【実施例1】
【0011】
以下、本発明の車両用ヘッドアップディスプレイ装置の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態である車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の構造を示す縦断面図である。まず、
図1を用いて、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の全体構成について説明する。
[車両用ヘッドアップディスプレイ装置の全体構成の説明]
【0013】
自動車などの車両10における車室の前部には、
図1の縦断面図に示すように、車室前壁パネル1とフロントウインドウガラス2(透光性部材)とが設けられている。そして、フロントウインドウガラス2の下側には、車室前壁パネル1を覆い隠すようにインスツルメントパネル3が設けられている。
【0014】
このインスツルメントパネル3の内部には、車室前壁パネル1の車両10の後方側(
図1の紙面右側)に位置するように車幅方向(
図1の紙面直交方向)へ延びる車体強度部材4が配設されている。この車体強度部材4の下部には、ステアリングコラム5を取付けるための、図示しないコラムブラケットが設けられている。このコラムブラケット(非図示)は、車両10の前方側に位置するコラムロワブラケット7と、車両10の後方側に位置するコラムアッパーブラケット8と、に分かれている。そして、ステアリングコラム5と、コラムロワブラケット7およびコラムアッパーブラケット8との間は、それぞれ、図示しないボルト・ナットなどの締結具によって締結固定されている。
【0015】
インスツルメントパネル3の内部(の上側)には、更に、空調ダクト11,12や、ハーネス13(電線の束)や、計器装置14などが車両10の前方側から順に設けられている。また、インスツルメントパネル3には、計器装置14の上部を覆うメータフード15が一体または別体に設けられている。そして、ステアリングコラム5の、インスツルメントパネル3から車両10の後方側へ突出した部分には、コラムカバー16が取付け
られている。なお、インスツルメントパネル3の内部の構成要素の配置場所は、車両によって異なるため、前記した構成はその一例である。
【0016】
ここで、車室前壁パネル1は、フロントウインドウガラス2(透光性部材)の下側に設けられて、車室とエンジンルームとの間を仕切るダッシュパネルなどで構成される。車体強度部材4は、金属製もしくは軽合金製の非円形断面(例えば、矩形断面)のものとされている。空調ダクト11は、窓曇り防止のために、フロントウインドウガラス2に対して空調用空気を吹き出すためのダクト(デフロスターダクト)である。また、空調ダクト12は、乗員へ向けて空調用空気を吹き出すためのダクト(ベンチレーターダクト)である。
【0017】
このように構成されたインスツルメントパネル3の内部の隙間、具体的には、前記したコラムロワブラケット7の上部における、空調ダクト11とハーネス13との間に位置に、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21が取付けられている。そして、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の上方は、インスツルメントパネル3が切り欠かれて、フロントウインドウガラス2(透光性部材)との間に、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21から出射して虚像を結像させる光束51が通過する開口部29が形成されている。
【0018】
車両用ヘッドアップディスプレイ装置21は、虚像を形成するために必要な表示部と結像光学系とを内包するケーシング22と、ケーシング22を閉塞するように設置された防塵カバー27と、防塵カバー27の上方に設置されたフィニッシャカバー30と、フィニッシャカバー30の一部として構成されて、防塵カバー27の車両10の前方側端部近傍から車両10の左右方向に亘って上方に向かって立設する立壁部28とから構成される。
【0019】
次に、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の詳細構成について説明する。車両用ヘッドアップディスプレイ装置21を構成するケーシング22の内部には、画像や映像などを表示する液晶パネルからなる画像表示部23aと、画像表示部23aを背面から照明する複数のLEDで構成された照明部23bと、この画像表示部23aに表示された画像を、矢印Lに沿って反射させて、フロントウインドウガラス2の方向へ導いて投影するための光路形成部品25,26と、前記した防塵カバー27と、前記した立壁部28と、を備えている。
【0020】
前記した光路形成部品25,26は、前記した画像表示部23aに表示された画像をフロントウインドウガラス2の方向へ向けて導く反射鏡(単数または複数の平面鏡または凸面鏡(光路形成部品25)と、凹面鏡(光路形成部品26)と、によって構成される。なお、光路形成部品25,26を形成する光学部品の個数や種類は、前記した構成に制限されるものではなく、適宜設計された構成の光学部品が用いられる。
【0021】
