(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369958
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】シリコン系粉末及びそれを含有する電極
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20180730BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20180730BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20180730BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20180730BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20180730BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/36 A
H01M4/134
H01M4/62 Z
【請求項の数】21
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-524751(P2016-524751)
(86)(22)【出願日】2014年7月3日
(65)【公表番号】特表2016-530189(P2016-530189A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】EP2014064190
(87)【国際公開番号】WO2015003996
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】13175913.6
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502270497
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】プット,ステイン
(72)【発明者】
【氏名】ブリーデル,ジャン−セバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】デルプエチ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】レストリーズ,バーナード
(72)【発明者】
【氏名】モロー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デュプレ,ニコラ
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−131324(JP,A)
【文献】
特開2011−233497(JP,A)
【文献】
特開2004−331480(JP,A)
【文献】
特表2007−515361(JP,A)
【文献】
特開2011−042527(JP,A)
【文献】
特表2013−505547(JP,A)
【文献】
特開2010−265158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア及びシェルを含有する粒子を含み、前記コアがシリコン(Si)を含有し、及び前記シェルがシリコン酸化物0<x<2のSiOxを含有し、そこでは前記シリコン酸化物はnが1〜4の整数であるSin+カチオンを含有する粉末であって、前記シリコン酸化物がSi4+カチオンをSin+カチオンの全量の少なくとも70モル%の量で含有し、前記シェルは、シェル外表面及びシェル体積を有し、前記シェル体積は0<x<2のSiOxを含み、及び前記シェル外表面はSiO2を含むことを特徴とする、粉末。
【請求項2】
前記シェル体積が0<x<2のSiOxからなり、及び前記シェル外表面がSiO2からなる、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記シリコン酸化物がSi4+カチオンをSin+カチオンの全量の最大90モル%の量で含有する、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
前記コアはコア表面を有し、xがシェルの厚さに対してシェル外表面における2からコア表面における0まで連続的に減少する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
xが前記シェルの厚さに対して連続的な変化率を有する、請求項4に記載の粉末。
【請求項6】
前記シェルが1〜5nmのシェル厚さを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
