特許第6371234号(P6371234)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371234
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】溶接部の温度推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/00 20060101AFI20180730BHJP
【FI】
   G01K11/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-31945(P2015-31945)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153754(P2016-153754A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2017年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】今里 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】西尾 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】駒井 伸好
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 敬之
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−90506(JP,A)
【文献】 特開昭62−144069(JP,A)
【文献】 特開2012−137385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
F22B37/00−37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部における運転時の温度を推定する溶接部の温度推定方法であって、
前記第1伝熱管は、第1耐熱鋼で形成され、
前記第2伝熱管は、前記第1耐熱鋼とは異なる第2耐熱鋼で形成され、
前記第1伝熱管と前記第2伝熱管とは溶着金属を介して溶接されており、
前記溶着金属のうち前記第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分に生じた変質層の硬さ又は厚さを計測する計測ステップと、
前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さに基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する推定ステップと、
を含み、
前記推定ステップは、
前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さと、前記変質層の硬さ又は厚さと前記溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報と、に基づいて、前記計測ステップで計測した前記変質層の硬さ又は厚さに対応する前記溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出するL導出ステップと、
前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する温度推定ステップと、
を含み、
前記温度推定ステップでは、前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lと、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する
溶接部の温度推定方法。
【請求項2】
前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lと、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度条件下における前記溶着金属の未使用時から破断までの全寿命tを評価する全寿命評価ステップと、
前記全寿命評価ステップで評価した前記全寿命tと前記経過時間tとに基づいて、前記溶着金属の現在から破断までの余寿命t(=t−t)を評価する余寿命評価ステップと、
を更に含む請求項1に記載の溶接部の温度推定方法。
【請求項3】
前記溶着金属は、Ni基合金である請求項1又は2に記載の溶接部の温度推定方法。
【請求項4】
前記溶着金属は、インコネル(登録商標)である請求項3に記載の溶接部の温度推定方法。
【請求項5】
前記第1伝熱管は、フェライト系耐熱鋼で形成されている請求項1乃至の何れか1項に記載の溶接部の温度推定方法。
【請求項6】
前記第1伝熱管は、クロム・モリブデン鋼で形成されている請求項5に記載の溶接部の温度推定方法。
【請求項7】
前記第2伝熱管は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成される請求項1乃至の何れか1項に記載の溶接部の温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接部の温度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや舶用ボイラ等で使用される熱交換器では、高効率化及びコスト低減の観点から、温度領域に応じて異なる耐熱鋼で形成された伝熱管が使用される場合があり、この場合、異なる耐熱鋼で形成された伝熱管同士を溶接する、所謂、異材溶接が適用される。例えば、フェライト系の耐熱鋼で形成された低温領域用の伝熱管と、オーステナイト系ステンレス鋼で形成された高温領域用の伝熱管とが異材溶接されることがある。異材溶接が適用される場合において、例えばオーステナイト系ステンレス鋼で形成された伝熱管とフェライト系のクロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管との溶接部には、図9に示すように、クロム・モリブデン鋼(Cr‐Mo)の熱膨張係数とステンレス鋼(SUS)の熱膨張係数との間の熱膨張係数を有するインコネル系の溶接材料(溶加材)が使用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−137385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者の知見によれば、高温環境下で長時間運転された熱交換器では、異なる耐熱鋼で形成された伝熱管同士の溶接部において、溶着金属と母材の熱影響部との境界部分(所謂ボンド部)で剥離が発生し、蒸気の漏洩が生じることがある。