物以外の粉末を使用する場合には、その使用量は酸化物に換算したときの酸化物換算質量%で把握する。第2族元素化合物粉末の純度はAl化合物粉末と基本的に同様である。
【0047】
この原料粉末を溶媒に分散させ、バインダーとして例えば親水性結合剤を配合することにより、スラリー中で混合する。このとき用いられる溶媒としては、例えば、水、アルコール等を挙げることができる。親水性結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、水溶性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等を挙げることができる。これらの親水性結合剤及び溶媒は1種単独でも2種以上を併用することもできる。親水性結合剤及び溶媒の使用割合は、原料粉末を100質量部としたときに、親水性結合剤は0.1〜5.0質量部、好ましくは0.5〜3.0質量部であり、溶媒として水を使用する場合には40〜120質量部、好ましくは50〜100質量部である。
【0048】
次いで、このスラリーをスプレードライ法等により噴霧乾燥して平均粒径50〜200μm、好ましくは70〜150μmに造粒する。この平均粒径はいずれもレーザー回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT−3000))により測定した値である。
【0049】
次いで、この造粒物を例えばラバープレス又は金型プレス等でプレス成形して好ましくは前記絶縁体3の形状及び寸法を有する未焼成成形体を得る。プレス成形は、50〜200MPaの加圧下で行われるのが好ましい。プレス圧が前記範囲内にあると、得られるアルミナ焼結体の気孔率Aを5%以下に調整し易くなる。得られた未焼成成形体は、その外面がレジノイド砥石等で研削されることにより形状が整えられる。
【0050】
所望の形状に研削整形された未焼成成形体を、大気雰囲気で1450〜1700℃、好ましくは1550〜1650℃の範囲における所定の温度で、1〜8時間、好ましくは3〜7時間保持して焼成することにより、アルミナ焼結体が得られる。アルミナ焼結体は焼成温度が1450〜1700℃であると、焼結体が十分に緻密化し易く、アルミナ成分の異常粒成長が生じ難いので、得られるアルミナ焼結体の耐電圧性能及び機械的強度を確保することができる。また、焼成時間が1〜8時間であると、焼結体が十分に緻密化し易く、アルミナ成分の異常粒成長が生じ難いので、得られるアルミナ焼結体の耐電圧性能及び機械的強度を確保することができる。アルミナ焼結体の焼成条件として、未焼成成形体を焼成するときの最高温度をCとしたとき、C℃からC−400℃まで温度を降下させるときの降温速度を5分毎に10℃以下とするのが好ましい。降温速度を前記範囲とすることにより、加熱処理後の気孔率の差(B−A)を3.5%以下に調整することができる。また、降温速度を前記範囲とすることにより、アルミナ以外の結晶相が析出し易くなり、緻密なアルミナ焼結体を得ることができる。
【0051】
このようにしてアルミナ焼結体からなる絶縁体3が得られる。この絶縁体3を備えたスパークプラグ1は、例えば次のようにして製造される。すなわち、Ni合金等の電極材料を所定の形状及び寸法に加工して中心電極4及び接地電極8を作製する。電極材料の調整及び加工を連続して行うこともできる。例えば、真空溶解炉を用いて、所望の組成を有するNi合金等の溶湯を調整し、真空鋳造にて各溶湯から鋳塊を調整した後、この鋳塊を、熱間加工、線引き加工等して、所定の形状及び所定の寸法に適宜調整して、中心電極4及び接地電極8を作製することができる。
【0052】
次いで、所定の形状及び寸法に塑性加工等によって成形した主体金具7の端面に接地電極8の一端部を電気抵抗溶接等によって接合する。次いで、絶縁体3に中心電極4を公知の手法により組付け、第1シール体22を形成する組成物、抵抗体21を形成する組成物、第2シール体23を形成する組成物をこの順に軸孔2内に予備圧縮しつつ充填する。次いで、軸孔2内の端部から端子金具5を圧入しつつ組成物を圧縮加熱する。こうして前記組成物が焼結して抵抗体21、第1シール体22及び第2シール体23が形成される。次いで、接地電極8が接合された主体金具7に、この中心電極4等が固定された絶縁体3を組付ける。最後に、接地電極8の先端部を中心電極4側に折り曲げて、接地電極8の一端が中心電極4の先端部と対向するようにして、スパークプラグ1が製造される。
