(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記弁体は、前記弁体案内面に案内される内側の側面の下端から外向きに前記弁座に対向して水平に延びる受圧面を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の逆止弁。
前記弁体は、前記弁体案内面に案内される内側の側面の下端から外向きに前記弁座との距離が徐々に狭まるように延びる受圧面を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の逆止弁。
【背景技術】
【0002】
液体窒素等の空気よりも液化温度が低い流体を供給するための低温流体用のポンプは、飽和蒸気圧(大気圧下で約77K)の流体を液送するために使用されることが多く、負圧等による気化を防ぐため、ポンプの必要有効吸込みヘッド(required NPSH)が小さく構成される場合が多い。そのため、ポンプに使用される逆止弁は、流量抵抗が小さい(流量係数が大きい)ものが好ましい。
【0003】
一方、特許文献1に示すような、ベローズポンプのような容積型ポンプにおいては、ポンプ行程の高速化、すなわち、一行程の時間が短くなるように構成することで、装置の軽量小型化、特にポンプ支持部材やベローズ作動軸の軽量化を図ることができ、これにより駆動部で発生する熱の影響を低減することができる。したがって、ポンプ行程の高速化のためには、使用される逆止弁の挙動、特に、特許文献2に示すようなポペット式の逆止弁においては閉止ストローク時における弁体の自重による戻り動作の時間短縮が求められる。また、閉止タイミングの遅れは、閉止時の流体の逆流につながり、逆流による水撃の影響が無視できない場合もある。
【0004】
一般的に、弁の閉止遅れを解決する手段としては、弁体の復帰方向にばね力を付与することや、開弁時の弁体の開き量を小さくする手段などが挙げられる(ばね付逆止弁等)。また、特許文献3に示すような、カムやソレノイド等の外力を用いて強制的に閉止させる手段もある。しかし、ばね力付与や開き量を小さくする場合、弁の流量係数が相対的に小さくなり、必要な流量係数を得るためには弁の大型化が必要となり、ポンプ自体も大型化してしまう。また、強制的に閉止する場合、機構が複雑化し、低温での使用環境条件や断熱性を考慮する必要があり設計の困難さを伴う。
【0005】
一方、ポペット式の逆止弁における弁体の挙動は、
図12に示すモデルのように、流体の運動量により弁体に作用する力の影響が大きいことが知られている。
図12は、ポペット弁の弁体に作用する力について説明する模式図である。弁体に加わる力として弁体の上流側圧力(P1)、下流側圧力(P2)の差圧ΔP(P1−P2=)の作用だけでなく、流体の運動量が作用することとなる。ポペット弁の弁体に作用する力として
図12に示すモデルでは下式のように与えられる。
F=A・ΔP+ρ・Q・(V0−V・COSθ) …(1)
V=C/A・√(2/ρ・ΔP) …(2)
【0006】
ここで、Aは管断面積(=π・d
2/4)、dは管の径、ρは流体の密度、Qは流量(=V0・A)、V0は上流の流速、Vは弁部での流速、Cは流量係数、θは弁体テーパ面の軸線となす角度である。
【0007】
式(1)の右辺の第一項が上流と下流の差圧ΔPにより作用する力、第二項が流体の運動量により作用する力となる。自重式の弁構造において、弁体のリフト量が流量に対して十分に大きい場合、V≒V0となるため、式(2)を代入して整理すると、式(1)は、
F=1/2・ρ・A・V0
2・1/C
2+ρ・A・V0
2・(1−COSθ) …(3)
となる。
【0008】
式(3)の右辺第一項が上流と下流の差圧ΔPにより作用する力、第二項が流体の運動量により作用する力となる。仮に差圧ΔPのみが作用しリフト量に対する流量係数が同一の弁と比べた場合、第二項が作用する分だけ同一流量においても弁体を押し上げる力が多く作用する。そのため、ポペット弁は自重によって最大リフト量から閉弁位置に落下する時間が増加し、閉止タイミングが遅れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、簡易な構成により閉弁動作の高速化を図ることができる逆止弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明における逆止弁は、
弁体が弁座に対して接離して弁の開閉を行い、流入口から流入し、流出口から流出する流体の流れを制御する逆止弁であって、
下方に設けられた流入口と、
上方に設けられた流出口と、
前記流入口を囲むように形成された弁座と、
前記弁座に対して上下方向に接離移動可能に構成された弁体と、
