【実施例】
【0040】
次に1つの実施例を示して本発明を説明する。本実施例では、第2の実施形態で1台のモータ内に生じ得る、僅かな傷やベアリング内のグリス消耗をリアルタイム的に監視可能なシステムである。また、複数の振動センサをポンプとの軸受け(ベアリング)近傍に配設する。
【0041】
換言すれば、本実施例のシステムは、軸受け傷検知装置として動作する。
【0042】
発電設備の一部として、
図4に示すように、ポンプ3を動作させるモータ2と、モータ2の出力を調整する制御装置4が設けられている。ポンプ3は、モータ2から動力を得て流体を送り出す。図中の調整機は配管中の流体速度を調整する。
【0043】
モータ異常検知システム(軸受け傷検知装置)は、モータ2について監視する。モータ2には、振動センサ1−1、1−2が付設されている。各振動センサは、少なくとも一方を軸受け近傍の振動を測定するように付与されている。なお、振動センサは、最低限の2つを用いて本実施例を説明する。3つ以上の振動センサをモータ2に設置してもよい。また他種のセンサ(電流計や電圧計、温度センサなど)を合せて設けてもよい。また、制御装置4から電流や電圧、回転数などの計測値を取り込む構成としてもよい。本実施例では、モータ2の出力を調整する制御装置4は、モータ軸の回転数を基準にモータ出力を制御する。なお、調整機は、配管内の水圧を制御する制御弁として説明する。
【0044】
モータ異常検知システム10は、振動センサ1−1、1−2の出力値を入力として受け付けて異常を検知する。また、正常時モデルの構築に、振動センサ1−1、1−2の出力値と共に制御装置4の出力も用いる。
【0045】
センサ情報蓄積部40には、振動センサ1−1、1−2の出力値と測定時刻の時刻データとを対応付けて逐次蓄積する。
【0046】
モデル構築部50は、軸受け傷が発生していない正常時の一定時間分の測定データをセンサ情報蓄積部40から取得して、制御装置4の出力値と共に測定データの相関関係を抽出して正常時モデルを構築する。
【0047】
モータ異常検出部20は、軸受け傷検出手段として動作させる。モータ異常検出部20は、抽出された相関関係をモデル記憶部30から受け取るとともに、センサ情報蓄積部40から一定時間分の測定データを受け取り、これらを基にモータ2における軸受け傷の発生を検知する。
【0048】
モータ異常検出部20は、必要に応じて、アラーム機やディスプレイ等の所要に機器に通知する通知部を含み、検知した軸受け傷の発生をアラーム音やメッセージ等で通知する。また、例えば所定値以下の傷についてはログ化するのみでも構わない。
【0049】
次に、
図5を用いて、振動センサ1−1、1−2およびセンサ情報蓄積部40の動作を説明する。
まず、振動センサ1−1、1−2は、モータ2の振動を常に測定している(ステップS501)。
次に、センサ情報蓄積部40は、振動センサ1−1、1−2によって測定された各測定データを、測定時刻の時刻データとともに受け付ける(ステップS502)。
次に、センサ情報蓄積部40は、振動センサ1−1、1−2から受け取ったデータ(測定データおよび時刻データ)を蓄積する(ステップS503)。
上述したステップS501〜S503の動作は、常時、繰り返し行われる。
なお、蓄積された情報は、振動センサ1−1、1−2による出力値と測定時刻とから構成され、一般に時系列データと呼ばれている形態となる。
センサ情報蓄積部40による情報蓄積の態様としては、リレーショナルデータベースのような機構を用いてもよいし、単純なテキストファイルで保持してもよい。
【0050】
つぎに、
図6を用いて、モデル構築部50の動作を説明する。
まず、モータ2で軸受け傷が一切発生していない正常動作時において、制御装置4を調整してモータ2の回転数を少しずつ変化させる(ステップS601)。なお、この際、調整機の制御状態や配管内の流速、圧力などを踏まえ、配管内の水圧を上げる方向、下げる方向が混在するように動作させる。
【0051】
次に、制御装置4の操作により変化する振動を、振動センサ1−1、1−2が読み取り、その測定データおよび時刻データをセンサ情報蓄積部40が随時蓄積する(ステップS602、
図5のステップS501〜S503)。
次に、モデル構築部50は、センサ情報蓄積部40から、制御装置4を操作して回転数を変化させた期間(正常動作時の変動データが記録された期間)の測定データを受け取る(ステップS603)。
次に、モデル構築部50は、受け取った測定データから、モータ2について測定された振動値間に、相関関係があるかどうかを識別する(ステップS604)。
【0052】
ここでは、モデル構築部50は、センサ情報蓄積部40から入手した測定2点の一定時間の時系列データから、2点間の相関関係として、B=f(A)のような数式ベースの近似式を生成する。近似式の生成方法としては、例えば、線形回帰と呼ばれている方法を用いればよい。また、ほかにも様々な方法が提案されており、何れの手法を採用してもよい。
【0053】
さらに、モデル構築部50は、生成した近似式と、生成時に利用した時系列データとから、実際のデータを近似式がどの程度近似できているかどうかの指標であるフィット値を生成する。線形回帰として最小二乗法を用いて近似した場合、フィット値は最小二乗法における決定係数とすることができる。
【0054】
次に、フィット値と予め定められた閾値を比較し、閾値以上であれば(ステップS605のN)、2点間の関係(近似式およびフィット値)をモデルとして記憶して処理を終了する(ステップS606)。また、フィット値が閾値以下の場合(ステップS605のY)、処理を終了する。振動センサを3つ以上用いる場合は、多点間の関係をもちいてモデルを生成すればよい。なお、以下では、記憶された正常時の2点間の関係をモデルと呼ぶ。
