特許第6371279号(P6371279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371279
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】金属物品の製造
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20180730BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20180730BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180730BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180730BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   B22F3/105
   B22F3/16
   B22F1/00 N
   C22C21/00 N
   C22C21/02
【請求項の数】24
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-514583(P2015-514583)
(86)(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公表番号】特表2015-525290(P2015-525290A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】GB2013051405
(87)【国際公開番号】WO2013179017
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2016年4月22日
(31)【優先権主張番号】1209415.7
(32)【優先日】2012年5月28日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】391002306
【氏名又は名称】レニショウ パブリック リミテッド カンパニー
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー サトクリフ
(72)【発明者】
【氏名】ピーター フォックス
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−021218(JP,A)
【文献】 特開2006−009075(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0085932(US,A1)
【文献】 特開2004−115917(JP,A)
【文献】 特開2001−152210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−3/26,
C22C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も高い重量%を有する成分としてアルミニウムを含有する合金を含む粉体の選択的溶融および/または焼結を含む物品の製造方法であって、上記合金は、ビスマスを含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、電子ビームまたはレーザが、上記粉体を選択的に溶融および/または焼結するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の方法であって、選択的レーザ溶融および/または選択的レーザ焼結を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、10重量%までの量でビスマスを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、少なくとも0.2重量%のビスマスを含有することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、合金における、その最大溶解度と同等または近接する量で、ビスマスを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、航空宇宙合金、鋳造合金または鍛造合金であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、アルミニウム−ケイ素合金であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、スカンジウムを含有することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、共晶または近−共晶合金であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