特許第6370596号(P6370596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6370596漏水監視システム、漏水監視方法、漏水監視装置、および漏水監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6370596
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】漏水監視システム、漏水監視方法、漏水監視装置、および漏水監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/28 20060101AFI20180730BHJP
   F17D 5/02 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   G01M3/28 B
   G01M3/28 A
   F17D5/02
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-93112(P2014-93112)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-210225(P2015-210225A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 諒
(72)【発明者】
【氏名】横川 勝也
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】杉野 寿治
【審査官】 安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−064623(JP,A)
【文献】 特開2004−125628(JP,A)
【文献】 特開昭62−039741(JP,A)
【文献】 特開2013−210347(JP,A)
【文献】 米国特許第05708195(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00−3/40
F17D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配水管路網における複数の箇所に取り付けられ、前記複数の箇所のそれぞれの水圧を計測する複数の圧力計と、
前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の変化に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定する距離差推定部と、
前記距離差推定部により推定された距離差に基づいて、前記配水管路網における漏水箇所を推定する漏水箇所推定部と、
を備え、
前記距離差推定部は、前記水圧の変化が同心円状に伝搬すると仮定して、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定し、
前記漏水箇所推定部は、前記距離差推定部により推定された距離差と前記複数の圧力計同士の距離と前記漏水個所の存在領域とを変数に含む仮想的な双曲線を生成し、前記生成した仮想的な双曲線に基づいて漏水箇所の存在領域を推定し、前記推定した漏水箇所の存在領域と、前記配水管路網の配置情報とに基づいて、前記推定した漏水箇所の存在領域内で、前記配水管路網における漏水箇所を推定する、
漏水監視システム。
【請求項2】
前記距離差推定部は、前記時間差に圧力伝搬速度の上限値と下限値をそれぞれ乗算して前記距離差の上限値と下限値を導出し、
前記漏水箇所推定部は、前記距離差推定部により推定された距離差の上限値と下限値に対応する仮想的な双曲線をそれぞれ生成し、生成した双曲線に挟まれる領域を、前記漏水箇所の存在領域として推定する、
請求項記載の漏水監視システム。
【請求項3】
前記時間差を導出する時間差導出部であって、前記時間差の上限値と下限値を導出する時間差導出部を備え、
前記距離差推定部は、前記時間差の上限値と下限値のそれぞれに圧力伝搬速度を乗算して前記距離差の上限値と下限値を導出し、
前記漏水箇所推定部は、前記距離差推定部により推定された距離差の上限値と下限値に対応する仮想的な双曲線をそれぞれ生成し、生成した双曲線に挟まれる領域を、前記漏水箇所の存在領域として推定する、
請求項1または2記載の漏水監視システム。
【請求項4】
前記配水管路網に流入する水の流量を計測する流量計と、
