(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370094
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】肌の黄ばみを抑制するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20180730BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20180730BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20180730BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20180730BHJP
A61K 31/11 20060101ALI20180730BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20180730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/35
A61Q19/02
A61K31/195
A61K31/11
A61P17/00
A61P43/00 105
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-95644(P2014-95644)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-237631(P2014-237631A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-98854(P2013-98854)
(32)【優先日】2013年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【弁理士】
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100164460
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】松尾 健
【審査官】
松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−182655(JP,A)
【文献】
特開2005−247786(JP,A)
【文献】
特開2012−193174(JP,A)
【文献】
特表2000−509364(JP,A)
【文献】
特開2004−035424(JP,A)
【文献】
特開2012−211130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00− 90/00
A61K 31/11
A61K 31/195
A61P 17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、皮膚に適用される組成物。
【請求項2】
トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、AGEs生成抑制用組成物。
【請求項3】
トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、皮膚褐変化又は肌の透明度低下抑制用組成物。
【請求項4】
製剤が外用又は経口投与用である、請求項2〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の黄ばみ、くすみを抑制する組成物に関する。より詳細には、メイラード反応によって生成したAGEs(Advanced Glycation End Products)の蓄積に起因する、皮膚褐変や肌透明度低下を抑制する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ糖などの還元糖は、タンパク質との間でメイラード反応(糖化反応)が起り、糖化産物が生成することは食品等の褐変現象として古くからよく知られているものであるが、生体内でも、特に糖尿病などで高血糖状態が続いたり、加齢により分解反応が進行し難くなると、タンパク質の糖化反応が起こり、糖化産物の生成に傾くため、タンパク質の機能が損なわれたり、糖化産物が蓄積したりすることがある。このメイラード反応による糖化産物は最終的に終末糖化産物(Advanced Glycation End Products;以下、AGEsと略することもある)となる。AGEsの生成は不可逆反応であるが、生成したAGEsは代謝によって体外へ排出される。しかし、加齢等により代謝速度が遅くなると、生体内の各組織にさらに蓄積されやすくなってくる(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
皮膚のAGEsは真皮に存在しており、皮膚の弾力低下及び黄色化の原因であることが報告され、また近年では、角層にもAGEsが存在することが報告され、ヒト角層AGEsと肌状態との関連性が指摘されている。(例えば、非特許文献1参照)
これらのことから、AGEsの生成を予防又は抑制することは極めて重要であると言える
【0004】
これまでに、皮膚におけるAGEs生成抑制成分の探索を目的に、植物抽出物が試験されたことが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
一方、抗プラスミン剤であるトラネキサム酸は、1)止血作用、2)抗アレルギー作用、3)抗炎症作用が知られている薬剤である(例えば、非特許文献2参照)。また、トラネキサム酸は消炎剤として化粧品に配合されており(例えば、特許文献4参照)、また、内服のトラネキサム酸含有組成物は、しみ(肝斑に限る)に対する効能を有する一般用医薬品として供されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
また、トラネキサム酸のメイラード反応抑制作用、ひいては、皮膚褐変化、肌透明度低下、糖尿病性白内障、糖尿病性血管障害又は糖尿病性腎機能障害の予防又は抑制作用についても知られている(例えば、特許文献5)。
【0007】
