特許第6369987号(P6369987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369987
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】電子源
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/304 20060101AFI20180730BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180730BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180730BHJP
   H01J 37/073 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   H01J1/304
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H01J37/073
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-244963(P2014-244963)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-110748(P2016-110748A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ザン ハン
(72)【発明者】
【氏名】唐 捷
(72)【発明者】
【氏名】山内 泰
(72)【発明者】
【氏名】秦 禄昌
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004-79223(JP,A)
【文献】 特開2004-243490(JP,A)
【文献】 特開2007-196368(JP,A)
【文献】 特開2007-287401(JP,A)
【文献】 特開2009-26710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/304
H01J 37/073
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から電子ビームを放出する一次元ナノ構造体と
前記一次元ナノ構造体が取り付けられるとともに、前記電子ビーム放出方向軸の周りに非対称性を有する前記導電性先端部材と、
を設けた電子源において、
前記導電性先端部材上であって、前記非対称性を有する部分よりも前記一次元ナノ構造体の前記先端寄りの位置に、前記電子ビーム放出方向軸の周りの対称性を有するとともに、中心に貫通孔を有する導電性軸対称部を設け、
前記一次元ナノ構造体は前記貫通孔を通して前記導電性先端部材に取り付けられる
電子源。
【請求項2】
前記導電性軸対称部はリング状の形状を有する、請求項1に記載の電子源。
【請求項3】
前記一次元ナノ構造体はナノチューブまたはナノワイヤである、請求項1または2に記載の電子源。
【請求項4】
前記ナノチューブまたはナノワイヤはカーボンナノチューブ及び希土類六ホウ化物ナノワイヤからなる群から選択される、請求項3に記載の電子源。
【請求項5】
前記ナノチューブまたはナノワイヤは六ホウ化ランタンナノワイヤである、請求項4に記載の電子源。
【請求項6】
前記一次元ナノ構造体は前記導電性先端部材の材料との間の化学反応を抑制するバリア層を介して前記導電性先端部材に取り付けられる、請求項1から5の何れかに記載の電子源。
【請求項7】
前記先端部材に平坦部が形成され、
前記一次元ナノ構造体は前記平坦部上に取り付けられる
請求項1から6の何れかに記載の電子源。
【請求項8】
前記先端部材と前記導電性軸対称部材とは一体構造である、請求項1から7の何れかに記載の電子源。
【請求項9】
前記電性軸対称部材は前記先端部材を収束イオンビーム加工することにより形成される、請求項1から8の何れかに記載の電子源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子光学装置に使用される電子源に関し、特に放出される電子線の光軸からの偏倚を防止した電子源に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、電子ビームリソグラフィー装置等の電子光学装置は皆、分解能を高くしたり、小さなプローブサイズで大きなプローブ電流を得るために、高輝度電子源を必要としている。冷陰極電界放出型電子源は全ての電子源中で最大の輝度を有する。
