(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴現象を利用した分析技術や画像診断技術が既に実用化されており、近年その利用が増加している。これら技術を利用した装置として、核磁気共鳴分析装置(以下、単に「NMR分析装置」と記載する。「NMR」とは「Nuclear Magnetic Resonance」の略称である。)や磁気共鳴画像装置(以下、単に「MRI装置」と記載する。「MRI」とは「Magnetic Resonance Imaging」の略称である。)などがあり、これらの装置には、均一な磁場空間を利用した磁場発生装置が用いられている。
【0003】
特許文献1には、静磁場発生領域に均一な静磁場を発生させるための超電導コイルと、前記静磁場発生領域に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場コイルと、前記静磁場発生領域に挿入された被検者に高周波磁場を照射する高周波数照射手段と、該高周波数照射手段からの外部への高周波数磁場を遮蔽する高周波数シールド手段とを含むMRI装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、2つの高温超伝導バルク材を着磁させ、ヘルムホルツコイルと同様に平行かつ同軸に配置させることにより、2つの高温超伝導バルク材の中間に均一な高磁場を発生させる均一磁場発生方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、長手方向に均一な静磁場を生成するための超電導コイルと、測定容積からのNMR信号を受信するための1つ以上の超伝導素子を有するラジオ周波数共振器とを含むNMR分光器であって、該ラジオ周波数共振器の超伝導素子に作用する、該均一磁場に対して横方向の磁場成分を一定に保つ安定化デバイスが設けられたNMR分光器が開示されている。
【0006】
特許文献4には、被検体の置かれる空間に均一な静磁場を発生する静磁場発生手段と、前記空間に被検体を搬入・搬出する搬送手段とを備え、前記被検体の断層画像を得るMRI装置において、前記静磁場発生手段は、前記空間の上下に配置された磁場発生源と、上下の磁場発生源を所定の間隔を持って保持する少なくとも1つの構造体と、前記空間の中心を示す複数のガイド手段とを備え、前記ガイド手段の少なくとも1つは前記均一磁場空間の中心を明示する開放型MRI装置が開示されている。また、特許文献4の性静磁場発生手段は、上下一対の永久磁石を備えることが開示されている。
【0007】
特許文献5には、真空容器内で超伝導遷移温度以下に冷却される中空円筒状の超伝導バルク体に磁場を捕捉させて該超伝導バルク体の中空部に磁場を発生させる磁場発生装置において、前記超伝導バルク体は、該超伝導バルク体を軸方向に着磁したときに、軸方向中央部よりも臨界電流密度が高くなる領域が軸方向両端部側に形成されるように構成されている磁場発生装置が開示されている。
【0008】
特許文献6には、永久電流を超電導コイルに循環させて撮像領域に均一磁場を発生させる一対の静磁場発生部と、前記撮像領域に傾斜磁場を発生させる一対の傾斜磁場発生部と、を備えるMRI装置において、前記静磁場発生部は、前記超電導コイル及びこの超電導コイルを冷却する冷媒を少なくとも収容する冷媒容器と、前記傾斜磁場発生部を前記撮像領域に対向するように固定する対向部材及び支持部材により少なくとも形成されるとともに前記冷媒容器を真空状態で保持する真空容器と、を有し、前記対向部材又は少なくともその一部が、前記支持部材と材質が同じであって剛性が同じであると仮定される平板部材に対比して、周回方向の電気抵抗が大きくなるように構成されているMRI装置が開示されている。
【0009】
特許文献7には、対向配置され、間に均一磁場領域を形成する1対の静磁場発生源と、前記静磁場発生源の対向面側に均一磁場領域を挟んで対向配置された1対の傾斜磁場コイルを備え、前記傾斜磁場コイルを収容する窪みを有し、当該窪み内に前記傾斜磁場コイルの配線材を収納したMRI装置であって、前記傾斜磁場コイルの配線材は、前記傾斜磁場コイルの近傍の導体に所望の渦電流を流すように形状及び/または配置が調整されているMRI装置が開示されている。また、特許文献7の静磁場発生源は、超電導磁石、常電導磁石又は永久磁石が用いられ、超電導磁石は、超電導材料をコイル形状に巻いた超電導コイルを、ステンレス、又はグラスファイバー強化プラスチック製のクライオ容器にすることが開示されている。
【0010】
特許文献8には、撮影対象を載置する載置空間に静磁場を発生させる静磁場発生手段と、均一磁場が形成される撮影領域に対し方向を切り替えながら傾斜磁場を重畳させる傾斜磁場発生手段と、前記傾斜磁場発生手段の配置空間に開口部が設けられる連通部に接続する容量部を有する消音手段と、を備えるMRI装置が開示されている。また、特許文献8の静磁場発生手段は、巻回される螺旋コイルに電流を流して誘導磁場を発生させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献1、3及び6〜8に開示の磁場発生装置は、静磁場を発生させるための手段として、超電導コイルを用いるものである。超電導コイルを用いた磁場発生装置は、均一な磁場空間を広く確保し易い反面、超電導コイルを冷却する多量の液体ヘリウムが必要となるため、超電導コイル及び液体ヘリウムを含む装置全体が大型化してしまうという問題がある。
【0013】
