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特許6371241風力発電設備及び風力発電設備の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371241
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】風力発電設備及び風力発電設備の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 7/04 20060101AFI20180730BHJP
   G05B 11/32 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   F03D7/04 H
   G05B11/32 C
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-52819(P2015-52819)
(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-173044(P2016-173044A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】林 義之
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−276535(JP,A)
【文献】 特開平08−226373(JP,A)
【文献】 特開昭56−153410(JP,A)
【文献】 特開平06−151272(JP,A)
【文献】 特許第5331197(JP,B2)
【文献】 The Neural Network Self-Adaptive Algorithm Application on Mechanism Pitch-adjust System of Wind Turbine,ELECTICAL MACHINES AND SYSTEMS,2007.ICEMS.INTERNATIONAL CONFERENCE ON.IEEE.PI,2007年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 7/04
G05B 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ角の調節のために前記油圧装置に指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出するための第1信号算出部と、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出するための第2信号算出部と、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える前記指令値を算出するための指令値算出部と、
を含み、
前記第2信号算出部は、前記油圧シリンダ内の作動油の弾性及び前記風車翼の慣性に応じた固有周波数の振動成分を有する油柱共振が減衰されるように前記第2信号を算出するように構成された
ことを特徴とする風力発電設備。
【請求項2】
前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す物理量を計測するためのセンサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出し、
前記ピッチ角加速度に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出する
ように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の風力発電設備。
【請求項3】
前記センサは、前記油圧シリンダのストローク値又はストローク変化速度を計測するように構成され、
前記第2信号算出部は、前記ストローク値又は前記ストローク変化速度から前記ピッチ角加速度を算出するように構成されたことを特徴とする請求項2に記載の風力発電設備。
【請求項4】
前記第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値を2階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の風力発電設備。
【請求項5】
前記第2信号算出部は、前記ピッチ角速度を1階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成されたことを特徴とする請求項2又は3の何れか一項に記載の風力発電設備。
【請求項6】
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ角の調節のために前記油圧装置に指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出するための第1信号算出部と、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出するための第2信号算出部と、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える前記指令値を算出するための指令値算出部と、
を含み、
前記油圧シリンダ内の圧力を計測するための圧力センサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記圧力とシリンダ面積から算出したシリンダ推力を、前記風車翼と、前記ピッチ駆動部の少なくとも一部と、を含むピッチシステムの慣性によって除算することで前記ピッチ角加速度を示す指標を算出し、
前記指標の算出結果に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出する
ように構成されたことを特徴とする風力発電設備。
【請求項7】
前記第2信号算出部は、前記風車翼の前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に対して、遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するフィルタ処理を施して、前記フィルタ処理が施された前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成され、
前記遮断周波数は、前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値に設定されることを特徴とする請求項2、3または5に記載の風力発電設備。
