特許第6371024号(P6371024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6371024
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】瞬結性硬化グラウトの注入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
   E02D3/12 101
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-25373(P2018-25373)
(22)【出願日】2018年2月15日
【審査請求日】2018年2月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391032004
【氏名又は名称】有限会社シモダ技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】下田 一雄
(72)【発明者】
【氏名】若菜 和之
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6278431(JP,B1)
【文献】 特許第2856771(JP,B2)
【文献】 特開昭53−061111(JP,A)
【文献】 特開昭64−029515(JP,A)
【文献】 特開平09−291526(JP,A)
【文献】 特公平07−106325(JP,B2)
【文献】 特開昭59−088527(JP,A)
【文献】 特公平07−003770(JP,B2)
【文献】 米国特許第05006017(US,A)
【文献】 若菜和之 他,非セメント系可塑状グラウト充填材の開発と長距離圧送試験,土木学会第70回 年次学術講演会 講演概要集,2015年 9月,pp.1323-1324
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/00−3/12
C09K 17/00−17/52
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1m3当たりセメント500〜1000kgを含んだセメントミルクのA液に、SiO2の容量で24%濃度以上の水ガラスのB液を、A液1m3に対して130〜200Lの比率で混合してゲル化時間が25秒以内で、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となる瞬結性硬化グラウトの注入方法であって、
前記A液より前記B液の方が、圧送ポンプのポンプ吐出能力、圧送ホースの内径、及び二重管内の断面積が小さい圧送装置を用い、
遅延タイマーにより前記A液の前記圧送ポンプの作動開始を前記B液の前記圧送ポンプの作動開始より遅らせて、前記A液と前記B液の前記二重管の先端部に到達する時間が同時となるように調整して瞬結性硬化グラウトを注入すること
を特徴とする瞬結性硬化グラウトの注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入や空洞充填注入として瞬結性硬化グラウトを注入する瞬結性硬化グラウトの注入方法及びそれに用いる瞬結性硬化グラウトの圧送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
瞬結性硬化グラウトの注入は、軟弱地盤や河川堤防、溜池等の土構造物、岩盤等が割り砕かれて多くの隙間を持つようになった破砕帯、又はクラック等への地盤強化、止水のためのグラウト注入(以下、地盤注入という)と、道路や鉄道などの地表下の空洞を充填するためのグラウト注入(以下、空洞充填注入という)に分けられる。
【0003】
そして、この地盤注入と空洞充填注入とは、適用目的が異なり、要求される条件も違うためそれぞれ項目を分けて記述する。
【0004】
[地盤注入]
先ず、本発明に関する地盤注入のセメントと水ガラスを組み合わせた薬液(以下、グラウトという)の先行技術について述べる。特許文献1には、水ガラスと水ガラス原液の0.01〜0.4程度のセメントを含んだグラウトを別個にポンプで送り、注入管のなるべく先端付近で合流させて直ちに注入して固結させることを特徴とする水ガラスとセメントを用いた注入工法が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲等参照)。
【0005】
特許文献1記載の注入工法は、水ガラスに少量のセメント(1m3当たり60〜70kg)を添加するもので、ゲル化時間(以下、ゲルタイムという)10〜20分であり、主に土粒子間隙に浸透させることを目的とするものであった。しかし、実施に実用化されることはなかった。
【0006】
実用化されたものとしては、例えば、非特許文献1に、A液として、3号水ガラス200〜250Lに水を加えた計500Lに、B液として、セメント200〜250kgに水を加えた計500Lを、混合させた水ガラス系懸濁グラウトが開示されている(非特許文献1の13、26、40、77頁等参照)。
【0007】
非特許文献1に記載の水ガラス系懸濁グラウトは、一般的にLWと称するゲルタイムが約1分前後と長く、ホモゲル強度が3N/mm2(材齢28日)程度のグラウトであり、主に、砂礫層などの大間隙の浸透や粘性土層への割裂(脈状)注入として、止水や地盤強化を目的として使用されるものであった。
【0008】
また、砂質土にグラウトを注入する場合、シルト、粘土分が10%以上含まれると溶液型グラウトであっても、土粒子間に浸透できず割裂状に注入すること(地盤の地層を割裂させながら注入すること)になる。
【0009】
この水ガラス系懸濁グラウトは、地盤注入工法として用いられ、水ガラスをA液とし、セメントは水ガラスをゲル化させるための硬化剤(B液)としており、要は水ガラスが主剤であるという特許文献1と同様の技術思想から実用化されたグラウトである。
