特許第6369869号(P6369869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369869
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】光輝性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20180730BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180730BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20180730BHJP
   C09D 5/29 20060101ALI20180730BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20180730BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20180730BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20180730BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D7/61
   C09D7/62
   C09D5/29
   B05D1/36 Z
   B05D5/06 101A
   C09C1/40
   C09C3/06
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-97532(P2015-97532)
(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公開番号】特開2016-138231(P2016-138231A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2015-12037(P2015-12037)
(32)【優先日】2015年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 美保
(72)【発明者】
【氏名】中川 朋幸
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−232285(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0010772(US,A1)
【文献】 特開2011−137185(JP,A)
【文献】 特開2014−218425(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0216597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 5/00−7/80
C09D 101/00−201/10
B05D
C09C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビヒクル形成樹脂(A)、アルミナフレーク顔料(B)、黒色顔料(C)を含む光輝性塗料組成物であって、
アルミナフレーク顔料(B)が、
平均粒子径が15〜25μmであり、
黒色であり、
アルミナフレーク基材に金属酸化物が被覆されており、
金属酸化物の少なくとも一部にチタン酸鉄(FeTiO)を含むアルミナフレーク顔料であり、
該光輝性塗料組成物を硬化塗膜として15μmとなるように塗装して得られた塗膜の
L*a*b*表色系におけるL*25値が3〜25の範囲内であり、
L*a*b*表色系におけるb*25値が−8〜5の範囲内であり、
フリップフロップ値(FF値)が5〜25の範囲内である
ことを特徴とする光輝性塗料組成物。
【請求項2】
アルミナフレーク顔料(B)の配合量が、ビヒクル形成樹脂(A)固形分100質量部を基準として2〜17質量部である請求項1に記載の光輝性塗料組成物。
【請求項3】
黒色顔料(C)の配合量が、ビヒクル形成樹脂(A)固形分100質量部を基準として1〜5質量部である請求項1又は2に記載の光輝性塗料組成物。
【請求項4】
アルミナフレーク顔料(B)及び黒色顔料(C)の配合比率が、固形分質量比として0.85/1〜8/1である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光輝性塗料組成物。
【請求項5】
黒色顔料(C)がカーボンブラックである請求項1〜4のいずれか1項に記載の光輝性塗料組成物。
【請求項6】
