(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼結工程は、アルゴンまたは窒素の不活性雰囲気中で前記構造体を温度900℃以上1200℃以下で加熱するものであることを特徴とする請求項1に記載の焼結磁石の製造方法。
前記成形工程と前記焼結工程との間に、前記構造体を温度300℃以上500℃以下で加熱する脱脂工程をさらに有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の焼結磁石の製造方法。
前記焼結工程と前記着磁工程との間に、アルゴンまたは窒素の不活性雰囲気中で前記焼結体を温度500℃以上700℃以下で加熱するアニール工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の焼結磁石の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼結磁石に対する需要が多様化するに従い、従来の焼結磁石の製造方法では、焼結磁石の形状に対する需要に対応することが困難になりつつある。磁石粉末を圧縮成形して複雑形状の焼結磁石を製造しようとすれば、複雑形状の金型を必要とし、金型を複雑化することには限界がある。また、焼結後に切削等の加工を施すにしても、形状を整えること以上の加工を加えることは容易ではない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、複雑形状を有する焼結磁石を製造することができる焼結磁石の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、磁石粉末を成形した後に焼結して焼結磁石を製造する焼結磁石の製造方法であって、前記磁石粉末の積層と該積層の所定の一部領域に対する樹脂塗布とを繰り返すことによって、前記磁石粉末によって形成された構造体を成形する成形工程と、前記構造体を焼結して焼結体を作製する焼結工程と、前記焼結体に磁場をかけて前記焼結体に着磁する着磁工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記焼結工程は、アルゴンまたは窒素の不活性雰囲気中で前記構造体を温度900℃以上1200℃以下で加熱するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記成形工程と前記焼結工程との間に、前記構造体を温度300℃以上500℃以下で加熱する脱脂工程をさらに有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記焼結工程と前記着磁工程との間に、アルゴンまたは窒素の不活性雰囲気中で前記焼結体を温度500℃以上700℃以下で加熱するアニール工程をさらに有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記成形工程の前に、前記磁石粉末を球体化するアトマイズ工程をさらに有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記磁石粉末は、以下の組成式で表される組成を有することを特徴とする。
組成式:RE
x(Fe
1−uCo
u)
100−x−y−zB
yT
z
ただし、RE
Xはイットリウム(Y)を包含する希土類元素の1種以上であり、Feは鉄(Fe)、Coはコバルト(Co)、Bはホウ素(B)であり、Tは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)のうち1種以上を複合させて用いる添加元素である。また、x,y,zは、0<x,y,z<100かつ0<x+y+z<100を満たす値であり、uは、0≦u≦1を満たす値である。
【0013】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記磁石粉末の組成式において、RE
Xはネオジム(Nd)を主成分とすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記磁石粉末の組成式において、Tはタングステン(W)を主成分とすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る焼結磁石の製造方法は、前記成形工程に提供される磁石粉末は、粒径が1μm以上106μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る焼結磁石の製造方法は、複雑形状を有する焼結磁石を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る焼結磁石の製造方法を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
