【実施例】
【0169】
以下、製造例及び試験例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの製造例及び試験例によって限定されるものではない。
【0170】
製造例1:複合粒子の製造
本製造例では、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末を原料粉末として使用し、1個以上の酸化チタン粒子、1個以上の銀粒子及び1個以上のハイドロキシアパタイト粒子を含んでなる複合粒子を製造した。
【0171】
本製造例では、2種類の複合粒子M1及びM2を製造した。複合粒子M1及びM2は、酸化チタン、銀及びハイドロキシアパタイトの含有比の点で異なる。複合粒子M1及びM2は、株式会社信州セラミックスが製造及び販売する「アースプラス(earthplus)」(商標)と同様にして製造した。複合粒子M1及びM2の製造は、株式会社信州セラミックスに委託した。
【0172】
表1に示す原料粉末を準備した。酸化チタン粉末の粒子径は、透過電子顕微鏡(TEM)又は走査電子顕微鏡(SEM)を使用して測定された値であり、銀粉末の粒子径は、比表面積に基づいて算出された値であり、ハイドロキシアパタイト粉末の粒子径は、レーザー回折・散乱法によって測定された値である。銀粉末は使用まで冷凍保存しておいたので、銀粉末に含まれる銀粒子の凝集は抑制されていた。
【0173】
【表1】
【0174】
市販の湿式ビーズミル(アシザワ・ファインテック株式会社製「スターミルLME」)を使用して、酸化チタン粉末、銀粉末、ハイドロキシアパタイト粉末及びポリカルボン酸系分散剤を水中で混合することにより、酸化チタン粉末に含まれる1個以上の酸化チタン粒子と、銀粉末に含まれる1個以上の銀粒子と、ハイドロキシアパタイト粉末に含まれる1個以上のハイドロキシアパタイト粒子とを複合化し、複合粒子の懸濁液(スラリー)を製造した。使用した湿式ビーズミルは、原料粉末に含まれる酸化チタン粒子、銀粒子及びハイドロキシアパタイト粒子を分散させながら微粉砕し、ナノ粒子又はサブミクロン粒子まで微粒子化することができるとともに、微粒子化した粒子を複合化することができる。
【0175】
湿式ビーズミルを使用した粒子複合化の条件は、次の通りである。
原料粉末の合計添加量:4kg以上
シリンダー容積:3.3L
ビーズ:ジルコニア製ビーズ(直径0.5mm、質量0.37mg)
液の流量:2L/分
シリンダー内の羽根の周速:540m/分
液温:35〜45℃
原料粉末1kgあたりの混合時間:30〜40分(約36分)
【0176】
酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量は、水65質量部に対して、35質量部に調整した。ポリカルボン酸系分散剤の配合量は、酸化チタン粉末、銀粉末及びハイドロキシアパタイト粉末の合計配合量35質量部に対して、0.5質量部に調整した。
【0177】
複合粒子M1の製造では、酸化チタン粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約160質量部(155〜165質量部)に調整し、ハイドロキシアパタイト粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約40質量部(39〜41質量部)に調整した。
【0178】
複合粒子M2の製造では、酸化チタン粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約30質量部(29〜31質量部)に調整し、ハイドロキシアパタイト粉末の配合量を、銀粉末1質量部に対して約3質量部(2.5〜3.5質量部)に調整した。
【0179】
複合粒子の懸濁液(スラリー)を乾燥することにより、複合粒子M1及びM2を製造した。動的光散乱法により測定された複合粒子M1及びM2の粒子径は、200〜500nmであった。動的光散乱法により体積基準で測定された複合粒子M1及びM2のメディアン径(d50)は、約300nmであった。動的光散乱法による粒子径は、市販の動的光散乱式粒子径分布測定装置、具体的には、動的光散乱式ナノトラック粒子径分布測定装置「UPA−EX150」(日機装株式会社製)を使用して測定した。
【0180】
製造例2:複合粒子付着不織布の製造
製造例1で得られた複合粒子M1の懸濁液(スラリー)にバインダ樹脂を加えて混合液を調製した後、ポリエステル製スパンポンド不織布を混合液に浸漬し、不織布に混合液を含浸させた。浸漬後、混合液から不織布を取り出し、ローラーでプレスして余剰の混合液を絞り出した。プレス後、不織布を約130℃で約1分間乾燥して、複合粒子付着不織布N1を製造した。バインダ樹脂としては、ウレタン系樹脂(C
3H
7NO
2/NH
2COOC
2H
5)を使用した。
【0181】
混合液中の複合粒子M1及びバインダ樹脂の濃度を調整することにより、複合粒子付着不織布N1の単位面積あたりの複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を4g/m
2、6g/m
2、8g/m
2又は10g/m
2に調整した。
【0182】
4g/m
2の内訳は、酸化チタン2.27g/m
2、ハイドロキシアパタイト0.571g/m
2、銀0.014g/m
2、バインダ樹脂1.14g/m
2であった。
【0183】
6g/m
2の内訳は、酸化チタン3.41g/m
2、ハイドロキシアパタイト0.857g/m
2、銀0.021g/m
2、バインダ樹脂1.71g/m
2であった。
【0184】
8g/m
2の内訳は、酸化チタン4.54g/m
2、ハイドロキシアパタイト1.143g/m
2、銀0.029g/m
2、バインダ樹脂2.29g/m
2であった。
【0185】
10g/m
2の内訳は、酸化チタン5.68g/m
2、ハイドロキシアパタイト1.428g/m
2、銀0.036g/m
2、バインダ樹脂2.86g/m
2であった。
【0186】
複合粒子M1の懸濁液に代えて複合粒子M2の懸濁液を使用した点を除き、上記と同様にして、複合粒子付着不織布N2を製造した。
【0187】
混合液中の複合粒子M2及びバインダ樹脂の濃度を調整することにより、複合粒子付着不織布N2の単位面積あたりの複合粒子M2及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を13.5g/m
2に調整した。
【0188】
13.5g/m
2の内訳は、酸化チタン6.525g/m
2、ハイドロキシアパタイト0.750g/m
2、銀0.225g/m
2、バインダ樹脂6.00g/m
2であった。
【0189】
複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が4g/m
