(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抵抗力発生手段による抵抗力は、前記ハウジングに対する前記穿刺体の位置が同一である場合、前記前進区間よりも前記後退区間において大である、請求項2に記載の穿刺装置。
前記抵抗力発生手段は、前記ハウジングおよび前記穿刺体のいずれか一方に設けられた凸部と、前記ハウジングおよび前記穿刺体のいずれか一方に設けられ、且つ前記後退区間において前記凸部と摺動する摺動体と、を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の穿刺装置。
前記摺動体は、前記穿刺体の往復動方向において、前記穿刺体が前進端にある際に前記凸部が位置する側の端部が支持され、且つ前記穿刺体が後退端にある際に前記凸部が位置する側の端部が自由端とされており、
前記摺動体には、前記穿刺体が前進端にある際に前記凸部が位置する側から前記穿刺体が後退端にある際に前記凸部が位置する側に向かうほど前記凸部に近づくように傾斜した傾斜面が形成されている、請求項6に記載の穿刺装置。
前記摺動体は、前記穿刺体を後退端において保持するために前記ハウジングと前記穿刺体とを係合させる係合要素を兼ねている、請求項5ないし7のいずれかに記載の穿刺装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、より快適に使用することが可能な穿刺装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって提供される穿刺装置は、ハウジングと、前記ハウジングに対して前進および後退を含む往復動可能に保持され、且つ皮膚に突き刺すための穿刺要素を有する穿刺体と、前記穿刺体を往復動させるための弾性体と、を備える穿刺装置であって、前記穿刺体の前記往復動は、前記穿刺体が皮膚に突き刺さる穿刺点を含む穿刺区間と、この穿刺区間より後に設定された後退区間と、を有しており、前記穿刺区間における大きさよりも前記後退区間における大きさが大となるように、前記穿刺体に対して抵抗力を付与する抵抗力発生手段を備える。
【0009】
好ましくは、前記穿刺体の前記往復動は、前記穿刺区間よりも前に設定された前進区間を有しており、前記抵抗力発生手段による抵抗力は、前記穿刺区間よりも前記前進区間において大である。
【0010】
好ましくは、前記抵抗力発生手段による抵抗力は、前記ハウジングに対する前記穿刺体の位置が同一である場合、前記前進区間よりも前記後退区間において大である。
【0011】
好ましくは、前記抵抗力発生手段による抵抗力は、前記穿刺区間において0である。
【0012】
好ましくは、前記抵抗力発生手段は、前記ハウジングおよび前記穿刺体のいずれか一方に設けられた凸部と、前記ハウジングおよび前記穿刺体のいずれか一方に設けられ、且つ前記後退区間において前記凸部と摺動する摺動体と、を含む。
【0013】
好ましくは、前記摺動体は、前記凸部と向かい合う方向において、前記凸部よりも弾性変形容易に構成されている。
【0014】
好ましくは、前記摺動体は、前記穿刺体の往復動方向において、前記穿刺体が前進端にある際に前記凸部が位置する側の端部が支持され、且つ前記穿刺体が後退端にある際に前記凸部が位置する側の端部が自由端とされており、前記摺動体には、前記穿刺体が前進端にある際に前記凸部が位置する側から前記穿刺体が後退端にある際に前記凸部が位置する側に向かうほど前記凸部に近づくように傾斜した傾斜面が形成されている。
【0015】
好ましくは、前記摺動体は、前記穿刺体を後退端において保持するために前記ハウジングと前記穿刺体とを係合させる係合要素を兼ねている。
【0016】
好ましくは、前記凸部は、前記ハウジングに形成されており、前記摺動体は、前記穿刺体に形成されている。
【0017】
好ましくは、前記ハウジングは、外側フレームと、この外側フレームに収容された内側フレームとを含んでおり、前記凸部は、前記内側フレームに形成されている。
【0018】
さらに好ましくは、前記ハウジングの前記内側フレームの内面には、内方に突出するリブ、すなわちハウジング側突起が形成されており、前記穿刺体には、前記突起に当接することにより、前記ハウジングに対する前記穿刺体のストロークを規制するフランジ、すなわち穿刺体側突起が形成されている。
【0019】
さらに好ましくは、前記穿刺体を前進可能な状態に待機させるセッティングレバーをさらに備えており、前記ハウジングの前記内側フレームには、軸方向に長く延びる溝または
