特許第6371221号(P6371221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6371221マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371221
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/60 20120101AFI20180730BHJP
   G03F 1/82 20120101ALI20180730BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20180730BHJP
   G03F 1/32 20120101ALN20180730BHJP
【FI】
   G03F1/60
   G03F1/82
   C03C17/245 A
   !G03F1/32
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-545647(P2014-545647)
(86)(22)【出願日】2013年10月24日
(86)【国際出願番号】JP2013078861
(87)【国際公開番号】WO2014073389
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-245957(P2012-245957)
(32)【優先日】2012年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125106
【弁理士】
【氏名又は名称】石岡 隆
(72)【発明者】
【氏名】小湊 淳志
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 博明
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−237502(JP,A)
【文献】 特表2009−514774(JP,A)
【文献】 特開2002−162726(JP,A)
【文献】 特開2005−298330(JP,A)
【文献】 特開2012−72053(JP,A)
【文献】 特開2004−199035(JP,A)
【文献】 特開2007−182367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00 − 5/44 、 8/00 − 8/04 、
19/12 −20/00 、
C03C15/00 −23/00 、
G03F 1/00 − 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に薄膜を備えるマスクブランクの製造方法であって、
対向する1組の主表面を有する透光性基板を準備する工程と、
前記透光性基板の一方の主表面に、ケイ素および金属から選ばれる一以上の元素を含有する材料からなる薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された透光性基板に対して加熱処理または光照射処理を行う工程とを有し、
前記加熱処理または光照射処理を行う工程は、水素含有量が2.0×1017分子数/cm以下であるガラス材料からなる透光性基板を準備することによって、前記薄膜を形成する前の前記透光性基板の一方の主表面形状と、前記加熱処理または光照射処理を行う工程の後に前記薄膜を除去して露出させたときの前記透光性基板の一方の主表面形状とから得られる差分形状を基に算出される所定領域内の平坦度変化量が、絶対値で100nm以下になるようにした上で、前記加熱処理または光照射処理を行った後における前記薄膜の表面形状と、前記薄膜を形成する前の前記透光性基板の一方の主表面形状との差分形状を指標として前記加熱処理または光照射処理の処理条件を調整することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項2】
前記透光性基板における他方の主表面には、薄膜が形成されていないことを特徴とする請求項1記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜を形成する工程は、透光性基板の一方の主表面に対してスパッタ法を用いて薄膜を形成することを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理の加熱温度が300℃以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項5】
前記光照射処理は、薄膜が形成された透光性基板に対して閃光ランプから発せられる光を照射する処理であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項6】
前記ガラス材料は、合成石英ガラスであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項7】
前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項8】
前記薄膜は、内部応力が360MPa以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。この微細パターンの形成には、通常、何枚ものフォトマスク(以下、「転写用マスク」という。)が使用されている。この転写用マスクは、一般に、透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィー法による転写用マスクの製造には、マスクブランクが用いられる。マスクブランクは、一般に、合成石英ガラス等からなる透光性基板の主表面上に、スパッタリング法で薄膜を形成することによって製造される。このマスクブランクの薄膜は、内部応力を有した状態で基板の主表面上に形成される傾向がある。
【0004】
マスクブランクの主表面には、高い平坦度が求められる。マスクブランク用基板として用いられる透光性基板の主表面にも、高い平坦度が求められる。そのため、マスクブランク用基板の主表面には、研削や研磨等の加工が施される。しかし、そのような平坦度の高い主表面を有する透光性基板上に、内部応力が大きい薄膜を形成した場合、透光性基板の主表面が変形してしまい、透光性基板の主表面の平坦度が悪化するという問題があった。
【0005】
他方、薄膜が転写パターンを形成するためのものである場合、エッチング等によって薄膜の一部(光透過部)が除去されてパターンが形成される。薄膜が大きな内部応力を有する場合、エッチング等によって薄膜の一部(光透過部となる部分)が除去されたときに、薄膜が内部応力から解放されることにより、透光性基板上でのパターンの位置が移動してしまうことがある(パターンの位置ずれ)。
【0006】
近年の転写用マスクでは、パターンの位置精度に対する要求がますます厳しくなっている。特に、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクの製造においては、許容される位置ずれ量は非常に小さい。
【0007】
ダブルパターニング技術では、半導体デバイス上に形成する非常に微細な転写パターンを、2つの比較的疎なパターンに分割する。そして、その分割された各パターンを有する2枚の転写用マスクを作製し、その2つの転写用マスクを用いて半導体デバイス上にパターンを露光転写する。これにより、半導体デバイス上に非常に微細なパターンを形成することができる。しかし、ダブルパターニング技術では、2枚の転写用マスクに形成されたパターンの設計パターンからの位置ずれ量が大きいと、半導体デバイス上に2枚の転写用マスクを用いてパターンを露光転写した時に、パターンが断線や短絡した状態で形成されてしまう場合がある。
【0008】
以上のような問題があることから、以前より、マスクブランクの薄膜の内部応力を小さくするための技術については研究されていた。
【0009】
