(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反応室において前記化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された前記化学蓄熱材の最小断面寸法が、前記連絡部の最小断面寸法より大きい、請求項1または2に記載の電子機器。
前記凝縮蒸発室が、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、または前記凝縮蒸発室の内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の電子機器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器の高性能化に伴い、1つの電子機器に内蔵される発熱部品の数が増加すると共に、個々の発熱部品に投入されるエネルギー量が増大し、これらの結果、電子機器における発熱量が増大している。
【0006】
冷却ファンを用いた従来の放熱方法では、冷却ファンを駆動するために追加のエネルギーを要しており、より高い放熱能力を得るためには電子機器の電力消費量が更に増すこととなり、好ましくない。そもそも、この方法は、エネルギー損失である発熱に対して、エネルギー投入により放熱するというものであり、効率的でない。加えて、冷却ファンを設置するには比較的大きなスペースを要し、小型の電子機器には不向きである。更に、スマートフォンやタブレット型端末などでは、電子機器の筺体が密閉されており、冷却ファンで気流を起こして外部へ排気することはできない。
【0007】
また、ヒートパイプを用いた従来の放熱方法では、熱を速やかに輸送することができるものの、この熱を放熱するにはヒートシンクや放熱板が必要である。ヒートシンク等を設置するには比較的大きなスペースを要し、小型の電子機器には不向きである。ヒートシンク等に代えて、電子機器の筐体等に熱を逃がすことも考えられ得るが、電子機器の小型薄型化により、筺体の表面積が減少しており、高い放熱能力を得ることはできない。加えて、筐体の温度が上昇し過ぎると、ユーザの使用感や安全性のうえで好ましくない。更に、スマートフォンなどの高性能モバイル機器ではリチウムイオンバッテリの寿命低下が問題となっているところ、筐体に熱を逃すと、リチウムイオンバッテリの使用環境温度が高くなり、バッテリ容量の経時低下を招き得る。
【0008】
かかる状況下、個々の発熱部品の温度を測定し、温度測定値が所定の閾値を超えた場合に、発熱部品に投入するエネルギー量を制限することが行われているのが実状である。この方法は、発熱部品の発熱量自体を減少させることにより、発熱部品の温度上昇を抑制するものである。しかしながら、この方法では、発熱部品の温度上昇により、発熱部品の機能(例えばCPUのパフォーマンス)が都度妨げられることとなり、電子機器の性能を犠牲にしたものである。
【0009】
本発明は、発熱部品の温度上昇を抑制し得る新規な手段を備える電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、化学反応を利用して熱を蓄熱および移動させる技術、即ち、ケミカルヒートポンプに着目した。ケミカルヒートポンプは、現在、化学プラントや発電所における排熱利用の目的で用いられたり、家庭の給湯・暖房システムや冷凍車などの大型の装置に用いられている(例えば特許文献2〜3を参照のこと)。しかしながら、ケミカルヒートポンプを電子機器に適用したものは知られていない。本発明者らは、発熱部品の温度上昇を抑制し得る新規な手段として、ケミカルヒートポンプを利用するという独自の発想に基づいて鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の要旨によれば、
発熱部品と、
発熱部品が発する熱によって吸熱反応を示す化学蓄熱材を収容した反応室、化学蓄熱材の吸熱反応によって生じる凝縮性成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室、および凝縮性成分が反応室と凝縮蒸発室との間を移動可能なように反応室と凝縮蒸発室とを連絡する連絡部を備えるデバイスとを含む電子機器が提供される。
【0012】
本発明を限定する趣旨ではないが、反応室と凝縮蒸発室とが連絡部によって連絡しているデバイスは、いわゆるケミカルヒートポンプとして理解され得る。本明細書において、かかるデバイスをケミカルヒートポンプとも言う。
【0013】
本発明の第1の要旨に関連した1つの態様においては、反応室が、熱伝導性材料から成る部分を有し、該熱伝導性材料から成る部分が、発熱部品と直接または間接的に接触して配置されていてよい。
【0014】
本発明の上記の態様に代えてまたは加えて、電子機器が、熱伝導性部材を更に含み、
凝縮蒸発室が、熱伝導性材料から成る部分を有し、該熱伝導性材料から成る部分が、前記熱伝導性部材に直接または間接的に接触して配置されていてよい。
【0015】
熱伝導性部材は、例えば、電子機器の筐体、バッテリの外装、基板およびディスプレイからなる群より選択され得るが、これらに限定されるものではない。
【0016】
発熱部品は、例えば、集積回路、発光素子、電界効果トランジスタ、モーター、コイル、コンバーター、インバーターおよびコンデンサーからなる群より選択され得るが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明の第2の要旨によれば、
第1部材および第2部材と、
互いに可逆な吸熱反応および発熱反応を示す化学蓄熱材を収容した反応室、化学蓄熱材の吸熱反応によって生じる凝縮性成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室、および反応室と凝縮蒸発室とを連絡する連絡部を備えるデバイスとを含み、第1部材と反応室とが熱的に結合され、かつ、凝縮蒸発室と第2部材とが熱的に結合されている電子機器が提供される。
【0018】
かかる本発明の電子機器においては、第1部材の温度が上昇したときおよび/または第2部材の温度が低下したときに、第1部材から反応室に熱が伝達され、反応室内で化学蓄熱材が吸熱反応により凝縮性成分を生じ、凝縮性成分が気体状態で反応室から連絡部を通って凝縮蒸発室へ移動し、凝縮蒸発室内で凝縮性成分が凝縮して熱を生じ、凝縮蒸発室から第2部材に熱が伝達され得る。
【0019】
また、かかる本発明の電子機器においては、第1部材の温度が低下したときおよび/または第2部材の温度が上昇したときに、反応室から第1部材に熱が伝達され、反応室内で発熱反応が生じて凝縮性成分が消費され、気体状態の凝縮性成分が凝縮蒸発室から連絡部を通って反応室へ移動し、凝縮蒸発室内で凝縮している凝縮性成分が熱を得て蒸発し、第2部材から凝縮蒸発室に熱が伝達され得る。
【0020】
本発明の第1の要旨および第2の要旨に関連した電子機器はいずれも、以下の特徴の少なくとも1つを備えることが好ましい。
(i)連絡部が、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルターを備えること
(ii)反応室において化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部の最小断面寸法より大きいこと
(iii)凝縮蒸発室が、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、または凝縮蒸発室の内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されていること
かかる特徴によれば、電子機器が上下および/または左右に回転等した場合であっても、反応室内の化学蓄熱材(一般的に固体または固形状)が反応室から連絡部を通じて凝縮蒸発室へ移動することを効果的に防止でき(上記特徴(i)および(ii)の場合)、また、凝縮蒸発室において凝縮した凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室から連絡部を通じて反応室へ移動することを効果的に防止でき(上記特徴(i)および(iii)の場合)、これにより、デバイスのケミカルヒートポンプとしての性能を損なうことを効果的に防止できる。上記特徴およびそれによって得られる効果は、モバイル型の電子機器が上下および/または左右に回転等して使用されるため、デバイス内の固体および液体が2室間を移動する可能性があるという特有の課題に対処したものである。従来のケミカルヒートポンプは、設置して、または水平方向に移動しつつ使用されるものであり、電子機器の用途における上記課題は本発明者らが独自に見いだしたものである(後述する本発明の第3の要旨においても同様である)。
【0021】
本発明の第3の要旨によれば、発熱部品の温度上昇を抑制する機能を有する電子機器であって、
発熱部品と、
化学蓄熱材を収容した少なくとも1つの反応室と
を含み、発熱部品が発する熱を、発熱部品の外表面から、少なくとも1つの反応室に収容した化学蓄熱材へ伝導し、化学蓄熱材が反応により吸熱することによって、発熱部品の温度上昇を抑制する、電子機器が提供される。
【0022】
本発明の第3の要旨に関連した1つの態様においては、電子機器が、第1化学蓄熱材を収容した第1反応室と、第2化学蓄熱材を収容した第2反応室とを含み、
第1化学蓄熱材および第2化学蓄熱材は、同じ成分が関与する反応によって吸熱または発熱し、
第1反応室および第2反応室は、それらの間の連絡部によって該成分が移動可能に連絡しており、
発熱部品が発する熱は、第1反応室の第1化学蓄熱材および第2反応室の第2化学蓄熱材のいずれかに伝導される。
【0023】
本発明の上記の態様において、電子機器は、前記成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室を更に含み、
凝縮蒸発室は、第1反応室と第2反応室の間の前記連絡部に対して、該成分が移動可能に連絡していてよい。
【0024】
あるいは、本発明の上記の態様において、電子機器は、前記成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室を更に含み、
