(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
保持器は、内輪と外輪の回転を受けて自転する転動体が互いに接触しないように、転動体との間に隙間を設けて転動体を格納し、内輪または外輪との間に隙間を設け、これらの隙間が許す範囲内で3次元的に動く。
【0003】
転がり軸受では、内輪および外輪の傾きや、転動体の径に相互差等がなく理想的に形成されると、回転が安定し転動体が等配になるという特性がある。特に、工作機械スピンドル等に使用される精密軸受では、軸受の部品精度が高く、機械への組み込み精度も良いため、運転中に転動体が等配になり易い。一方で転動体の等配は、転がり軸受にかかる偏荷重が変動した場合に軸受を安定して稼動させるためにも必要であり、保持器のポケットは、基本的に等配置に設けられる。
【0004】
保持器は、内輪と外輪の回転を受けて公転する転動体から駆動力を受けて回転する。また、保持器には、保持器のポケットを介して転動体によって半径方向の動きが規制され、回転が案内される転動体案内型の保持器と、保持器の内径または外径を介して内輪の外径または外輪の内径によって半径方向の動きが規制され、回転が案内される軌道輪案内型の保持器がある。
【0005】
図8は、従来の内輪案内型の保持器を用いた転がり軸受82の例を示す図であり、(a)は、転がり軸受82の横断面図、(b)は、転がり軸受82の縦断面図である。
図8に示すように、内輪案内型の保持器81は、内輪84によって半径方向の動きが規制され、かつ回転が円滑に案内されるように、保持器81の内径と内輪84の外径の間には微小隙間85が設けられる。図示しないが、外輪案内型の保持器も同様に、外輪によって半径方向の動きが規制され、保持器の外径と外輪の内径の間に微小隙間が設けられる。
【0006】
転動体案内型の保持器は、そのポケットを介して転動体によって半径方向の動きが規制され、かつ回転が円滑に案内されるように、各ポケットと、それらポケットに格納された転動体との間に微小隙間が設けられる。このとき、保持器の半径方向の動きの規制量は、ポケットと転動体の微小隙間、各ポケットおよび各ポケット内の転動体の位置などが総合されて決定される。
【0007】
転動体案内型の保持器は、案内箇所が複数個のポケットであるのに対し、軌道輪案内型の保持器は、案内箇所が内径または外径の1箇所であるため、保持器の半径方向の動きをより高精度に規制できるところから、軸受内で大きな振れ回りが生じ難く、高荷重および高速回転において高い精密さが要求される軸受に多用される。
【0008】
保持器81はポケット83と転動体86の間で隙間を持っているため、理想的に保持器81が回転し転動体86が等配されているときは、保持器81は転動体86によって拘束されることがない。しかしながら、重力や摩擦といった外力で、保持器81のバランスが崩れて軸受82に対して転動体86が相対的に動くと、保持器81が振れながら回転することがあるので、保持器81の振れを抑制するため、転動体86を不等配として保持器81を拘束するものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
特許文献1では、保持器を拘束するために、1つのポケットの中心を他のポケットの中心を結ぶピッチ円上から少しずらし、円周方向に等間隔に配置されたポケット内で転動体が等配にならないように転動体の公転運動の位相を乱してある。
【0010】
また、軸方向のポケット隙間を狭く加工した規制ポケット部と、転動体である球より僅かに大きい曲率を有する球面の転動体案内ポケット部を配置し、転動体である球と内輪および外輪との接触を転動体案内ポケット部の球面に端部を設けて避けるとともに、規制ポケット部によって保持器の軸方向の移動を規制し、転動体案内ポケット部によって保持器の円周方向の移動を規制する転動体案内の保持器がある(例えば、特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の保持器のポケット83は、形状とサイズが同一に形成されており、転動体86は内輪84および外輪87の回転速度などの運転状況によっても動きを変えるため、転動体86が保持器81に駆動力を与えるポケット83の位置は特定できない。
【0013】
転動体86によって保持器81に不用意な拘束力が加わると、保持器81と転動体86の間の摩擦が増大し、転動体86の自転が規制されるため、摩擦トルクが増大し、摩擦トルクが増大することで、さらに、転動体86と軌道輪間の接触圧が増大し、油膜状態に悪影響を及ぼす。その結果、転動体軌道輪の摩耗および振動が大きくなり、軸受82の寿命低下等を引き起こす。
【0014】
軸受は、正常に回転した場合、レース音と呼ばれる転動体86が軌道を転がる連続音を発生させる。明らかに大きい場合を除き、通常、このレース音は異常音として認識されることはない。しかし、保持器に振れ回りが生じた場合、保持器と転動体、または保持器と軌道輪が衝突し、断続的な衝突音が発生する。この衝突音は保持器音と呼ばれ、耳障りな音として認識されるため、高精度、低振動、および低雑音が要求される精密工作用機械等では問題となる。
