【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業 低侵襲がん診断装置開発プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プレート表面の所定範囲内に配された検体に、検出対象に特異的に結合する結合部と磁性体とを備えた磁性複合体を添加して、該磁性複合体を磁力によりプレート表面の検体に引き付けることで、磁性複合体の結合部と検出対象との特異的な結合反応を促進するにあたり、
前記磁性複合体をプレート表面の検体に引き付けるための磁石と、
プレート表面に検体が配される前記所定範囲と前記磁石の磁極面とを近接させる制御機構と、を備えた反応促進装置であって、
前記磁石の磁極面は、前記プレート表面の所定範囲より広くなっており、
前記磁石は、プレートに近接する磁極面が、中央ほどプレートに近接して端部ほどプレートから離間するよう傾斜していることで、前記プレートにおける検体が配される所定範囲では、中央部と端部のあいだで磁石によって印加される磁力の差が低減されるよう構成されていることを特徴とする反応促進装置。
前記磁石は、複数の小磁石によって構成されており、該複数の小磁石は、磁石磁極面の中央に配されたものほど前記プレートに近接する一方、端部に配されたものほど前記プレートから離間して設けられていることを特徴とする請求項1記載の反応促進装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の反応促進方法及び反応促進装置の第1の実施の形態について説明する。第1実施形態では、検体1として、生体組織の薄片を用い、この検体1はプレート2表面の所定範囲2a内に配される。そして、検出対象である抗原3に特異的に反応する抗体4と、磁性体5とを有する磁性複合体である磁性ビーズ6の懸濁液6aをプレート2上の検体1に添加する。その後、プレート2の裏面側から磁石102によって磁性ビーズ6を検体1側に引き付けることで、抗原3と抗体4の抗原抗体反応が促進される。その後、磁性ビーズ6の懸濁液6aを洗浄して抗原3と結合しなかった磁性ビーズ6を除去して、プレート2に残った磁性ビーズ6を標識として検出することにより、検体1に検出対象の抗原3が存在するか、存在する場合にはその位置や量などを確認することができる。このような抗原の検出としては、例えば、癌細胞に特有の抗原に特異的に結合する抗体を用いることで、検体1に癌細胞が存在するか否かを確認することができる。
【0012】
プレート2としては、例えばスライドガラスを用いることができる。もっとも、プレート2はスライドガラスに限られず、磁気を遮断して磁石102による磁性ビーズ6の引き付けを阻害するものでなければ、適宜のものとしてよい。そして、プレート2の所定範囲2a内に検体1が配される。この所定範囲2aは検体1やプレート2の大きさに応じて適宜の範囲とすることができるが、検体1をプレート2に配するに際して、困難なく配することができる範囲とする。例えば、検体1が直径約5mmの薄片である場合には、直径約20mmの円形範囲内であれば、困難無く配することができるため、この範囲を所定範囲2aとすればよい。
【0013】
さらに、プレート2には、所定範囲2aを示す印が施されていてもよい。この印は、例えば境界に溝を施したものや、境界線を印刷したもの、所定範囲内外で高低差を設けたものなど所定範囲を認識可能なものであれば、適宜のものとすることができる。
【0014】
磁性ビーズ6は、
図5に示されるように、検出対象の抗原3に特異的に結合する結合部である抗体4と、磁性体5と、蛍光物質7と、を備えた磁性複合体である。磁性ビーズ6は、内部に磁性体5と蛍光物質7とが保持されており、外部表面に、抗体4が抗原3との抗原抗体反応が可能に固定されている。このような磁性ビーズ6と、その製造方法は公知であって、例えば上記特許文献1にも記載されており、適宜のものを採用することができる。
【0015】