前記シェルが遊離のSiOHグループを含むシェル外表面を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
3質量%超の全酸素含有量を室温で有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項9】
酸素含有量が3〜10質量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項10】
0.01μm〜1μmとの平均粒径を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項11】
前記粉末が最大50m2/gのBET表面積を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項12】
前記粉末が最大30m2/gのBET表面積を有する、請求項11に記載の粉末。
【請求項13】
前記粉末が最大20m2/gのBET表面積を有する、請求項11に記載の粉末。
【請求項14】
前記コアがゼロ価のシリコンから形成される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項15】
前記コアが結晶性シリコンからなる、請求項14に記載の粉末。
【請求項16】
粉末を製造するための方法であって、
a.粒子を含み、前記粒子が、シリコンを含有するコア並びにシェル外表面及びシェル体積を有する初期シェルを含み、前記シェル体積が0<x<2のSiOxを含み、かつ前記シェルが0.5nm〜3nmのシェル厚さを有し、及び前記粉末が10〜40m2/gのBET表面積を有する粉末を準備するステップ、
b.前記粉末をHF水系溶液を備えたエッチングステップにかけて、前記SiOxシェルの厚さを部分除去及び/又は低減し、及び前記シェルの外表面上にSiOHグループを生じさせるステップ、及び
c.エッチングされた粉末を250℃〜750℃の酸化温度及び5分〜80分の酸化時間で熱処理にかけるステップを含む方法。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の粉末を含む陰極材料。
【請求項18】
請求項7に記載の粉末を含み、ポリマーバインダーを更に含み、前記バインダーの少なくとも一部が、前記SiOHグループを介して粉末に共有結合している、請求項17に記載の陰極材料。
【請求項19】
前記バインダーがカルボキシメチルセルロース(CMC)である、請求項18に記載の陰極材料。
【請求項20】
請求項18〜19のいずれか一項に記載の陰極材料と、電導性剤とを含む電池の陰極であって、
請求項1〜13のいずれか一項に記載の粉末を70質量%〜90質量%、
電導性剤を5質量%〜15質量%、及び
バインダーを5質量%〜15質量%
含有する、電池の陰極。
【請求項21】
陽極、電解質及び請求項20に記載の陰極を含む充電式電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末、特にシリコン系粉末及びその製造方法に関する。本発明は、前記粉末を含むLiイオン電池用の陰極及びそれを含む電池に更に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、携帯用電子装置用に最も広く使用される二次電池である。ニッケル−カドミウム及びニッケル金属水素化物などの水性充電式セルと比較して、Liイオン電池(又はセル)は、高エネルギー密度、高作動電圧、低自己放電性及び低メンテナンス性を有する。これらの特性によって、Liイオンセルは最高性能の入手可能な二次電池となった。
【0003】
特に、グラファイトカーボンは、Liイオンセル用陰極(「アノード」)を製造するための材料として使用される。グラファイトカーボンは、いわゆる「リチウム電池」で使用されるリチウム金属などの他の材料と比較して安定なサイクル特性及びその取扱いに関する極めて高い安全性の点で際立っている。しかしながら、グラファイトカーボンの難点は、電気化学容量(理論上372mAh/g)がリチウム金属(理論上4235mAh/g)よりも極めて低いことである。
【0004】
したがって、Liイオンセルの陰極用に新しい材料を提供することは、10年以上多数の研究のテーマとなってきた。そのような研究の結果として、著しく増強されたエネルギー密度を提供できるSi系陰極材料が開発された。シリコンは、15Li+4Si→Li
15Si
4の反応に対応する大きな理論質量容量(3579mAh/g)を有し、かつ大きな体積容量(2200mAh/cm
