(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている保護素子において、携帯電話やノートパソコンのような電流容量が比較的低い用途に用いるために、可溶導体(ヒューズ)は、最大でも15A程度の電流容量を有している。リチウムイオン二次電池の用途は、近年拡大しており、より大電流の用途、例えば電動ドライバ等の電動工具や、ハイブリッドカー、電気自動車、電動アシスト自転車等の輸送機器に採用が検討され、一部採用が開始されている。これらの用途において、特に起動時等には、数10A〜100Aを超えるような大電流が流れる場合がある。このような大電流容量に対応した保護素子の実現が望まれている。
【0007】
この種の大電流に対応する保護素子100としては、
図11に示すように、第1、第2の外部電極101,102と、第1、第2の外部電極101,102間に配設された絶縁基板103と、第1、第2の外部電極101,102間にわたって接続されるとともに絶縁基板103の表面に形成された表面電極104及び一対のサイド電極105a,105bに支持された可溶導体106とを備えるものが提案されている。
【0008】
保護素子100は、第1、第2の外部電極101,102が外部回路に接続されることにより当該外部回路の電流経路に組み込まれるとともに、可溶導体106が当該電流経路の一部を構成し、定格を超える過電流が流れると可溶導体106が自己発熱によって溶断することにより当該電流経路を遮断することができる。
【0009】
また、保護素子100は、絶縁基板103に通電されることにより発熱する発熱体107が形成されている。発熱体107は、WやMo、Ru等の高融点金属によって形成され、ガラス等の絶縁層108によって被覆されている。表面電極104は、発熱体107の一端と電気的に接続されるとともに、絶縁層108の表面上に形成され、発熱体107と重畳される。また、発熱体107は、図示しない発熱体電極と接続され、発熱体電極を介して外部回路と接続され、通電が制御されている。保護素子100は、過電流状態により溶断させる場合以外にも、バッテリセルの過電圧状態を検出して、抵抗体で形成された発熱体107に電流を流して、その発熱によって可溶導体106を切断する。
【0010】
保護素子100は、大電流に対応するために、可溶導体106の断面積が増大され低抵抗化が図られている。ここで、大電流に対応するために断面積を増大させると、発熱体107による加熱溶断に相当の時間を要し、また、溶断時の可溶導体106の溶融量が多くなるため、可溶導体を安定して溶断させる必要も生じる。このため、保護素子100は、絶縁基板103の表面の表面電極104の外側に、離間してサイド電極105a,105bが設けられている。サイド電極105a,105bは、可溶導体106がハンダ接続され、発熱体107が発熱した際には、発熱体107の熱を効率よく可溶導体106に伝え、速やかに加熱、溶断させる。また、サイド電極105a,105bは、可溶導体106が溶融したときには、ぬれ性によって、溶融導体の一部を、表面電極104や第1、第2の外部電極101,102と離間して保持する。これにより、保護素子100は、第1及び第2の外部電極101,102間の電流経路上にある可溶導体106を確実に溶断することができる。
【0011】
しかし、保護素子100は、絶縁基板103の限られた面内スペースに表面電極104及び一対のサイド電極105a,105bを配置しているため、表面電極104と一対のサイド電極105a,105bとの距離も狭小化され、可溶導体106の溶断後において、溶融導体が各電極間を連続し、絶縁抵抗を確保することができない恐れがある。
【0012】
また、絶縁基板103は耐熱衝撃性に優れるとともに熱伝導性にも優れるセラミック基板が好適に用いられるが、この場合、可溶導体106と可溶導体106が接続された絶縁基板103との熱膨張係数の差が大きく、高温環境と低温環境に繰り返し置かれると、表面電極104及び一対のサイド電極105a,105b間において可溶導体106に熱膨張係数差に基づく歪みが蓄積されて歪みが生じ、その結果、抵抗値にばらつきが生じ、保護素子100の高定格を維持することが困難となる恐れもある。さらに、可溶導体106と絶縁基板103との熱膨張係数差に起因する歪みにより可溶導体106やサイド電極105a,105bにクラックや剥離等が生じる恐れもあった。このような傾向は、保護素子100の定格を向上させるために可溶導体106を大型化にするほど顕著に現れる。