例えば、薄膜の内部応力を低減する方法として、特許文献1には、透光性基板上にスパッタリング法で薄膜を形成した後、その薄膜に対して150℃以上の温度で熱処理を行う方法が記載されている。特許文献2には、透光性基板上に形成された薄膜に対して、閃光ランプを用いて高エネルギー線を照射する方法が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載されている通り、閃光ランプを用いて高エネルギー線を薄膜に照射する方法の場合、高エネルギー線の照射量によっては、ガラス基板に大きな影響を与えてしまい、合成石英ガラス基板の主表面形状が変形してしまう問題があることが判明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−162726号公報
【特許文献2】特開2004−199035号公報
【特許文献3】特開2010−237502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者の鋭意研究の結果、マスクブランクの薄膜の内部応力を低減する手段として加熱処理を行う場合において、以下のような問題があることが判明した。
【0013】
従来、加熱処理によって薄膜の内部応力が低減されたことを確認する方法として、差分形状から算出した平坦度が用いられていた。この差分形状とは、薄膜を形成する前における透光性基板の主表面を平坦度測定装置で測定して得られた主表面形状と、薄膜を形成し、さらに加熱処理を行った後における薄膜の表面を平坦度測定装置で測定して得られた表面形状との間の差分をとった形状のことをいう。この差分形状が小さいほど、薄膜の内部応力は低減されていると思われていた。
【0014】
しかし、加熱処理を行って差分形状を十分に小さくしたマスクブランクを用いて、薄膜にテストパターンを形成して検証を行ったところ、比較的大きなパターンの位置ずれが発生することが判明した。この検証は、以下の手順で行われた。
【0015】
最初に、マスクブランクの薄膜上に、レジスト膜を塗布形成した。そのレジスト膜にテストパターンを露光描画し、次いで現像処理を行い、テストパターンを有するレジストパターンを形成した。そして、パターン位置測定装置を用いて、レジストパターンの位置を測定した。
次に、レジストパターンをマスクとして用いて、薄膜をドライエッチングし、薄膜にテストパターンを形成した。レジストパターンを除去後、パターン位置測定装置を用いて、薄膜に形成されたテストパターンの位置を測定した。
最後に、レジストパターンの位置と、薄膜に形成されたテストパターンの位置とを比較し、薄膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量を算出した。
【0016】
上記の検証の結果、マスクブランクの加熱処理前後での表面形状の差分形状からみると薄膜の内部応力は十分に低減されているはずであるにもかかわらず、実際に薄膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量は、許容範囲外の大きさとなっていた。
【0017】
このように、加熱処理後のマスクブランクの薄膜に実際にパターンを形成すると、そのパターンのレジストパターンからの位置ずれ量が許容範囲外になってしまう現象が発生しており、問題となっていた。
【0018】
また、このような問題は、薄膜の内部応力を低減するための処理として、加熱処理ではなく、閃光ランプによって高エネルギー線を照射する処理を行った場合であっても、同様に発生することが確認された。さらに、薄膜の内部応力を低減するための処理として、レーザー光を照射する処理(レーザーアニール処理)を行った場合であっても、同様の現象が発生することが確認された。
【0019】
そこで、本発明は、薄膜の内部応力を小さくすることのできるマスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、鋭意研究の結果、マスクブランクに対して加熱処理を行うことによって、加熱処理前の透光性基板の主表面形状と、加熱処理後の薄膜の表面形状との差分形状を小さくした場合であっても、透光性基板の主表面形状が加熱処理によって変形しているために、薄膜の内部応力が十分に低減されていないことを突き止めた。
【0021】
この現象は、具体的には、以下の方法によって確認された。
最初に、研削および研磨が施されることで高い平坦度の主表面を有している透光性基板を準備した。この透光性基板の主表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
次に、形状を測定した側の透光性基板の主表面上に、スパッタリング法を用いて薄膜を形成した。そして、その薄膜の表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
続いて、薄膜を形成する前に測定した透光性基板の主表面形状と、薄膜の表面形状との差分形状を導出し、薄膜を形成する前後での平坦度変化量を算出した。
【0022】
予め実験で導出しておいたマスクブランクの加熱条件と平坦度変化量との相関関係に基づいて、変化したマスクブランクの薄膜の表面形状を元に戻すための加熱条件を選定し、薄膜が形成された透光性基板に対して加熱処理を行った。そして、加熱処理後の薄膜の表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
【0023】
次に、ドライエッチングによって、透光性基板上の薄膜を全面除去した。そして、薄膜を除去した後の透光性基板の主表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
【0024】
これらの測定結果から、加熱処理後の薄膜の表面形状は、薄膜を形成する前の透光性基板の主表面形状とほぼ同じになっていることがわかった。しかし、薄膜を除去した後に測定した透光性基板の主表面形状は、薄膜を形成する前に測定した透光性基板の主表面形状と明らかに異なっていた。このことは、透光性基板の主表面形状が、薄膜を形成する前に平坦度を測定した時点から、薄膜を除去後に平坦度を測定した時点の間に変化したことを意味する。
【0025】
透光性基板の主表面形状を変形させる可能性のある要因としては、いくつか考えられる。まず、スパッタリング法で基板の主表面にスパッタ粒子を堆積させて薄膜を形成するプロセスの影響が考えられる。また、薄膜を除去するときのドライエッチングによる影響も考えられる。しかし、加熱処理のみを除いて前記と同一の手順で測定を行った場合、薄膜を除去した後に測定した透光性基板の主表面形状と、薄膜を形成する前に測定した透光性基板の主表面形状との間で、測定装置の誤差範囲を超えるような差は生じていなかった。つまり、透光性基板の主表面に薄膜を形成するときのスパッタリングによる影響と、薄膜を除去するときのドライエッチングによる影響は、透光性基板の主表面形状の変形には関係していなかった。
【0026】
透光性基板の主表面形状を変形させる可能性のある要因としては、加熱処理も考えられる。しかし、薄膜が形成されていない透光性基板に対して前記と同一の条件で加熱処理を行った場合、加熱処理の前後で、透光性基板の主表面形状には、測定装置の誤差範囲を超えるような差は生じていなかった。
【0027】
本発明者は、これらの検証の結果から、透光性基板の主表面に薄膜が形成されている状態で、その透光性基板に対して加熱処理を行ったときに、薄膜が形成されている側の透光性基板の主表面形状が変形することを突き止めた。
また、本発明者は、上記と同様の検証を行うことによって、透光性基板の主表面に薄膜が形成されている状態で、その透光性基板に対して閃光ランプを用いて高エネルギー線を照射する処理を行ったときに、薄膜が形成されている側の透光性基板の主表面形状が変形することを突き止めた。
【0028】
そして、本発明者は、このような現象が発生する要因について、さらなる検証を行った。その結果、透光性基板中に水素が含まれていることによって、透光性基板の主表面形状が変形していることを突き止めた。
【0029】
具体的には、透光性基板の水素含有量が7.4×1018分子数/cm未満(好ましくは1.0×1018分子数/cm以下、より好ましくは6.0×1017分子数/cm以下、さらに好ましくは2.0×1017分子数/cm以下)であれば、透光性基板の主表面の平坦度変化量を100nm以下(好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下)に制御できることを突き止めた。
【0030】
