(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
希土類−鉄系の磁石粉末と前記磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と前記熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーとを混練する混練工程と、
前記混練工程によって作製されたコンパウンドを成形する成形工程と、
前記成型工程によって形成された前記コンパウンドを加熱する熱硬化工程と、
を含み、
前記シリカフィラーの含有量は、前記熱硬化性樹脂組成物に対して、30体積パーセント以上50体積パーセント以下であることを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような車載用の永久磁石は、自動車等の車輌が様々な環境において駆動されることから、幅広い温度環境に対して、十分な磁気特性を有することが要求される。すなわち、車載用の永久磁石には、温度変化に対して少ない減磁特性および機械的耐熱性が必要とされている。一般に、希土類永久磁石は、高温状態では減磁する特性、いわゆる熱減磁が大きい。このような背景において、高温でも磁気特性が低下し難い希土類磁石および希土類磁石の製造方法の試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、温度変化に対して少ない減磁特性および機械的耐熱性を有する希土類ボンド磁石およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、希土類−鉄系の磁石粉末と、前記磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と、前記熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーと、を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記熱硬化性樹脂組成物に対する前記シリカフィラーの含有量が50体積パーセント以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記熱硬化性樹脂組成物に対する前記シリカフィラーの含有量が30体積パーセント以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記シリカフィラーは、破砕フィラーであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記シリカフィラーは、D50粒径が3.5μm以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記シリカフィラーは、D50粒径が1.0μm以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記磁石粉末は、ネオジム、鉄、およびホウ素を主成分とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、前記熱硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石の製造方法は、希土類−鉄系の磁石粉末と前記磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と前記熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーとを混練する混練工程と、前記混練工程によって生成されたコンパウンドを成形する成形工程と、前記成型工程によって形成された前記コンパウンドを加熱する熱硬化工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る希土類ボンド磁石および希土類ボンド磁石の製造方法は、温度変化に対して少ない減磁特性および機械的耐熱性を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る希土類ボンド磁石および希土類ボンド磁石の製造方法を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
(第1実施形態)
以下に説明する第1実施形態は、希土類−鉄系の磁石粉末と、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と、熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーと、を含む希土類ボンド磁石が、温度変化に対して少ない減磁特性を有することを示すものである。また、第1実施形態の説明の中で、当該希土類ボンド磁石の製造方法も同時に説明される。
【0020】
