特許第6371196号(P6371196)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371196アンカー施工用治具およびアンカー施工ユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371196
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】アンカー施工用治具およびアンカー施工ユニット
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20180730BHJP
   F16B 13/10 20060101ALI20180730BHJP
   F16B 35/04 20060101ALI20180730BHJP
   B23Q 1/00 20060101ALN20180730BHJP
【FI】
   E04B1/41 503G
   F16B13/10 C
   F16B35/04 C
   !B23Q1/00 S
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-219443(P2014-219443)
(22)【出願日】2014年10月28日
(65)【公開番号】特開2016-84658(P2016-84658A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390022389
【氏名又は名称】サンコーテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 康衛
(72)【発明者】
【氏名】戸邉 勉
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】石野 達也
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−203097(JP,A)
【文献】 特開2003−293460(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0085168(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
F16B 13/10
F16B 35/04
B23Q 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔および拡張部を有する筒状のスリーブと、前記スリーブを打込むことで前記拡張部を拡張させるアンカーボルトと、を備えた拡開アンカーの施工に用いられるアンカー施工用治具であって、
施工時の打ち込み力を前記スリーブに付与する本体部と、
前記本体部に形成され、前記アンカーボルトの一部を内部に臨ませることで前記拡開アンカーの施工完了確認を可能とする開口窓と、を備える
アンカー施工用治具。
【請求項2】
前記開口窓の開口端に設けられ、前記スリーブの打込み量を示唆する打込み量示唆部をさらに備える
請求項1に記載のアンカー施工用治具。
【請求項3】
前記打込み量示唆部を複数備える
請求項2に記載のアンカー施工用治具。
【請求項4】
前記打込み量示唆部は、前記スリーブが所定量だけ打ち込まれて施工が完了した前記アンカーボルトのボルト先端の位置に基づいて設定されている
請求項2又は3に記載のアンカー施工用治具。
【請求項5】
前記拡開アンカーの施工が完了した際に、前記アンカーボルトにマーキング可能なマーキング部をさらに備える
請求項1〜4のいずれか一項に記載のアンカー施工用治具。
【請求項6】
前記マーキング部は、前記本体部に対して着脱可能である
請求項5に記載のアンカー施工用治具。
【請求項7】
前記マーキング部は、前記アンカーボルトのボルト先端に前記マーキングを付与する
請求項5又は6に記載のアンカー施工用治具。
【請求項8】
貫通孔および拡張部を有する筒状のスリーブと、ボルト部および頭部を含み、前記スリーブを打込むことで前記頭部により前記拡張部を拡張させるアンカーボルトとを含む拡開アンカーと、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のアンカー施工用治具と、を有する
アンカー施工ユニット。
【請求項9】
前記アンカーボルトは、前記スリーブが所定量だけ打ち込まれることで施工が完了した状態を示唆する施工完了示唆部を有する
