(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は他のプラスチックと比較し、化学的安定性、耐熱性、及び、離型性等において優れることから、フッ素樹脂製の熱収縮チューブは、食品、医療、製薬、化学、分析機器等をはじめ、様々な分野における保護用、絶縁用等の熱収縮チューブとして使用されている。
【0003】
一般的な保護用及び絶縁用の熱収縮チューブとして用いられる中で、必要に応じて、熱収縮チューブを一旦被覆加工した後、熱収縮チューブのみを剥がして除去するといった製品加工用に使用される用途がある。
例えば、ブレード等の保護層を含む多層構造、あるいは、異形構造を有する電線・チューブ等へ、熱収縮チューブを被覆し、内部の部材をモールドあるいは熱融着加工した後、熱収縮チューブを取り除く用途である。
この用途では、フッ素樹脂特有の優れた特性に加え、容易に手でチューブを引裂いて剥がすことができる性質、すなわち、引裂き性に優れることが求められる。
【0004】
特許文献1では、フッ素樹脂が種類の異なる複数の熱可塑性フッ素樹脂の混合物からなる、引裂き性を有するチューブが記載されている。
【0005】
特許文献2及び特許文献3では、引裂き性を有する熱収縮チューブが示されている。使用するフッ素樹脂の特徴として、特別に定義した損失エネルギーの変化量を満たしていると共に、種類の異なる複数のフッ素樹脂の混合物からなることと、当該混合物で主たる割合を占めるフッ素樹脂(主のフッ素樹脂)が少なくとも3種類のモノマーからつくられるポリマーであって、構成モノマーの単位として、少なくともテトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)を含む共重合体であることが記載されている。
【0006】
しかし、特許文献2及び特許文献3における熱収縮チューブは、主のフッ素樹脂以外のその他のフッ素樹脂の添加量が増加すると引裂き性に優れる傾向が見られる一方、収縮率が小さくなることから、使用用途によっては、熱収縮の量が不十分であり、熱収縮チューブとしての役割が果たせず、更なる改善が求められている。
【0007】
また、本発明者らは、特許文献1乃至3に記載された熱収縮チューブでは、その他のふっ素樹脂の添加量が増加すると引裂き性に優れる傾向が見られる一方、白濁するため、被熱収縮チューブ体を通して下地の状態を確認しづらい等、透明性悪化の問題が生じることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の引裂き性を有する熱収縮チューブは、熱溶融性フッ素樹脂、及び重合後に融点以上の熱履歴が無く且つASTM D4894に従い測定される比重2.20以下のPTFEを含む組成物を、PTFEの融点未満の温度で溶融成形して得られるものである。
溶融成形とは従来公知の溶融成形装置を用いる成形方法で、溶融状態で流動することにより、溶融物から例えば、フィルム、繊維、チューブなど、それぞれの所定の目的に応じた十分な強度及び耐久性を示す成形品を成形することができることを意味する。
【0018】
熱溶融性フッ素樹脂としては、融点以上の温度で溶融して流動性を示す共重合体であって、不飽和フッ素化炭化水素、不飽和フッ素化塩素化炭化水素、エーテル基含有不飽和フッ素化炭化水素などの重合体又は共重合体、或はこれら不飽和フッ素化炭化水素類とエチレンの共重合体等が挙げられる。例えば具体的には、テトラフルオロエチレンと、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルコキシトリフルオロエチレン(好ましくはパーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、PAVEという))、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーとの共重合体、あるいはこれらモノマーとエチレンの共重合体などを挙げられる。より具体的には、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、PFAという)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(以下、ETFEという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライド共重合体(以下、THVという)、ポリフッ化ビニリデン・ポリビニリデンジフルオライド(以下、PVDFという)等を挙げることができる。
熱溶融性フッ素樹脂は、透明性の観点から好適な例として、2種類のモノマー(TFEとHFPのコポリマー)から成るFEPを挙げることができ、他にも融点の異なるFEPの混合物、FEPとFEPとは異なる熱溶融性フッ素樹脂との混合物が挙げられる。