図1は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法の概要を示すフローチャートである。
図1に示されるように、実施形態に係る焼結磁石の製造方法は、前処理工程(ステップS1)と成形工程(ステップS2)と後処理工程(ステップS3)とに分けて考えることができる。しかしながら、
図1に示される焼結磁石の製造方法の手順の切り分けは、あくまでも説明を容易ならしめるためのものであって、実施形態に係る焼結磁石の製造方法を限定するものではない。
【0020】
したがって、
図1に示される焼結磁石の製造方法の手順の切り分けに限らず、前処理工程(ステップS1)と成形工程(ステップS2)との間に新たな工程を追加することや、成形工程(ステップS2)と後処理工程(ステップS3)との間に新たな工程を追加すること、逆に複数工程を一体化すること、または、各工程のうち一部の工程を他の工程の一部として実施する等の変形を行うことも可能である。以下に説明する実施形態に係る焼結磁石の製造方法は、磁石粉末を成形した後に焼結して焼結磁石を製造する焼結磁石の製造方法の一般に適用可能なものである。
【0021】
以下、
図1に示される焼結磁石の製造方法の手順の切り分けにしたがって、前処理工程(ステップS1)と成形工程(ステップS2)と後処理工程(ステップS3)とに分けて、実施形態に係る焼結磁石の製造方法の説明を行うものとする。
【0022】
図2は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における前処理工程の概要を示すフローチャートである。
図2に示される前処理工程の手順は、
図1に示される前処理工程(ステップS1)の一例となっている。
【0023】
図2に示されるように、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における前処理工程は、配合工程(ステップS11)と粉化工程(ステップS12)と分級工程(ステップS13)とを有する。もちろん、
図2に示される工程は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における前処理工程における代表的工程であり、適宜、新たな工程を追加することが可能である。
【0024】
配合工程(ステップS11)は、焼結磁石の原料を秤量し、配合する工程である。ここで、本実施形態に係る焼結磁石の製造方法では、下記の組成式で表される組成が実現されるように原料を配合する。
組成式:RE
x(Fe
1−uCo
u)
100−x−y−zB
yT
z
なお、RE
Xはイットリウム(Y)を包含する希土類元素の1種以上であり、代表的には、ネオジム(Nd)である。鉄(Fe)およびコバルト(Co)は、ともに強磁性元素であり、磁石の組成としてはほぼ同様の役割を担う。典型的な組成としては、鉄であるが、鉄をコバルトで置換することで、キュリー温度が上昇し、製品としての磁石における温度特性が上昇する。またBは、ホウ素(B)である。x,y,zは、組成比を百分率で表した数値であり、0<x,y,z<100かつ0<x+y+z<100を満たす値である。一方、uは、0≦u≦1を満たす値である。
【0025】
Tは、添加元素であり、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)のうち1種以上を複合させて用いる。これら添加元素は、高融点元素であり、結晶粒成長の抑制に寄与する。
【0026】
後に説明するように本実施形態に係る焼結磁石の製造方法には、アトマイズを行う工程と焼結を行う工程が含まれており、これらの工程は、結晶粒が成長する要因である。一般に、結晶粒の大きさは、製品としての磁石における保磁力の低下に影響する。したがって、従前の焼結磁石の製造工程においては、結晶粒が大きく成長しないように焼結温度を低く抑える等の配慮が行われている。
【0027】
しかしながら、本実施形態に係る焼結磁石の製造方法では、アトマイズを行う工程でも結晶粒成長が起こり、さらに、そのアトマイズした磁石粉末を積層造形した構造体を焼結するために焼結温度を低く抑えることが困難である。したがって、本実施形態に係る焼結磁石の製造方法では、焼結磁石の原料に結晶粒成長を抑制する効果が高い、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)のうち1種以上を複合させて添加することが好ましい。なお、これら高融点金属のうち特にタングステン(W)を添加することが最も好ましい。
【0028】
なお、上記組成式で表される磁石は、いわゆるNd−Fe−B系の焼結磁石に対して、元素の置換または元素の添加を行ったものと考えることができる。また、焼結磁石の原料には不可避の不純物(ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等)が含まれており、上記組成式において、これら不可避の不純物はTに含まれていると考えるものとする。
