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特許6369895モータ異常検知システム、モータ異常検知方法、及びモータ異常検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369895
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】モータ異常検知システム、モータ異常検知方法、及びモータ異常検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20180730BHJP
【FI】
   G01M99/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-122452(P2014-122452)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-3875(P2016-3875A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬之
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 敬喜
(72)【発明者】
【氏名】棗田 昌尚
(72)【発明者】
【氏名】笠原 梓司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真也
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 哲
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬
(72)【発明者】
【氏名】林 司
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】生田 睦男
(72)【発明者】
【氏名】安達 勝
(72)【発明者】
【氏名】崎部 将弘
(72)【発明者】
【氏名】宮 健三
(72)【発明者】
【氏名】相馬 知也
(72)【発明者】
【氏名】高城 真弓
(72)【発明者】
【氏名】大石 敏之
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−149137(JP,A)
【文献】 特開2013−200899(JP,A)
【文献】 特開昭57−178113(JP,A)
【文献】 特開平07−168619(JP,A)
【文献】 特開昭62−043538(JP,A)
【文献】 特開2006−090904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00−13/04;99/00
F04C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段に関して、個々の前記振動センサ手段の出力値間にある相互の関係性を示した、前記モータで異常が発生していない正常時動作データのモデルを記憶したモデル記憶手段と、
前記複数の振動センサ手段によって測定された測定データをそれぞれ収集して蓄積するセンサ情報蓄積手段と、
正常時の動作データを取得する際に、前記モータの回転数を少しずつ変化させる調整手段と、
前記センサ情報蓄積手段によって蓄積された、前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築して前記モデル記憶手段に記録するモデル構築手段と、
前記モデル記憶手段に記録されている前記モデルで求まる相関関係と前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係とを比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出するモータ異常検出手段と、
を備えることを特徴とするモータ異常検知システム。
【請求項2】
前記モデル構築手段は、前記振動センサ手段によって測定された測定データ間の相関関係を示す近似式およびフィット値を生成し、前記近似式およびフィット値をモデルとして記憶することを特徴とする請求項1記載のモータ異常検知システム。
【請求項3】
前記モデル構築手段は、生成された前記フィット値を予め定められた閾値と比較し、前記フィット値が予め定められた閾値以上である場合に、前記モデルを記憶することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ異常検知システム。
【請求項4】
前記モータ異常検出手段によって異常が検出された場合に、その旨を所定対象に通知する通知手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のモータ異常検知システム。
【請求項5】
前記モータは、液体を送り出すポンプを動作させることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載のモータ異常検知システム。
【請求項6】
前記モータ異常検出手段は、前記振動センサ手段によって測定された測定データの一つを、前記モデル構築手段で生成された近似式に代入することで、代入に用いた前記振動センサ手段以外の他の一乃至複数の測定データの予測値を算出し、該予測値と各々の前記複数の振動センサ手段の実測値とを比較して、その差が予め定められた閾値を超えた量により、前記相関関係の崩れ量を判定することを特徴とする請求項または請求項に記載のモータ異常検知システム。