第1実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石は、希土類−鉄系の磁石粉末として、ネオジム、鉄、およびホウ素を主成分とする磁石粉末(いわゆる磁粉)を用い、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物として、いわゆるエポキシ樹脂と総称される樹脂を用いる。具体的には、第1実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石は、以下の表1に記載のレシピに従って作製されている。なお、表1に記載の配合量は、磁石粉末300gに対して規格化した量であり、磁石粉末の量に応じて適宜調整すべきものである。また、フィラーの含有量は、検証実験における変数として用いるので、ここでは特定しない。
【0022】
図1は、希土類ボンド磁石の製造方法の手順を例示するフローチャートである。第1実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石は、
図1に示される手順で作製されている。
【0023】
最初に、
図1に示される希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS1にて、希土類−鉄系の磁石粉末を粉砕する。ここで、希土類−鉄系の磁石粉末の粒径範囲は、30μmから500μmであることが好ましく、50μmから250μmであることがさらに好ましい。磁石粉末の粒径が30μm以上であれば、磁石粉末の比表面積が小さくなるため、磁石粉末そのものが酸化される確率が低くなる。また、磁石粉末の粉粒の粒径が500μmより小さい方が、肉厚が1mmを下回るリング磁石を圧縮成形する際にも適している。また、後段における成形時の良好な成形性を得るために、希土類磁石粉末の粒度分布の幅が狭いことが望ましい。
【0024】
次に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS2にて、希土類−鉄系の磁石粉末と熱硬化性樹脂組成物の溶液とシリカフィラーとを混練する。熱硬化性樹脂組成物の溶液とは、表1に記載の溶剤に、同表記載のエポキシ樹脂主剤とエポキシ樹脂硬化剤と硬化促進剤とを溶解させたものである。シリカフィラーは、事前に熱硬化性樹脂組成物の溶液に添加しておき、熱硬化性樹脂組成物の溶液と合わせて希土類−鉄系の磁石粉末と混練することが好ましいが、熱硬化性樹脂組成物の溶液と希土類−鉄系の磁石粉末とを混練した後に、シリカフィラーを追加的に添加してさらに混練することでも構わない。当該混練によって生成された混練物をコンパウンドと呼ぶ。
【0025】
次に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS3にて、コンパウンドを乾燥させる。この乾燥工程は、熱硬化性樹脂組成物の溶液に含まれていた溶剤を揮発させるためのものである。
【0026】
次に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS4にて、コンパウンドを解砕し、ステップS5にて、コンパウンドの粒径を分級する。コンパウンドの粒径範囲は、続く工程における金型等の成形型キャビティへの充填性を考慮すると、例えば53〜500μm程度とすることが望ましい。したがって、ステップS4およびS5における解砕および分級は、当該範囲となるように、コンパウンドを解砕して分級する。
【0027】
次に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS6にて、コンパウンドに滑剤を混合する。この滑剤は、後段の成形時において、金型等の成形型キャビティへの充填を容易にし、かつ、圧力を加えた際の成形型キャビティとの摩擦を低減するためのものである。
【0028】
次に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS7にて、コンパウンドを成形型キャビティへ充填し、圧力を加えて圧縮成形する。加える圧力は、熱硬化性樹脂組成物の降伏応力以上の圧力であり、例えば0.1GPa〜1.5GPa程度とすることが好ましい。また、圧縮成形後の成形体は、当該成形体に占める残留空隙の体積分率が6vol%以上12vol%以下とすることが好ましい。
【0029】
最後に、当該希土類ボンド磁石の製造方法では、ステップS8にて、圧縮成形後の成形体を加熱して熱硬化させる。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、例えば150℃から190℃の温度で10分から100分程度の時間で熱硬化が行われる。当該熱硬化された被着磁体に、別途、防錆処理として塗装処理を施す。その後、別途着磁処理を行うことにより希土類ボンド磁石が完成する。
【0030】
以下、表1に記載のレシピに従い、以上のように製造された希土類ボンド磁石を用いて、シリカフィラーの含有量の熱減磁への影響に関する検証実験の結果を説明する。
【0031】
図2は、シリカフィラーの含有量の違いが希土類ボンド磁石の熱減磁に与える影響を示すグラフである。
