(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
空調システムの中には、省エネルギーの効果を高めるために、排気熱を回収するようにしているものがある。
【0003】
また、例えば、動物の飼育施設のような臭気が生じる室の空調システムでは、アンモニア、臭素、硫化水素のような水溶性の大きいガス状成分(臭気成分)が残留した給気を室へ供給しないように、全外気方式が採用されている。また、省エネルギーを目的として熱交換を行う場合においては、還気に含まれる臭気成分が給気に移行しないように、潜熱交換を行わない顕熱交換器や、水を循環させる特殊全熱交換器が使用されている。しかしながら、顕熱交換器や特殊全熱交換器は、一般的な全熱交換器に比べて全熱交換率が低い。具体的には、一般的な全熱交換器の全熱交換率が約60〜70%であるのに対して、顕熱交換器の全熱交換率は約20〜30%であり、特殊全熱交換器の全熱交換率は約40〜50%である。
【0004】
図4は、従来の顕熱交換器、または、特殊全熱交換器を使用した空調システム200を示している。空調システム200は、臭気成分を含む室内還り空気RAを中性能フィルタ201を介して取り込み、顕熱交換器や特殊全熱交換器202によって空調処理して、送風機203から排気EAとして屋外に排出する。また、空調システム200は、外気供給側の外気OAをプレフィルタ204と中性能フィルタ205を介して取り込み、顕熱交換器や特殊全熱交換器202によって空調処理する。そして、冷却コイル206と、加熱再熱兼用コイル207と、蒸気加湿208を介して、送風機209から調整外気SOAとして室内へ供給するものである。
【0005】
対象となる施設内に供給する外気の清浄化処理や、特殊施設から発生する排ガスの清浄化処理に利用されるガス不純物の除去装置に関する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、ノズルから噴霧させる液体粒子の平均粒径を、10μm〜100μmに設定すると共に、下流側に吸水性の素材からなるエリミネータを設置するものである。また、散水下で熱交換する気体間での汚染を確実に防止する熱交換装置に関する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、還気と外気とが直接接触した状態で熱交換を行うものではない。また、特許文献2に記載の技術は、全熱交換器を使用するものではなく、第1気体、第2気体に、タンクからの供給水を散水するものであった。このため、全熱交換器を使用する空調システムで、還気に含まれる臭気成分が調整外気に残ることを防止するシステムが望まれている。
【0008】
そこで、この発明は、前記の課題を解決し、全熱交換器を使用し、還気に含まれる臭気成分が外気側に移行し、調整外気に残留することを防止す
る動物の飼育施設を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、
臭気成分を生じる室と、臭気成分を含む室内還気と外気との間で全熱交換する
、空対空回転式全熱交換器と、前記全熱交換器の下流側で供給外気の供給側に配設された加熱コイルと、前記加熱コイルの下流側に配設された冷却コイルと、前記冷却コイルの下流側に配設された加熱再熱兼用コイルと、前記外気に
水を噴霧するためのエアワッシャ
であって、前記外気の取り込み側で、前記加熱コイルの下流側で前記冷却コイルの上流側に配設されて
おり、前記外気を加湿または冷却するとともに、前記外気に含まれる水溶性の臭気成分を除去する、エアワッシャと、
前記加熱再熱兼用コイルの下流側に設置され、非水溶性の臭気成分を除去するためのケミカルフィルタまたは活性炭フィルタから成るフィルタと、を備えることを特徴とする
動物の飼育施設である。
【0010】
この発明によれば、
空対空回転式全熱交換器において、還気と外気との間で全熱交換される。また、全熱交換後の外気は、エアワッシャによって臭気成分が除去される。
【発明の効果】
【0014】
請求項
