(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369849
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】断熱塗材、断熱建材及び建築物改修方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
E04B1/76 400G
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-255567(P2013-255567)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-113617(P2015-113617A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁谷 純
(72)【発明者】
【氏名】松木 弘泰
【審査官】
新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−265722(JP,A)
【文献】
特開平03−122012(JP,A)
【文献】
特開2010−248711(JP,A)
【文献】
特開2000−095584(JP,A)
【文献】
特開2001−253003(JP,A)
【文献】
特開平07−186333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/74 − 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートを共重合成分とする合成樹脂エマルション(A)、中空粒子(B)、難燃化材(C)及び繊維状化合物(D)を含み、難燃化材(C)の配合量が、合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100質量部に対して10〜300質量部の範囲内にあり、該繊維状化合物(D)がアスペクト比が1.5〜250の繊維状無機化合物、であることを特徴とする断熱塗材。
【請求項2】
塗布型断熱層が形成された建材であって、該塗布型断熱層を形成するための断熱塗材が、炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートを共重合成分とする合成樹脂エマルション(A)、中空粒子(B)、難燃化材(C)及び繊維状化合物(D)を含み、該繊維状化合物(D)がアスペクト比が1.5〜250の繊維状無機化合物、であることを特徴とする断熱建材。
【請求項3】
組積壁の屋外側にセメント組成物を塗着し、形成されたセメント層の表面に、請求項1または2に記載の断熱塗材を塗布することによって断熱層を形成してなる断熱建材。
【請求項4】
断熱層の上にさらに日射反射率が75%以上の白色遮熱層を設けてなる請求項2または3に記載の断熱建材。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の断熱建材を用いて建設された建築物。
【請求項6】
請求項1に記載の断熱塗材を用いることを特徴とする建築物改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物等の断熱材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物内部の温度変化を抑制するために、建築物を構成する外壁、屋根等の建材の内側や外側に、ウレタンフォーム、フェノールフォーム、セルロースファイバー、ロックウール等の断熱材を面状に配置することが広く実施されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、断熱材が内側に配設された壁材の屋外側に赤外線反射性顔料を含む塗膜層を設けたことを特徴とする断熱構造が開示されている。
【0004】
しかしながら建材の内側に断熱材を面状に配置する内断熱工法では、建材内部にある断熱材が空気中の水分を含むことによって徐々に脱落したり、夏場の熱等により経時で劣化していくため、施工初期は十分な断熱性を発揮できても、長期に渡って安定した断熱性を発揮するのは難しい。
【0005】
一方、特許文献2には、建築物の下地にフェノール系断熱材を配設した外側にメタルラス(金網)を留めつけ、その上にガラス繊維入りのモルタルを塗着し、仕上げ塗装を行う湿式外断熱工法が記載されている。
【0006】
かかる工法によれば、ひび割れが少なく、火災時にも耐火性に優れた外断熱壁が得られるものである。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の工法は、断熱材を建材に固定するなど施工が煩雑で工数を要するものであり、また、断熱材のつなぎ目部分の防水性や断熱性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−291644号公報
【特許文献2】特開2002−235386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、長期に渡って安定した断熱性と防水性を発揮する断熱層が得られる断熱塗材及びこのものを用いた断熱建材を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題について鋭意検討した結果、今回、中空粒子及び特定の形状を有する繊維状化合物を含む断熱塗材が、長期に渡って安定した断熱性と防水性を発揮する断熱層を形成でき、優れた断熱建材を与えることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
即ち本発明は、
1.
炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートを共重合成分とする合成樹脂エマルション(A)、中空粒子(B)、難燃化材(C)及び繊維状化合物(D)を含み、難燃化材(C)の配合量が、合成樹脂エマルション(A)の樹脂固形分100質量部に対して10〜300質量部の範囲内にあり、該繊維状化合物(D)がアスペクト比が1.5〜250の繊維状無機化合物、であることを特徴とする断熱塗材、
2.塗布型断熱層が形成された建材であって、該塗布型断熱層を形成するための断熱塗材が、
炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートを共重合成分とする合成樹脂エマルション(A)、中空粒子(B)、難燃化材(C)及び繊維状化合物(D)を含み、該繊維状化合物(D)がアスペクト比が1.5〜250の繊維状無機化合物、であることを特徴とする断熱建材、
3.組積壁の屋外側にセメント組成物を塗着し、形成されたセメント層の表面に、1項または2項に記載の断熱塗材を塗布することによって断熱層を形成してなる断熱建材、
4.断熱層の上にさらに日射反射率が75%以上の白色遮熱層を設けてなる2項または3項に記載の断熱建材、
5.2項ないし4項のいずれか1項に記載の断熱建材を用いて建設された建築物、
6.1項に記載の断熱塗材を用いることを特徴とする建築物改修方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の断熱塗材による断熱層は内部に緻密な空気を有し、つなぎ目等がなく基材上に設けられているので、長期に渡って安定した断熱性と防水性を発揮する断熱建材を得ることができる。
【0013】
従って、本発明の断熱建材を用いて建設された建築物の内部は、温度が外気に影響されにくく、夏冬ともに快適な環境にでき、表面に発生する結露防止、空調に要するエネルギーを削減することもできる。
【0014】
また、本発明の断熱建材は比較的軽いので、建築物に対する負荷、荷重が少ない利点もある。
【0015】
そして、断熱層は、塗布型であるので、塗装業者は被塗面の不陸を容易に調整することができると共に新設あるいは既存の建築物に対する施工や改修を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<樹脂エマルション(A)>
本発明で使用される樹脂エマルション(A)は、例えばアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン・ブタジエン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂(2液形も含む)などが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
特に樹脂エマルションとして、非架橋系では(メタ)アクリル酸アルキルエステル、スチレン、酢酸ビニル、不飽和酸等より選ばれた1種又は2種以上のビニルモノマーを乳化重合してなる(共)重合体エマルションが好適であり、また架橋系ではカルボニル基含有アクリル(共)重合体及びヒドラジン化合物を含む架橋型エマルションや、該エマルションと水性ポリウレタン樹脂との併用が乾燥性等の点から好適である。
【0018】
上記樹脂エマルション(A)の共重合成分となるモノマーとしては、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐状のアルキルを含有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、上記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン変性体、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖含有(メタ)アクリレート等の水酸基含有重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレート等のカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等のビニル芳香族化合物;(メタ)アクロレイン、ホルミルスチロール、炭素数4〜7のビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトンなど)、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシアリルエステル、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のカルボニル基含有重合性不飽和モノマー;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等の1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する多ビニル化合物等;グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアナート基含有重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有重合性不飽和モノマー;エポキシ基含有重合性不飽和モノマー又は水酸基含有重合性不飽和モノマーと不飽和脂肪酸との反応生成物、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の酸化硬化性基含有重合性不飽和モノマー等が挙げられ、これらは単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記モノマーの中でも、直鎖状もしくは分岐状の炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートを使用すると、断熱塗材を塗布する前のシーラー塗布工程を省略できたり、あるいは基材面に旧塗膜が残存している場合に、該旧塗膜との付着性が良好であり、適している。
