特許第6371210号(P6371210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6371210オフセット印刷用インキ組成物の製造方法
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  • 特許6371210-オフセット印刷用インキ組成物の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371210
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】オフセット印刷用インキ組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20180730BHJP
【FI】
   C09D11/10
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-255447(P2014-255447)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-113591(P2016-113591A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峰
(72)【発明者】
【氏名】白武 綾
(72)【発明者】
【氏名】望月 保嗣
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/109430(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/103950(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/100944(WO,A1)
【文献】 特開2012−041434(JP,A)
【文献】 特開2011−094052(JP,A)
【文献】 特開2006−016514(JP,A)
【文献】 特開2012−241024(JP,A)
【文献】 特開2011−074112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油成分を含む置換用流体、及び少なくとも水を含む湿潤剤で湿潤された湿潤カーボンブラックを混合させる混合工程と、
前記混合工程を経た混合物から前記湿潤剤を除去する除去工程と、
前記除去工程を経た混合物に、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及び石油樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂成分を含むワニスを添加するインキベース調製工程と、を含むオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、
前記置換用流体には、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキッド樹脂が含まれないことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項2】
前記湿潤カーボンブラックに含まれるカーボンブラックが、中性カーボンブラックである請求項1記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記中性カーボンブラックは、DBP吸油量が60〜120cm/100gであり、平均一次粒子径が15〜70nmである請求項2記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項4】
前記湿潤カーボンブラックが、カーボンブラック300質量部に対して前記湿潤剤を100〜1200質量部で湿潤させる湿潤工程で調製されたものである請求項1〜3のいずれか1項記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法
【請求項5】
前記置換用流体に含まれる油成分が重質油を少なくともその一部として含有し、前記重質油には、ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物、又は40℃における動粘度が4mm/s以上1650mm/s以下のマシン油が含まれる請求項1〜4のいずれか1項記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【請求項6】
前記置換用流体が、ギルソナイト又はその抽出物を含む請求項1〜5のいずれか1項記載のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷用の墨インキ組成物は、樹脂成分及び油成分からなるワニス中にカーボンブラックが分散されて調製されるものであり、このカーボンブラックの分散の程度により発色性に大きな影響を与える。一般には、カーボンブラックがワニス中に細かく分散するほど発色性が良好になる傾向がある。また、オフセット輪転印刷機を用いて印刷する場合にしばしば問題となる、ブランケットやガイドローラーへのインキ残渣の付着も、カーボンブラックの分散性が悪い場合に特に顕著になる場合がある。これらのことから、いかにカーボンブラックをワニス中に細かく分散できるかが、墨インキ組成物の性能を左右する重要な要素になっている。
【0003】
こうした分散性の問題は、酸性カーボンブラックを用いることで解決される場合もある。酸性カーボンブラックは、カーボンブラックの粒子表面にカルボキシル基やフェノール性水酸基等が導入されたものであり、ロジン変性フェノール樹脂等といったインキ組成物に含まれる樹脂成分に対して高い親和性を備える。そのため、酸性カーボンブラックは、ワニス中に分散しやすい傾向があり、これにより良好な流動性を備え、かつブランケットやガイドローラーへインキ残渣の付着が少ないオフセット印刷用インキ組成物(以下、オフセット印刷用インキ組成物のことを単に「インキ組成物」とも呼ぶ。)を与える。
【0004】