3)も有する。しかしながら、シリコン系材料の微視的な構造及びリチウムインターカレーション時の大きな体積膨張によって、Liイオンセルでの使用に許容し得る寿命性能に到達することができていない。
【0005】
シリコン系材料の上に挙げた欠点の一部を克服するために、シリコン系材料がグラファイトカーボンの好適な置換材料候補になることを可能とせしめる材料がサブミクロン(ナノ−)サイズで合成された。サブミクロンシリコン系粉末の作製方法は、国際特許第2008/064741(A1)号で開示されているようにプラズマ技術である。
【0006】
また、Si系材料の体積膨張を更に防止する試みにおいて、xが0超でかつ2未満のいずれかでよいシリコン酸化物(SiO
x)系材料の使用などの多数の研究も行われた。
【0007】
SiO
2は、良好な安定性を有するが、「リチウム化」とも称せられるプロセスのリチウムイオンを含む場合、0<x<2である他の酸化物はなお顕著な体積膨張を示すこともある(A.N.Dey,J.Electrochem.Soc.,118(10),1547.(1971)を参照)。
【0008】
シリコン及びシリコン系材料を用いるLiイオンセル用の陰極技術における更なる進歩は、米国特許第8,124,279号(5〜700m
2/gのBET表面積を有するナノサイズのシリコン粒子を含む電極材料を開示)、米国特許第8,420,039号(0.7<x<1.5を有するSiO
x粉末を含むリチウムイオン電池用の陰極を開示)、及び国際公開第2012/000858号(20nm〜200nmの平均一次粒径を有し、粉末が0<x<2のSiO
xを含む表面層を有し、表面層が0.5nm〜10nmの平均厚
さを有し、かつ粉末が3質量%以下の全酸素含有量を室温で有するSi系粉末を開示)に見ることができる。
【0009】
そのような電極の改良のなお更なる試みにおいて、Miyachiら(Abs.311,206th Meeting,(著作権)2004 The Electrochemical Society,Inc.)は、気相堆積によりCu箔上にSiO膜を堆積した。SiO膜のXPSスペクトルは、5つの異なるSi酸化状態の存在を示し、そのなかで最も顕著なのがSi
3+及びSi
0であった。しかしながら、そのような電極の特性は更に最適化可能である。
【0010】
欧州特許第2343758号は、xがコア及びシェル中で異なる値を有し、シェル中でSiO
2含有量が概ね低く、SiO
2が41.4%の値を超えないコア−シェルSiO
x系粉末を開示している。
【0011】
国際特許第2013/087780号は、シリコンコア及びSiO
xシェルを有し、更にO
ySiH
xグループにより官能基化されているコア−シェル粒子を開示している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に挙げた刊行物に報告された研究が、二次Liイオン電池の陰極の改良のための試みを構成する。しかしながら、そのメリットにも拘わらず、改善の次のステップを実現するには、特に1回目のサイクルでの小さい不可逆的容量損失並びに好適なサイクル寿命を有するLiイオン電池を得るには、更なる改良が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって本発明の目的は、最適化された特性を有し、翻ってそれを含有するLiイオン電池用の陰極の特性、並びに前記電極を含む前記電池の特性に有利に影響するシリコン系粉末を提供することであり得る。
【0014】
本発明は、コア及びシェルを含有する粒子を含む粉末であって、前記粉末が最大50m
2/gの表面積(BET)を有し、前記コアがシリコン(Si)を含有し、及び前記シェルがシリコン酸化物0<x≦2のSiO
xを含有し、前記シリコン酸化物はnが1〜4の整数であるSi
n+カチオンを含有し、前記シリコン酸化物がSi
4+カチオンをSi
n+カチオンの全量の少なくとも70モル%の量で含有する粉末を提供する。
【0015】
本明細書では、用語シリコンはゼロ価のシリコンを指すように使用されるということを注記すべきである。シリコンの他の酸化状態は、直接に表示され、又はそのような他の酸化状態のSi原子が酸素に化学結合するという事実により表示される。
【0016】
驚くべきことには、前記電池の陰極を前記粉末から製造する場合、本発明の粉末は、低下した不可逆的容量損失を有するLiイオン二次電池を提供することが判明した。更に、前記電極は良好な機械的な抵抗を有し、サイクル時に完全性を維持するということが観察された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、SiO
x層は、nが1〜4の整数であり、Si
4+カチオンがその全量の少なくとも70モル%の量である、Si
n+カチオンを含有する。好ましくは、Si