凝縮蒸発室は、第1反応室および第2反応室のいずれかに対して、別の連絡部によって該成分が移動可能に連絡していてよい。
【0025】
本発明の第3の要旨における電子機器は、以下の特徴の少なくとも1つを備えることが好ましい。
(i’)各室(第1反応室、第2反応室および凝縮蒸発室)間をつなぐ連絡部のいずれかにおいて、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルターを備えること
(ii’)第1反応室において第1化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された第1化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部(および好ましくは、存在する場合は別の連絡部)の最小断面寸法より大きいこと、および/または第2反応室において第2化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された第2化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部(および好ましくは、存在する場合は別の連絡部)の最小断面寸法より大きいこと
(iii’)凝縮蒸発室が、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、あるいは凝縮蒸発室の内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されていること
かかる特徴によれば、電子機器が上下および/または左右に回転等した場合であっても、第1および/または第2反応室内の化学蓄熱材(一般的に固体または固形状)が第1および/または第2反応室から連絡部を通じて凝縮蒸発室へ移動することを効果的に防止でき(上記特徴(i’)および(ii’)の場合)、また、凝縮蒸発室において凝縮した凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室から連絡部を通じて第1および/または第2反応室へ移動することを効果的に防止でき(上記特徴(i’)および(iii’)の場合)、これにより、これらの部材が構成するケミカルヒートポンプとしての性能を損なうことを効果的に防止できる。
【0026】
本発明の全ての要旨を通じて、「化学蓄熱材」とは、吸熱反応により熱を蓄熱できる物質を意味する。本発明において、化学蓄熱材が、吸熱反応によって生じる凝縮性成分(凝縮蒸発室において凝縮または蒸発が可能な成分)は水であり得るが、これに限定されるものではない。あるいは、本発明の第3の要旨に関して、化学蓄熱材は、吸熱反応によって、凝縮性成分に代えて、他の相変化(例えば昇華)可能な成分を生じるものであってもよい。この場合、凝縮蒸発室は、該成分が相変化する相変化室(例えば昇華室)として機能する。
【0027】
かかる化学蓄熱材は、30〜200℃の温度で吸熱反応を示すことが好ましい。
【0028】
また、本発明の全ての要旨を通じて、化学蓄熱材に代えて、ゼオライト、シリカゲル、
メソポーラスシリカおよび活性炭から成る群より選択される少なくとも1種の蓄熱材を用いることが可能である。この場合にも、各蓄熱材に相応した効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の第1の要旨によれば、発熱部品を備える電子機器においてケミカルヒートポンプ(反応室と凝縮蒸発室とが連絡部によって連絡しているデバイス)を適用し、発熱部品が発する熱によって吸熱反応を示す化学蓄熱材を使用しているので、発熱部品が発熱したときに、化学蓄熱材が反応して発熱部品から熱を奪って蓄熱し、これにより、発熱部品の温度上昇を抑制することができ、換言すれば、電子機器において少なくとも時間的な熱の移動ないし平準化が実現される。
【0030】
本発明の第2の要旨によれば、電子機器において第1部材と第2部材との間にケミカルヒートポンプを適用し、ケミカルヒートポンプの反応室および凝縮蒸発室を第1部材および第2部材にそれぞれ熱的に結合しているので、化学蓄熱材で蓄熱または放熱しながら、第1部材から第2部材へ、または第2部材から第1部材へと、熱を移動させることができ、換言すれば、電子機器において時間的および空間的な熱の移動ないし平準化が実現される。
【0031】
本発明の第3の要旨によれば、発熱部品を備える電子機器において、化学蓄熱材を収容した反応室を設けて、発熱部品が発する熱を、発熱部品の外表面から、反応室に収容した化学蓄熱材へ伝導し、化学蓄熱材が反応により吸熱(蓄熱)する構成としており、これにより、発熱部品の温度上昇を抑制することができる。
【0032】
本発明のいずれの要旨においても、化学蓄熱材の化学反応を利用し得るので、大きい蓄熱容量を得ることができる。更に、発熱部品の発する熱が減少ないし低下したときには、発熱部品が発する熱が直接伝導されない室(通常、凝縮蒸発室であるが、本発明の第3の要旨による場合には、第1の反応室および第2の反応室のうち発熱部品が発する熱が直接伝導されないほうも含む)側にて冷熱(または負の熱量)を得ることができる。このように大きい蓄熱容量および冷熱が得られることは、潜熱を利用したヒートパイプや、顕熱を利用した熱輸送デバイスに比した、本発明の顕著な特徴である。化学反応を利用したケミカルヒートポンプを除く他のヒートポンプとしては、機械式(メカニカル)ヒートポンプや、吸着または吸収反応を利用したヒートポンプが知られている。本発明によれば、化学蓄熱材の化学反応を利用しているので、機械式ヒートポンプとは異なり、コンプレッサーのような大きくて複雑な構成を有する機械部品を必要とせず、また、吸着または吸収反応による場合よりも大きな蓄熱容量が得られ、幅広い温度範囲で蓄熱が可能である。
【0033】
しかしながら、本発明は、化学蓄熱材を用いたものに限定されず、その他の蓄熱材、例えばゼオライト、シリカゲル、メソポーラスシリカおよび活性炭から成る群より選択される少なくとも1種の蓄熱材を用いることも幅広く包含し得る。この場合にも、各蓄熱材に相応した効果を奏することができる。また、かかる蓄熱材は、化学蓄熱材と比べて、取り扱いが容易であり、構成を簡素化できる(例えば、腐食防止を考慮しなくてよい)という効果を奏し得る。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のいくつかの実施形態における電子機器について、以下、図面を参照しながら詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
まず、反応室と凝縮蒸発室とが連絡部によって連絡しているデバイスであるケミカルヒートポンプ(CHP)の構成について説明する。本実施形態において、
図1に示すように、ケミカルヒートポンプ10は、化学蓄熱材を収容した反応室1と、凝縮性成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室3と、これらの間を連絡する連絡部5とを備える。化学蓄熱材の化学反応は、ケミカルヒートポンプ10による熱の移動の駆動源であり、凝縮性成分は、ケミカルヒートポンプ10の作動媒体である。
【0037】
化学蓄熱材には、吸熱反応により熱を蓄熱できる限り、任意の適切な材料を使用し得る。ケミカルヒートポンプの原理上は、化学蓄熱材は、互いに可逆な吸熱反応および発熱反応を示し、これらのいずれかの反応によって凝縮性成分を生じるものであればよいが、これに限定されない。凝縮性成分は、使用環境下にて、気体状態(気相)と液体状態(液相)との間で相変化可能な成分であればよい。
【0038】
本実施形態においては、吸熱反応によって凝縮性成分を生じる化学蓄熱材を使用する。
かかる化学蓄熱材は、吸熱反応として脱水反応を示し、発熱反応として水和反応を示すものであり得、この場合、凝縮性成分は水である。
【0039】
より具体的には、上記の化学蓄熱材としては、無機化合物の水和物および無機水酸化物などが使用され得る。より詳細には、アルカリ土類金属化合物の水和物およびアルカリ土類金属の水酸化物、例えば硫酸カルシウムや塩化カルシウムなどの水和物、カルシウムやマグネシウムの水酸化物などが挙げられる。
【0040】
例えば、硫酸カルシウムの半水和物は、以下の吸熱反応を示す。
【化1】
式中、Q
1は、16.7kJ/mol程度であることが知られている。
硫酸カルシウムの半水和物の吸熱反応は、種々の条件にもよるが、例えば約50〜150℃程度で進行し得る。これは可逆反応であり、上記の逆反応は、発熱反応となる。硫酸カルシウムの半水和物は、固体状態(例えば粉末)であり、硫酸カルシウムは固体状態であり、水は気体状態である。
【0041】
また例えば、塩化カルシウムの水和物は、以下の吸熱反応を示す。
【化2】
式中、nは水和する分子数、具体的には1、2、4、6であり得、Q
2は、30〜50kJ/mol程度であることが知られている。
塩化カルシウムの水和物の吸熱反応は、種々の条件にもよるが、例えば約30〜150℃程度で進行し得る。これは可逆反応であり、上記の逆反応は、発熱反応となる。塩化カルシウムの水和物は、固体状態(例えば粉末)であり、塩化カルシウムは固体状態であり、水は気体状態である。
【0042】
しかしながら、化学蓄熱材は、上記の例に限定されず、任意の適切な化学蓄熱材を使用してよく(例えば、アンモニアを発生し得るものであってもよい)、発熱部品が発する熱によって吸熱反応を示すように適宜選択され得る。
【0043】
より広範な概念において、本発明に利用可能な化学蓄熱材は、例えば30〜200℃の温度で吸熱反応を示すものであることが好ましく、特に40℃以上、更に50℃以上で、150℃以下、より更に120℃以下の温度で吸熱反応を示すものであることが好ましい
。
【0044】
かかる化学蓄熱材は、反応室1に収容される。化学蓄熱材は、例えば固相2aを成していてよく、反応室1内には、凝縮性成分を含む気相2bが存在し得る。反応室内の圧力は、通常(発熱部品が非発熱状態であるとき)の使用温度環境下にて、吸熱反応と発熱反応の平衡圧力に実質的に等しいことが望ましい。