例えば、クロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管とオーステナイト系ステンレス鋼で形成された伝熱管とがインコネル系の溶着金属を介して溶接された溶接部では、特にクロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管の母材の熱影響部とインコネル系の溶着金属との境界部分で図10及び図11に示すように剥離(以下、ボンド剥離と称する。)が生じ、蒸気の漏洩が生じることがあった。このため、斯かるボンド剥離の原因を究明するために、溶接部の温度を精度良く推定する必要が生じている。
【0005】
熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定する方法としては、伝熱管の内周面に形成された水蒸気酸化スケールの厚さに基づいて温度を推定する方法がある。しかしながら、ボンド部付近では、伝熱管の母材と溶着金属の熱膨張差に起因して水蒸気酸化スケールが剥離しやすいため、水蒸気酸化スケールが均一に生成されず、斯かる方法で伝熱管の温度を精度よく推定することは困難である。
【0006】
また、特許文献1には、ベイナイト組織を有する高強度フェライト鋼で形成された伝熱管に関し、加熱温度の上昇又は加熱時間の経過によってベイナイト組織が破壊されて伝熱管のピッカース硬さが低下することを利用して、熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定する方法が開示されている。斯かる方法では、経時劣化した伝熱管の母材の硬さと複数の時効材の硬さとを比較し、伝熱管の硬さに相当する時効材の硬さからラーソンミラーパラメータ値を求め、このラーソンミラーパラメータ値をラーソンミラーパラメータの関係式に代入して伝熱管の温度を推定している。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の温度推定方法は、伝熱管の母材部分の硬さに基づいて熱交換器の運転時における伝熱管の温度を推定するものであり、斯かる方法では、異なる耐熱鋼で形成された伝熱管同士の溶接部における温度を精度良く推定することはできない。
【0008】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、互いに異なる耐熱鋼で形成された第1伝熱管と第2伝熱管とを備える熱交換器について、運転時における第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部の温度を精度よく推定可能な、溶接部の温度推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る溶接部の温度推定方法は、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部における運転時の温度を推定する溶接部の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、第1耐熱鋼で形成され、前記第2伝熱管は、前記第1耐熱鋼とは異なる第2耐熱鋼で形成され、前記第1伝熱管と前記第2伝熱管とは溶着金属を介して溶接されており、前記溶着金属のうち前記第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分に生じた変質層の硬さ又は厚さを計測する計測ステップと、前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さに基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する推定ステップと、を含む。
【0010】
本願発明者の鋭意検討の結果、溶着金属のうち第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分には、経時的な劣化に伴って変質層が形成されることが明らかとなった。この変質層は、他の領域と比較して硬くなっており、また、他の領域と比較して顕微鏡等で見た組織状態(例えば色)が異なっている。また、変質層の硬さ及び厚さは、熱交換器の運転時における溶接部の温度に依存していることが判明した。
【0011】
そこで、上記(1)に記載の溶接部の温度推定方法は、溶着金属のうち第1伝熱管の母材の熱影響部に隣接する部分に生じた変質層の硬さ又は厚さを計測する計測ステップと、計測ステップにおいて計測した変質層の硬さ又は厚さに基づいて、溶接部の運転時の温度を推定する推定ステップと、を含んでいる。これにより、計測ステップにおいて計測した変質層の硬さ又は厚さに基づいて、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の温度推定方法であって、前記推定ステップは、前記計測ステップにおいて計測した前記変質層の硬さ又は厚さと、前記変質層の硬さ又は厚さと前記溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報と、に基づいて、前記計測ステップで計測した前記変質層の硬さ又は厚さに対応する前記溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出するL導出ステップと、前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する温度推定ステップと、を含む。
【0013】
本願発明者の知見によれば、変質層の硬さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとは相関関係があり、ラーソンミラーパラメータLが大きくなるほど変質層の硬さが硬くなる。また、本発明者の知見によれば、変質層の厚さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとは相関関係があり、ラーソンミラーパラメータLが大きくなるほど変質層の厚さが厚くなる。
【0014】
