(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369910
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】製錬プロセスの始動
(51)【国際特許分類】
C21B 11/02 20060101AFI20180730BHJP
C22B 5/10 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
C21B11/02
C22B5/10
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-523342(P2015-523342)
(86)(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公表番号】特表2015-522719(P2015-522719A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】AU2013000792
(87)【国際公開番号】WO2014015364
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年6月23日
(31)【優先権主張番号】2012903173
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】318006000
【氏名又は名称】タタ スチール リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マッカーシー,キャロリン
(72)【発明者】
【氏名】ドライ,ロドニー ジェイムズ
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−032006(JP,A)
【文献】
特表2002−519516(JP,A)
【文献】
特開2001−073019(JP,A)
【文献】
特表2007−506857(JP,A)
【文献】
特表平04−505640(JP,A)
【文献】
特表2005−537388(JP,A)
【文献】
特表2014−519551(JP,A)
【文献】
特開平04−316982(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0031858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00−5/06
C21B 7/00−9/16
C21B 11/00−15/04
C22B 1/00−61/00
F27B 1/00−3/28
F27D 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製錬容器において金属含有材料を製錬し、かつ溶融金属を生産する溶融浴に基づくプロセスの始動方法であって、前記製錬容器の製錬チャンバが、炉床(1)と、前記炉床(1)から上方に延びる側壁(4)とを有し、前記側壁(4)は、少なくともその下部部分に水冷要素を含み、前記製錬容器が、(a)前炉(5)と、(b)前記製錬チャンバおよび前記前炉(5)を相互連結する前炉連結部(6)とを含み、前記方法が、
(a)前記製錬チャンバが最初は空の状態であり、装入量の高温金属を前記前炉(5)から前記製錬チャンバの中に供給するステップと、
(b)前記高温金属の装入完了後、前記製錬チャンバの中に固体の炭素質材料および酸素含有ガスを供給し、前記炭素質材料を点火して前記製錬チャンバおよび高温金属を加熱し、溶融スラグを形成して、その後その溶融スラグの量を増大させるステップであって、前記高温金属および前記溶融スラグが前記製錬チャンバ内の溶融浴を形成する、ステップと、
(c)金属含有材料を前記溶融浴の中に供給して、金属含有材料を溶融金属に製錬するステップと、
を含むことを特徴とし、
さらに、前記ステップ(b)の間に、前記溶融浴の温度を、次の2項、すなわち、
(i)前記溶融浴内の温度の指標を得るために、前記溶融浴と接触する水冷要素の熱流束を監視することと、
(ii)前記製錬チャンバの中への熱入力を調整するために、かつ、それによって、前記浴温度が、製錬プロセスの始動シーケンスを中断させるような前記水冷要素における高い熱流束を惹起しないように前記溶融浴の温度を制御するために、前記水冷要素の熱流束に関係する固体の炭素質材料および/または酸素含有ガスの供給流量を調整することと、
によって制御するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記製錬チャンバと、前記前炉(5)と、前記前炉連結部(6)とを予熱するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記炉床(1)と、前記前炉(5)と、前記前炉連結部(6)との平均表面温度が1000℃を超えるように、前記炉床(1)と、前記前炉(5)と、前記前炉連結部(6)とを予熱するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記炉床(1)と、前記前炉(5)と、前記前炉連結部(6)との平均表面温度が1200℃を超えるように、前記炉床(1)と、前記前炉(5)と、前記前炉連結部(6)とを予熱するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法において、ステップ(a)が、前記高温金属の高さレベルが前記前炉連結部(6)の頂部の少なくとも約100mm上部に位置するように、十分な高温金属を供給するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記製錬チャンバの中への高温金属の装入を完了した後、