(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6371021
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】可変速揚水発電システムおよび可変速揚水発電方法
(51)【国際特許分類】
H02P 9/30 20060101AFI20180730BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20180730BHJP
H02H 9/04 20060101ALI20180730BHJP
H02P 101/10 20150101ALN20180730BHJP
H02P 103/10 20150101ALN20180730BHJP
【FI】
H02P9/30 L
H02P9/04 A
H02H9/04 B
H02P101:10
H02P103:10
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-16518(P2018-16518)
(22)【出願日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2017-60074(P2017-60074)
(32)【優先日】2017年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】石月 照之
(72)【発明者】
【氏名】影山 隆久
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 隆太
(72)【発明者】
【氏名】森 淳二
【審査官】
尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−178195(JP,A)
【文献】
特開平7−111730(JP,A)
【文献】
特開平7−67393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/00− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記変圧器の高圧側回路の電圧を検出する高圧側回路電圧検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、前記高圧側回路電圧検出手段の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項2】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記変圧器の低圧側回路の電圧を検出する低圧側回路電圧検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、前記低圧側回路電圧検出手段の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項3】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記変圧器の高圧側回路の電圧を検出する高圧側回路電圧検出手段と、前記変圧器の低圧側回路の電圧を検出する低圧側回路電圧検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、前記高圧側回路電圧検出手段の出力電圧と前記低圧側回路電圧検出手段の出力電圧の少なくともいずれか一方が各々に予め定めた値よりも小さくなることを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項4】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記回転子巻線の電流を検出する回転子巻線電流検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無し短絡器と、前記回転子巻線電流検出手段で検出した電流が予め規定した電流値以下でないことを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項5】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記固定子巻線側回路の電流を検出する固定子巻線側回路電流検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無し短絡器と、前記固定子巻線側回路電流検出手段で検出した電流が予め規定した電流値以下でないことを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項6】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、