【0010】
しかし、LWは、A液とB液を等量に注入することを原則としており、ゲルタイムを短く瞬結性にすることができず、さらに、ゲル後の立ち上がり強度(早期強度の発現)が非常に弱いという難点があった。このため、ゲル化後の可塑状固結及びその後の立ち上がり強度が非常に弱く、ゲル化後においても注入ポンプ(注入圧に関係なく一定量吐出)で遠方まで圧入されて、限定範囲にとどめるがことができなかった。
【0011】
その後、瞬結工法が開発され、LWに石灰等のゲル化促進剤を加えた瞬結性グラウトができたがゲル化後の立ち上がり強度はあまり向上されずLWと大差がなかった。その理由は、ゲル化直後の立ち上がり強度は、全て水ガラスのゲル化強度に支配され、セメントが硬化開始するには、長時間(約5〜8時間程度)を要するからである。
【0012】
以上のように、従来技術では、ゲル化後の立ち上がり強度を高めることができなかったため、限定範囲に注入することができないという大きな難点があった。このため、現状では、LWは、殆ど使用されていない。
【0013】
[空洞充填注入]
次に、本発明に関する空洞充填注入の先行技術について述べる。昭和54年に出願された特許文献2には、空洞充填(裏込め)注入工法として全く新しい発想による揺変性(チキソトロピー)ゲルを用いた可塑状グラウトが開示されている(特許文献2の特許請求の範囲等参照)。なお、ここでいう可塑状グラウトとは、静止状態では自立する程の強度を有しているが、加圧すれば(注入圧力を加えれば)容易に流動化する程度の固結強さ(マヨネーズ状)であるグラウトを指している。
【0014】
特許文献2に記載の可塑状グラウトは、前述のLWと異なり、セメントを主剤(A液)として、多量のセメントをゲル化させる硬化剤として水ガラス(B液)を高濃度で少量加える、いわゆる比例注入方法で行うことを原則としている。
【0015】
また、特許文献3には、セメント懸濁液であるA液と水ガラス水溶液であるB液とからなり、B液1L中の水ガラス濃度がSiO2基準で20重量%以上であること、B液中のSiO2の量が、A、B混合液の容積の100ccに対して約3.5〜9gとなるような割合AB両液を混合してなることを特徴とするグラウト材が開示されている(特許文献3の特許請求の範囲の請求項1等参照)。この特許文献3に記載のグラウト材は、A液に対して高濃度のB液を少量加えることにより、ゲルタイムの短縮を図ったものである。
【0016】
そして、特許文献4には、セメント懸濁液であるA液と水ガラス水溶液であるB液とからなり、B液1L中の水ガラス濃度がSiO2の量で約160〜320gの範囲であること、B液の容積とA液中の水の容積の100ccに対して、B液から由来するSiO2の量が約0.6〜3.5gとなるような割合AB両液を混合してなるグラウト材を注入することを特徴とするグラウト注入工法が開示されている(特許文献4の特許請求の範囲等参照)。この特許文献4に記載のグラウト注入工法は、早期強度の発現が得られるというメリットがあり、前述のA液とB液を等量ずつ混合して注入するLWよりも優れた性質を備えている。
【0017】
さらに、特許文献5には、実施例16〜21としてグラウト1m3当たりセメントが200〜400kg含有し、S/W×100÷√Cが0.19〜0.46であるグラウト材が開示されている。ここで、Sは、水ガラス中のSiO2の重量、Wは、水ガラス中のSiO2とNa2Oを除く残容量、Cは、セメントの重量(特許文献5の特許請求の範囲の請求項1、表4等参照)。特許文献5に記載のグラウト材は、特許文献4のグラウト注入工法に使用するグラウト材よりもさらに早期強度の発現が得られるものである。
【0018】
しかし、特許文献5に記載のグラウト材及びグラウト注入工法は、早期強度の発現において優れているものの、現在まで実用化されるに至っていない。その理由は、早期硬化を極端に高めるには、多量のセメントを必要とし、それに応じて硬化剤である水ガラスの量も多くする必要があった。すると、ゲルタイムが短く、且つゲル後の可塑状保持時間(注入可能時間)が極端に短くなり、グラウト注入を実行できる実用的な範囲を逸脱してしまいグラウト注入作業を行うことができないという致命的な問題があったからである。
【0019】
この問題を解決するには、早期強度の発現とともに、グラウト材を注入すべき充填範囲まで注入充填が可能な実用的なゲルタイムを確保することが必要である。しかし、主剤であるセメントミルク(A液)に、遅延剤を添加することで可使時間を長くすることは可能であるが、これに水ガラスを加えるとその遅延効果が消滅してしまうという問題がある。このため、現状では、いかなる添加剤を加えても、早期強度の発現と実用的なゲルタイムの確保という二律背反の問題を解決することができなかった。
【0020】
この問題を解決する手段として、本発明は、ゲル化時間25秒以内で3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上の瞬結性硬化グラウトを限定範囲を超えて遠方まで注入することができる注入方法を提案している。
【0021】
なお、特許文献2〜4を利用した可塑状グラウトは、シールドトンネルの裏込め材として広く使用されており(略100%)、その施工方法は、非特許文献1に記載されている(非特許文献1のP77〜参照)。
【0022】
すなわち、シールドトンネルでは、A液(主成分セメント)1容量部に対してB液(水ガラス)0.07〜0.1容量部の比例注入方式で注入される。ポンプの吐出量、圧送管の大きさ、及び吐出速度は、大きく異なるが、注入地点(シールドマシン手前のセグメントのグラウトホール)でA液及びB液の到達を人手で確認し、プラントと連絡してポンプを作動しているので、比例注入であっても特に問題なく注入できるからである。
