(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371243
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】過熱水蒸気生成装置
(51)【国際特許分類】
F22G 1/16 20060101AFI20180730BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20180730BHJP
H05B 6/06 20060101ALI20180730BHJP
F22G 3/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
F22G1/16
H05B6/10 371
H05B6/06 351
H05B6/10 301
F22G3/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-55133(P2015-55133)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-176613(P2016-176613A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】外村 徹
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌義
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰広
【審査官】
藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−230987(JP,A)
【文献】
特開2008−075891(JP,A)
【文献】
特開2005−325156(JP,A)
【文献】
特開2012−022829(JP,A)
【文献】
特開2009−045814(JP,A)
【文献】
特表2005−517265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22G 1/00
F22G 1/16
H05B 6/00
H05B 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気が接触する加熱金属体を誘導コイルによって誘導加熱して、前記加熱金属体に接触する水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置であって、
前記誘導コイルに接続される交流電源の周波数が50Hz又は60Hzであり、
前記加熱金属体における前記誘導コイル側を向く誘導コイル側面と前記水蒸気と接触する水蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下であり、
前記加熱金属体により加熱される過熱水蒸気の温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるようにフィードバック制御する温度制御部を備え、
前記温度制御部が、過熱水蒸気エネルギーとPID定数との関係を示す関係データを用いて、PID定数を設定するものである、過熱水蒸気生成装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、生成する過熱水蒸気発生量及び生成する過熱水蒸気温度から過熱水蒸気エネルギーを決定し、当該過熱水蒸気エネルギー及び前記関係データからPID定数を設定するものである、請求項1記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項3】
前記加熱金属体における前記誘導コイル側面の電流密度に対して、前記水蒸気接触面の電流密度が90%以上となるように、前記加熱金属体の肉厚が設定されている請求項1又は2記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項4】
前記加熱金属体が、前記水蒸気が流れる導体管である請求項1乃至3の何れか一項に記載の過熱水蒸気生成装置。
【請求項5】
800〜2000℃の過熱水蒸気を生成するものである、請求項1乃至4の何れか一項に記載の過熱水蒸気生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱によって過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この過熱水蒸気生成装置には、特許文献1に示すように、鉄心に巻回された1次コイルに交流電圧を印加して、前記鉄心に巻回された2次コイルとなる導体管に誘導電流を流すことによって、当該導体管を流れる飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成するものがある。
【0003】
そして、この過熱水蒸気生成装置では、導体管から導出される過熱水蒸気の温度を温度検出器により検出して、この検出温度と目標温度との偏差に応じた制御信号を電圧制御素子に入力して誘導コイルに印加する電圧を制御している。これによって、導体管から導出される過熱水蒸気を所望の温度に制御している。
【0004】
しかしながら、従来の過熱水蒸気生成装置では、過熱水蒸気を高精度に制御するためにフィードバック制御(PID制御)のPID定数を設定する程度のものに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5641578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明者は、PID制御のPID定数の設定だけに頼ることなく、過熱水蒸気の温度を高速応答で高精度に制御することができる過熱水蒸気生成装置の開発を進めており、本発明は、過熱水蒸気の温度制御を高速応答で高精度に行うことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る過熱水蒸気生成装置は、水蒸気が接触する加熱金属体を誘導コイルによって誘導加熱して、前記加熱金属体に接触する水蒸気を加熱して過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成装置であって、前記誘導コイルに接続される交流電源の周波数が50Hz又は60Hzであり、前記加熱金属体における前記誘導コイル側を向く誘導コイル側面と前記水蒸気と接触する水蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下であることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、誘導コイル側面と蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下の加熱金属体に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加するので、加熱金属体の水蒸気加熱面となる水蒸気接触面と、加熱金属体の温度制御面となる誘導コイル側面との温度差を小さくすることができ、加熱金属体の水蒸気接触面の温度制御を高速応答で高精度に行うことができる。したがって、加熱金属体により加熱される過熱水蒸気の温度を高速応答で高精度に制御することができる。詳細については後述する。