前記流量計により計測された水の流量の上昇タイミングから一定期間において前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧を抽出し、前記抽出した水圧に基づいて前記時間差を導出する時間差導出部と、
を備える請求項1からのうちいずれか1項記載の漏水監視システム。
【請求項5】
地図データを記憶する地図データ記憶部と、
前記漏水箇所推定部により推定された漏水箇所に関する情報を、前記地図データに基づく地図上に重畳させた表示画面を表示部に表示させる漏水箇所表示制御部と、
を備える請求項1からのうちいずれか1項記載の漏水監視システム。
【請求項6】
前記配水管路網に流入する水の流量を計測する流量計と、
過去の漏水発生時において前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下タイミングの前記流量計により計測された水の流量の上昇タイミングに対する遅れ時間と、漏水箇所との関係情報を記憶する漏水発生時データ記憶部を備え、
前記漏水箇所推定部は、漏水発生時データ記憶部により記憶された関係情報を加味して前記配水管路網における漏水箇所を推定する、
請求項1からのうちいずれか1項記載の漏水監視システム。
【請求項7】
前記配水管路網に流入する水の流量を計測する流量計と、
特定イベントが発生した際に前記流量計により計測される水の流量の変化パターンを記憶する特定イベントデータ記憶部と、を備え、
前記前記流量計により計測された水の流量の変化パターンが、前記特定イベントデータ記憶部により記憶された水の流量の変化パターンと合致している場合に、前記配水管路網における漏水箇所を推定しない、
請求項1からのうちいずれか1項記載の漏水監視システム。
【請求項8】
漏水監視装置が、配水管路網における複数の箇所に取り付けられた複数の圧力計により、前記複数の箇所のそれぞれの水圧を計測し、
漏水監視装置が、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の変化に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定し、
漏水監視装置が、前記推定された距離差に基づいて、前記配水管路網における漏水箇所を推定し、
漏水監視装置が、前記水圧の変化が同心円状に伝搬すると仮定して、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定し、
漏水監視装置が、推定された距離差と前記複数の圧力計同士の距離と前記漏水個所の存在領域とを変数に含む仮想的な双曲線を生成し、前記生成した仮想的な双曲線に基づいて漏水箇所の存在領域を推定し、前記推定した漏水箇所の存在領域と、前記配水管路網の配置情報とに基づいて、前記推定した漏水箇所の存在領域内で、前記配水管路網における漏水箇所を推定する、
漏水監視方法。
【請求項9】
配水管路網における複数の箇所に取り付けられた複数の圧力計により計測された、前記複数の箇所のそれぞれの水圧の変化に基づいて、漏水箇所から前記各圧力計までの距離差を推定する距離差推定部と、
前記距離差推定部により推定された距離差に基づいて、前記配水管路網における漏水箇所を推定する位置推定部と、
を備え、
前記距離差推定部は、前記水圧の変化が同心円状に伝搬すると仮定して、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定し、
前記漏水箇所推定部は、前記距離差推定部により推定された距離差と前記複数の圧力計同士の距離と前記漏水個所の存在領域とを変数に含む仮想的な双曲線を生成し、前記生成した仮想的な双曲線に基づいて漏水箇所の存在領域を推定し、前記推定した漏水箇所の存在領域と、前記配水管路網の配置情報とに基づいて、前記推定した漏水箇所の存在領域内で、前記配水管路網における漏水箇所を推定する、
漏水監視装置。
【請求項10】
コンピュータに、
配水管路網における複数の箇所に取り付けられた複数の圧力計により計測された、前記複数の箇所のそれぞれの水圧の変化に基づいて、漏水箇所から前記各圧力計までの距離差を推定させ、
前記推定させた距離差に基づいて、前記配水管路網における漏水箇所を推定させ、
前記水圧の変化が同心円状に伝搬すると仮定して、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定させ、
推定された距離差と前記複数の圧力計同士の距離と前記漏水個所の存在領域とを変数に含む仮想的な双曲線を生成し、前記生成した仮想的な双曲線に基づいて漏水箇所の存在領域を推定し、前記推定した漏水箇所の存在領域と、前記配水管路網の配置情報とに基づいて、前記推定した漏水箇所の存在領域内で、前記配水管路網における漏水箇所を推定させる、
