特許第6370369号(P6370369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6370369表面処理剤及びその使用、並びに表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370369
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】表面処理剤及びその使用、並びに表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 37/00 20060101AFI20180730BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20180730BHJP
   C08J 7/02 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   G01N37/00 101
   C08F220/56
   C08J7/02 ACEY
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-504721(P2016-504721)
(86)(22)【出願日】2014年3月21日
(65)【公表番号】特表2016-514750(P2016-514750A)
(43)【公表日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】FR2014050662
(87)【国際公開番号】WO2014154977
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年1月24日
(31)【優先権主張番号】1352642
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】398057293
【氏名又は名称】ソシエテ・デクスプロワタシオン・デ・プロデュイ・プール・レ・アンデュストリー・シミック・セピック
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE D’EXPLOITATION DE PRODUITS POUR LES INDUSTRIES CHIMIQUES SEPPIC
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】508034266
【氏名又は名称】アンスティテュ・キュリー
(73)【特許権者】
【識別番号】505302306
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ピエール・エ・マリー・キュリー(パリ・ザ・シックスス)
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ルイ ヴィオヴィ
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ ブラウン
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特表平7−502053(JP,A)
【文献】 特開平8−225620(JP,A)
【文献】 特開2004−190031(JP,A)
【文献】 特表2008−505234(JP,A)
【文献】 特表2009−514674(JP,A)
【文献】 特表2013−504645(JP,A)
【文献】 特表2014−525943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 − 220/70
C08J 7/00 − 7/02
C08J 7/12 − 7/18
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 − 201/10
A61K 8/00 − 8/99
A61Q 1/00 − 90/00
C08F 251/00 − 299/08
C08F 2/00 − 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーであって、100mol%当たり、
a)アルキルラジカルがそれぞれ1個〜4個の炭素原子を含む、75%以上かつ99.95%以下のモル比の、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.05%以上かつ1%以下のモル比の、式(I):
CH=C(R)−C(=O)−O−[C−CH(R)−O]−R (I)
(式中、nは1〜50の数を表し、Rは水素原子又はメチルラジカルを表し、Rは水素原子、メチルラジカル又はエチルラジカルを表し、Rは、8個〜30個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状の脂肪族炭化水素ラジカルを表す)のモノマーに由来するモノマー単位と
含む、直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーを含有する、チップ、マイクロ流体システム、マイクロシステム又はラボオンチップの表面処理剤
【請求項2】
前記N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位が、N,N−ジメチルアクリルアミド又はN,N−ジエチルアクリルアミドに由来する、請求項1に記載の表面処理剤
【請求項3】
前記式(I)のモノマーに由来するモノマー単位が、
ペンタコサエトキシル化ベヘニルメタクリレート、又は、
エイコサエトキシル化ステアリルメタクリレート、
に由来する、請求項1または請求項2に記載の表面処理剤
【請求項4】
前記ポリマーが、
c)0%より大きくかつ24%以下のいずれかのモル比の、遊離型、部分的に塩化された若しくは完全に塩化された強酸官能基を含むモノマーに由来するモノマー単位、又は式(II):
CH=C(R)−C(=O)−Y−(CH−N(R)(R) (II)
(式中、mは1〜4の数を表し、YはO又はNHを表し、Rは水素原子又はメチルラジカルを表し、R及びRは、同一又は異なって、メチルラジカル又はエチルラジカルを表す)のモノマーに由来するモノマー単位をさらに含む、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項5】
前記ポリマーが、前記遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された強酸官能基を含むモノマーに由来するモノマー単位を含む場合、該モノマー単位が、遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸に由来することを特徴とする、請求項に記載の表面処理剤