4+カチオンの量は少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも80モル%である。好ましくは、mが1〜3の整数である、Si
m+カチオン、すなわちSi
++Si
2++Si
3+の合計量は、最大30モル%、より好ましくは最大25モル%、最も好ましく
は最大20モル%である。
【0019】
【数1】
による量の比が少なくとも2、より好ましくは少なくとも3、最も好ましくは少なくとも4である場合に、良好な結果が得られた。好ましくは、Si
4+カチオンの量は少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも80モル%である。
【0021】
【数2】
による量の比が少なくとも5.0、より好ましくは少なくとも7.5、最も好ましくは少なくとも10.0である場合に、良好な結果が得られた。好ましくは、Si
4+カチオンの量は少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも80モル%である。
【0022】
本発明によれば、本発明の粉末を形成する粒子はコア及びシェルを含有する。SiO
xを含有するシェルは、前記コアを完全に又は部分的に取り囲んでもよい。好ましくは、前記シェルは、前記コアを完全に取り囲む。好ましくは、シェルは、少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも0.75nm、最も好ましくは少なくとも1.0nmの厚さを有する。好ましくは、本発明の粉末の良好なイオン伝導性及び電気伝導性を維持するためには、前記シェルは、最大10.0nm、より好ましくは最大7.5nm、最も好ましくは最大5.0nmの厚さを有する。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明の粉末は、コア及びシェルを含有する粒子を含み、コアがシリコンを含み、シェルがシェル外表面及びシェル体積を有し、シェル体積が0<x<2のSiO
xを含み、及びシェル外表面がSiO
2を含む。
【0024】
更に好ましい実施形態では、前記コアはコア表面を有し、並びに前記シェルはシェル体積及びシェル外表面を有し、そこではシェル体積がSiO
xを含み、xがシェルの厚さに対してシェル外表面での2からコア表面での0まで連続的な変化率を有する。xがそのような勾配を示す場合、本発明の粉末の安定性は改善されることもあることが観察された。特に、驚くべきことには、本発明の粉末は、湿気又は水に対して減少した反応性を示し得るということが観察され、翻ってこれが前記粉末に長保存寿命を付与する。水に対する減少した反応性は、また、ガス、例えば水素の生成を低減又は更に無くす必要がある電極作製時には特に有利である。したがって、本発明の粉末によって、均質構造び最適な特性を備えた陰極のための最適な作製方法が可能となる。それゆえ、本発明は、コア及びシェルを含有する粒子を含み、前記コアがシリコン(Si)を含有し、並びに前記シェルがシェル体積及びシェル外表面を有し、シェルが0<x≦2のシリコン酸化物SiO
xを含有し、xがシェルの厚さに対してシェル外表面での2からコア表面での0まで連続的な変化率
を有する粉末に更に関する。
【0025】
好ましい実施形態では、シェルは外表面を有し、そこでは前記外表面がSiOHを含まないグループを含み、すなわち、個別のSiOHグループがSi当たり1つのOHグループを有する。好ましくは、SiOHグループの量は、1nm
2当たり0.5〜1.5グループ、より好ましくは1nm
2当たり0.8〜1.3グループ、最も好ましくは1nm
2当たり1.0〜1.2グループである。前記シェルの外表面上にそのようなグループを所望の量で提供する1つの方法は、参照により全体で本明細書に含まれる、PCT/EP第2012/075409号の実施例4に開示されている。前記組成物に取扱い性を与えるのにもバインダー、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用する陰極組成物の作製時、SiOHグループの存在は、許容可能なレベルの電解質分解をもたらす一方で、本発明の粉末とバインダーとの良好な相互作用を促進することが観察された。
【0026】
更なる好ましい実施形態では、シェルは外表面を有し、そこでは前記外表面がSiOHグループを、好ましくは直前に表示した量で含み、かつ前記シェルが1<y<3及びz=4−yのO
zSiH
yグループを更に含む。好ましくは、O
zSiH
yグループはOSiH
3グループである。当業者ならば、参照により全体で本明細書に含まれる、PCT/EP第2012/075409号の実施例4に開示されている方法により、前記シェルの外表面上にそのようなグループを生成させることができる。