スリットが形成されており、前記セッティングレバー、または前記セッティングレバーを前記内側フレームに取り付ける部材には、前記内側フレームの前記溝または前記スリットに係合することにより、前記ハウジングに対する前記セッティングレバーのストロークを規制するための突起が設けられている。
【0020】
さらに好ましくは、前記ハウジングの前記内側フレームは、前記ハウジングの軸方向と直角である方向に分割された下方パーツ(第一パーツ)と上方パーツ(第二パーツ)とからなり、前記内側フレームの前記溝または前記スリットは、前記第一パーツおよび前記第2パーツのそれぞれに設けられた凹部が結合することにより形成されている。
【発明の効果】
【0021】
前記穿刺体が皮膚に突き刺さる前記穿刺点を含む前記穿刺区間においては、前記穿刺体に付与される抵抗力が比較的小である。このため、前記穿刺要素が皮膚に突き刺さる際の速度が不当に弱められたり、前記穿刺要素が皮膚に突き刺さった後、ただちに前記穿刺体が後退することが過度に減衰されるおそれが少ない。一方、前記穿刺要素が皮膚から抜かれて前記穿刺体が後退する前記後退区間においては、前記穿刺体に付与される抵抗力が比較的大である。このため、前記後退区間において、前記穿刺体は後退しつつその移動が強く減衰されることとなる。これにより、前記後退区間の終期には、前記穿刺体の速度を十分に低下させることが可能であり、前記後退区間における後退の後に、前記穿刺体が前進と後退とを繰り返す不要な振動が生じることを回避することができる。したがって、前記穿刺装置によれば、穿刺による痛感は不可避的に生じるものの、前記穿刺要素が誤って皮膚に突き刺さったままとなることや、穿刺の後に前記穿刺体が激しく往復して不快な振動を使用者が感じることなどを防止することが可能であり、前記穿刺装置をより快適に使用することができる。
【0022】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1〜
図5は、本発明の第一実施形態に基づく穿刺装置を示している。本実施形態のA1は、ハウジング1、穿刺体2、前進ばね31、後退ばね32、カバー4、スペーサ5、穿刺ボタン61、セッティングレバー62、リリースレバー63およびスライド部材64を備えている。
【0026】
図1は、穿刺装置A1を斜め上方から見た斜視図であり、
図2は、穿刺装置A1を斜め下方から見た斜視図である。
図3は、
図1のIII−III線に沿う断面図であり、
図4は、その要部拡大断面図である。
図5は、
図3のV−V線に沿う断面図である。なお、これらの図においては、便宜上、x1方向が前進方向であり、x2が後退方向である。また、z1方向が、鉛直方向上方に向かっており、z2方向が鉛直方向下方に向かっている姿勢を例として説明する。y方向は、x1方向、x2方向およびz1方向、x2方向のいずれに対しても直角な方向である。また、
図3〜
図5においては、穿刺体2が穿刺のための前進が可能に待機した状態、すなわちハウジング1に対して最もx2方向に位置する状態を示している。
【0027】
ハウジング1は、穿刺装置A1の外形の大部分を構成するものであり、x1方向およびx2方向を軸方向とする略円筒形状である。本実施形態においては、ハウジング1は、外側フレーム11および内側フレーム12からなる。外側フレーム11は、ハウジング1の外側部分を構成しており、たとえば樹脂によって一体的に形成された略円筒形状部材である。内側フレーム12は、外側フレーム11の内側において外側フレーム11と同心円状に配置されており、略円筒形状部材である。さらに、本実施形態においては、内側フレーム12は、下方パーツ12aおよび上方パーツ12bの2つのパーツによって構成されている。下方パーツ12aは、内側フレーム12のz2方向側の略半分をなしており、上方パーツ12bは、内側フレーム12のz1方向側の略半分をなしている。下方パーツ12aおよび上方パーツ12bは、いずれもたとえば樹脂によって形成されている。なお、このような構成はハウジング1の一例でありこれに限定されない。たとえば、外側フレーム11および内側フレーム12に分割されること無く、1つの円筒形状部材によって構成されていてもよい。また、内側フレーム12は、下方パーツ12aおよび上方パーツ12bによって構成されることが、後述する機能を果たす観点から好ましいが、これに限定されず、内側フレーム12が一体的に形成されていてもよい。
【0028】