【0045】
他方、凝縮蒸発室3には、凝縮性成分が気相4aおよび液相4bに含まれて存在し得る。本実施形態を限定するものではないが、凝縮蒸発室に予め凝縮させた成分(例えば液体状態の水)を収容しておいてよい。凝縮蒸発室内の圧力は、使用温度環境下にて、凝縮性成分の飽和蒸気圧(水の場合には飽和水蒸気圧)に実質的に等しいことが望ましい。
【0046】
反応室1と凝縮蒸発室3とを連絡する連絡部5は、これらの間を凝縮性成分が移動可能なようになっていればよい。より詳細には、凝縮性成分は気体状態で移動し得、この場合、連絡部5は気体が通過し得るものであればよい。かかる連絡部は、簡便には、管状部材であってよいが、これに限定されない。
【0047】
連絡部5は、バルブ(図示せず)を備えていても、いなくてもよい。連絡部5がバルブを備えない場合、デバイス構成が簡単になり、凝縮性成分の移動ひいてはケミカルヒートポンプ10の作動は、反応室1における反応の進行および/または凝縮蒸発室3における相変化の進行(代表的には、反応室1および/または凝縮蒸発室3における温度)に依存する。連絡部5がバルブを備える場合、凝縮性成分の移動ひいてはケミカルヒートポンプ10の作動は、バルブの開閉によって制御でき、熱の移動、発熱および冷却のタイミングを管理できるので、より綿密な電子機器内部の熱設計ができるようになる。
【0048】
かかるケミカルヒートポンプ10は、物質の出入りのない閉じた系となっているが、熱の出入りは、少なくとも反応室1において、好ましくは反応室1および凝縮蒸発室3において可能なように構成される。具体的には、反応室1および好ましくは凝縮蒸発室3は、それぞれ少なくとも一部が熱伝導性材料から構成され得る。熱伝導性材料は、特に限定されないが、例えば金属(銅など)、酸化物(アルミナなど)、窒化物(窒化アルミニウムなど)、カーボンなどの熱の良導体であってよい。
【0049】
本実施形態の電子機器に用いられるケミカルヒートポンプ10は、以下の特徴のいずれか1つを単独で、または任意の2つ以上を組み合わせて備えることが好ましい。
(i)連絡部5が、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルターを備えること
(ii)反応室1において化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部5の最小断面寸法より大きいこと
(iii)凝縮蒸発室3が、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、または凝縮蒸発室3の内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されていること
【0050】
上記(i)について、連絡部5が、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルターを備えることにより、電子機器20が上下および/または左右に回転等した場合であっても、反応室1内の化学蓄熱材(一般的に固体または固形状)が反応室1から連絡部5を通じて凝縮蒸発室3へ移動することを効果的に防止でき、また、凝縮蒸発室3において凝縮した凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室3から連絡部5を通じて反応室1へ移動することを効果的に防止できる。
【0051】
かかるフィルターは、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないものであればよい。「固体および液体は実質的に通過可能でない」とは、ケミカルヒートポンプの性能を損なわない程度で、固体および液体を少量通過するものであってもよいことを意味する。フィルターは、液体は少量通過させても、固体は通過可能でないことが好ましく、固体および液体の双方が通過可能でないことがより好ましい。
【0052】
より詳細には、フィルターは、透湿性(JIS L1099(B法、一般的にはB−1法)による)が1000g/m
2/24h以上、特に10000g/m
2/24h以上であることが好ましく、これによりフィルターに起因する圧力損失を十分に小さくすることができる。固体の非通過性については、化学蓄熱材が通過しないものであればよく、使用する化学蓄熱材の寸法に応じて適宜選択可能である。液体の非通過性については、防水性(JIS L1092(A法)による)が1000mm以上、特に10000mm以上であることが好ましい。
【0053】
具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルム(微細孔フィルター)を使用することができ、これは、必要に応じてポリウレタンポリマーと複合化されていてもよい。かかるフィルムは、例えば、商品名「ゴアテックス」(登録商標)として市販で入手可能である。また、撥水加工した繊維生地にポリウレタンコーティングを施したものを使用することもできる。かかるポリウレタンコーティング生地は、例えば、東レ株式会社より、商品名「エントラントGII」(登録商標)XT等として市販で入手可能である。
【0054】
しかしながら、これらの例に限定されず、フィルターには、水分子よりも小さく、かつ、水蒸気分子よりも大きい寸法の孔を有する任意の適切な構造体を適用することができる。
【0055】
フィルターは、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能とし得る限り、任意の様式で連絡部5に備えられ得る。フィルターは、例えば、連絡部5の内部空間の少なくとも一部(好ましくは反応室1の近傍)を充填するように配置されていてよく、また、連絡部5の開口部(好ましくは反応室1側の開口部)を覆うように配置されていてよい。
【0056】
上記(ii)について、反応室1において化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部5の最小断面寸法より大きいことにより、電子機器20が上下および/または左右に回転等した場合であっても、反応室1内の化学蓄熱材(一般的に固体または固形状)が反応室1から連絡部5を通じて凝縮蒸発室3へ移動することを効果的に防止できる。
【0057】
反応室1において化学蓄熱材は、任意の適切な方法で成形または梱包されていてよい。
化学蓄熱材が無機化合物の水和物(例えば硫酸カルシウムや塩化カルシウムなどの水和物)である場合には、無機化合物の水和により固化するので、その際に型等を用いて成形することが可能である。また、化学蓄熱材を樹脂材料および必要に応じて溶媒等と混合し、得られた組成物を型プレス等で成形することが可能である(なお、樹脂材料および存在する場合には溶媒等は、成形時にその一部、好ましくは大部分が除去され得る)。またあるいは、化学蓄熱材が粒状物である場合には、化学室熱材の粒径(例えば平均粒径)よりも小さい開口寸法を有するメッシュ、ネット、布帛(例えば織布または不織布)、フィルム等の梱包材料を用いて、化学蓄熱材を梱包することが可能である。梱包材料は、例えば金属、天然または合成繊維、高分子材料等からなっていてよい。
【0058】
このように成形または梱包された化学蓄熱材は、その最小断面寸法が、連絡部5の最小断面寸法より大きいものとされる。成形または梱包された化学蓄熱材の最小断面寸法は、成形または梱包された化学蓄熱材の任意の断面寸法のうち、最小となる断面寸法を言う。また、連絡部5の最小断面寸法は、連絡部5の内部空間の任意の断面寸法のうち、最小となる断面寸法を言い、通常は、連絡部5の最も狭い部分の寸法を言う。別の表現では、成形または梱包された化学蓄熱材の任意の投影面積のうち、投影面積が最小となるときの最大寸法が、連絡部5の内部空間の中心線に対して垂直な断面寸法のうち、最小となる断面寸法より大きいと言うこともできる。要するに、成形または梱包された化学蓄熱材が、連絡部5を通過できない寸法となっていればよい。例えば、成形または梱包された化学蓄熱材の最小断面寸法より、連絡部5の反応室1側の開口部(および場合により凝縮蒸発室3側の開口部)の開口寸法が小さくなっていれば、連絡部5の両開口部の間の部分は大きくなっていてよい。
【0059】
成形または梱包された化学蓄熱材は、反応室1内に存在すればよいが、熱の速やかかつ効率的な移動のためには、発熱部品11からの熱がよく伝わる位置に接触するように配置されることが好ましい。
【0060】
上記(iii)について、凝縮蒸発室3が、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、または凝縮蒸発室3の内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されていることにより、電子機器20が上下および/または左右に回転等した場合であっても、凝縮蒸発室3において凝縮した凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室3から連絡部5を通じて反応室1へ移動することを効果的に防止できる。
【0061】
かかる物質は、液体を可逆的にトラップできるものであればよい。より詳細には、多孔質材料、例えばセラミックス、ゼオライト、金属等から成る多孔質材料を使用することができるが、これに限定されない。
【0062】
液体をトラップ可能な物質は、凝縮蒸発室3の内部に収容されていても、凝縮蒸発室3の内表面の少なくとも一部を構成していてもよい。前者の場合、予め準備した液体をトラップ可能な物質を、凝縮蒸発室3内に配置すればよい。後者の場合、例えば、凝縮蒸発室3の壁面材料の内側表面上に、例えば水熱合成などによりセラミックスやゼオライトを合成して、該表面を覆うようにしてよい。いずれの場合にも、液体をトラップ可能な物質は、凝縮蒸発室3内またはその内表面に存在すればよいが、熱の速やかかつ効率的な移動の
ためには、熱伝導性部材13に対して熱がよく伝わる位置に存在することが好ましい。
【0063】
このような構成のケミカルヒートポンプ10は、本実施形態を限定するものではないが、一例として、以下のようにして作製することができる。
