【実施例】
【0034】
本発明の理解を深めるために、参考例、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではないことは、いうまでもない。参考例では、本発明を完成するに至った研究経緯を示す。以下の臨床検体を用いた本研究は、岡山大学内の倫理委員会により承認されている。
【0035】
(参考例1) 血清中IgGによる肝癌培養細胞の増殖抑制効果の検討
本参考例では血清中IgGによる肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を検討した。
倫理委員会の承認を得、自己免疫性疾患患者の血清中に存在する自己抗体について解析を行った。まず、自己免疫性肝炎(AIH)患者から得た血清試料について、抗体精製用アフィニティー担体であるプロテインG(Invitrogen Dynal AS, Oslo, Norway)を添加し、血清中のIgGを非特異的に吸着させた。常法に従いプロテインGを洗浄液(0.1M Na-Phosphate Buffer, pH 7.4)で洗浄し、溶出液(50 mM Glycine Buffer, pH 2.8)でプロテインGに非特異的に吸着したIgGを溶出させ、自己免疫性肝炎(AIH)のヒト血清中から抽出したIgG含有溶液を得た。
【0036】
肝癌細胞株Huh7を5.0x10
4 cell/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO
2下に培養した。
培養開始12時間後に、前述のAIH患者血清中から抽出したIgG含有溶液(IgG含量として0.5 μg)を各wellに添加(5 μg/ml)。コントロールには、IgGを含有していない溶出液のみを同量添加した。
培養開始60時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液10 μlを各wellに添加した。MTT添加4時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定した。細胞増殖率を各条件における吸光度をコントロールに対する比率で表した。
【0037】
その結果、AIH患者血清から抽出したIgG含有溶液による、肝癌細胞株Huh7の増殖抑制が認められた(
図1)。上記の結果により、血清中に、肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGを有するAIH患者が存在することがわかった。
【0038】
(参考例2)肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGの対応抗原の同定
本参考例では、参考例1で確認された肝癌細胞株Huh7の増殖を抑制するIgGの対応抗原について、解析を行った。
ProteoJET
TM Membrane Protein Extraction Kit (Thermo Fischer Scientific Inc., IL, USA)を使用して、肝癌細胞株Huh7より膜タンパク質を抽出した。
AIH患者から得た血清試料について、抗体精製用アフィニティー担体であるプロテインG(Invitrogen Dynal AS, Oslo, Norway)を添加し、血清中のIgGを非特異的に吸着させた。
プロテインGを洗浄液により洗浄後、抗原として肝癌細胞株Huh7の膜タンパク質抽出物を含む溶液に加えて1時間処理し、プロテインGに非特異的に吸着された血清中IgGと抗原とを反応させた。血清中に膜タンパク質に対する抗体が存在する場合に抗原との間で抗原抗体反応が生じ、抗原抗体複合体が形成される。
洗浄液にて洗浄後、溶出液(50 mM Glycine Buffer, pH 2.8)でプロテインGに吸着したタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質をProteoExtract
TM All-in-One Trypsin Digestion Kit (Calbiochem, Darmstadt, Germany)を使用し、トリプシン消化し、質量分析計(LC/MS)で測定した。測定結果をデータベースSwiss-Protで検索した。
【0039】
その結果、AIH患者血清に存在し、肝癌細胞株Huh7の増殖抑制効果を示すIgGの対応抗原がAMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットである、GluR1及びGluR4である可能性が示された。
【0040】
(参考例3) ヒト肝癌由来細胞株におけるAMPA型グルタミン酸受容体の発現の確認
