【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果最適展開支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(容量型ガスセンサの構成例)
本発明に係る容量型ガスセンサの例として、水の吸着量により誘電率が変化する感応膜(感湿膜)を使用した湿度センサの例について説明する。
図1(a)、(b)、(c)は、湿度センサとして作製したサンプルの構成を示す断面図である。
図1(a)に示す湿度センサ10は、基板12上に、第1の電極層14と感応膜16と第2の電極層18とを、この順に積層した構成を備える。第2の電極層18は感応膜16を厚さ方向に挟んで第1の電極層14と対向して配置する。
【0013】
基板12上には、第1の電極層14と第2の電極層18を容量計に接続するための電極が設けられる。接続パッド15は、第1の電極層14を形成する工程において、感応膜16の外縁位置に合わせて形成される。感応膜16の上面を被覆する第2の電極層18は感応膜16の側面から接続パッド15上まで接続部18aが延出し、第2の電極層18と接続パッド15とが電気的に接続する。
第1の電極層14の接続パッド(不図示)は、接続パッド15とは独立に、感応膜16の他の側面から外方に延出するように形成される。
【0014】
図1(a)の湿度センサ10では、第2の電極層18は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を導電材として含む導電層からなるもので、第2の電極層18は転写法によって形成されている。第2の電極層18の厚さは100nm〜数μm程度の厚さに設定される。
【0015】
図1(b)に示す湿度センサ20は、SWCNTを導電材として塗布法により第2の電極層22を形成したものである。第1の電極層14、感応膜16の構成は
図1(a)に示す湿度センサ16と同様である。
第2の電極層22は、数μm程度の厚さに形成される。
図1(b)で第2の電極層22の厚さを、
図1(a)の第2の電極層18よりも厚く表現しているのは、第2の電極層18とくらべて第2の電極層22の膜厚がはるかに厚いことを意味する。
第2の電極層22は側縁部22aで接続パッド15と電気的に接続する。第1の電極層14の接続パッドは、接続パッド15とは独立に第1の電極層14から引き出される。
【0016】
図1(c)は、比較例として、金薄膜を導電層とした第2の電極層32を備える湿度センサ30の例である。この湿度センサ30も、第1の電極層14、接続パッド15、感応膜16の構成は上述した湿度センサ10、20と変わらない。第2の電極層32は、たとえば、金を蒸着して形成することができる。実験で使用した湿度センサ30の第2の電極層32の厚さは20nmである。第2の電極層32の接続部32aが接続パッド15と電気的に接続する。
【0017】
実験では、基板12にガラス基板を使用し、第1の電極層14、接続パッド15には透明電極(ITO、厚さ150nm)を使用し、感応膜16には、フッ素化ポリイミド膜(厚さ1.4μm)を使用した。フッ素化ポリイミドは、フッ素を含有するポリイミドで、具体的には、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロプロパン基を含有するポリイミドが挙げられる。フッ素化ポリイミドは、ポリイミドの有する親水性と、フッ素の有する疎水性を備えることから、周囲の湿度に応じて、水分を迅速に吸収、離脱させることができ、応答特性に優れるという利点がある。
感応膜16は薄いほど湿度検知の感度が向上する。ただし、薄くすると膜強度が低下するから、用途に応じて適宜厚さを設定する。感応膜16の厚さとしては10nm〜100μm程度の範囲で決めればよい。
基板12には、ガラス基板の他にシリコン基板、樹脂製のフレキシブル基板等の基板が使用できる。
【0018】
(容量型ガスセンサの作製方法)
図2は、基板12上に第1の電極層14と感応膜16とを形成するまでの製造工程を示す。