請求項8に記載のアンカー施工ユニット。
【請求項10】
前記ボルト部は、先端に、前記アンカーボルトに関する所定の情報が刻印されている
請求項8又は9に記載のアンカー施工ユニット。
【請求項11】
前記アンカーボルトは、前記頭部の先端に設けられ、該頭部よりも外径が小さい凸部材と、を含む
請求項8〜10のいずれか一項に記載のアンカー施工ユニット。
【請求項12】
前記凸部材は、前記頭部に対して着脱可能とされる
請求項11に記載のアンカー施工ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー施工用治具およびアンカー施工ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート躯体等の母材への取付物(パネル、シート等を含む)の固定、複数層からなる母材の層間結着等に用いられるアンカーとして、拡開アンカーが多用されている。拡開アンカーは、コンクリート躯体等の母材に穿孔した下孔に挿入し、先端部(拡張部)を拡張させることにより前記母材に固着される。このような拡開アンカーとしては、スリーブ打ち込み式拡開アンカーなどが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭56−46111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のスリーブ打ち込み式拡開アンカーでは、作業者がハンマーの手応えや打撃音を施工完了の目安としていた。そのため、作業者の技能差によっては、例えば、正常に施工が完了していないのに施工が完了しているものとして判断されてしまい、施工信頼性を低下させるおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、信頼性の高いアンカー施工を可能とするアンカー施工用治具およびアンカー施工ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に従えば、貫通孔および拡張部を有する筒状のスリーブと、前記スリーブを打込むことで前記拡張部を拡張させるアンカーボルトと、を備えた拡開アンカーの施工に用いられるアンカー施工用治具であって、施工時の打ち込み力を前記スリーブに付与する本体部と、前記本体部に形成され、前記アンカーボルトの一部を内部に臨ませることで前記拡開アンカーの施工完了確認を可能とする開口窓と、を備えるアンカー施工用治具が提供される。
【0007】
上記第一態様においては、前記開口窓の開口端に設けられ、前記スリーブの打込み量を示唆する打込み量示唆部をさらに備える構成としても良い。
【0008】
上記第一態様においては、前記打込み量示唆部を複数備える構成としても良い。
【0009】
上記第一態様においては、前記打込み量示唆部は、前記スリーブが所定量だけ打ち込まれて施工が完了した前記アンカーボルトのボルト先端の位置に基づいて設定されている構成としても良い。
【0010】
上記第一態様においては、前記拡開アンカーの施工が完了した際に、前記アンカーボルトにマーキング可能なマーキング部をさらに備える構成としても良い。
【0011】
上記第一態様においては、前記マーキング部は、前記本体部に対して着脱可能である構成としても良い。
【0012】
上記第一態様においては、前記マーキング部は、前記アンカーボルトのボルト先端に前記マーキングを付与する構成としても良い。
【0013】
本発明の二態様に従えば、貫通孔および拡張部を有する筒状のスリーブと、ボルト部および頭部を含み、前記スリーブを打込むことで前記頭部により前記拡張部を拡張させるアンカーボルトとを含む拡開アンカーと、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアンカー施工用治具と、を有するアンカー施工ユニットが提供される。
【0014】
上記第二態様においては、前記アンカーボルトは、前記スリーブが所定量だけ打ち込まれることで施工が完了した状態を示唆する施工完了示唆部を有する構成としても良い。
【0015】
上記第二態様においては、前記ボルト部は、先端に、前記アンカーボルトに関する所定の情報が刻印されている構成としても良い。
【0016】
上記第二態様においては、前記アンカーボルトは、前記頭部の先端に設けられ、該頭部よりも外径が小さい凸部材と、を含む構成としても良い。
【0017】