【請求項8】
前記油圧装置は、
油を貯留するための油タンクと、
前記圧油源と前記油圧シリンダとの間に設けられ、前記油タンクに貯留された油を前記油圧シリンダに供給するための供給ラインと、をさらに有し、
前記油圧シリンダは、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを含み、前記第1シリンダ室への油の供給と前記第2シリンダ室への油の供給の切り替えにより、前記風車翼のピッチ角の変化をファイン側又はフェザー側との間で切り替え可能に構成されており、
前記油圧バルブは、前記供給ラインに設けられ、前記油圧シリンダへの油の供給量の調節可能に、かつ、前記第1シリンダ室と前記第2シリンダ室との間で油の供給先を切り替え可能に構成された
ことを特徴とする、請求項1乃至7の何れか一項に記載の風力発電設備。
【請求項9】
前記第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に適切なゲインを掛けて算出した信号を、前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成されたことを特徴とする請求項2、3、5または7に記載の風力発電設備。
【請求項10】
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ角の調節のために前記油圧装置に指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出するための第1信号算出部と、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出するための第2信号算出部と、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える前記指令値を算出するための指令値算出部と、
を含み、
前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す物理量を計測するためのセンサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出し、
前記ピッチ角加速度に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出する
ように構成され、
前記第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に適切なゲインを掛けて算出した信号を、前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成され、
前記第2信号算出部は、
前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムで発生する共振周波数が2Hz以上20Hz以下の油柱共振を減衰可能に前記ゲインを決定するように構成されたことを特徴とする風力発電設備。
【請求項11】
前記ゲインは、前記ピッチ角要求値、又は前記ピッチ角の前記実際値に応じて変化する様に設定されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の風力発電設備。
【請求項12】
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、を有する風力発電設備の制御方法であって、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出する第1信号算出ステップと、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出する第2信号算出ステップと、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える指令値を算出する指令値算出ステップと、
前記油圧装置に前記指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御して前記ピッチ角を調節するピッチ角調整ステップと、
を備え
前記第2信号算出ステップでは、前記油圧シリンダ内の作動油の弾性及び前記風車翼の慣性に応じた固有周波数の振動成分を有する油柱共振が減衰されるように前記第2信号を算出する
ことを特徴とする風力発電設備の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は風力発電設備及び風力発電設備の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
風車翼のピッチ角を調節するピッチ駆動機構を構成するアクチュエータとして、油圧シリンダを用いることが知られている。
例えば、特許文献1には、油圧ポンプから油圧シリンダへ作動油が供給されて油圧シリンダが駆動されることによって、翼のピッチ角が調節されるようにした翼ピッチ制御装が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5331197号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、油圧シリンダを用いたピッチ角の調整のために、ピッチ角の実測値と目標値との偏差に基づくフィードバック制御を行う場合がある。この場合、フィードバック制御回路の不安定性に起因してハンチングが生じ、風車翼又はナセルに不安定振動が生じる可能性がある。このような不安定振動が生じると風車の故障につながる可能性があるため、風車翼ピッチの不安定振動を抑制することが望まれる。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、ピッチ角調節のためのフィードバック制御に起因した不安定振動を抑制可能な風力発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備は、
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ角の調節のために前記油圧装置に指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出するための第1信号算出部と、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出するための第2信号算出部と、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える前記指令値を算出するための指令値算出部と、