2である複合粒子付着不織布N1を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡観察結果を
図3〜5に示す。
図3は、500倍での観察結果、
図4は、5000倍での観察結果、
図5は、20000倍での観察結果を示す。
図3〜
図5に示すように、複合粒子M1が不織布に付着していることが確認された。なお、対照として、複合粒子が付着していない不織布の電子顕微鏡観察結果を
図6及び
図7に示す。
図6は、500倍での観察結果、
図7は、1000倍での観察結果を示す。
【0190】
製造例3:複合粒子付着シートの製造
製造例2で製造された複合粒子付着不織布を切断して、幅1cm×長さ10cmの短冊状の複合粒子付着シートを製造した。複合粒子付着不織布としては、複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が4g/m
2である複合粒子付着不織布N1を使用した。
【0191】
製造例4:複合粒子付着マスクの製造
外気側から順に、ポリプロピレンスパンボンド不織布、ポリプロピレンメルトブロー不織布、複合粒子付着不織布及びポリプロピレンスパンボンド不織布を順に積層し、複合粒子付着マスクを製造した。複合粒子付着不織布としては、複合粒子M2及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が13.5g/m
2である複合粒子付着不織布N2を使用した。
【0192】
製造例5:複合粒子含有軟膏の製造
医療用ワセリン(健栄製薬株式会社製の日本薬局方白色ワセリン)及び複合粒子M1を混合し、複合粒子M1を1重量%含有する軟膏を製造した。
【0193】
試験例1〜6
試験例1〜6では、通年性のアレルギー性鼻炎に罹患している6名の患者(男性2名及び女性4名)を被験者とした(表2参照)。6名の被験者は全員、掃除及び布団の上げ下げ時にほぼ毎回、アレルギー性鼻炎の主な症状であるくしゃみ、鼻汁及び鼻閉(以下「3主徴」という)が生じる。
【0194】
【表2】
【0195】
各被験者の既往歴を以下に示す。
[被験者No.1]
17年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。今まで、アレルギー性鼻炎用の標準的な薬剤を多数使用したが、どれも満足のいく効果はなかった。使用薬剤は、抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、血管収縮剤、鼻腔内ステロイド噴霧薬、ステロイド内服薬、各種漢方薬等であった。これらの薬剤は、効果も持続性も弱く、症状を多少緩和する程度であった。
【0196】
[被験者No.2]
16年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。今まで、アレルギー性鼻炎用の標準的な薬剤を多数使用したが、どれも満足のいく効果はなかった。
【0197】
[被験者No.3]
16年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。喘息及び食物アレルギーにも罹患している。
【0198】
[被験者No.4]
40年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。今まで、アレルギー性鼻炎用の標準的な薬剤を多数使用したが、どれも満足のいく効果はなかった。
【0199】
[被験者No.5]
19年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。今まで、アレルギー性鼻炎用の標準的な薬剤を多数使用したが、どれも満足のいく効果はなかった。
【0200】
[被験者No.6]
19年前より、通年性のアレルギー性鼻炎を発症した。今まで、アレルギー性鼻炎用の標準的な薬剤を多数使用したが、どれも満足のいく効果はなかった。
【0201】
試験例1:複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎予防効果
本試験例では、製造例4で製造された複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎予防効果を評価した。
各被験者に対して、以下の試験を行った。
【0202】
[試験A−1]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者に、いずれのマスクも装着させなかった。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、いずれのマスクも装着させずに、掃除を開始させ、掃除開始60分後、掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0203】
[試験B−1]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者に、通常の医療用マスク(サージカルマスク)を装着させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、通常の医療用マスクを装着させた状態で、掃除を開始させ、掃除開始60分後、掃除を終了させた。掃除終了時にマスクを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0204】
[試験C−1]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者に、複合粒子付着マスクを装着させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、複合粒子付着マスクを装着させた状態で、掃除を開始させ、掃除開始60分後、掃除を終了させた。掃除終了時にマスクを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0205】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−1、試験B−1及び試験C−1を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、掃除機による8畳程度の寝室の掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を以下の通り変更して行った。
鼻アレルギー診療ガイドラインの評価基準を表3に示す。
【0206】
【表3】
【0207】
本試験では、掃除終了〜掃除終了12時間後の12時間における3主徴を評価するので、鼻アレルギー診療ガイドラインの評価基準を、表4に示すように変更した。
【0208】
【表4】
【0209】
試験A−1、試験B−1及び試験C−1の結果を表5に示す。
【0210】
【表5】
【0211】
