【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備は、
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ角の調節のために前記油圧装置に指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出するための第1信号算出部と、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出するための第2信号算出部と、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える前記指令値を算出するための指令値算出部と、
を含む。
【0007】
風車翼のピッチ角のフィードバック制御において、制御装置にフィードバックされる信号は、制御対象である油圧シリンダや風車翼の特性の影響を受ける。例えば、制御装置へのフィードバック信号は、油圧シリンダ内の作動油の弾性や風車翼の慣性に応じた特定の固有周波数の振動成分を有する場合がある。この場合、フィードバック制御におけるゲインを大きくすると、あるピッチ角の範囲において、前述の固有周波数において風車翼に不安定振動(油柱共振)が生じ、ピッチ角のハンチングが発生する場合がある。
上記(1)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動の成分を含み得る第1信号から、ピッチ角加速度に基づく信号を減算してピッチ制御システムに減衰を付与するので、該不安定振動を抑制することができる。
なお、フィードバック制御におけるゲインを十分に小さくすることで、上記(1)のようにフィードバック信号からピッチ角速度に基づく信号を差し引かなくても、風車翼の不安定振動を生じないようにすることもできるが、この場合、ピッチ角制御の応答性が低下する。この点、上記(1)の構成によれば、フィードバック制御におけるゲインを制御応答性が維持可能な範囲内に設定する場合であっても、風車翼ピッチの不安定振動を抑制することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記風力発電設備は、
前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す物理量を計測するためのセンサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記実際値又は物理量から前記ピッチ角加速度を算出し、
前記ピッチ角加速度に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出する
ように構成される。
上記(2)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を、センサの計測値に基づいて取得することができる。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記センサは、前記油圧シリンダのストローク値又はストローク変化速度を計測するように構成され、
前記第2信号算出部は、前記ストローク値又は前記ストローク変化速度から前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
上記(3)の構成によれば、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を、センサの計測値(油圧シリンダのストローク値又はストローク変化速度)に基づいて取得することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の何れかの構成において、前記第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値を2階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
(5)また、幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の何れかの構成において、前記第2信号算出部は、前記ピッチ角速度を1階微分して前記ピッチ角加速度を算出するように構成される。
上記(4)及び(5)の構成によれば、ピッチ角の実際値を2階微分又はピッチ角速度を1階微分することで算出されるピッチ角速度に基づいて、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を取得できる。
【0011】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記油圧シリンダ内の圧力を計測するための圧力センサをさらに備え、
前記第2信号算出部は、
前記圧力とシリンダ面積から算出したシリンダ推力を、前記風車翼と、前記ピッチ駆動部の少なくとも一部と、を含むピッチシステムの慣性によって除算することで前記ピッチ角加速度を示す指標を算出し、
前記指標の算出結果に基づく前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成される。
シリンダ内圧力にシリンダ面積を乗じて算出した力をピッチシステムの慣性で除すると、その次元は加速度と同一となる。よって、シリンダ内圧力をピッチシステムの慣性で除したものは、ピッチ角加速度を示す指標となる。上記(6)の構成によれば、シリンダ内圧力をピッチシステムの慣性で除することで得られるピッチ角加速度を示す指標に基づいて、風車翼ピッチの不安定振動を抑制するための第2信号を取得できる。
【0012】
(7)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(6)の何れかの構成において、
前記第2信号算出部は、前記風車翼の前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に対して、遮断周波数以上の周波数成分を除去又は低減するフィルタ処理を施して、前記フィルタ処理が施された前記信号を前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成され、
前記遮断周波数は、前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも大きい値に設定される。