【0013】
そこで、本発明は、大電流に対応するために大型の可溶導体を用いた場合にも、溶断後における絶縁抵抗を確保し、かつ可溶導体の変形も抑えることができる保護素子、及びこれを用いたバッテリパックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明に係る保護素子は、第1、第2の外部電極と、上記第1、第2の外部電極間に配設された絶縁基板と、上記絶縁基板の表面に形成された表面電極と、上記第1、第2の外部電極間にわたって接続された可溶導体と
、外筐体とを備え、上記可溶導体は、上記絶縁基板の表面上において、上記表面電極のみに支持され
、上記第1、第2の外部電極は、上記外筐体に支持されているものである。
【0015】
また、本発明に係るバッテリパックは、1つ以上のバッテリセルと、上記バッテリセルに流れる電流を遮断するように接続された保護素子と、上記バッテリセルそれぞれの電圧値を検出して上記保護素子を加熱する電流を制御する電流制御素子とを備え、上記保護素子は、第1、第2の外部電極と、上記第1、第2の外部電極間に配設された絶縁基板と、上記絶縁基板の表面に形成された表面電極と、上記第1、第2の外部電極間にわたって接続された可溶導体と
、外筐体とを備え、上記可溶導体は、上記絶縁基板の表面上において、上記表面電極のみに支持され
、上記第1、第2の外部電極は、上記外筐体に支持されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保護素子は、可溶導体が絶縁基板上において表面電極にのみ支持されているため、表面電極の寸法や配置の設計の自由度が高く第1、第2の外部電極との距離を容易に調整することができる。したがって、保護素子は、表面電極と第1、第2の外部電極との距離を十分確保することにより、溶融導体が絶縁基板の表面を伝って第1、第2の外部電極と連続することを防止でき、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明が適用された保護素子、及びこれを用いたバッテリパックについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0019】
[保護素子:凝集タイプ]
本発明が適用された保護素子1は、
図1に示すように、第1及び第2の外部電極2,3と、第1、第2の外部電極2,3間に配設された絶縁基板4と、絶縁基板4の表面4aに形成された表面電極5と、第1、第2の外部電極2,3間にわたって接続された可溶導体6とを備える。そして、保護素子1は、可溶導体6が、絶縁基板4の表面4a上において、表面電極5のみに支持されている。
【0020】
保護素子1は、第1、第2の外部電極2,3が外部回路の接続端子と接続されることにより当該外部回路に組み込まれるとともに、可溶導体6が当該外部回路の電流経路の一部を構成し、定格を超える過電流によって溶断することにより電流経路を遮断するものである(
図2)。
【0021】
第1及び第2の外部電極2,3は、保護素子1を外部回路に接続する接続端子であり、それぞれ保護素子1の内部でハンダ等の接続材料7を介して可溶導体6と接続され、可溶導体6を介して接続されている。第1及び第2の外部電極2,3は、保護素子1の外筐体10に支持されることにより保護素子1の内外にわたって配設されている。なお、第1及び第2の外部電極2,3は、絶縁基板4と隣接するエポキシ樹脂等からなる絶縁素材に形成するようにしてもよい。
【0022】
保護素子1は、第1、第2の外部電極2,3が外筐体10に支持されることにより、筐体内に臨まされるとともに、外筐体10の中央のスペースに絶縁基板4が配設され、これにより第1、第2の外部電極2,3と絶縁基板4とが隣接されている。
【0023】
外筐体10は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド:Polyphenylenesulfide)等の耐熱性に優れるエンジニアリングプラスチックを用いて形成することができる。また、外筐体10は、所定の形状に成形する際に、インサート成型等により第1、第2の外部電極2,3を一体成型してもよい。
【0024】