項の方法であって、上記合金は、AlSi12合金であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか一項の方法であって、上記合金は、6061合金であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項の方法であって、上記選択的な溶融および/または焼結は、不活性雰囲気下で行われることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項の方法であって、200W以下のレーザ出力または電子ビームの出力が使用されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項の方法であって、400mm/秒以下のレーザまたは電子ビーム走査速度が使用されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項の方法であって、1mmまでのハッチ距離が使用されることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項の方法であって、最大100μmまでの層厚さが使用されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項の方法であって、上記粉体は、100μmまでの平均粒子サイズを有することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項の方法であって、上記方法は、上記粉体を製造する予備工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19の方法であって、上記粉体は、噴霧によって製造されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか一項の方法であって、上記物品は、少なくとも85%の理論密度の密度を有することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項の方法において使用するための粉体であって、該粉体は、アルミニウムを含有する合金を含み、該合金は、ビスマスを含有することを特徴とする粉体。
【請求項23】
積層造形装置に接続可能な貯蔵容器であって、該容器は、請求項22の粉体を含有することを特徴とする容器。
【請求項24】
請求項23の容器であって、さらに不活性ガスを含むことを特徴とする容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属物品の製造、より具体的には、積層造形技術による金属物品の製造に関する。特に、本発明は、金属粉体の選択的溶融または焼結を含み得る、積層造形技術による金属物品の製造に関する。そのような技術の例は、選択的レーザ溶融(SLM)、選択的レーザ焼結(SLS)、および、レーザではなく電子ビームを使用する技術を含み得る。
【背景技術】
【0002】
選択的レーザ溶融(SLM)は、金属の固形で多孔の物品の製造に使用され得る、ラピッドプロトタイピング(RP)および/または、ラピッドマニュファクチャリング(RM)技術である。好都合には、物品は、使用するために、直接、備え付けられるのに適した特性を有し得る。例えば、SLMは、それらの意図される用途に誂えられる、部品または構成要素のような、単発の物品を製造するために用いられ得る。同様に、SLMは、特定の用途のための部品または構成要素のような、物品の大きな、または、小さなバッチを製造するために使用され得る。
【0003】
SLMは、層ごとの成形で物品を作成する。通常、これは、移動基材上に堆積される微細な金属粉体の薄い(例えば、20μmから100μm)、均一な層を必要とする。粉体粒子は、その後、通常は原型の3次元CADデータにしたがって、それらを選択的にレーザ走査することによって、一緒に融合される。
【0004】
SLMは、材料が、それから固化し、新しい固体構成要素を形成する、溶融プールへの粉体の変換に因る。密で強力な構成要素が生成されるべきであるなら、固体溶接ビードは、また、下にある、および、周囲にある固体と融合せねばならない。
【0005】
SLMの利点は、特に、いくつかの他のRP/RMプロセスで使用される粉体焼結と比較して、より高い密度と、より良好な機械的性質をもたらし得る、完全な金属粉体の溶融である。さらに、これは、結合剤および/または後処理の必要性を、低減し得、あるいは排除さえし得る。
【0006】
さらに、SLMまたはSLSのような積層造形技術は、典型的には、いかなる工具をも用いないため、従来の製造技術と比較して、より複雑な形状を有する物品を製造するために、よりコスト効果的、および/または、時間効果的であり得る。また、設計上の制約において大幅な減少があり得る。通常は、機械加工または鋳造される部品の代わりに使用され得る、金属粉体から直接の、完全に機能的な部品の製造は、例えば、医療、歯科、航空宇宙、エレクトロニクスの分野で、SLMまたはSLSのような積層造形技術の応用を拡大させている1つの理由である。