基材面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の光輝性塗料組成物を塗装し、光輝性塗膜を形成した後、その上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する複層塗膜形成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の複層塗膜形成方法によって得られる塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップフロップ性、粒子感及び漆黒性の高いメタリック塗膜が形成できる光輝性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の工業製品の外装色において、黒色は高級感が醸し出されるとして人気の高い色である。また、観察角度によって色の見え方が変化する塗色、すなわち、ハイライト(塗板に対して垂直に近い状態で見たとき)は高明度であり、ハイライトからシェード(塗板に対して斜め上から見たとき)への色変化が大きいメタリック塗色は、工業製品の形状を際立たせる効果があるとして需要が多い。なかでも近年はフリップフロップ性があって粒子感のある黒光りした塗色が注目されている。
【0003】
特許文献1には金属酸化物被覆アルミナフレ−ク顔料(A1)または金属酸化物被覆マイカ顔料(A2)から選ばれる光輝性顔料(A)、カ−ボンブラック顔料(B)、繊維素系樹脂(C)、および繊維素系樹脂以外の樹脂(D)を含有する塗料組成物であって、I.(A)/(B)=20/80〜80/20(重量比)II.(C)/(D)=20/80〜80/20(重量比)III.{(A)+(B)}/{(C)+(D)}=20/100〜100/100(重量比)の条件を満たす光輝性塗料組成物が開示されている。しかしながら、上記光輝性塗料組成物によって得られる塗膜は漆黒性に欠ける場合がある。また、当該発明は粒子感が目立たない光輝感を特徴としたものである。
【0004】
特許文献2には樹脂成分及び着色成分を含むメタリック塗料組成物であって、着色成分として、透明な鱗片状基材が酸化チタン及び/又は酸化チタンを還元した低次酸化チタンで被覆された低明度光輝性顔料を2種類含み、前記低明度光輝性顔料の一方が青色を呈し且つ他方が黒色を呈することを特徴とするメタリック塗料組成物が開示されている。しかしながら、上記メタリック塗料組成物が主に狙いとする色はダークグレーであり、得られた塗膜が漆黒性に欠ける場合がある。また、当該発明は緻密感に優れている点を特徴としたものである。
【0005】
特許文献3には一次粒子径が5nm以上500nm以下の黒色複合金属酸化物顔料及び半透明な基材を金属酸化物で被覆した光干渉性顔料を含む塗料組成物が開示されている。しかしながら、上記塗料組成物によって得られる塗膜は漆黒性が高いが、ハイライトからシェードにかけての明度変化は緩やかであり、さらに緻密感を特徴としており、本発明の目指す粒子感には乏しい。
【0006】
粒子感のある低明度の塗膜を得る方法として特許文献4には基材上に黒色顔料を含んでなるベースコート塗料(A)を塗装して得られたL*a*b*表色系におけるL*が30以下であって且つ基材を隠蔽する塗膜上に、表面が金属又は金属酸化物で被覆されたガラスフレーク顔料を塗料中のビヒクル固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部含んでなる粒子感を発現するベースコート塗料(B)を塗装することを特徴とする複層塗膜形成方法が開示されている。しかしながらガラスフレーク顔料自体の厚みが厚く、配合量に対する粒子感が不足する事態が発生する。
【0007】
また、黒色系光輝材の発明として次のようなものがある。
【0008】
特許文献5には、0.1〜8.0μmの平均厚さ、1〜800μm の平均粒径および3〜500のアスペクト比を有する薄片基材の表面が四三酸化鉄および/または低次酸化チタンの薄膜で被覆されてなる黒色系光輝顔料が開示されている。しかしながら当該顔料を塗料に使用した場合、四三酸化鉄の持つ磁性が塗膜中における光輝顔料の配向に影響し、フリップフロップ性に劣る場合があった。また、低次酸化チタンが酸化チタンの表面の輝度感を落とすので、得られる塗膜の粒子感が劣る場合があった。さらに、薄片基材がガラス基材である場合、ガラスフレーク顔料自体の厚みが厚く、配合量に対する粒子感が劣る場合があった。
【0009】
特許文献6には少なくとも85のアスペクト比を示すフレーク状酸化アルミニウム基材粒子と、ヘマタイト及び/又は針鉄鉱で構成される第1の層及びマグネタイトで構成される第2の層からこの順に成り基材上にある層状構造を含むコーティングとを含む、ブリリアントブラック顔料が開示されている。しかしながら、マグネタイトの持つ磁性が塗膜中における光輝顔料の配向に影響し、フリップフロップ性に劣る場合があった。
【0010】
特許文献7には薄板状粉体表面に低次酸化チタンが被覆された黒色真珠光沢粉体であって、前記低次酸化チタンは実質的に窒素を含まず、且つTiOX(X=1.56〜1.75)であることを特徴とする黒色真珠光沢粉体が開示されている。しかしながら、低次酸化チタンが酸化チタンの表面の輝度感を落とすので、得られる塗膜の粒子感が劣る場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−119417号公報
【特許文献2】特開2007−23064号公報
【特許文献3】特開2014−98056号公報
【特許文献4】特開2008−132436号公報
【特許文献5】WO2005/028566号公報
【特許文献6】特表2014−503626号公報