【0053】
本発明に係るスパークプラグ1は、自動車用の内燃機関例えばガソリンエンジン等の点火栓として使用され、内燃機関の燃焼室を区画形成するヘッド(図示せず)に設けられたネジ穴に前記ネジ部24が螺合されて、所定の位置に固定される。この発明に係るスパークプラグ1は、如何なる内燃機関にも使用することができる。この発明に係るスパークプラグ1は、高温環境下で使用されても優れた耐電圧性能を有するので、燃焼室内が例えば900℃という高温になる内燃機関に特に好適である。
【0054】
この発明に係るスパークプラグ1は、前述した実施例に限定されることはなく、本発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、プレス成形に代えて射出成形で未焼成成形体を得てもよい。射出成形で未焼成成形体を形成した場合、その後の研削整形工程を省略できる点で好ましい。
【実施例】
【0055】
(絶縁体の作製)
アルミナ粉末とSi化合物粉末と第2族元素化合物粉末と所望により希土類化合物粉末とを混合して原料粉末とした。この原料粉末に溶媒としての水と親水性結合剤とを添加してスラリーを調製した。
【0056】
得られたスラリーをスプレードライ法により噴霧乾燥して平均粒径が約100μmの粉末を造粒した。この粉末をプレス成形して絶縁体3の原形となる未焼成成形体を成形した。この未焼成成形体を大気雰囲気下において焼成温度1450〜1700℃の範囲内で焼成時間を1〜8時間に設定して焼成し、その後、焼成温度における最高温度CからC−400℃まで5分毎に10℃以下の降温速度で降温させて、室温まで温度を下げた。次いで、所定の部位に釉薬をかけて仕上げ焼成することにより、
図1に示される形状を有するアルミナ焼結体からなる絶縁体を得た。
【0057】
(加熱処理前後の気孔率A及びB、各成分の測定)
スパークプラグ1を軸線Oに直交する面であって、パッキンの先端を通る面で切断し、絶縁体3の切断面を露出させた。切断面を露出させた絶縁体3を熱硬化性樹脂に埋め込み、切断面を鏡面研磨した。鏡面研磨した研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し(加速電圧20kV、スポットサイズ60μm)、気孔のみを検出できるようにコントラスト等を調整して、500倍で撮影した。画像解析ソフトを使用して、撮影した画像を気孔とそれ以外の部分とに2値化し、次いで、画像全体の面積に対する気孔の面積割合を算出することにより、気孔率Aを求めた。
【0058】
また、前記研磨面を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)にて分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Al成分、Si成分、第2族元素成分、及び希土類元素成分それぞれを酸化物換算したときの質量の割合を求めた。
また、絶縁体3からサンプルを採取してICP発光分光分析法により分析し、絶縁体3に含まれる元素の酸化物換算での合計質量に対する、Na成分及びK成分を酸化物換算したときの合計質量の割合を求めた。
【0059】
加熱処理を行う前に、絶縁体3を加熱して絶縁体3を熱可塑性樹脂から取り出した。取り出した絶縁体3を、電気炉内に載置して、大気雰囲気で、電気炉内の温度を昇温速度7℃/分で室温(25℃)から1400℃まで昇温させ、1400℃で30分間保持した後、1400℃から400℃まで5分毎に10℃以下の降温速度で降温させて、室温まで温度を下げる加熱処理を行った。
【0060】
次いで、加熱処理後の絶縁体3の研磨面をSEMで観察し、気孔率Aの求め方と同様にして気孔率Bを求めた。また、加熱処理後の絶縁体の研磨面をEPMAで分析し、検出された全元素の酸化物換算での合計質量に対する、Al成分、Si成分、第2族元素成分、及び希土類元素成分それぞれを酸化物換算したときの質量の割合を求めた。
これらの結果を表1及び表2に示す。表1及び表2において、前記分析を行っていない項目については「−」で示した。なお、試験番号21〜50の絶縁体はいずれも、気孔率Aが5%以下、差(B−A)が3.5%以下であった。
【0061】
(耐電圧試験I)