特許文献4に開示の開放型MRI装置は、静磁場を発生させる手段として、永久磁石を用いるものである。静磁場を発生させるための手段として永久磁石を用いた磁場発生装置は、超電導コイルを用いる磁場発生装置と比較して、液体ヘリウムの使用をなくすことができるが、永久磁石が発生する磁場が弱いという問題がある。
【0014】
これに対して、特許文献2及び5には、静磁場を発生させるための手段として、超電導体が塊状に形成された超電導バルク磁石を用いることが開示されている。超電導バルク磁石を用いた磁場発生装置は、静磁場を発生させるための手段として超電導コイルや超電導マグネット(超電導線材をコイルに巻いた磁石)を用いた磁場発生装置と比較して、液体ヘリウムの使用量を低減又は不要にすることができると共に、静磁場を発生させるための手段として永久磁石を用いた磁場発生装置と比較して、超電導バルク磁石により強い磁場を発生させることができる。
【0015】
ところで、特許文献5に開示の磁場発生装置は、中空円筒状の超電導バルク体の中空部に均一磁場を発生させるものであるため、例えば測定対象となる試料の形状や大きさ等によっては、均一磁場空間に測定部位を設置することが難しい場合がある。
【0016】
特許文献2に開示の均一磁場発生方法は、着磁した2つの高温超伝導バルク材を平行かつ同軸に配置させることにより、2つの高温超伝導バルク材の中間に均一な高磁場を発生させるものであって、試料を設置する空間の周囲が囲まれていないという点において、特許文献5に開示の磁場発生装置と比較して、試料の測定部位の設置が容易となり得るものである。
【0017】
しかしながら、中央部の磁束密度が最大となる傾斜磁場が形成された2つの高温超伝導バルク材を平行かつ同軸に配置させるものであるため、2つの高温超電導バルク材の中間位置にしか均一な高磁場を発生させることができず、磁場発生装置の設計自由度に欠けるという問題がある。
【0018】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、均一な磁場空間の位置について設計自由度を向上させるような磁場分布を有する磁場を発生する、高温超電導バルク磁石を用いた磁場発生装置及び磁場発生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様としての磁場発生装置は、超電導バルク磁石を備える磁極部を備え、超電導状態において、前記超電導バルク磁石から発生する磁場は、前記磁極部の磁極面に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成することを特徴とするものである。
【0020】
本発明の1つの実施形態として、前記磁極部は、前記超電導バルク磁石から発生する磁場の一部を遮蔽し、前記凹型形状の磁場分布を形成する磁場遮蔽部材を備えることが好ましい。
【0021】
本発明の1つの実施形態として、前記磁極部は、前記超電導バルク磁石から発生する磁場を減少させる磁場を発生し、前記凹型形状の磁場分布を形成する消磁コイルを備えることが好ましい。
【0022】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石に捕捉された磁場が、前記凹型形状の磁場分布を有することが好ましい。
【0023】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、ゼロ磁場冷却法により、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0024】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、パルス着磁法により、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0025】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石は、中央に孔を区画するリング形状であり、前記超電導バルク磁石を冷凍機冷却により超伝導状態にし、外部から励磁することにより、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0026】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を第1超電導バルク磁石とし、前記磁極面を第1磁極面とし、前記磁極部を第1磁極部とした場合に、第2超電導バルク磁石を備える第2磁極部を更に備え、超電導状態において、前記第2超電導バルク磁石から発生する磁場は、前記第2磁極部の第2磁極面に、凸型形状又は凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成し、前記第1磁極面と前記第2磁極面とは、対向して配置されていることが好ましい。
【0027】
本発明の1つの実施形態として、前記第2磁極面に生成される磁場は、凸型形状の磁場分布を有し、前記第1磁極面と前記第2磁極面との間の距離を変化させる距離可変機構を備えることが好ましい。
【0028】
本発明の1つの実施形態として、前記第1磁極面及び前記第2磁極面は、中心軸線が一致する略円形状の平面であることが好ましい。
【0029】
本発明の第2の態様としての磁場発生方法は、超電導状態において、超電導バルク磁石から発生する磁場は、磁極部の磁極面に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成することを特徴とするものである。
【0030】