【特許文献7】特開2008−120914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、粒子感、フリップフロップ性、漆黒性のいずれにも優れた塗膜が形成できる光輝性塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明は、ビヒクル形成樹脂(A)、アルミナフレーク顔料(B)、黒色顔料(C)を含む光輝性塗料組成物であって、
アルミナフレーク顔料(B)が、
平均粒子径が15〜25μmであり、
黒色であり、
アルミナフレーク基材に金属酸化物が被覆されており、
金属酸化物の少なくとも一部にチタン酸鉄(FeTiO)を含むアルミナフレーク顔料であり、
該光輝性塗料組成物を硬化塗膜として15μmとなるように塗装して得られた塗膜の
L*a*b*表色系におけるL*25値が3〜25の範囲内であり、
L*a*b*表色系におけるb*25値が−8〜5の範囲内であり、
フリップフロップ値(FF値)が5〜25の範囲内である
ことを特徴とする光輝性塗料組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光輝性塗料組成物によれば、粒子感、フリップフロップ性、漆黒性のいずれにも優れた塗膜が形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の光輝性塗料組成物は、ビヒクル形成樹脂(A)、特定のアルミナフレーク顔料(B)、黒色顔料(C)を含む塗料組成物であって、該塗料組成物を硬化塗膜として15μmとなるように塗装して得られた塗膜のL*a*b*表色系におけるL*25値が3〜25、好ましくは5〜23、さらに好ましくは6〜20の範囲内であり、b*25値が−8〜5、好ましくは−6〜5、さらに好ましくは−5〜4の範囲内であり、フリップフロップ値(FF値)が5〜25、好ましくは6〜22、さらに好ましくは7〜20の範囲内であることを特徴とする。
【0016】
ここで、L*a*b*表色系とは、1976年に国際照明委員会で規定され、JIS Z 8729にも採用されている表色系であり、L*は明度を表わす数値である。
【0017】
L*25値とは、ハイライトの明度を指し、多角度分光光度計(「CM−512m3」、商品名、コニカミノルタ社製)を使用して、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に25°の角度で受光した光について測定したL*値である。L*25値が小さいほど、得られた塗膜の明度が低く、漆黒性に優れることを意味する。
【0018】
さらに、本発明の光輝性塗料組成物によって得られた塗膜は、黄味や青味を帯びていない点でも漆黒性に優れている。塗膜の黄味や青味は、多角度分光光度計(商品名「CM−512m3」)で測定したL*a*b*表色系におけるb*値によって表される。b*値が0に近いほど、黄味や青味が少なく、得られた塗膜が漆黒性に優れることを意味する。
【0019】
b*25値は多角度分光光度計(商品名「CM−512m3」)を使用して、JIS Z 8729(2004)の方法に則って測定した、受光角25度のb値である。具体的には、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に25°の角度で受光した光について測定したb*値である。
【0020】
また、フリップフロップ値(以下、FF値と略記することがある)とは、観察角度(受光角度)が変化した時の反射光強度の変化度合をいう。
FF値は、多角度分光測色計(商品名「CM−512m3」)を使用して、受光角25度及び受光角75度のL値(明度)を測定し、下記の式によって算出される。
FF値=受光角25度のL値−受光角75度のL値。
FF値が大きいほど、観察角度(受光角)によるL値(明度)の変化が大きく、フリップフロップ性に優れていることを示す。
【0021】
本発明において、「フリップフロップ性に優れる」とは、メタリック塗膜を目視したとき、正面方向(塗面に対して直角)からは、高明度で、かつキラキラとして光輝感にすぐれて見え、一方、斜め方向からは光輝感は少なく色相がはっきりと見え、両者の明度差が大きいことを意味している。つまり、フリップフロップ性に優れる塗膜とは見る角度によってメタリック感が顕著に変化する塗膜である。
【0022】
さらに、本発明の光輝性塗料組成物によって得られた塗膜のシェードの黄味や青味、すなわちb*75値は−5〜3、好ましくは−3〜2、さらに好ましくは−2〜1の範囲内であることが好適である。
【0023】
b*75値は多角度分光光度計(商品名「CM−512m3」)を使用して、JIS Z 8729(2004)の方法に則って測定した、受光角75度のb値である。具体的には、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に75°の角度で受光した光について測定したb*値である。
【0024】