ピッチ制御システムに減衰を付与するための信号をピッチ角加速度に基づいて算出する場合、例えばセンサで計測されたピッチ角の実際値やピッチ角速度を微分することによって、計測データの高周波のノイズが増幅する場合がある。上記(7)の構成では、ピッチ角の実際値等から得られるピッチ角加速度に基づく信号に対して、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも周波数が大きい成分を除去又は低減する。よって、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数よりも高周波数域におけるノイズを除去又は低減するとともに、油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数付近においては、ピッチ角加速度に基づく信号を低減させずに、風車翼ピッチの不安定振動を十分に抑制することができる。
【0013】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の何れかの構成において、
前記油圧装置は、
油を貯留するための油タンクと、
前記圧油源と前記油圧シリンダとの間に設けられ、前記油タンクに貯留された油を前記油圧シリンダに供給するための供給ラインと、をさらに有し、
前記油圧シリンダは、第1シリンダ室と第2シリンダ室とを含み、前記第1シリンダ室への油の供給と前記第2シリンダ室への油の供給の切り替えにより、前記風車翼のピッチ角の変化をファイン側又はフェザー側との間で切り替え可能に構成されており、
前記油圧バルブは、前記供給ラインに設けられ、前記油圧シリンダへの油の供給量の調節可能に、かつ、前記第1シリンダ室と前記第2シリンダ室との間で油の供給先を切り替え可能に構成される。
上記(8)の構成によれば、油圧バルブで油の供給先を第1シリンダ室と第2シリンダ室との間で切り替えるようにしたので、風車翼のピッチ角の変化方向(ファイン側又はフェザー側)を任意に設定可能である。また、上記(8)の構成によれば、油圧バルブで油の供給量を調節するようにしたので、風車翼のピッチ角を、油の供給量に応じて、所望の量だけ任意に調節可能である。
【0014】
(9)幾つかの実施形態では、上記(2)〜(8)の何れかの構成において、
第2信号算出部は、前記ピッチ角の前記実際値又はピッチ角速度を示す前記物理量から前記ピッチ角加速度を算出した結果に適切なゲインを掛けて算出した信号を、前記第1信号から差し引いて前記第2信号を算出するように構成される。
ピッチ角加速度に基づく信号に掛けるゲインを大きくすると、不安定振動抑制の効果は高まるものの、計測データに由来するノイズがより増幅される。一方、ピッチ角加速度に基づく信号に掛けるゲインが小さすぎると、不安定振動を十分に抑制できない。そこで、上記(9)の構成のように、ピッチ角加速度に基づく信号に適切なゲインを掛けることで、不安定振動を十分に抑制するとともに、計測データのノイズの増幅を適切な範囲に抑えることができる。
【0015】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、第2信号算出部は、前記風車翼と、前記油圧装置と、前記制御装置と、を含む油圧駆動ピッチ制御システムで発生する共振周波数が2Hz以上20Hz以下の油柱共振を減衰可能に前記ゲインを決定するように構成される。
本発明者らの知見によれば、風車翼及び油圧シリンダを含む前記油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数は、一般に2Hz〜20Hz程度である。上記(10)の構成によれば、一般的な構成の油圧駆動ピッチ制御システムを有する風車において、ピッチ角調節のためのフィードバック制御に起因した不安定振動を抑制することができる。
【0016】
(11)幾つかの実施形態では、上記(9)又は(10)の構成において、前記ゲインは、前記ピッチ角要求値、又は前記ピッチ角の前記実際値に応じて変化する様に設定される。
油圧シリンダの油柱の長さはピッチ角の変化に応じて変化する。このため、ピッチ角に応じて油圧駆動ピッチ制御システムの固有周波数が変化し、制御システムの安定余裕度も変化するので、ピッチ角に応じて最適なゲインが変化する。上記(11)の構成によれば、ピッチ角に応じた、すなわち、固有周波数に応じた適切なゲインを用いるので、不安定振動を適切に抑制することができる。
【0017】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備の制御方法は、
風車翼と、
油圧シリンダと、油圧バルブと、圧油源と、を有する油圧装置を含み、前記油圧装置によって前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、を有する風力発電設備の制御方法であって、
ピッチ角要求値と前記ピッチ角の実際値との偏差に基づく第1信号を算出する第1信号算出ステップと、
前記風車翼のピッチ角加速度に基づく信号を前記第1信号から差し引いて第2信号を算出する第2信号算出ステップと、
前記第2信号に基づいて、前記油圧装置に与える指令値を算出する指令値算出ステップと、
前記油圧装置に前記指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御して前記ピッチ角を調節するピッチ角調整ステップと、
を備える。
【0018】
風車翼のピッチ角のフィードバック制御において、制御装置にフィードバックされる信号は、制御対象である油圧シリンダや風車翼の特性の影響を受ける。例えば、制御装置へのフィードバック信号は、油圧シリンダ内の作動油の弾性や風車翼の慣性に応じた特定の固有周波数の振動成分を有する場合がある。この場合、フィードバック制御におけるゲインを大きくすると、あるピッチ角の範囲において、前述の固有周波数において風車翼に不安定振動(油柱共振)が生じ、ピッチ角のハンチングが発生する場合がある。
上記(12)の方法によれば、風車翼ピッチの不安定振動の成分を含み得る第1信号から、ピッチ角加速度に基づく信号を減算してピッチ制御システムに減衰を付与するので、該不安定振動を抑制することができる。
なお、フィードバック制御におけるゲインを十分に小さくすることで、上記(12)のようにフィードバック信号からピッチ角速度に基づく信号を差し引かなくても、風車翼の不安定振動を生じないようにすることもできるが、この場合、ピッチ角制御の応答性が低下する。この点、上記(12)の方法によれば、フィードバック制御におけるゲインを制御応答性が維持可能な範囲内に設定する場合であっても、風車翼ピッチの不安定振動を抑制することができる。