図2に示されるグラフは、縦軸を減磁率(磁束の減少率)とし、横軸を熱暴露時間の対数とし、サンプルA,B,C,Dに関する熱減磁の測定データを記載したものである。サンプルAは、シリカフィラーの含有量が0.5vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルBは、シリカフィラーの含有量が5vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルCは、シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルDは、シリカフィラーの含有量が50vol%の希土類ボンド磁石である。何れのサンプルも、熱暴露の温度条件が180℃であり、シリカフィラーの含有量は、エポキシ樹脂に対する体積%で表記している。
【0032】
図2に示されるように、シリカフィラーの含有量が高いほど、希土類ボンド磁石の熱減磁を抑制する効果が高い。なお、熱減磁の理論限界は、熱暴露時間の対数軸に関して線形となる。したがって、
図2に示される熱減磁の検証実験においても、グラフの形状が直線に近いものほど、熱減磁の抑制効果が高いと判断することができる。サンプルAとサンプルBとの比較では熱減磁の抑制効果の違いに大きな差はないが、サンプルAまたはサンプルBとの比較では、サンプルCの熱減磁の抑制に顕著な効果を確認することができ、サンプルDの熱減磁の抑制はさらに大きな効果を確認することができる。
【0033】
次に、シリカフィラーの含有量の違いを熱機械分析(TMA)によって検証した実験の結果について説明する。熱機械分析とは、対象物体の温度を一定のプログラムに従って変化させながら、その物体の温度に対する変形を測定する手法である。この実験では、シリカフィラーの含有量が高い方が希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高いことが示された。つまり、シリカフィラーの含有量が高い方が希土類ボンド磁石の機械的な耐熱性も高いことになる。
【0034】
図3は、シリカフィラーの含有量の違いが希土類ボンド磁石の熱履歴に与える影響を示すグラフである。
図3に示されるグラフは、左縦軸を希土類ボンド磁石の温度とし、右縦軸を希土類ボンド磁石の寸法の変化率とし、横軸の時間軸を共有している。グラフTは、左縦軸から読み取られる希土類ボンド磁石の温度変化を示し、グラフN,A,B,Cは、当該温度変化の際の、右縦軸から読み取られる希土類ボンド磁石の寸法の変化率を示している。グラフN,A,B,Cは、それぞれ、シリカフィラーの含有量が、0vol%(フィラー含有無し)、5vol%、30vol%、50vol%の希土類ボンド磁石についての寸法の変化率を示している。なお、同様に、シリカフィラーの含有量は、エポキシ樹脂に対する体積%で表記している。
【0035】
図3に示されるように、シリカフィラーの含有量が高い方が希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高い。シリカフィラーを含有していない場合(グラフN)やシリカフィラーの含有量が低い場合(グラフA等)は、希土類ボンド磁石の温度変化の履歴が蓄積され、希土類ボンド磁石の寸法の変化が大きくなっていく傾向がある。しかしながら、シリカフィラーの含有量が
高い場合(グラフC等)は、希土類ボンド磁石の温度変化の履歴の蓄積が抑制されている。これは、シリカフィラーの線膨張係数が小さいことが影響していると考えられる。
【0036】
一方、シリカフィラーの含有量が低い方が希土類ボンド磁石の強度が高い。
図4は、シリカフィラーの含有量に対する希土類ボンド磁石の圧環強度を示すグラフである。
図4に示されるグラフは、縦軸を希土類ボンド磁石の圧環強度とし、横軸をフィラーの含有量としている。ここで、圧環強度とは、希土類ボンド磁石を中空円筒に形成した際の直径方向の荷重に対する強度であり、具体的にはJIS Z 2507に記載の方法に従って測定されている。なお、同様に、シリカフィラーの含有量は、エポキシ樹脂に対する体積%で表記している。
【0037】
図4に示されるように、シリカフィラーの含有量が低い方が希土類ボンド磁石の圧環強度が高い傾向がある。具体的には、希土類ボンド磁石の圧環強度の条件を25MPa以上とするならば、シリカフィラーの含有量が75体積パーセント以下とすることで、当該圧環強度を達成することができる。また、シリカフィラーの含有量が50体積パーセント以下である場合、希土類ボンド磁石の圧環強度が35MPa以上となり、より圧環強度の高い希土類ボンド磁石を得ることができるので好ましく、シリカフィラーの含有量が30体積パーセント以下である場合、希土類ボンド磁石の圧環強度が50MPa以上となり、より圧環強度の高い希土類ボンド磁石を得ることができるのでさらに好ましい。
【0038】
図5は、希土類ボンド磁石の熱減磁の抑制と圧環強度とを両立するシリカフィラーの含有量の条件を検討するためのグラフである。
図5には、左縦軸を希土類ボンド磁石の圧環強度としたシリカフィラーの含有量に対する希土類ボンド磁石の圧環強度を示す実線グラフと、右縦軸を減磁率としたシリカフィラーの含有量に対する希土類ボンド磁石の熱減磁を示す破線グラフとが併記され、シリカフィラーの含有量の横軸を共有している。シリカフィラーの含有量に対する希土類ボンド磁石の減磁率は、180℃の温度にて400時間の熱暴露を行った際の磁束の減少率を用いている。