上記第二態様においては、前記凸部材は、前記頭部に対して着脱可能とされる構成としても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、開口窓部により拡開アンカーの施工完了を目視により確認することができる。よって、作業者の技能差によらず、アンカーの施工完了を簡便且つ確実に判断されるので、施工不良の発生が抑制され、結果的に信頼性の高いアンカー施工を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のアンカー施工ユニットの概略構成を示す図である。
図2】本実施形態のアンカーの概略構成を示す図である。
図3】本実施形態の治具の概略構成を示す図である。
図4】アンカー施工ユニットによる取付物の母材への固定工程を示す図である。
図5】本実施形態のアンカーの拡張部による機能を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
本発明に係る一実施形態のアンカー施工用治具およびこれを備えたアンカー施工ユニットについて図面を参照して説明する。本実施形態のアンカー施工用治具は、スリーブ打ち込み式アンカー(以下、単にアンカーと呼ぶ)の施工に用いるものである。また、本実施形態のアンカー施工ユニットは、上記アンカーと本発明のアンカー施工用治具(以下、単に治具と呼ぶ)とをユニット化したものである。
【0021】
図1は、本実施形態のアンカー施工ユニットの概略構成を示す図である。図2は、本実施形態のアンカーの概略構成を示す図である。図3は、本実施形態の治具の概略構成を示す図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のアンカー施工ユニット1は、アンカー100と、該アンカー100の施工に用いられる治具110と、を備えている。
【0023】
図1、2に示すように、アンカー100は、スリーブ10と、アンカーボルト20とを備えている。
スリーブ10には、後端10aから先端10bにかけて断面円形の貫通孔11が形成されている。貫通孔11にはアンカーボルト20が容易に取り外し可能な状態で挿入されている。
【0024】
スリーブ10は、後端10aの近傍の表面に確認マーカー24が形成されている。確認マーカー24は、アンカー100を施工する下孔の穿孔深さが正しいか否かの判断を行う指標として利用される。なお、下孔の穿孔深さは、施工するアンカー100に応じて適宜設定される。
【0025】
スリーブ10は、先端10bを含む部分である先端部12に、先端10bから後端方向に向けて、長さ方向に沿う複数のスリット13が形成されている。スリーブ10は、これら複数のスリット13によって、先端部12が複数の突片状の拡張部14に分割されている。本実施形態において、スリット13は例えば、周方向に90°間隔で4つ形成されている。これにより、スリーブ10は、先端部12が4つの拡張部14に分割されている。
【0026】
拡張部14は、アンカーボルト20により外方に押圧されたときに径方向外方(拡張方向)に変形可能である。拡張部14は、後端10aから先端10b側に向かって肉厚を薄くするように内面14aがテーパー状となっている。
【0027】
アンカーボルト20は、ボルト部21と頭部22と施工確認マーカー(施工完了示唆部)26を有する。ボルト部21は、外面に雄ネジが形成される。施工確認マーカー26は、ボルト部21の表面に形成されている。スリーブ10を打込まない状態において、施工確認マーカー26はスリーブ10の貫通孔11内に隠れている(図2参照)。施工確認マーカー26は、スリーブ10が所定量だけ打ち込まれることでアンカー100の施工が完了した状態を示唆する。施工確認マーカー26は、例えば、着色インクや印刷や溝加工により形成されたマーキング線から構成される。
【0028】
頭部22は、ボルト部21の基部21bに連結され、該基部21bに向かって外径を狭めるテーパー面22aと、該テーパー面22aから下方に延びる側面22bと、側面22bの下方に設けられた下面22cとを有する。
【0029】
本実施形態では、頭部22は、下面22cに凸部材23が設けられている。凸部材23は、頭部22(側面22b)の外径よりも小さい円柱状の部材である。凸部材23の中心軸は、頭部22の中心軸に一致している。そのため、平面視した状態において、凸部材23および頭部22の外径は同心円状となっている。