穿刺体2は、ハウジング1内をx1方向への前進およびx2方向への後進を含む往復動可能に保持されている。本実施形態においては、穿刺体2は、ランセット21およびランセットホルダ22からなる。ランセット21は、本発明で言う穿刺要素としての針21aを有しており、ランセットホルダ22に脱着可能に取り付けられている。なお、ランセット21は、一回使用される度に廃却される、いわゆるディスポーザブルタイプとして構成されている。ランセットホルダ22は、ランセット21を保持するものであり、ランセット21が装填される筒状部と、x1方向およびx2方向に長く延びる部分とによって概ね構成されている。ランセットホルダ22は、たとえば樹脂によって一体的に形成されている。
【0029】
前進ばね31および後退ばね32は、本発明で言う弾性体の一例に相当する。前進ばね31および後退ばね32は、いずれもランセットホルダ22の一部が挿通されている。前進ばね31は、穿刺体2をx1方向に前進させるための弾性力を発揮するものであり、後退ばね32は、穿刺体2をx2方向に後退させるための弾性力を発揮するものである。なお、本発明で言う弾性体としては、穿刺体2の往復動を実現する弾性力を発揮するものであればよく、3つ以上のばね、あるいは1つのみのばねによって構成されていてもよい。また、前記弾性体は、いわゆるつるまきばねのみに限定されず、様々な弾性材料によって形成され、弾性力を適切に発揮しうる形状あるいは構造のものを適宜採用できる。
【0030】
カバー4は、ハウジング1に対してx1方向に位置しており、ハウジング1のx1方向開口端を塞ぐように設けられている。カバー4には、貫通孔41が形成されている。貫通孔41は、穿刺体2の針21aを突出させるために設けられている。穿刺装置A1が使用される際には、カバー4の先端面が皮膚に当接させられる。カバー4は、たとえば透明あるいは非透明の樹脂によって形成されている。
【0031】
スペーサ5は、ハウジング1とカバー4との間に介在されており、たとえば樹脂からなる円環状部材である。カバー4は、スペーサ5を介してハウジング1に取り付けられている。そして、ハウジング1に対する5の周方向位置によって、カバー4のハウジング1に対するx1方向への突出量が調整可能となっている。なお、本発明に係る穿刺装置は、カバー4やスペーサ5を備えない構成であってもよい。
【0032】
穿刺ボタン61は、使用者が穿刺体2の針21aを皮膚に穿刺する際に操作するためのものである。穿刺ボタン61は、その一部がハウジング1の外側フレーム11から外部に露出している。本実施形態においては、穿刺ボタン61の露出部分は、ハウジング1の外側フレーム11の長手方向中央よりも若干x1方向寄りに位置している。なお、穿刺装置A1の使用をより容易とするためには、穿刺ボタン61の材質として、ハウジング1の材質と異なる色の材質を採用することが好ましい。
【0033】
セッティングレバー62は、穿刺のためのx1方向への前進が可能な状態に穿刺体2をセットするためのものである。本実施形態においては、セッティングレバー62は、ハウジング1のx2方向端に配置されている。たとえば、カバー4が皮膚に当接した状態でないにも関わらず、使用者が誤って穿刺ボタン61を押してしまい、穿刺体2が前進してしまった際に、再び前進が可能な状態に穿刺体2を引き戻すためにセッティングレバー62は用いられる。
【0034】
スライド部材64は、セッティングレバー62をハウジング1に対してスライド可能に取り付けるためのものである。
【0035】
リリースレバー63は、穿刺が行われた後に、ランセットホルダ22からランセット21を取り外すために用いられる。リリースレバー63は、たとえば樹脂からなり、その一部がハウジング1の外側フレーム11から外部に露出している。本実施形態においては、63は、ハウジング1に対してスライド可能に取り付けられている。カバー4を取り外した状態で、リリースレバー63をx1方向にスライドさせると、ランセットホルダ22からランセット21が取り外され、廃却可能な状態となる。
【0036】
図3および
図4に示すように、ハウジング1の内側フレーム12の上方パーツ12bには、凸部13が形成されている。凸部13は、上方パーツ12bの一部が内方に突出した部分である。また、穿刺体2のランセットホルダ22には、摺動アーム23が形成されている。摺動アーム23は、x1方向端が自由端とされ、x2方向端が固定端とされた片持ち状とされている。本実施形態においては、凸部13と摺動アーム23とによって、本発