【0064】
まず、
図12(a)を参照して、2枚の金属板41a、41bを用意する。これら金属板41a、41bは、好ましくは耐食性金属、例えばSUS等のステンレス鋼から成っていてよいが、これに限定されない。金属板41a、41bの厚さは、例えば0.01mm以上、特に0.05〜0.5mmとし得る。金属板41a、41bの材質および厚さは、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
【0065】
次に、
図12(b)に示すように、1つの金属板41aに、反応室1および凝縮蒸発室3に対応する2つの凸部43aを形成する。凸部43aの寸法は、反応室1および凝縮蒸発室3に対して所望される寸法に応じて適宜決定され得、凸部43aの高さは、例えば0.1〜100mm、特に0.3〜10mmとし得、互いに同じであっても、異なっていてもよい。他方、もう1つの金属板42bには、連絡部3に対応する凹部43bを形成する。凹部43bの寸法は、反応室1と凝縮蒸発室3との間を連絡する連絡部5を形成し、その内部を凝縮性成分が移動し得るものであればよく、凹部43bの深さは、例えば0.1〜100mm、特に0.3〜10mmとし得る。これら金属板41a、41bへの凹凸形状43a、43bの形成は、任意の適切な方法を適用してよく、例えば絞り加工、プレス成形などの方法を利用できる。
【0066】
そして、金属板41aの2つの凸部43aのうち反応室1に対応するほうに、化学蓄熱材45を配置する。化学蓄熱材45は、一般的に固体または固形状であり、例えば粒状、シート状等であり得る。化学蓄熱材45は、予め上記のように成形または梱包されていることが好ましいが、このことは必須ではない。
【0067】
また、必要に応じて、金属板41aの2つの凸部43aのうち凝縮蒸発室3に対応するほうに、上記した液体をトラップ可能な物質(例えば多孔質材料、図示せず)を配置する。あるいは、2つの凸部43aのうち凝縮蒸発室3に対応するほうの内側表面を、上述したようにして液体をトラップ可能な物質で覆っておいてもよい。
【0068】
他方、金属板41bの凹部43に、上記の気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルター47を配置することが好ましいが、このことも必須ではない。
【0069】
その後、
図12(c)に示すように、これら金属板41a、41bを、凸部43aと凹部43bとが一緒になって内部空間を形成するように重ね合わせる。これにより、金属板41a、41bの外周平坦面が互いに密接することとなる。
【0070】
そして、
図12(d)に示すように、重ね合わせた金属板41a、41bの外周部49を気密封止する。気密封止は、ケミカルヒートポンプ内部に所望される圧力、一般的には(使用する化学蓄熱材にもよるが)減圧下、例えば0.1〜100000Pa、特に1.0〜10000Pa(絶対圧)にて実施することが好ましい。気密封止には、任意の適切な方法を適用してよく、例えばレーザ溶接、アーク溶接、抵抗溶接、ガス溶接、ろう付けなどの方法を利用できる。気密封止後、外周部49のうち不要な縁部は、適宜、打ち抜き加工などによって除去してもよい。
【0071】
以上のようにして、ケミカルヒートポンプ10を作製することができる。但し、上記の製造方法は単なる例示に過ぎず、本発明に適用されるケミカルヒートポンプは、任意の適切な方法に従って製造可能である。
【0072】
次に、上述のような構成のケミカルヒートポンプ10を、発熱部品11を備える電子機器20に組み込む。電子機器20は、少なくとも1つの電子部品を発熱部品11として備えるものであればよい。電子機器20は、一般的には、少なくとも1つの電子部品が基板に実装された電子回路基板が、筐体(または外装)内に収容されて成る。かかる電子機器20内(より詳細にはその筐体内)にケミカルヒートポンプ10が設けられる。本実施形態において、ケミカルヒートポンプ10は、発熱部品11の温度上昇を抑制する(または発熱部品を冷却する)ための手段として理解され得る。
【0073】
発熱部品11は、投入されたエネルギーの一部が熱に変換されて、発熱することにより失われる電子部品であればよい。発熱部品11の例としては、中央処理装置(CPU)、
パワーマネージメントIC(PMIC)、パワーアンプ(PA)、トランシーバーIC、
ボルテージレギュレータ(VR)などの集積回路(IC);発光ダイオード(LED)、
白熱電球、半導体レーザーなどの発光素子;電界効果トランジスタ(FET)などが挙げられるが、これらに限定されない。発熱部品は、電子機器20において少なくとも1つ、一般的には複数存在し得る。
【0074】
かかる発熱部品11に対して、上述のケミカルヒートポンプ10の反応室1が熱的に結合するように配置される。例えば、発熱部品11に対して、反応室1の熱伝導性材料から成る部分を直接または間接的に接触させて配置してよい。これにより、発熱部品11と反応室1との間で熱の移動が可能となる。電子機器20に発熱部品が複数存在する場合、反応室1と熱的に結合される発熱部品11は1つまたは複数であってよい。
【0075】
他方、ケミカルヒートポンプ10の凝縮蒸発室3は、本実施形態に必須ではないが、電子機器20に存在する任意の適切な熱伝導性部材13に対して熱的に結合するように配置してよい。この熱伝導性部材13は、発熱部品11が発熱しているときに、発熱部品11の温度より低い温度を有するものであればよい。熱伝導性部材13の例としては、電子機器の筐体、バッテリ(例えばリチウムイオンバッテリ、アルカリバッテリ、ニッケル水素バッテリなど)の外装、基板、ディスプレイなどが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、熱伝導性部材13に対して、凝縮蒸発室3の熱伝導性材料から成る部分を直接または間接的に接触させて配置してよい。これにより、凝縮蒸発室3と熱伝導性部材13との間で熱の移動が可能となる。凝縮蒸発室3と熱的に結合される熱伝導性部材13は1つまたは複数であってよい。
【0076】
なお、本発明において、2つの部材が「熱的に結合する」とは、これら部材の間を熱が移動可能なように組み合わせることを意味する。熱的な結合は、直接または間接的な接触による熱伝導でもよいし、非接触で熱放射によるものでもよいし、熱媒または熱伝導性部材を利用したものであってもよい。2つの部材を熱的に結合させるために間接的に接触させる場合には、熱伝導性の接着剤層(例えば、金属フィラーなどで熱伝導性を高めた接着剤を用いて得られる層)や、熱伝導性材料から成る部材(例えば、金属などから成る伝熱板や、サーマルシート)等を介して接触させることが好ましい。
【0077】
以上のようにして構成される本実施形態の電子機器20は、次の2つのモードで使用され得る。
【0078】
・第1モード(蓄熱過程)
まず、発熱部品11にエネルギーが投入されて熱を発するようになり、発熱部品11の温度が上昇すると、これと熱的に結合している反応室1へと熱が伝達される。具体的には、発熱部品11が発する熱は、発熱部品11の外表面から、例えば反応室1の熱伝導性材料から成る部分を通じて、反応室1に収容した化学蓄熱材へと伝導される。このようにして反応室に熱が供給されると、反応室内で化学蓄熱材の吸熱反応(蓄熱)が進行して凝縮性成分を生じる(即ち、反応室内の凝縮性成分の分圧が上昇する)。この結果、発熱部品から熱が奪われ、発熱部品の温度(代表的には、発熱部品の外表面の温度、以下も同様)の上昇が抑制される。
【0079】
このようにして反応室1内で生じた凝縮性成分は、気体状態(蒸気)で反応室1から連絡部5を通って凝縮蒸発室3へ移動する。かかる移動は、拡散現象により自然に起り得るが、これに限定されない。連絡部5がバルブを備える場合には、バルブの開閉によって凝縮性成分の移動を制御できる。
【0080】
凝縮蒸発室3内では、凝縮性成分が凝縮して熱(潜熱)を生じる。例えば、凝縮性成分が水の場合、以下の反応により、気体状態の水が液体状態の水に相変化する。
【化3】
式中、Q
3は、20.9kJ/molであることが知られている。
【0081】
凝縮蒸発室内の温度は、生じた熱により上昇し得る。このとき、凝縮蒸発室内の圧力を予め(非発熱状態において、例えば熱伝導性部材13が凝縮蒸発室3に熱的に結合して配置されている場合には、熱伝導性部材13に対して適宜設定され得る温度にて)凝縮性成分の飽和蒸気圧とし、凝縮性成分を気液平衡状態にしておくと、凝縮が速やかに進行し得るので好ましい。
【0082】
そして、本実施形態に必須ではないが、凝縮蒸発室3が熱伝導性部材13に熱的に結合されている場合には、凝縮蒸発室3で生じた熱は、例えば凝縮蒸発室3の熱伝導性材料から成る部分を通じて、熱伝導性部材13に伝達される。
【0083】
以上、第1モードによれば、化学蓄熱材の吸熱反応(蓄熱)を利用して、発熱部品11の温度上昇を抑制する(または発熱部品を冷却する)ことができる。また、凝縮蒸発室3が、熱伝導性部材13として電子機器20の筐体に熱的に結合されている場合には、化学蓄熱材に蓄熱していること、および、発熱部品11から反応室1内に入る熱よりも凝縮蒸発室3から熱伝導性部材13へ出る熱を小さくできる(温度レベルを変えられる)ことによって、筐体の温度を比較的低温に維持できる。これにより、発熱部品11ひいては電子機器20全体の温度制御が可能になる。
【0084】
なお、凝縮蒸発室3が熱伝導性部材13に熱的に結合されている場合には、熱伝導性部材13の温度を低下させることによっても、上記と同様の作用(メカニズム)が得られ、発熱部品11から熱を奪うことができ、発熱部品11の温度の上昇を抑制し、更には低下させることも可能である。本実施形態では、発熱部品11および熱伝導性部材13は、反応室1と熱的に結合される第1部材および凝縮蒸発室3と熱的に結合される第2部材としてそれぞれ把握できるが、第1部材および第2部材はこれらに限定されず、任意の部材を適用して熱設計することができる。
【0085】
・第2モード(放熱過程)