バニリンは、バニラの香りの主要な成分として知られており、着香剤や香料として使用されている。また、バニリンは、皮膚を美白化する作用が知られている(特許文献6参照)。しかしながら、バニリンのメイラード反応抑制作用やAGEs抑制作用についての報告はない。
【0008】
また、トラネキサム酸とバニリンを組み合わせた組成物も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−248148号公報
【特許文献2】特開2004−035424号公報
【特許文献3】特開2003−212749号公報
【特許文献4】特開平04−036215号公報
【特許文献5】特開2012−193174号公報
【特許文献6】特表2000−511910号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】フレグランスジャーナル 40巻 9号 57−62頁 2012年
【非特許文献2】2009年版 医療用医薬品集 JAPIC 2008
【非特許文献3】日本医薬品集 一般薬2010−11 じほう 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、内服でも外用でも有効かつ安全な生体内メイラード反応を抑制する組成物を提供し、皮膚の黄ばみやくすみを抑制する組成物を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために長年にわたり研究を重ねた結果、トラネキサム酸又はその塩とバニリンとを組み合わせることによって、顕著にメイラード反応が抑制されることを見出した。
【0013】
上記知見に基づき、トラネキサム酸及びバニリンを有効成分とする生体内メイラード反応に起因する、黄ばみ・くすみ等の、皮膚褐変化や肌透明度低下の有効な予防又は改善剤となることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、組成物。
(2)トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、AGEs生成抑制用組成物。
(3)トラネキサム酸又はその塩及びバニリンを含有する、皮膚褐変化又は肌の透明度低下抑制用組成物。
(4)製剤が外用又は経口投与用である、(1)〜(3)のいずれか1に記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の組成物は、生体内においてメイラード反応を抑制し、皮膚褐変化、肌透明度低下を予防又は改善することができ、しかも、安全である。さらに、経口投与でも外用でも有効なため、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】トラネキサム酸、バニリンのそれぞれ単独、及び、トラネキサム酸とバニリンの併用によるAGEs生成の抑制作用を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるトラネキサム酸は、[トランス−4−(アミノメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸]を意味し、第16改正日本薬局方に収載されている。トラネキサム酸としては、フリー体又はトラネキサム酸の塩を用いてもよい。トラネキサム酸の「塩」としては、酸付加塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩やアミン塩、或いはアミノ酸との塩を挙げることができる。
本発明におけるトラネキサム酸の塩の具体例としては、例えば、フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩等のハロゲン化水素酸塩類;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩類;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩等の低級アルカンスルホン酸塩類;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のアリールスルホン酸塩類;酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等の有機酸塩類;
ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩類;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩類;N−メチルモルホリン塩、トリエチルアミン塩、トリブチルアミン塩、ジイソプロピルエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチルピペリジン塩、ピリジン塩、4−ピロリジノピリジン塩、ピコリン塩等の有機アミン塩類;及び、
グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸との塩類類;を挙げることができる。本発明におけるトラネキサム酸又はその塩としては、トラネキサム酸が好ましい。
【0018】
本発明におけるバニリンは、医薬品添加物事典2005に記載されており、市販のものを利用することが可能であるほか、バニラビーンズ等の天然物から抽出したり、公知の方法で化学的に合成してもよく、容易に入手することができる。
【0019】
本発明の組成物は、医薬品、医薬部外品又は化粧料として使用される。本発明の投与経路は、経口及び経皮のいずれでもよい。
【0020】
本発明の剤形は特に限定されないが、皮膚等に適用される外用剤の場合は、例えば、ローション、乳液等の液剤、クリーム、ゲル、又は軟膏等の半固形製剤、或いは、テープ、パッチ、パップ等の貼付剤が挙げられる。また、経口投与製剤の場合には、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等が挙げられる。
【0021】
本発明の組成物が外用剤の場合、トラネキサム酸又はその塩の配合量としては、製剤全体の総量を基準として、0.01〜10%が好ましく、0.1〜3%がより好ましく、0.5〜2%がさらに好ましい。また、バニリンの配合量としては、製剤全体の総量を基準として0.001〜10%が好ましく、0.01〜2%がより好ましい。