以上の検討の結果、以下のマスクブランクの製造方法または転写用マスクの製造方法を適用することにより、薄膜形成前の透光性基板の主表面形状と、加熱処理後または閃光ランプを用いて光(高エネルギー線)を照射した後の薄膜の表面形状との差分形状を、薄膜が有する内部応力の指標として用いることができるという結論に至った。
【0031】
(構成1)
透光性基板上に薄膜を備えるマスクブランクの製造方法であって、
水素含有量が7.4×1018分子数/cm未満であるガラス材料からなり、対向する1組の主表面を有する透光性基板を準備する工程と、
前記透光性基板の一方の主表面に、ケイ素又は金属を含有する材料からなる薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された透光性基板に対して加熱処理または光照射処理を行う工程とを有し、
前記薄膜を形成する前の前記透光性基板の一方の主表面形状と、前記薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状とから得られる差分形状を基に算出される所定領域内の平坦度変化量が、絶対値で100nm以下である
ことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0032】
(構成2)
前記透光性基板における他方の主表面には、薄膜が形成されていないことを特徴とする構成1記載のマスクブランクの製造方法。
【0033】
(構成3)
前記薄膜を形成する工程は、透光性基板の一方の主表面に対してスパッタ法を用いて薄膜を形成することを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランクの製造方法。
【0034】
(構成4)
前記加熱処理の加熱温度が300℃以上であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0035】
(構成5)
前記光照射処理は、薄膜が形成された透光性基板に対して閃光ランプから発せられる光を照射する処理であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0036】
(構成6)
前記ガラス材料は、合成石英ガラスであることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0037】
(構成7)
前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0038】
(構成8)
前記薄膜は、内部応力が360MPa以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
【0039】
(構成9)
構成1から8のいずれかに記載の製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、薄膜の内部応力を小さくすることのできるマスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】透光性基板の斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明は、透光性基板上に薄膜を備えるマスクブランクの製造方法であって、
水素含有量が7.4×1018分子数/cm未満であるガラス材料からなり、対向する1組の主表面を有する透光性基板を準備する工程と、
前記透光性基板の一方の主表面に、ケイ素又は金属を含有する材料からなる薄膜を形成する工程と、
前記薄膜が形成された透光性基板に対して加熱処理または光照射処理を行う工程とを有し、
前記薄膜を形成する前の前記透光性基板の一方の主表面形状と、前記薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状とから得られる差分形状を基に算出される所定領域内の平坦度変化量が、絶対値で100nm以下であることを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0043】
本発明のマスクブランクの製造方法は、露光光を透過させる透過型マスクを作製するための透過型マスクブランク、あるいは、露光光を反射する反射型マスクを作製するための反射型マスクブランクに適用することが可能である。また、本発明のマスクブランクの製造方法は、位相シフトマスクを作製するための位相シフトマスクブランクに適用することが可能である。さらに、本発明のマスクブランクの製造方法は、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクを作製するためのマスクブランクに好ましく適用することが可能である。
【0044】
本発明のマスクブランクの製造方法は、水素含有量が7.4×1018分子数/cm未満、好ましくは1.0×1018分子数/cm以下、より好ましくは6.0×1017分子数/cm以下、さらに好ましくは2.0×1017分子数/cm以下であるガラス材料からなり、対向する1組の主表面を有する透光性基板を準備する工程を有している。
【0045】
一方、短波長のパルスレーザー光であるKrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーが露光光として適用される転写用マスクに用いる透光性基板は、水素を含有している場合が多い。これは、特にエネルギーの高い光であるArFエキシマレーザーは、透光性基板の内部を透過する際に内部構造にダメージを与えることがあり、水素がそのダメージを修復する役割を持つためである。この点を考慮した場合、本発明のマスクブランクの製造方法における透光性基板は、水素含有量が1.0×1017分子数/cm以上であるガラス材料で形成されていることが好ましい。
【0046】
透光性基板の材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、低熱膨張ガラス(例えばSiO−TiO系ガラス)、β石英固溶体を析出させた結晶化ガラス等のガラス材料を用いることが可能である。
【0047】
透光性基板の材料中に含まれる水素含有量は、レーザーラマン散乱分光法によって測定することが可能である。例えば、日本分光社製 HQS−1000を用い、フォトンカウント法によって測定することができる。
【0048】
本発明のマスクブランクの製造方法は、透光性基板の一方の主表面に、膜応力(内部応力)を有するケイ素又は金属を含有する材料からなる薄膜を形成する工程を有している。なお、ここでいう「主表面」とは、例えば図1において、透光性基板の側面72及び面取面73を除く一対の主表面71のことを意味する。なお、この薄膜は、一方の主表面のみに形成されている構成、一方の主表面およびその主表面に隣接する面取面にまで連続的に形成されている構成、さらにそれらの面取面に隣接する側面の一部にまで連続的に形成されている構成を含む。
【0049】
透光性基板の一方の主表面へ形成する薄膜としては、例えば、遮光膜、多層反射膜、位相シフト膜(ハーフトーン型位相シフト膜)、光半透過膜等を挙げることができる。
【0050】
透光性基板の一方の主表面への薄膜の形成には、公知の方法を用いることが可能であるが、スパッタリング法を用いることが好ましく、反応性スパッタリング法を用いることが特に好ましい。スパッタリング法を用いることで、形成される薄膜をアモルファス構造や微結晶構造とすることができる。また、スパッタリング法で形成される薄膜は膜応力が高くなる傾向があるため、本発明のマスクブランクの製造方法を好適に用いることができる。
【0051】
薄膜の材料である「ケイ素又は金属を含有する材料」としては、例えば、ケイ素を含む材料、ケイ素以外の金属を含む材料、ケイ素とケイ素以外の金属とを含む材料、更にはこれらに酸素、窒素、及び炭素のうちいずれか1種以上を含む材料等を挙げることができる。ケイ素以外の金属としては、遷移金属、例えば、W、Mo、Ti、Ta、Zr、Hf、Nb、V、Co、Cr、Ni等を例として挙げることができる。このような材料としては、例えば、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド炭化物(MoSiC)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)等を挙げることができる。ただし、薄膜に対する加熱処理または光照射処理は、透光性基板から水素が脱離する現象が起こるような条件で行われる。したがって、このような条件での加熱処理や光照射処理によって大きく劣化してしまう材料は、本発明の薄膜の材料として好ましくない。このような材料としては、クロム金属、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム炭化窒化物(CrCN)、クロム酸窒化炭化物(CrOCN)などが挙げられる。