しかしながら、酸性カーボンブラックは、一般に、中性カーボンブラックよりも高価であり、これを多用するとインキ組成物のコストを引き上げる原因にもなりかねない。また、酸性カーボンブラックを多用したインキ組成物を用いて新聞用更紙等のような浸透性の高い用紙に印刷を行うと、そうでないインキ組成物を用いて印刷を行った場合に比べて漆黒性が劣ったり、印刷後に時間の経過とともに紙面濃度が低下していくドライダウンという現象を生じたりする等の問題も生じがちである。
【0005】
これら漆黒性やドライダウンの問題は、一次粒子が高度なストラクチャーを形成し、ゆえに高いDBP(ジブチルフタレート)吸油量を備えた中性カーボンブラックを用いることにより解決する。このようなカーボンブラックは、酸性カーボンブラックよりはコストが安く、また、漆黒性に優れ、かつドライダウンの少ないインキ組成物を与える傾向にある。だが、そうしたカーボンブラックは、分散性が悪く、それを用いて調製されたインキ組成物で印刷を行った場合には、分散性の悪さに起因して、ブランケットやガイドローラーへのインキ残渣の付着が多くなる傾向がある。したがって、こうしたカーボンブラックを用いて漆黒性に優れ、かつドライダウンの少ないインキ組成物を調製するには、優れた分散効果を発揮するような製造方法を採用することが必要である。
【0006】
カーボンブラックの分散性を改善させるインキ組成物の製法として、例えば特許文献1には、予め、中性カーボンブラックと、インキ組成物で用いられる常温で固体の樹脂とを混練し、それを乾式粉砕した後、ワニス中に混合、分散させたオフセット印刷用墨インキ組成物が提案されている。しかし、そのような組成物を得るためには、アトライタやボールミル等のような粉砕を行うための設備が必要になるし、製造工程が長くなることによる高コスト化の懸念もある。
【0007】
また、特許文献2〜4には、少なくとも水を含有する湿潤剤でカーボンブラックを湿潤させた後に、ロジン変性フェノール樹脂やアルキッド樹脂等のインキ組成物用樹脂を含むワニスを加えてフラッシングし、次いで上記湿潤剤を除去する工程を備えたオフセット印刷用インキ組成物の製造方法が提案されている。このとき、少なくとも水を含む湿潤剤で湿潤されて水相環境に置かれていたカーボンブラックは、ワニスに含まれる油成分により油相へと置換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−025441号公報
【特許文献2】特許第4874955号公報
【特許文献3】特許第4874957号公報
【特許文献4】特許第4977010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2〜4に示されるように、ワニスと混合する前に水を含んだ湿潤剤でカーボンブラックを処理しておくことにより、カーボンブラックの分散性が向上し、インキ組成物の性能向上のみならず、カーボンブラックの分散に要するエネルギーを低減させることが可能になる。しかしながら、さらに高い分散性を備えることにより、ガイドローラーへの汚れ付着抑制効果や漆黒性等をさらに高めた製品が求められている現状もある。
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、カーボンブラックの分散性を向上させることにより、印刷時のガイドローラーへの汚れ付着を抑制するとともに、印刷物の漆黒性を向上させることのできるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、水を含んだ湿潤剤で湿潤された湿潤カーボンブラックを水相から油相に置換させるに際して、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキッド樹脂を含まない油成分と混合させ、この混合物から湿潤剤を除いた後でこれらの樹脂を含むワニスの添加を行うと、意外なことに、これらの樹脂を含んだワニスで上記のようにフラッシングをする場合よりもカーボンブラックの分散性が向上することを見出した。フラッシングは、顔料の分散処理も兼ねているため、これを行うに際しては顔料分散を助けるために樹脂を含んだワニスを用いるのが常識であるが、乾燥したカーボンブラックに対して湿潤を行ってこれを水相環境とし、その後これを油相環境に置換する場合には、樹脂が存在する状態で置換(すなわちこの場合はフラッシングとなる。)を行うよりも、樹脂が存在しない状態で置換を行った方がより良い分散が得られることを上記の結果は示唆している。本発明は、以上の知見によりなされたものであり、以下のようなものを提供する。
【0012】
本発明は、油成分を含む置換用流体、及び少なくとも水を含む湿潤剤で湿潤された湿潤カーボンブラックを混合させる混合工程と、上記混合工程を経た混合物から上記湿潤剤を除去する除去工程と、上記除去工程を経た混合物に、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及び石油樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂成分を含むワニスを添加するインキベース調製工程と、を含むオフセット印刷用インキ組成物の製造方法であって、上記置換用流体には、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及びアルキッド樹脂が含まれないことを特徴とするオフセット印刷用インキ組成物の製造方法である。
【0013】
上記の製造方法において、湿潤カーボンブラックに含まれるカーボンブラックが、中性カーボンブラックであることが好ましい。
【0014】
上記の製造方法において、中性カーボンブラックは、DBP吸油量が60〜120cm/100gであり、平均一次粒子径が15〜70nmであることが好ましい。
【0015】
上記の製造方法において、湿潤カーボンブラックが、カーボンブラック300質量部に対して上記湿潤剤を100〜1200質量部で湿潤させる湿潤工程で調製されたものであることが好ましい。
【0016】