次に、例えば発熱部品11へのエネルギー投入を減少または停止するなどして、発熱部品11の温度が低下すると、これと熱的に結合している反応室1から発熱部品11へと熱が伝達される。具体的には、反応室1内の系から、例えば反応室1の熱伝導性材料から成る部分を通じて、発熱部品11へと伝導される。このようにして反応室1内の系から熱が奪われると、反応室1内で、化学蓄熱材の上記吸熱反応と逆の発熱反応(放熱)が進行して凝縮性成分を消費する(即ち、反応室内の凝縮性成分の分圧が低下する)。この結果、発熱部品11の温度は上昇に転じることとなる。
【0086】
このようにして反応室1内で凝縮性成分が消費されると、気体状態(蒸気)の凝縮性成分が凝縮蒸発室3から連絡部5を通って反応室1へ移動する。かかる移動も、拡散現象により自然に起り得るが、これに限定されない。連絡部5がバルブを備える場合には、バルブの開閉によって凝縮性成分の移動を制御できる。
【0087】
凝縮蒸発室3内では、液相の凝縮性成分が熱(潜熱)を得て蒸発する。凝縮蒸発室3内の温度は、熱を奪われることにより低下し得る。
【0088】
そして、本実施形態に必須ではないが、凝縮蒸発室3が熱伝導性部材13に熱的に結合されている場合には、熱伝導性部材13から、例えば凝縮蒸発室3の熱伝導性材料から成る部分を通じて、凝縮蒸発室3に伝達される。換言すれば、凝縮蒸発室3から熱伝導性部材13に対して、冷熱を得ることができる。
【0089】
以上、第2モードによれば、化学蓄熱材の発熱反応(放熱)を利用して、発熱部品11の温度低下を抑制することができる。また、凝縮蒸発室3が、熱伝導性部材13として電子機器の筐体やバッテリの外装などに熱的に結合されている場合には、筐体やバッテリの温度を低下させる(または筐体やバッテリを冷却する)こともできる。これにより、発熱部品11ひいては電子機器20全体の温度制御が可能になる。
【0090】
なお、凝縮蒸発室3が熱伝導性部材13に熱的に結合されている場合には、熱伝導性部材13の温度を上昇させることによっても、上記と同様の作用(メカニズム)が得られ、発熱部品11の温度を上昇させることができる。本実施形態では、発熱部品11および熱伝導性部材13は、反応室と熱的に結合される第1部材および凝縮蒸発室と熱的に結合される第2部材としてそれぞれ把握できるが、第1部材および第2部材はこれらに限定されず、任意の部材を適用して熱設計することができる。例えば、第2モードで、第2部材の温度上昇の抑制(または第2部材の冷却)を行うことも可能である。
【0091】
以上から理解されるように、本発明の電子機器は、冷却ファンを用いた従来の放熱方法にように、発熱部品の温度上昇を抑制する目的で余計にエネルギー投入する必要がなく、エネルギー効率に優れた電子機器が実現される。
【0092】
また、本発明の電子機器は、冷却ファンを用いた従来の放熱方法にように、対流により放熱する(気流を起こして外部へ排気する)ものではなく、電子機器の筐体は密閉状態(閉じられた系)であってもよい。
【0093】
また、本発明の電子機器は、ヒートパイプを用いた従来の放熱方法に比べて、化学蓄熱材に蓄熱しているので大きい蓄熱容量を得ることができ、高い放熱能力を得ることができる。更に、凝縮蒸発室が、熱伝導性部材に熱的に結合されている場合には、上記第1モード(蓄熱過程)では発熱部品から反応室に入る熱よりも凝縮蒸発室から熱伝導性部材へ出る熱を小さくできる(温度レベルを変えられる)うえ、上記第2モード(放熱過程)では熱伝導性部材に対して冷熱を得ることができる。よって、凝縮蒸発室と熱的に結合される熱伝導性部材として電子機器の筐体を利用すれば、筐体の温度を比較的低温(例えば、表面温度55℃以下)に維持できると共に、筐体内の他の部品(例えばリチウムイオンバッテリ)への温度による悪影響を低減することができる。また、凝縮蒸発室と熱的に結合される熱伝導性部材としてバッテリの外装を利用すれば、バッテリ(例えば、高い使用環境温度によるバッテリ容量の低下が問題とされているリチウムイオンバッテリ)の寿命を延すことができる。また、凝縮蒸発室と熱的に結合される熱伝導性部材として基板を利用すれば、基板に実装されている他の電子部品の信頼性を損なうことを防止できる。
【0094】
加えて、本発明の電子機器によれば、反応室と熱的に結合される第1部材および凝縮蒸発室と熱的に結合される第2部材として、任意の部材を適用して熱設計することができ、電子機器の具体的な仕様に応じて、熱的に最適な電子部品のレイアウトが可能となる。
【0095】
以上、本発明の1つの実施形態における電子機器について詳述したが、本発明の電子機器はかかる実施形態に限定されず、本発明の基本的概念に基づいて種々の改変が可能である。
【0096】
例えば、電子機器に組み込まれ得るケミカルヒートポンプの数、1つの発熱部品に対して使用されるケミカルヒートポンプの数、1つのケミカルヒートポンプに存在する反応室、凝縮蒸発室および連絡部の数および配置等は、適宜選択可能である。
【0097】
また例えば、凝縮蒸発室は筐体内の周囲雰囲気により取り囲まれていてもよい(いわゆる空気断熱など)。あるいは、凝縮蒸発室が熱伝導性材料から成る部分を実質的に有さず、低熱伝導性ないし断熱性の材料から構成されていてもよい。更に、凝縮蒸発室そのものを無くしてもよく、この場合にも、化学蓄熱材の吸熱反応により発熱部品の温度上昇を抑制することは、ある程度可能である。
【0098】
即ち、本発明の別の実施形態における電子機器21は、
図2に示すように、発熱部品11と、化学蓄熱材(例えば固相2aを成し得る)を収容した少なくとも1つの反応室1とを最低限有するものであればよい。この場合、発熱部品11が発する熱を、発熱部品11の外表面から、少なくとも1つの反応室1に収容した化学蓄熱材へ伝導し、化学蓄熱材が反応により吸熱することによって、発熱部品11の温度上昇を抑制することができる。なお、発熱部品11は、反応室1に熱的に結合する限り、任意の態様で配置され得る。
【0099】
かかる別の実施形態の電子機器において、2つの反応室が存在してよい。より詳細には、
図3(a)に示すように、電子機器22において、第1化学蓄熱材を収容した第1反応室1aと、第2化学蓄熱材を収容した第2反応室1bとが存在していてよい。第1化学蓄熱材および第2化学蓄熱材は、同じ成分(作動媒体となる成分、例えば凝縮性成分であるが、これに限定されず、気体状態をとり得るものであればよい)が関与する任意の反応によって吸熱または発熱するものであればよい。かかる第1化学蓄熱材および第2化学蓄熱材は、相互に異なる反応平衡状態を有するものであればよい。第1化学蓄熱材および第2化学蓄熱材は、上記で例示したような化学蓄熱材から適宜選択してよく、例えば、第1化学蓄熱材および第2化学蓄熱材の一方を硫酸カルシウムの半水和物とし、他方を塩化カルシウムの水和物としてよく、上記同じ成分として水が、これらの吸熱および発熱の可逆反応に関与するが、これに限定されない。第1反応室1aおよび第2反応室1bは、それらの間の連絡部5aによってこの成分(作動媒体)が移動可能に連絡しており、発熱部品(図示せず)が発する熱は、第1反応室1aの第1化学蓄熱材および第2反応室1bの第2化学蓄熱材のいずれかに伝導されればよい。発熱部品(図示せず)が発する熱は、第1反応室1aおよび第2反応室1bのいずれか一方に選択的または切り替え可能に伝導され得る限り、発熱部品、第1反応室1aおよび第2反応室1bの配置は特に限定されない。
【0100】
また、
図3(b)に示す電子機器23のように、上記の移動性成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室3aを更に含んでいてよく、凝縮蒸発室3aは、第1反応室1aと第2反応室1bの間の連絡部5aに対して、連絡部5bによって連絡している。この凝縮蒸発室3aの配置は、2つの反応室1aおよび1bに対して並列の配置である。
【0101】
あるいは、
図3(c)に示す電子機器24のように、上記の移動性成分を凝縮または蒸発させるための凝縮蒸発室3bを更に含んでいてよく、凝縮蒸発室3bは、第1反応室1aおよび第2反応室1bのいずれか(
図3(c)では第2反応室1b)に対して、別の連絡部5cによって連絡している。この凝縮蒸発室3bの配置は、2つの反応室1aおよび1bに対して直列な配置である。
【0102】
図3(b)および(c)の例では、移動性成分は凝縮性成分(即ち、気体状態(気相)
と液体状態(液相)との間で相変化可能な成分)であるが、これに限定されない。例えば、移動性成分は、気体状態(気相)と固体状態(固相)との間で相変化可能な成分であってもよく、この場合、凝縮蒸発室3aおよび3bは、昇華室として理解され得る。
【0103】
なお、
図3は本発明の別の実施形態を例示的に説明するものであり、反応室の数および場合により存在する凝縮蒸発室または昇華室の数、ならびにこれらの配置等は、適宜選択可能である。
【0104】
かかる本発明の別の実施形態における電子機器について、特に説明のない限り、上述の実施形態と同様の説明が当て嵌まり得る。
【0105】
例えば、
図3に例示した別の実施形態の電子機器は、以下の特徴のいずれか1つを単独で、または任意の2つ以上を組み合わせて備えることが好ましい。
(i’)第1反応室1aおよび第2反応室1b、ならびに凝縮蒸発室3aまたは3b間をつなぐ連絡部5a、5b、5cのいずれか、好ましくは凝縮蒸発室側の連絡部5b、5cにおいて、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないフィルターを備えること
(ii’)第1反応室1aにおいて第1化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された第1化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部5aの最小断面寸法より大きいこと、および/または第2反応室1bにおいて第2化学蓄熱材が成形または梱包されており、該成形または梱包された第2化学蓄熱材の最小断面寸法が、連絡部5a(および好ましくは、存在する場合は別の連絡部5c)の最小断面寸法より大きいこと
(iii’)凝縮蒸発室3a、3bが、液体をトラップ可能な物質を内部に有する、あるいは凝縮蒸発室3a、3bの内表面の少なくとも一部が、液体をトラップ可能な物質から構成されていること