【0052】
本発明のマスクブランクの製造方法は、薄膜が形成された透光性基板に対して膜応力を低減するための「加熱処理」または「光照射処理」を行う工程を有している。なお、ここでいう「膜応力」とは、薄膜の内部応力を意味している。薄膜の内部応力は、圧縮応力の場合もあるし、引張応力の場合もある。
【0053】
まず、膜応力を低減するための加熱処理について説明する。
薄膜が形成された透光性基板に対して加熱処理を行うことによって、薄膜の内部応力を低減することができる。加熱処理のための手段としては、例えば、電気加熱炉、ヒータ、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等を用いることが可能であるが、この中では電気加熱炉を用いることが好ましい。
【0054】
加熱処理は、透光性基板の周囲に、水素が極力排除された気体が存在する状態で行われることが好ましい。空気中における水素の存在量は少ないが、水蒸気は多く存在する。クリーンルーム内の空気の湿度はコントロールされているが、クリーンルーム内の空気には比較的多くの水蒸気が含まれている。透光性基板に対する加熱処理をドライエア中で行うことで、水蒸気に起因する水素の透光性基板への侵入を抑制することができる。さらに、水素や水蒸気を含まない気体(窒素等の不活性ガスや希ガスなど)中で透光性基板を加熱処理することがより好ましい。また、透光性基板の加熱処理は、真空中で行うこともできる。
【0055】
加熱処理における透光性基板の加熱温度は、300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上である。主表面に薄膜が形成された透光性基板をこのような温度範囲で加熱することによって、薄膜の内部応力を十分に低減することができる。
【0056】
つぎに、膜応力を低減するための光照射処理について説明する。
光照射処理では、薄膜が形成された透光性基板に対して、閃光ランプから発せられる光(高エネルギー線)を照射する処理を行う。あるいは、光照射処理では、薄膜が形成された透光性基板に対して、レーザー光を照射する処理を行う。
【0057】
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理の場合、閃光ランプは、連続した幅の広い波長領域をもつ光を発することのできる光源である。閃光ランプとしては、例えば、キセノン等のガスをガラス等の光を通す材料でできた管に封入し、これに高電圧をパルス状に印加することによって光を発することができるランプを用いることができる。
【0058】
閃光ランプの照射強度は、薄膜の種類や組成によって異なるが、0.1〜100J/cm、好ましくは1〜50J/cm、より好ましくは10〜50J/cmである。照射強度がこの範囲よりも大きいと、膜が飛散したり、表面あれが生じたりするおそれがある。照射強度がこの範囲よりも小さいと、膜応力を低減する効果が小さくなるおそれがある。
【0059】
閃光ランプによる光の照射時間は、1秒以下、好ましくは0.1秒以下、更に好ましくは0.01秒以下である。閃光ランプから発せられる光の照射時間を短くすることによって、透光性基板をあまり加熱せずに膜応力を低減することができる。これにより、透光性基板にダメージを与えることを防止することができる。
【0060】
本発明において、透光性基板の主表面に形成された薄膜に閃光ランプから発せられる光を照射する場合、1回で照射が完了するように照射しても、複数回に分けて照射してもよい。また、膜を多層構造にする場合には、膜を成膜する毎に照射することも、複数の膜を成膜してからまとめて照射することもできる。また、閃光ランプからの光は、膜面から照射しても、基板が光を通すときは基板面から照射してもよい。また、閃光ランプによって光を照射する際に透光性基板が置かれる場所の周囲の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス、窒素、酸素、あるいはこれらのうち2種以上の混合ガス、真空中、大気中など、どのような雰囲気であってもよい。
【0061】
一方、レーザー光を照射する光照射処理の場合、薄膜が形成された透光性基板の薄膜の表面に対してレーザー光を照射することで、薄膜をごく短時間(例えば、数十nsec)で高温(例えば、1000℃以上)に加熱することで、薄膜の応力を低減させることができる。薄膜に照射するレーザー光の波長は、薄膜の材料によって異なるため一概には言えないが、157nm〜633nmの範囲が好ましく、248nm〜308nmの範囲がより好ましい。また、レーザー光の強度に関しても、薄膜の材料によって異なるため一概には言えないが、エネルギー密度が100〜500mJ/cmの範囲が好ましく、200〜400mJ/cmの範囲がより好ましい。例えば、レーザー光にXeClエキシマレーザー(波長308nm)を適用すると好ましい。
【0062】
本発明において、透光性基板の主表面に形成された薄膜にレーザー光を照射する場合、薄膜の表面を走査するようにレーザー光を照射するのが好ましい。レーザー発振器から発生したレーザー光を、ラインビーム光学系によってラインビームに成形した後に、レーザー光によって薄膜の表面を走査してもよい。薄膜に対するレーザー光の照射は、一回でもよく、複数回でもよい。また、膜を多層構造にする場合には、膜を成膜する毎にレーザー光を照射することも、複数の膜を成膜してからまとめてレーザー光を照射することもできる。また、レーザー光は、膜面から照射しても、基板が光を通すときは基板面から照射してもよい。また、レーザー光を照射する際に透光性基板が置かれる場所の周囲の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス、窒素、酸素、あるいはこれらのうち2種以上の混合ガス、真空中、大気中など、どのような雰囲気であってもよい。
【0063】
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理およびレーザー光を照射する光照射処理は、透光性基板の周囲に水素が極力排除された気体が存在する状態で行われることが好ましい。空気中には水素自体の存在量は少ないが、水蒸気は多く存在する。クリーンルーム内の空気の湿度はコントロールされているが、クリーンルーム内の空気には比較的多くの水蒸気が含まれている。透光性基板に対する光照射処理をドライエア中で行うことで、水蒸気に起因する水素の透光性基板への侵入を抑制することができる。さらに、水素及び水蒸気を含まない気体(窒素等の不活性ガス及び希ガスなど)中で、透光性基板に対して光を照射することが好ましい。光照射処理は、大気圧の気体中又は真空中で行うこともできる。
【0064】
本発明のマスクブランクの製造方法は、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状と、薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状とから得られる差分形状を基に算出される所定領域内の平坦度変化量が、絶対値で100nm以下であることを特徴とする。平坦度変化量の絶対値は、好ましくは80nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。
【0065】
薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状の測定は、表面形状解析装置(表面形状測定装置)を用いて行うことができる。薄膜を除去した後に露出する透光性基板の一方の主表面形状の測定も、表面形状解析装置(表面形状測定装置)を用いて行うことができる。また、薄膜形成前及び薄膜除去後における透光性基板の主表面形状の差分形状、および、差分形状に基づく平坦度変化量の算出も、表面形状解析装置を用いて行うことができる。表面形状解析装置としては、例えば、UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製)を用いることができる。なお、差分形状に基づく平坦度変化量の算出は、公知の方法を用いて行うことが可能であり、例えば特開2010−237502号公報に開示された方法を用いて行うことが可能である。