上記の製造方法において、置換用流体に含まれる油成分が重質油を少なくともその一部として含有し、上記重質油には、ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物、又は40℃における動粘度が4mm/s以上1650mm/s以下のマシン油が含まれることが好ましい。
【0017】
上記の製造方法において、置換用流体が、ギルソナイト又はその抽出物を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、カーボンブラックの分散性を向上させることにより、印刷時のガイドローラーへの汚れ付着を抑制するとともに、印刷物の漆黒性を向上させることのできるオフセット印刷用インキ組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法の一実施態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法の一実施態様について説明する。なお、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。図1は、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の製造方法の一実施態様を示すフロー図である。
【0021】
<オフセット印刷用インキ組成物の製造方法>
本発明のオフセット印刷用インキ組成物(上記のように、「インキ組成物」とも呼ぶ。)の製造方法は、油成分を含む置換用流体、及び少なくとも水を含む湿潤剤で湿潤された湿潤カーボンブラックを混合させる混合工程(S2)と、上記混合工程を経た混合物から上記湿潤剤を除去する除去工程(S3)と、上記除去工程を経た混合物に、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及び石油樹脂からなる群より選択される少なくとも一つを含むワニスを添加するインキベース調製工程(S4)と、を含む。そして、本実施態様では、上記混合工程(S2)の前に、少なくとも水を含む湿潤剤でカーボンブラックを湿潤させる湿潤工程(S1)を備えるとともに、上記インキベース調製工程(S4)の後に、この工程で得られたインキベースを用いてインキ組成物を調製するインキ調製工程(S5)を備える。以下、各工程について説明する。
【0022】
[湿潤工程(S1)]
まず、湿潤工程(S1)について説明する。この工程では、少なくとも水を含む湿潤剤でカーボンブラックを湿潤させ、湿潤カーボンブラックが調製される。
【0023】
カーボンブラックは、インキ組成物に墨色の着色力を与える成分であり、カーボンブラックは、パウダーカーボンブラックであってもよいし、パウダーカーボンブラックをビーズ状に造粒したビードカーボンブラックであってもよい。
【0024】
また、カーボンブラックとしては、酸性カーボンブラック又は中性カーボンブラックのいずれを問わず用いることができる。酸性カーボンブラックとしては、カーボンブラックの表面をオゾン又は化学薬品等で酸化処理したものを挙げることができる。このようなカーボンブラックの表面には、フェノール性の水酸基やカルボキシル基等といった酸性の置換基が導入されており、これらの存在によりカーボンブラックが酸性を示すようになる。中性カーボンブラックは、上記のような酸化処理を受けておらず、表面に存在する酸性の置換基が乏しいものである。
【0025】
これらのカーボンブラックの中でも、特に、パウダータイプの中性カーボンブラックであり、DBP吸油量が60〜120cm/100gで平均一次粒子径が15〜70nmであるものを好ましく用いることができる。中性カーボンブラックは、酸性カーボンブラックに比べて分散性が乏しいという欠点があるが、酸性カーボンブラックに比べて、新聞用更紙等のように浸透性の高い印刷用紙に対して、漆黒性が高く、ドライダウンの少ないインキ組成物を与える傾向がある。こうした中性カーボンブラックの中でも、特に上記のような、DBP吸油量が60〜120cm/100gであり、平均一次粒子径が15〜70nmであるものは、高い漆黒性を備えたインキ組成物が得られるので好ましい。より好ましくは、DBP給油量が70〜120cm/100gであるものを挙げることができ、さらに好ましくは、DBP給油量が80〜120cm/100gであるものを挙げることができる。
【0026】
カーボンブラックは、ドメインと呼ばれる球形又はほぼ球形の一次粒子が、非常に壊れにくい一次凝集体(アグリゲート)を形成し、アグリゲートが集まってさらに大きな凝集体を形成している。このアグリゲートは、ブドウの房にも例えられる入り組んだ構造をしており、その発達具合はストラクチャーと呼ばれる。一般に高ストラクチャーのカーボンブラックは、アグリゲートの発達により高い空隙率を備えるので、吸油性が高くなる。そこで、カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート;可塑剤の一種である。)に対する吸油量(cm/100g)を測定し、その値をストラクチャーの発達具合の指標として用いている。なお、この値は、カーボンブラックのスペックとして、各銘柄別にカタログ等で公表されている。
【0027】
上記のように、DBP吸油量が60〜120cm/100gであるカーボンブラックを好ましく用いることができるが、本発明においては、より大きな、例えば80cm/100g以上のDBP吸油量を備えたカーボンブラックを用いることも可能である。このようなカーボンブラックは、インキ組成物の着色剤としてはかなり高ストラクチャーな部類に属する。こうした高ストラクチャーのカーボンブラックは、高い漆黒性が得られるとともに、ドライダウンの少ないインキ組成物を与える点で好ましいが、分散性が極めて乏しいので、これを単独で用いることができずに、酸性カーボンブラック等のように分散性の高いカーボンブラックと併用する必要があった。この点、本願発明の製造方法によれば、カーボンブラックを良好に分散させることができるので、こうした高ストラクチャーな中性カーボンブラックを用いることができ、良好な分散性と、高い漆黒性及び低ドライダウン性とを両立可能なインキ組成物を得ることができる。上記のような一次粒子径及びDBP吸油量を示す市販のカーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製の#32等を挙げることができる。
