特許第6371188号(P6371188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371188
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】セメント系固化材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20180730BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20180730BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20180730BHJP
   C08G 65/34 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/02
   C04B24/32 A
   C08G65/34
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-206128(P2014-206128)
(22)【出願日】2014年10月7日
(65)【公開番号】特開2016-74560(P2016-74560A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】下田 政朗
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−280214(JP,A)
【文献】 特開2009−114378(JP,A)
【文献】 特開2010−184818(JP,A)
【文献】 特開2008−239447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
C09K17/00−17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物(A)と、グリセリン(B)と、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテル(C)とを、(A)、(B)及び(C)の合計で72質量%以上85質量%以下の濃度で含有する水溶液と、水硬性粉体とを混合する工程を有するセメント系固化材の製造方法であって、下記要件1〜2を満足する、セメント系固化材の製造方法。
要件1:前記水溶液における前記(A)と前記(B)と前記(C)の質量比が、前記(A)と前記(B)と前記(C)の含有量の合計100に対して、前記(A)が5以上35以下、前記(B)が5以上35以下、前記(C)が40以上75以下である。
要件2:前記固化材中、水硬性粉体100質量部に対して、前記(A)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(B)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(C)が0.3質量部以上3.8質量部以下、水が0.3質量部以上2.8質量部以下、前記(A)と前記(B)と前記(C)の合計が1質量部以上7質量部以下である。
【請求項2】
エーテル化合物(A)の多価アルコールが、炭素数3以上6以下の多価アルコールである、請求項1記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項3】
エーテル化合物(A)が、下記の工程1〜3を含む方法により得られたものである、請求項1又は2記載のセメント系固化材の製造方法。
工程1:油脂と炭素数1以上5以下の1価アルコールを反応させる工程
工程2:工程1で得られた反応混合物を油水分離する工程
工程3:工程2で得られた水相を蒸留し、留出物としてエーテル化合物(A)を得る工程
【請求項4】
エーテル化合物(A)におけるエーテル化率が、エーテル化される前の多価アルコールの水酸基1モルあたり0.1モル以上0.9モル以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のセメント系固化材の製造方法。
【請求項5】
3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物(A)と、グリセリン(B)と、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテル(C)とを含有し、
前記(A)と前記(B)と前記(C)の質量比が、前記(A)と前記(B)と前記(C)の含有量の合計100に対して、前記(A)が5以上35以下、前記(B)が5以上35以下、前記(C)が40以上75以下である、
セメント系固化材用粉塵防止剤。
【請求項6】
前記(A)と前記(B)と前記(C)とを合計で72質量%以上85質量%以下含有する水溶液からなる、請求項5記載のセメント系固化材用粉塵防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系固化材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメントなどを土質安定材(以下、固化材という)として使用する、路床、路盤安定処理工法や地盤改良工法(現位置で施工)などは、低品位の現地土が有効に活用でき、しかも他工法に比べて経済的であり広く実施されている。また建設残土低減から、これらの工法の必要性は今後さらに増大していくものと注目されている。
【0003】
しかしながら、前述した従来の方法では、微粉末状のセメント系固化材が散布時に飛散するため、周辺環境の保全や作業環境の観点から、土質安定処理工事における粉塵発生の抑制や低減が強く望まれており、特に材料面から通常の施工方法によって使用できる防塵型の固化材の開発が期待されている。
【0004】