前記「絶縁体の作製」と基本的に同様にして、
図2に示される耐電圧測定用絶縁体70をそれぞれ製造した。この耐電圧測定用絶縁体70は、その軸線方向の中心部に軸孔を備えていると共に軸孔の先端部は閉じた状態になっている。この耐電圧測定用絶縁体70を、
図2に示される耐電圧測定装置71を用いて、900℃における耐電圧値(kV)を測定した。この耐電圧測定装置71は、
図2に示されるように、耐電圧測定用絶縁体70の先端部に間隔をおいて配置される金属製の環状部材72と、耐電圧測定用絶縁体70を加熱するヒータ73とを備えている。耐電圧測定用絶縁体70の軸孔に中心電極74をその先端部まで挿入配置し、耐電圧測定用絶縁体70の先端部に環状部材72を配置して、アルミナ焼結体である耐電圧測定用絶縁体70の耐電圧を測定した。具体的には、耐電圧測定用絶縁体70の先端部をヒータ73で900℃に加熱して環状部材72の温度が900℃に到達した状態において、中心電極74と環状部材72との間に電圧を印加し、0.5kV/sで昇圧した。耐電圧測定用絶縁体70に絶縁破壊が発生したとき、すなわち、耐電圧測定用絶縁体70が貫通して昇電圧できなくなったときの電圧値を測定した。耐電圧性能は、以下の基準にしたがって評価し、表1に「1」〜「10」の記号で示した。結果を表1に示す。
1:14kV未満
2:14kV以上16kV未満
3:16kV以上18kV未満
4:18kV以上20kV未満
5:20kV以上22kV未満
6:22kV以上24kV未満
7:24kV以上26kV未満
8:26kV以上28kV未満
9:28kV以上30kV未満
10:30kV以上
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、Al
2O
3の含有率、気孔率A、及び気孔率差(B−A)のいずれかが本願発明の範囲外にある試験番号4、6、7、10の絶縁体3は、評価結果が「1」であり、耐電圧性能に劣っているのに対し、本発明の範囲内にある試験番号1〜3、5、8、9、11〜17の絶縁体3は、評価結果が「5」〜「10」であり、耐電圧性能に優れていた。
【0064】
試験番号11と試験番号12〜17とを比較すると、試験番号11の評価結果は「6」であるのに対し、試験番号12〜17の評価結果は「7」〜「10」であり、加熱処理後のSiO
2の割合が0.3質量%以上である試験番号12〜17の絶縁体3は、加熱処理後のSiO
2の割合が0.1質量%である試験番号11の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0065】
試験番号12と試験番号13〜17とを比較すると、試験番号12の評価結果は「7」であるのに対し、試験番号13〜17の評価結果は「7」〜「10」であり、加熱処理後のSiO
2の割合が0.8質量%以上である試験番号13〜17の絶縁体3は、加熱処理後のSiO
2の割合が0.3質量%である試験番号12の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0066】
試験番号14、15と試験番号11〜13、16とを比較すると、試験番号14、15の評価結果は「9」であるのに対し、試験番号11〜13、16の評価結果は「6」〜「8」であり、Na成分及びK成分の割合が200ppm以下である試験番号14、15の絶縁体3は、Na成分及びK成分の割合が400ppmである試験番号11〜13、16の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0067】
(耐電圧試験II)
耐電圧試験Iを行う前に、環状部材72の温度が900℃に到達した状態において、中心電極74と環状部材72との間に直流電源にて10kVの電圧を5分間印加したこと以外は、耐電圧試験Iと同様の試験を行った。耐電圧性能は、以下の基準にしたがって評価し、表1に「1」〜「10」の記号で示した。結果を表2に示す。
1:14kV未満
2:14kV以上16kV未満
3:16kV以上18kV未満
4:18kV以上20kV未満
5:20kV以上22kV未満
6:22kV以上24kV未満
7:24kV以上26kV未満
8:26kV以上28kV未満
9:28kV以上30kV未満
10:30kV以上