【0015】
特許文献1は、転動体が一定水準以上で等配にならないように一つのポケットの中心を他のポケットの中心に対して半径方向にずらしたものである。転動体が不等配になると、軸受剛性および回転精度が低下して、振動が大きくなる。また、ポケット83の形状がストレートな保持器には適用できない。
【0016】
また、グリース潤滑を使用した軸受においては、転動体86が保持器81のポケット83と接触することなく自転を続けると、遠心力により潤滑油が離脱して転動体86の潤滑油が枯渇し、軸受82の寿命が低下する危険性があり、転動体86が保持器81のポケット83と接触することがないというのも問題はある。
【0017】
特許文献2のような転動体案内型保持器では、保持器は球以外から駆動力を受けることはないので、球から受ける駆動力のバランスを取ればよいが、転動体案内ポケット部は球より僅かに大きい曲率の球面穴に形成されているので、球と転動体案内ポケット部の壁面との距離が球面穴の総ての方向において等しくなり、球は転動体案内型保持器の円周方向以外の壁面に接触して半径方向または軸方向に余分な力を与えることもあるため保持器の動きが不安定になりやすい。また、球が円周方向の壁面に接触する場合も転動体案内ポケット部は球より僅かに大きい曲率の球面に形成されているので、球は球面穴に面で受け止められるため、球から保持器が受ける駆動力は、半径方向および軸方向に分散する。
【0018】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、転動体から駆動力を受けるポケットを予め限定することで、保持器に与えられる駆動力を常に一定に保ち、保持器の振れ回りを抑えて保持器音を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の特徴を有する。
(1) 内輪と外輪の間に組み込まれた複数の転動体を、その中心が前記転動体の公転方向に等間隔に設けられた複数のポケットで保持する保持器であって、
前記保持器内の他のポケットと比較して前記保持器と前記転動体の公転方向の隙間が小さく形成された少なくとも1つの駆動ポケットと、
前記他のポケットから成る非駆動ポケットと、
を備え、
前記保持器の軸方向動き量を規制するため、
隣り合う互いとの間の位相間隔が180度未満となるように配置された少なくとも3つの前記非駆動ポケットにおける前記保持器と前記転動体との軸方向の隙間が、前記保持器内の残りのポケットと比較して小さく形成されていることを特徴とする保持器。
(2) 内輪と外輪の間に組み込まれた複数の転動体を、その中心が前記転動体の公転方向に等間隔に設けられた複数のポケットで保持する保持器であって、
前記保持器内の他のポケットと比較して前記保持器と前記転動体の公転方向の隙間が小さく形成された少なくとも1つの駆動ポケットと、
前記他のポケットから成る非駆動ポケットと、
を備え、
前記保持器の軸方向動き量を規制するため、
隣り合う互いとの間の位相間隔が180度未満となるように配置された少なくとも3つの前記ポケットにおける前記保持器と前記転動体との軸方向の隙間が、前記保持器内の残りのポケットと比較して小さく形成されており、
前記少なくとも3つの前記ポケットが、前記駆動ポケットと前記非駆動ポケットとの組み合わせから成ることを特徴とする保持器。
(3) 軌道輪案内型であることを特徴とする(1)または(2)に記載の保持器。
(4) 前記転動体が玉であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の保持器。
(5) 前記複数のポケットの体積が略同等であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の保持器。
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の保持器を使用することを特徴とする転がり軸受。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、転動体から駆動力を受けるポケットが限定されたことにより、保持器に与えられる駆動力が一定となり、保持器の振れ回りが抑制され、保持器音が低減できた。
また、保持器の軸方向動き量を規制するポケットを少なくとも3つ設け、それらポケットの相互の位相間隔を180度未満に設定しているため、転動体の公転軸に対する保持器の回転軸の傾きが抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて、本発明の保持器および転がり軸受の実施形態について説明する。第1の実施形態は、保持器を駆動する駆動ポケットが1個の場合の例、第2の実施形態は、保持器を駆動するポケットがランダムに3個配置される場合の例、第3の実施形態は、保持器を駆動する駆動ポケットが集中して3個配置される場合の例、第4の実施形態は、保持器を駆動するポケットが等間隔に3個配置される場合の例である。また、第5の実施形態は、保持器を駆動するポケットが等間隔に2個配置される場合の例、第6の実施形態は、保持器を駆動するポケットが集中して2個配置される場合の例である。