【0106】
これら特徴については、
図1および
図12を参照して上述した実施形態と同様の説明が当て嵌まり、これと同様の作用効果を奏する。
【0107】
以上、本発明のいくつかの実施形態における電子機器について説明したが、これらは全て更なる改変が可能である。
【0108】
即ち、上記した実施形態における電子機器は、いずれも、化学蓄熱材を用いたものであるが、これに代えて、吸熱現象を伴って相変化可能な成分を生じる他の蓄熱材を使用してもよい。この場合、相変化可能な成分がデバイスの作動媒体となり、該成分は反応室から気体状態で移動し得、上述した凝縮蒸発室または昇華室は、該成分が相変化する室(即ち相変化室)として理解され、凝縮蒸発室として機能しても、昇華室として機能してもよい。
【0109】
かかる他の蓄熱材は、本発明の電子機器の用途に応じて(例えば、発熱部品が発する熱によって吸熱現象を示すように)適宜選択され得る。他の蓄熱材も、化学蓄熱材と同様、例えば30〜200℃の温度で吸熱現象を示すものであることが好ましく、特に40℃以上、更に50℃以上で、150℃以下、より更に120℃以下の温度で吸熱現象を示すものであることが好ましい。
【0110】
本発明に利用可能な他の蓄熱材としては、例えばゼオライト、シリカゲル、メソポーラスシリカおよび活性炭から成る群より選択される少なくとも1種の蓄熱材(以下、単に「ゼオライト等」とも言う)が挙げられる。これらはいずれも、例えば水を可逆的に吸着および脱着すること(または水和反応および脱水反応、以下も同様)が可能であり、水の脱着の際に吸熱現象を示す。
【化4】
式中、Zは、ゼオライト等の組成を代表して表したものであり、その組成に応じてxは種々の値をとり得る。Q
4は、具体的な組成にもよるが、例えば、ゼオライトで約30〜80kJ/molであり得る。かかる水の脱着は、種々の条件にもよるが、例えば、ゼオライトで約50〜150℃、シリカゲルで約5〜150℃、メソポーラスシリカで約5〜150℃、活性炭で約5〜150℃で進行し得る。
【0111】
ゼオライトとは、いわゆるゼオライト構造、即ち、SiO
4四面体およびAlO
4四面体が頂点酸素を共有し3次元に連なった網目状構造を基本骨格として有する結晶性含水アルミノケイ酸塩を言う。ゼオライトは、通常、下記の一般式で表され得る。
(M
1,M
21/2)
m(Al
mSi
nO
2(m+n))・xH
2O (n≧m)
M
1は、Li
+、Na
+、K
+等の1価のカチオンであり、M
2は、Ca
2+、Mg
2
+、Ba
2+等の2価のカチオンである。
【0112】
なかでも、本発明に好適に利用され得るゼオライトとしては、A型ゼオライト(LTA)、X型ゼオライト(FAU)、Y型ゼオライト(FAU)、ベータ型ゼオライト(BEA)、AlPO-5(AFI)などである。
【0113】
シリカゲルは、コロイド状シリカの三次元構造体であり、細孔径が数nm〜数十nm、
比表面積は5〜1000m/gと多孔体特性を広範囲に制御できる。また、シリカゲルの一次粒子表面はシラノールに覆われており、シラノールの影響で極性分子(水など)を選択的に吸着する。
【0114】
メソポーラスシリカは、二酸化ケイ素を材質として均一で規則的な細孔を持つ物質で、
細孔径は約2〜10nmのものを言う。
【0115】
活性炭は、「細孔を有する多孔質の炭素質物質」で、大きな比表面積と吸着能力を持つ物質を言う。その基本骨格は炭素原子が120°の角度で結ばれた二次元格子の平面構造である。この二次元格子が不規則に積層して結晶格子を形成し、この結晶格子がランダムにつながったものが活性炭であり、結晶格子間の空隙が活性炭細孔であり、細孔に水が吸着する。
【0116】
これらゼオライト等は、本発明の電子機器を作製するに際して、予め水を十分に吸着させておくことが好ましい。
【0117】
本発明の電子機器において他の蓄熱材としてゼオライト等を用いた場合、凝縮性成分である水が作動媒体となり、従って、上述の化学蓄熱材を用いた実施形態(凝縮性成分として水を生じ、これを作動媒体とするもの)と同様のメカニズムにより、同様の作用効果を奏する。
【0118】
本発明の電子機器は、例えばスマートフォン、携帯電話、タブレット型端末、ラップトップ型パソコン、携帯型ゲーム機、携帯型音楽プレイヤー、デジタルカメラなどのモバイル型電子機器として好適に利用され得る。
【実施例】
【0119】
・CHP搭載例
本発明の電子機器において、第1部材/発熱部材11および第2部材/熱伝導性部材13として種々の部品/部材を適用したケミカルヒートポンプ(CHP)搭載例について、以下、図面を参照しながらより具体的に説明するが、これらに限定されない。
【0120】
(搭載例1)
図4を参照して、この搭載例では、電子機器がラップトップ型PC(パーソナルコンピュータ)20aであり、発熱部品がCPU11aである。ケミカルヒートポンプ10は、反応室1、凝縮蒸発室3およびこれらの間を連絡する連絡部5を含む。反応室1は、CPU11aに対して熱的に結合されている。例えば、金属フィラーなどで熱伝導性を高めた接着剤を用いて、反応室1をCPU11aに接着してよいが、これに限定されない。凝縮蒸発室3は、リチウムイオンバッテリ13aおよび筐体13bのいずれとも熱的に結合されておらず、空気断熱されている。凝縮蒸発室3は、CPU11a(発熱部品)と断熱されていることが好ましい。
【0121】
この搭載例では、CPU11aが動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する化学蓄熱材による)に達すると、CPU11aから熱を奪って反応室1の化学蓄熱材の吸熱反応が進行し(このとき発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3で凝縮し得る)、これにより、CPU11aの温度上昇を低減し、好ましくはCPU11aの温度を安定化させて、CPU11aを耐熱温度以下に維持できる。その後、CPU11aの動作がより低いレベルに変化ないし停止して、CPU11aの温度がある程度低い温度まで低下すると、反応室1で化学蓄熱材の発熱反応が進行してCPU11aに熱を与え(このとき凝縮蒸発室3では凝縮性成分が蒸発し得る)、これにより、CPU11aの温度は若干上昇し得る。すなわち、ケミカルヒートポンプ10は、CPU11aの高温動作時にはCPU11aから熱を奪い、低温動作時にはCPU11aに熱を与える。
【0122】
(搭載例2)
図5を参照して、この搭載例では、電子機器がラップトップ型PC20aであり、発熱部品がCPU11aである。ケミカルヒートポンプ10は、反応室1、凝縮蒸発室3およびこれらの間を連絡する連絡部5を含む。反応室1は、CPU11aに対して熱的に結合されている。凝縮蒸発室3は、筐体13bに対して熱的に結合されている。例えば、金属フィラーなどで熱伝導性を高めた接着剤を用いて、反応室1および凝縮蒸発室3をCPU11aおよび筐体13bにそれぞれ接着してよいが、これに限定されない。
【0123】
この搭載例では、CPU11aが動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する化学蓄熱材による)に達すると、CPU11aから熱を奪って反応室1の化学蓄熱材の吸熱反応が進行し、この吸熱反応で発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3で凝縮して筐体13bに熱を与え、これにより、CPU11aの温度上昇を低減し、好ましくはCPU11aの温度を安定化させて、CPU11aを耐熱温度以下(例えば120℃以下)に維持できる。その後、CPU11aの動作がより低いレベルに変化ないし停止して、CPU11aの温度がある程度低い温度まで低下すると、反応室1で化学蓄熱材の発熱反応が進行すると共に凝縮蒸発室3では筐体13bから熱を奪って凝縮性成分が蒸発し、これにより、CPU11aの温度は若干上昇し、筐体13bの温度は低下し、比較的低温(例えば55℃以下)に維持できる。すなわち、ケミカルヒートポンプ10は、CPU11aの高温動作時にはCPU11aから熱を奪うと共に筐体13bに熱を逃がし、低温動作時にはCPU11aに熱を与えると共に筐体13bから熱を奪う(冷却する)。
【0124】
(搭載例3)
図6を参照して、この搭載例では、電子機器がスマートフォン20bであり、発熱部品がパワーマネージメントIC11bである。ケミカルヒートポンプ10は、反応室1、凝縮蒸発室3およびこれらの間を連絡する連絡部5を含む。反応室1は、パワーマネージメントIC11bに対して熱的に結合されている。凝縮蒸発室3は、リチウムイオンバッテリ13aに対して熱的に結合されている。例えば、金属フィラーなどで熱伝導性を高めた接着剤を用いて、反応室1および凝縮蒸発室3をパワーマネージメントIC11bおよびリチウムイオンバッテリ13aにそれぞれ接着してよいが、これに限定されない。
【0125】
この搭載例では、パワーマネージメントIC11bが動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する化学蓄熱材による)に達すると、パワーマネージメントIC11bから熱を奪って反応室1の化学蓄熱材の吸熱反応が進行し、この吸熱反応で発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3で凝縮してリチウムイオンバッテリ13aに熱を与え、これにより、パワーマネージメントIC11bの温度上昇を低減し、好ましくはパワーマネージメントIC11bの温度を安定化させて、パワーマネージメントIC11bを耐熱温度以下(例えば85℃以下)に維持できる。その後、パワーマネージメントIC11bの動作がより低いレベルに変化ないし停止して、パワーマネージメントIC11bの温度がある程度低い温度まで低下すると、反応室1で化学蓄熱材の発熱反応が進行すると共に凝縮蒸発室3ではリチウムイオンバッテリ13aから熱を奪って凝縮性成分が蒸発し、これにより、パワーマネージメントIC11bの温度は若干上昇し、リチウムイオンバッテリ13aの温度は低下し、リチウムイオンバッテリ13aの寿命低下が問題とならない温度以下(例えば40℃以下)に維持できる。すなわち、ケミカルヒートポンプ10は、パワーマネージメントIC11bの高温動作時にはパワーマネージメントIC11bから熱を奪うと共にリチウムイオンバッテリ13aに熱を逃がし、低温動作時にはパワーマネージメントIC11bに熱を与えると共にリチウムイオンバッテリ13aから熱を奪う(冷却する)。