【請求項6】
前記ポリマーが、前記式(II)のモノマーに由来するモノマー単位を含む場合、該モノマー単位が、
ジメチルアミノエチルメタクリレート、又は、
N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド、
に由来することを特徴とする、請求項に記載の表面処理剤
【請求項7】
前記ポリマーが、d)0%より大きくかつ1%以下のモル比のジエチレン系又はポリエチレン系架橋モノマーをさらに含む、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の表面処理剤。
【請求項8】
前記ポリマーが、100mol%当たり、
a)99%以上かつ99.9%以下のモル比の、前記N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ1%以下のモル比の、式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[C−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマーに由来するモノマー単位と、
を含む、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の表面処理剤
【請求項9】
前記ポリマーが、100mol%当たり、
a)80%以上かつ95%以下のモル比の、前記N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ0.5%以下のモル比の、式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[C−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又
は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマー由来のモノマー単位と、
c)4%以上かつ19%以下のモル比の、遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸に由来するモノマー単位と、
を含む、請求項に記載の表面処理剤
【請求項10】
前記ポリマーが、100mol%当たり、
a)80%以上かつ95%以下のモル比の、前記N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ0.5%以下のモル比の、前記式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[C−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマー由来のモノマー単位と、
c)4%以上かつ19%以下のモル比の、ジメチルアミノエチルメタクリレート、又はN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドに由来するモノマー単位と、
を含む、請求項に記載の表面処理剤
【請求項11】
チップ、マイクロ流体システム、マイクロシステム又はラボオンチップの表面を処理する方法であって、
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の表面処理剤を前記表面に接触させて、インキュベートさせる段階a)と、
前記表面上に吸着しなかったポリマーを該表面から除去するように、段階a)によって得られる該表面をすすぐ段階b)と、
任意に、前記段階b)によって得られるすすがれた表面を乾燥させる段階c)と、
を含むことを特徴とする、チップ、マイクロ流体システム、マイクロシステム又はラボオンチップの表面を処理する方法。
【請求項12】
段階a)の前に、前記表面上に、1mm未満の少なくとも1つの寸法を一方向に示すチャネルを作成するように、成形又はエッチングする段階である、段階d)を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水性、水性/有機又は有機溶液中に存在する構成要素とチップ、マイクロ流体システム、マイクロシステム又はラボオンチップの表面との間の相互作用を改変させるための作用物質としての、請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の表面処理剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリマー、それらの製造方法、及び、表面、特に疎水性プラスチックから作られている表面の処理におけるそれらの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ラボオンチップとも称されるマイクロ流体システムにおける、医学的検査、化学的解析若しくは生物学的解析、又は合成操作等の利用を発展させるための開発が行われている。
【0003】
これらのラボオンチップは、疎水性プラスチック、例えば、COC(環状オレフィンコポリマー)、COP(環状オレフィンポリマー)、及びより一般にはポリ(シクロオレフィン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、及びより一般にはアクリル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、シリコーン、幾つかのポリウレタン、及びより一般には、低温条件下又は高温条件下で重合可能な、熱成形材料の任意の種類の樹脂から構成される。
【0004】
COCタイプの材料は例えば、それほど高密度でなく、極めて透過性であり、生体適合性であり、最大170℃までの耐熱性を有し、かつ良好な耐薬品性を有する。
【0005】
しかしながら、それらの疎水性の性質は、幾つかの欠点、例えば、かかるラボオンチップにおいて研究又は製造することが望まれると考えられる、幾つかの生体分子、例えばタンパク質、有機分子、例えば、着色剤、標識、薬物又は任意の他のタイプの分子との、また、これらのラボオンチップにおいて相互作用支持体として使用されることが多いミクロ粒子又はナノ粒子との相互作用をもたらす。この欠点を克服するために、場合によっては、中性又はカチオン性、アニオン性又は両性の性質をとることができる適切なポリマーで材料の表面を処理する。
【0006】
特許文献1は、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)の主骨格と、ポリ(メチルメタクリレート)グラフトとから構成される両親媒性櫛型コポリマーを開示している。これらの疎水性単位はCOCタイプの材料上に吸着され、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)骨格が親水性の性質を材料の表面に与える。