【請求項7】
発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段と 前記モータの回転数を所要に変化させる調整手段とを設けて、正常時の動作データとして前記調整手段によって前記モータの回転数を少しずつ変化させた際の前記振動センサ手段によって測定された測定データを収集して蓄積すると共に、前記振動センサ手段によって測定された任意期間の測定データを収集して蓄積し、
蓄積済みの前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築してモデル記憶手段に記録し、
前記モデルで求まる相関関係と前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係とを比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出する
ことを特徴とするモータ異常検知方法。
【請求項8】
情報処理装置の制御部を、
発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段に関して、個々の前記振動センサ手段の出力値間にある相互の関係性を示した、前記モータで異常が発生していない正常時動作データのモデルを記憶したモデル記憶手段に記録されている前記モデルで求まる相関関係と前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係とを比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出するモータ異常検出手段と、
正常時の動作データを取得する際に、前記モータの回転数を少しずつ変化させる調整手段を働かせながら前記複数の振動センサ手段によって測定された、前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築して前記モデル記憶手段に記録するモデル構築手段、
として動作させることを特徴とするモータ異常検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの異常を検知するセンシング技術に関し、詳しくは発電所で用いられているモータの異常を検知するモータ異常検知システム、モータ異常検知方法及びモータ異常検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電所で用いられている様々なモータは、これまで異常要因の特定するために、モータに取り付けた各種センサ(電流、電圧、温度、など)の出力を解析していた。また、部品などの交換時期や異常を、監視員の過去の経験や専門性に頼った確認手法も行われている。また、情報処理装置による監視も行われていた。
【0003】
モータの異常監視に関連する技術は、例えば特許文献1に記載されている。この文献には、各種センサ(電流、電圧、温度、など)の出力信号を受け付けて現在のモータの状態を監視すると共に、予定出力の入力に伴い、モータに使用されている巻線温度の予測、巻線の劣化状態予測を行なう演算装置が開示されている。
【0004】
これらの情報処理による解析では、モータの定格や部品の仕様、運用状態、エンジニアの経験を生かして、様々な予測を踏まえつつ、問題箇所の特定や、異常の要因を判別していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−269719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発電所システムのように大規模なシステムでは、運用中や定期点検中に、様々な問題の発生しそうな箇所や異常個所を特定して、予備系への切替えや部品交換、重点検査などの対応を適宜図っている。
【0007】
このような運用形態において、些細な異常の検出や、故障予見などに繋がる異常検出を運用中に実施できれば、運用面に有益に働く。
【0008】
他方で、上記したようなモータに取り付けられた様々なセンサ群によるモータ単体の監視では、大まかな異常事象を特定できるものの、些細な異常の検出や故障予見に改善を有する。
【0009】
また、分析対象を人為的にモータの重要部分に定めて、様々なセンサから得た測定値について 周波数解析等を行うことで、部品の破損状況や劣化を検出することができる。
【0010】
しかしながら、このように分析対象を人為的に重要部分や疑わしい部分に定めることとした場合、異常検出には設計情報や設置情報に基づく様々な事前準備と分析専門家が必要となる。
【0011】
結果、大規模なシステムになればなるほど、システム全体を網羅的に異常検証や予見を行うことが困難な現実が生じる。
【0012】
また、目視や打撃検査による監視は、人間の主観評価であり、定量的評価が難しい。また、全ての機器の網羅的な常時的監視を行うことは困難である。
【0013】
さらに、発電所システムには、人間が入り難い位置に設置されるモータもある。
【0014】