明で言う抵抗力発生手段が構成されている。この低効力発生手段は、穿刺体2が往復動する際に、穿刺体2に対して抵抗力を付与するものである。本実施形態においては、後述するように、凸部13と摺動アーム23との摩擦によって生じる摩擦力が前記抵抗力のほぼすべてとなっている。また、摺動アーム23が片持ち状であることにより、摺動アーム23は、凸部13と向かい合う方向であるz1方向およびz2方向において、凸部13よりも弾性変形が容易とされている。なお、本実施形態とは異なり、凸部13に相当する部位を穿刺体2に設け、摺動アーム23に相当する部位をハウジング1に設けてもよい。
【0037】
図4によく表れているように、摺動アーム23は、ラッチ突起23a、傾斜面23bおよび凹部23cを有している。ラッチ突起23aは、摺動アーム23のx1方向端に設けられており、同図においてz1方向に突出しており、そのz1方向端は、凸部13のz2方向端よりもz1方向側に位置している。ラッチ突起23aは、前進ばね31を圧縮させた状態で穿刺に臨む状態を保持するために、ハウジング1の一部である凸部13と係合するものである。これにより、摺動アーム23は、本発明で言う係合要素を兼ねている。なお、摺動アーム23にラッチ突起23aを設ける構成に限定されず、上述した抵抗力発生手段とは別に、ハウジング1と係合しうる係合要素を穿刺体2に設けてもよい。
【0038】
傾斜面23bは、ラッチ突起23aよりもx2方向側に設けられており、z1方向に対してやや傾いた方向を向く面である。より具体的には、傾斜面23bは、x2方向側からx1方向に向かうほど、z1方向に位置するように、すなわち凸部13に近づくように傾斜している。また、穿刺に向けた待機状態をとっている
図3および
図4においては、傾斜面23bは、その全体または一部が凸部13のz2方向端よりもz1方向側に位置している。本実施形態においては、傾斜面23bは、x1方向およびx2方向とy方向に対して傾いた平面とされているがこれに限定されず、たとえば曲面や複数の平面が組み合わされた構成であってもよい。
【0039】
凹部23cは、傾斜面23bよりもx2方向に配置されており、z2方向に凹んだ部位である。凹部23cの底面は、凸部13のz2方向端よりもz2方向側に位置している。
【0040】
本実施形態においては、前進ばね31は、内側フレーム12のx2方向端と穿刺体2のランセットホルダ22の摺動アーム23の根本付近に設けられたフランジ状部分(詳しくは後述)との間に配置されている。ハウジング1(内側フレーム12)に対して穿刺体2がx2方向に移動させられると、前進ばね31が圧縮される。この圧縮によって、穿刺体2をx1方向に前進させるための弾性力が蓄えられる。
【0041】
また、本実施形態においては、後退ばね32は、スライド部材64とランセットホルダ22のx2方向端付近に取り付けられたワッシャ25との間に配置されている。ハウジング1(内側フレーム12)に対して穿刺体2がx1方向に移動させられると、後退ばね32が圧縮される。この圧縮によって、穿刺体2をx2方向に後退させるための弾性力が蓄えられる。
【0042】
次に、ハウジング1に対する穿刺体2の往復動のストロークを規定するために設けられた構成について説明する。
図6は、下方パーツ12aおよびランセットホルダ22のみを示す斜視図である。同図に示すように、下方パーツ12aがリブ12dを有しており、ランセットホルダ22がフランジ22aを有している。
図7は、ランセットホルダ22のみを示す斜視図である。フランジ22aは、ランセットホルダ22の中ほどに設けられており、x1方向およびx2方向に対して直角である平板状である。
【0043】
図8は、下方パーツ12aのみを示す斜視図である。リブ12dは、下方パーツ12aの長手方向中ほどに設けられており、内方に向けて突出している。
図6に示すように、リ
ブ12dは、フランジ22aに対してx1方向に位置しており、x1方向視(x2方向視)においてリブ12dとフランジ22aとは互いに重なっている。このため、リブ12dにフランジ22aが当接することにより、穿刺体2のハウジング1に対するx1方向のストロークが規定されている。
【0044】
また、
図9は、上方パーツ12bのみを示す斜視図である。同図に示すように、本実施形態においては、上方パーツ12bにもリブ12dが形成されている。上方パーツ12bのリブ12dと下方パーツ12aのリブ12dとは、互いのx1方向位置(x2方向位置)が一致している。このため、下方パーツ12aと上方パーツ12bとが結合されることにより内側フレーム12が構成された状態においては、内側フレーム12は、ランセットホルダ22の比較的細い部分を挿通させるとともに、ランセットホルダ22のフランジ22aの通過を阻止するリブ12dを有するものとなっている。
【0045】