蛍光物質7は、抗原抗体反応が起こったことを確認するための標識である。すなわち、蛍光物質7の存在により、最終的に懸濁液6aを洗い流した後、プレート2を蛍光顕微鏡で観察することにより、検体1に検出対象の抗原3が存在するか否かや、その位置、量等を視認することができる。したがって、「結合反応の促進」という観点においては、磁性ビーズ6(磁性複合体)に蛍光物質7などの標識を加えることは必須ではない。また、標識としては蛍光によるものに限られず、例えば、抗原3に結合した磁性ビーズ6の磁気を検出することで、抗原3の有無を確認することもできる。また、蛍光物質7は抗体4に直接標識したものとしてもよいし、二次抗体を用いて標識してもよい。
【0016】
101は、上述の反応促進に用いられる反応促進装置であって、磁石102と、プレート2を保持する図示しないプレート保持部と、プレート保持部に保持されたプレート2に磁石102の磁極面105を所定条件で近接・離間させるよう制御する制御機構104と、を備えている。
【0017】
磁石102は、プレート2に近接する磁極面105を備えている。そして、
図2に示されるように、磁石102は、第1棒磁石102aと、第2棒磁石102bとが交互に隣り合うよう連続して配して構成されている。第1棒磁石102aは、磁極面105側の磁極面105aがN極である一方、第2棒磁石102bは、磁極面105側の磁極面105bがS極である。なお、
図2(C)、(D)では、第1棒磁石102aを黒塗りで表している。磁力線はN極からS極へと向かうため、このように第1、第2棒磁石102a、102bを交互に配することにより、磁石102の磁極面105では、第1棒磁石102aのN極の磁極面105aから、隣の第2棒磁石102bのS極の磁極面105bへと磁力線のループが完結することとなる(
図2(D)参照)。これによって、磁極面105の端部で磁力が強くなることを防止でき、磁性ビーズの端部への局在を防ぐことができることとなる。
【0018】
第1、第2棒磁石102a、102bは、天地を逆にした同じ材質からなる棒磁石であり、例えば、磁極面105a、105bが2mm×2mmの角柱状で、ネオジム磁石などの磁力の高い希土類磁石を用いることができる。第1、第2棒磁石102a、102bのそれぞれの磁極面105a、105bの面積は、小さい(すなわち、第1、第2棒磁石102a、102bの数が多い)ほどプレート2の所定範囲2a内で印加される磁場が均一になる。例えば、5mm程度の検体を免疫染色する場合には、上記2mm四方の磁極面を有する磁石とすることで、十分に均一な磁場が印加される。もっとも、磁極面105a、105bの面積が大きい(すなわち、第1、第2棒磁石102a、102bの数が少ない)場合であっても、従来の磁石を用いた場合に対しては、検体の配置による影響は低下する。
【0019】
なお、第1、第2棒磁石102a、102bは、角柱形状に限られず、円柱形状のものとしてもよい。また、必ずしも隣接している必要はなく、あいだに小さな間隙が存しているものであってもよい。このような磁石102としては、磁極面105の反対側で複数の棒磁石を一体に支持しているものが想定される。
【0020】
磁石102の磁極面105の広さは、プレート2内に検体1を配するに際して、作業者が困難なく配することができる程度の範囲を所定範囲2aとして設定し、磁極面105が所定範囲2aより大きいものとする。例えば、直径5mm程度の生体組織の薄片をスライドガラスの中央に固定する場合、直径約20mmの範囲内であれば、作業者が困難なく当該範囲内に固定できるため、磁石102の磁極面105を直径22mm程度とすればよい。
【0021】
プレート保持部は、プレート2を所定位置に保持できるものであればよく、例えば平板上にプレート2を載置固定するものでもよいし、プレート2の端部を把持して固定するようなものでもよい。
【0022】
制御機構104は、プレート保持部に保持されたプレート2に、磁石102の磁極面105をプレート2の裏面側から近接させることにより、添加された懸濁液6aの磁性ビーズ6を、検体1に引き付けるよう、磁石102を制御するものである。このように、磁石102の磁極面105をプレート2の裏面側に近接させた状態を近接状態といい、磁極面105を近接させる時間や距離は、磁石102の磁力や結合反応の反応速度などを考慮のうえ、適宜の設定とすることができる。例えば、プレート2の裏面1mm程度の位置で、1分間ほど近接させておく近接状態の設定とすることができる。また、制御機構104は、必ずしも磁石102を移動させるものではなく、磁石102にプレート2を近接させるものとしてもよい。