【0009】
前記加熱金属体が、非磁性金属であることが望ましい。
一般的に非磁性金属は電流浸透深さが大きく、比較的温度が高い範囲だけでなく低い範囲の過熱蒸気の生成にも適している。
磁性体の磁性が残る温度領域では電流浸透深さは浅く、例えば炭素鋼の300℃・50Hzにおける電流浸透深さは8.6mmである。
一方で、SUS316Lでは電流浸透深さが75.4mmであって、厚さ10mmの内面であっても、加熱金属体の外面に対して90%以上の電流密度が確保できる。
その他の非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼であれば、耐腐食性及び耐熱性が高く、電流浸透深さも類似の深い特性であるので、低温から高温の広い温度域の過熱水蒸気の生成には適している。
【0010】
前記加熱金属体により加熱される過熱水蒸気の温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるようにフィードバック制御する温度制御部を備えることが望ましい。
この構成であれば、肉厚が10mm以下の加熱金属体に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加する構成を活かして過熱水蒸気の温度を容易に高精度に制御することができる。
【0011】
過熱水蒸気の温度制御は、例えば導体管等の加熱金属体に供給する電力量制御を行うことであり、過熱水蒸気の持つエネルギー量を制御することと等価である。また、過熱水蒸気の持つエネルギーをQとすると、このQは、例えば飽和水蒸気から過熱水蒸気を生成する場合においてその温度上昇値をΘとし、過熱水蒸気発生量をVとすると、Q≒ΘVで表わすことができる。したがって、PIDの各制御定数はQ、つまりΘVの変化によって変わることになる。このため、前記温度制御部が、目標温度及び目標蒸気発生量に応じてPID定数を設定することが望ましい。
【0012】
前記加熱金属体における前記誘導コイル側面の電流密度に対して、前記水蒸気接触面の電流密度が90%以上となるように、前記加熱金属体の肉厚が設定されていることが望ましい。
この構成であれば、加熱金属体における誘導コイル側面に対する水蒸気接触面の発熱比が約80%以上となり、容易に高精度に制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、誘導コイル側面と蒸気接触面との間の肉厚が10mm以下の加熱金属体に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加するので、PID制御のPID定数の設定だけに頼ることなく、過熱水蒸気の温度を高速応答で高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る過熱水蒸気生成装置の構成を模式的に示す図。
【
図2】SUS316Lを800℃に加熱した場合の電流浸透深さを示す図。
【
図3】過熱水蒸気エネルギーと各制御定数の適正値との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明に係る過熱水蒸気生成装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係る過熱水蒸気生成装置100は、外部で生成された飽和水蒸気を加熱金属体2で加熱して、100℃超(200℃〜2000℃)の過熱水蒸気を生成するものである。なお、この過熱水蒸気生成部100は、水を加熱金属体で加熱して、飽和水蒸気を生成する飽和水蒸気生成部と、当該飽和水蒸気生成部により生成された飽和水蒸気を加熱金属体で加熱して、100℃超(200℃〜2000℃)の過熱水蒸気を生成する過熱水蒸気生成部とを備えたものであっても良い。
【0017】
前記加熱金属体2は、流体を流すための内部流路が形成されたものであり、具体的には導体管である。また、各加熱金属体2を誘導加熱する機構は、鉄心3と、当該鉄心3に沿って巻回された一次コイルたる誘導コイル4とからなる。この誘導加熱機構の一次コイル4の外周又は内周又は一次コイル4間に、当該一次コイル4に沿って前記加熱金属体2が設けられる。
【0018】
また、誘導コイル4に交流電圧を印加する交流電源5の電源周波数は、50Hz又は60Hzの商用周波数である。
【0019】
このように構成された過熱水蒸気生成装置100では、誘導コイル4に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加することによって、加熱金属体2に誘導電流が流れて各加熱金属体2がジュール発熱する。そして、加熱金属体2の内部流路を流れる水蒸気が、加熱金属体2の内面から熱を受けて加熱される。
【0020】
しかして本実施形態の加熱金属体2である導体管は、非磁性金属であるSUS316L等のステンレス鋼管を螺旋状に巻き回されることにより形成されており、その管壁の肉厚(管厚)は10mm以下とされている。つまり、導体管2における誘導コイル4側を向く誘導コイル側面(導体管2の外面)と水蒸気と接触する水蒸気接触面(導体管2の内面)との間の肉厚が10mm以下とされている。なお、前記管壁の肉厚は、前記誘導コイル側面と前記水蒸気接触面との最短距離が10mm以下であれば良く、また、10mm以下であって、過熱水蒸気圧力や熱伸変形に耐え得る所定の機械的強度を有する肉厚以上であれば良い。
【0021】
ここで、誘導加熱における被加熱体(導体管)の電流浸透深さσ[m]は、金属の抵抗率ρ[Ω・m]と、比透磁率μと、電源周波数f[Hz]とによって決まり、次式で表わされる。