粒子感は、Hi−light Graininess値(以下、「HG値」と略記する)によって表される。HG値は、塗膜面を微視的に観察した場合におけるミクロ光輝感の尺度の一つであり、ハイライトにおける粒子感を表す指標である。HG値は、次のようにして、算出される。先ず、塗膜面を、光の入射角15度/受光角0度にてCCDカメラで撮影し、得られたデジタル画像データ(2次元の輝度分布データ)を2次元フーリエ変換処理して、パワースペクトル画像を得る。次に、このパワースペクトル画像から、粒子感に対応する空間周波数領域のみを抽出して得られた計測パラメータを、更に0〜100の数値を取り、且つ粒子感との間に直線的な関係が保たれるように変換した値が、HG値である。HG値は、光輝性顔料の粒子感が全くないものを0とし、光輝性顔料の粒子感が最も大きいものを100とした値である。
【0025】
本発明の光輝性塗料組成物によって得られた塗膜の粒子感(HG値)は、30〜80、好ましくは35〜75、さらに好ましくは40〜70であることが好適である。
【0026】
また、本発明の光輝性塗料組成物によって得られた塗膜はシェードにおいて彩度が低い点で漆黒性に優れる。
【0027】
ビヒクル形成樹脂(A)
本発明の光輝性塗料組成物は、水性塗料、溶剤系塗料のいずれであってもよいが、水性塗料であることが望ましい。発明の光輝性塗料組成物に使用されるビヒクル形成樹脂(A)としては、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂であってもよいが熱硬化性樹脂であることが望ましい。ビヒクル形成樹脂(A)としては基体樹脂と架橋剤を併用していることが好ましい。基体樹脂としては例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂等が使用でき、これらは単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。基体樹脂は水酸基などの架橋性官能基を有することが好ましい。
【0028】
架橋剤としては例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、ヒドラジド基含有化合物、セミカルバジド基含有化合物などが挙げられる。これらのうち、水酸基と反応し得るアミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物及びブロック化ポリイソシアネート化合物、カルボキシル基と反応し得るカルボジイミド基含有化合物が好ましい。上記架橋剤は、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
架橋剤は、ビヒクル形成樹脂(A)固形分100質量部を基準として固形分で5〜50質量部、好ましくは10〜40質量部の範囲内で使用されることが望ましい。
【0030】
ビヒクル形成樹脂(A)は有機溶剤及び/又は水などの溶媒に溶解または分散させて使用することができる。
【0031】
アルミナフレーク顔料(B)
本発明の光輝性塗料組成物において使用されるアルミナフレーク顔料(B)は、平均粒子径が15〜25μm、好ましくは17〜23μm、さらに好ましくは18〜22μmである。ここで平均粒子径とは、アルミナフレーク顔料(B)の一次粒子の、レーザー回折式粒度分布測定における、体積平均粒子径D50をさす。
【0032】
本発明の光輝性塗料組成物において使用されるアルミナフレーク顔料(B)は、黒色である。本明細書においてアルミナフレーク顔料(a)が黒色であるとは、ビヒクル形成樹脂固形分100質量部を基準として、顔料としてアルミナフレーク顔料(a)のみを15質量部含有する塗料を、L*値が20である鋼板上に15μmになるように塗装して得られた塗膜のL*75値が25以下であることをいう。
【0033】
L*75値とは、シェードの明度を指し、多角度分光光度計(「CM−512m3」、商品名、コニカミノルタ社製)を使用して、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に75°の角度で受光した光について測定したL*値である。L*75値が低いほど塗膜のシェードが暗く漆黒性に優れることを意味する。
【0034】
アルミナフレーク顔料(B)はアルミナフレーク基材に少なくとも1層の金属酸化物が被覆され、該金属酸化物の少なくとも一部にチタン酸鉄(FeTiO)を含む。
【0035】
また、アルミナフレークを被覆する金属酸化物の種類は2種以上であることが好ましい。チタン酸鉄(FeTiO)以外の金属酸化物は、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、銅、錫、クロム、ジルコニウム等から任意に選ばれる1または2種類以上の金属を含む金属酸化物であることが好ましい。
【0036】
アルミナフレーク基材に少なくともチタン酸鉄を含む金属酸化物を被覆する方法としては既知の方法を特に制限なく用いることができる。例えばチタン酸鉄を含む金属酸化物を被覆することもできるし、予め少なくとも1層の金属酸化物を被覆したアルミナフレークを還元することによってチタン酸鉄を含む金属酸化物とすることもできる。得られる塗膜の漆黒性の観点からは金属酸化物層は2層以上であることが好ましい。アルミナフレーク基材は、金属酸化物以外の層が被覆されていてもよい。また、上記アルミナフレーク顔料(B)は表面処理が施されていてもよい。