前記製錬チャンバ内に熱を発生させるために、気体燃料または液体燃料と酸素含有ガスとを、溶融金属上部のガス空間の中に、ある長さの時間、注入するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)が、溶融スラグの形成を促進するため、前記製錬チャンバの中にフラックス材料を供給するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、スラグあるいはスラグ形成剤を注入するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、ステップ(b)の過程の間の任意の時点において、前記金属含有材料を前記溶融浴の中に供給するステップ(c)を開始するステップを含む、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記溶融浴に基づくプロセスが、次のステップ、すなわち、
(a)炭素質材料、および固体または溶融状態の金属含有材料を前記溶融浴の中に供給し、反応ガスを発生させ、金属含有材料を製錬して、前記溶融浴内に溶融金属を生産するステップと、
(b)前記浴から放出される可燃ガスを浴上部で燃焼するために酸素含有ガスを前記製錬チャンバの中に供給して、浴内の製錬反応のための熱を発生させるステップと、
(c)溶融材料の熱搬送液滴および飛沫であって、前記製錬チャンバの頂部空間内の燃焼領域の中に投入された時に加熱され、その後、前記浴の中に落下して戻る液滴および飛沫を作出するために、ガスの湧昇によって前記浴から上方への溶融材料の顕著な動きを生成するステップであって、それによって、前記液滴および飛沫は熱を下向きに前記浴の中に伝送し、その熱はそこで前記金属含有材料の製錬に用いられる、ステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、この方法の少なくとも早期部分の間の溶融浴の温度の指標とするために、前記製錬容器の下部部分における水冷要素の熱流束を利用すること、および、臨界熱流束のレベルを超えて方法を中断することを避けるように始動の間の前記溶融浴の温度を制御するために、酸素含有ガスおよび/または炭素質材料の前記製錬容器の中への注入流量を調整すること、を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有材料の製錬プロセスの始動方法に関する。
【0002】
「金属含有材料」という用語は、本明細書においては、固体の原材料および溶融原材料を含むものと理解される。また、この用語は、部分的に還元された金属含有材料をもその範囲内に含む。
【0003】
本発明は、それ以外を排除するわけではないが、特に、製錬容器において金属含有原材料から溶融金属を生産するための溶融浴に基づく製錬プロセスの始動方法に関する。この製錬容器は、溶融浴内におけるガスの生成によって生じる強い浴/スラグの噴き上げを有し、この場合、このガスの生成は、少なくとも部分的には、溶融浴の中への炭素質材料の脱揮発成分の結果である。
【0004】
本発明は、それ以外を排除するわけではないが、特に、鉄鉱石のような鉄を含む材料を製錬して溶融鉄を生産するプロセスの始動方法に関する。
【0005】
本発明は、それ以外を排除するわけではないが、特に、金属含有材料を製錬するための製錬チャンバを含む製錬容器における製錬プロセスの始動方法に関する。
【背景技術】
【0006】
既知の溶融浴に基づく製錬プロセスは、一般的にHIsmeltプロセスと呼称され、本出願人の名前における相当数の特許および特許出願に記載されている。
【0007】
溶融浴に基づく別のもう1つの製錬プロセスが、以下、「HIsarna」プロセスと呼称される。HIsarnaプロセスおよび装置は、本出願人の名前における国際出願PCT/AU99/00884号明細書(国際公開第00/022176号パンフレット)に記載されている。
【0008】
HIsmeltプロセスおよびHIsarnaプロセスは、特に、鉄鉱石または他の鉄を含む材料からの溶融鉄の生産に関係している。
【0009】
溶融鉄の生産に関して、HIsmeltプロセスは、次のステップを含む。すなわち、
(a)製錬容器の製錬チャンバ内に溶融鉄およびスラグの浴を形成するステップと、
(b)その浴の中に、(i)通常微粉粒体の形態の鉄鉱石、および(ii)鉄鉱石の原材料の還元剤並びにエネルギー源として作用する固体の炭素質材料、通常石炭、を注入するステップと、
(c)その浴中において鉄鉱石を鉄に製錬するステップと、
である。
【0010】
「製錬」という用語は、本明細書においては、溶融金属を生産するために金属酸化物を還元する化学反応が行われる熱的処理を意味すると理解される。
【0011】
HIsmeltプロセスにおいては、金属含有材料と固体の炭素質材料との形態の固体の原材料が、キャリアガスと共に、複数本のランスから溶融浴の中に注入される。このランスは、固体の原材料の少なくとも一部分を製錬チャンバの底部における金属層の中に供給するために、製錬容器の側壁を貫通して容器の下部領域の中に下向きかつ内向きに延び込むように、垂直に対して傾斜している。固体の原材料およびキャリアガスは、溶融浴に貫入して、溶融金属および/またはスラグを浴の表面上部の空間内に飛散させ、遷移域を形成する。溶融浴から放出される反応ガスを容器の上部領域において後燃焼させるため、酸素含有ガス、通常酸素富化空気または純酸素の送風を、下向きに延びるランスから、容器の製錬チャンバの上部領域に中に注入する。遷移域においては、溶融金属および/またはスラグの上昇しその後降下する液滴または飛沫または流れの好ましい集合体が存在し、これが、浴上部において反応ガスの後燃焼によって生じる熱エネルギーを浴に伝達する効果的な媒体になる。
【0012】