前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、所定の保護リレーの動作がないことを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段と
を有する可変速揚水発電システム。
【請求項7】
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムに適用される可変速揚水発電方法であって、
前記回転子巻線と前記交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器を設け、
高圧側回路電圧検出手段により前記変圧器の高圧側回路の電圧を検出し、検出される電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に、制御手段により前記短絡器を三相短絡させる
ことを含む可変速揚水発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、可変速揚水発電システムおよび可変速揚水発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二重給電交流機を用いた可変速揚水発電システムでは、電力系統故障時等に発生する二次回路の過電圧を抑制し、発電電動機、変換器等主回路機器を過電圧から保護するため、たとえば、IGBTのような自励式素子と抵抗の直列回路によるもの(チョッパ、クリッパ等と呼称される)と、より大きな故障電流発生時に対応するためにサイリスタのような大容量半導体素子による大電流短時間定格の短絡器を用いた過電圧抑制装置を装備している。これらの装置は、発電電動機二次側回路において過電圧を検出して過電圧抑制装置を動作させることにより当該回路の過電圧を抑制し、当該回路に接続する機器を過電圧から保護している。
【0003】
当該システムにおいて、至近端の電力系統故障の発生等により前記短絡器を用いた過電圧抑制装置が動作した場合、動作後一定の条件が成立した場合に過電圧抑制装置の短絡器を構成するサイリスタに二次励磁装置のインバータの直流電圧が逆電圧として印加されるようにインバータのスイッチング素子を操作することによって、サイリスタに流れる電流をゼロにして強制的に当該サイリスタをオフにして過電圧抑制装置の短絡状態を早期に解除し、二次励磁装置の運転を再開し可変速揚水発電システムを停止させることなく高速に系統復帰させる機能が実現されている(例えば特許文献1参照)。以降、当該機能を行う制御を過電圧抑制装置のリセット制御と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3286049号公報(段落[0026]〜[0027]、
図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の可変速揚水発電システムの単機容量の大型化と連係点至近端での系統故障時の当該システムの系統との連係運転継続の要求を満たすためには従来以上にすばやいリセット制御の実施を行い変換器による運転を再開することが必要なため、二次回路に流入する事故電流を早期に減衰させる目的でサイリスタ短絡器に電流減衰を目的とした抵抗器を直列に接続した過電圧抑制装置が提案されている。
【0006】
しかし、この場合、抵抗付きの過電圧抑制装置(IGBT等自励式半導体素子と抵抗の直列接続によりなる直流リンク回路に設けたチョッパ、発電電動機二次回路に設けた抵抗器付三相サイリスタ短絡器あるいは発電電動機二次回路の三相回路に整流器を介してIGBT等自励式半導体素子と抵抗器の直列接続により三相回路の過電圧を抑制するクリッパなどを含む)の動作によりその抵抗によって二次回路の故障電流を急速に減衰させるが、それと共に一次回路に誘起する交流電流分を急速に減衰させるため、系統故障の発生タイミングにより一次側故障電流の直流分が大きいときは遮断器開放時に直流分が交流分よりも大きくなる場合があり、電流がゼロ点を通過できず系統側の遮断器や並列用の遮断器が直流遮断を起こし損傷する可能性がある。