【0029】
粉化工程(ステップS12)は、配合工程(ステップS11)にて配合された磁石の原料を溶解し、磁石粉末を製造する工程である。ここでは、実施形態に係る焼結磁石の製造方法に好適な磁石粉末を製造するために、ガスアトマイズ法を用いた粉化方法について説明する。しかしながら、実施形態に係る焼結磁石の製造方法は、他の粉化方法の適用を排除するものではなく、磁石の原料を溶解してインゴットを作製し、当該インゴットを粗粉砕およびジェットミル粉砕による微粉砕を行う方法で磁石粉末を製造する方法を用いることも可能である。
【0030】
ここで、ガスアトマイズ法を用いた粉化方法について説明するめに、
図3を参照する。
図3は、ガスアトマイズ法に用いられるガスアトマイズ装置の概略構成を示す図である。
【0031】
図3に示されるように、ガスアトマイズ装置10は、タンディッシュ11と冷却室12とを備えている。タンディッシュ11は、溶解した磁石粉末の原料を貯める容器であり、冷却室12の内部まで導入されたノズル13を介して、冷却室12に溶解した磁石粉末の原料を供給するためのものである。
【0032】
冷却室12に供給された磁石粉末の原料14は、ノズル15から噴出されるガスによって小滴化され、冷却室12中を自由落下する。冷却室12は、低温の不活性ガス雰囲気によって満たされており、冷却室12中を自由落下する磁石粉末の原料14は、冷却室12の底部に到達するまでに凝固する。その際、小滴化された磁石粉末の原料14は、自らの表面張力によって球体化されるので、冷却室12の底部には、球体化された磁石粉末16が堆積する。この堆積した磁石粉末16を回収することにより、実施形態に係る焼結磁石の製造方法に好適な磁石粉末を得ることができる。
【0033】
図2に示される前処理工程の例では、粉化工程(ステップS12)の後に分級工程(ステップS13)を設けている。これは、粉化工程(ステップS12)によって製造された磁石粉末から好適な粒径のものを選別するためのものである。例えば分級工程(ステップS13)にて選別される磁石粉末の粒径は、1μm以上106μm以下であることが好ましい。磁石粉末の粒径が1μmを下回ると比表面積が増大し、酸化による磁気特性の低下が著しいからである。一方、磁石粉末の粒子径が106μmを上回ると後段の焼結工程における焼結性の低下を招くため好ましくない。特に、酸化による磁気特性の低下および焼結性の低下の両方を抑制する観点から、磁石粉末の粒径が5μm以上75μm以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう磁石粉末の粒径は、日本工業規格JISZ8815のふるい分け法に準拠しているが、粒径の下限値はレーザー回折式粒度測定により規定している。
【0034】
図4は、上記説明した前処理工程にて製造された磁石粉末の電子顕微鏡写真を示す図である。
図4に示されるように、上記説明した前処理工程にて製造された磁石粉末は、粒径が50μm以下であり、かつ球体化されている。このような磁石粉末は、後段の成形工程において、樹脂の塗布に好適であり、寸法精度が高く密度が高い構造体を成形できる。したがって、その後の焼結性も向上し、かつ、最終製品の焼結磁石の寸法精度も向上する。
【0035】
次に、
図5〜
図7を参照しながら、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における成形工程を説明する。
図5は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における成形工程の概要を示すフローチャートである。
図5に示される成形工程の手順は、
図1に示される成形工程(ステップS2)の一例となっている。
図6は、成形工程に用いられる積層造形装置の例を示す概略平面図であり、
図7は、積層造形装置のヘッド部を示す概略側面図である。なお、
図6および
図7に示される積層造形装置は、
図5に示される成形工程に用いる好適な装置構成例であるが、実施形態に係る焼結磁石の製造方法は、積層造形装置の構成に限定されるものではない。
【0036】
図5に示されるように、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における成形工程は、磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップ23)と繰り返し判定(ステップS24)とを有する。これら各工程は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における成形工程における代表的工程であるが、積層造形装置によっては、
図5に示されていない追加の工程を実行するように構成され得る。
【0037】
