(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370069
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】まつ毛の成長を伸展するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20180730BHJP
A61K 31/59 20060101ALI20180730BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20180730BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20180730BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20180730BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
A61K8/67
A61K31/59
A61Q7/00
A61P17/14
A61K9/06
A61K9/08
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-54145(P2014-54145)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-174854(P2015-174854A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
【審査官】
松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−295628(JP,A)
【文献】
特表平06−509072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/67
A61K 9/06
A61K 9/08
A61K 31/59
A61P 17/14
A61Q 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マキサカルシトール(Maxacalcitol)を有効成分とする、まつ毛伸展剤。
【請求項2】
外用剤である、請求項1記載の剤。
【請求項3】
剤型が軟膏、クリーム、ゼリー又はローションである、請求項2記載の剤。
【請求項4】
剤型が軟膏である、請求項2又は3に記載の剤。
【請求項5】
まつ毛の生え際に塗布される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤からなる化粧用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まつ毛を伸展させるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
まつ毛は、埃などの異物が眼球に入るのを防止し眼球を守る機能を果たしているが、女性らしさや、目元をはっきりと美しく際立たせるチャームポイントとして強調する化粧の対象でもあり、長く、濃く、太くあることが望まれている。
【0003】
この目的において、従来よりまつ毛を伸ばす薬剤として、緑内障治療薬であるビマトプロスト(Bimatoprost、国内商品名:ルミガン、海外商品名:ラティース)が知られている。
【0004】
ビマトプロストは、まつ毛のヘアサイクルに働きかけ、まつ毛の「成長期」を長くするため、まつ毛が「太く」「長く」「濃く」育つと考えられているが、眼瞼が黒くなる(色素沈着する)副作用、眼の中に入ると充血する/沁みるなどの副作用、さらにはまつ毛が異常に伸びる(多毛化)副作用などがある。このため米国ではまつ毛伸展剤として認可されているが、国内では認められていない。
【0005】
また本来は緑内障治療のための眼圧低下剤であり、健常者には視力低下等の副作用を引き起こすリスクも内在している。
【0006】
それ以外には、様々な民間療法が言われているが確たるものはない。
ビタミンD化合物が脱毛症に効果があるという報告があったが(特許文献1及び2を参照)、まつ毛の成長に効果があるという報告はなかった。
【0007】
従って、確実な効果と安全性を兼ね備えたまつ毛伸展剤は存在しないのが現状であり、そのような特長を備えた新たなまつ毛伸展剤が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平11-505262号公報
【特許文献2】特表2013-501790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確実な効果と優れた安全性を兼ね備えた、新たなまつ毛伸展剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施態様は、尋常性乾癬/角化症治療剤などとして利用されている活性型ビタミンD3又はその誘導体の経皮製剤を、まつ毛の生え際に塗布し伸展させるものである。
【0011】
また、さらにα−トコフェロール、アスコルビン酸等のビタミン類、生薬などを併用してもよい。
【0012】
即ち、本発明は、以下を提供するものである。
(1) 活性型ビタミンD3又はその誘導体を有効成分とする、まつ毛伸展剤、
(2) 外用剤である、(1)記載の剤、
(3) 剤型が軟膏、クリーム、ゼリー又はローションである、(2)記載の剤、
(4) 剤型が軟膏である、(2)又は(3)記載の剤、
(5) 活性型ビタミンD3又はその誘導体が、タカルシトール(Tacalcitol)、カルシポトリオール(Calcipotriol)、マキサカルシトール(Maxacalcitol)から選ばれた少なくとも1種である、(1)〜(4)のいずれかに記載の剤、
