(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と、トリイソプロパノールアミンと、オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる1種以上の化合物と、水とを含有する水硬性組成物用混和剤。
オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる化合物が、グルコン酸、酒石酸、クエン酸及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物である、請求項1記載の水硬性組成物用混和剤。
トリイソプロパノールアミンとオキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる化合物とのモル比が、トリイソプロパノールアミン/前記化合物で、0.3以上1.6以下である、請求項1又は2記載の水硬性組成物用混和剤。
オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる化合物の含有量が、混和剤の固形分中、5.0質量%以上40質量%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の水硬性組成物用混和剤。
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物とトリイソプロパノールアミンと水とを含有する水硬性組成物用混和剤に、オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる化合物を添加して粘度を低下させる、水硬性組成物用混和剤の粘度調整方法。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物用の分散剤は、セメント粒子を分散させることにより、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させ、水硬性組成物の作業性等を向上させるために用いる化学混和剤である。分散剤には、従来、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレン系分散剤、カルボン酸とアルキレングリコール鎖を有する単量体との共重合体等のポリカルボン酸系分散剤、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミン系分散剤等が知られている。
【0003】
ナフタレン系分散剤は、一般的にポリカルボン酸系分散剤やメラミン系分散剤と比較して材料や温度の変化に対する流動性発現の効果の変動が少なく、また得られる水硬性組成物の粘性が比較的低く、水硬性組成物の製造に際して使い易いという優れた特徴がある。一方、ナフタレン系分散剤分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤に比べて硬化体の強度が劣る傾向がある。
【0004】
特許文献1には、少なくとも4%のC
4AF、石膏、5ないし80重量%の充填剤またはクリンカー基剤、および、セメントを基準にして0.2重量%までの少なくとも1個のC
3−C
5−ヒドロキシアルキル基を有する高級トリアルカノールアミンよりなる添加剤を有するクリンカーの混合物により構成される強化混合セメントにより、7日及び28日圧縮強度を増加させる技術が開示されている。特許文献1には、高級トリアルカノールアミンを水の添加の前に、または添加とともに、または添加の後に、セメントに添加できること、水分減少用混合剤等の他の薬剤を使用できること、グルコン酸ナトリウムを併用できること、などが開示されている。
【0005】
特許文献2には、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルジエタノールアミンとナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物とを特定比率で含有する水硬性組成物用分散剤で水硬性組成物の流動保持性の向上と早期強度とを両立させる技術が開示されている。特許文献2には、ナフタレン系分散剤に、早期強度向上の為のアミン化合物としてトリイソプロパノールアミンを併用した場合には、水硬性組成物の流動保持性がナフタレン系分散剤単独で用いた時よりも低下することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、ヒドロキシエチルアクリレート由来の構成単位を含む重合体と、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と、オキシカルボン酸又はその塩、糖類及び糖アルコールから選ばれる一種以上の化合物と、を特定比率で含有するコンクリート用混和剤が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水硬性組成物用混和剤の粘度が低下する機構は不明であるが、以下のように推定している。
オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールは、コンクリート等の水硬性組成物の凝結遅延剤として用いられる化合物である。これらの化合物により、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物とトリイソプロパノールアミンとの相互作用で生じる粘度の増加を抑制できる。
