特許第6370147号(P6370147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370147
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】EGR装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/35 20160101AFI20180730BHJP
   F02M 26/50 20160101ALI20180730BHJP
【FI】
   F02M26/35 D
   F02M26/50 321
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-153404(P2014-153404)
(22)【出願日】2014年7月29日
(65)【公開番号】特開2016-31042(P2016-31042A)
(43)【公開日】2016年3月7日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舩山 悦弘
【審査官】 齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−038068(JP,A)
【文献】 実開昭56−154515(JP,U)
【文献】 特開2005−171874(JP,A)
【文献】 実開昭58−183925(JP,U)
【文献】 特開2011−021561(JP,A)
【文献】 実開昭50−090912(JP,U)
【文献】 特開2011−038453(JP,A)
【文献】 特開2015−086722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/00−74
F02M 35/10
F01N 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気側と吸気側との間をEGR系路により接続し、該EGR系路に備えられたEGRクーラによりEGRガスの冷却を行うEGR装置であって、
前記EGRクーラの下流のEGRパイプの一部を、該EGRパイプの管壁に水抜き孔を穿設した凝縮水吸込部とし、且つ該凝縮水吸込部の外周面を取り巻くように凝縮水吸収体を備え、前記水抜き孔から前記凝縮水吸収体にEGRガス中の凝縮水を抜き出すよう構成した凝縮水分離装置を備えると共に、該凝縮水分離装置の上流のEGR系路に旋回流発生装置を備え、該旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置とを間隔をおいて配置し、前記旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置との間のEGR系路を助走部として構成したことを特徴とするEGR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGRガスの冷却によって発生する凝縮水を捕集除去し得るEGR装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等では、排気側から排気の一部を抜き出して吸気側へと戻し、その吸気側に戻された排気でエンジン内での燃料の燃焼を抑制して燃焼温度を下げることによりNOx(窒素酸化物)の発生を低減するようにした、いわゆる排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われている。
【0003】
通常、この種の排気再循環を行うEGR装置の場合には、排気マニホールドから排気管に至る系路の適宜位置と、吸気管から吸気マニホールドに至る系路の適宜位置との間をEGRパイプにより接続し、該EGRパイプを通して排気を再循環させるようにしている。
【0004】
この際、エンジンに再循環する排気(EGRガス)を途中で冷却すると、排気の温度が下がり且つその容積が小さくなることにより、エンジンの出力をあまり低下させずに燃焼温度を低下して効果的にNOxの発生を低減させることができるため、エンジンに排気を再循環する系路の途中には、再循環される排気を冷却するためのEGRクーラが装備されるのが一般的である。
【0005】
すなわち、このようなEGRクーラによりEGRガスを冷却すれば、排気自体の温度が低下して容積が小さくなり、密度が大きくなってエンジンの燃焼室への充填効率が高まる。こうして、エンジンの出力に大きな影響を及ぼすことなく排気をより多く導入することができる。
【0006】
こうしたEGRクーラにおいては、燃料の燃焼により発生した水蒸気を含む排気を露点以下まで冷却することで凝縮水が発生する問題がある。凝縮水がEGR系路や吸気系路に滞留すると、EGR系路が狭くなって圧力損失が増加し、EGRを効率的に行えなくなったり、インタークーラが閉塞したり、エンジンに多量の水分が入り込んで水撃による破損を生じるなど、さまざまな不具合に繋がる虞がある。
【0007】
将来的には、益々厳しくなる排ガス規制に合わせ、EGRクーラの冷却能力を更に強化してEGR効率の向上を図る必要が予想される。EGRクーラの冷却能力が強化された場合、EGRクーラ内に凝縮水が発生しやすくなることが考えられ、このため、EGR系路内に発生する凝縮水をEGRガスから分離し、除去する手段が必要とされている。
【0008】
EGR系路内に発生する凝縮水を分離除去する装置としては、例えば、特許文献1〜4に記載の装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−25034号公報
【特許文献2】特開2013−29081号公報
【特許文献3】特開2010−222980号公報
