特許第6371154号(P6371154)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケンテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000002
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000003
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000004
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000005
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000006
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000007
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000008
  • 特許6371154-鉄筋構造材 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371154
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】鉄筋構造材
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20180730BHJP
   E04C 5/06 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   E04B5/40 D
   E04C5/06
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-150114(P2014-150114)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-23512(P2016-23512A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010098
【氏名又は名称】ケンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108442
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義孝
(72)【発明者】
【氏名】矢口 滋
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037892(JP,A)
【文献】 実開平03−068222(JP,U)
【文献】 特開2003−268911(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/073506(WO,A1)
【文献】 特開2013−163914(JP,A)
【文献】 特開平10−205041(JP,A)
【文献】 特開平06−306987(JP,A)
【文献】 特開平05−272169(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0185280(US,A1)
【文献】 国際公開第2005/014950(WO,A1)
【文献】 米国特許第05235791(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/40
E04C 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定面積の鉄筋コンクリート構造物の構築に使用する鉄筋構造材において、
前記鉄筋構造材が、前後方向へ延びる両側縁部および前後方向と交差する幅方向へ延びる両端縁部を有する所定面積の板状ベースと、前記板状ベースの上面に配置されて該板状ベースの略全域に延びる金網と、前記金網の上に位置して前後方向へ延びる鉄筋トラスとを備え、
前記鉄筋トラスが、前記金網から上方へ離間して前後方向へ延びる上端筋と、前記金網と前記上端筋との間に位置して前後方向へ延びる一対の下端筋と、前記金網と前記上端筋との間で上下方向へ波状に曲折を繰り返しながら前後方向へ延びる一対の第1および第2ラチス筋とから形成され、
前記鉄筋構造材では、前記第1および第2ラチス筋が前記上端筋に当接して凸状に曲折する上方凸部から前記金網に当接して凹状に曲折する下方凹部に向かって幅方向外方へ末広がりになり、それらラチス筋の上方凸部と前記上端筋とが溶接固定され、それらラチス筋の中間部と前記下端筋とが溶接固定されているとともに、それらラチス筋の下方凹部と前記金網とが溶接固定され、前記板状ベースと前記金網とが接着手段によって固着されていることを特徴とする鉄筋構造材。
【請求項2】
前記金網が、前後方向へ所定寸法離間し、前記板状ベースの上面と並行して幅方向へ延びる複数本の横条と、前記横条の下に位置して幅方向へ所定寸法離間し、前記板状ベースの上面と並行して前後方向へ延びる複数本の縦条とから形成され、前記第1および第2ラチス筋の下方凹部が、前記縦条に溶接固定されている請求項1に記載の鉄筋構造材。
【請求項3】
前記第1および第2ラチス筋の下方凹部が、前記板状ベースの上面と並行するように幅方向外方へ屈曲して前記金網の縦条の2箇所に当接する屈曲部分を有し、前記屈曲部分が、前記縦条の2箇所に溶接固定されている請求項2に記載の鉄筋構造材。
【請求項4】
前記金網の前後方向へ隣接する前記横条が、前記下方凹部の屈曲部分の前後方向両側に位置し、前記下方凹部の屈曲部分が、前後方向へ隣接する前記横条の間に延びる前記縦条の2箇所に溶接固定されている請求項3に記載の鉄筋構造材。
【請求項5】
前記板状ベースが、幅方向へ所定寸法離間して前後方向へ延びる凹部を有し、前記金網の縦条の全体が、前記凹部に納まり、前記金網の横条と前記下方凹部の屈曲部分とが、前記板状ベースの上面に当接しつつ、前記接着手段を介して前記板状ベースの上面に固着され、前記金網の縦条が、前記接着手段を介して前記凹部に固着されている請求項2ないし請求項4いずれかに記載の鉄筋構造材。
【請求項6】
前記接着手段が、所定の接着機能を有して前記金網と前記板状ベースとを固着する発泡ウレタンであり、前記発泡ウレタンが、前記金網の縦横条と前記ラチス筋の屈曲部分とを覆う厚み寸法を有し、前記発泡ウレタンの最上部が、前記屈曲部分よりも上であって前記下端筋よりも下に位置している請求項1ないし請求項6いずれかに記載の鉄筋構造材。
【請求項7】
前記発泡ウレタンが、前記板状ベースの上面に所定厚みの断熱層を形成している請求項6に記載の鉄筋構造材。
【請求項8】
前記発泡ウレタンが、不燃性または難燃性である請求項6または請求項7に記載の鉄筋構造材。
【請求項9】
前記接着手段が、前記金網と前記板状ベースとを固着する接着剤である請求項1ないし請求項5いずれかに記載の鉄筋構造材。
【請求項10】