ヒト肝癌細胞株(Huh7, PLC/PRF/5, Hep3B, HepG2, HLE, HLF, SK-Hep-1)を10cm dishに播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% L-Glutamine solution (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% non-essential amino acid (Sigma chemical, MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO
2下に培養した。
各種細胞が80%コンフルエントになった時点で、培養液を除去し、cold DPBS, Ca(-), Mg(-)(Invitrogen Co., Carlsbad, CA)にて洗浄後、 Pierce IP Lysis Buffer (Thermo Fisher Scientific Inc., IL) 1mlをdishに添加した。 5分間氷上攪拌した後、セルスクレイパーで回収し、ビーズ破砕機(TAITEC, Saitama、Japan)で細胞を破砕。その後、13,000gで10分間遠沈し、上澄を回収した。上澄を2×サンプルバッファー(20% Glycerol, 4% SDS, 125mM Tris-HCl / pH6.8, 10% メルカプトエタノール, 0.004%BPB)と1:1で混合した後、5分間煮沸し、各種肝癌細胞株より抽出したタンパク質溶液を作製した。なお、コントロールとしてHuman Whole Normal Brain tissue lysate(Novus-Biologicals, LLC)を用いた。
【0041】
各種肝癌細胞株、およびHuman Whole Normal Brain tissueから抽出したタンパク質溶液を用いて、常法に従ってSDS-PAGEにより電気泳動を行った。
泳動したタンパク質を常法に従ってPVDFメンブレンにブロッティングした。PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal (TOYOBO, Osaka, Japan)で1時間のブロッキング処理後、一次抗体としてラビット抗AMPA受容体(GluR1, GluR2, GluR3, GluR4)抗体(#8850, #5306, #4676, #8070 : Cell Signaling Technology, Inc., MA)、マウス抗β-actin抗体 (Sigma-Aldrich Co., MO)で1時間処理した。
メンブレンを洗浄後、HRP標識抗IgG抗体(RPN2124: GE Healthcare社、UK)を二次抗体として1時間反応させた。
メンブレンを洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection System (RPN2232: GE Healthcare, UK)で発色させ、ルミノメーターで検出した。
【0042】
その結果、7種類の肝癌細胞株の全てにおいて、AMPA型受容体の4つのサブユニットが検出された(
図2)。
【0043】
(実施例1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制効果の確認
肝癌細胞株(Huh7, PLC/PRF/5, HepG2)を5.0x10
4 cells/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% L-Glutamine solution (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で 5% CO
2下に培養した。
培養開始12時間後に、非競合的AMPAアンタゴニストである4-(8-Methyl-9H-1,3-dioxolo[4,5-h][2.3]benzodiazepin-5-yl)-benzenamine dihydrochloride(GYKI 52466 dihydrochloride) (Tocris Bioscience, Bristol, UK)または、1-(4'-Aminophenyl)-3,5-dihydro-7,8-dimethoxy-4H-2,d3-benzodiazepin-4-one (CFM-2) (Tocris Bioscience, Bristol, UK)をDMSO(Sigma-Aldrich Co., MO)で50,000 μMに調整した後に、上記の培養液で希釈し、50 μl/wellで添加し結果に示す濃度になるよう薬剤暴露した。
【0044】
薬剤を注入したwellに対するコントロールは、DMSOを同量溶解した培養液を添加したものとした。また、DMSOを注入したwellに対するコントロールは、薬剤・DMSOともに溶解していない培養液のみを添加したものとした。