【特許文献4】特開2012−188944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているEGR装置では、凝縮水の捕集はEGRパイプの管壁で排気が冷却され、凝縮水が自然に管壁に結露することによって行われるため、十分に凝縮水を捕集することができず、一層効率的に凝縮水を捕集することが求められている。また、上記特許文献3、4に記載されているEGR装置では、凝縮水を捕集する手段としての壁や板状のメッシュ等に排気を衝突させるため、EGRガスの圧力損失が大きくなってしまう問題がある。
【0011】
尚、EGR系路内に発生する凝縮水を分離除去する装置としては、上記特許文献1〜4に記載の装置のほか、EGR系路の途中にサイクロン式の気液分離装置を設置することも考えられるが、この場合も圧力損失が増大する問題がある。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、EGRガスの圧力損失を抑えながら、EGRガスの冷却により発生する凝縮水を効率良く捕集し得るEGR装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、エンジンの排気側と吸気側との間をEGR系路により接続し、該EGR系路に備えられたEGRクーラによりEGRガスの冷却を行うEGR装置であって、前記EGRクーラの下流のEGRパイプの一部を、該EGRパイプの管壁に水抜き孔を穿設した凝縮水吸込部とし、且つ該凝縮水吸込部の外周面を取り巻くように凝縮水吸収体を備え、前記水抜き孔から前記凝縮水吸収体にEGRガス中の凝縮水を抜き出すよう構成した凝縮水分離装置を備えると共に、該凝縮水分離装置の上流のEGR系路に旋回流発生装置を備え、該旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置とを間隔をおいて配置し、前記旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置との間のEGR系路を助走部として構成したことを特徴とするEGR装置にかかるものである。
【0014】
而して、このようにすれば、圧力損失を抑えながら、凝縮水吸収体の毛細管現象により効率良くEGRガスから凝縮水を分離し得る。
【0015】
また、前記凝縮水分離装置の上流のEGR系路に旋回流発生装置を備えているので、EGRガスに形成された旋回流の遠心力により、一層効率良くEGRガスから凝縮水を分離し得る。
【0016】
更に、前記旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置とを間隔をおいて配置し、前記旋回流発生装置と前記凝縮水分離装置との間のEGR系路を助走部として構成しているので、EGRガスに形成された旋回流が助走部を流れる間に安定し、さらに効率良くEGRガスから凝縮水を分離し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のEGR装置によれば、EGRガスの圧力損失を抑えながら、EGRガスの冷却により発生する凝縮水を効率良く捕集し得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例の全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施例の要部の内部構造を拡大して示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は本発明の実施によるEGR装置の形態の一例を示すものである。図中、1はターボチャージャ2を装備したエンジンを示しており、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管5を通しターボチャージャ2のコンプレッサ2aへ送られ、該コンプレッサ2aで加圧された吸気4がインタークーラ6へ送られて冷却され、該インタークーラ6から更に吸気マニホールド7へ吸気4が導かれてエンジン1の各気筒8(図1では直列4気筒の場合を例示している)に分配されるようになっており、また、エンジン1の各気筒8から排出された排気9は、排気マニホールド10を介しターボチャージャ2のタービン2bへ送られ、該タービン2bを駆動した後に排気管11へ送り出されるようになっている。
【0021】
排気マニホールド10と吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5の間は高圧ループ(EGR系路)12により接続されており、該高圧ループ12を介して排気マニホールド10から排気9の一部をEGRガス9aとして抜き出し、前記吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5に再循環し得るようにしてある。
【0022】
また、ターボチャージャ2のタービン2bより下流の排気管11と、前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aより上流の吸気管5との間は低圧ループ(EGR系路)13により接続されており、該低圧ループ13を介してターボチャージャ2のタービン2bより下流の排気管11から排気9の一部をEGRガス9aとして抜き出し、前記ターボチャージャ2のコンプレッサ2aより上流の吸気管5に再循環し得るようにしてある。
【0023】
ここで、前記高圧ループ12及び低圧ループ13には、排気9の再循環量を適宜に調節し得るよう開度調整可能なEGRバルブ14、15と、再循環されるEGRガス9aを冷却水との熱交換により冷却するEGRクーラ16、17とがそれぞれ装備されている。
【0024】
このように、本実施例のエンジン1においては、エンジン1の排気側と吸気側との間を接続するEGR系路として、高圧ループ12に加え、低圧ループ13を併用している。これは、一般的な高圧ループ12だけでEGRガス9aの大量導入を実施しようとすると、タービン2bでの動力回収が減って過給性能が落ちてしまうからであるが、本実施例のように低圧ループ13を併用して比較的低い排気温度のEGRガス9aを再循環して冷却した場合には、低圧ループ13のEGRクーラ17に凝縮水が大量に生成される懸念があり、凝縮水への対策が必要不可欠となる。