前記板状ベースが、金属系板状ベース、木質系板状ベース、合成樹脂系板状ベース、無機質系板状ベースのいずれかである請求項1ないし請求項9いずれかに記載の鉄筋構造材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の所定面積の鉄筋コンクリート構造物の構築に使用する鉄筋構造材に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ処理が施された所定面積の鉄板ベースと、鉄板ベースの上面に設置された複数の鉄筋トラスとから形成され、横梁の間に架け渡し、コンクリートを打設して床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の所定面積の鉄筋コンクリート構造物の構築に使用する鉄筋構造材が開示されている(特許文献1参照)。鉄筋トラスは、鉄板ベースの上面から上方へ離間して縦方向へ延びる上端筋と、鉄板ベースと上端筋との間に位置して縦方向へ延びる下端筋と、鉄板ベースと上端筋との間で上下方向へ波状に曲折を繰り返しながら前後方向へ延びるラチス筋とから形成されている。この鉄筋構造材では、ラチス筋の上方凸部が上端筋に当接した状態で上端筋にスポット溶接され、ラチス筋の中間部が下端筋に当接した状態で下端筋にスポット溶接されている。さらに、鉄板ベースと並行するように幅方向外方へ屈曲したラチス筋の下方凹部の屈曲部分が鉄板ベースの上面にスポット溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−170161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示の鉄筋構造材において、ラチス筋の下方凹部の屈曲部分を鉄板ベースにスポット溶接するには、電極と移動機構とを備えた自動溶接機が使用される。自動溶接機による溶接の一例としては、下方凹部の屈曲部分の上方に電極が位置するとともに、鉄板ベースの下面の下方に電極が位置し、屈曲部分の上に向かって電極が下降し、鉄板ベースの下面に向かって電極が上昇し、それら電極によって屈曲部分と鉄板ベースとを押圧しつつ屈曲部分と鉄板ベースとを挟み込むと同時に、それら電極に所定の電流が流れる。電極から流れた電流によってラチス筋の下方凹部の屈曲部分と鉄板ベースとが瞬時に溶融し、それらが溶着する。
【0005】
この鉄筋構造材では、ラチス筋の下方凹部の屈曲部分を溶接する必要から、屈曲部分を溶接可能な鉄板ベースを使用しなければならず、鉄板ベース以外の各種の板状ベースを使用することができない。また、この鉄筋構造材を天井スラブの構築に使用する場合、鉄筋構造材に複数の吊りボルトを設置し、その吊りボルトに化粧合板や石膏ボード、アルミパネル等の天井仕上げ材を取り付けなければならず、天井仕上げ工事が別途必要になり、そのための手間とコストとがかかる。さらに、この鉄筋構造材は、それが鉄板ベースと鉄筋トラスとから形成され、断熱機能が付加されることはないから、鉄筋構造材を使用して構築されたコンクリート構造物に断熱効果を発現させることができない。なお、吊りボルトを利用して天井仕上げ材を取り付けた吊り天井構造では、地震等による揺れが発生したときに天井仕上げ材が落下する天井落下事故が発生する場合がある。
【0006】
本発明の目的は、鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板状ベースを使用することができ、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することで、天井仕上げ工事を省くことができる鉄筋構造材を提供することにある。本発明の他の目的は、断熱機能を備え、鉄筋コンクリート構造物に断熱効果を発現させることができる鉄筋構造材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための本発明の前提は、所定面積の鉄筋コンクリート構造物の構築に使用する鉄筋構造材である。
【0008】
前記前提における本発明の特徴は、鉄筋構造材が、前後方向へ延びる両側縁部および前後方向と交差する幅方向へ延びる両端縁部を有する所定面積の板状ベースと、板状ベースの上面に配置されて板状ベースの略全域に延びる金網と、金網の上に位置して前後方向へ延びる鉄筋トラスとを備え、鉄筋トラスが、金網から上方へ離間して前後方向へ延びる上端筋と、金網と上端筋との間に位置して前後方向へ延びる一対の下端筋と、金網と上端筋との間で上下方向へ波状に曲折を繰り返しながら前後方向へ延びる一対の第1および第2ラチス筋とから形成され、鉄筋構造材では、第1および第2ラチス筋が上端筋に当接して凸状に曲折する上方凸部から金網に当接して凹状に曲折する下方凹部に向かって幅方向外方へ末広がりになり、それらラチス筋の上方凸部と上端筋とが溶接固定され、それらラチス筋の中間部と下端筋とが溶接固定されているとともに、それらラチス筋の下方凹部と金網とが溶接固定され、板状ベースと金網とが接着手段によって固着されていることにある。
【0009】
本発明の一例としては、金網が、前後方向へ所定寸法離間し、板状ベースの上面と並行して幅方向へ延びる複数本の横条と、横条の下に位置して幅方向へ所定寸法離間し、板状ベースの上面と並行して前後方向へ延びる複数本の縦条とから形成され、第1および第2ラチス筋の下方凹部が縦条に溶接固定されている。
【0010】
本発明の他の一例としては、第1および第2ラチス筋の下方凹部が板状ベースの上面と並行するように幅方向外方へ屈曲して金網の縦条の2箇所に当接する屈曲部分を有し、屈曲部分が縦条の2箇所に溶接固定されている。
【0011】
本発明の他の一例としては、金網の前後方向へ隣接する横条が下方凹部の屈曲部分の前後方向両側に位置し、下方凹部の屈曲部分が前後方向へ隣接する横条の間に延びる縦条の2箇所に溶接固定されている。
【0012】
本発明の他の一例としては、板状ベースが幅方向へ所定寸法離間して前後方向へ延びる凹部を有し、金網の縦条の全体が凹部に納まり、金網の横条と下方凹部の屈曲部分とが板状ベースの上面に当接しつつ接着手段を介して板状ベースの上面に固着され、金網の縦条が接着手段を介して凹部に固着されている。
【0013】
本発明の他の一例としては、接着手段が所定の接着機能を有して金網と板状ベースとを固着する発泡ウレタンであり、発泡ウレタンが金網の縦横条とラチス筋の屈曲部分とを覆う厚み寸法を有し、発泡ウレタンの最上部が屈曲部分よりも上であって下端筋よりも下に位置している。
【0014】
本発明の他の一例としては、発泡ウレタンが板状ベースの上面に所定厚みの断熱層を形成している。
【0015】
本発明の他の一例としては、発泡ウレタンが不燃性または難燃性である。
【0016】
本発明の他の一例としては、接着手段が金網と板状ベースとを固着する接着剤である。
【0017】