【0037】
本発明の光輝性塗料組成物では、前記ビヒクル形成樹脂(A)100質量部(固形分)を基準として上記アルミナフレーク顔料(B)を2〜17質量部、好ましくは4〜15質量部、さらに好ましくは5〜13質量部含有することができる。
【0038】
黒色顔料(C)
本発明の光輝性塗料組成物において使用される黒色顔料(C)は、上記(B)成分以外の黒色顔料である。該黒色顔料(C)はインク用、塗料用及びプラスチック着色用として従来公知の顔料を1種あるいは2種以上を組み合わせて含有することができる。例えば、複合金属酸化物顔料、黒色酸化鉄顔料、黒色酸化チタン顔料、ペリレンブラック顔料、カーボンブラック顔料等を挙げることができるが、複層塗膜の色調の点から、カーボンブラック顔料が好ましい。中でも一次粒子径が、3〜20nmのカーボンブラック顔料が特に好ましく、より好ましくは5〜15nmのものである。具体的には、Monarch1300(商品名、CABOT社製、一次粒子径:13nm)、Raven5000(商品名、コロンビアカーボン社製、一次粒子径:11nm)等の市販品が挙げられるが、特に限定されるものではなく、求める色調に応じて1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
本発明の光輝性塗料組成物では、前記ビヒクル形成樹脂(A)100質量部(固形分)を基準として上記黒色顔料(C)を1〜5質量部、好ましくは2〜4質量部含有することができる。
【0040】
本発明の光輝性塗料組成物において、アルミナフレーク顔料(B)及び黒色顔料(C)の配合比率は、固形分質量比として0.85/1〜8/1、好ましくは1/1〜7/1、さらに好ましくは1.5/1〜6/1であることが好適である。
【0041】
本発明の光輝性塗料組成物は、さらに(B)成分以外の鱗片状光輝性顔料を含有することができる。その他の鱗片状光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着させた鱗片状金属顔料、表面に酸化還元反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料、アルミニウム固溶板状酸化鉄顔料、ガラスフレーク顔料、表面を金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたガラスフレーク顔料、表面を金属で被覆したガラスフレーク顔料、表面を二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたり、表面を酸化鉄で被覆したりした着色マイカ顔料、アルミナフレーク顔料(B)以外のアルミナフレーク顔料、表面を二酸化チタンで被覆したグラファイト顔料、表面を二酸化チタンで被覆したシリカフレーク顔料などの二酸化チタン被覆鱗片状顔料、板状酸化鉄顔料、ホログラム顔料、合成マイカ顔料、らせん構造を持つコレステリック液晶ポリマー顔料、オキシ塩化ビスマス顔料などが挙げられる。
【0042】
上記その他の鱗片状光輝性顔料を使用する場合、その配合量は、前記ビヒクル形成樹脂(A)100質量部(固形分)に対して0.1〜15質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量部の範囲内が適当である。
【0043】
本発明の光輝性塗料組成物は、漆黒性を損なわない程度にさらに(C)成分以外の着色顔料を含有することができる。
【0044】
着色顔料としては例えば、黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー、パーマネントイエロー等の黄色顔料;パーマネントオレンジ等の橙色顔料;赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、ペリレンマルーン、キナクリドンレッド、ジケトピロロピロールレッド、パーマネントレッド等の赤色顔料;コバルトバイオレット、キナクリドンバイオレット、ジオキサジンバイオレット等の紫色顔料;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、スレンブルーなどの青色顔料;フタロシアニングリーンなどの緑色顔料;酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛等の白色顔料等を挙げることができる。上記着色顔料は、単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
上記着色顔料を使用する場合、その配合量は、塗装して得られる塗膜の隠蔽性や、明度・色相の点から、前記ビヒクル形成樹脂(A)100質量部(固形分)に対し0.01〜15質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量部の範囲内が適当である。
【0046】
本発明の光輝性塗料組成物は、さらに必要に応じて、増粘剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等の各種塗料用添加剤を含有することができる。