【0007】
事実上、このようなコポリマーの工業合成は、メチルメタクリレートマクロマーの調製、及び精製段階による溶媒相中における共重合を伴うことから困難なものとなっている。
【0008】
さらに、細胞を固定化するためのラボオンチップの技法の開発という観点から、疎水性表面をわずかにカチオン性にすることが必要とされ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2810905号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らはそれ故、上記に言及される問題を解決することを可能とする新規なポリマー、またマイクロチャネル又はマイクロ流体デバイスのポリマー表面を処理及び制御する
ことを可能とする方法を開発しようと努めた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第一の態様によれば、本発明の主題は、直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーであって、100mol%当たり、
a)アルキルラジカルがそれぞれ1個〜4個の炭素原子を含む、75%以上かつ99.95%以下のモル比の、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.05%以上かつ1%以下のモル比の、式(I):
CH=C(R)−C(=O)−O−[(CH−CH(R)−O]−R (I)
(式中、nは1〜50の数を表し、Rは水素原子又はメチルラジカルを表し、Rは水素原子、メチルラジカル又はエチルラジカルを表し、Rは、8個〜30個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状の脂肪族炭化水素ラジカルを表す)のモノマーに由来するモノマー単位と、
c)任意に、0%より大きくかつ24%以下のいずれかのモル比の、遊離型、部分的に塩化された若しくは完全に塩化された強酸官能基を含むモノマーに由来するモノマー単位、又は式(II):
CH=C(R)−C(=O)−Y−(CH−N(R)(R) (II)
(式中、mは1〜4の数を表し、YはO又はNHを表し、Rは水素原子又はメチルラジカルを表し、R及びRは、同一又は異なって、メチルラジカル又はエチルラジカルを表す)のモノマーに由来するモノマー単位と、
d)任意に、0%より大きくかつ1%以下のモル比のジエチレン系又はポリエチレン系架橋モノマーと、
を含む、直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーである。
【0012】
分枝状ポリマーとは、それらが水に溶解すると、低速度勾配で極めて大きい粘度をもたらす高次の絡み合い状態が得られるような、ペンダント鎖を有する非直鎖ポリマーを指す。
【0013】
架橋されたポリマーとは、水に不溶性であるが、水に膨潤性であるため、化学ゲルが得られる、三次元網目構造の状態でもたらされる非直鎖ポリマーを指す。
【0014】
本発明による方法によって得られるポリマーは、架橋単位及び/又は分枝状単位を含んでいてもよい。
【0015】
特定の態様によれば、本発明の主題は、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位が、N,N−ジメチルアクリルアミド(以下、DMAMと称する)又はN,N−ジエチルアクリルアミド(以下、DEAMと称する)に由来する、上記に規定されるポリマーである。
【0016】
本発明に関連して、本発明の主題となるポリマーを製造するのに適切な式(I)のモノマーは、界面活性を示す。該モノマーは、疎水性支持体上に吸着することができるほど十分に疎水性である鎖と、必要に応じて誘引又は反発により生体分子と相互作用することができる十分親水性な部分とを有していなければならない。
【0017】
上記に規定される式(I)中、二価ラジカル:
−[(CH−CH(R)−O]
は特に:
エトキシル基からのみ構成される鎖(R=H、m>0)、
又は、プロポキシル基からのみ構成される鎖(R=CH、m>0)、
又は、ブトキシル基からのみ構成される鎖(R=C、m>0)、
又は、エトキシル、プロポキシル及び/又はブトキシル基から選ばれる、少なくとも2つの異なる基から構成される鎖のいずれかを表している。
【0018】
この鎖が種々の基から構成される場合、種々の基は連続的に又はランダムにこの鎖に沿って全て分布する。
【0019】
上記に規定される式(I)中のRについての8個〜30個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖脂肪族炭化水素ラジカルは、より詳細には下記のものを指すものである:
直鎖第一級アルコ−ルに由来するラジカル、例えばオクチル、ペラルゴン、デシル、ウンデシル、ウンデセニル、ラウリル、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、オレイル、リノレイル、ノナデシル、アラキジル、ベヘニル若しくはエルシルアルコ−ル、若しくは1−トリアコンタノ−ルに由来するラジカル等、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、10−ウンデセニル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、9−オクタデセニル、10,12−オクタデカジエニル、ノナデシル、エイコシル、ドコシル、13−ドコセニル若しくはトリアコンチルラジカル;又は、
一般式:
CH−(CH−CH[CH−(CHp−2]−CHOH、
(式中、pは2〜14の整数を表す)に対応する分枝状1−アルカノ−ルであるゲルベアルコ−ルに由来するラジカル、例えば2−エチルヘキシル、2−プロピルヘプチル、2−ブチルオクチル、2−ペンチルノニル、2−ヘキシルデシル若しくは2−オクチルドデシルラジカル等;又は、
一般式:
CH−CH(CH)−(CH−CHOH、
(式中、qは2〜26の整数を表す)に対応するイソアルコ−ルに由来するラジカル、例えば4−メチルペンチル、5−メチルヘキシル、6−メチルヘプチル、15−メチルペンタデシル若しくは16−メチルヘプタデシルラジカル等;又は、
2−ヘキシルオクチル、2−オクチルデシル若しくは2−ヘキシルドデシルラジカル。
【0020】
上記に規定される式(I)中のRについての8個〜30個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状の脂肪族炭化水素ラジカルはより詳細には、12個〜22個の炭素原子を含むアルキルラジカルを指すものである。
【0021】
上記に規定される式(I)中、nはより詳細には4〜25の数を表すものである。