を含む。
【0007】
風車翼のピッチ角のフィードバック制御において、制御装置にフィードバックされる信号は、制御対象である油圧シリンダや風車翼の特性の影響を受ける。例えば、制御装置へのフィードバック信号は、油圧シリンダ内の作動油の弾性や風車翼の慣性に応じた特定の固有周波数の振動成分を有する場合がある。この場合、フィードバック制御におけるゲインを大きくすると、あるピッチ角の範囲において、前述の固有周波数において風車翼に不安定振動(油柱共振)が生じ、ピッチ角のハンチングが発生する場合がある。
上記(1)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動の成分を含み得る第1信号から、ピッチ角加速度に基づく信号を減算してピッチ制御システムに減衰を付与するので、該不安定振動を抑制することができる。
なお、フィードバック制御におけるゲインを十分に小さくすることで、上記(1)のようにフィードバック信号からピッチ角速度に基づく信号を差し引かなくても、風車翼の不安定振動を生じないようにすることもできるが、この場合、ピッチ角制御の応答性が低下する。この点、上記(1)の構成によれば、フィードバック制御におけるゲインを制御応答性が維持可能な範囲内に設定する場合であっても、風車翼ピッチの不安定振動を抑制することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記風力発電設備は、
前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す物理量を計測するためのセンサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記実際値又は物理量から前記ピッチ角加速度を算出し、
前記ピッチ角加速度に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出する
ように構成される。
上記(2)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を、センサの計測値に基づいて取得することができる。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記センサは、前記油圧シリンダのストローク値又はストローク変化速度を計測するように構成され、
前記第2信号算出部は、前記ストローク値又は前記ストローク変化速度から前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
上記(3)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を、センサの計測値(油圧シリンダのストローク値又はストローク変化速度)に基づいて取得することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の何れかの構成において、前記第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値を2階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
(5)また、幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の何れかの構成において、前記第2信号算出部は、前記ピッチ角速度を1階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
上記(4)及び(5)の構成によれば、ピッチ角の実際値を2階微分又はピッチ角速度を1階微分することで算出されるピッチ角速度に基づいて、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を取得できる。
【0011】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記油圧シリンダ内の圧力を計測するための圧力センサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記圧力とシリンダ面積から算出したシリンダ推力を、前記風車翼と、前記ピッチ駆動部の少なくとも一部と、を含むピッチシステムの慣性によって除算することで前記ピッチ角加速度を示す指標を算出し、
前記指標の算出結果に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成される。
シリンダ内圧力にシリンダ面積を乗じて算出した力をピッチシステムの慣性で除すると、その次元は加速度と同一となる。よって、シリンダ内圧力をピッチシステムの慣性で除したものは、ピッチ角加速度を示す指標となる。上記(6)の構成によれば、シリンダ内圧力をピッチシステムの慣性で除することで得られるピッチ角加速度を示す指標に基づいて、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を取得できる。
【0012】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(6)の何れかの構成において、
前記第2信号算出部は、前記風車翼の前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に対して、遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するフィルタ処理を施して、前記フィルタ処理が施された前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成され、
前記遮断周波数は、前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値に設定される。
ピッチ制御システムに減衰を付与するための信号をピッチ角加速度に基づいて算出する場合、例えばセンサで計測されたピッチ角の実際値やピッチ角速度を微分することによって、計測データの高周波のノイズが増幅する場合がある。上記(7)の構成では、ピッチ角の実際値等から得られるピッチ角加速度に基づく信号に対して、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも周波数が大きい成分を除去又は低減する。よって、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも高周波数域におけるノイズを除去又は低減するとともに、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数付近においては、ピッチ角加速度に基づく信号を低減させずに、風車翼ピッチの不安定振動を十分に抑制することができる。