【0007】
SLMまたはSLSのような積層造形技術を用いる物品の生産は、多くの場合、反応性金属の微粉体を使用する必要がある。これらの粉体は、安全性の観点、材料処理の観点からの両方で、有意な処理上の問題を提示し得る。典型的には、従って、これらの粉体は、保護雰囲気下で保存され、使用される。これは、薄い粉体層を形成し、微粉体からの火災や健康リスクを低減させるために、粉体の拡散を改良することを支援し得、部品の一体性に影響を与え得る、酸化物および水和物の形成を最小限にするか、または少なくとも低減させ得る。
【0008】
SLMは、100%稠密ステンレス鋼およびチタン部品を製造するために使用されており、これらの部品は、典型的には、確実に集合体の特性を再現し得る。
【0009】
しかし、SLMは、さらに、アルミニウムおよびアルミニウムを含む合金で、同様に動作させねばならない。特に、100%の理論密度に近づく密度を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金の物品を製造することは困難である。典型的には、溶融した、および、固体の、両方のアルミニウム合金の表面における、薄い付着性の酸化膜の形成が原因で、問題が生じ得る。これらの表面酸化膜は、固体と液体の両方の濡れ挙動を変更する。
【0010】
Louvisら(Louvis, E.、Fox, P.およびSutcliffe, C.J.、2011年、「アルミニウム構成要素の選択的レーザ溶融」、Journal of Materials Processing Technology、第211巻第2号、275−284頁)は、アルミニウムのSLM部品に見られる高度の多孔性が、主として酸化膜の形成に起因することを見出した。この作業は、比較的低いレーザ出力(50Wおよび100W)を使用した。
【0011】
理論的には、酸化物を分解するため、十分に高い温度に材料を加熱するようレーザ出力をかなり増加させることによって、表面酸化膜に関連する問題を低減すること、および/または、酸化物の形成を停止するため、十分に低い酸素含量を有する雰囲気中で、SLMを実行することが可能であり得る。
【0012】
Sarou-Kanianら(Sarou-Kanian, V.、Millot, F.およびRifflet, J.C.、2003年、「高温における無酸素アルミニウムの表面張力と密度」、International Journal of Thermophysics、第24巻第1号、277−286頁) は、1327℃を超える温度が、酸化物を分解するために必要であると報告した。Schleifenbaumら(Schliefenbaum, H.、Meiners, W.、Wissenbach, K. およびHinke, C,、2010年、「高出力選択的レーザ溶融による個別生産」、CIRP Journal of Manufacturing Science and Technology、第2巻第3号、161−169頁)は、330Wのレーザ出力が、SLMによって、高品質のアルミニウム構成要素を製造するために必要であったと報告した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
材料を過熱するために、より強力なレーザを使用することにより、鋳造または機械加工されたアルミニウム構成要素のそれと比較して、良好な品質および機械的特性を有する物品を得ることが可能であり得るが、溶融プールサイズが増加すると、コストおよび/または方法の制御の不能の面で、付随する問題が存在する。
【0014】
酸化物の形成を停止するために十分に低いレベルに大気の酸素含有量を低減することは、また、任意の商業的製造プロセスにおいて、実用的でない、および/または、実現不可能であるほどに、非常に高価であり、困難であり得る。例えば、酸素の分圧pO2は、600℃で、10-52気圧未満である必要があるだろう。
【0015】
また、SLMまたはSLSの間のアルミニウム酸化は、それが、粉体粒子内の酸素によってさえ発生し得るので、最もよく制御された作業条件の下でさえ避けられ得ない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の態様は、アルミニウムを含む合金を含む粉体の選択的溶融および/または焼結を含む物品の製造方法を提供し、合金は、好ましくは、10重量%までの量で、ビスマスを含有する。
【0017】
好ましくは、電子ビームまたはレーザが、粉体を選択的に溶融および/または焼結するために使用され得る。
【0018】
この方法は、選択的レーザ溶融(SLM)および/または選択的レーザ焼結(SLS)を含み得る。
【0019】
アルミニウムは、合金の主要な成分であり得る。
【0020】