【0030】
本実施形態において、凸部材23は、頭部22と一体に形成されている。
なお、凸部材23は、頭部22と別体で形成されていてもよく、この場合、凸部材23は頭部22に対して着脱可能とされていても良い。このように凸部材23が着脱可能であれば、アンカー100を施工する母材の状況(材質や施工孔の内径)に応じて、適切な外径や高さの凸部材23を用いることができる。
【0031】
また、凸部材23が着脱可能な場合においては、凸部材23がアンカーボルト20の構成材料と同じ金属で形成されていても良いし、アンカーボルト20を構成する主材料である金属とは別の樹脂材料で形成されていても良い。
【0032】
本実施形態のようなスリーブ打ち込み式のアンカー100は、スリーブ10が下孔(施工孔)に打ち込まれると、アンカーボルト20の頭部22が先端部12に入り込む。拡張部14は、アンカーボルト20の頭部22により外方に押圧されることで径方向外方(拡張方向)に変形する。これにより、拡張部14が施工孔の内部で押し拡がることでアンカー100が母材に形成された下孔の内壁面にくさび状に固着され良好に保持される。
【0033】
図1、3に示すように、治具110は、本体部30と、本体部30に形成された開口窓31と、施工完了ライン(挿入量示唆部)32と、マーキング部33と、を備えている。治具110は、アンカー100の施工を施工する際に用いるハンマードリルに装着される。治具110は、ハンマードリルからの打撃力(打ち込み力)をスリーブ10に伝達するための治具である。
【0034】
本体部30は、金属製の筒状部材から構成される。本体部30は、一端30a側から、施工するアンカー100のアンカーボルト20(ボルト部21)を内部に挿入可能である。本体部30の一端30aは、スリーブ10とほぼ同じ外径を有しており、ボルト部21を内部に挿入させた際にスリーブ10に接触する。これにより、本体部30は、スリーブ10に対してハンマードリルからの打撃力を効率良く伝達する。
【0035】
開口窓31は、本体部30の内部に挿入されたボルト部21の一部を露出させる。ここで、スリーブ10が打ち込まれると、スリーブ10およびアンカーボルト20の相対位置が変化する。すなわち、治具110によりスリーブ10が打ち込まれるにつれて、開口窓31内に露出するボルト部21の先端21aの位置が変化するようになっている。
【0036】
本実施形態では、スリーブ10のアンカーボルト20に対する打込み量を示唆する指標となる施工完了ライン(打込み量示唆部)32を備えている。施工完了ライン32は、開口窓31の開口端縁に、例えば、着色インクや印刷や溝加工により形成されたマーキング線から構成されている。
【0037】
施工完了ライン32は、スリーブ10が所定量だけ打ち込まれることで施工が完了したアンカーボルト20のボルト部21の先端21aの位置に基づいて設定されている。すなわち、開口窓31内に露出するボルト部21の先端21aが施工完了ライン32に一致した状態とは、スリーブ10の打ち込みが完了した状態を意味する。
【0038】
本実施形態において、施工完了ライン32は、例えば、複数のマーキング線32a、32b、32cを含む。各マーキング線32a、32b、32cは、それぞれ施工するアンカー100のアンカーボルト20の長さに応じて設定されている。すなわち、各マーキング線32a、32b、32cを指標として用いることが可能なため、本実施形態の治具110は、3種類のアンカー100について兼用することが可能である。なお、複数のマーキング線32a、32b、32cは、例えば、互いに異なる色となっている。これによれば、色の違いにより容易にマーキング線32a、32b、32cを判別することができ、施工完了時の判断を容易且つミスなく確実に行うことができる。なお、施工完了ライン32におけるマーキング線の数は3つに限定されることは無く、4つ以上あっても良いし、1つのマーキング線のみから構成されていても良い。また、各マーキング線32a、32b、32cは、全て同じ色であっても良い。また、各マーキング線32a、32b、32cの太さがそれぞれ異なっていても良いし、全て同じ太さでも良い。
【0039】
マーキング部33は、アンカー100の施工が完了した際に、アンカーボルト20の先端21aにマーキングする。
【0040】