【0013】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の何れかの構成において、
前記油圧装置は、
油を貯留するための油タンクと、
前記圧油源と前記油圧シリンダとの間に設けられ、前記油タンクに貯留された油を前記油圧シリンダに供給するための供給ラインと、をさらに有し、
前記油圧シリンダは、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを含み、前記第1シリンダ室への油の供給と前記第2シリンダ室への油の供給の切り替えにより、前記風車翼のピッチ角の変化をファイン側又はフェザー側との間で切り替え可能に構成されており、
前記油圧バルブは、前記供給ラインに設けられ、前記油圧シリンダへの油の供給量の調節可能に、かつ、前記第1シリンダ室と前記第2シリンダ室との間で油の供給先を切り替え可能に構成される。
上記(8)の構成によれば、油圧バルブで油の供給先を第1シリンダ室と第2シリンダ室との間で切り替えるようにしたので、風車翼のピッチ角の変化方向(ファイン側又はフェザー側)を任意に設定可能である。また、上記(8)の構成によれば、油圧バルブで油の供給量を調節するようにしたので、風車翼のピッチ角を、油の供給量に応じて、所望の量だけ任意に調節可能である。
【0014】
(9)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(8)の何れかの構成において、
第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に適切なゲインを掛けて算出した信号を、前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成される。
ピッチ角加速度に基づく信号に掛けるゲインを大きくすると、不安定振動抑制の効果は高まるものの、計測データに由来するノイズがより増幅される。一方、ピッチ角加速度に基づく信号に掛けるゲインが小さすぎると、不安定振動を十分に抑制できない。そこで、上記(9)の構成のように、ピッチ角加速度に基づく信号に適切なゲインを掛けることで、不安定振動を十分に抑制するとともに、計測データのノイズの増幅を適切な範囲に抑えることができる。
【0015】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、第2信号算出部は、前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムで発生する共振周波数が2Hz以上20Hz以下の油柱共振を減衰可能に前記ゲインを決定するように構成される。
本発明者らの知見によれば、風車翼及び油圧シリンダを含む前記油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数は、一般に2Hz〜20Hz程度である。上記(10)の構成によれば、一般的な構成の油圧駆動ピッチ制御システムを有する風車において、ピッチ角調節のためのフィードバック制御に起因した不安定振動を抑制することができる。
【0016】
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)の構成において、前記ゲインは、前記ピッチ角要求値、又は前記ピッチ角の前記実際値に応じて変化する様に設定される。
油圧シリンダの油柱の長さはピッチ角の変化に応じて変化する。このため、ピッチ角に応じて油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数が変化し、制御システムの安定余裕度も変化するので、ピッチ角に応じて最適なゲインが変化する。上記(11)の構成によれば、ピッチ角に応じた、すなわち、固有周波数に応じた適切なゲインを用いるので、不安定振動を適切に抑制することができる。
【0017】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備の制御方法は、
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、を有する風力発電設備の制御方法であって、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出する第1信号算出ステップと、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出する第2信号算出ステップと、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える指令値を算出する指令値算出ステップと、
前記油圧装置に前記指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御して前記ピッチ角を調節するピッチ角調整ステップと、
を備える。
【0018】
風車翼のピッチ角のフィードバック制御において、制御装置にフィードバックされる信号は、制御対象である油圧シリンダや風車翼の特性の影響を受ける。例えば、制御装置へのフィードバック信号は、油圧シリンダ内の作動油の弾性や風車翼の慣性に応じた特定の固有周波数の振動成分を有する場合がある。この場合、フィードバック制御におけるゲインを大きくすると、あるピッチ角の範囲において、前述の固有周波数において風車翼に不安定振動(油柱共振)が生じ、ピッチ角のハンチングが発生する場合がある。
上記(12)の方法によれば、風車翼ピッチの不安定振動の成分を含み得る第1信号から、ピッチ角加速度に基づく信号を減算してピッチ制御システムに減衰を付与するので、該不安定振動を抑制することができる。
なお、フィードバック制御におけるゲインを十分に小さくすることで、上記(12)のようにフィードバック信号からピッチ角速度に基づく信号を差し引かなくても、風車翼の不安定振動を生じないようにすることもできるが、この場合、ピッチ角制御の応答性が低下する。この点、上記(12)の方法によれば、フィードバック制御におけるゲインを制御応答性が維持可能な範囲内に設定する場合であっても、風車翼ピッチの不安定振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、ピッチ角調節のためのフィードバック制御に起因した不安定振動を抑制可能な風力発電設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る風力発電設備の全体構成を示す概略図である。