トリイソプロパノールアミンは窒素原子の電子密度が小さく、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のπ電子と相互作用することによって、弱い結合を形成しナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の見かけの分子量が増大するため、粘度が高くなると考えられる。しかし、オキシカルボン酸を併用すると、これらの水酸基がトリイソプロパノールアミンの水酸基と水素結合し、さらに、カルボキシル基とアミンの窒素原子とのイオン的な相互作用により、窒素原子を立体効果で遮蔽してナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物とのπ電子と相互作用を抑制すると考えられる。糖類又は糖アルコールを併用した場合は、多数の水酸基と炭素原子による立体効果により、オキシカルボン酸と同様の遮蔽効果が生じると考えられる。
【0014】
<ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物>
本発明に係るナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物(以下、NSFともいう)は、水硬性組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量は200,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、80,000以下が更に好ましく、50,000以下がより更に好ましく、20,000以下がより更に好ましい。また、水硬性組成物の流動性向上の観点から、重量平均分子量は1,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、4,000以上が更に好ましく、5,000以上がより更に好ましい。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は酸の状態あるいは中和物であってもよい。
【0015】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行ってもよい。また、中和で副生する水不溶解物を除去してもよい。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2〜1.4モルを用い、150〜165℃で2〜5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.95〜0.99モルとなるようにホルマリンを85〜95℃で、3〜6時間かけて滴下し、滴下後95〜105℃で縮合反応を行う。さらに、得られる縮合物の水溶液は酸性度が高いので貯槽等の金属腐食を抑制する観点から、得られた縮合物に、水と中和剤を加え、80〜95℃で中和工程を行うことができる。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0〜1.1モル倍添加することが好ましい。また、中和により生じる水不溶解物を除去することができ、その方法として好ましくは濾過による分離が挙げられる。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液は、そのまま混和剤用の水溶液として使用することができる。さらに、該水溶液から水を除去し粉末として使用することもできる。
【0016】
<トリイソプロパノールアミン>
本発明の水硬性組成物用混和剤はトリイソプロパノールアミンを含有する。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物との組み合わせにおいて、トリイソプロパノールアミンは、水硬性組成物の硬化体に良好な強度の向上効果を付与できる。
【0017】
<オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる1種以上の化合物>
オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる1種以上の化合物(以下、ヒドロキシ化合物ともいう)は、水硬性組成物用混和剤の粘度の低下、及び強度向上効果に寄与する成分である。水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、好ましくはオキシカルボン酸及び糖アルコールから選ばれる1種以上の化合物、より好ましくはオキシカルボン酸である。
【0018】
オキシカルボン酸としては、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸、及びリンゴ酸から選ばれる一種以上が挙げられる。オキシカルボン酸は、グルコン酸、酒石酸及びクエン酸から選ばれる1種以上の化合物が好ましい。
【0019】
糖類しては、単糖類、オリゴ糖類及び多糖類から選ばれる一種以上の化合物が好ましい。単糖類は、グルコース、フラクトース、ガラクトース、キシロース、アビトース、リポーズ、異性化糖等が、オリゴ糖としては、二糖類、三糖類等が挙げられ、サッカロース、マルトース、デキストリン等が挙げられる。多糖類としては、デキストリン、澱粉、澱粉の分解物(例えば澱粉の酵素分解物)等が挙げられる。また、これら単糖類、オリゴ糖類を含む糖蜜類が挙げられる。
【0020】
また、糖アルコールとしては、エリスリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール等が挙げられ、ソルビトールが好ましい。