まず、基板12の表面に透明電極14aが形成された透明電極付きのガラス基板を用意する(
図2(a))。使用した透明電極付きのガラス基板の透明電極(ITO)14aの厚さは150nmである。透明電極付きのガラス基板のかわりに、シリコン基板、樹脂基板等の任意の基板に、任意の成膜方法により導電層を形成したものを使用することができる。
【0019】
図2(b)は、基板12上の透明電極14aを混酸を用いてエッチングし、第1の電極層14と接続パッド15を形成した状態である。第1の電極層14と接続パッド15はレジストを用いてエッチングすることにより、任意のパターンに形成することができる。本実施形態では第1の電極層14の幅を4mm、実効面積16mmとした。第1の電極層14が湿度のセンシングに寄与する部位である。
第1の電極層14と接続パッド15とを形成した後、シランカップリング剤を用いて表面処理する。表面処理を施すことにより、後工程で基板12上に形成する感応膜16と基板12との密着性を良好にすることができる。
【0020】
次に、第1の電極層14と接続パッド15とを形成した基板12上に、フッ素化ポリイミドの前駆体を平坦状に塗布し、フッ素化ポリイミドの前駆体からなる前駆体被覆膜16aを形成する。感応膜16の厚さは前駆体被覆膜16aの厚さに依存するから、形成しようとする感応膜16の厚さに合わせて前駆体被覆膜16aの厚さを調整する。次いで、前駆体被覆膜16aをプリベイクする(
図2(c))。プリベイク温度(100〜200℃)は、前駆体被覆膜16aの溶剤を飛散させ、前駆体被覆膜16aをイミド化しない温度に設定する。
次に、プラズマエッチングにより、接続パッド15を被覆している部位の前駆体被覆膜16aを除去し、接続パッド15を露出させる(
図2(d))。前駆体被覆膜16aは、第1の電極層14にくらべて広い範囲を被覆するように設定している。
こうして、基板12上に、所定のパターンで、第1の電極層14、接続パッド15、前駆体被覆膜16aが形成される。
【0021】
図1(a)、(b)、(c)に示す湿度センサ10、20、30は、
図2(d)の工程後、ナノカーボン材を転写する方法、ナノカーボン材を塗布する方法、金を蒸着する方法により作製する。以下、各湿度センサの製法について説明する。
図3は、転写法による湿度センサ10の製造工程を示す。
まず、第2の電極層18の転写に使用するスタンパ40に、転写のための処理を施す。スタンパ40は、第2の電極層18の平面パターンに合わせて、基板42上に凸版44を形成したものである。凸版44には柔軟性を有し、転写操作における離型性の良いPDMSを使用する。
スタンパ40の転写面に、MWCNTとSWCNTを分散剤(アルコール液)に分散させたナノカーボン分散液18bを塗布(供給)し、次いで、フッ素化ポリイミドの前駆体16bを塗布する。フッ素化ポリイミドの前駆体16bをスタンパ40に供給する理由は、感応膜16とナノカーボン材料との密着性を良好にするためである。
図3(a)は、スタンパ40の凸版44にナノカーボン分散液18bと、フッ素化ポリイミドの前駆体16bを供給した状態を示す。
【0022】
図3(b)は、転写面にナノカーボン分散液18bとフッ素化ポリイミドの前駆体16bを供給したスタンパ40を、基板12上に形成した第1の電極層14、接続パッド15、前駆体被覆膜16aに位置合わせして、基板12に押圧している状態である。スタンパ40を基板12に加圧することにより、スタンパ40からナノカーボン分散液18bとフッ素化ポリイミドの前駆体16bが基板12に転写される。
【0023】
図3(c)は、基板12に、フッ素化ポリイミドの前駆体16bとMWCNTとSWCNTを導電材とする第2の電極層18が転写された状態である。
転写後、基板12全体を、窒素雰囲気中で、350℃、1時間、加熱キュアし、前駆体被覆膜16aとフッ素化ポリイミドの前駆体16bをイミド化し、感応膜16とする。こうして、基板12上に第1の電極層14、感応膜16、第2の電極層18を備える湿度センサ10が形成される(
図3(d))。
【0024】
