(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エポキシ樹脂100質量部に対して、前記一般式(I)で表される有機リン化合物を1〜100質量部配合し、反応させて得られる請求項1又は2に記載のリン含有難燃性エポキシ樹脂。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<リン含有難燃性エポキシ樹脂>
本発明に係るリン含有難燃性エポキシ樹脂は、1分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下、単に「エポキシ樹脂」と略記することがある)と、下記一般式(I)で表される有機リン化合物(以下、「化合物(I)」と略記することがある)と、を反応させて得られるものである。
前記リン含有難燃性エポキシ樹脂は、化合物(I)に由来する構造を有することにより、低吸水性及び高難燃性という優れた特性を併せ持つ。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、単なる「エポキシ樹脂」との記載は、「リン含有難燃性エポキシ樹脂」ではなく、その製造に用いる「1分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂」を意味するものとする。
【0018】
【化4】
(式中、Y
1はアラルキル基又はアリール基である。)
【0019】
(エポキシ樹脂)
前記エポキシ樹脂は、1分子内に3個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、好ましいものとしては、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等が例示できる。
【0020】
前記エポキシ樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は任意に調節できる。
【0021】
化合物(I)とエポキシ樹脂との反応時には、典型的には、化合物(I)1モルとエポキシ基1モルとが反応するため、前記エポキシ樹脂として、1分子内に3個以上のエポキシ基を有するものを用いることで、化合物(I)は前記エポキシ樹脂骨格に安定して組み込まれると共に、エポキシ樹脂同士が連結されて、得られるリン含有難燃性エポキシ樹脂は、架橋密度の低下が抑制される。その結果、このリン含有難燃性エポキシ樹脂は、ハロゲン化合物を用いずに高難燃性を達成でき、且つ、高耐熱性及び低吸水性を有するものとなる。
【0022】
ただし、本発明においてリン含有難燃性エポキシ樹脂は、1分子の前記エポキシ樹脂に、化合物(I)が1分子のみ反応したものに限定されず、1分子の前記エポキシ樹脂に、化合物(I)が2分子以上反応したリン含有難燃性エポキシ樹脂を含んでいてもよい。
【0023】
前記エポキシ樹脂は、架橋密度を低下させることなく、エポキシ樹脂骨格に化合物(I)をより安定して組み込める点から、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂であることがより好ましい。
【0024】
(化合物(I))
化合物(I)は、前記一般式(I)で表される有機リン化合物であり、前記エポキシ樹脂と反応する反応型有機リン化合物である。
化合物(I)は低吸水性を有し、エポキシ基との反応によってエポキシ樹脂骨格に容易に組み込める。
【0025】
式中、Y
1はアラルキル基又はアリール基である。
Y
1における前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよい。
前記アリール基は、炭素数が6〜12であることが好ましく、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基(ジメチルフェニル基)等が例示でき、さらに、これらアリール基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基、あるいはアリール基で置換されたものが例示できる。ここで、水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基としては、後述するアルキレン基の説明において挙げたものが例示でき、アリール基としては、上記で例示したものが挙げられる。
前記アリール基は、フェニル基であることが好ましい。
【0026】
Y
1における前記アラルキル基を、アリール基がアルキレン基に結合してなる1価の基と考えた場合に、前記アリール基は単環状及び多環状のいずれでもよく、Y
1のアリール基と同様のものが例示できる。また、前記アルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでもよく、環状である場合、単環状及び多環状のいずれでもよく、鎖状構造及び環状構造が混在していてもよいが、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましい。
【0027】
前記アルキレン基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、2,2−ジメチルペンチル基、2,3−ジメチルペンチル基、2,4−ジメチルペンチル基、3,3−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2,2,3−トリメチルブチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数が1〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、トリシクロデシル基等の炭素数が3〜10の環状のアルキル基;前記環状のアルキル基の1個以上の水素原子が、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基で置換されたアルキル基(水素原子を置換する直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基としては、上記で例示したものが挙げられる)から、1個の水素原子が除かれてなる2価の基が例示できる。
