特許第6369991号(P6369991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6369991
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】マイクロニードル製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20180730BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20180730BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20180730BHJP
   A61K 31/192 20060101ALN20180730BHJP
   A61K 31/196 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
   A61K9/00
   A61K9/70
   A61K47/36
   A61K47/26
   A61K47/42
   A61M37/00 505
   !A61K31/192
   !A61K31/196
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-56033(P2015-56033)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-175852(P2016-175852A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】矢野 傑
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 博臣
(72)【発明者】
【氏名】石川 聡之
(72)【発明者】
【氏名】丸山 美由紀
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−273872(JP,A)
【文献】 特開2012−254952(JP,A)
【文献】 特開2015−62518(JP,A)
【文献】 特開2016−175853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 47/00−47/69
A61K 31/192
A61K 31/196
A61M 37/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材と、該基材の片面から突出する複数の針部とを備える貼着部を備えるマイクロニードル製剤の製造方法であって、
製剤を水性溶媒に溶解した液体組成物を、下式(1)の条件を満たす温度Tの鋳型に充填し、下式(2)の条件を満たす温度Tの環境下で乾燥させて前記貼着部を形成することを特徴とする、マイクロニードル製剤の製造方法。
50(℃)≦T ・・・(1)
<T ・・・(2)
【請求項2】
前記鋳型における前記液体組成物と接する面の材質がシリコーンである、請求項1に記載のマイクロニードル製剤の製造方法。
【請求項3】
前記製剤が、成分(A):水溶性高分子及び糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のマイクロニードル製剤の製造方法。
【請求項4】
乾燥後の前記貼着部中の水性溶媒の含有量が35質量%以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマイクロニードル製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードル製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば消炎鎮痛剤や血流促進剤等の生理活性成分を人の体内に投与するものとして、マイクロニードル製剤が知られている。マイクロニードル製剤は、シート状の基材の片面に複数の針部が形成された貼着部を備えている。マイクロニードル製剤が皮膚に貼着されたときには、基材及び針部が溶解しつつ、それらに含まれる生理活性成分が経皮吸収される。
【0003】
マイクロニードル製剤の製造方法としては、例えば、ゼラチン等を含む製剤を水等の水性溶媒に溶解させた液体組成物を鋳型に充填し、特定の水分量となるまで乾燥して固化させた後に鋳型から取り出す方法が挙げられる。しかし、該製造方法では、液体組成物の組成や鋳型の材質によって針部の形成されやすさが大きく変化するため、安定して針部を形成することが難しい。針部が安定して形成されないと、生理活性成分の経皮吸収が不充分となる。
【0004】
そこで、製剤を水等の水性媒体に溶解した液体組成物を、耐圧容器内に投入された鋳型における針部を形成するためのポケットに加圧注入する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、該方法においても、鋳型からマイクロニードル製剤を取り出す際に針部の先端が欠けたり、針部の形成が不充分になったりすることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−162982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、製剤を水性溶媒に溶解した液体組成物を用いて、針部を安定して形成することができるマイクロニードル製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマイクロニードル製剤の製造方法は、シート状の基材と、該基材の片面から突出する複数の針部とを備える貼着部を備えるマイクロニードル製剤の製造方法であって、製剤を水性溶媒に溶解した液体組成物を、下式(1)の条件を満たす温度Tの鋳型に充填し、下式(2)の条件を満たす温度Tの環境下で乾燥させて前記貼着部を形成することを特徴とする。