そこで、本発明は、発電所内のモータに生じる異常を利便性よく検知可能としたモータ異常検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るモータ異常検知システムは、発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段に関して、個々の前記振動センサ手段の出力値間にある相互の関係性を示した、前記モータで異常が発生していない正常時動作データのモデルを記憶したモデル記憶手段と、前記複数の振動センサ手段によって測定された測定データをそれぞれ収集して蓄積するセンサ情報蓄積手段と、正常時の動作データを取得する際に、前記モータの回転数を少しずつ変化させる調整手段と、前記センサ情報蓄積手段によって蓄積された、前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築して前記モデル記憶手段に記録するモデル構築手段と、前記モデル記憶手段に記録されている前記モデルで求まる相関関係と 前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係と を比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出するモータ異常検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るモータ異常検知方法は、発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段と 前記モータの回転数を所要に変化させる調整手段と を設けて、正常時の動作データとして 前記調整手段によって前記モータの回転数を少しずつ変化させた際の前記振動センサ手段によって測定された測定データを収集して蓄積すると共に、前記振動センサ手段によって測定された任意期間の測定データを収集して蓄積し、蓄積済みの前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築してモデル記憶手段に記録し、前記モデルで求まる相関関係と 前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係と を比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出することを特徴とする。
【0017】
本発明に係るモータ異常検知プログラムは、情報処理装置の制御部を、発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段に関して、個々の前記振動センサ手段の出力値間にある相互の関係性を示した、前記モータで異常が発生していない正常時動作データのモデルを記憶したモデル記憶手段に記録されている前記モデルで求まる相関関係と 前記複数の振動センサ手段から得られた任意期間の測定データ間の相関関係と を比較処理して、相関関係の崩れ量を基準とした異常値の発生を監視し、所定量の関係性崩れを報知事象として抽出するモータ異常検出手段と、正常時の動作データを取得する際に、前記モータの回転数を少しずつ変化させる調整手段を働かせながら前記複数の振動センサ手段によって測定された、前記モータで異常が発生していない正常時の動作データから、各々の測定データの間の相関関係を抽出して、前記正常時動作データのモデルを構築して前記モデル記憶手段に記録するモデル構築手段として動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発電所内のモータに生じる異常を利便性よく検知可能としたモータ異常検知システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態にかかるモータ異常検知システムを示すブロック図である。
図2】第1の実施形態にかかるモータ異常検知システムの処理動作を例示するフローチャートである。
図3】本発明の第2の実施形態にかかるモータ異常検知システムを示すブロック図である。
図4】実施例にかかるモータ異常検知システムを示す説明図である。
図5】センサ情報蓄積部の処理動作を例示したフローチャートである。
図6】モデル構築部の処理動作を例示したフローチャートである。
図7】モータ異常検出部の処理動作を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態のモータ異常検知システムを図面に基づいて説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態のモータ異常検知システム10を示すブロック図である。
【0022】
モータ異常検知システム10は、発電所内に設けられているモータの振動を測定する複数の振動センサ手段を入力として受け付けて異常を検知するための、モータ異常検出部20と、モデル記憶部30とを含み、構成される。
【0023】
モデル記憶部30には、個々の振動センサ(1−1,1−2,・・・1−n)に関して任意期間の出力値間にある測定データ間の関係性を示した正常時モデルが記録されている。この正常時モデルは、一手法としてはモータを動作させている異常としない振動センサ群の動作データから生成すればよい。
【0024】
モータ異常検出部20は、リアルタイム性を有した測定値や、蓄積されている測定値など、監視対象とする複数の振動センサ手段の任意期間の測定データについて、その測定データ間の相関関係を求め、モデル記憶部30に記録されている正常時モデルで求まる相関関係と比較処理する。モータ異常検出部20は、比較結果で相関関係の崩れ量(不一致箇所の量)を基準に、所定量の関係性崩れを検出して、異常値の発生時に報知事象として抽出する。また、崩れ量と共に、崩れ方を基準に異常の発生を抽出してもよい。また、崩れ量の時間当たりの増減(変化量)を踏まえてもよい。なお、抽出した報知事象は、所定の記憶部に記録したり、担当者に自動通知したり、他のシステムに通知すればよい。また、異常度合いによっては、モータを自動停止したり出力を増減する信号を出力してもよい。時間あたりの崩れ量や変化量が所定値を超えた際に、緊急度を有する報知事象として通知するようにしてもよい。