下方に前記流入口から流入した流体を水平方向に案内する流体案内面と、側面に上下方向に弁体を案内する弁体案内面と、を有する案内部と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、弁体に対して作用する流体の運動量による力の大きさを低減することができる。流入口から流入してきた流体は案内部の流体案内面により流動方向が概ね水平方向に変更させる。流体の運動量による力は、上下方向に移動する弁体に対して水平方向に作用するため、上記式(3)における右辺第二項が低減される。これにより、弁体を押し上げる力が低減され、弁体のリフト量が小さくなることから、自重によって最大リフト量から閉弁位置に落下する時間が短縮され、閉止タイミングの遅れが短縮される。
【0013】
前記弁体が前記弁座に着座したときに、前記弁体と前記弁体案内面と間の隙間を覆うように前記弁体及び前記案内部に着座可能に構成された補助弁体をさらに備えるとよい。
【0014】
弁体と案内部との間の隙間を弁体の着座後に補助弁体によって閉じる二段弁構造とすることにより、逆流発生時の水撃の威力を低減することができる。すなわち、1段目の弁(弁体)で逆流量を絞った後、最終的に二段目の弁(補助弁体)で閉止する構成となる。これにより、水撃の作用の大きさの目安となる閉止時の逆流流速を小さくすることができる。
【0015】
前記補助弁体は、前記弁体に対して所定範囲内で上下移動可能に組み付けられており、
前記弁体において前記補助弁体が着座する座面と、前記案内部において前記補助弁体が着座する座面は、前記弁体が前記弁座に着座したときに同じ高さとなるようにするとよい。
【0016】
弁体が弁座に着座するときに、補助弁体が弁体と案内部との間の隙間を絞りながら閉止することにより、水撃の影響をさらに効果的に低減することができる。
【0017】
前記補助弁体を前記弁体及び前記案内部に向けて下方に付勢する付勢部材をさらに備えるとよい。
【0018】
これにより、付勢部材により補助弁体を介して弁体に閉弁方向の付勢力が作用し、閉弁動作の高速化を図ることができる。また、付勢力を適宜設定することにより、逆止弁の設置方向を重力方向とは逆方向にする、すなわち、上方から下方の一方向に流体を流通させる逆止弁としても使用することが可能となる。
【0019】
前記弁体は、前記弁体案内面に案内される内側の側面の下端から外向きに前記弁座に対向して水平に延びる受圧面、あるいは、前記弁体案内面に案内される内側の側面の下端から外向きに前記弁座との距離が徐々に狭まるように延びる受圧面を有するとよい。
【0020】
このように、流体案内面によって案内される流体の流動方向に略沿った方向に延びる受圧面を弁体に設けることで、該流体の運動量により弁体に対して作用する力はほとんど生じず、弁体に作用する力は、流入口側の圧力(上流側圧力P1)と流出口側の圧力(下流側圧力P2)の差圧(ΔP)による力が殆どとなる。これにより、上記式(3)における右辺第二項を大幅に低減することができる。
【0021】
前記弁体と前記案内部との間の隙間の位置が上下方向に見て前記流入口よりも外側に位置するとよい。
【0022】
このように、弁体と案合部との間の隙間が、上下方向において流入口と重ならないように構成することにより、流入口から流入してきた流体は、一旦水平方向に流動方向を変えてから上記隙間に流入することになる。したがって、隙間を介して補助弁体に作用する流体の運動量の影響を低減することができ、水撃の影響をより効果的に低減することができる。
【0023】
前記流入口を囲むように形成された前記弁座である第1の弁座と、
前記案内部に設けられる第2の弁座と、
を備え、
第1の弁座と第2の弁座は、開弁時に上流から下流に流れる流体の通過方向が水平方向に互いに逆方向となる
ように設けられると共に、
前記弁体は、前記第1の弁座に着座する第1の弁部と、前記第2の弁座に着座する第2の弁部と、前記第2の弁部から前記第1の弁部に向かって前記第1の弁座との距離が徐々に狭まるように前記第1の弁部と前記第2の弁部との間を延びる受圧面と、を備えてもよい。
【0024】
これにより、開弁時において、第1の弁部及び第1の弁座において流体が流動する方向と、第2の弁部及び第2の弁座において流体が流動する方向が、互いに逆方向となり、弁体に対して作用する流体の運動量による力の大きさを低減することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡易な構成により閉弁動作の高速化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0028】
(実施例1)
図3を参照して、本発明の実施例に係る逆止弁を備えた液体供給システムについて説明する。
図3は、本発明の実施例に係る逆止弁を備えた液体供給システムの概略構成図である。