複合粒子付着マスクが使用された試験C−1では、いずれのマスクも使用されなかった試験A−1及び通常の医療用マスクが使用された試験B−1と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の出現が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着マスクを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子付着マスクは、アレルギー性鼻炎予防効果を有することが判明した。
【0212】
各被験者の呼吸によって複合粒子付着マスクから脱離し、鼻腔内に吸入されて鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎予防効果が発揮されると考えられる。
【0213】
但し、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着マスクを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎予防効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0214】
複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎予防効果には、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0215】
試験例2:複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎治療効果
本試験例では、製造例4で製造された複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎治療効果を評価した。
各被験者について、以下の試験を行った。
【0216】
[試験A−2]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、いずれのマスクも装着させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現後も掃除を継続させ、3主徴出現60分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0217】
[試験B−2]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、いずれのマスクも装着させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現後も掃除を継続させ、3主徴出現10分後に通常の医療用マスク(サージカルマスク)を装着させ、3主徴出現60分後に掃除を終了させた。掃除終了時にマスクを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0218】
[試験C−2]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、いずれのマスクも装着させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現も掃除を継続させ、3主徴出現10分後に複合粒子付着マスクを装着させ、3主徴出現60分後に掃除を終了させた。掃除終了時にマスクを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:いずれのマスクも装着させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0219】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−2、試験B−2及び試験C−2を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、掃除機による8畳程度の寝室の掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を上記の通り変更して行った。
【0220】
試験A−2、試験B−2及び試験C−2の結果を表6に示す。
【0221】
【表6】
【0222】
複合粒子付着マスクが使用された試験C−2では、いずれのマスクも使用されなかった試験A−2及び通常の医療用マスクが使用された試験B−2と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の持続が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着マスクを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子付着マスクは、アレルギー性鼻炎治療効果を有することが判明した。
【0223】
各被験者の呼吸によって複合粒子付着マスクから脱離し、鼻腔内に吸入されて鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎治療効果が発揮されると考えられる。
【0224】
但し、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着マスクを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎治療効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0225】
複合粒子付着マスクのアレルギー性鼻炎治療効果には、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0226】
試験例3:複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎予防効果
本試験例では、製造例5で製造された複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎予防効果を評価した。
各被験者に対して、以下の試験を行った。
【0227】
[試験A−3]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者の鼻腔内粘膜に、いずれの軟膏も塗布させなかった。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0228】
[試験B−3]
掃除開始30分前〜掃除開始:掃除開始30分前に、各被験者の鼻腔内粘膜(下鼻点から約5cm)に、複合粒子含有軟膏の製造に使用した医療用ワセリン(複合粒子不含)0.1gを綿棒で塗布させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0229】