図2】一実施形態に係るピッチ駆動装置の構成の概略を示す図である。
図3】一実施形態に係る制御装置の構成を示す図である。
図4】一実施形態に係る風力発電設備の制御フローを示す図である。
図5】一実施形態に係る風力発電設備におけるピッチ角制御のブロック線図である。
図6】一実施形態に係るピッチシステムのボード線図の一例である。
図7】一実施形態に係るピッチシステムのボード線図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0022】
まず、本発明の一実施形態に係る風力発電設備の全体構成について説明する。図1は、一実施形態に係る風力発電設備の全体構成を示す概略図である。同図に示すように、風力発電設備1は、風車翼4が取り付けられたハブ3と、ハブ3が連結される回転シャフト6とを含むロータ2と、発電機10と、回転シャフト9を介してロータ2の回転エネルギーを発電機10に伝えるためのドライブトレイン8と、を備える。発電機10は、ドライブトレイン8によって伝えられるロータ2の回転エネルギーによって駆動されるように構成される。
この風力発電設備1では、風車翼4が受けた風の力によってロータ2全体が回転すると、回転シャフト6からドライブトレイン8に回転が入力される。回転シャフト6から入力された回転はドライブトレイン8によって回転シャフト9を介して発電機10に伝達される。ドライブトレイン8は、回転シャフト6から入力された回転を増速するように構成された増速機であってもよい。ドライブトレイン8は、油圧ポンプと、高圧油ラインと、低圧油ラインと、油圧モータとを含む油圧式ドライブトレインや、機械式(ギヤ式)の増速機であってもよい。
また、風力発電設備1は、ハブ3と発電機10とがドライブトレイン8を介さずに直接連結されたダイレクトドライブ方式の風力発電設備であってもよい。
ドライブトレイン8及び発電機10は、タワー12に支持されるナセル11の内部に収容されていてもよい。タワー12は水上又は陸上の基礎に立設されてもよい。
【0023】
風力発電設備1は、風車翼4のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部20と、ピッチ駆動部20を制御するように構成された制御装置100(図3参照)と、をさらに備える。
なお、図1に示す実施形態のように、風車翼4を複数枚(図1に示す例では3枚)有する風力発電設備1においては、ピッチ駆動部20は、風車翼4毎に設けられて、各ピッチ駆動部20がそれぞれの風車翼4のピッチ角を変化させるように構成されてもよい。この場合制御装置100は、各ピッチ駆動部20を独立して制御するように構成されてもよい。
【0024】
次に、図2及び図3を参照して、ピッチ駆動部20について説明する。図2は、一実施形態に係るピッチ駆動部の構成の概略を示す図である。
図2に示すように、ピッチ駆動部20は、風車翼4のピッチ角を調節するための油圧装置21を含む。油圧装置21は、油圧シリンダ24と、油圧バルブ38と、油圧源としての油圧ポンプ32と、を有する。また、油圧装置21は、油を貯留するための油タンク30と、油圧ポンプ32と油圧シリンダ24との間に設けられ、油タンク30に貯留された油を油圧シリンダ24に供給するための供給ライン33と、を含む。
なお、油圧シリンダ24及び油圧バルブ38は、風車翼4毎に設けられる。図2においては3枚の風車翼4のうち、第1翼のみについて図示されているが、第2翼及び第3翼についても、第1翼と同様に油圧シリンダ24及び油圧バルブ38が設けられる。また、油圧シリンダ24は、各風車翼4の翼根部5に設けられる。
【0025】
油タンク30には作動油が貯蔵されており、該作動油は、油圧ポンプ32によって昇圧され、供給ライン33を通って分配ブロック35及び流量調整弁36を介して、各風車翼4毎に設けられた油圧バルブ38及び油圧シリンダ24へ供給される。
なお、各風車翼4に設けられる油圧シリンダ24からの油は、返送ライン37を通って油タンクに返送されるようになっている。また、供給ライン33と返送ライン37とは、リリーフ弁34を介して接続され、供給ライン33の圧力が規定値を超えた時にリリーフ弁を介して圧油が返送ライン37に逃れるようにして、供給ライン33の圧力が過大とならないようにしてもよい。
【0026】
油圧シリンダ24は、油圧シリンダ24内を摺動するピストン27により隔てられる第1シリンダ室23と第2シリンダ室25とを含む。そして油圧シリンダ24は、第1シリンダ室23への油の供給と第2シリンダ室25への油の供給の切り替えにより、風車翼4のピッチ角の変化をファイン側又はフェザー側との間で切り替え可能に構成される。すなわち、油圧シリンダ24のピストンロッド26には風車翼4が接続されており、第1シリンダ室23又は第2シリンダ室25への油の供給量に応じてピストン27が移動すると、それに伴ってピストンロッド26に接続された風車翼4のピッチ角がファイン側とフェザー側との間で変化するようになっている。
【0027】
油圧バルブ38は、供給ライン33に設けられており、油圧シリンダ24への油の供給量を調節可能に、かつ、第1シリンダ室23と第2シリンダ室25との間で油の供給先を切り替え可能に構成される。
油圧バルブ38は、制御装置100から風車翼4のピッチ角の調節のための指令値(電流指令値)を受け取って、受け取った電流指令値に基づいて、風車翼4のピッチ角を変化させる方向に応じて油圧流路を切り替えると共に、油圧シリンダ24へ供給する作動油の流量を制御する。
このような油圧バルブ38により油の供給先および供給量を調節することで、風車翼4のピッチ角を、油の供給量に応じて所望の量だけ任意に調節可能である。
一実施形態においては、油圧バルブ38は、2つのソレノイドの1つに入力電流を与えることにより方向を制御し、入力電流の大きさを変えることにより流量の大きさを制御することが可能な電磁比例制御弁である。
【0028】
風力発電設備1は、風車翼4のピッチ角またはピッチ角速度を示す実際値又は物理量を計測するためのセンサを備える。ここで、風車翼4のピッチ角は、油圧シリンダ24のストローク値に応じて変化する。よって、油圧シリンダ24のストローク値は、風車翼4のピッチ角を示す物理量である。また、風車翼4のピッチ角速度は、油圧シリンダ24のストローク変化速度に応じて変化する。よって、油圧シリンダ24のストローク変化速度は、風車翼4のピッチ角速度を示す物理量である。