【0023】
制御機構104は、近接状態で磁石102を水平方向に揺動させる揺動機構を備えたものとしてもよい。揺動機構は、制御機構104によってプレート2に磁極面105を近接させるにあたり、近接状態への磁石の移動と共に水平方向に磁石102を揺動させるものであってもよいし、近接状態に磁石が移動した後に揺動開始するものであってもよい。揺動機構は、例えば毎秒10往復程度で磁石102を水平方向に移動させるものとすることができる。磁石102の水平方向の移動は、単純な往復運動でもよいし、円運動としてもよい。また、揺動機構は磁石102ではなくプレート2(又はプレート保持機構)を揺動させることとしてもよいが、通常は磁石102を揺動させることが好ましい。すなわち、揺動機構は、プレート2に対して磁石105を相対的に揺動させるものであればよい。
【0024】
揺動機構による磁石102の揺動範囲(ストローク)は、第1棒磁石102a又は第2棒磁石102bの磁極面105a、105bの面積程度とすればよい。すなわち、磁石102を複数の第1、第2棒磁石102a、102bによって一体として構成させると、後述する
図7(A)のように各棒磁石の磁極面105a、105bの単位程度の広さで磁性ビーズ6の集積に濃淡模様が生じる。この濃淡模様は想定される検体1の大きさに対して十分に小さくすれば、均質な反応促進に影響を与えるものではないが、濃淡を解消してより均質なものとするために揺動機構によって磁石102を揺動させてもよい。この際、従来のような円柱磁石を用いた場合、例えば直径約20mmの所定範囲2a内で磁力の均一化を図ろうとすれば、ストロークを所定範囲2aの直径と同じく20mm程度とする必要がある。しかし、本実施形態の磁石102を用いた場合には、直径約20mmの範囲内で磁力のむらを減らすために揺動させるとしても、各棒磁石の磁極面105a、105bの径と同程度のストロークとすれば濃淡を解消して均質化することができる。つまり、揺動させる場合にストロークを小さくすることが可能であるため負荷が小さく、反応促進装置101の耐久性が向上することとなる。
【0025】
以上が反応促進装置101の基本的な構成である。続いて、反応促進装置101を用いた反応促進方法について具体例によって説明する。まず、生体から採取した検体1を、プレート2(スライドガラス)の上面の中央付近の所定範囲2a内に配置し、反応促進装置101のプレート保持部にプレート2を保持させる。その後、プレート2上の検体1を10%ホルマリン水溶液に浸漬し、ホルマリン固定する。そして、純水で15分検体1を洗浄してホルマリンを除去した後、スキムミルク/PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に浸漬してブロッキングをする。続いて、抗体4が固定された磁性ビーズ6の懸濁液6aをプレート2上の検体1に滴下するとともに、制御機構104の制御によって磁石102をプレート2の所定範囲2aの裏面側から約1mm程度の距離まで近接させて近接状態とし、磁性ビーズ6を磁気誘引させて検体1に引き付け、抗原3と抗体4の抗原抗体反応を促進する。磁石102は、1分程度の近接状態を経て、制御機構104の制御によってプレート2から離間する。その後、懸濁液6aを除去して検体1をPBSでリンス洗浄する。そして、蛍光顕微鏡を用いてプレート2上の検体1を蛍光観察することにより、蛍光が検出されれば検体1に検出対象の抗原3が存在することが確認でき、その蛍光強度や分布によって、抗原3の量や位置を確認できる。
【0026】