50(℃)≦T ・・・(1)
<T ・・・(2)
【0008】
前記鋳型における前記貼着部と接する部分の材質は、シリコーンであることが好ましい。
前記製剤は、成分(A):水溶性高分子及び糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
乾燥後の前記貼着部中の水性溶媒の含有量は、35質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマイクロニードル製剤の製造方法によれば、製剤を水性溶媒に溶解した液体組成物を用いて、針部を安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造方法で製造されるマイクロニードル製剤の一例を示した断面図である。
図2】本発明のマイクロニードル製剤の製造方法における工程の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマイクロニードル製剤の製造方法は、製剤を水性溶媒に溶解した液体組成物を用いて、シート状の基材と、該基材の片面から突出する複数の針部とを備える貼着部を備えるマイクロニードル製剤の製造方法である。
【0012】
[マイクロニードル製剤の構造]
本発明の製造方法により製造されるマイクロニードル製剤の構造は、シート状の基材と、該基材の片面から突出する複数の針部とを備える貼着部を備えるものであれば、特に限定されない。なお、針部とは、広い意味での針形状の微小凸状構造物(マイクロニードル)を意味し、鋭い先端を有する針形状のものには限定されず、先の尖っていない形状(例えば円錐台状)をも含むものとする。
【0013】
本発明の製造方法により製造されるマイクロニードル製剤の一例として、マイクロニードル製剤1を図1に示す。マイクロニードル製剤1は、貼着部10を備える。貼着部10は、シート状の基材12と、基材12の片面から突出する複数の針部14とを備える。
【0014】
針部の形状は、特に限定されず、円錐状、多角錐状(四角錐等)、円錐台状等が挙げられ、円錐状が好ましい。
針部の高さは、50〜1000μmが好ましく、100〜700μmがより好ましい。針部の高さが前記下限値以上であれば、有効成分の経皮投与が充分となりやすい。針部の高さが前記上限値以下であれば、針部が神経に接触しにくくなるため、痛みや出血を回避しやすい。
【0015】
針部の基端の太さは、10〜1200μmが好ましく、25〜600μmがより好ましい。なお、多角錐状の針部等のように、針部の基端の高さ方向に垂直な断面の形状が円以外の場合、針部の基端の太さは、前記基端の断面形状に外接する円の直径を意味するものとする。
針部が円錐台状の場合、針部の先端の太さは、5〜500μmが好ましく、5〜300μmがより好ましい。
【0016】
隣り合う針部の距離は実質的に等しいことが好ましく、1mm当たり約1〜10本の針部が並んでいることが好ましい。
針部の密度は、1cm当たり、100〜10000本が好ましく、100〜5000本がより好ましく、100〜2000本がさらに好ましい。針部の密度が前記下限値以上であれば、効率良く皮膚を穿孔することができる。針部の密度が前記上限値以下であれば、針部の強度を保ちやすい。
【0017】
本発明の製造方法で製造されるマイクロニードル製剤には、貼着部における針部が形成された側と反対側の面に支持体を設けてもよい。支持体としては、特に限定されず、貼付剤の支持体として通常使用されている公知の支持体を採用できる。
支持体としては、例えば、樹脂フィルム(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等)、布帛(ポリエステル繊維等からなる不織布、織布、編布等)、樹脂フィルムと布帛とが一体化された複合シート等が挙げられる。
【0018】
[製造方法]
本発明のマイクロニードル製剤の製造方法においては、前記液体組成物を、下式(1)の条件を満たす温度Tの鋳型に充填し、下式(2)の条件を満たす温度Tの環境下で乾燥させて貼着部を形成する。これにより、針部が安定して形成され、有効成分の経皮吸収性に優れたマイクロニードル製剤が得られる。
50(℃)≦T ・・・(1)
<T ・・・(2)
【0019】
例えば、マイクロニードル製剤1を製造する場合、図2に示すように、マイクロニードル製剤1の基材12の形状と相補的な形状の凹部110と、針部14の形状と相補的な形状のポケット112とが設けられた鋳型100を用いる。温度Tに加熱した鋳型100の凹部110及びポケット112に液体組成物Xを充填する。そして、温度T未満の温度Tの環境下に、液体組成物Xを充填した鋳型100を置き、液体組成物Xを乾燥させてマイクロニードル製剤1を形成する。その後、鋳型100からマイクロニードル製剤1を剥離する。
【0020】