【0022】
本発明の主題は特に詳細には、式(I)のモノマーに由来するモノマー単位が、
ペンタコサエトキシル化ベヘニルメタクリレート、Rがメチルラジカルを表し、Rが水素原子を表し、Rがドコシルラジカルを表し、かつnが25に等しい、上記に規定される式(I)の化合物(以下、BEM−25(EO)と称する)、又は、
エイコサエトキシル化ステアリルメタクリレート、Rがメチルラジカルを表し、Rが水素原子を表し、Rがステアリルラジカルを表し、かつnが20に等しい、上記に規定される式(I)の化合物(以下、SMA−20(EO)と称する)、
に由来する、上記に規定されるポリマーである。
【0023】
強酸官能基を含むモノマーは、本発明に関連して、特に、スルホン酸官能基又はホスホン酸官能基と、少なくとも1つの不飽和炭素−炭素結合とを含むアクリル系モノマーを指すものである。
【0024】
強酸官能基が部分的に又は完全に塩化されている場合、それはより詳細には、該当のナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩となる。
【0025】
本発明の別の特定の態様によれば、上記に規定されるポリマーは、遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された強酸官能基を含むモノマーに由来するモノマー単位を含む場合、これらモノマー単位が、遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸(以下、ATBSと称する)に由来することを特徴とする。
【0026】
本発明の2つの特定の態様によれば、上記に規定される直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーは、式(II)のモノマーに由来するモノマー単位を含む場合、上記式(II)中、mが2又は3に等しく、及び/又はR及びRがそれぞれメチルラジカルを表すことを特徴とする。
【0027】
これらの特定の態様によれば、上記に規定されるポリマーは、上記式(II)のモノマーに由来するモノマー単位を含む場合、これらモノマー単位が、
ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、DMAEMAと称する)、又は、
N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミド(以下、DMAPAAと称する)、
に由来することを特徴とする。
【0028】
本発明の別の特定の形態によれば、後者の主題は、100mol%当たり、
a)99%以上かつ99.9%以下のモル比の、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ1%以下のモル比の、式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[(CH−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマーと、
を含む、上記に規定されるポリマーである。
【0029】
本発明の別の主題は、より詳細には、100mol%当たり、
a)アルキルラジカルがそれぞれ1個〜4個の炭素原子を含む、80%以上かつ95%以下のモル比の、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ0.5%以下のモル比の、式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[(CH−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマー由来のモノマー単位と、
c)4%以上かつ19%以下のモル比の、遊離型、部分的に塩化された又は完全に塩化された2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸に由来するモノマー単位と、
を含む、上記に規定されるポリマー、及び、
100mol%当たり、
a)アルキルラジカルがそれぞれ1個〜4個の炭素原子を含む、80%以上かつ95%以下のモル比の、N,N−ジアルキルアクリルアミドに由来するモノマー単位と、
b)0.1%以上かつ0.5%以下のモル比の、式(I’):
CH=C(CH)−C(=O)−O−[(CH−CH−O]n’−R’ (I’)
(式中、n’は4〜25の数を表し、R’は、12個〜22個の炭素原子を含む飽和又
は不飽和の直鎖又は分枝状のアルキルを表す)のモノマー由来のモノマー単位と、
c)4%以上かつ19%以下のモル比の、ジメチルアミノエチルメタクリレート、又はN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]アクリルアミドに由来するモノマー単位と、
を含む、上記に規定されるポリマーである。
【0030】
本発明の主題は特に詳細には下記のポリマーである:
DMAM/BEM−25(EO)コポリマー、
DMAM/ATBS(ナトリウム塩)/BEM−25(EO)コポリマー、及び、
DMAM/DMAPAA/BEM−25(EO)コポリマー。
【0031】
本発明の別の主題は、上記に規定されるポリマーを製造する方法であって、
モノマーの全てを、撹拌しながら、水又は水/アルコール混合物中に投入すること、前記アルコールはより詳細には、メタノール、エタノール又はイソプロパノールから選ばれるものとする、
窒素による散布によって混合物を脱酸素化させること、
温度を50℃周辺に維持しながら、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(V50とも称する)等の水溶性ラジカル重合開始剤を、続いてそこに投入した後、モノマーが完全に消費されるまで重合を起こさせること、
を特徴とする、上記に規定されるポリマーを製造する方法である。
【0032】
別の態様によれば、本発明の主題は、疎水性材料から全て又は部分的に構成される表面を処理する方法であって、
上記に規定されるポリマーの水性、水性/有機又は有機溶液を上記表面に接触させて、インキュベートさせる段階a)と、
上記表面上に吸着しなかったポリマーを該表面から除去するように、段階a)によって得られる該表面をすすぐ段階b)と、
任意に、上記段階b)によって得られるすすがれた表面を乾燥させる段階c)と、
を含むことを特徴とする、「静的な前処理」として通常知られている疎水性材料から全て又は部分的に構成される表面を処理する方法である。
【0033】