【0028】
本工程では、少なくとも水を含む湿潤剤でカーボンブラックを処理する。このような湿潤剤としては、水、及び必要に応じて水と併用できる水溶性の溶媒を用いることができるが、環境面やカーボンブラックの湿潤性との観点からは、水溶性溶媒の使用を可能な限り少なくすることが好ましい。具体的には、湿潤剤の全体に対して水が50質量%以上含まれることが好ましく、湿潤剤の全量が水であることが特に好ましい。湿潤剤中に水が50質量%以上含まれることにより、良好な湿潤性が得られるので好ましい。なお、用いる水の種類としては、特に限定されず、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水等を挙げることができるが、印刷に悪影響を及ぼす水溶性イオン物質の含有量が少ないとの観点からは、イオン交換水を好ましく挙げることができる。
【0029】
上記水溶性溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エタノール、エチレングリコール等が挙げられる。
【0030】
カーボンブラックを湿潤させるのに用いる上記湿潤剤の量は、カーボンブラック300質量部に対して100〜1200質量部の割合とすることが好ましく、カーボンブラック300質量部に対して150〜1200質量部とするのがより好ましく、300〜600質量部とするのがさらに好ましい。カーボンブラック300質量部に対して湿潤剤が100質量部以上であることにより、カーボンブラックが十分に湿潤されて良好な分散性を得ることができるので好ましく、カーボンブラック300質量部に対して湿潤剤が1200質量部以下であることにより、湿潤剤の除去に必要な時間が極端に長くなることを抑制し、良好な生産性を維持できるので好ましい。
【0031】
カーボンブラックを湿潤剤で湿潤させるに際しては、公知の装置を用いて両者を良く混ぜ合わせればよい。これに用いる装置としては、容器の内面を掻き取るためのスクレーパーを備えた撹拌装置、ニーダー、2軸混練機等を挙げることができるが、カーボンブラックを湿潤剤で湿潤させるのに十分なせん断力を加えることのできるものであればよい。
【0032】
湿潤工程(S1)を経たカーボンブラックと湿潤剤との混合物は、混合工程(S2)に付される。
【0033】
[混合工程(S2)]
混合工程(S2)は、油成分を含む置換用流体と、上記湿潤工程を経たカーボンブラック及び湿潤剤の混合物と、を混合させる工程である。この工程を経ることにより、カーボンブラック粒子の周囲に存在している湿潤剤が油成分で置換され、カーボンブラックが水相から油相に置換される。この工程で用いられた置換用流体は、将来、インキ組成物を構成する成分の一部となる。
【0034】
既に述べたように、通常であれば、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂等の樹脂を油成分に溶解させたワニスを用いてフラッシングを行うことにより、湿潤カーボンブラックを水相から油相へ置換させるのが一般的である。これは、油成分で置換されたカーボンブラックを速やかに樹脂成分中に分散させることにより、カーボンブラックの再凝集を抑制し、分散性を高めるためとの配慮に基づくものである。しかしながら、本発明者らの検討によれば、意外にも、油成分は含むがこれらの樹脂成分を含まない置換用流体と湿潤カーボンブラックとを混合させ、次いでこれらの混合物に含まれる湿潤剤を除去してから、これをワニスと混合させることにより、初めからワニスを用いたフラッシングを行う場合よりもカーボンブラックの分散性が向上し、それにより、高ストラクチャーの中性カーボンブラックを用いた場合でさえも高い分散性が実現されることが判明した。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、本実施態様における混合工程では、ワニスでなく、上記の樹脂成分を含まない置換用流体を用いて湿潤カーボンブラックの水相から油相への転換を行う。なお、本工程における混合により湿潤カーボンブラックが水相から油相に置換される点で、この混合を広義のフラッシングと解釈することもできる。しかしながら、一般的なフラッシングでは粘性体であるワニスと混合させるため、置換により分離された湿潤剤が系外(混合物の外部)へ速やかに排出されるのに対して、本工程における混合のように液体である置換用流体と混合させたときには、カーボンブラックが油相へ置換されても上記のような湿潤剤の系外への排出は生じない。このとき、湿潤剤の多くは系内(混合物の内部)に乳化された状態又は液滴の状態で存在すると考えられる。この点が本工程における混合と一般的なフラッシングとの大きな相違点になる。
【0035】
置換用流体には、油成分が含まれる。油成分としては、植物油及び/又は鉱物油を挙げることができ、これまでインキ組成物の調製に用いられてきたものを特に制限なく使用できる。
【0036】
植物油には、植物油の他に植物油由来の脂肪酸エステル化合物が含まれてもよい。植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等の乾性油や半乾性油等が例示される。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油に由来する脂肪酸のモノアルキルエステル化合物等が例示される。この脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく例示され、このような飽和又は不飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましく例示される。脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成するアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく例示され、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が好ましく例示される。これらの植物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。植物油としては、大豆油、大豆油脂肪酸エステル等が好ましく例示される。