【0023】
しかし、従来の瞬結性硬化グラウトは、A液(セメントミルク)に対して、B液(水ガラス)が極端に少ない比例注入であるため、A液とB液の吐出速度が大きく異なるものである。しかも、前述の地盤注入及び空洞充填注入いずれも地表下に二重管を設置して注入するため、A液及びB液の吐出速度を地上で簡単に目視により確認することはできないという問題があった。
【0024】
A液及びB液の吐出速度を目視で確認する方法としては、人手により注入ホースの先端でポンプのON/OFF動作を行って、A液が注入ホースの先端に到達した時点でA液のポンプを停止し、後でB液が到達した時点で二重管に接続して注入するという方法が考えられる。しかし、この方法は極めて煩雑で作業効率が悪いという大きな問題があった。
【0025】
なお、本発明の地盤注入は、空洞充填注入より注入可能時間(ゲル化時間+可塑状保持時間)をより短くして限定範囲に注入することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特公昭36−24122号公報
【特許文献2】特開平08−239255号公報
【特許文献3】特公平02−4634号公報
【特許文献4】特公平02−43790号公報
【特許文献5】特開2000−290651号公報
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】三木五三郎・下田一雄著、「可塑状グラウト注入工法」、日刊建設工業新聞社、2001年7月20日、p26,40,77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
そこで、本発明は、前記問題点を解決するために案出されたものであり、その目的とするところは、遅延タイマーを備えた圧送装置を用いて、比例注入で異なる吐出速度のA液及びB液の時間調整を行って両液を二重管先端部に同時又はB液を先行させて合流注入が可能な瞬結性硬化グラウトの注入方法、及びそれに用いる瞬結性硬化グラウトの圧送装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1発明に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法は、1m3当たりセメント500〜1000kgを含んだセメントミルクのA液に、SiO2の容量で24%濃度以上の水ガラスのB液を、A液1m3に対して130〜200Lの比率で混合してゲル化時間が25秒以内で、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となる瞬結性硬化グラウトの注入方法であって、前記A液より前記B液の方が、圧送ポンプのポンプ吐出能力、圧送ホースの内径、及び二重管内の断面積が小さい圧送装置を用い、遅延タイマーにより前記A液の前記圧送ポンプの作動開始を前記B液の前記圧送ポンプの作動開始より遅らせて、前記A液と前記B液の前記二重管の先端部に到達する時間が同時となるように調整して瞬結性硬化グラウトを注入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
第1発明によれば、人手を掛けずに、施工管理がし易く簡単に地盤の限定された範囲に瞬結性硬化グラウトを注入することができる。このため、低コストで地盤の圧密や強固なグラウト固結体を形成して地盤強化を図ることができる。
また、人手により注入ホースの先端でポンプのON/OFF動作を行って、A液が注入ホースの先端に到達した時点でA液のポンプを停止し、後でB液が到達した時点で二重管に接続して注入するということを行う必要がない。よって、作業効率が極めてよく、作業員の数も大幅に削減してグラウト注入作業の施工費を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の実施形態に係る圧送装置の構成を模式的に示す構成説明図である。
図2】同上の圧送装置のポンプ自動操作盤を示す図であり、(a)が外部から見た正面図、(b)が開閉扉を開けて操作盤の内部構成を示す内部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態に係る瞬結性硬化グラウトの圧送装置及びそれを用いた瞬結性硬化グラウトの注入方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
<瞬結性硬化グラウトのゲル化・硬化原理>
先ず、本発明の実施の形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法に用いる瞬結性硬化グラウトのゲル化・硬化原理ついて説明する。本実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法は、セメントミルクをA液として水ガラス溶液をB液としてこれらを混合して注入する二液性の注入工法である。このような二液性のグラウトは、A液とB液を混合するとゾル化し、時間の経過とともに粘性が増大して流動性を失いゲル化する。この二液を混合した時からゲル化するまでの時間がゲルタイムである。
【0042】
ゲル化したグラウトは、ゲル化後次第に強度を増し、可塑状固結領域(可塑状保持時間)を経て硬化に至る。この可塑状固結領域は、セメント系グラウト(セメントミルク)であれば、いずれのグラウトも硬化する前には、必ず通過する性状である(非特許文献1のp.26、図3.1参照)。
【0043】
よって、二液性のグラウトの注入可能時間は、ゲルタイムと可塑状保持時間(以下、可塑タイムという)を合せた時間となる。これにより、充分な可塑タイム(例えば、10〜20分)を有したグラウトを、特に、可塑状グラウトと称している。
【0044】