絶縁基板4は、例えば、アルミナ、ガラスセラミックス、ムライト、ジルコニアなどの絶縁性を有する部材によって形成される。その他、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等のプリント配線基板に用いられる材料を用いてもよいが、ヒューズ溶断時の温度に留意する必要がある。
【0025】
絶縁基板4の表面4aには表面電極5が形成されている。表面電極5は、ハンダ等の接続材料7を介して、第1、第2の外部電極2,3間を接続する可溶導体6と接続されている。表面電極5は、第1、第2の外部電極2,3間にわたって接続された可溶導体6を支持する支持電極である。また、表面電極5は、可溶導体6が過電流による自己発熱により溶融すると、溶融導体6aを凝集し、第1、第2の外部電極2,3間の電流経路を遮断する。
【0026】
なお、表面電極5は、可溶導体6の溶断後における絶縁抵抗を維持するために、第1、第2の外部電極2,3との十分な距離を隔てて設けることが好ましい。
図1に示すように、第1、第2の外部電極2,3が外筐体10内において対向されている場合、表面電極5は、絶縁基板4の略中央に配設することで、第1、第2の外部電極2,3とそれぞれ所定の距離を隔てて溶融導体6aを保持し、また絶縁基板4の表面4aに飛散した溶融導体6aによる短絡のリスクを低減することができる。
【0027】
また、保護素子1は、絶縁基板4の表面4aにサイド電極を設けず、表面電極5でのみ可溶導体6を支持しているため、表面電極5の寸法や配置の自由度が高く、可溶導体6の溶断後における短絡のリスクを考慮した設計の自由度が高い。したがって、保護素子1は、表面電極5と第1、第2の外部電極2,3との距離を十分確保することにより、溶融導体6aが絶縁基板4の表面4aを伝って第1、第2の外部電極2,3と連続することを防止でき、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【0028】
可溶導体6は、過電流状態によって溶融するものであり、したがって、溶断する導電性の材料であればよく、例えば、SnAgCu系のPbフリーハンダのほか、BiPbSn合金、BiPb合金、BiSn合金、SnPb合金、PbIn合金、ZnAl合金、InSn合金、PbAgSn合金等を用いることができる。なお、可溶導体6は、Ag若しくはCu又はAg若しくはCuを主成分とする金属からなる高融点金属と、ハンダ又はSnを主成分とするPbフリーハンダ等の低融点金属との積層体であってもよい。
【0029】
このような可溶導体6は、低融点金属箔に、高融点金属層をメッキ技術を用いて成膜することによって形成することができ、あるいは、他の周知の積層技術、膜形成技術を用いて形成することもできる。なお、可溶導体6は、高融点金属層を内層とし、低融点金属層を外層として構成してもよく、また低融点金属層と高融点金属層とが交互に積層された4層以上の多層構造とするなど、様々な構成によって形成することができる。
【0030】
また、可溶導体6は、所定の定格電流が流れている間は、自己発熱によっても溶断することがない。そして、定格よりも高い値の電流が流れると、自己発熱によって溶融し、第1、第2の電極2,3間の電流経路を遮断する。このとき、可溶導体6は、溶融した低融点金属が高融点金属を浸食することにより、高融点金属が溶融温度よりも低い温度で溶融する。したがって、可溶導体6は、低融点金属による高融点金属の浸食作用を利用して短時間で溶断することができる。
【0031】
また、可溶導体6は、内層となる低融点金属に高融点金属が積層されて構成することにより、溶断温度を従来の高融点金属からなるチップヒューズ等よりも大幅に低減することができる。したがって、可溶導体6は、同一サイズのチップヒューズ等に比して、断面積を大きくでき電流定格を大幅に向上させることができる。また、同じ電流定格をもつ従来のチップヒューズよりも小型化、薄型化を図ることができ、速溶断性に優れる。
【0032】
また、可溶導体6は、保護素子1が組み込まれた電気系統に異常に高い電圧が瞬間的に印加されるサージへの耐性(耐パルス性)を向上することができる。すなわち、可溶導体6は、例えば100Aの電流が数msec流れたような場合にまで溶断してはならない。この点、極短時間に流れる大電流は導体の表層を流れることから(表皮効果)、可溶導体6は、外層として抵抗値の低いAgメッキ等の高融点金属を設けることにより、サージによって印加された電流を流しやすく、自己発熱による溶断を防止することができる。したがって、可溶導体6は、高融点金属で被覆することにより、ハンダ合金からなるヒューズに比して、大幅にサージに対する耐性を向上させることができる。