[試験C−3]
掃除開始30分前〜掃除開始:掃除開始30分前に、各被験者の鼻腔内粘膜(下鼻点から約5cm)に、複合粒子含有軟膏0.1gを綿棒で塗布させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0230】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−3、試験B−3及び試験C−3を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、掃除機による8畳程度の寝室の掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を上記の通り変更して行った。
【0231】
試験A−3、試験B−3及び試験C−3の結果を表7に示す。
【0232】
【表7】
【0233】
複合粒子含有軟膏が使用された試験C−3では、いずれの軟膏も使用されなかった試験A−3及び通常の医療用ワセリンが使用された試験B−3と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の出現が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子含有粉末の塗布後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子含有軟膏は、アレルギー性鼻炎予防効果を有することが判明した。
【0234】
鼻腔内粘膜に塗布された複合粒子含有軟膏中の複合粒子が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎予防効果が発揮されると考えられる。
【0235】
但し、被験者の個体差はあるものの、複合粒子含有軟膏の塗布後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎予防効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0236】
複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎予防効果には、例えば、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0237】
試験例4:複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎治療効果
本試験例では、製造例5で製造された複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎治療効果を評価した。
各被験者について、以下の試験を行った。
【0238】
[試験A−4]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者の鼻腔内粘膜に、いずれの軟膏も塗布させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現後も掃除を継続させ、3主徴出現40分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0239】
[試験B−4]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者の鼻腔内粘膜に、いずれの軟膏も塗布させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現後も掃除を継続させ、3主徴出現10分後に複合粒子含有軟膏の製造に使用した医療用ワセリン(複合粒子不含)0.1gを鼻腔内粘膜(下鼻点から約5cm)に綿棒で塗布させ、3主徴出現40分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0240】
[試験C−4]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者の鼻腔内粘膜に、いずれの軟膏も塗布させずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現10分後に複合粒子含有軟膏0.1gを鼻腔内粘膜(下鼻点から約5cm)に綿棒で塗布させ、3主徴出現40分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0241】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−4、試験B−4及び試験C−4を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、掃除機による8畳程度の寝室の掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を上記の通り変更して行った。
【0242】
試験A−4、試験B−4及び試験C−4の結果を表8に示す。
【0243】
【表8】
【0244】
複合粒子含有軟膏が使用された試験C−4では、いずれの軟膏も使用されなかった試験A−4及び通常の医療用ワセリンが使用された試験B−4と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の持続が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子含有軟膏の塗布後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子含有軟膏は、アレルギー性鼻炎治療効果を有することが判明した。
【0245】
鼻腔内粘膜に塗布された複合粒子含有軟膏中の複合粒子が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎治療効果が発揮されると考えられる。
【0246】
但し、被験者の個体差はあるものの、複合粒子含有軟膏の塗布後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎治療効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0247】
複合粒子含有軟膏のアレルギー性鼻炎治療効果には、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0248】
試験例5:複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防効果
本試験例では、製造例3で製造された複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防効果を評価した。
各被験者に対して、以下の試験を行った。