しかし、可塑状グラウトを極端な冨配合、例えば、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となる瞬結性硬化グラウトとした場合、可塑タイムが10数秒以内と極端に短くなってしまう。このため、従来の瞬結性硬化グラウトの注入可能時間は、可塑タイムとゲルタイムを合せても35秒程度と極限られた時間となってしまっていた。
【0045】
具体的には、毎分30Lで瞬結性硬化グラウトを注入・充填した場合、25秒で注入できる量は、12.5Lとなる。このような瞬結性硬化グラウトを地盤注入に使用すれば、限定範囲に注入でき、不要な遠方まで逸走することを防止することが可能となる。
【0046】
一方、瞬結性硬化グラウトを空洞充填注入に使用した場合、空洞範囲が広く1箇所当たり多くの量を必要とする。このため、注入可能時間を過ぎても注入を続けた場合、グラウトが硬化して圧力が上昇し、例えば、路面下の空洞に注入する場合であれば、盤膨れを引き起こすこととなる。
【0047】
よって、瞬結性硬化グラウトを空洞充填注入に使用する場合は、本願発明者が出願した特願2017−109712号(未公開)に記載した注入方法で遠方まで注入できる注入形態で行う。
【0048】
なお、地盤注入と空洞充填注入の注入方法は、特に区別するものではなく、地盤注入で遠くまで注入する場合や小さな空洞に充填する場合など、目的に応じたいずれかの注入方法を適宜用いて注入すればよい。
【0049】
<瞬結性硬化グラウト>
次に、本実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法に用いる瞬結性硬化グラウトについて説明する。本実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法に用いる瞬結性硬化グラウトの基本配合は、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となることを目標としている。その結果、必然的に本瞬結性硬化グラウトのゲル化時間は、25秒以内となる。
【0050】
具体的には、主剤となるA液には、1m3当たり500〜1000kgの範囲で調整したセメントを水に溶かしたセメントミルクを用いる。使用するセメントは、特に限定するものではないが、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、早強セメントなどが好ましい。
【0051】
また、A液には、通常のグラウト材に添加されることのある添加剤を添加してもよい。例えば、添加剤としては、スラグ、フライアッシュ、石灰、分散剤(遅延剤)、起泡剤、微粉末石灰石、岩石等の一次鉱物、ベントナイト等の粘土鉱物、増量材などを用いることができる。
【0052】
B液の水ガラスは、SiO2の容量で24%以上、好ましくは、30〜35%の範囲であり、モル比(SiO2/Na2O)は、3.0〜4.0が好ましい。このB液は、A液1m3に対して130〜200Lの割合の範囲内で調整して混合する。なお、例えば、30%濃度の水ガラスとは、溶液1L中にSiO2が300g含有された水ガラスを指している。
【0053】
<圧送装置>
次に、図1を用いて、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの圧送装置について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの圧送装置の構成を模式的に示す構成説明図である。
【0054】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの圧送装置10は、前述の瞬結性硬化グラウトのA液とB液をそれぞれ貯留する2槽の貯水槽1,1’と、これらを圧送する2台の圧送ポンプ3,3’と、これらを繋ぐ圧送ホース(耐圧ホース4,4’)と、地盤に埋設された二重管ロッド5と、圧送ポンプ3,3’を自動制御するポンプ自動操作盤20など、から構成されている。この圧送装置10は、前述の瞬結性硬化グラウトをA液(セメントミルク)とB液(水ガラス)に分けて圧送して地盤注入又は空洞充填注入する装置である。
【0055】
なお、本実施形態に係る圧送装置10が、従来の圧送装置と相違する点は、ポンプ自動操作盤20であり、その他の構成は、従来技術と変わりないため、主に、ポンプ自動操作盤20について説明する。
【0056】
本実施形態に係る圧送装置10は、前述のように、A液1m3に対してB液130〜200Lの割合の範囲内で調整して混合する、いわば圧送する2液の容積の比率が極端に違う状態で比例混合することを原則(前提)としている。
【0057】
このため、前述のように、従来の圧送装置では、A液とB液の吐出速度の違いから、二重管ロッド5の先端部に到達するまでに時間差が生じてしまうという問題が発生する。本実施形態に係る圧送装置10では、ポンプ自動操作盤20の後述の遅延タイマーでこの問題の解決を図っている。
【0058】
(圧送ポンプ)
圧送装置10は、A液を貯留する貯水槽1とサクションホース2(耐圧ホース)を介して接続されたA液圧送用の圧送ポンプ3と、B液を貯留する貯水槽1’とサクションホース2’(耐圧ホース)を介して接続されたB液圧送用の圧送ポンプ3’と、の2台のポンプを備えている。
【0059】
このB液圧送用の圧送ポンプ3’は、A液圧送用の圧送ポンプ3の吐出能力より小さいもが用いられている。具体的には、A液圧送用の圧送ポンプ3の吐出能力が、15L/分の場合、B液圧送用の圧送ポンプ3’の吐出能力は、2.0〜3.0L/分となる。勿論、2台のポンプは、吐出能力が前記の範囲で調整できるものであれば、ポンプ能力自体がどのようなものであってもよいことは云うまでもない。
【0060】
なお、従来の圧送装置では、通常、用いられる2台のポンプの能力は、圧送(注入)圧の高低に関係なく一定時間当たり同量吐出するものが使用されていた。