特許文献1には、土壌固化材にセメント系固化材の硬化反応に寄与しない液体としてアルコール系化合物を用いることが開示されている。また、特許文献2には、脂肪族多価アルコールを用いた発塵抑制方法が開示されている。また、特許文献3には、脂肪族多価アルコール又はエーテル系の化合物を用いた発塵抑制型水硬性材料の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、濃度5〜70重量%のアルコール系化合物の水溶液をセメント系固化材に対して1〜10重量%均一に添加、混合した無粉塵固化材が開示されている。特許文献5には、グリセリンとポリエチレングリコールの合計濃度が72〜85重量%の水溶液を用いたセメント系固化材の製造方法が開示されている。特許文献6には、炭素数1〜6の1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物とアルコール系化合物とを合計で72〜85重量%の水溶液を用いたセメント系固化材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−128567号公報
【特許文献2】特開平6−87643号公報
【特許文献3】特開2009−62221号公報
【特許文献4】特開平8−53669号
【特許文献5】特開2008−280214号
【特許文献6】特開2009−114378号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2及び特許文献3で用いられている脂肪族多価アルコール又はエーテル系化合物は、消防法に定める危険物であるために取扱い上の制約があり、さらに粘性が高いために噴霧等による水硬性粉体との混合が困難である。また固化材表面への広がり性も悪く、結果として粉塵防止効果が十分でない等の課題がある。これらの問題を解決するために特許文献4では5〜70重量%のアルコール系化合物の水溶液を用いているが、散布前の貯蔵等により固化材を用いた硬化体の強度が低下することがある。
【0007】
さらに散布前の貯蔵の際は、必ずしも恒温(温度が一定に保たれた)条件で保管されるわけではないため、低温から高温における貯蔵安定性が求められる。貯蔵安定性を向上するために特許文献5及び6ではポリエチレングリコールや1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物を含む水溶液を用いているが、例えば、高炉セメントのような微粒子を含むセメントを用いた場合には、添加量を増やすことが必要な場合があった。
【0008】
本発明は、散布時等の粉塵発生量が少なく、貯蔵安定性が良好なセメント系固化材が得られ、更に、微粒子を含む水硬性粉体に対しても前記薬剤の添加量が少量で十分な粉塵抑制効果が発現する、セメント系固化材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物(A)と、グリセリン(B)と、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテル(C)とを、(A)、(B)及び(C)の合計で72質量%以上85質量%以下の濃度で含有する水溶液と、水硬性粉体とを混合する工程を有するセメント系固化材の製造方法であって、下記要件1〜2を満足する、セメント系固化材の製造方法に関する。
要件1:前記水溶液における前記(A)と前記(B)と前記(C)の質量比が、前記(A)と前記(B)と前記(C)の含有量の合計100に対して、前記(A)が5以上35以下、前記(B)が5以上35以下、前記(C)が40以上75以下である。
要件2:前記固化材中、水硬性粉体100質量部に対して、前記(A)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(B)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(C)が0.3質量部以上3.8質量部以下、水が0.3質量部以上2.8質量部以下、前記(A)と前記(B)と前記(C)の合計が1質量部以上7質量部以下である。
【0010】
また、本発明は、3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物(A)と、グリセリン(B)と、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテル(C)とを含有し、
前記(A)と前記(B)と前記(C)の質量比が、前記(A)と前記(B)と前記(C)の含有量の合計100に対して、前記(A)が5以上35以下、前記(B)が5以上35以下、前記(C)が40以上75以下である、
セメント系固化材用粉塵防止剤に関する。
【0011】
以下、3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物(A)を(A)成分、グリセリンを(B)成分、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテル(C)を(C)成分として説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、散布時等の粉塵発生量が少なく、貯蔵安定性が良好なセメント系固化材が得られ、更に、微粒子を含む水硬性粉体に対しても前記薬剤の添加量が少量で十分な粉塵抑制効果が発現する、セメント系固化材の製造方法が提供される。本発明により製造されるセメント系固化剤は、例えば、現位置で施工を行う路床、路盤安定処理工法や地盤改良工法地盤の改良工法に用いる発塵抑制型のセメント系固化剤である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、水硬性粉体に所定量の(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有する水溶液を添加、混合することにより、水との親和性の高い水酸基を主とする(B)成分、水を抱き込みやすいポリエーテル基を有する(C)成分及びこれらの中間の作用のエーテル基と疎水性基を有する(A)成分により、エーテル酸素と水酸基で環構造を形成して水硬性粉体表面に吸着し、ポリエーテル基と疎水性基で水と水硬性粉体の接触を抑制しつつ、水硬性粉体表面に(A)成分、(B)成分及び(C)成分が均等に濡れ広がることで、微粒子を含む水硬性粉体に対しても、適度に湿潤した水硬性粉体同士が粗大粒子群を形成し、少ない添加量でも散布時の前記粉体の飛散を防止すると推定される。
【0014】