1に記載の発明によれば、一般的な
空対空回転式全熱交換器を使用するため、顕熱交換器や特殊全熱交換器を使用する場合に比べて全熱交換率が高くなる。
【0015】
また、エアワッシャによって、全熱交換器において還気と外気との間で全熱交換した際に、
外気を加湿または冷却するとともに、還気から外気に移行した
水溶性の臭気成分を除去することができる。
【0017】
さらに、エアワッシャによるミストの残余は、フィルタによって除去されるので、より確実に、調整外気に残留する
非水溶性の臭気成分を除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の実施の形態を示している。全熱交換器システム1は、例えば、動物の飼育施設のような臭気成分が生じる室の空調のために使用されるものである。ここで、臭気成分とは、例えば、アンモニア、臭素、硫化水素のような水溶性の大きいガス状成分とする。
【0020】
全熱交換器システム1は、臭気成分を含む室内還り空気RAを中性能フィルタ11を介して取り込み、全熱交換器10によって全熱交換し空調処理して、送風機12から排気EAとして屋外に排出する。また、全熱交換器システム1は、外気供給側の外気OAをプレフィルタ21と中性能フィルタ22を介して取り込み、全熱交換器10によって全熱交換して空調処理する。そして、加熱コイル23と、エアワッシャ24と、冷却コイル25と、加熱再熱兼用コイル26を介して、送風機27から調整外気SOAとして室内へ供給する。なお、対象室は、工場などの建屋内にあり、別途空調機で温度調整されていてもよい。
【0021】
ここで、室内還り空気RAは、室内の汚れや臭気成分を含み、夏期は外気よりも低温、低湿であり、冬期は外気よりも高温、高湿である。排気EAは、全熱交換器10によって熱交換された排気である。外気OAは、夏期は高温、高湿であり、冬期は低温、低湿である。調整外気SOAは、全熱交換器10によって熱交換された外気であり、夏期は外気よりも低温、低湿であり、冬期は外気よりも高温、高湿である。
【0022】
中性能フィルタ11は、全熱交換器システム1に取り込む室内還り空気RAから、塵埃を除去するためのものであり、約3〜10μmの粒子に対して中程度の粒子捕集率を有するエアフィルタである。
【0023】
全熱交換器10は、室内還り空気RAの流路である中性能フィルタ11の下流側、かつ、外気OAの流路であるプレフィルタ21と中性能フィルタ22の下流側に配設されており、室内還り空気RAと外気OAとの間で全熱(顕熱と潜熱)を同時に交換するものである。全熱交換器10は、換気によって失われる空調エネルギーから、顕熱と同時に潜熱を交換回収できるので、高い省エネルギー効果が得られるものである。全熱交換器10は、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(いわゆる、ビル管理法)を含む衛生上の観点から、換気のために排気される室内空気を一方の熱媒とするものである。全熱交換器10は、具体的には、冬期(暖房時)は、温かく加湿済みの室内還り空気RAに含まれる全熱を熱回収して蓄熱し、冷却減湿された排気EAを屋外に排気する。また、全熱交換器10は、取り込んだ外気OAを全熱交換して、予熱加湿された調整外気SOAを室内供給側の加熱コイル23へ送出する。また、全熱交換器10は、夏期(冷房時)は、冷たく除湿済みの室内還り空気RAを全熱交換して排気し、予冷減湿した外気OAを室内供給側の加熱コイル23へ送出する。この全熱交換器10においては、潜熱(湿度)を交換するため、室内還り空気RAの臭気成分が外気OAに移行する。この全熱交換器10は、回転式、静止式のいずれの方式でも採用することができる。本発明では、エアワッシャ24を配設しており臭気成分を十分に除去することができるため、臭気の移行を懸念せずに効率の高い回転式を選択することができる。
【0024】
送風機12は、温度と湿度を調整した排気EAを、屋外に吐き出すものである。
【0025】
プレフィルタ21は、外気供給側に配設されており、全熱交換器システム1に取り込む外気OAから、約5μmより大きい粒子(粗じん)を除去するためのエアフィルタである。