【0061】
(圧送ホース)
圧送装置10に用いられる圧送ホースは、貯水槽1,1’と圧送ポンプ3,3’とを繋ぐサクションホース2,2’と、圧送ポンプ3,3’と二重管ロッド5とを繋ぐ耐圧ホース4,4’とからなる。
【0062】
これらのサクションホース2,2’は、A液を貯留する貯水槽1とA液圧送用の圧送ポンプ3とを繋ぐホースが、サクションホース2であり、B液を貯留する貯水槽1’とB液圧送用の圧送ポンプ3’とを繋ぐホースが、サクションホース2’である。
【0063】
一方、耐圧ホース4,4’は、A液圧送用の圧送ポンプ3と二重管ロッド5の後述の外管6とを繋ぐホースが、耐圧ホース4であり、B液圧送用の圧送ポンプ3’と二重管ロッド5の後述の内管7とを繋ぐホースが、耐圧ホース4’である。
【0064】
このような圧送装置10に用いられる圧送ホースの大きさは、A液とB液の時間当たりの圧送容量の比率に応じた断面積であることが理想的である。しかし、現状では、混合比率が常に同じでないこともあり、A液とB液の比率に応じた断面積の圧送ホースが用いられてはいない。つまり、従来の圧送装置では、B液のA液に対する圧送比率(吐出量)が変化することを加味すると圧送ホースの断面積が、A液とB液の比率に応じた断面積となっているという実体はないと云える。
【0065】
従来の具体例を挙げると、A液圧送用の圧送ポンプが10L〜30L/分程度の能力であれば、圧送ホース(耐圧ホース4)には、一般に、1/2インチ(φ12.7mmで断面積126.6mm2)のものが用いられている。
【0066】
ここで、例えば、A液の時間当たりの吐出量を15L/分とした場合、B液の吐出量は、最低2L/分必要となる。1/2インチの圧送ホース(耐圧ホース4)を用いて吐出量を15L/分とした場合、1.97m/秒となる。よって、B液の吐出量を2L/分とするには、圧送ホース(耐圧ホース4’)の断面積を16.9mm2を下回る非常に細いホースとする必要がある。しかし、このような非常に細い耐圧ホースは現状の市販の規格品には存在しない。
【0067】
また、B液(水ガラス溶液)は、粘性が高く断面積が小さくなると抵抗圧が高くなること、及びホース長さが40〜100m程度のものが一般的であることを考慮すると、市販されている規格品から選択できるのは、3/8インチ(φ9.525mmで断面積70.8mm2)の圧送ホース(耐圧ホース4’)ということになる。
【0068】
つまり、B液の圧送に、3/8インチの圧送ホース(耐圧ホース4’)を用いた場合の吐出速度は、0.47m/秒となり、A液圧送の吐出速度1.97m/秒と比べて、非常に遅くなることが判る。
【0069】
(二重管)
二重管ロッド5は、外管6内に内管7が配管されたロッド状の外径40.5mmの二重管からなるパイプ材である。この二重管ロッド5は、地盤等に穿孔(掘削)された坑孔内に挿入されて使用され、前述の瞬結性硬化グラウトのA液とB液を外管6と内管7に分けて圧送して先端部5aで合流させて、注入する注入管としての機能を有している。
【0070】
本実施形態に係る二重管ロッド5は、A液を圧送する外管6の断面積が、650mm2であり、B液を圧送する内管7の断面積が、78.5mm2となっている。よって、内管7の断面積の方が外管6の断面積より小さくなっている。
【0071】
しかし、内管7の断面積の方が外管6の断面積より小さくなっていても、前述のように、瞬結性硬化グラウトのA液とB液の混合比率が極端に違うため、A液とB液の吐出量(時間当たりの圧送量)の違いからB液の吐出速度(圧送速度)が遅くなってしまう。
【0072】
つまり、このような内管7の断面積の方が外管6の断面積より小さくなっている二重管ロッド5を用いて瞬結性硬化グラウトを分別圧送した場合でも、前述のように、A液の方がB液より二重管ロッド5の先端部5aに早く到達してしまうという問題が発生する。
【0073】
具体的には、A液圧送用の圧送ポンプ3の吐出量を15L/分、耐圧ホース4の長さを40m、外管6(二重管ロッド5)の長さを10mで計算すると、A液の先端部5aへの到達時間は、20秒+26秒=46秒程度となる。
【0074】
一方、B液圧送用の圧送ポンプ3’の吐出量を2L/分、耐圧ホース4’の長さを40m、内管7(二重管ロッド5)の長さを10mで計算すると、B液の先端部5aへの到達時間は、85秒+24秒=109秒程度となる。
【0075】
このため、単純に、本実施形態に係る圧送装置10を用いて、A液圧送用の圧送ポンプ3と、B液圧送用の圧送ポンプ3’を同時に駆動させて圧送した場合、B液の先端部5aへの到達時間がA液より60秒(1分)程度遅くなってしまう。よって、両液の先端部5aへの到達時間差を確認して60秒(1分)程度遅らせてA液圧送用の圧送ポンプ3を作動させる必要が生じる。
【0076】
しかし、実際の現場では、両液の先端部5aへの到達時間差を確認して、人手により2台の圧送ポンプ3,3’の時間差をつけて作動させることは、極めて煩雑で人為ミスが生じ易い作業であり、施工管理が難しいという問題があった。
【0077】
勿論、本発明に係る二重管は、前述の二重管ロッド5の構造、形状、大きさ(断面積)等に限定されるものではない。要するに、本発明に係る二重管は、地盤8の坑孔内に挿入され、地表面8a下に設置されて先端部で瞬結性硬化グラウトのA液及びB液を合流させて混合できる二重管構造のパイプ材であればよい。
【0078】
また、瞬結性硬化グラウトの圧送に、三重管を利用する場合は、2つの流路を利用し、外側より内側の方が断面積が小さい。
【0079】
(ポンプ自動操作盤)
次に、図2を用いて、実施形態に係る圧送装置10の特徴部分であるポンプ自動操作盤20について説明する。図2は、圧送装置10のポンプ自動操作盤20を示す図であり、(a)が外部から見た正面図、(b)が蓋を開けて操作盤の内部構成を示す内部構成図である。