熱溶融性フッ素樹脂は単独で使用してもよく、これらの2種以上の混合物であってもよい。また、コモノマー種類、コモノマー含有量、分子量(重量平均分子量または数平均分子量)、分子量分布、融点及びメルトフローレート(MFR)等が異なる、あるいは機械的物性等が異なる少なくとも2種類以上の同一種類の共重合体同士の混合物も挙げられ、例えばPFA同士あるいはFEP同士の混合物が挙げられる。この様な熱溶融性フッ素樹脂は、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法によって製造することができる。
【0019】
また、熱溶融性フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、1〜100g/10分であることが好ましく、より好ましくは1〜80g/10分、さらに好ましくは1〜50g/10分であることが望ましい。MFRは、ASTM D1238―95に従い、温度372℃、荷重5kg重で測定する。
MFRは、後述するPTFEの繊維化による配向度に影響し、MFRが低いほど配向度は高くなり、引裂き性に優れるチューブが得られる傾向にある。
また、熱溶融性フッ素樹脂の融点はチューブ成形が可能な範囲であれば限定されないが、150℃以上、好ましくは150℃〜320℃の範囲である。
熱溶融性フッ素樹脂の融点は、PTFEの融点未満であり、かつ相溶を防ぐ目的で、PTFEの融点と離れていることが好ましい。
【0020】
PTFEとしては、テトラフルオロエチレンの単独重合体であって、ホモポリマーと呼ばれるテトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体(PTFE)、あるいは1%以下のコモノマーを含むテトラフルオロエチレンの共重合体(変性PTFE)が挙げられる。重合直後のPTFEの融点は、その重合方法により異なるが336℃〜343℃である。
PTFEの重合方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法を用いることができるが、乳化重合で得られたポリマーラテックスを凝析・乾燥して得られる平均粒径300〜600μmのファインパウダーであることが好ましい。
このようなPTFEは溶融成形性を有さず、チューブの溶融押出成形時のせん断力及び/又は延伸力で繊維化による配向が生じるポリマー粒子の状態で組成物中(あるいはペレット中)に存在する。
本発明のPTFEは、上記により得られるPTFEであって、重合後に融点以上の熱履歴が無く且つASTM D4894に従い測定される比重2.20以下のPTFEであることが好ましい。
【0021】
PTFEは重合後に融点以上に加熱されると、分子緩和により整然と並んだPTFEの結晶の分子鎖が解れて、分子同士がランダムに絡み易くなり、その結果として繊維化し難くなるため好ましくない。また、PTFEの融点の低下を招き、熱溶融性フッ素樹脂との融点の差が小さくなる傾向があるため好ましくない。
【0022】
重合後に融点以上の熱履歴が無く且つ比重2.20以下であるPTFEは高分子量であるため繊維化し易い。したがって、このようなPTFEを用いることにより、チューブを溶融押出成形した際にせん断力及び/又は延伸力でPTFEが繊維化し、チューブ押出方向に配向するため、得られるチューブが引裂き性を有することが可能となる。
【0023】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEを含む組成物におけるPTFEの含有量は、熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEの総重量に対し、0.05wt%〜3.0wt%である。PTFEの含有量が0.05wt%〜3.0wt%の範囲にあれば、拡径時に破断、割れ、破裂などが発生せず、引裂き性に優れ、容易に手で引き裂くことが可能であり、熱収縮率が40%以上で高い作業性を有する。引裂き性に優れ、熱収縮率が40%以上、好ましくは50%以上と高い作業性を有する、すなわち、引裂き性及び熱収縮の両特性に優れるという観点で、さらに好ましくは0.2wt%〜1.0wt%である。
【0024】
熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEを含む組成物を、チューブ状に成形する前の準備として、これらの材料の混合方法については、従前公知の方法から適宜選択して行うことができる。以下にその例を示す。
混合方法としては、予め混合して熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEを含む組成物を得る方法、予め混合して得た組成物をPTFEの融点未満の温度にて更に溶融混合することによりペレット状の材料を得る方法などが挙げられる。
【0025】
熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEを含む組成物を予め混合する方法は、乾式混合又は湿式混合等のような従来公知の方法を用いることができる。例えば、共凝集法、プラネタリーミキサー、高速インペラー分散機、ロータリードラム型ミキサー、スクリュー型ミキサー、ベルトコンベヤ混合、ボールミル、ペブルミル、サンドミル、ロールミル、アトライター、ビードミルなどの公知の分散・混合機を用いて行うことができ、均一に分散できる装置がより好ましい。
【0026】
混合に用いられる熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEの形態に制限は無いが、作業性を考慮して平均粒径0.05μm〜1μmの微粒子の分散液や数μm〜数10μmの粉末状物、あるいは数100μmの粉末状物の造粒物を上げることができる。
本発明の組成物の形態は、粉末状物、粉末状物の造粒品、粒状物、フレーク、ペレット等の形態を挙げることができる。得られる組成物の平均粒径は、0.1μm以上であって、ハンドリング性が損なわれない範囲であることが好ましい。
【0027】
ペレット状の材料を得る方法は、例えば、単軸あるいは二軸の押出機等を用いて前記組成物を溶融押出してストランド(紐状物)とした後冷却し、所定の長さに切断してペレット状に成形する方法等、従来公知の方法を用いることができる。溶融押出温度は、熱溶融性フッ素樹脂の融点以上PTFEの融点未満の温度であることが好ましい。PTFEの融点未満の温度とすることにより、PTFEの融点の低下を防ぎ且つ重合直後の高結晶状態(繊維化しやすい状態)を維持することが可能となり、次工程のチューブ状に溶融押出成形する際にせん断力及び/又は延伸力によりPTFEを繊維化して配向させることが可能となる。
所定の長さに切断する方法としては、ストランドカット、ホットカット、水中カットなどの従来公知の方法を用いることができるペレット状の材料の平均粒径は、0.1mm以上であって、ハンドリング性が損なわれない範囲であることが好ましい。
混合方法については上記に限定されないが、長尺に渡り、より安定した引裂き性を得るために好ましい方法が用いられる。
【0028】
次に、本発明の熱収縮チューブの溶融押出成形の方法について、一例を示す。
事前に準備された、前記組成物あるいはペレット状の前記組成物を用いて、PTFEの融点未満の温度にて、チューブ状に溶融押出成形する。溶融押出機のシリンダー内における混練によりPTFEの繊維化が起こり易いため、溶融押出機のシリンダー(スクリュー)の温度はPTFEの融点以下である。一方、成形性・生産性の観点からは、混練の影響が少ない(PTFEの繊維化が起こり難い)溶融押出機のダイ部の温度に限り、PTFE分子鎖の絡まりによる引裂き性の阻害が起きない程度の短時間、PTFEの融点以上にすることもできる。
本発明における成形温度はPTFEの融点未満であるため、PTFE分子鎖の絡まりが無い状態が、押出機のダイからチューブ状に押し出されるまで維持される。そして、その後の成形(冷却工程)におけるせん断力及び/又は延伸力によりPTFEが繊維化して配向し、固化したチューブ内に、熱溶融フッ素樹脂とPTFEが相溶しない状態、すなわち、PTFEの分子配向が大きい状態、が存在するため、これらが起点となってチューブの引裂きが容易となる。
溶融押出成形時にPTFEが融点以上の温度になる場合には、分子緩和によりPTFEの分子鎖が熱溶融性フッ素樹脂の分子鎖と絡まり易くなり、PTFEの分子鎖が繊維化し難くなるあるいは繊維化しないため、PTFEの分子配向効果が得られず引裂き性が悪くなり好ましくない。
【0029】
チューブ内のPTFEの熱履歴の有無については、メルトテンション比を算出することにより確認できる。メルトテンション比は、キャピラリーレオメーター(Capilograph 型式1D, 東洋精機株式会社製)を用いて測定したメルトテンション(単位:g)から下記の式により算出される。
メルトテンション比=340℃におけるメルトテンション/320℃におけるメルトテンション
【0030】
メルトテンションは上記キャピラリーレオメーターを用い、測定温度320℃または340℃に安定させたシリンダーに、測定サンプル30gを投入し10分間滞留させた後、径Φ2mm×長さ20mmのオリフィスから、ピストンスピード3mm/minにてストランドを押し出し、該ストランドを引取速度5m/分(min)のメルトテンション測定ロールにて引取り、測定される。各々の測定温度における測定を5回繰り返し、その平均値を320℃または340℃におけるメルトテンションとした。
【0031】
メルトテンションは、PTFEの熱履歴の有無を示すものである。
一般的にメルトテンションは加熱により小さくなる傾向が有るが、PTFEは重合後に融点以上に加熱されると、分子緩和により整然と並んだPTFEの結晶の分子鎖が解れランダムな絡み合いが生じるため、そのメルトテンションが大きくなる。
