【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の知見によれば、高温環境下で長時間運転された熱交換器では、異なる耐熱鋼で形成された伝熱管同士の溶接部において、溶着金属と母材の熱影響部との境界部分(所謂ボンド部)で剥離が発生し、蒸気の漏洩が生じることがある。例えば、クロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管とオーステナイト系ステンレス鋼で形成された伝熱管とがインコネル系の溶着金属を介して溶接された溶接部では、特にクロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管の母材の熱影響部とインコネル系の溶着金属との境界部分で
図10及び
図11に示すように剥離(以下、ボンド剥離と称する。)が生じ、蒸気の漏洩が生じることがあった。このため、斯かるボンド剥離の原因を究明するために、溶接部の温度を精度良く推定する必要が生じている。
【0005】
熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定する方法としては、伝熱管の内周面に形成された水蒸気酸化スケールの厚さに基づいて温度を推定する方法がある。しかしながら、ボンド部付近では、伝熱管の母材と溶着金属の熱膨張差に起因して水蒸気酸化スケールが剥離しやすいため、水蒸気酸化スケールが均一に生成されず、斯かる方法で伝熱管の温度を精度よく推定することは困難である。
【0006】
また、特許文献1には、ベイナイト組織を有する高強度フェライト鋼で形成された伝熱管に関し、加熱温度の上昇又は加熱時間の経過によってベイナイト組織が破壊されて伝熱管のピッカース硬さが低下することを利用して、熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定する方法が開示されている。斯かる方法では、経時劣化した伝熱管の母材の硬さと複数の時効材の硬さとを比較し、伝熱管の硬さに相当する時効材の硬さからラーソンミラーパラメータ値を求め、このラーソンミラーパラメータ値をラーソンミラーパラメータの関係式に代入して伝熱管の温度を推定している。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の温度推定方法は、伝熱管の母材部分の硬さに基づいて熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定するものであり、斯かる方法では、異なる耐熱鋼で形成された伝熱管同士の溶接部における温度を精度良く推定することはできない。
【0008】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、互いに異なる耐熱鋼で形成された第1伝熱管と第2伝熱管とを備える熱交換器について、運転時における第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部の温度を精度よく推定可能な、溶接部の温度推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る溶接部の温度推定方法は、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部における運転時の温度を推定する溶接部の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、第1耐熱鋼で形成され、前記第2伝熱管は、前記第1耐熱鋼とは異なる第2耐熱鋼で形成され、前記第1伝熱管と前記第2伝熱管とは溶着金属を介して溶接されており、前記溶着金属のうち前記第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分に生じた変質層の硬さ又は厚さを計測する計測ステップと、前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さに基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する推定ステップと、を含む。
【0010】
本願発明者の鋭意検討の結果、溶着金属のうち第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分には、経時的な劣化に伴って変質層が形成されることが明らかとなった。この変質層は、他の領域と比較して硬くなっており、また、他の領域と比較して顕微鏡等で見た組織状態(例えば色)が異なっている。また、変質層の硬さ及び厚さは、熱交換器の運転時における溶接部の温度に依存していることが判明した。
【0011】
そこで、上記(1)に記載の溶接部の温度推定方法は、溶着金属のうち第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分に生じた変質層の硬さ又は厚さを計測する計測ステップと、計測ステップにおいて計測した変質層の硬さ又は厚さに基づいて、溶接部の運転時の温度を推定する推定ステップと、を含んでいる。これにより、計測ステップにおいて計測した変質層の硬さ又は厚さに基づいて、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の温度推定方法であって、前記推定ステップは、前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さと、前記変質層の硬さ又は厚さと前記溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報と、に基づいて、前記計測ステップで計測した前記変質層の硬さ又は厚さに対応する前記溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1を導出するL
1導出ステップと、前記L
1導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値L
1に基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する温度推定ステップと、を含む。
【0013】
本願発明者の知見によれば、変質層の硬さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとは相関関係があり、ラーソンミラーパラメータLが大きくなるほど変質層の硬さが硬くなる。また、本発明者の知見によれば、変質層の厚さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとは相関関係があり、ラーソンミラーパラメータLが大きくなるほど変質層の厚さが厚くなる。
【0014】
そこで、上記(2)に記載の温度推定方法では、L
1導出ステップにおいて、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さと、変質層の硬さ又は厚さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報と、に基づいて、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1を導出している。そして、L
1導出ステップで導出した溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1に基づいて、温度推定ステップで、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部の運転時の温度を推定している。これにより、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1に基づいて、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0015】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の温度推定方法であって、前記温度推定ステップでは、前記L
1導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値L
1と、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値L
0と、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間t
1と、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する。
【0016】
上記(3)に記載の温度推定方法によれば、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1と、溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値L
0と、溶着金属の未使用時から現在までの経過時間t
1と、に基づいて、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載の温度推定方法であって、前記L
1導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値L
1と、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値L
0と、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間t
1と、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度条件下における前記溶着金属の未使用時から破断までの全寿命t
0を評価する全寿命評価ステップと、前記全寿命評価ステップで評価した前記全寿命t
0と前記経過時間t
1とに基づいて、前記溶着金属の現在から破断までの余寿命t
2(=t
0−t
1)を評価する余寿命評価ステップと、を更に含む。
【0018】
上記(4)に記載の温度推定方法では、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値L
1と、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値L
0と、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間t
1と、に基づいて、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部(異材継手部)の運転時の温度条件下における溶着金属の未使用時から破断までの全寿命t
0を精度良く評価することができる。また、全寿命評価ステップで評価した全寿命t
0から溶着金属の未使用時から現在までの経過時間t
1を減算することにより、溶接部における溶着金属の現在から破断までの余寿命t
2を精度よく求めることができる。
【0019】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記溶着金属は、Ni基合金である。
【0020】
本願発明者の知見によれば、上記(5)に記載のように、溶着金属としてNi基合金を使用する場合に、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の温度推定方法であって、前記溶着金属は、インコネル(登録商標)である。
【0022】
本願発明者の知見によれば、上記(6)に記載のように、溶着金属としてインコネルを使用する場合に、上記(5)に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、フェライト系耐熱鋼で形成されている。
【0024】
本願発明者の知見によれば、上記(7)に記載のように、第1伝熱管がフェライト系耐熱鋼で形成されている場合に、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0025】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、クロム・モリブデン鋼で形成されている。
【0026】
本願発明者の知見によれば、上記(8)に記載のように、第1伝熱管がクロム・モリブデン鋼で形成されている場合に、上記(7)に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0027】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記第2伝熱管は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成される。
【0028】
本願発明者の知見によれば、上記(9)に記載のように、第2伝熱管がオーステナイト系ステンレス鋼で形成されている場合に、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。