(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370089
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】フラクチャリング流体
(51)【国際特許分類】
C09K 8/08 20060101AFI20180730BHJP
E21B 43/267 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
C09K8/08
E21B43/267
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-91429(P2014-91429)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2014-224254(P2014-224254A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2017年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-94708(P2013-94708)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓矩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】上田 佳宏
【審査官】
吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−070764(JP,A)
【文献】
特開昭56−018683(JP,A)
【文献】
米国特許第04038206(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0302468(US,A1)
【文献】
特開昭62−119287(JP,A)
【文献】
特開昭61−163986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 8/
C09K 3/00
E21B 43/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度調整剤を含有するフラクチャリング流体であって、前記粘度調整剤が、(A)ローカストビーンガム、(B)グアーガム及び(C)キサンタンガムとを含有し、かつ、各成分の配合割合が該(A)成分と(B)成分との合計量と該(C)成分が質量比で1:99ないし99:1の割合で含有することを特徴とするフラクチャリング流体。
【請求項2】
(A)ローカストビーンガムと(C)キサンタンガムとを質量比で1:99ないし99:1の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【請求項3】
(B)グアーガムと(C)キサンタンガムとを質量比で65:35ないし1:99の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【請求項4】
(A)ローカストビーンガム及び(B)グアーガムとの合計量と(C)キサンタンガムとを質量比で80:20ないし10:90、該(A)成分と(B)成分とを質量比で49.5:0.5ないし5:45の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載のフラクチャリング流体を坑井に注入し、フラクチャーを形成し、天然ガス成分を採取することを特徴とする坑井掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フラクチャリング流体に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、石油や天然ガスの生産量を増加させるためにこれまでの在来型化石燃料に加え、海底や湖底等の堆積層及び永久凍土下層中に存在する天然ガスハイドレート又は天然ガスオイル等からなる非在来型化石燃料を採取することがなされている。この非在来型化石燃料は在来型資源に比べてガスの流れやすさが劣る岩石に残留又は吸着した状態のため、その採取方法としては、ドリル及び掘削泥水を用いて地中を掘り、垂直・傾斜井を作る方法が挙げられるが、一坑当りの生産量を増やすことを目的として岩石内の流れやすさを改善するため、岩石中に沿って穴を通す水平坑井を用いる採取方法、さらに生産量を向上させ
るために岩石に対し、水、プロパント、酸、グアーガムやカルボキシメチルセルロース等からなる粘度調整剤、各種添加剤等からなる掘削用流体(以後、「フラクチャリング流体」ともいう)を高圧注入して地層(岩石)に圧力をかけ人工的な割れ目(フラクチャー)を作り、同時にフラクチャリング流体中に含有する砂等の各種粒子からなるプロパントでフレクチャーが閉じないように支えシェールガスやシェールオイル等の天然ガス成分の流れ出るのを促進する方法(水圧破砕)(非特許文献1、2参照)が提案されている。
【0003】
前記フラクチャリング流体にはいずれもプロパントや各種成分を均一に分散させたり、高圧力で流入させる際のプロパントの搬送性向上等をさせるために粘度調整剤が用いられている。このとき用いられる粘度調整剤としては、例えばヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロース、カラヤガム、グアーガム、いなごまめガムやアタバルシャイトやベントナイト等が挙げられる。
【0004】