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、系統故障時の可変速揚水発電システムの系統連係運転継続性を確保すると共に、遮断器の直流遮断を防止する安全な可変速揚水発電システムおよび可変速揚水発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、前記変圧器の高圧側回路の電圧を検出する高圧側回路電圧検出手段と、前記回転子巻線と交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、前記高圧側回路電圧検出手段の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段とを有する可変速揚水発電システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、系統故障時の可変速揚水発電システムの連係運転継続性を確保すると共に、遮断器の直流遮断を防止する安全な可変速揚水発電システムおよび可変速揚水発電方法を提供することができ、直流遮断防止のために変換器容量を大きくする必要が無いことから、当該運転継続性の確保に必要な適正な変換器の容量の可変速揚水発電システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る可変速揚水発電システムを含む電力システム全体の構成を示す図。
【
図2】同実施形態に係る可変速揚水発電システムの直流遮断防止装置に関わる機能構成を中心に示す構成図。
【
図3】
図2中の直流遮断回避制御装置の内部構成の一例を示す図。
【
図4】故障発生時に発電電動機一次回路の遮断器が直流遮断する場合の電流波形例を示す図。
【
図5】故障発生時に実施形態による直流遮断防止手段を適用した場合の遮断器が遮断する発電電動機一次回路の電流波形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
最初に、第1の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る可変速揚水発電システムを含む電力システム全体の構成を示す図である。
【0014】
図1に示すように、発電所及び発電所開閉設備Pには、電力系統Sに接続される発電所高圧開閉設備100と、この発電所高圧開閉設備100に電力ケーブルC及び主要変圧器Mを介して接続される可変速揚水発電システム200とが備えられる。その主要変圧器Mの低圧側は発電所の所内回路に相当する。なお、主要変圧器Mは可変速揚水発電システムの一部として構成されていてもよい。
【0015】
発電所高圧開閉設備100は、電力系統S側の例えば1号送電線及び2号送電線に繋がる電線をそれぞれ開路/閉路する複数の遮断器101及び102を備えると共に、主要変圧器Mの高圧側の電力ケーブルCに繋がる電線を開路/閉路する遮断器103を備え、更に、主要変圧器Mの高圧側回路の電圧を検出する高圧側回路電圧検出手段104を備えている。
【0016】
可変速揚水発電システムは、ポンプ水車1、二重給電交流機で実現される可変速発電電動機2、この可変速発電電動機2の二次巻線に接続し可変周波数の交流を印加する周波数変換器で実現されるコンバータ3A及びインバータ3Bを含む自励式の二次励磁装置3(「交流励磁装置3」あるいは「自励式変換器3」と呼ぶ場合がある)、この二次励磁装置3が出力する交流電圧、電流、周波数、位相の制御を行うと共に開閉設備5A及び5Bなどの開閉制御などを行う制御装置4、可変速発電電動機2の固定子巻線側に接続される系統連系用の並列用遮断器5A及び相反転遮路器5B、可変速発電電動機2の固定子巻線端を三相短絡するための始動/ブレーキ用断路器6、二次励磁装置3が使用する交流電源を生成する励磁用変圧器7、励磁用変圧器7へ供給する交流電力を遮断するための励磁用遮断器8、可変速発電電動機2の固定子巻線側の一次回路の電圧を測定するための一次回路電圧検出手段(計器用変圧器)9、可変速発電電動機2の回転子巻線側の二次回路に流れる電流を測定する二次回路電流検出手段10、可変速発電電動機2の回転子巻線側の二次回路の電圧もしくは二次励磁装置3の直流リンク電圧を測定する二次回路電圧検出手段11、可変速発電電動機2の回転子巻線側の二次回路における三相短絡電流を測定する電流検出手段12、サイリスタのような大容量半導体素子と抵抗器による大電流短時間定格の抵抗付き短絡器を用いた交流側過電圧抑制装置13、IGBTなどの自励式半導体素子と抵抗器を用いたチョッパと呼ぶ直流側過電圧抑制装置14などを備えている。
【0017】
図2は、本実施形態に係る可変速揚水発電システムの直流遮断防止装置に関わる機能構成を中心に示す構成図である。なお、
図1と共通する要素には、同一の符号を付している。
【0018】