【0025】
次に、第1の実施形態にかかるモータ異常検知システム10の動作例を説明する。
図2は、第1の実施形態にかかるモータ異常検知システム10の処理動作を例示するフローチャートである。
【0026】
モータ異常検出部20は、監視対象とする振動センサ群の測定データを受け付ける(S101)。この際に入力する測定データは、リアルタイムの測定データでもよいし、任意の区間の過去に収集された測定データでも可能である。
【0027】
並列的に、モータ異常検出部20は、モデル記憶部30に記録されている正常時モデルを取得する(S102)。
【0028】
モータ異常検出部20は、受け付けたセンサ値群を識別して相関関係を求める(S103)。
【0029】
次に、モータ異常検出部20は、求めた相関関係と、正常時モデルで求まる相関関係とを比較処理して、関係性崩れを示す値を算定し、関係性に崩れが在るか無いか/どこに在るか/どのタイミングに在るか/などを判別処理する(S104)。
【0030】
モータ異常検出部20は、関係性崩れ/崩れの進行/所定位置に顕著な崩れ/等が所定量以上だった際に、報知事象として所定の機器に通知する(S105)。
このように、本実施形態によれば、モータに設置された複数の振動センサの測定値から、該当モータの異常を、簡便且つ正確に捉え得る検知システムを得られる。この際、従前のシステムよりも微細な事象まで捕捉できる。また、従前のシステムのように、特定部分に注目した分析や分析専門家による判定を要することなく、異常の判定が行える。また、低リソースでリアルタイム監視システムを構築できる。
【0031】
なお、本システムは、モータ1台毎に解析すればよく、複数台のモータを一括して同時並行的に監視することもできる。
【0032】
[第2の実施形態]
次に第2の実施の形態を説明する。なお、第1の実施形態と同様の箇所について、説明を簡略化又は省略する。
第2の実施の形態では、第1の実施の形態で用いたモータの異常が生じていない正常時モデルを構築する手段を含んでいる。
【0033】
図3は、第2の実施形態の制御棒監視システム10を示すブロック図である。
【0034】
モータ異常検知システム10は、モータ異常検出部20と、モデル記憶部30と、センサ情報蓄積部40と、モデル構築部50とを含み、構成される。
【0035】
センサ情報蓄積部40は、個々のモータに対応付けられた複数の振動センサによって測定された測定データ群をそれぞれ収集して蓄積する。
【0036】
モデル構築部50は、センサ情報蓄積部40によって蓄積されている1ないし全てのモータで異常が発生していない正常時のそれぞれの動作データ群から、各データ群毎に各々の測定データの間の相関関係を抽出して、正常時動作データの各モータの正常時モデルを構築してモデル記憶部30に記録する。
モデル構築部50は、各モータのモデル正常時モデルを、モータ毎の振動センサ群によって測定された測定データ間の相関関係を示す近似式およびフィット値を生成処理すればよい。生成した近似式およびフィット値は各モータのモデルとしてモデル記憶部30に記録する。また、モデル構築部50は、生成できたフィット値を予め定められた閾値と比較し、フィット値が予め定められた閾値以上である場合に、正常時モデルとして採用するアルゴリズムを有するとなお良い。
【0037】
このように近似式を用いたモデルを生成することで、処理リソースの低減やリアルタイム処理性能の向上が図り得る。
【0038】
このように近似式を用いた正常時モデルを使用する際に、モータ異常検出部20は、以下のように各々のモータ毎に動作させればよい。
モータ異常検出部20は、例えば、各モータに任意の振動センサ(例えば軸受け周囲などの要注目要素近傍のセンサ)によって測定された測定データの一つを、該当モータの正常時モデルの近似式に代入する。この代入によって、振動センサによって測定されるはずの各予測値を算出できる。
次に、モータ異常検出部20は、予測値と実測値との差の数量が予め定められた閾値とを比較することにより、相関関係の崩れ量を判定する。相関関係の崩れ量が予め定められた閾値を超えた際に異常を判定する。
【0039】
このように、本実施形態によれば、モータに設置された複数の振動センサの測定値から、該当モータの異常を、簡便且つ正確に捉え得る検知システムを得られる。この際、従前のシステムよりも微細な事象まで捕捉できる。また、従前のシステムのように、特定部分に注目した分析や分析専門家による判定を要することなく、異常の判定が行える。また、低リソースでリアルタイム監視システムを構築できる。
【実施例】
【0040】
次に1つの実施例を示して本発明を説明する。本実施例では、第2の実施形態で1台のモータ内に生じ得る、僅かな傷やベアリング内のグリス消耗をリアルタイム的に監視可能なシステムである。また、複数の振動センサをポンプとの軸受け(ベアリング)近傍に配設する。
【0041】
換言すれば、本実施例のシステムは、軸受け傷検知装置として動作する。
【0042】
発電設備の一部として、図4に示すように、ポンプ3を動作させるモータ2と、モータ2の出力を調整する制御装置4が設けられている。ポンプ3は、モータ2から動力を得て流体を送り出す。図中の調整機は配管中の流体速度を調整する。
【0043】