【0003】
従来の冷陰極電界放出型電子源は(310)方位の単結晶タングステン針で作成されていた。しかしタングステン表面の反応性が高いという性質により、このような電子放出源は電子銃チャンバー内の残留ガスによる汚染を受けがちであった。その結果、その放出電流には、表面クリーニング直後から急激な減少が見られた。典型的な例として、真空度10−9torrでは、電流は20分以内に初期値の10%未満まで低下していた。
【0004】
ナノチューブやナノワイヤのような一次元ナノ構造体を用いて構成した新しいタイプの電界放出型電子源が作成された。各種のこのようなナノ構造は比較的不十分な真空環境においても数時間にわたって劣化のない電子放出特性を持っていることが示された。カーボンナノチューブ及び六ホウ化ランタン(LaB)はこれらのうちでも注目すべき2つの例である。このような一次元ナノ構造体によって示された他の利点としては、放射された電子ビーム中のエネルギーの広がりが小さいという点が挙げられる。エネルギーの広がりが小さいと、電磁レンズによる電子ビームの収束が容易になり、分解能を上げることができる。
【0005】
しかしながら、ナノ構造体のサイズが小さいため、ナノ構造体をスポット溶接等によって電子放出器ホルダーベースに直接取り付けることができず、電子光学装置の電子源として使用するためには特別な取り扱い技法が必要とされた。
【0006】
現行の技術では、針状の形状とした先端部材の表面上にこれらの一次元ナノ構造体を取り付ける。次に、この針状先端部材を従来の電子放出器ホルダに取り付ける。このような一次元ナノ構造体を使用した電子源全体構造の例を図1に示す。
【0007】
しかし、針形状の先端部材側面は、そのままでは一次元ナノ構造体を接触させるだけで安定して付着させるのは困難であることが多い。そこで、特許文献1に示すように、針状先端部材に予め針の中心軸と平行な平坦部を形成しておき、この平坦部にLaBナノワイヤー等の一次元ナノ構造体を付着させることが提案されている。これにより、一次元ナノ構造体とこの平面との間のファンデルワールス力等によって一次元ナノ構造はこの位置に比較的安定して付着するので、その後にスポット溶接等によってその場で固定するのに好都合である。
【0008】
しかしながら、平坦部を設けるにせよ設けないにせよ、針先端部材側面に一次元ナノ構造を取り付ける構造ではナノ構造体は針状先端部材の一方の側面のみに取り付けられるので、電子放出器の先端部の形状は軸の周りに非対称となる。より具体的に説明すれば、平坦部の存在する構造では、特許文献1の図5を引用して示す図2から明らかなように、平坦部を設けるために切り欠きをそこに形成することで、当然、針状先端部材が針の中心軸の周りに非対称となる。また、平坦部を設けずに針状先端部材側面に一次元ナノ構造体を取り付けた場合には、一次元ナノ構造体を針状先端部材の軸に平行にしようとすると、当然ながら一次元ナノ構造体は先端部材の軸に対して斜行することになり、対称性が崩れてしまう。
【0009】
電子放出を行う際には、高い電圧を電子放出器の先端に印加し、電子ビームが取り出されるナノ構造体の先端部に高い電界を生成する。電子放出器先端が非対称であるとその周囲の電界が非対称になって、この電界により、電子ビームが電子光学系の光軸からずれてしまう。この現象は、ナノ構造体が針状先端部材先端から突出している長さが短い場合に特に甚だしいものとなる。一方では、最終的な電子プローブの不安定性をもたらすことになる振動を避けるためには、ナノ構造体の突出長をできるだけ短く抑える必要がある。従って、上述の非対称性の影響による電界の乱れの影響を軽減するためにナノ構造体先端を充分遠方まで突出させるという解決策は採用することができない。あるいは、非対称電界の影響による電子ビームの偏倚を補償するように電子放出器を傾斜させるという対策も一応は考えられる。しかし、この偏倚は個体毎のバラツキがあるため、補償のための傾斜は一律に設定できず、一次元ナノ構造体が取り付けられた先端部材毎に電子ビームの偏倚を測定して決める必要がある。従って、この対策は非常に煩雑かつ多大な調整工数を要することになり、現実的ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述した従来技術の問題点を解消し、一次元ナノ構造体先端から電子ビームを放出する電子源の先端近傍の構造の非対称性が一次元ナノ構造体先端近傍の電界にもたらす非対称性を防止あるいは軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によれば、先端から電子ビームを放出する一次元ナノ構造体と、前記一次元ナノ構造体が取り付けられるとともに、前記電子ビーム放出方向軸の周りに非対称性を有する前記導電性先端部材とを設けた電子源において、前記導電性先端部材上であって、前記非対称性を有する部分よりも前記一次元ナノ構造体の前記先端寄りの位置に、前記電子ビーム放出方向軸の周りの対称性を有するとともに、中心に貫通孔を有する導電性軸対称部を設け、前記一次元ナノ構造体は前記貫通孔を通して前記導電性先端部材に取り付けられる電子源が与えられる。