好ましくは、合金は、5重量%以下のビスマスを含有し得る。より好ましくは、合金は、4重量%以下のビスマスを含有し得る。
【0021】
好ましくは、合金は、少なくとも0.2重量%のビスマスを含有し得る。
【0022】
好ましくは、合金は、合金におけるその最大の液溶度と同等または近接する量で、ビスマスを含有し得る。
【0023】
合金は、航空宇宙合金、鋳造合金または鍛造合金であり得る。
【0024】
好ましくは、合金は、アルミニウム−シリコン合金であり得る。
【0025】
好ましくは、合金は、スカンジウムを含み得る。合金は、アルミニウム−マグネシウム−スカンジウム−ビスマス合金であり得る。
【0026】
アルミニウム合金は、重量で約4.3%までの、および、任意に1.8〜4.3重量%の量で、マグネシウムを含有し得る。合金は、重量で約1.4%までの、および、任意に、重量で0.7〜1.4%の量で、スカンジウムを含有し得る。合金は、さらに、重量で約0.55%までの、および、任意に、重量で0.22〜0.55%の量で、ジルコニウムを含有し得る。合金は、さらに、重量で約0.7%までの、および、任意に、重量で0.3〜0.7%の量で、マンガンを含有し得る。
【0027】
好ましくは、合金は共晶または近−共晶の合金であり得る。
【0028】
合金は6061合金、または、AlSi12合金であり得る。
【0029】
典型的には、選択的溶融および/または焼結は、不活性雰囲気下で行われ得る。選択的溶融および/または焼結が行われる不活性雰囲気は、アルゴン系または窒素系であり得る。好ましくは、不活性雰囲気は、0.2容積%以下の酸素を含有し得る。
【0030】
200W以下、好ましくは150W以下、より好ましくは100W以下のレーザまたは電子ビーム出力が使用され得る。
【0031】
好ましくは、レーザまたは電子ビーム出力は、50W以上であり得る。
【0032】
一般的に、レーザまたは電子ビーム出力は、50Wまたは100Wであり得る。
【0033】
好ましくは、レーザまたは電子ビームは、100μm以下のビームスポット径を有し得る。例えば、ビームスポット径は、50μm以下であり得る。ビームスポット径は、5μm以上、例えば、10μm以上であり得る。
【0034】
好ましくは、レーザまたは電子ビームは、蛇行(meander)パターンをたどり得る。
【0035】
400mm/秒以下、好ましくは、200mm/秒以下のレーザまたは電子ビームの走査速度が使用され得る。好ましくは、レーザまたは電子ビームの走査速度は、100mm/秒以上であり得る。
【0036】
少なくとも0.05mmのハッチ距離が使用され得る。ハッチ距離は1mmまで、例えば、0.5mmまで、または、0.3mmまでであり得る。例えば、ハッチ距離は、0.1mm、0.15mmまたは0.2mmであり得る。
【0037】
0.5mmまでの層厚さが使用され得る。典型的には、100μmまでの層厚さが使用され得る。層厚さは、1μm以上、例えば、20μm以上であり得る。例えば、層厚さは、50μm以上であり得る。
【0038】
粉体は、平均粒径、例えば、1μm未満、または、少なくとも1μm、例えば、少なくとも5μmまたは少なくとも10μm、好ましくは、少なくとも20μmの平均直径を有し得る。粉体は、平均粒径、例えば、100μmまで、好ましくは80μmまで、または、50μmまでの平均直径を有し得る。例えば、粉体は、平均粒径、例えば、45μmの平均直径を有し得る。
【0039】
好ましくは、方法は、粉体を製造する予備工程を含み得る。粉体は、噴霧によって製造され得る。有利には、噴霧は、典型的には、実質的に球形の粒子を生成し得る。
【0040】
好ましくは、方法は、入力データに応じて制御され得る。一般的に、入力データは、幾何学的データ、例えば、CADファイルに保存された幾何学的データを含み得る。追加的または代替的に、入力データは、1つ以上の所定のレーザまたは電子ビーム走査パラメータを含み得る。
【0041】
物品は、少なくとも85%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、少なくとも98%の理論密度の密度を有し得る。好ましくは、物品は、100%の理論密度に近い密度を有し得、例えば、物品は、実質的に完全に密であり得る。
【0042】
物品は、複雑な製品または器具に使用するための構成要素または部品であり得る。あるいは、物品は、製品または装置であり得る。
【0043】
本発明の別の態様は、本発明の第一の態様の方法に従って製造された物品を提供する。
【0044】
本発明の別の態様は、粉体の選択的な溶融および/または焼結を含む、物品の製造方法において使用する粉体を提供し、粉体は、アルミニウムを含有する合金を含み、合金は、好ましくは10重量%までの量で、ビスマスを含有する。
【0045】