磁石粉末積層工程(ステップS21)は、前処理工程(ステップS1)にて製造された磁石粉末を均一の厚さに積層する工程である。樹脂塗布工程(ステップS22)は、磁石粉末積層工程(ステップS21)によって均一の厚さに積層された磁性粉末における所定の一部領域に硬化性の樹脂を塗布する工程である。ここで、磁性粉末における所定の一部領域とは、形成すべき構造体の形状によって定まっている。すなわち、形成すべき構造体の断面形状が樹脂を塗布する領域に対応しており、磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)とを繰り返すことによって、形成すべき構造体の立体形状に対応する磁石粉末の領域に樹脂が塗布されることになる。
【0038】
樹脂硬化工程(ステップS23)は、磁性粉末に塗布された硬化性樹脂を硬化するための工程である。例えば、磁性粉末に塗布された樹脂が紫外線硬化性の樹脂であれば紫外線を照射する工程であり、熱硬化性の樹脂であれば熱線を照射する工程である。なお、樹脂を硬化するために特別な工程を必要としなければ樹脂硬化工程(ステップS23)を省略することが可能であり、樹脂硬化工程(ステップS23)を必要とする場合でも、積層造形装置の装置構成を工夫すれば、樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップS23)とを略同時に実行することが可能である。
【0039】
繰り返し判定(ステップS24)は、上記一連の磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップ23)とを繰り返すための判定処理である。すなわち、形成すべき構造体の全ての断面に対応する積層が完了したか否かを判定し、全ての断面に対応する積層が完了するまで磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップ23)とを繰り返すように処理を行う。
【0040】
図6および
図7に示される積層造形装置20は、上記磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップ23)と繰り返し判定(ステップS24)を実行することが可能な構成を有している。
【0041】
図6に示されるように、積層造形装置20は、積層造形装置20に対してX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに移動可能なプレート21と、積層造形装置20に対して固定されたヘッド部30と、磁石粉末供給部40とを備えている。ここで、X軸方向とは、紙面における上方向であり、Y軸方向とは、紙面における右方向であり、Z軸方向とは、紙面に対する垂直方向である。ただし、座標軸の設定には任意性がある。また、
図6に示される積層造形装置20は、プレート21が積層造形装置20に対してX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに移動可能な構成を採用しているが、プレート21を積層造形装置20に対して固定し、ヘッド部30が積層造形装置20に対してX軸方向とY軸方向とZ軸方向とに移動可能な構成を採用することも可能である。
【0042】
積層造形装置20は、プレート21が積層造形装置20に対してY軸方向に移動可能となるように、Y軸方向に延在するY軸レール22a,22bとY軸レール22a,22b上を移動可能に設けられたY軸スライド機構23a,23bとを備えている。また、積層造形装置20は、プレート21が積層造形装置20に対してX軸方向に移動可能となるように、Y軸スライド機構23a,23bの間をX軸方向に架橋するX軸レール24とX軸レール24上移動可能に設けられたX軸スライド機構25を備えている。さらに、積層造形装置20は、プレート21が積層造形装置20に対してZ軸方向に移動可能となるように、プレート21を昇降させる昇降機26をX軸スライド機構25上に備えている。以上のような構成によって、積層造形装置20は、積層造形装置20に対してX軸方向とY軸方向とZ軸方向とにプレート21を移動することができる。
【0043】
磁石粉末供給部40は、プレート21上に磁石粉末を均一の厚さに積層するための機構である。磁石粉末供給部40は、ノズル41を備え、当該ノズル41を介して磁石粉末を吐出する。
図6に示されるように、ノズル41をX軸方向に並列して設けることにより、プレート21をY軸方向のみに移動させることによって、ノズル41から吐出される磁石粉末をプレート21の全面上に堆積することが可能である。また、磁石粉末供給部40は、ブラシまたはヘラなどの部材を備えており、プレート21上に堆積された余分な磁石粉末を除去し、プレート21上に磁石粉末を均一の厚さに積層することが可能である。以上のような構成により、磁石粉末供給部40は、
図5に示した磁石粉末積層工程(ステップS21)を実行することができる。
【0044】