なお、画像表示部23aは、液晶パネルのみならず、LEDから出射した光をマイクロミラーでスキャンして表示画像を生成するDLP方式や、レーザー光源から出射した光をスキャンして表示画像を生成するレーザー方式で構成しても構わない。ただし、DLP方式やレーザー方式を用いるときには、光路形成部品25,26の他に、表示画像を投影するスクリーンが必要となる。
【0022】
画像表示部23aから出射して開口部29を通過した光束51は、フロントウインドウガラス2(透光性部材)で反射して、反射光束52として運転者の眼球91の方向に反射する。この反射光束52をフロントウインドウガラス2の車外側に延長すると、運転者は、フロントウインドウガラス2から所定距離前方の点P
0を含む位置に、画像表示部23aに表示した画像が、虚像53として結像したことを認識する。なお、運転者の眼球91の位置は個人によって異なるが、一般に、アイレンジPと呼ばれる所定の領域内に存在することがわかっている。車両用ヘッドアップディスプレイ装置21は、このアイレンジP内から虚像53を視認可能に設計されている。
[虚像の歪の計測方法の説明]
【0023】
次に、
図2から
図5を用いて、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21で表示された虚像53の歪の計測方法について説明する。
【0024】
図2は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21に表示される虚像の歪を定量化するために、画像表示部23aに表示されてフロントウインドウガラス2に投影される投影パターン24の形態を示す図である。投影パターン24は、
図2に示すように、縦横に延びた複数の線分が互いに直交して複数の交点を有する格子状をなしている。
図2に示す例では、投影パターン24は、左から右、上から下の順に、81個の格子点K1,…,K9,…,K73,…,K81を有している。なお、投影パターン24を形成する格子点の数は、
図2に示したように81個に限定されるものでなく、適宜決められた数の格子点を有する投影パターン24が用いられる。なお、投影パターン24は、
図2に示すものに限定されるものではなく、格子状のパターンの他に、縦横に規則的に配列されたドット状のパターンを用いてもよい。
【0025】
図3は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21に表示される虚像の歪を測定する装置の構成を示す図である。この装置は、スクリーン60に投影された投影パターン24を、運転者の左眼の位置に置いた撮像部70aと運転者の右眼の位置に置いた撮像部70bでそれぞれ撮像して、画像処理部72で、撮像された2枚の虚像を1枚の画像に合成して、2枚の虚像の位置の差を算出し、その結果を表示部74で確認するものである。すなわち、撮像部70aと撮像部70bは、ともにアイレンジPの内部に設置されている。
【0026】
図3の装置によって、例えば、
図4に示す、撮像部70aで撮像された虚像53lを含む画像I
L(x、y)と、撮像部70bで撮像された虚像53rを含む画像I
R(x、y)が撮像される。
【0027】
そして、画像処理部72において、虚像53lと虚像53rを、所定の位置で重ね合わせて、
図5に示す画像I(x、y)を得る。そして、この画像I(x,y)に基づいて、虚像53lと虚像53rの位置の差を求める。例えば、
図5に示す位置の差θ1と位置の差θ2に基づいて、両眼視差(歪の差θ)を数値化する。
【0028】
図6は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の表示領域34の内部において、左右各眼で見た虚像の両眼視差(歪の差θ)を計測した結果の一例を示す図である。
【0029】
図6に示す縦9個,横9個のマス目は、表示領域34(
図3参照)を表しており、それぞれのマス目に、
図2に示した投影パターン24の各格子点K1〜K81における両眼視差(歪の差θ)を表す濃淡値が格納されている。即ち、
図5において黒が濃いマス目ほど歪の差θが小さく、白が濃いマス目ほど歪の差θが大きいことを表している。
【0030】
図6に示す例では、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の表示領域34のうち、左上から右下にかけての領域に、歪の差θが小さい領域80aが形成される。そして、左下の領域に歪の差θが大きい領域80bが形成されて、右上の領域に歪の差θが大きい領域80cが形成される。
【0031】
この領域80a,80b,80cの分布は、フロントウインドウガラス2の形状や、光路形成部品25,26の仕様、ケーシング22とフロントウインドウガラス2のレイアウト等によって異なる。即ち、
図3の装置構成で得られた
図6の分布にあっては、フロントウインドウガラス2の曲率が所定の曲率よりも大きい左下の領域
80bと、ケーシング22とフロントウインドウガラス2の距離が、表示領域34内の他の領域よりも大きい右上の領域
80cにおいて、歪の差θが大きくなっている。また、表示領域34の中で、フロントウインドウガラス2が比較的平坦であると見なせる左上から右下にかけての領域
80aにおいて、歪の差θが小さくなっている。
【0032】
ここで、以後の説明を簡単にするため、歪の差θが小さい領域80aを第1領域と呼ぶことにする。また、表示領域34全体を第2領域と呼ぶことにする。
【0033】
なお、
図6に示す歪の差θの分布は、