【0029】
<液体供給システム>
液体供給システム10は、低温流体用のポンプ装置であり、樹脂製の容器31の内部に超伝導コイル32が備えられた被冷却装置30に対して、超電導コイル32を超伝導可能な状態で維持させるために、容器31内に超低温の液体Lを常時供給するものである。超低温の液体Lの具体例としては、液体窒素や液体ヘリウムを挙げることができる。
【0030】
液体供給システム10は、超低温の液体Lが収容される第1容器11と、第1容器11に収容された液体L中に配置される第2容器12と、第2容器12の内部に入り込むように配置されるベローズ13とを備えている。第2容器12内のうちベローズ13の外側の領域によって、第1ポンプ室P1を構成している。また、ベローズ13内も密閉空間となっており、この密閉空間が第2ポンプ室P2となっている。そして、第2容器12には、第1容器11内の液体Lを第1ポンプ室P1内に吸入する第1吸入口21と、吸入した液体Lを第1ポンプ室P1内からシステムの外部に通じる供給通路(供給管)K1に送出する第1送出口22とが設けられている。また、第2容器12には、第1容器11内の液体Lを第2ポンプ室P2内に吸入する第2吸入口23と、吸入した液体Lを第2ポンプ室P2内から供給通路K1に送出する第2送出口24も設けられている。また、第1吸入口21及び第2吸入口23には、それぞれ本実施例に係る逆止弁100a、100cが設けられており、第1送出口22及び第2送出口24にも、それぞれ本実施例に係る逆止弁100b、100dが設けられている。
【0031】
また、駆動源としてのリニアアクチュエータ14によって往復移動するように構成された軸15が、第1容器11の外部からベローズ13の内部に入り込み、その先端がベローズ13の先端に固定されている。これにより、軸15が往復移動することによって、ベローズ13は伸縮する。
【0032】
軸15の周囲には、気体によって満たされた密閉空間R1が形成されている。この密閉空間R1は、第1容器11の外部からベローズ13に至るように伸びる軸15が挿通される筒状(望ましくは円筒状)の管部61と、この管部61の下端部と上端部にそれぞれ設けられる小ベローズ62、63とによって形成されている。なお、この密閉空間R1と第2ポンプ室P2との間を隔てる小ベローズ63と、密閉空間R1と外部空間との間を隔てる小ベローズ63は、いずれも先端が軸15に固定されており、軸15の往復移動に伴って伸縮するように構成されている。また、小ベローズ62、63は、その外径がベローズ13の外径よりも小さくなるように構成されている。
【0033】
また、ベローズ13における上端側にも、上記の通り、小ベローズ62が設けられることによって、ベローズ13内が密閉空間となるように構成され、この密閉空間が上記の通り、第2ポンプ室P2となっている。
【0034】
以上の構成により、ベローズ13が縮むと、第2送出口24を介して第2ポンプ室P2内から液体Lが供給通路K1に送出され、かつ第1吸入口21を介して液体Lが第1ポンプ室P1内に吸入される。また、ベローズ13が伸びると、第2吸入口23を介して液体Lが第2ポンプ室P2内に吸入され、かつ第1送出口22を介して第1ポンプ室P1内から液体Lが供給通路K1に送出される。このように、ベローズ13が縮む際、及び伸びる際のいずれにおいても液体Lが供給通路K1に送出される。
【0035】
以上のように、液体供給システム10においては、ベローズ13の伸縮動作の繰り返しによって、供給通路K1を通じて、液体Lが被冷却装置30に供給される。また、液体供給システム10と被冷却装置30とを繋ぐ戻り通路(戻り管)K2も設けられており、被冷却装置30に供給された分だけ、液体供給システム10に液体Lが戻るように構成されている。また、供給通路K1の途中には液体Lを超低温の状態まで冷却する冷却機20が設けられている。このような構成により、冷却機20によって超低温まで冷却された液体Lは、液体供給システム10と被冷却装置30との間を循環する。
【0036】
以上説明したように、ベローズ13が縮む際、及び伸びる際のいずれにおいても液体Lが供給通路K1に送出され、ベローズ13の伸縮動作による液体供給量を、第1ポンプ室P1のみでポンプ機能を発揮させた場合に比べて2倍にすることができる。そのため、所望の供給量に対して、第1ポンプ室P1のみでポンプ機能を発揮させた場合に比べて、一回分の供給量を半分にすることができ、供給通路K1内における液体の最大圧力を半分程度にすることができる。したがって、供給される液体の圧力変動(脈動)による悪影響を抑制することができる。
【0037】
また、液体Lが連続的に供給されることから脈動自体を抑制することが可能となる。したがって、システム外に緩衝装置(ダンパー)を設ける場合に比して、省スペース化を図ることができ、また、熱交換が発生する部位を減らせるので、冷却効率を高めることができる。