【0033】
なお、可溶導体6は、酸化防止、及び溶断時の濡れ性の向上等のため、フラックス(図示せず)が塗布されている。
【0034】
このような構成を有する保護素子1は、可溶導体6が絶縁基板4上において表面電極5にのみ支持されているため、絶縁基板4として耐熱衝撃性に優れるとともに熱伝導性にも優れるセラミック基板を用いた場合等において、高温環境と低温環境に繰り返し置かれた場合にも、可溶導体6に絶縁基板4との熱膨張係数の差に起因する歪みが生じることもなく、外形や寸法の安定性を有する。これにより、保護素子1は、可溶導体6の抵抗値が安定し、高定格を維持することができる。
【0035】
[保護素子の動作]
また、定格を超える過電流が通電されると、保護素子1は、
図2に示すように、可溶導体6が自己発熱により溶融し、可溶導体6と第1、第2の外部電極2,3の一方との間で溶断することにより、外部回路の充放電経路を遮断する。このとき、保護素子1は、可溶導体6が絶縁基板4上において表面電極5にのみ支持されているため、表面電極5の寸法や配置の設計の自由度が高く第1、第2の外部電極2,3との距離を容易に調整することができる。したがって、保護素子1は、表面電極5と第1、第2の外部電極2,3との距離を十分確保することにより、溶融導体6aが絶縁基板4の表面4aを伝って第1、第2の外部電極2,3と連続することを防止でき、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【0036】
[外筐体と可溶導体の熱膨張係数]
なお、保護素子1は、可溶導体6の熱膨張係数と外筐体10の熱膨張係数とが同一又は近似していることが好ましい。例えば、保護素子1は、可溶導体6としてハンダ箔の表面をAgメッキしたもの(熱膨張係数:22ppm/℃)を用い、外筐体10としてガラス繊維含有PPS樹脂(熱膨張係数:20ppm/℃)を用いた場合、熱膨張係数が近似していることから、高温環境と低温環境に繰り返し置かれた場合にも、表面電極5と第1の外部電極2との間、及び表面電極5と第2の外部電極3との間に歪みが蓄積されることなく、可溶導体6の変形等による抵抗値の変動も抑制され、高定格を維持することができる。
【0037】
[発熱体]
また、本発明が適用された保護素子は、
図3に示すように、絶縁基板4に可溶導体6を溶断する発熱体11を設けてもよい。なお、以下の説明において上述した保護素子1と同じ部材については同じ符号を付して、その詳細を省略する。
【0038】
発熱体11が設けられた保護素子12は、例えばバッテリパックに組み込まれると、過電流時における可溶導体6の自己溶断に加え、バッテリセルの過電圧を検知して発熱体11を通電、発熱させ、可溶導体6を溶断させることにより、バッテリパックの充放電経路を遮断することができる。
【0039】
発熱体11は、比較的抵抗値が高く通電すると発熱する導電性を有する部材であって、たとえばW、Mo、Ru等からなる。これらの合金あるいは組成物、化合物の粉状体を樹脂バインダ等と混合してペースト状にしたものを、絶縁基板4の表面4aにスクリーン印刷技術を用いてパターン形成して、焼成する等によって形成する。
【0040】
発熱体11は、絶縁基板4の表面4a上において絶縁層13に被覆されている。絶縁層13上には、表面電極5が積層される。絶縁層13は、発熱体11の保護及び絶縁を図るとともに、発熱体11の熱を効率よく表面電極5及び可溶導体6へ伝えるために設けられ、例えばガラス層からなる。表面電極5は、発熱体11によって加熱されることにより、可溶導体6の溶融導体6aを凝集しやすくする。
【0041】
発熱体11は、一端が表面電極5と接続され、表面電極5を介して、表面電極5上に搭載された可溶導体6と電気的に接続される。また、発熱体11は、他端が図示しない発熱体電極と接続されている。発熱体電極は、絶縁基板4の表面4aに形成されるとともに、裏面4bに形成された第3の外部接続電極15(
図6参照)と接続され、この第3の外部接続電極15を介して外部回路と接続される。そして、保護素子1は、外部回路と接続されることにより、第3の外部接続電極15を介して発熱体11が回路基板に形成された発熱体11への給電経路に組み込まれる。