本発明の1つの実施形態として、磁場遮蔽部材により、前記超電導バルク磁石から発生する磁場の一部を遮蔽し、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0031】
本発明の1つの実施形態として、消磁コイルにより、前記超電導バルク磁石から発生する磁場を減少させる磁場を発生し、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0032】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、ゼロ磁場冷却法により、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0033】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、パルス着磁法により、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0034】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石は、中央に孔を区画するリング形状であり、前記超電導バルク磁石を冷凍機冷却により超伝導状態にし、外部から励磁することにより、前記凹型形状の磁場分布を形成することが好ましい。
【0035】
本発明の1つの実施形態として、前記超電導バルク磁石を第1超電導バルク磁石とし、前記磁極面を第1磁極面とし、前記磁極部を第1磁極部とした場合に、第2超電導バルク磁石を備える第2磁極部を更に備え、超電導状態において、第2超電導バルク磁石から発生する磁場は、前記第1磁極面と対向して配置された第2磁極部の第2磁極面に、凸型形状又は凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成することが好ましい。
【0036】
本発明の1つの実施形態として、前記第2磁極面に生成される磁場は、凸型形状の磁場分布を有し、前記第1磁極面及び前記第2磁極面は、中心軸線が一致する略円形状の平面であって、前記第1磁極面と前記第2磁極面との間の中心軸方向の距離を、距離可変機構により変化させて、前記第1磁極面と前記第2磁極面との間で均一な磁場分布を有する、前記中心軸方向と直交する所定平面を特定することが好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によると、均一な磁場空間の位置について設計自由度を向上させるような磁場分布を有する磁場を発生する、高温超電導バルク磁石を用いた磁場発生装置及び磁場発生方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る磁場発生装置及び磁場発生方法の実施形態について、
図1〜
図7を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0040】
<実施形態1>
まず、本発明に係る磁場発生装置の1つの実施形態としての磁場発生装置1について説明する。
図1は、磁場発生装置1を示す図である。磁場発生装置1は、一対の磁極部2と、この一対の磁極部2間の距離を変化させる距離可変機構3と、一対の磁極部2のうち少なくとも一方を距離可変機構3に固定する固定部4と、を備える。
【0041】
一対の磁極部2それぞれは、高温超電導バルク磁石(以下、単に「超電導バルク磁石」と記載する。)と、超電導バルク磁石を真空状態で内包する真空容器と、超電導バルク磁石を冷却する冷却器と、この冷却器を駆動する圧縮器と、各磁極部の外表面の少なくとも一部により構成される磁極面と、を備える。
【0042】
本実施形態の一対の磁極部2は、第1磁極部5と、第2磁極部6とを備える。具体的に、本実施形態の第1磁極部5は、第1高温超電導バルク磁石7a(以下、単に「第1超電導バルク磁石7a」と記載する。)と、この第1超電導バルク磁石7aを真空状態で内包する第1真空容器8aと、第1超電導バルク磁石7aを冷却する第1冷却器9aと、この第1冷却器9aを駆動する第1圧縮器10aと、第1磁極部5の外表面の一部により構成され、第2磁極部6の第2磁極面11bと対向する第1磁極面11aと、を備える。
【0043】
本実施形態の第2磁極部6は、第2高温超電導バルク磁石7b(以下、単に「第2超電導バルク磁石7b」と記載する。)と、この第2超電導バルク磁石7bを真空状態で内包する第2真空容器8bと、第2超電導バルク磁石7bを冷却する第2冷却器9bと、この第2冷却器9bを駆動する第2圧縮器10bと、第2磁極部6の外表面の一部により構成され、第1磁極部5の第1磁極面11aと対向する第2磁極面11bと、を備える。
【0044】
以下、磁場発生装置1の各構成、特徴部について詳細に説明する。
【0045】
[第1磁極部5]
第1磁極部5の第1超電導バルク磁石7aは、溶融法によって塊状に合成された、希土類123系の超電導体である。第1超電導バルク磁石7aは、第1真空容器8a中の真空断熱下で、第1冷却器9aによって冷却されて、超電導状態とされる。この超電導状態において、パルス着磁法によって磁場を印加して、第1超電導バルク磁石7aに磁場を捕捉させることにより、強磁場を安定的に発生することができる。
【0046】
第1超電導バルク磁石7aは、略円柱状の外形を有しており、第1超電導バルク磁石7aの中心軸Oaの軸方向Pa(以下、単に「第1磁石軸方向Pa」と記載する。)における一方の底面が第1冷却器9aに接続されている。また、第1超電導バルク磁石7aの第1磁石軸方向Paにおける他方の底面は、第1磁極面11aと対向している。