【0023】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る保持器を示す図である。
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る保持器の斜視図、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態の保持器の横断面図、
図1(c)は、本発明の第1の実施形態の保持器の主要部を拡大した横断面図、
図1(d)は、保持器の軸方向の動きの規制の仕方を説明するためのものであり、本発明の第1の実施形態の保持器の主要部を拡大した円周方向断面に相当する図である。
【0024】
図1(a)および
図1(b)に示すように、本発明の保持器11は転がり軸受に使用される軌道輪案内型の保持器であって、円環形状の本体12において、各ポケットの中心を結ぶピッチ円13上の各ポケットの中心が等間隔になるように1個の駆動ポケット14と14個の非駆動ポケット15が設けられている。保持器11は、保持器材料として一般的に使用されるフェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)などのプラスチック材料(ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化材入りを含む)や、銅合金、ステンレス、鉄(メッキ、コーティング、化成処理などの表面処理が施されたものを含む)などの金属材料から形成されることが好ましい。しかしながら、保持器11の材料はこれらに限定されず、一般的な保持器形状に加工可能な材料であればよい。
【0025】
駆動ポケット14の内輪側の開口幅16と外輪側の開口幅17は等しく、非駆動ポケット15の内輪側の開口幅18と外輪側の開口幅19は等しく、駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面は、転動体20の公転方向と垂直な方向に対してストレートな形状に形成される。ここで、ストレートな形状とは、運転中に転動体が接触し得る各ポケットの壁面が、転動体中心と軸受中心とを結ぶ直線に対して平行となる形状を意味する。
【0026】
図1(c)に示すように、駆動ポケット14の円周方向の転動体20とポケットの隙間22は、非駆動ポケット15の円の円周方向の転動体20とポケットの隙間23より小さく形成されるため、駆動ポケット14の開口幅16および開口幅17は、非駆動ポケット15の開口幅18および開口幅19より小さい。非駆動ポケット15に組み込まれた転動体20は、公転方向に広く形成された非駆動ポケット15の中を外輪と内輪の回転に従って自由に移動する。
【0027】
駆動ポケット14の円周方向のポケットの隙間22が、非駆動ポケット15の円周方向のポケットの隙間23より小さく形成されるため、駆動ポケット14に格納された転動体20は、その公転方向と垂直な方向に対してストレートな形状に形成された駆動ポケット14の壁面と接触し、保持器11へ駆動力を与える。
【0028】
図1(d)に示すように、保持器11の軸方向の動きは、円環形状の本体12の軸方向におけるポケットの長さ21から転動体20の軸方向の長さを引いた値、すなわち転動体20に対する駆動ポケット14の軸方向の隙間24および非駆動ポケット15の軸方向の隙間25で決定される。
【0029】
保持器11では、1個の非駆動ポケット15の軸方向の隙間25を他の非駆動ポケット15および駆動ポケット14の隙間24より小さくして軸方向の動きを規制しているが、駆動ポケット14の軸方向の隙間24を小さくして規制してもよいし、両方で規制してもよいし、それらを組み合わせてもよい。
【0030】
尚、転動体20の公転軸に対する保持器11の回転軸の傾きを抑制するため、保持器11の軸方向動き量を規制するポケットをそれぞれ位相間隔が180度未満となるように3つ以上設けることが望ましい。
【0031】
図2は、本発明の保持器の円周方向のポケットの形状の例を示す図である。
図2に示すように、ポケットの形状は、円、長円および角丸四角などであるが、内輪および外輪の回転を受けて転動体が自由に自転および公転可能であれば、特に形状は限定されない。円の回転方向の転動体20とポケットの隙間22が他の非駆動ポケット15の円の回転方向の転動体20とポケットの隙間23より小さく形成された駆動ポケット14を少なくとも1個設ける。
【0032】
図2(a)は、