粉体の湿潤は水単独によっても可能であるが、時間経過(貯蔵)により水は水硬性粉体の水和反応に使用されるため、粉塵防止効果がなくなるとともに、水硬性粉体の水和物を生成することから、固化材に水を加えて硬化体を製造する際に、前記水和生成物が不均一に分布し、得られる硬化体の強度が低下する。よって、粉塵防止を目的に水を添加する場合は、貯蔵時の水和反応を抑制することが必要となる。また、これらの観点から添加する水は少ない方が望ましい。しかし、貯蔵を考慮した場合、水単独では水和反応の抑制と粉塵防止の両立は困難であった。
【0015】
本発明者は、(A)成分、(B)成分と共に、(C)成分を水硬性粉体に対して特定量用いることで、固化材の優れた粉塵抑制効果と共に、水と水硬性粉体との水和反応の抑制効果、幅広い温度領域での保存における粉塵防止性の持続効果が得られることを見出し、また、この効果は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の添加量を低減しても損なわれないことを見出し、本発明を完成した。
【0016】
本発明に用いられる水溶液は、危険物として取り扱われることを回避するため、すなわち危険物としての取扱い(引火点の有無)の観点から、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計濃度が85質量%以下であり、水和反応抑制の観点から、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計濃度が72質量%以上である。したがって危険物としての取扱い(引火点の有無)及び水和反応抑制の観点から、当該水溶液中の(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計濃度が72質量%以上85質量%以下であり、好ましくは73質量%以上、より好ましくは74質量%以上、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは78質量%以下である。
【0017】
本発明に用いられる(A)成分は、有効分の粘度を低減することから、混合時の濡れ拡がり性が向上し、低添加量で効果が発現する。また同様の効果から、特に低温での保存安定性に優れている。ただし(A)成分は、保水性が少ないことから、配合量が多くなると散布前の貯蔵等により固化材を用いた硬化体の強度が低下する傾向があることから、最適の配合比率が存在する。
【0018】
例えば、(A)成分は、1価アルコール由来のアルキル基(R)、エーテル結合由来の酸素(O)、該エーテル結合由来の酸素と水酸基をつなぐ連結基(X)及び水酸基(OH)を水硬性粉体に対し、エーテル酸素と水酸基で環構造を形成することで、より強い吸着力が発生することで、濡れ拡がり性が向上するものと推定される。
【0019】
(A)成分は、濡れ拡がり性が向上し、低添加量で効果が発現する観点から、3価以上の多価アルコールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのエーテル化合物であり、そのエーテル化率が、エーテル化される前の多価アルコールの水酸基1モルあたり0.1モル以上0.9モル以下の割合でエーテル結合した化合物であることが好ましい。
【0020】
多価アルコールが有する水酸基数としては、3個以上が好ましい。また、25個以下が好ましく、10個以下がより好ましく、6個以下が更に好ましく、4個以下がより更に好ましい。3個以上であれば(A)成分の機能が充分に発揮され、25個以下であれば、(A)成分の分子量が適度であり、少ない添加量で機能が発揮される。多価アルコールは、複数の水酸基のうち、2つの水酸基を連結する基が炭素数2又は3である構造単位を少なくとも1つ有することが好ましく、より好ましくは、水酸基を連結する基がすべて炭素数2又は3である構造であることが好ましい。隣接する水酸基間の連結する基は、アルキレン基が好ましく、具体的にはエチレン基又はプロピレン基が好ましい。また、(A)成分の水酸基数は、好ましくは20個以下であり、より好ましくは8個以下であり、更に好ましくは4個以下であり、より更に好ましくは3個以下である。(A)成分は、少なくとも1個のエーテル基と少なくとも1個の水酸基を有することが好ましい。1価アルコール由来のエーテル基とそれと隣接する水酸基の連結基の少なくとも1個は炭素数が2又は3であることが好ましい。該連結基は、具体的にはエチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0021】
多価アルコールの水酸基間に炭素原子が2又は3個である構造を少なくとも1個有することが好ましい。
【0022】
また、多価アルコールの炭素数は、好ましくは3個以上であり、また、好ましくは25個以下、より好ましくは10個以下、更に好ましくは6個以下、より更に好ましくは5個以下、より更に好ましくは4個以下である。
【0023】
また、(A)成分の炭素数は、好ましくは4個以上である。また、(A)成分の炭素数は、好ましくは30個以下、より好ましくは15個以下、更に好ましくは10個以下、より更に好ましくは8個以下である。(A)成分は、複数の水酸基を有する炭化水素基と炭素数1〜5の1価アルコールの炭化水素基とがエーテル結合したエーテル化合物が好ましく、また、(A)成分は、多価アルコールの少なくとも1つの水酸基の水素原子が、炭素数1〜5の1価アルコールの炭化水素基で置換されてなるエーテル化合物であることが好ましい。
【0024】
(A)成分のより好ましい形態としては、多価アルコールが炭素、水素、酸素の3つの元素から構成される化合物から得られたものである。
【0025】