図3に示す製造工程では、基板12上の前駆体被覆膜16aと、スタンパ40から転写されたフッ素化ポリイミドの前駆体16bとが加熱キュアにより一体化して感応膜16が形成される。同時に、網目状に絡み合った形態のMWCNT、SWCNTからなる導電層にフッ素化ポリイミドの前駆体16bが浸み込んで転写されることで、感応膜16と第2の電極層18とが一体化され、第2の電極層18と感応膜16とが密着した状態になる。
第2の電極層18と感応膜16とが一体的に形成されることにより、第2の電極層18が感応膜16から剥離することを防止するとともに、感応膜16へのガス(水分)の進入、抜け出しが良好になってセンサの感度が向上する。
【0025】
転写法により第2の電極層18を形成する方法においては、スタンパ40に供給するナノカーボン分散液18b中のナノカーボン材の濃度を調整して導電層の厚さを制御することができる。また、転写操作を複数回繰り返すことによって、第2の電極層18の厚さを調整することができる。
スタンパ40にナノカーボン分散液18bを供給し、次いでフッ素化ポリイミドの前駆体16bを供給して転写する方法は、スタンパ40の転写面側にナノカーボン材が接触し、ナノカーボン材とスタンパ40との離型性が良いことから、ナノカーボン材とフッ素化ポリイミドの前駆体を混合してスタンパに供給して転写する方法と比較して、スタンパからの転写性が良くなるという利点がある。
【0026】
塗布方法により第2の電極層22を形成する湿度センサ20(
図1(b))では、第1の電極層14と前駆体被覆膜16aを形成した
図2(d)に示す基板の表面に、SWCNTを分散液に分散させたナノカーボン分散液を塗布し、窒素雰囲気中で、350℃、1時間、加熱キュアして作製する。加熱キュア工程により、
図2(d)の基板12上の前駆体被覆膜16aがイミド化されて感応膜16が形成され、ナノカーボン分散液の溶剤が除去されてSWCNTからなる第2の電極層22が形成される。
【0027】
この製法によって形成した湿度センサ20も、前駆体被覆膜16aにナノカーボン分散液18bを供給し、前駆体被覆膜16aとナノカーボン分散液18bとを同時に加熱キュアすることにより、前駆体被覆膜16aとナノカーボン材との密着性が向上し、イミド化した状態で感応膜16と第2の電極層22とが剥離しにくくなる。
塗布法による場合も、ナノカーボン材の分散液を繰り返して塗布することにより、第2の電極層22の厚さを調整することができる。
【0028】
上述した転写法または塗布法により湿度センサを作製する方法では、基板12にフッ素化ポリイミドの前駆体を被着形成した後、第2の電極層18、22を形成する工程と、フッ素化ポリイミドの前駆体をイミド化する工程とを複合化して行うことが特徴的である。
転写法あるいは塗布法により湿度センサを形成する方法は、プラズマ処理、真空プロセスといった方法を利用する場合と比較して、はるかに簡単に湿度センサを作製できるという利点がある。
【0029】
上記第2の電極層18、22では導電材としてMWCNT、SWCNTを使用しているが、これらを含む分散液をナノカーボン分散液と称しているのは、第2の電極層18、22を構成する導電材としては、SWCNT、MWCNTの他に二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、グラフェン等のナノサイズのカーボン材料(ナノカーボン材)を適宜選択し、組み合わせて使用することができるからである。本発明において、ナノカーボン材という場合は、SWCNT、MWCNT、DWCNT、グラフェン等のナノカーボン材を単一であるいは組み合わて使用することを意味する。
【0030】
金薄膜を第2の電極層32とする湿度センサ30(
図1(c))は、第1の電極層14と前駆体被覆膜16aを形成した
図2(d)示す基板を、窒素雰囲気中で、350℃、1時間、加熱キュアし、前駆体被覆膜16aをイミド化して感応膜16を形成した後、蒸着法により感応膜16の表面に金薄膜を形成する方法により作製する。
【0031】
(電極表面のSEM像)