【0028】
前記アラルキル基は、炭素数が7〜20であることが好ましく、ベンジル基(フェニルメチル基)、о−メチルベンジル基、m−メチルベンジル基、p−メチルベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)等が例示でき、ベンジル基であることがより好ましい。
【0029】
前記リン含有難燃性エポキシ樹脂が低吸水性であるのは、化合物(I)に由来する構造を有し、その中でもアラルキル基又はアリール基が水(水分)を寄せ付けず、化合物(I)に由来する構造に水(水分)が取り込まれるのを抑制しているからではないかと推測される。
【0030】
また、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂が高難燃性であるのは、化合物(I)に由来する構造を有することによる。
Y
1がアラルキル基である場合、アラルキル基が燃焼時に開裂してラジカル種を発生させ、これが燃焼反応時におけるラジカル連鎖反応で生じる別のラジカル種を補足して、燃焼反応を抑制することで、高難燃難燃性を発現すると推測される。例えば、文献「特開2001−19835号公報」には、ポリエステル樹脂と共に加熱することにより、ラジカル種を発生させ、架橋によって耐熱性を向上させる化合物が開示されている。
一方、Y
1がアリール基である場合、ベンゼン環骨格が単結合で隣接する基に結合しているため、燃焼時の残渣生成物が増加し、燃焼時に必要な酸素を遮断することで、高難燃性を発現すると推測される。
【0031】
化合物(I)は、より低吸水性及び高難燃性であることから、下記式(I)−101で表される有機リン化合物(8−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、以下、「化合物(I)−101」と略記することがある)、又は下記式(I)−201で表される有機リン化合物(8−フェニル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、以下、「化合物(I)−201」と略記することがある)であることが好ましい。化合物(I)−101がより難燃性に優れる理由は、燃焼時に生成する成分がリン(P)と共に酸素を遮断して、難燃性をより向上させるからであると推測される。
【0033】
化合物(I)−101は、例えば、三光社製「Bz−HCA」等が、化合物(I)−201は、例えば、三光社製「Ph−HCA」等が、それぞれ市販品として容易に入手可能である。
【0034】
化合物(I)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は任意に調節できる。
【0035】
化合物(I)は、公知の方法で製造できる。例えば、使用する原料のY
1の種類が異なる点以外は、市販品である化合物(I)−101又は化合物(I)−201と同様の方法で、化合物(I)−101及び化合物(I)−201以外の化合物(I)も製造できる。
【0036】
本発明においては、反応型有機リン化合物として化合物(I)を用いるが、化合物(I)においてY
1が水素原子であり、ベンゼン環骨格中の7個の水素原子のいずれか1個以上がアラルキル基又はアリール基で置換された構造の反応型有機リン化合物も、化合物(I)と同様の効果を奏すると推測される。
【0037】
前記リン含有難燃性エポキシ樹脂は、前記エポキシ樹脂及び化合物(I)を反応させて得られるものである。
反応時の原料化合物の配合量は特に限定されないが、化合物(I)の配合量はエポキシ樹脂100質量部に対して、1〜100質量部であることが好ましく、2〜85質量部であることがより好ましく、3〜75質量部であることが特に好ましい。化合物(I)の配合量が前記下限値以上であることで、化合物(I)の前記エポキシ樹脂との反応量が増大して、リン含有難燃性エポキシ樹脂の難燃性がより向上する。また、化合物(I)の配合量が前記上限値以下であることで、化合物(I)の前記エポキシ樹脂との過剰な反応が抑制され、未反応のエポキシ基の残存量が適度に増大して、リン含有難燃性エポキシ樹脂の架橋密度がより向上する。
【0038】
前記エポキシ樹脂及び化合物(I)の反応時には、トリフェニルホスフィン等の触媒を用いることが好ましい。
前記触媒の配合量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂及び化合物(I)の総配合量に対して、0.01〜1質量%であることが好ましく、0.02〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0039】
前記エポキシ樹脂及び化合物(I)の反応時の条件は、特に限定されないが、反応温度は130〜230℃であることが好ましく、150〜200℃であることがより好ましい。反応時間は、反応温度を考慮して適宜調節すればよいが、3〜20時間であることが好ましく、5〜12時間であることがより好ましい。
【0040】
前記エポキシ樹脂及び化合物(I)の反応後は、得られた反応物をそのまま前記リン含有難燃性エポキシ樹脂として用いてもよいし、得られた反応物に対して公知の後処理を行って、得られたものを前記リン含有難燃性エポキシ樹脂として用いてもよい。
【0041】
前記リン含有難燃性エポキシ樹脂のリン含有率は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜6質量%であることがより好ましい。リン含有難燃性エポキシ樹脂のリン含有率がこのような範囲であることで、難燃性と経済性に優れたリン含有難燃性エポキシ樹脂をより容易に製造できる。