通常、溶融鉄生産の場合に酸素富化空気を使用する時には、それは、1200℃程度の温度で供給され、熱風炉で生成される。常温の工業用純酸素を使用する場合は、通常、それは周囲大気温度またはそれに近い温度で供給される。
【0013】
製錬容器内で反応ガスの後燃焼から生じるオフガスは、オフガスダクトを通して製錬容器の上部領域から排除される。
【0014】
製錬容器は、下部炉床の耐火物内張り部分と、容器の側壁および屋根における水冷パネルとを含み、水は、連続回路においてパネルを通して連続的に循環される。
【0015】
HIsmeltプロセスは、単一のコンパクトな容器における製錬によって、大量の溶融鉄、通常少なくとも0.5Mt/年の生産を可能する。
【0016】
HIsarnaプロセスは、(a)製錬チャンバと、固体の原材料および酸素含有ガスを製錬チャンバの中に注入するためのランスとを含む製錬容器であって、溶融金属およびスラグの浴を含有するのに適した製錬容器と、(b)金属含有原材料を予備処理するための製錬サイクロンであって、製錬容器の上部にそれと直接連絡するように配置される製錬サイクロンとを含む製錬装置において実施される。
【0017】
「製錬サイクロン」という用語は、本明細書においては、通常垂直円筒型のチャンバを画定する容器であって、そのチャンバに供給される原材料がチャンバの垂直の中心軸の回りの径路内に動くと共に、金属含有原材料を少なくとも部分的に溶融するのに十分な高い運転温度に耐え得るように構成される容器を意味すると理解される。
【0018】
HIsarnaプロセスの一形態においては、炭素質の原材料(通常石炭)と、場合によってはフラックス(通常焼成石灰石)とが、製錬容器の製錬チャンバ内の溶融浴の中に注入される。炭素質材料は、還元剤源およびエネルギー源として供給される。場合によってはフラックスと混合される鉄鉱石のような金属含有原材料は、製錬サイクロンの中に注入され、その中で、加熱されると共に部分的に溶融されかつ部分的に還元される。この溶融し、部分的に還元された金属含有材料は、製錬サイクロンから製錬容器内の溶融浴の中に下向きに流下し、その浴内において溶融金属に製錬される。溶融浴内で生成される高温の反応ガス(通常、CO、CO
2、H
2およびH
2O)は、製錬チャンバの上部部分において酸素含有ガス(通常工業等級の酸素)によって部分燃焼される。後燃焼によって発生した熱は、溶融浴の中に落下する上部部分内の溶融液滴に伝達されて浴の温度を維持する。部分燃焼した高温の反応ガスは、製錬チャンバから上方に流れて、製錬サイクロンの底部に流入する。酸素含有ガス(通常工業等級の酸素)が羽口から製錬サイクロンの中に注入される。この羽口は、水平面内のサイクロン状の渦巻パターン、すなわち製錬サイクロンのチャンバの垂直の中心軸の回りの渦巻パターンを生成するような態様に配置される。この酸素含有ガスの注入によって、製錬容器ガスのさらなる燃焼が惹起され、非常に高温の(サイクロン状の)フレームが生じる。通常微粉粒体の形態の流入金属含有原材料は、製錬サイクロンの羽口からこのフレームの中に空気搬送方式で注入され、急速に加熱されると共に、部分的に溶融され、それに部分的な還元(およそ10〜20%の還元)が伴う。この還元は、ヘマタイトの熱分解と、製錬チャンバからの反応ガス中のCO/H
2の還元作用とによるものである。高温の部分溶融された金属含有原材料は、サイクロン状の渦巻作用によって製錬サイクロンの壁面上に外向きに吹き付けられ、前記のように、製錬容器のチャンバにおける製錬のために製錬容器の中に下向きに流下する。
【0019】
HIsarnaプロセスの上記の形態の正味の効果は2段階の向流プロセスである。金属含有原材料は、製錬容器から流出する反応ガス(酸素含有ガスの添加を伴う)によって加熱され、かつ部分的に還元されて、製錬容器の中に下向きに流下し、製錬容器の製錬チャンバ内において溶融鉄に製錬される。一般的な意味において、この向流配置は生産性およびエネルギー効率を増大させる。
【0020】
HIsmeltプロセスおよびHIsarnaプロセスは、製錬容器内の溶融浴の中への、水冷の固体注入ランスによる固体の注入を含む。
【0021】
さらに、両プロセスの重要な一特徴は、プロセスが、金属含有材料製錬用の製錬チャンバと、前炉連結部によって製錬チャンバに連結される前炉であって容器からの金属生産物の連続的な流出を可能にする前炉とを含む製錬容器において操作されるという点である。前炉は、溶融金属充満サイホンシールとして作動し、溶融金属が生産されるにつれて、余剰の溶融金属を製錬容器から自然に「溢流(spill)」させる。これによって、製錬容器の製錬チャンバ内における溶融金属の高さレベルを知ることができ、それを小さい公差の範囲内に制御できる−これはプラントの安全にとって必須である。溶融金属のレベルは、製錬チャンバの中に延び込む固体注入ランスのような水冷要素の下部に(常に)安全な間隔を保持しなければならず、そうしないと水蒸気爆発の可能性が生じる。前炉が、HIsmeltプロセスおよびHIsarnaプロセス用の製錬容器の固有の一部分と考えられるのはこの理由からである。
【0022】
「前炉」という用語は、本明細書においては、製錬容器の一チャンバを意味すると理解される。このチャンバは、大気に開放される製錬容器のチャンバであって、流路(本明細書においては「前炉連結部」と呼称する)を介して製錬容器の製錬チャンバに連結され、標準的な運転条件においては、そのチャンバの中に溶融金属を含み、その場合、前炉連結部は溶融金属で完全に充満されている。
【0023】
製錬容器におけるHIsmeltプロセスおよびHIsarnaプロセス両者の正規の始動は、次のステップを含む。すなわち、
1.(名目上は空の)製錬容器の下部部分であって前炉チャンバおよび前炉連結部を含む部分の耐火物を予熱するステップと、