本発明の他の一例としては、板状ベースが金属系板状ベース、木質系板状ベース、合成樹脂系板状ベース、無機質系板状ベースのいずれかである。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる鉄筋構造材によれば、ラチス筋の下方凹部と金網とが溶接固定され、金網と板状ベースとが接着手段によって固着されているから、ラチス筋の下方凹部を板状ベースに溶接する必要はなく、鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板状ベースを使用することができ、その板状ベースを天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。なお、ラチス筋の下方凹部を鉄板ベースの上面に直接溶接すると、溶接時の熱の作用で、鉄板ベースの上面のみならず、鉄板ベースの下面にも溶接による複数の痕が発生し、湿気や結露によってそれら溶接痕に錆が容易に発生するが、この鉄筋構造材は、ラチス筋の下方凹部が板状ベースに溶接されておらず、板状ベースに溶接痕が発生することがなく、板状ベースにおける錆の発生を防ぐことができる。鉄筋構造材は、板状ベースの上面にコンクリートが打設され、鉄筋コンクリート構造物が作られた場合、金網に接着手段によって固着された板状ベースがコンクリートと一体になるから、吊りボルトを利用して天井仕上げ材を取り付けた吊り天井構造と比較し、地震等による揺れが発生したとしても、天井落下事故が発生しない鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0019】
金網が幅方向へ延びる複数本の横条と前後方向へ延びる複数本の縦条とから形成され、第1および第2ラチス筋の下方凹部が縦条に溶接固定されている鉄筋構造材は、第1および第2ラチス筋の下方凹部が金網の縦条に溶接されるから、下方凹部を板状ベースに溶接する必要はなく、板状ベースとして鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板材を使用することができ、その板材を天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。鉄筋構造材は、ラチス筋の下方凹部が金網の縦条に溶接固定されることで、それらラチス筋を金網に確実に固定することができ、鉄筋トラスと金網との固定が不用意に解除されることはなく、鉄筋構造材に打設されたコンクリートに曲げ引張力や曲げ圧縮力、せん断力が作用したとしても、それらの力によってコンクリートが破損することはなく、鉄筋構造材とコンクリートとによって十分な強度を有する強固な鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0020】
第1および第2ラチス筋の下方凹部が板状ベースの上面と並行するように幅方向外方へ屈曲して金網の縦条の2箇所に当接する屈曲部分を有し、屈曲部分が縦条の2箇所に溶接固定されている鉄筋構造材は、第1および第2ラチス筋の下方凹部の屈曲部分が金網の縦条に溶接されるから、屈曲部分を板状ベースに溶接する必要はなく、板状ベースとして鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板材を使用することができ、その板材を天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。鉄筋構造材は、ラチス筋の下方凹部の屈曲部分が金網の縦条の2箇所に溶接固定されることで、それらラチス筋を金網の縦条に確実に固定することができ、鉄筋トラスと金網の縦条との固定が不用意に解除されることはなく、鉄筋構造材に打設されたコンクリートに曲げ引張力や曲げ圧縮力、せん断力が作用したとしても、それらの力によってコンクリートが破損することはなく、鉄筋構造材とコンクリートとによって十分な強度を有する強固な鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。鉄筋構造材は、ラチス筋の下方凹部の屈曲部分が板状ベースに溶接されておらず、板状ベースに溶接痕が発生することがなく、板状ベースにおける錆の発生を防ぐことができる。鉄筋構造材は、板状ベースの上面にコンクリートが打設され、鉄筋コンクリート構造物が作られた場合、金網に接着手段によって固着された板状ベースがコンクリートと一体になるから、地震等による揺れが発生したとしても、天井落下事故が発生しない鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0021】
金網の前後方向へ隣接する横条が下方凹部の屈曲部分の前後方向両側に位置し、下方凹部の屈曲部分が前後方向へ隣接する横条の間に延びる縦条の2箇所に溶接固定されている鉄筋構造材は、第1および第2ラチス筋の下方凹部の屈曲部分が隣接する横条の間に延びる金網の縦条に溶接されるから、下方凹部の屈曲部分を板状ベースに溶接する必要はなく、板状ベースとして鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板材を使用することができ、その板材を天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。鉄筋構造材は、ラチス筋の下方凹部の屈曲部分が金網の縦条の2箇所に溶接固定されることで、それらラチス筋を金網の縦条に確実に固定することができ、鉄筋トラスと金網との固定が不用意に解除されることはなく、鉄筋構造材に打設されたコンクリートに曲げ引張力や曲げ圧縮力、せん断力が作用したとしても、それらの力によってコンクリートが破損することはなく、鉄筋構造材とコンクリートとによって十分な強度を有する強固な鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0022】
板状ベースが幅方向へ所定寸法離間して前後方向へ延びる凹部を有し、金網の縦条の全体が凹部に納まり、金網の横条と下方凹部の屈曲部分とが板状ベースの上面に当接しつつ接着手段を介して板状ベースの上面に固着され、金網の縦条が接着手段を介して凹部に固着されている鉄筋構造材は、金網の横条と下方凹部の屈曲部分とが板状ベースの上面に当接しつつ接着手段を介して板状ベースの上面に固着されることで、横条と下方凹部の屈曲部分とを板状ベースの上面に確実に固定することができ、金網の縦条が接着手段を介して凹部に固着されることで、縦条を凹部に確実に固定することができ、板状ベースと金網とを強固に連結することができる。
【0023】
接着手段が所定の接着機能を有して金網と板状ベースとを固着する発泡ウレタンであり、発泡ウレタンが金網の縦横条とラチス筋の屈曲部分とを覆う厚み寸法を有し、発泡ウレタンの最上部が屈曲部分よりも上であって下端筋よりも下に位置している鉄筋構造材は、金網と板状ベースとを発泡ウレタンによって固着することで、ラチス筋の下方凹部を板状ベースに溶接する必要はなく、鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板状ベースを使用することができ、その板状ベースを天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、発泡ウレタンの最上部が下端筋よりも下に位置することによって鉄筋構造材にコンクリートを打設したときに、上端筋や下端筋、トラス筋に対するコンクリートの被りを確保することができる。