【0066】
差分形状に基づく平坦度変化量を算出する所定領域は、少なくとも薄膜において転写パターンが形成される領域が含まれる必要がある。所定領域は、透光性基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmの四角形の内側領域(以下、この領域を「132mm四方の内側領域」という。)であることが好ましく、一辺が142mmの四角形の内側領域(以下、この領域を「142mm四方の内側領域」という。)であるとより好ましい。また、差分形状を算出する領域は、所定領域を含む領域である必要がある。さらに、主表面や薄膜の表面形状を表面形状測定装置で測定する領域も、所定領域を含む領域である必要がある。
【0067】
薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面は、高い平坦度を有することが望ましい。132mm四方の内側領域で算出した一方の主表面の平坦度が、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であるとより好ましく、0.1μm以下であるとさらに好ましい。また、142mm四方の内側領域で算出した一方の主表面の平坦度が、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であるとより好ましく、0.1μm以下であるとさらに好ましい。なお、一方の主表面に対向する他方の主表面も、同等以上の平坦度を有することが望ましい。
【0068】
薄膜の除去は、薄膜にパターンを形成するときに用いられるドライエッチングと同様の方法で行うことができる。例えば、薄膜がケイ素(Si)及び遷移金属(例えばMo)を含む材料からなる場合には、フッ素系ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングによって、薄膜を除去することが可能である。また、薄膜を構成する材料の組成によっては、酸素を含有しない塩素系ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングや、塩素系ガスと酸素ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングによって薄膜を除去することも可能である。また、薄膜を構成する材料の組成によっては、薄膜の除去にウェットエッチングを適用してもよい。
【0069】
本発明のマスクブランクの製造方法によれば、薄膜を形成する前(一方の主表面の上に何も設けられていない状態)の透光性基板の一方の主表面形状と、薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状とから得られる差分形状を基に算出される所定領域内の平坦度変化量が、絶対値で100nm以下となっている。本発明のマスクブランクの製造方法によれば、加熱処理や光照射処理の前後における透光性基板の薄膜が設けられる側の主表面形状の変化量を大幅に抑制できる。このため、薄膜を形成する前の透光性基板の主表面形状と、加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状との差分形状を、薄膜が有する内部応力のより正確な指標として用いることが可能になる。
【0070】
本発明のマスクブランクの製造方法では、差分形状の算出方法として、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて差分形状を得る方法と、薄膜を除去した後に露出する前記透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて差分形状を得る方法のいずれも適用可能である。
【0071】
上述したように、従来技術を用いた場合には、透光性基板の薄膜が形成されている一方の主表面形状自体が、加熱処理又は光照射処理によって大きく変化してしまう。このため、透光性基板に対して加熱処理又は光照射処理を行った後における薄膜の表面形状と、透光性基板の一方の主表面の形状との差分形状を指標として加熱処理または光照射処理の条件を調整しても、薄膜の内部応力を十分に低減することはできなかった。
【0072】
これに対して、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、加熱処理または光照射処理の前後における基板の一方の主表面形状の変化を大幅に抑制することができる。このため、加熱処理又は光照射処理を行った後における薄膜の表面形状と、透光性基板の一方の主表面の形状との差分形状を指標として加熱処理または光照射処理の処理条件を調整しても、加熱処理後又は光照射処理後の透光性基板の一方の主表面に形成された薄膜の内部応力を、360MPa以下、好ましくは300MPa以下、より好ましくは180MPa以下に低減することができる。
【0073】
短波長のパルスレーザー光であるKrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーが露光光として適用される転写用マスクに用いる透光性基板の材料としては、ある程度の水素が含有されたガラス材料を使用することが一般的である。これは、特にエネルギーの高いArFエキシマレーザーは、ガラス材料中を透過する際に内部構造にダメージを与えることがあり、水素がそのダメージを修復する役割を持つためである。一方、従来、透光性基板のガラス材料には、水素を含有させることによるデメリットは特に見つかっていなかった。
【0074】
本発明者は、透光性基板を形成するガラス材料中の水素が、加熱処理または光照射処理の前後における透光性基板の主表面形状の変化に影響を与えている可能性を疑った。そして、その可能性を確認すべく、水素含有量が異なる複数の透光性基板を準備し、以下の検証を行った。最初に、各透光性基板の薄膜を形成する前の主表面の形状を平坦度測定装置で測定した。次に、準備した各透光性基板に、同条件で薄膜を一方の主表面にのみ形成した。続いて、薄膜が形成された後の各透光性基板に対して、同条件で加熱処理を行った。次に、加熱処理後の各透光性基板の薄膜を、エッチングによって全面除去した。次に、薄膜を除去した後の主表面の形状を、平坦度測定装置で測定した。さらに、薄膜を形成する前の主表面形状と、薄膜を除去した後の主表面形状との差分形状を算出した。そして、差分形状から算出される所定領域内の主表面の平坦度変化量と、水素含有量との相関性を検証した。
【0075】
その結果、透光性基板を形成するガラス材料の水素含有量が多くなるほど、主表面の平坦度変化量が大きくなることが判明した。さらに、透光性基板を形成するガラス材料の水素含有量を少なくとも7.4×1018分子数/cm未満とすることで、主表面の平坦度変化量を絶対値で100nm以下に抑制することができることも突き止めた。また、前記の検証のうち、他方の主表面に対しても同条件で薄膜を形成したマスクブランク(2つの主表面のいずれにも同じ薄膜を形成したマスクブランク)を適用して検証を行った場合、差分形状から算出される所定領域内の平坦度変化量は、透光性基板の水素含有量に関係なく、いずれも平坦度測定装置の測定誤差範囲内であった。
【0076】
これらの検証結果から、透光性基板の水素含有量が主表面の形状変化に影響を与える原因は、以下のように推測される。なお、以下の考察は、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0077】
水素を含有するガラス材料からなる透光性基板を加熱処理すると、表面(特に表面積の大きい2つの主表面)から水素が脱離していく。水素が脱離していく前までその水素と結合していたSi等の元素は、別の元素と結合しようとする。このとき、水素が脱離して生じた内部空間の隙間が縮まることで、内部構造が縮まる方向に働く応力(引張応力)が生じる。すべての表面に薄膜を全く設けてない状態(すべての表面が大気中に露出した状態)の透光性基板の場合、基板の内部に比べ表面近傍の表層の方が水素含有量は少なく、表層に引張応力が生じやすい。しかし、この場合、2つの主表面近傍の表層の両方ともに、水素含有量は同程度に低下しており、表層に生じる引張応力も同程度になり、バランスが保たれ、どちらかの主表面の形状が顕著に変化するようなことにはなりにくい。