【0038】
さらに、軸15が挿通される筒状の管部61内を密閉空間R1として、その内部に気体を満たす構造を採用している。したがって、気体が満たされた密閉空間R1が伝熱を妨げる機能を発揮するため、リニアアクチュエータ14で発生する熱や大気熱が液体Lまで伝わってしまうことを抑制することができる。また、仮に液体Lまで熱が伝わって気化したとしても、常に新しい液体Lが供給され、冷却効果もあるため、ポンプ室内部において液体Lが気化する温度まで上昇することを抑制することができる。したがって、ポンプ機能を低下させることもない。
【0039】
また、万一、軸15からの伝熱等によって、ベローズ13内の液体Lが気化して気体が発生してしまい、第2ポンプ室P2によるポンプ機能が低下しても、第1ポンプ室P1によるポンプ機能を安定的に発揮させることができる。更に、ベローズの内部側が(圧縮性流体である)気体の場合に比べて、本例では、ベローズ13の内部側と外部側にそれぞれ(非圧縮性流体である)液体Lが存在するため、ベローズ13の伸縮の際に、ベローズ13の振れ回りや座屈を抑制することができる。
【0040】
また、密閉空間R1を、管部61と一対の小ベローズ62、63によって形成する構成を採用している。また、小ベローズ62、63は、いずれも先端が軸15に固定されており、軸15の往復移動に伴って伸縮するように構成されている。したがって、摺動部位を形成することなく、密閉空間R1が形成されるため、摺動による摩擦抵抗に伴って、熱が発生してしまうということはない。
【0041】
ここで、本例においては、密閉空間R1を気体で満たす場合について説明したが、この密閉空間R1の内部を真空状態にする構成を採用することもできる。密閉空間R1内を真空状態にすることによって、より一層断熱効果を高めることができる。
【0042】
<逆止弁>
図1及び
図2を参照して本発明の実施例1に係る逆止弁について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る逆止弁の模式的断面図であり、(A)は、閉弁状態、(B)は、開弁状態をそれぞれ示す。
図2は、
図1の一部拡大図であり、補助弁体周辺の構成を示す。
【0043】
本実施例に係る逆止弁100は、下方に設けられた流入口101から流体(液体L)が流入し、上方に設けられた流出口102から流体が流出する一方向弁であり、重力方向(鉛直方向)とは逆方向にのみ流体を流通させるためのものである。本実施例に係る逆止弁100は、上述したように、
図3に示すような復動ポンプ形式の低温流体用二重ベローズポンプでは、吐出側に二箇所、吸入側に二箇所使用される。
【0044】
<逆止弁の構成>
逆止弁100は、概略筒状に形成された弁本体103に、流入口101と、弁座104が形成されている。流入口101は、弁本体103の内部領域において上方に向かって開口し、弁座104は、流入口101の外周に環状に水平に形成されている。案内部としての支柱部材105は、流入口101と弁座104との間に設けられたインロー部に挿入・位置決めされ、押え金具106によって上方から下方に向かって押し付けられ固定されている。
【0045】
押え金具106は、上下に貫通する複数の孔部107を有し、流出口102が形成された概略筒状の蓋108と弁本体103との間に外周端部が挟持固定されることで取り付けられる。蓋108と弁本体103は、ナット等の締結部材109により結合されるとともに、結合面がガスケット110により気密にされる。気密のためのガスケットは、テフロン系ガスケットが一般的であるが、金属系でもよい。また、外部への漏れの許容度から、ガスケットを使用しなくてもよい。また、孔部107の形状は特に限定されるものではなく、断面は円形(正円、長円等)でも矩形でもよく、種々の構成を採用することができる。
【0046】
支柱部材105の外周面である案内面(弁体案内面)111には、環状部材である弁体112が上下方向(軸方向)に移動可能に取り付けられている。弁体112は、下部に設けられた環状の当接部としての突起部113が環状の弁座104に当接することにより環状のシール面を形成し、閉弁状態となる。このように凸状の突起部113とすることで、着座時の気密において接触面の面圧を高めることができる。また、弁体112の上部には、弁体112と支柱部材105との間の隙間を封止するための補助弁体114が組み付けられている。
【0047】
支柱部材105は、下部に中心から径方向に延びる切欠き状の溝115が軸対称に形成されており、支柱部材105の下面116とともに、下方から上方に向かって流入口101から流入してきた流体を水平方向に案内する案内流路を形成する。
【0048】