ヘッド部30は、プレート21上に均一の厚さに積層された磁石粉末における所定の一部領域に硬化性の樹脂を塗布するための機構である。ヘッド部30は、ノズル31を備え、当該ノズル31を介して硬化性の樹脂を吐出する。
図6に示されるように、ノズル41をX軸方向に並列して設けることにより、プレート21をY軸方向のみに移動させることによって、プレート21の全面上の磁石粉末に対して硬化性の樹脂を塗布することが可能である。ただし、プレート21の全面上の磁石粉末に対して硬化性の樹脂を塗布するのではなく、積層された磁性粉末における所定の一部領域に硬化性の樹脂を塗布する必要がある。このために、ヘッド部30に設けられた複数のノズル31には、それぞれ独立に制御可能なピエゾ素子が設けられ、各ノズル31から硬化性の樹脂を吐出するタイミングが制御されている。以上のような構成により、ヘッド部30は、
図5に示した樹脂塗布工程(ステップS22)を実行することができる。
【0045】
ヘッド部30は、樹脂硬化手段を備えていることが好ましい。ここで樹脂硬化手段とは、磁性粉末に塗布された樹脂が紫外線硬化性の樹脂であれば紫外線を照射する紫外線照射装置であり、熱硬化性の樹脂であれば熱線を照射する熱線照射装置である。ヘッド部30が樹脂硬化手段を備えれば、
図5に示した樹脂塗布工程(ステップS22)と樹脂硬化工程(ステップS23)とを略同時に実行することができる積層造形装置20の構成が実現される。なお、樹脂を硬化するために特別な工程を必要としなければ樹脂硬化手段を備える必要はない。
【0046】
なお、積層造形装置20では、磁石粉末供給部40を用いた磁石粉末積層工程(ステップS21)とヘッド部30を用いた樹脂塗布工程(ステップS22)とを完了した後に、昇降機26を用いてプレート21を降下させ、次の層に対する磁石粉末積層工程(ステップS21)と樹脂塗布工程(ステップS22)とを繰り返すことになる。以上のように、積層造形装置20は、磁石粉末の積層と該積層の所定の一部領域に対する樹脂塗布とを繰り返すことによって、磁石粉末よって形成された構造体を成形することが可能な装置であり、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における成形工程の実施に好適な装置構成を有している。
【0047】
次に、
図8を参照しながら、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における後処理工程を説明する。
図8は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における後処理工程の概要を示すフローチャートである。
図8に示される後処理工程の手順は、
図1に示される後処理工程(ステップS3)の一例となっている。
【0048】
図8に示されるように、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における後処理工程は、脱脂工程(ステップS31)と焼結工程(ステップS32)とアニール工程(ステップS33)と磁気特性の測定工程(ステップS34)と表面加工工程(ステップS35)と表面処理工程(ステップS36)と着磁工程(ステップS37)とを有する。ただし、以下に説明するように、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における後処理工程は、これらすべての工程を有する必要はない。
図8に示される各工程は、実施形態に係る焼結磁石の製造方法における後処理工程として代表的な工程を例示するものである。
【0049】
脱脂工程(ステップS31)は、上述の方法を用いて成形された磁石粉末の構造体から樹脂を除去するための工程である。上述のように、成形工程によって成形された構造体は、磁石粉末の積層と該積層の所定の一部領域に対する樹脂塗布とを繰り返すことによって作製されているので、その構造体には樹脂が含まれている。脱脂工程(ステップS31)では、構造体を300℃以上500℃以下の高温状態に構造体を熱暴露し、構造体に含まれている不要な樹脂を除去する。上記温度範囲は、成形された磁石粉末の構造体に含まれている有機物を除去するのに適した温度範囲として規定されている。なお、構造体に含まれる樹脂を除去する必要があるか否かは、形成工程で用いる樹脂に依存し、用いる樹脂によっては、当該脱脂工程(ステップS31)を省略することも可能である。
【0050】
焼結工程(ステップS32)は、上述の方法を用いて成形された磁石粉末の構造体を焼結炉にて焼結して、磁石粉末の焼結体を作製するための工程である。焼結工程(ステップS32)では、焼結炉内雰囲気をアルゴンまたは窒素の不活性ガスで満たし、炉内温度を900℃以上1200℃以下まで昇温した状態で0.5時間以上5時間以下維持する。すると、焼結炉内では、磁石粉末の構造体中の磁石粉末が相互に結合し、磁石粉末の焼結体を形成する。十分な焼結密度を得るためには焼結工程の時間が0.5時間以上であることが好ましく、過剰な結晶粒成長による磁気特性の低下を避けるためには焼結工程の時間が5時間以下であることが好ましい。