【0024】
発泡ウレタンが板状ベースの上面に所定厚みの断熱層を形成している鉄筋構造材は、板状ベースの上面に発泡ウレタンによる所定厚みの断熱層が形成されるから、鉄筋構造材が断熱機能を備え、鉄筋構造材を使用して構築された鉄筋コンクリート構造物に断熱効果を付加することができる。鉄筋構造材は、それ自体が断熱機能を有するから、断熱材を別途設置するための断熱材施工工事を省くことができ、断熱材施工工事のための手間やコストを省くことができる。
【0025】
発泡ウレタンに不燃性または難燃性のそれが使用されている鉄筋構造材は、火災のときに発泡ウレタンが燃え広がることはなく、鉄筋構造材を使用して構築された鉄筋コンクリート構造物の品質性能を向上させることができる。
【0026】
接着手段が金網と板状ベースとを固着する接着剤である鉄筋構造材は、金網と板状ベースとを接着剤によって固着することで、ラチス筋の下方凹部を板状ベースに溶接する必要はなく、鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板状ベースを使用することができ、その板状ベースを天井仕上げ材として利用することができる。
【0027】
板状ベースが金属系板状ベース、木質系板状ベース、合成樹脂系板状ベース、無機質系板状ベースのいずれかである鉄筋構造材は、板状ベースとしてそれらのうちのいずれかを使用することができ、それらを天井仕上げ材として利用することができる。鉄筋構造材は、各種の板状ベースを天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】一例として示す鉄筋構造材の斜視図。
図2】発泡ウレタンを充填する以前の状態の鉄筋構造材の斜視図。
図3】発泡ウレタンを充填する以前の状態の鉄筋構造材の上面図。
図4】鉄筋構造材の正面図。
図5】第2係合部の図示を省略した鉄筋構造材の側面図。
図6】発泡ウレタンを充填する以前の状態の他の一例として示す鉄筋構造材の上面図。
図7】他の一例として示す鉄筋構造材の正面図。
図8】第2係合部の図示を省略した他の一例として示す鉄筋構造材の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一例として示す鉄筋構造材10Aの斜視図である図1等の添付の図面を参照し、本発明に係る鉄筋構造材の詳細を説明すると、以下のとおりである。なお、図2は、発泡ウレタン14を充填する以前の状態の鉄筋構造材10Aの斜視図であり、図3は、発泡ウレタン14を充填する以前の状態の鉄筋構造材10Aの上面図である。図4は、鉄筋構造材10Aの正面図であり、図5は、第2係合部20の図示を省略した鉄筋構造材10Aの側面図である。図1,2では、幅方向へ隣接する鉄筋構造材10Aの第1および第2係合部19,20のみを図示し、残余の部位の図示を省略している。図1,2では、前後方向を矢印A、幅方向を矢印Bで示し、上下方向を矢印Cで示す。
【0030】
鉄筋構造材10Aは、所定面積を有する前後方向へ長い板状ベース11と、板状ベース11の上面14に配置された金網12(溶接金網)と、金網12の上に配置された鉄筋トラス13と、発泡ウレタン14(硬質発泡ウレタンフォーム)(接着手段)または接着剤(接着手段)とから形成されている。鉄筋構造材10Aは、所定面積の天井スラブや床スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物(図示せず)の構築に使用される。
【0031】
板状ベース11は、前後方向へ延びる両側縁部15a,15bと、前後方向と交差する幅方向へ延びる両端縁部16a、16bと、上面17および下面18とを有する。板状ベース11には、その下面18に所定のデザイン(図示せず)が印刷(プリント)された鉄板が使用されている。なお、板状ベース11には、鉄板の他に、下面18に所定のデザインが印刷(プリント)されたアルミニウム板やステンレス板等の金属系板状ベース11を使用することができる。
【0032】
板状ベース11には、幅方向へ所定寸法離間して前後方向へ延びる凹部36が形成されている。凹部36は、板状ベース11の上面から下方へ凹む溝であり、その断面形状が半円形に成形されている。凹部36の断面形状に特に限定はなく、半円形の他に、四角形や三角形等であってもよい。図3,4では、板状ベース11に7個の凹部36が作られているが、凹部36の個数に特に限定はなく、板状ベース11には後記する金網12の縦条22の本数と同一の凹部36が作られる。
【0033】
板状ベース11の一方の側縁部15aには、第1係合部19が作られ、他方の側縁部15bには、第2係合部20が作られている。第1係合部19は、板状ベース11の幅方向内側に向かって凹む凹部であり、板状ベース11の一方の側縁部15aを折り曲げることから作られている。第2係合部20は、板状ベース11の幅方向外側に向かって凸となる凸部であり、板状ベース11の他方の側縁部15bを折り曲げることから作られている。
【0034】
各板状ベース11は、一方の板状ベース11の第1係合部19に他方の板状ベース11の第2係合部20を差し込み、それら係合部19,20どうしを互いに係合させることで、各板状ベース11を幅方向へつなげ、複数の板状ベース11を連結した状態で幅方向へ並べることができる。板状ベース11の縦横寸法や厚み寸法、面積に特に制限はなく、縦横寸法や厚み寸法、面積を自由に変えることができる。
【0035】
金網12は、複数本の横条21と複数本の縦条22とから形成され、板状ベース11の略全域に延びている。横条21や縦条22は、鉄を延伸した断面円形の金属棒(鉄棒)から作られている。横条21は、前後方向へ略等間隔離間(所定寸法離間)して並び、板状ベース11の上面14と並行しつつ、金網12の一方の側縁23aと他方の側縁23bとの間で幅方向へ延びている。図2,3では、6本の横条21を図示しているが、横条21の本数に特に制限はなく、横条21の本数を自由に決定することができる。
【0036】
縦条22は、横条21の下に配置され(位置し)、幅方向へ所定寸法離間して並び、板状ベース11の上面と並行しつつ、金網12の一方の端縁24aと他方の端縁24bとの間で前後方向へ延びている。横条21と縦条22とは、横条21が縦条22の上に位置するとともに縦条22が横条21の下に位置した状態でそれら条21,22が互いに直交(交差)し、それら条21,22の交差部25において溶接固定されている。
【0037】
金網12の縦条22は、板状ベース11に形成された凹部36に位置し、その全体が凹部36に納まっている(収容されている)。縦条22の全体が凹部36に納まることで、金網12の横条21が板状ベース11の上面17に当接している。なお、図2,3では、5本の縦条22を図示しているが、縦条22の本数に特に制限はなく、縦条22の本数を自由に決定することができる。
【0038】