弁体112は、スムーズな上下動を可能にするため、支柱部材105の案内面111と被案内面である内周面117との間に、所定の隙間を有して嵌合(遊嵌)されている。また、突起部113の内側には、環状で水平な受圧面(流体案内面)118が形成されている。
【0049】
補助弁体114は、中心に孔部を有する円盤状の平板部材であり、保持部材119によって、弁体112の上面120に対して所定範囲で上下移動可能な隙間Gを有して保持されている(
図2)。また、補助弁体114は、内周面121が押え金具106の押え部外周面122に対して上下方向に摺動自在に接触する構成となっている。弁体112の上面120と、支柱部材105の上面123は、弁体112が着座した状態において同じ高さとなる。これにより、補助弁体114は、弁体112の内周面117と支柱部材105の案内面111と間の隙間を流出口102側に対して覆うように、弁体112の上面120と支柱部材105の上面123にそれぞれ着座した状態となることができる。補助弁体114は、基本的に平板でよいが、穴や溝、切欠き等を設けてもよい。また、中心方向に向けて凹凸を設けてシール位置の調整を行うことも可能である。また、保持部材119と弁体112の上面120との間に形成される隙間Gの大きさは、補助弁体114が閉弁する際に弁座である弁体112の上面と支柱部材105の上面123の凹凸(高さの違い)にならってたわむ(凹凸に沿って変形する)ことを阻害しない観点から、補助弁体114の外周部が拘束されないように(十分に変形可能となるように)、該外周部の変形を見越して、最低限の大きさが確保されるように設定される。なお、補助弁体114の外周部が拘束(固定)されても、弁座の凹凸にならった変形が保障されるのであれば、隙間Gは設けなくてもよい。
【0050】
極低温で使用するため、本実施例に係る逆止弁100の各構成部品の部材としては、金属系では、比較的低温脆化の少ないオーステナイト系ステンレス鋼、チタン、アルミ系が好ましい。また、樹脂系では、PTFE、ポリイミド系樹脂等の低温でも機械的特性が著しく低下しない材料が好ましい。また、常温から使用温度までは温度差が200℃以上あり、使用温度下では部材に熱収縮を伴うため、弁体112、補助弁体114、支柱部材105の隙間を設けた稼働部は同一材料もしくは隙間が増加する部材の組み合わせが好ましい。さらに、弁体または弁座の接触面、弁体、補助弁体と支柱部材の稼働部には摩耗低減のための熱処理、表面処理(テフロンコーティング、銀メッキ、蒸着)を実施してもよい。
【0051】
<逆止弁の開閉動作>
逆止弁100は、流入口101側の流体圧P1により作用する力が、弁体112の重量と流出口102側の流体圧P2とにより作用する力より小さくなると、弁体112が自重により下降して閉弁状態となる。また、流入口101側の流体圧P1により作用する力が、弁体112の重量と流出口102側の流体圧P2とにより作用する力より大きくなると、弁体112が弁座104から上昇し、開弁状態となる。
【0052】
下方から上方に向かって流入口101から流入してきた流体は、支柱部材105の溝115と下面116によって形成される案内流路によって水平方向に案内される。案内流路の下流側開口(溝115の外周側開口)より下流側には、弁座104と、弁体112の突起部113と、受圧面118と、支柱部材105の外周面(案内面111)とにより、環状の流路が形成されている。この流路内の圧力P1により弁体112にかかる力が弁体112の重量及びP2により弁体112にかかる力より大きくなると、圧力P1を受圧面118で受けることで弁体112が上昇して弁座104から離間する。このとき、補助弁体114も、支柱部材105と弁体112との間の隙間から流入してくる流体の流体圧P1により弁体112に対して上昇し、流入口101側と流出口102側とを連通する微小な流路を形成する。そして、補助弁体114は、弁体112の上昇にともない、押え金具106の押え部外周面122と摺動しながら支柱部材105の上面123からさらに離間していく。
【0053】
<本実施例の優れた点>
本実施例に係る逆止弁100の弁構造によれば、弁体112に作用する力は、受圧面118、すなわち、弁体112の内周面117の下端縁と突起部113に囲まれた環状領域に作用する、上流側圧力(P1)と下流側圧力(P2)の差圧ΔPによる力が殆どとなる。突起部113も外径方向に圧力を受けることになるが、その大きさは受圧面118と比べて小さく、弁体112の挙動に対する影響は少ない。弁体112に対して作用する流体の運動量は、上記案内流路により基本的に弁体112の径方向に作用し、軸方向に作用する力は突起部113に僅かに作用するだけとなり、
図12に示すようなポペット弁と比較して大幅に低減される。したがって、弁体112は、主として受圧面118で受ける圧力によって上昇することになる。