漏水監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、漏水監視システム、漏水監視方法、漏水監視装置、および漏水監視プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
上水道処理施設で浄化された水は、配水管路網を経由して広域地域に分布する多数の需要家に供給される。したがって、配水管路網は、各需要家の日常生活を維持する上で必要なライフライン網としての役割を担っており、高い信頼性を持って恒常的に各需要家の水需要に応える必要がある。もし、配水管路網を構成する配水管路の一部に破断が生じた場合、道路の陥没や水没などの災害につながる。また、破断による直接的な被害に加えて、管路の亀裂、破断による漏水は総配水量に対する有効水量(有効率)の減少となるので、極力早い段階で管路の亀裂や破断個所を検知することが望ましい。
【0003】
従来、住民の通報等によって知らされる地上漏水以外の配水管路網内の地下漏水は、現場調査員が定期的に音聴棒等を用いて漏水有無調査(一次調査)を実施し、調査の結果、漏水可能性が高い箇所を特定し、その後重点的に相関式漏水探査機を用いて、その地域での詳細な漏水箇所特定(二次調査)を行っていた。また、これに関連し、振動計を予め配水管路に設置しておき、管路を伝搬してきた漏水音を検出し、その情報に信号処理を施すことで、漏水の有無および発生位置を特定する方法が知られている。しかしながら、従来の技術では、漏水箇所を正確に推定することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−125628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、より正確に漏水箇所を推定することができる漏水監視システム、漏水監視方法、漏水監視装置、および漏水監視プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の漏水監視システムは、複数の圧力計と、距離差推定部と、漏水箇所推定部とを持つ。複数の圧力計は、配水管路網における複数の箇所に取り付けられ、前記複数の箇所のそれぞれの水圧を計測する。距離差推定部は、前記複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の変化に基づいて、漏水箇所から前記複数の圧力計までの距離差を推定する。漏水箇所推定部は、前記推定部により推定された距離差に基づいて、前記配水管路網における漏水箇所を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態に係る漏水監視装置10を含む漏水監視システム1の構成を示す図。
図2】監視データ記憶部30に記憶されるデータの一例を示す図。
図3】漏水が発生した前後における流量と水圧の変化を例示した図。
図4】漏水箇所と圧力計の位置との関係を示す図。
図5】漏水箇所と推定される位置の集合(漏水箇所の存在領域)である双曲線Pを示す図。
図6】双曲線と管路網データに基づいて漏水箇所を推定する様子を示す模式図。
図7】第2の実施形態に係る漏水監視装置10Aを含む漏水監視システム1Aの構成を示す図。
図8】dmin<dmax<Lの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図。
図9】dmin<L<dmaxの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図。
図10】第3の実施形態に係る漏水監視装置10Bを含む漏水監視システム1Bの構成を示す図。
図11】0=dmin<dmax<Lの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図。
図12】第4の実施形態に係る漏水監視装置10Cを含む漏水監視システム1Cの構成を示す図。
図13】漏水発生時データ記憶部33により記憶される関係情報の一例を示す図。