上記方法により、理想的には抗原3の有無等を確認することができる。しかしながら、実際の操作においては、抗原3と結合しなかった磁性ビーズ6が吸着してプレート2の表面に残留していることがあり、蛍光を検出した場合に誤検出されるおそれがある。典型的には、磁性体5が強磁性体である場合に、磁性ビーズ6同士が結合して残留してしまった場合である。このような事態を避けるために、次の工程を行うことが望ましい。それは、反応後に検体1をPBSでリンス洗浄した後、さらにPBSに浸漬させ、磁石102を検体1が固定されているプレート2の表面側から近接させて非特異的に吸着した磁性ビーズ6を引き剥がして除去する工程である。
【0027】
磁性ビーズ6の引き剥がしに際しても磁石102を用いることにより、むらなく磁性ビーズ6を引き剥がして除去することができる。引き剥がしに用いられる磁石102は、制御機構104により移動制御されるものとすればよい。もっとも、必ずしも引き付けと引き剥がしとで同一の磁石102を用いる必要はなく、それぞれ別の磁石102を用いてもよいし、後述する他の実施形態の磁石と組み合わせて用いても良い。
【0028】
以上が基本的な構成の反応促進装置101を用いた反応促進方法を含んだ磁気免疫染色法であるが、反応促進装置101として、磁石102による反応促進の前後の工程を含んで自動化したものを更に説明する。
【0029】
まず、
図1に示されるように、プレート2を収容するケース10を用いる。ケース10は、左右両端部にそれぞれ入液口10a、排液口10bが設けられた箱形状をしており、上面中央部には懸濁液6aの注入口10cが穿設されている。注入口10cは、プレート2を内部に載置した際に、検体1が配される所定範囲2aの上部に位置するようになっている。また、所定範囲2aの上部は、ケース10の上面が盛り下がってプレート2の表面に近接するようになっている。これによって、注入口10cから注入された懸濁液6aが少量で広く検体1に添加されるようになっている。
【0030】
そして、反応促進装置101は、PBSをケース10内に充填・排出するためのポンプ110と、ポンプ110とケースの入液口10aとを接続する入液経路111と、ケースの排液口10bに接続してケース内のPBS等を排出する排液経路とを備えている。その他に、懸濁液を自動的に注入する注入手段等、反応の自動化のための適宜の手段を備えたものとしてもよい。
【0031】
このような反応促進装置101を用いることにより、上記した磁気免疫染色のブロッキングや、PBSによるリンス洗浄といった工程も含めて自動化できるため、作業効率が向上する。
【0032】
続いて、反応促進装置101を使用することにより、むらのない反応促進ができることを確かめるための実験例とその結果について説明する。本実験例は、以下の手順で行われたものである。まず、プレート保持部にスライドガラスをプレート2として保持させ、スライドガラスの上面にスキムミルクで50倍希釈した磁性ビーズ6を含む懸濁液6aを約300μl滴下する。その後、磁石102の磁極面105を、スライドガラスの裏面から1mmほど離間した位置まで近接させ、30秒静止させる。そして、その状態のスライドガラスを蛍光顕微鏡によって蛍光観察することで、磁性ビーズ6の集積具合を確認する。あわせて、対照実験として、磁石102に代えて磁極面が平坦な円柱形状の磁石を用いて同様の操作を行う。
【0033】
本実験例では、第1、第2棒磁石102a、102bはいずれも磁極面105a、105bが2mm×2mmの角柱形状で、保持力が約955kA/m、残留磁束密度が約1.3Tのネオジム磁石(株式会社相模化学金属製、NF40)を用いた。そして、磁石102は、
図2に図示されたとおりに第1、第2棒磁石102a、102bを隣接して配置し、一体としたものとした。また、磁性ビーズ6としては、多摩川精機株式会社製のFFビーズ(粒子径200nm)を用いた。対照実験の円柱形状の磁石は、磁磁極面が直径22mmのネオジム磁石とした。
【0034】
図7(A)、
図8(A)、
図9(A)(以下、「
図7〜9(A)」と表現し、(B)〜(F)についても同様とする。)は、上記の実験例によってスライドガラスに磁性ビーズ6を集積させた状態を蛍光顕微鏡で撮影した写真データである。
図7〜
図9(A)は、いずれも同じ写真データを画像処理したものであり、
図7(A)はグレースケール、
図8(A)はディザリングを施した白黒2色表示、