上記に規定される方法に用いられる疎水性材料はポリマー材料、例えばCOC、COP、より一般にはポリ(シクロオレフィン)、PMMA、より一般にはアクリル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、シリコーン、幾つかのポリウレタン、より一般には、低温条件下又は高温条件下で重合可能な、熱成形材料の任意の種類の樹脂であるのが好ましい。
【0034】
好ましくは、上記に規定される方法によって処理すべき表面は、チップ、マイクロ流体システム、マイクロシステム又はラボオンチップの表面とする。
【0035】
ポリマーの有機溶液は、上記に規定される方法の段階a)中、有機溶媒に溶解させた上記ポリマーの溶液を指すものである。
【0036】
水性/有機溶液は、上記に規定される方法の段階a)中、水と水混和性の有機化合物との混和性混合物に溶解させた上記ポリマーの溶液を指すものである。かかる水性/有機混合物は、特にクロマトグラフィ用の移動相として当業者に既知のものである。
【0037】
上記に規定される方法の好ましい実施形態によっては、上記有機化合物は、純物質で(pure)又は本発明によるポリマーを溶解する水との混合物として使用され、アルコール、エステル、ケトン、カルボン酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又は当業者に既知の任意の他の有機溶媒とすることができる。
【0038】
上記に規定される方法の別の好ましい形態によれば、上記有機化合物は、処理すべき表面を構成する材料用の非溶媒である。
【0039】
上記に規定される方法の好ましい実施形態によっては、上記有機化合物は極性化合物である。
【0040】
上記に規定される方法の特に好ましい実施形態によれば、上記有機化合物はエタノールである。
【0041】
上記に規定される方法において、チップとは特に、およそ0.1cm〜1cmの厚みを有する、およそ5cm〜50cmのプレートを指すものである。
【0042】
上記に規定される方法において、マイクロ流体システムとは、1ミリメートル未満の寸法を少なくとも一方向に有する少なくとも1つの閉じた又は開いたマイクロキャビティを含むシステムを指すものである。
【0043】
あてがわれる目的に応じて、上記チップ又は上記システムは、上記に規定される処理方法の段階a)の前に、疎水性材料から全て又は部分的に構成される表面上に、1mm未満の少なくとも1つの寸法を一方向に示すチャネルを作成するように、成形又はエッチングする段階d)にかけてもよい。
【0044】
上記に規定される上記方法の主題は特に、上記表面の湿潤性、特に水とのその接触角の改変、及び/又はその電気浸透特性の改変、及び/又は構成要素(分子又は微粒子)に対するその吸着特性の改変である。
【0045】
上記に規定される方法は、構成要素、例えば有機分子、生体分子、例えば核酸、タンパク質、ペプチド、代謝産物、医薬有効成分、グリコールペプチド、多糖類、又は更には細胞、ウイルス、粒子、コロイド若しくはミセル等のマイクロメートル若しくはナノメートルのサイズの物体に対する疎水性表面の接着性を改変させるのに特に有益である。
【0046】
本発明は有益なことに、上記構成要素の付着を低減させるための多数の用途に使用することができる。しかしながら、本発明は、例えば、細胞が自然には付着しないと考えられる疎水性表面への細胞の付着を促すために、カチオン性ポリマーの使用により、又は、それに対して、幾つかの細胞の付着を促すことができる、ポリリジン若しくはフィブロネクチン等のカチオン性ポリマーの吸着を促すために、アニオン性ポリマーの使用により、反対の電荷の構成要素の固着を疎水性表面上に誘起することによって、幾つかの構成要素の付着を容易にさせるのにも有益とすることができ、又は電気浸透特性も改変させることができる。
【0047】
このため、本発明の別の主題は、水性、水性/有機又は有機溶液中に存在する構成要素と疎水性材料から全て又は部分的に構成される表面との間の相互作用を改変させるための作用物質としての、上記に規定されるポリマーの使用である。
【0048】
上記水溶液中に存在する構成要素は特に、核酸、タンパク質、ペプチド、代謝産物、医薬有効成分、グリコペプチド又は多糖類等の有機分子又は生体分子のみを指すものでなく、細胞、ウイルス、粒子、コロイド又はミセル等のマイクロメートル又はナノメートルのサイズの物体も指すものである。
【0049】
上記に規定される使用によるこの実施形態は特に、その処理の間、ポリマーが、表面上
に吸着される部分と、溶液中に存在する部分とで永久的に平衡状態にあり、上記表面上でポリマーが置き換えられることを可能とする、「ダイナミックコーティング(dynamic coating)」として知られる表面処理の原理に対応するものである。この有利な実施形態は、場合によっては、表面処理の寿命を延長させることを可能にする。ダイナミックコーティング中、使用されるポリマーの濃度は好ましくは、静的な前処理に使用されるものよりも低く、好ましくは10−6重量%〜0.1重量%、好ましくは10−4重量%〜0.01重量%である。
【0050】
実施形態によっては、2つの形態の利点を合わせるために、上記ダイナミックコーティングを、静的な前処理と併用することができる。
【0051】
別の好ましい実施形態によれば、静的な前処理又はダイナミックコーティングに使用される溶液中のポリマーの濃度は、その臨界ミセル濃度(すなわちCMC)から求められる。
【0052】
CMCを求める方法は、当業者に既知のものであり、文献に記載されている。それ故、静的な前処理では、有利な実施形態では、ポリマーを、表面処理に使用される溶液中、0.1×CMC〜100×CMC、より好ましくは1×CMC〜50×CMCの濃度で使用する。ダイナミックコーティングでは、使用されるポリマーの濃度は好ましくは、10−3×CMC〜10×CMC、好ましくは10−2×CMC〜CMCとなると考えられる。
【0053】
本発明の別の主題は、10−4%〜10%の重量濃度で、上記に規定される直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーを含む、水性、有機又は水性/有機溶液である。
【0054】
特定の形態によれば、上記に規定される上記水性、有機又は水性/有機溶液は、上記直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーの濃度が、10−4重量%〜1重量%、好ましくは10−3重量%〜0.1重量%となる水溶液である。
【0055】
別の特定の形態によれば、上記に規定される上記水性、有機又は水性/有機溶液は、上記直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーの濃度が、10−4重量%〜10重量%、好ましくは10−2重量%〜1重量%となるエタノール溶液である。
【0056】
最後に、本発明の主題は、キットであって、