【0080】
図2(a)に示すように、ポンプ自動操作盤20の開閉扉の表側には、主電源に通電されている否かを表示する主電源ランプ20aと、前述のB液圧送用の圧送ポンプ3’が運転中であるか否かを示すB液圧送用ポンプ運転ランプ20bと、前述のA液圧送用の圧送ポンプ3が運転中であるか否かを示すA液圧送用ポンプ運転ランプ20cなど、が設けられている。
【0081】
その他、ポンプ自動操作盤20の開閉扉の表側には、圧送ポンプ3,3’の運転を開始する運転ボタン20dと、圧送ポンプ3,3’の運転を停止する停止ボタン20eなど、も設けられている。
【0082】
そして、図2(b)に示すように、このポンプ自動操作盤20は、主電源をON/OFFするブレーカー21と、このブレーカー21に電気的に接続されたB液圧送用ポンプスイッチ22と、ブレーカー21に電気的に接続されたA液圧送用ポンプスイッチ23と、遅延タイマー24など、から主に構成されている。
【0083】
ブレーカー21は、ポンプ自動操作盤20に一定以上の電流が流れると漏電防止のために電源からの通電を遮断するブレーカーの機能を有したマグネットスイッチである。
【0084】
B液圧送用ポンプスイッチ22は、前述のB液圧送用の圧送ポンプ3’に電気的に接続されて、B液圧送用の圧送ポンプ3’に通電するか否かで圧送ポンプ3’を運転又は停止するマグネットスイッチである。
【0085】
A液圧送用ポンプスイッチ23は、前述のA液圧送用の圧送ポンプ3に遅延タイマー24を介して電気的に接続されて、A液圧送用の圧送ポンプ3に通電するか否かで圧送ポンプ3’を運転又は停止するマグネットスイッチである。
【0086】
遅延タイマー24は、瞬結性硬化グラウトのA液とB液の混合比率が極端に違うため、A液とB液の吐出量(時間当たりの圧送量)の違いからB液の吐出速度(圧送速度)が遅くなってしまうという前述の問題の解決を図るためのタイマーである。
【0087】
具体的には、遅延タイマー24は、設定した時間だけA液圧送用の圧送ポンプ3の作動開始時間をB液圧送用の圧送ポンプ3’の作動開始時間より遅らせる機能を有している。後述のように、遅延タイマー24は、A液及びB液の二重管ロッド5の先端部5aへの到達を同時に、又はB液がA液に先行するようにする機能する。
【0088】
遅延タイマー24に設定する圧送ポンプ3の作動開始までの遅延時間は、前述のように、圧送ポンプ3と圧送ポンプ3’の吐出量の違い、耐圧ホース4と耐圧ホース4’の内径の違い及びその長さ、二重管ロッド5の外管6と内管7の断面積及びその長さ等から計算して算出する。
【0089】
<圧送装置の操作手順>
次に、図1図2を用いて、ポンプ自動操作盤20による前述の圧送装置10の操作手順について説明する。
【0090】
図2(a)に示す運転ボタン20dを押すと、B液圧送用ポンプスイッチ22及びA液
遅延タイマー24がONになる。するとA液圧送用の圧送ポンプ3は、遅延タイマーの作用により一定時間経過まで作動せず、設置した時間が経過すると圧送ポンプ3が作動する(図1参照)。
【0091】
一方、運転を停止する場合は、図2(a)に示す停止ボタン20eを押すと、B液圧送用ポンプスイッチ22及びA液圧送用ポンプスイッチ23のいずれもがOFFになり、圧送ポンプ3及び圧送ポンプ3’のいずれもが直ちに停止し、圧送装置10の全ての動作を停止することができる(図1参照)。
【0092】
このように、本実施形態に係る圧送装置10によれば、ポンプ自動操作盤20の運転ボタン20dや停止ボタン20eを押すだけで、圧送装置10の運転又は停止を行うことができる。このため、背景技術で述べた、人手により注入ホースの先端でポンプのON/OFF動作を行って、A液が注入ホースの先端に到達した時点でA液のポンプを停止し、後でB液が到達した時点で二重管に接続して注入するということを行う必要がない。よって、施工管理がし易いだけでなく作業効率が極めてよく、作業員の数も大幅に削減してグラウト注入作業の施工費を大幅に低減することができる。
【0093】
<注入方法>
次に、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法について説明する。前述のように、地盤注入と空洞充填注入とは、注入形態が異なるため分けて説明する。また、前述の圧送装置10を用いて、注入する場合を例示して説明する。
【0094】
[地盤注入]
先ず、地盤注入について説明する。地盤注入は、瞬結性硬化グラウトを地盤の限定範囲に注入することを目的としている。このため、圧送装置10の二重管ロッド5の先端部5aからA液及びB液を同時に合流混合させて、地盤の圧密や強固なグラウト固結体を形成して地盤強化を図るものである。代表的には、次の3つの方法をあげることができる。
【0095】
(1)図1に示すように、圧送装置10の二重管ロッド5を地盤8の地表面8a下に設置する。そして、ポンプ自動操作盤20の遅延タイマー24の設定をA液とB液が先端部5aに同時に到達するようにセットし、終結性硬化グラウトを割裂状(脈状)に注入してグラウト固結体を形成する。
【0096】
(2)二重管ロッド5を一定位置(同一深さ)で回転させて円盤状のグラウト固結体を形成する。
【0097】
(3)二重管ロッド5を回転しながら引き上げて螺旋状にグラウト固結体を形成する。
【0098】
以上の方法のうちに特徴的なのは、(3)螺旋状にグラウト固結体を形成する点である。
【0099】
また、二重管ロッド5の先端部5aの注入孔の大きさと吐出量を調整して地盤注入圧より高い強制圧力でグラウトに指向性を与えることもできる。
【0100】
さらには、地表面8a下に発生している空間(大気及び溜水)に連続的に二重管ロッド5を回転させながら引き上げて円柱状のグラウト固結体を造成することもできる。
【0101】