【0047】
図1に示すように、本実施形態の第1超電導バルク磁石7aは、第1真空容器8a内において、真空断熱層12aを介して、第1磁極面11aと対向する位置に配置されている。従って、本実施形態の第1超電導バルク磁石7aは、真空断熱層12aによって、第1磁極面11aから断熱され、この真空断熱下で、第1圧縮器10aによって駆動された第1冷却器9aにより冷却される。ここで、真空断熱層12aを、後述する第2磁極部6の真空断熱層12bと区別するために、以下、「第1真空断熱層12a」と記載する。
【0048】
なお、第1超電導バルク磁石7aに磁場を捕捉させる方法としては、上述した方法に限らず、例えば、第1超電導バルク磁石7aを超電導マグネットによる磁場中に曝し、その後に第1超電導バルク磁石7aを冷却することによって超電導状態とし、強磁場を捕捉させるようにしてもよい。
【0049】
第1真空容器8aは、略円柱状の中空部を区画している。この中空部には、上述した第1超電導バルク磁石7aと、第1冷却器9aのうち第1超電導バルク磁石7aと接触して第1超電導バルク磁石7aを冷却する冷却部13aと、第1真空容器8aの中空部における冷却部13aの位置を固定する断熱性樹脂材14aと、が内包されている。なお、第1冷却器9aの冷却部13aを、後述する第2冷却器9bの冷却部13bと区別するために、以下、「第1冷却部13a」と記載する。同様に、上述の断熱性樹脂材14aについても、以下、「第1断熱性樹脂材14a」と記載する。
【0050】
略円筒状の第1真空容器8aの中心軸方向(本実施形態では第1磁石軸方向Paと同じ方向)において、一方の底面側(
図1において右側)に第1磁極面11aが形成され、他方の底面側(
図1において左側)に板状の固定部4が取り付けられている。第1断熱性樹脂材14aは、第1冷却部13aの外壁と第1真空容器8aの内壁との間、及び第1冷却部13aの外壁と板状の固定部4の外壁との間に介在し、第1真空容器8a内での第1冷却部13aの位置を固定する。なお、第1真空容器8a内は、真空ポンプ及び真空配管を用いて減圧される。
【0051】
第1冷却器9aは、上述した第1冷却部13aと、この第1冷却部13aと接続された冷却器本体15aと、を備える。冷却器本体15aは、第1冷却部13aを冷却する。そして、冷却器本体15aに冷却された第1冷却部13aが、これと固着された第1超電導バルク磁石7aを冷却する。なお、第1冷却器9aの冷却器本体15aを、後述する第2冷却器9bの冷却器本体15bと区別するために、以下、「第1冷却器本体15a」と記載する。
【0052】
また、第1冷却器9aは、ギフォード・マクマホンサイクル(GMサイクル)極低温冷凍機、スターリングサイクル極低温冷凍機、パルス管式極低温冷凍機のいずれか、又はその組み合わせであることが好ましい。第1超伝導バルク磁石7aは、第1冷却器9aによって、10〜80Kに真空断熱下の第1磁極部5内で冷却され、磁場中での冷却又はパルス着磁法によって、磁場を捕捉し、発生する。なお、本実施形態の第1冷却器9aは、極低温冷凍機である、ギフォード・マクマホン冷凍機(GM冷凍機)であり、第1冷却部13a及び第1超電導バルク磁石7aが約30〜35Kに冷却されて、第1超電導バルク磁石7aは超電導状態となる。
【0053】
このように、本実施形態の第1磁極部5は、静磁場を発生するための手段として第1超電導バルク磁石7aを用いることにより、第1冷却器9aとして液体ヘリウムを使用しない構成としているため、超電導コイルを用いる場合と比較して、小型軽量で安価な磁場発生装置1を実現することができる。
【0054】
ここで、本実施形態の第1磁極部5は、第1超電導バルク磁石7aから発生する磁場の一部を遮蔽し、凹型形状の磁場分布を形成する磁場遮蔽部材としての磁性体板17を備える。本実施形態の第1磁極面11aは、磁場遮蔽部材としての磁性体板17の外表面により構成されている。すなわち、本実施形態では、磁性体板17が、第1真空容器8aの一方の底面である磁極16aに取り付けられている。磁場遮蔽部材としての磁性体板17の詳細は後述する(
図2参照)。なお、第1磁極部5の磁極16aを、後述する第2磁極部6の磁極16bと区別するために、以下、「第1磁極16a」と記載する。
【0055】
[第2磁極部6]
第2磁極部6は、上述した第1磁極部5と比較して、上述した磁場遮蔽部材としての磁性体板17を備えない点で相違しており、その他の構成は同様である。従って、ここでは詳細な説明を省略する。なお、本実施形態では、第2真空容器8bの1つの底面である磁極16bが、第2磁極部6の第2磁極面11bを構成する。また、第2磁極部6の真空断熱層12b、冷却部13b、断熱性樹脂材14b、冷却器本体15b、磁極16b、及び第2超電導バルク磁石7bの中心軸Obの軸方向Pbを、第1磁極部5の対応構成及び対応方向と区別するために、以下、「第2真空断熱層12b」、「第2冷却部13b」、「第2断熱性樹脂材14b」、「第2冷却器本体15b」、「第2磁極16b」、及び「第2磁石軸方向Pb」と記載する。
【0056】
なお、上述したように、第2磁極部6の各構成は、磁性体板17の有無を除いて第1磁極部5の各構成と同様であるが、第2磁極部6の向きは、第1磁極部5の向きと異なる。すなわち、第2磁極部6は、第1磁極部5と対向して配置されている。より具体的に、第1磁極部5の略円柱状の第1超電導バルク磁石7aの中心軸Oaの軸線と、第2磁極部6の略円柱状の第2超電導バルク磁石7bの中心軸Obの軸線とが一致するように、第1磁極面11aと第2磁極面11bとが空隙を挟んで対向して配置されている。なお、本実施形態の第1磁極面11a及び第2磁極面11bは、略円形状の平面であり、第1磁極面11a及び第2磁極面11bの各中心軸線も、第1及び第2超電導バルク磁石7a及び7bの中心軸Oa及びObの軸線と一致する。そして、本実施形態では、第1磁極部5の第1磁極面11aと第2磁極部6の第2磁極面11bとの間の所定位置で、中心軸方向P(第1磁石軸方向Pa及び第2磁石軸方向Pbと同じ方向)に直交する平面に、磁場分布が一様な均一磁場平面を形成する。