マーキング部33は、施工完了ライン32(例えば、マーキング線32b)まで到達したボルト部21の先端21aに接触可能とされている。ボルト部21の先端21aが施工完了ライン32まで到達しなければ(すなわち、スリーブ10の打ち込みが完了しなければ)、先端21aはマーキングされない。マーキング部33は、バネ部材等によりボルト部21の先端21aに対して所定の付勢力を付与するようになっている。これにより、マーキング部33は、先端21aに過剰に負荷を与えることなく良好にマーキングを行うことが可能となっている。
【0041】
マーキング部33が付与する情報としては、例えば、施工されたアンカーボルト20の埋め込み長さや、アンカーの種類(金属系アンカー又は接着系アンカー)を例示することができる。また、マーキング部33によるマーキング方法としては、特に限定されず、例えば、所定の文字情報を刻印により打刻する方式、或いはインク等によるスタンプ方式等を採用することが可能である。なお、アンカーボルト20として、初めから、上記アンカーの種類(金属系アンカー又は接着系アンカー)に関する情報が先端21aに刻印されていることも想定される。この場合、マーキング部33は、初めからの刻印部に重ならないように先端21aに情報をマーキングすればよい。
【0042】
本実施形態において、マーキング部33は、本体部30に対して着脱自在とされている。本体部30には、マーキング部33を着脱自在とするための開閉部(不図示)が設けられていても良い。
【0043】
このような構成に基づき、本実施形態では、マーキング部33を交換することでアンカーボルト20に対して様々な情報を付与することが可能となっている。よって、施工完了後のアンカーボルト20の先端21aを目視すれば、第三者であってもアンカー100の施工条件を容易に把握できるので、施工管理を容易に行うことができる。
【0044】
(施工方法)
次に、図4を参照しつつ、アンカー施工ユニット1を用いて、取付物70を母材60に固定する施工方法を説明する。
アンカー100による固定対象物である取付物70は、例えばアングルやサドルなどの取付用金具である。各種機械や装置などの器物は、取付物70を介して母材60に固定することができる。また、器物を直接、アンカー100を介して母材60に固定することもでき、この場合、取付物70は器物である。
【0045】
(穿孔工程)
図4(a)に示すように、回転工具(図示略)に連結したドリル部材40によって母材60に下孔(アンカー施工孔)61を穿孔する。本実施形態では、ドリル部材40にストッパー41を取り付けている。ストッパー41は、所定深さまで穿孔が到達した際、ドリル部材40による穿孔を抑制する。これにより、ドリル部材40による所定の穿孔深さを確保することができる。
【0046】
本実施形態では、ドリル部材40として、例えば吸塵ドリルを用いた。ドリル部材40は、先端から基部へと延びる貫通孔(図示略)が形成されており、基部に接続された吸塵機(図示略)によって穿孔時に生じた切粉を排出しながら下孔61を形成する。
よって、例えば上向き施工時の切粉の飛散を防止したりドリル部材40を下孔61から引き抜いた後、下孔61の穴底に切粉が残り埋め込み長さが不足したり、打ち込み不足が生じるといった不具合の発生が防止される。
【0047】
なお、ドリル部材40は吸塵機能有しない通常のドリルを用いても良く、上記ストッパー41を組み合わせて用いても良い。通常のドリルを用いる場合、下孔61内に吸引管等を挿入し、内部を清掃する清掃工程を設ければよい。
また、上記ストッパー41に代えて、ドリルに穿孔深さを示すラインを形成するようにしてもよい。例えば、該ラインは、着色インクで形成したものであってもよいし、溝加工により形成したものであってもよい。
【0048】
(挿入工程)
図4(b)に示すように、アンカー100の先端側である、アンカーボルト20の頭部22およびスリーブ10の拡張部14を、下孔61内に挿入する。このとき、スリーブ10に形成された確認マーカー24が下孔61内に隠れているか否かを確認する。
【0049】
ここで、確認マーカー24が下孔61内に隠れている場合、上述の穿孔工程による下孔61の穿孔深さが十分であり、アンカー100(アンカーボルト20およびスリーブ10)が穴底まで確実に挿入されたことを意味する。
【0050】
一方、確認マーカー24が下孔61内に隠れておらず目視で確認できる場合、下孔61の穿孔深さが不十分であることを意味する。この場合、孔底に残った切粉を取り除く清掃処理を行ったり、十分な穿孔深さが得られるように穿孔工程をやり直す必要がある。