【0021】
水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、オキシカルボン酸、糖類及び糖アルコールから選ばれる化合物は、好ましくはグルコン酸、酒石酸、クエン酸及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物、より好ましくはグルコン酸、酒石酸及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物、更に好まししくはグルコン酸及びソルビトールから選ばれる1種以上の化合物、より更に好ましくはグルコン酸である。
【0022】
<水硬性組成物用混和剤>
本発明の水硬性組成物用混和剤は、NSFと、トリイソプロパノールアミンと、ヒドロキシ化合物と、水とを含有する。水は混和剤の残部であり、混和剤が全体で100質量%となるような量で含有される。
【0023】
混和剤中のNSFの含有量は、水硬性粉体の分散性向上効果の観点から、混和剤中10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0024】
混和剤中のトリイソプロパノールアミンの含有量は、28日強度向上効果の観点から、混和剤中1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0025】
混和剤中のヒドロキシ化合物の含有量は、水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、混和剤中1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。また、混和剤中のトヒドロキシ化合物の含有量は、水硬性組成物の凝結遅延を抑制する観点から、更に好ましくは25質量%以下である。
【0026】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、28日強度向上効果と水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、トリイソプロパノールアミンとヒドロキシ化合物とのモル比が、トリイソプロパノールアミン/ヒドロキシ化合物で、0.3以上1.6以下であることが好ましい。このモル比は、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.6以上、そして、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.2以下、より更に好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.7以下である。
【0027】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、1液化(NSF単独との添加量一定)の観点からトリイソプロパノールアミンの含有量が、NSFとトリイソプロパノールアミンとヒドロキシ化合物の合計を100とした質量比で、5.0以上30以下であることが好ましい。この含有量は、28日強度向上効果の観点から、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上、より更に好ましくは20以上であり、そして、水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、より好ましくは29以下、更に好ましくは25以下である。
【0028】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、1液化の観点(NSF単独との添加量一定)からヒドロキシ化合物の含有量が、NSFとトリイソプロパノールアミンとヒドロキシ化合物の合計を100とした質量比で、3以上40以下であることが好ましい。この含有量は、水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上であり、そして、より好ましくは38以下、更に好ましくは36以下である。また、本発明の水硬性組成物用混和剤は、ヒドロキシ化合物の含有量が、水硬性組成物の凝結遅延を抑制する観点から、30以下がより更に好ましい。
【0029】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、NSF、トリイソプロパノールアミン及びヒドロキシ化合物の合計の含有量が、混和剤の固形分中、80.0質量%以上100.0質量%以下であることが好ましい。この含有量は、水硬性粉体の分散性向上効果及び28日強度向上効果の観点から、より好ましくは90.0質量%以上、更に好ましくは95.0質量%以上である。ここで、混和剤の固形分は、水以外の成分である。
【0030】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、固形分の含有量が、45.0質量%以上100.0質量%以下であることができる。このような含有量であっても、取り扱い性の良い粘度となる。この含有量は、トリイソプロパノールアミンの濃度を高くしても粘度の増加が抑制される観点から、より好ましくは50.0質量%以上、更に好ましくは55.0質量%以上、より更に好ましくは60.0質量%以上、より更に好ましくは70.0質量%以上、より更に好ましくは80.0質量%以上であり、そして、水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、より好ましくは98.0質量%以下である。