【0042】
また、
図4に示すように、保護素子12は、発熱体11を絶縁基板4の裏面4bに形成してもよい。発熱体11は、絶縁基板4の裏面4bに形成されるとともに、裏面4b上において絶縁層13に被覆される
【0043】
発熱体11は、一端が図示しない発熱体電極を介して表面電極5及び表面電極5上に搭載された可溶導体6と電気的に接続される。また、発熱体11は、他端が図示しない発熱体電極を介して第3の外部接続電極15と接続される。
【0044】
また、
図5に示すように、保護素子12は、発熱体11を絶縁基板4の内部に形成してもよい。この場合、発熱体11は、ガラス等の絶縁層によって被覆する必要はない。また、発熱体11は、一端が図示しない発熱体電極を介して表面電極5及び表面電極5上に搭載された可溶導体6と電気的に接続される。また、発熱体11は、他端が図示しない発熱体電極を介して第3の外部接続電極15と接続される。
【0045】
[回路構成]
このような保護素子12は、
図6に示すように、例えばリチウムイオン二次電池のバッテリパック30内の回路に組み込まれて用いられる。バッテリパック30は、例えば、合計4個のリチウムイオン二次電池のバッテリセル31〜34からなるバッテリスタック35を有する。
【0046】
バッテリパック30は、バッテリスタック35と、バッテリスタック35の充放電を制御する充放電制御回路40と、バッテリスタック35の異常時に充電を遮断する本発明が適用された保護素子12と、各バッテリセル31〜34の電圧を検出する検出回路36と、検出回路36の検出結果に応じて保護素子12の動作を制御するスイッチ素子となる電流制御素子37とを備える。
【0047】
バッテリスタック35は、過充電及び過放電状態から保護するための制御を要するバッテリセル31〜34が直列接続されたものであり、バッテリパック30の正極端子30a、負極端子30bを介して、着脱可能に充電装置45に接続され、充電装置45からの充電電圧が印加される。充電装置45により充電されたバッテリパック30は、正極端子30a、負極端子30bをバッテリで動作する電子機器に接続することによって、この電子機器を動作させることができる。
【0048】
充放電制御回路40は、バッテリスタック35から充電装置45に流れる電流経路に直列接続された2つの電流制御素子41、42と、これらの電流制御素子41、42の動作を制御する制御部43とを備える。電流制御素子41、42は、たとえば電界効果トランジスタ(以下、FETという。)により構成され、制御部43によりゲート電圧を制御することによって、バッテリスタック35の電流経路の導通と遮断とを制御する。制御部43は、充電装置45から電力供給を受けて動作し、検出回路36による検出結果に応じて、バッテリスタック35が過放電又は過充電であるとき、電流経路を遮断するように、電流制御素子41、42の動作を制御する。
【0049】
保護素子12は、例えば、バッテリスタック35と充放電制御回路40との間の充放電電流経路上に接続され、その動作が電流制御素子37によって制御される。
【0050】
検出回路36は、各バッテリセル31〜34と接続され、各バッテリセル31〜34の電圧値を検出して、各電圧値を充放電制御回路40の制御部43に供給する。また、検出回路36は、いずれか1つのバッテリセル31〜34が過充電電圧又は過放電電圧になったときに電流制御素子37を制御する制御信号を出力する。
【0051】
電流制御素子37は、たとえばFETにより構成され、検出回路36から出力される検出信号によって、バッテリセル31〜34の電圧値が所定の過放電又は過充電状態を超える電圧になったとき、保護素子12を動作させて、バッテリスタック35の充放電電流経路を電流制御素子41、42のスイッチ動作によらず遮断するように制御する。
【0052】
以上のような構成からなるバッテリパック30に用いられる、本発明が適用された保護素子12は、
図7に示すような回路構成を有する。すなわち、保護素子12は、第1の外部電極2がバッテリスタック35側と接続され、第2の外部電極3が正極端子30a側と接続され、これにより可溶導体6がバッテリスタック35の充放電経路上に直列に接続される。また、保護素子12は、発熱体11が発熱体電極及び第3の外部接続電極15を介して電流制御素子37と接続されるとともに、発熱体11がバッテリスタック35の開放端と接続される。これにより、発熱体11は、一端を表面電極5を介して可溶導体6及びバッテリスタック35の一方の開放端と接続され、他端を第3の外部接続電極15を介して電流制御素子37及びバッテリスタック35の他方の開放端と接続され、電流制御素子37によって通電が制御される発熱体11への給電経路が形成される。