【0051】
本実施形態において、アンカーボルト20は、下孔61内に挿入されると凸部材23が下孔61の底部に当接する。ここで、ドリルにより穿孔された下孔61は底部が略円錐状となっている。本実施形態によれば、円柱状の凸部材23が下孔61は円錐状の底部に当接することにより、アンカーボルト20およびスリーブ10が下孔61の中心に良好に配置されるようになる。
【0052】
(打ち込み工程)
続いて、図4(c)に示すように、治具110を不図示のハンマードリルに取り付け、治具110を介してスリーブ10に打撃力を加える。これにより、スリーブ10は下孔61内に打ち込まれる。スリーブ10が打ち込まれて下方に移動すると、下孔61により位置が規制されたアンカーボルト20の頭部22が拡張部14を外方に押圧して拡張する(図2参照)。
【0053】
本実施形態では、アンカーボルト20が上述のように凸部材23が下孔61の底部に当接しているので、打ち込み時の反力を拡張部14側に十分に伝達して拡張部14が容易に拡張する。また、凸部材23によって、アンカーボルト20およびスリーブ10の中心が下孔61の中心に一致した状態となっているため、4つの拡張部14を均等に拡張させることができる。
したがって、本実施形態によれば、拡張部14が安定して機能することで下孔61の内面61aに係止する。よって、高い施工信頼性を得ることができる。
【0054】
図5は、本実施形態のアンカー100の拡張部14による機能を説明するための図であり、図5(a)は施工後の状態を示し、図5(b)は引張試験後の状態を示している。
【0055】
本実施形態のアンカー100は、図5(a)に示すように、拡張部14の内面14aがスリーブ10の先端10b側に向かって肉厚を薄くするテーパー状となっている。一方、アンカーボルト20のテーパー面22aは、拡張部14と反対に、基部21b側に向かって外径を狭めるテーパー状となっている。
【0056】
このような構成に基づき、テーパー状の拡張部14がテーパー面22aに沿って拡張すると、拡張部14の表面が下孔61の内面61aに対する接触面積が大きくなる。よって、拡張部14の食い込み部25は、下孔61の内面61aにくさび状に食い込むことで大きな摩擦力を生じさせることで高い施工信頼性を実現している。
【0057】
また、アンカー100に対して引張力を付与すると(引張試験を行うと)、図5(b)に示すように、下孔61の内面61aと平行な面である頭部22の側面22bが拡張部14の内面14aに楔状に入り込むことで該拡張部14の先端が樽状の大きな拡張形状へと変化し、拡張部14の食い込み部25が下孔61の内面61aに食い込むことで大きな抵抗力(摩擦力)を発生させる。
【0058】
よって、本実施形態のアンカー100は、テーパー状の拡張部14とテーパー面22aを備えた頭部22とを備えることで、従来のスリーブ打ち込み式アンカーに比べ大きな抵抗力により、アンカーボルト20の破断強度まで到達するより高い引張性能が得られることが実験により確認された。
【0059】
ところで、従来、スリーブ打ち込み式のアンカーを施工する場合、作業者がハンマーの手応えや打撃音を施工完了の目安としていた。そのため、作業者の技能差によっては、正常に施工が完了していない場合でも施工が完了しているものとして判断されてしまい、施工信頼性を低下させるおそれがあった。
【0060】
これに対し、本実施形態では、治具110を用いてスリーブ10の打ち込みを行うことで上記問題を解決している。
具体的に、作業者は、治具110の本体部30に形成された開口窓31によりボルト部21の先端21aの位置を確認しながら打ち込み作業を行う。作業者は、開口窓31内に露出するボルト部21の先端21aが施工完了ライン32に一致するまで打ち込み作業を行う。
【0061】
本実施形態では、施工するアンカーボルト20の長さに対応したマーキング線32a、32b、32cを選択し、該選択したマーキング線を施工完了の判断目安として利用する。本実施形態では、例えば、マーキング線32bを施工完了の目安として利用した。
【0062】
作業者は治具110を用いることで、アンカー100の施工完了を目視確認で簡便且つ確実に行うことができる。よって、作業者の技能差によらず、同じ判断基準で施工完了が判断されるので、施工性に優れるとともに信頼性の高い施工が実現できる。
【0063】