図4(a)、(b)、(c)は、それぞれ、
図1(a)、(b)、(c)に示す湿度センサ10、20、30の第2の電極層18、22、32の表面のSEM像である。
図4(a)、(b)に示すように、転写法(MW+SWCNT)と塗布法(SWCNT)により作製した第2の電極層は、カーボンナノチューブが互いに絡み合った網目状に形成され、10nm〜100nm程度の開口孔(空隙)がいたるところに形成されている。この開口孔は膜の厚さ方向に連通する孔となっており、孔部分を通って水分子が移動可能である。10nm〜100nm程度の空隙は感応膜16の膜厚(1μm以上)にくらべて十分に小さいことから、第2の電極層18、22は、電極全体として均一な電極とみなすことができる。
一方、Auからなる湿度センサの第2の電極層32は、数十〜数百nmの大きさの孔が、ところどころに、0.2〜1μm程度離れて存在している。第2の電極層のSEM像の比較から、Au薄膜からなる第2の電極層32の通気性は、湿度センサ10、20と比較して劣るものと想像される。
【0032】
(電極の撥水性試験)
図5(a)、(b)、(c)は、湿度センサ10、20、30の第2の電極層18、22、32の表面に超純水の水滴を落とし、第2の電極層18、22、32の撥水性を評価する試験を行った状態を示す。第2の電極層と超純水との接触角を測定すると、転写法(MW+SWCNT)による第2の電極層18と超純水との接触角は104.3°、塗布法(SWCNT)による第2の電極層22との接触角は81.9°、Au薄膜からなる第2の電極層32との接触角は59.6°である。
【0033】
この実験結果は、金薄膜を第2の電極層とする湿度センサ30と比較して、湿度センサ10、20の第2の電極層は明らかに撥水性に優れていることを示す。第2の電極層の撥水性は電極層における水分子の脱着に関わり、SWCNT、MWCNTを第2の電極層の導電材とする湿度センサ10、20は、Au薄膜を第2の電極層とする湿度センサ30と比較して、センサの応答性が良好になるものと想像される。
【0034】
(センサの断面SEM像)
図6は、転写法(MW+SWCNT)による第2の電極層を備える湿度センサと、Au薄膜を第2の電極層とする湿度センサの断面構造を示すSEM像である。
図6(a)に示す湿度センサは、厚さ200nmの透明電極(ITO)からなる第1の電極層、厚さ2000nmのフッ素化ポリイミドからなる感応膜、厚さ650nmの第2の電極層を積層形成したものである。第2の電極層は、MWCNTとSWCNTを導電材とするナノカーボン材の分散液を転写する操作を15回繰り返し、第2の電極層を通常よりも厚く形成した。この例では、第2の電極層の断面の境界(表面形状)をわかりやすくするため、第2の電極層を形成した後、第2の電極層の表面に、厚さ25nmにAuを蒸着した。
図6(b)に示す湿度センサは、厚さ167nmの透明電極(ITO)からなる第1の電極層、厚さ1700nmのフッ素化ポリイミドからなる感応膜、厚さ25nmのAuからなる第2の電極層を形成したものである。
【0035】
図6(a)、(b)を比較すると、Au薄膜からなる湿度センサの第2の電極層の表面は平坦面である(
図6(b))のに対して、転写法(MW+SWCNT)により形成した第2の電極層(
図6(a))は、表面が荒れた形態となっている。これは、第2の電極層のカーボンナノチューブが互いに絡み合った形態に形成され、第2の電極層の表面が凹凸面になっていることを示す。
また、転写法によって形成された第2の電極層は、感応膜と一体的に形成されていることがわかる。
図7は、イミド化後のポリイミド膜に、MWCNTの分散液を転写して加熱処理した膜表面のSEM像を示す。このようにポリイミド膜に単にCNTを転写する方法では、ポリイミド膜からCNT膜が剥離してしまう。
前述した、第2の電極層18、22を形成する工程において、感応膜となるフッ素化ポリイミドの前駆体被覆膜と転写あるいは塗布されたフッ素化ポリイミドの前駆体とを同時にイミド化する処理方法は、第2の電極層18、22を感応膜と一体的に形成する方法として有効であることがわかる。