(6) まつ毛の生え際に塗布される、(1)〜(5)のいずれかの剤、及び
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の剤からなる化粧用組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、確実な効果と優れた安全性を兼ね備えたまつ毛伸展剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】マキサカルシトール製剤又はプラセボを1ヶ月(4週)間投与後の、まつ毛伸展に対する効果を示すグラフである。
【
図2】マキサカルシトール製剤投与群において、3mm以上の伸展が認められた一例の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及び、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0016】
本発明にかかる組成物は、活性型ビタミンD3又はその誘導体を有効成分として含有する。本発明の組成物をまつ毛伸展剤という。
【0017】
本発明において有効成分として用いられる活性型ビタミンD3としては、例えばカルシトリオール(1,25−ジヒドロキシビタミンD3)、タカルシトール(1α,24(R)−ジヒドロキシビタミンD3)等を挙げることができる。また活性型ビタミンD3誘導体としては、活性型ビタミンD3様の活性を示す化合物であればよく、例えば、カルシポトリオール(1α,24(OH)2−22−エン−24−シクロプロピル−ビタミンD3)、アルファカルシドール、ファレカルシトリオール(1,25−ジヒドロキシ−26,27−ヘキサフルオロ−ビタミンD3)、マキサカルシトール(22−オキサ−1α,25−ジヒドロキシビタミンD3)等を挙げることができる。中でも、タカシトール、カルシポトリオール及びマキサカルシトールが好ましい。これらは市販品を使用することができる。例えば、タカルシトールの場合は「ボンアルファ(登録商標)ハイ軟膏」や「ボンアルファ(登録商標)ハイローション」が、カルシポトリオールの場合は「ドボネックス(登録商標)軟膏」が、マキサカルシトールの場合は「オキサロール(登録商標)軟膏」や「オキサロール(登録商標)ローション」が市販されている。活性型ビタミンD3又はその誘導体は、単独で、あるいは2つ以上の複数を組み合わせて用いることができる。
【0018】
これらの化合物は、医薬用原薬(バルク)、実験用試薬、工業原料などとして購入することもでき、当業者は化学合成方法が記載された公知文献を入手し、それに従って製造することもできる。
【0019】
さらに、本発明の組成物は、α−トコフェロールなどのトコフェロール、アスコルビン酸、レチノール等のビタミン類や生薬を含んでいてもよい。
【0020】
本発明においては、活性型ビタミンD3又はその誘導体は経皮製剤としてまつ毛の生え際に塗布される。ここで経皮製剤としては、通常経皮投与に利用される剤型であれば限定されないが、具体的には外用剤であり、さらに具体的には、軟膏、クリーム、ゼリー、ローション等を挙げることができる。また、本発明の組成物を化粧用組成物として用いることもできる、化粧用組成物としては、乳液、クリーム、ローション、オイル等が挙げられる。該化粧用組成物は、本発明のまつ毛伸展剤からなる組成物である。
【0021】
本発明の組成物は、上記の有効成分の他に、製剤分野で通常用いられている担体、基剤、添加剤等が配合されていてもよい。担体として、セルロース、糖、脂質等が挙げられ、基剤として、水、油脂、脂肪酸、ロウ、鉱物油、アルコール等が挙げられ、添加剤として、界面活性剤、乳化剤、安定化剤、増粘剤、保湿剤、防腐剤、分散剤、抗酸化剤、経皮吸収促進剤、着色剤、香料等が挙げられる。
【0022】
投与量や用法も限定されないが、通常は、すでに尋常性乾癬/角化症などの適応症において承認されている用量を基準に、一日1〜3回に分けて塗布することが好ましい。例えば、一日1〜3回、まつ毛の生え際に本発明の組成物を活性型ビタミンD3又はその誘導体量として、好ましくは1〜500μg、好ましくは10〜400μg、さらに好ましくは20〜300μg塗布すればよい。塗布は1週間以上、好ましくは2週間以上、さらに好ましくは4週間以上続ける。また、まつ毛伸展効果を望む期間塗布し続けてもよい。
【0023】
本発明の組成物を用いることにより、塗布前に比べ、まつ毛が3mm以上伸展し得る。
【実施例】
【0024】
<実験例1>
本実施例では、市販のマキサカルシトール製剤(1g中にマキサカルシトールが25μg含まれる)及びプラセボを用い、1ヶ月(4週)間投与後のまつ毛伸展に対する効果を調べた。
【0025】
(方法)
モニター10名に対し、マキサカルシトール製剤を1g分三/日で4週間塗布してもらった。ここで、「分三/日」とは、1日分の薬を1日3回に分けて適用することをいう。
【0026】
別のモニター10名に対しては、プラセボ(マキサカルシトール製剤と同一の基剤:白色ワセリン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、無水エタノールの混合物)を、同じく1g分三/日で4週間塗布してもらった。
【0027】
(結果)
表1及び
図1が示すように、まつ毛が3mm以上伸びた10名中8名、1〜3mm未満伸びた10名中1名、1mm未満の変化10名中1名に対し、プラセボ投与ではそれぞれ2名、4名、4名であった。
【0028】
【表1】
【0029】
表1及び
図1から明らかなように、マキサカルシトール製剤が、プラセボと比較し優れたまつ毛伸展作用を示すことが確認できた。またマキサカルシトール製剤投与群において副作用は認められず、優れた安全性も確認された。
【0030】
マキサカルシトール製剤投与群において、3mm以上の伸展が認められた一例の写真を
図2に示す。