また、
図8の下方パーツ12aのリブ12dは、
図9の凸部13のz2方向直下に位置している。下方パーツ12aのリブ12dには、y方向中央寄りに位置し、且つz1方向を向く面12eが形成されている。この面12eは、
図6から理解されるように、ランセットホルダ22のラッチ突起23aとx1方向およびx2方向において重なっている。また、
図7に示すように、ランセットホルダ22は、x1方向およびx2方向において摺動アーム23と重なり、且つ摺動アーム23に対してz2方向に位置する連結部分22bを有している。後述するように摺動アーム23が凸部13からz2方向の力を受けて弾性変形すると、これに応じてランセットホルダ22がz2方向の力を受ける。この際、連結部分22bのz2方向を向く面が、下方パーツ12aのリブ12dの面12eと当接することにより、ランセットホルダ22が不当に撓んだり、意図せずに中心位置がずれてしまうことを防止することができる。なお、本発明における抵抗力は、後述する通り、凸部13と摺動アーム23の傾斜面23bとの摩擦力によって主に構成されるが、下方パーツ12aのリブ12dの面12eとランセットホルダ22の連結部分22bとによっても、抵抗力の一部を構成しうる摩擦力が発生する。
【0046】
次に、ハウジング1に対するセッティングレバー62のスライドのストロークを規定するために設けられた構成について説明する。
図10は、内側フレーム12、セッティングレバー62およびスライド部材64を示す斜視図である。セッティングレバー62は、スライド部材64に対して係合により固定されている。
図11は、スライド部材64のみを示す斜視図である。スライド部材64のy方向両側には、2つの係止部64bが形成されている。これらの係止部64bは、
図10に示すように、セッティングレバー62の孔に係合している。これにより、セッティングレバー62とスライド部材64とは、内側フレーム12に対して一体的にスライドする。
【0047】
図12は、内側フレーム12のみを示す斜視図であり、
図13は、内側フレーム12の分解斜視図である。内側フレーム12のy方向両側には、2つのガイド溝12cが形成されている。ガイド溝12cは、x1方向およびx2方向に沿って延びている。さらに、
図13によく表れているように、下方パーツ12aおよび上方パーツ12bのそれぞれには、ガイド溝12cとなるべき凹部が形成されている。下方パーツ12aと上方パーツ12bとを組み合わせることによって内側フレーム12を形成すると、下方パーツ12aと上方パーツ12bとの前記凹部どうしが結合することにより、ガイド溝12cが形成される。
【0048】
図11に示すように、64には、2つのガイド突起64aが形成されている。これらのガイド突起64aは、
図10に示すように、内側フレーム12のガイド溝12cに嵌り込んでいる。これにより、セッティングレバー62およびスライド部材64の内側フレーム12に対するスライドのストロークは、ガイド溝12cの長さとガイド突起64aの大き
さとによって規定されている。このストロークは、セッティングレバー62によって穿刺体2を穿刺に向けた待機状態とする際のストロークに相当する。
【0049】
なお、内側フレーム12を下方パーツ12aと上方パーツ12bとの分割構造にした上でガイド溝12cを形成する構成に代えて、たとえば、一体的に形成された内側フレーム12に厚さ方向に貫通するスリットが設けられた構成であってもよい。この場合、ガイド突起64aに相当する部位は、たとえば内側フレーム12の内側から外側に突出するものであってもよい。
【0050】
次に、穿刺装置A1における穿刺体2の往復動について、以下に説明する。
【0051】
まず、
図3に示すように、穿刺体2が穿刺に向けた待機状態とされる。この状態においては、摺動アーム23のラッチ突起23aがハウジング1の内側フレーム12の凸部13に対してx2方向において隣接し、且つ当接している。これにより、穿刺体2がx1方向に移動することが阻止されている。前進ばね31は、内側フレーム12とランセットホルダ22との間において圧縮されている。これにより、前進ばね31には、穿刺体2をx1方向に前進させるための弾性力が蓄えられている。
【0052】
次いで、カバー4の先端面を皮膚に当接された状態で、
図14に示すように、穿刺ボタン61を押下する。穿刺ボタン61には、z2方向に突出する押圧片61aが形成されている。この押圧片61aが摺動アーム23の自由端側をz2方向に押し下げる。摺動アーム23は、片持ち状であるため、押圧片61aに押されることにより、z2方向に撓む。これにより、摺動アーム23と凸部13との係合が解かれる。