薬剤を注入した24時間後、48時間後、72時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液15 μlを各wellに添加した。MTT溶液を添加した3時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定した。細胞増殖率は各条件における吸光度をコントロールに対する比率で表した。
【0045】
AMPA型受容体アンタゴニストにより、濃度及び時間依存性に肝癌細胞の増殖が抑制されたことが確認された(
図3〜8)。なお、
図3〜8中、GYKI 52466 dihydrochlorideはGYKIと表す。
【0046】
(実施例2)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討1
AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株Huh7の細胞内シグナルの影響を、リン酸化抗体アレイを用いて確認した。
ヒト肝癌細胞株 (Huh7)を10cm dishに播種した。培養液は実施例1と同様であり、37℃で5% CO
2下に培養した。
16時間後、細胞が60%〜70%コンフルエントになった時点で培養液を除去し、GYKI 52466、CFM-2を以下の表1のとおりに注入した。なお、薬剤コントロールは薬剤と同量のDMSOを注入したものとした(表1のDMSO)。また、薬剤・DMSOともに注入していないdish(表1のnegative control)を作製し、DMSO注入に対するコントロールとした。
【表1】
薬剤注入 24時間後に、Proteome Profiler Human Phospho-Kinase Array(R&D Sytems Inc., Minneapolis, MN)を用いて、以下の如くリン酸化抗体アレイを行った。
dishをDPBSで洗浄後、付属のlysis bufferにて1.0×10
7cells/mlに調整、4℃にて30分間 incubateし、14,000×g 5分間遠心、上清を回収した。
メンブレンを1時間ブロッキング処理した後、サンプル溶液を滴下し、室温にて1時間一次抗体を反応させた。
洗浄後、室温で2時間ビオチン標識二次抗体と反応させた後、HRP標識ストレプトアビジン溶液にて30分間 incubateした。
洗浄後、付属のChemi Reagent1, 2で発色させ、ルミノメーターで検出した。
【0047】
薬剤注入したものと、DMSOのみのものを比較した結果、CREB、p38α、JNKpan、Erk1/2においてリン酸化抗体のシグナルが低くなっていることが確認された(
図9)。
【0048】
(実施例3)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討2
各種リン酸化抗体を用いて、Western blotにより、AMPA受容体阻害による細胞内シグナル伝達への影響を確認した。
ヒト肝癌細胞株 (Huh7)を10cm dishに播種した。なお、培養液は実施例2と同様にし、37℃で5% CO
2下に培養した。
70%コンフルエントになった時点で培養液を除去し、上記表1の濃度となるよう培養液にて調整したGYKI 52466、CFM-2を注入した。
薬剤注入 6時間後に、2×サンプルバッファー(20% Glycerol , 4%SDS , 125mM Tris-HCl / pH6.8 , 10% メルカプトエタノール, 0.004%BPB)を添加し、セルスクレイパーで回収し5分間煮沸した。なお、薬剤コントロールは薬剤と同量のDMSOを注入したものとした(表1のDMSO)。また、薬剤・DMSOともに注入していないdish(表1のnegative control)を作製し、DMSO注入に対するコントロールとした。
各条件の細胞から常法に従ってタンパク質を抽出し、抽出したタンパク質を、常法に従ってSDS-PAGEにより電気泳動を行った。
泳動したタンパク質をPVDFメンブレンにブロッティングした。PVDF Blocking Reagent for Can Get Signal (TOYOBO, Osaka, Japan)で1時間のブロッキング処理後、各一次抗体 (#4060:p-Akt(Ser473)、#9101:p-p44/42MAPK(p-ERK1/2)(Thr202/Tyr204)、#9121:p-MEK1/2(Ser217/221)、#9255:p-SAPK/JNK(Thr183/Tyr185)、#9315:pGSK3β(ser9)、#2922:cyclinD1、#5605:c-Myc、#2535:p-AMPK (Cell Signaling Technology, Inc., MA)、または抗β-actin抗体 (Sigma-Aldrich Co., MO)で1時間処理した。
メンブレンを洗浄後、HRP標識抗IgG抗体(RPN2124: GE Healthcare社、UK)を二次抗体として1時間反応させた
洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection System (RPN2232: GE Healthcare, UK)で発色させ、ルミノメーターで検出した。
【0049】
結果を
図10に示す。薬剤コントロール(DMSO)に比較して薬剤を添加した場合は、リン酸化Akt(p-Akt)、リン酸化ERK1/2(p-ERK1/2)、リン酸化MEK1/2(p-MEK1/2)、リン酸化SAPK/JNK(p-SAPK/JNK)、リン酸化GSK3β(ser9)(p-GSK3β(ser9))、cyclin D1、c-Myc、リン酸化AMPK(p-AMPK)の量が低下していた。肝癌細胞株における、AMPA型受容体の阻害による細胞増殖抑制の機序として、セリン/スレオニンキナーゼのAktシグナル伝達カスケードの抑制、MAPK/Erkシグナル伝達カスケードのMEK1/2, Erkの抑制、SAPK/JNKシグナル伝達カスケードのSAPK/JNKの抑制、AMPKシグナル伝達カスケードのAMPKの抑制が同定された。
【0050】
(比較例1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構の検討3
(1)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構として、アポトーシスの関連を、Hoechst 33342染色により確認した。
肝癌細胞株(Huh7)を1.0x10
5 cells/ml に調整後、細胞培養用6wellプレートに2 ml/wellで播種した。なお、培養液は実施例1と同様であり、37℃で 5% CO
2下に培養した。
培養開始12時間後に培養液を吸引した。培養液にDMSOで溶解した非競合的AMPAアンタゴニストであるGYKI 52466、CFM-2を表2に示す濃度で溶解させたものを2 ml/well注入した。
【表2】
なお、DMSOを薬剤と同量注入したものを薬剤コントロールとし、薬剤・DMSOともに注入していないものをネガティブコントロールとした。ポジティブコントロールは、培養開始12時間後に培養液交換のみ行い、観察6時間前に1mM H
2O
2(Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan)培養液を注入したものとした。
アンタゴニストを注入した48時間後にHoechst 33342, trichloride, trihydrate (Lonza Walkersville, Inc., MD)を5μlずつ各wellに注入した。
Hoechst 33342を注入した10分後に、倒立蛍光顕微鏡 (OLYMPUS 971 :Olympus Optical Co. Ltd, Japan)を使用しUV励起し観察を行い、顕微鏡デジタルカメラ (DP70 :Olympus Optical Co. Ltd, Japan)にて写真撮影をし、各々の条件で3視野あたりの陽性細胞数(%)を評価し比較した。
【0051】
結果を、
図11に示す。陽性細胞数(%)の値は各々の条件の写真部分に記載のとおりである。各薬剤処理群(CFM-2、GYKI 52466)と薬剤コントロール(CFM con.、GYKI con.)との間、および、薬剤コントロール(CFM con.、GYKI con.)とネガティブコントロール(Nega. con.)の間には、有意差が認められなかった。
【0052】
(2)AMPA型受容体アンタゴニストによる肝癌細胞株の増殖抑制機構として、アポトーシスの関連を、Annexin V/PI染色により確認した。
肝癌細胞株(Huh7)を1.0x10
5 cells/ml に調整後、細胞培養用6wellプレートに2 ml/wellで播種した。なお培養液は上述の(1)と同様とし、37℃で 5% CO
2下に培養した。
培養開始12時間後に培養液を吸引した。培養液にDMSOで溶解した非競合的AMPAアンタゴニストであるGYKI 52466を以下の表3に示す濃度で溶解させたものを2ml/well注入した。
【表3】
なお、薬剤コントロールはDMSOを薬剤と同量注入したもの、ネガティブコントロールは薬剤・DMSOともに注入していないものとした。ポジティブコントロールは、培養開始12時間後に培養液交換のみ行い、FACS処置6時間前にH
2O
2を1 mMとなるように注入したものとした。
【0053】
アンタゴニストGYKI 52466を注入した48時間後にflow cytometryによるapoptosis細胞の測定を行った。
薬剤注入し、各時間培養後、それぞれのwellより培養液を採取。wellをDPBSにて2回洗浄後、0.05% Trypsin-EDTA (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) にて3分間 37℃、5% CO