【0249】
[試験A−5]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者の鼻腔内に、何も挿入させなかった。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0250】
[試験B−5]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者に、掃除開始30分前に、複合粒子付着シートの製造に使用した不織布(複合粒子不含)を鼻腔内後方(下鼻甲介)(下鼻点から約1〜8cm)に挿入させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。掃除終了時に不織布を外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0251】
[試験C−5]
掃除開始30分前〜掃除開始:各被験者に、掃除開始30分前に、複合粒子付着シートを鼻腔内後方(下鼻甲介)(下鼻点から約1〜8cm)に挿入させた。
掃除開始〜掃除終了:各被験者に、掃除を開始させ、掃除開始30分後に掃除を終了させた。掃除終了時に複合粒子付着シートを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0252】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−5、試験B−5及び試験C−5を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、掃除機による8畳程度の寝室の掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を上記の通り変更して行った。
【0253】
試験A−5、試験B−5及び試験C−5の結果を表9に示す。
【0254】
【表9】
【0255】
複合粒子付着シートが使用された試験C−5では、いずれのシートも使用されなかった試験A−5及び通常の不織布(複合粒子不含)が使用された試験B−5と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の出現が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着シートを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子付着シートは、アレルギー性鼻炎予防効果を有することが判明した。
【0256】
複合粒子付着シートのうち鼻腔内粘膜と接触する部分に存在する複合粒子、及び、各被験者の呼吸により複合粒子付着シートから脱離し、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子の一方又は両方が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防効果が発揮されると考えられる。
【0257】
被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着シートを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0258】
複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防効果には、鼻腔内粘膜に接触又は付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0259】
試験例6:複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎治療効果
本試験例では、製造例3で製造された複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎治療効果を評価した。
各被験者について、以下の試験を行った。
【0260】
[試験A−6]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、鼻腔内に何も挿入せずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現40分後、掃除を終了させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0261】
[試験B−6]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、鼻腔内に何も挿入せずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現10分後に、複合粒子付着シートの製造に使用した不織布(複合粒子不含)を鼻腔内後方(下鼻甲介)(下鼻点から約1〜8cm)に挿入させ、3主徴出現40分後、掃除を終了させた。掃除終了時に不織布を外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0262】
[試験C−6]
掃除開始〜3主徴出現:各被験者に、鼻腔内に何も挿入せずに、掃除を開始させた。各被験者において、掃除開始10〜30分後に3主徴が出現した。
3主徴出現〜掃除終了:各被験者に、3主徴出現10分後に複合粒子付着シートを鼻腔内後方(下鼻甲介)(下鼻点から約1〜8cm)に挿入させ、3主徴出現40分後、掃除を終了させた。掃除終了時に複合粒子付着シートを外させた。
掃除終了〜掃除終了12時間後:鼻腔内に何も挿入させない状態で、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴を評価した。
【0263】
なお、以下の事項は、各試験に共通する。
同一被験者に対して試験A−6、試験B−6及び試験C−6を実施する際、試験の間隔は3日以上あけた。
掃除の開始時刻は午前10時とした。
掃除の内容は、8畳程度の寝室の掃除機による掃除、布団の上げ下げ、書籍整理及び卓上清拭とした。
3主徴の評価は、鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版(改訂第8版)(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会著、株式会社ライフ・サイエンス発行)の評価基準を上記の通り変更して行った。
【0264】
試験A−6、試験B−6及び試験C−6の結果を表10に示す。
【0265】
【表10】
【0266】
複合粒子付着シートが使用された試験C−6では、いずれの不織布も使用されなかった試験A−6及び通常の不織布(複合粒子不含)が使用された試験B−6と比較して、各被験者におけるアレルギー性鼻炎の3主徴の持続が有意差をもって抑制された。また、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着シートを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持された。