【0020】
かかる炭素数が4以上のアルキル基を含有するアクリレートとしては、n−ブチルアクリレート、i−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等が挙げられ、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
<中空粒子(B)>
本発明で使用される中空粒子(B)は、断熱層の断熱性の観点から配合されるものであり、具体的には、例えば発泡ポリスチレン粒子、発泡ポリエチレン粒子、発泡ポリプロピレン粒子、発泡ポリウレタンなどの樹脂発泡体粒子;パ−ライト、火山れき、バーミキュライト焼成物などの無機発泡体粒子;アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル−アクリロニトリル−メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合樹脂等の樹脂の有機バルーン;シリカバルーン、シラスバルーン等のガラスバルーン、アルミナシリカバルーン等のセラミックバルーン等の無機バルーン;有機バルーンの表面をシリカ、アルミナ等の無機素材で装飾した有機無機複合バルーン等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
これらの中でも断熱層の断熱性と防水性の観点から樹脂発泡体粒子及び有機無機複合バルーンが適している。
【0023】
上記中空粒子(B)の平均粒子径としては、0.02〜8mm、特に0.05〜2mmが、塗装作業性と塗料粘度の観点から好ましい。
【0024】
本発明において平均粒子径は粒度分布測定装置により測定される値で定義するものとする。
【0025】
上記樹脂発泡体粒子(B)の配合量は、前記樹脂エマルジョン(A)/中空粒子(B)の固形分体積比が100/80〜100/1000、好ましくは100/150〜100/700となるよう含有することが断熱性、厚膜性と塗膜強度の観点から適している。
【0026】
<難燃化材(C)>
本発明の断熱塗材は難燃化材(C)を含む。難燃化材(C)としては従来公知のものを使用できるが、具体的にはデカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、テトラブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモシクロドデカン、ビストリブロモフェノキシエタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラブロムエタン、ヘキサフェート等の臭素系難燃化材;トリメチルフォスフェート:トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリブトキシエチルフォスフェート、オクチルジフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、クレジルフェニルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、2−ナフチルジフェニルフォスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルフォスフェート、芳香族縮合リン酸エステル、芳香族縮合リン酸エステルとポリオキシアルキレン燐酸エステルの混合物、ポリフォスフォネート、ポリフォスフェート、ポリ燐酸塩、赤燐等の非ハロゲン化燐系難燃化材;トリクロロエチルフォスフェート、トリス(2−クロロプロピル)フォスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)フォスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)フォスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)フォスフェート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェ−ト、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、2,3−ジブロモプロピルフォスフェート,2,3−クロロプロピルフォスフェート等のハロゲン化燐系難燃化材;塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン、塩素化ビフェニル等の塩素系難燃化材;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム、硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化錫、水酸化錫等の無機系難燃化材等の単独で或いは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