なお、本明細書において「リン含有難燃性エポキシ樹脂のリン含有率」とは、リン含有難燃性エポキシ樹脂の全質量に対する、リン含有難燃性エポキシ樹脂中のリン(P)の質量の割合を意味し、例えば、後述する実施例で記載の方法により算出できる。
【0042】
<難燃性エポキシ樹脂組成物>
本発明における難燃性エポキシ樹脂組成物は、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂を含有するものであり、例えば、コンパウンド又はワニスとして使用される。
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂を用いていることで低吸水性及び高難燃性を有する。
【0043】
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内において、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂以外の成分(以下、「その他の成分」と略記することがある)を含有していてもよい。
前記難燃性エポキシ樹脂組成物において、固形分の総含有量に対するリン含有難燃性エポキシ樹脂の含有量の割合は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。リン含有難燃性エポキシ樹脂の前記含有量の上限値は、特に限定されず、目的に応じて適宜調節すればよく、100質量%であってもよいが、前記その他の成分を用いる場合、80質量%であることが好ましく、60質量%であることがより好ましい。
【0044】
前記その他の成分で好ましいものとしては、硬化剤、硬化促進剤、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、フィラー、添加剤、溶媒が例示できる。
前記その他の成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、その組み合わせ及び比率は任意に調節できる。
【0045】
前記その他の成分における硬化剤(エポキシ樹脂硬化剤)は、前記難燃性エポキシ樹脂組成物を用いて硬化物、フィルム、プリプレグ、金属張積層板、プリント配線板等を形成するのに必要な成分である。
前記硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化することができるものであれば特に限定されず、アミン、酸無水物、ルイス酸型アミン錯体、オニウム塩、イミダゾール誘導体、ノボラック樹脂、フェノール類等が例示できる。
【0046】
前記アミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン;脂肪族アミン;ジシアンジアミド;1,1,3,3−テトラメチルグアニジン;チオ尿素付加アミン;これら化合物(芳香族アミン〜チオ尿素付加アミン)の異性体及び変性体等が例示できる。
【0047】
前記酸無水物としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸等が例示できる。
【0048】
前記ルイス酸型アミン錯体としては、三フッ化ホウ素(BF
3)−アミン錯体、塩化亜鉛(ZnCl
2)−アミン錯体、塩化スズ(IV)(SuCl
4)−アミン錯体、塩化鉄(III)(FeCl
3)−アミン錯体、塩化アルミニウム(AlCl
3)−アミン錯体等が例示できる。
【0049】
前記オニウム塩としては、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等が例示できる。
【0050】
前記イミダゾール誘導体とは、イミダゾールの1個以上の水素原子がアルキル基等、水素原子以外の基で置換されたものを意味する。前記イミダゾール誘導体としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が例示できる。
【0051】
前記ノボラック樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等が例示できる。
【0052】
前記フェノール類とは、フェノールの1個以上の水素原子が水素原子以外の基で置換されたものを意味する。前記フェノール類としては、クレゾール、ビスフェノールA等が例示できる。
【0053】
例えば、前記難燃性エポキシ樹脂組成物を用いてプリプレグを形成する場合には、得られたプリプレグの保存性が向上する点から、前記硬化剤は、ジシアンジアミド、フェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂であることが好ましい。
【0054】
前記硬化剤の配合量は、難燃性エポキシ樹脂組成物における前記硬化剤以外の成分のエポキシ当量に対する前記硬化剤の活性水素等量の比が、0.3〜1.0となる量であることが好ましく、0.5〜0.8となる量であることがより好ましい。前記比が前記下限値以上であることで、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂の硬化がより進行し、前記比が前記上限値以下であることで、硬化剤の過剰使用が抑制される。
【0055】
前記その他の成分における硬化促進剤は、前記硬化剤とは別途に用いて、硬化反応を促進する成分である。
前記硬化促進剤としては、アミン系硬化促進剤、リン系硬化促進剤等が例示できる。
アミン系硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が例示できる。
リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等が例示できる。
【0056】
前記硬化促進剤の配合量は、難燃性エポキシ樹脂組成物の固形分の総配合量に対して、0.01〜3質量%であることが好ましく、0.03〜1質量%であることがより好ましい。
【0057】