このような粘度調整剤を用いたフラクチャリング流体としては、例えば、水とゲル化剤と交差結合剤と支持剤と交差結合されたゲル用の破壊剤とより構成させるもの(特許文献1参照)やグアーガム及び/又はその誘導体を含むフラクチャリング流体に2−メルカプトベンズイミダゾール化合物及び2−メルカプトベンズチアゾール化合物の中から選ばれた少なくとも一種を添加したフラクチャリング流体(特許文献2参照)、疎水性溶媒、水和性重合体、沈降防止剤及び界面活性剤を特定の割合で含有するフラクチャリング流体濃厚物(特許文献3参照)、さらには自己分解性流体と、粒径が0.1〜2.8mmの支持
材とからなり、土砂地盤の裂け目を生じさせるための粘性流体の粘度を1000cp以上とするフラクチャリング注入材料(特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
前記引用文献1のものは、粘度を維持するためにグアーガムやいなごまめガム等の水和性多糖類をゲル化剤に加え、鉛(II)、ヒ素(III)、錫(II)等の金属イオンを有する化合物を交差結合剤として用いる。近時、フラクチャーを形成することで飲料水用として利用される帯水層や河川が汚染されることが懸念されているが、その原因となる可能性があるので好ましくない。これは、フラクチャー形成時に使用させるフラクチャリング流体中に含まれる化学物質も原因であり、前記金属イオンを有する化合物もその一つである。
また、採掘に使ったフラクチャリング液体は地中に大量廃棄され、廃棄されたフラクチャリング液体中の化学物質が地層に染み込むことで発生する。また、フラクチャリング液体は熱によって分解される際に地層に染み込んでいくことが知られており、その結果、フラクチャリング流体中に含まれる成分により帯水層を含む地層や河川を汚染するリスクがあり、そのリスクは生活環境破壊等の不安を高めている。このような問題に対し、特許文献2が、また、粘性や注入性等粘度調整の面で特許文献3及び特許文献4が提案されている。
【0006】
しかしながら、各種提案で用いられているグアーガムは主に南アジアで栽培される豆科の植物であるグアーの胚乳を分離粉砕したものであり、比較的低価格で入手することができるが、天然物であるため製造量には限界がある。さらに栽培地の天候や地域環境等の変化等でその収穫量が変動することにより一定量の供給が難しい等から安定した価格を維持することができないため工業用等大量に使用する分野で使用することが難しく、また、切削汚泥やフラクチャリング流体で粘度調整成分として使用する場合、セメントや鉱物を溶解するための酸成分や地熱の影響により所望の粘度が得られない場合がある等耐溶剤性や
耐薬品等の面でいまだ満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54−21311号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開昭61−163986号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開昭63−270786号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開2012−162919号公報(特許請求の範囲その他)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Web文献:2012年10月18日 シェールガス開発で注目ドリリングケミカル(上)(化学工業日報社)<http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2012/10/18-8651.html>
【非特許文献2】Web文献:2012年10月19日 シェールガス開発で注目ドリリングケミカル(下)(化学工業日報社)<http://www.kagakukogyonippo.com/headline/2012/10/19-8668.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は従来粘度調整剤として用いられているグアーガムと同等かそれ以上の粘度特性を有し、かつ切削汚泥やフラクチャリング流体に用いる成分を選ばずしかもプロパントの均一分散や搬送性、耐熱性に優れ、しかもグアーガムに比べ安定して供給可能な粘度調整剤及びこれを用いたフラクチャリング流体を提供することをその課題とする。さらに、本発明ではグアーガムを用いる際もその配合割合を少なくすることができる粘度調整剤及びこれを用いたフラクチャリング流体を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、グアーガムを単独使用したものと比較し同等以上の粘度特性を有するとともに、耐薬品性、耐圧性、耐熱性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下
のフラクチャリング流体を提供するものである。
【0012】
(
1)粘度調整剤を含有するフラクチャリング流体であって、
前記粘度調整剤が、(A)ローカストビーンガム、(B)グアーガム及び(C)キサンタンガムとを含有し、かつ、各成分の配合割合が該(A)成分と(B)成分との合計量と該(C)成分が質量比で1:99ないし99:1の割合で含有することを特徴とするフラクチャリング流体。
【0013】
(
2)
(A)ローカストビーンガムと(C)キサンタンガムとを質量比で1:99ないし99:1の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【0014】
(
3)
(B)グアーガムと(C)キサンタンガムとを質量比で65:35ないし1:99の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【0015】