【0053】
[保護素子の動作]
バッテリパック30に定格を超える過電流が通電されると、保護素子12は、可溶導体6が自己発熱により溶融し、バッテリパック30の充放電経路を遮断する。
【0054】
また、検出回路36がバッテリセル31〜34のいずれかの異常電圧を検出すると、電流制御素子37へ遮断信号を出力する。すると、電流制御素子37は、発熱体11に通電するよう電流を制御する。保護素子12は、バッテリスタック35から、第1の電極11、可溶導体6及び表面電極5を介して発熱体11に電流が流れ、これにより発熱体11が発熱を開始する。保護素子12は、発熱体11の発熱により可溶導体6が溶断し、バッテリスタック35の充放電経路を遮断する。
【0055】
このとき、過電流時における自己溶断及び過電圧時における発熱体11による溶断のいずれにおいても、保護素子12は、可溶導体6が絶縁基板4上において表面電極5にのみ支持されているため、表面電極5の寸法や配置の設計の自由度が高く第1、第2の外部電極2,3との距離を容易に調整することができる。したがって、保護素子12は、表面電極5と第1、第2の外部電極2,3との距離を十分確保することにより、溶融導体6aが絶縁基板4の表面4aを伝って第1、第2の外部電極2,3と連続することを防止でき、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【0056】
また、保護素子12は、可溶導体6を高融点金属と低融点金属とを含有させて形成することにより、溶融した低融点金属による高融点金属の溶食作用を利用して短時間で溶断することができる。
【0057】
なお、保護素子12は、可溶導体6が溶断することにより、発熱体11への給電経路も遮断されるため、発熱体11の発熱が停止される。
【0058】
本発明に係る保護素子は、リチウムイオン二次電池のバッテリパックに用いる場合に限らず、電気信号による電流経路の遮断を必要とする様々な用途にももちろん応用可能である。
【0059】
[保護素子:吸引タイプ]
また、本発明が適用された保護素子は、
図8に示すように、絶縁基板4に可溶導体6の溶融導体6aを吸引する吸引孔51を設けてもよい。なお、以下の説明において上述した保護素子1と同じ部材については同じ符号を付して、その詳細を省略する。
【0060】
吸引孔51が設けられた保護素子50は、可溶導体6が過電流による自己発熱、あるいは過電圧に伴う発熱体11の発熱により溶融すると、毛管現象によってこの溶融導体6aを吸引孔51内に吸引し、溶融導体6aの体積を減少させる。保護素子50は、大電流用途に対応するために可溶導体6の断面積を増大させることにより、溶融量が増大した場合にも、吸引孔51に吸引させることで、溶融導体6aの体積を減少させることができる。
【0061】
これにより、保護素子50は、可溶導体6を速やかに、かつ確実に溶断することができる。また、保護素子50は、過電流に伴う自己発熱遮断時に生じるアーク放電による溶融導体6aの飛散を軽減し、絶縁抵抗の低下を防止するとともに、可溶導体6の搭載位置の周辺回路への付着による短絡故障を防止することができる。
【0062】
吸引孔51は、内面に導電層52が形成されている。導電層52が形成されることにより、吸引孔51は、溶融導体6aを吸引しやすくすることができる。導電層52は、例えば銅、銀、金、鉄、ニッケル、パラジウム、鉛、錫のいずれか、又はいずれかを主成分とする合金によって形成され、吸引孔51の内面を電解メッキや導電ペーストの印刷等の公知の方法により形成することができる。
【0063】
また、吸引孔51は、絶縁基板4の厚さ方向に貫通する貫通孔として形成されることが好ましい。これにより、吸引孔51は、溶融導体6aを絶縁基板4の裏面4b側まで吸引することができ、より多くの溶融導体6aを吸引し、溶断部位における溶融導体6aの体積を減少させることができる。なお、吸引孔51は、非貫通孔として形成してもよい。
【0064】
また、