図9(A)は単純白黒2色表示としたものである。
図7(A)及び
図8(A)では、白い箇所ほど蛍光が強く、したがって多くの磁性ビーズ6が集積していることを示している。また、
図9(A)では一定以上の蛍光強度の部分が白く表示されている。対照実験の結果の写真データが、同様に
図7〜
図9(F)に表されている。
【0035】
対照実験の結果では、
図7〜
図9(F)からも確認できるように、磁石の端部に沿ってリング状に蛍光が強くなっていた。すなわち、磁極面が平坦な円柱磁石を用いた場合には、磁極面の端部に磁性ビーズが偏在していることが確かめられた。一方、第1実施形態に基づく実験例の結果では、
図7〜
図9(A)からも確認できるように、第1、第2棒磁石単位で格子状に蛍光が分布している。したがって、本実験例では、対照実験とは異なり磁性ビーズ6がリング状に偏在しておらず、磁極面105の全域に渡って均一に引き付けられて集積しているといえる。このことは、反応促進装置1によるむらのない反応促進が可能であることを示すものといえる。
【0036】
なお、
図7〜
図9(A)の格子状の蛍光模様は、黒い円形状の部分が連続しているように見えるが、この黒い円形状の部分は隣接する第1、第2棒磁石102a、102b同士の隣接部分に相当する。すなわち、第1、第2棒磁石102a、102bの磁極面105a、105bは、水平方向において黒い円形状の部分に囲まれた中心部を中心として位置している。
【0037】
また、揺動機構により磁石102を揺動させた場合の効果を確認するために、上記の実験例において、「磁石102の磁極面105を、スライドガラスの裏面から1mmほど離間した位置まで近接させ、30秒静止させる」工程を、「磁石102の磁極面105を、スライドガラスの裏面から1mmほど離間した位置まで左右に2mmのストロークで毎秒10往復揺動させながら近接させ、30秒間揺動させる」工程とした実験例を行った。この揺動についての実験例の結果を撮影した写真データが
図7〜9(B)に示されている。揺動させた実験例の結果では、
図7〜9(B)からも確認できるように、2mmのストロークによる揺動であっても、磁極面105が近接した全域にわたって蛍光の濃淡がなくなっていた。
【0038】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態とは磁石の構造が異なることを除き、同様のものとすることができるため、その他の説明は省略する。第2実施形態の磁石202には、
図3に示されるように、磁極面205に一様な凹凸が設けられている。磁石202は、複数の棒磁石から構成されており、第1棒磁石202aと、第1棒磁石202aより短尺な第2棒磁石202bとが連続して交互に隣り合って構成されている。そして、磁石202の磁極面205が凹凸形状になるように、第2棒磁石202bは、第1棒磁石202aより所定距離だけ長尺方向中央側に入り込んで第1棒磁石202aに隣接している。
【0039】
このように、磁石202の磁極面205を凹凸状にすることにより、磁極面205の中央部と端部とで磁力が均一に作用することとなって、検体1の染色がプレート2に配された位置の違いによるむらが生じにくくなる。また、揺動機構を設けた場合に、ストロークを第1又は第2棒磁石202a、202bの磁極面205a、205bと同程度とすればよい点は、第1実施形態と同様である。
【0040】
第2実施形態では、磁極面205に凹凸を設けるにあたり、磁石202としては長短複数の棒磁石から構成されるものとしたが、必ずしもこれに限られない。同じ長さの棒磁石を複数用いて磁極面205に凹凸を設けることとしてもよいし、凹凸は1つの磁石の磁極面205を凹凸形状に加工したものとしてもよい。また、凹凸の形状は、所定角度での傾斜を繰り返した鋸歯状のものとしてもよい。むらの少ない反応促進をするという観点からは、凹凸の形状は連続的で規則的な形状であることが好ましい。
【0041】