(
4)
(A)ローカストビーンガム及び(B)グアーガムとの合計量と(C)キサンタンガムとを質量比で80:20ないし10:90、該(A)成分と(B)成分とを質量比で49.5:0.5ないし5:45の割合で含有することを特徴とする請求項1記載のフラクチャリング流体。
【0016】
(
5)
(1)ないし(4)のいずれかに記載のフラクチャリング流体を坑井に注入し、フラクチャーを形成し、天然ガス成分を採取することを特徴とする坑井掘削方法。
【0017】
本発明
に用いられる粘度調整剤は(A)ローカストビーンガム
、(B)グアーガム
及び(C)キサンタンガムとを含有するものである。前記(A)成分として用いられるローカストビーンガムは、カロブの木の豆の胚乳を分離粉砕した多糖類であり、ガラクトースとマンノースを主成分とするものである。前記カロブの木の生息域は主に地中海沿岸地域及びアメリカであり、グアーのような特定地域(インド、パキスタン地方)のみに生息するものに比べると天候が収穫量に影響を及ぼす可能性が少なく、安定的に供給可能な成分である。
【0018】
次に(B)成分のグアーガムは、従来から切削用流体に用いられている成分であり、グアーガム及びその誘導体、例えばヒドロキシプロピルグアーガム、ヒドロキシエチルグアーガム、カルボキシメチルグアーガム等が挙げられる。
【0019】
次に本発明
のフラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤に
含有する(C)キサンタンガムは、トウモロコシのようなデンプンを細菌により発酵させて得られる水溶性の天然多糖類で、D‐グルコースがβ‐1,4結合した主鎖とこの主鎖のアンヒドログルコースにD‐マンノース、D‐グルクロン酸からなる側鎖が結合した構造を有する物質である。分子量200万ないし5000万程度のものが知られているが、本発明においては、いずれの分子量のものも用いることができる。このキサンタンガムはトウモロコシからなるデンプンを原料とする。トウモロコシの栽培地域はグアーガム(グアーの生息地は主にインド、パキスタン地方)に比べ世界各地に広がっているため、天候悪化が収穫量に影響を及ぼす可能性が少なく、安定的に供給可能な成分である。
【0020】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤に含有する前記各成分の配合割合は前記(A)成分と(B)成分との合計量と前記(C)成分が質量比で1:99ないし99:1である。
また、本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤を構成する各成分の組み合わせ及び配合割合としては、次のものが挙げられる。
【0021】
前記(A)ローカストビーンガムと前記(C)キサンタンガムとの配合割合が質量比で1:99ないし99:1の範囲とすることでグアーガム単独からなる粘度調整剤に比べ低粘性物の粘度を高くすることでき、しかもその粘度効果は耐熱性及び耐圧性を有するものである。また、この範囲を逸脱すると、各成分を配合する効果が見られなくなるので好ましくない。前記(A)成分と(C)成分との配合割合を1:99〜70:30の範囲とすることでフラクチャリング流体等酸含有環境下でも高い増粘性(以下、「耐薬品性」ともいう)が得られるので好ましく、さらに好ましくは1:99ないし60:40の範囲であ
る。
【0022】
次に前記(B)グアーガムと前記(C)キサンタンガムとの配合割合が質量比で65:35ないし1:99の範囲とすることで、グアーガム単独からなる粘度調整剤に比べ低粘性物の粘度を高くすることできることはもちろんのこと、耐熱性、耐圧性及び耐薬品性等の効果を得られるので好ましい。特に前記(B)成分よりも(C)成分の配合割合を多くするのが好ましく、60:40〜5:95、より好ましくは35:65〜10:90の範囲である。
【0023】
また、他の粘度調整剤としては前記(A)ローカストビーンガム及び(B)グアーガムとの合計量(以下、「(A)+(B)成分」ともいう)と(C)キサンタンガムとの配合割合を質量比で80:20ないし10:90、前記(A)成分と(B)成分との配合割合を質量比で49.5:0.5ないし5:45の範囲とするものが挙げられる。各成分の配合割合をこのような範囲にすることで、前記した粘度調整剤に比べ耐薬品性に優れる粘度調整が得られるので好ましく、特に好ましくは前記(A)+(B)成分と(C)成分とを質量比で70:30ないし20:80、前記(A)成分と(B)成分とを質量比で49:1ないし20:30の範囲、さらに好ましくは前記(A)+(B)成分と(C)成分とを質量比で70:30ないし25:75、前記(A)成分と(B)成分とを質量比で49:1ないし20:30の範囲となるように配合するのが特に好ましい。
【0024】
また、本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は、少ない使用量で低粘性物質に高い粘度、例えば10000mPa・s以上の粘度を付与し得ることが特徴である。そのような物性を得るためには、例えば温度75℃のイオン交換水100gに試料0.5gを溶解し、60分間撹拌後、25℃まで冷却して試験液を調製し、24時間後にB型粘度計(東京計器社製、No.4又はNo.3ローターを用い、回転速度6rpm、1分間測定)で測定したときの粘度が10000mPa・s(6rpm)以上になるように、前記各成分の配合割合を調整するのが有利である。