モータ異常検知システム(軸受け傷検知装置)は、モータ2について監視する。モータ2には、振動センサ1−1、1−2が付設されている。各振動センサは、少なくとも一方を軸受け近傍の振動を測定するように付与されている。なお、振動センサは、最低限の2つを用いて本実施例を説明する。3つ以上の振動センサをモータ2に設置してもよい。また他種のセンサ(電流計や電圧計、温度センサなど)を合せて設けてもよい。また、制御装置4から電流や電圧、回転数などの計測値を取り込む構成としてもよい。本実施例では、モータ2の出力を調整する制御装置4は、モータ軸の回転数を基準にモータ出力を制御する。なお、調整機は、配管内の水圧を制御する制御弁として説明する。
【0044】
モータ異常検知システム10は、振動センサ1−1、1−2の出力値を入力として受け付けて異常を検知する。また、正常時モデルの構築に、振動センサ1−1、1−2の出力値と共に制御装置4の出力も用いる。
【0045】
センサ情報蓄積部40には、振動センサ1−1、1−2の出力値と測定時刻の時刻データとを対応付けて逐次蓄積する。
【0046】
モデル構築部50は、軸受け傷が発生していない正常時の一定時間分の測定データをセンサ情報蓄積部40から取得して、制御装置4の出力値と共に測定データの相関関係を抽出して正常時モデルを構築する。
【0047】
モータ異常検出部20は、軸受け傷検出手段として動作させる。モータ異常検出部20は、抽出された相関関係をモデル記憶部30から受け取るとともに、センサ情報蓄積部40から一定時間分の測定データを受け取り、これらを基にモータ2における軸受け傷の発生を検知する。
【0048】
モータ異常検出部20は、必要に応じて、アラーム機やディスプレイ等の所要に機器に通知する通知部を含み、検知した軸受け傷の発生をアラーム音やメッセージ等で通知する。また、例えば所定値以下の傷についてはログ化するのみでも構わない。
【0049】
次に、図5を用いて、振動センサ1−1、1−2およびセンサ情報蓄積部40の動作を説明する。
まず、振動センサ1−1、1−2は、モータ2の振動を常に測定している(ステップS501)。
次に、センサ情報蓄積部40は、振動センサ1−1、1−2によって測定された各測定データを、測定時刻の時刻データとともに受け付ける(ステップS502)。
次に、センサ情報蓄積部40は、振動センサ1−1、1−2から受け取ったデータ(測定データおよび時刻データ)を蓄積する(ステップS503)。
上述したステップS501〜S503の動作は、常時、繰り返し行われる。
なお、蓄積された情報は、振動センサ1−1、1−2による出力値と測定時刻とから構成され、一般に時系列データと呼ばれている形態となる。
センサ情報蓄積部40による情報蓄積の態様としては、リレーショナルデータベースのような機構を用いてもよいし、単純なテキストファイルで保持してもよい。
【0050】
つぎに、図6を用いて、モデル構築部50の動作を説明する。
まず、モータ2で軸受け傷が一切発生していない正常動作時において、制御装置4を調整してモータ2の回転数を少しずつ変化させる(ステップS601)。なお、この際、調整機の制御状態や配管内の流速、圧力などを踏まえ、配管内の水圧を上げる方向、下げる方向が混在するように動作させる。
【0051】
次に、制御装置4の操作により変化する振動を、振動センサ1−1、1−2が読み取り、その測定データおよび時刻データをセンサ情報蓄積部40が随時蓄積する(ステップS602、図5のステップS501〜S503)。
次に、モデル構築部50は、センサ情報蓄積部40から、制御装置4を操作して回転数を変化させた期間(正常動作時の変動データが記録された期間)の測定データを受け取る(ステップS603)。
次に、モデル構築部50は、受け取った測定データから、モータ2について測定された振動値間に、相関関係があるかどうかを識別する(ステップS604)。
【0052】
ここでは、モデル構築部50は、センサ情報蓄積部40から入手した測定2点の一定時間の時系列データから、2点間の相関関係として、B=f(A)のような数式ベースの近似式を生成する。近似式の生成方法としては、例えば、線形回帰と呼ばれている方法を用いればよい。また、ほかにも様々な方法が提案されており、何れの手法を採用してもよい。
【0053】
さらに、モデル構築部50は、生成した近似式と、生成時に利用した時系列データとから、実際のデータを近似式がどの程度近似できているかどうかの指標であるフィット値を生成する。線形回帰として最小二乗法を用いて近似した場合、フィット値は最小二乗法における決定係数とすることができる。
【0054】
次に、フィット値と予め定められた閾値を比較し、閾値以上であれば(ステップS605のN)、2点間の関係(近似式およびフィット値)をモデルとして記憶して処理を終了する(ステップS606)。また、フィット値が閾値以下の場合(ステップS605のY)、処理を終了する。振動センサを3つ以上用いる場合は、多点間の関係をもちいてモデルを生成すればよい。なお、以下では、記憶された正常時の2点間の関係をモデルと呼ぶ。
【0055】
つぎに、図7を用いて、軸受け傷検出を行うモータ異常検出部20の動作を説明する。
なお、モータ異常検出部20の動作条件として、正常時のモデルが構築され、センサ情報蓄積部50に振動センサ1−1、1−2からの測定データが常時的に蓄積されているものとする。
【0056】
まず、モータ異常検出部20は、センサ情報蓄積部50から、軸受け傷を検知したい、ある時刻tから過去一定時間分の測定データを取得する(ステップS701)。ここで、ある時刻tとは、現在時刻より若干の過去の時刻とする。仮に現在時刻の測定データが常にセンサ情報蓄積部50に蓄積されている場合は、時刻tは現在時刻でも構わない。