前記その他の成分における前記リン含有難燃性エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂(以下、「その他のエポキシ樹脂」と略記することがある)は、例えば、前記難燃性エポキシ樹脂組成物をマスターバッチとして使用する際に、難燃性エポキシ樹脂組成物のリン濃度、粘度、並びに耐熱性、難燃性及び紫外線吸収性等の機能の調節を行うことができる成分である。
前記その他のエポキシ樹脂としては、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂、フェニルグリシジルエーテル、オルトフェニルフェノールグリシジルエーテル等が例示できるが、これらに限定されない。
前記その他のエポキシ樹脂は、1分子内に3個以上のエポキシ基を有するものでもよいし、1分子内に2個以下(1個又は2個)のエポキシ基を有するものでもよい。
【0058】
前記難燃性エポキシ樹脂組成物のその他のエポキシ樹脂の含有量は、特に限定されない。例えば、前記難燃性エポキシ樹脂組成物において、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂及びその他のエポキシ樹脂の総含有量に対する前記リン含有難燃性エポキシ樹脂の含有量の割合は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。
【0059】
前記その他の成分におけるフィラーは、前記難燃性エポキシ樹脂組成物のTg、難燃性、又は剛性等を向上させる成分である。
前記フィラーは無機フィラーであることが好ましく、無機フィラーとしては、シリカ粉末;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物の粉末;タルク、クレー等の粘土鉱物の粉末等が例示できる。
【0060】
前記難燃性エポキシ樹脂組成物において、フィラーの含有量は、フィラー以外の成分の総含有量に対して0〜800質量%であることが好ましい。
【0061】
前記その他の成分における添加剤としては、反応助剤、難燃剤、難燃助剤、レベリング剤、着色剤等が例示できる。
前記難燃性エポキシ樹脂組成物の前記添加剤の含有量は、添加剤の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0062】
前記その他の成分における溶媒は、前記難燃性エポキシ樹脂組成物をワニスとするのに必要な成分である。
前記溶媒は有機溶媒であることが好ましく、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;メタノール、エタノール等のアルコール;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル等が例示できる。
前記難燃性エポキシ樹脂組成物の前記溶媒の含有量は、目的とする粘度等を考慮して適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0063】
前記難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、0.1〜8質量%であることが好ましく、0.3〜3質量%であることがより好ましい。難燃性エポキシ樹脂組成物は、そのリン含有率が前記下限値以上であることで、難燃性がより向上する。また、難燃性エポキシ樹脂組成物は、そのリン含有率が前記上限値以下であることで、難燃性を損なうことなく、化合物(1)や前記リン含有難燃性エポキシ樹脂の過剰使用が抑制され、経済性がより向上する。なお、本明細書において「難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率」とは、難燃性エポキシ樹脂組成物の全質量に対する、難燃性エポキシ樹脂組成物中のリン(P)の質量の割合を意味し、例えば、後述する実施例で記載の方法により算出できる。
【0064】
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、前記リン含有難燃性エポキシ樹脂、及び必要に応じてその他の成分を配合することで得られる。各成分の配合後は、得られたものをそのまま難燃性エポキシ樹脂組成物としてもよいし、必要に応じて引き続き公知の後処理を行って得られたものを難燃性エポキシ樹脂組成物としてもよい。
各成分の配合時には、すべての成分を添加してからこれらを混合してもよいし、一部の成分を順次添加しながら混合してもよく、すべての成分を順次添加しながら混合してもよい。
混合方法は特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、ミキサー又はブレンダーを用いる方法等、公知の方法から適宜選択すればよい。混合時には、各成分を均一に溶解又は分散させることが好ましい。
【0065】
配合時の温度及び時間は、各配合成分が劣化しない限り特に限定されないが、温度は15〜30℃であることが好ましく、時間は0.5〜24時間であることが好ましい。
【0066】
<硬化物>
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、これを硬化させて難燃性の硬化物として用いることができ、前記硬化物は、例えば、電気機器及び電子機器等の部材として有用であり、特に封止材等として好適である。
前記硬化物は、前記難燃性エポキシ樹脂組成物を加熱することで得られる。より具体的には、例えば、カップ、キャビティ、パッケージ凹部等に、ディスペンサーを用いる方法やその他の方法によって液状の難燃性エポキシ樹脂組成物を注入し、加熱して硬化させてもよいし、固体状又は高粘度の液状の難燃性エポキシ樹脂組成物を加熱等によって流動させ、これを上記と同様にカップ、キャビティ、パッケージ凹部等に注入して、さらに加熱して硬化させてもよい。
【0067】
<フィルム>
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、これを成形して難燃性のフィルムとして用いることができる。