2.外部で用意した高温金属を、前炉から、金属の高さレベルが前炉連結部の頂部の少なくとも約100mm上部に位置するような量において製錬容器の中に注入するステップと、
3.場合によっては、製錬チャンバ内に熱を発生させるため、(天然ガスまたはLPGのような)燃料ガスおよび酸素含有ガスを、金属浴の上部のガス空間の中に、一定時間、注入するステップと、
4.装入金属を加熱すると共にスラグの形成を開始してスラグ量を増大させる目的で、石炭(好ましくはフラックスの添加を含めて)および酸素含有ガスの連続的な注入を開始し、その後その注入を継続するステップと、
5.場合によっては、スラグの形成をさらに加速するために、破砕スラグ、および/または、珪砂/ボーキサイト+石灰/ドロマイトフラックスのようなスラグ形成剤を注入するステップと、
6.正常な製錬運転を開始するため、(石炭およびフラックスと共に)鉄鉱石のような鉄を含む材料の注入を開始するステップと、
を含む。
【0024】
本出願人の実際的な経験によれば、上記の始動シーケンスを注意深く制御しないと、このシーケンスによって、製錬容器の下部部分における水冷パネルのような水冷要素上に、過度に高い熱流束―通常500kW/m
2より大きい熱流束―が容易に生じ得ることが示されている。
【0025】
この説明目的のため、「下部部分」という用語は、露出した水冷要素(プラントが運転状態である場合には、通常固化したスラグ層で被覆されている)であって、プラントが「小型の」工業規模(例えば6mのHIsmelt容器)である場合には、製錬容器内部の全水冷要素の底部2〜2.5m(垂直)の範囲内の水冷要素を意味すると理解される。さらに小型のプラント(例えば2.5mのHIsarnaパイロットプラント)の場合には、この間隔距離は比例的に低減されて、約1〜1.5mになるであろう。逆に、非常に大型のプラント(例えば8mのHIsmelt容器)の場合には、この間隔距離は約2.5〜3mに増大するであろう。
【0026】
本明細書においては、「露出した」水冷要素は次のような要素を意味すると理解される。すなわち、
(i)プラントが正常に運転されている場合、溶融金属および/またはスラグによって飛沫噴射される容器の内側の外表面積の少なくとも30%を有する要素であって、
(ii)液体相の水への対流熱伝達によって内部から冷却される要素であり、その冷却水は、通常10〜80℃および0〜10バール(ゲージ)の範囲内にあり、かつ、冷却流路内の水の速度は0.5m/sを超える、要素を意味する。
【0027】
製錬容器の下部部分の水冷要素の個々の設計に応じて、熱流束が500kW/m
2を超えると、プラントを停止することが可能であり、この場合は、始動シーケンスを一時的に強制中断させる。水冷要素は、より高い熱流束(例えば700〜800kW/m
2)に耐えるように設計することも可能であるが、これは要素のコストを増大させることになる。水冷要素を500kW/m
2を超える熱流束に耐えるように設計すると、運転の「枠(window)」は拡大するが、同じ全体的な論理が当てはまる。
【0028】
この説明目的のため、「500kW/m
2」という量は、容器の下部部分における水冷要素の設計最大熱流束を意味すると理解される。但し、本発明は、500kW/m
2の設計最大熱流束を有する水冷要素に限定されないことが強調される。また、この熱流束の測定は、短時間(<30秒)の(測定に関する)変動を排除すると理解される。本明細書において言及される熱流束は30秒以上にわたる時間平均である。
【0029】
熱流束が設計最大熱流束を超えた場合の結果としてプラントが停止すると、製錬容器内の金属の想定外の冷却−特に前炉連結部内の金属の冷却−に至る遅れが結果的に生じる。金属がある点を超えて冷却されると、前炉連結部の固化を避けるために、容器を最終出湯することが必要になる。従って、全始動が中断され、全始動シーケンスを、(重大なコストと生産時間の損失とにおいて)再度開始しなければならない。
【0030】
一般的に、製錬容器の下部部分における水冷要素が可能性のある高い熱流束に曝露される時間は、水冷要素の底部の列を、(主として)スラグ飛沫噴射および/またはスラグ被覆するのに十分なスラグ層の深さを確立するために必要な時間に限定される。一旦、スラグ飛沫噴射されまたはスラグ被覆されると、この水冷要素は、適度の厚さ(>10mm)のスラグ固化層を形成し、熱流束は大幅に低いレベル(通常<200〜250kW/m
2)に低下する。
【0031】
上記の記述は、オーストラリアまたは他国における共通の一般的知識を認めたものと理解されるべきではない。
【発明の概要】
【0032】
本発明は、次の2点の認識に基づいている。すなわち、(1)本明細書において記述する製錬容器の下部部分における水冷要素の熱流束が、始動シーケンスの早期部分の間の溶融浴の温度の指標になるという点と、(2)この情報を利用して、この難しい始動段階、特に、容器内に十分なスラグがまだない段階の始動シーケンスの部分を通して、臨界的な熱流束のレベルを超えることなく、かつ、製錬プロセスの始動シーケンスを中断することなく、(例えば、酸素含有ガスおよび/または石炭の注入流量の操作によって)溶融浴の温度を制御し、かつ、プロセスを安全に「進行させる」ことが可能であるという点との認識に基づいている。
【0033】
一般論としては、本発明は、金属含有材料を製錬するための溶融浴に基づくプロセスの始動方法(この用語は「再始動」を含む)であって、この始動方法の少なくとも早期部分の間の溶融浴の温度の指標とするために、製錬容器の下部部分における水冷要素の熱流束を利用すること、および、臨界熱流束のレベルを超えて始動方法を中断することを避けるように始動の間の溶融浴の温度を制御するために、酸素含有ガスおよび/または炭素質材料の製錬容器の中への注入流量を調整すること、を含む始動方法を提供する。
【0034】