交流側過電圧抑制装置13は、可変速発電電動機2の二次巻線の相間にそれぞれ接続されるサイリスタ131と線間に挿入される抵抗器132と当該サイリスタ131の電流を検出する電流検出手段12からなる抵抗付き短絡器を構成する。交流側過電圧抑制装置13には、発電電動機の二次側交流回路の線間電圧V
2または自励式変換器3の直流リンク回路の電圧V
Dが予め定めた値を超えた場合に、制御装置4から各サイリスタ131の点弧を制御するゲート信号が与えられる。
【0019】
一方、直流側過電圧抑制装置14は、直流リンク回路の電圧V
Dが予め定めた値を超えた場合に制御装置4からIGBT等の自励素子を点弧させるONゲート信号が与えられ、当該動作により電圧V
Dが予め定めた値以下になったときにOFFゲート信号が与えられる。
【0020】
交流側過電圧抑制装置13と直流側過電圧抑制装置14を共に設ける場合は、直流側過電圧抑制装置14のほうが低い設定値で動作し、系統故障の位置が発電所から遠い場合や故障様相が単相地絡故障のように故障電流が比較的小さい場合には直流側過電圧抑制装置14により変換器3が運転可能な電圧範囲に電圧上昇を抑制し変換器3による発電電動機の通常の運転を継続させる。交流側過電圧抑制装置13の設定値は、直流側過電圧抑制装置14が動作してもさらに電圧が上がる場合に交流側過電圧抑制装置13が動作するように設定する。
【0021】
例えば通常運転中に電力系統で至近端の三相短絡故障等が発生し、直流側過電圧抑制装置14の動作だけでは電圧上昇を抑えられず、可変速発電電動機2の二次側交流回路の3相の線間電圧V
2または直流リンク回路の電圧V
Dが交流側過電圧抑制装置13に予め定めた値を超えた場合を考える。この場合、制御装置4は、通常運転のために供給している通常運転ゲート信号の供給を停止し、交流側過電圧抑制装置13にONゲート信号を与え、各サイリスタ131による三相短絡器を動作させる。
交流側過電圧抑制装置13が動作した場合、サイリスタ131による三相短絡器の回路に設けた抵抗器132の効果で事故電流を速やかに減衰させ、電流検出手段12により検出した三相短絡器への電流がインバータ3Bの動作可能電流以下になったときに制御装置4からのリセット制御に基づき(制御装置4から供給されるリセット運転ゲート信号に基づき)インバータ3Bからサイリスタ131に逆電圧を印加して強制的に三相短絡器をオフし、変換器3による発電電動機の通常運転を再開する。その際、制御装置4は、リセット制御を実施した場合に半導体素子を含む三相短絡器等の回路を損傷させるおそれのある電流が流れることを未然に防止する観点から、例えば主要変圧器Mの低圧側回路の各相の電圧(以下、「電圧V
L」)が予め定めた値以下でないことを条件に、交流側過電圧抑制装置13のリセット制御を実施する場合がある。
これにより、至近端での系統故障のような故障電流が大きい故障が発生したときでも発電電動機を保護停止することなく運転継続することができる。
【0022】
しかし、上記のように、交流側過電圧抑制装置13の短絡器の回路に抵抗器132を付けたため、可変速発電電動機2の二次回路の時定数が小さくなり系統故障時の発電電動機一次回路の交流成分の減衰が非常に早くなるため、系統故障の発生タイミングによっては過渡直流分が大きくなり、系統側の遮断器101、102、又は103や発電所内の並列用遮断器5Aが事故電流を遮断するときに故障電流がゼロ点を通過せず遮断失敗し当該遮断器を損傷することがある。
【0023】
そこで、直流遮断防止装置15は、可変速発電電動機2の二次巻線の相間にそれぞれ接続されるサイリスタ151−1により抵抗なしで三相短絡する短絡器151と、主要変圧器Mの高圧側回路の電圧V
Sを検出する高圧側回路電圧検出手段104および主要変圧器Mの低圧側回路の電圧V
Lを検出する低圧側回路電圧検出手段9(前述した一次回路電圧検出手段9に相当)と、直流遮断回避制御装置(制御手段)153とを有する。なお、直流遮断回避制御装置153は、直流遮断防止装置15の中に備えるのではなく、代わりに制御装置4の中に備えるように構成してもよい。
【0024】
図2中の直流遮断防止装置15の直流遮断回避制御装置153の内部構成の一例を
図3に示す。
【0025】
直流遮断回避制御装置153は、高圧側回路電圧検出手段104により得た主要変圧器高圧側の三相電圧を入力し、演算部153−1にて電圧ベクトルを求め、その大きさを閾値処理回路153−2に出力する。閾値処理回路153−2では、たとえば系統運転継続性の仕様として要求される電圧値がある場合その値を当該電圧の閾値V
S0として設定し、電圧ベクトルの大きさがそれより小さいときには直流遮断防止装置15の短絡器151の動作を指示する信号(例えば「1」の値の信号)を出力する。
【0026】