ここで、前記導電性軸対称部はリング状の形状を有してよい。
また、前記一次元ナノ構造体はナノチューブまたはナノワイヤであってよい。
また、前記ナノチューブまたはナノワイヤはカーボンナノチューブ及び希土類六ホウ化物ナノワイヤからなる群から選択されてよい。
また、前記ナノチューブまたはナノワイヤは六ホウ化ランタンナノワイヤであってよい。
また、前記一次元ナノ構造体は前記導電性先端部材の材料との間の化学反応を抑制するバリア層を介して前記導電性先端部材に取り付けられてよい。
また、前記先端部材に平坦部が形成され、前記一次元ナノ構造体は前記平坦部上に取り付けられてよい。
また、前記先端部材と前記導電性軸対称部材とは一体構造であってよい。
また、前記電性軸対称部材は前記先端部材を収束イオンビーム加工することにより形成されてよい。
【発明の効果】
【0012】
以上の構成により、本発明の電子源においては、一次元ナノ構造体を取り付ける先端部材の先端部あるいはその近傍に設けられた導電性軸対称構造物により、軸の周りの先端部材の非対称性が当該構造物よりも前方(電子ビーム放出方向)へ及ぼす影響を大きく低減できる。これにより、電子源の軸方向と一次元ナノ構造体からの電子ビーム放出方向とを容易に一致させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電子源の全体構造の例を示す概念図。
図2】先端部材に平坦部を有する本発明の従来技術の電子源の例の走査電子顕微鏡像。
図3】本発明の実施の一態様の電子源の先端部分の構造を示す概念図。
図4】本発明の電子源の実施例の製造方法を説明する概念図。
図5】(a)一次元ナノ構造体としてLaBナノワイヤを使用した本発明の実施例の電子源の先端部分のSEM像。(b)平坦が形成された先端部材にLaBナノワイヤを取り付けた従来技術の電子源の先端部分のSEM像。
図6A】(a)本発明の電子源の実施例の電界分布の計算結果を示す図。(b)本発明の実施例における電子ビームの光軸からの偏倚の計算結果を示す図。
図6B】(a)従来構造の電子源の電界分布の計算結果を示す図。(b)従来構造における電子ビームの光軸からの偏倚の計算結果を示す図。
図7】(a)本発明の実施例及び従来構成の電子源から放出される電子ビームをそれぞれマイクロチャンネルプレートで観測するための測定系の概念図。(b)本発明の実施例の原子源についての観測結果を示す図。(c)従来構成の電子源についての観測結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態によれば、ナノワイヤやナノチューブなどの一次元方向に伸びるナノ材料、すなわち一次元ナノ構造体、が取り付けられる導電体の先端部材の非対称性による電界の非対称性が電子ビームの放射方向の意味で先端部材よりも先に及ばないようにする。具体的には先端部材に、電子ビームの放射方向軸の周りに対称な構造の軸対称導電性部材を設けることにより、これよりも後ろ側の非対称性の影響を静電シールドし、先へ及ばないようにする。この取り付け位置は先端部材の先端でもよいし、あるいは先端部材の先端付近の軸対称性が充分に高いのであれば、軸対称性の高い部分よりも後ろ側であってもよい。また、一次元ナノ構造体が軸対称導電性部材のほぼ中心を通るように配置する。そのため、軸対称導電性部材の中心は貫通孔が設けられている。従って、軸対称導電性部材の構造は、通常は図3に示すようにリング状の形状(リング状端部)として、一次元ナノ構造体取り付けのために平坦に形成されている先端部材の先端に取り付ける。
【0015】
なお、本発明では軸対称導電性部材以外は従来技術の一次元ナノ構造体を使用した電子源と同様な構造として良い。例えば、電子源の全体的な構造は図1に示した概念図と同じであって良い。従来技術におけるこの種の構造は当業者に周知であるため、本願明細書ではこれ以上の説明は行わないが、必要に応じて例えば特許文献1を参照されたい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ここで、以下の実施例はあくまでも本発明の理解を助けるために提示するものであり、これにより本発明を特定の構成に限定しようという意図はないことに注意されたい。