そこで、上記(2)に記載の温度推定方法では、L導出ステップにおいて、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さと、変質層の硬さ又は厚さと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報と、に基づいて、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出している。そして、L導出ステップで導出した溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、温度推定ステップで、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部の運転時の温度を推定している。これにより、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0015】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の温度推定方法であって、前記温度推定ステップでは、前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lと、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度を推定する。
【0016】
上記(3)に記載の温度推定方法によれば、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lと、溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部(異材継手部)における運転時の温度を精度良く推定することができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)に記載の温度推定方法であって、前記L導出ステップで導出した前記ラーソンミラーパラメータの現在値Lと、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、前記溶接部の運転時の温度条件下における前記溶着金属の未使用時から破断までの全寿命tを評価する全寿命評価ステップと、前記全寿命評価ステップで評価した前記全寿命tと前記経過時間tとに基づいて、前記溶着金属の現在から破断までの余寿命t(=t−t)を評価する余寿命評価ステップと、を更に含む。
【0018】
上記(4)に記載の温度推定方法では、計測ステップで計測した変質層の硬さ又は厚さに対応する溶着金属のラーソンミラーパラメータの現在値Lと、前記溶着金属の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、前記溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、ラーソンミラーパラメータの関係式(後述する式1及び式2)を用いて溶接部(異材継手部)の運転時の温度条件下における溶着金属の未使用時から破断までの全寿命tを精度良く評価することができる。また、全寿命評価ステップで評価した全寿命tから溶着金属の未使用時から現在までの経過時間tを減算することにより、溶接部における溶着金属の現在から破断までの余寿命tを精度よく求めることができる。
【0019】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記溶着金属は、Ni基合金である。
【0020】
本願発明者の知見によれば、上記(5)に記載のように、溶着金属としてNi基合金を使用する場合に、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の温度推定方法であって、前記溶着金属は、インコネル(登録商標)である。
【0022】
本願発明者の知見によれば、上記(6)に記載のように、溶着金属としてインコネルを使用する場合に、上記(5)に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、フェライト系耐熱鋼で形成されている。
【0024】
本願発明者の知見によれば、上記(7)に記載のように、第1伝熱管がフェライト系耐熱鋼で形成されている場合に、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0025】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載の温度推定方法であって、前記第1伝熱管は、クロム・モリブデン鋼で形成されている。
【0026】
本願発明者の知見によれば、上記(8)に記載のように、第1伝熱管がクロム・モリブデン鋼で形成されている場合に、上記(7)に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【0027】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の温度推定方法であって、前記第2伝熱管は、オーステナイト系ステンレス鋼で形成される。
【0028】
本願発明者の知見によれば、上記(9)に記載のように、第2伝熱管がオーステナイト系ステンレス鋼で形成されている場合に、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の温度推定方法を好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、互いに異なる耐熱鋼で形成された第1伝熱管と第2伝熱管とを備える熱交換器について、運転時における第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部の温度を精度よく推定可能な、溶接部の温度推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示した第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部について、試験温度600℃にて、破断時間が約1700時間となる条件下でクリープ破断試験を行ったときの、溶接部の断面(第1伝熱管及び第2伝熱管の軸に沿った断面)及び硬さ分布を示す図である。
図3図1に示した第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部について、試験温度600℃にて、破断時間が約40000時間となる条件下でクリープ破断試験を行ったときの、溶接部の断面(第1伝熱管及び第2伝熱管の軸に沿った断面)及び硬さ分布を示す図である。