図15は、
図15のXV−XV線に沿う要部断面図であり、摺動アーム23および穿刺ボタン61のみを示している。同図に示すように、傾斜面23bは、y方向において摺動アーム23の中央付近に位置しており全体には形成されていない。一方、押圧片61aの先端には、z1方向に凹む凹部が形成されている。押圧片61aが摺動アーム23に近接すると、押圧片61aの前記凹部が摺動アーム23を跨ぐ格好となる。これにより、押圧片61aは、摺動アーム23のうち傾斜面23bを避けた部分を押下する構成とされている。
【0053】
穿刺ボタン61によって摺動アーム23と凸部13との係合が解かれると、
図16に示すように、前進ばね31に蓄えられた弾性力により、穿刺体2がx1方向に前進する。この際には、凸部13が摺動アーム23の傾斜面23bに接し、これらが互いに摺動する。
図17は、
図16のXVII−XVII線に沿う要部断面図であり、上方パーツ12bの一部と摺動アーム23とのみを示している。凸部13は、z2方向先端がz1方向およびz2方向に対して直角な面とされており、y方向寸法が傾斜面23bよりも大である。このため、傾斜面23bのy方向全長が凸部13と接する。なお、
図16および
図17から理解されるように、凸部13は、上方パーツ12bに形成されたリブの一部によって構成されている。このため、凸部13は比較的高剛性である。一方、摺動アーム23は片持ち状であり、相対的に弾性変形が容易である。このため、凸部13と傾斜面23bとが摺動している間は、摺動アーム23が若干z2方向に撓んだ状態となる。また、凸部13と傾斜面23bとは本発明で言う抵抗力発生手段を構成しており、凸部13と傾斜面23bとの間に生じる摩擦力が、穿刺体2の移動に対する抵抗力のほぼすべてとして作用する。
【0054】
さらに穿刺体2がx1方向に前進すると、
図18に示す状態となる。この状態においては、凸部13が傾斜面23bを超えて、x1方向およびx2方向において凹部23cと重なる状態となる。上述したように、凹部23cの底面は、凸部13の先端よりもz2方向に位置しており、凸部13は、凹部23cとは接しない。このため、凸部13と摺動アーム23との間には、摩擦力が発生しない状態であり、上述した抵抗力発生手段が発生する抵抗力が0であるといえる。
【0055】
さらに、同図は、穿刺体2が最もx1方向に位置した状態を示している。この状態においては、カバー4の先端面から針21aの先端が突出している。これにより、針21aが皮膚に突き刺さる。この状態を便宜上、穿刺点と定義する。
【0056】
上述した穿刺体2のx1方向への前進が進行すると、前進ばね31の圧縮が解除されるとともに、後退ばね32の圧縮が生じる。後退ばね32は、ランセットホルダ22に取り付けられたワッシャ25とスライド部材64との間で圧縮される。このため、穿刺体2が前記穿刺点に到達すると、これに引き続いて、
図19に示すように、後退ばね32に蓄えられた弾性力によって穿刺体2がx2方向に後退する。以上説明したように、穿刺体2がハウジング1の内側フレーム12内において、前記穿刺点を折り返し点としてx1方向への前進とx2方向への後退とを含む往復動を行う。
【0057】
次に、穿刺体2の往復動における抵抗力について、
図20を参照しつつ以下に説明する。
【0058】
図20の(a)〜(f)は、穿刺体2の往復動における凸部13と摺動アーム23との関係を示しており、(g)は、穿刺体2の往復動における抵抗力の推移を示している。同図(a)は、穿刺に向けた待機状態を示しており、
図3に示した状態と一致する。同図(b)は、
図14に示した穿刺ボタン61の押下によって凸部13と摺動アーム23との係合が解かれた直後の状態を示している。同図(c)は、凸部13と傾斜面23bとが摺動しつつ穿刺体2がx1方向に前進する状態であり、
図16に示した状態である。同図(d)は、穿刺体2が
図18を参照して前述した穿刺点にある状態を示している。同図(e)は、凸部13と傾斜面23bとが摺動しつつ穿刺体2がx2方向に後退する状態である。なお、同図(c)と同図(e)とは、ハウジング1に対する穿刺体2のx1方向およびx2方向の位置が同一である。同図(f)は、穿刺体2のx2方向への後退が完了した状態を示している。なお、同図(b)と同図(f)とは、ハウジング1に対する穿刺体2のx1方向およびx2方向の位置が同一である。
【0059】