この例では更に低圧側回路電圧検出手段9により得た主要変圧器Mの低圧側回路の三相電圧を入力し、演算部153−3にて電圧ベクトルを求め、その大きさを閾値処理回路153−4に出力する。閾値処理回路153−4では、たとえば系統運転継続性の仕様として要求される主要変圧器Mの高圧側回路の電圧値に相当する低圧側回路の電圧値を閾値V
L0として設定し、電圧ベクトルの大きさがそれより小さいときには直流遮断防止装置15の短絡器151の動作を指示する信号(例えば「1」の値の信号)を出力する。
【0027】
OR回路153−5では、上記の2つの出力の少なくとも一方が「1」であれば直流遮断回避制御装置153から直流遮断防止装置15の短絡器151にONゲート信号を出力し、サイリスタを導通状態にさせ発電電動機二次回路を抵抗なしで短絡させる。この動作は遮断器103や5Aが事故電流を遮断する動作よりはるかに早く、過電圧抑制装置13、14の動作とほぼ同時に動作することができる。
【0028】
この動作は過電圧抑制装置13,14にある線間の抵抗を電流がバイパスすることになるため、発電電動機二次回路の時定数の低下を防止し、一次回路の事故電流が遮断器103あるいは5Aの開放時に電流ゼロ点を通過するに足る交流分を確保することで直流遮断を回避できる。
【0029】
ここで、閾値処理回路153−2,153−4の各々の閾値を運転継続を要求される電圧値またはそれより下の値に設定することにより、系統故障時の運転継続性を抵抗付き短絡器からなる過電圧抑制装置13と14により確保しつつ、運転継続の要求がない故障電流の大きな故障に対しては抵抗無しの短絡器151からなる直流遮断防止装置15を動作させ遮断器の直流遮断を回避して安全に可変速揚水発電システムを停止させることができる。これにより変換器3を運転継続に必要な適正な容量に確保することができる。
【0030】
なお、直流遮断防止装置15の短絡器のONゲート信号は、並列用遮断器5Aが解列したことで回路153−6によりリセットさせ次の運転に備えることができる。
【0031】
また、直流遮断防止装置15の抵抗なしの短絡器151は、抵抗器なしの場合だけでなく、前記短絡器が動作したときの発電電動機一次回路の直流時定数が二次回路の直流時定数より小さくなる抵抗値を有する場合を含む。また、前記短絡器の回路構成は線間に小さな抵抗器を介する構成であれば、Δ結線に組んでも、Yに組んでも良い。
【0032】
次に、
図4と
図5を参照して、主要変圧器Mの低圧側回路の三相短絡事故時における電流波形とその効果について、従来技術と本実施形態とを対比させて説明する。
【0033】
図4は、主要変圧器Mの低圧側回路の三相短絡事故発生時に従来技術の構成により発電電動機一次回路の遮断器が直流遮断する場合の発電電動機一次回路の電流波形の例を示す図である。一方、
図5は、同事故発生時に本実施形態による直流遮断防止装置を適用した場合の発電電動機一次回路の電流波形の例を示す図である。
【0034】
各電流波形図には、事故発生時の発電電動機一次回路の電流を構成するa相電流、b相電流、およびc相電流が示されている。なお、縦軸は発電電動機一次回路の電流を表し、横軸は時間を表す。
【0035】
図4の例では、事故発生後、発電電動機一次回路の電流は交流分の減衰量が大きく、例えば5サイクルの並列用遮断器遮断タイミングではすでに交流分の殆どが減衰してしまっている。残りの過渡直流分電流は、発電電動機一次回路の電流がゼロ点を通らないため、遮断に失敗する。
【0036】
ここでa相電流に着目すると、a相分の電流が定格電流ピーク値よりもはるかに大きく、ゼロ点を通過することがなく、安全に遮断することができず、もし遮断した場合には直流遮断となり、遮断器を損傷させてしまう。b相電流、c相電流についても同じことが言える。
【0037】
例えば、並列用遮断器5Aが100[ms]の時点で開路する仕様となっている場合、その時点までに各相の電流はゼロ点を通過することがない。さらに、系統故障の場合に系統側の遮断器が事故後3サイクル(60[ms])以内で開路する仕様となっている場合、その時点までに各相の電流はゼロ点を通過することもない。電流がゼロ点を交差するようにしないと、直流遮断が生じ、遮断器を損傷する恐れがあるが、
図4の例では、こうした問題に対処できない。
【0038】
一方、
図5の例では、事故発生後、発電電動機一次回路の電流は交流分の減衰量が小さく、例えば5サイクルの並列用遮断器遮断タイミングでも交流分は殆ど減衰していない。直流遮断防止装置15の作用により、電流が過電圧抑制装置13,14にある線間の抵抗をバイパスすることになるため、発電電動機二次回路の時定数が長くなり、交流分の減衰が遅くなるからである。この結果、交流分の減衰が遅くなるため、交流分を直流分よりも大きく保つことができる。これにより、発電電動機一次回路の電流は、a相電流、b相電流、およびc相電流のすべてがゼロ点を確実に通ることができ、直流遮断を回避でき、遮断を成功させることができる。