【0054】
また、径方向に作用する流体の運動量は、軸対称に作用するため弁体112に加わる力としては相殺される。すなわち、ポペット弁に作用する力Fの式(3)における右辺第二項は大幅に低減される。そのため、弁体112を押し上げる力がポペット弁に比べて小さくなり、弁体112のリフト量が小さくなることから、自重によって最大リフト量から閉弁位置に落下する時間が短縮され、閉止タイミングの遅れが短縮される。
【0055】
このように逆止弁の閉止タイミング遅れが短縮化されることにより、ポンプの高速化を図ることができる。この点について以下説明する。
【0056】
図3に示すベローズポンプのような容積型ポンプの場合、流量は以下のような関係である。
Q=Vth×N×n
【0057】
ここで、Q:流量[l/min]、Vth:行程容積[l]、N:行程数[cpm]、n:体積効率とする。
【0058】
この関係から、同一流量の場合、行程数Nが多いほど必要な行程容積Vthが小さくなる。行程容積Vthが小さいほど、構成要素のベローズ行程容積が小さくなる。ベローズ行程容積が小さい場合、設計的に可能なベローズストロークの関係で求められるベローズ有効面積を小さくすることができる。そのため、ベローズ有効面積(Ab)×(ポンプ吐出圧力P)によって求まるベローズ作動荷重を低減することにより、ベローズ作動に関わる部材に必要な剛性を小さくすることができ、ポンプ支持部材及びベローズ作動軸の部材の軽量化が可能となる。
【0059】
ポンプ支持部材及びベローズ作動軸の軽量化により、ポンプにおける装置軸方向の熱伝達係数が低減され、構造上、タンク内に貯留されている低温液へ大気側から侵入する熱量が低減する。そのため低温液の蒸発量が減り、冷凍機を使用している場合は必要な冷却能力を減らすことができ、好ましい。
【0060】
また、ポンプ自体の軽量コンパクト化は取扱易さ、省設置スペース、耐振動性、耐衝撃性の向上により好ましい。
【0061】
以上のことから、ポンプの高速化(一行程の時間を短くすること)は低温ポンプにとって好ましい。しかし、ポンプを高速化する場合、逆止弁の閉止タイミングの遅れ時間がポンプの吐出性能(体積効率)に大きく関係する。逆止弁の閉止タイミングが遅れた場合(遅れ時間が大きい場合)、逆止弁の閉止遅れ時間中に吐出(吸入)した流体が逆流することで、結果的に体積効率が低下する。また、逆流時の弁の閉止によって生じる水撃の影響が無視できない場合もある。ポンプを高速化して一行程の時間が短くなり、弁の閉止遅れ時間と一行程の時間とが同一となった場合、実質、吐き出し量と逆流量が同一となるため高速化の限界となる。そのため、ポンプの高速化の限界サイクルを向上させるには逆止弁の閉止遅れ時間の短縮が大きく寄与することになる。
【0062】
したがって、本実施例によれば、逆止弁の閉止遅れ時間の短縮することにより、ポンプの高速化を図ることができる。
【0063】
また、弁体112と支柱部材105との間には、弁体112をスムーズに移動させるための隙間を設け、弁体112の着座後に補助弁体114によって上記隙間を閉じる二段弁構造としている。このような二段弁構造により、逆流時の水撃を一段弁構造の場合と比べて低減することができる。これは1段目の弁(弁体112)で逆流量が絞られた後、最終的に二段目の弁(補助弁体114)で閉止するため、相対的に水撃の作用の大きさの目安となる閉止時の逆流流速が小さくなるためである。
【0064】
また、弁体112と支柱部材105の隙間の位置が上下方向にみて流入口101よりも外側に位置する(上下方向において流入口101と重ならない)ように構成したことにより、流入口101から流入してきた流体は、一旦水平方向に流動方向を変えてから上記隙間に流入することになる。したがって、隙間を介して補助弁体114に作用する流体の運動量の影響を低減することができ、水撃の影響をより効果的に低減することができる。
【0065】
本実施例の弁構造によれば、開弁圧力が、弁体112のシール位置(突起部113の弁座104に対する当接位置)を弁体112の径方向に適宜調整することにより、流入口101側の流路の大きさを変えることなく弁体112の重量との関係で決まる。したがって、開弁圧力の適度な調整が可能である。
【0066】
また、弁リフト量についても、弁体112のシール位置を弁体112の径方向に適宜調整することにより、流入口101側の流路の径を変えることなく、流量と弁体112の重量との関係からおおよそ決まる。したがって、弁リフト量についても適度な調整が可能である。
【0067】
さらに、弁閉時に発生するΔPによる押し付け力についても、流入口101側の流路の径を変えることなく、弁体112のシール位置を弁体112の径方向に適宜調整することにより、調整することができる。過度な押し付け力は、弁体112と弁座104の繰り返し接触により摩耗を促進するため、押し付け力調整によって、摩耗を低減し、耐久性の向上を図ることができる。