さらに具体的には、本発明は、製錬チャンバを画定すると共に溶融金属を生産する製錬容器における金属含有材料用の溶融浴に基づく製錬プロセスを始動(この用語は「再始動」を含む)する方法であって、次のステップを含む方法を提供する。すなわち、この方法は、ある装入量の高温金属を製錬チャンバの中に供給するステップと、原材料を製錬チャンバの中に供給し、熱を発生させて溶融スラグを形成し、その後製錬チャンバ内の溶融スラグ量を増大させるステップであって、高温金属および溶融スラグが製錬チャンバ内の溶融浴を形成する、ステップと、スラグ量の増大に伴う溶融浴内の温度の指標を得るために溶融浴と接触する容器の側壁の熱流束を監視するステップと、製錬チャンバの中への熱入力を調整するために、かつ、それによって、浴温度が、製錬プロセスの始動シーケンスを中断させるような容器の側壁上における高い熱流束を惹起しないように、溶融浴の温度を制御するために、固体の炭素質材料および/または酸素含有ガス、および場合によっては金属含有材料の製錬チャンバの中への供給流量を調整するステップとを含む方法である。
【0035】
さらに具体的には、本発明は、金属含有材料を製錬容器内において製錬して、溶融金属を生産するための溶融浴に基づくプロセスの始動方法を提供する。この製錬容器は、(a)炉床と、その炉床から上方に延びる側壁とを有する最初は空の製錬チャンバであって、その側壁は、少なくともその下部部分に、水冷パネルのような水冷要素(場合によっては水冷要素の最低レベルに内側に突き出るスラグ帯域冷却器を含む)を含む、製錬チャンバと、(b)前炉と、(c)製錬チャンバおよび前炉を相互連結する前炉連結部とを含み、前記始動方法は、次のステップ、すなわち、
(a)ある装入量の高温金属を前炉から製錬チャンバの中に供給するステップと、
(b)高温金属の装入完了後、製錬チャンバの中に固体の炭素質材料および酸素含有ガスを供給し、炭素質材料を点火して製錬チャンバおよび高温金属を加熱し、溶融スラグを形成して、その後溶融スラグの量を増大させるステップであって、高温金属および溶融スラグが製錬チャンバ内の溶融浴を形成する、ステップと、
(c)金属含有材料を溶融浴の中に供給して、金属含有材料を溶融金属に製錬するステップと、
を含み、
さらに、この方法は、ステップ(b)の間および(c)の間に、溶融浴の温度を、次の2項、すなわち、
(i)溶融浴内の温度の指標を得るために、溶融浴と接触する水冷要素の熱流束を監視することと、
(ii)製錬チャンバの中への熱入力を調整するために、かつ、それによって、浴温度が、製錬プロセスの始動シーケンスを中断させるような水冷要素における高い熱流束を惹起しないように溶融浴の温度を制御するために、水冷要素の熱流束に関係する固体の炭素質材料および/または酸素含有ガス、および場合によっては金属含有材料の供給流量を調整することと、
によって制御するステップを含む。
【0036】
この方法は、製錬チャンバの中への熱入力を調整するために、かつ、それによって、溶融浴の温度を、(i)スラグ貯留分の形成に伴って、プラントを停止する可能性がある高い熱流束が回避されると共に、(ii)スラグの流動性/泡立ち/熱伝達問題をもたらす低い浴温度が回避されるような範囲内に制御するために、固体の炭素質材料および酸素含有ガス、および場合によっては金属含有材料の製錬チャンバの中への供給流量を調整するステップを含むことができる。これらの両方の条件が満足されると、(相当量の)金属生産が早期に実現され、主チャンバからの高温金属が前炉連結部に流入するであろう。通常、前炉連結部内に「新しい」高温金属が存在するようになると、プロセスが成功裏に始動されたと見做される。
【0037】
水冷要素を備えた製錬容器についての上記の説明に関しては、露出要素の表面積の200〜500kW/m
2の範囲の熱流束が、前項の段落で述べた温度範囲を示す。この熱流束の範囲の正確な数値的限界はさまざまな範囲の要因に従って変化し得ることが注記される。この要因としては、製錬設備の構造の相違および金属含有材料および他の原材料の相違が含まれるがそれに限定されない。
【0038】
この方法は、製錬チャンバと、前炉と、前炉連結部とを予熱するステップを含むことができる。
【0039】
この方法は、容器の炉床と、前炉と、前炉連結部との平均表面温度が1000℃を超えるように、炉床と、前炉と、前炉連結部とを予熱するステップを含むことができる。
【0040】
この方法は、容器の炉床と、前炉と、前炉連結部との平均表面温度が1200℃を超えるように、炉床と、前炉と、前炉連結部とを予熱するステップを含むことができる。
【0041】
この方法は、高温金属の高さレベルが前炉連結部の頂部の少なくとも約100mm上部に位置するように、ステップ(a)において十分な高温金属を供給するステップを含むことができる。
【0042】
この方法は、製錬チャンバの中に高温金属の装入分を供給した後、製錬チャンバ内に熱を発生させるために、(天然ガス、LPGまたはオイルのような)気体燃料または液体燃料と酸素含有ガスとを、金属上部のガス空間の中に、ある長さの時間、注入するステップを含むことができる。
【0043】
この方法は、溶融スラグの形成を促進するため、ステップ(b)および(c)において、製錬チャンバの中にフラックス材料を供給するステップを含むことができる。
【0044】
この方法は、溶融スラグの形成を促進するため、スラグ、あるいは、珪砂/ボーキサイト+石灰/ドロマイトフラックスのようなスラグ形成剤を注入するステップを含むことができる。
【0045】
この方法は、ステップ(b)の過程の間の任意の時点において、金属含有材料を溶融浴の中に供給するステップ(c)を開始するステップを含むことができる。
【0046】
溶融浴に基づく製錬プロセスは、次のステップ、すなわち、