【0036】
(湿度センサの定常応答時の特性)
図8は、上述した3種の構成を備える湿度センサについて、測定環境の相対湿度を変えたときの静電容量を測定した結果を示す。各々の湿度センサの静電容量値(出力値)は異なるから、
図8では、相対湿度に対する静電容量値の変化率を表すように測定結果を規格化して示している。
図8において、MW+SWCNT(転写)とあるのは
図1(a)の湿度センサ10の構成を備えるサンプル、SWCNT(塗布)とあるのは
図1(b)の湿度センサ20の構成を備えるサンプル、Auとあるのは
図1(c)の湿度センサ30の構成を備えるサンプルについての測定結果である。以下、MW+SWCNT(転写)、SWCNT(塗布)、Au薄膜は、
図1(a)、(b)、(c)の構成を有する湿度センサの意味である。
【0037】
相対湿度に対する湿度センサの静電容量は、次の方法により測定した。
恒温恒湿槽内に開閉扉を取り付けたチャンバー(内容積:約110cm
3)を設置し、チャンバー内に測定対象である湿度センサをセットし、チャンバーの開閉扉を閉じた状態で、恒温槽の外部と連通する流路を介してチャンバー内に乾燥空気を流入させ、エアを外部に排出してチャンバー内を乾燥状態にする(湿度0〜2%RH)。
次に、チャンバーの外側、すなわち恒温恒湿槽内を測定しようとする湿度に設定し、所定の湿度になった時点でチャンバーの開閉扉を開き(加湿)、サンプルの温度センサに接続した容量計(LCRメータ)でサンプルの静電容量の変化を計測する。開閉扉を開いてから所定時間後(100秒後)に開閉扉を閉じ、チャンバー内に乾燥空気を流し(除湿)、乾燥時におけるサンプルの静電容量の変化を計測する。
【0038】
計測は、所定の湿度(測定湿度)ごとに3回行い、測定湿度を変えて同様に計測した。計測を行った湿度は、30%RH、50%RH、70%RH、90%RHの4点である。チャンバー内を乾燥状態にしたときの容量計の値を0%RHとした。測定はすべて室温(30℃)である。
図9に、湿度センサ:MW+SWCNT(転写)の静電容量の測定例を示す。100秒ごとにチャンバーの開閉扉を開閉する操作に対応して、静電容量値が変動している。
【0039】
図8に示した相対湿度に対する静電容量の測定結果は、
図9のグラフで静電容量値が定常値に到達したときの測定値に基づく。静電容量値の最大値にゆらぎがあるのは、恒温槽内での対流の影響である。
図8の測定結果は、第2の電極層が、MW+SWCNT(転写)、SWCNT(塗布)、Au薄膜からなる湿度センサのいずれについても、相対湿度の変化に対して直線的に静電容量値が変化することを示す。すなわち、定常状態における、相対湿度に対する静電容量値の変化率(直線性)には、サンプルの湿度センサの第2の電極層の構成は影響しないといえる。
【0040】
(湿度センサの感度)
湿度センサの静電容量をC、感度をSとすると、静電容量Cと、感度Sは、下記(1)、(2)式によって与えられる。ただし、Δε
xは湿度xにおける感応膜(感湿膜)の誘電率、Aは湿度センサの有効面積、Lは感応膜の厚さである。
C=Δε
x・A/L ・・・(1)
S=(Δε
x・/x)・(A/L) ・・・(2)
【0041】
表1に上記3種のサンプルについて感度を計算した結果を示す。Au電極を用いたサンプルの感応膜の厚さは1.45μm、SWCNT(塗布)を電極とするサンプルの感応膜の厚さは1.43μm、MW+SWCNT(転写)を電極とする感応膜の厚さは1.86μmである。
【表1】
【0042】
表1は、湿度センサの感応膜の厚さに基づいて感度Sを計算した結果である。式(2)からもわかるように、湿度センサの感度は感応膜の厚さに依存する。表1において、SWCNT(塗布)を第2の電極層とする湿度センサの感度が最も良いのは、感応膜(感湿膜)の厚さが最も薄いからである。
図10は、MW+SWCNT(転写)を電極とする湿度センサについて、感応膜の厚さを変えたときに、感度Sがどのように変化するかを示している。