図4】熱交換器の運転時における溶接部の温度を推定する温度推定フローを示す図である。
図5】溶着金属のラーソンミラーパラメータLと変質層の硬さとの関係を示す図である。
図6】溶着金属のラーソンミラーパラメータLと溶接部の溶着金属の対象部位にかかる応力σとの関係を示す図である。
図7】熱交換器の運転時における溶接部の温度を推定する温度推定フローを示す図である。
図8】変質層の厚さdと溶着金属のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す図である。
図9】ステンレス鋼の熱膨張係数、クロム・モリブデン鋼の熱膨張係数、及びインコネル系の溶接材料の膨張係数を示す図である。
図10】クロム・モリブデン鋼で形成された伝熱管の母材の熱影響部とインコネル系の溶着金属との境界部分で剥離が生じている様子を示す図である。
図11図10におけるA−A断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0032】
図1は、熱交換器2が備える第1伝熱管4と第2伝熱管6との溶接部8を模式的に示す斜視図である。
【0033】
図1において、熱交換器2は、例えば火力発電プラントや舶用ボイラ等に使用される熱交換器であり、例えば燃焼ガスと蒸気との熱交換等に使用されてもよい。図1において、第1伝熱管4は、比較的低温領域で使用されるものであり、フェライト系耐熱鋼としてのクロム・モリブデン鋼(第1耐熱鋼)で形成されている。また、第2伝熱管6は、比較的高温領域で使用されるものであり、オーステナイト系ステンレス鋼(第2耐熱鋼)で形成されている。また、第1伝熱管4と第2伝熱管6とはNi基合金としてのインコネル系の溶着金属10を介して溶接されている。インコネル系の溶着金属10(溶加材)の熱膨張係数は、図9に示すようにクロム・モリブデン鋼(Cr‐Mo)の熱膨張係数とステンレス鋼(SUS)の熱膨張係数との間の熱膨張係数を有する
【0034】
図2は、図1に示した第1伝熱管4と第2伝熱管6との溶接部8について、試験温度600℃にて、破断時間が約1700時間となる条件下でクリープ破断試験を行ったときの、溶接部8の断面(第1伝熱管4及び第2伝熱管6の軸に沿った断面)及び硬さ分布を示す図である。図3は、図1に示した第1伝熱管4と第2伝熱管6との溶接部8について、試験温度600℃にて、破断時間が約40000時間となる条件下でクリープ破断試験を行ったときの、溶接部8の断面(第1伝熱管4及び第2伝熱管6の軸に沿った断面)及び硬さ分布を示す図である。図2及び図3において、方形のプロットの大きさは、プロット位置でのメタルの硬さを示しており、プロットの大きさが小さいほどメタルの硬さが大きい(硬い)ことを意味する。
【0035】
本願発明者の鋭意検討の結果、図2及び図3に示すように、溶着金属10のうち第1伝熱管4の母材12の熱影響部14に隣接する部分には、経時的な劣化に伴って変質層10aが形成されることが明らかとなった。この変質層10aは、図2及び図3に示すように、他の領域と比較して硬くなっており、他の領域と比較して顕微鏡等で見た組織状態(例えば色)が異なっている。また、図2及び図3の比較から、破断時間が長くなるにつれて、変質層が硬くなるとともに変質層10aの厚さd(第1伝熱管4の軸方向における変質層10aの幅)が大きくなることが明らかとなった。
【0036】
図4は、上記の新たな知見を利用した、熱交換器2の運転時における溶接部8の温度Tを推定する温度推定フロー100を示す図である。
【0037】
一実施形態では、図4に示すように、温度推定フロー100は、溶着金属10のうち第1伝熱管4の母材12の熱影響部14に隣接する部分に生じた変質層10aの硬さhを計測する計測ステップS11と、計測ステップS11において計測した変質層10aの硬さhに基づいて、溶接部8の運転時の温度Tを推定する推定ステップS12と、を含む。
【0038】
計測ステップS11では、例えば溶接部8の表面に対して研磨、エッチング等の前処理を行い、現出した組織における変質層10aの硬さhを、超音波硬さ計等の計測器を用いて計測してもよい。また、図2及び図3に示すように変質層10aを横断する方向における複数箇所で変質層10aの硬さhを計測し、変質層10aの複数箇所の硬さのうちの最高硬さを推定ステップS12での温度推定に使用してもよい。
【0039】
推定ステップS12は、計測ステップS11で計測した変質層10aの硬さに対応する溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出するL導出ステップS12aと、溶接部8の運転時の温度Tを推定する温度推定ステップS12bと、を含む。
【0040】
導出ステップS12aでは、計測ステップS11において計測した変質層10aの硬さh(好ましくは、上述した複数箇所の硬さのうちの最高硬さ)と、変質層10aの硬さhと溶着金属10のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報(図5に示す直線A1)と、に基づいて、計測ステップS11で計測した変質層10aの硬さhに対応する溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出する。ここで、図5に示す直線A1は、事前にクリープ破断試験を行って求めておけばよい。例えば、複数の応力条件(溶着金属10に発生する応力が互いに異なる複数の条件)下でクリープ破断試験を行って、各応力条件における変質層10aの硬さhとラーソンミラーパラメータLとの関係をプロット(図5における黒三角のプロット)し、各プロットに対する回帰直線を直線A1として求めてもよい。
【0041】
温度推定ステップS12bでは、L導出ステップS12aで導出したラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、溶接部8の運転時の温度Tを推定する。例えば、L導出ステップS12aで導出したラーソンミラーパラメータの現在値Lと、溶着金属10の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、溶着金属10の未使用時から現在までの経過時間tと、に基づいて、以下の(式1)及び(式2)を用いて溶接部8の運転時の温度Tを推定することができる。