【0078】
一方、水素を含有するガラス材料からなる透光性基板に対して、一方の主表面にのみ薄膜が形成されている状態で加熱処理を行った場合、薄膜が形成された主表面側では、薄膜によって水素の大気中への脱離が抑制される。このため、薄膜が形成された主表面側の表層の水素含有量は、薄膜が形成されていない他方の主表面(表面が大気中に露出した状態の主表面)側の表層の水素含有量よりも多くなる傾向が生じる。同時に、薄膜が形成された主表面側の表層の引張応力は、薄膜が形成されていない他方の主表面側の表層の引張応力よりも小さくなる傾向が生じる。この結果、薄膜が形成された側の主表面が凸形状の傾向に変形し、薄膜が形成されていない側の主表面が凹形状の傾向に変形する。
【0079】
透光性基板を形成するガラス材料に存在していた水素の含有量が多くなるほど、加熱処理で脱離する水素の量も多くなる。この結果、透光性基板の主表面側の表層に生じる引張応力も大きくなる。薄膜が形成された一方の主表面側の引張応力と、薄膜が形成されていない他方の主表面に生じる引張応力との差も、ガラス材料の水素含有量が多くなるほど大きくなる。逆に、透光性基板を形成するガラス材料の水素含有量を7.4×1018分子数/cm未満と少なくすることで、薄膜が形成された一方の主表面側の引張応力と、薄膜が形成されていない他方の主表面に生じる引張応力との差が大幅に小さくなり、主表面の平坦度変化量を絶対値で100nm以下に抑制することができる。
【0080】
なお、上記の検証や考察では、透光性基板における他方の主表面が露出した状態で加熱処理や光照射処理を行う場合について述べた。しかし、他方の主表面にも薄膜が形成されている場合であっても、透光性基板を形成するガラス材料の水素含有量を7.4×1018分子数/cm未満としないと、一方の主表面に大きな形状変化が生じる場合もある。たとえば、一方の主表面に形成された薄膜に比べ、他方の主表面に形成された薄膜が水素を大幅に通過しやすい特性を有している場合(薄膜を形成する材料の相違、膜厚の大幅な相違、薄膜の積層構造の大幅な相違等)があげられる。
【0081】
一方、加熱処理の場合と同様に、閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理を適用する場合の検証を行った。光照射処理の前後で透光性基板における一方の主表面の形状自体が変化することや、透光性基板の水素含有量を7.4×1018分子数/cm未満とすることで、その主表面の形状変化を大幅に低減することができることまでは、加熱処理の場合と同様であった。しかし、光照射処理の場合、透光性基板における一方の主表面の形状が、凹形状に変化する傾向がある点が、加熱処理の場合と大きく異なる。この原因は、以下のように推測される。なお、以下の考察も、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0082】
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理を行う時間は、加熱処理を行う時間に比べて大幅に短い(光照射処理が秒単位であるのに対し、加熱処理は、数十分〜数時間である。)。薄膜が形成された透光性基板に対して光照射処理を行ったときに、水素が脱離する温度まで加熱されるのは、薄膜とその薄膜が形成されている側である一方の主表面側の表層までである。閃光ランプの光が照射されない他方の主表面は、水素が脱離する温度にまでは加熱されない。透光性基板の薄膜が形成されている一方の主表面側の表層からは水素が脱離し、それによって引張応力が強くなる傾向が生じるが、水素が脱離しない他方の主表面の内部応力には実質的な変化は生じない。この結果、薄膜が形成されている側の主表面は、その引張応力の影響で凹形状の傾向に変形し、それに伴い、薄膜が形成されていない側の他方の主表面は凸形状の傾向に変形する。
【0083】
また、レーザー光を照射する光照射処理を適用する場合の検証も行ったところ、閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理の場合と同様の傾向が得られた。レーザー光を照射する光照射処理も、閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理と同様に、水素が脱離する温度まで加熱されるのは、薄膜と透光性基板の薄膜が形成されている側の主表面の表層までであることに起因すると推測される。
【0084】
本発明のマスクブランクの製造方法では、水素含有量が7.4×1018分子数/cm未満、好ましくは1.0×1018分子数/cm以下、より好ましくは6.0×1017分子数/cm以下、さらに好ましくは2.0×1017分子数/cm以下である透光性基板を用いている。これにより、一方の主表面に薄膜が形成されている透光性基板を加熱処理した場合であっても、透光性基板からの水素の脱離が少なく、透光性基板の一方の主表面形状が凸形状に変形することを抑制することができる。また、透光性基板の一方の主表面に形成された薄膜に対して、閃光ランプから発せられる光を照射した場合や、レーザー光を照射した場合であっても、透光性基板からは水素がほとんど脱離しないために、透光性基板の一方の主表面形状が凹形状に変形することを抑制することができる。
【0085】
本発明のマスクブランクの製造方法によれば、加熱処理または光照射処理によって透光性基板の主表面形状が凸形状または凹形状に変形することを抑制することができる。この結果、薄膜を形成する前の透光性基板の主表面形状と、加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状との差分形状を、薄膜が有する内部応力の指標として用いることが可能になる。すなわち、薄膜を形成する前の透光性基板の主表面形状と、加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状との差分形状を所定値以内に制御することによって、薄膜の内部応力を360MPa以下(好ましくは300MPa以下、より好ましくは180MPa以下)に低減することが可能になる。
【0086】
本発明のマスクブランクの製造方法は、以下の(1)〜(3)に示すマスクブランクに適用することができる。
(1)遷移金属を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
かかるバイナリマスクブランクは、透光性基板上に遮光膜(薄膜)を有する形態のものである。この遮光膜は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
かかるバイナリマスクブランクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
【0087】
(2)遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる光半透過膜を備えた位相シフトマスクブランク
かかる位相シフトマスクブランクの例としては、透光性基板上に光半透過膜(薄膜)を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスクが挙げられる。かかる位相シフトマスクの例としては、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、透光性基板上に光半透過膜とその上の遮光膜(遮光帯)とを有する形態のものが挙げられる。また、位相シフトマスクブランクの例としては、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのほかに、透光性基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用のマスクブランクや、エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
【0088】