図14】流量計により計測される水の流量の増加分が、特定イベントデータ記憶部34により記憶された水の流量の変化パターンに合致する様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の漏水監視システム、漏水監視方法、漏水監視装置、および漏水監視プログラムを、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る漏水監視装置10を含む漏水監視システム1の構成を示す図である。漏水監視システム1は、漏水監視装置10と、配水管路網を構成する配水ブロックWB−1に取り付けられた流量計80―1、および圧力計90―1(1)、90―1(2)、90―1(‥)と、配水ブロックWB−2(詳細図示を省略)に取り付けられた流量系80―2、および圧力計90―2(1)、90―2(2)、90―2(‥)と、テレメータ100とを備える。符号における「―」の後の数字(括弧内を除く)は、いずれの配水ブロックに取り付けられたかを表している。なお、各配水管路網PNに取り付けられる圧力計の数は2以上であればよく、上限は存在しない。この構成において、配水池70に蓄えられた水(浄水)が、ポンプやバルブ等によって家庭や事業所等を含む配水管路網PN―1、PN―2に供給される。
【0010】
配水管路網PN―1に流入する水の量は、流量センサ80―1によって検出される。流量センサ80―1は、検出した水の量を漏水監視装置10に送信する。また、圧力計90―1(1)、90―1(2)は、配水管路網PN―1における互いに異なる箇所に取り付けられ、検出した水圧を漏水監視装置10に送信する。
【0011】
同様に、配水管路網PN―2に流入する水の量は、流量センサ80―2によって検出される。流量センサ80―2は、検出した水の量を漏水監視装置10に送信する。また、圧力計90―2(1)、90―2(2)は、配水管路網PN―2における互いに異なる箇所に取り付けられ、検出した水圧を漏水監視装置10に送信する。
【0012】
各配水ブロックに設置された流量・水圧の計測データの収集には、テレメータ100が使用される。テレメータ100は、所要とする周期で配水ブロック内に設置される流量計および各圧力計で測定される流量及び水圧のデータを取り込み、データ伝送ラインに適したデータ形式に変換した後、データ伝送ラインを通して漏水監視装置10へ送信する。なお、データ伝送ラインとしては、無線、有線の他、公衆回線網、インターネット等の種々の伝送方式が考えられるが、遅延等が少なくなるよう流量計及び圧力計ごとに敷設される専用線を用いて、漏水監視装置10側へ送信することが望ましい。
【0013】
テレメータ100は、流量計及び各圧力計のビットデータを受信すると、送信元の配水ブロックに基づいて配水ブロック及び各配水ブロック内の流量計及び各圧力計等の対象を特定し、対象特定データを含む測定結果のビットデータを漏水監視装置10に送信する。なお、予めテレメータ100と漏水監視装置10との間で測定順序の取り決めを定めておけば、漏水監視装置10は、テレメータ100から最初に送信されてくるスタート(同期)信号を受け取った後、予め定められた配水ブロックの順序でビットデータを受信することにより、いずれの配水ブロック及びいずれの流量計及び各圧力計の測定データであるかを把握することができる。
【0014】
テレメータ100から送信されてくるデータは、漏水監視装置10のデータ収集部20およびデータ変換部22によって処理され、監視データ記憶部30に格納される。以下、漏水監視装置10の各機能部について説明する。漏水監視装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、HDDやフラッシュメモリ等のプログラムメモリとを備える。漏水監視装置10は、機能構成として、例えば、データ収集部20と、データ変換部22と、監視データ記憶部30と、管路網データ記憶部31と、地図データ記憶部32と、変化タイミング特定部40と、圧力計反応時間差導出部41と、距離差推定部42と、漏水箇所推定部43と、漏水箇所表示制御部44と、表示部50とを備える。データ収集部20、データ変換部22、変化タイミング特定部40、圧力計反応時間差導出部41、距離差推定部42、漏水箇所推定部43、および漏水箇所表示制御部44は、例えば、プログラムメモリに格納されたプログラムをCPUが実行することにより機能するソフトウェア機能部である。また、これらの機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェア機能部であってもよい。監視データ記憶部30および地図データ記憶部32は、例えば、ROMやRAM、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶装置によって実現される。なお、データ収集部20、データ変換部22、監視データ記憶部30、管路網データ記憶部31、地図データ記憶部32のうち一部または全部は、漏水監視装置10とは別体の装置の機能であってもよい。