【0057】
[距離可変機構3]
距離可変機構3は、対向する、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間の距離を変化させることができる機構である。具体的に、本実施形態の距離可変機構3は、固定台座18に固定された移動軸19と、この移動軸19に沿って移動軸19の軸方向Pに移動可能な移動部20と、を備える。移動軸19は、上述の第1及び第2超電導バルク磁石7a及び7bの中心軸Oa及びObと平行して延在している。従って、移動体20は、固定台座18上を、中心軸方向Pに移動することができる。より具体的に、移動体20は固定部4と固定されているため、移動体20が移動軸19の中心軸方向Pに移動すると、第1磁極部5及び第2磁極部6の少なくとも一方が、移動体20と共に移動軸19の中心軸方向Pに移動する。
【0058】
本実施形態の距離可変機構3は、第1磁極部5を中心軸方向Pに移動可能な第1移動機構21aと、第2磁極部6を中心軸方向Pに移動可能な第2移動機構21bと、を備える。具体的に、第1移動機構21aは、第1移動軸19aと、この第1移動軸19aの中心軸方向Pに沿って移動可能であると共に、第1固定部4aに固定された第1移動体20aと、を備える。また、第2移動機構21bは、第2移動軸19bと、この第2移動軸19bの中心軸方向Pに移動可能であると共に、第2固定部4bに固定された第2移動体20bとを備える。従って、本実施形態では、第1移動機構21a及び第2移動機構21bのいずれか一方又は両方を移動させることにより、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間の中心軸方向Pにおける距離を変化させることができる。なお、第1固定部4aは、第1磁極部5に固定されており、第2固定部4bは、第2磁極部6に固定されている。
【0059】
また、
図1に示す平面70は、第1磁極部5と第2磁極部6との中心軸方向Pにおける距離を最大にした場合の、第1超電導バルク磁石7a及び第2超電導バルク磁石7bの各対向面の中心軸方向Pにおける中間を示す、中心軸方向Pに直交する平面(以下、単に「中間平面70」と記載する。)である。第1磁極部5及び第2磁極部6は、この中間平面70を挟んで中心軸方向Pに移動可能である。
【0060】
本実施形態の距離可変機構3は、上述した構成を備えることにより、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間の中心軸方向Pの距離を変化させて、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間で均一な磁場分布を有する、中心軸方向Pと直交する所定平面を特定することができる。この所定平面である磁場均一面22については後述する。
【0061】
[固定部4]
固定部4は、上述した一対の磁極部2の少なくとも一方を、上述した距離可変機構3に固定する。本実施形態の固定部4は、第1磁極部5を第1移動機構21aの第1移動体20aに固定する第1固定部4aと、第2磁極部6を第2移動機構21bの第2移動体20bに固定する第2固定部4bと、を備える。なお、本実施形態の第1固定部4a及び第2固定部4bは、それぞれ、略円筒状の第1真空容器8a及び第2真空容器8bの1つの底面側に取り付けられた、又は一体で形成された板状フランジ部により構成されている。
【0062】
[第1磁極面11a及び第2磁極面11bに形成される磁場について]
上述したように、第1磁極部5と第2磁極部6とは、磁極面の構成が相違しており、超電導状態において第1磁極面11aに形成される磁場の磁場分布と、同状態において第2磁極面11bに形成される磁場の磁場分布とが異なる。本実施形態では、超電導状態において、第1超電導バルク磁石7aから発生する磁場は、磁性体板17にその一部を遮蔽されて、第1磁極部5の第1磁極面11aに、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成する。また、超電導状態において、第2超電導バルク磁石7bから発生する磁場は、第2磁極部6の第2磁極面11bに、凸型形状の磁場分布を有する磁場を形成する。
【0063】
図2は、
図1に示す磁場発生装置1のうち、第1超電導バルク磁石7a、第2超電導バルク磁石7b及び磁場遮蔽部材としての磁性体板17を抜き出して示した図である。
図2に示すように、本実施形態の磁性体板17は、第1超電導バルク磁石7aと、第2超電導バルク磁石7bとの間に介在している。より具体的に、本実施形態の磁性体板17は、略円形扁平状の外形を有し、その中心軸線が、略円柱状の第1超電導バルク磁石7a及び第2超電導バルク磁石7bの中心軸Oa及びObの軸線と一致するように、第1超電導バルク磁石7a及び第2超電導バルク磁石7bの間に配置されている。
【0064】
また、本実施形態の磁性体板17は、第1超電導バルク磁石7aに近接するように設けられている。具体的に、本実施形態の磁性体板17は、第1真空容器8aのうち、第2磁極部6側の底面の外壁に取り付けられることにより、第1超電導バルク磁石7aに対して近接するように配置されると共に、第1磁極部5の第1磁極面11aを構成し、第2超電導バルク磁石7bと対向する。