それら鉄筋トラス13は、金網12の上に配置されて前後方向へ並行して延びている。金網12に2つの鉄筋トラス13が配置固定されているが、金網12に配置する鉄筋トラス13の数に特に制限はなく、板状ベース11の面積や鉄筋トラス13の大きさ等に応じて金網12に配置する鉄筋トラス13の数を自由に決めることができる。
【0039】
鉄筋トラス13は、1本の上端筋26と2本(一対)の下端筋27と2本(一対)の第1および第2ラチス筋28a,28bとから組み立てられている。上端筋26は、その周面に複数の節(リブ)を有する異形金属棒(異形鉄筋)から作られている。上端筋26は、幅方向に隣接する縦条22の間に位置し、金網12(板状ベース11の上面15)から上方へ所定寸法離間して前後方向へ直状に延びている。各鉄筋トラス13において幅方向へ並ぶ上端筋26の前後方向の長さ寸法は略同一であり、それら上端筋26が並行に並んでいる。
【0040】
それら下端筋27は、その周面に複数の節(リブ)を有する異形金属棒(異形鉄筋)から作られている。下端筋27は、幅方向に隣接する縦条22の間に位置(縦条22から内側へ所定寸法離間して位置)するとともに、それらラチス筋28a,28bの外側に位置し、上端筋26の下方であって上端筋26の幅方向両側に位置している。それら下端筋27は、金網12(板状ベース11の上面15)から上方へ所定寸法離間して前後方向へ直状に延びている。各鉄筋トラス13において幅方向へ並ぶ下端筋27の前後方向の長さ寸法は略同一であり、それら下端筋27が並行して並んでいる。
【0041】
第1および第2ラチス筋28a,28bは、鉄を延伸した鉄棒から作られている。それらラチス筋28a,28bは、幅方向に隣接する縦条22の間に位置(縦条22から内側へ所定寸法離間して位置)するとともに、金網12(板状ベース11の上面15)と上端筋26との間に位置し、上下方向へ波状に曲折(起伏)を繰り返しながら前後方向へ延びている。ラチス筋28a,28bは、上端筋26の側に位置する上方凸部29と、金網12(板状ベース11の上面15)の側に位置する下方凹部31と、上方凸部29および下方凹部31の間において前後方向へ傾斜して延びる中間部30とを有する。
【0042】
各ラチス筋28a,28bの上下方向へ波状に曲折を繰り返す角度は一定であり、単位長さ(たとえば1m)当たりのラチス筋28a,28bの曲折を繰り返す回数は同一である。ラチス筋28a,28bの上下方向へ波状に曲折を繰り返す角度は自由に変えることができ、その角度を調節することで、ラチス筋28a,28bの高さ寸法を調節することができ、ラチス筋28a,28bの上方凸部29どうしの縦方向の離間寸法を調節することができるとともに、ラチス筋28a,28bの下方凹部31どうしの縦方向の離間寸法を調節することができる。
【0043】
第1および第2ラチス筋28a,28bは、上端筋26を挟んで幅方向へ対称型に配置されている。したがって、幅方向に並ぶそれらラチス筋28a,28bの上方凸部29どうしの位置が一致し、中間部30どうしの位置が一致しているとともに、下方凹部31どうしの位置が一致している。それらラチス筋28a,28bは、前後方向に隣接する上方凸部29どうしの離間寸法が等しく、上方凸部29が縦方向へ等間隔で並んでいるとともに、前後方向に隣接する下方凹部31どうしの離間寸法が等しく、下方凹部31が前後方向へ等間隔で並んでいる。
【0044】
第1および第2ラチス筋28a,28bは、図4に示すように、板状ベース11に対して垂直ではなく、板状ベース11に対して所定角度で傾斜し、その上方凸部29から下方凹部31に向かって幅方向外方へ末広がりになっている。それらラチス筋28a,28bの傾斜角度について特に制限はなく、その傾斜角度を自由に変えることができる。それらラチス筋28a,28bの上方凸部29は、凸状に折り曲げられ、上方へ向かって凸となるように曲折している。それら上方凸部29は、上端筋26の周面に当接し、上方凸部29のうちの上端筋26と交差する部分(交差箇所)が上端筋26にスポット溶接によって溶着(固定)されている。
【0045】
第1および第2ラチス筋28a,28bの中間部30は、下端筋27の内側に位置し、中間部30のうちの下端筋27と交差する部分(交差箇所)が下端筋27にスポット溶接によって溶着(固定)されている。それらラチス筋28a,28bの下方凹部31は、凹状に折り曲げられ、下方へ向かって凹となるように曲折しつつ、板状ベース11の上面15と並行するように幅方向外方へ折り曲げられている(幅方向外方へ屈曲している)。下方凹部31は、幅方向外方へ折り曲げられて幅方向へ延びる屈曲部分32を有する。
【0046】
それら下方凹部31の屈曲部分32は、幅方向外方へ向かって凸となるように弧を画き、幅方向へ隣接する金網12の横条21の間に延びる縦条22の上に位置している。屈曲部分32は、金網12の縦条22の2箇所に交差当接し、縦条22の2箇所に交差する交差箇所33が縦条22にスポット溶接によって溶着(固定)されている。屈曲部分32は、縦条22の全体が凹部36に納まることで、板状ベース11の上面17に当接している。
【0047】
鉄筋構造材10Aでは、ラチス筋28a,28bの下方凹部31が幅方向外方へ折り曲げられておらず、下方凹部31に屈曲部分32が作られていなくてもよい。この場合、ラチス筋28a,28bの下方凹部31が幅方向へ隣接する横条21の間に延びる縦条22の上に位置し、下方凹部31が縦条22の1箇所に交差当接し、縦条22の1箇所に交差する下方凹部31の交差箇所が縦条22にスポット溶接によって溶着(固定)される。
【0048】
上端筋26や下端筋27、ラチス筋28a,28bは、それらの太さについて特に制限はなく、構築する床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物の大きさや鉄筋コンクリート構造物に必要な強度に合わせて上端筋26や下端筋27、ラチス筋28a,28bの太さを自由に変えることができる。上端筋26や下端筋27、ラチス筋28a,28bは鉄から作られているが、鉄以外の金属から作ることもできる。また、上端筋26や下端筋27、ラチス筋28a,28bが鉄から作られている場合は、それらにメッキ等の防錆処理が施されていてもよい。
【0049】
上端筋26とラチス筋28a,28bの上方凸部29とのスポット溶接や下端筋27とラチス筋28a,28bの中間部30とのスポット溶接では、図示はしていないが、電極と移動機構とを備えた自動溶接機が使用される。自動溶接機によるスポット溶接の一例は、上端筋26およびラチス筋28a,28bの上方凸部29を各電極で押圧し、下端筋27およびラチス筋28a,28bの中間部30を各電極で押圧しつつ、それら電極で上端筋26と上方凸部29とを挟み込むとともに、それら電極で下端筋27と中間部30とを挟み込み、それら電極に所定の電流を流す(所定の電圧を印可する)。
【0050】