2下で処理し、wellに培養液を添加し細胞を採取した。1500rpm、10分間遠心後、DBPS + 1% heat-inactivated FBSにて洗浄し1500rpm、10分間遠心した。
以下の処置にはFITC Annexin V Apoptosis Detection Kit (BD pharmingen, San Jose, Calif)を使用した。Binding buffer(10mM Hepes/NaOH(pH7.4), 0.14M NaCl, 2.5mM CaCl2)にてペレットを溶解し、1.0×10
6 cells/mlに調整した。
100μl(1.0×10
5 cells)の細胞溶解液に対し、fluorescein 5(6)-isothiocyanate(FITC) / annexin V 5μl、propidium iodide(PI) 5μl注入した。
注入後、暗所にて15分間 incubateした。
測定はFACS Calibur Flow Cytometer (BD Biosciences, San Jose, Calif)を使用し、解析はFlowJo software (Tree Star Inc., Ashland, Ore)にて行った。
【0054】
結果を
図12と表4に示す。
【表4】
薬剤処理群と薬剤コントロールとの間、薬剤コントロールとネガティブコントロールとの間ともに、アポトーシス、ネクローシス、アポトーシスとネクローシスの合計のいずれも、有意差が認められなかった。
以上の結果から、AMPA受容体アンタゴニストは、肝癌細胞におけるアポトーシスを誘導しないことが示された。
【0055】
(参考例4)AIH患者血清中における抗GluR4抗体の測定
本参考例では、健常者群28例、及びAIH患者群39例の血清について、血清中の抗GluR4抗体価を測定し、各群における抗GluR4抗体価の傾向を確認した。
Protein Detector ELISA Kit (Kirkegaartd & Perry Laboratories)を使用し、下記の如く、間接ELISA法にて血清中anti-GluR IgGを測定した。
96-well C-bottom microtiter plates (Thermo Scientific)を使用し、1μg/μlのリコンビナントGluR4 (H00002893-P01, Abnova) proteinを各wellそれぞれ100μlずつ注入し、室温で1.5時間インキュベーションしてコーティングを行った。
1% bovine-serum albumin (BSA)のPBSを300μlずつ注入し、室温で30分間ブロッキングした。PBS (1% BSA)にて100倍希釈したAIH患者血清を100μl注入し、室温で1時間インキュベーションした。
洗浄後、PBS (1% BSA)にて1μg/mlに希釈したHRP標識anti-Human IgGを100μlずつ注入し、室温で、1時間インキュベーションした。
さらに洗浄後に、発色基質 (ABTS: 2, 2’-azino-di-(3-ethylbenzthiazoline-6-sulfonate))を使用して反応させて発色させ、ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、405 nmの吸光度を測定した。
【0056】
AIH患者の血清中抗GluR4抗体価は、健常者に比し有意に高いことがわかった(
図13)。また、AIH患者血清中抗GluR4抗体価と血清中IgG値に相関は認められず、本参考例のELISAで測定された抗GluR4抗体価に関して、IgGによる非特異的な反応の可能性は否定された(
図14)。
【0057】
またAIH患者についてプロトロンビン活性(PT)を測定し、抗GluR4抗体価との相関を確認した。プロトロンビン活性はQuick一段法(ACL TOP:三菱化学ヤトロン社)を使用し測定した。
【0058】
その結果、AIH患者39例において、抗GluR4抗体価が高い症例ほどPTが低下していた。なお、IgG値とPT値に相関は認めなかった。
【0059】
(実施例4)血清中IgGによる肝癌培養細胞の増殖抑制効果の検討
肝癌培養細胞株Huh7を5.0x10
4 cell/ml に調整後、細胞培養用96 wellプレートに100 μl/wellで播種した。なお、培養液はDMEM (Invitrogen Co., Carlsbad, CA) + 10% heat-inactivated FBS (Vitromex, Vilshofen, Germany) + 1% non-essential amino acid (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% sodium pyruvate (Sigma-Aldrich Co., MO) + 1% penicillin/streptomycin solution (Sigma-Aldrich Co., MO)とし、37℃で5% CO