そのため、PTFEの融点以下(320℃)で測定したメルトテンションが大きいことは、重合後に融点以上の熱履歴があるPTFEを含有することを意味し、その値が重合後に融点以上の熱履歴が無いPTFEを含有する場合よりも大きくなる結果、メルトテンション比は小さくなる。
すなわち、重合後に融点以上の熱履歴があるPTFEを含有する熱溶融性フッ素樹脂組成物をPTFEの融点未満の温度で成形した場合、またはPTFEの融点(340℃)以上で成形した場合に、メルトテンション比が小さくなることにより、PTFEの熱履歴の有無を確認することができる。
【0033】
本発明におけるメルトテンション比は0.8以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であることが望ましい。またメルトテンション比は30以下であることが望ましい。メルトテンション比が0.8以上30以下である場合には、PTFEが熱履歴を有さず適度に配向していることにより得られるチューブの引裂き性が向上する。更に、チューブ拡径時においてチューブが破断することなく大きく拡径できることに加え、より高速での拡径及びチューブ押出成形が可能となり生産性が向上する。
一方、メルトテンション比が0.7未満の場合には、PTFEが熱履歴を有しておりPTFEと熱溶融性フッ素樹脂との分子鎖の絡まり合いが生じPTFEが配向し難くなるあるいは配向しないため、引裂き性が悪くなる。また、メルトテンション比が30を超える場合は、PTFEの配向の度合いが大きすぎるため、チューブ拡径時に均一な拡径が困難になりチューブの寸法精度が低下するため好ましくない。
【0034】
したがって、熱溶融性フッ素樹脂及びPTFEを含む組成物であって、そのメルトテンション比が0.8以上30以下である組成物からなる成形用材料は、本発明の熱収縮チューブを得るための好適の成形材料である。
このような成形材料を溶融押出成形することにより、本発明の熱収縮チューブを得ることができる。
【0035】
成形されたチューブは、加熱及び内部加圧により拡径されることで、本発明にかかる熱収縮チューブとなる。
拡径率Eは、下記式で表される。拡径率Eは、特に限定されないが、200%以下が好ましい。
E(%)=(Y−X)/X×100
(X:溶融押出成形されたチューブ寸法 Y:拡径加工後のチューブ寸法)
拡径率は熱収縮率と相関し、拡径率を大きくすることで作業性の向上に寄与する一方、大きすぎると拡径前のチューブ外径に戻り難くなる傾向が見られ、逆に作業性は悪化する。そのため、拡径率は50〜150%がさらに好ましい範囲と言える。
【0036】
熱収縮率Sは、下記式で表される。熱収縮率Sは、好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。
S(%)=(P−Q)/P×100
(P:拡径加工後のチューブ寸法 Q:収縮後のチューブ寸法)
熱収縮率が大きいほど、熱収縮チューブによる締め付けが十分得られることから、作業性に優れ、その結果、あらゆる用途で使用可能となる。チューブを高温で収縮させるほど収縮率は大きくなるので、より大きな収縮率を得る方法として、高温・短時間で収縮させる方法も挙げられる。その場合、被覆される材料の耐熱性を考慮して収縮温度を決定する必要がある。
本発明の熱収縮チューブは、高い熱収縮率、すなわち作業性を保持しつつ、相反する特性である引裂き性にも優れることが特徴である。
【0037】
本発明の熱収縮チューブの溶融押出成形方法としては、下記式に基づき算出される引落率(DDR)が10〜500、好ましくは20〜300、より好ましくは20〜200である。
DDR=(D
D2−D
T2)/(D
O2−D
r2)
(式中、D
Dはダイの内径を表し、D
Tはマンドレルの外径を表し、D
Oはチューブの外径を表し、D
rはチューブの内径を表す。)
引落率が高いほど、PTFEの繊維化による配向度が高く、引裂き性に優れるチューブが得られる。
【0038】
また、本発明の熱収縮チューブの長手方向における引裂き強度は6.0N以下であることが好ましい。6.0N以下では、数mm程度の切り込みを起点にし、容易に手で引き裂くことが可能である。
引裂き強度は、以下の方法に基づき測定する。
測定サンプル100mmの片端の径中心付近に20mmの切り込みを設け、2股に分かれた切込み部を、引張試験機のチャック(固定治具)にて、それぞれ保持する。
引張速度100mm/分にて、測定サンプルの切り込み部を更に引き裂き、その際の最大強度を測定する。n=5の測定による平均値を、引裂き強度として用いる。
【0039】
引裂き性は、PTFEの繊維化して配向した箇所を起点として発現するため、引裂き性は配向度の測定においても評価できる。
配向度は、以下の方法に基づき測定する。