本発明の別の態様は、積層造形装置、例えば、選択的レーザ溶融装置または選択的レーザ焼結装置に接続可能な貯蔵容器を提供し、貯蔵容器は、本発明による粉体を含有する。一般的には、粉体は、酸素の存在下で爆発的であり得るので、容器は、また、アルゴンのような不活性ガスを含み得る。
【0046】
一般的には、容器は、装置に接続可能であり得、使用時に、粉体は、装置内の粉体供給機構の中に容器から流入し得る。
【0047】
本発明が十分に理解され得るために、本発明が、添付図面を参照して、単なる実施例として、次に説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】典型的なSLM工程および装置を示す図である。
図2】いくつかの主なレーザ走査パラメータを示す図である。
図3】100Wのレーザ出力での、6061−Biの得られる相対密度に対する、レーザ走査速度およびハッチ距離の影響を示すグラフである。
図4】100Wのレーザ出力での、AlSi12−Biの得られる相対密度に対する、レーザ走査速度およびハッチ距離の影響を示すグラフである。
図5】6061−Bi試料のXY断面の光学顕微鏡写真の組を示す図である。
図6】AlSi12−Bi試料のXY断面の光学顕微鏡写真の組を示す図である。
図7】100Wのレーザ出力と0.15mmのハッチ距離での、合金の相対密度を比較した、グラフと光学顕微鏡写真を含む図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
実験的な試験片が、50Wおよび100Wの最大レーザ出力を有する、二つのMCPリアライザSLM100(MTTツーリング・テクノロジーズ、UK)を用いて製造された。
【0050】
図1は、SLM工程および装置を模式的に示す。装置は、レーザビーム3を放射する、イッテルビウムファイバレーザ1を含む。一つ以上の走査ミラー2は、粉体上にレーザビーム3を向けるように機能する。粉体は、ピストン5の操作により上下に移動され得るベースプレート4上に供給される。SLMプロセス中に、層状に粉体を堆積させるための粉体堆積またはリコート機構7は、ワイパーブレード6を備える。
【0051】
使用時には、粉体層は、粉体の堆積機構7を用いて、ベースプレート4上に設けられた基材上に、均一に広げられる。粉体の堆積機構7は、アルミニウム粉体の使用に適するように作られた特注品である。各層は、CADデータに従って、イッテルビウムファイバレーザビーム3(波長(λ)=1.06μm、ビームスポット径=80μm)で走査される。溶融粉体粒子は、一緒に融合し(固化部分が8で示される)、物品または部品の層を形成し、そして、工程は、最上層まで繰り返される。物品または部品は、その後、基材から除去され、任意の未溶融粉体は、次の製作のために再利用され得る。工程は、通常はアルゴンである、不活性雰囲気下で行われ、酸素レベルは、典型的には0.1−0.2容積%である。SLM工程中に、10〜12mbarの超過圧力に維持される、チャンバ雰囲気は、連続的に再循環され、濾過される。
【0052】
部品を製造するための入力データは、CADファイルとして格納された幾何学的なデータとレーザ走査プロセスパラメータを含む。アルミSLM部品の密度に影響を与え得る、主なプロセスパラメータは、レーザ出力、スキャン経路を構成する各レーザスポットでの露光時間、および、それらの間の距離(ポイント距離)に依存するレーザ走査速度、そして、レーザハッチ間の距離を含む。
【0053】
図2は、いくつかの主なレーザ走査パラメータを示す。矢印は、試料を横切るレーザ走査パターンを示す。図2は、境界21を示し、その内側に充填輪郭22が存在する。充填輪郭オフセット27は、境界21および充填輪郭22との間の距離を構成する。レーザ走査パターンは、充填輪郭22内の実質的に全ての試料をカバーする。レーザ走査パターンは、一連のレーザスポットから構成される経路(矢印で示される)を構成する。例示の目的のために、これらのレーザスポットのいくつかは、レーザ走査パターンの最上行に個々に示される。シーケンスにおける所定のレーザスポットから次のレーザスポットまでの距離は、ポイント間距離23として知られる。レーザ走査パターン内の各ラインは、ハッチ24として知られる。図2に示されるレーザ走査パターンは、実質的に平行な17ハッチを備え、レーザは、第1ハッチに沿う第1の方向に、次に、第2ハッチに沿う第2の反対の方向に、次に、第3ハッチに沿う第1の方向に、次に、第4ハッチに沿う第2の反対の方向に走査する。ハッチ24の端部から充填輪郭22までの距離は、ハッチオフセット26として知られる。シーケンスにおける1つのハッチと次のハッチとの間、例えば、第6ハッチと第7ハッチとの間の距離は、ハッチ距離25として知られる。
【0054】
出願人の実験では、10mmの辺長を有する立方体試験片が、パラメータの組み合わせを使用して構築された。試料の相対密度は、重量測定で決定された。
【0055】
レーザは、蛇行パターン(図2に示されるパターンは、蛇行(meander)パターンの一例である)をたどり、走査方向は、走査トラックをより容易に観察するために、すべての層に対して同じに維持された。