【0039】
図5に示されるように、シリカフィラーの含有量が50vol%の場合、希土類ボンド磁石の圧環強度が35MPa以上であり、かつ、減磁率(磁束の減少率)が5%以下であるので、希土類ボンド磁石の圧環強度と熱減磁の抑制とを両立している。また、シリカフィラーの含有量が30vol%の場合、希土類ボンド磁石の圧環強度が50MPa以上であり、かつ、減磁率(磁束の減少率)が15%以下であるので、希土類ボンド磁石の圧環強度と熱減磁の抑制とを両立している。したがって、シリカフィラーの含有量が30vol%〜50vol%の範囲であれば、希土類ボンド磁石の圧環強度と熱減磁の抑制とを両立していると考えることができる。また、例えば、希土類ボンド磁石の圧環強度に重要度を設定した設計では、シリカフィラーの含有量を30vol%以下とし、希土類ボンド磁石の熱減磁の抑制に重要度を設定した設計ではシリカフィラーの含有量を50vol%以下とするという運用も可能である。
【0040】
(第2実施形態)
以下に説明する第2実施形態は、希土類−鉄系の磁石粉末と、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と、熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーと、を含む希土類ボンド磁石において、シリカフィラーとして破砕フィラーを用いることが熱減磁の抑制に対してより効果的であることを示すものである。
【0041】
第2実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石は、第1実施形態と同様に、希土類−鉄系の磁石粉末として、ネオジム、鉄、およびホウ素を主成分とする磁石粉末を用い、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物として、いわゆるエポキシ樹脂と総称される樹脂を用いている。また、その希土類ボンド磁石の製造方法も、第1実施形態と同様に、
図1に示された製造方法の手順に従うものであり、ここでは説明を省略する。一方、第2実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石の具体的組成は、以下の表2に記載のレシピに従っている。なお、表2に記載の配合量は、磁石粉末300gに対して規格化した量であり、磁石粉末の量に応じて適宜調整すべきものである。
【0043】
以下で説明する検証実験では、シリカフィラーの形状の違いを比較するために、球状フィラーと破砕フィラーとを用いる。
図6は、球状シリカフィラーの電子顕微鏡写真を示す図であり、
図7は、破砕シリカフィラーの電子顕微鏡写真を示す図である。
【0044】
図6および
図7に示されるように、球状シリカフィラーは形状が球形に整っているが、破砕シリカフィラーは形状が整っていない。これは、球状シリカフィラーは、形状を球形に整えるために球状化処理を施しているからである。ここで球状化処理とは、例えば破砕したシリカを加熱溶融させて、表面張力により球状化する等の処理がある。一方、破砕シリカフィラーは、破砕した後の状態のままの形状で用いるフィラーである。言い換えると、ここでいう破砕フィラーとは、球状化処理を施していないフィラーのことをいう。
【0045】
図8は、シリカフィラーの形状の違いが希土類ボンド磁石の熱減磁に与える影響を示すグラフである。
図8に示されるグラフは、縦軸を減磁率とし、横軸を熱暴露時間の対数とし、サンプルA,B,Nに関する熱減磁の測定データを記載したものである。サンプルAは、破砕シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルBは、球状シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルNは、いずれのシリカフィラーも含まない希土類ボンド磁石である。何れのサンプルも、熱暴露の温度条件が180℃であり、シリカフィラーの含有量は、エポキシ樹脂に対する体積%で表記している。
【0046】
図8に示されるように、球状シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石は、シリカフィラーを含まない希土類ボンド磁石よりも熱減磁を抑制することができるが、破砕シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石は、球状シリカフィラーを含有する希土類ボンド磁石よりもさらに熱減磁を抑制する。熱暴露時間が400時間の時点で比較をすれば、球状シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石の減磁率(磁束の減少率)は8%であったものが、破砕シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石の減磁率(磁束の減少率)は6.5%に改善している。
【0047】
(第3実施形態)