【0017】
図4は、本発明の一実施例であるところの、一次元ナノ構造体としてLaBナノワイヤを用いる電子源の製造方法の各ステップを説明するための概念図である。先ず収束イオンビーム(Focused Ion Beam;FIB)技術を利用して、電子源の先端部材として使用する金属針の先端を加工することにより、そこにリング状先端部及びLaBナノワイヤを取り付けるための平坦部を形成する。このとき、リングの中心線(リングの貫通孔(開口部)により画定される円盤面の中心を通り、円盤面に垂直な直線)はほぼ針の側面に形成された平坦部の平面を通るように加工するのが望ましい。これらを形成した後の金属針の先端付近を図4(a)に示す。次に、ステップ(a)では、SEMの試料室内に置かれたFIB加工後の金属針上のリング状先端部及び一本のLaBナノワイヤを同じく試料室内に置かれたマニピュレーターで把持する。この様子を図4(b)に示す。なお、図4(b)並びにその後のステップである(c)及び(d)中の左右にそれぞれ一つずつ置かれた灰色の円はマニピュレーターによる把持位置を示す。次に、マニピュレーターの操作により、把持されているLaBナノワイヤを金属針先端のリング状先端部の孔に通し、その先にある金属針側面上の平坦部に接触させる。両者が近接した際に働くファンデルワールス力により、LaBナノワイヤは平坦部に付着する。この時、LaBナノワイヤをリングの中心線にほぼ一致するように位置決めするのが望ましい。この様子を図4(c)に示す。この状態で、電子ビームを用いて固定パッド(図3も参照のこと)をLaBナノワイヤ上にデポジットすることにより、LaBナノワイヤを金属針の平坦部にしっかりと固定する。最後に、完成したLaBナノワイヤ電子源をマニピュレーターから取り外す。この様子を図4(e)に示す。
【0018】
ここで、金属針の材料としては従来技術で使用されている材料、例えばタンタル、を使用することができる。また、LaB(より一般的には一次元ナノ構造体の材料)と反応する金属、例えばタングステン、であっても、カーボン等の導電性のバリア層を介してLaBナノワイヤを取り付けることができる。本願で先端部材と言う場合には、このようなバリア層まで含めるものとする。
【0019】
このようにして作製したLaBナノワイヤ電子源の実施例の先端近傍のSEM像を図5(a)に示す。このSEM像からわかるように、リング状先端部は幾何学的に完全な円形のリングである必要はなく、また一次元ナノ構造体がリングのちょうど中心を通ることも必須であるわけではない。リング状先端部の形状や一次元ナノ構造体の貫通位置は、一次元ナノ構造体先端付近及びそこから放出される電子ビーム経路近傍の電界が、電子ビームの進路に有害な偏倚をもたらさないよう、充分な軸対称性を有するものであればよいことに注意されたい。
【0020】
比較対象として、図5(b)には、リング状先端部を有していない、金属針の先端付近に形成した平坦部にLaBナノワイヤを固定しただけの従来構造の電子源の先端付近のSEM像を示す。両者を見比べるだけで、図5(a)に示す本発明実施例の構造の方が、リング状先端部による静電シールド効果により金属針側面に形成された軸対称性のない平坦部の影響が遮断されるために、突出したLaBナノワイヤ周囲の電界の軸対称性が遙かに高くなることが理解できるであろう。
【0021】
この直感的な理解は、数値計算で求めた電界分布及びそれによる電子ビームの本来の放出軸方向(つまり、上述のようなわずかな非対称性による外乱の影響を考えずに設定した放出軸の方向。電子源を使用する場合にはこの放出方向を電子光学系の光軸に整列させるため、本願ではこの放出軸を光軸とも称する)からの偏倚を図形表現した結果から確認される。図5(a)に示す構造を有する本発明の実施例の電界分布及び電子ビームの光軸からの偏倚をそれぞれ図6A(a)及び(b)に、また図5(b)に示す従来構造の場合についての対応する電界分布及び偏倚をそれぞれ図6B(a)及び(b)に示す。図6A(a)及び図6B(a)において、金属針の先端は図の上端付近にあり、そこからLaBナノワイヤが下向きに伸びてそれぞれの図の中心に至る。この先端から下に向かって伸びている細い直線はLaBナノワイヤの先端から放出される電子ビームを示す。図6A(a)に示す本発明の実施例の電界分布は、リング状部から下の領域で左右対称(三次元空間で見ればLaBナノワイヤの中心軸の周りに回転対称)になっていることがわかる。