【0047】
本発明の塗料組成物は、前述の成分を混合分散せしめることによって調製される。塗装時の固形分含有率を、塗料組成物に基づいて、5〜60質量%、好ましくは15〜50質量%に調整しておくことが好ましい。
【0048】
本発明では、基材面に上述の光輝性塗料組成物を塗装し、光輝性塗膜を形成した後、その上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成することができる。
【0049】
基材としては、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の金属やこれらを含む合金、及びこれらの金属によるメッキまたは蒸着が施された成型物、ならびに、ガラス、プラスチックや発泡体などによる成型物等を挙げることができる。これら素材に応じて適宜、脱脂処理や表面処理して基材とすることができる。特に金属素材そのものや、金属によるメッキや蒸着が施された各種素材及びこれら素材に脱脂処理や表面処理を行ったものを基材とすることが好ましい。
【0050】
また上記素材等に下塗り塗膜や中塗り塗膜を形成させて基材とすることができる。下塗り塗膜は、素材表面を隠蔽したり、素材に防食性及び防錆性などを付与したりするために形成されるものであり、下塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。この下塗り塗料種としては特に限定されるものではなく、例えば、電着塗料、プライマー等を挙げることができる。中塗り塗膜は、素材表面や下塗り塗膜を隠蔽したり、付着性や耐チッピング性などを付与したりするために形成されるものであり、素材表面や下塗り塗膜上に、中塗り塗料を塗装し、乾燥、硬化することによって得ることができる。中塗り塗料種は、特に限定されるものではなく、既知のものを使用でき、例えば、熱硬化性樹脂組成物及び顔料を必須成分とする有機溶剤系又は水系の中塗り塗料を使用できる。漆黒性に優れた塗膜を得る観点から、中塗り塗膜のL値が70以下、好ましくは5〜65であることが好適である。
【0051】
上記基材面に本発明の光輝性塗料組成物が塗装される。該光輝性塗料組成物は静電塗装、エアースプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は、塗膜の平滑性、光輝感の点から、硬化塗膜に基づいて5〜40μmの範囲内とするのが好ましい。通常、所定の膜厚となるように塗装した後に、加熱し、乾燥硬化せしめることができるが、未硬化の状態で後述するクリヤー塗料を塗装することができる。本発明の光輝性塗料組成物の塗膜それ自体は、焼き付け乾燥型の場合、通常、約50〜約180℃の温度で架橋硬化させることができ、常温乾燥型又は強制乾燥型の場合には、通常、常温乾燥〜約80℃の温度で硬化させることができる。
【0052】
クリヤー塗料は、例えば、架橋性官能基を有する基体樹脂及び硬化剤を含有する有機溶剤型熱硬化性塗料組成物、水性熱硬化性塗料組成物、粉体熱硬化性塗料組成物等を挙げることができる。
【0053】
上記基体樹脂が有する架橋性官能基としては、例えば、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、シラノール基等を挙げることができる。基体樹脂の種類としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などを挙げることができる。硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ブロック化ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、カルボキシル基含有化合物、カルボキシル基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、エポキシ基含有化合物などを挙げることができる。
【0054】
また、上記クリヤー塗料には、必要に応じて、透明性を阻害しない程度に着色顔料、光輝性顔料、染料、つや消し剤等を含有させることができ、さらに体質顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、表面調整剤等を適宜含有せしめることができる。
【0055】
クリヤー塗料は、静電塗装、エアスプレー、エアレススプレーなどの方法で塗装することができ、その膜厚は硬化塗膜に基づいて20〜40μmの範囲内が適当である。
【0056】
上記クリヤー塗料が焼き付け乾燥型の場合、該クリヤー塗料を塗装後、得られた塗膜は加熱硬化される。加熱手段は、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等が挙げられる。加熱温度は、60〜140℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。また加熱時間は、10〜60分間が好ましく、15〜40分間がより好ましい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0058】