2下に培養した。
培養開始12時間後に、自己免疫性肝炎患者15例において参考例1と同様の方法で血清中から抽出したIgG 0.5 μgを各wellに添加した(5 μg/ml)。コントロールには、IgGの溶出液のみを同量添加した。
培養開始60時間後に、 3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide (MTT:5 mg/ml in phosphate buffered saline) 溶液10 μlを各wellに添加した。MTT添加4時間後に培養液を除去し、DMSO 100 μlを各wellに添加した。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、570 nmの吸光度を測定し、各条件における吸光度をコントロールに対する比で表した。
【0060】
GluR4に対する抗体価の高い症例の血清中から抽出したIgGには、抗GluR4抗体がより多く含まれていると考えられる。抗GluR4抗体価の高い症例の血清から抽出したIgGほど、肝癌細胞株Huh7に対する増殖抑制効果が強いことがわかった(
図16)。よって、抗GluR4抗体が生体内で腫瘍免疫機構に関係していると考えられた。
また血清IgGによる細胞増殖抑制効果が高い症例ほど、有意にPTが低下しており、抗体価が高い症例ほど有意にPTが低下していた。PTは自己免疫性肝炎の重症度を反映している。よって、自己免疫性肝炎では、血清中に存在する抗GluR4抗体が肝細胞増殖、つまり肝再生を抑制することで重症度を悪化させていると考えられる(
図17)。
【0061】
(実施例5) 肺癌患者における血漿中抗GluR4抗体と予後の関連の検討
外科的切除術を施行された非小細胞肺癌92例において、血漿中抗GluR4抗体価と予後との関連を検討した。なお、88例で根治的切除が行われ、4例では非根治的切除であった。よって、術後再発については88例、患者死亡については92例で検討した。
1 μg/mlのGluR4(GRIA4)(Human) Recombinant Protein (H00002893-P01: Avnova, Taipei, Taiwan) を96穴マイクロプレートの各wellに100 μl加えて1時間静置し抗原固相化した。1% bovine serum albuminを300 μl加えてブロッキングした。100倍に希釈した血漿100 μlを添加し1時間反応させた。洗浄後、1 μg/mlのHRP標識抗ヒトIgG抗体を100 μl 添加し1時間反応させた。洗浄後、 2,2‘-azino-bis[3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonateを100 μl 添加し十分反応させた。ELISAリーダー (Model 680 Microplate Reader: Bio-Rad Laboratories Ltd., Tokyo, Japan) で、405 nmの吸光度を測定した。
【0062】
手術時のステージ別における術前血漿中抗GluR4抗体値を、
図18に示す。
88例において術後再発率と血漿中抗GluR4抗体価の関連を検討した。血漿中抗GluR4抗体価により、中央値(OD
405nm:0.270)で低、高の2群に分けて検討した結果を、
図19に示し、血漿中抗GluR4抗体価により、低(OD
405nm < 0.237)、中(0.237 ≦ OD
405nm < 0.345)、高値群(0.345 ≦ OD
405nm)の3群に分けて検討した結果を、
図20に示す。
92例において術後生存率と血漿中抗GluR4抗体価の関連を検討した。血漿中抗GluR4抗体価により、中央値(OD
405nm:0.270)で低、高の2群に分けて検討した結果を、
図21に示し、血漿中抗GluR4抗体価により、低(OD
405nm < 0.237)、中(0.237 ≦ OD
405nm < 0.345)、高値群(0.345 ≦ OD
405nm)の3群に分けて検討した結果を
図22に示す。
【0063】
88例における再発率の検討では、2群間比較において高値群と低値群でそれぞれ、1年再発率が9%と34%、2年再発率は23%と51%であった。また3群間の検討では、高値群、中値群、低値群でそれぞれ1年再発率が7%、37%、22%であり、2年再発率は19%、48%、46%であった。同様に、92例における累積生存率の2群間(高値群、低値群)の検討では、1年で100%と96%、2年で100%と75%であり、3群間(高値群、中値群、低値群)検討で1年累積生存率が100%、94%、100%、2年累積生存率が100%、72%、89%であった。以上より、血漿中抗GluR4抗体価が高い症例では、術後再発率が低く、患者死亡数も少なかった。よって、血中抗GluR4抗体価は、非小細胞肺癌を代表とする悪性腫瘍の予後予測マーカーとして有用であると考えられる。