【0026】
中性能フィルタ22は、プレフィルタ21の下流側に配設されており、全熱交換器システム1に取り込む外気OAから、塵埃を除去するためのものであり、約3〜10μmの粒子に対して中程度の粒子捕集率を有するエアフィルタである。
【0027】
加熱コイル23は、全熱交換器10の下流側で供給外気の流路側に配設されており、全熱交換器10によって温度と湿度が調整された外気OAを加熱するものである。
【0028】
エアワッシャ24は、加熱コイル23の下流側に配設されており、ケーシングの中にスプレーノズルを設けて水を噴霧させるものである。エアワッシャ24は、冬期は、気化式加湿器としての機能をも有する。エアワッシャ24は、噴霧した水の中に外気OAを通過させて、冬期は加湿し、夏期は冷却減湿するとともに、外気OA中に含まれる水溶性の臭気成分を気液接触により除去する機能を有している。エアワッシャ24の通過後の外気OAは、特に、夏期は、気化冷却されて低温高湿となるため、等エンタルピであり冷房負荷が大きくならない。また、このエアワッシャ24は、冬期などは、排熱を利用した温水コイルによって加温するようにすれば、より省エネルギーとなる。また、エアワッシャ24への給水は、必要に応じて水質調整して、配管を介して散水パンやノズルに供給される。
【0029】
冷却コイル25は、エアワッシャ24の下流側に配設されており、エアワッシャ24を通過した外気OAを冷却し、調整外気SOAの温湿度を一定に調整する。
【0030】
加熱再熱兼用コイル26は、冷却コイル25の下流側に配設されており、冬期(暖房時)に、エアワッシャ24を通過した外気OAを加熱するものであり、調整外気SOAの温湿度を一定に調整する。
【0031】
ここで、加熱コイル23と加熱再熱兼用コイル26は、図示しないボイラなどの温熱源機器から温水や蒸気などの熱媒が供給され、熱交換後に当該機器に戻されるようになっている。冷却コイル25は、同様に冷熱源機器に接続されている。
【0032】
送風機27は、加熱再熱兼用コイル26の下流側に配設されており、温度と湿度を調整した調整外気SOAを、室に吐き出すものである。
【0033】
次に、このような構成の全熱交換器システム1における空調方法および作用について説明する。
【0035】
換気が必要な室内からの温かく加湿済みの室内還り空気RAが取り込まれる際に、中性能フィルタ11によって塵埃が除去される。そして、全熱交換器10によって室内還り空気RAの全熱が熱回収されて蓄熱され、外気OAとの熱交換により冷却減湿された排気EAが屋外に排気される。
【0036】
また、屋外からの冷たく乾いた外気OAは、プレフィルタ21と中性能フィルタ22によって塵埃が除去されて、全熱交換器10によって、予熱加湿される。そして、加熱コイル23によってさらに加温されて、エアワッシャ24によって空気中の臭気成分が除去されるとともに、加湿される。そして、加熱再熱兼用コイル26によって、適温、適湿に調節された調整外気SOAが室に供給される。エアワッシャ24への給水は、暖房または給湯用の熱媒の使用済み還水と、コージェネレーションや生産装置冷却の還り熱媒とを熱交換させて、昇温させて使用してもよい。
【0038】
換気が必要な室内から低温にされた冷たい除湿済みの室内還り空気RAが取り込まれる際に、中性能フィルタ11によって塵埃が除去される。そして、全熱交換器10によって室内還り空気RAの全熱が熱回収されて、外気OAとの熱交換により加熱加湿された排気EAが屋外に排気される。
【0039】
また、温かく湿った外気OAは、プレフィルタ21と中性能フィルタ22によって塵埃が除去されて、全熱交換器10によって蓄熱され、予冷減湿される。そして、加熱コイル23によって加温されて、エアワッシャ24によって空気中の臭気成分が除去されるとともに、冷却される。そして、冷却コイル25によって、適温、適湿に調節された調整外気SOAが室に供給される。冷房時は、加熱コイル23と加熱再熱兼用コイル26には弁の閉止によって通水されないように制御されている。または、加熱コイル23と加熱再熱兼用コイル26をバイパスさせて空気を流すようにしてもよい。このようにして、エアワッシャ24を経て、冷却コイル25に至ると、空気は冷却コイル25表面で水分が凝縮する。