本発明の組成物が経口投与用製剤の場合、トラネキサム酸又はその塩の配合量としては、1日当たりの投与量として、50〜3000mgが好ましく、400〜2000mgがより好ましく、750〜1500mgがさらに好ましい。また、バニリンの配合量としては、0.01〜300mgが好ましく、0.1〜100mgがより好ましい。
【0022】
本発明の生体内メイラード反応抑制剤は、本発明の効果を損なわない限り、トラネキサム酸又はその塩及びバニリンに加えて、他の薬効成分である美白剤、抗炎症剤、抗酸化剤等を配合することができる。また、製剤用の成分として基剤、香料、防腐剤、保存剤、保湿剤、界面活性剤、潤沢剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、pH調節剤、矯味剤、香料等、一般に許容されている医薬又は化粧品添加剤成分を併せて配合することができる。
【0023】
本発明を医薬品、医薬部外品又は化粧料として用いるための製剤は、第16改正日本薬局方製剤総則に記載の方法や、通常用いられている公知の化粧料の製造方法に準じて製造することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
製剤例1(ローション)
(A)POE(30)POP(6)デシルテトラデシルエーテル(0.6g)、バニリン (0.1g)、防腐剤(適量)、エタノール(10.0g)を混合した。
(B)トラネキサム酸(2.0g)、クエン酸ナトリウム(0.1g)、ピロリドンカル ボン酸(1.0g)、1,3−ブチレングリコール(5.0g)を混合し、精製水 でAとBとの全量を100gとした。
A、Bを各々50℃で加温溶解し、BをAに攪拌しながら添加した。混合液を攪拌しながら冷却し、30℃で攪拌を止め、放置した。
【0026】
製剤例2(乳液)
(C)バニリン(1.0g)、ニコムルス(登録商標)(日光ケミカルズ(株)社製) (41 2.0g)、スクワラン(10.0g)、防腐剤(適量)を混合した。
(D)カルボキシビニルポリマー(0.1g)、キサンタンガム(0.2g)、精製水 (10.0g)を混合した。
(E)トラネキサム酸(15.0g)、トリエタノールアミン(0.1g)、1,3−ブ チレングリコール(5.0g)、精製水(4.9g)を混合した。
(F)ヒアルロン酸ナトリウム(2.0g)、精製水(3.0g)を混合し、さらに精製 水でC〜Fの全量を100gとした。
C〜Fを、各々80℃で加温し均一に混合した。Cを攪拌しながらD、Eを加えた。攪拌しながら冷却し、50℃以下でFを加え、35〜30℃で攪拌を止め、放置した。
【0027】
製剤例3(液剤)
トラネキサム酸(15g)、バニリン(1.0g)、果糖ブドウ糖液糖(100g)、pH調整剤(適量)、を混合し、精製水で全量1000gの液剤を調製した。
【0028】
製剤例4(錠剤)
トラネキサム酸(15g)、バニリン(5.0g)、乳糖(350g)、結晶セルロース(100g)を投入・混合し、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧して造粒顆粒を調製した。造粒顆粒(49.5g)にステアリン酸マグネシウム(0.5g)を混合・打錠して裸錠を調製した。
【0029】
製剤例5(散剤)
トラネキサム酸(15g)、バニリン(0.25g)、乳糖(350g)、結晶セルロース(100g)を投入・混合し、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧して散剤を調製した。
【0030】
試験例1(蛍光性AGEs生成阻害活性)
(サンプル溶液の調製)
トラネキサム酸(第一ファインケミカル社製)及びバニリン(和光純薬社製)を、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)で希釈し、それぞれ、0.1 mg/mL(最終濃度)のサンプル溶液とした。
【0031】
(アルブミン溶液の調製)
ヒト血清アルブミン(シグマアルドリッチ社製)を1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、24mg/mLのアルブミン溶液を調製した。
【0032】
(グルコース溶液の調製)
グルコース(和光純薬社製)を1/15Mリン酸緩衝液(pH7.2)に溶解し、0.6Mのグルコース溶液を調製した。
【0033】
(被験溶液の調製、励起光照射と蛍光測定)
1.5mLチューブ中、サンプル溶液群150μL、グルコース溶液150μL、アルブミン溶液150μLを混合し、60℃で40時間保持して被験溶液を調製した。
そして、その被験溶液に370nmの励起光を照射し、生じる440nmの蛍光を測定した。この測定で得られた結果を測定値Aとする。
【0034】
(blankの調製、励起光照射と蛍光測定)
被験溶液blankの調製は以下のように行った。1.5mLチューブ中でサンプル溶液群150μL、グルコース溶液150μLを混合し、60℃で40時間保持した後、アルブミン溶液150μLを混合した。そして、その試験液に370nmの励起光を照射し、生じる440nmの蛍光を測定した。この測定で得られた結果を測定値Bとする。
蛍光性AGEsの生成量を下記の式(1)により得られる蛍光量として算出した。
【0035】
【数1】
【0036】
(試験結果)
試験結果は、トラネキサム酸及びバニリンの濃度が0におけるAGEs生成量を100(コントロール)として比で示した。
(
図1)より、トラネキサム酸とバニリンを併用することで、それぞれの薬物を単独で使用した場合と比較して、AGEsの生成量を抑制し、ひいては、生体のメイラード反応を抑制することが判った。以上の結果から、トラネキサム酸とバニリンを併用した組成物は生体内メイラード反応抑制剤として好適であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の組成物は、皮膚褐変化、肌透明度低下を予防又は改善することができ、しかも、安全であり、かつ経口投与でも外用でも有効なため、極めて有用である。さらに、経口投与用製剤でも外用剤であってもよく、医薬品、医薬部外品又は化粧料として利用可能である。