熱収縮チューブ中のPTFEの繊維化による配向度(繊維化の度合い)は、X線回折装置(RINT2550型WAXD、リガク社製)を用いて測定した。装置は、CuKαのX線源とシンチレーションカウンタの検出器を使用し、40kVと370mAの出力で測定した。試料チューブを切り開き、測定サンプルとした。試料長手方向を基準軸として測定サンプルを試料ホルダーに固定し、2θ=18°付近のフッ素樹脂由来ピークについて方位角分布強度を測定した。
配向度は、下記の式で計算した。配向度は、数値が大きいほど微結晶の配向が強い。
配向度=(180−β)/180(βは配向由来ピークの半値幅である。)
【0040】
本発明の熱収縮チューブの透明性については、透過率80%以上であり、特に好ましくは透過率90%以上である。透過率は、市販の透明度測定機を用い、ASTM D1746に準拠された方法に基づき測定する。
【0041】
本発明の熱収縮チューブは、引裂き性及び熱収縮率の両特性に優れ、かつ、透明性にも優れるため、食品、医療、製薬、化学、分析機器等の他、あらゆる技術分野において有用であり、特にブレード等の保護層を含む多層構造、あるいは、異形構造を有する電線・チューブ等へ、熱収縮チューブを被覆し、内部の部材をモールドあるいは熱融着加工した後、熱収縮チューブを取り除く用途で有用である。
【実施例】
【0042】
以下に具体例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって、何ら制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
熱溶融性フッ素樹脂は2種類のモノマー(TFEとHFPのコポリマー)から成るFEP(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 テフロン(登録商標)FEP100J、MFR 7g/10分、融点260℃)を用い、重合後に融点以上の熱履歴が無く且つ比重2.20のPTFE粉末(融点336℃)を0.05wt%混合して成形温度320℃(PTFEの融点未満)でペレット状とし、溶融押出機を用い、成形温度320℃(PTFEの融点未満)にてチューブ状に溶融押出成形(DDR=110)する。作製するチューブは内径φ1.2mm×外径φ1.6mmである。
ここで成形温度は、溶融押出機内の溶融樹脂の温度を示す。
これを、加熱及び内部加圧により、拡径加工し、熱収縮チューブを得る。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、PTFEの含有量を0.2wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0045】
[実施例3]
実施例1において、PTFEの含有量を0.4wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、PTFEの含有量を0.6wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0047】
[実施例5]
実施例1において、PTFEの含有量を1.0wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0048】
[実施例6]
実施例1において、PTFEの含有量を2.0wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0049】
[実施例7]
実施例1において、PTFEの含有量を3.0wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0050】
[実施例8]
実施例3において、熱溶融性フッ素樹脂は2種類のモノマー(TFEとHFPのコポリマー)から成るFEP(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 テフロン(登録商標)FEP140J、MFR 3g/10分、融点260℃)を用い、成形温度300℃(PTFEの融点未満)でペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0051】
[実施例9]
実施例3において、熱溶融性フッ素樹脂は3種類のモノマー(TFE/HFP/PAVEのターポリマー)から成るFEP(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 テフロン(登録商標)FEP9494−J、MFR 30g/10分、融点260℃)を用い、成形温度300℃(PTFEの融点未満)でペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0052】
[実施例10]
実施例3において、熱溶融性フッ素樹脂は2種類のモノマー(TFEとPAVEのコポリマー)から成るPFA(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 テフロン(登録商標)PFA920HP Plus、MFR 30g/10分、融点280℃)を用い、成形温度300℃(PTFEの融点未満)でペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0053】