【0027】
本発明の粉末は、粉末の全量基準で計算して室温で好ましくは少なくとも3.0質量%、より好ましくは少なくとも4.0質量%の全酸素含有量を有する。好ましい実施形態では、酸素の前記全量は、3.0〜30.0質量%、より好ましくは4.0〜20.0質量%、最も好ましくは4.2〜12.0質量%である。当業者ならば、例えば参照により全体で本明細書に含まれる、国際特許第2011/035876号に開示されている方法を使用することにより、本発明の粉末が含有する酸素の量を変え得る。
【0028】
本発明の粉末は、好ましくは3.0〜9.5のpH間隔において負のゼータ電位を有する。好ましくは、前記ゼータ電位は3.0未満のpH間隔において正である。粉末のゼータ電位を調整する方法は、例えばPCT/EP第2012/075409号に開示されている。
【0029】
好ましくは、本発明の粉末は、0.01μm〜1μm、より好ましくは20nm〜200nmの平均一次粒径を有し、そこでは前記平均一次粒径(d
av)は等しい大きさの球状粒子を仮定して式3に従って比表面積から計算される。
【0030】
【数3】
ここで、ρは粉末の理論密度(2,33g/cm
3)を指し、BETは比表面積(m
2/g)を指す。
【0031】
好ましくは、本発明の粉末のBETは最大30m
2/g、より好ましくは最大25m
2/g、最も好ましくは最大20m
2/gである。好ましくは、前記BETは少なくとも5m
2/g、より好ましくは少なくとも10m
2/g、最も好ましくは少なくとも15m
2/gである。
【0032】
本発明の粉末は、遷移金属、メタロイド、IIIa族元素及び炭素からなるグループか
ら選択される元素Mを更に含んでもよい。1つの実施形態では、Mは、ニッケル、銅、鉄、すず、アルミニウム及びコバルトからなるグループの元素の1つ又はそれ以上のいずれかを含む。最も好ましくは、MはAl又はFeである。
【0033】
本発明は、本発明の粉末を製造するための方法に更に関し、
a.粒子を含み、前記粒子が、シリコンを含有するコア並びにシェル外表面及びシェル体積を有する初期シェルを含み、そこではシェル体積が0<x≦2のSiO
xを含み、かつ前記シェルが0.5nm〜nmのシェル厚さ及び10〜40m
2/gのBETを有する粉末を作製するステップ、
b.粉末をHF水系溶液を備えたエッチングステップにかけて、SiO
xシェルの厚さを部分除去及び/又は低減し、及びシェルの外表面上にSiOHグループを生じさせるステップ、及び
c.エッチングされた粉末を250℃〜750℃の酸化温度で5分〜80分酸化性熱処理にかけて、最大50m
2/gのBETを有し、シリコンを含有するコア及びシリコン酸化物0<x≦2のSiO
xを含み、前記シリコン酸化物はnが1〜4の整数であるSi
n+カチオンを含有し、前記シリコン酸化物がSi
4+カチオンをSi
n+カチオンの全量の少なくとも70モル%の量で含有するシェルを含む粒子を含有する粉末を得るステップを含む。
【0034】
本発明の方法で使用される粉末は、例えばSigma Aldrich;Alfa Aesarからの市販の粉末である。
【0035】
好ましくは、HF水系溶液は、少なくとも1.0%、より好ましくは少なくとも1.5%、最も好ましくは少なくとも2.0%の濃度を有する。前記HF溶液は、好ましくは最大5.0%、より好ましくは最大4.0%、最も好ましくは最大3.0%の濃度を有する。
【0036】
好ましくは、前記粉末を前記HFに添加し、粉末を前記溶液中で少なくとも5分間、より好ましくは、最も好ましくは少なくとも10分間保持することにより、粉末はエッチングにかけられる。好ましくは、エッチングの間、撹拌が使用される。好ましくは、エッチングは室温で行われる。
【0037】
本発明によれば、エッチングステップは、シェルの厚さを部分除去及び/又は低減し、その外表面上にSiOHグループ及び1<y<3及びz=4−yのO
zSiH
yグループを生じる。好ましくは、エッチングステップは、1nm
2当たり0.8〜1.4グループ、最も好ましくは1nm
2当たり1.0〜1.2グループのSiOHグループの量を生じるように調整された時間間隔で行われる。
【0038】
次いで、エッチングされた粉末は、250℃〜750℃の注意深く選択された酸化温度で5分〜80分の注意深く調整された酸化時間酸化性熱処理にかけられる。酸化は好ましくは空気中で行われる。酸化温度及び酸化時間の組合せが良好な特性を備えた粉末を得るのに重要であるとういうことが観察された。
【0039】
しかしながら、酸化の前に、エッチングされた粉末は濾過及び/又は洗浄ステップ、好ましくはそれに続く乾燥にかけることができる。洗浄は、好ましくは室温に近い温度、より好ましくは室温で揮発性の溶剤中で行われる。エタノールがそのような好ましい溶剤の好適な例である。