【0051】
アニール工程(ステップS33)は、焼結工程(ステップS32)によって作製された焼結体内の微細な磁区組織を最適化し、磁気特性を向上させるためのものである。ただし、このアニール工程(ステップS33)は、磁気特性を向上させることができるが、本実施形態において必ずしも実施しなければいけないものではない。アニール工程(ステップS33)では、熱処理炉内雰囲気をアルゴンまたは窒素の不活性ガスで満たし、温度を温度500℃以上700℃以下まで昇温した状態で0.5時間以上5時間以下維持する。十分なアニールを得るためにはアニール工程の時間が0.5時間以上であることが好ましく、過剰な結晶粒成長による磁気特性の低下を避けるためにはアニール工程の時間が5時間以下であることが好ましい。
【0052】
なお、上記の脱脂工程(ステップS31)と焼結工程(ステップS32)とアニール工程(ステップS33)とは、炉内雰囲気の換気および設定温度の変更を経由することによって、同一の熱処理炉を用いた一連の工程として実施することも可能である。したがって、脱脂工程(ステップS31)と焼結工程(ステップS32)とアニール工程(ステップS33)とが明確には区別されることなく一連の焼結工程として実施される形態も、本実施形態の範疇に含まれるものとみなし得る。
【0053】
磁気特性の測定工程(ステップS34)は、焼結後の焼結体における磁気特性を測定するためのものである。磁気特性の測定工程(ステップS34)における磁気特性の測定方法としては、例えば振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magenetometer:VSM)やBHトレーサーが挙げられる。VSMは、試料を振動させ、試料の磁化によって生じる磁束の時間変化を傍らに置いたコイルに生じる誘導起電力として検出するものである。また、BHトレーサーは、試料にコイルを巻いて、外部磁界を付与した時に生じるコイルの誘導起電力を測定することで試料のBH曲線を得るものである。
【0054】
表面加工工程(ステップS35)は、焼結後の焼結体を切削加工ないし研磨加工し、焼結体の寸法を製品寸法に仕上げるための工程である。焼結工程(ステップS32)では、磁石粉末の構造体の形状はある程度保存されるが、磁石粉末が結合して一体化することによって体積が縮小する。したがって、焼結工程(ステップS32)の前に焼結後の焼結体の寸法を確定することは困難であり、焼結工程(ステップS32)の後に焼結体の寸法を製品寸法に仕上げるための工程を設けることが好ましい。また、焼結後の焼結体の表面を研磨加工することは、後段の表面処理工程(ステップS36)におけるめっき処理の品質向上にも寄与することになる。
【0055】
表面処理工程(ステップS36)は、焼結体の表面処理を行うためのものである。ネオジム磁石は特に酸化され易いので、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)等のめっき処理、アルミ(Al)蒸着、または、樹脂塗装を行う。
【0056】
着磁工程(ステップS37)は、磁石粉末の焼結体に着磁を行い、最終的な磁石に仕上げるためのものである。着磁工程(ステップS37)は、コイルによって発生させた磁場中に磁石粉末の焼結体を曝すことによって行われる。
【0057】
以上説明した実施形態に係る焼結磁石の製造方法によれば、従来の焼結磁石の製造方法では対応することが困難であった複雑形状の焼結磁石を製造することが可能となる。
【0058】
なお、以上説明した実施形態に係る焼結磁石の製造方法では、下記の組成式で表される組成が実現されるように原料を配合した磁石粉末を用いて焼結磁石を製造しているので、製造物である焼結磁石の組成も同じ組成式で表されることになる。
組成式:RE
x(Fe
1−uCo
u)
100−x−y−zB
yT
z
ただし、RE
Xはイットリウム(Y)を包含する希土類元素の1種以上であり、Feは鉄(Fe)、Coはコバルト(Co)、Bはホウ素(B)であり、Tは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)のうち1種以上を複合させて用いる添加元素である。また、x,y,zは、0<x,y,z<100かつ0<x+y+z<100を満たす値であり、uは、0≦u≦1を満たす値である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。また、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。また、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。