【0037】
鉱物油としては、重質油とも呼ばれる重質の鉱物油や、溶剤とも呼ばれる軽質の鉱物油が挙げられるが、本発明では、油成分の少なくとも一部として重質油が含まれることが好ましい。なお、本発明では、原油から揮発性の高い成分を取り除いた後に減圧蒸留して得られる重質の鉱物油(これは狭義の重質油である。)のみならず、原油精製における蒸留残渣のようなアスファルト状の物質を鉱物油で溶解させた混合物も重質油に含まれるものとする。
【0038】
上記重質油としては、ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物、又は40℃における動粘度が4mm/s以上1650mm/s以下のマシン油が好ましく挙げられる。以下、これらについて説明する。
【0039】
ナフテン系ベースオイルは、ナフテン系原油を減圧蒸留したときの留分として得られるものであり、40℃における動粘度が40〜600mm/sの範囲のものが好ましく用いられる。さらに、OSHA基準及びPCA(多環芳香族化合物)3質量%未満の基準の双方を満足するものであることが好ましい。
【0040】
OSHA基準とは、米国労働安全衛生局(OSHA)が、IARC(国際癌研究機関)の実験に基づいて、1985年11月に発表した安全基準である。この基準では、発癌の危険性のあるベースオイル精製法がブラックリスト形式で列挙されており、この列挙に含まれていない高度水素化精製法や高度溶剤精製法で製造されたベースオイルはOSHA基準を満足することになる。また、PCA3質量%未満の基準とは、ベースオイルについて、DMSO(ジメチルスルホキシド)により抽出される多環芳香族化合物の量が3質量%未満とすることを内容とするEUの統一安全基準である。
【0041】
このようなナフテン系ベースオイルは、市販されているものを用いることも可能である。そのような市販品の一例として、三共油化株式会社製のSNH46、同SNH220、同SNH440、同SNH540(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0042】
ナフテン系減圧蒸留残渣は、ナフテン系原油を出発原料として減圧蒸留を行ったときの蒸留残渣である。このような減圧残渣を得る手法の一例としては、まず、ナフテン系原油を常圧蒸留してLPG、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油等を留出させ、得られた常圧蒸留残渣を400〜500℃の範囲で減圧蒸留してA重油留分、ナフテン系ベースオイル、減圧蒸留残渣等の成分を得た後の残渣を回収することが挙げられる。
【0043】
上記のナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣とを混合したものを重質油として用いることもできるが、これに相当する市販品を入手し、これを重質油として用いてもよい。このような市販品としては、三共油化株式会社製の製品名A/OMIXを挙げることができる。
【0044】
マシン油は40℃における動粘度に基づいてJIS K2238−1993やISOにて規格化されており、上記のように、40℃における動粘度が4mm/s以上1650mm/s以下のマシン油は、この規格によればISO VG5からISO VG1500までのグレードに相当するものである。本発明で好ましく用いられるこうしたマシン油についても、OSHA基準及びPCA3質量%未満の基準の双方を満足するものであることが好ましい。このようなマシン油としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のインクオイルH8(40℃における動粘度8.6mm/s)、同インクオイルH35(同37mm/s)、三共油化工業株式会社製のSNH8(同8.8mm/s)、同SNH46(同45.9mm/s)、同SNH220(同231mm/s)、同SNH540(同546mm/s)が例示される。
【0045】
軽質の鉱物油としては、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が例示される。このような非芳香族系石油溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製の0号ソルベント、同AFソルベント5号、同AFソルベント6号、同AFソルベント7号等が例示される。
【0046】
これらの鉱物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
また、置換用流体にはギルソナイト又はその抽出物が含まれることが好ましい。ギルソナイトの抽出物としては、ギルソナイトから抽出された軟化点120〜125℃の脂肪族炭化水素系樹脂が好ましく挙げられる。次にこれらの成分について説明する。
【0048】
ギルソナイトとは、JIS−K 5500に定義されている通り、ユタ州産のアスファルタイトを指し、硬質ビチューメンの一種で、良質の黒ワニスの塗膜形成要素として用いられるものである。本発明におけるギルソナイトとしては、従来からインキ組成物用として使用されてきたものが使用でき、例えば、アメリカンギルソナイトカンパニー社(American Gilsonite Company)から市販されている製品等を用いることができる。
【0049】
ギルソナイトから抽出された軟化点120〜125℃の脂肪族炭化水素系樹脂としては、ギルソナイト、つまり天然アスファルタイトから抽出された軟化点120〜125℃の脂肪族炭化水素系樹脂が使用でき、例えば、アメリカンギルソナイトカンパニー社から市販されている、Gilsonite ER−125等を使用することができる。このようなギルソナイトの抽出物は、ギルソナイト中の芳香族系炭化水素、灰分、軽質留分を含まず、かつ軽質の鉱物油や植物油への優れた溶解性を備える。なお、ここでいう軟化点は、ASTM E28−92に準拠して測定された値である。