このことから、複合粒子付着シートは、アレルギー性鼻炎治療効果を有することが判明した。
【0267】
複合粒子付着シートのうち鼻腔内粘膜と接触する部分に存在する複合粒子、及び、各被験者の呼吸により複合粒子付着シートから脱離し、鼻腔内粘膜に付着した複合粒子の一方又は両方が、鼻腔内粘膜上のハウスダスト、ダニ、カビ、花粉等のアレルゲン(抗原タンパク質)を不活化(分解)し、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することにより、複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎治療効果が発揮されると考えられる。
【0268】
但し、被験者の個体差はあるものの、複合粒子付着シートを外した後、数時間〜数日間、アレルギー性鼻炎の3主徴の出現抑制効果が維持されたことは、鼻腔内粘膜上のアレルゲン(抗原タンパク質)の不活化(分解)のみが、複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎治療効果に関与するわけではないことを示唆する。
【0269】
複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎治療効果には、鼻腔内粘膜に接触又は付着した複合粒子が、鼻腔内粘膜上のアレルゲン受容体を変性させ、鼻腔内粘膜上での抗原抗体反応を抑制することが関与する可能性があると考えられる。
【0270】
試験例7
製造例2と同様にして製造した、複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を4g/m
2に調整したポリエステル製スパンレース不織布(ユウホウ株式会社製「S0040」、目付量40g/m
2)から、1cm×5cmのサイズを有する試験片S1〜S3を作製した。
【0271】
試験片S1〜S3を、160℃で5分間、熱処理した後、生理食塩水30mLに加え、37℃恒温室中で2時間静置した。生理食塩水から不織布を取り出した後、生理食塩水をメンブレンフィルター(孔径0.1μm)でろ過した。
【0272】
ろ液に含まれるチタンイオン及び銀イオンを、プラズマ質量分析装置(アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent 7800」)で定量した。また、試験片を生理食塩水30mLに加えずに、上記と同様の定量を行い、これを対照とした。それぞれの定量は3回行い、3回の定量値の平均値を求めた。なお、検出下限値は1.0ppbである。
定量結果を表11及び表12に示す。
【0273】
【表11】
【0274】
【表12】
【0275】
ろ過後のメンブレンフィルターをフッ化水素酸及び硝酸の混合液で溶解し、マイクロウェーブ処理した後、溶解液に含まれるチタン元素及び銀元素を、プラズマ発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製「PS3520UVDDII」)で定量した。また、試験片を生理食塩水30mLに加えずに、上記と同様の定量を行い、これを対照とした。それぞれの定量は3回行い、3回の定量値の平均値を求めた。なお、検出下限値は1μgである。
定量結果を表13及び表14に示す。
【0276】
【表13】
【0277】
【表14】
【0278】
1個の試験片(サイズ:1cm×5cm)における付着成分量の計算値は、酸化チタン1.13×10
−3(g)、ハイドロキシアパタイト2.94×10
−4(g)、銀7.55×10
−6(g)、バインダ樹脂5.71×10
−4(g)であるから、上記結果は、試験片を生理食塩水中に浸漬しても、大部分の酸化チタン及び銀は不織布に残存することを示す。したがって、複合粒子付着シートが鼻腔内に挿入された患者において、鼻水が生じたとしても、大部分の複合粒子は、溶出又は脱落することなく、シートに残存し、したがって、複合粒子付着シートは、鼻炎の予防効果又は治療効果を持続的に発揮できると考えられる。
【0279】
試験例8
製造例2と同様にして製造した、複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)を4g/m
2に調整したポリエステル製スパンレース不織布(ユウホウ株式会社製「S0040」、目付量40g/m
2)から、1cm×5cmのサイズを有する試験片S4を作製した。
【0280】
試験片S4を、160℃で5分間、熱処理した後、生理食塩水30mLに加え、37℃恒温室中で2時間静置した。生理食塩水から不織布を取り出した後、生理食塩水をメンブレンフィルター(孔径0.1μm)でろ過した。
【0281】
ろ過後のメンブレンフィルターを、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、試験片を生理食塩水30mLに加えずに、上記と同様の観察を行い、これを対照とした。
SEM観察結果を
図8〜
図13に示す。
【0282】
図8は、対照におけるSEM観察結果(10000倍)を示す。
図8に示すように、対照では、メンブレンフィルター上に粒子は観察されなかった。
【0283】
図9〜
図13は、メンブレンフィルターに捕捉された粒子のSEM観察結果(3000倍又は5000倍)を示す。
図9〜13に示すように、複合粒子付着不織布を生理食塩水に浸漬した場合、メンブレンフィルター上に粒子が観察された。なお、
図9〜13中のスケールバーは5μmを表す。
【0284】
図9及び
図12に示す粒子について、エネルギー分散型X線分光器(EDS)を使用して、特性X線によるTi元素、Ag元素、P元素及びCa元素の元素マッピング(X線マッピング)を実施し、各元素の分布を分析した。
分析結果を
図14及び
図15に示す。
【0285】
図14は、
図9に示す粒子に関する元素マッピングの分析結果を示し、
図15は、
図12に示す粒子に関する元素マッピングの分析結果を示す。
図14及び
図15に示すように、Ti元素、Ag元素、P元素及びCa元素が、粒子全体に分布していることが確認された。このことから、1個以上の酸化チタン粒子と、1個以上の銀粒子と、1個以上のハイドロキシアパタイト粒子とを含んでなる複合粒子が、複合粒子M1に含まれていることが確認された。
【0286】
試験例9