【0025】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は、前記(A)ないし(C)成分を均一に混合又は水等の溶媒に分散・混合することにより調製することができるが、粘度調整性や耐薬品性、耐熱性及び耐圧性等に影響のない範囲で所望により増粘補助剤等を用いることができる。この増粘補助剤としては、ペクチン、アラビアガム、デンプン、酸化デンプン及び酵素分解デンプン等の各種デンプン類等が挙げられるが、供給面や価格面からデンプン類が好ましい。また、フラクチャリング流体等では酸化デンプンを用いるのが好ましい。この増粘補助剤の配合割合は、得ようとする増粘効果により適宜選択すればよいが、通常、前記(A)〜(C)成分と増粘補助剤の合計量100質量部に対し、増粘補助剤は65質量部以下とすることで、グアーガム単独からなる粘度調整剤に比べ低粘性物質を十分増粘させることができるが、好ましくは50質量部以下である。
【0026】
次に本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤を用いて低粘性物質の粘度をコントロール方法について説明する。本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤を低粘性物質に対し、0.01質量%〜1質量%の範囲で添加し、加熱しながらよく撹拌し、均一に分散させることで、従来のグアーガムを単独で用いる粘度調整剤に比べ、高い増粘効果が得られる。この粘度調整剤の配合量は前記配合割合に限定されるものではなく、低粘性物質の物性や用いられている成分、得ようとする粘度等により適宜配合割合を選択することができる。また、前記低粘性物質としては、室温において液状又はペースト状の形態をとるものが挙げられる。また、このようなものの中には液状工業製品も含まれるが、水系であることが望ましい。
【0027】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は低粘性物質を増粘させることが可能であり、しかも低粘性物質の耐薬品性、耐圧性及び耐熱性が向上するということからフラクチャリング流体に用いることが好ましい。
【0028】
本発明のフラクチャリング流体はシェールガスやシェールオイル等の非在来型化石燃料を採掘する際、フラクチャリングを行うために加圧して坑井に送り込む流体である。このフラクチャリング流体を調製する場合を例にとり、本発明のフラクチャリング流体について説明する。フラクチャリング流体の一般的な成分としては、水、セメントや鉱物を溶解するための酸、砂等の各種粒子等からなるプロパント、殺生物剤、ブレーカー、腐食防止剤、架橋剤、摩擦低減剤、粘度調整剤、鉄分制御剤、ブライン(粘土の膨潤防止剤)、脱酸剤、pH調整剤、スケール防止剤、界面活性剤等が挙げられる。前記成分としては、水がもっとも配合割合が多く、約90質量%以上、次いで多いのはプロパントで1%以上、その他の成分は岩盤等の性質に応じ適宜選択されるものであるが、本発明では従来から用いられているグアーガムと同程度の量、例えば粘度調整成分として0.01〜30質量%程度を配合することにより、プロパントの均一分散や搬送性、耐薬品性及び耐熱性にすぐれたフラクチャリング液体を得ることができるが、帯水層や河川等の汚染防止等環境への負荷低減のため粘度調整剤を好ましくは0.01〜1質量%、特に好ましくは0.01〜0.6質量%の範囲とするのがよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は低粘性物質に含まれる各種成分に影響されることが少ないため、少量で安定した増粘効果を得ることができる。
【0030】
また、これまで使用実績があるグアーガムをその価格高騰等に起因する供給不安等がない状態、即ちこれまでの使用量よりも少ない量で使用、又はまったく使用しない粘度調整剤であるため、非在来型化石燃料の採掘等大量に使用する分野においても安定的に使用することが可能である。
【0031】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は、前記したとおりその使用量を従来の増粘剤(グアーガム)に比べ、少ない量で同等の増粘効果を得ることができるので、粘度調整された低粘性物質は、多糖類由来の異臭等の発生を抑制できるため、異臭等に起因する不快感等、使用環境に悪影響を与えないものである。
【0032】
粘度調整剤をフラクチャリング流体に使用した場合に、グアーガムの場合と同等又はそれ以上の粘度特性を有するとともにプロパントの均一分散や搬送性、耐薬品性、耐圧性及び耐熱性等に優れるため、シェールガスやシェールオイル等を効率的に採取することができ、しかも、粘度調整剤に起因する環境負荷を低減できるので、帯水層や河川等を汚染する可能性を低減することも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0034】
(1)耐薬品性(mPa・s)
表1に示す各成分からなるフラクチャリング流体に粘度調整剤を0.1質量%添加後、30分間スターラー(アズワン社製、MULTI MAGNETIC STIRRERHSD−6)で撹拌・溶解しサンプルを得た。このサンプルの25℃でのB型粘度(常温)を測定後、サンプルを90℃で30分間加熱し、サンプルが25℃になった状態でB型粘度(加熱後冷却)を測定した。このときのB型粘度の測定方法は次のとおりである。
B型粘度計:東京計器社製
ローター:No.1
回転速度:60rpm
測定時間:1分間
【0035】
【表1】
【0036】
(2)耐熱性・耐圧性(mPa・s)