【0050】
既に述べたように本工程では、上記のような置換用流体と、湿潤カーボンブラックとを混合させる。これに用いる装置としては、湿潤カーボンブラックと置換用流体とを良く混ぜ合わせることができるものであれば特に限定されないが、フラッシャー(ニーダー)や、インキ組成物の製造に用いられる撹拌装置、二軸混練機等が挙げられる。
【0051】
上記の混合を行う際の湿潤カーボンブラックと置換用流体との混合比は、質量比で、湿潤カーボンブラック:置換用流体=3:1〜1:1程度の範囲を好ましく挙げられる。
【0052】
混合工程(S2)を経た混合物は、除去工程(S3)に付される。
【0053】
[除去工程(S3)]
除去工程(S3)は、上記混合工程を経た、湿潤カーボンブラックと置換用流体との混合物から湿潤剤を除去する工程である。すなわち、上記混合工程を経た後の湿潤剤は、置換用流体に乳化した状態で存在していたり、液滴等として系外に分離した状態で存在していたりするので、本工程ではこれら湿潤剤の除去を行う。
【0054】
湿潤剤の除去は、混合工程を経た混合物を減圧可能な容器に収容し、減圧及び加熱を行いながら容器内の混合物をニーダーや撹拌装置等により混合することで行われる。この操作により、カーボンブラック及び置換用流体の混合物に含まれる湿潤剤が除去される。なお、この混合物の含水率が2質量%以下となるまで湿潤剤の除去を行うことが好ましい。混合物の含水率は、カールフィッシャー水分計等によって測定することができる。また、本発明の効果を阻害しない範囲において、湿潤剤はその全量が必ずしも除去されなくともよく、例えば湿潤剤が不揮発性の溶剤を含む場合には、除去工程完了後にその溶剤が上記混合物中に残留してもよい。この場合であっても、湿潤剤に含まれる水の大半が除去されることにより、本発明の効果を得ることができる。
【0055】
除去工程(S3)を経た混合物は、インキベース調製工程(S4)に付される。
【0056】
[インキベース調製工程(S4)]
インキベース調製工程(S4)は、除去工程で湿潤剤が除去された混合物に、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及び石油樹脂からなる群より選択される少なくとも一つの樹脂成分を含むワニスを添加する工程である。この工程を経ることにより、上記カーボンブラック及び置換用流体の混合物は、インキ組成物を調製するための中間原料であるインキベースへと転換される。
【0057】
上記ワニスは、樹脂成分と油成分とを含み、樹脂成分を油成分中に溶解又は分散させることにより調製される。まずは、ワニスの調製について説明する。
【0058】
樹脂成分として用いられるロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂及び石油樹脂は、印刷用紙の表面で顔料成分を固定するバインダーとして機能する成分であり、また、インキ組成物中にカーボンブラックを安定して分散させるために用いられる成分でもある。このような樹脂としては、インキ組成物の分野で通常使用されるものを特に制限なく用いることができる。これらの樹脂の重量平均分子量としては、1000〜30万程度を好ましく例示することができる。
【0059】
ワニスを調製するために用いられる油成分は、置換用流体について説明した油成分と同様であるので、ここでの説明を省略する。
【0060】
上記の樹脂成分と油成分とを混合し、これらを加熱しながら撹拌することで、樹脂成分が溶解又は分散されワニスが調製される。樹脂成分と油成分とを混合する際の割合としては、樹脂成分:油成分(質量比)が15:85から50:50程度の範囲を挙げることができる。
【0061】
樹脂成分と油成分との混合物は、反応容器に仕込まれ、この反応容器中で撹拌されながら加熱される。この加熱によって樹脂成分が油成分中に溶解又は分散される。このときの加熱温度としては、120〜250℃の範囲を挙げることができる。好ましい加熱温度は、120〜230℃の範囲である。また、樹脂の溶解時間(すなわち、加熱を継続させる時間)は、20〜60分間程度を挙げることができる。
【0062】
また、ワニスは、最終製品であるインキ組成物の粘弾性を調節するために、必要に応じて、上記のようにして樹脂成分が溶解又は分散状態とされた後でこれらに金属キレート化合物を添加し、さらに加熱及び撹拌を継続することでゲル化ワニスとされてもよい。
【0063】
このような目的で用いられる金属キレート化合物としては、アルミニウムエチルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、ステアリン酸アルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド等、及びそれらの混合物等が挙げられ、より好ましくはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(ALCH)が挙げられる。金属キレート化合物の添加量としては、上記の反応容器に仕込んだ樹脂成分と油成分との合計を100質量部としたとき、0.5〜3.0質量部程度が例示される。
【0064】
金属キレート化合物を上記反応容器に投入した後、撹拌しながらこれらを加熱する。加熱温度としては120〜200℃程度を挙げることができ、この温度にて15〜60分程度反応させる。これにより、ワニス中に存在している樹脂成分が架橋され、ゲル化ワニスとなる。
【0065】
上記のワニスは、除去工程を経たカーボンブラック及び置換用流体の混合物と混合され、インキベースが調製される。その際の混合比率は、最終製品であるインキ組成物におけるカーボンブラックの含有量が10〜30質量%程度となり、樹脂成分の含有量が8〜25質量%程度となることを考慮して適宜決定すればよいが、一例として上記混合物とワニスとの質量比として、混合物:ワニス=2:1〜3:1程度を挙げることができる。
【0066】
インキベースを調製するのに用いる装置としては、特に限定されないが、ニーダー、撹拌羽根を備えた撹拌装置、三本ロールミル等を挙げることができる。また、カーボンブラック及び置換用流体の混合物とワニスとを混合した後で、必要に応じて、ビーズミルや三本ロールミル等を用いて練肉分散させてもよい。