図2に示した投影パターン24の格子点の数に応じた位置分解能で得ることができる。そのため、より多くの格子点を有する投影パターン24を用いると、より細かい位置分解能を有する歪の差θの分布を得ることができる。
[虚像の歪に応じた表示コンテンツの配置方法の説明]
【0034】
図7は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21に表示される表示コンテンツの一例を示す図である。
図7に示すように、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21には、大きく分けて2種類の情報が表示される。ひとつは文字によって情報を伝達する文字情報96であり、もうひとつは、記号によって情報を伝達する記号情報98である。
【0035】
文字情報96には、例えば、車速情報82,距離情報84,オーディオ情報86などがある。これらの文字情報96は、いずれも数値や文字によって情報を伝達するものである。即ち、文字情報96は、文字そのものに意味を持つため、誤読することなく読み取れるように、高い表示品質で表示を行う必要がある。そのため、虚像53として文字情報96を表示した際には、左眼で見た虚像53lと右眼で見た虚像53rの歪の差θ(両眼視差)が所定値θthよりも小さい領域に表示するのが望ましい。仮に、文字情報96を、左眼で見た虚像53lと右眼で見た虚像53rの歪の差θ(両眼視差)が所定値θth以上の領域に表示すると、歪やぼけのために、数字や文字を誤認識する虞があるためである。
【0036】
即ち、文字情報96は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の表示領域34(第2領域)の中の、歪の差θが所定値θthよりも小さい領域、即ち、第1領域80aに表示する。
【0037】
一方、記号情報98には、例えば、標識情報88,経路情報90,オーディオ情報92,車両情報94などがある。これらの記号情報98は、いずれも記号(アイコン)によって情報を伝達するものである。こうしたアイコンは、いずれも一般化されたものであり、運転者は一瞥しただけでその意味を読み取ることができるように設計されている。そして、これらの記号情報98は、左眼で見た虚像53lと右眼で見た虚像53rの歪の差θが所定値θthよりも大きい領域に表示されて、多少の歪やぼけを生じても極端な判読性の悪化を招くことはない。即ち、記号情報98は、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の表示領域34(第2領域)の中の、いずれの場所に表示しても構わない。
【0038】
図8は、このような考え方に基づいて、表示コンテンツのゾーニングを行った例を示す図である。
【0039】
図8に示すように、表示領域34の中で、
図6で説明した歪の差θが所定値θthよりも小さい領域である第1領域80aには、文字情報96(車速情報82,距離情報84,オーディオ情報86など)を表示する。一方、歪の差θが所定値θth以上の領域である領域80b,80cを含む表示領域34(第2領域)には、記号情報98(標識情報88,経路情報90,オーディオ情報92,車両情報94など)を表示する。
【0040】
勿論、第1領域80aに全ての情報を表示できるのが望ましいが、歪の差θが大きい領域80b,80cにまで虚像53を表示する必要がある場合には、領域80b,80cには記号情報98を表示することによって、表示領域34内において視認性の悪化を招かない、的確な表示情報の配置(ゾーニング)を実現することができる。
【0041】
以上説明したように、実施例1に係る車両用ヘッドアップディスプレイ装置21によれば、車両10のインスツルメントパネル3内に設置された画像表示部23aの表示像を、インスツルメントパネル3の開口部29からフロントウインドウガラス2(透光性部材)に向かって投影して、フロントウインドウガラス2で反射させて、アイレンジP内で視認可能な文字情報96と記号情報98を虚像表示する際に、文字情報96は、フロントウインドウガラス2をアイレンジPから見たときに、虚像表示の歪の差θ(両眼視差)が所定値よりも小さくなる第1領域80aに表示するため、歪やぼけによる文字情報96の視認性の悪化を招くことなく、高い視認性を確保することができる。
【0042】
また、歪の差θ(両眼視差)の大きさに係わらず、投影光が投影された表示領域34には記号情報98を表示する。そのため、所定値θthを超える歪の差θ(両眼視差)が発生する領域80b,80cには、仮に、所定値θthを超える歪の差θが生じていても視認性の悪化が少ない記号情報98が表示されるため、表示される情報の種類によらず、虚像53の歪の差θ(両眼視差)による視認性の悪化を低減することができる。したがって、車両用ヘッドアップディスプレイ装置21の表示領域34の中で、視認性の悪化を招かない、的確な表示情報の配置(ゾーニング)を行うことができる。
【0043】
なお、実施例1では、透光性部材として車両10のフロントウインドウガラス2を用いた例を説明したが、透光性部材として、フロントウインドウガラス2の他に、フロントウインドウガラス2とは別に設けた透光性を有する反射パネル(別体型コンバイナ)を用いてもよい。
【0044】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。