前記ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過した光の位相が、光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにする。これにより、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過した光が、回折現象によって相手の領域に回り込んで互いに打ち消しあうために、境界部における光強度がほぼゼロとなり、境界部のコントラスト即ち解像度が向上する。
【0089】
この光半透過膜は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる。このような材料の例として、遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。適用可能な遷移金属は、例えば、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等である。
また、光半透過膜上に遮光膜を有する形態のマスクブランクの場合、上記光半透過膜の材料が遷移金属及びケイ素を含む。このため、遮光膜の材料は、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)材料、特に、クロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物であることが好ましい。
【0090】
レベンソン型位相シフトマスクは、バイナリマスクブランクと同様の構成のマスクブランクから作製される。このため、パターン形成用の薄膜の構成は、バイナリマスクブランクの遮光膜と同様である。エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものではあるが、透過する露光光に生じさせる位相差が小さい膜(例えば、位相差が30度以下。好ましくは0度。)である。この点において、エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜とは異なる。この光半透過膜の材料は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素を含むが、各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率と所定の小さな位相差となるように調整される。
【0091】
(3)遷移金属、または、遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
この遮光膜(薄膜)は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなる。このような材料の例として、遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、遮光膜の材料の例として、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。適用できる遷移金属は、例えば、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等である。
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合、遮光膜は、遮光層(MoSi等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造であってもよいし、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造であってもよい。
また、遮光膜は、膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜であってもよい。
【0092】
また、微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を形成し、レジスト膜の厚みを小さくしてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)材料で構成することが好ましい。エッチングマスク膜は、特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、エッチングマスク膜に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜上にエッチングマスク膜を残した状態で転写用マスクを作製してもよい。
【0093】
本発明のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することによって、転写用マスクを製造することができる。薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことが可能である。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。併せて、実施例に対する比較例についても説明する。
【0095】
[実施例1]
まず、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板を準備した。この透光性基板は、主表面を所定の平坦度および表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。なお、この透光性基板は、薄膜が形成される側の主表面(一方の主表面)の142mm四方の内側領域における平坦度は、0.3μm以下であり、表面形状は凸形状であった。また、主表面の表面粗さは、一辺が1μmの四角形内の測定領域での自乗平方根平均粗さRqで0.2nm以下であった。この透光性基板の材料中の水素濃度をレーザーラマン分光光度法によって測定したところ、2.0×1017[分子数/cm]であった。そして、この透光性基板の一方の主表面形状を、表面形状解析装置(UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製))を用いて測定した(測定領域は、透光性基板の中心を基準とした一辺が142mmの四角形の内側領域である。以降、表面形状解析装置で測定する表面形状の測定領域は、これと同じである。)。
【0096】
つぎに、合成石英ガラスからなる透光性基板上に、ArFエキシマレーザー(波長193nm)用のハーフトーン型位相シフト膜(薄膜)を形成した。具体的には、合成石英ガラスからなる透光性基板上に、枚葉式スパッタ装置を用いて、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSiN膜を膜厚67nmで成膜した。スパッタターゲットには、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(原子%比 Mo:Si=6:94)を用いた。成膜ガスには、アルゴンと窒素とヘリウムとの混合ガス(ガス圧0.3Pa,ガス流量比 Ar:N:He=12.5:50:100)を用いた。DC電源の電力を、3.0kWとした。このハーフトーン型位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの波長において、透過率が6.1%、位相差が177.1度の光学特性を有していた。そして、透光性基板の主表面上に形成されたハーフトーン型位相シフト膜(薄膜)の表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。
【0097】
次に、この薄膜を備えた透光性基板に対して450℃で30分間の加熱処理(アニール処理)を行い、薄膜の膜応力を低減させる処理を行った。そして、加熱処理後の薄膜の表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。
【0098】
次に、エッチングガスとしてSFとHeの混合ガスを用い、ドライエッチングにより、透光性基板の一方の主表面上に形成された薄膜を全面除去した。そして、薄膜の全面除去後の透光性基板の一方の主表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。
【0099】