【0065】
本実施形態の磁性体板17は、JIS(Japanese Industrial Standardの略称)規格のSS400の鉄板であり、厚さ2mm、直径78mmの、第1超電導バルク磁石7aの磁底面をほぼ覆う大きさである。また、本実施形態の第1超電導バルク磁石7aは、0.88T(テスラ)のN極に、第2超電導バルク磁石7bは、0.88T(テスラ)のS極に着磁されており、
図1に概略的に示すように、第1超電導バルク磁石7aから第2超電導バルク磁石7bに向かう磁力線24が形成される。
【0066】
図2には、第1超電導バルク磁石7a、第2超電導バルク磁石7b及び磁場遮蔽部材としての磁性体板17により形成される磁場均一面22を示す。
図2に示すように、本実施形態の磁場均一面22は、中間平面70よりも第1磁極部5側の位置に形成される。磁場均一面22がこのような位置に形成される磁場分布は、第1磁極面11a及び第2磁極面11bそれぞれに形成される磁場の磁場分布を工夫することにより実現可能である。
図2において、第1超電導バルク磁石7aから発生し、第1磁極部5の第1磁極面11aとしての磁性体板17表面に形成される磁場の磁場分布23aと、第2超電導バルク磁石7bから発生し、第2磁極部6の第2磁極面11bに形成される磁場の磁場分布23bと、を示す。なお、
図2において示す磁場分布23a及び23bは、第1及び第2磁極面11a及び11bに形成される磁場分布を模式的に示したものである。また、
図2では、理解を容易にするために、第1及び第2超電導バルク磁石7a及び7bそれぞれの中心軸方向Pに向けて磁場強度を示している。なお、
図2の第1磁極部5においては、右方向が、N極からS極へ向かう磁場強度を示す。第2磁極面11bの磁場分布23bでは、左方向に磁場強度を示す。
【0067】
図2に示すように、本実施形態では、第1磁極面11aに形成される磁場の磁場分布23aと、第2磁極面11bに形成される磁場の磁場分布23bとが異なる。十分に着磁された超電導バルク磁石の磁場分布は、第2磁極面11bの磁場分布23bに示すように、磁極面の中央部が最大となる凸型形状の磁場分布を呈する。本実施形態の第2磁極面11bでは、全体が単一の円錐状の磁場分布を呈する。これに対して、第1磁極部5には磁性体板17があるため、第1超電導バルク磁石7aから発生した磁場は、その一部が遮蔽されて、その外部へと漏れだす磁場は、
図2に示す磁場分布23aのように凹型形状の磁場分布となる。磁場分布23a及び23bそれぞれは、第1磁極面11a及び第2磁極面11bから中心軸方向Pへの距離が離れるにつれて平坦化されるが、凹型形状の磁場分布23aと、凸型形状の磁場分布23bが重畳し、磁場均一面22でその磁場均一性が最高となる。
【0068】
図3(a)は、第1磁極16aと第2磁極16bとの間の距離(磁極間距離)を50mmとしたときの、第1磁極16aからの中心軸方向Pにおける距離に対する磁束密度の分布を示す実験結果である。第1磁極16aからの距離が離れるにつれて凹型形状の磁場分布は凸型形状に変化する。凹型形状の磁場分布を有する位置から凸型形状の磁場分布となる位置までの間である、距離が11mmの位置で最良の磁場分布である493ppmが得られた。
図3(b)は、この磁場空間での測定面と測定方位とを模式的に示したものである。
図3(b)におけるz軸方向は、中心軸方向Pと同じ方向である。磁場分布は超電導バルク磁石の中心軸上の点の磁束密度を、その点からx軸方向(z軸に直交する方向)に中心点を含めて4mmの範囲で評価し、ホールセンサーによる測定値をもとに得た回帰曲線にフィッティングした値の範囲から求めた。なお、磁束密度の値は空間の3軸を自乗平均して絶対値で表わした。この結果を以下の表1に示す。
【0070】
図4は、磁極間距離を30mm、50mm及び70mmとした場合それぞれについて、中心軸方向Pにおける第1磁極16aからの距離と、その位置でのx軸方向に沿って4mmの範囲で評価した磁場の均一性との関係を示すグラフである。
図4からわかるように、磁極間距離の変化に伴って、その距離に対する磁場均一性は大きく変化するが、それぞれに1000ppmを大幅に下回る均一な領域が存在する。この均一な領域についての詳細を以下の表2に示す。磁極間距離が30mmでは第1磁極16aからの距離が9mmの位置で、最良の磁場均一性358ppmが得られている。このように、磁極の磁場強度を変化させずとも、磁極間距離を変化させることにより、第1磁極部5に近い一部の空間に磁場均一性が最良となる点を形成することができる。
【0072】
第1磁極面11aに形成される磁場の磁場分布と、第2磁極面11bに形成される磁場の磁場分布とを同じ形状となるように構成した場合には、均一磁場は、両磁極面11a及び11bの間である磁極空間の中心位置に限定されることから、測定対象となる試料の試料形状や測定部位の自由度が制限される場合がある。これに対して、本実施形態のように、第1磁極面11aに形成される磁場の磁場分布23aを凹型形状とし、第2磁極面11bに形成される磁場の磁場分布23bを凸型形状とすれば、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間の距離を変化させることにより、磁場均一面22の位置を変えることができるため、測定対象となる試料の大きさ、形状、測定部位に応じて、磁場均一面22の位置を設定することができ、測定可能な試料の自由度を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態の磁場発生装置1は、超電導バルク磁石を用いることにより装置をコンパクト化しているため、磁場発生装置1からの漏れ磁場を低減でき、他の分析装置などと同室内に設置できるなど、利用の自由度も向上する。