図9に示すように、吸引孔51は、絶縁基板4の表面4aに絶縁層13を介して積層された表面電極5の幅方向の中央に設けられる。なお、吸引孔51は、複数設けることで、可溶導体6の溶融導体6aを吸引する経路を増やし、より多くの溶融導体6aを吸引することで、溶断部位における溶融導体6aの体積を減少させるようにしてもよい。ここでは、複数の吸引孔51が直線状に一列に並んで設けられている。
【0065】
また、吸引孔51の内面に設けられた導電層52は、表面電極5と連続されている。したがって、保護素子50は、表面電極5に凝集した溶融導体6aを、導電層52を介して吸引孔51内に導きやすくすることができる。
【0066】
また、絶縁基板4の裏面4bには、吸引孔51の導電層52と接続された裏面電極53が形成されている。
図10に示すように、裏面電極53は、導電層52と連続することにより、可溶導体6が溶融すると、吸引孔51を介して移動した溶融導体6aが凝集する。これにより、保護素子1は、より多くの溶融導体6aを吸引し、溶断部位における溶融導体6aの体積を減少させることができる。
【0067】
なお、保護素子50は、発熱体11を設けずに過電流による可溶導体6の自己発熱溶断のみを行う構成としてもよく、発熱体11を設け、過電流に加えて過電圧に伴う発熱体11の発熱によって可溶導体6が溶断する構成としてもよい。また、保護素子50は、発熱体11を、絶縁基板4の表面4a、裏面4b又は絶縁基板4の内部に設けてもよい。
【0068】
発熱体11は、絶縁基板4の裏面に設ける場合、一端が裏面電極53と連続するとともに、導電層52及び表面電極5を介して可溶導体6と電気的に接続され、他端が図示しない発熱体電極を介して第3の外部接続電極15と接続される。同様に、発熱体11は、絶縁基板4の内部に設ける場合、一端が表面電極5を介して可溶導体6と電気的に接続され、他端が第3の外部接続電極15と接続される。
【0069】
発熱体11を絶縁基板4の裏面4bに形成することにより、保護素子50は、裏面電極53が発熱体11によって加熱されることにより、より多くの溶融導体6aを凝集しやすくなる。したがって、保護素子50は、表面電極5から導電層52を介して裏面電極53へ溶融導体6aを吸引する作用を促進させ、確実に可溶導体6を溶断することができる。
【0070】
また、発熱体11を絶縁基板4の内部に形成することにより、保護素子50は、導電層52を介して表面電極5及び裏面電極53が発熱体11によって加熱されることにより、より多くの溶融導体6aを凝集しやすくなる。したがって、保護素子50は、表面電極5から導電層52を介して裏面電極53へ溶融導体6aを吸引する作用を促進させ、確実に可溶導体6を溶断することができる。
【0071】
なお、発熱体11は、絶縁基板4の表面4b、裏面4b又は内部に形成するいずれの場合においても、吸引孔51の両側に形成することが、表面電極5及び裏面電極53を加熱し、またより多くの溶融導体6aを凝集、吸引するうえで好ましい。
【0072】
また、保護素子50は、吸引孔51内に可溶導体6と同一若しくは類似の材料又は可溶導体6より融点の低い予備ハンダ55や、フラックスを充填してもよい。保護素子50は、発熱体11が発熱したとき、熱伝導に優れる導電層52や表面電極5や裏面電極53が絶縁基板4より先に温度が高くなることによって、予備ハンダ55等が可溶導体6より先に溶融し、溶融導体6aを吸引孔51に呼び込むことができる。これにより、溶融導体6aは、絶縁基板4の表面4aから裏面4bに移動し、姿勢に拘わらず、第1の外部電極2と第2の外部電極3との間の電流経路を確実に遮断することができる。
【0073】
[第1、第2の外部電極と絶縁基板との間のクリアランス]
なお、保護素子1,12,50は、それぞれ外筐体10に支持された第1、第2の外部電極2,3と絶縁基板4との間にクリアランスを設けることが好ましい。保護素子1,12,50は、クリアランスを設けることにより、絶縁基板4と外筐体10との熱膨張係数との違いに起因する歪みを吸収し、素子の破損を防止することができる。また、保護素子12,50は、クリアランスを設けることにより、絶縁基板4と第1、第2の外部電極2,3との間の熱経路を遮断することができ、より効率よく表面電極5から可溶導体6の接続部位に熱を伝え、速やかに可溶導体6を溶断することができる。
【0074】
また、第1、第2の外部電極2,3と絶縁基板4との間にクリアランスを設けることで、第1、第2の外部電極2,3と表面電極5とが同一平面上に並ばないことから、保護素子1は、溶融導体6aが絶縁基板4の表面4aを伝って第1、第2の外部電極2,3と連続することを確実に防止でき、高い絶縁抵抗を維持することができる。