多価アルコールとしては、ポリグリシドール、グリセリン(プロパン−1,2,3−トリオール)、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−ペンタトリオール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトールが好適である。また、糖類として、グルコース、フルクトース、マンノース、インドース、ソルボース、グロース、タロース、タガトース、ガラクトース、アロース、プシコース、アルトロース等のヘキソース類の糖類;アラビノース、リブロース、リボース、キシロース、キシルロース、リキソース等のペントース類の糖類;トレオース、エリトルロース、エリトロース等のテトロース類の糖類;ラムノース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュウクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース等のその他の糖類;前記糖類に由来する糖アルコール、糖酸(糖類のグルコースに対応する糖アルコールがグルシット、糖酸がグルコン酸)も好適である。これらは1種又は2種以上を用いることができる。中でも、本発明においては、ポリグリセリン、グリセリンが好適であり、グリセリンが更に好適である。ポリグリセリンの場合、グリセリン縮合度は好ましくは2以上、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0026】
炭素数1以上5以下の1価アルコールとしては、炭素数1以上5以下のアルキル基又はアルケニル基を有する1価アルコールが挙げられる。1価アルコールの炭素数は1以上3以下が好ましく、1又は2がより好ましい。アルキル基又はアルケニル基は直鎖又は分岐鎖が挙げられるが、直鎖が好ましい。炭素数1以上5以下の1価アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−メチルエタノール、n−ブタノール、2−メチルプロパノール、t−ブタノール、n−ペンタノールなどが挙げられ、(A)成分による水硬性化合物の粉砕性の観点からメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールが好ましい。
【0027】
(A)成分におけるエーテル化率は、エーテル化される前の水酸基1モルあたり、即ち、多価アルコールを基準にみた場合、多価アルコールの水酸基1モルあたり、1価アルコールが、水硬性化合物の粉砕性の観点から、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.2モル以上、更に好ましくは0.3モル以上であり、そして、好ましくは0.9モル以下、より好ましくは0.8モル以下、更に好ましくは0.7モルである。
【0028】
(A)成分としては、プロパン−1,2,3−トリオールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのモノエーテルが好ましく、例えば、2−アルコキシプロパン−1,3−ジオール、3−アルコキシプロパン−1,2−ジオールが挙げられる。具体的には、2−メトキシプロパン−1,3−ジオール、2−エトキシプロパン−1,3−ジオール、3−メトキシプロパン−1,2−ジオール、3−エトキシプロパン−1,2−ジオール、及び3−ブトキシプロパン−1,2−ジオールから選ばれる化合物が挙げられる。多価アルコールがプロパン−1,2,3−トリオールである場合、エーテル化率は、好ましくは0.2モル以上、より好ましくは0.3モル以上、そして、好ましくは0.8モル以下、より好ましくは0.7モル以下である。
【0029】
(A)成分は、例えば、特開2001−213827号公報に記載されているグリセリンの製造方法の副生物として製造することができる。具体的には天然油脂とメタノール等の1価アルコールとのエステル交換反応を経て得られたグリセリン含有溶液を、公知の酸分解、ろ過、水の添加、油分離、活性炭処理及びイオン交換処理して、さらにその後、例えば9kPa、120℃にて蒸留して水を留去し、例えば0.1kPa、180℃にて蒸留し、留去物として(A)成分を得ることができる。
【0030】
また(A)成分はその他の方法として、下記の工程1〜3を含む方法により、工業的に容易に製造することができる。この製法は、(A)成分がプロパン−1,2,3−トリオールと炭素数1以上5以下の1価アルコールとのモノエーテルである場合に好ましい。
工程1:油脂と炭素数1以上5以下の1価アルコールを反応させる工程
工程2:工程1で得られた反応混合物を油水分離する工程
工程3:工程2で得られた水相を蒸留し、留出物として(A)成分を得る工程
【0031】
[工程1]
上記工程1で用いる油脂としては、天然の植物性油脂及び動物性油脂が挙げられる。植物性油脂としては、椰子油、パーム油、パーム核油等が挙げられ、動物性油脂としては、牛脂、豚脂、魚油等が挙げられる。
【0032】
上記工程1で用いる炭素数1以上5以下の1価アルコールとしては前述した炭素数1以上5以下の1価アルコールが挙げられる。
【0033】
油脂に対する1価アルコールのモル比は、良好な反応速度を得る観点から油脂のモル数の4.5倍以上が好ましく、6倍以上がより好ましい。またアルコール回収量を抑えて経済的に反応を行う観点から50倍以下が好ましく、30倍以下がより好ましく、15倍以下が更に好ましい。更に、必要に応じて希釈剤を用いて油脂を希釈しても良い。希釈剤は、キシレン、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、エーテル、脂肪酸アルキルエステル等が挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0034】
工程1の反応は無触媒で行っても良いが、周知の均一系又は不均一系の触媒を用いることが好ましい。均一系の触媒としては水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を好適に用いることができる。また、不均一系の触媒としてはアルコーリシス反応活性を有する触媒であれば特に限定されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムや、結晶性チタンシリケート、結晶性チタンアルミニウムシリケート、アモルファスチタンシリケート、及び対応するジルコニウム化合物等が挙げられる。また、後述する弱酸性の酸触媒を用いることも好ましい態様の一つである。
【0035】