【0040】
好ましい実施形態では、酸化温度は200〜400℃であり、酸化時間は5〜20分間である。好ましくは、前記酸化温度は250〜350℃であり、前記酸化時間は8〜15
分間である。より好ましくは、前記酸化温度は290〜310℃であり、前記酸化時間は10〜12分間である。
【0041】
別の好ましい実施形態では、酸化温度は600〜800℃であり、酸化時間は5〜80分間である。好ましくは、前記酸化温度は650〜750℃であり、前記酸化時間は8〜40分間である。より好ましくは、前記酸化温度は690〜810℃であり、前記酸化時間は10〜30分間である。
【0042】
より好ましい実施形態では、酸化温度は200〜400℃であり、酸化時間は25〜80分間である。好ましくは、前記酸化温度は250〜350℃であり、前記酸化時間は30〜70分間である。より好ましくは、前記酸化温度は290〜310℃であり、前記酸化時間は30〜60分間である。
【0043】
最も好ましい実施形態では、酸化温度は410〜590℃であり、酸化時間は8〜80分間である。好ましくは、前記酸化温度は450〜550℃であり、前記酸化時間は20〜60分間である。より好ましくは、前記酸化温度は490〜510℃であり、前記酸化時間は30〜40分間である。
【0044】
本発明の方法に従って得られる粉末がLiイオンセル用の陰極の製造に組成物の中に使用される。好ましくは、前記組成物は、70質量%〜90質量%の本発明の粉末、5質量%〜15質量%の電導性剤、例えば炭素、及び5質量%〜15質量%のバインダーを含有し、成分の和は100質量%である。
【0045】
好ましくは、前記電極組成物は、下記の「電極作製」及び「電気化学試験」の項の教示により作製及び試験した場合、最大560mAh/g、より好ましくは最大450mAh/g、更により好ましくは最大400mAh/g、最も好ましくは最大360mAh/gの1回目の不可逆的損失を有する。
【0046】
好ましくは、前記電極組成物のサイクル寿命は、少なくとも300サイクル、より好ましくは少なくとも400サイクル、最も好ましくは少なくとも500サイクルである。
【0047】
本発明は、本発明の粉末を活性材料として含むLiイオンセル用の陰極として使用するのに好適な電極に更に関する。本発明の電極は、長期サイクル時の減少したLi消費及び良好な性能を示し得るということが観察された。
【0048】
本発明は、本発明の電極を含むLiイオンセル及び前記セルを含む電池パックに更に関する。本発明は、本発明のLiイオンセルを含む様々な電子及び電気装置に更に関する。
【実施例】
【0049】
本発明は、実施例以下の図、及び比較実験の助けを得て更に説明されるが、それに限定されるものでない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
これ以後、図を説明する。
【
図1】DRIFT分光法により測定した本発明の粉末を形成する粒子の表面の化学組成を示す。このグラフは、波数(cm
−1)に対する任意単位(a.u.)でのIR吸光度信号の強度を表す。
【
図2】本発明の粒子と現行技術の粒子との間の粒子のシェルの厚さの中の酸素含有量の変化の比較を示す。
【
図3】DRIFT分光法により測定した本発明の陰極の化学組成を示す。
【0051】
測定方法:
・ゼータ電位をゼータサイザーナノシリーズ(Malvern Instrument)により脱塩水中でpHの様々な値において求める。pHをHCl 0.25Mにより調整した。スモルチョフスキーの理論を計算に使用する。
・ASAP 2000装置(Micrometrics)を用いて、粉末のBETをブルナウアー・エメット・テラーの窒素吸着法(BET法)により77Kで求める。
・Si
n+カチオンの量をXPS分析及び信号のデコンボリューションにより求める(「Study of SiO
2/Si Interface by Surface Techniques by C.Logofatu et al.)of Crystalline Silicon−Properties and Uses」、Prof.Sukumar Basu,ISBN 978−953−307−587−7編第2章に記載の方法に従って、http://www.intechopen.com/books/crystalline−silicon−properties−and−uses/study−of−sio2−si−interface−by−surface−techniquesから入手可能)。SiO