[空洞充填注入]
次に、空洞充填注入について説明する。前述のように、空洞充填注入は、瞬結性硬化グラウトのゲルタイム及び可塑タイムが短く立ち上がり強度が非常に大きいため、注入可能範囲が限られ遠方まで充填することができないという問題があった。
【0102】
そこで、本実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法では、充分なグラウト注入時間を確保するため、二重管ロッド5の先端部5aからB液を先行させてグラウト固結体に注入流路を形成して瞬結性硬化グラウトを注入する。グラウト固結体に流入流路を形成するのは、A液とB液が合流混合した未だ固まらない瞬結性硬化グラウトにB液を接触させて、ゲル化を遅延させることで形成する。
【0103】
具体的には、ポンプ自動操作盤20の遅延タイマー24の設定をA液よりB液が早く先端部5aに到達するようにセットし、B液を先行注入して後からA液とB液が先端部5aに合流した状態のグラウトを注入する。これにより、B液が先行注入された部分に流路が形成され、より遠方までの瞬結性硬化グラウトの注入が可能となる。
【0104】
さらに、遠方まで瞬結性硬化グラウトを充填注入させるには、前述のA液圧送用ポンプスイッチ23によりA液圧送用の圧送ポンプ3を一旦停止し、B液のみを注入し、その後、スイッチ23によりA液圧送用の圧送ポンプ3を再作動することを繰り返すとよい。
【0105】
なお、B液を先行させた後、A液と合流混合する注入形態は、本願発明者が別出願した特願2017−109712号(未公開)に詳しく記載している。また、空洞充填注入は、二重管の先端部から前方に充填する。
【0106】
以上のように、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法を地盤注入に適用すれば、人手を掛けずに、施工管理がし易く簡単に地盤の限定された範囲に瞬結性硬化グラウトを注入することができる。このため、低コストで地盤の圧密や強固なグラウト固結体を形成して地盤強化を図ることができる。
【0107】
また、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法を空洞充填注入に適用すれば、人手を掛けずに、施工管理がし易く簡単にゲルタイムを遅延させた部分を経路として瞬結性硬化グラウトをより広範囲にまで注入・充填して早期に硬化させることができる。よって、従来困難であった早期強度の発現と実用的なゲルタイムの確保の両立が可能となり、広範な領域にグラウトを充填して補修、補強が可能となる。
【実施例】
【0108】
[効果確認実験]
次に、実施例と比較例を挙げ、後述のゲルタイム測定、可塑タイム測定、一軸圧縮強度試験等の各試験により瞬結性硬化グラウトの物性評価を行い、本発明の効果を検証する。なお、各試験は、いずれも液温20℃で行った。先ず、各試験の試験方法について説明する。
【0109】
(1.ゲルタイムの測定)
ゲルタイムの測定は、5×30cmのビニール袋内に、所定のA液を入れ、そのビニール袋上部を手で閉じた状態でB液を入れ、手を放すと同時に激しく上下に揺すって撹拌して流動性を失うまでの時間をゲルタイムとした。
【0110】
(2.可塑タイムの測定)
可塑タイムの測定は、非常に時間が短く測定機具を使用することができないため、前述のゲルタイム測定後のグラウトを手触りで押しても流動化しない時間を可塑タイムとした。
【0111】
(3.一軸圧縮強度試験)
一軸圧縮強度試験は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に準じて行った。具体的には、ゲルタイムの測定と同様な方法でグラウトを調整し、ゲル化前に4×4×16cm三連枠に投入し、20℃の湿潤養生で0.3時間、1時間、3時間、28日の各養生期間(時間)後に脱型し、一軸圧縮強度を測定した。
【0112】
次に、瞬結性硬化グラウトの実施例を挙げて各種試験結果について説明する。実施例に係る瞬結性硬化グラウトの生成に用いたセメントは、セメントAとして普通ポルトランドセメント、セメントBとして高炉セメントB種、セメントCとして普通ポルトランドセメント3重量部とスラグ7重量部を混合したセメントの3種類のセメントを用いた。
【0113】
また、添加剤としてベントナイトを用いた。ベントナイトには、アメリカ産の粘土鉱物である株式会社ホージュン製のスーパークレイ(登録商標)を用いた。
【0114】
水ガラスには、水ガラスAとしてモル比(SiO2/Na2O)が3.1のSiO2の容量で30%濃度の水ガラス、水ガラスBとしてモル比(SiO2/Na2O)が4.0のSiO2の容量30%の水ガラス、水ガラスCとしてモル比(SiO2/Na2O)が3.0のSiO2の容量40%の水ガラスの3種類の水ガラスを用いた。なお、容量30%の水ガラスとは、溶液1L中にSiO2が300g含有された水ガラスを指している。なお、水ガラスAの粘度は約20cpm(水の20倍)である。
【0115】
以上の要領で、所定量のA液とB液を混合して瞬結性硬化グラウトを生成し、ゲルタイム測定、可塑タイム測定、一軸圧縮強度試験等の各試験を行った測定結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1から、瞬結性硬化グラウトの3時間後の一軸圧縮強度を1.5N/mm2以上とするには、A液に含有されるセメント重量が1m3当たりセメント500kg以上必要であることが分かる。また、セメント重量の上限は、圧送可能な1,000kg以下とした。ただし、セメント重量800kg以上では、ベントナイト等の粘着剤は併用しない。
【0118】
そして、表1から、B液として混合する水ガラスは、SiO2の容量で30%濃度の水ガラスが、A液1m3に対して130〜200Lの範囲が適正量であることが確認された。