以下に説明する第3実施形態は、希土類−鉄系の磁石粉末と、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物と、熱硬化性樹脂組成物中に分散されるシリカフィラーと、を含む希土類ボンド磁石において、シリカフィラーとして破砕フィラーを用いることが好ましく、さらに、その破砕フィラーの粒径が小さいほど熱減磁の抑制に対してより効果的であることを示すものである。
【0048】
第3実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石は、第1実施形態と同様に、希土類−鉄系の磁石粉末として、ネオジム、鉄、およびホウ素を主成分とする磁石粉末を用い、磁石粉末の間に介在し該粉末同士を結合させる熱硬化性樹脂組成物として、いわゆるエポキシ樹脂と総称される樹脂を用いている。また、その希土類ボンド磁石の製造方法も、第1実施形態と同様に、
図1に示された製造方法の手順に従うものであり、ここでは説明を省略する。一方、第3実施形態に係る検証実験で用いられる希土類ボンド磁石の具体的組成は、第2実施形態と同様に表2に記載のレシピに従っている。
【0049】
図9は、シリカフィラーの形状および粒径の違いが希土類ボンド磁石の熱減磁に与える影響を示すグラフである。
図9に示されるグラフは、縦軸を減磁率とし、横軸を熱暴露時間の対数とし、サンプルA,B,C,Nに関する熱減磁の測定データを記載したものである。サンプルAは、粒径が3.4μmの球状シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルBは、粒径が3.1μmの破砕シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルCは、粒径が0.9μmの破砕シリカフィラーの含有量が30vol%の希土類ボンド磁石であり、サンプルNは、いずれのシリカフィラーも含まないものである。何れのサンプルも、熱暴露の温度条件が180℃であり、含有量は、エポキシ樹脂に対する体積%で表記している。なお、ここに記載フィラー粒径は、D50粒径であり、D50粒径とは累積分布が50%に該当する粒子の粒径を意味する。
【0050】
図9に示されるように、破砕シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石は、粒径がほぼ同じの球状シリカフィラーを含有する希土類ボンド磁石よりも熱減磁を抑制することができるが、粒径が小さい破砕シリカフィラーの方が熱減磁を抑制する効果がより高い。熱暴露時間が400時間の時点で比較をすれば、D50粒径が3.1μmの破砕シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石の減磁率(磁束の減少率)は7.9%であったものが、D50粒径が0.9μmの破砕シリカフィラーを含有した希土類ボンド磁石の減磁率(磁束の減少率)は7.2%に改善している。
【0051】
さらに、次に示す熱機械分析の結果からは、同じ形状のシリカフィラーを用いる場合であっても、粒径が小さい方が希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高いことが示される。つまり、シリカフィラーの粒径が小さい方が希土類ボンド磁石の機械的な耐熱性も高いことになる。
【0052】
図10は、シリカフィラーの粒径の違いが希土類ボンド磁石の熱履歴に与える影響を示すグラフである。
図10に示されるグラフは、左縦軸を希土類ボンド磁石の温度とし、右縦軸を希土類ボンド磁石の寸法の変化率とし、横軸の時間軸を共有している。グラフTは、左縦軸から読み取られる希土類ボンド磁石の温度変化を示し、グラフN,A,B,Cは、当該温度変化の際の、右縦軸から読み取られる希土類ボンド磁石の寸法の変化率を示している。グラフN,A,B,Cは、それぞれ、上記サンプルN,A,B,Cに対応している。
【0053】
図10に示されるように、シリカフィラーの粒径が小さい方が希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高い。例えばサンプルBとサンプルCは、いずれも破砕シリカフィラーを30vol%含有しており、違いは粒径のみである。しかしながら、サンプルCの方が、希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高い。このことは、同じ形状のシリカフィラーを用いる場合であっても、粒径が小さい方が希土類ボンド磁石の寸法変化に関する熱履歴を抑制する効果が高いことを示している。
【0054】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、希土類−鉄系の磁石粉末としてネオジム、鉄、およびホウ素を主成分とする磁石粉末を用いた説明を行ったが、サマリウム、鉄、および窒素を主成分とする磁石粉末を用いても同様の効果を得ることが可能である。また、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。また、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。