液体組成物を充填する際の鋳型の温度Tは、50℃以上であり、80℃以上が好ましい。温度Tが前記下限値以上であれば、乾燥時に液体組成物が鋳型のポケットの底部まで充分に入り込みやすくなるため、針部が安定して形成されたマイクロニードル製剤が得られる。また、温度Tは、液体組成物に用いる水性溶媒の沸点未満であればよく、鋳型の耐熱温度以下であることが好ましい。具体的には、例えば、温度Tは、100℃未満とすることができる。
【0021】
鋳型に充填する際の液体組成物の温度は、特に制限されず、0〜80℃が好ましく、10〜70℃がより好ましく、20〜60℃がさらに好ましい。液体組成物の温度が上限値以下であれば、薬剤の安定性が向上する。液体組成物の温度が下限値以上であれば、液体組成物を鋳型に充填することが容易になる。
【0022】
乾燥時の温度Tは、液体組成物が充填された鋳型が乾燥時に置かれる環境の温度を意味する。乾燥の際の鋳型及び液体組成物の温度は、温度Tまで低下する。
温度Tは、温度T未満であり、得られるマイクロニードル製剤が湾曲して反りにくくなる点から、25℃以下が好ましい。また、乾燥時間が短くなる点から、温度Tは、5℃以上が好ましい。
【0023】
液体組成物を充填する際の鋳型の温度Tと乾燥時の温度Tとの差(T−T)は、0℃超であり、10℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。差(T−T)が前記下限値以上であれば、液体組成物が鋳型のポケットの底部まで充分に入り込みやすくなるため、安定して針部が形成されたマイクロニードルが得られやすくなる。
【0024】
乾燥は、液体組成物中の水性溶媒の含有量が所望の割合となり、液体組成物が固化して貼着部が形成されるまで行えばよい。乾燥時間は、乾燥時の温度Tに応じて適宜決定すればよい。
【0025】
(液体組成物)
液体組成物は、製剤を水性溶媒に溶解した組成物である。
製剤としては、水性溶媒に溶解されてマイクロニードル製剤の製造に用いられる公知の製剤を採用できる。製剤としては、成分(A):水溶性高分子及び糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、成分(A)を主成分とすることが好ましい。なお、成分(A)を主成分とするとは、製剤の総量(100質量)に対して成分(A)を50質量%以上含むことを意味する。
水溶性高分子とは、20℃における水(100g)に対する溶解度が0.01g以上で、分子量が1000以上の化合物(ただし、糖類は除く。)を意味する。
【0026】
成分(A)としては、例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ゼラチン、マルトース、プルラン、α化デンプン、デキストリン、カルメロースナトリウム、結晶セルロース、ラクトース等が挙げられる。なかでも、成分(A)としては、針部の形成が容易になる点から、ヒアルロン酸ナトリウム、ゼラチン、マルトースが好ましい。
(A)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0027】
製剤(100質量%)中の(A)成分の含有量は、10〜95質量%が好ましく、20〜90質量%がより好ましく、50〜90質量%が最も好ましい。水溶性高分子の含有量が前記範囲内であれば、針部の形成が容易になり、また鋳型からマイクロニードル製剤を剥離することが容易になる。
【0028】
(A)成分として水溶性高分子を用いる場合、製剤(100質量%)中の水溶性高分子の含有量は、15〜90質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、55〜90質量%が最も好ましい。水溶性高分子の含有量が前記範囲内であれば、針部の形成が容易になり、また鋳型からマイクロニードル製剤を剥離することが容易になる。
【0029】
(A)成分として糖類を用いる場合、製剤(100質量%)中の糖類の含有量は、15〜80質量%が好ましく、30〜70質量%がより好ましく、50〜70質量%が最も好ましい。糖類の含有量が前記範囲内であれば、針部の形成が容易になり、また鋳型からマイクロニードル製剤を剥離することが容易になる。
【0030】
製剤は、(B)成分:薬剤を含んでもよい。
薬剤としては、貼着部中に分散可能な形態のものであれば特に限定されず、例えば、フェルビナク、ジクロフェナクナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム、サリチル酸グリコール、ケトプロフェン、インドメタシン等が挙げられる。
(B)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0031】
(B)成分を用いる場合、製剤(100質量%)中の(B)成分の含有量は、1〜10質量%が好ましく、2〜6質量%がより好ましい。(B)成分の含有量が前記下限値以上であれば、薬剤の有効性を発揮し易い。(B)成分の含有量が前記上限値以下であれば、針部の形成性が向上する。
【0032】
製剤は、(C)成分:アルカノールアミンを含んでもよい。
アルカノールアミンは、モノアルカノールアミンであってもよく、ジアルカノールアミンであってもよく、トリアルカノールアミンであってもよい。
アルカノールアミンが有するヒドロキシアルキル基の炭素数は、1〜10が好ましく、2又は3がより好ましい。
【0033】
アルカノールアミンの具体例としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