一実施形態では、上記センサは、油圧シリンダ24のストローク値を計測するように構成されたセンサ93(図2参照)である。他の実施形態では、このセンサは、油圧シリンダ24のストローク変化速度を計測するように構成されたセンサである。
【0029】
また、風力発電設備1は、油圧シリンダ24の内部の圧力を計測するための圧力センサ(91,92;図2参照)を備える。圧力センサ91は第1シリンダ室23の圧力を計測するためのセンサであり、圧力センサ92は第2シリンダ室25の圧力を計測するためのセンサである。
風車翼4のピッチ角またはピッチ角速度を示す物理量を計測するためのセンサ93や、圧力センサ(91,92)での計測結果は、後で説明する制御装置100によるピッチ駆動部20の制御において用いることができる。
【0030】
ピッチ駆動部20は、制御装置100によって制御される。以下、図3図7を参照して、制御装置100によるピッチ駆動部20の制御について説明する。
図3は、一実施形態に係る制御装置の構成を示す図である。同図に示すように、制御装置100は、第1信号算出部102と、第2信号算出部104と、指令値算出部106と、を含む。
【0031】
この制御装置100を用いたピッチ駆動部20の制御フローを、図4および図5を参照して説明する。図4は、一実施形態に係る風力発電設備の制御フローを示す図であり、図5は、一実施形態に係る風力発電設備におけるピッチ角制御のブロック線図である。
【0032】
一実施形態に係る風力発電設備の制御フローの概要は、以下のようになる。まず、第1信号算出部102により、ピッチ角要求値θと前記ピッチ角の実際値θとの偏差に基づく第1信号(図5のY)を算出する(S2)。この後、第2信号算出部104により、風車翼4のピッチ角加速度に基づく信号Yを、S2で算出された第1信号から差し引いて第2信号(図5のY)を算出する(S4)。
次に、指令値算出部106により、S4で算出された第2信号に基づいて、油圧装置21に与える指令値(図5のI)を算出する(S6)。なお、指令値Iは、ピッチ角を調節するために油圧バルブ38(ピッチ駆動部20)に与える電流指令値である。
そして、油圧装置21にS6で算出された指令値Iをピッチ駆動部20に与えてピッチ駆動部20を制御して、風車翼4のピッチ角を調節する(S8)。
【0033】
風車翼4のピッチ角のフィードバック制御において、制御装置100にフィードバックされる信号は、制御対象に含まれる油圧シリンダ24や風車翼4の特性の影響を受ける。例えば、制御装置100へのフィードバック信号は、油圧シリンダ24内の作動油の弾性や風車翼4の慣性に応じた特定の固有周波数の振動成分を有する場合がある。この場合、フィードバック制御におけるサーボゲイン(図5におけるゲインKs(ブロック114))を大きくすると、あるピッチ角の範囲において、前述の固有周波数において風車翼4に不安定振動(油柱共振)が生じ、ピッチ角のハンチングが発生する場合がある。
なお、一実施形態において、不安定振動(油圧共振)を生ずる固有周波数は、風車翼4と、油圧シリンダ24を含む油圧装置21と、制御装置100と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数である。
【0034】
そこで、第2信号算出部104において、風車翼ピッチの不安定振動の成分を含み得る第1信号Yから、ピッチ角加速度に基づく信号を減算してピッチ制御システムに減衰を付与することで、該不安定振動を抑制するための第2信号Yを算出する。
なお、図5のブロック線図において、第2信号Yを得るために第1信号Yから減算されるピッチ角加速度に基づく信号を、Y(ブロック108の後、110及び/又は112を通過した結果としての信号)として表現する。
【0035】
ピッチ制御システムに減衰を与えるためのピッチ角加速度は、風力発電設備1に設けられたセンサで取得されるピッチ角の実際値またはピッチ角速度を示す物理量から算出される。
【0036】
一実施形態では、ピッチ角加速度は、センサ93で取得される油圧シリンダ24のストローク値から算出される。より具体的には、油圧シリンダ24のストローク値に基づいて風車翼4のピッチ角の実際値を求め、該実際値を2階微分することでピッチ角加速度を算出する。
【0037】
他の実施形態では、ピッチ角加速度は、風力発電設備1に設けられたセンサで取得される油圧シリンダ24のストローク変化速度から算出される。より具体的には、油圧シリンダ24のストローク変化速度に基づいて風車翼4のピッチ角速度を求め、該ピッチ角速度を1階微分することでピッチ角加速度を算出する。
【0038】
一実施形態では、ピッチ角加速度に基づく信号Yとして、ピッチ角加速度を示す指標に基づく信号を第1信号Yから差し引くことで第2信号Yを算出するようにしてもよい。例えば、油圧シリンダ24内部の圧力を計測する圧力センサ(91,92)と、油圧シリンダ24のシリンダ面積とからシリンダ推力を算出し、このシリンダ推力を、風車翼4と、ピッチ駆動部20の一部である油圧シリンダ24とを含むピッチシステムの慣性によって除算することで、ピッチ角加速度を示す指標を算出することができる。
【0039】
第2信号算出部104は、設定された遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するように構成されたローパスフィルタ110を含む。そして、第2信号算出部104は、風車翼4のピッチ角加速度に対して、遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するフィルタ処理を施し、このフィルタ処理が施されたピッチ角加速度に基づく信号Yを第1信号(Y)から差し引いて第2信号(Y)を算出するように構成される。
ここで、前述の遮断周波数は、油圧共振を生ずる油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値に設定される。
なお、図5のブロック線図において、ローパスフィルタを、LPF(ブロック110)として表現する。
【0040】
ピッチ制御システムにピッチ角加速度に基づく信号Yをピッチ角加速度に基づいて算出する場合、例えばセンサで計測されたピッチ角の実際値を2階微分やピッチ角速度の物理量を1階微分することによって、元々の計測データの高周波のノイズが増大する場合がある。