前記フィルムは、例えば、上述のワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を支持体上に塗工し、乾燥させることにより得られる。
難燃性エポキシ樹脂組成物の塗工は、例えば、印刷法、塗布法、浸漬法等の公知の方法で行うことができる。
難燃性エポキシ樹脂組成物の乾燥は、例えば、加熱によって溶媒を除去することで行うことができ、加熱時には送風してもよく、熱風の吹き付け等によって乾燥させてもよい。
【0068】
前記支持体の材質は、特に限定されないが、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;紙;銅、アルミニウム等の金属等が例示できる。
前記支持体の塗工面は、マッド処理、コロナ処理、離型処理等の表面処理が施されていてもよい。
前記支持体の厚さは、特に限定されないが、10〜150μmであることが好ましく、前記支持体はフィルム状であることが好ましい。このような支持体としては、例えば、金属からなるものであれば、銅箔、アルミニウム箔等の金属箔が挙げられる。
【0069】
<プリプレグ>
前記難燃性エポキシ樹脂組成物は、難燃性のプリプレグの製造に好適なものである。
プリプレグは、例えば、上述のワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を繊維質基材に含浸し、加熱することにより得られる。
【0070】
前記繊維質基材は、特に限定されないが、ガラス等の無機質繊維の織布及び不織布、アラミドクロス、ポリエステルクロス、カーボンファイバー、並びに紙等が例示できる。
前記繊維質基材の厚さは、特に限定されないが、20〜200μmであることが好ましく、前記繊維質基材はシート状であることが好ましい。
【0071】
難燃性エポキシ樹脂組成物の含浸は、例えば、浸漬法、塗布法等の公知の方法で行うことができる。
難燃性エポキシ樹脂組成物の含浸は、1回行うだけでもよいし、2回以上行ってもよく、2回以上行う場合、用いる難燃性エポキシ樹脂組成物は回数ごとにすべて同じ種類でもよいし、すべて異なる種類でもよく、一部のみ異なる種類であってもよい。ここで、難燃性エポキシ樹脂組成物の種類が異なるとは、難燃性エポキシ樹脂組成物の含有成分の種類及び濃度の少なくとも一方が互いに異なることを意味する。例えば、異なる種類の難燃性エポキシ樹脂組成物を用いて、含浸を複数回行うことで、得られるプリプレグの樹脂の組成及び量を調整することもできる。
【0072】
難燃性エポキシ樹脂組成物の含浸後の加熱では、溶媒を除去して乾燥させるとともに、樹脂成分を半硬化(Bステージ化)させる。このときの加熱は、例えば、100〜180℃で3〜15分間行うことが好ましい。
【0073】
プリプレグは、樹脂の含有量が20〜90質量%であることが好ましい。ここで、「樹脂」とは、リン含有難燃性エポキシ樹脂とその硬化物だけでなく、例えば、前記その他のエポキシ樹脂等も含めた、すべての樹脂成分を意味する。
【0074】
<金属張積層板>
前記プリプレグは、金属張積層板の製造に好適なものである。
金属張積層板は、例えば、1枚のプリプレグ、若しくは複数枚のプリプレグをその主面同志を重ね合せて積層した積層体を用いて、以下の方法で得られる。すなわち、1枚のプリプレグ若しくは前記積層体の上面及び下面のいずれか一方又は両方に、銅箔等の金属箔を重ね合せ、この重ね合せたものを加熱及び加圧して成形し、一体化させる。これにより、1枚のプリプレグ若しくは前記積層体の一方の面(上面又は下面)に金属箔を備えた片面金属箔張積層板、又は1枚のプリプレグ若しくは前記積層体の両方の面(上面及び下面)に金属箔を備えた両面金属箔張積層板が得られる。
【0075】
成形条件は特に限定されず、目的とする金属張積層板の厚さやプリプレグ中の樹脂の種類等に応じて適宜設定すればよいが、加熱時の温度は50〜190℃であることが好ましく、加圧時の圧力は1〜5000kPaであることが好ましく、加熱及び加圧時間は5〜180分間であることが好ましい。
【0076】
<プリント配線板>
前記金属張積層板は、プリント配線板の製造に好適なものである。
プリント配線板は、例えば、金属張積層板の表面の前記金属箔をエッチングして、回路パターンを形成することで得られる。また、プリント配線板は、前記金属張積層板から金属箔を除去したものの表面に、メッキ等によって導電体で直接回路パターンを形成することでも得られる。
【0077】
前記硬化物、フィルム、プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板(以下、「硬化物等」と略記することがある)は、いずれも前記難燃性エポキシ樹脂組成物を用いていることで、ハロゲン系難燃剤を用いていなくても、高難燃性を有する。また、前記硬化物及びフィルム、並びに前記プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板の前記難燃性エポキシ樹脂組成物を用いて形成した部位は、低吸水性及び高耐熱性を有し、ガラス転移温度(Tg)が高く、これら硬化物等は、高温に曝されるはんだ付け加工段階で、基板の膨れ、はんだ付け不良等の品質劣化が抑制されるものであり、良好な品質の電気機器部品又は電子機器部品を構成できる。
例えば、前記硬化物及びフィルム、並びに前記プリプレグ、金属張積層板及びプリント配線板の前記難燃性エポキシ樹脂組成物を用いて形成した部位は、Tgを好ましくは140℃以上とすることが可能である。
【実施例】
【0078】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
<リン含有難燃性エポキシ樹脂の製造>