【0056】
50μmの層の厚さが、典型的に使用された。この厚さは、それが、45μmの平均粒径を有する粉体の使用を可能にしたので、選択された。この粒子サイズは、それが、出願人の実験で使用された供給機構を詰まらせないので、好ましかった。他の粒子サイズは、他の供給機構で使用され得る。さらに、層の厚さを増加させることは、不十分な層間結合および/またはボーリング効果(balling effect)の低下につながり得る。
【0057】
試験片の基材は、レーザ加工中に180℃に加熱された。
【0058】
実験は、典型的には、0.1〜0.2容積%の酸素を含む、アルゴン雰囲気中で行われた。他の保護雰囲気、例えば、窒素が、使用され得るだろう。
【0059】
ビスマスが、2つのアルミニウム合金、6061とAlSi12に加えられた。過飽和合金が最初に製造された。これら2つのマスター合金(各々1kg)は、噴霧前に、それぞれ、6061およびAlSil2インゴット(5kg)に混合された。噴霧は、英国のセラム社(CERA)によって実施された。噴霧前の合金は、溶解度限界未満の量でのビスマスを含み、したがって、噴霧器内において唯一の液体が形成された。ビスマスの量が噴霧中に失われ得る可能性があるので、粉体の定量的な元素分析は、誘導結合プラズマ−発光分光法(ICP−OES)によって行われた。これは、6061−Biが2.5重量%のBiを、AlSi12−Biが2.8重量%のBiを含有することを示した。
【0060】
図5図6および図7に示された光学顕微鏡写真は、20nmまで試験片を研磨した(メタサーブユニバーサルポリッシャー(Metaserv Universal Polisher))後、ニコンのエピフォト(Epiphot)光学顕微鏡を用いて得られた。研磨された試験片は、その後、その微細構造を明らかにするために、ケラーの試薬(1容積%のフッ化水素、1.5容積%の塩酸、および、2.5容積%の硝酸の水溶液)でエッチングされた。
【0061】
密度に対するビスマスの作用は、主なプロセスパラメータを変更し、それらの間の関係をグラフで示すことによって評価された。標本の断面の金属組織学的分析は、変更された合金のいくらかの微細構造の違いと、これらがいかにしてアルミニウム合金の酸化の問題に影響を与えたかを明らかにした。
【0062】
図3は、100Wのレーザ出力を使用してSLMによって生成される6061−Bi試料についてのいくつかの結果を示すグラフである。6061−Biの理論密度の割合として測定された相対密度は、y軸上にプロットされ、mm/秒で測定されたレーザ走査速度は、x軸上にプロットされる。三つのデータ系列が、グラフに示される。第1のデータ系列[A]は、0.1mmのハッチ距離を使用して製造された試料、第2のデータ系列[B]は、0.15mmのハッチ距離を使用して製造された試料、第3のデータ系列[C]は、0.2mmのハッチ距離を用いて製造された試料に対するものである。
【0063】
出願人の初期の実験では、6061−Bi試料の相対密度は、同じ処理条件で達成された6061の最大相対密度(89.5%)と比較して、有意な増加を示さなかった。
【0064】
図4は、100Wのレーザ出力を使用しSLMによって製造されたAlSi12−Bi試料についてのいくつかの結果を示すグラフである。AlSi12−Biの理論密度の割合として測定された相対密度は、y軸上にプロットされ、mm/秒で測定されたレーザ走査速度は、x軸上にプロットされる。三つのデータ系列が、グラフに示される。第1のデータ系列[D]は、0.1mmのハッチ距離を使用して製造された試料、第2のデータ系列[E]は、0.15mmのハッチ距離を使用して製造された試料、第3のデータ系列[F]は、0.2mmのハッチ距離を使用して製造された試料に対するものである。
【0065】
出願人の初期の実験では、AlSi12−Bi試料の相対密度は、同じ処理条件で達成された最大相対密度と比較して、有意な増加を示した。
【0066】
さらに、ビスマスが、近−共晶アルミニウム−シリコン合金(AlSi12−Bi)に添加された場合、製造されたSLM部品は、出願人により試験された他の合金のいずれよりも高い相対密度を示した(後述の図7を参照)。
【0067】
図5は、6061−Bi試料の断面の光学顕微鏡写真の組である。右側の画像は、左側の画像の一部分の高倍率図である。
【0068】
図6は、AlSi12−Bi試料の断面の光学顕微鏡写真の組である。右側の画像は、左側の画像の一部分の高倍率図である。
【0069】
6061−BiとAlSi12−Bi試料の空隙率は、図5および図6における顕微鏡写真で見ることができる。一般に、すべての空隙は、それらの周囲に形成された酸化物の指標である鋭いエッジを備えた不規則な形状を有する。図6においては、連続した微細溶接の縁での粒が、残りの領域よりも相対的に大きいことが、注目に値する。この粒成長は、おそらく、溶融プールの境界での、より低い温度および低い冷却速度、ならびに、隣接溶融プールの重複領域を二度加熱することの結果である。