(a)炭素質材料、および固体または溶融状態の金属含有材料を溶融浴の中に供給し、反応ガスを発生させ、金属含有材料を製錬して、浴内に溶融金属を生産するステップと、
(b)浴から放出される可燃ガスを浴上部で燃焼するために酸素含有ガスを製錬チャンバの中に供給して、浴内の製錬反応のための熱を発生させるステップと、
(c)溶融材料の熱搬送液滴および飛沫であって、製錬チャンバの頂部空間内の燃焼領域の中に投入された時に加熱され、その後、浴の中に落下して戻る液滴および飛沫を作出するために、ガスの湧昇によって浴から上方への溶融材料の顕著な動きを生成するステップであって、それによって、液滴および飛沫は熱を下向きに浴の中に伝送し、その熱はそこで金属含有材料の製錬に用いられる、ステップと、
を含むことができる。
【0047】
本発明は、製錬容器において金属含有材料を製錬するための溶融浴に基づくプロセスであって、前記のプロセスの始動(この用語は「再始動」を含む)方法を含むプロセスを提供する。
【0048】
本発明は、製錬容器において金属含有材料を製錬するためのHIsmeltプロセスであって、前記のプロセスの始動(この用語は「再始動」を含む)方法を含むHIsmeltプロセスを提供する。
【0049】
本発明は、製錬容器において金属含有材料を製錬するためのHIsarnaプロセスであって、前記のプロセスの始動(この用語は「再始動」を含む)方法を含むHIsarnaプロセスを提供する。
【0050】
金属含有材料は任意の適切な材料とすることができる。例えば、金属含有材料を、鉄を含む材料とすることができる。
【0051】
炭素質材料は任意の適切な材料とすることができる。例えば、炭素質材料を石炭とすることができる。
【0052】
酸素含有ガスは、空気、酸素または酸素富化空気を含むことができる。
【0053】
以下、製錬容器における溶融浴に基づく製錬プロセスの、本発明による始動方法の実施形態を、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】
図1は、HIsmeltプロセスに従って溶融金属を生産するための製錬装置の製錬容器の断面図であって、本発明による容器内における製錬プロセスの始動方法の一実施形態の過程の間において容器に溶融金属を供給した後の、容器内における溶融金属の高さレベルを示している。
【
図2】
図2は、
図1に示す製錬容器の断面図であって、本発明による容器内における製錬プロセスの始動方法が成功裏に行われた終期における製錬容器内の溶融金属およびスラグの高さレベルを示している。
【
図3】
図3は、HIsarnaプロセスに従って金属含有材料を製錬し、溶融金属を生産するためのHIsarna装置の一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1および2は、HIsmeltプロセスに従って金属含有材料を溶融金属に製錬するための製錬容器を、非常に図解的かつ簡略な形で示している。
【0056】
前記のように、HIsmeltプロセスは、製錬容器内において金属含有原材料から溶融金属を生産するための溶融浴に基づく製錬プロセスの一例であって、この製錬容器は、溶融浴内におけるガスの発生によって生成される強い浴/スラグの噴き上げを有するが、このガスの発生は、少なくとも部分的には、溶融浴の中への炭素質材料の脱揮発成分の結果である。前記にも提示したように、HIsmeltプロセスは、本出願人の名前における相当数の特許および特許出願に記載されている。例えば、HIsmeltプロセスは、本出願人の名前における国際出願PCT/AU96/00197号明細書(国際公開第1996/032627号パンフレット)に記載されている。この国際出願によって提出された特許明細書における開示は、相互参照によって本願に組み込まれる。金属含有材料は任意の適切な材料とすることができる。鉄鉱石のような鉄を含む材料は、本出願人が特に関心を有する金属含有材料の一タイプである。
【0057】
図1および2は、容器内でのHIsmeltプロセスの始動方法の異なるステップにおける容器を示す。
【0058】
図1および2を参照すると、容器は、製錬チャンバを画定し、耐火物内張りされた炉床1と、水冷の固体注入ランス2と、酸素含有ガス用の水冷の頂部ランス3と、水冷の側壁4とを有する。水冷の側壁4は、通常、鋼製の外殻体(図示なし)と、パネルの形態の複数の水冷要素(図示なし)とを備えており、この水冷要素は、内側における金属の水冷管の部分と、容器の中に向くパネルの側面には固化したスラグと、水冷管および外殻体の間には固化したスラグまたは不定形耐火物材料のいずれか(または組み合わせ)とを有する。上記の国際出願の明細書は、典型的な水冷パネルのさらなる詳細を提示している。容器は、さらに、前炉チャンバ8を画定する前炉5と、製錬チャンバおよび前炉チャンバを相互連結する流路を含む前炉連結部6とを備えている。
【0059】
炉床の耐火物材料の頂部に、スラグ帯域冷却器7が配置される。スラグ帯域冷却器は任意の適切な構造のものとすることができる。適切なスラグ帯域冷却器の一例が、本出願人の名前における国際出願PCT/AU2007/000688号明細書(国際公開第2007/134382号パンフレット)に記載されている。この国際出願によって提出された特許明細書における開示は、相互参照によって本願に組み込まれる。
【0060】
スラグ帯域冷却器7と、スラグ帯域冷却器7のすぐ上部の側壁4の水冷パネルとは、容器の「下部部分」における水冷パネルと見做される。
【0061】
この実施形態においては、水冷パネルに対する許容最大熱流束は500kW/m
2である。前記のように、任意の所与の状況におけるパネルに対する許容最大熱流束は、製錬設備の構造の相違および金属含有材料および他の原材料の相違のようなさまざまな範囲の要因によって変化し、容易に決定できる。
【0062】