σ=503.3√{ρ/(μf)}
【0022】
例えば、SUS316L製の導体管が800℃に加熱された状態において、商用周波数50Hzでは、電流浸透深さと呼ばれる表面電流密度の36.8%となる深さは、96.5mmであり、高周波である10000Hzでは、6.8mmである。
【0023】
図2は、800℃におけるSUS316Lの誘導電流の電流浸透深さを表わすグラフであり、導体管の一次コイル側表面電流密度を1.0としたときの、電流密度と深さとの関係を示している。
【0024】
例えば、導体管が肉厚6.8mmの管であるとすると、10000Hzでは表面に対する内面の電流密度が36.8%であるから、表面発熱に対して内面発熱は電流密度の2乗である13.5%となる。
一方、50Hzでは、導体管の内面の電流密度は約95%であるから、表面に対する内面の発熱比は約90%となる。
【0025】
過熱水蒸気を生成させるのは導体管の内面であるため、10000Hzの高周波では表面1の加熱に対して内面0.135の発熱温度を制御しなければならないのに対し、50Hzの商用周波数では表面1の加熱で内面0.9の発熱温度を制御すれば良い。つまり、導体管の内面及び導体管の外面との温度差の小さい商用周波数での制御性が優れている。
【0026】
この過熱水蒸気生成装置100では、導体管2から導出される過熱水蒸気の温度を温度検出器6により検出して、この検出温度と目標温度との偏差に応じた制御信号を電圧制御素子7(例えばサイリスタ)に入力して誘導コイル4に印加する交流電圧を制御している。具体的にこの制御を行う温度制御部8は、導体管2により加熱される過熱水蒸気の温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるようにフィードバック制御する。
【0027】
この温度制御部8は、過熱水蒸気の目標温度及び目標蒸気発生量に応じてPID定数を設定するように構成されている。具体的に温度制御部8は、過熱水蒸気エネルギーQと各制御定数(PID定数)の適正値との関係を示す関係データを用いて、PID定数を設定する。
【0028】
ここで、前記関係データは、生成する過熱水蒸気量及び生成する過熱水蒸気温度の条件毎に適正なPID定数を取得して作成されたものであり、比例定数Kp、積分定数Ki、微分定数Kdそれぞれの関係式(近似式)を示すものである。具体的には
図3に示す通りである。
【0029】
例えば、Kpは以下のように表わすことができる。
Kp=a
nQ
n+a
(n−1)Q
(n−1)+・・・・・・+a
1Q
1+a
0
ここで、a
n〜a
0は、定数である。なお、Ki、Kdも同様に表わすことができる。
【0030】
過熱水蒸気エネルギーQはΘVで計算できるが、温度上昇値Θは設定温度から算出することができ、過熱水蒸気発生量Vは過熱水蒸気量を設定する電動比例弁の弁開度或いは供給水量又は供給飽和蒸気量から算出することができる。
【0031】
本実施形態の温度制御部7は、生成する過熱水蒸気設定温度からΘを算出して、供給する飽和水蒸気量を制御する電動比例弁の弁開度からVを算出してQを決定し、その時点でKpとKi及びKdを演算させて制御定数の設定を行っている。
【0032】
この機能は自動設定(オートチューニング)されるため、運転開始から最適の制御定数によって温度制御される。ここで、過熱水蒸気生成装置100では、最初に発生させる過熱水蒸気温度Θと、過熱水蒸気量Vとを設定して運転開始されることが通常であり、安定した負荷状態の運転を行うことが通常であるため、常時ΘとVが変化して負荷量が変動することは無く、制御定数を常時変化させる必要はない。なお、電動比例弁を有さない機種の場合には、設定過熱水蒸気量又は供給される飽和水蒸気の流量を測定する流量計及び前記飽和水蒸気の温度を測定する温度計からの測定値から算出することができる。
【0033】
<本実施形態の効果>
このように構成した過熱水蒸気生成装置100によれば、肉厚が10mm以下の加熱金属体2に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加するので、加熱金属体2の水蒸気加熱面となる内面と、加熱金属体2の温度制御面となる外面との温度差を小さくすることができ、加熱金属体2の内面の温度制御を高速応答で高精度に行うことができる。したがって、加熱金属体2により加熱される過熱水蒸気の温度を高速応答で高精度に制御することができる。
【0034】
特に、肉厚が10mm以下の加熱金属体に50Hz又は60Hzの交流電圧を印加する構成において、目標温度及び目標蒸気発生量に応じてPID定数を設定しているので、過熱水蒸気の温度を、目標温度との偏差が±1℃未満となるように、容易に高精度にフィードバック制御することができる。
【0035】
<本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0036】
導体管の材質としては、SUS316Lに限られず、例えばインコネル合金(JIS合金番号NCF601)等であっても良い。このインコネル合金を用いた過熱水蒸気生成装置では、過熱水蒸気量200kg/h、最高蒸気温度1200℃であり、過熱水蒸気圧力や熱伸変形に耐えうる肉厚であり、3mmとしている。
【0037】
また、加熱金属体は、導体管に限られず、例えば、
図4に示すように、内部に水又は水蒸気を流す内部流路が形成されたブロック体であっても良い。この場合には、加熱金属体2の誘導コイル側面である一方面2xと、当該一方面2xに隣接する内部流路Cの水蒸気接触面である内面Cxとの距離が10mm以下となるようにする。ここで、前記距離は、内面Cxにおける一方面2x側部分(X)との最短距離(
図4参照)である。なお、前記距離を、内面Cxにおける他方面2y側部分(X)との最短距離としても良いし、前記一方面2x側部分(X)及び他方面2y側部分(Y)の間の部分との最短距離としても良い。なお、全ての内部流路Cを通過する水蒸気を効率良く加熱するためには、前記一方面2xから最も離間した内部流路Cの内面Cxとの最短距離を10mm以下としても良い。また、複数の金属体要素を重ね合わせることによってそれらの間に内部流路が形成されたものであっても良い。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
100・・・過熱水蒸気生成装置
2・・・加熱金属体
3・・・鉄心
4・・・誘導コイル
5・・・交流電源
6・・・温度検出器
7・・・電圧制御素子
8・・・温度制御部