【0055】
つぎに、
図7を用いて、軸受け傷検出を行うモータ異常検出部20の動作を説明する。
なお、モータ異常検出部20の動作条件として、正常時のモデルが構築され、センサ情報蓄積部50に振動センサ1−1、1−2からの測定データが常時的に蓄積されているものとする。
【0056】
まず、モータ異常検出部20は、センサ情報蓄積部50から、軸受け傷を検知したい、ある時刻tから過去一定時間分の測定データを取得する(ステップS701)。ここで、ある時刻tとは、現在時刻より若干の過去の時刻とする。仮に現在時刻の測定データが常にセンサ情報蓄積部50に蓄積されている場合は、時刻tは現在時刻でも構わない。
【0057】
次に、モデル構築部50に記憶されている正常時のモデルを取得する(ステップS702)。
【0058】
次に、モデルから、2点A、Bの振動センサ1−1、1−2間の関係(近似式B=f(A)およびフィット値)を取得する(ステップS703)。
【0059】
次に、モータ異常検出部20は、センサ情報蓄積部50から入手した測定データに含まれる一方の振動センサAの値を近似式B=f(A)へ代入し、結果である他方の振動センサBの予測値を求める(ステップS704)。
【0060】
次に、モータ異常検出部20は、求められた振動センサBの予測値とセンサ情報蓄積部40から入手した振動センサBの実測値の差異Rを算出する(ステップS705)。
【0061】
次に、モータ異常検出部20は、差異Rが予め定められた閾値を超えている場合(ステップS706のY)、近似式B=f(A)の関係が成り立っていない状態と判断し、モータ2に軸受け傷が発生している可能性があると判断して、所定の通知行為を実行する(ステップS707)。
【0062】
次に、モータ異常検出部20は、ステップS707で通知を行った後、および、差異Rが予め定められた閾値を超えていない場含(ステップS706N)、時刻tを一定時間△t分だけ進めて、ステップS701からの処理を繰り返す。
【0063】
ここで△tは、軸受け傷を検知したい間隔から設定されるものであるが、振動センサ10、20がセンサ情報蓄積部50へ測定した結果を通知する間隔より大きい必要がある。
【0064】
また、モータ異常検知システム10は、予め近似式B=f(A)と近似式A=f(B)と各フィット値のような双方向的にモデルを求めておき、振動センサAと振動センサBの基準とする振動値を入れ替えて逐次的に監視してもよい。
【0065】
このようにして得られた本実施例の軸受け傷検知装置では、振動を測定するために設置される既存の振動センサ1−1、1−2の測定データを利用して、モータ2で軸受け傷が発生したことを検知することが可能である。また、グリス消耗を認知可能となる。また、3点以上の測定値を用いた際に、双方的に分析することで、崩れの伝播元を識別可能な事象もある。
【0066】
また、モータに関連する多種のセンサとの相関関係も同様に解析対象としてもよい。例えば、モータの制御系の検出値や、ポンプの入力口の圧力や出力口の圧力を測定している圧力センサ、可聴音センサなども利用できる。
【0067】
また、本実施例の軸受け傷検知装置では、軸受け傷発生の初期段階で検知することができる。また、グリスの損耗が所定値を超えたことを検知することも可能である。
【0068】
また多量な演算リソースを消費することなく、任意箇所の軸受けの異常を検知できる。この検知では、問題の発生予見も含まれる。
【0069】
このような分析手法を用いずに、初期段階の傷を認知することは、人間の能力的にも非常に困難である。また、異常個所として検査対象とする必要があり、リソース配分として、設備に全てを行うことは非常に困難である。他方、本手法のように、各センサの値の監視であれば、異常個所の特定や異常度合いなど様々な事柄を、広範な範囲で集中的に監視できる利点がある。
【0070】
尚、モータ異常検知システムの各部は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて実現すればよい。ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせた形態では、RAMにモータ異常検知プログラムが展開され、プログラムに基づいて制御部(CPU)等のハードウェアを動作させることによって、各部を各種手段として実現する。また、このプログラムは、記憶媒体に固定的に記録されて頒布されても良い。当該記録媒体に記録されたプログラムは、有線、無線、又は記録媒体そのものを介して、メモリに読込まれ、制御部等を動作させる。尚、記録媒体を例示すれば、オプティカルディスクや磁気ディスク、半導体メモリ装置、ハードディスクなどが挙げられる。
【0071】
上記実施の形態を別の表現で説明すれば、モータ異常検知システムとして動作させる情報処理装置を、RAMに展開されたモータ異常検知プログラムに基づき、モータ異常検出手段、モデル記憶手段、センサ情報蓄積手段、モデル構築手段、などとして制御部を動作させることで実現することが可能である。
【0072】
以上説明したように、本発明を適用した情報処理装置は、発電所内のモータに生じる異常を利便性よく検知可能としたモータ異常検知システムを提供できる。
【0073】
また、本発明の具体的な構成は前述の実施形態や実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲でブロック構成の分離併合、手順の入れ替えなどの変更があっても良く、上記説明が本発明を限定するものではない。例えば、各構成要素(モータ異常検出部やセンサ情報蓄積部など)を各々情報処理装置で構成してもよい。