製造例4で製造された複合粒子付着マスクを切断して、直径47mmの試験片を作製した。マスク装着時に外気側を向く面が上側、マスク装着時に顔側を向く面が下側となるように試験片を保持し、試験片の上下を2個のポリエチレン製リング状ホルダー(外径47mm、内径20mm)を挟んだ。下側のホルダーに、配管を介して、流量計及び吸引ポンプを接続し、予備吸引(5L/分で約10秒間)を行った。予備吸引後、下側のホルダーと流量計及び吸引ポンプとの間に、配管を介して、捕集フィルター(直径90mmのMF−ミリポアVCWP09025)を接続し、本吸引(10L/分で8時間)を行った。この捕集フィルターは、粒子径0.1μm以上の粒子を捕集可能である。なお、配管として、純水中で3分間超音波処理して洗浄し、乾燥したものを使用した。下側のスペーサーと捕集フィルターとの間の圧力(陰圧)は、デジタルマノメーター(株式会社ホダカ社製HT−1500NH)を使用して測定した。
【0287】
本吸引後、ホルダー及び配管を純水約40mLで洗浄し、洗浄液中の固形物を捕集フィルター(直径47mmのMF−ミリポアVCWP04700)で捕集した。
【0288】
直径90mmの捕集フィルター及び直径47mmの捕集フィルターをフッ酸及び硝酸の混酸溶液で溶解し、マイクロウェーブ処理した後、溶解液に含まれるチタン、銀及びハイドロキシアパタイトを、プラズマ発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製「PS3520UVDDII」)で定量した。
【0289】
複合粒子M2及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が13.5g/m
2である複合粒子付着不織布N2に代えて、複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が4g/m
2、6g/m
2、8g/m
2又は10g/m
2である複合粒子付着不織布N1を使用した点を除き、製造例4と同様にして複合粒子付着マスクを製造した。製造した複合粒子付着マスクを切断して、直径47mmの試験片を作製し、上記と同様に試験を行った。但し、試験片の上下を挟む2個のホルダーとして、ポリエチレン製リング状ホルダー(外径47mm、内径20mm)に代えて、ポリエチレン製リング状ホルダー(外径47mm、内径39mm)を使用する試験も実施した。また、予備吸引を行わずに本吸引を行う試験も実施した。
結果を表15に示す。
【0290】
【表15】
【0291】
表15に示すように、吸引によって複合粒子付着不織布から複合粒子が脱離した。したがって、複合粒子付着マスクを装着した対象が呼吸を行うと、マスクに付着した多数の複合粒子のうち一部が脱離し、対象の鼻腔内に取り込まれると考えられる。すなわち、複合粒子付着マスクを装着した対象の呼吸を利用して、対象の鼻腔内粘膜に複合粒子を投与することができ、これにより、対象の鼻炎を予防又は治療できると考えられる。
【0292】
試験例10
本試験例では、製造例2で製造された複合粒子付着不織布を切断して、幅2cm×長さ15cmの短冊状の複合粒子付着シートを製造し、この複合粒子付着シートのアレルギー性鼻炎予防及び治療効果を評価した。複合粒子付着不織布としては、製造例2で製造された、複合粒子M1及びバインダ樹脂の合計付着量(合計固定量)が4g/m
2である複合粒子付着不織布N1を使用した。
【0293】
(1)被験者
花粉症シーズンである3〜5月の期間中に、くしゃみ、鼻水及び鼻閉がほぼ毎日みられ、日本アレルギー学会鼻アレルギー診療ガイドライン2013年の診断基準に基づいて耳鼻科専門医に診断された花粉症スコアが3〜4点であり、有病期間が3年以上のアレルギー性鼻炎患者を、本試験の被験者の候補として選定した。これまでの薬物療法では、一定の臨床効果が得られず、治療抵抗性がある患者から、本人の同意を得て選定した28歳から54歳までの男性5名、女性7名の12名を、本試験の被験者とした。本試験の被験者の平均年齢は47.6歳であった。被験者の詳細な特性を以下に示す。
【0294】
[被験者No.1]
被験者No.1は、26歳の女性であり、18年前から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの症状を呈する花粉症及び通年性アレルギーに毎年罹患し、これまでに標準的な薬剤を使用してきた。これまでに使用した薬剤(抗ヒスタミン剤、鼻腔内ステロイド噴霧等)は、症状を緩和するものの、どれも満足のいく効果は見られず、持続的な治療効果は見られなかった。
【0295】
[被験者No.2]
被験者No.2は、33歳の女性であり、6歳頃から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの花粉症アレルギー症状が毎年継続し、標準的な薬剤を継続使用してきたが、どれも満足のいく効果はみられず、特に鼻水の症状が強く、花粉症の季節は日々の生活に支障をきたしてきた。
【0296】
[被験者No.3]
被験者No.3は、34歳の女性であり、4年前から突然、花粉症に加えて金属アレルギーも合併した。特有症状であるくしゃみ、鼻水及び鼻づまりがみられ、標準的な薬剤を多数使用するものの、眠気の副作用が見られたことから継続的服薬ができなかった。ベッドに横になるだけで鼻水が枕まで流れ落ち、睡眠時には鼻閉のため口呼吸せざるを得なく、不眠症状も強い状態であった。
【0297】
[被験者No.4]
被験者No.4は、38歳の女性であり、7歳頃から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの花粉症アレルギー症状が毎年継続し、標準的な薬剤を継続使用してきたが、どれも満足のいく効果はみられず、生活に支障をきたしていた。
【0298】
[被験者No.5]
被験者No.5は、44歳の女性であり、32歳頃から、花粉症の症状が悪化し、症状がひどいときに、服薬にて対処療法をしてきたが、十分な治療効果が見らなかった。
【0299】
[被験者No.6]
被験者No.6は、44歳の女性であり、28歳頃から、花粉症症状が悪化し、過去に2回、レーザーによる鼻腔粘膜焼灼術を施行したが、著効なく、症状がひどいときに、服薬にて対処療法をしてきたが、十分な治療効果が見らなかった。
【0300】
[被験者No.7]
被験者No.7は、45歳の男性であり、5年ほど前から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの花粉症アレルギー症状が毎年継続し、標準的な薬剤を継続使用してきたが、どれも満足のいく効果はみられず、特に鼻水及びくしゃみの症状が毎朝強い状態であった。
【0301】
[被験者No.8]
被験者No.8は、47歳の男性であり、22歳頃から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの花粉症アレルギー症状が毎年継続し、標準的な薬剤を継続使用してきた。2015年に一度、レーザー治療を行ったが、効果は不完全であったので、抗ヒスタミン剤を適時服用している。
【0302】
[被験者No.9]