【0031】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、取扱い性の観点から20℃における粘度が好ましくは50mPa・s以上180mPa・s以下である。この粘度は、より好ましくは55Pa・s以上、更に好ましくは70Pa・s以上、そして、より好ましくは150Pa・s以下、更に好ましくは130Pa・s以下である。
【0032】
水硬性組成物用混和剤の粘度は、恒温槽(VISCOMATE VM−150F、東機産業株式会社製)中で、トールビーカーに試料を投入し、20℃に調整後、粘度計(TVB−10、東機産業株式会社製)のローターNo.M2(30rpm)で試料を攪拌し、攪拌開始から 3分後の値である。
【0033】
NSFと水とを含有する液状混和剤にトリイソプロパノールアミンを加えると、粘度が上昇する。本発明に係るヒドロキシ化合物をそのような液状混和剤に加えると、粘度の上昇を抑制できることが見出された。従って、本発明により、NSFとトリイソプロパノールアミンと水とを含有する水硬性組成物用混和剤に、本発明に係るヒドロキシ化合物を添加して粘度を低下させる、水硬性組成物用混和剤の粘度調整方法が提供される。本発明に係るヒドロキシ化合物を添加することで、該ヒドロキシ化合物添加後のNSFとトリイソプロパノールアミンと水とを含有する液状混和剤の粘度を、該ヒドロキシ化合物を添加する前の粘度に対して、好ましくは60%以下、より好ましくは80%以下とすることができる。そして、本発明に係るヒドロキシ化合物は、NSFとトリイソプロパノールアミンと水とを含有する液状混和剤の粘度の上昇を抑制できるだけでなく、NSFとトリイソプロパノールアミンと水とを含有する液状混和剤に加えることで、水硬性組成物の硬化体の強度を向上できる。
【0034】
本発明の水硬性組成物用混和剤は液体である。本発明の混和剤は、溶液であることが好ましい。本発明の混和剤は、水溶液が好ましい。水溶液は、固形分、すなわち水以外の成分の含有量の濃度が高くすることができる。低粘度で均一な水溶液となることで取り扱い性の良い一液型の製剤として使用できる。液体成分として、水以外に有機溶剤を用いることができる。
【0035】
本発明の水硬性組成物用混和剤は、必要に応じて、NSF、トリイソプロパノールアミン、ヒドロキシ化合物以外の分散剤、空気連行剤(AE剤)、消泡剤、増粘剤、早強剤、遅延剤等の薬剤を併用することも可能である。
【0036】
<水硬性組成物>
本発明により、本発明の水硬性組成物用混和剤、水硬性粉体、骨材、及び水を含有する水硬性組成物が提供される。
すなわち、NSF、トリイソプロパノールアミン、前記ヒドロキシ化合物、水硬性粉体、骨材、及び水を含有する水硬性組成物が提供される。
本発明に係る水硬性組成物には、本発明の水硬性組成物用混和剤で述べたNSF、トリイソプロパノールアミン及びヒドロキシ化合物の好ましい態様を適宜適用することができる。
【0037】
本発明に係る水硬性組成物は、水と水硬性粉体の質量比が、好ましくは0.20以上0.50以下である。水硬性組成物の初期流動性と硬化体の強度の観点から、当該質量比は、より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.30以上、そして、より好ましくは0.48以下、更に好ましくは0.46以下である。この質量比は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量比(水/水硬性粉体の質量比)であり、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記されることがある。
【0038】
本発明に係るNSFとトリイソプロパノールアミンと前記ヒドロキシ化合物とを、水硬性粉体、骨材、水を含有する組成物に添加することで、当該組成物の硬化体の圧縮強度、例えば、7日強度と28日強度を向上することができる。NSFとトリイソプロパノールアミンと前記ヒドロキシ化合物と水を含有する混和剤は、取り扱い性の良い粘度であるため、これをそのまま水硬性粉体、骨材、水を含有する組成物を調製するいずれかの段階で添加してもよい。
【0039】
本発明に係る水硬性組成物に使用される水硬性粉体は、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント、メーソンリーセメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。
【0040】
また、本発明に係る水硬性組成物は、骨材を含有する。骨材として、砂等の細骨材及び砂利等の粗骨材が挙げられる。水硬性粉体に骨材として、砂、砂及び砂利が添加されて最終的に得られる水硬性組成物が、一般にそれぞれモルタル、コンクリートなどと呼ばれている。本発明に係る水硬性組成物は、モルタル、生コンクリート、コンクリート製品、耐火物用コンクリート、プラスター、石膏スラリー、軽量又は重量コンクリート、補修用コンクリート、プレパックド用コンクリート、トレーミー用コンクリート、グラウト用コンクリート、地盤改良用コンクリート、寒中用コンクリート等の何れの分野においても有用である。
【0041】