そこで、風車翼4のピッチ角の実際値及び物理量等から得られるピッチ角加速度に対して、ローパスフィルタ110により油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも周波数が大きい成分を除去又は低減する。よって、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも高周波数域におけるノイズを除去又は低減するとともに、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数付近においては、ピッチ角加速度を低減させずに、風車翼ピッチの不安定振動を十分に抑制することができる。
【0041】
ローパスフィルタ110の遮断周波数は、油圧共振を生ずる油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値に設定される。例えば、ローパスフィルタ110の遮断周波数は、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも、5〜20Hz程度大きい値に設定される。
【0042】
また、第2信号算出部104は、ピッチ角加速度に適切なゲイン(K)を掛けて算出したピッチ角加速度に基づく信号Yを、第1信号Yから差し引いて第2信号Yを算出するように構成される。なお、図5のブロック線図において、第1信号Yから差し引く信号を算出するために、ピッチ角加速度に掛けるゲインを、K(ブロック112)として表現する。
【0043】
ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)を大きくすると、不安定振動抑制の効果は高まるものの、センサ93等による計測データに由来するノイズがより増幅される。一方、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)が小さすぎると、不安定振動を十分に抑制できない。
上述のように、第2信号算出部104において、ピッチ角加速度に適切なゲイン(K)を掛けることで、不安定振動を十分に抑制するとともに、計測データのノイズの増幅を適切な範囲に抑えることができる。
【0044】
図5に示すブロック図では、第2信号算出部104において、ピッチ角実際値θを2階微分器(s,108)を通してピッチ角加速度Aとしたものに対してローパスフィルタ(110)でフィルタ処理をした信号にゲインK(112)を掛けることにより、ピッチ角加速度に基づく信号Yを算出している。
ただし、第2信号算出部104において、ローパスフィルタ(110)によるフィルタ処理と、ゲインK(112)を掛ける処理は、どちらを先に行ってもよい。すなわち、第2信号算出部104において、ピッチ角加速度Aに対してゲインK(112)を掛けて得られる信号に対してローパスフィルタ(110)でフィルタ処理をすることによっても、ピッチ角加速度に基づく信号Yを算出することができる。
【0045】
第2信号算出部104において、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)は、ピッチ角の要求値θ、又はピッチ角の実際値θに応じて変化する様に設定されていてもよい。
油圧シリンダ24の油柱の長さは、風車翼4のピッチ角の変化に応じて変化する。このため、ピッチ角に応じて油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数が変化し、制御システムの安定余裕度も変化するので、風車翼4のピッチ角に応じて、不安定振動を抑制するためのピッチ角加速度Aに掛ける最適なゲイン(K)が変化する。よって、風車翼4のピッチ角に応じた、すなわち、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数に応じた適切なゲイン(K)を用いることで、不安定振動を適切に抑制することができる。
【0046】
幾つかの実施形態では、第2信号算出部104は、油圧駆動ピッチ制御システムで発生する共振周波数が2Hz以上20Hz以下の油柱共振を減衰可能にゲイン(K)を決定するように構成される。この場合、風車翼4及び油圧シリンダ24を含む油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数が2Hz〜20Hz程度である風力発電設備1において、ピッチ角調節のためのフィードバック制御に起因した不安定振動を抑制することができる。
【0047】
図6及び図7を参照して、一実施形態にかかる風力発電設備1における不安定振動の低減について説明する。図6および図7は、それぞれ、一実施形態にかかるピッチシステムのボード線図の一例である。
【0048】
図6には、ピッチ制御システムにおいて、ピッチ角フィードバック制御を前提として、加速度フィードバック及びローパスフィルタがそれぞれある場合とない場合(下記表1に示す例1〜3の3つの場合)についてのボード線図が示される。
ここで、「ピッチ角フィードバック」とは、ピッチ角要求値とピッチ角実際値との偏差に基づく信号(Y)を制御信号として用いるピッチ角フィードバック制御のことをいう。また、「加速度フィードバック」は、ピッチ角加速度に基づく信号Yを第1信号Yから差し引いて得られる第2信号Yを用いる制御のことをいう。ここでは、該ピッチ角加速度は、ピッチ角を2階微分することにより取得している。「LPF」は、ローパスフィルタによって、ピッチ角加速度に対して、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値である遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するフィルタ処理のことをいう。なお、図6及び図7に示す例1〜5においては、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数を5〜10Hz程度と想定し、ローパスフィルタの遮断周波数を15Hzに設定している。
すなわち、下記表1における例1は、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックをせずにピッチ角フィードバック制御を行う場合を示す、比較例である。例2および例3は、本発明の実施形態に係る加速度フィードバック及びピッチ角フィードバック制御を行うケースを示すものである。

【表1】
【0049】
ボード線図において、ゲイン(図6及び図7の上側のグラフに示される)が0dBとなる周波数において、位相(図6及び図7の下側のグラフに示される)が−180°未満である場合には、そのピッチ制御システムは不安定であると判定できる。