17℃〜20℃の市水に粘度調整剤を0.5質量%の濃度になるように添加し30分間撹拌・溶解しサンプルを得た。このサンプルをオートクレーブ(トミー精工社製、HIGH−PRESSURE STEAM STERILZER ES−315)を用い、加熱上昇とともに圧力をかけ、121℃・1.7kgf/cm2に達した後、60分間加熱した。熱がさめると同時に圧力が下がり、自然に下がりきるまで放置した。その後、サンプルを取出し恒温水槽で25℃に安定させた状態で、B型粘度を測定した。
B型粘度計:東京計器社製
ローター:No.1及びNo.2
回転速度:60rpm
測定時間:1分間
【0037】
(3)市水条件粘度(mPa・s)
17℃〜20℃の市水に粘度調整剤を0.1質量%の濃度になるように添加し30分間撹拌・溶解しサンプルを得た。このサンプルを25℃となるように調整後、B型粘度を測定した。このときのB型粘度の測定方法は次のとおりである。
B型粘度計:東京計器社製
ローター:No.1
回転速度:60rpm
測定時間:1分間
参考例1
【0038】
(A)ローカストビーンガム2gと(C)キサンタンガム98gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。
このものの物性を表2に示す。
参考例2
【0039】
(A)ローカストビーンガム50gと(C)キサンタンガム50gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
参考例3
【0040】
(A)ローカストビーンガム98gと(C)キサンタンガム2gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。
このものの物性を表2に示す。
参考例4
【0041】
(B)グアーガム60gと(C)キサンタンガム40gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
参考例5
【0042】
(B)グアーガム50gと(C)キサンタンガム50gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
参考例6
【0043】
(B)グアーガム35gと(C)キサンタンガム65gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
参考例7
【0044】
(B)グアーガム20gと(C)キサンタンガム80gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
参考例8
【0045】
(B)グアーガム10gと(C)キサンタンガム90gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表2に示す。
【0046】
【表2】
実施例1
【0047】
(A)ローカストビーンガム39.2g、(B)グアーガム0.8g及び(C)キサンタンガム60gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例2
【0048】
(A)ローカストビーンガム36g、(B)グアーガム4g及び(C)キサンタンガム60gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例3
【0049】
(A)ローカストビーンガム28g、(B)グアーガム12g及び(C)キサンタンガム60gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例4
【0050】
(A)ローカストビーンガム24g、(B)グアーガム16g及び(C)キサンタンガム60gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例5
【0051】
(A)ローカストビーンガム16g、(B)グアーガム24g及び(C)キサンタンガム60gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例6
【0052】
(A)ローカストビーンガム38.5g、(B)グアーガム16.5g及び(C)キサンタンガム45gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例7
【0053】
(A)ローカストビーンガム31.5g、(B)グアーガム13.5g及び(C)キサンタンガム55gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例8
【0054】
(A)ローカストビーンガム24.5g、(B)グアーガム10.5g及び(C)キサンタンガム65gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
実施例9
【0055】
(A)ローカストビーンガム17.5g、(B)グアーガム7.5g及び(C)キサンタンガム75gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表3に示す。
【0056】
【表3】
実施例10
【0057】
(A)ローカストビーンガム49g、(B)グアーガム1g及び(C)キサンタンガム50gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例11
【0058】
(A)ローカストビーンガム45g、(B)グアーガム5g及び(C)キサンタンガム50gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例12
【0059】
(A)ローカストビーンガム40g、(B)グアーガム10g及び(C)キサンタンガム50gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例13