また、アンカー100の施工が完了すると、所定量だけ打ち込まれたスリーブ10が下孔61内に入り込んでボルト部21に設けられた施工確認マーカー26が外部に露出した状態となる。作業者だけでなく管理者も、施工確認マーカー26を目視で確認することによってもアンカー100の施工完了を判定可能である。
【0064】
従来、アンカー施工後の管理や確認が行われている。アンカー施工後は、下孔内にスリーブやアンカーボルトが隠れてしまうため、スリーブが十分に打ち込まれているか目視で確認することができない。また、施工後に、アンカーボルトの下孔に対する埋め込み長さがどの程度であるかを確認することができなかった。
【0065】
本実施形態では、アンカー100の施工が完了した際、マーキング部33によりアンカーボルト20の先端21aがマーキングされる。よって、スリーブ10の打ち込みが正常に完了(施工完了)したアンカーボルト20のみにマーキングによって所定の情報(例えば、アンカーボルト20の埋め込み長さ)を付与できる。
【0066】
よって、施工後の確認を行う場合、施工確認者はアンカーボルト20(ボルト部21)の先端21aのマーキングを目視することで、例えば、アンカーボルト20の埋め込み長さを容易且つ確実に確認することができる。
【0067】
以上述べたように、本実施形態のアンカー施工ユニット1によれば、治具110を利用することでアンカー100の施工完了を目視により確認することができる。
また、治具110を用いて施工したアンカー100は、アンカーボルト20に埋め込み長さなどの施工確認時に必要とされる情報がマーキングされるため、施工確認者が該マーキングを目視することで施工後の確認を簡便且つ確実に行うことができる。
【0068】
また、アンカー施工ユニット1は上記アンカー100を組み合わせることにより、アンカーボルト20の破断強度まで達する高い引張性能を得ることが可能である。よって、アンカー施工ユニット1によれば、施工管理性に優れるとともに高い施工信頼性を備えた付加価値の高い作業を作業者の技能によらず安定して行うことができる。
【0069】
(固定工程)
最後に、図4(d)に示すように、母材60の下孔61に施工されたアンカーボルト20に取付物70に取り付けた後、ナット80をアンカーボルト20のボルト部21に固定することで取付物70が母材60に固定される。
【0070】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
【0071】
例えば、本実施形態では、施工完了ライン32をスリーブ10の打ち込み作業の完了目安として用いたが、施工完了ライン32が設けられていなくてもよい。例えば、開口窓31内に露出しているボルト部21の長さを測定することでスリーブ10の打ち込み作業が完了しているか否かを判定するようにしても良い。この場合、予め、スリーブ10の打ち込み作業が完了した場合のボルト部21の露出量を測定し、該測定値を閾値として利用すればよい。
【0072】
また、上記実施形態では、ボルト部21の先端21aが施工完了ライン32に到達した際にマーキング部33が自動的にマーキングを行う構成を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、先端21aが施工完了ライン32に到達したことを確認した作業者が、例えば、マーキング部33を手動で動かすことで先端21aにマーキングする構成であっても良い。
【0073】
また、上記実施形態では、治具110がマーキング部30を備える場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、治具110の構成からマーキング部30を省略しても良い。この構成においても、作業者は開口窓31内に露出するボルト部21の先端21aが施工完了ライン32に一致するようにスリーブ10の打ち込み作業を行うことでアンカー100の施工完了を目視確認で簡便且つ確実に行うことができる。よって、作業者の技能差によらず、同じ判断基準で施工完了が判断されるので、施工性に優れるとともに信頼性の高い施工が実現できる。
【符号の説明】
【0074】
1…アンカー施工ユニット、10…スリーブ、11…貫通孔、14…拡張部、20…アンカーボルト、22…頭部、23…凸部材、26…施工確認マーカー(施工完了示唆部)、30…本体部、31…開口窓、32…施工完了ライン(打込み量示唆部)、33…マーキング部、60…母材、61…下孔(アンカー施工孔)、100…アンカー、110…治具。
図1
図2
図3
図4
図5