【0068】
<変形例>
図4は、本実施例の逆止弁の変形例の模式的断面図であり、(A)は、閉弁状態、(B)は、開弁状態をそれぞれ示す。本変形例のように、補助弁体114を下方に不正する付勢部材としてのばね124を、補助弁体114の上面と押さえ金具106の下端面との間に上下方向に圧縮して組み付けてもよい。本変形例によれば、ばね124により補助弁体114を介して弁体112に閉弁方向の付勢力が作用し、閉弁動作の高速化を図ることができる。また、ばね荷重を適宜設定することにより、逆止弁100の設置方向を重力方向とは逆方向にする、すなわち、上方から下方の一方向に流体を流通させる逆止弁として使用することが可能となる。
【0069】
(実施例2)
図5を参照して本発明の実施例2に係る逆止弁について説明する。
図5は、本発明の実施例2に係る逆止弁の模式的断面図であり、(A)は、閉弁状態、(B)は、開弁状態をそれぞれ示す。ここでは、主として実施例1と異なる点について説明し、実施例1と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。ここで説明しない事項は実施例1と同様である。
【0070】
本実施例に係る逆止弁200は、弁体の構成が実施例1に係る逆止弁100と異なる。本実施例における弁体125は、受圧面126がテーパ状の傾斜となっている。受圧面126は、弁体125の内周面下端から外径方向に向かうほど弁座104との上下方向の距離が徐々に狭まるように延びる傾斜面となっており、その外周端が弁座104に当接する環状の当接部127となっている。このような構成においても、実施例1と同様、弁体125に対して作用する流体の運動量による力の大きさを低減することができる。
【0071】
受圧面126の角度は、受圧面126に作用する力の水平方向の分力が垂直方向の分力よりも大きくなるような角度、すなわち、弁体125に対して作用する流体の運動量による力の大きさを可能な限り小さくできるような角度に設定する。例えば、水平面に対して10°程度の浅い角度に設定することができる。なお、実施例1における突起部113の高さについても同様の観点から設定され、受圧面118に対して、上記テーパ面の場合における内周端と外周端との間の高低差と同程度の高さとなるように設定すればよい。
【0072】
また、受圧面126は、逆テーパ状の傾斜面、すなわち、弁体125の内周面下端から外径方向に向かうほど弁座104との上下方向の距離が徐々に広がるように延びる傾斜面としてもよい。ただし、当接部127の内周面に外径方向に作用する力、すなわち、弁体125に対して作用する流体の運動量による力の大きさが大きくならないように設定する。
【0073】
また、本実施例では、実施例1の保持部材119を廃し、スペーサ128によって補助弁体114の上下方向の移動範囲を規制する構成としている。スペーサ128は、補助弁体114の上面に固定されており、所定の厚みを有している。このような構成においても、実施例1と同様、逆流時の水撃の影響を低減することができる。
【0074】
<比較実験>
図6〜
図9を参照して、本実施例による閉応答時間の短縮効果及び水撃力の低減効果について説明する。
図6は、実施例2に係る逆止弁における閉応答時間を測定した結果を示す図である。
図7は、従来例に係る逆止弁における閉応答時間を測定した結果を示す図である。
図8は、実施例2に係る逆止弁における水撃力の大きさを測定した結果を示す図である。
図9は、従来例に係る逆止弁における水撃力の大きさを測定した結果を示す図である。
【0075】
本実施例に係る逆止弁として、テーパ面の角度が約10°、受圧面積が約10cm
2、弁体の最大稼動範囲が約3mm、弁体の有効径が25mmの逆止弁を使用した。また、従来例に係る逆止弁として、本実施例に係る逆止弁と同等な有効径をもつポペット弁を使用した。
【0076】
<<閉応答時間の比較>>
上記実施例に係る逆止弁と従来例としてのポペット弁について、それぞれベローズのストロークと弁体(バルブ)のストロークを変位計で計測し、ベローズストロークの最下点(下死点)から弁体が着座点まで降下するまでの時間を閉応答時間とした。
図7に示すように、従来例のポペット弁では21msであったのに対し、
図6に示すように、本実施例の逆止弁では12msとなり、閉応答時間が大幅に短縮される結果となった。
【0077】
<<水撃の大きさの比較>>
弁体(バルブ)の上流側および下流側にそれぞれ圧力計を設置して、閉弁時に発生する水撃圧力を測定した。
図9に示すように、従来例のポペット弁では、入口側においてライン圧(100KPa)に対して−120KPaの圧力が発生するとともに、出口側においてライン圧に対して+460KPaの圧力が発生している。一方、