a)上記に規定される直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーを含む、少なくとも1つの容器と、
b)上記直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーを含む上記水性、有機又は水性/有機溶液を調製することができかつ調製することを意図した液体ベースを含む、少なくとも1つの容器と、
を含む、キットである。
【0057】
このキットを用いてこのように調製される、上記直鎖、分枝状又は架橋されたポリマーを含む上記水性、有機又は水性/有機溶液は続いて、特に、処理表面をより親水性とするために、又は構成要素に対するその吸着特性を改変させるために、又はその電気浸透特性を改変させるために、上記に規定される処理方法に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】マイクロチャネルの設計を表す図。
図2a】HEC+PLL溶液で培養されたMCF−7細胞の顕微鏡写真。
図2b】カチオン性DMAM−C22処理剤(PLLを含まず)で培養されたMCF−7細胞の顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、本発明を限定するものではない。
【0060】
実施例1:DMAM/BEM−25(EO)コポリマー(ポリマー1)の調製
ポリマー1を次のように調製する。
モノマーを、下記表に示される量において水中で混合させる。
【0061】
【表1】
【0062】
45分間の脱酸素化後、反応媒体を50℃とし、V50をリアクタに投入した。反応媒体はわずかに白化し、粘性となる。およそ3.6℃の温度の上昇が記録される。反応を2時間後に停止させる。濾過、洗浄及び乾燥後、ポリマー1が得られる。ポリマー1は次のように特性決定する:
外観:曇った粘性液体;
25℃におけるポリマー1の3重量%水分散液の粘度(Brookfield(商標)RVT、スピンドル3、速度:5rpm(revolutions per minute)):440mPa・s;
25℃におけるポリマー1の3重量%水分散液の粘度(CAP2000(商標)、コーン1、速度:50rpm):196mPa・s;
N,N−ジメチルアクリルアミドの残存含有率:0.05重量%未満;
得られるポリマーの重量:100g。
【0063】
実施例2及び実施例3:ポリマー2及びポリマー3の調製
ポリマー2及びポリマー3が得られるように、使用する様々な化合物の重量含有率は下記表に示されるように変更して、実施例1と同じ操作条件下で他の試験を行った。
【0064】
【表2】
【0065】
操作条件は、先行の実施例1のものと同一である。ポリマー2及びポリマー3は次のように特性決定する。
【0066】
ポリマー2
外観:曇った粘性液体;
25℃におけるポリマー2の3重量%水分散液の粘度(Brookfield(商標)RVT、スピンドル3、速度:5rpm):2240mPa・s;
N,N−ジメチルアクリルアミドの残存含有率:0.05重量%未満;
得られるポリマーの重量:100g。
【0067】
ポリマー3
外観:白色の高粘性液体;
25℃におけるポリマー3の3重量%水分散液の粘度(Brookfield(商標)RVT、スピンドル3、速度:5rpm):3800mPa・s;
N,N−ジメチルアクリルアミドの残存含有率:0.05重量%未満;
得られるポリマーの重量:100g。
【0068】
実施例4:DMAM/ATBSNa/BEM−25(EO)アニオン性ポリマー(ポリマー4)の調製
ポリマー4を次のように調製する。
モノマーを、下記表に示される量において水中で混合させる。
【0069】
【表3】
【0070】
45分間の脱酸素化後、反応媒体を50℃とし、V50をリアクタに投入した。反応媒体は開始剤の投入後急速に白化し、粘性となる。撹拌を弱める。2時間の反応後、加熱を停止して、生成物を取り出す前に2時間放置する。DMAM含有率は0.05%未満であり(S52−385B法)、これは、重合反応が実際に起こったことを意味している。
【0071】
実施例5:DMAM/DMAPAA/BEM−25(EO)カチオン性ポリマー(ポリマー5)の調製
【0072】
【表4】
【0073】
使用される手順は上記のものとする。反応媒体をpH=7に維持すると、それは急速に白化し、粘性となる。1時間30分間の反応後、加熱を停止して、反応媒体を一晩冷やし
ておく。DMAM含有率は0.05%未満であり、これは、重合反応が実際に起こったことを意味している。
【0074】
実施例6:COCから作られている表面の処理
Topas Advanced Polymersによって販売されている一連のTopas(商標)8007プレート(5cm×5cm×5mm)を、アセトン及びイソプロパノールで洗浄した後、圧縮空気で乾燥させる。
【0075】
Life Technologiesによってリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-Buffered Saline)(PBS、pH=7.4)の名称で販売されているpH=7.4のリン酸バッファ中に0.01重量%のポリマー1を含む、200マイクロリットルの、本発明による処理溶液Aを続いて、プレートの片面に均一に広げた後、このように処理した表面を、周囲温度で1時間インキュベートさせる。
【0076】
別の実験では、エタノール中に0.1重量%のポリマー1を含む、200マイクロリットルの、本発明による処理溶液Bを、第2のプレートの片面に均一に広げた後、このように処理した表面を、周囲温度で1時間インキュベートさせる。
【0077】
いずれの場合も、吸着していないポリマーを除去するためにプレートを続いて浸透水(osmosed water)ですすぎ、その後、圧縮空気で乾燥させる。
【0078】
このように作製したプレートは、それらのその後の使用への準備が整った状態である。
【0079】
2つの新たなプレートも、使用するポリマーがポリマー2である以外は溶液A及び溶液Bと同一の処理溶液A及び処理溶液Bを用いて同じプロトコルに従って作製する。
【0080】
実施例7:接触角の測定
溶液A、B、A及びBで処理したプレート上の水の接触角を、光学ゴニオメータを用いて測定した。
【0081】
3マイクロリットルの一滴の水を、シリンジを用いて滴下し、その形成中の液滴の画像を高解像度カメラによってかすめ入射角で(in grazing incidence)解析した後、ソフトウェアを用いて加工処理した。
【0082】
本来同じ供給源に起因するものの、本発明のポリマーの処理にかけていないCOC表面を対照として使用する。
【0083】
あらゆる場合において、エラーバーを求めるために10個の測定結果の平均をとっている。以下の表に記録した結果から、ポリマー及び実施形態は全て、接触角を著しく低減させることを可能とする、すなわち初めに疎水性であった表面をより顕著に湿潤させたことが明らかである。