それら電極から流れた電流は、上端筋26とラチス筋28a,28bの上方凸部29とに流れ、上端筋26および上方凸部29を加熱溶融するとともに、下端筋27とラチス筋28a,28bの中間部30とに流れ、下端筋27および中間部30を加熱溶融する。次に、それら電極が上端筋26および上方凸部29や下端筋27および中間部30から離間し、上端筋26および上方凸部29や下端筋27および中間部30が自然に冷却され、上端筋26と上方凸部29とが溶着するとともに、下端筋27と中間部30とが溶着する。上端筋26と上方凸部29とをスポット溶接し、下端筋27と中間部30とをスポット溶接することで、鉄筋トラス13が作られる。
【0051】
ラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32と金網12の縦条22との自動溶接機によるスポット溶接による溶接の一例は、屈曲部分32および縦条22を各電極で押圧しつつ、それら電極で屈曲部分32と縦条22とを挟み込み、それら電極に所定の電流を流す(所定の電圧を印可する)。それら電極から流れた電流は、屈曲部分32と縦条22とに流れ、屈曲部分32および縦条22を加熱溶融する。次に、それら電極が屈曲部分32および縦条22から離間し、屈曲部分32および縦条22が自然に冷却され、屈曲部分32と縦条22とが溶着する。
【0052】
ラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32と縦条22とをスポット溶接し、金網12の縦条22とそれら屈曲部分32とを固定(鉄筋トラスト13とを連結)した後、金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11の上面17に載せる。金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11に載せると、金網12の縦条22が板状ベース11の凹部36に納まる(位置する)。
【0053】
金網12の両側部23a,23bが板状ベース11の両側縁部15a,15bに位置し、金網12の両端部24a,24bが板状ベース11の両端縁部16a,16bに位置する。金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11に載せた後、板状ベース11の上面17に発泡ウレタン14を充填する(吹き付ける)。発泡ウレタン14には不燃性または難燃性の製品が使用されているが、不燃性や難燃性を有さない製品を使用することもできる。
【0054】
発泡ウレタン14を板状ベース11の上面17に充填すると、発泡ウレタン14が板状ベース11の凹部36に進入しつつ板状ベース11の上面17の全域を覆い、金網12の横条21および縦条22の略全域を覆うとともに、鉄筋トラスト13のうちのラチス筋28a,28bの屈曲部分32を含む下方凹部31の略全域を覆う。
【0055】
金網12の横条21と下方凹部31の屈曲部分32とが板状ベース11の上面17に当接した状態で、硬化した発泡ウレタン14によって板状ベース11と金網12の横条21と縦条22とが強固に固着される。なお、縦条22は、板状ベース11の凹部36に位置した状態で発泡ウレタン14を介して凹部36に固着されている。硬化した発泡ウレタン14は、金網12の縦横条21,22とラチス筋28a,28bの屈曲部分32とを覆う厚み寸法を有する。
【0056】
発泡ウレタン14は、その最上部35が屈曲部分32よりも上であって下端筋27よりも下に位置している。発泡ウレタン14は、その上下方向の厚み寸法が上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確保可能な寸法に調節されている。発泡ウレタン14が、板状ベース11の上面17に所定厚みの断熱層34を形成している。
【0057】
鉄筋構造材10Aは、発泡ウレタン14の最上部35が下端筋27よりも下に位置するとともに、上下方向の厚み寸法が上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確保可能な寸法に調節されているから、鉄筋構造材10Aにコンクリートを打設したときに、上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確実に確保することができる。
【0058】
なお、金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11に載せた後、図示はしていないが、板状ベース11の上面17に接着剤(接着手段)を流し込んでもよい。接着剤としては、硬化時に体積変化が少ないエポキシ系接着剤とホットメルト接着剤とのいずれかを使用することが好ましいが、他の種類の接着剤であってもよい。接着剤を板状ベース11の上面17に流し込むと、接着剤が板状ベース11の上面17の全域に行き渡るとともに、接着剤が板状ベース11の凹部36に流入する。
【0059】
接着剤を流し込んだ後、接着剤を乾燥硬化させる。接着剤が硬化すると、金網12の横条21と下方凹部31の屈曲部分32とが板状ベース11の上面17に当接した状態で、硬化した接着剤によって板状ベース11と金網12の横条21と縦条22とが強固に固着される。縦条22は、板状ベース11の凹部36に位置した状態で接着剤を介して凹部36に固着される。
【0060】
鉄筋構造材10Aを使用して床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物を構築する一例としては、それら鉄筋構造材10Aの第1係合部19と第2係合部20とを係合させ、それら鉄筋構造材10Aを幅方向へ連結し、鉄筋構造材10Aの集合物を作る。次に、連結した鉄筋構造材10Aの集合物を建築物の横梁の間に配置固定する。鉄筋構造材10Aの集合物とを建築物の横梁の間に固定した後、鉄筋トラスト13の上方から型枠(図示せず)内にコンクリート(図示せず)を打設し、コンクリートを所定期間養生する。コンクリートを鉄筋構造材10Aに打設すると、板状ベース11、金網12、鉄筋トラスト13、発泡ウレタン14がコンクリートに埋没する。コンクリートの養生期間が経過した後、床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物が完成する。
【0061】
鉄筋構造材10Aは、下面18に所定のデザインが印刷(プリント)された板状ベース11を天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。鉄筋構造材10Aは、板状ベース11の上面17にコンクリートが打設され、鉄筋コンクリート構造物が作られた場合、金網12に発泡ウレタン14や接着剤によって固着された板状ベース11がコンクリートと一体になるから、吊りボルトを利用した吊り天井構造と比較し、地震等による揺れが発生したとしても、天井落下事故が発生しない鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0062】