【0039】
上述したように例えば系統故障のときに系統側の遮断器が事故後3サイクル(60[ms])以内で開路する仕様となっている場合でも、
図5の例ではその時点までに各相の電流が複数回ゼロ点を通過するので、遮断器を損傷することなく安全に遮断を行える。
【0040】
なお、上述した実施形態では、直流遮断回避制御装置153が、高圧側回路電圧検出手段104の出力電圧と低圧側回路電圧検出手段9の出力電圧の少なくともいずれか一方が各々に予め定めた値よりも小さくなることを条件に、短絡器151を三相短絡させる場合について例示したが、この例に限定されるものではない。
【0041】
例えば、低圧側回路電圧検出手段9を用いることなく、高圧側回路電圧検出手段104の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に、短絡器151を三相短絡させるように構成してもよい。また、高圧側回路電圧検出手段104を用いることなく、低圧側回路電圧検出手段9の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に、短絡器151を三相短絡させるように構成してもよい。
【0042】
また、短絡器151を三相短絡させる条件が成立するか否かの判定に、高圧側回路電圧検出手段104の出力電圧や低圧側回路電圧検出手段9の出力電圧を用いるのではなく、代わりに、可変速発電電動機2の回転子巻線の電流を用いるように構成してもよい。あるいは固定子巻線側回路の電流を用いるように構成してもよい。その場合は、例えば、当該回転子巻線の電流を検出する回転子巻線電流検出手段あるいは固定子巻線側回路の電流を検出する固定子巻線側回路電流検出手段を設けておき、この回転子巻線電流検出手段あるいは固定子巻線側回路電流検出手段で検出した電流が各々に予め規定した電流値以下でないことを条件に、短絡器151を三相短絡させるように構成すればよい。
【0043】
また、短絡器151を三相短絡させる条件が成立するか否かの判定に、高圧側回路電圧検出手段104の出力電圧や低圧側回路電圧検出手段9の出力電圧を用いるのではなく、代わりに、故障発生箇所を示す情報もしくは信号を用いるようにしてもよい。その場合は、例えば、所定の保護リレーの動作がないことを条件に、短絡器151を三相短絡させるように構成すればよい。
【0044】
以上詳述したように、実施形態によれば、系統故障時の可変速揚水発電システムの連係運転継続性を確保すると共に、遮断器の直流遮断を防止する安全な可変速揚水発電システムおよび可変速揚水発電方法を提供することができる。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1…ポンプ水車、2…可変速発電電動機、3…二次励磁装置(交流励磁装置、自励式変換器)、3A…コンバータ、3B…インバータ、4…制御装置、5A…並列用遮断器、5B…相反転遮路器、6…始動/ブレーキ用断路器、7…励磁用変圧器、8…励磁用遮断器、9…低圧側回路電圧検出手段、10…二次回路電流検出手段、11…二次回路電圧検出手段、12…電流検出手段、13…交流側過電圧抑制装置、14…直流側過電圧抑制装置、15…直流遮断防止装置、100…発電所高圧開閉設備、101〜103…遮断器、104…高圧側回路電圧検出手段、153…直流遮断回避制御装置、200…可変速揚水発電システム、C…電力ケーブル、M…主要変圧器、P…発電所開閉設備、S…電力系統。
【要約】
【課題】 系統故障時の可変速揚水発電システムの系統連係運転継続性を確保すると共に、遮断器の直流遮断を防止する安全な可変速揚水発電システムを提供する。
【解決手段】高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した二重給電可変速発電電動機の回転子巻線と交流励磁装置との間の三相回路もしくは交流励磁装置内の直流リンク回路に接続され、これらのいずれかの回路に過電圧が発生したときに当該回路を抵抗を介して短絡させる過電圧抑制装置を備えた可変速揚水発電システムにおいて、前記変圧器の高圧側回路の電圧を検出する高圧側回路電圧検出手段と、前記回転子巻線と前記交流励磁装置との間に接続され前記三相回路を三相短絡することが可能な抵抗無しの短絡器と、前記高圧側回路電圧検出手段の出力電圧が予め定めた値よりも小さくなることを条件に前記短絡器を三相短絡させる制御手段とを備える。
【選択図】
図2