図8に示すように、本実施例の逆止弁では、入口側に発生する圧力がライン圧に対して−100KPa、出口側に発生する圧力がライン圧に対して+210KPaとなり、水撃力が大幅に低減される結果となった。
【0078】
(実施例3)
図10、
図11を参照して本発明の実施例3に係る逆止弁について説明する。
図10は、本発明の実施例3に係る逆止弁の模式的断面図であり、(A)は、閉弁状態、(B)は、開弁状態をそれぞれ示す。
図11は、弁体周辺の構成を示す
図10の一部拡大図であり、(A)は、第1弁部だけが閉弁した状態、(B)は、第1弁部と第2弁部が閉弁した状態をそれぞれ示す。ここでは、主として実施例1、2と異なる点について説明し、実施例1、2と同様の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。ここで説明しない事項は実施例1、2と同様である。
【0079】
本実施例に係る逆止弁300は、弁体及び支柱部材の構成が実施例1、2に係る逆止弁100、200と異なるとともに、補助弁体を備えていない点でも異なる。
図10に示すように、本実施例における弁体130は、大径の第1弁部131と、小径の第2弁部132と、第2弁部132から傘状に拡がって第1弁部131につながる傾斜部134と、を備える。第2弁部132の上面には、環状のおもり133が接合されている。弁体130は、SUSや樹脂等の内部流体による影響がない材料であって弾性変形が可能な材料で構成される。
【0080】
弁体130の第1弁部131は、弁座104に着座して第1の環状のシール面を形成する。また、弁体130の傾斜部134の下面は、テーパ状に傾斜した受圧面を形成する。本実施例における支柱部材135は、下端にフランジ部137を有しており、フランジ部137の上面が、弁体130の第2弁部132の弁座となる。また、フランジ部137の下面は、流入口101から流入してきた流体を径方向外向き案内する流体案内面として機能する。第2弁部132がフランジ部137の上面に着座することで第2の環状のシール面が形成される。なお、本実施例における押え金具136は、実施例1、2の押え金具106と形状が異なっているが、求められる機能は同じである。
【0081】
逆止弁300は、流入口101側の流体圧P1により作用する力が、弁体130の重量と流出口102側の流体圧P2とにより作用する力より小さくなると、弁体130が自重により下降して閉弁状態となる。おもり133は、弁体130の自重による下降を可能とするために設けられており、おもり133を設ける代わりに第2弁部132に肉厚部を設けるなどにより弁体自体の重さを調整するようにしてもよい。
【0082】
閉弁時には、
図11(A)に示すように、最初に第1弁部131が弁座104に着座し、第2弁体132は着座していない状態となる。その後、先に着座した第1弁部131を基点とし弁体130全体が弾性変形を生じて、第2弁部132がフランジ部137上面に着座する。
【0083】
具体的には、
図11(B)に示すように、先に着座した第1弁部131の周辺が拡径変形して第1弁部131の着座位置が外側にずれる(シール面が拡径する)とともに、傾斜部134が内側に向かって倒れるように変形する。これと同時に、第2弁部132及びおもり133は、若干縮径変形しながら下降してフランジ部137上面に着座する。第2弁部132の内周面と支柱部材135の外周面との間には隙間が設けられており、環状の流路を形成している。第2弁部132は、閉弁時に上記環状の流路を狭めながらフランジ部137の上面に着座する。
【0084】
開弁時には、流入口101側の流体圧P1により作用する力が、弁体130の重量と流出口102側の流体圧P2とにより作用する力より大きくなると、弁体130の第1弁部131、第2弁部132が弁座104、フランジ部137上面からそれぞれ上昇し、開弁状態となる。
【0085】
本実施例に係る逆止弁300は、第1弁部131の閉弁後に第2弁部132が閉弁する二段弁構造となっている。また、第1弁部131において流体が流動する方向と、第2弁部132において流体が流動する方向が互いに逆方向となっている。すなわち、流入口101から流入してきた流体は、一旦水平方向外向きに流動方向を変え、その後水平方向内向きに流れの向きを変えてから第2弁部132に流入することになる。受圧面である傾斜部134の下面は、弁体130の内周側から外径方向に向かうほど弁座104との上下方向の距離が徐々に狭まるように延びる傾斜面となっている。これにより、実施例1、2と同様、本実施例においても、弁体130に対して作用する流体の運動量による力の大きさを低減することができる。
【0086】
上記各実施例は、それぞれの構成を互いに組み合わせて適用することができる。