工程1における反応温度は、十分な触媒活性を得て反応速度を高め、グリセリンと1価アルコールとのエーテル体の生成を向上させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下である。
【0036】
工程1における反応形式は、バッチ式及び連続式のいずれでも良く、また、攪拌機を有する槽型反応器及び触媒を充填した固定床反応器のいずれでも良い。
【0037】
槽型反応器で反応を行う場合の触媒の使用量は、十分な活性を得、短時間で反応させる観点から、油脂に対して1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。また撹拌により十分な懸濁状態を保持させる観点から、油脂に対して20質量%以下が好ましく、17質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。反応圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧下又は減圧下で行ってもよい。減圧下では用いるアルコールの常圧における沸点以下の温度において、アルコールをガス化させる気−液−固系の反応を可能にする。一方、加圧下では用いるアルコールの常圧における沸点以上の温度において、アルコールの蒸発を抑えた液−液−固系の反応を可能にする。
【0038】
固定床反応器にて連続的に反応を行う場合の油脂基準の液空間速度(LHSV)は、反応器の単位体積あたりの生産性を高め、経済的に反応を行う観点から、0.02/hr以上が好ましく、0.1/hr以上がより好ましい。また、十分な反応率を得る観点から、2.0/hr以下が好ましく、1.0/hr以下がより好ましい。また反応圧力は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.5MPa、そして、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。液−液−固系の反応を行う場合、1価アルコールの蒸気圧と反応温度から反応圧力を設定する。
【0039】
また、固定床反応器を使用した場合、本発明における1価アルコールのフィード方法として、個々の固定床反応器における操作としては並流操作でありながら、装置全体としてみると向流操作と判断される擬似向流操作で行う方法も好適である。
【0040】
[工程2]
工程2は、工程1より得られたものを油相と水相に分離する工程である。分離の方法は特に限定されず、静置分離又は凝集分離など既知の方法で分離することができる。分離温度は好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。分離された油相には、脂肪酸アルキルエステル、原料及び反応中間物質であるグリセリドが含まれ、その他、微量の水分、1価アルコール、グリセリンなどが含まれる。一方、水相は、(A)成分、グリセリン、水、1価アルコールが含まれる。
【0041】
[工程3]
工程3は、工程2で得られた水相を蒸留して留出物として(A)成分を得る工程である。水相の蒸留を、最初に温度70〜140℃、圧力6.5〜27kPaの条件で行って(A)成分に該当しない成分(水、低級アルコール等)を留去させた後、更に、温度130〜180℃、圧力0.1〜0.8kPaとすることで、(A)成分を留去させて回収することができる。通常、留出物は(A)成分を含有する混合物として得られる。該留出物は、本発明の効果が得られるならば、1種以上の(A)成分を含有する混合物として、そのまま使用することができる。また、該留出物には、異なる(A)成分が複数含まれていてもよい。
【0042】
また、本発明に用いられる(B)成分のグリセリンは、本発明に用いられる水溶液の凝固点を降下させるとともに、低温での貯蔵安定性を更に向上させる観点から好ましい。グリセリンとしては、市販品の精製グリセリン、例えば、ヤシ由来の油脂のエステル交換で得られたグリセリンを用いることができる。水溶液の凝固点を降下させる観点から、精製グリセリンが好ましい。
【0043】
本発明に用いられる(C)成分は、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下であるメタノールのエチレンオキサイド付加物及び重量平均分子量200以上1200以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリエーテルである。
【0044】
(C)成分のうち、前記付加物は、エチレンオキサイド平均付加モル数が5以上20以下である。このエチレンオキサイド平均付加モル数は、例えばNMRにより測定できる。前記付加物は、水和反応抑制からエチレンオキサイド平均付加モル数は5以上であり、固化や粘度増加の観点からアルキレンオキサイド平均付加モル数は20以下である。したがって水和反応抑制及び凝固や粘度増加の観点から、5以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、そして、20以下、好ましくは15以下、より好ましくは11以下である。
【0045】
(C)成分のうち、ポリエチレングリコールは、重量平均分子量が200以上、好ましくは300以上、より好ましくは350以上であり、そして、1200以下、好ましくは800以下、より好ましくは600以下である。この分子量は、例えばNMRで測定し、求めることができる。
【0046】
(C)成分は、2種以上の混合物でもよい。
【0047】
本発明のセメント系固化材の製造方法は、下記要件1を満足する。
要件1:前記水溶液における前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の質量比が、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の含有量の合計100に対して、前記(A)成分が5以上35以下、前記(B)成分が5以上35以下、前記(C)成分が40以上75以下である。
要件1では、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の含有量の合計100に対して、前記(A)成分は、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、そして、好ましくは35以下、より好ましくは30以下である。