被験者No.9は、49歳の男性であり、18年前から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの症状を呈する花粉症及び通年性アレルギーに罹患し、これまでに標準的な薬剤を使用してきた。これまでに使用した薬剤(抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、血管収縮剤、鼻腔内ステロイド噴霧、ステロイド内服薬、各種漢方薬等)は、症状を緩和するものの、どれも満足のいく効果は見られず、持続的な治療効果が見られなかった。
【0303】
[被験者No.10]
被験者No.10は、50歳の男性であり、40年前から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの花粉症アレルギー症状が毎年継続し、標準的な薬剤を継続使用してきたが、どれも満足のいく効果はみられず、特に鼻閉が強く血管収縮剤等を使用してきたものの、年々症状が悪化傾向にあり、日々の生活に支障をきたしていた。
【0304】
[被験者No.11]
被験者No.11は、50歳の女性であり、28歳頃から、花粉症症状が悪化し、標準的な薬剤を継続使用してきたが、どれも満足のいく効果はみられなかった。
【0305】
[被験者No.12]
被験者No.12は、53歳の男性であり、40年前から、くしゃみ、鼻水及び鼻づまりの症状を呈する通年性アレルギーに加えて花粉症にも罹患しており、標準的な薬剤を長年使用してきたものの、どれも満足のいく効果は見られなかった。
【0306】
(2)評価指標
アレルギー性鼻炎に対する複合粒子付着シートの臨床的予防及び治療効果を評価する指標として、2013年に日本アレルギー学会が提示した鼻アレルギー診療ガイドラインに基づいて、くしゃみ、鼻水及び鼻閉の3主徴をスコア化した。3主徴の臨床症状は、起床時の自己申告として記録用紙に記入した。くしゃみ、鼻水及び鼻閉の3主徴について、「無い」を0点、「軽い」を1点、「やや重い」を2点、「重い」を3点、「非常に重い」を4点とし、総合的効果を評価する総症状スコア(TSS;Total Symptom Score)を、3主徴のスコアの合計として算出した。
【0307】
(3)評価方法
複合粒子付着シートの真の臨床的予防及び治療効果を評価するために、プラシィボ効果を排除する必要がある。そこで、各被験者に、通常のマスクを2日間装着させ、次いで、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを5日間鼻腔内に挿入させ、次いで、複合粒子付着シートを5日間鼻腔内に挿入させた。複合粒子が付着していない通常の不織布シート(幅2cm×長さ15cm)は、紙縒り状にして、朝9時から40分間、各被験者の鼻腔内(下鼻点から約1〜8cm)に5日間連続で挿入させた。複合粒子付着シート(幅2cm×長さ15cm)は、紙縒り状にして、朝9時から40分間、各被験者の鼻腔内(下鼻点から約1〜8cm)に5日間連続で挿入させた。鼻腔内へのシートの挿入は、被験者自身に実施させた。
【0308】
各被験者には、5日間毎日、くしゃみ、鼻水及び鼻閉の3主徴を自己評価させた。通常のマスクを2日間使用した場合、及び、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを5日間使用した場合では、3主徴にほとんど変化が見られなかったことから、通常のマスクを使用した2日間のスコアの平均値、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを使用した5日間のスコアの平均値を求め、複合粒子付着シートを使用した5日間(1日目から5日目までの各1日)のスコアと比較し、対応のあるt検定を用いて、3主徴の自覚的臨床的予防効果を統計学的に比較検証した。統計学的な検定の有意水準は、0.1%とした。
【0309】
複合粒子が付着していない通常の不織布シートを使用した5日間のスコアの平均値、及び、複合粒子付着シートを使用した5日間のスコア(1日目から5日目までの各1日のスコア)について、対照である通常のマスクを使用した2日間のスコアの平均値に対して、対応のあるt検定を行い、群別比較では、等分散の検定後に一元配置分散分析により解析し、統計学的に検定した。
【0310】
倫理的配慮としてヘルシンキ宣言を遵守した。また、複合粒子付着シートの使用を中断する必要性が認められたときは、被験者本人の判断で使用を適宜中止できるものとした。中止は自由意志であり、それにより何らかの不利益を得ることはない旨を被験者に伝え、継続的な協力を求めた。複合粒子付着シートの使用により効果が見られたものの、4日目から粘膜の違和感があり臨床的な自己評価が出来なかった症例は、12名のうち1名にみられた。
【0311】
(4)結果
通常のマスクを2日間使用した場合、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを5日間使用した場合、及び、複合粒子付着シートを5日間使用した場合における各スコア(くしゃみスコア、鼻水スコア、鼻閉スコア及び総症状スコア)を表16に示す。また、統計学的検定結果を表17に示す。
【0312】
【表16】
【0313】
【表17】
【0314】
(5)考察
表16及び表17に示すように、通常のマスクを2日間使用した場合のスコアの平均値と、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを5日間使用した場合のスコアの平均値との間には、いずれのスコアについても、統計学的な有意差は認められなかった。
一方、表16及び表17に示すように、通常のマスクを2日間使用した場合のスコアの平均値と、複合粒子付着シートを5日間使用した場合の1日目から5日目までの各1日のスコアとの間には、いずれの組み合わせにおいても、統計学的な有意差が認められた(P<0.05)。
これらのことは、複合粒子付着シートを鼻腔内に挿入することにより、くしゃみ、鼻水及び鼻閉の3主徴を有意に改善できること、すなわち、複合粒子付着シートが、有意なアレルギー性鼻炎予防効果及び治療効果を有することを示す。
【0315】
(6)副作用
複合粒子付着シートの副作用について、被験者の自覚的な症状及び血液学的な変化度に基づいて検証した。この際、複合粒子が付着していない通常の不織布シートを挿入した場合を対照とした。その結果、複合粒子付着シート使用群、通常の不織布シート使用群の両群ともに、7人の症例において、鼻腔内挿入30分後に鼻水の一時的増量が観察された。また、3名の症例において、くしゃみがやや増強した。それ以外の自覚的な副作用である、疼痛、流涙、鼻閉増強、出血、嗅覚障害、唇しびれ感、鼻腔内ひりひり感等は、12症例のいずれにおいても観察されなかった。一方、6名について、免疫学的な検査値である血中IgE及びLDHを検査したところ、いずれの被験者においても異常値は観察されなかった。