【0015】
データ収集部20は、テレメータ100から各配水ブロック内の流量計および各圧力計に関する対象特定データを含むビットデータを収集する。データ変換部22は、テレメータ100が一定周期(例えば0.85[sec]毎)に収集した流量及び圧力に関するビットデータを収集した場合、0.85[sec]周期の各ビットデータから、計算処理に必要な周期、例えば1[sec]周期、5[sec]周期、1[min]周期毎の流量データ及び水圧データに変換し、変換後の受信時刻あるいは送信時刻と共に、監視データ記憶部30に記憶させる。
【0016】
図2は、監視データ記憶部30に記憶されるデータの一例を示す図である。図中、「測定主体」として表記されているものは、図1における流量計および圧力計の符号と対応している。また、図中の「時刻」は、データ変換部22により変換された後の受信時刻あるいは送信時刻を表している。すなわち、配水ブロック毎に、流量計、圧力計に分けて、流量データや水圧データが所定周期ごとに順次蓄積されていく。
【0017】
変化タイミング特定部40は、監視データ記憶部30に記憶されたデータを監視し、流量の立ちあがりタイミングを特定する。図3は、漏水が発生した前後における流量と水圧の変化を例示した図である。以下の説明では、配水ブロックWB―1について処理を行っていることを前提として説明する。例えば、「流量」は、流量計80―1により検出された値であり、水圧(1)は圧力計90―1(1)により検出された値であり、水圧(2)は圧力計90―1(2)により検出された値である。図示するように、漏水が発生すると水が流出するため、流量が上昇すると共に水圧が低下する。変化タイミング特定部40は、流量の上昇タイミングを特定し、圧力計反応時間差導出部41に提供する。
【0018】
変化タイミング特定部40は、例えば、所定周期で監視データ記憶部30に蓄積されるデータのうち、前回データと比べて所定値以上(または所定割合以上)上昇している流量のデータが存在するか否かを判定し、前回データと比べて所定値以上(または所定割合以上)上昇している流量のデータの時刻を、流量の上昇タイミングとして特定する。図3の例では、時刻T0が流量の上昇タイミングとして特定される。
【0019】
圧力計反応時間差導出部41は、水圧(1)と水圧(2)が低下した時間差(圧力計の反応時間差)ΔTを導出する。図3の例では、時刻T1が水圧(1)の低下タイミングであり、時刻T2が水圧(2)の低下タイミングであると考えられる。圧力計反応時間差導出部41は、個別の水圧の変化を閾値と比較して低下タイミングをそれぞれ特定してもよいが、以下のような手法を採用することができる。すなわち、圧力計反応時間差導出部41は、例えば、流量の上昇タイミングT1から一定期間WTが経過するまでの水圧(1)と水圧(2)のデータをそれぞれ抽出し、時刻をずらしながらデータ間の相関関数を求め、最も相関関数が大きくなったときの時刻のずらし量を、水圧(1)と水圧(2)が低下した時間差ΔTとして導出する。また、圧力計反応時間差導出部41は、時間フーリエ変換やウェーブレット変換に代表される周波数時間解析によって、水圧が低下した時間差を導出してもよい。これによって、閾値を周波数成分と信号強度の2つの指標とすることができるため、より簡便にパラメータを設定することができ、また検出の精度を向上させることができる。
【0020】
距離差推定部42は、圧力計反応時間差導出部41により導出された時間差に基づいて、漏水発生箇所から圧力計90―1(1)までの距離と、漏水発生箇所から圧力計90―1(2)までの距離差を推定する。距離差推定部42は、圧力計反応時間差導出部41により導出された時間差に圧力伝搬速度αを乗じることで、漏水箇所から各圧力計までの距離差を推定する。配水管路を伝搬する圧力伝搬速度αは、例えば式(1)に基づいて決定される。式中、αは圧力伝搬速度であり、Kは体積弾性率(水の場合、約2.2×109[Pa])であり、ρは水密度(1.0×103[kg/m])であり、Dは管口径[m]であり、eは肉厚[m]であり、Eは縦弾性係数1.6×1011[Pa](ダクタイル鋳鉄管の場合)である。管口径、肉厚、縦弾性係数に関しては、配水管路網を代表する代表値が設定される。代表値に関しては、配水管路網データの統計的な平均値や中央値といった値を使用して構わないし、ユーザがもつ経験的なノウハウに基づいて設定してもよい。また、水の物性を示す体積弾性率や密度に関しては、水温が大きく関与することが知られているが、これに関しても、計測時の水温を使用して設定しても構わないし、ノウハウや代表値に基づいて設定してもよい。なぜならば、圧力の伝搬速度が実際に理論式による値と完全に合致することは考えづらく、必ず誤差が含まれるし、圧力反応時間差に関しても計測誤差を含んでいることは十分に考えられる。そのため、膨大な管路網データを使用することで必ず推定精度が上がるとは限らず、現実的には、容易に得られる管路網データの代表値などを利用して大まかに漏水位置を推定するほうが実用的である場合が多い。管路網のデータが得られない場合は、700[m/s]などの固定値を圧力伝搬速度αとして使用しても構わない。