なお、ラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32を板状ベース11(鉄板)の上面17に直接溶接すると、溶接時の熱の作用で、板状ベース11の上面17のみならず、板状ベース11の下面18にも溶接による複数の溶接痕が発生し、湿気や結露によってそれら溶接痕に錆が容易に発生するが、この鉄筋構造材10Aは、下方凹部31の屈曲部分32が板状ベース11に直接溶接されておらず、板状ベース11に溶接痕が発生することがなく、板状ベース11における錆の発生を防ぐことができるとともに、板状ベース11の見端の低下を防ぐことができる。
【0063】
鉄筋構造材10Aは、ラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32が前後方向へ隣接する金網12の横条21の間に延びる縦条22の2箇所に溶接固定されているから、それらラチス筋28a,28bを金網12の縦条22に確実に固定することができ、鉄筋トラス13と金網12の縦条22との固定が不用意に解除されることはなく、鉄筋構造材10Aに打設されたコンクリートに曲げ引張力や曲げ圧縮力、せん断力が作用したとしても、それらの力によってコンクリートが破損することはなく、鉄筋構造材10Aとコンクリートとによって十分な強度を有する強固な鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0064】
鉄筋構造材10Aは、板状ベース11の上面17に硬化した発泡ウレタン14による所定厚みの断熱層34が形成されるから、鉄筋構造材10Aが断熱機能を備え、鉄筋構造材10Aを使用して構築された鉄筋コンクリート構造物に断熱効果を付加することができる。鉄筋構造材10Aは、それ自体が断熱機能を有するから、断熱材を別途設置するための断熱材施工工事を省くことができ、断熱材施工工事のための手間やコストを省くことができる。また、発泡ウレタン14に不燃性または難燃性の製品が使用されているから、火災のときに発泡ウレタン14が燃え広がることはなく、鉄筋構造材10Aを使用して構築された鉄筋コンクリート構造物の品質性能を向上させることができる。
【0065】
図6は、発泡ウレタン14を充填する以前の状態の他の一例として示す鉄筋構造材10Bの上面図であり、図7は、鉄筋構造材10Bの正面図である。図8は、第2係合部20の図示を省略した鉄筋構造材10Bの側面図である。図7では、幅方向へ隣接する鉄筋構造材10Bの第1および第2係合部19,20のみを図示し、残余の部位の図示を省略している。図6,7では、前後方向を矢印A(図6のみ)、幅方向を矢印Bで示し、上下方向(図7のみ)を矢印Cで示す。
【0066】
この鉄筋構造材10Bが図1のそれと異なるところは、板状ベース11に前後方向へ延びる凹部36が形成されていない点にあり、その他の構成は図1の鉄筋構造材10Aのそれらと同一であるから、図1と同一の符号を付すとともに、図1の説明を援用し、この鉄筋構造材10Bにおけるその他の構成の詳細な説明は省略する。
【0067】
鉄筋構造材10Bは、所定面積を有する前後方向へ長い板状ベース11と、板状ベース11の上面17に配置された金網12(溶接金網)と、金網12の上に配置された鉄筋トラス13と、発泡ウレタン14(接着手段)または接着剤(接着手段)とから形成されている。鉄筋構造材10Bに使用される鉄筋トラス13は、図1の鉄筋構造材10Aのそれと同一である。鉄筋構造材10Bは、図1のそれと同様に、所定面積の天井スラブや床スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物を構築するために使用される。
【0068】
板状ベース11は、両側縁部15a,15bおよび両端縁部16a、16bと、フラットな上面17およびフラットな下面18とを有し、前後方向へ延びる凹部36が形成されていない。板状ベース11には、その下面18に所定のデザイン(図示せず)が印刷(プリント)された鉄板やアルミニウム板、ステンレス板等の金属系板状ベース11が使用されている。
【0069】
なお、板状ベース11には、金属系板状ベース11の他に、木質系板状ベース11、合成樹脂系板状ベース11、無機質系板状ベース11のいずれかを使用することができる。木質系板状ベース11には、化粧合板やプリント合板等を使用することができる。合成樹脂系板状ベース11には、各種の合成樹脂から作られた化粧板を使用することができる。無機質系板状ベース11には、石膏ボードやロックウール板等を使用することができる。
【0070】
金網12は、複数本の横条21と複数本の縦条22とから形成され、板状ベース11の略全域に延びている。横条21や縦条22は、図2のそれらと同様に、鉄を延伸した断面円形の金属棒(鉄棒)から作られている。横条21は、前後方向へ所定寸法離間して並び、板状ベース11の上面14と並行しつつ、金網12の一方の側縁23aと他方の側縁23bとの間で幅方向へ延びている。図6では、5本の横条21を図示しているが、横条21の本数に特に制限はなく、横条21の本数を自由に決定することができる。
【0071】
縦条22は、横条21の下に配置され(位置し)、幅方向へ所定寸法離間して並び、板状ベース11の上面と並行しつつ、金網12の一方の端縁24aと他方の端縁24bとの間で、前後方向へ延びている。図6では、7本の縦条22を図示しているが、縦条22の本数に特に制限はなく、縦条22の本数を自由に決定することができる。横条21と縦条22とは、横条21が縦条22の上に位置するとともに縦条22が横条21の下に位置した状態でそれら条21,22が互いに直交(交差)し、それら条21,22の交差部25において溶接固定されている。
【0072】
第1および第2ラチス筋28a,28bの凸状に折り曲げられた上方凸部29は、上端筋26の周面に当接し、上端筋26と交差する部分(交差箇所)が上端筋26にスポット溶接によって溶着(固定)されている。第1および第2ラチス筋28a,28bの中間部30は、下端筋27の内側に位置し、下端筋27と交差する部分(交差箇所)が下端筋27にスポット溶接によって溶着(固定)されている。上端筋26およびラチス筋28a,28bの上方凸部29や下端筋27およびラチス筋28a,28bの中間部30は、図1の鉄筋構造材10Aと同様に、電極と移動機構とを備えた自動溶接機によってスポット溶接される。
【0073】
それらラチス筋28a,28bの下方凹部31は、幅方向外方へ折り曲げられて幅方向へ延びる屈曲部分32を有する。それら屈曲部分32は、幅方向外方へ向かって凸となるように弧を画いている。それら屈曲部分32は、前後方向へ隣接する横条21の間に延びる縦条22の2箇所に交差当接し、縦条22の2箇所に交差する交差箇所33が縦条22にスポット溶接によって溶着(固定)されている。屈曲部分32および縦条22は、図1の鉄筋構造材10Aと同様に、電極と移動機構とを備えた自動溶接機によってスポット溶接される。
【0074】
鉄筋構造材10Bでは、ラチス筋28a,28bの下方凹部31が幅方向外方へ折り曲げられておらず、下方凹部31に屈曲部分32が作られていなくてもよい。この場合、ラチス筋28a,28bの下方凹部31が隣接する横条21の間に延びる縦条22の1箇所に交差当接し、縦条22の1箇所に交差する下方凹部31の交差箇所が縦条22にスポット溶接によって溶着(固定)される。