実施例1〜11、比較例1〜8
水酸基含有アクリル樹脂(水酸基価100、数平均分子量20000)75部及びメラミン樹脂25部からなるビヒクル形成樹脂組成物100質量部あたり、光輝材及び必要に応じて着色顔料を固形分として表1に示す比率で配合して攪拌混合し、適宜、有機溶剤を用いて粘度を調整し、光輝性塗料組成物を作成した。
【0059】
表1に記載の顔料の詳細は以下の通りである。
【0060】
Xirallic M60−60WNT:商品名、メルク社製、アルミナフレーク基材の表面に少なくとも1層のチタン酸鉄(FeTiO)を含む金属酸化物が被覆された光輝性顔料。黒色。体積平均粒子径D50が20μm。
【0061】
Iriodin 602WNT:商品名、メルク社製、天然雲母基材の表面に少なくとも1層のチタン酸鉄(FeTiO)を含む金属酸化物が被覆された光輝性顔料。黒色。体積平均粒子径D50が21μm
Infinite BP15−SO:商品名、資生堂社製、天然マイカ基材の表面に少なくとも1層の低次酸化チタンを含む金属酸化物が被覆された光輝性顔料。該金属酸化物層はチタン酸鉄を含まない。黒色。体積平均粒子径D50が17μm
Xirallic T60−10WNT Crystal Silver:商品名、メルク社製、アルミナフレーク基材の顔料に少なくとも1層の二酸化チタンを含む金属酸化物が被覆された光輝性顔料。該金属酸化物層はチタン酸鉄を含まない。銀色。体積平均粒子径D50が19μm
Xirallic T60−23WNT Galaxy Blue:商品名、メルク社製、アルミナフレーク基材の顔料に少なくとも1層の二酸化チタンを含む金属酸化物が被覆された光輝性顔料。該金属酸化物層はチタン酸鉄を含まない。青色。体積平均粒子径D50が19μm
アルミGX40A:商品名、旭化成メタルズ社製、鱗片状アルミニウム顔料
Raven5000:商品名、BIRLA CARBON社製、カーボンブラック
CYANINE BLUE G−314:商品名、山陽色素社製、青色顔料
Ultra Opaque Red 4013AOX:商品名、BASF社製、赤色顔料。
【0062】
塗膜評価
(1)被塗物の作製
脱脂及びりん酸亜鉛処理した鋼板(JISG3141、大きさ400mm×300mm×0.8mm)にカチオン電着塗料「エレクロンGT−10」(商品名:関西ペイント株式会社製、エポキシ樹脂ポリアミン系カチオン樹脂に硬化剤としてブロックポリイソシアネート化合物を使用したもの)を硬化塗膜に基づいて膜厚が20μmになるように電着塗装し、170℃で20分加熱して架橋硬化させ、電着塗膜を形成せしめた。
得られた上記鋼板の電着塗面に、中塗り塗料「TP−65グレー」(商品名:関西ペイント株式会社製、ポリエステル樹脂・メラミン樹脂系、有機溶剤型、L*値60)をエアスプレーにて硬化塗膜に基づいて膜厚が30μmになるように塗装し、140℃で30分加熱して架橋硬化させ、中塗り塗膜を形成せしめることにより得られた中塗り塗板を被塗物とした。
【0063】
(2)試験板の作製
上記(1)で作製した被塗物上に、実施例1〜11、比較例1〜8の光輝性塗料をミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として15μmとなるように塗装した。つづいて、20℃にて5分間放置した。ついで、その未硬化塗膜上に、クリヤー塗料「マジクロンKINO−1210」(関西ペイント製、商品名、アクリル樹脂系溶剤型)を、ミニベル型回転式静電塗装機を用いて、ブース温度20℃、湿度75%の条件で、硬化塗膜として35μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼き付け乾燥させ、試験板を得た。
【0064】
(3)塗膜の評価
上記(2)で得られた試験板を各評価試験に供した。
上記で得られた試験板について、それぞれ多角度分光光度計(「CM−512m3」商品名、コニカミノルタ社製)にて測色して各測色値、具体的には、ハイライトのL値(L*25値)、FF(フリップフロップ)値、ハイライトのb値(b*25値)、を得た。HG値は、前述のようにして得た。表1にその結果を示す。
【0065】
目視
各試験板に対して斜め上から見たとき(シェード領域)の塗膜の色を観察した。評価は、色彩開発に3年以上従事するデザイナー2名と技術者3名の計5名が行なった。
○:塗色が黒くすっきりしていて濁りがない。
△:塗色に膜がかかったような若干の白濁が見え、黒さが弱い。
×:塗色が白っぽく濁って見え、黒さがない。
【0066】
白黒隠蔽膜厚
JIS K 5600−4−1(2004)に定められた、100mm×200mm以上の大きさであって隣接して白部と黒部が印刷され且つワニスが塗布されていて、溶剤又は水で希釈された塗料で容易にぬれるが浸透しない隠蔽率試験紙の上に、光輝性塗料組成物を塗装し、140℃30分間乾燥硬化させた。白地上と黒地上の色差ΔE*が2.5以下となる最小の硬化膜厚を白黒隠蔽膜厚と定義した。白黒隠蔽膜厚の値が小さいほど、漆黒性に優れることを意味する。40μm未満が合格である。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】