[実施例11]
実施例1において、成形温度300℃(PTFEの融点未満)にてペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0054】
[実施例12]
実施例2において、成形温度300℃(PTFEの融点未満)にてペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0055】
[実施例13]
実施例3において、成形温度300℃(PTFEの融点未満)にてペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0056】
[実施例14]
実施例4において、成形温度300℃(PTFEの融点未満)にてペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0057】
[実施例15]
実施例5において、成形温度300℃(PTFEの融点未満)にてペレット状とする他は同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、PTFEの含有量を0.03wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た
【0059】
[比較例2]
実施例1において、PTFEの含有量を3.5wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0060】
[比較例3]
実施例1において、PTFEの含有量を0.0wt%とするほかは同様にして、熱収縮チューブを得た。
【0061】
[比較例4]
熱溶融性フッ素樹脂は2種類のモノマー(TFEとHFPのコポリマー)から成るFEP(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 テフロン(登録商標)FEP100J、MFR 7g/10分、融点260℃)を用い、重合後に融点以上の熱履歴が無く且つ比重2.20のPTFE粉末(融点336℃)を0.4wt%混合して成形温度340℃(PTFEの融点以上)にてペレット状としたペレットを用いた。
【0062】
前記実施例及び比較例の熱収縮チューブについて、引裂き強度、熱収縮率、透明性、及び配向度を評価した。評価結果を表2に示す。
また、実施例8〜15、及び比較例3及び4のペレットを用いて、メルトテンションを測定し、メルトテンション比を算出した。結果を表3に示す。
【0063】
(引裂き性の評価基準)
引裂き強度は、前記した方法で測定したが、測定結果を以下の基準に基づいて評価した。
◎:1500mm以上を容易に引裂くことができた。
〇:1000mm以上を容易に引裂くことができた。
△:やや引裂き難くなるが800mm以上は手で引裂くことができた。
良品としての限界である。
×:手で引裂けるものの、場合によっては途中で樹脂がちぎれる等、引裂き距離が短くなった。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
本願発明の実施例1乃至15の熱収縮チューブは、いずれも引裂き性に優れ、高い熱収縮率を有する。
【0067】
特に、実施例2乃至5及び実施例12乃至15の熱収縮チューブ、すなわちPTFEの含有量が0.2wt%〜1.0wt%では、引裂き性に優れ、かつ、熱収縮率が50%以上と優れ、両特性を兼ね備えている。
【0068】
実施例1及び実施例11、すなわちPTFEの含有量が下限付近では、引裂き性がやや劣る一方で、熱収縮率は高い傾向が見られる。
【0069】
実施例7、すなわちPTFEの含有量が上限付近では、引裂き性に優れる一方で、熱収縮率は小さくなる傾向が見られる。
【0070】
比較例1の熱収縮チューブは、PTFEの含有量が0.05%より低く、引裂き性の観点で使用不可である。
【0071】
比較例2の熱収縮チューブは、PTFEの含有量が3.0%を超え高く、時折、拡径加工の過程で破断、割れ、破裂等が発生するため、熱収縮率を低くせざるを得ない。その結果、熱収縮チューブによる締め付けが十分得られず、使用用途が限定され作業性が悪化するため、使用不可である。
【0072】
比較例3の熱収縮チューブ、すなわち、PTFEの含有量0.0%においては、配向度が0.5を下回る。実施例との比較からも明らかなように、PTFEの繊維化が発現し引裂き性の向上に起因する配向度は、0.50以上である。
【0073】
以上より、本発明における熱収縮チューブは、従来技術と比較して、引裂き性を維持しつつ、十分な熱収縮率を確保した、引裂き性及び熱収縮率の両特性に優れ、かつ、透明性にも優れる熱収縮チューブであることがわかる。