【0070】
図7は、同じSLM処理条件(100Wのレーザ出力と0.15mmのハッチ距離)を用いて製造された、6061、AlSi12、6061−BiおよびAlSi12−Bi試料の相対密度の比較を提供する。合金の理論密度の割合として測定された相対密度は、y軸上にプロットされ、mm/秒で測定されたレーザ走査速度は、x軸上にプロットされる。四つのデータ系列が、グラフに示される。最初のデータ系列[G]は、6061試料、第2のデータ系列[H]は、AlSi12試料、第3のデータ系列[I]は、6061−Bi試料、第4のデータ列[J]は、AlSi12−Bi試料に対するものである。
【0071】
4つの材料の、スキャンされた層に平行な、断面の光学顕微鏡写真が、3つのレーザ走査速度で生成された試料に対するグラフの下方に示される。レーザ走査速度、120mm/秒、190mm/秒および380mm/秒は、それぞれ破線28、29および30で示される。
【0072】
出願人らは、ビスマスが、SLMによって生成された、アルミニウムおよびアルミニウム合金物品、部品、または構成要素の相対密度に大きな影響を与えることを見出した。例えば、図7を参照すると、100Wのレーザ出力、および、最善のハッチ距離(0.15mmであることが見出された)での、ビスマス含有合金AlSi12−Biの合金AlSi12との比較は、特により高い走査速度において、ビスマス添加の利点を明らかに示している。従って、相対密度におけるビスマスの有益な効果は、共晶または近−共晶アルミニウム−シリコン合金のSLM処理において観察され得る。しかし、利点は、他のアルミニウム合金系において実現され得ることが予想される。
【0073】
これら四つの材料の、スキャン層に平行である断面が、光学顕微鏡を用いて比較された。光学顕微鏡写真が図7に示される。選択された試験片は、3つの異なるレーザ走査速度(図7に、それぞれ、破線28、29および30によって示される、120mm/秒、190mm/秒および380mm/秒)を用いて製造された。これらの断面は、50μmの2つの連続した層の距離内のどこかであり得る。空隙率の小さな周期的な変動が、層の中間と次の層との境界線の間の距離である、25ミクロンごとに予期されるので、これらの顕微鏡写真に示される空隙率は、試験片のそれを完全に表しているとは限らない。にもかかわらず、顕微鏡写真に示される空隙率は、指標となる可能性がある。重量法が、材料の相対密度のより正確な決定を得るために使用され得る。重量法は、図7の上半分に示されるグラフにプロットされた相対密度を決定するために使用された。
【0074】
図7に示された顕微鏡写真から、遅い走査速度を用いて製造されたAlSi12−Bi試料が、明らかに緻密な構造を有していることが理解され得る。
【0075】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ビスマスが、アルミニウム合金のSLM処理を容易にし得る、二つのふるまいがあり得ると仮定される。ビスマスは、酸化膜を弱めるように作用し、それらをより容易に破壊する。ビスマスは、また、合金の流動性を増加させ得、それによって、溶融プールの撹拌を潜在的に増加させる。
【0076】
流動性におけるビスマスの作用は、金属酸化物の界面へのビスマスの偏析の結果であり得、その場合、それは、酸化物と、下にある金属へのその結合を弱め得る。別のあり得る作用は、より不安定な酸化物を形成する、ビスマスの層が、溶融アルミニウムの表面を覆って、アルミニウムへの酸素の移動を妨げ得、酸化アルミニウム膜の形成を遅らせ得ることである。どんな作用が生じていても、それは、酸化膜を変化させるであろうし、それゆえ、溶融合金の表面張力に影響を与える。
【0077】
ビスマス含有合金のSLMの間に、溶融プールの表面張力が低下することが、導き出され得る。周囲の固化した材料との接触角は、従って減少し得る。これはより良いぬれを促進し、それは、低レーザエネルギー密度で、より高密度の部分につながる。
【0078】
理論的には、合金の融点に関連し得る、ビスマスの有益な作用の限界があり得る。例えば、レーザ走査が、焼結の範囲内での温度を生成するとき、ビスマスは、多孔性にそんなに強く影響を与えることは期待され得ない。AlSi12は、6061よりもはるかに低い融点を有し、このことは、100Wのレーザ出力で6061よりも共晶アルミニウム−シリコン合金(AlSi12)に、より顕著な影響を与える理由を説明するかもしれない。AlSi12−Bi合金の、あり得る、減少した酸化膜の厚さが、また、それを通してアルミニウム原子の拡散を促進したのかも知れない。これは、生産された試験片の壁に未溶融粉体粒子の焼結を誘発し得たかも知れない。
【0079】