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、試験番号22、23及び25と試験番号24及び26とを比較すると、試験番号22、23及び25の評価結果はそれぞれ「7」、「8」、及び「5」であるのに対し、試験番号24及び26の評価結果は「1」であり、BaOの質量割合R
Baが0.4〜5.0質量%である試験番号22、23、及び25の絶縁体3は、BaOの質量割合R
Baがそれぞれ0.1質量%及び4.0質量%である試験番号24及び26の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0070】
試験番号27及び28と試験番号29とを比較すると、試験番号27及び28の評価結果はそれぞれ「8」及び「7」であるのに対し、試験番号29の評価結果は「1」であり、MgOの質量割合R
Mgが0〜0.5質量%である試験番号28及び29の絶縁体3は、MgOの質量割合R
Mgが1.0質量%である試験番号29の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0071】
試験番号30及び31と試験番号32とを比較すると、試験番号30及び31の評価結果は「8」であるのに対し、試験番号32の評価結果は「1」であり、CaOの質量割合R
Caが0〜0.8質量%である試験番号30及び31の絶縁体3は、CaOの質量割合R
Caが1.0質量%である試験番号32の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0072】
試験番号33及び34と試験番号35とを比較すると、試験番号33及び34の評価結果はそれぞれ「8」及び「7」であるのに対し、試験番号35の評価結果は「1」であり、SrOの質量割合R
Srが0〜1.5質量%である試験番号33及び34の絶縁体3は、SrOの質量割合R
Srが2.0質量%である試験番号35の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0073】
試験番号21と試験番号36とを比較すると、試験番号21及び36の評価結果はいずれも「10」であり、また、試験番号23と試験番号37とを比較すると、試験番号23及び37の評価結果はいずれも「8」であり、希土類元素の有無によって耐電圧性能に変化はなく、いずれも耐電圧性能に優れていた。
【0074】
試験番号39及び40と試験番号38及び41とを比較すると、試験番号39及び40の評価結果はそれぞれ「8」及び「5」であるのに対し、試験番号38及び41の評価結果はそれぞれ「3」及び「1」であり、加熱処理後のBaOの質量割合RA
Baが0.3〜4.9質量%である試験番号39及び40の絶縁体3は、BaOの質量割合RA
Baがそれぞれ0.2質量%及び5.0質量%である試験番号38及び41の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0075】
試験番号42及び43と試験番号44とを比較すると、試験番号42及び43の評価結果はそれぞれ「8」及び「7」であるのに対し、試験番号44の評価結果は「1」であり、加熱処理後のMgOの質量割合RA
Mgが0〜0.4質量%である試験番号42及び43の絶縁体3は、MgOの質量割合RA
Mgが0.8質量%である試験番号44の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0076】
試験番号45及び46と試験番号47とを比較すると、試験番号45及び46の評価結果は「8」であるのに対し、試験番号47の評価結果は「1」であり、加熱処理後のCaOの質量割合RA
Caが0〜0.7質量%である試験番号45及び46の絶縁体3は、CaOの質量割合RA
Caが0.9質量%である試験番号47の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。
【0077】
試験番号48及び49と試験番号50とを比較すると、試験番号48及び49の評価結果はそれぞれ「8」及び「7」であるのに対し、試験番号50の評価結果は「1」であり、加熱処理後のSrOの質量割合RA
Srが0〜1.4質量%である試験番号48及び49の絶縁体3は、SrOの質量割合RA
Srが1.8質量%である試験番号50の絶縁体3に比べて耐電圧性能に優れていた。