【0060】
(A)ローカストビーンガム35g、(B)グアーガム15g及び(C)キサンタンガム50gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例14
【0061】
(A)ローカストビーンガム10g、(B)グアーガム40g及び(C)キサンタンガム50gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例15
【0062】
(A)ローカストビーンガム24g、(B)グアーガム6g及び(C)キサンタンガム70gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
実施例16
【0063】
(A)ローカストビーンガム56g、(B)グアーガム14g及び(C)キサンタンガム30gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表4に示す。
【0064】
【表4】
参考例9
【0065】
(A)ローカストビーンガム1gと(C)キサンタンガム49g及び酸化デンプン(王子コーンスターチ社製、製品名:エースB)50gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表5に示す。
参考例10
【0066】
(B)グアーガム10gと(C)キサンタンガム40g及び酸化デンプン(王子コーンスターチ社製、製品名:エースB)50gとをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表5に示す。
比較例1
【0067】
グアーガム100gをアイボーイ広口びん(250ml用)に入れ、ハンドシェイクにより15分間混合し、粘度調整剤を得た。このものの物性を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
この表から、本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は比較例1のグアーガム単独からなる粘度調整剤を用いたものと比較して、酸含有環境下で高い増粘効果が得られていることから、耐薬品性が高いことがわかる。また、本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤は耐熱・耐圧の条件下でも、高い増粘効果が得られていることから、使用される対象物、例えば、低粘性物質の物性や構成材料、使用環境に影響されることなく、安定的に粘度が得られるものであることが推察される。
【0070】
参考例1〜
参考例3、
参考例4〜
参考例8、実施例
6〜
9、実施例
15、
16の結果から粘度調整剤成分としてキサンタンガムの配合割合を高くすることで、耐薬品性が向上することがわかる。さらに、実施例
1〜
5、実施例
10〜
14のローカストビーンガム、グアーガム及びキサンタンガムの組み合わせにおいては、グアーガムに対し、ローカストビーンガムの配合割合を高くすることで、耐熱性・耐圧性が向上することがわかる。
このことからグアーガムを用いる場合でも、その使用量は少なくでき、結果、グアーガムの供給不安等に対しても問題ないレベルで粘度調整剤を提供できることが推察される。
【0071】
参考例1〜
参考例3の結果からローカストビーンガムとキサンタンガムとを組み合わせることにより耐熱性・耐圧性が向上することがわかる。また、
参考例4〜
参考例8の結果から、グアーガムとキサンタンガムの組み合わせによっても、耐熱性・耐圧性が向上することがわかる。これらの組み合わせにおいては、特にフラクチャリング流体に用いることで、坑井へ注入する際や、フラクチャー形成時の地熱等高温環境下でも粘度を維持できるので、これまで以上に効果的にフラクチャーを形成することが可能となることが推察される。特に実施例
1〜実施例
16のローカストビーンガム、グアーガム及びキサンタンガム
の組み合わせにおいては、耐熱性・耐圧性及び耐薬品性が非常に高くなっていることから、高圧力下や高温化で用いる際にその性能を発揮できるフラクチャリング流体を含む低粘性物質を調整可能であることが推察できる。
【0072】
参考例9及び
参考例10のものは各々
参考例1及び
参考例7に粘度調整助剤としてデンプンを配合したものであるが、これらのものもすべて比較例1よりも優れた増粘効果が得られており、これらの粘度調整剤を用いることにより容易に低粘性物質を増粘させることができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤、
本発明のフラクチャリング流体及び坑井掘削方法は、粘度調整剤の構成成分としてグアーガムを含有する場合でも従来の使用量よりも少ない量とすることができるので、安定して粘度調整剤を提供することができる。また、グアーガム単独からなる粘度調整剤と同等かそれ以上の粘度特性を有し、しかも耐薬品性、耐熱性及び耐圧性を有するため、増粘させる対象物の物性、例えば、低粘性物質の物性や構成、使用環境を選ばず、例えば低粘性物質として切削汚泥やフラクチャリング流体等に用いてもプロパントの均一分散や搬送性、耐熱性に優れ、また熱によって分解される際に地層に染み込んでいくことが知られており、その結果、フラクチャリング流体中に含まれる成分により帯水層を含む地層や河川を汚染するリスクを低減することができる。そのため本発明の
フラクチャリング流体に用いられる粘度調整剤、
本発明のフラクチャリング流体及び坑井掘削方法は、工業分野、特にガスやオイルの掘削工程に極めて有効なものである。