【0074】
このように、本実施形態の磁場発生装置1は、中心軸方向Pと直交する外表面において中心軸方向Pの磁場が中央部で最大となる磁場分布を有する超電導バルク磁石(第1超電導バルク磁石7a及び第2超電導バルク磁石7b)を包含する対向配置した一対の磁極部2(第1磁極部5及び第2磁極部6)を備える。そして、本実施形態の磁場発生装置1は、磁性体板17が、一方の磁極部(第1磁極部5)の超電導バルク磁石(第1超電導バルク磁石7a)に対して近接して配置されることにより、その一方の磁極部の磁極面(第1磁極面11a)の中央部における中心軸方向Pの磁場強度は、その直近の同心円状の周辺の中心軸方向Pの磁場強度よりも弱い構成となる。すなわち、第1磁極面11aに形成される磁場は凹型形状の磁場分布を有し、第2磁極面11bに形成される磁場は凸型形状の磁場分布を有することになる。本実施形態の磁場発生装置1では、これら略円形状の第1及び第2磁極面11a及び11bの中心軸(中心軸Oa及びOb)が一致するように対向して配置され、第1磁極面11aと第2磁極面11bとの間の距離が可変とされることにより、磁極面間の空間の一部に、中心軸方向Pに垂直な平面内に均一な磁場分布を得ることができる。
【0075】
なお、NMR及びMRIとして空間の信号蓄積を行うためには、この磁場均一面22のデータを得た後、試料をz軸方向に走査する、あるいは磁極面を移動させて空間の磁場均一面22をz軸方向に走査し、その際の信号データを蓄積して画像化することにより空間のNMR信号として取り出すことができる。
【0076】
以上のように、本実施形態では、磁場遮蔽部材としての磁性体板17により、第1超電導バルク磁石7aから発生する磁場の一部を遮蔽し、凹型形状の磁場分布を形成する方法を用いている。以下、本実施形態とは別の方法を用いて、凹型形状の磁場分布を形成する磁場発生装置について説明する。
【0077】
<実施形態2>
次に、本発明の1つの実施形態としての磁場発生装置30について説明する。
図5は、磁場発生装置30のうち一対の磁極部を抜き出して描いた概略図である。本実施形態の磁場発生装置30は、上述した実施形態1の磁場発生装置1と比較して、磁場遮蔽部材としての磁性体板17の代わりに、超電導バルク磁石から発生する磁場を減少させる磁場を発生し、磁極面において、凹型形状の磁場分布を形成する消磁コイル32を備える点で相違している。なお、その他の構成については、上述した実施形態1の磁場発生装置1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0078】
図5に示すように、本実施形態の磁場発生装置30は、第1磁極部31と第2磁極部6との間に消磁コイル32を備える。消磁コイル32は、第1磁極部31の第1超電導バルク磁石7aから発生する磁場を減少させる磁場を発生し、第1磁極部31の第1磁極面11aに形成される磁場の磁場分布を凹型形状にする。
【0079】
具体的に、本実施形態の消磁コイル32は、略円形状に巻き回されたコイルであり、このコイルの中心が、略円柱状の第1超電導バルク磁石7aの中心軸Oa及び第2超電導バルク磁石7bの中心軸Obと一致するように、第1真空容器8aの一方の底面に取り付けられている。なお、本実施形態の第1磁極面11aは、第2磁極面11bとの対向面であって、消磁コイル32の表面及び第1真空容器8aの一方の底面とにより構成される。
【0080】
この消磁コイル32に直流電流を印加して第1超電導バルク磁石7aからの磁場とは逆向きの磁場を発生させることにより、第1磁極面11aの中央部である、コイル中央部の磁場強度を、その同心円状の直近の周辺の磁場強度よりも弱くなるようにし、第1磁極面11aにおいて、凹型の磁場分布23aを形成する。なお、第1超電導バルク磁石7aは、上述した実施形態1と同様、中心軸方向Pと直交する外表面において中心軸方向Pの磁場が中央部で最大となる磁場分布を有するものである。
【0081】
第1超電導バルク磁石7aと第2超電導バルク磁石7bとの間の距離、第1超電導バルク磁石7a表面からの距離に加えて、電流の精密な調整が可能なため、均一磁場の調整が簡便に行える点で有効である。
【0082】
<実施形態3>
次に、本発明の1つの実施形態である磁場発生装置33について説明する。
図6は、磁場発生装置33のうち一対の磁極部を抜き出して描いた概略図である。本実施形態の磁場発生装置33は、上述した実施形態1の磁場発生装置1や実施形態2の磁場発生装置30と比較して、磁場遮蔽部材としての磁性体板17や消磁コイル32を備えない点で相違する。本実施形態では、第1磁極部35の第1超電導バルク磁石34aに捕捉された磁場自体が、凹型形状の磁場分布を有するものである。具体的に、本実施形態の磁場発生装置33は、磁場中冷却又はパルス着磁による着磁行程において、磁場を超電導バルク磁石の中央を不十分に着磁するように励磁することによって、超電導バルク磁石に捕捉させる磁場自体の磁場分布を凹型形状にするものである。なお、その他の構成については、上述した実施形態1の磁場発生装置1や実施形態2の磁場発生装置30と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0083】