【0067】
インキベース調製工程(S4)を経たインキベースは、インキ調製工程(S5)に付される。
【0068】
[インキ調製工程(S5)]
インキ調製工程(S5)は、インキベース調製工程を経たインキベースに油成分やワニスを加えて粘度調整を行い、必要に応じて各種の添加剤を加えてインキ組成物を調製する工程である。
【0069】
この工程で用いられる油成分やワニスについては既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。また、必要に応じて添加される各種の添加剤についても、酸化防止剤、アルコール類、ワックス類等、インキ組成物用として公知のものを各種用いることができる。
【0070】
インキ組成物の粘度は、それが適用される印刷機の構成や印刷用紙の紙質等を考慮して適宜設定されればよい。そのような一例として、ラレー粘度計による25℃での値が2.0〜20Pa・sであることを挙げることができるが、特に限定されない。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明の製造方法についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0072】
[置換用流体の調製]
撹拌装置及び加熱装置を備えた反応容器に、ギルソナイト(American Gilsonite Company社製、製品名:ギルソナイト S325L)5部及びAFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー社製)20部を加え、これらを加熱しながら撹拌し、ギルソナイトを溶解させた。次いでこの混合物に、ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物(三井油化株式会社製、製品名:A/OMIX)100部及び大豆油100部を加えて撹拌することで、置換用流体を調製した。
【0073】
[ワニスの調製]
冷却管、温度計、加熱装置及び撹拌装置を備えた反応容器に、重量平均分子量10万のロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製)35部、大豆油20部及びAFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)44.5部を仕込んだ後200℃に昇温し、同温度を1時間維持することにより樹脂を溶解させた後、アルミニウムエチルアセテート・ジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製、ALCH)を0.5部仕込み、その後170℃で60分間加熱保持して、ワニスを得た。
【0074】
[湿潤カーボンブラック(1倍)の調製]
中性カーボンブラック(三菱化学株式会社製、製品名:#32)21部にイオン交換水を21部加え、これらを2軸混練機により混合した。混合に際しては、2軸のスクリューパドルが配置されたバレル内に供給ホッパーからカーボンブラックを定量的に供給し、同時にバレル内に滴下漏斗を用いて水を定量的に供給する方法を採用した。これにより得られた混合物を湿潤カーボンブラック(1倍)とした。ここで用いたカーボンブラック(製品名:#32)は、平均一次粒子径が30nm、DBP吸油量が100cm/100gであり、高ストラクチャーに分類される中性カーボンブラックである。なお、括弧内の「1倍」とは、カーボンブラックに対してイオン交換水を質量比で1倍添加したことを意味する。以下、括弧内に「2倍」又は「4倍」とあるのは、同様に、カーボンブラックに対してイオン交換水を質量比で2倍又は4倍添加したことを意味するものとする。
【0075】
[湿潤カーボンブラック(2倍)の調製]
中性カーボンブラックと水との混合比を、カーボンブラック21部に対してイオン交換水42部としたこと以外は湿潤カーボンブラック(1倍)と同様の手順にて湿潤カーボンブラック(2倍)を調製した。
【0076】
[湿潤カーボンブラック(4倍)の調製]
中性カーボンブラックと水との混合比を、カーボンブラック21部に対してイオン交換水84部としたこと以外は湿潤カーボンブラック(1倍)と同様の手順にて湿潤カーボンブラック(4倍)を調製した。
【0077】
[インキベース(1倍)の調製]
卓上フラッシャー内に、湿潤カーボンブラック(1倍)42部及び置換用流体45部を投入し、30分間にわたって両者を混合した。このときのカーボンブラック純分と置換用流体の混合比は、カーボンブラック21部に対して置換用流体45部である。その後、減圧加熱することで混合物中の水分量を2質量%以下とした。こうして得た混合物に上記ワニスを24部加え、卓上フラッシャーのニーダーを用いて混合することでインキベース(1倍)を得た。
【0078】
[インキベース(2倍)の調製]
湿潤カーボンブラック(2倍)63部及び置換用流体45部を卓上フラッシャー内に投入したこと以外は、インキベース(1倍)と同様の手順にてインキベース(2倍)を調製した。なお、インキベース(2倍)の調製においても、インキベース(1倍)のときと同様に、混合の際のカーボンブラック純分と置換用流体の混合比は、カーボンブラック21部に対して置換用流体45部である。
【0079】
[インキベース(4倍)の調製]
湿潤カーボンブラック(4倍)105部及び置換用流体45部を卓上フラッシャー内に投入したこと以外は、インキベース(1倍)と同様の手順にてインキベース(4倍)を調製した。なお、インキベース(4倍)の調製においても、インキベース(1倍)のときと同様に、混合の際のカーボンブラック純分と置換用流体の混合比は、カーボンブラック21部に対して置換用流体45部である。
【0080】
[比較用インキベースの調製]