2000mLの4口フラスコに、化合物(I)−101(519.4g、1.70mol)、フェノールノボラックエポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製「YDPN−638」、エポキシ当量177g/eq)(731.3g)、及び触媒としてトリフェニルホスフィン(0.52g、0.0020mol)を加えて加熱し、これらを溶解させ、180℃で攪拌しながら9時間反応を行なった。反応終了後、金属製のバットに反応物を排出して冷却し、ガラス状のリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−1)(1213.6g)を得た。得られたリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−1)のエポキシ当量は496g/eqであり、リン含有率は表1に示すように4.1%(リン含有率理論値4.2%)であった。リン含有率は、JIS K 0102 46.3.1及びJIS K 0102 46.1.1に準拠して測定した。
【0080】
<難燃性エポキシ樹脂組成物の製造>
表2に示すように、リン含有難燃性エポキシ樹脂(C−1)(100質量部)に、オルトクレゾールノボラックエポキシ樹脂(40.7質量部)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(26.8質量部)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン(10.1質量部)、硬化剤としてジシアンジアミド(和光純薬社製)(5.3質量部)、硬化促進剤として2−メチルイミダゾール(和光純薬社製)(0.24質量部)、並びにフィラーとして酸化ケイ素(広東中山市駿展光電材料社製)(35.3質量部)及び水酸化アルミニウム(済南金盈泰化工社製)(44.1質量部)を加えて、25℃で60分間均一に混合することで、樹脂組成物(難燃性エポキシ樹脂組成物)を得た。なお、表2中、配合成分(質量部)の欄の「−」は、その成分が未配合であることを意味する。
さらに、この樹脂組成物の全量に、メチルエチルケトン(76.1質量部)及びN,N−ジメチルホルムアミド(68.4質量部)を加えて、25℃で60分間、ミキサーで混合することにより、ワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を得た。得られたワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、表2に示すように2.5%(リン含有率理論値2.4%)であった。リン含有率は、リン含有難燃性エポキシ樹脂の場合と同じ方法により測定した。
【0081】
<プリント配線板の製造>
上記で得られたワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物中にガラスクロス(巨石集団社製 「7628布」)を浸漬して、ワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物をその含浸量がガラスクロスの全量に対して20〜90質量%となるように含浸させた後、175℃で4分間加熱し、溶媒を除去するとともに樹脂成分を半硬化させて、プリプレグを作製した。得られたプリプレグは、樹脂の含有量が66質量%であった。
次いで、得られたプリプレグを5枚重ね合わせ、この積層体の両面(上面及び下面)に、厚さ35μmの銅箔(江銅耶茲銅箔社製「電解銅箔」)を配置して被圧体とした。この被圧体を、温度50〜185℃、圧力1450〜3900kPaの範囲内で条件を変化させながら、合計で155分間加熱及び加圧処理して、プリプレグに銅箔を接着させることで、厚さ1.0mmの銅張積層板を得た。
次いで、この銅張積層板の銅箔をエッチングすることで回路パターンを形成し、プリント配線板を得た。
【0082】
<プリント配線板の評価>
上記で得られたプリント配線板について、ガラス転移温度(Tg)、耐熱性、吸水性及び難燃性を下記方法で評価した。結果を表2に示す。
【0083】
(ガラス転移温度(Tg))
銅張積層板の表面の銅箔を除去した後、TA Instrument社製「DSC Q−20」を用いて、得られた積層板のTgを測定した。より具体的には、昇温速度20℃/分の条件で室温から180℃まで積層板を昇温した際の、変曲点を示す温度をTgとした。
【0084】
(耐熱性)
銅張積層板の表面の銅箔を除去した後、熱分析装置(TMA、TA−Instrument−Waters LLC社製「TMA−400型」)を用いて、得られた積層板を昇温速度10℃/分の条件で室温から288℃まで昇温した後、288℃で保持し、層間剥離が起こるまでの時間を求めた。
【0085】
(吸水性(吸水率))
銅張積層板の表面の銅箔を除去した後、長さ50mm、幅50mmの試験片(以下、「試験片(1)」と略記する)を切り出した。この試験片(1)を常温、常圧条件下で水に24時間浸漬後、試験片(1)表面に付着した水分を拭き取り、浸漬後の試験片(1)の質量を測定した。そして、浸漬処理による試験片(1)の質量増加分の百分率({[浸漬後の試験片(1)の質量]−[浸漬前の試験片(1)の質量]}/[浸漬前の試験片(1)の質量]×100)を算出し、これを吸水率として、吸水性を評価した。
【0086】
(難燃性)
銅張積層板の表面の銅箔を除去した後、長さ127mm、幅12.7mmの試験片(以下、「試験片(2)」と略記する)を切り出した。この試験片(2)について、Underwriters Laboratoriesの「Test for Flammability of PlasticMaterials UL 94」の燃焼試験法に従って燃焼試験を行い、難燃性を判定した。
【0087】
[実施例2]
<リン含有難燃性エポキシ樹脂の製造>