本発明に係る水硬性組成物において、水硬性粉体に対するNSFの割合は、水硬性組成物が所望の流動性となる量を含有させればよいが、初期流動性の観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、更に好ましくは0.13質量%以上、そして、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下、更に好ましくは0.25質量%以下である。
【0042】
本発明に係る水硬性組成物において、水硬性粉体に対するトリイソプロパノールアミンの割合は、7および28日強度向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.025質量%以上、更に好ましくは0.04質量%以上、そして、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.14質量%以下、更に好ましくは0.13質量%以下である。
【0043】
本発明に係る水硬性組成物において、水硬性粉体に対するヒドロキシ化合物の割合は、28日強度向上効果と水硬性組成物用混和剤の粘度低下の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.026質量%以上、更に好ましくは0.041質量%以上、そして、好ましくは0.154質量%以下、より好ましくは0.143質量%以下、更に好ましくは0.133質量%以下である。
【0044】
このような割合となるように、本発明の水硬性組成物用混和剤を用いることが好ましい。
【0045】
本発明に係る水硬性組成物において、骨材(細骨材と粗骨材の合計)の含有量は、水硬性組成物1m
3あたり好ましくは1600kg以上、より好ましくは1650kg以上、そして、好ましくは2000kg以下、より好ましくは1950kg以下である。
本発明に係る水硬性組成物において、水硬性粉体の含有量は、水硬性組成物1m
3あたり好ましくは250kg以上、より好ましくは280kg以上、そして、好ましくは800kg以下、より好ましくは700kg以下である。
本発明に係る水硬性組成物において、水の含有量は、水硬性組成物1m
3あたり好ましくは100kg以上、より好ましくは110kg以上、そして、好ましくは200kg以下、より好ましくは195kg以下である。
【0046】
また、本発明に係る水硬性組成物において、骨材が細骨材のみからなる場合は、細骨材は水硬性粉体100重量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、そして、好ましくは350質量部以下、より好ましくは300質量部以下である。
【0047】
本発明に係る水硬性組成物は、コンクリート構造物やコンクリート製品の材料として用いることができる。本発明に係る水硬性組成物は、接水から7日後の圧縮強度が向上するので、例えば、本発明に係る水硬性組成物に、接水後の初期材齢強度が低い水硬性粉体(高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石等)を配合しても、NSF、トリイソプロパノールアミン及びヒドロキシ化合物の少なくともいずれかを含まない水硬性組成物と比較して、同等以上の、接水から7日後の圧縮強度を得ることが出来る。
【0048】
本発明に係る水硬性組成物を用いると、NSFを用いる場合の取り扱い良さを維持したまま、接水から7日後又は28日後の圧縮強度がナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のみを用いた場合よりも向上する。
【実施例】
【0049】
<試験例1>
水に、NSF、トリイソプロパノールアミン(以下、TiPAと表記する、以下同様)、ヒドロキシ化合物又は比較化合物を、表1に示す量で加えて混合し、表1の試験例1−1〜1−23の混和剤(o、a〜d、i、c2〜c5及びA〜J)の水硬性粉体用混和剤を調製した。
その際、実際にセメントと混和するときの混和剤の態様を想定して、セメント質量に対する混和剤の添加量が0.45質量%であり、且つこの添加量において、セメント質量に対するNSFの添加量が0.18質量%で一定となるような組成の水硬性粉体用混和剤を調製した。組成は水の量で調整した。混和剤中のNSFの固形分換算濃度は40質量%で一定であった。
ただし、試験例1−15は、NSF、トリイソプロパノールアミン及びヒドロキシ化合物の比率を維持したまま混和剤中のNSFの固形分換算濃度を40質量%すると固形分が100質量%を超えるため、混和剤中のNSFの固形分換算濃度を26質量%、セメント100質量に対する混和剤の添加量を0.69質量%とした。
得られた混和剤の粘度を、以下の条件で、20℃でB型粘度計を用いて測定した。また、得られた混和剤の臭気を評価した。結果を表1に示した。なお、表1中のNSFは、マイテイ150(花王(株)製)を用いた。
【0050】
<粘度測定条件>
恒温槽(VISCOMATE VM−150F、東機産業株式会社製)中でトールビーカーに試料を投入し、20℃に調整後、粘度計(TVB−10、東機産業株式会社製)のローターNo.M2(30rpm)で試料を攪拌し、攪拌開始から1分後の値を粘度とした。
【0051】
<臭気>
試験例1−1の混和剤を基準として、以下のように判定した。
○:試験例1−1の混和剤と臭気が同等以下である。
×:試験例1−1の混和剤よりも刺激臭がある。
【0052】
【表1】
【0053】
*1 含有量:混和剤中の質量%
*2 質量比:NSF、TiPA、及びヒドロキシ化合物又は比較化合物の合計を100とする質量比
*3 固形分:混和剤中の水以外の成分(NSF、TiPA、ヒドロキシ化合物、比較化合物)の質量%