同図(g)は、横軸がx1方向およびx2方向であり、縦軸が低効力発生手段によって生じる抵抗力を概念的に示している。本実施形態においては、同図(g)に示すように、同図(a)において待機状態が解除され、同図(b)から穿刺体2がx1方向に前進する区間を前進区間S1と定義する。この前進区間S1の始期は、凸部13が摺動アーム23の傾斜面23bとの摺動を開始した時点であり、終期は、凸部13と傾斜面23bとの摺動が終了した時点である。
【0060】
次に、前進区間S1が終了した時点、すなわち凸部13が傾斜面23bから凹部23cに移行した時点を始期とする穿刺区間S2を定義する。穿刺区間S2においては、凸部13が凹部23cと重なる位置にある。また、穿刺区間S2は、前進が完了した時点、すなわち穿刺点S2aを含んでいる。さらには、穿刺区間S2は、穿刺点S2aを挟んで、穿刺体2がわずかに前進する区間とわずかに後退する期間とを含んでいる。
【0061】
そして、穿刺区間S2の終期、すなわち凸部13が凹部23cから再び傾斜面23bに移行した時点を始期とする後退区間S3を定義する。後退区間S3においては、穿刺体2がx2方向に後退している。また、凸部13は、傾斜面23bと摺動する。後退区間S3の終期は、便宜上、凸部13と摺動アーム23との位置関係が、前進区間S1の始期と同一となった箇所と定義する。
【0062】
前進区間S1においては、凸部13と傾斜面23bとが摺動することによる摩擦力、すなわち抵抗力Fが生じる。同図(b)に示す状態において、摺動アーム23の撓みが最大
となっており、抵抗力Fが抵抗力F1をとる。穿刺体2の前進が進行すると、抵抗力Fは、徐々に小となる。これは、傾斜面23bが図示された方向に傾いており、摺動アーム23の撓みが徐々に小となるからである。たとえば、同図(c)に示す状態においては、抵抗力Fは、抵抗力F1よりも小である抵抗力F2をとる。本実施形態においては、抵抗力F1は、前進区間S1の終期に0となるように徐々に減少する。
【0063】
穿刺体2の前進が進行し、穿刺区間S2になると、凸部13と凹部23cとが接しないため、抵抗力Fは0となる。すなわち、穿刺体2が穿刺点S2aを挟んでわずかに往復する穿刺区間S2においては、穿刺体2に対して低効力発生手段からは、なんら抵抗力が付与されていない状態であるといえる。
【0064】
次いで、穿刺体2の後退が進行し、後退区間S3になると、凸部13が傾斜面23bと再び摺動し始める。これにより、抵抗力Fは、後退区間S3の始期以降、徐々に増加する。たとえば、同図(e)に示す状態においては、抵抗力Fは、抵抗力F3をとる。そして、後退区間S3の終期、すなわち同図(f)の状態においては、抵抗力Fは、抵抗力F4をとる。
【0065】
同図(g)から理解される通り、穿刺区間S2における抵抗力Fは、その区間における平均値が、後退区間S3における抵抗力Fの平均値よりも小である。さらに、本実施形態においては、穿刺区間S2における抵抗力Fが常時0であることにより、穿刺区間S2における抵抗力Fは、後退区間S3におけるいずれの時点の抵抗力Fよりも小である。また、穿刺区間S2と前進区間S1との比較においても、穿刺区間S2における抵抗力Fの平均値は、前進区間S1における抵抗力Fの平均値よりも小であり、さらに、穿刺区間S2における抵抗力Fは、前進区間S1におけるいずれの時点の抵抗力Fよりも小である。
【0066】
次に、前進区間S1と後退区間S3との抵抗力Fの関係について、
図21を参照しつつ説明する。同図は、前進区間S1または後退区間S3における凸部13と摺動アーム23とを想像線で示している。凸部13と摺動アーム23とが接触していることにより、互いの間に垂直抗力が発生する。図中の垂直抗力Faは、凸部13から摺動アーム23に付与される垂直抗力を示している。垂直抗力Faは、互いに接する方向を向き、本実施形態においては、傾斜面23bが向く方向に生じる。この垂直抗力Faは、z1方向およびz2方向の分力Fzとx1方向およびx2方向の分力Fxとに分解される。そして、分力Fxは、x1方向を向いている。このため、凸部13と傾斜面23bとが摺動した状態、すなわち前進区間S1および後退区間S3においては、x1方向を向く分力Fxが穿刺体2に付与されることとなる。そうすると、凸部13と傾斜面23bとの摺動において、垂直抗力Faに動摩擦力を乗じた大きさとなる摩擦力と、分力Fxとが穿刺体2に付与される。摩擦力は、穿刺体2の移動とは反対側に作用する。このため、前進区間S1において穿刺体2が前進する際には、x2方向を向く摩擦力と、これとは反対のx1方向を向く分力Fxとの合力が抵抗力Fとなり、この抵抗力Fは前記摩擦力よりも若干小となる。一方、後退区間S3において穿刺体2が後退する際には、x1方向を向く摩擦力と、これと同方向の分力Fxとの合力が抵抗力Fとなり、この抵抗力Fは前記摩擦力よりも若干大となる。この結果、