【数1】
【0021】
漏水箇所推定部43は、圧力が同心円状に伝搬するという仮定の下、距離差推定部42により推定された距離差に基づいて、漏水箇所を推定する。図4は、漏水箇所と圧力計の位置との関係を示す図である。図中、P1は圧力計90―1(1)の位置を、P2は圧力計90―1(2)の位置を、それぞれ示している。LはP1とP2の間の距離であり、既知の値である。距離差推定部42により推定された距離差がdである場合(P2の方が漏水箇所から遠いものとする)、漏水箇所からP1までの距離はz(未知の値)、漏水箇所からP1までの距離はz+dとなる。
【0022】
漏水箇所からP1までの距離がz、漏水箇所からP1までの距離がz+dであることを満たす漏水箇所は、式(2)で示される双曲線上の位置である。式中、xは漏水箇所のx座標を、yは漏水箇所のy座標を表す。図5は、漏水箇所と推定される位置の集合(漏水箇所の存在領域)である双曲線Qを示す図である。
【数2】
【0023】
漏水箇所推定部43は、上記双曲線を得ると、管路網データ記憶部31により記憶された管路網データに基づいて、漏水箇所を推定する。管路網データ記憶部31には、配水管路網における管路の配置を示すデータ、例えば、分岐点やコーナーを示す節点の座標と、管路の両端がいずれの節点であるかを示すデータ等が記憶されている。図6は、双曲線と管路網データに基づいて漏水箇所を推定する様子を示す模式図である。図示するように、漏水箇所推定部43は、導出した双曲線と管路の交点を漏水箇所と推定する。なお、係る手法は一例であり、配水ブロックに圧力計が3つ以上取り付けられている場合は、双曲線同士の交点を求めることによって漏水箇所を推定してもよい。また、漏水箇所推定部43は、更に、流量の上昇タイミングと水圧の低下タイミングとの時間差を加味して漏水箇所を推定してもよい。
【0024】
漏水箇所表示制御部44は、地図データ記憶部32により記憶された地図データから、漏水箇所推定部43により推定された漏水箇所に対応するデータを読み出し、例えば地図上に漏水箇所が重畳した表示画像を生成して表示部50に表示させる。生成される表示画像は、例えば図6に例示した画像に建物や道路の画像を重畳させたものである。漏水箇所表示制御部44は、GIS(Geographic Information Systems)から提供されるデータに基づいて表示画像を生成してもよい。表示部50としては、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electroluminescence)等の表示装置が用いられる。
【0025】
以上説明した第1の実施形態によれば、配水管路網における互いに異なる箇所に取り付けられた複数の圧力計90―1(1)、90―1(2)等と、複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から複数の圧力計までの距離差を推定する距離差推定部42と、距離差推定部により推定された距離差に基づいて、配水管路網における漏水箇所を推定する漏水箇所推定部43と、を備えることにより、より正確に漏水箇所を推定することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。図7は、第2の実施形態に係る漏水監視装置10Aを含む漏水監視システム1Aの構成を示す図である。図7では、配水管路網や流量計、圧力計について図示を省略している。第2の実施形態に係る漏水監視装置10Aは、第1の実施形態と比較すると、距離差推定部42A、漏水箇所推定部43Aの機能が相違し、他の機能については第1の実施形態と同様である。従って、ここでは第1の実施形態との相違点のみ説明する。
【0027】
第2の実施形態に係る距離差推定部42Aは、圧力伝搬速度αに上限値αmaxと下限値αminを設け、これらを使用することで、距離差dの上限dmaxと下限dminを導出する。圧力伝搬速度αの上限値αmaxと下限値αminは、例えば、式(1)の任意の項に幅を持たせることで決定される。幅を持たせる項の選択と、幅の設定は、例えばユーザにより入力可能に構成される。