【実施例】
【0075】
次いで、本発明の実施例について説明する。本実施例では、可溶導体が絶縁基板上において表面電極のみに支持された保護素子(実施例:
図1参照)と、可溶導体が絶縁基板上において表面電極及び一対のサイド電極に支持された保護素子(比較例:
図11参照)を用意し、電流遮断時における絶縁性、発熱体の発熱による溶断特性、及び温度サイクル試験による信頼性について評価した。
【0076】
実施例及び比較例に係る保護素子は、いずれも絶縁基板として裏面に発熱体が設けられたセラミック基板(熱膨張係数:7ppm/℃)を用いた。また、第1、第2の外部電極間にわたって支持される可溶導体として、厚さ0.35mm、幅5.4mmのSn‐Ag‐Cu系金属箔(熱膨張係数:22ppm/℃)に厚さ6μmのAgメッキ処理を施したものを用いた。可溶導体と各電極とはハンダによって接続した。また、第1、第2の外部電極は、PPS製の外筐体(熱膨張係数:20ppm/℃)によって支持した。
【0077】
これら実施例及び比較例に係る保護素子に対して、190A、35Vの電流を通電させ、自己発熱によって可溶導体を溶断させた。溶断時間は実施例及び比較例に係る保護素子とも、約5秒であった。溶断後、第1、第2の外部電極間の絶縁抵抗値を測定し、10
6Ω以上の絶縁抵抗が確保されているか確認した。測定結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、実施例に係る保護素子では、全16個のサンプルの全てにおいて10
6Ω以上の絶縁抵抗が確保されている。一方、比較例に係る保護素子では、全8個のサンプル中、3個のサンプルにおいて絶縁抵抗値が10
6Ω未満となった。これは、比較例においては、サイド電極を設けることにより、第1、第2の外部電極、サイド電極及び表面電極の各距離が短く、アーク放電により飛散した溶融導体が連続することにより短絡が生じやすくなったことによる。これより、可溶導体を絶縁基板上において表面電極のみに支持させる構成が、高い絶縁抵抗を維持するために有効であることが分かる。
【0080】
また、実施例及び比較例に係る保護素子に対して、発熱体に通電、発熱させることにより可溶導体を溶断させたところ、実施例及び比較例に係る保護素子のいずれも、30W印加時で溶断時間約10秒、90W印加時で溶断時間約1.5秒であった。すなわち、サイド電極を持たない実施例に係る保護素子は、サイド電極を備えた比較例に係る保護素子と同様に、広い動作電力範囲で迅速に可溶導体を溶断させることができることがわかる。
【0081】
次いで、実施例及び比較例に係る保護素子に対して温度サイクル試験を施し、初期導通抵抗値と温度サイクル試験後の導通抵抗値を測定した。温度サイクル試験の条件は、−40℃、30min⇔100℃、30min、300サイクルである。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示すように、実施例に係る保護素子では、温度サイクル試験後における抵抗値の上昇率が1.4%に止まったのに対し、比較例に係る保護素子は、温度サイクル試験後における抵抗値の上昇率が3.9%と高くなった。
【0084】
これは、比較例に係る可溶導体では、可溶導体が絶縁基板上においてサイド電極及び表面電極の複数個所で固定されているため、温度サイクル試験により、絶縁基板と可溶導体との熱膨張係数差による応力が繰り返し発生すると、可溶導体を絶縁基板に固定するサイド電極と表面電極との間に歪みとして現れたことによる。このため、比較例に係る保護素子では、可溶導体に生じた変形により抵抗値が変動し、定格の維持や速溶断性等において信頼性に劣るものとなった。
【0085】
一方、実施例に係る保護素子においては、可溶導体が絶縁基板上において表面電極1か所で固定されているため、歪みの発生が抑えられている。また、実施例に係る保護素子は、第1、第2の外部電極を支持する外筐体と可溶導体のとの熱膨張係数差が小さいことから、第1、第2の外部電極と表面電極との間の歪みは殆ど生じなかった。これにより、可溶導体を絶縁基板上において表面電極のみに支持させる構成を採ることにより、様々な温度環境下に晒された場合においても高定格の維持や速溶断性において信頼性を有することが分かる。