また、要件1では、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の含有量の合計100に対して、前記(B)成分は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、そして、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。
また、要件1では、前記(A)成分と前記(B)成分と前記(C)成分の含有量の合計100に対して、前記(C)成分は、好ましくは50以上、より好ましくは55以上である。
要件1の質量比は、水和反応抑制及び凝固や粘度増加、さらに低添加量での粉塵抑制効果の観点から、前記範囲であることが好ましい。
【0048】
本発明に用いられる水溶液では、(A)成分と(B)成分と(C)成分の質量比が、水和反応抑制の観点から、好ましくは〔(A)+(B)〕/(C)で25/75以上であり、凝固や粘度増加の観点から、好ましくは60/40以下である。
また低添加量での粉塵抑制効果の観点から、好ましくは(A)/(B)で15/85以上であり、水和反応抑制の観点から、好ましくは85/15以下である。
【0049】
本発明の製造方法において、水硬性粉体に、本発明に係る所定の水溶液を均一に添加、混合させる方法としては、混合機で撹拌されている水硬性粉体に当該水溶液を噴霧する方法、混合機で撹拌されている水硬性粉体に当該水溶液を滴下する方法、別の粉体に予め当該水溶液を混合しておき、その粉体と水硬性粉体とを均一に混合する等の方法が挙げられる。
【0050】
本発明に用いられる水溶液は、危険物として取り扱われることを回避するため、すなわち引火点を有しない観点から、所定量の水を含有することが必要であり、該水溶液中の水の量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは22質量%以上、そして、好ましくは28質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは26質量%以下である。
【0051】
本発明に用いられる水溶液の25℃における粘度は、噴霧のし易さの観点から、好ましくは10mPa・s以上、そして、好ましくは150mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下である。粘度が150mPa・s以下で、水硬性粉体との混合時に噴霧等が容易となる傾向があり、また粘度が10mPa・s以上で、水溶液中の(A)成分、(B)成分、(C)成分の濃度を高くでき、水和反応抑制効果が発揮され易くなる。この粘度は東京計器株式会社製VISCOMETER(BM型)により24〜26℃の条件で測定されたものである。
【0052】
セメント系固化材の飛散による発塵を抑制するには、前述してきたように、水硬性粉体表面に、液体が、「濡れ」、「広がる」ことが重要である。粉体表面への濡れ性は、液体の表面張力が支配し、また粉体表面での濡れ広がり性は、液体の粘度が支配する。発塵抑制効果の観点から、液体が、「濡れる」と「広がる」の両方の機能を有することが好ましい。この液体に水のみを用いれば、前述したように、時間経過とともに水硬性粉体と水が反応し、固化材としての役目を果たさなくなる。
【0053】
(A)成分と(B)成分と(C)成分を所定の条件で含有する本発明に係る水溶液の使用は、水を添加しないで使用する場合に比べて、(A)成分と(B)成分と(C)成分の混合物の粘度を下げることができ、噴霧等による固化材への均一な添加、混合が可能になり、発塵の抑制効果が著しく向上する。したがって水溶液中の水の含有量は重要であり、水溶液の粘度は、噴霧による「均一な添加、混合」の観点から重要である。
【0054】
本発明に用いられる水溶液中の水は、引火点を有さない点、粘度を下げ水硬性粉体との混合性を良好にする点で重要であり、(C)成分の保水効果によって貯蔵時における水硬性粉体と水との反応(水和反応)が抑制される。
【0055】
本発明のセメント系固化材の製造方法は、下記要件2を満足する。
要件2:固化材中、水硬性粉体100質量部に対して、前記(A)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(B)が0.05質量部以上2.0質量部以下、前記(C)が0.3質量部以上3.8質量部以下、水が0.3質量部以上2.8質量部以下、前記(A)と前記(B)と前記(C)の合計が1質量部以上7質量部以下である。
【0056】
要件2では、水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.15質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下である。
また、要件2では、水硬性粉体100質量部に対して、(B)成分が、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.15質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下である。
また、要件2では、水硬性粉体100質量部に対して、(C)成分が、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、そして、好ましくは2.0質量部以下である。
また、要件2では、水硬性粉体100質量部に対して、水が、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、更に好ましくは0.7質量部以上、そして、好ましくは2.3質量部以下、より好ましくは1.9質量部以下、更に好ましくは1.6質量部以下である。
また、要件2では、水硬性粉体100質量部に対して、前記(A)と前記(B)と前記(C)の合計が、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2質量部以上、そして、好ましくは6質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。