図10からわかるように、湿度センサの感度Sは感応膜の厚さに依存し、感応膜の厚さが薄い方が高感度になる。測定に使用したサンプルの感応膜の厚さは1μmを超えているが、感応膜の厚さを1μm以下にすることで、さらに高感度になることが期待される。
【0043】
(湿度センサの応答特性)
図9に示したように、測定装置のチャンバー内の加湿、除湿操作に応じて、チャンバー内にセットした湿度センサの静電容量値が変動する。
湿度センサの応答特性を示す指標として、
図11、
図12に示すように、加湿、除湿時の立ち上がりの応答時間と立下りの応答時間を定義する。
湿度センサの立ち上がりの応答時間は、
図11に示すように、加湿開始時から、静電容量の初期値C
0と飽和値との静電容量値の差の90%まで増加するまでの時間と定義する。測定環境の相対湿度が異なる場合も、立ち上がり時間は略一致する。以下では、0%RH→90%RHの加湿操作による測定結果に基づいて立ち上がり時間を求めた。
湿度センサの立下りの応答時間は、除湿開始時から静電容量の初期値(飽和値)と終値(最小値)の静電容量値の差の90%まで減少するまでの時間と定義する。相対湿度が異なる場合も、立下り時間は略一致する。以下では、相対湿度90%RH→0%RHまで除湿する操作の測定結果に基づいて立下り時間を求めた。
【0044】
表2に、上記3種の湿度センサについて、立ち上がり時間と立下り時間を測定した結果を示す。
【表2】
表2から、SWCNT(塗布)、MW+SWCNT(転写)を第2の電極層とする湿度センサは、Au薄膜を第2の電極層とする湿度センサと比較して、立ち上がり時間、立下り時間とも向上する。湿度センサとして従来使用されているものの応答時間は、速いものでも10秒〜数十秒程度である。表2に示すAu薄膜を第2の電極層としたサンプルは従来の湿度センサと比較して応答時間が速いものであるが、測定に使用した湿度度センサ:SWCNT(塗布)、MW+SWCNT(転写)の応答特性は、ともにAu薄膜の湿度センサを上回っている。
【0045】
表2中のガス置換時定数は、チャンバー内を加湿あるいは除湿するときのガス置換に要する時間のめやすとなる。本実験では、測定装置のチャンバーに加湿エアを導入して加湿し、チャンバーに乾燥空気を強制的に導入して除湿している。したがって、湿度センサの立ち上がり時間と立下り時間は、チャンバー内をガス置換する時間に影響される。
恒温恒湿槽の相対湿度をC
1%RHとし、チャンバー内の湿度の初期値をC
0%RHとすると、加湿時と除湿時のチャンバー内の湿度変化xは、下記(3)、(4)式によって表される。
加湿時 x=(C
1−C
0)(1−e
−t/0.6)+C
0 ・・・(3)
除湿時 x=(C
1−C
0)(1−e
−t/1.0)+C
0 ・・・(4)
【0046】
図13は、チャンバー内を加湿したときの湿度変化の測定結果を示すグラフである。縦軸に湿度センサを用いて測定した静電容量値とそのときの相対湿度を示す。また、上記式(3)によって表されるチャンバー内の湿度の計算値を実線で示す。
図14は、チャンバー内を除湿したときの湿度変化の測定結果を示すグラフである。同様に、上記式(4)によって表されるチャンバー内の湿度の計算値を実線で示す。除湿に用いた乾燥エアの流量は5(l/min)である。
【0047】
図13、14に示すように、上記式(3)、(4)のグラフと湿度変化の測定値とはよく一致している。式(3)で第1項の指数にある0.6は加湿時のガス置換の時定数であり、式(4)の指数にある1.0は除湿時のガス置換の時定数である。
式(3)、(4)におけるガス置換の時定数は、実際には、条件によって変動する値である。式(3)、(4)は、
図13、14に示すチャンバー内の相対湿度の測定値に一致するように、時定数をパラメータとして調整した結果式である。すなわち、上記実験条件においては、加湿時におけるガス置換時間を0.5秒、除湿時におけるガス置換時間を1.0秒と見積もることができる。
【0048】
このように、チャンバーを用いて湿度センサの応答特性を調べる実験では、チャンバーのガス置換速度が湿度センサの応答特性に影響を及ぼすことになる。