(C)成分は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0034】
(C)成分を用いる場合、製剤(100質量%)中の(C)成分の含有量は、1〜20質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましい。(C)成分の含有量が前記下限値以上であれば、針部の形成性が向上する。(C)成分の含有量が前記上限値以下であれば、針の穿刺性が良好になる。
【0035】
製剤には、必要に応じて、(A)〜(C)成分以外の他の成分を配合してもよい。他の成分としては、グリセリン等の可塑剤、界面活性剤、薬剤の溶解補助剤、粘着付与剤、安定化剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0036】
水性溶媒としては、水、水と混和する有機溶媒が挙げられる。水性溶媒は、水のみであってもよく、水と混和する有機溶媒のみであってもよく、水及び水と混和する有機溶媒の混合物であってもよい。
なお、水と混和する有機溶媒とは、20℃において水100gに0.01g以上溶解する有機溶媒を意味する。
【0037】
水と混和する有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン等が挙げられる。
水性溶媒としては、沸点が鋳型の温度T以上のものを使用する必要がある。水性溶媒としては、揮発のしにくさの点から、水、エタノールが好ましい。
【0038】
水性溶媒(100質量%)中の水の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
水性溶媒における水と有機溶媒の質量比(水:有機溶媒)は、1:0〜1:1が好ましい。前記質量比が前記範囲内であれば、針部の形成がより容易になる。
【0039】
鋳型に充填する際の液体組成物(100質量%)中の水性溶媒の含有量は、30〜90質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。前記水性溶媒の含有量が下限値以上であれば、針部の形成がより容易になる。前記水性溶媒の含有量が上限値以下であれば、形成された針部の穿刺性が良好となる。
【0040】
鋳型に充填する際の液体組成物の20℃における粘度は、鋳型に充填可能な流動性を有する範囲であればよく、針部の形成が容易になる点から、1〜20,000mPa・sが好ましく、1〜10,000mPa・sがより好ましい。
なお、前記粘度は、B型粘度計により測定される値を意味する。
【0041】
(乾燥後の水性媒体の含有量)
乾燥後の製剤(100質量%)中の水性溶媒の含有量は、35質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。乾燥後の貼着部中の水性溶媒の含有量が前記上限値以下であれば、針部の硬度が充分に高くなりやすく、皮膚への穿刺が容易になる。また、乾燥後の製剤(100質量%)中の水性溶媒の含有量は、5質量%以上が好ましい。乾燥後の製剤中の水性溶媒の含有量が前記下限値以上であれば、鋳型からマイクロニードル製剤を剥離する際に針部が折れにくい。
乾燥後の製剤(100質量%)中の水性溶媒の含有量は、0質量%でもよい。
【0042】
(鋳型)
鋳型は、製造するマイクロニードル製剤の形状に合わせて、基材の形状に相補的な凹部と、針部の形状に相補的なポケットとを備えるものを使用できる。鋳型としては、公知の鋳型を制限なく使用できる。
【0043】
鋳型の材質は、特に限定されず、樹脂、金属、木質等のいずれであってもよい。なかでも、鋳型の材質としては、加工性の点から、樹脂が好ましい。
鋳型を形成する樹脂としては、例えば、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0044】
鋳型における貼着部と接する部分の材質としては、鋳型からマイクロニードル製剤を剥離することが容易な点から、シリコーンが好ましい。この場合、鋳型における貼着部が接する部分のみがシリコーン製であってもよく、鋳型全体がシリコーン製であってもよい。
【0045】
[作用効果]
以上説明した本発明のマイクロニードル製剤の製造方法においては、液体組成物を充填する際の鋳型の温度Tを50℃以上とし、温度Tより低い温度Tの環境下で乾燥させて貼着部を形成することで、針部が安定して形成される。温度T及び温度Tを前記のように制御することで、針部が安定して形成されるようになる要因は、以下のように考えられる。
鋳型に液体組成物を充填したときには、特に液体組成物の粘度が高い場合に、鋳型のポケットの底部に空気や水蒸気が残存しやすい。そのため、鋳型のポケットの底部まで充分に液体組成物が充填されず、針部の先端が欠けるなどして針部が安定して形成されにくい。これに対して、本発明では、50℃以上の温度Tとした鋳型に液体組成物を充填し、該液体組成物を充填した鋳型を温度T未満の温度Tの環境下に置いて液体組成物を乾燥させることで、鋳型のポケット内に残存した空気及び水蒸気が収縮し、ポケット内が陰圧になる。これにより、鋳型のポケットの底部まで液体組成物が引き込まれて充分に充填されるため、安定して針部が形成されると考えられる。
以上のように、本発明の製造方法で製造されたマイクロニードル製剤には、針部が安定して形成されているため、有効成分の経皮吸収性に優れる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[使用原料]