【0084】
【表5】
【0085】
実施例8:マイクロチャネルの処理
マイクロチャネルの作製
十字を有するアルミニウムモールドを、Minitec Machinery Corporationの装置及び100μmの直径を有する切削工具を用いた微細機械加工によって作製する。
【0086】
マイクロチャネルの設計を図1に表す。それぞれの枝の長さは次のとおりである:
枝i:4mm;枝ii:4mm;枝iii:4mm;枝iv:50mm。
【0087】
実施例7に示されるCOCプレートを、加熱した油圧プレス(SPECAC(商標))を用いてモールド(母材)と接触させる。50kPaの圧力において130℃で10分間エンボス加工を行う。続いて、同じ圧力下で40℃まで冷却させた後、プレスを開き、マイクロチャネルが設けられたプレートを取り出す。穿孔機を用いてリザーバに穿孔をあけ、プレートを超音波イソプロパノール浴内で洗浄した後、乾燥させる。
【0088】
COCフィルムを用いてマイクロチャネルを続いて密閉させる。マイクロチャネルを設けるプレート及びフィルムを、シクロヘキサン蒸気に曝すために、蓋をしたペトリ皿に入れたシクロヘキサン浴上に4分間置いた後、60℃、50kPaで20分間互いに加圧させる。チャネルの幅は100μmであり、それらの深さは50μmである。十字の各枝の先端にあるリザーバは、3mmの直径及び5mmの深さを有する。チップ内の流体を、十字の最も長い枝の先端から移動させるために、Tygon(商標)チューブの一方を、チップのリザーバに接続し、他方はMFCS Fluigent(商標)圧力制御システムのリザーバに接続する。
【0089】
水溶液(A又はA)によるマイクロチャネルの処理は、次のとおりに行う:
初めに、マイクロチャネルに、圧力((ΔP=3.5×10Pa(350mbar))で濾過した500μLのエタノールを充填する;
続いて、2×10Pa(200mbar)で500μLの1×PBSバッファによりマイクロチャネルをすすぐことによって、エタノールを除去する;
その後、500μLの処理溶液を10Pa(100mbar)の圧力で注入し、流動することなく室温で1時間インキュベートさせる;
最後に、チャネルを、10Pa(100mbar)の推進圧力において500μLのPBSですすぐ。
【0090】
アルコール溶液(B又はB)によるマイクロチャネルの処理は、次のとおりに行う:
ポリマーを含むアルコール溶液を上述のものと同じ条件下で直接注入する;
チャネルを、真空下で乾燥させた後、PBS水溶液ですすぐ。
【0091】
実施例9:実施例8で作製したマイクロチャネルにおける電気浸透性の測定
Yasui T.他、「プラスチックチップ上における非変性タンパク質のマイクロチップ電気
泳動用の低粘度ポリマー溶液の特性決定(Characterization of low viscosity polymer solutions for microchip electrophoresis of non-denatured proteins on plastic chips)」、Biomicrofluidics, Vol. 5, Issue 4, page 044114に記載されているように、電流測定法によって、電気浸透特性を測定する。
マイクロチャネル、サンプルリザーバi、バッファリザーバii及びサンプル排出口リザーバiiiに、第1のリン酸バッファ20mM(pH=7.5)を充填する;
バッファ排出口リザーバivに、5倍に希釈したバッファ、すなわち、4mM(pH=7.5)を充填する;
電圧源HVS448 1500V Labsmith(Livermore)を使用して、270V/cmの電場を印加し、電気浸透性によってバッファの前線(buffer front)をバッファ排出口リザーバから移動させ、Labsmithにより供給されるソフトウェアを用いて電流を操作中に測定する;
プラトーに達するまでに必要な時間を用いて、電気浸透性の直鎖比率を測定する。この実験のために、3つの独立した測定を行った。
【0092】
以下の表に記録した結果から、あらゆる場合において、本発明による処理によって、電気浸透性を低減させることが可能となることが示され、これは、マイクロチャネルの表面にある親水性ポリマーの層の永続的な存在に特徴づけられるものである。
【0093】
【表6】
【0094】
実施例10:COCから作られているマイクロチャネルの溶液Bによる処理の、タンパク質の吸着に対する効果
モールドの形状を、3cmの長さ及び500μmの幅を有する単純な直線チャネルを示すものとした以外は実施例8に記載されるものと同じプロトコルに従って、単純な直鎖チャネルを作製した。
【0095】
実施例8に記載したプロトコルに従った、溶液Bによるマイクロチャネルの表面の処理後、マイクロチャネルを、500μLの1×PBSの循環によって充填する。BSA(Life Technologies(商標)による蛍光性ウシ血清アルブミン)の0.1重量%懸濁液溶液(1×PBS中)をその後、チャネルに10Pa(10mbar)の圧力で投入し、周囲温度で10分間インキュベートさせる。チャネルを続いて、10mbarの圧力下において、タンパク質を含まない1×PBSで10分間すすぐ。Coolpix Roper Scientific(商標)カメラ、HGFIL(商標)130Wランプ及び1セットのFITC(商標)フィルタを備えるNikon Eclipse(商標)顕微鏡を200msの固定露光時間で用いて、インキュベーション前後のマイクロチャネルの蛍光を記録する。3つの異なる測定を、各条件について異なる点において行い、シグナルをカメラのバックグラウンドノイズ及びCOCの自己蛍光(マイクロチャネルの外側で記録される)で補正した。処理の可逆的な性質を評価するために、また表面が悪影響を受けていないことを確認するために、結果に重大な変化を生じさせることなく、タンパク質を固着させ、PBSですすぎ、アルコールで乾燥させた後に、再度処理するというサイクルを3回行った。以下の表に記録したものから、本発明による処理が、表面、特に疎水性表面に強く付着することが知られているこのタンパク質の吸着を大きく低減させることが明らか
である。
【0096】
【表7】
【0097】
実施例11:マイクロチャネル内におけるミクロ粒子の吸着
ビーズのコロイド安定性を確実なものとするために、蛍光タンパク質の溶液を、0.1%のTween 20(商標)を豊富に含むPBSに溶解させた0.13ビーズ/μLの濃度における70μLのマイクロビーズ溶液(「Dynabeads Epithelial Enrich」)で置き換えた以外は実施例10に関するものと同じプロトコルを使用した。
【0098】