図1と同様に円との長円のポケットの組み合わせの例を示す図である。また、
図2(b)は角丸正方形と角丸長方形のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(c)は角丸正方形と長円のポケットの組み合わせの例を示す図である。
図2(d)は円と角丸長方形のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(e)は円と楕円のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(f)は楕円と円のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(g)は、断面が長円のポケットの配置方向によるポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(h)は、大小の円のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(i)は円と長円のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(j)は断面が角丸長方形のポケットの配置方向によるポケットの組み合わせの例を示す図である。また、
図2(k)は、回転方向の隙間の異なる長円のポケットの組み合わせの例を示す図、
図2(l)は、回転方向の隙間の異なる長方形のポケットの組み合わせの例を示す図である。
図2(b)の角丸長方形と角丸正方形のポケットは、円筒転動体または針状転動体を組み込むことができる。転動体20が玉の場合には、円と角丸四角、長円と角丸四角のポケットを組み合わせて用いてもよい。
【0033】
図2(a)(d)(e)(h)に示された例では円周方向の長さが短い円のポケットが、
図2(b)(c)に示された例では角丸正方形のポケットが、
図2(f)に示された例では円周方向の長さが短いように配置された楕円のポケットが、
図2(g)に示された例では軸方向に長く円周方向に短いように配置された長円のポケットが、
図2(i)に示された例では軸方向の長さが長い円のポケットが、
図2(j)に示された例では軸方向に長く円周方向に短いように配置された角丸長方形のポケットが、それぞれ駆動ポケット14として、保持器11へ駆動力を与える。また、
図2(k)に示された例では、回転方向の隙間が小さい長円のポケットが、
図2(l)に示された例では、回転方向の隙間が小さい長方形のポケットが、それぞれ駆動ポケット14として、保持器11へ駆動力を与える。
【0034】
図2(a)においては、ポケットの壁面は全て曲面であり、
図2(b)においては、ポケットの壁面は全て平面である。また、
図2(c)においては、駆動ポケット14の壁面が平面、非駆動ポケット15の壁面が曲面であり、
図2(d)においては、駆動ポケット14の壁面が曲面、非駆動ポケット15の壁面が平面である。このように、駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面は、円周方向の隙間の関係が満たされている限りにおいて、曲面、平面のどちらでもよく、その両方が混在していてもよい。ポケットの壁面が平面である場合であっても、転動体との接触部のみが平面であればよく、転動体20と接触しない隅部は、曲面でも平面でもどちらでもよく、形状は問わない。壁面が曲面であるポケットは、
図2(a)のように曲面部が半径一定の円や長円でもよいし、
図2(e)(f)のように半径が一定でない楕円であってもよい。尚、ポケットの壁面が曲面である場合には、ポケットに対して転動体が一点のみで接触するように、当該曲面の曲率半径が転動体(玉)の曲率半径より大きいことが望ましい。
【0035】
図2(g)においては、非駆動ポケット15が、保持器11の軸方向動き量を規制している。特にグリース潤滑を使用した転がり軸受においては、保持器11は転動体20への潤滑油を保持する役割も担っている。しかしながら、転動体20がポケットと接触せずに自転すると、自身の遠心力により潤滑油が離脱してしまい、転動体20の潤滑油が枯渇し、軸受寿命が低下するおそれがある。したがって、転動体20はいずれかの箇所でポケットと接触することが好ましいので、非駆動ポケット15により保持器11の軸方向動き量を規制することが好ましい。しかしながら、これに限定されず、
図2(h)に示されるように駆動ポケット14により保持器11の軸方向動き量を規制してもよく、また駆動ポケット14および非駆動ポケット15の組み合わせにより保持器11の軸方向動き量を規制してもよい。
【0036】
また、本実施形態においては、各ポケットは、円周方向の隙間の関係が保たれていれば、形状は自由である。しかしながら、本実施形態のように駆動ポケット14と非駆動ポケット15の形状が異なる場合、それらの配置によってはアンバランスが発生し得る。そのため、