これに対して、従来構造の場合の電界分布を示す図6B(a)では、針先端付近に形成された平坦部の影響により、LaBナノワイヤの先端に至ってもまだ電界の非対称性が残留している。図6A(a)及び図6B(a)の下部に、中心軸がそれぞれの図の下部外枠と交差する位置を0とし、そこから左右への距離を示す。本発明の実施例の場合を示す図6A(a)では電子ビームが光軸の位置であるちょうど0の位置を通っている。これに対して、従来構成の場合の図6B(a)では、電子ビームが下部外枠と交差する点は0位置から僅かに左にずれている。この交差位置付近を拡大することでそれぞれの電子ビーム軌道の偏倚を見やすく示す図である図6A(b)及び図6B(b)から、実施例の電子ビームがちょうど0位置を通っているのに対して、従来構造の電子源からの電子ビームは光軸からの偏倚は約−40であることがわかる。
【0022】
図7は、本発明の図5(a)に示す構造の一実施例及び図5(b)に示す従来構成の電子源から放出された電子ビームをそれぞれマイクロチャンネルプレート(Micro-channel Plate、MCP)で観測した結果を示す。図7(a)にこの観測のための測定系機器構成を示す。実施例または従来構造の電子源の光軸がMCPの中心を通るように両者を正対させて配置した。その結果MCPから得られた出力パターンをそれぞれ図7(b)及び図7(c)に示す。両図の中心の円はMCPの中心孔を示す。本発明の実施例からの電子ビームの観測結果を示す図7(b)では電子ビーム照射位置を示す明るい部分がMCPの中心孔位置と一致し、電子ビームの偏倚がなかったことがわかる。これに対して、従来構成の電子源からの電子ビームの観測結果を示す図7(c)では電子ビーム照射位置はMCPの中心孔から左下方向にかなりずれた位置になっていた。これにより、従来構成では上で縷々説明した電界の非対称性により大きな偏倚が生じることが実証された。
【0023】
各部のサイズを変化させた本発明の実施例のLaBナノワイヤを使用した電子源を6基作成して、それぞれのサイズ及びその電子ビーム軸偏角(電子ビームが光軸に対してなす角。電子ビームが光軸に完全に一致した場合は0°)を測定した。その結果を以下の表に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
原理的には、ナノワイヤ突出長が長いほど(つまり、ナノワイヤ先端が針の非対称性による電界の乱れから遠方にあるほど)、またリング外径が大きいほど(つまり、静電シールド部が大きいほど)、電子ビームへの非対称性の影響が小さくなり、電子ビーム軸偏角が小さくなるはずである。しかしながら、実際の測定結果は、突出長及びリング外径が広い範囲で変化しても電子ビーム軸偏角は充分に小さな値を維持した。これは、軸非対称性を有する部分とナノ構造体先端との間に比較的小さな軸対称部材を置くだけで、電界の軸対称性の乱れに対する充分に高いシールド効果が発揮されることを示している。
【0026】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、既に述べたように本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施例では一次元ナノ構造体としてLaBナノワイヤを使用したが、例えばカーボンナノチューブ、希土類六ホウ化物ナノワイヤ等の従来技術の電子線源に使用できる一次元ナノ構造体であれば本発明にも同様に使用できる。また、金属針(先端部材)には必ずしも一次元ナノ構造体を取り付けやすくするための平坦部分を設ける必要はないし、またこのような取り付けを助けるための構造を設けるとしても平坦部材に限られるものではない。更に、冷陰極電界放出型電子源に関して本発明を説明したが、本発明はこの形式の電子源に限定されるものではなく、その先端付近に何らかの態様で印加される電界の軸対称性の乱れが電子ビームの軌道に悪影響を与えるような電子源に対して適用することができることにも注意されたい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上詳細に説明したように、本発明によれば電子源の形状の非対称性が電子源から放出される電子ビームの方向に与える悪影響を防止あるいは大幅に軽減することができるため、電子源の各種の応用にとって大きな貢献をもたらすことが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】特開2011-14529号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7