1つの凹部または凸部の平面視での大きさは、小さいほど印加される磁場が均一になるため、好ましい。例えば、5mm程度の検体を免疫染色する場合に、2mm四方の凹部と凸部を連続して繰り返した磁石とすることで、十分に均一な磁場が印加される。もっとも、各凹部、凸部の大きさが大きい場合であっても、凹凸がない従来の磁石を用いた場合に対しては、検体1の配置による影響は低下する。また、凹部の深さは、適宜のものとすることができるが、上記例の場合には、凹部が凸部に対して2mm程度凹んだものとすることができる。
【0042】
第2実施形態の反応促進装置においても、第1実施形態と同様の方法による実験例を行い、その結果を撮影した写真データが、
図7〜9(C)(揺動なしの場合)、
図7〜9(D)(揺動ありの場合)に表されている。第1棒磁石202aと第2棒磁石202bは、磁極面205側で同極であり、2mmの段差の凹凸を付けて
図3に図示されたとおりに連続して隣接して配されたものである点で、本実験例は第1実施形態における実験例の条件と相異している。
【0043】
第2実施形態に基づく本実験例の結果では、
図7〜9(C)からも確認できるように、近接した第1、第2棒磁石202a、202bの位置に対応するように蛍光が強い箇所と弱い箇所が互い違いになっていた。したがって、磁性ビーズ6が対照実験(
図7〜9(F))とは異なり磁性ビーズ6がリング状に偏在しておらず、磁極面205の全域に渡って均一に引き付けられて集積しているといえる。このことは、反応促進装置1によるむらのない反応促進が可能であることを示すものといえる。また、
図7〜9(D)から確認できるように、揺動機構により磁石202を揺動させた場合に、ストロークを小さくしても磁極面205が近接した全域にわたって蛍光の濃淡模様がなくなっていたことも第1実施形態の場合と同様である。
【0044】
なお、
図7〜
図9(C)では互い違いに白い円形状と黒い円形状とが連続しているが、白い円形状部分は凸部である第1棒磁石202a、黒い円形状部分は凹部である第2棒磁石202bが近接していた位置にそれぞれ対応している。
【0045】
本発明の第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態も、磁石302の構造が異なることを除き、第1実施形態と同様のものとすることができるため、その他の説明は省略する。本実施形態の磁石302は、
図4(A)に示すように、磁極面305が中央ほどプレート2に近接するとともに、端部ほどプレート2から離間するよう傾斜した放物面状に形成されている。
【0046】
このように、磁極面305を中央ほどプレート2に近接する一方で端部ほどプレート2から離間するよう傾斜させることにより、プレート2の所定範囲2a内において、中央部と端部とで印加される磁力の差が低減されることとなる。通常の円柱状の磁石の場合には、中央部ほど磁力が弱く、端部ほど磁力が強くなる。これに対し、本実施形態の磁石302では、磁極面305を、中央部をプレート2に近接させる一方で端部ほどプレート2から離間させることで、磁極面305の端部で磁力が強くなってしまうことが無く、むらなく抗原抗体反応を促進することができる。
【0047】
磁極面305の放物面状の形状は、プレート2と磁石302との距離や磁石302の磁力等に基づき、適宜のものとすることができる。例えば、放物面の形状については、磁極面305の垂直方向をz(mm)、任意の水平方向をx(mm)としたときに、中央を原点として、z=−kx
2を満たす放物面形状とするに際して、検体1を配する所定範囲2aを直径20mmの円形状とした場合に、k=0.02〜0.03程度にすると好適である。
【0048】
また、本実施形態では、第1、第2実施形態のような棒磁石単位での濃淡が生じないため、磁石302を揺動機構により揺動させる必要がなく、反応促進装置を長寿命化することができる。もっとも、万全を期するために揺動機構を備え、磁石302をプレート2に対して相対的に揺動させてもよい。
【0049】
また、第3実施形態の第1変形例として、
図4(B)に示されるように、磁石402を複数の棒磁石402aが隣り合って構成したものとしたものであって、磁極面405を第3の実施形態の放物面状の形状になるよう、中央の磁石ほどプレート2に近接するよう構成したものとしてもよい。棒磁石402aは、角柱形状であって、磁極面405側の磁極はすべてそろっている。また、平面視の形状は