具体的には、本実施形態の第1超電導バルク磁石34aを、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、外部から磁場を準静的に増加・減少させながら印加し、超伝導磁石への磁場侵入の過程においてその中央部まで到達しない磁場印加過程を経て、これを励磁する方法(ゼロ磁場冷却法(ZFC法))により、超電導バルク磁石34aの中央部表面の磁場強度をその同心円状の直近の周辺の磁場強度よりも弱くなるようにし、凹型形状の磁場分布を形成する。
【0084】
<実施形態4>
次に、本発明の1つの実施形態である磁場発生装置について説明する。本実施形態の磁場発生装置は、上述した実施形態3の磁場発生装置33と比較して、凹型形状の磁場分布を形成する方法が相違する。但し、本実施形態4の磁場発生装置も、上述した実施形態3の磁場発生装置33と同様、第1超電導バルク磁石に捕捉された磁場自体が、凹型形状の磁場分布を有するものである。具体的に、本実施形態では、超電導バルク磁石を、予め冷凍機冷却により超伝導状態にし、外部からパルス状の磁場を印加し、超伝導磁石への磁場侵入の過程においてその中央部まで到達しない磁場印加過程を経て、これを励磁する方法(パルス着磁法(PFM法))により、第1超電導バルク磁石の中央部表面の磁場強度をその同心円状の直近の周辺のそれよりも弱くなるようにし、凹型形状の磁場分布を形成する。なお、その他の構成については、上述した実施形態3の磁場発生装置33と同様である。
【0085】
<実施形態5>
次に、本発明の1つの実施形態である磁場発生装置37について説明する。
図7は、磁場発生装置37のうち一対の磁極部を抜き出して描いた概略図である。本実施形態の磁場発生装置37は、上述した実施形態4の磁場発生装置と比較して、第1超電導バルク磁石の形状が相違する。本実施形態では、中央に孔を区画するリング形状の超電導バルク磁石を凍機冷却により超伝導状態にし、外部からこれを励磁することにより、超電導バルク磁石の中央部表面の磁場強度をその同心円状の直近の周辺のそれよりも弱くなるようにし、凹型形状の磁場分布を形成する。具体的に、第1磁極部36の第1超電導バルク磁石38aの形状をリング形状として、その中央部の磁場を台形状に着磁するもので、リング形状の厚さ方向を薄くすることにより、磁場中冷却あるいはパルス着磁法による着磁を経て、中央部分の磁場を凹型にすることができる。
【0086】
このように、実施形態1〜5に示す磁場発生装置は、超電導状態において、第1超電導バルク磁石から発生する磁場が、第1磁極部の第1磁極面に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成するものである。静磁場を発生させるための手段として超電導バルク磁石を用いているため、小型軽量又はコンパクトな磁場発生装置とすることが可能であり、可搬型で分散設置なども可能である。
【0087】
また、実施形態1〜5に示す磁場発生装置は、第1磁極部と第2磁極部とを対向して配置し、第1磁極面と第2磁極面の間の磁場空間の範囲をコンパクトにできるため、磁場空間から磁場が漏れ難い。従って、磁場発生装置から発生する磁場が、他の装置などに及ぶことを抑制することができる。
【0088】
更に、産業上での応用範囲が拡大するにつれてその利用方法も多様化し、単に強磁場が大面積、大空間に必要とされるだけでなく、強磁場空間は小さくとも、小型軽量で可搬型、設置場所を選ばず、簡便な設置作業や維持管理で使え、コンパクトに構成され、他の計測装置、分析装置、診断装置と組み合わせての利用が可能などの市場要求が考えられる。本発明に係る磁場発生装置は、他の計測装置、分析装置、診断装置との組み合わせが容易であるため、従来にない新たな利用方法や利用分野を実現し得るものである。
【0089】
また更に、本発明としての磁場発生装置は、様々な具体的構成により実現することが可能であり、上述した実施形態で示した構成に限られるものではない。例えば、実施形態1〜5に示す磁場発生装置は、第1磁極面に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成し、第1磁極面と対向する第2磁極面に、凸型形状の磁場分布を有する磁場を形成するものであるが、例えば、第2磁極面に、第1磁極面と同様、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成するようにしてもよい。同一の磁場強度である2つの凹型形状の磁場分布を対向させて構成しても、その第1磁極面と第2磁極面との間の中間位置に磁場の均一性に優れる空間を形成することができる。すなわち、対向する2つの磁極面の少なくとも一方に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成するように構成すれば、磁場発生装置の磁場均一面の形成位置を、中間位置とすることも、実施形態1〜5に示したように中間位置からずれた位置とすることも可能となるため、磁場発生装置の設計自由度を向上させることができる。
【0090】
また、強磁場を発生する超電導バルク磁石は、その表面で凹型形状の磁場分布であっても、その表面からの距離の増加によって次第に凸型形状の磁場分布へと、その強度を減衰させながら変化する。従って、上述した実施形態1〜5に示す磁場発生装置のように対向する一対の磁極部とはせずに、単一の磁極部とし、この単一の磁極部の磁極面に、凹型形状の磁場分布を有する磁場を形成する構成として、磁極面から所定距離だけ離れた位置に磁場均一面を形成するようにしてもよい。