図2(c)(d)のように駆動ポケット14および非駆動ポケット15の形状を、一方は曲面、他方は平面としたり、
図2(g)(i)(j)のように駆動ポケット14の軸方向ポケット隙間を大きく設定したりすることにより、各ポケットの体積を略同等に調整することで、アンバランスを解消することが可能である。また、
図2(k)(l)に示される例においては、駆動ポケット14と非駆動ポケット15とで軸方向隙間が同等となっているが、軸方向隙間をも異ならせることにより、各ポケットの体積の調整を行ってもよい。また、図示はしていないが、特に長方形のポケットにおいて、転動体と接触しない部位(ポケットの隅部等)に逃がし形状等を設けることによっても、ポケットのアンバランスを解消することができる。また、ポケットのアンバランスの解消は、アンバランスが生じた部位の逆位相に位置する部位における重量を増減させることによって行ってもよい。重量を増減させる部位はポケットに限定されず、例えばポケットの周方向に隣接する柱部や、ポケットの軸方向両側に位置する円環部に凸部や凹部または孔を設けることによって、重量を増減させることができる。
【0037】
表1は、
図1に示す本発明の第1の実施形態に係る保持器と従来の保持器について、保持器音発生の有無の試験結果を示す表である。本試験では、外径110mm、内径70mm、幅20mmの軸受を2列背面組み合わせにしたグリース潤滑による保持器11を使用し、定位置予圧およびベルトによる十分な駆動運転後、3000min
−1時および5000min
−1時の保持器音の発生状況を観察した。
【0039】
円周方向のポケット幅を同一に形成した従来の保持器では、保持器音の発生が確認されたが、本発明の第1実施形態に係る保持器11では、保持器音は確認されず、低騒音での運転が可能になった。
【0040】
表2もまた、本発明の第1の実施形態に係る保持器と従来の保持器について、保持器音発生の有無の試験結果を示す表である。本試験では、外径55mm、内径30mm、幅13mmの軸受を4列背面組み合わせにしたオイルエア潤滑による保持器11を使用し、定位置予圧およびベルトによる十分な駆動運転後、5000min
−1時および10000min
−1時の保持器音の発生状況を観察した。
【0042】
円周方向のポケット幅を同一に形成した従来の保持器では、保持器音の発生が確認されたが、本発明の第1実施形態に係る保持器11では、保持器音は確認されず、低騒音での運転が可能になった。
【0043】
以上、詳細に説明したように、第1の実施形態では、保持器11の14個の非駆動ポケット15と比較して転動体20の公転方向の隙間を小さく形成した駆動ポケット14を1個設けたので、保持器11に転動体20が駆動力を伝達する転動体が予め1個に限定されて、保持器11の回転バランスが安定し、保持器11は、内輪または外輪の軌道輪に暴れなく案内され、保持器音を無くすことができた。
【0044】
駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面を転動体20の公転方向と垂直な方向にストレートな形状にしたので、転動体20は駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面と転動体20の公転方向の点で接触するため、転動体20の公転方向のポケットの隙間22が小さい駆動ポケット14によって、保持器11をより確実に駆動することができる。保持器11のように、駆動ポケット14を1つに限定した保持器11の回転が最も安定する。
【0045】
また、保持器11に駆動力を伝達する転動体20が予め1個に限定されるので、駆動ポケット14および非駆動ポケット15間に引張応力や圧縮応力が発生することがなく、保持器31に伝達される駆動力はほぼ一定となり、保持器材料の疲れ破損が生じ難い。
【0046】
また、保持器11を駆動する駆動ポケット14を確実に1個設けたので、グリース潤滑を使用した軸受においても駆動ポケット14によって潤滑油が転動体20に円滑に充填される。
【0047】
なお、転動体20の公転方向と垂直な方向にストレートな形状にした駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面の軸方向の両端、すなわち駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面と保持器11内径面の交点近傍、または駆動ポケット14および非駆動ポケット15の壁面と保持器11外径面の交点近傍のいずれか一方または両方に、回転時に転動体20と当たらないような寸法に形成した凸状の出張り部としてバレ留め用の薄いつめを設け、保持器11の組立時や軸受を軸およびハウジングに組み込む際に転動体20の脱落を防止するようにしてもよい。
【0048】
図3は、本発明の第2の実施形態の保持器の横断面図である。第1の実施形態と同じ部材には同じ番号を付与して説明を省略する。