2000mLの4口フラスコに、化合物(I)−101(368.2g、1.21mol)、フェノールノボラックエポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製「YDPN−638」、エポキシ当量177g/eq)(884.1g)、及び触媒としてトリフェニルホスフィン(0.37g、0.0014mol)を加えて加熱し、これらを溶解させ、180℃で攪拌しながら7.5時間反応を行なった。反応終了後、金属製のバットに反応物を排出して冷却し、ガラス状のリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−2)(1233.0g)を得た。得られたリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−2)のエポキシ当量は327g/eqであり、実施例1の場合と同じ方法で測定したリン含有率は、表1に示すように3.0%(リン含有率理論値3.0%)であった。
【0088】
<難燃性エポキシ樹脂組成物の製造>
リン含有難燃性エポキシ樹脂(C−2)(100質量部)に、オルトクレゾールノボラックエポキシ樹脂(40.7質量部)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(26.8質量部)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン(10.1質量部)、硬化剤としてジシアンジアミド(和光純薬社製)(4.7質量部)、硬化促進剤として2−メチルイミダゾール(和光純薬社製)(0.44質量部)、並びにフィラーとして酸化ケイ素(広東中山市駿展光電材料社製)(35.3質量部)及び水酸化アルミニウム(済南金盈泰化工社製)(44.1質量部)を加えて、25℃で60分間均一に混合することで、樹脂組成物(難燃性エポキシ樹脂組成物)を得た。
さらに、この樹脂組成物の全量に、メチルエチルケトン(76.1質量部)及びN,N−ジメチルホルムアミド(68.4質量部)を加えて、25℃で60分間、ミキサーで混合することにより、ワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を得た。実施例1の場合と同じ方法で測定したワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、表2に示すように1.8%(リン含有率理論値1.7%)であった。
【0089】
<プリント配線板の製造及び評価>
上記で得られたワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で、プリント配線板を製造及び評価した。結果を表2に示す。なお、得られたプリプレグは、樹脂の含有量が66質量%であった。
【0090】
[実施例3]
<リン含有難燃性エポキシ樹脂の製造>
2000mLの4口フラスコに、化合物(I)−201(362.4g、1.24mol)、フェノールノボラックエポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製「YDPN−638」、エポキシ当量177g/eq)(870.4g)、及び触媒としてトリフェニルホスフィン(0.35g、0.0013mol)を加えて加熱し、これらを溶解させ、180℃で攪拌しながら7.5時間反応を行なった。反応終了後、金属製のバットに反応物を排出して冷却し、ガラス状のリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−3)(1220.0g)を得た。得られたリン含有難燃性エポキシ樹脂(C−3)のエポキシ当量は337g/eqであり、実施例1の場合と同じ方法で測定したリン含有率は、表1に示すように3.0%(リン含有率理論値3.1%)であった。
【0091】
<難燃性エポキシ樹脂組成物の製造>
リン含有難燃性エポキシ樹脂(C−3)(100質量部)に、オルトクレゾールノボラックエポキシ樹脂(40.7質量部)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(26.8質量部)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン(10.1質量部)、硬化剤としてジシアンジアミド(和光純薬社製)(4.5質量部)、硬化促進剤として2−メチルイミダゾール(和光純薬社製)(0.38質量部)、並びにフィラーとして酸化ケイ素(広東中山市駿展光電材料社製)(35.3質量部)及び水酸化アルミニウム(済南金盈泰化工社製)(44.1質量部)を加えて、25℃で60分間均一に混合することで、樹脂組成物(難燃性エポキシ樹脂組成物)を得た。
さらに、この樹脂組成物の全量に、メチルエチルケトン(76.1質量部)及びN,N−ジメチルホルムアミド(68.4質量部)を加えて、25℃で60分間、ミキサーで混合することにより、ワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を得た。実施例1の場合と同じ方法で測定したワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、表2に示すように1.7%(リン含有率理論値1.7%)であった。
【0092】
<プリント配線板の製造及び評価>
上記で得られたワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で、プリント配線板を製造及び評価した。結果を表2に示す。なお、得られたプリプレグは、樹脂の含有量が66質量%であった。
【0093】
[比較例1]
<リン含有難燃性エポキシ樹脂の製造>
2000mLの4口フラスコに、HCA(363.0g、1.68mol)、フェノールノボラックエポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製「YDPN−638」、エポキシ当量177g/eq)(871.8g)、及び触媒としてトリフェニルホスフィン(0.37g、0.0014mol)を加えて加熱し、これらを溶解させ、180℃で攪拌しながら4時間反応を行なった。反応終了後、金属製のバットに反応物を排出して冷却し、ガラス状のリン含有難燃性エポキシ樹脂(CR−1)(1201.2g)を得た。得られたリン含有難燃性エポキシ樹脂(CR−1)のエポキシ当量は390g/eqであり、実施例1の場合と同じ方法で測定したリン含有率は、表1に示すように4.1%(リン含有率理論値4.2%)であった。