x含有材料の酸素含有量を次のように求める。粉末の全酸素含有量をLeco TC600酸素−窒素アナライザーにより求める。最初に試料を閉じたすずカプセルに入れる。次いで、すずカプセルを黒鉛るつぼに入れ、キャリアガスとしてヘリウム下で極めて高い温度まで加熱する。この加熱過程で、全体の仕込みを溶解し、次いで酸素をSiに対する結合から解放し、るつぼからの黒鉛と反応させて、CO又はCO
2ガスを形成させる。これらのガスを赤外測定セルの中に案内する。観察される信号を酸素含有量に変換する。
・粒子のSiO
x含有シェルの厚さを、FEI Titan 50−80商用装置を80Vの加速電圧で用いて、走査型透過電子顕微鏡(STEM)及び電子エネルギー損失分光法(EELS)測定により求めることができる。
・粒子の表面、すなわち粒子のシェル外表面の化学組成を赤外分光法(vertex 70 Bruker分光計による拡散反射捕集方式を用いて中間及び近赤外範囲で)により調べた。DRIFT赤外分光法は、1100cm
−1近傍での様々な結晶モード並びにSi−O−Siモードの存在を明らかにする。3500cm
−1近傍のピークはヒドロキシル化シラノールグループに帰属可能である。2260〜2110cm
−1で、異なるピークをO
ySiH
x変形モードに帰属することができる。
・SiO
x含有粒子のシェルの厚さの中の酸素含有量の勾配を、FEI Titan 50−80商用装置を80Vの加速電圧で用いて、走査型透過電子顕微鏡(STEM)及び電子エネルギー損失分光法(EELS)測定により測定した。
【0052】
比較実験1
市販の結晶化シリコンナノ粉末(Alfa Aesar)を分析し、「粉末キャラクタリゼーション」の項の表中C−Ex 1に示す特性を得た。
【0053】
この粉末は、57m
2/gのBET、6質量%の酸素含有量及び初期の負のゼータ電位(水中pH6で定義)を有していた。ゼータ電位はpH 3で正となった。この粒子は、0<x<2のSiO
xを含むほぼ2nm厚のシェルを有し、遊離及び結合シラノールグループ並びにO
ySiH
xを含有するものであった。遊離のSiOHグループの量は約1.2±0.2グループ/nm
2であった。
【0054】
比較実験2
国際特許第2012/000858号の実施例1に記述の方法を適合させた加工パラメーターと共に用いて、0.5gのシリコンナノ粉末を作製した。
【0055】
粉末を分析し、「粉末キャラクタリゼーション」の項の表中C−Ex 2に示す特性を
得た。
【0056】
実施例1
比較実験2からの粉末を2% HF溶液中で磁気撹拌により10分間撹拌した。引き続いて、粉末をエタノールにより洗浄して、HFを除去し、室温で乾燥した。この乾燥した粉末を、「粉末製造条件」の項の表中Ex 1に表示するように、空気中300℃で10分間管状炉で酸化した。
【0057】
得られた粉末の特性を「粉末キャラクタリゼーション」の項の表中C−Ex 1に示す。この粉末は初期の負のゼータ電位を有していた。ゼータ電位はpH 2.2以下で正となった。
【0058】
波数(in cm
−1)に対する任意単位(a.u.)で表されるIR信号により与えられる本発明に従って作製された様々な粉末を形成する粒子の化学表面組成(100)を示す
図1では、Si−O−Siグループに対応する1200cm
−1〜1100cm
−1のピークを観察することができる。この実施例の粉末に対する対応するスペクトルは(101)と表示される。2300cm
−1〜2100cm
−1のピークは、O
ySiH
xグループ(0<y<3及びx=4−y)の伸縮帯に帰属することができる。3740cm
−1近傍の新しく出現したピークは、遊離SiOHグループ(又は単離シラノール)に対して特性的なものである。3730cm
−1〜3400cm
−1の広幅の吸収領域は、結合SiOHグループ(分子的な吸収水又はOHグループの酸素と隣接OHの水素との相互作用に対応)に帰属することができる。4600cm
−1〜4300cm
−1のピークは全てのSiOHグループ(結合及び遊離)に特性的なものである。
【0059】
ATG及び赤外分光法を使用することにより求めた遊離SiOHグループの量は、約0.9±0.2グループ/nm
2であった。
【0060】
実施例2〜9
粉末を300、500及び700℃で10〜60分間酸化したことを除いて、実施例1を繰り返した。製造条件及び粉末の特性を表中Ex 2〜Ex 9で示す。実施例4、5及び9の粉末の化学組成を求め、それぞれのIR曲線を
図1中(102)、(103)及び(104)として表示した。
【0061】
シリコン酸化物SiO
x中の%での酸素含有量(201)の変化(200)、すなわち粒子のシェル厚さ(202)(nmでの)xの変化を
図2中で比較実験2(
図2.1)、比較実験1(
図2.2)及び実施例5(