このような比率となるように、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを含有する水溶液の濃度や使用量を調整することが好ましい。
【0057】
なお、本発明に係る固化材中、水硬性粉体の含有量は、好ましくは90.3質量%以上、より好ましくは94.4質量%以上、そして、好ましくは98.6質量%以下、より好ましくは96.5質量%以下である。
また、本発明に係る固化材中、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、そして、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下である。
また、本発明に係る固化材中、水の含有量は、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは2.7質量%以下、より好ましくは1.6質量%以下である。
【0058】
本発明において対象となる水硬性粉体としては、地盤の土壌と混合すると土中の水分と反応固化し、地盤を強化するものであればどのようなものでもよい。例えば、各種ポルトランドセメント、各種混合セメント、アルミナセメント等の特殊セメントが挙げられる。微粒子を含む水硬性粉体に対して、固化材を製造するための水溶液の添加量が少なくできる観点から、スラグ、ポゾラン、せっこう、石灰等の微粒子をセメントに混合した粉体が好ましい。そして、これらにスラグ、ポゾラン、せっこう、石灰等を混入したセメント系固化材及び市販のセメント系固化材も対象となる。これらは微粉末状の粉体が好ましい。本発明の一例として、水硬性粉体が高炉セメントである方法が挙げられる。高炉セメントは、JIS R 5211:2009により、高炉スラグの比率が5質量%を超え30質量%のA種、30質量%を超え60質量%以下のB種、60質量%を超え、70質量%以下のC種がある。これら何れの高炉セメントを使用できるが、高炉スラグの比率が大きいB種、C種であっても本発明の効果は発現する。本発明では、水硬性粉体として、高炉セメントB種、すなわち、セメント及び高炉スラグを含有し、高炉スラグの比率が30質量%を超え60質量%以下の水硬性粉体を使用できる。
【0059】
本発明に係る固化材は、発塵抑制の観点から、ふるい目開き500μmのふるい試験でふるい残の量が75質量%以上が好ましく、水和物生成の観点から、このふるい残を人差し指で押してふるいを通過させる操作を行った際に、ふるいを通過できない水和物の量が1質量%未満であることが好ましい。なお、ふるい残を人差し指で押す力は、同様の力で天秤の皿を押して測定したところ、指の接触面は直径約1cmの円であり、天秤の目盛りは500gである。
【0060】
さらに、本発明は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分とを含有し、前記(A)と前記(B)と前記(C)の質量比が、前記(A)と前記(B)と前記(C)の含有量の合計100に対して、前記(A)が5以上35以下、前記(B)が5以上35以下、前記(C)が40以上75以下である、セメント系固化材用粉塵防止剤を提供する。該粉塵防止剤は、(A)成分と(B)成分(C)成分とを合計で72質量%以上85質量%以下含有する水溶液からなることが好ましい。このような粉塵防止剤における(A)成分、(B)成分、(C)成分及び水の比率や含有量、(C)成分のエチレンオキサイド平均付加モル数等は、前記と同じであればよい。
【実施例】
【0061】
(1)水硬性粉体
・高炉B種セメント:住友大阪セメント株式会社製高炉B種セメント
【0062】
(2)粉塵防止剤
粉塵防止剤A−1〜A−9、A−11及びR−1〜R−13は、表1の成分を用いて水溶液を調製し、固化材を製造する際に用いる粉塵防止剤を得た。粉塵防止剤A−10は後述する製造例により得た。
【0063】
(3)粉塵防止剤の粘度
表1に示す粉塵防止剤の25℃における溶液粘度をB型粘度計で測定し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。数字が低いほど、噴霧による添加が容易である。
200mPa・s超:×
150mPa・s超200mPa・s以下:△
100mPa・s超150mPa・s以下:○
10mPa・s超100mPa・s以下:◎
【0064】
(4)粉塵防止剤の引火点
危険物の指標として、粉塵防止剤の引火点の有無を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
引火点あり:×
引火点なし:○
【0065】
(5)固化材の製造
水硬性粉体として普通セメント1000gをモルタルミキサー(ダルトン製万能混合撹拌機、5DM−03−r、低速62rpm)で撹拌しながら、表1に示す粉塵防止剤を所定量滴下し、滴下終了後6分間撹拌して、表2の固化材を調製した。なお、水硬性粉体及び粉塵防止剤は20℃に調整したものを用いて混合した。
【0066】
(6)固化材の発塵抑制性
(5)で得られた固化材(混合温度が20℃のもの)を密封式のナイロン袋に全量移し、3、7、14日静置して貯蔵後、ふるい試験(ふるい目開き500μm)を行い、ふるい残量(全固化材に対する質量%)を測定した。貯蔵温度は、0℃、20℃、40℃の3水準とした。ふるいに残った固化材は適度に湿潤しており、粗大な粒子群を形成しているが、弱い力で簡単に崩壊させることができる。この状態の固化材は、使用時の散布や計量などの際に、粉塵の発生が抑制されたものとなる。結果を表2に示す。
【0067】
(7)固化材の水和物生成の確認
前記発塵抑制性におけるふるい試験の14日静置後のものについて、ふるい上に残っている固化材を指で軽く濾し、さらにふるい上に残る固化材量(全固化材に対する質量%)を測定し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
10質量%以上:×
1質量%以上10質量%未満:△
1質量%未満:○
【0068】
【表1】
【0069】
表中の記号は以下の通りである。
DEG:ジエチレングリコール