【0094】
<難燃性エポキシ樹脂組成物の製造>
リン含有難燃性エポキシ樹脂(CR−1)(100質量部)に、オルトクレゾールノボラックエポキシ樹脂(40.7質量部)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(26.8質量部)、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン(10.1質量部)、硬化剤としてジシアンジアミド(和光純薬社製)(5.8質量部)、硬化促進剤として2−メチルイミダゾール(和光純薬社製)(0.16質量部)、並びにフィラーとして酸化ケイ素(広東中山市駿展光電材料社製)(35.3質量部)及び水酸化アルミニウム(済南金盈泰化工社製)(44.1質量部)を加えて均一に混合することで、樹脂組成物(難燃性エポキシ樹脂組成物)を得た。
さらに、この樹脂組成物の全量に、メチルエチルケトン(76.1質量部)及びN,N−ジメチルホルムアミド(68.4質量部)を加えて、25℃で60分間、ミキサーで混合することにより、ワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を得た。実施例1の場合と同じ方法で測定したワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、表2に示すように2.5%(リン含有率理論値2.4%)であった。
【0095】
<プリント配線板の製造及び評価>
上記で得られたワニス状の難燃性エポキシ樹脂組成物を用いた点以外は、実施例1と同じ方法で、プリント配線板を製造及び評価した。結果を表2に示す。なお、得られたプリプレグは、樹脂の含有量が66質量%であった。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
上記結果から明らかなように、実施例1〜3のプリント配線板は、いずれもTgが高く(144℃以上)、高耐熱性であり(12.3分以上)、ハロゲン系難燃剤を用いなくても難燃性が高く、さらに低吸水性(吸水率0.22%以下)であった。このように、実施例1〜3のプリント配線板は、例えば、高温に曝されるはんだ付け加工段階での不良発生の抑制効果に優れるものであった。
これに対して、比較例1のプリント配線板は、低耐熱性、高吸水性であった。
【0099】
通常、リン含有難燃性エポキシ樹脂のリン含有率、換言すると難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率は、難燃性エポキシ樹脂組成物の難燃性に大きな影響を与える。実施例1における難燃性エポキシ樹脂組成物では、比較例1における難燃性エポキシ樹脂組成物とリン含有率が同等となるように調節しており、実施例1のプリント配線板は、比較例1のプリント配線板と同様に、UL 94試験においてV−0の規定を満たしていた。しかし、化合物(I)−101はベンジル基を有する分、HCAに対して分子量が約1.4倍であり、化合物(I)−101を用いた難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率を、HCAを用いた難燃性エポキシ樹脂組成物のリン含有率と同等とするためには、化合物(I)−101の使用量を、HCAの使用量の1.4倍とする必要があり、コストが上昇してしまう。これに対して、実施例2における難燃性エポキシ樹脂組成物では、化合物(I)−101の使用量を、比較例1における難燃性エポキシ樹脂組成物でのHCAの使用量と同等となるように調節しており、実施例1における難燃性エポキシ樹脂組成物よりもリン含有率を低くしているが、実施例2のプリント配線板は、比較例1のプリント配線板と同様に、UL 94試験においてV−0の規定を満たしていた。このように、化合物(I)−101は、難燃性の付与効果に優れていた。これは、燃焼時において、化合物(I)−101中のベンジル基(アラルキル基)から生成するラジカル種が、燃焼反応の抑制効果を有するからであると推測される。同様に、実施例3における難燃性エポキシ樹脂組成物では、化合物(I)−201の使用量を、比較例1における難燃性エポキシ樹脂組成物でのHCAの使用量と同等となるように調節しているが、実施例3のプリント配線板は、比較例1のプリント配線板と同様に、UL 94試験においてV−0の規定を満たしていた。このように、化合物(I)−201は、化合物(I)−101と同様に、難燃性の付与効果に優れていた。これは、燃焼時において、化合物(I)−201中のフェニル基(アリール基)に由来する残渣生成物が、燃焼時に必要な酸素を遮断することで、燃焼反応の抑制効果を有するからであると推測される。
【0100】
Tgは、いずれのプリント配線板でも高かったが、実施例1のプリント配線板では実施例2及び比較例1のプリント配線板よりもTgがやや低めであった。これはHCAよりも化合物(I)−101の方が、分子が嵩高いため、化合物(I)−101とフェノールノボラックエポキシ樹脂のエポキシ基の一部とを反応させた後、未反応のエポキシ基を硬化剤で反応(硬化反応)させる際に、化合物(I)−101由来の部分の立体障害のために、上記の未反応のエポキシ基が硬化反応し難くなっていることが原因ではないかと推測される。化合物(I)−101の使用量が実施例1よりも少ない実施例2では、Tgが実施例1よりも高くなっており、これは実施例2では上記の立体障害が緩和され、未反応のエポキシ基が硬化反応し易かったためではないかと推測される。
【0101】
このように、本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、リン含有率が低くても難燃性に優れるため、低吸水性、高耐熱性及び難燃性に加え、経済性の点でも、従来の難燃性エポキシ樹脂組成物よりも優れるものである。