図3に示すように、本発明の第2の実施形態に係る保持器31は、円環形状の本体32に15個のポケットの中心を結ぶピッチ円13上で15個のポケットの中心が等間隔になるようにして、円環形状の本体32のランダムな位置に3個の駆動ポケット14を、残りの位置に12個の非駆動ポケット15を配置したものである。
【0049】
第2の実施形態では、保持器31に複数個の駆動ポケット14を設けたので、転動体20が保持器31に駆動力を伝達する転動体20を予め決められた複数の位置に配置することができるため、保持器31に加わる駆動力のバランスを取ることができる。また、駆動ポケット14を複数設けたので、保持器31へ与える駆動力を大きくすることができ、保持器31の質量が大きく、イナーシャが大きい場合に、トルク不足による加減速度時間の延長や、内輪または外輪の軌道輪と転動体20との間で発生する滑りを防止できる。
【0050】
図4は、本発明の第3の実施形態の保持器の横断面図である。第1の実施形態と同じ部材には同じ番号を付与して説明を省略する。
図4に示すように、本発明の第2の実施形態に係る保持器41は、円環形状の本体42に15個のポケットの中心を結ぶピッチ円13上で15個のポケットの中心が等間隔になるようにして、3個の駆動ポケット14と残り12個の非駆動ポケット15を連続して配置したものである。
【0051】
第3の実施形態では、保持器41に3個の駆動ポケット14を連続して設けたので、複数の転動体20が保持器41に駆動力を伝達する位置を一箇所に集中することができる。そのため、軸受がラジアル荷重や、モーメント荷重を受ける場合や軸受の取付け精度が悪い場合などにより転動体に不等配が発生した場合や、保持器41の重量が大きい場合においても、全ての駆動ポケット14が同等の駆動力を与えられる可能性が高まるため、保持器41の動作が安定する。
【0052】
図5は、本発明の第4の実施形態の保持器の横断面図である。第1の実施形態と同じものは同じ番号を振り説明を省略する。
図5に示すように、本発明の第4の実施形態に係る保持器51は、円環形状の本体52に15個のポケットの中心を結ぶピッチ円上で15個のポケットの中心が等間隔になるように、3個の駆動ポケット14を等間隔で配置し、その間に12個の非駆動ポケット15を配置したものであり、駆動ポケット14と駆動ポケット14の間に4個の非駆動ポケット15が設けられる。
【0053】
第4の実施形態では、保持器51に3個の駆動ポケット14を等間隔で設けたので、転動体20が保持器51に伝達する駆動力のバランスが取れるため、特に高速回転する場合でも遠心力によるバランスを保ち、安定した高速回転ができる。
【0054】
図6は、本発明の第5の実施形態の保持器の横断面図である。第1の実施形態と同じものは同じ番号を振り説明を省略する。
図6に示すように、本発明の第5の実施形態に係る保持器61は、円環形状の本体62に16個のポケットの中心を結ぶピッチ円上で16個のポケットの中心が等間隔になるように、2個の駆動ポケット14を等間隔で配置し、その間に14個の非駆動ポケット15を配置したものであり、駆動ポケット14と駆動ポケット14の間に7個の非駆動ポケット15が設けられる。
【0055】
第5の実施形態では、保持器61に2個の駆動ポケット14を等間隔で設けたので、転動体20が保持器51に伝達する駆動力のバランスが取れるため、特に高速回転する場合でも遠心力によるバランスを保ち、安定した高速回転ができる。
【0056】
図7は、本発明の第6の実施形態の保持器の横断面図である。第1の実施形態と同じものは同じ番号を振り説明を省略する。
図7に示すように、本発明の第6の実施形態に係る保持器71は、円環形状の本体72に16個のポケットの中心を結ぶピッチ円上で16個のポケットの中心が等間隔になるようにして、2個の駆動ポケット14と残り14個の非駆動ポケット15を連続して配置したものである。
【0057】
第6の実施形態では、保持器71に2個の駆動ポケット14を連続して設けたので、複数の転動体20が保持器71に駆動力を伝達する位置を一箇所に集中することができる。そのため、軸受がラジアル荷重や、モーメント荷重を受ける場合や、軸受の取付け精度が悪い場合などにより、転動体に不等配が発生した場合においても、全ての駆動ポケット14が同等の駆動力を与えられる可能性が高まるため、保持器71の動作が安定する。
【0058】
なお、第2の実施形態から第4の実施形態では、駆動ポケット14を3個として説明し、また第5、第6の実施形態では、駆動ポケット14を2個として説明したが、駆動ポケット14の数はこれらに限定されない。本発明では、駆動ポケットの数が少ないほど効果が高まるが、サイズや素材などにより保持器の重量が大きい場合に保持器に駆動力を与える転動体が少ないと、転動体20と軌道輪との間ですべりが生じるおそれがある。そのため、駆動ポケット14は複数個設けたほうが好ましい場合もあり、4個以上設けられてもよい。