図2(A)と同様であり、磁極面405は平面視では全体として円形状となっている。もっとも、磁極面405は平面視で全体として矩形形状であってもよい。
【0050】
さらに、第3実施形態の第2変形例として、
図4(C)、(D)に示されるように、磁石502を複数の扁平な第1円柱磁石502aが重なって構成したものとしてもよい。この変形例では、複数の第1円柱磁石502aが重なって積層しており、複数の第1円柱磁石502aは平面視で同心円上に配されていて、上側(プレート2側)に配されるものほど直径が短くなっている。また、平面視で最外周の第2円柱磁石502bは、扁平ではなく軸芯方向に長尺な形状をしている。換言すると、第2円柱磁石502bの磁極面上に、扁平で上側のものほど小径な第1円柱磁石502aが積み重なって磁石502が構成されている。これによって磁石502の磁極面505が中央ほどプレート2に近接して端部ほどプレート2から離間するよう傾斜するようになっている。なお、第2円柱磁石502bのような長尺な円柱は必須なものではなく、磁石502として、扁平な第1円柱磁石502aのみを積層させて構成させたものとしてもよい。また、各第1円柱磁石502aの厚さは、すべて等しくてもよいし、それぞれ異なったものとして、例えば全体として磁極面505が放物面となるようにしてもよい。
【0051】
これら第3実施形態の第1、第2変形例では、磁石402、502を複数の小磁石(棒磁石402a、第1円柱磁石502a)から構成さたものとして、磁石の中央に配された小磁石ほどプレート2に近接する一方、磁石の端部に配された小磁石ほどプレート2から離間して設けられていることとなる。このようにすることで、磁石の磁極面(405、505)の傾斜を容易に設けることができる。
【0052】
第3実施形態の第2変形例による反応促進装置においても、第1、第2実施形態と同様の方法による実験例を行い、その結果を撮影した写真データが、
図7〜9(E)に表されている。なお、本実験例では、揺動機構による揺動はさせていない。複数の第1円柱磁石502aが、平面視で
図4(C)、正面視で
図4(D)のように配されて、全体として中央ほどプレート2に近接し、端部ほどプレート2から離間するよう傾斜した磁極面505を形成している点で本実験例は第1、第2実施形態における実験例の条件と相違している。第1円柱磁石502aは、いずれも厚さ(積層方向)1mmで、プレート2に最も近接する最上部のものの磁極面の直径3mmで、以下直径が4mmずつ増加した第1円柱磁石502aが7つ積層されている。すなわち、第1円柱磁石502aは合計で8つ配されている。そして8つの積層した第1円柱磁石502aの下に、磁極面が直径35mmで長尺な第2円柱磁石502bが配されている。したがって磁極面505としては、中央が端部に対して約8mmプレート2に近接するよう傾斜している。第1、第2円柱磁石はいずれもネオジム磁石を用いた。
【0053】
実験例の結果、全体としてリング状に蛍光が強くなっているということはなく、全体としてほぼ一様に蛍光が観察された。このことは、
図7〜9(E)からも、確認することができる。したがって、磁性ビーズ6が偏在していないということができる。このことは、本実施の形態による反応促進装置によれば、磁性ビーズ6を磁石502の磁極面505の全域に渡って均一に引き付けることができることを示しており、その結果として、むらのない反応促進が可能であることを示すものといえる。
【0054】
以上本発明の各実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態や、具体的な数値、反応等に限定されるものではない。本発明の反応促進方法によって促進される特異的な結合は、抗原抗体反応に限られず、例えば、酵素と基質の結合や、DNAの相補的な結合、たんぱく質間の特異的な結合、核酸とたんぱく質間の特異的な結合、等の種々のものが挙げられる。
【0055】