MEPEG(9):メタノールエチレンオキサイド平均9モル付加物
MEPEG(23):メタノールエチレンオキサイド平均23モル付加物
PEG400:重量平均分子量400のポリエチレングリコール
3−MPD:3−メトキシプロパン−1,2−ジオール
3−EPD:3−エトキシプロパン−1,2−ジオール
3−BPD:3−ブトキシプロパン−1,2−ジオール
【0070】
*1 粉塵防止剤の有効分は、水以外の成分である。
*2 粉塵防止剤A−10は、下記製造例で得た。
〔粉塵防止剤A−10の製造例〕
(1)触媒の製造
エチルホスホン酸9.9gと、85%オルトリン酸27.7g、硝酸アルミニウム(9水和物)112.5gを水1000gに溶解させた。室温(25℃)にて、この混合溶液にアンモニア水溶液を滴下し、pHを5まで上昇させた。途中、ゲル状の白色沈殿が生成した。沈殿をろ過し、水洗後、110℃で15時間乾燥し、60メッシュ以下に粉砕した。粉砕した触媒に対して、アルミナゾルを10%添加し、1.5mmφの押出し成形を行った。これを250℃で3時間焼成して、固体酸触媒の成形触媒(以下、触媒1という)を得た。得られた触媒の弱酸点は1mmol/g、強酸点は検出限界以下であった。ここで、弱酸点とはアンモニア吸着脱離法において100〜250℃の範囲でNHの脱離を起こす点、強酸点とはアンモニア吸着脱離法において250℃より高い温度でNHの脱離を起こす点である。
【0071】
(2)混合物(1)の製造
工程1:エステル化
温度測定用に内径6mmの管を軸方向に有する、内径35.5mmφ、長さ800mmHの反応菅を2本直列につなぎ、触媒1をそれぞれ500cmずつ充填した。油脂としては酸価0.3mgKOH/gの椰子油を用い、これとメタノール(関東化学株式会社製、試薬1級)を反応器上部より供給し(フィード方法:並流操作)、反応温度170℃、液空間速度(LHSV)0.2/h、反応圧力3.0MPaで反応を行った。メタノールは油脂のモル数に対し10倍で供給し、反応混合物を得た。
【0072】
工程2:油水分離
容量1000mlの分液ロートに、工程1で得られた反応混合物500gと水50gを加えて振とうし、25℃で30分間静置後、グリセリン相(水相)と油相を分離した。
【0073】
工程3:(A)成分を含む混合物(1)の回収
容量200mlのフラスコに、工程2で得られたグリセリン相を入れ、9kPa、120℃にて蒸留してメタノールと水を留去した。その後、更に0.1kPa、180℃にて蒸留し、留去物として酸価0.76mgKOH/gの混合物(1)を得た。グリセリン相に対する混合物(1)の収率(重量)は3.7%であった。
【0074】
得られた混合物(1)は、(A)成分等をガスクロマトグラフィー法(スペルコ社製、OVI−G43カラム)により定量した。混合物(1)の組成は、以下の通りであった。
・3−メトキシプロパン−1,2−ジオール:67.9質量%
・2−メトキシプロパン−1,3−ジオール:21.9質量%
・1,2,3−プロパントリオール : 2.1質量%
・その他 : 8.1質量%
混合物(1)に含まれる3−メトキシプロパン−1,2−ジオール及び2−メトキシプロパン−1,3−ジオールは(A)成分、1,2,3−プロパントリオールは(B)成分である。なお、表中では、2−メトキシプロパン−1,3−ジオールを2−MPDと表示した。
【0075】
(3)粉塵防止剤A−10の製造
混合物(1)20質量部とグリセリン10質量部とメタノールエチレンオキサイド平均9モル付加物(MEPEG(9))45質量部と水25質量部とを混合し、水溶液(粉塵防止剤A−10)を調製した。
粉塵防止剤A−10は、(A)成分18.0質量%、(B)成分10.4質量%、(C)成分45.0質量%、その他成分1.6質量%、水25.0質量%を含有する。(B)成分は、混合物(1)に由来する分と別途混合した分との合計である。
【0076】
【表2】
【0077】
*1 表中、粉塵防止剤の添加量は、水硬性粉体100質量部に対する有姿での質量部である。
【0078】
表2から、実施例1〜14は、貯蔵温度0℃、20℃及び40℃での発塵抑制性及び水和物生成が優れることがわかる。
(B)成分及び(C)成分のみを含有する粉塵防止剤を用いた比較例5、6及び15から、粉塵防止剤の添加量が4.0質量部では実施例1〜14と同等の発塵抑制性及び貯蔵安定性を有するが(比較例5)、実施例1、2、4〜7、9〜11及び14と同じ添加量では、貯蔵温度40℃14日の発塵抑制性が劣る(比較例6及び15)ことがわかる。
また、比較例5、6と実施例2、3との対比から、(A)成分と(B)成分と(C)成分とを含有する粉塵防止剤を所定条件で用いることで、粉塵防止剤の添加量を少なくしても、十分な粉塵抑制効果が発現することがわかる。
(A)成分が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の含有量の合計100に対して、5未満である粉塵防止剤を用いた比較例7、また、前記比率が35を超える比較例10は、貯蔵温度0℃、20℃及び40℃での発塵抑制性が劣ることがわかる。
(B)成分が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の含有量の合計100に対して、5未満である粉塵防止剤を用いた比較例8、また、前記比率が35を超える比較例9は、貯蔵温度0℃、20℃及び40℃での発塵抑制性が劣ることがわかる。
(C)成分が、(A)成分と(B)成分と(C)成分の含有量の合計100に対して、40未満である粉塵防止剤を用いた比較例9〜11は、貯蔵温度0℃、20℃及び40℃での発塵抑制性が劣ることがわかる。
(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計が72質量%未満である粉塵防止剤を用いた比較例12は、水和物生成が劣ることがわかる。
(C)成分のエチレンオキサイドの平均付加モル数が20を超える粉塵防止剤を用いた比較例13は、貯蔵温度0℃及び20℃での発塵抑制性が劣ることがわかる。
水硬性粉体100質量部に対して、(A)成分と(B)成分と(C)成分の合計が1質量部未満である比較例14は、貯蔵温度0℃、20℃及び40℃での発塵抑制性が劣ることがわかる。