本発明による容器内におけるHIsmelt製錬プロセスの始動方法の一実施形態は、前炉チャンバ8および前炉連結部6を含む容器内の耐火物を予熱するという第1ステップを含む。予熱温度および時間は、容器内の耐火物材料の種類および量が含まれるがそれに限定されないいくつかの要因によって変化する。
【0063】
予熱のステップが完了すると、外部で用意したある装入量の(溶融鉄のような)高温金属を、前炉5から、金属の高さレベルが前炉連結部6の頂部の少なくとも約100mm上部に位置するような量において製錬チャンバの中に注入する。このステップは、
図1に示すように製錬チャンバ内の金属の貯留分9を生じさせる。
【0064】
続いて、この実施形態の場合には石炭の形態の炭素質材料とフラックスとのランス2からの注入を開始し、同時に、高温の空気送風の形の酸素含有ガスのランス3からの注入を開始する。これらの原材料の注入によって、高温金属の装入分の上に溶融スラグ10が形成される。高温金属およびスラグが容器内における溶融浴を形成する。溶融スラグの量は、石炭、フラックスおよび高温空気の注入の継続と共に増大する。石炭、フラックスおよび高温空気の注入と共に、金属の飛沫噴射が始まり、この時点では、容器の下部部分のパネルが、飛沫噴射が生起する個所はどこでも高い熱流束を示す−これは全周の回りに一様であるとは限らず、その効果は、多かれ少なかれ注入ランスの反対側の領域に集中する可能性がある。また、非一様性は、飛沫噴射のパターンが非対称であること、および、ランス3からの高温の燃焼フレームが、選択的に、飛沫噴射の強さが低い領域に導かれることからも生じる可能性がある。
【0065】
前記のように、容器の下部領域における高い熱流束は、容器における始動方法のシーケンスを中断するリスクがあるので一懸念材料である。
【0066】
前記のように、本出願人は、(1)容器の下部部分におけるパネルの熱流束が、特に容器内の溶融スラグの量がまだ少ない時の溶融浴の温度の指標になること、および、(2)この情報を利用して、石炭および/または高温空気の注入流量の操作によって、溶融浴の温度を制御し、臨界熱流束レベルの超過とプラントの停止に至る始動方法の中断とを避けることが可能であること、を見出した。この実施形態においては、臨界熱流束のレベルは500kW/m
2である。容器の下部部分の水冷パネルにおける熱流束は、流入水および流出水の温度と水冷パネルに対する流量とを監視し、かつ、このデータに基づいて熱流束計算することによって決定することができる。すべての水冷パネルを監視することができるが、代替方式として、選択した水冷パネルを監視することができる。この選択される水冷パネルは、高い熱流束をその部分に生じさせる飛沫噴射を非常に受けやすいことが知られている容器の部分に配置されるものとすることができる。さらに、代替方式として、選択される水冷パネルは、容器の下部部分における全体的な熱流束を表すことができ、そのデータを、容器の下部部分のすべての水冷パネルに対する熱流束計算の基礎として用いることができる。熱流束の監視は連続的にまたは周期的に行うことができる。
【0067】
石炭、フラックスおよび高温空気を注入するこの期間において、熱流束計算が、熱流束が許容されない高い量に増大したかまたは増大しつつあることを示した場合には、原材料の注入条件を、容器の下部部分における発生熱を低減するのに必要なように調整する。通常、これは、石炭および/または高温空気の注入流量の低減を含む。
【0068】
高温空気と共に石炭およびフラックスの注入時間は約30〜60分間維持され、通常この時間の間、熱流束は一般的に増大する。
【0069】
容器の下部部分における熱流束が一般的に200kW/m
2を超えると、例えば鉄鉱石のような金属含有材料の注入を開始する。この間、熱流束の監視を継続する。石炭および高温送風の流量は、最大熱流束を500kW/m
2未満に維持するように継続して調整され、一方、鉱石の注入流量は徐々に増大させる。
【0070】
始動方法のこの初期段階は敏感であり、例えば、石炭および/または金属含有材料の供給流量に何らかのタイプの流れの乱れが生じると、熱流束が「急上昇する(spike)」ことがあり得る。(特に)金属含有材料の供給は正常な設計流量に比べて比率が小さく、固体の供給装置は、多くの場合、このような条件の下では円滑な流れを維持することが難しいので、このような流れの乱れが生じ得るのである。
【0071】
次の1〜3時間の間にスラグの貯留分は増大し、その結果、プロセスは、徐々に、熱流束の高い急上昇に対して鈍感になってくる。飛沫噴射が、主として金属から金属およびスラグの混合物に、そしてこの混合物から主としてスラグに変化する特性として、容器の下部部分のパネルは、その露出した表面上を固化したスラグで断熱されるようになり、熱流束は低下する。この段階になると、熱流束の監視はそれ程重要ではなくなる。(容器のサイズに応じて)約0.8〜1.5mのスラグの(計算)高さレベルが容器内に形成されると、下部パネルの熱流束は200kW/m
2未満に低下している可能性が高く、プロセスは始動方法を安全に通過したと見做される。この状況が、スラグ層10が所定位置にある容器を示す
図2に表現されている。
【0072】
前記のように、本発明による溶融浴に基づく直接製錬プロセスの始動方法は、HIsmeltおよびHIsarnaプロセス、並びに他の溶融浴に基づく直接製錬プロセスに適用できる。
【0073】
図3を参照すると、HIsarnaプロセスが、金属含有原材料を製錬して、溶融金属と、溶融スラグと、オフガスとのプロセス生成物を生産する。HIsarnaプロセスに関する以下の記述は、鉄鉱石の形の金属含有材料の製錬に関するが、本発明は、このタイプの金属含有材料に限定されない。
【0074】
図3に示されるHIsarna装置は、製錬サイクロン2と、