【0040】
以上のように、この実施の形態に係る発明によれば、一般的な全熱交換器を使用するため、顕熱交換器や特殊全熱交換器を使用する場合に比べて全熱交換率が高くなる。すなわち、全熱交換器10は、換気によって失われる空調エネルギーから、顕熱(温度)と同時に潜熱(湿度)を交換回収できるため、全熱の熱回収量となるので、高い省エネルギー効果を得ることができる。これに対して、水を熱源として介在させる水対空気熱交換器や顕熱交換器を使用して熱回収した場合は、熱回収は顕熱のみの熱回収量となり、または間接的な熱交換となるので省エネルギー効果は低い。一方、全熱交換器システム1によって、室内還り空気RAと外気OAとの間で全熱(顕熱と潜熱)が同時に交換される。
【0041】
また、エアワッシャ24によって、全熱交換器10の潜熱交換において、室内還り空気RAと外気OAとの間で全熱交換した際に室内還り空気RAから外気OAに移行した臭気成分を除去することができる。
【0042】
しかも、エアワッシャ24は、加湿器としての機能を有するので、冬期(暖房時)であっても、外気OAを加湿するために加湿装置を設置する必要がない。また、エアワッシャ24を散水パンを介して充填材に滴下する構成とすれば、夏期(冷房時)は、水噴霧の場合よりも外気OAを効率的に冷却することができる。すなわち、エアワッシャ24の通過後の外気OAは、特に、夏期は、気化冷却されて低温高湿となり、等エンタルピであり冷房負荷が大きくならない。このエアワッシャ24において散水、噴霧、滴下の残余が凝縮するため、より臭気成分を捕捉することができる。
【0043】
しかも、エアワッシャ24は、排熱を利用した温水コイルによって加湿することで、省エネルギー効果を高めることができる。これに対して、
図3に示すように、従来のような蒸気加湿の場合は、加湿のためにボイラ燃料や電力のようなエネルギーの消費が多く、二酸化炭素排出量が多くなってしまう問題がある。
【0044】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、室内還り空気RAには、エアワッシャ24によって除去することができない非水溶性の臭気成分が含まれていたり、エアワッシャ24によって十分に臭気成分を除去できない場合は、
図2に示すように、加熱再熱兼用コイル26の下流側、かつ、送風機27の上流側に、フィルタ28を配設すればよい。このフィルタ28は、ケミカルフィルタまたは活性炭フィルタで構成されている。このフィルタ28によって、調整外気SOAに残留する臭気成分を除去することができるので、より確実に、調整外気SOAに残留する臭気成分を除去することができる。
【0045】
図3は、エアワッシャ12を、室内還り空気RAの取り込み側で、全熱交換器10の上流側に配設した全熱交換器システム110である。この場合は、室内還り空気RAに含まれる臭気成分を、全熱交換器10において室内還り空気RAと外気OAとの間で全熱交換する前に除去するものである。
【0046】
また、エアワッシャ24は、気液接触の手段であれば噴霧式には限定されず、例えば、散水パンによる滴下式であってもよい。さらに、充填材を介して気液接触効率を高めるようにしてもよい。
【0047】
この全熱交換器システム1は、
図2、
図3に示すように、1つのケーシングに収容されている必要はなく、中性能フィルタ11や送風機12などの各部材をそれぞれ収容したケーシングがダクトを介して接続されていてもよいことはもちろんである。この場合、ダクトを、納まり上の障害物を迂回して延設して、例えば、エアワッシャ24より下流側の部材は給気先の室内に設置してもよい。
また、例えば、全熱交換器10、加熱コイル23、エアワッシャ24、冷却コイル25、及び加熱再熱兼用コイル26を備えた乾式減湿装置として構成し、他の部材とダクトを介して接続されていてもよい。