この実施例1と同様の工程で、材料中の水素濃度が2.0×1017[分子数/cm]の透光性基板を準備した。この透光性基板の一方の主表面形状を、表面形状解析装置を用いて測定した。次に、この透光性基板の一方の主表面上に、同様の条件でMoSiN膜からなるハーフトーン型位相シフト膜(薄膜)を、反応性スパッタリングによって形成した。この薄膜が形成された後の透光性基板に対し、同様の条件で加熱処理を行った。そして、加熱処理後の薄膜の表面形状を、同様に表面形状解析装置で測定した。この薄膜が形成された透光性基板は、加熱処理後の薄膜の表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量が、−0.024[μm]であった。
【0100】
次に、このハーフトーン型位相シフト膜(薄膜)の上に、クロム系材料からなる遮光膜を形成した。これにより、透光性基板上に、ハーフトーン型位相シフト膜と遮光膜が積層したマスクブランクを製造した。遮光膜は、透光性基板側から、CrOCN層/CrN層/CrOCN層が積層した構造を有しており、3層の合計膜厚が48nmであった。続いて、遮光膜上に、レジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜にテストパターンを描画露光し、現像処理等を行い、レジストパターンを形成した。テストパターンが形成されたレジスト膜に対し、パターン位置測定装置(KLA−Tencor社製 LMS IPRO Series)を用いてテストパターンの測定を行った。このレジストパターンをマスクとしたドライエッチングを行い、遮光膜にテストパターンを形成した。
【0101】
続いて、レジスト膜を剥離し、テストパターンが形成された遮光膜をマスクとしたドライエッチングを行い、ハーフトーン型位相シフト膜にテストパターンを形成した。これらの工程により、透光性基板上に、テストパターンが形成されたハーフトーン型位相シフト膜と遮光膜の積層構造を有する、パターンテスト用の転写用マスクを作製した。テストパターンが形成されたハーフトーン型位相シフト膜と遮光膜に対し、パターン位置測定装置を用いて、テストパターンの測定を行った。
【0102】
そして、パターン位置測定装置を用いて、レジスト膜に形成されたテストパターンと、ハーフトーン型位相シフト膜と遮光膜に形成されたテストパターンを比較した。そして、ハーフトーン型位相シフト膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量を求めたところ、最大で1.2nmであった。この位置ずれ量は、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクであっても、十分に許容できる範囲内の大きさであった。
【0103】
[実施例2]
実施例2では、薄膜の膜応力を低減するための処理として、薄膜が形成された透光性基板を加熱する加熱処理を行う代わりに、薄膜が形成された透光性基板に対して閃光ランプから発せられる光を照射する処理(光照射処理)を行った。光照射処理では、キセノン閃光ランプを用い、照射強度15J/cmで、0.01秒間、光を照射する処理を行った。加熱処理の代わりに光照射処理を行った以外は、上記実施例1と同一の条件及び手順により、透光性基板の主表面形状及び薄膜の表面形状の測定を行った。
【0104】
[比較例1]
比較例1では、材料中の水素濃度が7.4×1018[分子数/cm]である透光性基板を用いた以外は、上記実施例1と同一の条件及び手順により、透光性基板の主表面形状及び薄膜の表面形状の測定を行った。
【0105】
[比較例2]
比較例2では、材料中の水素濃度が7.4×1018[分子数/cm]である透光性基板を用いた以外は、上記実施例2と同一の条件及び手順により、透光性基板の主表面形状及び薄膜の表面形状の測定を行った。
【0106】
実施例1、2及び比較例1、2のそれぞれについて、以下の(1)〜(5)の平坦度変化量([μm])を算出した。これらの平坦度変化量は、いずれも142mm四方の内側領域で算出されたものである。なお、平坦度変化量が正の数値の場合は表面形状が凸方向に変化したことを意味し、負の数値の場合は表面形状が凹方向に変化したことを意味する。
(1)加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量
(2)加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状から、薄膜を全面除去した後の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量
(3)薄膜を全面除去した後の透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量
(4)加熱処理前または光照射処理前の薄膜の表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量
(5)加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状から、加熱処理前または光照射処理前の薄膜の表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示す結果を見れば分かる通り、実施例1では、薄膜を全面除去した後に露出する透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量が、0.023μm(加熱処理によって、表面形状が凸方向に微小に変化している)となっており、絶対値で100nm以下となっていた。
【0109】
これに対して、比較例1では、薄膜を全面除去した後に露出する透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量が、0.112μm(加熱処理によって、表面形状が凸方向に大幅に変化している)となっており、絶対値で100nm以下となっていなかった。
【0110】
実施例2では、薄膜を全面除去した後に露出する透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量が、−0.025μm(光照射処理によって、表面形状が凹方向に微小に変化している)となっており、絶対値で100nm以下となっていた。
【0111】
これに対して、比較例2では、薄膜を全面除去した後に露出する透光性基板の一方の主表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量が、−0.131μm(光照射処理によって、表面形状が凹方向に大幅に変化している)となっており、絶対値で100nm以下となっていなかった。
【0112】
透光性基板上に形成された薄膜の膜応力をより正確に特定するためには、「(2)加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状から、薄膜を全面除去した後の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量」を指標にすることが望ましい。しかし、この平坦度変化量の指標を用いるためには、薄膜を剥離しなければならないという問題がある。「(1)加熱処理後または光照射処理後の薄膜の表面形状から、薄膜を形成する前の透光性基板の一方の主表面形状を差し引いて得られる差分形状から算出される平坦度変化量」を薄膜の膜応力を特定するための指標とすれば、薄膜を除去する必要がなくなる。
【0113】
比較例1や比較例2のマスクブランクは、加熱処理後または光照射処理後における基板の主表面形状が大きく変化してしまっていることに起因し、(1)の平坦度変化量と(2)の平坦度変化量との差が大きくなりすぎている。このため、(1)の平坦度変化量は、膜応力を特定する指標として適用することはできない。これに対し、実施例1や実施例2のマスクブランクは、加熱処理後または光照射処理後における基板の主表面形状の変化が小さいことから、(1)の平坦度変化量と(2)の平坦度変化量との差が微小である。このため、実施例1や実施例2のマスクブランクは、膜応力を特定する指標として(1)の平坦度変化量を適用しても実用上問題が生じない。
【0114】
[符号の説明]
71 主表面
72 側面
73 面取面
図1