【0028】
そして、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aは、距離差dの上限dmaxに基づく双曲線と、距離差dの下限dminに基づく双曲線をそれぞれ生成し、生成した2つの双曲線で挟まれる領域を、漏水箇所の存在領域として推定する。漏水箇所の存在領域は、(A)dmin<dmax<Lの場合と、(B)dmin<L<dmaxの場合とで異なるものとなる。図8は、dmin<dmax<Lの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図である。図中、斜線で示される領域が、漏水箇所の存在領域に相当する。図9は、dmin<L<dmaxの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図である。なお、L<dmin<dmaxの場合には漏水箇所の存在領域を絞り込むことができない。
【0029】
更に、漏水箇所推定部43Aは、第1の実施形態と同様に、管路網データ記憶部31により記憶された管路網データに基づいて漏水箇所を推定したり、配水ブロックに圧力計が3つ以上取り付けられている場合は、漏水箇所の存在領域同士の重畳部分を求めることによって漏水箇所を推定したりする。また、漏水箇所推定部43Aは、更に、流量の上昇タイミングと水圧の低下タイミングとの時間差を加味して漏水箇所を推定してもよい。
【0030】
以上説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、推定結果に幅を持たせることにより、漏水箇所の存在範囲を広くとることができ、漏水箇所について漏れなく注意喚起を行うことができる。
【0031】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。図10は、第3の実施形態に係る漏水監視装置10Bを含む漏水監視システム1Bの構成を示す図である。図10では、配水管路網や流量計、圧力計について図示を省略している。第3の実施形態に係る漏水監視装置10Bは、第2の実施形態と比較すると、圧力計反応時間差導出部41B、距離差推定部42Bの機能が相違し、他の機能については第2の実施形態と同様である。従って、ここでは第2の実施形態との相違点のみ説明する。
【0032】
第3の実施形態に係る圧力計反応時間差導出部41Bは、複数の圧力計により計測される水圧が低下した時間差ΔTについて、上限値ΔTmaxとΔTminを導出する。時間差ΔTには、データ間の相関関数を求めたり、周波数時間解析を行ったりする際の誤差が含まれている。仮にこの誤差が10[%]であるとすると、上限値ΔTmaxとΔTminは、式(3)、(4)によって求められる。
ΔTmax=ΔT×1.1 ‥(3)
ΔTmin=ΔT×0.9 ‥(4)
【0033】
また、時間差ΔTの誤差は、固定値を加減算することで求めることもできる(式(5)、(6))。式中、βは固定値である。また、βは、何等かの情報に基づいて変動する可変値であってもよい。
ΔTmax=Max(ΔT+β,0) ‥(5)
ΔTmin=Max(ΔT−β,0) ‥(6)
【0034】
第3の実施形態に係る距離差推定部42Bは、上限値ΔTmaxとΔTminのそれぞれに基づいて、圧力伝搬速度αの上限値αmaxと下限値αminを適用し、距離差dの上限dmaxと下限dminを導出する。距離差推定部42Bは、下記の4通りの距離差d、d、d、dを導出し(式(7)〜(10))、それらの中で最も大きいものを距離差dの上限dmax、最も小さいものを下限dminとして導出する。漏水箇所推定部43Aの機能については、第2実施形態で説明した通りである。
=αmin×ΔTmin ‥(7)
=αmin×ΔTmax ‥(8)
=αmax×ΔTmin ‥(9)
=αmax×ΔTmax ‥(10)
【0035】
漏水箇所推定部43Aが推定する漏水箇所の存在領域は、(A)dmin<dmax<Lの場合、および(B)dmin<L<dmaxの場合には、第2の実施形態で図8、9により説明したものと同様である。第3の実施形態では、これに加えて(C)0=dminとなる場合がある。図11は、0=dmin<dmax<Lの場合に、第2の実施形態に係る漏水箇所推定部43Aにより推定される漏水箇所の存在領域を示す図である。
【0036】