【0075】
ラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32と縦条22とをスポット溶接し、金網12の縦条22とそれら屈曲部分32とを固定(鉄筋トラスト13とを連結)した後、金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11の上面17に載せる。金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11に載せると、金網12の両側縁23a,23bが板状ベース11の両側縁部15a,15bに位置し、金網12の両端縁24a,24bが板状ベース11の両端縁部16a,16bに位置する。金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11の上面17に載せた後、板状ベース11の上面17に発泡ウレタン14を充填する(吹き付ける)。
【0076】
発泡ウレタン14は、図1の鉄筋構造材10Aに使用したそれと同一である。発泡ウレタン14は、板状ベース11の上面17の略全域を覆い、金網12の横条21および縦条22の略全域を覆うとともに、鉄筋トラスト13のうちのラチス筋28a,28bの屈曲部分32を含む下方凹部31の略全域を覆っている。板状ベース11の上面17には、硬化した発泡ウレタン14による所定厚みの断熱層34が形成されている。
【0077】
鉄筋構造材10Bでは、金網12の縦条22が板状ベース11の上面17に当接した状態で、硬化した発泡ウレタン14によって板状ベース11と金網12とが強固に固着されている。硬化した発泡ウレタン14は、金網12の縦横条21,22とラチス筋28a,28bの屈曲部分32とを覆う厚み寸法を有し、その最上部35が屈曲部分32よりも上であって下端筋27よりも下に位置している。発泡ウレタン14は、その上下方向の厚み寸法が上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確保可能な寸法に調節されている。
【0078】
鉄筋構造材10Bは、発泡ウレタン14の最上部35が下端筋27よりも下に位置するとともに、上下方向の厚み寸法が上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確保可能な寸法に調節されているから、鉄筋構造材10Aにコンクリートを打設したときに、上端筋26や下端筋27、トラス筋28a,28bに対するコンクリートの被りを確実に確保することができる。
【0079】
鉄筋構造材10Bでは、図1の鉄筋構造材10Aと同様に、金網12と鉄筋トラスト13とを板状ベース11に載せた後、板状ベース11の上面17に接着剤(接着手段)を流し込んでもよい。接着剤を利用した場合、金網12の縦条22が板状ベース11の上面17に当接した状態で、硬化した接着剤によって板状ベース11と金網12の横条21と縦条22とが強固に固着される。鉄筋構造材10Bを使用して床スラブや天井スラブ、屋根スラブ等の鉄筋コンクリート構造物を構築する手順は、図1の鉄筋構造材10Aを使用した鉄筋コンクリート構造物の構築手順と同一である。
【0080】
鉄筋構造材10Bは、隣接する横条21の間に延びる縦条22とラチス筋28a,28bの下方凹部31の屈曲部分32とが溶接固定され、板状ベース11と金網12とが発泡ウレタン14(接着手段)または接着剤(接着手段)によって固着されているから、屈曲部分32を板状ベース11に溶接する必要はなく、板状ベース11として鉄板のみならず、他のあらゆる種類の板材(金属系板状ベース11、木質系板状ベース11、合成樹脂系板状ベース11、無機質系板状ベース11のいずれか)を使用することができ、その板材を天井仕上げ材として利用することができる。
【0081】
鉄筋構造材10Bは、各種の板状ベース11を天井仕上げ材として利用することができるから、天井仕上げ材を別途設置するための天井仕上げ工事を省くことができ、天井仕上げ工事のための手間やコストを省くことができる。鉄筋構造材10Bは、板状ベース11の上面17にコンクリートが打設され、鉄筋コンクリート構造物が作られた場合、金網12に発泡ウレタン14や接着剤によって固着された板状ベース11がコンクリートと一体になるから、吊りボルトを利用した吊り天井構造と比較し、地震等による揺れが発生したとしても、天井落下事故が発生しない鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。鉄筋構造材10Bは、下方凹部31の屈曲部分32が板状ベース11に直接溶接されておらず、板状ベース11に溶接痕が発生することがなく、板状ベース11における錆の発生を防ぐことができるとともに、板状ベース11の見端の低下を防ぐことができる。
【0082】
鉄筋構造材10Bは、下方凹部31の屈曲部分32が前後方向へ隣接する横条21の間に延びる縦条22の2箇所に交差当接し、縦条22の2箇所に交差する交差箇所33が縦条22に溶接されているから、それらラチス筋28a,28bを金網12の縦条22に確実に固定することができ、鉄筋トラス13と金網12の縦条22との固定が不用意に解除されることはなく、鉄筋構造材10Bに打設されたコンクリートに曲げ引張力や曲げ圧縮力、せん断力が作用したとしても、それらの力によってコンクリートが破損することはなく、鉄筋構造材10Bとコンクリートとによって十分な強度を有する強固な鉄筋コンクリート構造物を構築することができる。
【0083】
鉄筋構造材10Bは、板状ベース11の上面17に硬化した発泡ウレタン14による所定厚みの断熱層34が形成されるから、鉄筋構造材10Bが断熱機能を備え、鉄筋構造材10Bを使用して構築された鉄筋コンクリート構造物に断熱効果を付加することができる。鉄筋構造材10Bは、それ自体が断熱機能を有するから、断熱材を別途設置するための断熱材施工工事を省くことができ、断熱材施工工事のための手間やコストを省くことができる。また、発泡ウレタン14に不燃性または難燃性の製品が使用されているから、火災のときに発泡ウレタン14が燃え広がることはなく、鉄筋構造材10Bを使用して構築された鉄筋コンクリート構造物の品質性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0084】
10A 鉄筋構造材
10B 鉄筋構造材
11 板状ベース
12 金網
13 鉄筋トラス
14 発泡ウレタン
15a,b 両側縁部
16a,b 両端縁部
17 上面
18 下面
19 第1係合部
20 第2係合部
21 横条
22 縦条
23a,b 端縁
24a,b 側縁
25 交差部
26 上端筋
27 下端筋
28 ラチス筋
29 上方凸部
30 中間部
31 下方凹部
32 屈曲部分
33 交差箇所
34 断熱層
35 最上部
36 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8