図2.3)の粉末に対して示す。シェルの外表面が0nmに対応する。実施例5の粉末を形成する粒子に対しては、そのシェルの外表面は、粒子のコアに向かってシェル厚さ(その表面が3nmにある)と共に徐々に減少するO
2の含有量(203)(◆により表示される)を有するSiO
2(60% O
2及び40% Si)を含有する。同一の粉末に対しては、Siの含有量(204)(■により表示される)は、コアの表面での100%まで徐々に増加する。本発明の粒子と対照的に、比較実験の粒子に対するxの異なる変化が観察される。比較実験2の粒子はそのシェルの外表面においてSiO
2を含有せず、それに対して両方の比較実験に対して粒子のコアはO
2も含有するように見える。
【0062】
電極作製
160mgの実施例及び比較実験の粉末、24mgのカーボンブラック(CB)及び16mgのカルボキシメチルセルロース(CMC)から複合物電極材料を作製した。200mgの複合物電極材料を窒化シリコンバイアルに導入した。100mLの脱イオン水中の3.842gのクエン酸及び0.402gのKOHにより作製した0.75mLのpH3
緩衝溶液を複合物電極材料に添加した。それぞれ9.5mm直径の3個の窒化シリコン球が混合媒体としての役割をした。スラリーが得られるまで、上記の組成物を混合した。フリッチュ粉砕機ミキサー7を使用して、スラリーを500rpmで60分間ミル掛けした。スラリーを25μm厚の銅箔の上にテープキャストし、空気中室温で12時間、次いで真空中100℃で2時間乾燥した。得られた電極の厚さは10〜40μmであったが、これは電極当たり0.7〜1.5mg/cm
2シリコンに相当する。
【0063】
図3は、CMC(301)、C.Ex.1(302)、C.Ex.2(303)、Ex.1(304)及びEx.5(305)の粉末に対する並びにCMC/C.Ex.1(306)、CMC/C.Ex.2(307)、CMC/Ex.1(308)及びCMC/Ex.5(309)の混合物に対する波数(cm
−1)に対する吸光度(a.u.での)(300)を示す。赤外分光法により、1580cm
−1のカルボキシレートグループピークを純粋なCMC中で観察することができる。1640cm
−1のSi−CMC複合物に対するピークはカルボニルグループの伸縮帯に帰属することができ、CMCがSi粒子の表面上にグラフトされていたことが示される。
【0064】
電気化学試験
電気化学セル(Swagelok形)を電気化学試験に使用し、アルゴン充填したグローブボックス中で組み立てた。Li
+/Li
oに対して1V〜0.005Vを定電流方式で操作されるVMP自動サイクルデータ記録システム(Biologic Co.)を用いて、セルをサイクル試験した。
【0065】
セルは、上述のように得られた複合物電極の0.78cm
2円板からなり、これを陽極として試験に使用した。ワットマンGF/Dボロシリケート硝子繊維シ−トをセパレーターとして使用し、1M LiPF
6電解質溶液(1/1ジエチルカーボネート/エチレンカーボネート及び10質量%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)及び2質量%のビニレンカーボネート(VC)(LiPF
6+DEC+EC+FEC+VC=100質量%))で飽和させた。1cm
2 Li金属円板を陰極(参照電極)として使用した。
【0066】
セルを1200mAh/gシリコンの制限放電(合金化)容量により放電及び充電(脱合金化)両方において2時間で1リチウムの速度(C/2)でサイクル試験した。1サイクル後の1回目の不可逆的容量及びセルのサイクル寿命を測定した。
【0067】
サイクル寿命は、1200mAh/gシリコンの上述の容量に到達できなくなる迄実施することができるサイクル数である。
【0068】
結果を「粉末により製造される電池の電池特性」の項中の表に示す。
【0069】
特に、実施例1〜9に従った粉末により作製される電池のサイクル寿命は、比較実験1及び2に従った粉末により作製される電池のサイクル実施例寿命よりもずっと長いということが観察される。
【0070】
また、実施例1〜9に従った粉末により作製される電池の1回目の不可逆的損失は、一般に、比較実験1及び2に従った粉末により作製される電池の1回目の不可逆的損失よりも小さい。
【0071】
本発明者らは、本発明のメリット効果は、SiO
2外シェル層が、リチウムとx<2のSiO
xとの電気化学反応生成物であるリチウムシリケートと一緒になって、Siの機械的な劣化を低減する良好な保護層を形成し、それによってサイクル寿命を増大させ、一方、x<2のSiO
xが1回目の不可逆的損失に及ぼすマイナスの影響は、シリコン低酸化
物の量が比較的中庸であることにより緩和されるという仮説により説明され得ると推測する。
【0072】
【表1】