これらの中でも無機系難燃化材及びハロゲン化燐系難燃化材が好適であり、断熱性の観点からは水酸化アルミニウムが特に好適である。水酸化アルミニウムの平均粒子径としては100μm以下、好ましくは0.6〜25μmがよい。
【0028】
断熱性と難燃性を両立するための上記難燃化材(C)の配合量は、前記(A)の樹脂固形分100質量部に対して10〜300質量部であり、好ましくは20〜200質量部が適している。
【0029】
<繊維状化合物(D)>
上記断熱塗材は、繊維状化合物(D)を含む。
【0030】
本発明においては繊維状化合物(D)としてアスペクト比が1.5〜250の繊維状無機化合物及び/または分岐状構造を有する繊維状有機化合物を使用することを特徴とする。
【0031】
繊維状無機化合物の具体例としては、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。中でも硫酸マグネシウム、特に塩基性硫酸マグネシウム(化学式MgSO
4・5Mg(OH)
2・3H
2O)がよい。
【0032】
本発明において上記繊維状無機化合物のアスペクト比は1.5〜250であり、好ましくは5〜200の範囲内である。
【0033】
アスペクト比が1.5より小さいと、断熱層の防水性が不十分であり、一方250を超えると施工性が不十分となり、好ましくない。
【0034】
本明細書においてアスペクト比は伸長方向の長さを伸長方向に垂直な方向の長さで割ることにより算出される値とする。
【0035】
繊維状無機化合物の伸長方向の長さの平均値としては1〜100μm、好ましくは5〜90μm、伸長方向に垂直な方向の長さの平均値としては0.1〜3.0μm、好ましくは0.2〜2.5μmの範囲内がよい。
【0036】
また、本発明においては多分岐状繊維状化合物も繊維状化合物(C)として包含される。
【0037】
かかる多分岐状繊維状有機化合物としては、パルプ、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等の繊維状有機化合物などが挙げられ、ポリエチレン繊維等が適している。
【0038】
上記繊維状化合物(D)の配合割合は、通常、樹脂エマルジョン(A)の樹脂固形分100重量部に対して0.1〜6質量部、好ましくは0.2〜3質量部の範囲内が適当である。
【0039】
<断熱塗材>
本発明における断熱塗材には、さらに必要に応じて、顔料分、造膜助剤、増粘タレ止め剤、消泡剤、分散剤、上記(D)以外の繊維状化合物などを含ませることができる。
【0040】
また顔料分としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、酸化鉄などの着色顔料;クレー、タルク、マイカ、シリカ、炭酸カルシウムなどの体質顔料などが挙げられる。
【0041】
その使用量は顔料成分全体として前記樹脂エマルジョン(A)に対する顔料体積濃度(以下、「PVC」と略称することがある)が0.5〜50%、好ましくは1〜30%となるよう配合される。
【0042】
ここで「PVC」は樹脂及び顔料の混合物固形分に占める顔料分の体積割合(%)であり、(顔料分の体積)/(顔料分の体積+樹脂固形分の体積)×100なる式から得られるものである。顔料の比重は、「塗料原料便覧第6版」(社団法人日本塗料工業会)によるものであり、また、樹脂固形分の比重は1と近似する。
【0043】
本発明の断熱塗材の断熱性の観点からは、上記顔料分はカーボンブラックを顔料体積濃度で0.5%未満で含む、もしくは含まないものであってもよい。
【0044】
<断熱建材>
本発明の断熱建材は塗布により建築用基材に上記断熱塗材が厚膜に設けられているものである。
【0045】
断熱塗材による断熱層の厚さとしては、特に限定されるものではないが一般には1〜50mmであり、好ましくは3〜35mmである。
【0046】
断熱層の厚さが1mmより薄いと十分な断熱性が得られず、50mmを超えると断熱塗材による塗装が困難で膜形成(造膜)が難しくなり、断熱性と防水性が不十分である。
【0047】
上記断熱塗材が塗布される建築用基材面としては、外壁面、内壁面、屋根面等が挙げられ、これらは新設であっても既設であってもよい。これら建築用基材にはアクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、ポリウレタン樹脂系、フッ素樹脂系、シリコンアクリル樹脂系、酢酸ビニル樹脂系などの塗膜が設けられていてもよい。
【0048】
また。これら建材の表面に上記断熱塗材を直接塗装することもできるが、付着性の面からシーラーやプライマー層を予め基材面に設けておいてもよい。
【0049】
上記断熱塗材の塗装は、例えば吹き付け、流し込み、コテ塗り、ローラー、刷毛など従来公知の方法で行うことができる。
【0050】
また本発明では、組積壁の屋外側にセメント組成物を塗着し、形成されたセメント層の表面に上記断熱塗材による断熱層を設けてなる断熱建材を提供する。
【0051】
組積壁とは、レンガ、石、コンクリートなどのブロックを積み上げることにより形成する壁である。
【0052】