図15は、ガス置換速度が湿度センサの立下り時間に及ぼす影響を実際に調べた結果である。すなわち、チャンバーに流入させる乾燥エアの流量を5(l/min)、10(l/min)、20(l/min)として静電容量値を測定した結果を示す。乾燥エアの流量を大きくすることにより、立下り時間が短縮される。
【0049】
表3にチャンバーに流入させる乾燥ガスの流量と、そのときの湿度センサの立下り時間を示す。湿度センサには、MWCNT+SWCNT(転写)を第2の電極層とする湿度センサを用いた。表3から、乾燥エアの流量が湿度センサの立下り時間に大きく寄与することがわかる。
【表3】
【0050】
(応答速度の膜厚依存性)
図16は、湿度センサの感応膜の厚さを変えたときに、湿度センサの立下り時間がどのように変化するかを測定した結果を示す。用いた湿度センサはMW+SWCNT(転写)である。
図16では、感応膜(感湿膜)の厚さを1.26μm、1.54μm、3.2μm、5.2μm、8.9μmとしたときの、静電容量値の立下り部分の測定値を示す。グラフから、感応膜の膜厚が薄くなるにしたがって立下り時間が短縮されることがわかる。
【0051】
感応膜の膜厚をL、応答時間をτ、感応膜の拡散定数をD、比例定数をαとすると、膜厚(L)と応答時間(τ)は下記の(5)、(6)式で表される。
L≒(D・τ)
1/2 ・・・(5)
τ≒α×L
2+τ
ref [S]・・・(6)
上記(6)式の第1項は、感応膜内における水蒸気の拡散を示し、第2項は水蒸気が第2の電極層を通過する時間と、チャンバー内のガス置換に要する時間である。したがって、測定系に依存する要因を除くと、湿度センサの応答速度を向上させるには、感応膜の厚さを薄くして感応膜中を水蒸気が拡散する時間を縮めること、水分子が第2の電極層を通過する時間を短縮させることが有効であることがわかる。
【0052】
図1に示す湿度センサでは、感応膜16の厚さを1〜2μm程度としているが、感応膜16の厚さを1μm以下とすることで湿度センサの応答速度を速くすることができる。また、第2の電極層としてナノカーボン材を使用する方法は、第2の電極層が多孔膜状に形成され、水分子が容易に通過できること、撥水性に富み、水分子が容易に通過できる点で湿度センサの応答特性を向上させる上で有効である。
【0053】
(湿度センサの製法の高速化)
上述した実験で使用した湿度センサは、フッ素化ポリイミドの前駆体を加熱キュアしてイミド化する工程として、350℃、1時間の加熱キュア操作を行った。湿度センサを実用に供するには、生産性が重要となる。そのため、高速加熱可能な加熱炉を用意し、加熱キュア時間を短縮する方法により湿度センサを製作した。
【0054】
図17に従来の電気炉と高速加熱可能な小型電気炉の温度プロファイルを示す。従来使用している電気炉と比較して、きわめて短時間で350℃まで昇温し、短時間のうちに室温まで降温する。
フッ素化ポリイミド前駆体のイミド化がどのように進行するかを観察するため、表面にAl膜が形成されたガラス基板にフッ素化ポリイミドの前駆体を塗布し、ポリアミド酸のイミド化を、FTIRを用いて観察した。350℃で数分の加熱により、O=C-N、C-N、O=Cのイミド化を示すピークが表れ、C-O-Hのピークが消えた。これにより、350℃で数分の加熱によりイミド化することを確かめた。
【0055】
表4は、SWCNTからなる電極層の抵抗値が、熱処理条件によってどのように変わるかを測定した結果を示す。ガラス基板の上に、線幅5mm、長さ15mmで、SWCNTの分散液を塗布し、加熱処理して、抵抗値を測定した。
【表4】
表4は、加熱前後のSWCNT電極層の抵抗値を示す。350℃、5minの熱処理で271Ω/mm
2となった。この値は、数十kHzまでであれば、十分に動作可能な抵抗値である。
表4はまた、350℃、1時間加熱、10分加熱による場合は、抵抗値が5min加熱の1/2程度となることを示している。ナノカーボン材を第2の電極層に使用する容量型ガスセンサは抵抗値の点からも優れた特性を備えることがわかる。