図20(g)においては、抵抗力F1よりも抵抗力F4が大であり、また抵抗力F2よりも抵抗力F3が大となっている。そして、凸部13と傾斜面23bとの相対的な位置関係が同一である場合、抵抗力Fは、前進区間S1における大きさよりも後退区間S3における大きさの方が大となっている。
【0067】
また、前進区間S1と後退区間S3とにおける抵抗力Fの際について、以下の考察が成立しうる。すなわち、前進区間S1においては、その始期において撓みが最大となった摺動アーム23が、穿刺体2の前進に伴い、撓みが解消されていく。一方、後退区間S3においては、その始期において撓みが最小、より具体的には0である摺動アーム23が、穿
刺体2の後退に伴い、撓みが増大していく。このように、前進区間S1は、蓄えられたエネルビーが解消される方向となる挙動であるのに対し、後退区間S3においてはエネルギーを蓄える挙動となっている。このことから、抵抗力Fは、前進区間S1における大きさよりも後退区間S3における大きさの方が大となると考えられる。
【0068】
次に、穿刺装置A1の作用について説明する。
【0069】
本実施形態によれば、穿刺体2が皮膚に突き刺さる穿刺点S2aを含む穿刺区間S2においては、穿刺体2に付与される抵抗力Fが比較的小である。このため、針21aが皮膚に突き刺さる際の速度が不当に弱められたり、針21aが皮膚に突き刺さった後、ただちに穿刺体2が後退することが過度に減衰されるおそれが少ない。一方、針21aが皮膚から抜かれて穿刺体2が後退する後退区間S3においては、穿刺体2に付与される抵抗力Fが比較的大である。このため、後退区間S3において、穿刺体2は後退しつつその移動が強く減衰されることとなる。これにより、後退区間S3の終期には、穿刺体2の速度を十分に低下させることが可能であり、後退区間S3における後退の後に、穿刺体2がx1方向への前進とx2方向への後退とを繰り返す不要な振動が生じることを回避することができる。したがって、穿刺装置A1によれば、穿刺による痛感は不可避的に生じるものの、針21aが誤って皮膚に突き刺さったままとなることや、穿刺の後に穿刺体2が激しく往復して不快な振動を使用者が感じることなどを防止することが可能であり、穿刺装置A1をより快適に使用することができる。
【0070】
また、前進区間S1における抵抗力Fが穿刺区間S2における抵抗力Fよりも大であることは、言い換えると、前進区間S1において抵抗力Fが生じることを許容した構成であるといえる。このため、上述した通り、凸部13と傾斜面23bとを後退区間S3においてのみではなく、前進区間S1においても互いに摺動させることが許容される。これは、穿刺装置A1という、小型化の要請が強い装置において、本発明で言う抵抗力発生手段の機構をいたずらに複雑化させること無く、合理的に構成することができるという利点がある。また、前進区間S1においても抵抗力Fが発生するものの、その大きさは後退区間S3における大きさよりも小である。これは、前進区間S1において穿刺体2の前進速度を不当に減衰させてしまうことを回避するのに都合がよい。なお、前進区間S1における抵抗力Fが後退区間S3における抵抗力よりも小であるという関係は、たとえば、前進区間S1における抵抗力Fの平均値が後退区間S3における抵抗力Fの平均値よりも小であればよい。
【0071】
穿刺区間S2における抵抗力Fを0とすることにより、針21aをより勢い良く皮膚に突き刺すとともに、針21aをより速やかに皮膚から抜き去ることが可能である。
【0072】
凸部13と片持ち状の摺動アーム23とを摺動させる構成は、穿刺装置A1の簡素化および小型化に有利である。また、摺動アーム23に傾斜面23bを設けることにより、前進区間S1および後退区間S3における抵抗力Fを上述した好ましい大きさに設定できる。凹部23cを有する構成は、穿刺区間S2における抵抗力Fを確実に0とするのに好適である。また、摺動アーム23は、抵抗力発生手段だけでなく、ラッチ突起23aが設けられたことにより穿刺体2をハウジング1に対して係合させておく係合要素を兼ねている。これによっても、穿刺装置A1の小型化を図ることができる。
【0073】
本発明に係る穿刺装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る穿刺装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。