本実施例で使用した原料を以下に示す。
HA−1:ヒアルロン酸ナトリウム(質量平均分子量:50,000〜110,000、商品名「FCH−SU」、キッコーマンバイオケミファ株式会社製)。
HA−2:ヒアルロン酸(質量平均分子量:1,000〜10,000、商品名「ヒアロオリゴ」、キユーピー株式会社製)。
GEN:ゼラチン(Rousselot株式会社製)。
MAL:マルトース(商品名「サンマルト」、株式会社林原製)。
GL:濃グリセリン(商品名「局方濃グリセリン」、阪本薬品工業株式会社製)。
DIPA:ジイソプロパノールアミン(三井化学ファイン株式会社製)。
LOX:ロキソプロフェンナトリウム(ダイト株式会社製)。
DCF:ジクロフェナクナトリウム(大和薬品工業株式会社製)。
FEL:フェルビナク(HANSEO CHEMICAL株式会社製)。
水:「精製水(日局)」、共栄製薬株式会社製。
EtOH:エタノール(純正化学株式会社製)。
質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定される値を意味する。
【0047】
[実施例1]
マイクロニードル製剤を作製するための鋳型として、根元の直径が0.5mm、高さが0.65mm、先端直径が0.04mmの円錐状の針部と相補的な形状のポケットが、1.0mm間隔で縦横各10ポケットずつ、計100ポケット形成されているものを用いた。前記鋳型の材質は、基材及び針部が接する面も含めて全体がシリコーン(二液型RTVゴム KE−17:信越シリコーン)100%であった。
表1に示す成分(水以外)を水に溶解させて液体組成物を調製した。次いで、恒温槽を用いて鋳型を80℃(温度T)に加熱した後、鋳型を恒温槽から取り出し、該鋳型に速やかに前記液体組成物を約1g充填した。充填前の液体組成物は常温(25℃)とした。鋳型及び液体組成物を25℃(温度T)で静置し、質量が恒量となるまで液体組成物を乾燥させた後、鋳型からマイクロニードル製剤を取り出した。
【0048】
[実施例2〜27、比較例1〜15]
鋳型に充填する液体組成物の組成、鋳型の温度T、及び乾燥時の温度Tを表1〜5に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にしてマイクロニードル製剤を作製した。
【0049】
[薬剤透過量の測定]
ヘアレスマウスを用いて経皮吸収性試験を行った。以下に概要を示す。
縦型フランツセルにマウス皮膚を設置し、貼付剤を貼付した。その後、8時間後のレシーバー溶液を採取し、薬剤の透過量をHPLCにより以下の処理条件で測定した。薬剤透過量の測定は、ロキソプロフェンナトリウムを含む実施例10〜17及び比較例6〜10、並びにフェルビナクを含む実施例20〜27及び比較例11〜15について実施した。
(処理条件)
測定環境:25℃、50%RH、
マウス皮膚:HR−1 7週齢 オスの背部から摘出、
レシーバー溶液:リン酸バッファー(pH7.4)、
貼付面積:5cm
貼付剤:1枚(約0.5g)、
フランツセルジャケット温度:37℃。
【0050】
また、以下の基準により薬剤透過性を評価した。
(薬剤がロキソプロフェンナトリウムの場合の評価基準)
◎:薬剤透過量が200μg/cm以上である。
○:薬剤透過量が150μg/cm以上、200μg/cm未満である。
△:薬剤透過量が100μg/cm以上、150μg/cm未満である。
×:薬剤透過量が100μg/cm未満である。
(薬剤がフェルビナクの場合の評価基準)
◎:薬剤透過量が450μg/cm以上である。
○:薬剤透過量が350μg/cm以上、450μg/cm未満である。
△:薬剤透過量が250μg/cm以上、350μg/cm未満である。
×:薬剤透過量が250μg/cm未満である。
【0051】
[針部形成性]
マイクロスコープ(キーエンス製:VHX−1000)を用いて、マイクロニードル製剤を観察し、鋳型の100個のポケットに対応する針部が何本形成されているかを確認し、以下の基準により針部形成性を評価した。
(評価基準)
◎:針部の形成本数が95本以上である。
○:針部の形成本数が90本以上、95本未満である。
△:針部の形成本数が80本以上、90本未満である。
×:針部の形成本数が80本未満である。
【0052】
実施例1〜27及び比較例1〜15における製造条件及び評価結果を表1〜5に示す。なお、表1〜5における「乾燥後の組成物量」は、鋳型に充填した直後の乾燥前の液体組成物の質量を100としたときの、乾燥後の組成物の質量の割合を意味する。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
表1〜5に示すように、本発明の製造方法を用いた実施例1〜27では、90本以上の針部が形成されており、針部の形成が安定していた。また、実施例10〜17、20〜27のマイクロニードル製剤は、薬剤透過性が優れていた。
一方、鋳型の温度T、及び乾燥時の温度Tが式(1)及び式(2)の条件のいずれか一方を満たしていない比較例1〜15では、形成された針部の本数が90本未満であり、針部の形成が不安定であった。また、比較例6〜15のマイクロニードル製剤は、薬剤透過性が劣っていた。
【符号の説明】
【0059】
1 マイクロニードル製剤
10 貼着部
12 基材
14 針部
100 鋳型
110 凹部
112 ポケット
図1
図2