【0042】
ここで、tは、溶着金属10の未使用時から破断までの全寿命tである。なお、溶着金属10の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lについては、図6におけるラーソンミラーパラメータLと応力σの関係を示す既知の曲線Uから、溶接部8の溶着金属10の対象部位にかかる応力σ(ラーソンミラーパラメータLの応力条件と同じ応力条件)に対応する値を上記初期値Lとして抽出すればよい。この際、曲線Uは、文献値に基づいて設定してもよいし、クリープ破断試験によって定めてもよい。また、曲線Uについては、溶着金属10の未使用時のラーソンミラーパラメータの平均値に対して、ばらつきを考慮して例えば1%程度のマージンを設定し、99%程度の信頼限界の下限値を採用してもよい。また、Cは溶着金属10の材料によって定まる材料定数である。
【0043】
温度推定ステップS12bでは、上記(式1)及び(式2)において、L導出ステップS12aで導出したラーソンミラーパラメータの現在値Lと、溶着金属10の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、溶着金属10の未使用時から現在までの経過時間tとを代入してこれらの二つの連立方程式を解くことにより、溶接部8の運転時の温度Tを算出(推定)する。これにより、熱交換器2が備える第1伝熱管4と第2伝熱管6との溶接部8(特に、第1伝熱管4の母材12の熱影響部14との境界B付近の部分)における運転時の温度Tを、計測ステップS11において計測した変質層10aの硬さhに基づいて精度良く推定することができる。
【0044】
また、図4に示す温度推定フロー100は、更に、全寿命評価ステップS13と、余寿命評価ステップS14とを有する。
【0045】
全寿命評価ステップS13では、上記(式1)及び(式2)において、L導出ステップS12aで導出したラーソンミラーパラメータの現在値Lと、溶着金属10の未使用時のラーソンミラーパラメータの初期値Lと、溶着金属10の未使用時から現在までの経過時間tとを代入してこれらの二つの連立方程式を解くことにより、溶着金属10の未使用時から破断までの全寿命tを算出(評価)する。
【0046】
余寿命評価ステップS14では、全寿命評価ステップS13で評価した全寿命tと経過時間tとに基づいて、溶着金属10の現在から破断までの余寿命t(=t−t)を算出(評価)する。これにより、熱交換器が備える第1伝熱管と第2伝熱管との溶接部における溶着金属10(特に、第1伝熱管4の母材12の熱影響部14との境界B付近の部分)の余寿命を、計測ステップS11において計測した変質層の硬さhに基づいて精度良く推定することができる。これにより、熱交換器2の保守管理を計画しやすくなり、トラブルを未然に防止できる。
【0047】
図7は、一実施形態に係る熱交換器2の運転時における溶接部8の温度Tを推定する温度推定フロー200を示す図である。
【0048】
図4に示す温度推定フロー100は、変質層10aの硬さhに基づいて溶接部8の運転時の温度Tを推定したが、図7に示す温度推定フロー200は、変質層10aの硬さhの代わりに変質層10aの厚さdに基づいて溶接部8の運転時の温度Tを推定する。図7に示す温度推定フロー200のうち、S22b、S23及びS24は、それぞれ、図4を用いて説明したS12b、S13及びS14と同じであるため説明を省略し、以下では、温度推定フロー100と異なる点を中心に説明する。
【0049】
一実施形態では、図7に示すように、温度推定フロー200は、溶着金属10のうち第1伝熱管4の母材12の熱影響部14に隣接する部分に生じた変質層10aの厚さdを計測する計測ステップS21と、計測ステップS21において計測した変質層10aの厚さdに基づいて、溶接部8の運転時の温度Tを推定する推定ステップS22と、を含む。
【0050】
計測ステップS21では、例えば溶接部8の表面に対して研磨、エッチング等の前処理を行い、現出した組織における変質層10aの厚さdを計測してもよい。
【0051】
推定ステップS22は、計測ステップS21の計測時における溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出するL導出ステップS22aと、溶接部8の運転時の温度Tを推定する温度推定ステップS22bと、を含む。
【0052】
導出ステップS22aでは、計測ステップS21において計測した変質層10aの厚さdと、変質層10aの厚さdと溶着金属10のラーソンミラーパラメータLとの関係を示す情報(図8に示す直線A2)と、に基づいて、計測ステップS21で計測した変質層10aの厚さdに対応する溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出する。ここで、図8に示す直線A2は、事前にクリープ破断試験を行って求めておけばよい。例えば、複数の応力条件(溶着金属10に発生する応力が互いに異なる複数の条件)下でクリープ破断試験を行って、各応力条件における変質層10aの厚さとラーソンミラーパラメータLとの関係をプロット(図5における黒丸のプロット)し、各プロットに対する回帰直線を直線A2として求めてもよい。
【0053】
このように、変質層10aの厚さdに基づいて求めたラーソンミラーパラメータの現在値Lに基づいて、図4を用いて説明した温度推定ステップS12b、全寿命推定ステップS13及び余寿命推定ステップS14と同様の方法により、熱交換器2の運転時における溶接部8の温度T、溶着金属10の未使用時から破断までの全寿命t、及び溶着金属10の現在から破断までの余寿命tを精度良く求めることができる。
【0054】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。例えば、上述した実施形態では、変質層10aの硬さh又は厚さdに基づいて、溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出したが、変質層10aの硬さhと厚さdの両方に基づいて、溶着金属10のラーソンミラーパラメータの現在値Lを導出しても良い。
【符号の説明】
【0055】
2 熱交換器
4 第1伝熱管
6 第2伝熱管
8 溶接部
10 溶着金属
10a 変質層
12 母材
14 熱影響部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11