アルミニウム−ビスマス相図は、固体アルミニウム中のビスマスの固溶度が無視し得ることを示している。しかし、モノテクティック(monotectic)温度(657°C)での、その最大の溶解度は3.4重量%であり、どんなさらなる添加も、異なる組成の2つの不混和性液相の形成をもたらすであろう。モノテクティック(monotectic)以下のAl−Bi系合金が、固化するとき、ビスマスは、固体から共に任意の表面を形成することを拒絶され、合金内で液体の小球を形成する。その融点(270℃)以下の温度で、ビスマスは、固化し、アルミニウム合金中で、ビスマスの純粋な粒子を形成する。
【0080】
アルミニウム合金への、その溶解度以下の量でのビスマスの添加は、酸化物欠陥の低減および相対密度の増加をもたらした。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、これは、マランゴニ流の影響下で、より容易に破壊し得る、弱い酸化物の形成に起因したものであり得るが、また、液体の流れ自体を強化した結果のものであり得る。100Wのレーザ出力で試験されたとき、ビスマスは、AlSi12合金に対して、大きな空隙率の減少をもたらした。AlSi12におけるビスマスの最大溶解度を使用し、粉体の均一な分布を確認した後、低い酸素レベルで、SLMがこの合金を処理するとき、良い結果が期待され得る。これらの条件下で、完全に近い緻密な部品を製造するための最小のレーザエネルギー密度の決定は、完全な範囲のビスマスの有益な作用を示し得るが、それはまた、水分の影響のような、アルミニウム合金中の多孔性に対する他の可能性のある要因を明らかにし得る。
【0081】
製造方法で使用するための粉体は、貯蔵容器内に供給され得る。典型的に、容器は、アルゴンのような不活性ガスを含有し得る。有利には、貯蔵容器は、SLM装置の粉体供給機構に接続可能であり得る。
【0082】
有利には、本発明は、SLMまたはSLSのような積層造形技術によって、以前に達成可能であったよりも、高い密度、および/または、より良好な機械的特性、例えば、より高い強度、および/または、より良好な表面仕上げを有する、アルミニウム含有物品の、試作、および/または、生産、例えば、大量生産、バッチ生産、または、単発生産を提供し得る。
【0083】
さらに、本発明は、非常に高いレーザまたは電子ビーム出力を使用せずに、積層造形技術によって、以前に達成可能であったよりも、高い密度、および/または、より良好な機械的特性、例えば、より高い強度、および/または、より良好な表面仕上げを有する、アルミニウム含有物品の、試作、および/または、生産、例えば、大量生産、バッチ生産、または、単発生産を可能にし得る。
【0084】
ビスマスの添加が効果を示すと期待される他の合金は、以下のアルミニウム合金を含む。ビスマスは、上に示した割合で、例えば、残余のアルミニウムの一部をビスマスで置換し、それによって、示されたものにおける合金元素の比率を維持することによって、または、以下の表に示された割合とされる合金に、ビスマスの量を添加し、それにより、それに応じて上記比率を減らすことによって、これらの合金に添加され得る。例えば、最終組成物中において2重量%のビスマスをもたらすように、合金A357へBiを添加し、Alに対する、既存の合金成分であるSi、TiおよびMgの相対比率を維持することは、Siが、7%から6.86%への、Mgが、0.5%から0.49%への、Tiが、0.15%から0.147%への、0.98倍での比率の減少をもたらし、残余のAlが、(92.35%から)90.503%である状態となる。
【0085】
【表1】
【0086】
スカルマロイ(Scalmalloy)合金、ジルコニウムおよびマンガンのわずかな割合を有するアルミニウム−マグネシウム−スカンジウム合金(「Scalmalloy」は、EADSドイツ社の登録商標である)は、良好な疲労および靱性特性を備えた、高められた強度および耐食性を提供する。しかし、ボーリング問題のために、選択的レーザ溶融を使用して100%密の部品を作成することは容易ではない。結果として、SLMを使用して形成された部品が完全に密でないため、強度のいかなる増加も、強度の低下によって相殺される傾向にあり、強度は、異なる方法を用いて製造されたAl部品と、必ずしも比較できるわけではないという結果である。ビスマスの添加は、すでに他のアルミニウム合金に関連して上記に示した理由のために、100%密の部品が作成されることを可能にする。したがって、これは、この特定の合金の上述した利点が、より完全に実現されることを可能にする。
【0087】
本発明に従って製造された物品は、例えば、ベアリング用途のように、潤滑を必要とする用途での使用に特に適切であり得る。本発明に従って製造された物品は、自己潤滑性であり得る。
【0088】
本発明に従って製造された物品は、医療、歯科、コンピューティング、電子機器、自動車、航空宇宙の分野を含む、幅広い産業における部品または構成要素として使用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7