図1および2を参照して記述したタイプの溶融浴に基づく製錬容器4であって、製錬サイクロン2の真下に配置される製錬チャンバ19を有する製錬容器4とを含み、この場合、製錬サイクロン2および製錬容器4のチャンバ間は直接連絡されている。
【0075】
図3を参照すると、製錬キャンペインの定常状態の運転の間、最大サイズ6mmのマグネタイトベースの鉱石(または他の鉄鉱石)と、石灰石のようなフラックスとの混合物1が、鉱石乾燥機を経由して、空気搬送ガス1aによって、製錬サイクロン2の中に供給される。石灰石は、鉱石および石灰石の組み合わせ流れのおよそ8〜10重量%である。鉱石を予熱し、部分的に溶融し、かつ部分的に還元するために、酸素8が羽口から製錬サイクロン2の中に注入される。この酸素8は、また、製錬容器4から、製錬サイクロン2の中に上向きに流入する可燃ガスをも燃焼する。部分溶融されかつ部分還元された鉱石は、製錬サイクロン2から下向きに、製錬容器4における製錬チャンバ19内の金属およびスラグの溶融浴25の中に流入する。部分溶融されかつ部分還元された鉱石は、製錬されて溶融浴25内に溶融鉄を形成する。石炭3は、別個の乾燥機を経由して、製錬容器4の製錬チャンバ19に供給される。石炭3および搬送ガス2aは、ランス35から、製錬チャンバ19内の金属およびスラグの溶融浴25の中に注入される。石炭は還元剤源であると共にエネルギー源である。
図3は、溶融浴25を、2層を含むものとして示しているが、その2層の内、層25aは溶融金属層であり、層25bは溶融スラグ層である。図は、これらの層を一様な深さのものとして表現しているが、これは、図解目的用のみのものであり、HIsarnaプロセスの運転における強く撹拌されかつよく混合される浴の実態を正確に表現するものではない。溶融浴25の混合は浴内における石炭の脱揮発成分によるものである。この脱揮発成分によって、COおよびH
2のようなガスが発生し、ガスおよび同伴される材料の、溶融浴から、溶融浴25の上部の製錬チャンバ19の頂部空間の中への上向きの動きが惹起されるのである。溶融浴25内で発生し、溶融浴25から放散される通常COおよびH
2のこれらのガスの幾分かを、製錬チャンバ19の頂部空間内で後燃焼して、浴内における製錬プロセスに必要な熱を供給するために、酸素7が、ランス37から製錬チャンバ19の中に注入される。
【0076】
始動後、製錬キャンペインの間におけるHIsarnaプロセスの正常な運転は、(a)製錬容器4の製錬チャンバ19の中へのランス35からの石炭の注入およびランス37からの常温酸素の注入と、(b)製錬サイクロン2の中への鉱石の注入7および追加の酸素注入8とを含む。
【0077】
製錬容器4の製錬チャンバ19の中への石炭および酸素の供給流量と、製錬サイクロン2の中への鉱石および酸素の供給流量と、製錬チャンバ19からの熱損失とを含むが、これに限定されない運転条件は、オフガス流出ダクト9を経由して製錬サイクロン2から流出するオフガスが、少なくとも90%の後燃焼率を有するように選択される。
【0078】
製錬サイクロン2から流出するオフガスは、オフガスダクト9を経由してオフガス焼却炉10に流入し、そこで、追加の酸素11を注入して、残留CO/H
2を燃焼させ、完全燃焼した排ガス中の遊離酸素の程度(通常1〜2%)の状態にする。
【0079】
完全燃焼したオフガスは、続いて、ガスを冷却して蒸気を発生させる廃熱回収部分12を通過する。排ガスは、さらに、冷却およびダスト除去が実施される湿式スクラバー13を通過する。発生したスラッジ14は、鉱石供給流れ1を経由する製錬設備へのリサイクル用に利用可能である。
【0080】
スクラバー13から流出する冷却された排ガスは排ガス脱硫ユニットに送られる。
【0081】
清浄な排ガスは、続いて煙突16から排気される。このガスは、主にCO
2から構成され、場合によっては、圧縮して、(非凝縮性の残留ガス種を適切に除去して)地下貯留することが可能である。
【0082】
製錬容器4は、耐火物内張りされた炉床33と、製錬チャンバ19を画定する水冷パネルの形態の水冷要素によって主として画定される側壁41とを含む。製錬容器4は、さらに、前炉連結部23を介して製錬チャンバ19に連結される前炉21を含む。前記のように、製錬容器4は、
図1および2を参照して説明したタイプのものにすることができる。さらに、容器内におけるHIsmelt製錬プロセスの始動方法であって、
図1および2を参照して説明した本発明による始動方法の実施形態は、容器4における製錬プロセスを始動するのに用いることができる。
【0083】
HIsarnaプロセスの製錬キャンペインの過程の間、製錬チャンバ19内で生産される溶融金属は、前炉連結部23および前炉21を経由して製錬チャンバ19から流出する。定常状態の正常な運転条件においては、前炉21および前炉連結部23は溶融金属を含んでいる。通常のマノメータ溢流システムが、(生産から生じる)「余剰」の金属を前炉の縁部5から溢流出させることによって機能し、製錬チャンバ19内の溶融金属の高さレベルをほぼ一定に維持する。
【0084】
以上述べた本発明のプロセスの実施形態に対して、本発明の本質および範囲から逸脱することなく、多くの変更を加えることができる。
【0085】
例えば、図に示した製錬容器は前炉を含んでいるが、本発明のプロセス始動方法は、前炉を含む容器に制限されないことが注記される。
【0086】
さらに、図に示した製錬容器は、側壁4の水冷パネルと、炉床の頂部におけるスラグ帯域冷却器7とを含む水冷要素を含んでいるが、本発明のプロセス始動方法は、これらの要素を含む容器に制限されないことが注記される。製錬容器の側壁は、溶融浴と接触する容器の側壁からの熱流束が溶融浴の温度の指標となるような任意の適切な構造のものとすることができる。
【0087】
さらに、実施形態は、鉄を含む材料の形態の金属含有材料の製錬に焦点を当てているが、本発明は他の材料の製錬にも及ぶことが注記される。