【0057】
次に、モデル構築部50に記憶されている正常時のモデルを取得する(ステップS702)。
【0058】
次に、モデルから、2点A、Bの振動センサ1−1、1−2間の関係(近似式B=f(A)およびフィット値)を取得する(ステップS703)。
【0059】
次に、モータ異常検出部20は、センサ情報蓄積部50から入手した測定データに含まれる一方の振動センサAの値を近似式B=f(A)へ代入し、結果である他方の振動センサBの予測値を求める(ステップS704)。
【0060】
次に、モータ異常検出部20は、求められた振動センサBの予測値とセンサ情報蓄積部40から入手した振動センサBの実測値の差異Rを算出する(ステップS705)。
【0061】
次に、モータ異常検出部20は、差異Rが予め定められた閾値を超えている場合(ステップS706のY)、近似式B=f(A)の関係が成り立っていない状態と判断し、モータ2に軸受け傷が発生している可能性があると判断して、所定の通知行為を実行する(ステップS707)。
【0062】
次に、モータ異常検出部20は、ステップS707で通知を行った後、および、差異Rが予め定められた閾値を超えていない場含(ステップS706N)、時刻tを一定時間△t分だけ進めて、ステップS701からの処理を繰り返す。
【0063】
ここで△tは、軸受け傷を検知したい間隔から設定されるものであるが、振動センサ10、20がセンサ情報蓄積部50へ測定した結果を通知する間隔より大きい必要がある。
【0064】
また、モータ異常検知システム10は、予め近似式B=f(A)と近似式A=f(B)と各フィット値のような双方向的にモデルを求めておき、振動センサAと振動センサBの基準とする振動値を入れ替えて逐次的に監視してもよい。
【0065】
このようにして得られた本実施例の軸受け傷検知装置では、振動を測定するために設置される既存の振動センサ1−1、1−2の測定データを利用して、モータ2で軸受け傷が発生したことを検知することが可能である。また、グリス消耗を認知可能となる。また、3点以上の測定値を用いた際に、双方的に分析することで、崩れの伝播元を識別可能な事象もある。
【0066】
また、モータに関連する多種のセンサとの相関関係も同様に解析対象としてもよい。例えば、モータの制御系の検出値や、ポンプの入力口の圧力や出力口の圧力を測定している圧力センサ、可聴音センサなども利用できる。
【0067】
また、本実施例の軸受け傷検知装置では、軸受け傷発生の初期段階で検知することができる。また、グリスの損耗が所定値を超えたことを検知することも可能である。
【0068】
また多量な演算リソースを消費することなく、任意箇所の軸受けの異常を検知できる。この検知では、問題の発生予見も含まれる。
【0069】
このような分析手法を用いずに、初期段階の傷を認知することは、人間の能力的にも非常に困難である。また、異常個所として検査対象とする必要があり、リソース配分として、設備に全てを行うことは非常に困難である。他方、本手法のように、各センサの値の監視であれば、異常個所の特定や異常度合いなど様々な事柄を、広範な範囲で集中的に監視できる利点がある。
【0070】
尚、モータ異常検知システムの各部は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせを用いて実現すればよい。ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせた形態では、RAMにモータ異常検知プログラムが展開され、プログラムに基づいて制御部(CPU)等のハードウェアを動作させることによって、各部を各種手段として実現する。また、このプログラムは、記憶媒体に固定的に記録されて頒布されても良い。当該記録媒体に記録されたプログラムは、有線、無線、又は記録媒体そのものを介して、メモリに読込まれ、制御部等を動作させる。尚、記録媒体を例示すれば、オプティカルディスクや磁気ディスク、半導体メモリ装置、ハードディスクなどが挙げられる。
【0071】
上記実施の形態を別の表現で説明すれば、モータ異常検知システムとして動作させる情報処理装置を、RAMに展開されたモータ異常検知プログラムに基づき、モータ異常検出手段、モデル記憶手段、センサ情報蓄積手段、モデル構築手段、などとして制御部を動作させることで実現することが可能である。
【0072】
以上説明したように、本発明を適用した情報処理装置は、発電所内のモータに生じる異常を利便性よく検知可能としたモータ異常検知システムを提供できる。
【0073】
また、本発明の具体的な構成は前述の実施形態や実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲でブロック構成の分離併合、手順の入れ替えなどの変更があっても良く、上記説明が本発明を限定するものではない。例えば、各構成要素(モータ異常検出部やセンサ情報蓄積部など)を各々情報処理装置で構成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 ・・・ 振動センサ
2 ・・・ モータ
3 ・・・ ポンプ
4 ・・・ 制御装置(調整手段)
10 ・・・ モータ異常検知システム
20 ・・・ モータ異常検出部(モータ異常検出手段)
30 ・・・ モデル記憶部(モデル記憶手段)
40 ・・・ センサ情報蓄積部(センサ情報蓄積手段)
50 ・・・ モデル構築部(モデル構築手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7