【0126】
(搭載例4)
図7を参照して、この搭載例では、電子機器がスマートフォン20bであり、発熱部品が2つのパワーアンプ11cおよび11c’である。第1のケミカルヒートポンプ10は、反応室1、凝縮蒸発室3およびこれらの間を連絡する連絡部5を含む。第2のケミカルヒートポンプ10’は、反応室1’、凝縮蒸発室3’およびこれらの間を連絡する連絡部5’を含む。反応室1は、パワーアンプ11cに対して熱的に結合されている。反応室1’は、パワーアンプ11c’に対して熱的に結合されている。凝縮蒸発室3および3’は、筐体13bに対して熱的に結合されている。例えば、金属フィラーなどで熱伝導性を高めた接着剤を用いて、反応室1および凝縮蒸発室3をパワーアンプ11cおよび筐体13bにそれぞれ接着し、反応室1’および凝縮蒸発室3’をパワーアンプ11c’および筐体13bにそれぞれ接着してよいが、これに限定されない。
【0127】
この搭載例では、バンド1使用時にパワーアンプ11cが動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する化学蓄熱材による)に達すると、パワーアンプ11cから熱を奪って反応室1の化学蓄熱材の吸熱反応が進行し、この吸熱反応で発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3で凝縮して筐体13bに熱を与え、これにより、パワーアンプ11cの温度上昇を低減し、好ましくはパワーアンプ11cの温度を安定化させて、パワーアンプ11cを耐熱温度以下(例えば85℃以下)に維持できる。その後、バンド1からバンド2に切り替えて、パワーアンプ11cの動作を停止すると共にパワーアンプ11c’を動作させる。すると、パワーアンプ11c’が動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する化学蓄熱材による)に達すると、パワーアンプ11c’から熱を奪って反応室1’の化学蓄熱材の吸熱反応が進行し、この吸熱反応で発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3’で凝縮して筐体13bに熱を与え、これにより、パワーアンプ11c’の温度上昇を低減し、好ましくはパワーアンプ11c’の温度を安定化させて、パワーアンプ11c’を耐熱温度以下(例えば85℃以下)に維持できる。一方、パワーアンプ11cの温度がある程度低い温度まで低下し、反応室1で化学蓄熱材の発熱反応が進行すると共に凝縮蒸発室3では筐体13bから熱を奪って凝縮性成分が蒸発し、これにより、パワーアンプ11cの温度は若干上昇し、筐体13bの温度は低下する。これにより、筐体13bを比較的低温(例えば55℃以下)に維持できる。すなわち、ケミカルヒートポンプ10および10’は、バンド1とバンド2の切り替え使用により、高温動作時中のパワーアンプ11cまたは11c’から熱を奪うと共に、停止中のパワーアンプ11cまたは11c’に熱を与えて、筐体13bへの熱の出入りを制御し得る。
【0128】
・シミュレーション
次に、いくつかのモデルに基づいて、熱収支のシミュレーションを行った。
【0129】
(シミュレーションモデル1)
既存のスマートフォンの構成を模したモデルに基づいて、まず、シミュレーションで使用する解析方法(各種条件を含む)の適否についてCPU発熱量1.8W(実測発熱量に等しい)の場合で検証し、次に、この解析方法に従って、比較例としてCPU発熱量7Wの場合でシミュレーションを行った。
【0130】
図8に示すように、本シミュレーションモデルで想定した電子機器モデル30は、CPU21aおよびパワーマネージメントIC(PMIC)21bが上面および下面にそれぞれ実装された電子回路基板22と、バッテリ24と、カメラユニット25とが、シャーシ(上側熱伝導性部材)23aとバッテリカバー(下側熱伝導性部材)23bとの間の内部空間に収容され、シャーシ23aの上面にディスプレイ26を備える。カメラユニット25は、電子回路基板22、シャーシ23aおよびバッテリカバー23bと接触する。バッテリ24は、シャーシ23aおよびバッテリカバー23bと接触する。電子回路基板22は、バッテリ24と接触せずに、バッテリカバー23bと接触する(接触部は図示せず)。シャーシ23aはディスプレイ26と接触し、ディスプレイ26は周囲雰囲気(大気)29に曝される。バッテリカバー23bはその一部分が人体28と接触し、残りの部分は周囲雰囲気(大気)29に曝される。この電子機器モデル30において熱の出入り可能な想定ルートは、
図8中に両矢印にて示す通りである。
【0131】
電子機器モデル30につき上述した各部材の寸法および発熱量を下記の表1の通り設定した(表1中、記号「−」は発熱量ゼロを意味する)。これら部材のうち、CPU21aおよびPMIC21bが発熱部品であり、カメラユニット25およびバッテリ24も発熱部品であるが、CPU21aおよびPMIC21bに比して発熱量が非常に小さい。
【0132】
【表1】
【0133】
これら各部材について、密度、比熱、熱伝導率等の物性値を、既存のスマートフォンに使用されている各部材に相当するように適宜設定し、mc値(質量と比熱の積)を算出して使用した。なお、密度および比熱は、温度によらず一定と仮定した。
【0134】
本シミュレーションにおける初期条件および境界条件は以下の通りとした。
初期条件:
周囲雰囲気(大気)29は25℃一定の温度とする。
各部材は全て25℃の温度にあるものとする。
境界条件:
CPU21a、PMIC21b、カメラユニット25、バッテリ24は、t=0にて発熱を開始するものとする(発熱開始時点をt=0とする)。
人体28は36℃一定の温度とし、t=0にてバッテリカバー23bの露出表面の1/3が人体28と接触(伝熱)するようになり、残りの2/3が周囲雰囲気(大気)29に曝されるものとする。
ディスプレイ26およびバッテリカバー23bと周囲雰囲気(大気)29との間の伝熱は対流伝熱および放射伝熱によるものとする。
その他、特に断りのない限り、伝熱は伝導伝熱によるものとする。
【0135】
CPU発熱量1.8Wの場合(解析方法の検証)
既存のスマートフォンに使用されているCPUの発熱量を実測したところ、約1.8Wであった。
そこで、まず、電子機器モデル30におけるCPU21aの発熱量を1.8Wとして、
上述した各種条件/仮定を含む解析方法を適用して熱収支のシミュレーションを行った。このシミュレーションの結果、CPU21aの温度は、t=約100秒で約50℃まで上昇し、t=約1000秒で約60℃まで上昇して擬定常状態となること、および、バッテリカバー23bの温度はt=約1000秒で約40℃まで上昇して擬定常状態となることが示された。
他方、既存のスマートフォンを同様の条件(周囲雰囲気25℃、バッテリーカバー23bの露出表面の1/3を体温約36℃の人体と接触させるものとする)で使用して、CPUおよびバッテリカバー等の温度を実測したところ、擬定常状態におけるCPUおよびバッテリカバーの温度はそれぞれ62℃および39℃であり、上記のシミュレーション値とほぼ同様であった。
従って、このシミュレーションで適用した解析方法は適切であることが確認された。
【0136】
CPU発熱量7Wの場合(比較例)
電子機器モデル30においてCPU21aの発熱量を未知数とし、上述した各種条件/仮定を含む解析方法を適用して、擬定常状態でCPU21aの温度が130℃となるCPU21aの発熱量をシミュレーションにより求めたところ7Wとなった。CPUの発熱量を7Wとすることは、CPUの通常の使用条件では想定され得ないほど厳しい条件である。
そして、電子機器モデル30におけるCPU21aの発熱量を7Wと仮定して、上述した各種条件/仮定を含む解析方法を適用して熱収支のシミュレーションを行った。このシミュレーションの結果、CPU21aの温度は、t=約100秒で100℃まで上昇し、t=約400秒で約120℃まで上昇し、t=約1000秒で約130℃の擬定常状態となること、および、バッテリカバー23bの温度はt=約1000秒で約53℃まで上昇することが示された。
【0137】
(シミュレーションモデル2)
本発明の電子機器の実施例の1つのモデルについてシミュレーションを行った。このモデルは、上記シミュレーションモデル1と同様にスマートフォンを模したものであるが、ケミカルヒートポンプを1つ搭載した点で大きく異なっている。本シミュレーションは、シミュレーションモデル1と同様の解析方法に従って、CPU発熱量7Wの場合について行った。
【0138】
図9に示すように、本シミュレーションモデルで想定した電子機器モデル31は、1つのケミカルヒートポンプ10を追加して、反応室1をCPU21aに、凝縮蒸発室3をシャーシ(上側熱伝導性部材)23aにそれぞれ取り付けた点、およびシャーシ23aをバッテリ24およびカメラユニット25から離間させた点を除き、
図8の電子機器モデル30と同様である。この電子機器モデル31において熱の出入り可能な想定ルートは、
図9中に両矢印にて示す通りである。但し、この電子機器モデル31において、反応室1は、他の部材から断熱した状態と、CPU21aと熱的に結合した状態とで、切り替え可能なものとする。
【0139】
この電子機器モデル31のうち、ケミカルヒートポンプ10を除く各部材の寸法および発熱量(但し、CPUの発熱量は7Wのみ)、密度、比熱、熱伝導率等の物性値、mc値、初期条件および境界条件は、シミュレーションモデル1にて上述したものと同様とする。
【0140】
ケミカルヒートポンプ10については、以下の通り設定および仮定する。
反応室1は、SUS304から成る容器(外形寸法40mm×40mm×2.5mm、