初めに、この溶液を100mbarで投入し、その後、ビーズの沈降を促すよう1μL/分の流量とするために圧力を低減した。最後に、吸着していないビーズを、300mbarの圧力において、0.1%のTween 20(商標)を豊富に含むPBSの溶液ですすぐことによって除去した。
【0099】
未処理のマイクロチャネル及び溶液Bで前処理したマイクロチャネルの画像を、10倍の対物レンズを備える実施例10に記載したものと同じ顕微鏡を用いて撮り、ビーズを計数するために、自動処理にかけた。表10.1の3段目に挙げられる結果から、処理が、ミクロ粒子の吸着を飛躍的に低減させることが示される。
【0100】
実施例12:ポリマー1及びポリマー2のCMCの決定
CMCは、10−8%〜1%で様々な値をとる1×PBSバッファにおけるポリマーの一連の希釈溶液を用いたウィルヘルミー(Wilhelmy)プレート法(K10装置、Kruss)によって求める。2つのポリマーについて、この方法で求めたCMCは、ポリマーの0.5重量%〜2×10−3重量%である。
【0101】
実施例13:細胞の付着を容易にするための、帯電ポリマータイプの本発明によるポリマーの使用
本研究は、145μmの厚みを有するTopas 8007 COCシートからなるCOCから作られている開曲面上で行った。開曲面を、2mm×4mmの寸法で切り出し、顕微鏡の下でのその取扱いを容易にするために、UV照射により硬化し得る接着剤(NOA81、Norland Optical Adhesive)で、StarFrostスライドガラスに接着させた。UVランプ(Fisher Scientific)による照射時間(insolation time)は10分を使用する。
【0102】
処理剤の選択:
現行の技術水準の参照として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC、平均分子量 約90000、Sigma Aldrich)と、ポリ−L−リジン(PLL、分子量:150000〜300000、濃度:0.01%、滅菌濾過済、Sigma Aldrich)との二重層の形態の処理剤を利用する。HEC処理剤は、生体適合性であり、COCに吸着して、親水性とする(処理したCOCの接触角=56°)。PLLは、HECで処理したCOCに吸着し、その上に、ガラスへの細胞の付着を改善させる正の電荷をもたらす。
【0103】
本例では、2つの本発明による帯電ポリマーを使用した:
DMAM−C22 Mポリマーの別のバッチは、10%のアニオン性電荷(スルホン酸ナ
トリウム)でグラフト化し、ポリマーの第3のバッチは、10%のカチオン性電荷(塩酸第三級アミンタイプ)でグラフト化させた。それ故、アニオン性ポリマーを使用して、PLLを、COCの表面にくっつけることができ、カチオン性ポリマーを単独で使用することも可能となった。
【0104】
スライドの作製:
COCの表面を処理するために、以下の溶液を調製した:
溶液1:1×PBS中の2重量%のHEC
溶液2:Milli−Q水中の0.1重量%の中性DMAM−C22 M(実施例3に記載のポリマー3)
溶液3:Milli−Q水中の0.1重量%のアニオン性DMAM−C22(実施例4に記載のポリマー4)
溶液4:Milli−Q水中の0.1重量%のカチオン性DMAM−C22(実施例5に記載のポリマー5)。
【0105】
ポリマー溶液を、COC上で一晩インキュベートした後、50μLの1×PBSで一回すすぎ、その後、1×PBS浴中で5分間すすいだ。
【0106】
溶液1、溶液2及び溶液3で処理したCOCスライドを続いて、5%のCOを含む湿潤雰囲気の恒温器内において37℃でPLLの溶液で2時間処理した後、1×PBSですすいだ。
【0107】
溶液4で処理したCOCスライドを、PLLを用いずに直接使用した。
【0108】
撮像を容易にするよう50μLの体積の細胞を局在化するために、また細胞の付着のための表面積を限定するために、スライド毎に、シリコーンマイクロチャンバを接着した。
【0109】
2000細胞/μLの濃度の上皮細胞の10μLの溶液(MCF−7株、乳癌)を、各チャンバに注入した。
【0110】
5%のCOを含む湿潤雰囲気の恒温器内で24時間培養した後、基材に付着しなかった細胞を除去するために、スライドを、1×PBSで2回洗浄した。COCに付着した細胞を続いて、3.7%のパラホルムアルデヒド溶液中で30分間固定させた。固定後、スライドを1×PBSで2回洗浄した。
【0111】
EpCAM−FITC標識化+DAPI/Vectashield:
処理の効果を比較するために、蛍光で標識化した後にスライドにくっつけた細胞を、蛍光顕微鏡によって観察した。細胞膜を、抗EpCAM抗体(20μLのEpCAM Ab+500μLのPBS+1%BSA)で、周囲温度で30分間標識化した。続いて、第1の洗浄を1%のBSAを含む50μLの1×PBS溶液で行った後、1×PBSの浴内において周囲温度で5分間洗浄した。最後に、一滴のDAPI/Vectashieldを、細胞の各スポットに塗布し、50mm×24mmの寸法を有するカバーガラスで全て被覆した。蛍光画像(DAPI+FITC)が得られるまで、サンプルを4℃で保持した。
【0112】
結果:
HEC+PLL溶液は、COCの表面への細胞の付着を改善させる。他方、この処理剤は、MCF−7細胞の培養に適しないように思われる。本発明者らによる実験では、本発明者らは、COCに付着する細胞の低い密度を観測した。多くの細胞は、破裂したか、又はアポトーシスプロセスを経たと思われ、EpCAM標識化によって視認できる膜は、図2aに見られるように明確に定義されることも、観測されることもない。
COC+DMAM−C22 M(0.35%)+PLLでは、FITCチャネル内の高バックグラウンドノイズ、細胞の好適な密度ではあるが多くが溶解した細胞又はアポトーシス細胞であることが観測される。この処理剤は、細胞をCOCにくっつけるための良好な候補となるが、それらの培養についてはそうではないと思われる。
COC+アニオン性DMAM−C22+PLLでは、バックグラウンドノイズが低いことから、この処理剤が抗体の非特異的な吸着を促さないことが示される。しかしながら、COCの表面にくっつく細胞の密度は低いため、細胞の基材への付着が困難であることが示唆される。準アポトーシス(Semiapoptotic)細胞ではあるが、溶解していない細胞も観察された。
カチオン性DMAM−C22処理剤(PLLを含まず)は、付着及びMCF−7細胞の分裂を促すのに好適なものと思われる。好適な細胞密度、及び分裂細胞に特徴的な、細胞のダブレット又はマルチプレットが、図2bに観察される。
【0113】
それ故、本発明による帯電ポリマーは、細胞の付着を改善させるのにカチオン性ポリマーと組み合わされるか又は細胞の培養を促すのに単独で使用される、アニオン性形態で現行の技術水準に対する改善に寄与することができることが見出された。
図1
図2a
図2b