セメント組成物としては特にその原材料や組成について限定するものではないが、水硬性の無機組成物であり、例えば普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、膨張セメント、酸性リン酸塩セメント、シリカセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、キーンスセメント等が挙げられ、これらに骨材等が配合されたモルタル、コンクリートもセメント組成物として包含する。
【0053】
骨材としては、例えばパーライト、膨張バーミキュライト、軽石、ALC粉砕物、スチレン樹脂発泡体、エチレン酢酸ビニル樹脂発泡体、塩化ビニル樹脂発泡体等が挙げられる。
【0054】
上記セメント組成物としては上記成分の他に凝結促進剤、減水剤、増粘剤、繊維材料、分散剤、有機樹脂等を含むものであってもよい。
【0055】
セメント層は、上記セメント組成物に水を加えて得られる混練物を、上記組積壁に塗着し、硬化させる。この混練物は必要に応じて複数回塗り重ねてもよい。また、メタルラスなどの網を貼り付けながら塗着することもできる。
【0056】
かかるセメント層の厚みは適宜調整できるが一般に1〜30mm程度、特に2〜20mm程度であり、常温で乾燥される。
【0057】
さらに上記断熱層の上に上塗り塗装を行なう場合には、上塗り塗装として、日射反射率が75%以上の塗膜を形成する白色遮熱塗料を塗装することが適している。
【0058】
かかる構成により、断熱性と防水性がともに向上するからである。
【0059】
該上塗り塗料の塗装の前に、断熱塗膜との付着向上のために必要に応じてシ−ラ−を塗装してもよい。
【0060】
上記上塗り塗料の塗装は、スプレー、ローラー、刷毛などの方法で、150〜3,000g/m
2 の範囲の塗布量が適している。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、下記例中の「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0062】
実施例1〜6及び比較例1〜2
表1に示す成分を配合し、攪拌混合して各水性断熱塗材(X−1)〜(X−6)及び(Y−1)〜(Y−2)を得た。表1中における(注)は下記の通りである。
(注1)樹脂エマルション(A−1):スチレン/2−エチルヘキシルアクリレート/ダイアセトンアクリルアミド/メタクリル酸=10/83/5/2共重合体エマルション、固形分55%
(注2)樹脂エマルション(A−2):スチレン/2−エチルヘキシルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メタクリル酸=10/40/48/2 固形分55%
(注3)発泡ポリスチレン粒子:平均粒子径1mm、かさ密度0.04g/ccの球形粒子
(注4)酸化チタン:比重4.0
(注5)塩基性硫酸マグネシウム:繊維状、平均長径15μm、平均短径0.5μm
(注6)ケミベストFDSS−5:多分岐状繊維状ポリエチレン、三井化学社製、
(注7)水酸化アルミニウム、平均粒子径25μm
(注8)難燃化材:「CR−900」大八化学社製、臭素含有70%、リン含有3%の含臭素リン酸エステル。
【0063】
上記各塗材を評価し、結果を表1にあわせて示した。
(*1)断熱性:フッ素樹脂被覆鋼板上に乾燥膜厚で約5mmとなるように吹付け塗装し、20℃・65%RHの恒温恒湿室で7日間乾燥して塗膜を形成した。次いでフッ素樹脂被覆鋼板より塗膜を引き剥がし、膜厚約5mmのフリ−塗膜を作成し、70×150mmに切断したものを試料として「QTM−500」(京都電子工業社製)を用いて熱伝導率[W/m・K]を測定し、断熱性とした。表中、値が低いほど良好である。
(*2)防水性:400×200×6mmのスレート板に、エポキシ樹脂系プライマーを塗布量0.1kg/m
2でスプレー塗装し、標準状態で16時間乾燥した後、各断熱塗材を塗布量1kg/m
2でスプレー塗装し、14日間養生したものを試験体とした。得られた試験体の透水量を、JIS A 6909 7.13「透水試験B法」の手順に従って測定することによって防水性を評価した。
◎:透水量が0.2ml未満、
○:透水量が0.2ml以上0.5ml未満、
△:透水量が0.5ml以上1ml未満、
×:透水量が1ml以上。
(*3)難燃性:上記防水性で用いた試験体に蝋燭の炎を近づけ、下記基準で評価した。
◎:全く燃焼しない、
○:着火するが延焼せず直ぐに消化する、
△:着火しゆっくり燃焼し続ける、
×:着火し激しく燃焼し続ける。
(*4)耐ワレ性:上記防水性で用いた試験体と同様の試験体を別に作成し、水漬浸(23℃)18hr→−20℃×3hr→50℃×3hrを1サイクルとする温冷サイクル試験を合計10サイクル行った後、塗膜外観を確認した。
◎:ワレが見当たらない、
×:ワレが著しく発生
(*5)塗装作業性:上記防水性で用いた試験体を作成するときの各断熱塗材の塗装作業性を下記基準にて評価した。
◎:良好、
○:支障なく塗装可能、
△:支障あり塗装困難、
×:塗装不適。
【0064】
【表1】
【0065】
<断熱性外壁>
本発明に従う断熱性外壁を
図1に示した。
図1において、セメント層は厚さ10mmであり、断熱層は厚さ5mmの層である、仕上げ層は60μmであり、ここでは日射反射率80%程度の外壁用水性遮熱塗料(白色)を使用した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】
図1は本発明に従う断熱外壁の概略図の一例である。
【符号の説明】
【0067】
1:内装材(セメント層上の内装塗膜層)
2:レンガ組積構造の壁面
3:セメント層
4:断熱層
5:仕上げ層