以上説明した第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、推定結果に更に幅を持たせることにより、漏水箇所の存在範囲を広くとることができ、漏水箇所について漏れなく注意喚起を行うことができる。
【0037】
なお、第3実施形態では、時間差ΔTと圧力伝搬速度αの双方について上限値と下限値を求めるものとしたが、時間差ΔTについてのみ上限値と下限値を求めるようにしてもよい。
【0038】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。図12は、第4の実施形態に係る漏水監視装置10Cを含む漏水監視システム1Cの構成を示す図である。図では、第1の実施形態に、以下に説明する付加機能が付与された様子を示しているが、第2または第3の実施形態に付加機能が付与されてもよい。
【0039】
第4の実施形態に係る漏水監視装置10Cは、過去の漏水発生時において複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下タイミングの、流量計により計測された水の流量の上昇タイミングに対する遅れ時間と、漏水箇所との関係情報を記憶する漏水発生時データ記憶部33と、受水槽への水の導入などの特定イベントが発生した際に、流量計により計測される水の流量の変化パターンを記憶する特定イベントデータ記憶部34と、を備える。
【0040】
そして、漏水箇所推定部43は、漏水発生時データ記憶部33により記憶された関係情報を加味して、配水管路網における漏水箇所を推定する。図13は、漏水発生時データ記憶部33により記憶される関係情報の一例を示す図である。図示するように、漏水発生時データ記憶部33には、漏水管路(漏水箇所)に対応付けられて、配水ブロック、流量、流量の上昇タイミングに対する水圧の低下タイミングの遅れ時間(反応時間差)等が記憶されている。漏水箇所推定部43は、漏水箇所の存在領域を導出した後、同様の圧力変化を示した過去の漏水事象があったか否かを判定し、同様の圧力変化を示した過去の漏水事象があった場合には、過去の漏水箇所が今回の漏水箇所に近いと判断して、漏水箇所を推定する。これによって、より正確に漏水箇所を推定することができる。
【0041】
また、漏水箇所推定部43は、流量計により計測される水の流量の増加分が、特定イベントデータ記憶部34により記憶された水の流量の変化パターンに合致するときには、漏水ではないと判断し、漏水箇所の推定を行わない。図14は、流量計により計測される水の流量の増加分が、特定イベントデータ記憶部34により記憶された水の流量の変化パターンに合致する様子を示す図である。これによって、不要な推定を行うことでユーザに煩わしさを覚えさせるのを防止することができる。
【0042】
第4の実施形態において、同様の圧力変化を示した過去の漏水事象があった場合に、過去の漏水箇所が今回の漏水箇所に近いと判断して漏水箇所を推定する機能と、流量計により計測される水の流量の増加分が、特定イベントデータ記憶部34により記憶された水の流量の変化パターンに合致するときに、漏水ではないと判断し、漏水箇所の推定を行わない機能とのいずれか一方のみ備えるものとしてよい。
【0043】
なお、上記各実施形態における圧力計反応時間差導出部41は、「時間差導出部」の一例である。
【0044】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、複数の圧力計によりそれぞれ計測された水圧の低下した時間差に基づいて、漏水箇所から複数の圧力計までの距離差を推定する距離差推定部42と、距離差推定部42により推定された距離差に基づいて、配水管路網における漏水箇所を推定する漏水箇所推定部43とを持つことにより、より正確に漏水箇所を推定することができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…漏水監視システム、10、10A、10B、10C…漏水監視装置、20…データ収集部、22…データ変換部、30…監視データ記憶部、31…管路網データ記憶部、32…地図データ記憶部、33…漏水発生時データ記憶部、34…特定イベントデータ記憶部、40…変化タイミング特定部、41、41B…圧力計反応時間差導出部、42、42A、42B…距離差推定部、43、43A…漏水箇所推定部、44…漏水箇所表示制御部、50…表示部、70…配水池、80―1、80―2…流量計、90―1(1)、90―1(2)、90―2(1)、90―2(2)…圧力計、100…テレメータ
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