図6のボード線図においては、各例においてゲインが0dBとなる周波数の点を、上側および下側のグラフの中でプロットにより示している。
【0050】
図6のボード線図より、例1では、ゲインが0dBとなる周波数において、位相が−180°未満となっている。このことから、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックをせずにピッチ角フィードバック制御を行う場合には、ピッチ制御システムが不安定であると判定できる。一方、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックを採用した例2および例3では、ゲインが0dBとなる周波数において、位相が−180°以上となっていることから、ピッチ制御システムが安定であると判定できる。
【0051】
ところで、図6のうち、ゲインを示す上側のグラフにおいて、例2及び例3では、高周波数になるにつれて、例1との差が大きくなっている。これは、例2及び例3では、ピッチ角加速度を求める際に、ピッチ角を微分するため、高周波においてノイズが増幅されているものと考えられる。
また、例2と例3を比較すると、高周波領域において、例3のゲインは例2のゲインよりも低くなっている。これは、ピッチ角加速度に対してローパスフィルタを適用した例2では、高周波領域におけるノイズの増幅が抑制されていることを示す。
このように、ピッチ角加速度に対してローパスフィルタを適用することで、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも高周波数域におけるノイズを除去又は低減するとともに、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数付近においては、ピッチ角加速度に基づく信号Yを低減させずに、風車翼ピッチの不安定振動を十分に抑制するような、安定なピッチ制御システムとすることができる。
【0052】
図7には、ピッチ制御システムにおいて、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)の値を変化させて取得したボード線図が示される。なお、各例(例1’、例4及び例5)における制御の条件は、下記表2に示すとおりである。
例4及び例5は、本発明の実施形態に係る加速度フィードバック及びピッチ角フィードバック制御を行うケースを示すものである。例4と例5とでは、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)の値の点で異なり、例4におけるゲインKと、例5におけるゲインKとは、K>Kの関係式を満たす。
また、例1’は、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックをせずにピッチ角フィードバック制御を行う場合を示す比較例である。なお、例4及び例5におけるLPF(ローパスフィルタ)の設定条件は、上述した例3の場合と同様である。

【表2】
【0053】
ボード線図において、位相(図6及び図7の下側のグラフに示される)が−180°となる周波数において、ゲイン(図6及び図7の上側のグラフに示される)が0dBよりも大きい場合には、そのピッチ制御システムは不安定であると判定できる。
図7のボード線図においては、各例において位相が−180°となる周波数の点を、上側および下側のグラフの中でプロットにより示している。
【0054】
図7のボード線図より、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックを採用した例4では、位相が−180°となる周波数において、ゲインが0dB以下となっていることから、ピッチ制御システムが安定であると判定できる。
一方、例5では、例4と同様の制御システムを用いているにも関わらず、位相が−180°となる周波数において、ゲインが0dBよりも大きくなっている。これは、例5では、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)として、例4におけるゲインKよりも小さなゲインKを用いたため、ピッチ角加速度を用いた加速度フィードバックによって、ピッチ制御システムに十分な減衰を付与することができないためであると考えられる。よって、ピッチ制御システムの不安定振動を十分に抑制するため、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)は、ある程度の大きさが必要である。
ただし、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)を大きくすることで、高周波領域におけるノイズが増幅される。したがって、ゲイン(K)はなるべく小さくすることが望ましい。
これらのことから、ピッチ角加速度に掛けるゲイン(K)には適切な範囲が存在し、適切なゲイン(K)を該ピッチ角加速度に掛けることで、ピッチ制御システムを安定化させて不安定振動を十分に抑制するとともに、計測データのノイズの増幅を適切な範囲に抑えることができることが示される。
【0055】
なお、図7において、比較例である例1’では、位相が−180°となる周波数において、ゲインが0dBよりも大きくなっている。よって、本発明の実施形態に係る加速度フィードバックをせずにピッチ角フィードバック制御を行う場合には、ピッチ制御システムが不安定であると判定できる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0057】
また、本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本発明において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0058】
1 風力発電設備
2 ロータ
3 ハブ
4 風車翼
5 翼根部
6 回転シャフト
8 ドライブトレイン
9 回転シャフト
10 発電機
11 ナセル
12 タワー
20 ピッチ駆動部
21 油圧装置
23 第1シリンダ室
24 油圧シリンダ
25 第2シリンダ室
26 ピストンロッド
27 ピストン
30 油タンク
32 油圧ポンプ
33 供給ライン
34 リリーフ弁
35 分配ブロック
36 流量調整弁
37 返送ライン
38 油圧バルブ
91 圧力センサ
92 圧力センサ
93 センサ
100 制御装置
102 第1信号算出部
104 第2信号算出部
106 指令値算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7