*4 試験例1−15以外は混和剤中のNSFの固形分換算濃度が40質量%となるように固形分を調整し、試験例1−15は混和剤中のNSFの固形分換算濃度が26質量%となるように固形分を調整した。
【0054】
表1に示されるように、NSF、トリイソプロパノールアミン、グルコン酸を含有する試験例1−3、1−5、1−7、1−9の混和剤(A、B、C、D)は、固形分濃度が高くなっているにもかかわらず、それぞれ同じ量のNSF、トリイソプロパノールアミンを含有する試験例1−2、1−4、1−6、1−8の混和剤(a、b、c、d)よりも粘度が低下した。
また、グルコン酸の含有量を変更した試験例1−10〜1−13の混和剤(E〜H)や、グルコン酸に代えて、クエン酸、酒石酸、又はソルビトールを用いた試験例1−21〜1−23の混和剤(C2〜C4)でも、170mPs・s以下の粘度の混和剤が得られた。
NFSの添加量が0.18質量%、トリイソプロパノールアミンの添加量が0.2質量%である試験例1−14と1−15の混和剤(i及びI)を比較すると、固形分濃度がほぼ同じでありながら、混和剤の粘度はそれぞれ425mPs・sと90mPs・sであり、グルコン酸により粘度が大きく低下していることがわかる。
また、グルコン酸に代えて、硫酸や酢酸を用いた試験例1−17〜1−20の混和剤(c2〜c5)では、170mPa・s以下の粘度の混和剤では刺激臭があったが、実施例に該当する混和剤は、何れも刺激臭が感じられなかった。
【0055】
<試験例2>
表2の試験例2−1〜2−18の混和剤(o、a〜d、i、p、q、A〜I及びK)を用いて、JIS A 1132に準じてモルタル供試体を作成した。表2の混和剤の記号は表1の混和剤の記号と対応する。また、混和剤K、p及びqは、表1の混和剤と同様にセメント質量に対する混和剤の添加量が0.45質量%において、セメント質量に対するNSFの添加量が0.18質量%となるような組成の水硬性粉体用混和剤を調製した。
表2の水硬性粉体用混和剤は、NSF、トリイソプロパノールアミン、グルコン酸及び水を含有し、NSFの固形分濃度が40質量%となるように設定した。ただし、試験例2−16は、NSF、トリイソプロパノールアミン及びヒドロキシ化合物の比率を維持したまま混和剤中のNSFの固形分換算濃度を40質量%すると固形分が100質量%を超えるため、混和剤中のNSFの固形分換算濃度を26質量%とした。
モルタルの配合は、
水(W):450g
セメント(C):1000g
砂(S):1750g
であった。W/Cは45である。セメントは、太平洋セメント社および住友大阪セメント社の普通ポルトランドセメントを用いて、50:50の比率で混合したものを用いた。砂は、城陽砂を用いた。
【0056】
円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)の型枠6個に、それぞれ二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて気中(20℃)養生を行い、硬化させた。
モルタル調製から24時間後に硬化した供試体を型枠から脱型し供試体を得た。
6個の供試体の内、2個の24時間後の圧縮強度を測定した。
さらに残り4個の供試体は、7日まで水中養生(20℃)を行い、そのうち2個の7日後の圧縮強度を測定した。
さらに残り2個の供試体は、28日まで水中養生(20℃)を行い、2個の28日後の圧縮強度を測定した。
供試体の圧縮強度はJIS A 1108に基づいて測定し、それぞれ、供試体2個の平均値とした。
結果を表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
*5 添加量:セメントの質量に対する添加量(質量%)
*6 相対値(1):NSFのみを含有する試験例2−1の混和剤を基準(100)とする相対値である。
*7 相対値(2):NSFとTiPAのみを含有する試験例の混和剤であってTiPAの添加量が同じ混和剤を基準(100)とする相対値である。
【0059】
表2に示されるように、NSF、トリイソプロパノールアミン、グルコン酸を含有する試験例2−3、2−5、2−7、2−9、2−16の混和剤(A、B、C、D、I)は、相対値(2)をそれぞれ対比した、同じ量のNSF、トリイソプロパノールアミンを含有する試験例2−1、2−2、2−4、2−6、2−8、2−17の混和剤(a、b、c、d、i)よりも7日及び28日強度が上回ることがわかった。
また、グルコン酸の含有量を変更した試験例2−10〜2−14の混和剤(K、E〜H)は、同じ量のNSF、トリイソプロパノールアミンを含有する試験例2−8の混和剤(d)よりも7日及び28日強度が上回ることがわかった。
また、トリイソプロパノールアミンを含有せず、NSF、グルコン酸を含有する試験例2−17及び2−18の混和剤(p、q)は、7日及び28日強度は向上しないことがわかった。
ヒドロキシ化合物は凝結遅延剤として用いられる化合物であるが、ヒドロキシ化合物の添加量が0.13質量%より少ない試験例2−3、2−5、2−7、2−9及び2−12〜2−14の混和剤(A〜D及びF〜H)では、NSFのみを添加する試験例2−1の混和剤(o)よりも24時間後の圧縮強度の低下はみられず〔24時間強度の相対値(1)が100以上〕、硬化遅延が生じていないと考えられる。
また、試験例2−9、2−10の混和剤(D、K)では、これらと同じ量のグルコン酸をNSFに添加した試験例2−17、2−18の混和剤(p、q)よりも24時間後の圧縮強度が向上しており、トリイソプロパノールアミンが硬化遅延の抑制に寄与していることが推察される。