【0025】
このため、本実施例においては、EGRクーラ17の下流の低圧ループ(EGR系路)13に、EGRクーラ17における冷却によりEGRガス9a中に発生した凝縮水を捕集するための凝縮水捕集装置18を設置している。
【0026】
凝縮水捕集装置18は、図2に拡大して示す如く、EGRクーラ17の下流の低圧ループ(EGR系路)13に設置した旋回流発生装置19と、該旋回流発生装置19の下流側に所定の間隔をおいて設置した凝縮水分離装置20とを備えてなる。
【0027】
旋回流発生装置19は、例えば、EGR系路13をなすEGRパイプ21の内部に螺旋体、例えば、金属製の捻りテープ22を配してなる。ここを通過するEGRガス9aは、螺旋体(捻りテープ)22によってEGRパイプ21の周方向に回転する流れを付与され、旋回流となって下流へと流れていく。尚、旋回流発生装置19は、EGR系路13を流れるEGRガス9aに旋回流を形成し得るものであれば良く、上述の構成に限定されない。
【0028】
凝縮水分離装置20は、EGR系路13をなすEGRパイプ21の一部を外側から覆うように設置したハウジング23を備え、該ハウジング23内部のEGRパイプ21は、その一部が管壁に多数の水抜き孔24aを穿設した凝縮水吸込部24として形成され、且つ該凝縮水吸込部24の外周面を取り巻くようにして凝縮水吸収体25が備えられている。凝縮水吸収体25としては、例えばグラスウール等、耐熱性を有し、且つ毛細管現象によって凝縮水を吸い込み得る多孔質材料が用いられる。
【0029】
ハウジング23下側の適宜位置には、ハウジング23内部に捕集された凝縮水を下方から排水するためのドレンパイプ26が取り付けられ、該ドレンパイプ26からの排水は、該ドレンパイプ26の途中に設置された排水弁27の開閉によって制御されるようになっている。
【0030】
次に、上述した本実施例の作動を説明する。
【0031】
エンジン1の運転中、低圧ループ13による排気再循環を実行する際には、低圧ループ13のEGRバルブ15を開弁すると、排気管11を流通する排気9の一部がEGRガス9aとして低圧ループ13内に抜き出され、ターボチャージャ2のコンプレッサ2aより上流の吸気管5に供給される。低圧ループ(EGR系路)13を流通するEGRガス9aは、EGR系路13の途中に設けられたEGRクーラ17内で冷却され、温度を下げられるとともに密度が上昇する。このとき、EGRガス9aの温度が露点以下に下がることにより、EGRガス9a中に凝縮水が水滴として発生する。
【0032】
凝縮水を含んだEGRガス9aはEGRクーラ17の下流へ流れ、該EGRクーラの下流のEGR系路13に設けられた旋回流発生装置19を通過することによって旋回流となり、さらに下流へと流れていく。
【0033】
ここで、上述の通り、旋回流発生装置19と凝縮水分離装置20は、EGR系路13に所定の間隔をおいて設置されている。このため、旋回流発生装置19を通過したEGRガス9aは、凝縮水分離装置20へと至るまでの距離を流れる間に旋回流としての流れが安定する。すなわち、旋回流発生装置19と凝縮水分離装置20との間のEGR系路13が、EGRガス9aの助走部28として機能する。
【0034】
EGRガス9aの形成する旋回流により、EGRガス9a中に水滴として含まれる凝縮水は、遠心力によってEGRパイプ21の径方向外側へ吹き飛ばされ、EGRパイプ21の内壁に付着する。そして、EGRガス9aの流れに従ってEGRパイプ21の内壁を下流へと流れ伝っていく。そして、凝縮水分離装置20の凝縮水吸込部24に到達すると、そこでEGRパイプ21の管壁に穿設された水抜き孔24aから凝縮水吸収体25に毛細管現象により吸収されることになる。
【0035】
凝縮水吸収体25に吸収された凝縮水は、ハウジング23内に捕集された後、適宜排水弁27を開弁することによってドレンパイプ26から排水される。
【0036】
而して、本実施例によれば、EGRクーラ17の下流のEGRパイプ21の一部を、該EGRパイプ21の管壁に水抜き孔24aを穿設した凝縮水吸込部24とし、且つ該凝縮水吸込部24の外周面を取り巻くように凝縮水吸収体25を備え、水抜き孔24aから凝縮水吸収体25にEGRガス9a中の凝縮水を抜き出すよう構成した凝縮水分離装置20を備えているので、圧力損失を抑えながら、凝縮水吸収体25の毛細管現象により効率良くEGRガス9aから凝縮水を分離し得る。
【0037】
また、本実施例によれば、凝縮水分離装置20の上流のEGR系路13に旋回流発生装置19を備えているので、EGRガス9aに形成された旋回流の遠心力により、一層効率良くEGRガス9aから凝縮水を分離し得る。
【0038】
さらに、本実施例によれば、旋回流発生装置19と凝縮水分離装置20とを間隔をおいて配置し、旋回流発生装置19と凝縮水分離装置20との間のEGR系路13を助走部28として構成しているので、EGRガス9aに形成された旋回流が助走部28を流れる間に安定し、さらに効率良くEGRガス9aから凝縮水を分離し得る。
【0039】
従って、本実施例のEGR装置によれば、EGRガスの圧力損失を抑えながら、EGRガスの冷却により発生する凝縮水を効率良く捕集し得る。
【0040】
尚、本発明のEGR装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、例えば、上記本実施例においては低圧ループの途中のEGRクーラの下流側に凝縮水捕集装置を設置しているが、高圧ループの途中のEGRクーラの下流側に設置しても良いこと等、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0041】
1 エンジン
9a EGRガス
13 EGR系路(低圧ループ)
17 EGRクーラ
19 旋回流発生装置
20 凝縮水分離装置
21 EGRパイプ
24 凝縮水吸込部
24a 水抜き孔
25 凝縮水吸収体
28 助走部
図1
図2