また、磁力が「均一」であるということは、所定範囲内で完全に磁力が等しいことを意味せず、極端に一部の磁力が強くなってしまうことがなく、同程度に磁性ビーズ6を引き付けるという程度のものである。また、反応促進が「均質」であるということは、所定範囲2a内であれば検体1(又は磁性ビーズ6)の配置によらず、同程度の反応促進が可能という程度の意味である。
【0056】
叙述の如く構成された本発明の第1実施形態において、プレート2表面の所定範囲内2aに配された生体組織の切片である検体1に、検出対象の抗原3に特異的に結合する抗体4と磁性体5とを備えた磁性ビーズ6を添加して、該磁性ビーズ6を磁力によりプレート2上の検体1に引き付けることで、磁性ビーズ6の抗体4と抗原3との特異的な抗原抗体反応を促進させることができる。そして、反応促進装置101は磁性ビーズ6をプレート2表面の検体1に引き付けるための磁石102と、プレート2の所定範囲2aと磁石102の磁極面105とを近接させた近接状態とする制御機構104を備えている。また、磁石102の磁極面105は、プレート2の所定範囲2aより広くなっており、磁石102は、磁極面105側の磁極面105aがN極の第1棒磁石102aと、磁極面105側の磁極面105bがS極の第2棒磁石102bが複数交互に隣り合って構成されている。このような磁石102の構成とすることにより、隣り合う第1棒磁石102aの磁極面105aから第2棒磁石102bの磁極面105bへと磁力線のループが完結することとなって、所定範囲2a内で印加される磁力が中央部と端部とで均質なものとなり、抗原3と抗体4の抗原抗体反応による結合反応をむらなく促進可能となる。
【0057】
また、第2実施形態においては、磁石202が長尺な第1棒磁石202aと、短尺な第2棒磁石202bとが複数交互に隣り合って構成されていて、磁極面205に一様な凹凸が設けられている。これによって、各凹凸に端部が形成されることとなって、磁石202の磁極面205全体として、中央部と端部とで磁力が均質なものとなるため、所定範囲2a内で印加される磁力が中央部と端部とで均質なものとなり、抗原抗体反応をむらなく促進可能となる。
【0058】
そして、第3実施形態においては、磁石302の磁極面305が中央ほどプレート2に近接して端部ほどプレート2から離間するよう放物面形状に傾斜していて、所定範囲2aでは、中央部と端部のあいだで磁石302によって印加される磁力の差が低減されるようになっている。これによって、近接状態では磁極面305の磁力が強い端部がプレート2から離間する一方、磁力が弱い中央部がプレート2に近接することとなって、端部抗原抗体反応をむらなく促進可能となる。
【0059】
さらに、第3実施形態の各変形例では、磁石402、502を複数の小磁石である棒磁石402aや第1円柱磁石502aで構成して、棒磁石402aや第1円柱磁石502aは、磁極面405、505の中央に配されたものほどプレート2に近接する一方、端部に配されたものほどプレート2から離間して設けられている。これによって、磁極面405、505の傾斜を、傾斜面を備えない複数の小磁石の組み合わせによって形成することができるため、磁石の製造が容易となるとともに、単一の磁石の磁極面を傾斜するよう加工する場合と比較して、むらのない反応促進をするために最適な傾斜形状の調整を、小磁石である棒磁石402a、第1円柱磁石502aの配置や選択等によって調整可能であるため、調整が容易なものとなる。
磁気免疫染色法等の磁力を利用した反応促進方法において、検体が固定された位置によって生じる反応促進のむらを低減し、一様に反応を促進する方法と、かかる方法を実現するための反応促進装置を提供する。
磁性複合体をプレート表面の検体に引き付けるための磁石302と、プレート表面に検体が配される所定範囲と磁石302の磁極面305とを近接させる制御機構と、を備えたものとし、磁石302の磁極面305は、プレート表面の所定範囲より広くなっており、磁石302はプレートに近接する磁極面305が、中央ほどプレートに近接して端部ほどプレートから離間するよう傾斜していることで、プレートにおける検体が配される所定範囲では、中央部と端部のあいだで磁石302によって印加される磁力の差が低減されるよう構成した。