【0119】
また、表1に示すように、3時間後の一軸圧縮強度を1.5N/mm2以上とする瞬結性硬化グラウトの配合では、ゲルタイムは3〜25秒となり、可塑タイムがいずれも7秒以内となった。これは、比較例5として示した従来の瞬結性硬化グラウトよりも短いことが分かる。
【0120】
さらに、表1から、実施例4,6,9,10で測定した可塑タイム経過後の立上り強度は、0.3時間で0.26、0.20、0.31、1.06N/mm2であり、3.0時間で2.05、4.09、2.11、5.77N/mm2であり、急激に硬化していることが判明した。また、実施例11は、セメントが少なくスラグが多いため立ち上がり強度が劣るが3時間で6.90N/mm2、28日で32.00N/mm2以上と極めて高い値を示している。
【0121】
このことより、3時間後の一軸圧縮強度を1.5N/mm2以上とする瞬結性硬化グラウトは急激に硬化するため、硬化したグラウトを割裂させて新たな瞬結性硬化グラウトを注入することができないので、限定範囲を目的とした地盤注入には最適である。
【0122】
これに対して、比較例5として示した水ガラス系懸濁グラウト(LW)では、表1に示すように、可塑タイム経過後の立上り強度は、0.3時間で0.01N/mm2、1.0時間で0.02N/mm2、3.0時間で0.04N/mm2であり、極端に立上り強度が弱いことが分かる。
【0123】
この比較例5に係る水ガラス系懸濁グラウト(LW)は、セメント400kgにゲル化促進剤を加えたA液500Lに、水ガラスC溶液200Lに水300Lを加えたB液500Lを等量混合したものである。
【0124】
このように、比較例5に係る水ガラス系懸濁グラウト(LW)であれば、硬化後の立上り強度が弱いため、ゲル化以降に新たなグラウトをさらに注入しても、既に注入済みのゲル化したグラウトを割裂させて容易に新たなグラウトが進入することが可能である。
【0125】
(ゲルタイム遅延効果の確認実験)
次に、本発明に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法によるゲルタイムの遅延効果を確認すべく、前述の実施例4に係る瞬結性硬化グラウトを作成し、B液に対するその瞬結性硬化グラウトの混合比率のみを変化させた実施例10〜14を作成した。そして、その実施例10〜14、4に係る瞬結性硬化グラウトのゲルタイムを測定したものを表2にまとめた。
【0126】
ここで、実施例4に係る瞬結性硬化グラウトは、A液:1m3当たりセメント600kgを含んだセメントミルクに、B液:モル比4.0のSiO2の容量30%の水ガラス160Lを加えたものである。また、表2に示すB液とは、モル比4.0のSiO2の容量30%の水ガラスである。
【0127】
【表2】
【0128】
表2に示すように、B液に実施例4に係る瞬結性硬化グラウトを20%の割合で混合すると、ゲルタイムは、1170秒と非常に長くなり、順次瞬結性硬化グラウトの混合比率を大きくするに従ってゲルタイムは短くなっていく。しかし、ゲルタイムの遅延効果は、B液が0%になるまで発揮されているので、本実験により、予めB液を先行注入することによるゲルタイムの遅延効果が確認されたと云える。よって、本発明に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法のように、B液を先行注入することで瞬結性硬化グラウトの注入経路を確保できるものと考えることができる。
【0129】
要するに、ゲル化時間が25秒以内で、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となる瞬結性硬化グラウトを注入する場合であっても、本発明に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法のように、グラウト注入前に予めB液を先行注入することで新たな瞬結性硬化グラウトを前方に注入することができる。これは、注入したB液の流路に沿って接触混合しながらゲル化が遅延されるからである。よって、本発明に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法よれば、従来困難であった早期強度の発現と実用的なゲルタイムの確保を両立が可能となり、広範な領域にグラウトを充填して補修、補強が可能となる。
【0130】
以上、本発明の実施形態に係る瞬結性硬化グラウトの注入方法及びそれに用いる瞬結性硬化グラウトの圧送装置について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0131】
10:圧送装置
1,1’:貯水槽
2,2’:サクションホース(圧送ホース)
3,3’:圧送ポンプ
4,4’:耐圧ホース(圧送ホース)
5:二重管ロッド(二重管)
6:外管(二重管)
7:内管(二重管)
8:地盤
8a:地表面
【要約】
【課題】遅延タイマーを備えた圧送装置を用いて、比例注入で異なる吐出速度のA液及びB液の時間調整を行って両液を二重管先端部に同時又はB液を先行させて合流注入が可能な瞬結性硬化グラウトの注入方法を提供する。
【解決手段】A液にB液を、A液1m3に対して130〜200Lの比率で混合してゲル化時間が25秒以内で、3時間後の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上となる瞬結性硬化グラウトの注入方法において、前記A液より前記B液の方が、圧送ポンプのポンプ吐出能力、圧送ホースの内径、及び二重管内の断面積が小さい圧送装置を用い、遅延タイマーにより前記A液の前記圧送ポンプの作動開始を前記B液の前記圧送ポンプの作動開始より遅らせて、前記A液と前記B液の前記二重管の先端部に到達する時間が同時となるように調整して瞬結性硬化グラウトを注入する。
【選択図】図1
図1
図2