撹拌装置及び加熱装置を備えた反応容器に、ギルソナイト20部及びAFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー社製)80部を加え、これらを加熱しながら撹拌してギルソナイトを溶解させることでギルソナイトワニスを得た。次いで、卓上フラッシャー内に、上記湿潤カーボンブラック(2倍)63部、ギルソナイトワニス6部及びワニス21部を投入し、50℃にて30分間フラッシングを行った。その後、卓上フラッシャーの容器を傾斜させることで遊離してきた水を除去するとともに、減圧加熱することで混合物中の水分量を2質量%以下とした。こうして得た混合物に、上記ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物(三井油化株式会社製、製品名:A/OMIX)20部、大豆油20部及びワニス3部を加え、卓上フラッシャーのニーダーを用いて混合することで比較用インキベースを得た。この比較用インキベースは、本発明のように置換用流体を用いてフラッシングを行うのではなく、従来技術と同様にワニスを用いてフラッシングを行って得たものに相当する。
【0081】
[参考用インキベースの調製]
酸性カーボンブラック(三菱化学株式会社製、製品名:MA−7)21部、上記ギルソナイトワニス6部、ワニス24部、及び上記ナフテン系ベースオイルとナフテン系減圧蒸留残渣との混合物(三井油化株式会社製、製品名:A/OMIX)20部を80℃で30分間混合し、グラインドゲージにおける粒子の大きさが5μm以下となるまで、得られた混合物を3本ロールミルで練肉した。練肉して得た混合物に大豆油20部を加えてこれらを良く混合し、インキベース(酸性)を得た。この参考用インキベースは、分散性に優れた酸性カーボンブラックを用いて、従来用いられてきた手順で得たものに相当する。
【0082】
[実施例1〜3、比較例1及び参考例1のインキ組成物の調製]
上記の各インキベースの90質量部に対して、大豆油を8〜12質量部添加することで25℃におけるラレー粘度を6.5Pa・sに調節し、実施例1〜3、比較例1及び参考例1のインキ組成物を調製した。各実施例、比較例及び参考例と、インキ組成物の調製に用いた材料との対応は、表1に示す通りである。なお、表1における「製法」欄にて、「本発明」とあるのは、湿潤カーボンブラックを置換用流体と混合させてからワニスを添加するという本発明の方法で調製されたことを意味し、「従来法1」とあるのは、湿潤カーボンブラックをワニスでフラッシングするという従来の方法で調製されたことを意味し、「従来法2」とあるのはカーボンブラックを湿潤せずにワニスと混合させてロール練肉を行うという従来の方法で調製されたことを意味する。
【0083】
【表1】
【0084】
[ドライダウンの評価]
各実施例、比較例及び参考例のインキ組成物のドライダウンの評価は、以下のようにして行った。まず、インキ組成物の試料0.1ccをRI展色機(2分割ロール、株式会社明製作所製)を用いて更紙(王子製紙株式会社製、SL+)に展色し、展色直後の濃度をSpectroeye濃度計(Gretagmacbeth社製)により測定した後に、室内で24時間放置してから再度濃度を測定した。そして、展色直後の濃度値から24時間経過後の濃度値を引いたものをドライダウン量とした。また、濃度を測定する際に、同濃度計を用いて展色直後及び24時間放置後のLab値を併せて算出した。その結果を表2に示す。
【0085】
[漆黒性の評価]
上記ドライダウンの評価における24時間放置後の漆黒性を目視で観察し、下記の基準にて漆黒性を評価した。その結果を表2に示す。
◎:ドライダウン後も極めて良好な漆黒性を維持していた
○:ドライダウン後も良好な漆黒性を維持していた
△:ドライダウン後において漆黒性がやや不足していた
×:ドライダウン後において漆黒性が著しく不足しており、実用に向かない
【0086】
[ガイドローラー汚れの評価]
各実施例、比較例及び参考例のインキ組成物における分散性の評価として、ガイドローラー汚れを評価した。ガイドローラー汚れとは、オフセット輪転機を用いた印刷の際、印刷後の印刷用紙の方向を変更させるガイドローラーへ付着した、インキ残渣による汚れのことである。この評価は、印刷紙面のうち印刷が行われた面に直接接するガイドローラーの汚れの程度を評価するものであり、これが悪くなる(すなわちガイドローラーが汚れる)原因は様々であるが、インキ組成物に含まれるカーボンブラックの分散性が悪いのもこれを悪化させる一つの要因になる。
【0087】
この評価を行うに際して、各実施例、比較例及び参考例のインキ組成物のそれぞれについて、N−750型印刷実験機(東浜精機株式会社製)を使用して、印刷速度12万部/時で用紙を新聞用更紙として、ベタ部の濃度が1.20±0.02となるように17000部の印刷を行った。そして、それぞれの印刷の終了後におけるガイドローラー上のインキ残渣による汚れの状態を目視にて下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。なお、印刷試験における湿し水としては水道水にSAH−7(サカタインクス株式会社製、アルカリH液)を0.7%加えたものを使用し、湿し水の供給にはスプレーダンプナーSSD−12(サカタインクス株式会社製)を使用した。印刷に際しては、水幅の下限付近での印刷状態の比較を行うために、水幅の下限値よりもSSD−12のダイヤルを2ポイント上げた状態とした。
◎:インキ残渣による粒状の付着物がほとんど観察されず良好である
○:インキ残渣による粒状の付着物が若干観察されるが良好である
△:インキ残渣による粒状の付着物が○よりも多いが問題無い程度である
×:インキ残渣による粒状の付着物が多く、実用に不向きである
【0088】
【表2】
【0089】
表2から理解されるように、本発明の製造方法を用いることにより、従来製法によるインキ組成物(比較例1)よりもガイドローラー汚れが大幅に低減され、分散性の優れた酸性カーボンブラックを用いたインキ組成物(参考例1)に匹敵する程度にまで改善される。そして、そのように良好な分散性を実現できるにもかかわらず、本発明の製造方法によるインキ組成物では、酸性カーボンブラックを用いた参考例1よりも大幅にドライダウンや漆黒性が向上していることがわかる。これらの効果は、本発明の製造方法を採用することにより、高ストラクチャーの中性カーボンブラックの分散性を向上できたことに基づくものであり、本発明の有用性が示されている。
図1