壁厚さ0.25mm)に硫酸カルシウムを5.235g充填したものとする。凝縮蒸発室3は、SUS316から成る容器(外形寸法15mm×15mm×1.5mm、壁厚さ0.25mm)に蒸留水を0.346g充填したものとする。反応室1および凝縮蒸発室3について、密度、比熱、熱伝導率等の物性値を各材質に応じて適宜設定し、mc値(質量と比熱の積)を算出して使用した。
反応室1とCPU21aとの間ならびに凝縮蒸発室3とシャーシ23aとの間の接触熱抵抗は無視する。
反応室1と凝縮蒸発室3との間を連絡する連絡部5について、これら部材間での伝熱は無視する。
硫酸カルシウム半水和物の吸熱反応および硫酸カルシウムの発熱反応について、既知の化学反応速度式(化学工学論文集、第35巻、第4号、pp.390-395、2009年)を用いる。
硫酸カルシウム半水和物/硫酸カルシウムは、平均粒径0.85mmの球状粒子の形態を有するものとし、粒子の膨張収縮は無視する。
水蒸気について、移動拡散抵抗等は無視し、反応室内の温度および凝縮蒸発室内の温度は各容器温度と等しいものとし、凝縮蒸発室内の圧力は当該温度における飽和水蒸気の圧力とし、反応室内の圧力はこれと連絡している凝縮蒸発室内の圧力と等しいものとする。
【0141】
CPU発熱量7Wの場合(実施例1)
電子機器モデル31におけるCPU21aの発熱量を7Wと仮定して、上述した各種条件/仮定を含む解析方法を適用して熱収支のシミュレーションを行った。このシュミレーションでは、ケミカルヒートポンプ10を放熱過程で、その後、蓄熱過程で作動させるものとした。このシミュレーションにおけるCPUおよび反応室の温度の経時変化を、
図10のグラフおよび表に示す。具体的には、以下の通りである。
【0142】
まず、初期条件(t=0)より、CPU21aの発熱量を7Wとして、CPU21aの温度が120℃に達するまで、ケミカルヒートポンプ10の反応室1を断熱状態として(CPU21aから熱的に切り離して)発熱反応を進行させ(
図10中、記号(1)にて示す)、その後、反応室1とCPU21aとを熱的に結合させて熱交換(伝熱)を開始し、CPU21aの温度が再び120℃に達するまでをシミュレーションした。このシミュレーションの結果、以下のことが示された。t=約230秒にてCPU21aの温度が120℃に達し、この間、反応室1では硫酸カルシウムが水蒸気と反応して平均1.7W程度で発熱すると共に凝縮蒸発室3では水の蒸発により潜熱2.1W程度で吸熱し、t=約230秒での反応室1の温度は70℃まで上昇する(
図10中、記号(2)にて示す)。そして、t=約230秒にて、CPU21a(120℃)と反応室1(70℃)とを熱的に結合させることにより、CPU21aの温度はt=約245秒にて85℃まで低下する(
図10中、記号(3)にて示す)。その後も反応室1では硫酸カルシウムが水蒸気と反応して平均1.7W程度で発熱すると共に凝縮蒸発室3では水の蒸発により潜熱2.1W程度で吸熱し続け、t=約360秒で反応室1の温度が101℃となり(
図10中、記号(4)にて示す)、反応平衡圧力が凝縮蒸発室温度16℃の飽和水蒸気圧に達するため、反応室1での吸熱反応が終了することとなる(反応率約97%)。その後、t=590秒でCPU21aならびに反応室1(容器および内部)の温度が約120℃に達する(
図10中、記号(5)にて示す)。この間、凝縮蒸発室3では水の蒸発により潜熱2.1W程度で吸熱し続け、t=590秒にて、凝縮蒸発室3(容器および内部)、シャーシ23a、ディスプレイ26の温度が約17℃に低下する。以上より、t=0〜360秒の間、ケミカルヒートポンプ10は放熱過程で作動し(反応率約97%)、t=0〜590秒の間、CPU21aの温度を120℃以下とすることができる。
【0143】
引き続いて(t=590秒から引き続いて)、CPU21aの発熱量を7Wとし、反応室1とCPU21aとを熱的に結合させたまま、120℃となった反応室1にて硫酸カルシウム半水和物が吸熱により水蒸気を生じ、反応率が90%に達するまでをシミュレーションした。このシミュレーションの結果、以下のことが示された。反応室1にて硫酸カルシウム半水和物は平均1.3W程度で吸熱して水蒸気を放出(蓄熱)し続け、t=590〜1040秒(吸熱開始から450秒後まで)の間(
図10中、記号(6)にて示す)、CPU21aならびに反応室1(容器および内部)の温度が約120℃に維持される。この間に発生した水蒸気は、凝縮蒸発室3へ移動し、水になる際に潜熱1.6W程度で放熱し、t=1040秒にて凝縮蒸発室3(容器および内部)、シャーシ23a、ディスプレイ26の温度が約28℃まで上昇する。また、t=1040秒にてバッテリカバー23bの温度は約55℃に上昇する。以上より、t=590〜1040秒の間、ケミカルヒートポンプ10は蓄熱過程で作動し(反応率90%)、CPU21aの温度を120℃に維持することができる。
【0144】
従って、本シミュレーションによれば、ケミカルヒートポンプ10を搭載することにより、CPUの発熱量が7Wと極めて大きい極端な場合でも、CPU発熱開始から約1040秒間もの間、CPUを120℃以下に保てることが判明した。
【0145】
(シミュレーションモデル3)
本発明の実施例のもう1つのモデルについてシミュレーションを行った。このモデルは、上記シミュレーションモデル1で用いたモデルと同様にスマートフォンを模したものであるが、ケミカルヒートポンプを2つ搭載した点で大きく異なっている。本シミュレーションは、シミュレーションモデル1と同様の解析方法に従って、CPU発熱量7Wの場合について行った。
【0146】
図11に示すように、本シミュレーションモデルで想定した電子機器モデル32は、2つのケミカルヒートポンプ10および10’を追加して、反応室1をCPU21aに、反応室1’をバッテリカバー(下側熱伝導性部材)23bにそれぞれ取り付け、凝縮蒸発室3および3’を相互に取り付けた点を除き、
図8の電子機器モデル30と同様である。この電子機器モデル32において熱の出入り可能な想定ルートは、
図11中に両矢印にて示す通りである。
【0147】
この電子機器モデル32のうち、ケミカルヒートポンプ10および10’を除く各部材の寸法および発熱量(但し、CPUの発熱量は7Wのみ)、密度、比熱、熱伝導率等の物性値、mc値、初期条件および境界条件は、シミュレーションモデル1にて上述したものと同様とする。
【0148】
ケミカルヒートポンプ10および10’については、以下の通り設定および仮定し、特段断りのない限り、シミュレーションモデル2にてケミカルヒートポンプ10について上述したものと同様の設定および仮定が当て嵌まる。(但し、反応室1へ仕込む化学物質は硫酸カルシウム半水和物(硫酸カルシウム換算で5.235g)とし、反応室1’に仕込む化学物質は硫酸カルシウム(5.235g)とする。)
反応室1とCPU21aとの間、反応室1’とバッテリカバー23bとの間、ならびに凝縮蒸発室3と凝縮蒸発室3’との間の接触熱抵抗は無視する。
反応室1と凝縮蒸発室3との間を連絡する連絡部5、ならびに反応室1’と凝縮蒸発室3’との間を連絡する連絡部5’について、これら部材間での伝熱は無視する。
凝縮蒸発室3および凝縮蒸発室3’は、他の部材から断熱した状態にあるものとする。
【0149】
CPU発熱量7Wの場合(実施例2)
電子機器モデル32におけるCPU21aの発熱量を7Wと仮定して、上述した各種条件/仮定を含む解析方法を適用して熱収支のシミュレーションを行った。このシュミレーションでは、最初、ケミカルヒートポンプ10および10’を作動させず、次に、ケミカルヒートポンプ10を放熱過程で作動させると同時にケミカルヒートポンプ10’を放熱過程で作動させるものとした。具体的には、以下の通りである。
【0150】
まず、初期条件(t=0)より、CPU21aの発熱量を7Wとして、ケミカルヒートポンプ10および10’を作動させずに、CPU21aの温度が120℃に達するまでをシミュレーションした。この結果、t=800秒で、CPU21aならびに反応室1(容器および内部)の温度が120℃に上昇した。
【0151】
その後(t=800秒から引き続いて)、CPU21aの発熱量を7Wとし、120℃
となった反応室1にて硫酸カルシウム半水和物が吸熱により水蒸気を生じ、反応率が100%に達するまでをシミュレーションした。このシミュレーションの結果、以下のことが示された。反応室1にて硫酸カルシウム半水和物は平均1.3W程度で吸熱して水蒸気を放出(蓄熱)し続け、t=800〜1300秒(吸熱開始から500秒後まで)の間、CPU21aならびに反応室1(容器および内部)の温度が約120℃に維持される。この間に発生した水蒸気は、凝縮蒸発室3へ移動し、水になる際に潜熱1.6W程度で放熱するが、凝縮蒸発室3はこれと熱的に結合されている凝縮蒸発器3’により冷却され、約25℃に維持される。以上より、t=800〜1300秒の間、ケミカルヒートポンプ10は蓄熱過程で作動し(反応率100%)、CPU21aの温度を120℃に維持することができる。
【0152】
同時に(t=800秒から引き続いて)、凝縮蒸発器3’にて水が蒸発し、t=1300秒に達するまでをシミュレーションした。このシミュレーションの結果、以下のことが示された。凝縮蒸発器3’にて水が水蒸気になる際に潜熱2.1W程度で吸熱し、これにより発生した水蒸気は、反応室1’へ移動し、硫酸カルシウムと反応して1.7W程度で発熱(放熱)する。t=1190秒(発熱開始から390秒)で、反応率100%に達し、反応室1’での放熱が終了する。t=800〜1190秒の間、凝縮蒸発室3’(容器および内部)の温度は約25℃に維持される。バッテリーカバー23bの温度は、硫酸カルシウム/硫酸カルシウム半水和物の顕熱効果もあり、t=1300秒にて約52℃までの上昇に留まる。これは、上述したシミュレーションモデル1の比較例におけるバッテリカバー23bの温度より1℃低い。以上より、t=800〜1190秒の間、ケミカルヒートポンプ10’は放熱過程で作動する(反応率100%)。
【0153】
従って、本シミュレーションによれば、ケミカルヒートポンプ10および10’を搭載することにより、CPUの発熱量が7Wと極めて大きい極端な場合でも、CPU発熱開始から約1300秒間もの間、CPUを120℃以下に保てることが判明した。