【0056】
図18は、基板にフッ素化ポリイミド前駆体を塗布しプリベイクした後、SWCNTを導電材として塗布し、350℃、5minの加熱キュア条件により作製した湿度センサ(感応膜の厚さ1.7μm)について、相対湿度に対する静電容量を測定した結果を示す。比較のため、350℃、1時間の加熱により作製した温度センサ(感応膜の厚さ1.5μm)の測定結果をあわせて示す。
図18に示す測定結果は、350℃、5minの加熱処理によるものも、相対湿度に対する十分な直線性を示すことを示す。
【0057】
表5は、上記例のサンプルについて応答時間を測定した結果を示す。
【表5】
350℃、5minの加熱処理によるものは、350℃、1時間の加熱処理によるものと比較して立下り時間が長くなっている。これは、感応膜中にOH基が残り、水分子の脱着性が低いためと考えられる。350℃、5minの加熱処理によるものの感度は0.814(pF/%RH)である。
【0058】
上記実験結果は、湿度センサの特性を劣化させることなく、加熱処理時間を短縮して湿度センサを作製することが十分に可能であることを示している。従来、実用化されている湿度センサの応答時間は、速いものでも15秒程度以上である。上記実験において使用した高速加熱による湿度センサは、従来品と比較して、はるかに応答特性が改善されている点で、実用面においても十分に有効利用できる。
【0059】
(応答特性の比較実験)
図19、20は、感応膜にフッ素化ポリイミド(FPI)を使用した場合と、通常のポリイミド(KPI)を使用した場合の湿度センサの応答特性を測定した結果を示す。
図19が立ち上がり部分の応答特性を示すグラフ、
図20が立下り部分の応答特性を示すグラフである。使用した湿度センサの感応膜の厚さは、いずれも3.2μmである。感応膜の厚さを比較的厚くしたのは、感応膜の材料に依存する応答速度の相異を顕在化させるためである。
表6に、立ち上がりと立下りの応答時間を示す。
【0060】
【表6】
表6に示すように、フッ素化していない通常のポリイミドを感応膜に使用した場合は、フッ素化ポリイミドを使用した場合と比較して、立ち上がり、立下りともに、応答時間が大きく劣っている。この測定結果は、フッ素化ポリイミドを感応膜に使用する優位性を示している。なお、通常のポリイミドを感応膜とする場合も、感応膜の厚さを薄くすることによって応答時間を短縮することが可能であり、用途により使用することは可能である。
【0061】
(容量型ガスセンサの検出対象)
上記実施形態においては、本発明に係る容量型ガスセンサを湿度センサに利用した例である。本発明に係る容量型ガスセンサは湿度センサとして使用する場合に限られるものではない。
静電容量型のガスセンサの静電容量Cは、感応膜の厚さL、センサの有効面積A、真空の誘電率ε
0、検出対象の誘電率ε
rとすると、次式で与えられる。
C=ε
0・ε
r・(A/L)
上式は、検出対象の誘電率が大きなものについてより有効に検出できることを意味している。表7に高誘電率の有機化合物の例と水の誘電率を示す。表7からわかるように、本発明に係る容量型ガスセンサは、アルコールやアルデヒド等の有機化合物の濃度を検出するガスセンサとして利用することができる。
【0063】
近年の電子装置は、さまざまな回路部品やセンサを備えた複合機能を備える製品として提供される場合が多い。湿度センサあるいは一般的なガスセンサも回路基板に組み込んで構成することができれば、小型化を図るとともに、量産等にも容易に対応することができる。
前述した実施形態においては、感応膜と第2の電極層を形成する方法として、フッ素化ポリイミドの前駆体を用いて感応膜を形成し、転写法あるいは塗布法によって第2の電極層を形成した。転写法あるいは塗布法は、配線層や絶縁層を積層して形成する回路基板等の電子製品の製造工程においても一般的に利用されている。したがって、本発明に係る容量型ガスセンサは、電子製品の製造工程に組み込むといったことが容易に可能であり、また、量産性にすぐれ、安定した品質のセンサ機能を備える製品として提供することが可能である。